説明

表面増強ラマン分光測定方法及び本方法を用いた表面増強ラマン分光装置

【課題】被検溶液に屈折率変動が存在する場合でも、測定が安定させることができ、また、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定することができる表面増強ラマン分光方法および装置を提供する。
【解決手段】被検物質を金属微粒子105aが形成されたセル105に供給し、前記セル105に複数の波長を含む光を照射し、前記セル105を透過、または、散乱、または、反射した光を分光し、分光された光を検出し、前記セル105にて発生した局在化表面プラズモン共鳴波長を算出する。得られた局在化表面プラズモン共鳴波長に基づき、前記セル105に入射させる光の波長を前記局在化表面プラズモン共鳴波長付近に制御し、発生した表面増強ラマン散乱光を検出する。検出された表面増強ラマン散乱光を分析することにより、被検成分濃度を高精度に算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラマン分光法にかかり、特に、金属微粒子に光を照射した際に発生する局在化表面プラズモン共鳴による電場増強効果により励起される表面増強ラマン分光法を利用した特定物質の濃度を計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ラマン分光法は様々な応用に用いられており、例えば、ラマン分光法を用いて生体成分の濃度を測定する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。ラマン分光法を用いることにより、生体成分中の特性成分の濃度を消耗品である試薬、試験紙片及び酵素などを不要にし、さらにはそれらの消耗品の使用前の保存安全性や使用後の廃棄の問題、誤差を生じる原因となる煩雑な操作や他の成分による干渉作用などの問題をなくし、さらに多成分を同時に定量測定することができる。この従来の技術を第1の従来技術と呼ぶ。
【0003】
表面増強ラマン分光測定方法としては、分析対象物質と量論関係をなすラマン活性物質に、群をなしている貴金属コロイドからなる表面増強ラマン散乱の基質を共存させて、その増強電場による表面増強ラマン散乱を測定する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。本技術によると、表面増強ラマン散乱を近赤外領域の光の波長を用いて高効率で励起でき、近赤外領域の光で励起することにより、近赤外領域においてラマン分光法によって分析することにより、分析対象物が含有されるマトリックス中のきょう雑物の光吸収や蛍光といった影響を排除して、分析対象物の検出において特異性・選択性を向上させることが可能となる。この従来の技術を第2の従来技術と呼ぶ。
【0004】
また、半透過半反射性を有し、表面がラマン散乱を生ずる光散乱面である第1の反射体と、透光体と、反射性を有する第2の反射体とを順次備えた光共振体からなり、共振による光吸収を利用して表面増強ラマン散乱を得る技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。表面増強ラマン分光法を用いた測定技術において、測定光の波長と表面増強ラマン効果を得る共鳴波長(以下、ラマン増強波長とする) とを一致させる必要があり、検出対象物質によって測定光の波長を変化させる必要のあるラマン分光法においては、測定光の波長応じたラマン増強波長を有する表面増強ラマンデバイスが必要となる。局在プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマンデバイスにおいて、測定光の波長と局在プラズモン共鳴波長を一致させるには、金属微細構造の精密な制御を各波長に応じて行うという複雑な設計変更が必要であるが、本技術によると、共振波長が透光体の平均屈折率と厚みとに応じて変わるので、これらのファクタを変化させるだけの簡易な設計変更によってラマン増強波長を制御することができる。従って、本発明によれば、用途に応じた所望の波長において表面増強ラマン効果を有するラマン分光用デバイスを、簡易な設計変更により得ることができる。この従来の技術を第3の従来技術と呼ぶ。
【特許文献1】特開平9−079982号公報
【特許文献2】特表2004−205435号公報
【特許文献3】特開2008-014933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記第1の従来技術では、典型的には、試料物質に入射するフォトンの10-7しかラマン散乱されない。従って、ラマン散乱されたフォトンを検出するために、ラマン分光器においては一般に、高出力レーザ及び高感度検出器が採用されている。絶対的な意味において散乱断面積が小さいのみならず、散乱されたフォトンが入射フォトンと同じエネルギーを有するレイリー散乱に比較しても小さい。これはつまり、小さなラマン信号を大きなレイリー信号及び入射信号から分離することに関して問題がある場合が多いということであり、特に、ラマン信号のエネルギーが入射信号のエネルギーに近い場合に問題となる。高出力レーザはかさばり高価であるだけでなく、非常に高い出力においては、その光放射の強度により試料物質が破壊される可能性がある。従って、光放射源の強度には上限が課される。同様に、高感度検出器もかさばり高価であることが多く、例えば液体窒素により冷却される必要がある。それに加えて、許容可能な信号対雑音比を有するラマンスペクトル信号を得るために長い積分時間が必要とされるので、検出は時間がかかるプロセスであることが多いという課題を有していた。
【0006】
また、表面増強ラマン散乱を励起するためには、局在化表面プラズモン共鳴波長と表面増強ラマン励起波長を一致される必要がある。局在化表面プラズモン共鳴における共鳴波長は、金属微粒子等の周辺の屈折率に影響されることが知られている。つまり、被検物質を含有している血液、尿、汗等の屈折率に影響され、局在化表面プラズモン共鳴波長が変化する。これは、局在化表面プラズモンの共鳴状態が変化しているためである。この場合、表面増強ラマン散乱を励起するために利用する金属微粒子等の周辺に発生する局在化表面プラズモンにより増強された電場が変化する。したがって、表面増強ラマン散乱の発生度合いが変化してしまうため、測定が安定しない、または、電場増強効果が減少するため測定感度が低下するという課題を有していた。第2の従来技術において、このような溶液の屈折率変動による増強される電場が変動に関する影響、対策が述べられていない。
【0007】
第3の従来技術では、前記溶液の屈折率変動による増強される電場が変動に関する課題の対策として、共振器中の透明体の厚さを変化させることにより、ラマン増強波長を制御することができるが、このためには、事前に前記溶液の屈折率の波長分散特性を特定しておく必要がある。また、前記溶液の屈折率の波長分散特性が大きいと、共振が適切に行われず、ラマン増強波長の制御が困難となるという課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定し、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定できる表面増強ラマン分光方法、および、表面増強ラマン分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の表面増強ラマン分光方法は、
a) 被検物質を金属微粒子が形成されたセルに供給する工程
b) 前記セルに複数の波長を含む光を照射する工程
c) 前記セルを透過、または、散乱、または、反射した光を分光し、分光された光を検出する工程
d) 工程c)により得られた結果から前記セルにて発生した局在化表面プラズモン共鳴波長を算出する工程
e) 工程d)で得られた局在化表面プラズモン共鳴波長に基づき、前記セルに入射させる光の波長を前記局在化表面プラズモン共鳴波長付近に制御する工程
f) 発生した表面増強ラマン散乱光を検出する工程
g) 工程f)により検出された表面増強ラマン散乱光から生体に含まれる成分濃度を算出する工程
を含む。
【0010】
また、本発明の表面増強ラマン分光装置は、前記方法を利用した、複数の波長の光を放射する光源と、金属の微粒子が形成されたセルと、前記セルを透過、または、透過、または、散乱した光を分光し、分光された光を検出する分光手段と、表面増強ラマン散乱を発生させるために入射した光を減衰させる光学フィルターを備え、前記分光手段の出力により前記金属微粒子にて発生した局在化表面プラズモン共鳴の共鳴波長を算出し、前記共鳴波長付近の光を放射するように前記光源を制御し、前記光学フィルターのうち前記光源の波長の光を減衰させる光学フィルターを光路中に挿入するよう制御する演算部と、を備える。
【0011】
本構成によって、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定し、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面増強ラマン分光方法および本方法を用いた表面増強ラマン分光装置によれば、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定させることができ、また、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定することができる。
【0013】
特に、含有する成分濃度の日内変動、個体間のばらつきが大きい体液中の濃度を測定する場合や、屈折率変化に対する局在化表面プラズモン共鳴波長の変化量が大きい金属微粒子を利用する場合は有効である。この理由を以下に述べる。
【0014】
体液中、特に血液中ではこれらの被検物質の濃度が同一個人の間でも日内変動があり、また、個体間でも被検物質の濃度差があることから、屈折率が各被検物質含有物により異なり、およそ、屈折率として0.03〜0.05程度の差が存在する。金属微粒子が金のロッド形状や銀のピラミッド形状の微粒子の場合、屈折率が1変化すると200〜300nm程度共鳴波長がシフトするので、前記状態では共鳴波長は約10〜15nm程度で変動する。また、屈折率の変化に対する局在化表面プラズモン共鳴波長の変化量が大きくなればなるほど、前記共鳴波長の変化量が大きくなる。一方、表面増強ラマン散乱強度は、電場の4乗に比例するといわれているため、電場増強度合いが変化した際の表面増強ラマン散乱の発生強度に与える影響が大きい。
【0015】
本発明は、被検物質を含む被検物質含有物を構成する成分の濃度変化が大きい場合や、屈折率変化に対する局在化表面プラズモン共鳴波長の変化量が大きい金属微粒子を利用する場合に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(実施の形態1)
本発明の第1の実施の形態について図1〜5を用いて説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態1における表面増強ラマン分光装置100の構成を示す図である。図1において、局在化表面プラズモン共鳴波長を含む光を放射するハロゲン光源101、異なる波長を放射する複数の半導体レーザ102a〜102fからなる波長可変光源102、波長可変光源から放射される光を反射するミラー103、ハロゲン光源101並びに波長可変光源102から放射された光を整形するレンズ系104、被検物質を保持し、金属微粒子105aが設けられているセル105、波長可変光源102が放射する波長に対応したノッチフィルターが装着されたスロットと、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定する際に利用するノッチフィルターが装着されていないスロットを備える光学フィルタホイール106、グレーティング分光を行う際に光を略点光源状に整形するスリット107、スリット107を透過した光を波長に応じて分散させながら反射するグレーティング素子108、分散した光を検出する複数の受光領域を持つ光検出器109、光検出器109が受光した光の強度を算出し、算出した強度から局在化表面プラズモン共鳴波長を算出し、算出した局在化表面プラズモン共鳴波長に基づき波長可変光源102を制御し、また、波長可変光源102から放射された光により発生した表面増強ラマン分光スペクトルを分析することにより被検物質の濃度を算出するマイクロコンピュータ110である。
【0019】
ここで、ハロゲン光源101、光学フィルタホイール106、マイクロコンピュータ110はそれぞれ、本発明における参照用光源、光学フィルター、演算部に相当する。また、スリット107、グレーティング素子108、光検出器109は本発明における分光手段に相当する。本実施の形態において分光手段として、グレーティング素子108と複数の受光領域を持つ光検出器109を用いたが、所定の波長を分光できる公知技術であれば、特に限定することなく利用できる。例えば、干渉フィルター等の分光フィルターや、音響光学素子と単一の受光領域を持つ光検出器等を利用することができる。
【0020】
また、本発明の表面増強ラマン分光装置は、メモリ111を備えていてもよい。メモリ111には、複数の受光領域を持つ光検出器109の各セルに対応する波長のデータや、被検物質の濃度を算出するための表面増強ラマン散乱光の各波数における強度と被検物質の濃度の相関関係に関するデータを保持している。
【0021】
図2は、本発明の第1の実施の形態におけるセル105の断面を示す図である。セル105は、三角錘状に形成された銀微粒子105a(底面サイズ=数nm〜200nm程度、高さ=50〜100nm程度)、スペーサー105b、基板105c、カバーガラス105e、スペーサー105bとカバーガラス105eで形成される被検溶液保持空間105d、被検溶液の供給口、排出口(図示せず)から構成される。ここで、三角錘状に形成された銀微粒子105aは、本発明における金属微粒子に相当する。ここで、三角錘状に形成された銀微粒子の製法としては、公知の技術を特に限定なく利用することができる。例えば、数百nmのポリスチレンの微粒子を基板105c上に自己配列させ、この状態において真空蒸着装置等の薄膜形成装置を用いて銀を蒸着する。その後、ポリスチレン微粒子を超音波洗浄により除去することにより形成することができる。この時、基板105cは親水性であることが、ポリスチレン微粒子が整然と自己配列することから好ましい。
【0022】
基板105cとしては、ハロゲン光源101、および、表面増強ラマン散乱光の波長の光が透過するものであれば、公知技術を特に限定することなく利用することができる。例えば、SiO2は、前記光の波長に対して透明であり、親水化が容易であるため好ましい。
【0023】
例えば、底面が約95nm、高さが50nmの三角錘状の銀微粒子において、空気中では、局在化表面プラズモン共鳴波長は約570nmとなり、屈折率が1変化した場合の局在化表面プラズモン共鳴波長変化量は、約200nmとなる。ここで、被検溶液の屈折率を1.35とした場合、空気の屈折率の差から被検溶液が銀微粒子105aの周囲に満たされている場合、局在化表面プラズモン波長は約640nmとなる。
【0024】
ここで、本実施の形態において、参照用光源として、ハロゲン光源101を用いたが、局在化表面プラズモン共鳴波長を含む光を放射する光源であれば、特に限定することなく利用することができる。本実施の形態における銀微粒子105aの局在化表面プラズモン共鳴波長は、被検溶液が存在する場合、約640nm付近となることから、640nmの光を含み、被検溶液の屈折率変動0.05に伴う局在化表面プラズモン共鳴波長変化量を見込み、約635〜645nmの光を放射する光源であれば利用でき、例えば赤色LED等を利用することができる。
【0025】
また、波長可変光源102として異なる波長を放射する半導体レーザ102a〜102eの5種類を利用する。本実施の形態において、半導体レーザ102a、102b、102c、102d、102e、102fとして、放射する波長が、それぞれ635nm、637nm、639nm、641nm、643nm、645nmであるものを利用することができる。これらは、市販の半導体レーザを利用することができる。半導体レーザは、製造において±2〜3nmの中心波長のずれが発生するため、あらかじめ半導体レーザ102a〜102fの波長を測定しておくことが好ましい。さらには、常に同じ波長を放射するために、半導体レーザ102の温度を制御することが好ましい。また、半導体レーザ102a〜102fが放射する光強度を等しく設定することが、電場増強効果を均一にするという観点から好ましい。
【0026】
光学フィルタホイール106は、図3に示すように、第1のノッチフィルター106a、第2のノッチフィルター106b、第3のノッチフィルター106c、第4のノッチフィルター106d、第5のノッチフィルター106e、及び、第6のノッチフィルター106fがリング106hにはめ込まれており、リング106hに穴を開けることにより空隙106gが形成されている。ここで、第1〜第6のノッチフィルター106a〜106fは、それぞれ半導体レーザ102a〜102fが放射する波長の光を減衰させるノッチフィルターに対応する。図3に示す例では、ともに円状である第1〜第6のノッチフィルター106a〜106fと空隙106gがリング106hにはめ込まれることにより円盤状の部材が構成されており、その円盤状の部材の中央部にシャフト106iが設けられている。このシャフト106iを図3の矢印のように回転させることにより、第1〜第6のノッチフィルター106a〜106fと空隙106gとの間で切り替えることができる。シャフト106iの回転は、マイクロコンピュータ110からの制御信号により制御される。光学フィルタホイール106は、本発明における光学フィルターに相当する。
【0027】
次に本実施の形態における表面増強ラマン分光方法および本方法を利用した表面増強ラマン分光装置の動作について、図面を参照しながら説明する。図4には、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定する際の動作を説明する図を示す。まず、セル105に被検溶液を供給する。セル105に被検溶液が満たされたあと、ハロゲン光源101の電源を入れる。この時、光学フィルタホイール106は、空隙106gが光路中に挿入されている。ハロゲン光源101から放射された光は、セル105中の三角錘状の銀微粒子105aを透過する際、被検溶液の屈折率に応じた局在化表面プラズモン共鳴波長において光の消衰が最大となる。三角錘状の銀微粒子105aを透過した光がスリット107を透過し、グレーティング素子108により分散され、光検出器109における各受光領域に到達した光の量からマイクロコンピュータ110が、光検出器109の各受光領域が検出した光の量に基づいて局在化表面プラズモン共鳴波長を決定する。
【0028】
この時、被検溶液が満たされたかどうかを判定するためのセンサを備えていることが好ましい。例えば、カバーガラス105eと基板105cに電極を設けておき、電極に弱い電圧をかけておく。被検溶液が例えば血液である場合、血液には電解質が含まれることから、被検溶液が満たされると電極間に電流が流れ、被検溶液がセル105内に満たされたどうかが判定できる。さらに前記センサの出力を利用してハロゲン光源101の電源を自動的にONにすることが、測定を自動化できるため好ましい。
【0029】
局在化表面プラズモン共鳴波長を算出した後、マイクロコンピュータ110は、局在化表面プラズモン共鳴波長の算出結果に基づき、半導体レーザ102のうち、局在化表面プラズモン共鳴波長に最も近い波長を放射するものを駆動すると共に、シャフト106iを回転させ、選定した半導体レーザ102に対応するノッチフィルターを光路中に挿入する。図5には、半導体レーザ102cが駆動され、ノッチフィルター103cが光路中に挿入されている例を示している。例えば、局在化表面プラズモン共鳴波長が639.5nmであるとき、図5のように、639nmの光を放射する半導体レーザ102cを駆動し、これと同時に半導体レーザ102cに対応する第3のノッチフィルター106cを光路中に挿入する。この時、図5に示すように、半導体レーザ102から放射される光をセル105に対して垂直に入射しないことが、スリット107に直接高輝度の光である半導体レーザ102の光が入射し、表面増強ラマン散乱光の測定に悪影響を与えないようにするという観点から好ましい。
【0030】
半導体レーザ102cの光をセル105に入射すると、三角錘状に形成された銀微粒子105aにおいて局在化表面プラズモンが励起され、近傍に電場増強領域が発生する。この電場増強領域において、表面増強ラマン散乱光が発生する。発生した表面増強ラマン散乱光は、入射した半導体レーザ102cの光とは、波長が異なる。この時、表面増強ラマン散乱光として、ストークス光とアンチストークス光の2種類の表面増強ラマン散乱光が発生する。一般的にストークス光の方が、アンチストークス光に比較して光量が大きい。本実施の形態において、ストークス光、アンチストークス光のどちらを測定してもかまわない。
【0031】
また、半導体レーザ102cをセル105に入射した際、表面増強ラマン散乱光とともに、波長が変化しないレイリー散乱光が発生する。発生した表面増強ラマン散乱光とレイリー散乱光は、共にノッチフィルター106cに入射するが、レイリー散乱光は、ノッチフィルター106cにより吸収され、スリット107、グレーティング素子108にはほとんど放射されない。ノッチフィルター106cを透過した表面増強ラマン散乱光は、グレーティング素子108により分散させられ、各波長に応じて複数の受光領域を持つ光検出器109に入射される。
【0032】
ここで、複数の受光領域を持つ光検出器109としては、公知技術を特に限定することなく利用することができる。例えば、CCD(電荷結合素子)、CMOS、1次元フォトディテクターアレイ等を利用することができる。また、受光領域の数としては、例えば4096個の受光領域を持つ1次元CCD素子を利用することができる。
【0033】
光検出器109に入射した光は、マイクロコンピュータ110により表面増強ラマン散乱光強度とラマンシフト波数が算出される。この時、光検出器109における各受光領域の出力と波数に関するデータはメモリ111を参照する。
【0034】
表面増強ラマン散乱光強度とラマンシフト波数が算出されると、マイクロコンピュータ110は、さらにメモリ111に格納されている表面増強ラマン散乱光の各波数における強度と被検物質の濃度の相関関係を参照し、被検物質の濃度を算出する。算出された被検物質の濃度は、例えば、スピーカー(図示せず)を通じて音声での通知や、ディスプレイ等(図示せず)に表示させることにより、ユーザに通知される。
【0035】
メモリ112に格納されている、表面増強ラマン散乱光の強度と波長の関係と被検溶液中の被検物質の濃度との相関を示す相関データは、例えば、以下の手順によって取得することができる。
【0036】
まず、既知の被検成分濃度(例えば、血糖値)を有する患者について、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係を測定する。この測定を、異なる被検成分濃度を有する複数の患者について行うことにより、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度とからなるデータの組を得ることができる。
【0037】
次に、このようにして取得したデータの組を解析して相関データを求める。例えば、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度とについて、PLS(Partial Least Squares Regression)法などの重回帰分析法やニューラルネットワーク法などを用いて多変量解析を行うことにより、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度との相関を示す関数を求めることができる。
【0038】
本実施の形態によれば、被検物質を含む被検溶液をセル105に供給し、その後、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定し、さらに局在化表面プラズモン共鳴波長に対応した表面増強ラマン散乱を励起する波長の光を入射することにより、電場増強効果の変化度合いを被検溶液に屈折率変動が存在する場合でも均一化し、また、電場増強効果を極大化できるため、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定させることができ、また、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定することができる。
【0039】
(実施の形態2)
本発明の別の実施の形態について、図6〜図8を用いて説明する。図6〜図8において、図1〜図5と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0040】
図6は、本発明の実施の形態2に係る表面増強ラマン分光装置の構成を示す図である。図6において、実施の形態1と異なる構成は、光源として、波長可変レーザ121を備えている点である。波長可変レーザ121を利用することにより、実施の形態1における半導体レーザ102が必要でなくなる。波長可変レーザ121としては、局在化表面プラズモン共鳴波長の光を放射することができる波長可変レーザ121であれば、公知技術を特に限定なく利用することができる。例えば、チューニングミラー、ホログラフィック回折格子等を搭載した波長可変半導体レーザ、半導体レーザ素子を温度コントロールすることにより波長を可変する半導体レーザ、Ti:サファイアレーザ等を利用することができる。
【0041】
次に本実施の形態における表面増強ラマン分光方法および本方法を利用した表面増強ラマン分光装置の動作について、図面を参照しながら説明する。図7には、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定する際の動作を説明する図を示す。まず、セル105に被検溶液を供給する。セル105に被検溶液が満たされたあと、波長可変レーザ121の電源を入れる。この時、光学フィルタホイール106は、空隙106gが光路中に挿入されている。波長可変レーザ121が放射する光の波長を掃引しながら放射し、波長可変レーザ121から放射された光は、セル105中の三角錘状の銀微粒子105aを透過する際、被検溶液の屈折率に応じた局在化表面プラズモン共鳴波長において光の消衰が最大となる。三角錘状の銀微粒子105aを透過した光がスリット107を透過し、グレーティング素子108により分散され、光検出器109における各受光領域に到達した光の量からマイクロコンピュータ110が、光検出器109の各受光領域が検出した光の量に基づいて局在化表面プラズモン共鳴波長を決定する。
【0042】
この時、実施の形態1と同様に、被検溶液が満たされたかどうかを判定するためのセンサを備えていることが好ましい。例えば、カバーガラス105eと基板105cに電極を設けておき、電極に弱い電圧をかけておく。被検溶液が例えば血液である場合、血液には電解質が含まれることから、被検溶液が満たされると電極間に電流が流れ、被検溶液がセル105内に満たされたどうかが判定できる。さらに前記センサの出力を利用して波長可変レーザ121の電源を自動的にONにすることが、測定を自動化できるため好ましい。
【0043】
局在化表面プラズモン共鳴波長を算出した後、マイクロコンピュータ110は、局在化表面プラズモン共鳴波長の算出結果に基づき、波長可変レーザ121が放射する波長を局在化表面プラズモン共鳴波長に最も近い波長を放射するように設定すると共に、シャフト106iを回転させ、選定した波長可変レーザ121が放射する波長に対応するノッチフィルターを光路中に挿入する。
【0044】
この時、光学フィルタホイール106が備えるノッチフィルター106a〜106fは、実施の形態1と同じ特性を持つ。
【0045】
図8には、波長可変レーザ121が放射する波長が局在化表面プラズモン共鳴波長とほぼ等しくなるように設定され、ノッチフィルター103cが光路中に挿入されている例を示している。例えば、局在化表面プラズモン共鳴波長が639.5nmであるとき、639.5nmの光を放射するように波長可変レーザ121を駆動し、これと同時に波長可変レーザ121が放射する波長に対応する第3のノッチフィルター106cを光路中に挿入する。
【0046】
波長可変レーザ121の光をセル105に入射すると、三角錘状に形成された銀微粒子105aにおいて局在化表面プラズモンが励起され、近傍に電場増強領域が発生する。この電場増強領域において、表面増強ラマン散乱光が発生する。発生した表面増強ラマン散乱光は、入射した波長可変レーザ121の波長の光とは、波長が異なる。この時、表面増強ラマン散乱光として、ストークス光とアンチストークス光の2種類の表面増強ラマン散乱光が発生する。一般的にストークス光の方が、アンチストークス光に比較して光量が大きい。本実施の形態において、ストークス光、アンチストークス光のどちらを測定してもかまわない。
【0047】
また、波長可変レーザ121をセル105に入射した際、表面増強ラマン散乱光とともに、波長が変化しないレイリー散乱光が発生する。発生した表面増強ラマン散乱光とレイリー散乱光は、共にノッチフィルター106cに入射するが、レイリー散乱光は、ノッチフィルター106cにより吸収され、スリット107、グレーティング素子108にはほとんど放射されない。ノッチフィルター106cを透過した表面増強ラマン散乱光は、グレーティング素子108により分散させられ、各波長に応じて複数の受光領域を持つ光検出器109に入射される。
【0048】
光検出器109に入射した光は、マイクロコンピュータ110により表面増強ラマン散乱光強度とラマンシフト波数が算出される。この時、光検出器109における各受光領域の出力と波数に関するデータはメモリ111を参照する。
【0049】
表面増強ラマン散乱光強度とラマンシフト波数が算出されると、マイクロコンピュータ110は、さらにメモリ111に格納されている表面増強ラマン散乱光の各波数における強度と被検物質の濃度の相関関係を参照し、被検物質の濃度を算出する。算出された被検物質の濃度は、例えば、スピーカー(図示せず)を通じて音声での通知や、ディスプレイ等(図示せず)に表示させることにより、ユーザに通知される。
【0050】
メモリ112に格納されている、表面増強ラマン散乱光の強度と波長の関係と被検溶液中の被検物質の濃度との相関を示す相関データは、例えば、以下の手順によって取得することができる。
【0051】
まず、既知の被検成分濃度(例えば、血糖値)を有する患者について、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係を測定する。この測定を、異なる被検成分濃度を有する複数の患者について行うことにより、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度とからなるデータの組を得ることができる。
【0052】
次に、このようにして取得したデータの組を解析して相関データを求める。例えば、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度とについて、PLS(Partial Least Squares Regression)法などの重回帰分析法やニューラルネットワーク法などを用いて多変量解析を行うことにより、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度との相関を示す関数を求めることができる。
【0053】
本実施の形態によれば、被検物質を含む被検溶液をセル105に供給し、その後、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定し、さらに局在化表面プラズモン共鳴波長に対応した表面増強ラマン散乱を励起する波長の光を入射することにより、被検溶液に屈折率変動が存在する場合でも電場増強効果の変化度合いを均一化し、また、電場増強効果を極大化できるため、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定させることができ、また、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定することができる。
【0054】
(実施の形態3)
本発明の別の実施の形態について、図9〜図11を用いて説明する。図9〜図11において、図1〜図8と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0055】
図9は、本発明の実施の形態3に係る表面増強ラマン分光装置の構成を示す図である。図9において、実施の形態1と異なる構成は、光源として、スーパールミネッセントダイオード131と音響光学フィルター132を備えている点である。
【0056】
複数の波長の光を放射するスーパールミネッセントダイオード131と音響光学フィルター132を利用することにより、実施の形態1における半導体レーザ102が必要でなくなる。スーパールミネッセントダイオード131としては、局在化表面プラズモン共鳴波長の光を放射することができるスーパールミネッセントダイオード131であれば、公知技術を特に限定なく利用することができる。
【0057】
次に本実施の形態における表面増強ラマン分光方法および本方法を利用した表面増強ラマン分光装置の動作について、図面を参照しながら説明する。図10には、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定する際の動作を説明する図を示す。まず、セル105に被検溶液を供給する。セル105に被検溶液が満たされたあと、スーパールミネッセントダイオード131の電源を入れる。この時、光学フィルタホイール106は、空隙106gが光路中に挿入されている。スーパールミネッセントダイオード131から放射された光は、音響光学フィルター132に到達する。この時、音響光学フィルター132を駆動することにより、波長を掃引する。セル105中の三角錘状の銀微粒子105aを透過する際、被検溶液の屈折率に応じた局在化表面プラズモン共鳴波長において光の消衰が最大となる。三角錘状の銀微粒子105aを透過した光は、スリット107を透過し、グレーティング素子108により分散され、光検出器109における各受光領域に到達した光の量からマイクロコンピュータ110が、光検出器109の各受光領域が検出した光の量に基づいて局在化表面プラズモン共鳴波長を決定する。
【0058】
この時、実施の形態1と同様に、被検溶液が満たされたかどうかを判定するためのセンサを備えていることが好ましい。例えば、カバーガラス105eと基板105cに電極を設けておき、電極に弱い電圧をかけておく。被検溶液が例えば血液である場合、血液には電解質が含まれることから、被検溶液が満たされると電極間に電流が流れ、被検溶液がセル105内に満たされたどうかが判定できる。さらに前記センサの出力を利用してスーパールミネッセントダイオード131の電源を自動的にONにすることが、測定を自動化できるため好ましい。
【0059】
局在化表面プラズモン共鳴波長を算出した後、マイクロコンピュータ110は、局在化表面プラズモン共鳴波長の算出結果に基づき、音響光学フィルター132を制御することにより、スーパールミネッセントダイオード131が放射した光の波長を局在化表面プラズモン共鳴波長に最も近い波長を放射するように設定すると共に、シャフト106iを回転させ、選定したスーパールミネッセントダイオード131が放射する波長に対応するノッチフィルターを光路中に挿入する。
【0060】
この時、光学フィルタホイール106が備えるノッチフィルター106a〜106fは、実施の形態1と同じ特性を持つ。
【0061】
図11には、音響光学フィルター132がマイクロコンピュータ110により制御され、スーパールミネッセントダイオード131が放射する波長のうち、局在化表面プラズモン共鳴波長とほぼ等しい波長の光がセル105に入射するように設定され、ノッチフィルター103cが光路中に挿入されている例を示している。例えば、局在化表面プラズモン共鳴波長が639.5nmであるとき、639.5nmの光を放射するように音響光学フィルター132を駆動し、これと同時にセル105に入射する光の波長に対応する第3のノッチフィルター106cを光路中に挿入する。
【0062】
音響光学フィルター132を通過したスーパールミネッセントダイオード131の光をセル105に入射すると、三角錘状に形成された銀微粒子105aにおいて局在化表面プラズモンが励起され、近傍に電場増強領域が発生する。この電場増強領域において、表面増強ラマン散乱光が発生する。発生した表面増強ラマン散乱光は、入射した音響光学フィルター132を通過したスーパールミネッセントダイオード131の波長の光とは、波長が異なる。この時、表面増強ラマン散乱光として、ストークス光とアンチストークス光の2種類の表面増強ラマン散乱光が発生する。一般的にストークス光の方が、アンチストークス光に比較して光量が大きい。本実施の形態において、ストークス光、アンチストークス光のどちらを測定してもかまわない。
【0063】
また、音響光学フィルター132を通過したスーパールミネッセントダイオード131から放射された光をセル105に入射した際、表面増強ラマン散乱光とともに、波長が変化しないレイリー散乱光が発生する。発生した表面増強ラマン散乱光とレイリー散乱光は、共にノッチフィルター106cに入射するが、レイリー散乱光は、ノッチフィルター106cにより吸収され、スリット107、グレーティング素子108にはほとんど放射されない。ノッチフィルター106cを透過した表面増強ラマン散乱光は、グレーティング素子108により分散させられ、各波長に応じて複数の受光領域を持つ光検出器109に入射される。
【0064】
光検出器109に入射した光は、マイクロコンピュータ110により表面増強ラマン散乱光強度とラマンシフト波数が算出される。この時、光検出器109における各受光領域の出力と波数に関するデータはメモリ111を参照する。
【0065】
表面増強ラマン散乱光強度とラマンシフト波数が算出されると、マイクロコンピュータ110は、さらにメモリ111に格納されている表面増強ラマン散乱光の各波数における強度と被検物質の濃度の相関関係を参照し、被検物質の濃度を算出する。算出された被検物質の濃度は、例えば、スピーカー(図示せず)を通じて音声での通知や、ディスプレイ等(図示せず)に表示させることにより、ユーザに通知される。
【0066】
メモリ112に格納されている、表面増強ラマン散乱光の強度と波長の関係と被検溶液中の被検物質の濃度との相関を示す相関データは、例えば、以下の手順によって取得することができる。
【0067】
まず、既知の被検成分濃度(例えば、血糖値)を有する患者について、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係を測定する。この測定を、異なる被検成分濃度を有する複数の患者について行うことにより、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度とからなるデータの組を得ることができる。
【0068】
次に、このようにして取得したデータの組を解析して相関データを求める。例えば、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度とについて、PLS(Partial Least Squares Regression)法などの重回帰分析法やニューラルネットワーク法などを用いて多変量解析を行うことにより、表面増強ラマン散乱光の波長と光強度の関係と、それらに対応する被検物質濃度との相関を示す関数を求めることができる。
【0069】
本実施の形態によれば、被検物質を含む被検溶液をセル105に供給し、その後、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定し、さらに局在化表面プラズモン共鳴波長に対応した表面増強ラマン散乱を励起する波長の光を入射することにより、電場増強効果の変化度合いを被検溶液に屈折率変動が存在する場合でも均一化し、また、電場増強効果を極大化できるため、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定させることができ、また、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定することができる。
【0070】
(実施の形態4)
本発明の別の実施の形態について、図12〜図13用いて説明する。図12〜図13において、図1〜図11と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0071】
図12は、本発明の実施の形態2に係る表面増強ラマン分光装置の構成を示す図である。図12において、実施の形態1と異なる構成は、セル142として、ロッド状に形成された金微粒子142aを金属微粒子として利用している点と、偏光子141を備えている点である。
【0072】
図13は、本発明の第4の実施の形態におけるセル142の断面を示す図である。セル142は、ロッド状に形成された金微粒子142a(短軸サイズ=数nm〜30nm、長軸サイズ=数nm〜200nm程度、直径=数nm〜30nm程度)が基板105cに固定化されており、スペーサー105b、基板105c、カバーガラス105e、スペーサー105bとカバーガラス105eで形成される被検溶液保持空間105d、被検溶液の供給口、排出口(図示せず)から構成される。ここで、ロッド状に形成された金微粒子142aは、本発明における金属微粒子に相当する。ここで、ロッド状に形成された金微粒子142aの製法としては、公知の技術を特に限定なく利用することができる。例えば、電解法、化学還元法、光還元法等が利用できる。ロッド状に形成された金微粒子142aを基板に固定化する技術としては、例えば、静電相互作用を利用する方法を利用することができる。
【0073】
ロッド状に形成された金微粒子142aの特性としては、局在化表面プラズモン共鳴が長軸方向と短軸方向のそれぞれで発生し、局在化表面プラズモン共鳴波長は2つで発生する。長軸方向の局在化表面プラズモン共鳴波長のほうが短軸方向の局在化表面プラズモン共鳴波長よりも、長波長側に現れる。特に長軸方向の局在化表面プラズモン共鳴は周囲の屈折率変化に対して敏感に影響を受けることが知られている。また、長軸方向に共鳴した局在化表面プラズモンによる方が短軸方向に比較して電場増強効果が強いことが知られている。ロッド状に形成された金微粒子142aにおいて、長軸方向に共鳴した局在化表面プラズモンを励起するためには、電場が長軸方向に偏光している光を入射するとよい。例えば、図13に示したようにロッド状に形成された金微粒子142aが一定の方向で規則正しく配列し、基板105cに固定化されている場合には、偏光子141を前記偏光状態となるように配置し、偏光子142により偏光した光をセル142に入射すると効率よく長軸方向の局在化表面プラズモンが励起できる。
【0074】
例えば、短軸長が約10nm、長軸長が約30nm、直径が約10nmのロッド状に形成された金微粒子において、空気中では、局在化表面プラズモン共鳴波長は約700nmとなり、屈折率が1変化した場合の局在化表面プラズモン共鳴波長変化量は、約300nmとなる。ここで、被検溶液の屈折率を1.35とした場合、空気の屈折率の差から被検溶液がロッド状に形成された金微粒子142aの周囲に満たされている場合、長軸方向に共鳴した局在化表面プラズモン共鳴波長は約805nmとなる。
【0075】
ここで、本実施の形態におけるロッド状に形成された金微粒子142aの長軸方向の局在化表面プラズモン共鳴波長は、被検溶液が存在する場合、約800nm付近となることから、800nmの光を含み、被検溶液の屈折率変動0.05に伴う局在化表面プラズモン共鳴波長変化量を見込み、約790〜810nmの光を放射する光源であれば利用でき、例えば赤色LED等を利用することができる。
【0076】
上記のように、ロッド状に形成された金微粒子142aは、局在化表面プラズモン共鳴波長が近赤外領域の波長となるため、被検物質が生体成分である場合、被検物質含有物中のきょう雑物質の光吸収や蛍光の影響が排除でき、被検物質の検出において、特異性・選択性を向上させることが可能となるため好ましい。
【0077】
基板105cとしては、ハロゲン光源101、および、表面増強ラマン散乱光の波長の光が透過するものであれば、公知技術を特に限定することなく利用することができる。例えば、SiO2は、前記光の波長に対して透明であり、親水化等の表面処理が容易であるため好ましい。
【0078】
また、波長可変光源143として異なる波長を放射する半導体レーザ143a〜143eの5種類を利用する。本実施の形態において、半導体レーザ143a、143b、143c、143d、143e、143fとして、放射する波長が、それぞれ790nm、794nm、798nm、802nm、806nm、810nmであるものを利用することができる。これらは、市販の半導体レーザを利用することができる。半導体レーザは、製造において±2〜3nmの中心波長のずれが発生するため、あらかじめ半導体レーザ143a〜143fの波長を測定しておくことが好ましい。さらには、常に同じ波長を放射するために、半導体レーザ102の温度を制御することが好ましい。また、半導体レーザ143a〜143fが放射する光強度を等しく設定することが、電場増強効果を均一にするという観点から好ましい。
【0079】
次に本実施の形態における表面増強ラマン分光方法および本方法を利用した表面増強ラマン分光装置の動作について、実施の形態1と同一であるため、省略する。
【0080】
本実施の形態によれば、被検物質を含む被検溶液をセル105に供給し、その後、局在化表面プラズモン共鳴波長を測定し、さらに局在化表面プラズモン共鳴波長に対応した表面増強ラマン散乱を励起する波長の光を入射することにより、被検溶液に屈折率変動が存在する場合でも電場増強効果の変化度合いを均一化し、また、電場増強効果を極大化できるため、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定させることができ、また、測定感度が低下することを防止することで、高精度に被検物質の濃度が測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明にかかる表面増強ラマン分光測定方法及び本方法を用いた表面増強ラマン分光装置は、被検物質、および、被検物質含有物の屈折率が変化した場合でも、測定が安定させることができ、また、測定感度が低下することを防止することできるため、高精度に被検物質の濃度が測定する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施の形態における表面増強ラマン分光装置の構成を示す図
【図2】本発明の一実施の形態におけるセル105の断面を示す図
【図3】本発明の一実施の形態における光学フィルタホイール106の斜視図
【図4】本発明の一実施の形態における局在化表面プラズモン共鳴波長を測定する際の動作を説明する図
【図5】本発明の一実施の形態における表面増強ラマン散乱光を測定する際の動作を説明する図
【図6】本発明の他の実施の形態における表面増強ラマン分光装置の構成を示す図
【図7】本発明の他の実施の形態における局在化表面プラズモン共鳴波長を測定する際の動作を説明する図
【図8】本発明の他の実施の形態における表面増強ラマン散乱光を測定する際の動作を説明する図
【図9】本発明の他の実施の形態における表面増強ラマン分光装置の構成を示す図
【図10】本発明の他の実施の形態における局在化表面プラズモン共鳴波長を測定する際の動作を説明する図
【図11】本発明の他の実施の形態における表面増強ラマン散乱光を測定する際の動作を説明する図
【図12】本発明の他の実施の形態における表面増強ラマン分光装置の構成を示す図
【図13】本発明の他の実施の形態におけるセル142の断面を示す図
【符号の説明】
【0083】
100 表面増強ラマン分光装置
101 ハロゲン光源
102 波長可変光源
102a 半導体レーザ
102b 半導体レーザ
102c 半導体レーザ
102d 半導体レーザ
102e 半導体レーザ
102f 半導体レーザ
103 ミラー
104 レンズ
105 セル
105a 三角錘状の銀微粒子
105b スペーサー
105c 基板
105d 被検溶液保持空間
106 光学フィルタホイール
106a 第1のノッチフィルター
106b 第2のノッチフィルター
106c 第3のノッチフィルター
106d 第4のノッチフィルター
106e 第5のノッチフィルター
106f 第6のノッチフィルター
106g 空隙
106h リング
106i シャフト
107 スリット
108 グレーティング素子
109 複数の受光領域を持つ光検出器
110 マイクロコンピュータ
111 メモリ
121 波長可変レーザ
131 スーパールミネッセントダイオード
132 音響光学フィルター
141 偏光子
142 セル
142a ロッド状に形成された金微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の濃度を表面増強ラマン分光法により測定する方法であって、
a) 被検物質を金属微粒子が形成されたセルに供給する工程
b) 前記セルに複数の波長を含む光を照射する工程
c) 前記セルを透過、または、散乱、または、反射した光を分光し、分光された光を検出する工程
d) 工程c)により得られた結果から前記セルにて発生した局在化表面プラズモン共鳴波長を算出する工程
e) 工程d)で得られた局在化表面プラズモン共鳴波長に基づき、前記セルに入射させる光の波長を前記局在化表面プラズモン共鳴波長付近に制御する工程
f) 発生した表面増強ラマン散乱光を検出する工程
g) 工程f)により検出された表面増強ラマン散乱光から被検物質濃度を算出する工程
を含む表面増強ラマン分光測定方法。
【請求項2】
前記工程e)により制御された光の波長の光を減衰させる光学フィルターを選択する工程と、前記光学フィルターを光路に挿入する工程とをさらに含む請求項1記載の表面増強ラマン分光測定方法。
【請求項3】
被検物質は、生体に含まれる成分である請求項1、または2記載の表面増強ラマン分光測定方法。
【請求項4】
複数の波長の光を放射する光源と、金属の微粒子が形成されたセルと、前記セルを透過、または、透過、または、散乱した光を分光し、分光された光を検出する分光手段と、表面増強ラマン散乱を発生させるために入射した光を減衰させる複数の光学フィルターを備え、前記分光手段の出力により前記金属微粒子にて発生した局在化表面プラズモン共鳴の共鳴波長を算出し、前記共鳴波長付近の光を放射するように前記光源を制御し、前記光学フィルターのうち前記光源の波長の光を減衰させる光学フィルターを光路中に挿入するよう制御する演算部と、を備える表面増強ラマン分光装置。
【請求項5】
前記光源は、前記セルによる局在化表面プラズモン共鳴波長の光を含むことを特徴とする請求項4記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項6】
前記光源は、複数波長の光を放射する参照用光源と、特定の波長の光を放射する波長可変光源で構成されている請求項4または5記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項7】
前記波長可変光源は、複数の半導体レーザで構成されている請求項6記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項8】
前記複数の半導体レーザはそれぞれが略同一の光強度で放射されることを特徴とする請求項7記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項9】
前記光源は、波長可変レーザで構成されている請求項5記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項10】
前記波長可変光源は、前記参照用光源と、特定の波長の光を透過させる分光フィルターから構成されている請求項6記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項11】
前記光学フィルターは、前記波長可変光源が出射する波長を中心波長とする複数のノッチフィルターで構成されている請求項4〜10いずれかに記載の表面増強ラマン分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−160043(P2010−160043A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2303(P2009−2303)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】