説明

表面増強ラマン分光分析用治具及びその製造方法

【課題】 サンプリングを兼ねて簡易且つ効率良く採取し、更に、強度が微弱なラマン散乱光も感度良く測定できるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 試料を採取しレーザー光を照射して表面増強ラマン分光分析を行うためのマイクロマニピュレータからなる表面増強ラマン分光分析用治具であって、
該マイクロマニピュレータは、試料を採取するための針状のサンプリングニードルを有し、該サンプリングニードルは、先端部に複数の突起が近接して配列し、かつ該突起の表面が金属膜で被覆されてなることを特徴とする表面増強ラマン分光分析用治具及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小試料を採取し分析するサンプリングニードルを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品製造においては、製造工程、各工程間の搬送もしくは放置、製品の試験評価の間に微小な異物が混入したり、生成したりすることで製品の不良品が生じることがある。このような異物は、製造装置の駆動部から生成するもの、人体発塵、加熱やプロセスガス等による反応生成物等である。異物の混入及び生成を防ぐ対策としては、従来、TFT液晶を構成する基板やインクを吐出したインクジェットヘッド等に付着したり生成したりする異物を採取する。続いて、その組成及び結晶構造等を分析した上で、その結果を元にして異物発生源を探っていくことである。基板上に付着されたり生成されたりする微小異物を採取する方法としては、従来、基板上に付着した微小異物を二本のサンプリングニードルつまり微小針を使って採取するというマイクロマニピュレータ(μマニピュレータ)装置が知られている(例えは、特許文献1参照)。この装置では、微小針先端への微小試料の付着は微小試料の持つ自然な静電気力及び粘着力で行われているので、これを利用して微小試料を採取することができる。更に、微小試料を採取し、次々と採取した微小試料を一箇所に採集してから赤外線吸収やラマン散乱等の分析を行うことができる。
【0003】
また、ラマン散乱についてであるが、試料にレーザー光を照射させると、元の入射光と同一振動数のレーリー散乱光の他に、元の入射光とは異なる振動数のラマン散乱光も測定試料から放出される。ラマン散乱光を分析するラマン分光分析法は、分子や結晶の構造や結合状態等を知るのに有効な手段方法である。
【0004】
しかし、有機物等の試料はレーザー光により損傷を受け易い場合もあるので、このような試料に対してレーザー強度を最小限に抑えて測定する必要がある。ラマン散乱光の強度は微弱なので、試料が薄膜である場合や測定個所が微小である場合等にはラマンスペクトルを取得するのが困難という場合もある。試料に損傷を与えない程度の強さのレーザー光を照射しても、強度が微弱なラマン散乱光を感度良く検出するための技術が必要である(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記の技術の一例として、表面増強ラマン散乱(SERS)(例えば、非特許文献1参照)が挙げられる。SERSとは、銀、金及び銅等の貴金属の金属膜(島状や微粒子等)を形成した基板上に堆積させた単分子層もしくは数分子層以上の試料のラマン散乱光が、金属膜を形成しない場合に比べて10〜10倍もラマン散乱光強度が増大される現象である。ただし、先述した金属膜は表面を粗くする必要もある。例えばμmサイズを有するSiやAg粒子、CaF等を下地膜として形成する。更にこの下地膜上に金属膜を形成すると、この金属膜の表面の粗さは増してくるため、SERSが更に感度良く観測される(例えば、非特許文献2〜3参照)。また、試料の表面上に金属膜を堆積させた場合でもSERS現象が見られる。
【特許文献1】特開平5−208387号公報
【特許文献2】特開2003−98090号公報
【非特許文献1】Chem.Phys.Lett.Vol26,163頁、1974年
【非特許文献2】J.Phys.Chem.1985,89,5174−5178頁、1985年
【非特許文献3】Solid State Communications,Vol.55,No.12,1085−1088頁、1985年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の二本の微小針を用いて採取する方法では、平らかな表面上の微小異物や自然な静電気力及び粘着性を有する微小試料を採取できるが、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を採取するのが困難である。また、このために分光分析できるほどの大きさまで採取できず、試料に損傷を与えない程度の強度が弱いレーザー光を照射してラマン分光分析を行うのも困難であった。
【0007】
よって、本発明の目的は、上記の従来技術の課題を解決し、サンプリングを兼ねて簡易且つ効率良く採取し、更に、強度が微弱なラマン散乱光も感度良く測定できる表面増強ラマン分光分析用治具及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従って、試料を採取しレーザー光を照射して表面増強ラマン分光分析を行うためのマイクロマニピュレータからなる表面増強ラマン分光分析用治具であって、
該マイクロマニピュレータは、試料を採取するための針状のサンプリングニードルを有し、該サンプリングニードルは、先端部に複数の突起が近接して配列し、かつ該突起の表面が金属膜で被覆されてなることを特徴とする表面増強ラマン分光分析用治具が提供される。
【0009】
また、本発明に従って、試料を採取しレーザー光を照射して表面増強ラマン分光分析を行うためのマイクロマニピュレータからなる表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法であって、
針状のサンプリングニードルを電極とし、亜鉛イオンを含有する電解液で電解めっきを行うことにより、該サンプリングニードルの先端部に複数の突起を近接して成長させる工程と、
該突起の表面に金属膜を形成する工程と
を有することを特徴とする表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等をサンプリングを兼ねて簡易且つ効率良く採取でき、前記試料に損傷を与えない程度の強さのレーザー光を照射しても、強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定することができる。
【0011】
また、本発明により、前記微小試料をサンプリングを兼ねて簡易且つ効率良く採取でき、試料に損傷を与えない程度の強さのレーザー光を照射しても、強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定できる表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について図を用いて詳しく説明する。
【0013】
<本発明における表面増強ラマン分光分析用治具について>
本発明における突起が酸化亜鉛からなるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具の概略図の例を、図1(a)、(b)、(c)及び(d)に示す。表面増強ラマン分光分析用治具は、先端が尖っていた針状のサンプリングニードル11から成っており、その先端部分及び側面方向に複数の突起12が形成されている。
【0014】
図1(a)に示すように、サンプリングニードル11の先端部上に酸化亜鉛の突起12が形成され、更に酸化亜鉛の突起12の側面に銀や金等の金属膜13が形成されている。
【0015】
また、図1(b)に示すように、先端部上に酸化亜鉛の突起12が形成された後、前記酸化亜鉛の突起12の側面に微粒子14が付着され、更に前記微粒子14の上に島状、微粒子状又は膜状の金属膜13が形成されている。
【0016】
また、図1(c)に示すように、酸化亜鉛の突起12の側面に一本以上の小突起15が形成されており、更に前記突起12及び小突起15の表面上に金属膜13が形成されている。
【0017】
最後に、図1(d)に示すように、突起12の側面に一本以上の小突起15が形成された後、前記突起12及び小突起15の表面上に微粒子14が付着され、更に金属膜13も前記微粒子14上に形成されている。
【0018】
また、図1(b)、(d)における微粒子14は、金属又は半導体からなっており、各々の元素種類は何でもよく、前記微粒子14の粒径は1nm以上1μm以下であることが好ましい。
【0019】
また、図1(a)〜(d)における金属膜13とは、島状、微粒子状又は膜状の金属膜13(図4(a)、(b)及び(c))からなっており、その材料は銀、金、銅、プラチウム、パラジウム及びクロム等の貴金属であることが好ましい。島状の金属膜は図4(a)に示すように、不定形の島状の粒子から成っており、大きさは30nm以上300nm以下であることが好ましい。また、島状や図4(c)に示すような膜状の金属膜13は膜厚が1nm以上100nm以下であることが好ましい。図4(b)に示すような微粒子状の金属膜13は、銀や金等の貴金属微粒子から成っており、粒径は1nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0020】
また、サンプリングニードル11の材料としては、W、Co、Mo、Cr、Ti、V、Mg及びMn等の金属材料が好ましく、且つ微小試料をサンプリング・採取するのに耐えられる硬質材料が好ましい。また、サンプリングニードル11の先端は、半球面であることが好ましく、サンプリングニードル11の先端における曲率半径は0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。突起12は、サンプリングニードル11の先端部分の表面と垂直方向に形成されている方が好ましく、サンプリングニードル11側面と垂直方向に形成されているものが好ましい。また、突起12の軸方向とサンプリングニードル11の側面とのなす角は60°以上であることが好ましく、更には80°以上であることが好ましい。小突起15も同様に、突起12の側面と垂直方向に形成されている方が好ましい。また、小突起15の軸方向と突起12の側面とのなす角は60°以上であることが好ましく、更には80°以上であることが好ましい。また、一列以上に並んだ突起12(図3(c))等のように、所望通りの領域に突起12を形成させることもできる。
【0021】
また、突起12及び小突起15は、酸化亜鉛針状結晶から成っていることが好ましい。ここで針状結晶について述べる。針状結晶とは所謂ウィスカーであり、欠陥の無い針状単結晶もしくは螺旋転移等を含んだ針状結晶から成っている。また、針状結晶は円柱及び円錐、円錐で先端が尖っているものや先端が平坦なもの等を全て含む。更に、三角錐、四角錘、六角錘、それ以外の多角錘やその多角錘の先端が平坦なもの、また三角柱、四角柱、六角柱、それ以外の多角柱状、あるいは先端が尖った三角柱、四角柱、六角柱、それ以外の多角柱状やその先端が平坦なもの等も含まれ、更に、これらの折れ線状構造も含まれる。
【0022】
また、突起12及び小突起15となる生成された針状結晶のアスペクト比は2以上が好ましく、更に10以上であることが好ましく、針状結晶において最大直径を有する横切断面の重心を通る最小長さも1μm以下、更に500nm以下であることが好ましい。ここでいうアスペクト比とは、針状結晶の横切断面が円形又は円形に近い状態の形状の場合は直径に対する長さの比率をいい、針状結晶の横切断面が六角形等の角形の場合は切断面の重心を通る最小長さに対する突起高さの比率をいうものとする。
【0023】
また、本発明における表面増強ラマン分光分析用治具においては、各々の突起12の間隔距離は100nm以上2μm以下であることが好ましく、小突起15の間隔距離は1nm以上10μm以下であることが好ましい。ここでいう間隔距離とは、各々の突起及び小突起15の最大直径を有する横切断面の重心の間隔距離をいうものとする。また、突起12はサンプリングニードル11の先端から100μm以下の距離がある領域を有するニードル11の側面に生成された方が好ましい。また、小突起15は突起12の側面のどの領域にでも生成されてもよい。
【0024】
<本発明における表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法について>
本発明におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法については、一例として、酸化亜鉛針状結晶から成る突起12を電解めっきにより作製する方法を、図2を用いて詳細に説明する。以下、酸化亜鉛針状結晶を酸化亜鉛の突起12と称す。
【0025】
少なくとも亜鉛イオンが含まれている電解液25中において、電解めっきを行うことにより、径が細く高アスペクト比を有する酸化亜鉛の突起12を作製することができる。亜鉛を含有する塩として使用できる化合物としては、例えば硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛及び酢酸亜鉛等が挙げられる。電解質としてこれらの化合物の中から選んだ一種類の化合物でも、二種類以上の混合させた化合物でも用いることができる。酸化亜鉛の突起12を作製する条件としては、高アスペクト比を得るためにより低濃度が好まれ、1mmol/L〜0.05mol/L程度の範囲が適しており、更に1mmol/L〜0.01mol/L程度の範囲がより好ましい。また、電解溶媒としては、エタノール等の有機媒体、水、酸素等の気体を溶かした水等を用いるが、扱いの容易さから水が好ましい。
【0026】
本発明における酸化亜鉛の突起12を電解めっきにより作製する方法としては、3電極もしくは2電極を使用して、少なくとも亜鉛イオンが含有された電解液25にサンプリングニードル11の先端を浸して電位を印加することにより、酸化亜鉛の突起12を作製することができる。その作製装置の一例として3電極で電着を行う作製装置を図2に示した。参照極21、対極22及び作用極23をビーカー24中の電解液25に浸して電位を印加することにより、作用極23であるサンプリングニードル11の先端上に酸化亜鉛の突起12が成長する。この作製条件として、少なくとも亜鉛塩が含有された電解質及びその電解質濃度、イソプロピルアルコール(IPA)や水等の電解溶媒、電解電位値、電解液の温度、電解めっき時間、酸素等の活性気体濃度、電解液の対流条件等を変える他に、添加する界面活性剤の種類、添加量も変えればよい。例えば、硝酸亜鉛水溶液を採用して電解めっきを行う場合は、硝酸亜鉛濃度は1mmol/L以上10mmol/L以下、Ag/AgClの参照極21に対する作用極23の電位つまり電解電位は−0.9V以上−1.5V以下、電解液25の温度はマントルヒーター26等を用いて85℃以上90℃以下に設定するのが好ましい。
【0027】
また、小突起15の製造方法については、サンプリングニードル11を作用極23に用いて電解めっきにより酸化亜鉛の突起12を形成するだけでなく、自然と酸化亜鉛の突起12の側面側に一本以上の小突起15も形成することができる。また、前記電解液25に塩化カリウム等の界面活性剤を添加する等により酸化亜鉛の突起12の側面側に一本以上の小突起15を形成することもできる。小突起15の作製条件は、酸化亜鉛の突起12の作製条件及びサンプリングニードル11に関係しているので、先述した酸化亜鉛の突起12の作製条件より好適な条件を選び作製すればよい。
【0028】
また、酸化亜鉛微粒子14の作製方法として、例えば電解液25は0.1mol/L〜1.0mol/Lの硝酸亜鉛のIPA溶液を用いてこの電解液25を50〜70℃の範囲内に設定し、前記酸化亜鉛の突起12を作製したサンプリングニードル11を前記電解液25に浸して−3.0〜−7.0Vの電解電位を印加すればよい。
【0029】
また、酸化亜鉛以外の金属微粒子14、半導体微粒子14の作製方法として、レーザー加熱法、スパッタ法、ガス蒸着法又はコロイド法等により作製できるが、例えばガス蒸着法を用いて前記酸化亜鉛の突起12を作製したサンプリングニードル11上にアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で銀やアルミニウム等の金属やシリコン等の半導体を蒸着すればよい。
【0030】
また、本発明におけるサンプリングニードル11の所望通りの領域に突起12を作製する方法について、以下に詳細に説明する。ここでは、一例として酸化亜鉛の電解めっき、絶縁材料膜31であるマスクを形成したサンプリングニードル11を挙げる。ここでいうマスクとは、酸化亜鉛の電解めっきにより形成する酸化亜鉛の突起12を形成させないためのマスクである。
【0031】
図3に一列以上に並んだ酸化亜鉛の突起12の製造方法の一実施態様を示す工程図を示す。図3(a)に、絶縁材料膜31を形成したサンプリングニードル11の図を示す。絶縁材料膜31の製造方法は、スパッタ法、蒸着法、スプレー法及びスピンコート法等が色々とあるが、本発明においてはスパッタ法で膜厚300nmの酸化チタン膜を形成した。マスクに用いるものとしては、電解めっきの電位の印加でも突起12が形成されないほどの膜厚を有し、酸化物半導体やレジスト等の有機材料等の絶縁材料であればよい。絶縁材料膜31の膜厚は50nm以上1μm以下が好ましい。
【0032】
図3(b)に、絶縁材料膜31に一直線の凹構造32を形成したサンプリングニードル11の図を示す。例えば、電子線、X線、紫外線又は可視光線等のリソグラフィ、ウェットエッチング又はドライエッチング技術、もしくはFIB(収束イオンビーム)等の電子線直描技術によって凹構造32を形成することができるが、本発明においてはFIBを用いて幅300nmを有する凹構造32を形成した。凹構造32の底は、サンプリングニードル11の側面が露出されている。また、凹構造32だけでなく、所望通りの形態及びサイズを有する凹構造32を形成してもよい。
【0033】
図3(c)に、凹構造32の底に酸化亜鉛の突起12が形成されたサンプリングニードル11の図を示す。凹構造32を形成したサンプリングニードル11を作用極23として、少なくとも亜鉛イオンが含有された水溶液に浸しめっきを行う。こうすることで、凹構造32の底から一列に並んだ酸化亜鉛の突起12を形成させることができる。少なくとも亜鉛イオンが含有された水溶液の種類、電解めっきの条件等は、先述した本発明における酸化亜鉛の突起12を電解めっきにより作製する方法と同様である。
【0034】
ついで、突起12の表面を金属膜で被覆する。金属膜13は、真空中で金属材料を加熱して金属蒸気を作り、これを、上記の基体表面の突起12に付着させる。膜の形状は、真空度、蒸着時間を調整することにより制御する。
【0035】
<本発明における治具を用いた採取及びラマン分光分析方法>
本発明においては、サンプリングニードル11の先端部に複数の突起が近接して配列し、かつ該突起の表面が金属膜で被覆されてなることを特徴とする表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取を行う。この際に、粒径1μm以上の微小異物等を採取する他に、金属膜13表面に単分子層又は数層以上の厚さで金属膜13に対する吸着性を有する有機物等を吸着させることも可能である。微小異物等の微小試料のラマン散乱光を測定できるだけでなく、表面増強効果を生かして金属膜13表面上に吸着させた有機物等より強度が微弱なラマン散乱光も感度良く測定できる。
【0036】
また、溶液中で微小異物を採取する際に金属膜13の表面上に吸着させる試料の量は、金属膜13の金属元素、溶質、溶媒、濃度、溶媒温度の種類の組み合わせにより異なってくるが、前記溶液における溶質濃度は例えば0.001mmol/L以下でも前記金属膜13の表面上に試料を吸着させることが可能である。
【0037】
また、有機溶液中で微小異物を採取する際に金属膜13の表面上に吸着させる試料の量は、酸化亜鉛の突起12及び小突起15のラスネスファクターに左右されるが、レーザー光が照射する点の空間領域つまり直径約1μmの球領域以内又は3μm以下の高さを有する突起12である方が好ましく、突起12の直径も1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、特に300nm以下であることが好ましい。突起の直径は最低でも10nmあれば構わない。
【0038】
例えば、銅フタロシアニン(CuPc)である顔料を含有したインクを吐出したインクジェットヘッドを挙げて、前記インクジェットヘッドのノズルの凹構造内に堆積した微小異物等を本発明における表面増強ラマン分光分析用治具を用いて採取し、ラマン分光分析を行う。粒径1μm以上の微小異物を効率良く採取できた場合は、その試料のラマン分光分析を行えばよいし、また、微小異物を採取するのが困難な場合は、前記金属膜13の表面上に吸着させた試料を表面増強効果を用いたラマン分光分析を行えばよい。単分子層以上の厚さで吸着された試料は、強度が小さいレーザーでも一ヶ所でレーザー光を照射させ続けると損傷を受けてしまうこともあるので、例えばこれを避けるために前記サンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具の先端部の高さ方向を回転軸にして常に回転させ続ければよい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。以下に示す各々の実施例は、本発明における実施形態の一例である。
【0040】
「実施例1」
本実施例は、酸化亜鉛の突起12付きのサンプリングニードル11先端部上に銀の蒸着を行ってできたサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、銅フタロシアニンである顔料を有するインクを吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内より微小試料を採取し、ラマン分光分析を行った例について説明する。
【0041】
先端部の曲率半径が1μmであるタングステンからなるサンプリングニードル11を作用極23として、85℃まで加熱した2mmol/L硝酸亜鉛水溶液(電解液25)に浸し、−1.2V(vs.Ag/AgCl:参照極21)の印加で電着を5000秒間行った。この時に用いた対極22は亜鉛板であった。この後、管状電気炉中に設置し酸素を1.67×10−3L/S流しながら500℃で熱処理を1時間行った。走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、その試料を形態観察した結果、酸化亜鉛の突起12が前記サンプリングニードル11の先端部から成長していたことが分かった。この酸化亜鉛の突起12の径は300nm〜1μmであり、アスペクト比は10〜20であった。
【0042】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmφ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmφ)を抵抗加熱用材料に用いて、先述したサンプリングニードル11の先端部上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、酸化亜鉛の突起12の側面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。
【0043】
本実施例におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具においては、これを用いたμマニピュレータ装置にて、粒径約1〜2μmの微小異物を突起にひっかけて簡易且つ効率良く採取できた。更に微小異物のラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のラマン散乱光を観測できた。また、微小異物を引っかけてなかった金属膜13付きの酸化亜鉛の突起12側面部分からも顔料やインク中の他の成分、微小異物等のいずれかのSERSであるラマン散乱光を観測できた。このサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を純水超音波洗浄により洗浄し、FE−SEM観察を行ったら、微小異物が無くなっていたことが分かった。続いてラマン分光分析も行ったが、顔料等のSERSであるラマン散乱光が観測された。
【0044】
比較例として、曲率半径が1μmであるタングステンのサンプリングニードル11を用意して、前記サンプリングニードル11の先端部の側面上に銀の蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、先端部の側面の表面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていた。更に、ラマン分光分析も行ったが、前記サンプリングニードル11先端部の側面よりラマン散乱光は観測されなかった。
【0045】
前記サンプリングニードル11を用いたμマニピュレータ装置にて、インク吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内にあった粒径約1〜2μmの微小異物を採取しようとしたが、その微小異物はインク溶液に分散されていたため、採取できなかった。一方、ラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のSERSであるラマン散乱光が観測されたが、本実施例1に比べてラマン散乱光強度は約1/5に減少していた。この結果より、酸化亜鉛の突起12のラスネスファクターを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0046】
よって、本発明におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができる。また、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定できる。
【0047】
「実施例2」
本実施例は、一本以上の酸化亜鉛の小突起15を側面上に形成した酸化亜鉛の突起12付きのサンプリングニードル11先端部上に銀の蒸着を行ってできたサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、銅フタロシアニンである顔料を有するインクを吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内より微小試料を採取し、ラマン分光分析を行った例について説明する。
【0048】
先端部の曲率半径が1μmであるタングステンから成るサンプリングニードル11を作用極23として、2mmol/LのKClを添加し、85℃まで加熱した2mmol/L硝酸亜鉛水溶液(電解液25)に浸し、−1.2V(vs.Ag/AgCl:参照極21)の印加で電着を5000秒間行った。この時に用いた対極22は亜鉛板であった。この後、管状電気炉中に設置し酸素を1.67×10−3L/S流しながら500℃で熱処理を1時間行った。FE−SEMを用いて、その試料を形態観察した結果、酸化亜鉛の突起12が前記ニードル11先端部から成長し、更にその酸化亜鉛の突起12の側面上に多数の小突起15つまり、酸化亜鉛の小突起15が成長していたことが分かった。この酸化亜鉛の突起12の径は300nm〜1μmであり、アスペクト比は10〜20であった。また、酸化亜鉛の小突起15の径は約100nmであり、アスペクト比は3〜20であった。
【0049】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmφ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmφ)を抵抗加熱用材料に用いて、先述したサンプリングニードル11の先端部上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、酸化亜鉛の突起12及び小突起15の側面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。
【0050】
本実施例におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具においては、これを用いたμマニピュレータ装置にて、粒径約1〜2μmの微小異物を突起にひっかけて簡易且つ効率良く採取できた。また、実施例1に比べて先述したインク溶液中に分散された微小異物を更に多く採取でき、粒径1〜2μm以下の微小異物も採取できた。
【0051】
更に微小異物のラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のラマン散乱光を観測でき、ラマン散乱光強度も実施例1に比べて約1.3倍と増大していた。また、微小異物を引っかけてなかった金属膜13付きの酸化亜鉛の突起12及び小突起15の側面部分からも顔料、インク中の他の成分、微小異物等のいずれかのSERSであるラマン散乱光を観測できた。このサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を純水超音波洗浄により洗浄を行い、FE−SEM観察を行ったら、微小異物が無くなっていたことが分かった。続いて、ラマン分光分析も行ったが、顔料等のSERSであるラマン散乱光が観測された。また、実施例1に比べてラマン散乱光強度も約1.4倍と増大していた。
【0052】
比較例として、曲率半径が1μmであるタングステンのサンプリングニードル11を用意して、前記サンプリングニードル11先端部の側面上に銀の蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、先端部の側面の表面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。更に、ラマン分光分析も行ったが、前記サンプリングニードル11先端部の側面よりラマン散乱光は観測されなかった。
【0053】
前記サンプリングニードル11を用いたμマニピュレータ装置にて、インク吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内にあった粒径約1〜2μmの微小異物を採取しようとしたが、その微小異物はインク溶液に分散されていたため、採取できなかった。一方、ラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のSERSであるラマン散乱光が観測されたが、本実施例2に比べてラマン散乱光強度は約1/7に減少していた。この結果より、酸化亜鉛の突起12及び小突起15のラスネスファクターを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0054】
よって、本発明におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができる。また、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定できる。
【0055】
「実施例3」
本実施例は、酸化亜鉛微粒子14を側面上に付着させた酸化亜鉛の突起12付きのサンプリングニードル11先端部上に銀の蒸着を行ってできたサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、銅フタロシアニンである顔料を有するインクを吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内より微小試料を採取し、ラマン分光分析を行った例について説明する。
【0056】
先端部の曲率半径が1μmであるタングステンからなるサンプリングニードル11を作用極23として、85℃まで加熱した2mmol/L硝酸亜鉛水溶液(電解液25)に浸し、−1.2V(vs.Ag/AgCl:参照極21)の印加で電着を5000秒間行った。この時に用いた対極22は亜鉛板であった。続いて、60℃まで加熱した0.1mol/L硝酸亜鉛のIPA溶液25に先述したサンプリングニードル11を浸し、−5.0Vの印加で電解電着を100秒間行った。この後、管状電気炉中に設置し酸素を1.67×10−3L/s流しながら500℃で熱処理を1時間行った。走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、その試料を形態観察した結果、サンプリングニードル11の先端部表面上から酸化亜鉛の突起12が成長し、更にその酸化亜鉛の突起12の表面上に酸化亜鉛微粒子14が付着していたことが分かった。この酸化亜鉛の突起12の径は300nm〜1μmであり、アスペクト比は10〜20であった。また、付着した酸化亜鉛微粒子14の径は30〜60nmであった。
【0057】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmφ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmφ)を抵抗加熱用材料に用いて、先述した基板12上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、酸化亜鉛微粒子14付きの酸化亜鉛の突起11の表面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。
【0058】
本実施例におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具においては、これを用いたμマニピュレータ装置にて、粒径約1〜2μmの微小異物を突起にひっかけて簡易且つ効率良く採取できた。更に微小異物のラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のラマン散乱光を観測できた。また、微小異物を引っかけてなかった金属膜13付きの酸化亜鉛の突起12の側面部分からも顔料、インク中の他の成分、微小異物等のいずれかのSERSであるラマン散乱光を観測できた。このサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を純水超音波洗浄により洗浄し、FE−SEM観察を行ったら、微小異物が無くなっていたことが分かった。続いてラマン分光分析も行ったが、顔料等のSERSであるラマン散乱光が観測された。
【0059】
比較例として、曲率半径が1μmであるタングステンのサンプリングニードル11を用意して、前記サンプリングニードル11先端部の側面上に銀の蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、先端部の側面の表面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。更に、ラマン分光分析も行ったが、前記サンプリングニードル11先端部の側面よりラマン散乱光は観測されなかった。
【0060】
前記サンプリングニードル11を用いたμマニピュレータ装置にて、インク吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内にあった粒径約1〜2μmの微小異物を採取しようとしたが、その微小異物はインク溶液に分散されていたため、採取できなかった。一方、ラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のSERSであるラマン散乱光が観測されたが、本実施例3に比べてラマン散乱光強度は約1/7に減少していた。この結果より、酸化亜鉛の突起12のラスネスファクター及び酸化亜鉛微粒子14を用いた突起12の側面の粗さを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0061】
よって、本発明におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができる。また、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定できる。
【0062】
また、酸化亜鉛以外の金属微粒子14、又は半導体微粒子14をガス蒸着法、コロイド法等により付着させても、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができ、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光も感度良く測定できる。
【0063】
「実施例4」
本実施例は、一本以上の酸化亜鉛の小突起15及び酸化亜鉛微粒子14を側面上に付着させた酸化亜鉛の突起12付きのサンプリングニードル11先端部上に銀の蒸着を行ってできたサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、銅フタロシアニンである顔料を有するインクを吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内より微小試料を採取し、ラマン分光分析を行った例について説明する。
【0064】
先端部の曲率半径が1μmであるタングステンから成るサンプリングニードル11を作用極23として、2mmol/LのKClを添加し、85℃まで加熱した2mmol/L硝酸亜鉛水溶液(電解液25)に浸し、−1.2V(vs.Ag/AgCl:参照極21)の印加で電着を5000秒間行った。続いて、60℃まで加熱した0.1mol/L硝酸亜鉛のIPA溶液25に先述したサンプリングニードル11を浸し、−5.0Vの印加で電解電着を100秒間行った。この時に用いた対極22は亜鉛板であった。この後、管状電気炉中に設置し酸素を1.67×10−3L/S流しながら500℃で熱処理を1時間行った。FE−SEMを用いて、その試料を形態観察した結果、酸化亜鉛の突起12がサンプリングニードル11先端部から成長し、更にその酸化亜鉛の突起12の側面上に多数の酸化亜鉛の小突起15が成長しており、更に酸化亜鉛微粒子14も付着されていたことが分かった。この酸化亜鉛の突起12の径は300nm〜1μmであり、アスペクト比は10〜20であった。また、酸化亜鉛の小突起15の径は約100nmであり、アスペクト比は3〜20であった。また、付着した酸化亜鉛微粒子14の径は30〜60nmであった。
【0065】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmφ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmφ)を抵抗加熱用材料に用いて、先述したサンプリングニードル11の先端部上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、酸化亜鉛微粒子14付きの酸化亜鉛の突起12及び小突起15の側面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。
【0066】
本実施例におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具においては、これを用いたμマニピュレータ装置にて、粒径約1〜2μmの微小異物を突起にひっかけて簡易且つ効率良く採取できた。また、実施例1に比べて先述したインク溶液中に分散された微小異物を更に多く採取でき、粒径1〜2μm以下の微小異物も採取できた。
【0067】
更に微小異物のラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のラマン散乱光を観測でき、ラマン散乱光強度も実施例1に比べて約1.6倍と増大していた。また、微小異物を引っかけてなかった金属膜13付きの酸化亜鉛の突起12及び小突起15の側面部分からも顔料、インク中の他の成分、微小異物等のいずれかのSERSであるラマン散乱光を観測できた。このサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を純水超音波洗浄により洗浄を行い、FE−SEM観察を行ったら、微小異物が無くなっていたことが分かった。続いて、ラマン分光分析も行ったが、顔料等のSERSであるラマン散乱光が観測された。また、実施例1に比べてラマン散乱光強度も約1.6倍と増大していた。
【0068】
比較例として、曲率半径が1μmであるタングステンのサンプリングニードル11を用意して、このサンプリングニードル11先端部の側面上に銀の蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、先端部の側面の表面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていた。更に、ラマン分光分析も行ったが、前記サンプリングニードル11先端部の側面よりラマン散乱光は観測されなかった。
【0069】
前記サンプリングニードル11を用いたμマニピュレータ装置にて、インク吐出したインクジェットヘッドのノズルの凹構造内にあった粒径約1〜2μmの微小異物を採取しようとしたが、その微小異物はインク溶液に分散されていたため、採取できなかった。一方、ラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のSERSであるラマン散乱光が観測されたが、本実施例4に比べてラマン散乱光強度は約1/8に減少していた。この結果より、酸化亜鉛の突起12及び小突起15のラスネスファクター及び酸化亜鉛微粒子14を用いた突起の側面の粗さを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0070】
よって、本発明におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができる。また、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定できる。
【0071】
また、酸化亜鉛以外の金属微粒子14、又は半導体微粒子14をガス蒸着法、コロイド法等により付着させても、溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができ、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光も感度良く測定できる。
【0072】
「実施例5」
本実施例は、サンプリングニードル11先端部上に櫛状の酸化亜鉛の突起12(図3(c))を作製し銀の蒸着を行ってできたサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を用いて、インク吐出したインクジェットヘッド吐出口の周辺の平坦な表面にインク溶液と共にあった微小異物(粒径は1〜2μm)を採取し、ラマン分光分析を行った例について説明する(図3)。
【0073】
先端部の曲率半径が1μmであるタングステンからなるサンプリングニードル11の先端部にスパッタリング法により膜厚100nmの酸化チタン膜(絶縁材料膜31)を形成した(図3(a))。続いて、収束イオンビーム(FIB)で酸化チタン膜をエッチングすることで前記サンプリングニードル11の先端部に幅300nm、深さ100nmの凹構造32を形成した(図3(b))。前記凹構造32を有するサンプリングニードル11を作用極23として、85℃まで加熱した2mmol/L硝酸亜鉛水溶液(電解液25)に浸し、−1.2V(vs.Ag/AgCl:参照極21)の印加で電着を5000秒間行った。この時に用いた対極22は、亜鉛板であった。電着後、酸化亜鉛の突起12が前記サンプリングニードル11先端部の凹構造32の底から成長し、一列以上に並んだ櫛状の酸化亜鉛の突起12が形成された(図3(c))。この酸化亜鉛の突起12の径は300nm〜1μmであり、アスペクト比は10〜20であった。
【0074】
続いて、銀ワイヤー(0.5mmφ)を蒸着原料に、タングステンワイヤー(0.5mmφ)を抵抗加熱用材料に用いて、先述したサンプリングニードル11上に銀の真空抵抗加熱蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、前記櫛状の酸化亜鉛の突起12の側面及び前記サンプリングニードル11表面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。
【0075】
本実施例におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具においては、前記サンプリングニードル11を用いたμマニピュレータ装置にて、インク吐出したインクジェットヘッド吐出口の周辺の平坦な表面と櫛状の酸化亜鉛の突起12とが平行になるように、前記サンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を設置して、約1〜2μm微小異物を突起12に引っかけて簡易且つ効率良く採取できた。更に微小異物のラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のラマン散乱光を観測できた。また、微小異物を引っかけてなかった金属膜13付きの酸化亜鉛の突起12の側面部分からも顔料、インク中の他の成分、微小異物等のいずれかのSERSであるラマン散乱光を観測できた。このサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を純水超音波洗浄により洗浄し、FE−SEM観察を行ったら、微小異物が無くなっていたことが分かった。続いてラマン分光分析も行ったが、顔料等のSERSであるラマン散乱光が観測された。
【0076】
比較例として、曲率半径が1μmであるタングステンのサンプリングニードル11を用意して、前記サンプリングニードル11先端部の側面上に銀の蒸着を行った。この時、真空度は4.0×10−4Pa以下、電流値は5A、蒸着時間は120秒間であった。FE−SEMを用いてその試料を形態観察した結果、先端部の側面の表面上に多数の粒径30〜50nmの銀微粒子からなる金属膜13が付着されていたことが分かった。更に、ラマン分光分析も行ったが、前記サンプリングニードル11先端部の側面よりラマン散乱光は観測されなかった。
【0077】
先述したサンプリングニードル11を用いたμマニピュレータ装置にて、インク吐出したインクジェットヘッド吐出口の周辺の平坦な表面にインク溶液と共にあった微小異物(粒径は1〜2μm)を採取しようとしたが、その微小異物はインク溶液に分散されていたため、採取できなかった。一方、ラマン分光分析も行った結果、顔料や微小異物特有等のSERSであるラマン散乱光が観測されたが、本実施例5に比べてラマン散乱光強度は約1/2に減少していた。この結果より、酸化亜鉛の突起12のラスネスファクターを利用して表面増強ラマン散乱光強度を感度良く測定できた。
【0078】
溶液等の自然な静電気力や粘着性が小さい微小試料やインクジェットヘッドのノズル等の凸凹の構造体を有する領域にある微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができる。また、前記凸凹の構造体を有する領域に応じて、サンプリングニードル11の所望の領域に突起12を形成することで、微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができる。また、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光を感度良く測定できる。
【0079】
また、実施例2〜4における各々のサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具も本実施例と同様に、前記凸凹の構造体を有する領域に応じて、サンプリングニードル11の所望の領域に突起12を形成することで、微小試料等を簡易且つ効率良く採取することができ、試料に損傷を与えない程度の強度のレーザーを用いたラマン分光分析を行っても強度が微弱なラマン散乱光も感度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具を示す概略図である。
【図2】電解めっき装置の概略図である。
【図3】本発明におけるサンプリングを兼ねる表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
【図4】本発明における金属膜の概略図、(a)島状、(b)微粒子状、(c)膜状である。
【符号の説明】
【0081】
11 サンプリングニードル
12 突起
13 金属膜
14 微粒子
15 小突起
21 参照極
22 対極
23 作用極(サンプリングニードル)
24 ビーカー
25 電解液
26 マントルヒーター
31 絶縁材料膜
32 凹構造
41 島状の金属膜
42 微粒子状の金属膜
43 膜状の金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を採取しレーザー光を照射して表面増強ラマン分光分析を行うためのマイクロマニピュレータからなる表面増強ラマン分光分析用治具であって、
該マイクロマニピュレータは、試料を採取するための針状のサンプリングニードルを有し、該サンプリングニードルは、先端部に複数の突起が近接して配列し、かつ該突起の表面が金属膜で被覆されてなることを特徴とする表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項2】
前記サンプリングニードルの先端部の曲率半径が0.5μm以上5μm以下である請求項1に記載の表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項3】
前記突起は、更にその側面に複数の小突起が近接して配列してなり、該小突起の表面が金属膜で被覆されている請求項1又は2に記載の表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項4】
前記突起の直径が10nm以上1μm以下であり、かつ前記小突起の直径が1nm以上500nm以下である請求項3に記載の表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項5】
前記突起及び小突起のアスペクト比が共に2以上である請求項3又は4に記載の表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項6】
前記突起の間隔距離が100nm以上2μm以下であり、かつ前記小突起の間隔距離が1nm以上10μm以下である請求項3ないし5のいずれか1項に記載の表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項7】
前記突起及び小突起が共に酸化亜鉛針状結晶である請求項3ないし6のいずれか1項に記載の表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項8】
前記突起及び小突起が表面に微粒子を付着させてなる請求項3ないし7のいずれか1項に記載の表面増強ラマン分光分析用治具。
【請求項9】
試料を採取しレーザー光を照射して表面増強ラマン分光分析を行うためのマイクロマニピュレータからなる表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法であって、
針状のサンプリングニードルを電極とし、亜鉛イオンを含有する電解液で電解めっきを行うことにより、該サンプリングニードルの先端部に複数の突起を近接して成長させる工程と、
該突起の表面に金属膜を形成する工程と
を有することを特徴とする表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法。
【請求項10】
前記突起を近接して成長させる工程が、該突起の側面に小突起を成長させる工程を含む請求項9に記載の表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法。
【請求項11】
前記突起を近接して成長させる工程に先立ち、
前記サンプリングニードルの先端部を含めた表面又は該表面の一部分を絶縁材料で覆い隠す工程と、
該絶縁材料の一部分を剥離する工程と
を有する請求項9又は10に記載の表面増強ラマン分光分析用治具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−349462(P2006−349462A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175104(P2005−175104)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】