説明

表面処理顔料、インク組成物、及びインクジェット記録方法

【課題】金属顔料の表面処理技術に着目して、特性の良好な金属鏡面印刷を可能とする顔料、インク組成物、及び該インク組成物を用いたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明においては、平板状粒子からなる金属顔料の表面を、炭素原子間に不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物で処理してなる表面処理顔料、インク組成物、及び該インク組成物を用いたインクジェット記録方法を提供する。不飽和二重結合を有する基とは、例えば、−C=CH2を有する基であり、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理顔料、インク組成物、及びインクジェット記録方法に関し、特に、金属光沢印刷の特性の向上が可能な表面処理顔料、インク組成物、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷物上に金属光沢を有する塗膜を形成するためには、真鍮、アルミニウム微粒子等から作成された金粉、銀粉を顔料に用いた印刷インキや金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられていたが、これらの方法では、記録媒体に関して、熱や変形に強い記録媒体などに限られるという制限があった。
【0003】
近年、印刷における応用例として、金属顔料を表面処理することにより、光沢性を高めようとする技術がある。
【0004】
例えば、特開平8−283604号公報には、新規な表面処理剤ならびに該表面処理剤で処理された塗料、インク等に有用な表面処理薄片状顔料の提供を目的として、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエステル化合物及び/またはジグリシジルポリシキサン化合物からなる薄片状顔料用の表面処理剤、ならびに該表面処理剤で表面処理された表面が金属酸化物及び/または水和金属酸化物層からなる薄片状顔料及びその製造方法が開示されている。
【0005】
また、特表2005−501955号公報には、a)バインダー系と;b)水と;c)異なる材料の層状スタックを含む干渉顔料の群から選択される顔料と;を含むインク組成物において、層のうちの少なくとも1つは少なくとも1つの化学的に露出された表面を有する反射層であり、層のうちの少なくとも1つは少なくとも1つの化学的に露出された表面を有する誘電体層であり、前記材料は、腐食に敏感な1種以上の金属及び/または無機金属化合物を含み、層の前記スタックの縁部で、前記反射層及び前記誘電体層の少なくとも化学的に露出された表面は、陰イオン界面活性剤の群から、好ましくはリン酸の有機エステル及びフッ化有機エステルからなる群から選択される不動態化剤で実質的に被覆され、光学的可変性顔料の反射性層としてアルミニウムなどを含む金属の群から選択されるインク組成物が開示されている。
【0006】
しかしながら、これら処理を施した金属顔料を用いたメタリック印刷でも、金属鏡面光沢の点では未だ満足することのできる効果は得られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−283604号公報
【特許文献2】特表2005−501955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属顔料の表面処理技術に着目して、特性の良好な金属鏡面印刷を可能とする顔料、インク組成物、及び該インク組成物を用いたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行ったところ、平板状粒子からなる金属顔料の表面を、特定の化合物で処理してなる表面処理顔料、インク組成物、及びインクジェット記録方法により、前記目的を達成し得ることの知見を得た。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、以下の発明を提供するものである。
【0010】
1. 平板状粒子からなる金属顔料の表面を、炭素原子間に不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物で処理してなる表面処理顔料。炭素原子間に不飽和二重結合を有する基とは、例えば、−C=CH2を有する基であり、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基などである。
2. 前記平板状粒子からなる金属顔料が、該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす、前記1記載の表面処理顔料。
3. 前記平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の最大粒子径Rmaxが10μm以下である、前記1又は2に記載の表面処理顔料。
4. 前記金属顔料が、アルミニウム又はアルミニウム合金である、前記1〜3のいずれか1に記載の表面処理顔料。
5. 前記金属顔料が、金属蒸着膜を破砕して作成された前記1〜4のいずれか1に記載の表面処理顔料。
【0011】
6. 前記1〜5のいずれか1に記載の表面処理顔料と、有機溶剤と、樹脂と、を含有する、インク組成物。
7. 前記表面処理顔料のインク組成物中の濃度が、0.1〜3.0重量%である、前記6に記載のインク組成物。
8. 前記有機溶剤が、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールエーテルを1種類以上含む、前記6又は7に記載のインク組成物。
9. 前記有機溶剤が、アルキレングリコールジエーテル、アルキレングリコールモノエーテル及びラクトンの混合物である、前記6又は7のいずれか1に記載のインク組成物。
10. 前記樹脂が、ポリビニルブチラール、セルロースアセテートブチレート、ポリアクリルポリオールからなる群から選択された少なくとも1種以上である、前記6〜9のいずれか1に記載のインク組成物。
【0012】
11. 前記1〜10のいずれか1に記載のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、前記記録媒体上に吐出されるインク組成物の吐出量が、0.1〜100mg/cm2である、インクジェット記録方法。
12. 前記インク組成物を吐出する方式が、非加熱方式である、前記11記載のインクジェット記録方法。
13. 前記記録媒体を加熱して印刷する、前記11又は12記載のインクジェット記録方法。
14. 前記加熱温度が30℃〜80℃である前記13に記載のインクジェット記録方法。
15. 前記加熱は、印刷する前及び/又は印刷と同時に及び/又は印刷した後に行う、前記14に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、平板状粒子からなる顔料の表面を特定の化合物で処理した金属顔料を用いることで、記録媒体上に、高光沢な金属光沢(いわゆるメタリック光沢)を有する画像の形成が可能となる。
更には、金属顔料表面に存在していた化学的に活性を有する官能基を炭素原子間に不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物と反応させることにより、不活性化させることによって、表面処理顔料は水分に対する反応性が低下する。従って、耐熱性や耐水性が向上するため、金属と水分の反応により発生する水素ガスの発生も抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[顔料分散液]
本実施形態の表面処理顔料は、平板状粒子からなる金属顔料(以下、「メタリック顔料」ともいう)の表面を、炭素原子間に不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物で処理してなるものである。
【0015】
本実施形態の表面処理顔料は、前記の構成からなることにより、これを含むインク組成物等として使用することにより、記録媒体上に、金属光沢(いわゆるメタリック光沢)を有する画像を形成することができる。
【0016】
本実施形態に用いられる炭素原子間に不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物としては、金属顔料との反応し易さの面から、アルコキシの炭素数が1〜3のものが好ましい。また、炭素原子間に不飽和二重結合を有する基とは、例えば、−C=CH2を有する基であり、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基などが好ましい。このような化合物としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0017】
本実施形態においては、例えば、不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物を、メタリック顔料を含む顔料分散体の中へ0.01〜0.05mol/Lの濃度になるように添加して、10〜70℃で、4〜48時間反応を行うことにより、表面処理顔料を作成することができる。
【0018】
本実施形態に用いられる前記メタリック顔料は、例えば金属蒸着膜を破砕して作成された平板状粒子であり、該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たすものである。
【0019】
「平板状粒子」とは、略平坦な面(X−Y平面)を有し、かつ、厚み(Z)が略均一である粒子をいう。平板状粒子は金属蒸着膜を破砕して作成されたものであるため、略平坦な面と、略均一な厚みの金属粒子を得ることができる。従って、この平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZと定義することができる。
【0020】
「円相当径」は、メタリック顔料の平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)を、当該メタリック顔料の粒子の投影面積と同じ投影面積を持つ円と想定したときの当該円の直径である。例えば、メタリック顔料の平板粒子の略平坦な面(X−Y平面)が多角形である場合、その多角形の投影面を円に変換して得られた当該円の直径を、そのメタリック顔料の平板粒子の円相当径という。
【0021】
前記平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50は、金属光沢、印字安定性の観点から0.5〜3μmであることがより好ましく、0.75〜2μmであることがさらに好ましい。50%平均粒子径R50が0.5μm未満の場合は、光沢不足となる。一方、50%平均粒子径R50が3μmを超える場合、印字安定性が低下する。
【0022】
また、前記円相当径の50%平均粒子径R50と厚みZとの関係においては高い金属光沢を確保する観点からは、R50/Z>5である。R50/Zが5以下の場合は、金属光沢が不足するという問題がある。
【0023】
前記平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の最大粒子径Rmaxは、インクジェット記録装置におけるインク組成物の目詰まり防止の観点から、10μm以下であることが好ましい。Rmaxを10μm以下にすることで、インクジェット記録装置のノズル、インク流路内に設けられたメッシュフィルタなどの目詰まりを防止することができる。
【0024】
前記メタリック顔料は、コストの観点及び金属光沢を確保する観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。アルミニウム合金を用いる場合、アルミニウムに添加されうる別の金属元素または非金属元素としては、金属光沢を有する等の機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅等を挙げることができ、これらの単体又はこれらの合金及びこれらの混合物の少なくとも一種が好適に用いられる。
【0025】
前記メタリック顔料の製造方法は、例えば、シート状基材面に剥離用樹脂層と金属又は合金層とが順次積層された構造からなる複合化顔料原体の前記金属又は合金層と前記剥離用樹脂層の界面を境界として前記シート状基材より剥離し粉砕し微細化して平板状粒子を得る。そして、得られた平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たすものを分取する。
【0026】
前記メタリック顔料(平板状粒子)の平面上の長径X、短径Y及び円相当径は、粒子像分析装置を用いて測定することができる。粒子像分析装置としては、例えば、シスメックス株式会社製のフロー式粒子像分析装置FPIA−2100、FPIA−3000、FPIA−3000Sを利用することができる。
【0027】
前記メタリック顔料(平板状粒子)の粒度分布(CV値)は、下記の式で求められる。
[式1]
CV値=粒度分布の標準偏差/粒子径の平均値×100
【0028】
ここで、得られるCV値は60以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、40以下であることが更に好ましい。CV値が60以下のメタリック顔料を選択することで、印字安定性に優れるという効果が得られる。
【0029】
前記金属又は合金層は、真空蒸着、イオンプレーティング又はスパッタリング法によって形成されることが好ましい。
【0030】
前記金属又は合金層の厚さは、20nm以上100nm以下で形成される。これにより、平均厚みが20nm以上100nm以下の顔料が得られる。20nm以上にすることで、反射性、光輝性に優れ、メタリック顔料としての性能が高くなり、100nm以下にすることで、見かけ比重の増加を抑え、メタリック顔料の分散安定性を確保することができる。
【0031】
前記複合化顔料原体における剥離用樹脂層は、前記金属又は合金層のアンダーコート層であるが、シート状基材面との剥離性を向上させるための剥離性層である。この剥離用樹脂層に用いる樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、アクリル酸重合体又は変性ナイロン樹脂が好ましい。
【0032】
上記の一種又は二種以上の混合物の溶液を記録媒体に塗布し、乾燥等を施して層が形成される。塗布後は粘度調節剤等の添加剤を含有させることができる。
【0033】
前記剥離用樹脂層の塗布は、一般的に用いられているグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布、ディップ塗布、スピンコート法等により形成される。塗布・乾燥後、必要であれば、カレンダー処理により、表面の平滑化を行う。
【0034】
剥離用樹脂層の厚さは、特に限定されないが、0.5〜50μmが好ましく、より好ましくは1〜10μmである。0.5μm未満では分散樹脂としての量が不足し、50μmを超えるとロール化した場合、顔料層と界面で剥離しやすいものとなってしまう。
【0035】
前記シート状基材としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、66ナイロン、6ナイロン等のポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセテートフィルム、ポリイミドフィルム等の離型性フィルムが挙げられる。好ましいシート状基材としては、ポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体である。
【0036】
これらのシート状基材の厚さは、特に限定されないが、10〜150μmが好ましい。10μm以上であれば、工程等で取り扱い性に問題がなく、150μm以下であれば、柔軟性に富み、ロール化、剥離等に問題がない。
【0037】
また、前記金属又は合金層は、特開2005−68250に例示されるように、保護層で挟まれていてもよい。該保護層としては、酸化ケイ素層、保護用樹脂層が挙げられる。
【0038】
酸化ケイ素層は、酸化ケイ素を含有する層であれば特に制限されるものではないが、ゾル−ゲル法によって、テトラアルコキシシラン等のシリコンアルコキシド又はその重合体から形成されることが好ましい。
【0039】
上記シリコンアルコキシド又はその重合体を溶解したアルコール溶液を塗布し、加熱焼成することにより、酸化ケイ素層の塗膜を形成する。
【0040】
前記保護用樹脂層としては、分散媒に溶解しない樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドまたはセルロース誘導体等が挙げられるが、ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体から形成されることが好ましい。
【0041】
上記樹脂一種または二種以上の混合物の水溶液を塗布し、乾燥等を施した層が形成される。塗布液には粘度調節剤等の添加剤を含有させることができる。
【0042】
上記酸化ケイ素および樹脂の塗布は、上記剥離用樹脂層の塗布と同様の手法により行われる。
【0043】
上記保護層の厚さは、特に限定されないが、50〜150nmの範囲が好ましい。50nm未満では機械的強度が不足であり、150nmを超えると強度が高くなりすぎるため粉砕・分散が困難となり、また金属又は合金層との界面で剥離してしまう場合がある。
【0044】
また、特開2005−68251に例示されるように、前記「保護層」と「金属又は合金層」との間に色材層を有していてもよい。
【0045】
色材層は、任意の着色複合顔料を得るために導入するものであり、本発明に使用するメタリック顔料の金属光沢、光輝性に加え、任意の色調、色相を付与できる色材を含有できるものであれば特に限定されるものではない。この色材層に用いる色材としては、染料、顔料のいずれでもよい。また、染料、顔料としては、公知のものを適宜使用することができる。
【0046】
この場合、色材層に用いられる"顔料"とは、一般的な顔料化学の分野で定義される、天然顔料、合成有機顔料、合成無機顔料等を意味し、本発明の"複合化顔料"等の、積層構造に加工されたものとは異なるものである。
【0047】
この色材層の形成方法としては、特に限定されないが、コーティングにより形成することが好ましい。
【0048】
また、色材層に用いられる色材が顔料の場合は、色材分散用樹脂をさらに含むことが好ましく、該色材分散用樹脂としては、顔料と色材分散用樹脂と必要に応じてその他の添加剤等を溶媒に分散又は溶解させ、溶液としてスピンコートで均一な液膜を形成した後、乾燥させて樹脂薄膜として作成されることが好ましい。
【0049】
なお、前記複合化顔料原体の製造において、上記の色材層と保護層の形成がともにコーティングにより行われることが、作業効率上好ましい。
【0050】
前記複合化顔料原体としては、前記剥離用樹脂層と金属又は合金層と保護層の順次積層構造を複数有する層構成も可能である。その際、複数の金属又は合金層からなる積層構造の全体の厚み、即ち、シート状基材とその直上の剥離用樹脂層を除いた、金属又は合金−剥離用樹脂層−金属又は合金層、又は剥離用樹脂層−金属又は合金層の厚みは5000nm以下であることが好ましい。5000nm以下であると、複合化顔料原体をロール状に丸めた場合でも、ひび割れ、剥離を生じ難く、保存性に優れる。また、顔料化した場合も、光輝性に優れており好ましいものである。
【0051】
また、シート状基材面の両面に、剥離用樹脂層と金属又は合金層とが順次積層された構造も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
前記シート状基材からの剥離処理法としては、特に限定されないが、前記複合化顔料原体を液体中に浸漬することによりなされる方法、また液体中に浸漬すると同時に超音波処理を行い、剥離処理と剥離した複合化顔料の粉砕処理を行う方法が好ましい。
【0053】
上記のようにして得られる顔料は、剥離用樹脂層が保護コロイドの役割を有し、溶剤中での分散処理を行うだけで安定な分散液を得ることが可能である。また、該顔料を用いたインク組成物においては、前記剥離用樹脂層由来の樹脂は紙等の記録媒体に対する接着性を付与する機能も担う。
【0054】
[インク組成物]
本実施形態のインク組成物は、上述した特定の化合物により表面処理されたメタリック顔料(本明細書中において表面処理顔料ともいう)と、有機溶剤と、樹脂と、を含有するものである。
【0055】
前記表面処理されたメタリック顔料のインク組成物中の濃度は、インクセットの中で1種類だけがメタリックインクである場合には、0.1〜3.0重量%であることが好ましく、0.25〜2.5重量%であることがより好ましく、0.5〜2重量%であることがさらに好ましい。
前記表面処理されたメタリック顔料のインク組成物中の濃度は、インクセットの中に複数のメタリックインク組成物がある場合には、前記インク組成物のうち、少なくとも1種類のインク組成物の金属顔料の濃度が0.1重量%以上1.5重量%未満であり、他の少なくとも1種類のインク組成物の金属顔料の濃度が1.5重量%以上3.0重量%以下であることが好ましい。
【0056】
前記表面処理されたメタリック顔料のインク組成物中の濃度が0.1重量%以上1.5重量%未満の場合、印刷面を十分にカバーしきれないインク量を吐出することでハーフミラー様の光沢面、即ち光沢感は感じられるが、背景も透けて見えるような風合いを印刷可能となり、印刷面をカバーするに十分なインク量を吐出することで高光沢の金属光沢面を形成することができる。そのため、例えば、透明記録媒体においてハーフミラー画を形成する場合や高光沢の金属光沢面を表現する場合に適している。また、前記メタリック顔料のインク組成物中の濃度が1.5重量%以上3.0重量%以下の場合、金属顔料が印刷面にランダムに配列する為、高光沢は得られず、マット調の金属光沢面を形成することができる。そのため、例えば、透明な記録媒体において遮蔽層を形成する場合に適している。
【0057】
前記有機溶剤としては、好ましくは極性有機溶媒、例えば、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、又はフッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、又はプロピオン酸エチル等)、又はエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、又はジオキサン等)等を用いることができる。
【0058】
特に、前記有機溶剤は、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールエーテルを1種類以上含む、ことが好ましい。
【0059】
アルキレングリコールエーテルは、メチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、ヘキシル、そして2−エチルヘキシルの脂肪族、二重結合を有するアリル並びにフェニルの各基をベースとするエチレングリコール系エーテルとプロピレングリコール系エーテルがあり、無色で臭いも少なく、分子内にエーテル基と水酸基を有しているので、アルコール類とエーテル類の両方の特性を備えた、常温で液体のものである。また、片方の水酸基だけを置換したモノエーテル型と両方の水酸基を置換したジエーテル型があり、これらを複数種組み合わせて用いることができる。
【0060】
特に、前記有機溶剤は、アルキレングリコールジエーテル、アルキレングリコールモノエーテル、及びラクトンの混合物であることが好ましい。
【0061】
アルキレングリコールモノエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0062】
アルキレングリコールジエーテルとしては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0063】
またラクトンとしては、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。
【0064】
このような好適な構成とすることにより、本発明の目的をより一層達成することができる。
【0065】
前記インク組成物に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、繊維素系樹脂(例えば、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等が挙げられる。
【0066】
また、非水系のエマルジョン型ポリマー微粒子(NAD=Non Aqueous Dispersion)も樹脂として用いることができる。これはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂等の微粒子が有機溶剤中に安定に分散している分散液のことである。
例えば、ポリウレタン樹脂では三洋化成工業社製のサンプレンIB−501、サンプレンIB−F370、が挙げられ、アクリルポリオール樹脂ではハリマ化成社製のN−2043−60MEXが挙げられる。
【0067】
樹脂エマルジョンは、記録媒体への顔料の定着性を一層向上させるため、インク組成物中、0.1重量%以上10重量%以下添加することが好ましい。添加量が過剰であると印字安定性が得られず、過少であれば、定着性が不十分となる。
【0068】
前記インク組成物は、少なくとも1種類以上のグリセリン、ポリアルキレングリコール、又は糖類を含んでいてもよい。これら1種類以上のグリセリン、ポリアルキレングリコール、又は糖類の合計量は、例えば、インク組成物中0.1重量%以上10重量%以下添加される。
このような構成とすることにより、インクの乾燥を抑え、目詰まりを防止しつつ、インクの吐出を安定化し、記録物の画像品質を良好にすることができる。
【0069】
ポリアルキレングリコールとしては、主鎖中にエーテル結合の繰り返し構造を有する線状高分子化合物であり、例えば環状エーテルの開環重合等によって製造される。
【0070】
ポリアルキレングリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体およびその誘導体等が挙げられる。共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体等のいずれの共重合体も用いることができる。
【0071】
ポリアルキレングリコールの好ましい具体例として、下式で表されるものが挙げられる。
【0072】
HO−(CnH2nO)m−H
(上記式中、 nは、1〜5の整数を表し、 mは、1〜100の整数を表す)
【0073】
なお、上記式中、(CnH2nO)mは、整数値nの範囲内において、一の定数または二種以上の数の組み合わせであってよい。例えば、nが3の場合は(C36O)mであり、nが1と4との組み合わせの場合は(CH2O−C48O)mである。また、整数値mは、その範囲内において、一の定数または二種以上の数の組み合わせであってよい。例えば、上記の例において、mが20と40との組み合わせの場合は(CH2O)20−(C24O)40であり、mが10と30の組み合わせの場合は(CH2O)10−(C48O)30である。さらに、整数値nとmとは上記の範囲内で任意に組み合わせてもよい。
【0074】
糖類としては、ペントース、ヘキトース、ヘプトース、オクトース等の単糖類、あるいは二糖類、三糖類、四糖類 といった多糖類、またはこれらの誘導体である糖アルコール、デオキシ酸といった還元誘導体、アルドン酸、ウロン酸といった酸化誘導体、グリコセエンといった脱水誘導体、アミノ酸、チオ糖等が挙げられる。多糖類とは広義の糖を指し、アルギン酸やデキストリン、セルロース等の自然界に広く存在する物質も含む。
【0075】
前記インク組成物は、少なくとも1種類以上のアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はシリコーン系界面活性剤を含んでいてもよい。例えば、該界面活性剤は、インク組成物中の顔料の含有量に対して、0.01重量%以上10重量%以下添加される。
【0076】
このような構成とすることにより、インク組成物の記録媒体へのぬれ性が改善され、速やかな定着性を得ることがきる。
【0077】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、サーフィノール465(商標)、サーフィノール104(商標)(以上商品名、Air Products and Chemicals, Inc. 社製)、オルフィンSTG(商標)、オルフィンE1010(商標)(以上商品名、日信化学社製)等が好適に挙げられる。
【0078】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることが好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、BYK−UV3570、BYK−UV3510、BYK−UV3530(ビックケミージャパン株式会社)が挙げられる。
【0079】
前記インク組成物は、公知の慣用方法によって調製することができる。例えば、最初に、前述したメタリック顔料、分散剤、及び前記液媒を混合した後、ボールミル、ビーズミル、超音波、又はジェットミル等で顔料分散体を得、次に、該分散体に、炭素原子間に不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物を添加する等して、メタリック顔料の表面を処理した表面処理顔料を含む顔料分散液を調製し、所望のインク特性を有するように調整する。続いて、バインダー樹脂、前記液媒、及びその他の添加剤(例えば、分散助剤や粘度調整剤)を撹拌下に加えて顔料インク組成物を得ることができる。
【0080】
その他、複合化顔料原体を、一旦液媒中で超音波処理して複合化顔料分散液とした後、必要なインク用液媒と混合しても良く、また、複合化顔料原体を直接インク用液媒中で超音波処理してそのままインク組成物とすることもできる。
【0081】
前記インク組成物の物性は特に限定されるものではないが、例えば、その表面張力は好ましくは20〜50mN/mである。表面張力が20mN/m未満になると、インク組成物がインクジェット記録用プリンタヘッドの表面に濡れ広がるか、又は滲み出してしまい、インク滴の吐出が困難になることがあり、表面張力が50mN/mを越えると、記録媒体の表面において濡れ広がらず、良好な印刷ができないことがある。
【0082】
[インクセット]
本実施形態のインクセットは、上記インク組成物を複数備え、前記各インク組成物は異なる金属顔料濃度であるものである。
前記インク組成物のうち、少なくとも1種類のインク組成物の金属顔料の濃度が0.1重量%以上1.5重量%未満であり、他の少なくとも1種類のインク組成物の金属顔料の濃度が1.5重量%以上3.0重量%以下であることが好ましい。
【0083】
[記録装置]
本実施形態の記録装置は、上記インクセットを備えたインクジェット記録装置である。
【0084】
[インクジェット記録方法]
本実施形態のインクジェット記録方法は、上記インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うものである。
角度依存性の観点から、記録媒体上でのJIS Z8741にて規定された20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ同時に200、200、100以上の数値を示す金属光沢を有する画像を形成することが好ましく、JIS Z8741にて規定された20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ同時に400、400、100以上であることがより好ましく、JIS Z8741にて規定された20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ同時に600、600、100以上であることがさらに好ましい。
【0085】
JIS Z8741にて規定された20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ同時に200以上400未満、200以上400未満、100以上の数値を示す画像は、つや消し調(マット調)の金属光沢を有している。
【0086】
JIS Z8741にて規定された20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ同時に400以上600未満、400以上600未満、100以上の数値を示す画像は、形成した画像に映りこんだ物体が若干判別できるほどの、つやのある金属光沢を有している。
【0087】
JIS Z8741にて規定された20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ同時に600以上、600以上、100以上の数値を示す金属光沢を有する画像は、鮮鋭性を有し、形成した画像に映りこんだ物体が明確に判別できるほどの光沢、いわゆる「鏡面光沢」を有する金属光沢を有している。
【0088】
従って、本実施形態のインクジェット記録方法によれば、記録媒体上でのJIS Z8741にて規定された20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ同時に200、200、100以上の数値を示す金属光沢を有する画像を適宜組み合わせることによって、マット調の画像からグロス調の画像まで、所望の金属光沢を有する画像を形成することができる。
【0089】
一方、20度、60度、85度鏡面光沢度の測定値がそれぞれ200、200、100以上の数値を示さない場合、そのような画像は目視観察をしたときに金属光沢は感じられず、灰色として観察される。
【0090】
前記記録媒体上に吐出されるインク組成物の吐出量は、金属光沢を確保する観点、印刷プロセスの観点及びコストの観点から、0.1〜100mg/cm2であることが好ましく、1.0〜50mg/cm2であることがより好ましい。
【0091】
前記記録媒体上で画像を形成する前記メタリック顔料の乾燥重量は、金属光沢、印刷プロセス、コストの観点から、0.0001〜3.0mg/cm2であることが好ましい。前記メタリック顔料の乾燥重量が低いほど、高光沢の金属光沢面を形成することができる。そのため、例えば、透明記録媒体においてハーフミラー画を形成する場合に適している。また、前記メタリック顔料の乾燥重量が高いほど、マット調の金属光沢面を形成することができる。そのため、例えば、透明な記録媒体において遮蔽層を形成する場合に適している。
【0092】
インク組成物を吐出する方法としては、以下に説明する方法が挙げられる。
【0093】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、またはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0094】
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0095】
第三の方法は圧電素子(ピエゾ素子)を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0096】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱起泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0097】
以上のいずれの方式も本実施形態のインクジェット記録方法に使用することができるが、高速印刷対応の観点からは、インク組成物を吐出する方式が、非加熱方式であることが好ましい。即ち、上記第一の方法、第二の方法又は第三の方法を採用することが好ましい。
【0098】
記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、普通紙、インクジェット専用紙(マット紙、光沢紙)、ガラス、塩ビ等のプラスチックフィルム、基材にプラスチックや受容層をコーティングしたフィルム、金属、プリント配線基板等の種々の記録媒体を用いることができる。
【0099】
前記記録媒体がインク受容層を有している場合は、熱ダメージを与えないという観点から、前記記録媒体を非加熱で印刷することが好ましい。
【0100】
一方、前記記録媒体がインク受容層を有していない場合は、乾燥速度を高め、高光沢が得られるという観点から、前記記録媒体を加熱して印刷することが好ましい。
【0101】
加熱は、記録媒体に熱源を接触させて加熱する方法、赤外線やマイクロウェーブ(2,450MHz程度に極大波長を持つ電磁波)などを照射し、または熱風を吹き付けるなど記録媒体に接触させずに加熱する方法などが挙げられる。
【0102】
前記加熱は、印刷する前及び/又は印刷と同時に及び/又は印刷した後に行うことが好ましい。換言すれば、前記記録媒体の加熱は、印刷の前に行っても、同時に行っても、後に行ってもよく、印刷を行っている間を通して加熱してもよい。加熱温度は記録媒体の種類によるが、30から80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0103】
[記録物]
本実施形態の記録物は、上記インクジェット記録方法により記録が行われたものである。この記録物は、先述のインクセットを用いて上記インクジェット記録方法により得られたものであるため、高い金属鏡面光沢を有する記録物を得ることができる。また、インクセットに備えているインク組成物のメタリック顔料濃度が各インク組成物によって異なるため、鏡面光沢からマット調まで、任意の金属光沢を同時に形成することができる。
【実施例】
【0104】
〔実施例1〜10、比較例1,2〕
1.メタリック顔料分散液の調製
膜厚100μmのPETフィルム上に、セルロースアセテートブチレート(ブチル化率35〜39%、関東化学社製)3.0重量%及びジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤社製)97重量%からなる樹脂層塗工液をバーコート法によって均一に塗布し、60℃、10分間乾燥する事で、PETフィルム上に樹脂層薄膜を形成した。
【0105】
次に、真空蒸着装置(真空デバイス社製VE−1010型真空蒸着装置)を用いて、上記の樹脂層上に平均膜厚20nmのアルミニウム蒸着層を形成した。
【0106】
次に、上記方法にて形成した積層体を、ジエチレングリコールジエチルエーテル中、VS−150超音波分散機(アズワン社製)を用いて剥離・微細化・分散処理を同時に行い、積算の超音波分散処理時間が12時間である金属顔料を含む顔料分散体を得た。当該分散液中のアルミニウム(金属)量は、約50g/Lである。
次いで、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製 KBM−503)を、顔料分散体の中へ0.025mol/Lの濃度になるように添加して、20℃で24時間反応を行うことにより、メタリック顔料分散液を作成した。この場合の金属顔料の50%平均粒子径(R50)は1.83μm、厚みZ=0.02μm、R50/Z=91.5であった。
【0107】
得られたメタリック顔料分散液を、PPプリーツカプセルフィルター(ADVANTEC製 CCP−3−C1B)にてろ過処理を行い、粗大粒子を除去した。次いで、ろ液を丸底フラスコに入れ、ロータリーエバポレターを用いてジエチレングリコールジエチルエーテルを留去した。これにより、メタリック顔料分散液を濃縮し、その後、そのメタリック顔料分散液の濃度調整を行い、5重量%濃度のメタリック顔料分散液1を得た。
【0108】
また、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、顔料分散体の中へ0.05mol/Lの濃度になるように添加した以外は同様にして5重量%濃度のメタリック顔料分散液2を得た。
また、比較例1として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、添加しない以外は同様にしてメタリック顔料を有するメタリック顔料分散液3を得た。
【0109】
2.メタリック顔料インク組成物の調製
上記方法にて調製したメタリック顔料分散液を用いて、表1に示す組成にてメタリック顔料インク組成物を調製した。溶媒及び添加剤を混合・溶解し、インク溶媒とした後に、メタリック顔料分散液をそのインク溶媒中へ添加して、更に常温・常圧下30分間マグネティックスターラーにて混合・撹拌して、メタリック顔料インク組成物とした。
【0110】
表1中、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDE)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDM)は日本乳化剤社製のものを用いた。また、γ−ブチロラクトンは関東化学社製のものを用いた。また、セルロースアセテートブチレートはAcros Organic社製のブチル化率35−39%のものを用いた。なお、単位は重量%である。
【0111】
【表1】

【0112】
3.評価試験
【0113】
(1)耐熱性の測定
耐熱性評価は、実施例1、2、比較例1のインク組成物を袋状の透明な密閉容器に空気が入らないように封入し、それぞれ耐熱性試験1では40℃の温度にて1週間、耐熱性試験2では50℃の温度で1週間、耐熱性試験3は60℃にて1週間保存した後、気泡が発生しているかどうかを目視で確認した。目視にて気泡が発生していない場合を良好「A」と、発生した気泡の体積が1ccより少ない場合を良「B」とし、発生した気泡の体積が1cc以上である場合不可「C」とした。その結果を表2に示す。
【0114】
(2)耐水性の測定
耐水性評価は、メタリック顔料分散液1,2,3を用いて、80gのイオン交換水中へ20gのメタリック顔料分散液を添加し、金属顔料濃度が1wt%の水分散液となるようにサンプルを調製した(それぞれメタリック顔料分散液1を用いたものが実施例3、メタリック顔料分散液3を用いたものが実施例4、無処理のメタリック顔料分散液2を用いた場合が比較例2)後、耐熱性試験同様に袋状の透明な密閉容器に空気が入らないように封入し、それぞれ耐水性試験1では20℃の環境下で1週間保存した後、耐水性試験2では40℃の環境下で1週間保存した後に、気泡が発生しているかどうかを目視で確認した。目視にて気泡が発生していない場合を良好「A」と、発生した気泡の体積が1ccより少ない場合を良「B」とし、発生した気泡の体積が1cc以上である場合不可「C」とした。その結果を表3に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
また、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン[化1]に代えて、以下の表4に示す化合物[化2]〜[化7](いずれも信越シリコーン製 型番は表中に記載)を用いてメタリック顔料分散液4〜9を得て、上記耐熱性および耐水性の測定(実施例5〜10)を行った。なお、表4には、「不飽和二重結合を有する基」となる官能基名も示してある。また、表5に、メタリック顔料分散液4〜9と実施例(耐熱性および耐水性の測定)5〜10との関係を示す。
耐熱性試験4としては、60℃にて1週間保存した後、気泡が発生しているかどうかを目視で確認した。耐水性試験3としては、40℃の環境下で1週間保存した後に、気泡が発生しているかどうかを目視で確認した。目視にて気泡が発生していない場合を良好「A」と、発生した気泡の体積が1ccより少ない場合を良「B」とし、発生した気泡の体積が1cc以上である場合不可「C」とした。また、無処理のメタリック顔料分散液2を用いた場合を比較例2とし、同様の試験を行った。その結果を表6に示す。
【表4】

【0118】
【表5】

【0119】
【表6】

【0120】
以上、詳細に説明したように、上記実施例1〜10によれば、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基のような炭素原子間に不飽和二重結合を有する基(反応基)を有するアルコキシシラン化合物を用いて、平板状粒子からなる金属顔料の表面を処理することで、光沢性(いずれの実施例も20°光沢値150以上)を維持しつつ、耐熱性又は耐水性の向上が確認できた。
なお、一般的に光沢度が100以上の数値を示す場合、目視で光沢が感じられる。そして光沢度の数値が高い程、目視にて強い光沢感を感じる。
これは、炭素原子間に不飽和二重結合(例えば、−C=CH2)を有することにより、かかる部位(基)が疎水性(油性)となり、金属顔料を効果的に保護するためと考えられる。また、金属顔料の保護層は油性となるため、有機溶剤より、空気(表面)との親和性が向上し、金属顔料が表面側から整然と羅列し、配向性が向上することも考えられる。
特に、インク組成物として、上記有機溶剤のような非水系の溶媒を用いる場合であっても、各種溶剤の不純物として水分を僅かながら含有する。例えば、1.0重量%以下の水分を含む。しかしながら、上記処理を行えば、金属顔料が上記化合物で保護され、金属顔料の溶解など、水分による負所望な反応を低減することができ、前述のとおり、耐水性を向上させることができる。また、温度上昇に伴い、負所望な反応が起こり易くなるが、上記保護により、耐熱性も向上する。
このように、上記シラン化合物を用いることにより、印刷特性の向上が図れる。また、上記表6に示す[化1]のメトキシをエトキシに変えた表4の[化8]の化合物の使用も効果的であると考えられる。同様に、上記表6に示す[化2]のメトキシをエトキシに変えた化合物も効果的であると考えられる。
【0121】
また、実施例1、2から分かるように、Al量が、約50g/Lの分散液に対し、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、0.025mol/Lおよび0.05mol/Lの濃度になるように添加した場合、いずれも良好な結果を得ることができた(実施例1〜4)。しかしながら、上記化合物の高濃度(例えば、0.2mol/L以上)の添加においては、金属粒子の凝集が見られるという不具合があった。よって、上記処理濃度は、比較的低濃度が好ましく、例えば、金属1.0gに対し、シラン化合物の添加量を0.004mol未満とし、好ましくは、0.002mol以下、より好ましくは、0.001mol以下とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状粒子からなる金属顔料の表面を、炭素原子間に不飽和二重結合を有する基を有するアルコキシシラン化合物で処理してなる表面処理顔料。
【請求項2】
前記平板状粒子からなる金属顔料が、該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす、請求項1記載の表面処理顔料。
【請求項3】
前記平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の最大粒子径Rmaxが10μm以下である、請求項1又は2に記載の表面処理顔料。
【請求項4】
前記金属顔料が、アルミニウム又はアルミニウム合金である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理顔料。
【請求項5】
前記金属顔料が、金属蒸着膜を破砕して作成された請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理顔料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理顔料と、有機溶剤と、樹脂と、を含有する、インク組成物。
【請求項7】
前記表面処理顔料のインク組成物中の濃度が、0.1〜3.0重量%である、請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記有機溶剤が、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールエーテルを1種類以上含む、請求項6又は7に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記有機溶剤が、アルキレングリコールジエーテル、アルキレングリコールモノエーテル及びラクトンの混合物である、請求項6又は7のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項10】
前記樹脂が、ポリビニルブチラール、セルロースアセテートブチレート、ポリアクリルポリオールからなる群から選択された少なくとも1種以上である、請求項6〜9のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、前記記録媒体上に吐出されるインク組成物の吐出量が、0.1〜100mg/cm2である、インクジェット記録方法。
【請求項12】
前記インク組成物を吐出する方式が、非加熱方式である、請求項11記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記記録媒体を加熱して印刷する、請求項11又は12記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記加熱温度が30℃〜80℃である請求項13に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記加熱は、印刷する前及び/又は印刷と同時に及び/又は印刷した後に行う、請求項14に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2010−265422(P2010−265422A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119746(P2009−119746)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】