説明

表面固定した多糖類を用いた、血液からのサイトカイン除去法

本発明は、ヘパリン、ヘパラン硫酸及び/又は除去するサイトカイン又は病原体(吸着質)に結合親和性をもつ分子又は化学基(吸着媒体)で表面処理した、中実な、すなわち本質的に非微多孔質の基体を血液と接触させることにより、血液又は血清(血液)からサイトカイン及び/又は病原体を除去する方法を目的とする。ここで該媒体中の間隙流路の大きさと媒体の表面積は釣り合いが取れており、かつ、媒体表面にある結合部位の濃度は、この吸着媒体中を血液が比較的早い速度で流れても十分な吸着能を発揮するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパリン、ヘパラン硫酸のような多糖吸着剤、及び/又は除去するサイトカイン又は病原体(吸着質)に結合親和性をもつ他の分子若しくは化学基(吸着媒体又は媒体)で表面処理した、中実な、すなわち本質的に非微多孔質の基体を血液と接触させることにより、血液又は血清(血液)からサイトカイン及び/又は病原体を除去する方法を目的とするもので、十分な吸着能を提供するために、前記媒体中の間隙流路の大きさは媒体の表面積の量および媒体の結合部位の表面濃度と釣り合いが取れており、この吸着媒体中を比較的高流量の血液が流れることをも可能にしている。そのため吸着質は主に、強制対流によって媒体の結合部位へ輸送される。(強制)対流とは例えば、ポンプによって生成される圧力勾配によって生じる、弾力性のある容器への外側からの加圧(又は剛性容器への内圧)による、重力/高度差による、又は治療を受ける患者の動脈圧と静脈圧の差によって生じる流れを意味する。本発明は、例えば、透析、心肺バイパス、及び膜型肺による血液への体外酸素添加などの臨床での体外血液循環で通常使用される安全な流速の範囲の中で臨床的に意義のある吸着能を提供する。多孔質の吸着媒体を用いた場合には、媒体の上、下、又は媒体内部にある吸着部位に吸着質を結合させる前に、微多孔膜及び/又は顕微鏡レベルの細孔に吸着質を通して拡散させることが必要なため、通過させる各血液を十分に分離するためには流速を小さくして吸着質を非常にゆっくりと拡散輸送させる必要があるが、本方法はこれとは正反対である。本発明はまた、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及び/又は、その他の吸着材料のような、多糖類で構成された吸着剤でコーティングした本質的に非多孔質の基体に血液を接触させて、サイトカイン及び/又は病原体を血液から除去して疾患を治療する方法、及びこの方法及び治療を実施するデバイスを提供する。
【背景技術】
【0002】
血流中のサイトカイン及び/又は病原体濃度の上昇で特徴づけられる様々な病状がある。そのような症状のいくつかは、例えば、抗感染薬などの薬剤の投与による、病原体を殺すために設計された処置によって治療される。その他の症状のいくつかは、患者の血液感染性サイトカイン又は病原体の濃度を低下させることを目的とした処置によって治療される。その他の疾患は、患者の血液から、特定の要素のみを直接除去することを目的とした処置によって治療される。
【0003】
例えば、ギラン・バレー症候群は現在、ウイルスが感染し、それにより、患者の神経系を攻撃し得る抗体又はその他のタンパク質が過剰生産されるように体の免疫系が刺激されることによって麻痺の生じる自己免疫障害だと認識されている。大部分の患者は時間経過と共に回復するが、そのような患者はその後、ウイルス感染による再発を発症しやすいようである。ギラン・バレー症候群を治療する1つの方法としては、患者の神経系を攻撃すると考えられている抗体を、患者の血液から除去して「清浄にする」ための血漿交換が挙げられる。
【0004】
特定の生物学的に活性な炭水化物及び多糖は、有害物質を血液や体液から除去することができる。
ヘパリンは、哺乳類の組織から単離することができる多糖である。ヘパリンの哺乳類の組織での分布は非常に限られており、肥満細胞の好塩基性顆粒のみに存在する。米国の科学者であるMcLeanによって1916に発見されて以来、ヘパリンは血液の凝固を防止するその能力と、体内でのその半減期が比較的短いことによって認識されてきた。遊離型薬物の注入による全身へのヘパリン投与は、安全で有効な血液の抗凝血治療及び抗血栓治療として、50年以上にわたって臨床で用いられてきた。血液の凝集/凝固に及ぼすヘパリンの作用は投与を停止すると非常に迅速に弱まることから、外科的及びその他の方法と併用して、有効に、かつ、安全にヘパリンを使用することができる。つまり、ヘパリンの抗凝血及び抗血栓特性は多くの医療処置を行う際に、例えば、血液と人工の体外血液循環表面との間の望ましくない相互作用を最小限に抑えるために、有用である。処置が終われば、次いでヘパリンの投与を終了してもよい。ヘパリンの体内での半減期が短いことから、患者の血液中でのヘパリン濃度は数時間以内に安全なレベルまで下がる。このことは外科的処置後の治癒が、出血性合併症を避けるための手術部位での血液凝固能に依存する場合に特に重要である。ヘパリンは、血栓閉栓症の治療及び表面誘導血栓の予防にその使用が定着し、継続して使用されているが、加えて近年、ヘパリンがその凝血剤としての機能とは一見関係のないその他の様々な機能をもつことが分かってきた。現在では例えば、血液中の多数のタンパク質が、高い親和性でヘパリン及び/又は類縁多糖であるヘパラン硫酸に結合することが分かっている。ヘパラン硫酸もまた、健康な血管の、血液が接触している内腔表面を含む、動物組織で見つかっている(循環血液が血管壁に接触して凝固することを防ぐことに貢献していると考えられる)。例えば、アンチトロンビン(AT)、フィブロネクチン、ビトロネクチン、成長因子(例えば線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子など)が含まれる。ヒト血清アルブミン(HSA)もまたヘパリンに結合するが、その血液中の濃度が高いにも関わらず、親和性は低い。
【0005】
他の研究者らは、ヘパリン断片及び/又はいわゆるシアル酸含有断片を脈管系に直接導入することによる、感染を防ぐための全身性の遊離ヘパリンの選択的吸着特性利用することについて検討している。この治療は、これらの断片が微生物のレクチンに結合してそれらを遮断するため、レクチンが哺乳類の細胞表面にある受容体に結合できなくなるという仮説に基づいていた。この方法は多くの科学者達によって研究されてきたが、これまでに報告された成功例は少ない。最も共通した問題は、臨床上有意な病原微生物の減少を達成するために例えば注入によって血流に導入された遊離型ヘパリンが大量であることに関連する出血性合併症であった。本発明が効果を発揮するためには、いかなる遊離型、すなわち全身性ヘパリンの使用も必要としないため、出血性合併症を排除することができる。これは、ヘパリン又はヘパラン硫酸を表面積の大きい固体基体に恒久的に結合させ、この吸着媒体を含むカートリッジ又はフィルター中に血液を曝すことによって達成される。
【0006】
上記で考察した問題は、以下の参考文献で扱われている。
Weberら(Weber V, Linsberger I, Ettenauer M, Loth F, et al. Development of specific adsorbents for human tumor necrosis factor-alpha: influence of antibody immobilization on performance and biocompatibility. Biomacromolecules 2005; 6: 1864-1870)は、モノクローナル抗TNF抗体でコーティングしたセルロース微粒子を用い、TNFが生体外で有意に結合したことを報告したが、Haaseら(Haase M, Bellomo R, Baldwin I, Haase-Fielitz A, et al. The effect of three different miniaturized blood purification devices on plasma cytokine concentration in an ex vivo model of endotoxinemia. Int J Artif Organs 2008; 31: 722-729)は、多孔質の吸着デバイスを用いた以外は我々と同様な生体外での方法により、IL−1raが有意に減少したが、IL−6は減少しなかったことを報告した。生体内では、Marianoら(Mariano F, Fonsato V, Lanfranco G, Pohlmeier R, et al. Tailoring high-cut-off membranes and feasible application in sepsis-associated acute renal failure: in vitro studies. Nephrol Dial Transplant 2005; 20: 1116-1126)が、血液潅流及びろ過精度の高いポリスルホン膜を用いて、複数の循環サイトカインを有意に減少させることに成功しているが、血清アルブミンの損失もまた報告している。推定されるこれら知見の臨床的意義については、Schefoldら(Schefold JC, von Haehling S, Corsepius M, Pohle C, et al. A novel selective extracorporeal intervention in sepsis: immunoadsorption of endotoxin, interleukin 6, and complement-activating product 5a. Shock 2007; 28: 418-425)が、敗血症性ショック患者33人を無作為化した試験で循環内毒素、IL−6、及びC5aレベルを選択的免疫吸着により同時に減少させ、器官機能を上昇させることを成功していることによって示した。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、選択的吸着分子、生体分子又は化学基でコーティングした中実の、すなわち本質的に非多孔質の基体に血液を接触させることにより、サイトカイン及び/又は病原体を哺乳類の血液から除去する方法を提供することである。そのような選択的吸着分子は、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ポリエチレンイミン(PEI)、シアル酸、ヒアルロン酸、及びマンノース配列を有する炭水化物のような多糖類を含んでいてもよい。予防的に使用する場合、例えば保存血の採取若しくは輸血の際、又は患者から患者への直接の輸血に使用する場合には、本発明の使用を、疾患の拡散を減少させる又は排除するために使用することもできる。従って本発明は、疾患予防、及び既に感染した患者の治療を補助するための両方に用いてもよい。
【0008】
本発明の1目的は、ヘパリン及び/又はその他の吸着分子でコーティングした中実な、すなわち本質的に非多孔質の基体に哺乳類の血液を接触させることによりサイトカイン及び/又は病原体を哺乳類の血液から除去し、その後血液をその疾患を罹患している患者に戻すことによる、既に罹っている疾患の治療法を提供することである。
【0009】
上述した目的は、本発明の範囲を多少なりとも制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】5Lの乏血小板血漿からのTNF−αの除去。
【図2】QCMプロット ヘパリンが吸着した質量。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.血液からのサイトカイン又は病原体の除去
本発明の第一の側面は、例えばヘパリン及び/又はその他の吸着性炭水化物及び/又は多糖でコーティングした中実基体に血液を接触させることにより、サイトカイン及び/又は病原体を血液、例えば哺乳類の血液から除去する方法を提供する。
【0012】
この方法のある態様では、基体表面にヘパリンを固定化する。発明者らは、表面に固定したヘパリンが、十分量のサイトカイン及び病原体を血液から除去するのに有効であることを発見した。しかしながら、一般的な体外血液循環の流速では、安全に操作するために、流速を比較的速くできるように吸着剤「床」を設計することが必要である。このことは、一つには、ゆっくりと移動するか流れないことが危険な凝固を形成するという血液の普遍的特徴による。本発明では、基体は大幅な圧力損失を起こすことなく、高流速の血液が基体上を流れるように、十分に大きな間隙構造をもつように設計される。つまり、哺乳類患者から血液を採取すると、一定の流速で基体に血液を通し、これにより吸着剤床表面への吸着質の送達は主に強制対流によって特徴づけられる。このことは、非常に多孔質の吸着媒体(例えば多孔質シリカ、セファデックス、架橋ポリスチレン及びその他のサイズ排除媒体)、及びその他多数の微多孔質媒体を使用した場合に生じる、非常にゆっくりとした分子の拡散過程とは対照的である。分子の拡散はまた、吸着媒体と共に選択的透過性の障壁膜を用いた場合に、例えば、アフィニティ治療を行う際に血液細胞及び/又は高分子の溶質が吸着媒体に接触することを防ぐために、必要とされる。
【0013】
対流輸送の間に起こる、サイトカイン及び病原体のヘパリン及び/又はその他の吸着分子への結合は、体外血液循環の(安全な)操作に通常用いられる、比較的流速が速い条件で、例えば線流速で測定して≧8cm/分、好ましくは約≧24cm/分、より好ましくは約24〜329cm/分の場合に、又は、流速で測定しておよそ>50mL/分、好ましくは>150mL/分であるが、約2000mL未満/分の場合に特に有効である。一方、微多孔質媒体の細孔に吸着させて十分に分離又は精製するためには、実用的な大きさの吸着床を通過させる流速はより遅いこと、すなわち<50mL/分から<1mL/分程度であることが必要とされる場合がある。
【0014】
厳密には、媒体中の吸着剤に対する吸着質の拡散輸送が必要とされる媒体では、吸着カラム上での非常に長い「滞留時間」が必要となるが、吸着質を強制対流によって結合部位へ運ぶ場合(本質的に非多孔質な媒体を用いて)には滞留時間がより短くて済むと考えられている。しかしながら、安全、かつ、有効な吸着カートリッジ、カラム、フィルターなどの実用化には、大きさの制限、特にそれらが保持できる血液の最大容量、及び吸着媒体を通過する血液又は血清の流速に関して制限がある。このような理由から、吸着デバイスを通過する平均流速が、重要な設計変数であると考えられている。
【0015】
血流からサイトカイン又は病原体を除去する際の対流及び拡散の動力学を比較することができる。拡散輸送に依存する吸着媒体には通常、顕微鏡レベルの細孔が存在することによって非常に大きい内部表面積をもつ、非常に多孔質の材料が用いられる。一方、対流輸送に適する媒体は、通常、粒子、ビーズ、繊維、網状の発泡体、又は任意に螺旋状の緻密な膜のような、中実、すなわち本質的に非多孔質の材料の間の、目に見えるレベルの「流路」又は目に見える間隙に依存している。
【0016】
通常、強制対流輸送に基づく媒体は高流速により適しており、一方、より遅い拡散輸送に基づく媒体の有用性は、高流速や短い滞留時間が要求される場合には非常に低い。このため、体外血液精製デバイスでは、吸着媒体の細孔中に吸着質がゆっくりと拡散する必要がない吸着媒体がより好ましい。血液を、人工材料から作られた回路にポンプを用いて通す場合、血液の滞留を防ぎ、凝固のリスクを低減させるために、通常は、比較的高血流速を採用するのが一般的である。一方で、極端な高流速は避けなければならない、というのは、流速が極端に速いと、血液細胞が速い剪断速度や、血液細胞を破裂させるか血液細胞を損傷させる場合がある衝撃にさらすことになる可能性があるからである。そのため本発明は、対流輸送の好ましい特性、及びその望ましい、より速い動態を用いて、血液からサイトカイン及び/又は病原体を除去する方法及びデバイスを提供する。これは、吸着分子、例えばヘパリンを表面処理したことにより、血液から除去することが望まれるサイトカイン又は病原体と結合することができるようになった、本質的に非多孔質な基体に血液を流すことによって行われる。表面処理によって基体が十分に非多孔質になる場合には、微多孔質基体を本発明で用いることも可能である。これは、細孔を塞ぐ媒体の製造過程において、意図的に又は偶発的に起こる可能性がある。これにより微多孔質基体は、吸着質が媒体に結合するための、細孔への拡散を必要としない媒体に変換される。
【0017】
移植可能なデバイスもまた、酸素、抗凝血剤、麻酔のような所望の産物を添加することができ、体の外で実施される「体外治療」手段ではあるが、特許請求した方法は、主に体外治療又は手技に用いることを目的としている。逆に、特定の種類の体外回路を用いることにより、天然の毒素又は毒物のような、望ましくない産物を除去することができる。例としては、血液の老廃物を除去するための代表的な技術である、血液透析及び血液ろ過が挙げられる。血液感染性毒物などの除去には、活性炭素表面への吸着が用いられてきた。
【0018】
本発明では、哺乳類由来の全血及び血清を使用することができる。特許請求した方法で用いることができる血液又は血清の量を制限することを意図しない。その範囲は1mL未満から1Lを超えてもよく、途切れることなく血液を患者に再循環させる場合には、患者の血液の全量まで、及び全量を含んでいてもよい。必要な場合には、吸着床を通る1つ以上の「管」を使用してもよい。血液は、ヒト又は動物の血液であってよい。
【0019】
血液からサイトカイン又は病原体を除去するための吸着媒体を本発明に従って最適化し、従来型の体外血液循環を用いて、>50mL/分、及び好ましくは約150〜2000mL/分の流速で使用できるようにする。線流速で測定した場合には、≧8cm/分、好ましくは約≧24cm/分、そしてより好ましくは約24〜329cm/分である。そのような高流速により、吸着カラム中での滞留時間が短縮され、そして対流輸送がブラウン拡散輸送を上回る。このことは、TNF−αのような分子量の大きいタンパク質又はサイトカインの結合及びウイルスや、細菌、寄生虫のような大きい粒子の結合には、それらが非常にゆっくりと拡散するために特に重要である。本発明では、サイトカイン及び病原体を除去することができる吸着部位は主に、血液が流れる又は強制対流によって送達される媒体床中の間隙に存在する。血液治療用には、間隙流路の大きさは直径の平均は6ミクロンである、赤血球が移動できる程度に十分大きい必要がある。充填済みの吸着カートリッジを高血流速で用いる体外循環に設置可能にするためには、間隙流路は赤血球の直径の数倍の大きさでなくてはならない。これにより、溶血を引き起こす高剪断速度を防止し、同時に、充填床又はカートリッジを通過する血流の圧力損失を最小限に抑えることができる。加えて媒体は、フィルターカートリッジを塞ぐ圧縮による変形を最小限にするために、剛性をもつことが好ましい。これらの適性に基づき、例えば、高流速用の体外血液循環を用いて病原体及び/又はサイトカインを十分に除去できるように、最適な硬質媒体の間隙流路の大きさ及び全表面積の釣り合いを取った。
【0020】
2.本発明で使用する基体。
本発明では、形及び組成が多様な材料を基体として用いることができる。好適な基体はどれも広い表面積を提供し、強制対流輸送による吸着質の、それらが(主に)吸着する吸着部位への移動を促進する。媒体が血流中に流れ出ないように(媒体漏出とも呼ばれている)、かつ血液が本質的に全媒体表面を通過できるように、通常、媒体を保持するように設計されたカラムのような容器中に媒体は充填されて提供される。吸着媒体を作出するための有用な基体としては、非多孔質硬質ビーズ、粒子、又は充填した、網状の発泡体、硬質一体型床(例えば焼結ビーズ又は粒子から形成した)、織物又は不織布で充填したカラム、糸又は中実若しくは中空で緻密な(微多孔質ではない)単繊維で充填したカラム、平坦なフィルム若しくは緻密な膜から形成した螺旋状のカートリッジ、あるいはビーズと布を組み合わせたカートリッジのような媒体の併用が挙げられる。本発明での使用に好適な基体は、最初は微多孔質であるが、吸着部位を作成する前、作成中、又は作成後の表面処理によって、例えば末端で結合したヘパリンにより、本質的に非多孔質になる基体である。
【0021】
カラムは血液又は血清に対する広い表面積を提示し、同時に大幅な圧力損失及び高剪断速度を防止するマクロ多孔質構造をもつ。高剪断速度は、溶血による血液損傷の可能性に加えて、圧力損失に応答して自動的に停止する装置を備えた体外回路を停止させる可能性があるため避けなければならない。
【0022】
基体はまた、障壁膜とも呼ばれる緻密な膜の形態をとってもよい。この態様では、非多孔質フィルムの表面を、ヘパリン、ヘパラン硫酸又は別の吸着多糖と、任意にヘパリン、ヘパラン硫酸、又は吸着多糖由来ではない吸着基とを膜に結合させることによって加工する。あるいは、微多孔質の膜を、結合部位を結合させる前後のいずれかに、本質的に非多孔質の材料、例えば重合体で埋めることにより、非多孔質又を「緻密」にしてもよい。シート状又は(中空の)繊維状の膜を筺体中で、血液が接触する表面積を広くし、本発明の実施に好適になるように配置してもよい。
【0023】
2.1.基体としてのビーズ
基体に有用な形態の1つは、中実なビーズ又は粒子である。遭遇する流速による変形/圧縮に十分耐える剛性をもつ材料から「ビーズ」を作成することができる。変形に耐える力は、自由体積と、充填床「接触器」の圧力損失を低く維持するために必要である。基体の大部分の中に入り込める細孔が実質的にないために、吸着の前に吸着質が拡散する必要性もない。本発明の吸着部位は主に媒体表面にあり、主に対流輸送によって表面に送達する血液中の吸着質が到達しやすい位置にある。凹凸により、例えばヘパリンを共有結合又はイオン結合させて結合部位として接着させるための望ましい表面積が増大するため、好適な基体は、その表面が完全に均一である必要はない。一方、吸着質が結合部位に結合する前に細孔中に拡散する必要性を排除するために、入り込める分子大の内部細孔の大部分を避ける。
【0024】
本発明では、様々な種類のビーズを使用することができる。有用なビーズは、この方法で使用している最中の変形/圧縮を避けるための十分な大きさと硬質、並びにこの方法で使用するためにヘパリンでコーティングすることができる、十分な表面積をもつ必要がある。
【0025】
臨床で通常用いる流速で水又は生理食塩水をおよそ1時間流す間に、吸着床の圧力損失の有意な上昇がないことが、例えば、生理食塩水などを用いて同様の流速で測定した時に、最初の圧力損失(流動早々に測定する)と比較して、圧力損失の上昇が10〜50%未満の場合、十分に硬質であることの証拠となる。
【0026】
ビーズ又はその他の高表面積基体を、本質的に漏出する不純物を含まない、天然若しくは合成重合体、又はガラス、セラミック及び金属を含む非重合性材料のような様々な生体適合性材料から作成してもよい。重合体のいくつかの例としては、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン又はエチレンとその他モノマーの共重合体、ポリエチレンイミン、ポリプロピレン、及びポリイソブチレンが挙げられる。有用な基体の例としては、非多孔質の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)が挙げられる。その他の適したビーズには、ポリスチレン、高密度及び低密度ポリエチレン、シリカ、ポリウレタン、及びキトサンがある。
【0027】
そのようなビーズ自体の作成方法自体は当該分野において既知である。ポリエチレンビーズ及びその他のポリオレフィンビーズは、合成過程を通して直接生産され、そしてしばしば、さらに大きさを小さくすることなく使用することができる。その他の重合体は、粉末にするかスプレー乾燥させて分級する、そうしないと所望の粒度分布及び形のビーズにするための処理が必要となる場合がある。
【0028】
上述のように、本発明の方法で使用するためには、体外血液ろ過用のチャネルの大きさ又は個々のビーズ間の間隙を最適化して、カートリッジの入口と出口の間の大幅な圧力損失を防ぎ、血液細胞が個々のビーズの間を高流量環境で安全に通過でき、かつ、血液中のサイトカイン又は病原体が吸着する多糖吸着剤を結合させるための適切な間隙表面積を提供する必要がある。300ミクロンのほぼ球形のビーズを密に充填した床での適切な間隙細孔サイズは、直径約68ミクロンである。有用なビーズの直径は、約100ミクロンから500ミクロン以上の範囲である。ビーズサイズの平均は、150〜450ミクロンであってもよい。例えば、Polymer Technology Group(バークリー、米国)製のポリエチレンビーズの直径の平均は0.3mmであり、適している。間隙細孔はビーズの大きさの関数である。
【0029】
使用にあたっては、好適なビーズをカラムのような容器中に充填する。
その他の好適な形態を以下に記載する。
網状の発泡体は連通気泡構造をもち、例えば、ポリウレタン及びポリエチレンから製造することができる。製造方法を制御することにより、細孔径を制御することができる。通常、網状の発泡体は1インチ当たり3〜100個の細孔を有し、表面積は66cm/cm以上になる。
【0030】
ビーズを化学的又は物理的な手段を用いて焼結し、一体型多孔質構造にすることができる。カートリッジに入れたポリエチレンビーズを加圧しながらその融点を超える温度で加熱することにより、焼結させることができる。得られた間隙細孔径は、同じ大きさの、非焼結ビーズの充填床の間隙細孔径よりもやや小さい。この収縮は経験的に決定することができ、そして、所望される最終的な間隙細孔径を得るのに使用することができる。
【0031】
カラム又はその他の筐体形に、ヘパリン化した織物若しくは不織布を充填すること、又は、筺体にろ過基体を充填した後に、ヘパリン、ヘパラン硫酸若しくは任意に非ヘパリン吸着部位を、共有、イオン、若しくはその他の化学的若しくは物理的結合で結合させることができる。織物の繊維の太さ及び密度を、製織若しくは編組工程、又は不織布を製造する工程で制御することにより、間隙細孔径を制御することができる。有用な不織布は、様々な方向を向いた繊維がからみあい及び/又は接着した、又は交差した繊維が凝集したフェルト、溶融吹込、若しくは静電紡糸ウェブの形態であってもよい。有用な織物は、より明確な不均一でない構造をもつ。
【0032】
カラムに、繊維又は繊維から生成した糸を充填することができる。ポリエチレン、及びその他の繊維を細い中空若しくは中実単繊維、又は多繊維糸に延伸し、これを、中空糸膜を標準的な血液透析カートリッジ又は血液酸素供給器に入れるのと同じ方法でカートリッジ中に充填することができる。本発明では、ヘパリン又はその他の吸着剤を細孔の外面及び/又は内面に結合させる前、又は後に、最初は多孔質で中空の繊維を緻密に又は非多孔質にする。Royal DSM社のDyneema Purity(登録商標)は、UHMWPE製の、高強度の硬質繊維である。サイトカイン及び病原体を除去するための表面積の大きい支持体を提供するために、Dyneemaをヘパリン化し、その後カートリッジ中に充填することができる。
【0033】
螺旋状のカートリッジは、隣接した表面が接触するのを防ぐための任意のスペーサー材料と共に、密に巻いた、薄いフィルム又は膜を含む。膜は、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリカーボネート、PET、PBTなどのような重合体から作成することができる。
【0034】
2.2.多糖吸着剤の結合
本発明の多糖から構成される吸着剤を、共有結合又はイオン結合を含む様々な方法によって、中実基体の表面状に結合させることができる。
【0035】
本発明の吸着媒体は、中実基体の表面に共有結合したヘパリンを含む場合がある。ヘパリンを、WendelとZiemer(H.P Wendel and G. Ziemer, European Journal of Cardio-thoracic Surgery 16 (1999) 342-350)の総説に記載されたような所望の基体に結合させるために用いることができる様々な方法それ自体は既知である。一態様では、ヘパリンを末端での共有結合により中実基体に結合させる。この方法は、血流に入る可能性のあるヘパリンの基体表面からの放出を低減又は排除することにより、デバイスの安全性を上昇させる。出血及びヘパリン誘導性の血小板減少症のリスクが上昇する可能性があることから、血液による及び血液へのヘパリンの「浸出」は回避しなければならない。
【0036】
ヘパリンのような多糖類を中実基体に共有結合させることにより、非共有結合と比較して、固定化した分子の表面密度及び配向のようなパラメータの制御が容易になる。発明者らは、サイトカイン又は病原体を固定化した炭水化物分子に最適に結合させるために、これらのパラメータが重要であることを示した。中実基体上でのヘパリンの表面濃度は、1〜10μg/cmの範囲でよい。末端での共有結合とは、ヘパリンのような多糖類が、ヘパリン分子の末端の残基を介して固体基体に結合することを意味する。ヘパリンは複数の位置で結合することができる。末端での結合が好ましい。
【0037】
ビーズを用いる場合、ヘパリンのような多糖類、又はその他の化合物を結合させる前に、ビーズを親水性にしてもよい。ビーズの調製に用いることができる方法には、酸腐食、血漿処理、及び過マンガン酸カリウムのような強い酸化剤への曝露が挙げられる。
【0038】
2.3.基体1グラム当たりの多糖類の量
基体1グラム当たりの多糖類から構成される吸着剤の量は変わり得る。一つの特定の態様では、ビーズを使用する場合、ヘパリンのような多糖類のビーズ1グラム当たりの量を、用いる層の数、及びビーズの大きさによって決定する。ビーズが大きくなればなるほど、ヘパリンなどの多糖類のビーズ1グラム当たりの量は少なくなる。MBTH方法での1つの好ましい量は、ビーズ1グラム当たりヘパリン2.0±0.5mgである。
【0039】
特許請求した方法では、様々な分子量の多糖類を使用してもよい。例えば、天然のヘパリンの平均分子量は22kDaである。硝酸分解したヘパリンの分子量は8kDaである。
【0040】
3.異なる表面機能をもつビーズ混合物
ヘパリンは、サイトカイン、病原体、及びその他のタンパク質に結合することができる生物学的に活性な炭水化物である。しかしヘパリンは、血液の凝固を防止する抗凝血剤として最もよく知られ、かつ、最も広く用いられている。ヘパリンは50年間臨床で、注入可能な、全身性抗凝血剤として安全に用いられてきた。加えてヘパリンは長年にわたって製造業者らにより、血液に接触させて使用する医療機器の安全性を改善させるという1つの目的のために、医療機器のコーティング剤又は表面処理剤として用いられてきた。このことは、大量の血液を輸送するために、表面の広い範囲を血液に曝さなくてはならないそれらの機器にとって特に重要である。機器の例としては、透析器及び血液酸素供給器が挙げられる。本発明で用いる吸着媒体の表面には、1)疾患の原因となる病原体、サイトカイン及びその他の血液感染性物質に対するヘパリンの結合能、並びに、2)血液の凝固、及び異質の、例えば人工の、表面に接触することに関連して生じる反応を防止するヘパリンの能力、の2つの目的のためにヘパリンを結合させる。従って、ヘパリンが血液及びその他の体液から有毒物質を除去する場合に効果と安全性の両方を提供することから、ヘパリンは本発明の吸着媒体に必須の構成要素である。
【0041】
ヘパリン及びヘパラン硫酸に加えて、固定化したヘパリンのみでは十分に除去できない有害物質を血液及び体液から除去することができるその他の炭水化物を含む、その他の生物学的に活性な化学物質がある。例えば、高い陽イオン性を示し、正に帯電した炭水化物であるキトサンは、内毒素類に結合する。ポリエチレンイミン(PEI)などのその他の正に帯電した分子もまた、内毒素に結合することができる。しかしながら、陽イオン性の表面は、ヘパリン化した表面に比べて血液との適合性が有意に低く、血液と接触するデバイスでは危険な状態である血栓形成の増大を引き起こす可能性がある(Sagnella S., and Mai-Ngam K. 2005, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, Vol. 42, pp. 147-155, Chitosan based surfactant polymers designed to improve blood compatibility on biomaterials 及び Keuren J.F.W., Wielders S.J.H., Willems G.M., Morra M., Cahalan L., Cahalan P., and Lindhout T. 2003, Biomaterials, Vol. 24, pp. 1917-1924.Thrombogenecity of polysaccharide-coated surfacesを参照のこと)。血液からLPS又は内毒素を除去するための生物活性をもつ吸着剤として、PEI、キトサン又はその他の本質的に血栓形成性の表面を含む吸着カートリッジを使用することは可能であるが、その凝固リスクが高いため、患者に高用量の全身性抗凝血剤を使用することが必要となる。ヘパリンを全身性投与する場合には、出血のリスクを生じる可能性と血小板減少症が生じる可能性がある。
【0042】
本発明の方法では、ヘパリン化した媒体と本質的に血栓形成性の媒体の混合物から吸着床を調製する。ヘパリン化した表面と、例えば陽イオン性表面(又はその他の本質的に血栓形成性の表面)の両方から吸着カートリッジを構成することにより、血液又は体液から、サイトカイン、病原体、及び内毒素の全てを安全に除去することができる。
【0043】
生物学的に活性であるが血栓形成性の別の炭水化物にはシアル酸がある。シアル酸はインフルエンザを含むウイルスのレクチンに結合することが知られている(C, Mandal.1990, Experientia, Vol. 46, pp. 433-439, Sialic acid binding Lectins)。ヘパリン化したビーズとシアル酸でコーティングしたビーズの混合物から構成されるカートリッジは、インフルエンザの流行期間中のような、患者の治療に有用であると考えられる。
【0044】
腹部敗血症性ショックは一般に、グラム陰性細菌である大腸菌によって引き起こされる。グラム陰性細菌は一般的にヘパリンには結合しないため、サイトカイン及び/又は内毒素に加えてこれらの細菌を結合する多機能性の吸着カラムが有効である。メチルα−D−マンノピラノシドのようなマンノース配列を有する炭水化物が大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、及びサルモネラ菌に結合することが知られている(Ofek I., and Beachey E.H. 1, 1978, Infection and Immunity, Vol. 22, pp. 247-254, Mannose Binding and Epithelial Cell Adherence of Escherichia coli 及び Sharon, N. 2, 1987, FEBS letters, Vol. 217, pp. 145-157Bacterial lectins, cell-cell recognition and infectious disease)。
【0045】
この態様の使用は、抗血栓形成性表面が、血栓形成性表面と直接又は密接に接触していれば、血栓形成性の表面のみを使用した場合には生じる可能性のある血栓の形成を、臨床上有意に予防することができるという概念に基づいている。吸着媒体がビーズ又は粒子状である場合の本発明の好ましい適用は、カートリッジ又はその他の筺体にそれらを充填する前に、別の吸着媒体と混合することである。これにより、隣接したビーズ同士の表面の化学構造で多数の密接な接触が生じ、同時に吸着カートリッジ又はフィルターを効率的に製造することができる。関連する方法は、異なる媒体に順番に又は並行して血液が接触するように、異なる媒体を層状に重ねて「パフェ型」に配置することである。カートリッジ中に異なる媒体を配置するための一方法では、カートリッジの入口及び/又は出口に混合していない抗血栓形成性媒体を配置し、より多くの血栓形成性媒体を含む混合した領域を任意に、入口と出口領域の間に挿入する。媒体が繊維状の場合、混合織物、編地、又は不織構造は、繊維工業で既知の混合繊維から布を作る方法によって準備することができる。あるいは、1種の繊維が接触による血液凝固を積極的に予防する限り、異なる表面化学をもつ2つ以上の繊維から生成した微細な多繊維糸又は単繊維から糸を調製することができる。混合繊維糸をその後、血液を接触させるための布を調製するために使用することができる。中空又は中実繊維の吸着媒体を混合し、中空糸膜透析器又は酸素供給器に似たカートリッジを作成するために使用することができる。螺旋状の吸着カートリッジに用いられる膜状又はフィルム状の吸着媒体には、両方の表面化学に(ほぼ)同時に血液が接触するように、互いが非常に接近した2つ以上の表面化学を用いてもよい。これは、膜状フィルムの表面層にある様々な結合基を規則正しく若しくはランダムに配置することにより、又は2つの近接した膜状フィルム間に(このフィルムの内の1つは抗血栓形成性である)血液の流路を形成することによって行うことができる。
【0046】
4.本発明の方法で使用するためのデバイス
本発明の別の側面は、吸着剤で修飾した固体基体を含む装置デバイスの使用を提供する。この吸着剤は、哺乳類の血液からサイトカイン又は病原体を体外除去するために、サイトカイン又は病原体に対する結合親和性をもつ。
【0047】
本発明の使用及び方法に記載したデバイスは、患者(例えば腎不全を罹患している患者)からの血液及び血清を体外で治療するための標準的なデバイスを備えていてもよい。
体外循環では、医療機器に接触している血液の局所的な血流パターンが、剪断の活性化を介した血栓形成と停滞域での血小板の凝集に影響することが知られている。従って、本発明の様々な態様で使用するデバイスは、これらの問題を生じない方法で設計しなければならない。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態で使用するデバイスは例えば、以下の特性を有していてもよい。
血流速が150〜2000ml/分の範囲であるか、線流速で測定した場合には8cm/分以上である。
低い流れ抵抗。
基体の表面積が広く、例えば約0.1〜1mであり、その表面には炭水化物を固定化される。
安定なコーティング(コーティングに接触した血液中に、臨床上有意な炭水化物の漏出が起こらない)。
デバイス中での妥当な血行動態特性(停滞域以外)。
最適な生体適合性。
【0049】
本発明の使用又は方法で用いることができるそのようなデバイスの非限定的な例には、サイトカイン分子を除去するための、高流速に適応した体外血液ろ過装置である小児用血液透析器がある。そのようなデバイスの1つはExthera Medicalから入手可能である。血液又は血清の体外治療用のその他のモデル又は型のデバイス、例えばPrisma M10ヘモフィルター/ダイアライザー(Gambro AB、スウェーデン)もまた使用することができる。
【0050】
高流量条件とは、拡散限界を超える血流と定義することができる。
5.サイトカイン
本明細書で使用する場合、用語「サイトカイン」は、インターロイキン、インターフェロン、ケモカイン及び腫瘍壊死因子からなる群より選択される、例えば微生物の感染又は免疫化に関連して放出されるタンパク質を意味する。サイトカインの例としては、血管細胞接着分子(VCAM)、抗トロンビン、RANTES(Regulated on Activation Normal T Expressed and Secreted protein)、インターフェロン、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、腫瘍壊死因子β(TNF−β)、インターロイキン−1(IL−1)、IL−8、GRO−α及びインターロイキン−6(IL−6)が挙げられる。
【0051】
この方法は、ヘパリン結合分子の強い吸着による、血液からのサイトカインの選択的な除去もまた提供する。いくつかの分子は、他の分子よりもヘパリンへの結合親和性が高い。例えば、TNF−αはヘパリンへの高い親和性をもつ。
【0052】
6.病原体
本発明のさらなる側面は、哺乳類の血液を上記方法で開示した中実基体に接触させて、サイトカイン及び/又は病原体を哺乳類の血液から除去することにより、疾患を治療する方法を提供する。本発明のヘパリン化基体を用いて血液から除去することができる病原体の例としては、以下のものが挙げられる。
ウイルス-アデノウイルス、コロナウイルス、デングウイルス、B型肝炎、C型肝炎、HIV、HPVサイトメガロウイルスなど、
細菌-炭疽菌(Bacillus anthracis)、クラミジア肺炎病原体(Chlamydia pneumoniaem)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、MRSA、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyrogenes)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)など、
寄生虫-ランブル鞭毛虫(Giardia lambitia)、マラリア原虫(plasmodium spp.)など。
Chen, Y. Gotte M., Liu J., and Park P.W., Mol. Cells, 26, 415-426もまた参照のこと。
【0053】
本発明に従って治療する疾患の一例には、敗血症がある。一般的に敗血症は、臓器不全、そしてしばしば死をもたらす、感染に対する全身性反応であると考えられている。この症状は、細菌、ウイルス、寄生虫、又は真菌感染によって引き起こされる場合がある。患者が既に免疫不全である可能性のある病院では、この症状が特に危険であることが知られている。敗血症の間、患者はいわゆるサイトカインストームを経験し、そして体の免疫系が健康な組織を攻撃し、それにより、組織血流がよく潅流している器官での多機能不全が引き起こされる。TNF−α及びその他の炎症性分子を減少させると免疫反応が変化するため、臓器保存の方策として作用する可能性がある。加えて、血液中の、ヘパリンに結合したいずれの病原体をも除去することができるため、さらなる定着の減少を助け、かつ感染治療に必要な抗生物質の量を減少させることができる。このことは、抗生物質治療と関連する副作用のリスクを減少させることにより、患者の安全性を向上させる。
【0054】
本発明の方法を、抗生物質の投与のようなその他の標準的な治療の前又は後のいずれにも実施することができる。
7.本発明と別のろ過/分離工程の併用
本発明の治療方法のある態様では、血液の採取と再導入を、対象の血液の一部分を含む切れ目のないループを用いて行ってもよい。
【0055】
さらなる側面では、上述した方法を、哺乳類の血液をろ過する又は治療するその他の方法と組み合わせても良い。例えば、対流力学に基づくカートリッジを、CPB、血液透析、及び酸素添加のような、一連の標準的な体外回路の中で使用することができる。
【実施例】
【0056】
8.実施例
本発明の様々な側面を、以下の実施例でさらに記載する。これらの実施例は制限することを意図していない。例えば本実施例ではヘパリンが用いられているが、その他の炭水化物及び多糖吸着剤を単独で、又は以下で例示したヘパリンでコーティングした基体と共に使用してもよい。
【0057】
8.1.実施例1
ヘパリンカラムの調製
平均直径が0.3mmのポリエチレン(PE)ビーズ(ロット番号:180153)をPolymer Technology Group(バークリー、米国)から、カラム(Mobicol、1mL)をMoBiTec(ドイツ)から入手した。ヘパリン及びポリエチレンイミン(PEI)をそれぞれ、Scientific Protein Laboratories(ワナキー、ウィスコンシン、米国)及びBASF(ルードヴィヒスハーフェン、ドイツ)から購入した。使用した化合物は全て、分析グレード又はそれ以上の等級のものである。
【0058】
Larmら(Larm O, Larsson R, Olsson P. A new non-thrombogenic surface prepared by selective covalent binding of heparin via a modified reducing terminal residue. Biomater Med Devices Artif Organs 1983; 11: 161-173)によって記載された方法により、ヘパリンをビーズに固定した。
【0059】
以下に記載した一般的な方法により、重合体表面をヘパリン化した。
いくつかの反応性官能基(−SOH、−OH、−C=O、−C=C-−)を用いて重合体表面に親水性を導入するために、酸化剤(過マンガン酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム)を用いて重合体表面をエッチングした。表面をプラズマ又はコロナ放電を用いてエッチングすることもできる。例えば、酸化剤を用いてPEビーズをエッチングする(過マンガン酸カリウムの硫酸溶液)。これらの親水性ビーズ、とりわけOH基と二重結合を含むビーズはこれ以降、対照として用いる。
【0060】
ポリアミン、ポリエチレンイミン(PEI)又はキトサンを用いた処理により、反応性アミノ官能基を導入する。いくつかの目的のためには、クロトンアルデヒド又はグルタルアルデヒドなどの二官能性物質を用いた架橋により、表面上にポリアミンを固定してもよい。
【0061】
硫酸化多糖(硫酸デキストラン又はヘパリン)を用いたイオン架橋により、コーティングをさらに安定化させる。必要であればこれらの工程を繰り返して、サンドイッチ構造を構築する。各工程間では、注意深くすすぐ必要がある(水、好適な緩衝液)。PEI又はキトサンの最後の添加を行った後、天然ヘパリンの還元末端残基のアルデヒド基を用いた還元的アミノ化により、天然ヘパリンをアミノ化した表面に末端結合(EPA)させる。
【0062】
ヘパリンの部分的な亜硝酸分解により、より多くの反応性のアルデヒド基を含む還元末端残基にすることができる。これにより反応時間が短縮されるが、固定化したヘパリンの分子量は小さくなる。このカップリングは還元的アミノ化(シアノ水素化ホウ素、CNBH)により、水溶液中で行われる。
【0063】
この代替法では、アミノ化媒体を酢酸緩衝液(800ml、0.1M、pH4.0)に懸濁し、その後4.0gの亜硝酸分解したヘパリン(Pharmacia、スウェーデンから入手したヘパリン)を添加した。30分間撹拌した後、NaBHCN(0.4g)を添加した。反応混合物を24時間撹拌し、その後上述したように処理してヘパリン化媒体を得た。
【0064】
1〜10μg/cmのヘパリンを、ガラス、セルロース、キチンなどの親水性表面、及びポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、PTFEなどのほとんど全ての疎水性重合体にカップリングさせることができる。
【0065】
得られた、ヘパリンが末端で共有結合したPEビーズをエチレンオキシド(ETO)で滅菌し、そして0.9%塩化ナトリウム及び超純粋ですすいだ。MBTH方法によって結合させたヘパリンの量が、ビーズ1グラム当たり2.0mgであることを確認した(Larm O, Larsson R, Olsson P. A new non-thrombogenic surface prepared by selective covalent binding of heparin via a modified reducing terminal residue. Biomater Med Devices Artif Organs 1983; 11: 161-173 及び Riesenfeld J, Roden L. Quantitative analysis of N-sulfated, N-acetylated, and unsubstituted glucosamine amino groups in heparin and related polysaccharides. Anal Biochem 1990; 188: 383-389)。
【0066】
用いたポリエチレンビーズの直径の平均は0.3mmであり、末端を介した共有結合によってヘパリン分子がその表面に結合すること保障する技術により、ヘパリン化されている。それにより、ヘパリン/ヘパラン硫酸に親和性をもつタンパク質が炭水化物鎖に接近しやすくなる。固定化したヘパリンの分子量の平均は約8kDaであり、ビーズ1グラム当たり、2mg(およそ360IUと等しい)のヘパリンが結合した。血液を非ヘパリン化ビーズではなくヘパリン化したビーズに流した場合の、アンチトロンビン(AT)の予測除去濃度が75%であることにより、この表面の完全性を確認した。
【0067】
これらのデータは、Bindslevらによって出版された、敗血症患者に表面をヘパリン化した人工肺を用いた体外式肺補助(ECLA)を使用した場合のこれまでの観察とよく一致する(Bindslev L, Eklund J, Norlander O, Swedenborg J, et al. Treatment of acute respiratory failure by extracorporeal carbon dioxide elimination performed with a surface heparinized artificial lung. Anesthesiology 1987; 67: 117-120)。
【0068】
8.2.実施例2
患者
研究計画はカロリンスカ大学病院(Karolinska University Hospital)の地域倫理委員会により認可され、そして署名したインフォームドコンセントをそれぞれの患者から得た。3人の敗血症患者(発熱>38°C、悪寒、白血球>12×10細胞/L)の血液透析器から動脈血を採取した(2M/1F、43、56及び68才;表1)。
【0069】
【表1】

【0070】
患者には予め、多様な抗生物質(セフタジジム又はセフロキシムをアミノグリコシドと併用して;各1用量)とヘパリン(透析開始時に体重1kg当たり200IU)を投与する。血液をEDTA入りの真空採血管を用いて採取し、直後に隣接部に移し、そこで1mLを予め調製しておいたカラムに注入して、ローラーポンプを用いて1.5及び10mL/分のいずれかの流速で通した。カラムを通過した血液を、すぐに出口から回収し、低温で遠心分離した(4500G)。続いて上清を回収し、後日行う解析用に−80℃で凍結した。
【0071】
8.3.実施例3
サイトカインの定量分析
サイトカイン量を、発光法によりプレートリーダー(Multiskan Ascent)を用いて決定した。各試料を3つのウェルに入れてそれぞれを測定し、その幾何平均を解析に用いた。各分析間の変動係数は、全てのキットについて8%より低かった。Coamatic antithrombin kit(Haemochrom、カタログ番号8211991)、Quantikine Human IL-6(R&D Systems、カタログ番号D6050)、Quantikine Human IL-10(R&D Systems、カタログ番号D1000B)、Protein C Antigen Test 96(HL Scandinavia AB、製品番号 H5285)、Human CCL5/RANTES Quantikine(R&D Systems、カタログ番号 DRN00B)、Quantikine Human sVCAM-1(CD106)(R&D Systems、カタログ番号DVC00)、Quantikine Human IFN-gamma(R&D Systems、カタログ番号DIF50)、Quantikine HS TNF-alpha/TNFSF1A(R&D Systems、カタログ番号HSTA00D)及びBD OptEIA Human C5a ELISA Kit II(BD Biosciences、カタログ番号 557965)を使用した。
【0072】
統計的評価
両側p値が0.05より小さい場合に有意である、対のあるクラスカル・ワリス検定を用いて、カラムを通す前後の各サイトカイン濃度を比較した。結果を表2にまとめる。
【0073】
【表2】

【0074】
サイトカインの結合
分析したサイトカインのカラム前後の濃度を表2及び図1に示す。簡単に説明すると、非ヘパリン化ビーズを用いた場合と比較して、ヘパリン化ビーズに血液を通すと、血液VCAM及びTNFが非常に大きく減少した。
【0075】
ビーズ容積の効果
血液とビーズ容積の比を1:1又は1:10にして得たデータに有意な差は見られなかった(表2)。
【0076】
流速の効果
血液の流速を1ml/分から10ml/分までに変化させても、それぞれで除去される代表的なサイトカインの量に有意な変化は見られなかった。このことは、観察された固定化したヘパリン分子への結合が非常に迅速に起こる事象であること、及び拡散力学には依存しないことをはっきりと示している。
【0077】
8.4.実施例4
この実施例では、臨床で用いられる大きさのカートリッジを使用して、組換えTNF−αを添加しておいた乏血小板血漿5リットルについて試験した。実施例1で記載したように、PEビーズを300mlのカートリッジに充填した。デバイスを、ETOを用い、温度50℃、16時間の工程により滅菌した。試験開始前にさらに12時間かけて、装置から「ガスの排出」を行った。
【0078】
5.1Lの、凍結、未ろ過、ブタヘパリン化乏血小板血漿を、Innovative Researchから購入し、使用するまで−20℃の冷凍庫で保存した。1mg、粉末状の組換えヒト腫瘍壊死因子−αをInvitrogenから入手した。
【0079】
試験日当日の朝、血漿を−20℃の冷凍庫から取り出し、温かい水浴中に放置して融解させた。1mgの粉末状TNF−αを1mlの滅菌水と混合して1mg/mlの濃度に再構成した。
【0080】
フレゼニウス社の2008K透析器と「一式の」透析用血液回路(フレゼニウスの製品で標準的に用いられている回路)を、フレゼニウスの人工腎臓の代わりにセラフ(seraph)血液ろ過器を配置した閉鎖系中に配置した。患者の動静脈ラインに繋いだ5Lの貯蔵バッグに5Lの血漿を移した。透析器と回路を準備し、生理食塩水を用いて機能が適正であること、及び循環回路中に空気が入っていないことを確認した。
【0081】
血漿が入った5Lのバッグを板状の固定台に置き、処置中の温度を維持するためにBair Hugger保温ブランケットで周囲を覆った。この時点で注入前の対照試料を採取し、液体窒素中で直ちに凍結させた。試料をその後、試料保管箱に移動し、ドライアイス上に置いた。全てのつなぎ目を確認した後、0.415mlのTNF−αを貯蔵バッグのポートから注入した。血漿とTNF−αを固定台上で10分間混合させてから、注入後の対照試料を回収した。注入後の対照試料を回収し、液体窒素中で直ちに凍結させ、その後試料をドライアイス上に置いた試料保管箱に移動した。透析システムを生理食塩水で洗浄し、血漿が閉鎖系を通過した時にシステムに備えられたタイマーをスタートさせた。最初の試料を5分後に、フィルターの上流から回収した。
【0082】
試験の最初の1時間は、血液ろ過器のすぐ上流及びすぐ下流のポートから、5分おきに試料を回収した。試料を液体窒素中で直ちに凍結させ、ドライアイス上に置いた試料保管箱に入れた。
【0083】
試験の2〜3時間目は、血液ろ過器のすぐ上流及びすぐ下流のポートから、10分おきに試料を回収した。試料を液体窒素中で直ちに凍結させ、ドライアイス上に置いた試料保管箱に入れた。
【0084】
4〜5時間目は、血液ろ過器の上流及び下流両方のポートから、20分おきに試料を回収した。これらの試料もまた液体窒素中で直ちに凍結させ、ドライアイス上に置いた試料保管箱に入れた。
【0085】
各回の試料採取に当たっては、残ったTNF−αが混入するのを避けるため、各時点での上流及び下流で新しい針と新しいシリンジを用いた。
血漿中のTNF−α含量をモニターするために、ELISAを行った。10μLの補足抗体を10μLのコーティング用緩衝液Aで希釈し、各ウェルに100μLを入れて、96ウェルプレートをコーティングした。プレートをパラフィルムで覆い、一晩又は週末中ずっと4℃で保存した。試料を−80℃の冷凍庫から取り出し、記録をつけ、そして融解した。プレートを4℃の冷蔵庫から取り出し、ウェルを吸引し、400μL/ウェルのアッセイ緩衝液で一度洗浄し、その後、吸水用のペーパータオル上に逆さまにして液をきった。300μLのアッセイ緩衝液を各ウェルに添加し、プレートを60分間インキュベートした。この間に、CytoSetに含まれていたTNF−αの標準物質をアッセイ緩衝液で希釈することにより、標準試料を調製した。融解した試料をアッセイ緩衝液で希釈した。試料を一旦希釈してから、それらを記録に沿って凍結保存用の箱の正しい位置に入れ直し、−80℃の冷凍庫に戻した。プレートを400μL/ウェルのアッセイ緩衝液で再度洗浄し、逆さまにして液をきった。100μLを、ELISA試料の一覧表に従ってウェルに入れた。試料及び標準試料をそれぞれ2つのウェルに入れて試験を行い、検量線用の試料も各プレートに加えた。8.8μLの検出抗体を5.49mLアッセイ緩衝液で希釈し、50μLを、全ての試料及び標準試料を加えたらできる限り早く加えた。プレートを2時間、室温、回転振とう機上でインキュベートした。プレートを上述した方法で5回洗浄し、吸引した。ストレプトアビジン結合体(16μL)を10mLのアッセイ緩衝液で希釈し、100mLを各ウェルに添加した。プレートを30分間、室温、回転振とう機上でインキュベートし、その後アッセイ緩衝液を用いて上述したように5回洗浄した。100μLのTMB溶液を各ウェルに添加し、プレートをさらに30分、回転振とう機上でインキュベートした。100μLの停止液を各ウェルに添加し、停止液を加えて30分以内に、Vmaxプレートリーダーを用いてプレートを450nmで測定した。
【0086】
試験結果を図1にプロットした。TNFに富む血清を継続して循環させた40分以内に、それに続く放出なしに、TNFが80%減少したことが観察された。理想的な混合により、血漿中の全TNFが33分間で吸着カラムを通過した。この時点でTNFの大部分が捕捉されたことにより、対流力学に基づく吸着によるTNF−αの除去が示された。
【0087】
8.5.実施例5
TNF−αのヘパリン化表面に対する非競合的結合能を正規化するために、水晶振動子マイクロバランス(QCM)実験を行った。QCMは、特別に調製した水晶上の吸着剤の重量を検出することができる技術である。検出下限は0.5ng/cmである。QCMは水晶の共振周波数を検出する。吸着によって水晶の質量が増加することにより、質量の増加に比例して、共振周波数が変化する。質量の変化(Δm)は、以下の式によって表される。
【0088】
【数1】

【0089】
式中、Δfは周波数の変化である。
実施例1で記載した方法により、ポリスチレンでコーティングしたQCM水晶をヘパリン化した。組換えTNF−αを最終濃度が83μg/LになるようにPBSに加えて120mlの溶液を調製した。次にこの溶液を、4個のQCM水晶を含むセルに、50μl/分の速度で通した。水晶の内の2つはヘパリン化されたもので、残りの2つが対照であった(未処理ポリスチレン)。実験にかかった合計時間は20時間であった。ヘパリン化水晶及び対照水晶に吸収されたTNF−α量の結果を図2に示す。最大1234ng/cmのTNF−αがヘパリン化水晶に吸収され、対照表面には僅かしか吸着されなかった。
【0090】
8.6.実施例6
ヘパリン化ビーズを用いて、炭疽菌(Bacillus anthracis)を感染させたマカク猿から採取した血漿から、サイトカインを除去する試験を行った。数匹の動物が死んだ時点で血漿を採取して蓄えた。1mlのシリンジフィルターを、実施例1で概要を示した方法によりヘパリン化したPEビーズ0.5グラム又は対照用の未処理PEビーズ0.5グラムのいずれかで充填した。合計で、試料用のシリンジ3個、及び対照用のシリンジ3個を用いた。生理食塩水又は血漿をシリンジフィルターに加えた時にビーズが浮き上がらないよう、ビーズ上部に多孔性の板を配置した。2mlのトリス緩衝食塩水(TBS)を用いてシリンジフィルターを準備した。2mlの生理食塩水を、5mlのシリンジを用いて通した。その後、5mlシリンジのプランジャーを引き戻し、4mlの空気で満たした。この空気をシリンジフィルターに通して、残った生理食塩水をビーズから押し出した。次に0.5mlの血漿を5mlシリンジで吸引し、加圧してシリンジフィルターに通した。さらに4mlの空気をシリンジフィルターに通して、残った血漿を全て除去した。血漿をシリンジから排出した後、一部を採取して、サイトカイン濃度解析用に直ちに凍結させた。Luminex(登録商標)Multiplexアッセイを用いて、GRO−α、IL−8、MIP−1β、ランテス(Rantes)、及びTNF−βについて試験した。結果を表3にまとめた。
【0091】
【表3】

【0092】
8.7.実施例7
層状に組み立てた、サイトカイン及び内毒素結合用カートリッジ。
2種類の異なる吸着媒体を用いてカートリッジを構築する。サイトカインを捕捉するためにヘパリン化ビーズを、そして内毒素を捕捉するためにPEIビーズを使用する。ヘパリン化ビーズとPEIビーズの割合を制御することにより、血液適合性を維持することができる。PEIビーズを、実施例1の最初の2工程に従って作成する。
【0093】
この実施例では、ヘパリン化ビーズとポリエチレンイミン(PEI)でコーティングしたビーズを用いてカートリッジを構築する。300mlの吸着カラムを縦型のカラムスタンドに固定する。次に、平均直径が300ミクロンのヘパリン化ビーズ50mlをカートリッジに加えて、底に沈むまで待つ。次の200mlとして、50:50の割合で混合したPEIビーズとヘパリン化ビーズを次に加える。その後、最後50mlのヘパリン化ビーズで、カートリッジ上部までを充填する。そしてカートリッジを密閉する。密に充填することにより、吸着媒体の層状構造を維持する。このカートリッジでは、ビーズの2/3がヘパリン化されており、1/3がアミノ化されているため、本質的に血栓形成性である。
【0094】
8.8.実施例8
均質に混合したビーズを用いた、サイトカイン及び内毒素結合用カートリッジ。
2種類の異なる吸着媒体を用いてカートリッジを構築する。サイトカインを捕捉するためにヘパリン化ビーズを、そして内毒素を捕捉するためにPEIビーズを使用する。ヘパリン化ビーズとPEIビーズの割合を制御することにより、デバイスの全体的な血液適合性を維持することができる。
【0095】
この実施例では、ヘパリン化ビーズとPEIでコーティングしたビーズを用いてカートリッジを構築する。300mlの吸着カラムを縦型のカラムスタンドに固定する。PEIでコーティングしたビーズ100mlをヘパリン化ビーズ200mlに加えて、完全に混合する。その後、この300mlのビーズをカートリッジに添加して密閉する。密に充填することにより、ビーズのランダムな混合が維持される。このカートリッジでは、ビーズの2/3がヘパリン化されており、1/3がアミノ化されている。
【0096】
8.9.実施例9
層状に組み立てた、サイトカイン、グラム陰性細菌、及び内毒素結合用カートリッジ。
3種類の異なる吸着媒体を用いてカートリッジを構築する。サイトカインを捕捉するためにヘパリン化ビーズを、グラム陰性細菌を捕捉するためにマンノース機能性ビーズを、そして内毒素を捕捉するためにPEIビーズを使用する。ヘパリン化ビーズ、マンノース機能性ビーズ、及びPEIビーズの割合を制御することにより、血液適合性を維持することができる。
【0097】
300mlの吸着カラムを縦型のカラムスタンドに固定する。次に、平均直径が300ミクロンのヘパリン化ビーズ50mlをカートリッジに加えて、底に沈むまで待つ。次に、ヘパリン化ビーズ、PEIビーズ、及びマンノース機能性ビーズを等量混合したビーズ200mlをカートリッジに加える。その後、最後50mlのヘパリン化ビーズで、カートリッジ上部までを充填する。そしてカートリッジを密閉する。密に充填することにより、吸着媒体の層状構造を維持する。このカートリッジでは、ビーズの55.6%がヘパリン化ビーズ、22.2%がPEIビーズ、そして22.2%がマンノース機能性ビーズである。
【0098】
本発明の実施形態を以下の請求項においてさらに記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液から少なくとも1種のサイトカイン又は病原体を除去する方法であって、大表面積の中実基体に、血液又は血清の試料を、吸着媒体を通過する8cm/分以上の線流速で流して通過させる工程を含み、該中実基体の表面は、当該サイトカイン又は病原体に結合親和性をもつ1種以上の多糖吸着剤を含み、該血液中の吸着質が、それらを該血液若しくは血清から分離する吸着の前に該基体の細孔を通過、又は挿入した障壁膜を通過する必要がないように、該基体が十分に非多孔質であり、かつ該基体の個々の部分の間の間隙流路の空間の大きさと、間隙基体表面積の広さは、該吸着剤に結合するサイトカイン又は病原体の大部分が、表面に結合している吸着剤上への対流輸送により該吸着剤に結合するようになっている、方法。
【請求項2】
該基体が、非多孔質の硬質ビーズ若しくは粒子で充填したカラム、硬質網状発泡体で充填したカラム、内部流路をもつ焼結ビーズ若しくはその他の焼結固体媒体の硬質一体型床で充填したカラム、硬質の織物若しくは不織布で充填したカラム、硬質糸で若しくは中空であってよい単繊維で充填したカラム、螺旋状のカートリッジ、又はビーズ、硬質網状発泡体、焼結ビーズ、布、糸及び単繊維から成る群より選択される少なくとも2つのメンバーの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該中実基体が、1種以上の多糖類でコーティングされたポリエチレンビーズを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多糖類のうちの少なくとも1種が、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、サリチル酸、マンノース配列を有する炭水化物、及びキトサンから成る群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
血液から少なくとも1種のサイトカイン又は病原体を除去する方法であって、血液の試料を、容器に入れた硬質ポリエチレンビーズに接触させて8cm/分以上の線流速で流す工程を含み、該ビーズの表面は当該サイトカイン又は病原体への結合親和性をもつ1種以上の多糖類吸着剤を含み、該ビーズは、血液が該基体中の細孔を通過しないように十分に硬質であり、かつ、個々のビーズの間の間隙流路の空間の大きさと、該ビーズの間隙表面積の広さは、該血液が8cm/分以上の線流速で該基体に流動接触した場合に、該サイトカイン又は病原体が該1種以上の多糖吸着剤に結合して該血液から分離し、該基体を通過する該血液の流動輸送がブラウン拡散輸送法よりも対流輸送によるようになっている、方法。
【請求項6】
血液又は血清の、該吸着媒体を通過する線流速が約24〜329cm/分の範囲である、請求項1−5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該ビーズがポリエチレン重合体を含む、請求項2−6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該ビーズの直径が100〜450ミクロンの範囲である、請求項2−7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該ビーズの直径の平均が0.3mmである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該ビーズが、ビーズ1グラム当たり0.27〜10mgのヘパリンでコーティングされている、請求項2−9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
該ビーズが、ビーズ1グラム当たり2±0.5mgのヘパリンでコーティングされている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該ヘパリンの表面濃度が、基体1cm当たり1〜37μgである、請求項2−9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該ビーズが、1cm当たり7.4±0.5μgのヘパリンでコーティングされている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該ヘパリンの平均分子量が約8kDaである、請求項1−13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
該ヘパリンが、末端での共有結合によって該ビーズに結合している、請求項1−14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
該サイトカインがIL−6、VCAM、TNF、GRO−α、IL−8、及びランテスから成る群より選択される、請求項1−15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
疾患の治療を、そのような治療を必要としている哺乳類においてする方法であって、
a)哺乳類からの血液試料を、容器に入れた硬質ポリエチレンビーズを含む中実な基体に少なくとも約24cm/分の線流速で流動接触させる工程、
b)該血液を該中実基体から分離する工程;及び
c)該血液を哺乳類に投与する工程を含み、
該ビーズの表面はサイトカイン又は病原体への結合親和性をもつ1種以上の多糖類吸着剤を含み、該ビーズは、血液が該基体中の細孔を通過しないように十分に硬質であり、かつ、個々のビーズの間の間隙流路の空間の大きさと、該ビーズの間隙表面積の広さは、該血液が少なくとも約24cm/分の線流速で該基体に流動接触した場合に、サイトカイン又は病原体が該1種以上の多糖吸着剤に結合して該血液から分離し、該基体を通過する該血液の流動輸送がブラウン拡散輸送法よりも対流輸送によるようになっている、哺乳類の疾患を治療する方法。
【請求項18】
前記多糖類のうちの少なくとも1種が、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、サリチル酸、マンノース配列を有する炭水化物、及びキトサンから成る群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該疾患が敗血症である、請求項17又は18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
該疾患が、IBD又はクローン病のような自己免疫疾患である、請求項17又は18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
該病状が重篤な熱傷である、請求項17又は18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
該血液を同じ哺乳類から採取して戻す、請求項17、18、19又は20に記載の方法。
【請求項23】
サイトカイン又は病原体を除去するための前記方法を、前記血液に対する少なくとも1つの他の体外血液治療と組み合わせて行う、請求項1−22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
該少なくとも1つの他の血液の体外治療が、心肺バイパス(CPB)、血液透析、及び酸素添加から成る群より選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
血液から少なくとも1種のサイトカイン又は病原体を除去するためのデバイスであって、容器に入れた中実基体を含み、ここで該中実基体はその表面に該サイトカイン又は病原体への結合親和性をもつ1種以上の多糖吸着剤を有し、該基体は、血液が該基体中の細孔を通過しないように十分に硬質であり、かつ、該基体の個々の部分の間の間隙流路の空間の大きさと、間隙基体表面積の広さは、血液が、該デバイスを通過する少なくとも約24cm/分の線流速で該基体に流動接触した場合に、該サイトカイン又は病原体を該1種以上の多糖吸着剤に結合して該血液から分離し、該基体を通過する該血液の流動輸送がブラウン拡散輸送法よりも対流輸送によるようになっている、デバイス。
【請求項26】
血液から少なくとも1種のサイトカイン又は病原体を除去するためのデバイスであって、容器に入れた複数の硬質ポリエチレンビーズを含み、該ビーズの表面は、該サイトカイン又は病原体への結合親和性をもつ1種以上の多糖類吸着剤を含み、該ビーズは、血液が該基体中の細孔を通過しないように十分に硬質であり、かつ、個々のビーズの間の間隙流路の空間の大きさと、該ビーズの間隙表面積の広さは、該血液が少なくとも約24cm/分の線流速で該基体に流動接触した場合に該サイトカイン又は病原体が該1種以上の多糖吸着剤に結合して該血液から分離し、かつ、該基体を通過する該血液の流動輸送がブラウン拡散法よりも対流輸送によるようになっている、デバイス。
【請求項27】
前記多糖類のうちの少なくとも1種が、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、サリチル酸、マンノース配列を有する炭水化物、及びキトサンから成る群より選択される、請求項25又は26に記載のデバイス。
【請求項28】
線流速が約24〜328cm/分の範囲である、請求項25又は26に記載のデバイス。
【請求項29】
該ビーズがポリエチレン重合体を含む、請求項28に記載のデバイス。
【請求項30】
該ビーズの直径が100〜450ミクロンの範囲である、請求項25−29のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項31】
該ビーズの直径の平均が0.3mmである、請求項30に記載のデバイス。
【請求項32】
該ビーズが、ビーズ1グラム当たり0.5〜10mgのヘパリンでコーティングされている、請求項25−31のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項33】
該ビーズが、ビーズ1グラム当たり2±0.5mgのヘパリンでコーティングされている、請求項32に記載のデバイス。
【請求項34】
該ヘパリンの平均分子量が約8kDaである、請求項25−33のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項35】
該ヘパリンが、末端での共有結合によって該ビーズに結合している、請求項25−34のいずれか1項に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−512078(P2013−512078A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542164(P2012−542164)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/058596
【国際公開番号】WO2011/068897
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(509347181)エクステラ・メディカル・エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】