説明

表面安定性に優れたアルミニウム合金材およびその製造方法

【課題】アルミニウム合金材の製造において、化成処理時の脱脂が行われるまでの間、プレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】リン濃度が2.0原子%以上である水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を有するMg含有アルミニウム合金材の表面に、エステル成分を含有するプレス油が塗布されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用、特に自動車パネルに使用されて好適で、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材およびその製造方法に関する。本発明でいうアルミニウム合金材とは、圧延板、圧延箔、押出形材、鍛造材、鋳造材などの種々の製造方法にて製造されたアルミニウム合金を言う。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、従来から、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品用として、各種アルミニウム合金材(以下、アルミニウムをAlとも言う)が、合金毎の各特性に応じて汎用されている。
【0003】
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車車体の軽量化による燃費の向上が追求されている。このため、従来使用されていた鉄鋼材料に代わって、比重が鉄の約1/3であり、優れたエネルギー吸収性を有するアルミニウム材料の自動車車体への使用が増加している。
【0004】
アルミニウム合金を自動車パネルとして用いる場合には、成形性、溶接性、接着性、化成処理性、塗装後の耐食性、美観等が要求される。アルミニウム合金を用いて自動車パネルを製造する方法は、1)成形(所定寸法への切り出し、所定形状へのプレス成形)、2)接合(溶接および/または接着)、3)化成処理(洗浄剤による脱脂→コロイダルチタン酸塩処理等よる表面調整→リン酸亜鉛処理)、4)塗装(電着塗装による下塗り→中塗り→上塗り)、であり、従来の鋼板を用いる場合と基本的に同じである。
【0005】
一方で、自動車部品のモジュール化が進行しつつあり、アルミニウム合金板自体が製造されてから、上述の自動車パネルから車体製造工程に入るまでの期間がこれまでより長くなる傾向がある。
【0006】
自動車部品のモジュール化とは、自動車メーカにおいて車体に直接取り付けていた個々の部品を、部品会社において事前にサブアセンブリーしてから車体に取り付ける方法である。自動車メーカにおける難作業を簡素化して生産効率を上げることが主な目的である。生産工程の短縮、仕掛品を削減する効果もある。部品会社の負担は増加するが、自動車会社と部品会社の全体としてのコスト低減に効果があり、結果的に自動車のコスト削減に寄与している。
【0007】
自動車用アルミニウム合金板の搬送経路は、これまで軽圧メーカから自動車メーカへの直納方式が主流であった。しかし、モジュール化が進めば部品会社経由とならざるを得ず、アルミニウム合金板自体が製造されてから上述の製造工程に入るまでの期間が、どうしてもこれまでより長くなる。したがって、アルミニウム合金板の表面保護の観点から油で覆う処理が行われる。
【0008】
しかし、このような場合に、どうしてもアルミニウム合金板の表面特性が経時変化し、接着性、化成処理性、塗装性へ悪影響を及ぼすことが問題となっている。なかでも、経時変化に伴い化成処理時の脱脂性が悪化し、化成処理皮膜が付着し難くなり、結果的に耐食性に影響を及ぼすことが知られている。
【0009】
このため、従来からマグネシウムを含有するアルミニウム合金表面のマグネシウム(以下、マグネシウムをMgとも言う)を除去することにより、化成処理性等を向上させることに注力している(特許文献1〜5参照)。ただし、Mgを除去するだけでは、表面特性の経時変化が少ない表面安定性に優れたものが得られるものではない。
【0010】
また、特に脱脂後の水濡れ性と接着性に優れたアルミニウム合金板を得るために、アルミニウム合金板の表面皮膜のMg量とOH量を調整し、表面調整後14日以内に防錆油を塗布した自動車ボディーシート用アルミニウム合金板も提案されている(特許文献6参照)。しかし、表面調整後14日以内に単に防錆油を塗布して表面を保護するだけでは、表面特性の経時変化が少ない表面安定性に優れたものが得られるものではない。
【0011】
また、表面特性の経時変化の少ないアルミニウム合金板とするために、Mgを2〜10重量%含有するアルミニウム合金板の金属アルミニウム基体と、この基体上に形成されたアルミニウムのリン酸塩皮膜と、このリン酸塩皮膜上に形成された酸化アルミニウム膜と、さらにこの上に防錆油を塗布した自動車ボディー用アルミニウム合金板も提案されている(特許文献7参照)。また、アルミニウム合金の搬送中の疵防止、および、絞り加工性を向上させる目的で、アルミニウム合金の表面をエステル成分を含有した成形油(プレス油)で覆ったものも提案されている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平06−256980号公報 (全文)
【特許文献2】特開平06−256881号公報 (全文)
【特許文献3】特開平06−220564号公報 (全文)
【特許文献4】特開平04−214835号公報 (全文)
【特許文献5】特開平02−115385号公報 (全文)
【特許文献6】特開2006−200007号公報 (全文)
【特許文献7】特許第2744697号公報 (全文)
【非特許文献1】田中、小林、倉田著「アルミニウム表面モデル酸化物の脱脂性の検討」、軽金属学会第111回秋期大会講演概要集、167、2006年、p.p.331〜332
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献7では、その実施例において、サンプル作製後一週間放置した材料を基準として比較評価を行っている。しかし、前述したアルミニウム合金の表面特性の経時変化は、サンプル作製直後から一週間程度までの変化量が最も大きく、その後の変化は比較的少ない。したがって、上記特許文献7に示された評価結果をもって、目的とする表面特性の安定性が保証されたことにはならない。また、上記非特許文献1において開示されているように、プレス油中のエステル成分は、油性剤として作用し合金の絞り加工性を向上させるが、化成処理時の脱脂性が低下する(すなわち、表面安定性が低下する)といった問題点を有している。
【0013】
特に、自動車用などの用途では、アルミニウム合金材の化成処理時の水濡れ安定性、塗装性、接着耐久性、溶接安定性などが求められる。取り分け、アルミニウム合金材が製造メーカの工場から出荷され、プレス成形等が行われ、さらに化成処理時の脱脂が行われるまでの間、プレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材が求められている。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するものであり、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたMg含有アルミニウム合金材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、表面に、リン濃度が2.0原子%以上である水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を有するMg含有アルミニウム合金材の表面に、エステル成分を含有するプレス油が塗布された構成であるため、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材が得られる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、アルミニウム合金材をpHが4未満に調整されたリン酸二水素塩水溶液で処理する工程と、前記リン酸二水素塩水溶液で処理されたアルミニウム合金材にエステル成分を含有するプレス油を塗布する工程とを備えた構成である。これにより、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、リン酸を添加することにより、pHが2.5以上4未満に調整されたリン酸二水素塩水溶液で処理することを特徴とする。これにより、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができるばかりか、アルミニウム合金材をリン酸水素塩処理する際に前記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りが生ぜず(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、
Mg:0.25質量%以上を含有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を製造する溶解鋳造工程と、
前記溶解鋳造工程で製造された鋳塊に均質化熱処理を施す均熱工程と、
前記均熱工程で熱処理された鋳塊に、熱間圧延および冷間圧延を施して、アルミニウム合金板を製造する圧延工程と、
前記圧延工程で熱間圧延および冷間圧延されたアルミニウム合金板に、溶体化処理および焼き入れ処理を施す溶体化工程と、
前記溶体化工程で溶体化処理および焼き入れ処理が施されたアルミニウム合金板に、予備時効処理を施す予備時効工程と、を含むことを特徴するアルミニウム合金板の製造方法であって、
Mg含有アルミニウム合金材の溶体化処理および焼き入れ処理を施す溶体化工程にリン酸二水素塩水溶液を冷却水として使用する構成である。これにより、熱処理工程において、Mg含有アルミニウム合金材が高温に保持されているため、Mg含有アルミニウム合金材の表面とリン酸二水素塩水溶液中の薬剤との反応性が向上する。したがって、薬剤濃度を低減させることができるばかりか、従来の製造工程のような冷却後に改めて酸洗浄する必要がなくなるため、Mg含有アルミニウム合金材製造のコストダウンを図ることができる。また、冷間圧延後にアルミニウム合金板の表面のMgを除去することなく、脱脂安定性を確保できる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のリン酸二水素塩水溶液が非溶解成分のない水溶液であることを特徴とする。したがって、前記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りがなく(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の請求項1に記載の発明は、表面に、リン濃度が2.0原子%以上である水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を有するMg含有アルミニウム合金材の表面に、エステル成分を含有するプレス油が塗布された構成であるため、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材が得られる。
【0021】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、アルミニウム合金材をpHが4未満に調整されたリン酸二水素塩水溶液で処理する工程と、前記リン酸二水素塩水溶液で処理されたアルミニウム合金材にエステル成分を含有するプレス油を塗布する工程とを備えた構成であるため、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができる。
【0022】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、リン酸を添加することにより、pHが2.5以上4未満に調整されたリン酸二水素塩水溶液で処理する構成であるため、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができるばかりか、アルミニウム合金材をリン酸水素塩処理する際に前記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りが生ぜず(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。
【0023】
また、本発明の請求項4に記載の発明は、
Mg:0.25質量%以上を含有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を製造する溶解鋳造工程と、
前記溶解鋳造工程で製造された鋳塊に均質化熱処理を施す均熱工程と、
前記均熱工程で熱処理された鋳塊に、熱間圧延および冷間圧延を施して、アルミニウム合金板を製造する圧延工程と、
前記圧延工程で熱間圧延および冷間圧延されたアルミニウム合金板に、溶体化処理および焼き入れ処理を施す溶体化工程と、
前記溶体化工程で溶体化処理および焼き入れ処理が施されたアルミニウム合金板に、予備時効処理を施す予備時効工程と、を含むことを特徴するアルミニウム合金板の製造方法であって、
Mg含有アルミニウム合金材の溶体化処理および焼き入れ処理を施す溶体化工程にリン酸二水素塩水溶液を冷却水として使用する構成である。これにより、熱処理工程において、Mg含有アルミニウム合金材が高温に保持されているため、Mg含有アルミニウム合金材の表面とリン酸二水素塩水溶液中の薬剤との反応性が向上する。したがって、薬剤濃度を低減させることができるばかりか、従来の製造工程のような冷却後に改めて酸洗浄する必要がなくなるため、Mg含有アルミニウム合金材製造のコストダウンを図ることができる。また、冷間圧延後にアルミニウム合金板の表面のMgを除去することなく、脱脂安定性を確保できる。
【0024】
また、本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のリン酸二水素塩水溶液が非溶解成分のない水溶液であるため、前記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りがなく(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明について、実施形態を例示しつつ、さらに詳細に説明する。
【0026】
(本発明に係る表面安定性に優れたアルミニウム合金材の構成)
本発明に係る表面安定性に優れたアルミニウム合金材は、表面に、リン濃度が2.0原子%以上である水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を有するMg含有アルミニウム合金材の表面に、エステル成分を含有するプレス油が塗布されていることを特徴とする。これにより、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材が得られる。
【0027】
以下に、上記構成に至った理由について詳述する。
【0028】
本発明者らは、近年アルミニウム合金材が製造メーカの工場から出荷され、プレス成形等が行われ、さらに化成処理時の脱脂が行われるまでの全期間が長くなってきていることに着目した。すなわち、アルミニウム合金材の表面保護等の観点からどうしても油で覆われている時間が長くなってしまう点に着目した。また、アルミニウム合金材は、化成処理の前にプレス成形等も行われるため、油は成形性が向上するものであることも求められる。このような表面保護性と成形性の両者を満足する油が塗布されたものであっても化成処理時の脱脂も十分に行え、かつ、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材ができないものか鋭意検討した。その結果、アルミニウム合金材の表面処理の材料、条件を工夫し、表面に、リン濃度が2.0原子%以上である水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を有するMg含有アルミニウム合金材の表面に、エステル成分を含有するプレス油が塗布したものであれば、上記目的を達成できることをはじめて見出した。
【0029】
このような構成により、上記目的を達成できたのは、図1に示すようなアルミニウム合金材表面の性状が大きな役割を果たしているのではないかと推定している。即ち、図1において、Mgを含有するアルミニウム合金材(ここでは、アルミニウム合金を単にアルミ合金と称し、その表面に例えばMg−Oxがすでに存在しているものまで含めてアルミニウム合金材という)の表面をpHが4未満に調整されたリン酸二水素塩水溶液(例えば、リン酸二水素アルミニウム水溶液)で表面処理すると、このアルミニウム合金材の表面に水和したリン酸塩の層が形成され、この水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩の層がアルミニウム合金材との間で、酸素(−O−)を介して強固な化学結合を有し、一方でアルミニウム合金材と反対側には、OH基が残存し、保湿成分となり、プレス油中のエステル成分の吸着を阻害すると考えられる。
【0030】
これにより、化成処理の脱脂時まで、アルミニウム合金材の表面に水和したリン酸塩と、エステル成分を含有するプレス油が結合することなく、かつ、所定量のプレス油を安定して保持するため、プレス油の効果が維持できる。また、エステル成分を含有するプレス油は、水和したリン酸塩と結合していないため、脱脂時には十分に除去でき、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる。以上により、表面安定性に優れたアルミニウム合金材が実現できたものと考えている。
【0031】
以下に本発明を詳述する。
【0032】
(Al合金)
本発明で用いるAl合金は、Al合金材の用途に応じて、圧延板、圧延箔、押出形材、鍛造材、鋳造材などの種々の製造方法にて製造された、AA、JISに規定される、または、JISに近似する種々のAl合金が使用できるが、Mgを含有することを必須要件とする。この場合、Mgの含有量は0.25重量%以上含有することが望ましい。これよりMgの含有量が少ないAl合金の場合は本願発明が解決しようとする課題は発現しない。
【0033】
Mgの含有量の上限については特に制限を設けるものではないが、構造用部材として用いられる場合の種々の特性のバランスを勘案すれば、5.5質量%までが好適である。
【0034】
具体例を挙げると、自動車用に用いる場合では、0.2%耐力が100MPa以上の高強度のアルミニウム合金材が好ましい。このような特性を満足するアルミニウム合金としては、通常、この種構造部材用途に汎用される、5000系、6000系、7000系等の耐力が比較的高い汎用合金であって、必要により調質されたアルミニウム合金が好適に用いられる。優れた時効硬化能や合金元素量が比較的少なくスクラップのリサイクル性や成形性にも優れている点では、6000系アルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0035】
(水和したリン酸塩)
本発明のリン酸二水素塩とは、塩中にリン酸二水素(H2 PO4 を含有する塩の総称である。このリン酸二水素塩は、好ましくは、Al、K、Ca、Mn、Liから選ばれる少なくとも一つの金属の塩である。より好ましくは、Alが選択される。
【0036】
なお、アルミニウム合金材表面には、必然的にアルミニウムの酸化皮膜が形成されており、本発明の水和したリン酸塩は、このアルミニウムの酸化皮膜上や酸化皮膜中に存在乃至散在する。したがって、本発明でいう、アルミニウム合金材表面に水和したリン酸塩を有するとは、具体的には、このような表面状態を言う。
【0037】
(水和したリン酸塩のアルミニウム合金材表面への付着方法)
これら水和したリン酸塩のアルミニウム合金材表面への付着は、アルミニウム合金材の製造工程中、あるいは製造工程外における、リン酸二水素塩を含有する水溶液処理(以下、総称してリン酸水素塩処理ともいう)によって行うことができる。アルミニウム合金材の製造工程中では、例えば溶体化処理や焼鈍などの熱処理後の冷却水、焼き入れ処理時の冷却水、あるいは洗浄工程における洗浄水を、これらリン酸二水素塩を含有する(溶解させた)水溶液(以下、総称してリン酸二水素塩水溶液という)とすることで処理が可能である。
【0038】
また、下記本発明のアルミニウム合金材の製造工程(本発明の製造工程と称す)のように、溶体化処理および焼き入れ処理を施す溶体化工程で冷却水として上記リン酸二水素塩水溶液を使用する場合は、アルミニウム合金材が高温に保持されているため、アルミニウム合金材の表面とリン酸二水素塩水溶液中の薬剤との反応性が向上し、アルミニウム合金材の表面のリン濃度が高まる。したがって、下記従来のアルミニウム合金材の製造工程(従来の製造工程と称す)では、冷却後に改めて酸洗浄が必要であったが、この酸洗浄が不要となるばかりか、リン酸二水素塩水溶液中の薬剤の濃度を低減できる。よって、アルミニウム合金材製造のコストダウンを図ることができる。また、このような本発明のアルミニウム合金材の製造方法を採用することで、冷間圧延後にアルミニウム合金材の表面のマグネシウムを除去することなく、脱脂安定性を確保できる。
本発明の製造工程:
鋳塊→均熱→熱延→冷延→溶体化→焼き入れ(リン酸二水素塩水溶液)→予備時効
従来の製造工程:
鋳塊→均熱→熱延→冷延→溶体化→焼き入れ(工業用水)→予備時効→酸洗浄
【0039】
リン酸二水素塩水溶液の温度は室温で可能であるが、加温するなどしても良い。また、処理時間は、特に限定されるものではなく、水溶液の濃度や温度などの他の処理条件、あるいはアルミニウム合金材表面への所望の付着量によって適宜選択すればよい。例えば、薬剤としてリン酸二水素アルミニウム{Al(H2 PO4}を用い、その水溶液濃度が1〜10g/L(ここに、「L」はリットルを意味する)の場合は、アルミニウム合金材をこれらの水溶液中に1〜10秒間浸漬またはスプレーすればよい。また、水溶液濃度が1g/Lの場合は、pHが3.4、10g/Lの場合は、pHが2.4であり、本発明にあっては、リン酸二水素塩水溶液のpHが4未満になるように調整されていればよい。
【0040】
また、上述したように、アルミニウム合金材が高温に保持された状態で、冷却水としてリン酸二水素塩水溶液を使用する場合は、アルミニウム合金材の表面とリン酸二水素塩水溶液中の薬剤との反応性が向上するため、水溶液濃度が0.05g/Lと低濃度で、pHが6.6に調整されたものを使用してもアルミニウム合金材の表面のリン濃度が所定値(2.0原子%以上)を達成する。
【0041】
また、リン酸二水素塩水溶液にリン酸を添加し、pHを2.5以上4未満に調整した液を用いて、アルミニウム合金材を処理することで、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができるばかりか、アルミニウム合金材をリン酸水素塩処理する際に上記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りが生ぜず(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。
【0042】
また、上述したように、アルミニウム合金材が高温に保持された状態で、冷却水としてリン酸二水素塩水溶液を使用する場合は、水溶液濃度が0.05g/Lと低濃度で、pHが6.6に調整されたものを使用してもアルミニウム合金材の表面のリン濃度が所定値(2.0原子%以上)を達成でき、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができるばかりか、アルミニウム合金材をリン酸水素塩処理する際に上記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りが生ぜず(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。
【0043】
なお、水和したリン酸塩のアルミニウム合金材表面への付着に際して、エッチングを伴う洗浄などの前処理によって、アルミニウム合金材表面に既に形成されているアルミニウムの酸化皮膜やマグネシウムを除去する必要性は一切ない。ただ、上記したアルミニウム合金材の製造工程中で、例えば工程の別の目的によって、前処理により、アルミニウム合金材表面のアルミニウムの酸化皮膜やマグネシウムを除去した後で、水和したリン酸塩をアルミニウム合金材表面へ付着させることは当然許容される。この場合でも、すぐにアルミニウムの酸化皮膜がアルミニウム合金材表面に形成されるため、本発明の水和したリン酸塩は、このアルミニウムの酸化皮膜上や酸化皮膜中に存在乃至散在する。
【0044】
(リン酸二水素塩水溶液で処理されたアルミニウム合金材にエステル成分を含有するプレス油を塗布する方法)
次に、上記リン酸二水素塩水溶液で処理されたアルミニウム合金材にエステル成分を含有するプレス油を塗布する方法について説明する。例えば、エステル成分としてオレイン酸エチルを含有するプレス油に上記アルミニウム合金材を浸漬させるだけでよい。エステル成分を含有するプレス油を塗布する方法や条件は、特に限定されるものではなく、通常のプレス油を塗布する方法や条件が広く適用できる。また、エステル成分もオレイン酸エチルに限定されるものではなく、ステアリン酸ブチルやソルビタンモノステアレート等様々なものを利用することが可能である。
【0045】
(表面安定性について)
次に、上記エステル成分を含有するプレス油が塗布されたものの表面安定性について説明する。上記エステル成分を含有するプレス油が塗布されたままのものを15〜35℃で50〜90%RHの環境室内に6ヶ月放置した後に、通常のアルカリ脱脂剤で脱脂し、水濡れ面積率を評価すると100%となる。これは、アルミニウム合金材の表面保護およびプレス成形性を満足するようなエステル成分を含有するプレス油がアルミニウム合金材の製造メーカの工場から出荷され化成処理の脱脂時まで長期間塗布されたままであったとしても、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる経時変化の少ない表面安定性に優れたアルミニウム合金材およびその製造方法を提供できることを示している。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の実施例を説明する。6000系の6022規格のアルミニウム合金冷延板(板厚1mm)で、長さ70mm×幅150mmの試験片を用いた。この6022規格のアルミニウム合金板は、Mg:0.55質量%、Si:0.95質量%を含み、0.2%耐力が230MPaである。
【0047】
リン酸水素塩処理に先立つ前処理を実施する場合には、60〜90℃の市販弱アルカリ性脱脂液に1〜10秒間浸漬またはスプレー後に,50〜90℃の1〜20質量%硝酸または硫酸に1〜10秒間浸漬またはスプレーし、その後水洗する洗浄を行った。
【0048】
上記前処理条件では、試験片表面に既に形成されているアルミニウムの酸化皮膜やマグネシウムが除去される。しかし、すぐにアルミニウムの酸化皮膜が試験片表面に形成されるため、リン酸水素塩処理により試験片表面に付着された水和したリン酸塩は、このアルミニウムの酸化皮膜上や酸化皮膜中に存在乃至散在することとなる。
【0049】
このような前処理を施した、または前処理をしないアルミニウム合金の試験片に対して、薬剤としてリン酸二水素アルミニウム{Al(H2 PO4}を用い、試験片を浸漬する水溶液濃度が1g/L、10g/Lとなるようにしたものをそれぞれ作製した。これらを実施例1〜4とする(下記表1参照)。この時の水溶液のpHは、それぞれ3.4、2.4、3.4及び2.4であった。また、上記薬剤を用い、濃度が0.1g/Lから0.4g/Lである水溶液に、それぞれ水溶液1Lあたり表1に記載の量のリン酸(和光純薬製85%純度試薬)を添加し、pHを2.5乃至3.8に調整したリン酸二水素塩水溶液を作製した。これらを実施例5〜8とする。
【0050】
また、上記薬剤を用い、濃度が1g/L、0.05g/Lでリン酸が添加されていない、pHがそれぞれ3.4、6.6のリン酸二水素塩水溶液に、前処理をしない500℃で20分間加熱したアルミニウム合金の試験片(各3個)を10秒間浸漬したものを実施例9、10とする(下記表1参照)。
【表1】

【0051】
また、比較のために上記薬剤を用いた水溶液に試験片を浸漬しないもの、水溶液濃度が0.1g/Lのものをそれぞれ作製した。これらを比較例1〜4とする(下記表2参照)。比較例2、4の水溶液のpHは、いずれも6.4であった。上記薬剤を用い、濃度が0.1g/Lの水溶液と0.4g/Lの水溶液に対し、それぞれ水溶液1Lあたり表2に記載の量のリン酸(和光純薬製85%純度試薬)を添加し、pHを共に2.0に調整したリン酸二水素塩水溶液を作製した。これらを比較例5及び6とする。実施例1〜8、比較例2及び比較例4〜6においては、いずれも試験片の浸漬時間を10秒とした。
【表2】

【0052】
また、上記所定のリン酸水素塩処理が完了した実施例1〜10と比較例1〜6の試験片の表面を、X線光電子分光分析法で分析した。測定方法および条件は、以下の通りである。ここで、表面のリン濃度は、最表面を除き、表面から深さ200nmまでの深さ方向の組成を分析してリン濃度(原子%)分析値の最高値を基板表層のリン濃度(原子%)と定義した。最表面の状態は汚れにより正確な数値が得られないためである。
(測定方法および条件)
装置 : Physical Electronics社製 QuanteraSXM
全自動走査型X線光電子分光装置
X線源 : 単色化AlKa
X線出力: 43.7W
X線ビーム径 : 200μm
光電子取り出し角 : 45°
Arスパッタ速度 : SiO換算で約4.6nm/分
【0053】
なお、表面リン濃度の測定方法はX線光電子分光分析法(XPS)に限定するものではなく、XPS以外に例えば蛍光X線や高周波グロー放電発光表面分析(GDS)等の分析手法を用いることができる。
【0054】
その結果、実施例の表面リン濃度は上記表1に示すように、実施例1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10に関して、それぞれ2.1〜3.3、2.4〜4.4、2.2〜3.6、2.4〜4.5、3.2〜3.8、2.8〜3.3、3.2〜4.0、2.0〜2.6、3.8〜4.7及び2.3〜3.2であった。また、比較例の表面リン濃度は上記表2に示すように、比較例1、2、3、4、5及び6に関しては、それぞれ0.8〜1.2、1.1〜1.6、0.6〜1.2、1.3〜1.6、0.9〜1.6及び1.1〜1.9であった。
【0055】
また、上記所定のリン酸水素塩処理が完了した後の処理液の濁り状態を目視にて観察することにより、非溶解成分の有無を判断した。その結果、上記薬剤濃度が1〜10g/Lでリン酸が添加されていないリン酸二水素塩水溶液を用いてリン酸水素塩処理を行なった実施例1〜4、9及び比較例2、4の処理液中には、非溶解成分に起因した濁りが認められた。この非溶解成分は、結晶性及び非結晶性のリン酸アルミニウム(AlPO)が混在するものであった。一方、上記薬剤濃度が0.1〜0.4g/Lでリン酸が添加されたリン酸二水素塩水溶液を用いてリン酸水素塩処理を行なった実施例5〜8、上記薬剤濃度が0.05g/Lでリン酸が添加されていないリン酸二水素塩水溶液を用いてリン酸水素塩処理を行なった実施例10及び比較例5と6の処理液中には、非溶解成分に起因した濁りは認められなかった(透明であった)。比較例5と6においては、非溶解成分に起因した濁りは認められなかったものの、後述するように肝心な水濡れ面積率が基準の90%を大きく下回った。
【0056】
次に、上記リン酸二水素塩水溶液で処理された試験片(実施例1〜10、比較例2及び4〜6)と上記リン酸二水素塩水溶液で処理されない試験片(比較例1及び3)をエステル成分としてオレイン酸エチルを含有するプレス油に浸漬させた。
【0057】
次に、上記エステル成分を含有するプレス油が塗布された試験片の表面の経時安定性について調べるために、以下のような試験を行った。上記エステル成分を含有するプレス油が塗布されたままのものを15〜35℃で50〜90%RHの環境室内に6ヶ月放置した。そして、6ヶ月後に、自動車用の市販弱アルカリ脱脂液(温度40℃)に2分間浸漬した際の、試験片の面積に対する水濡れ面積率(片側のみ)を測定した(良好な程、高い数値となる)。これにより、化成処理時の水濡れ性(安定した化成処理性)を評価できる。その結果、実施例1〜10の水濡れ面積率(なお、実施例9、10に関しては、各3個の平均値)は、いずれも基準の90%をクリアした(上記表1参照)。これは、前述の自動車部品のモジュール化などにより、湿潤環境に放置、あるいは放置期間が長期化しても、アルミニウム合金材の表面特性が経時変化せずに安定であることを示している。しかし、比較例1、2、3、4、5及び6の水濡れ面積率は、それぞれ40%、55%、0%、33%、38%及び52%(上記表2参照)と基準の90%を大きく下回った。これは、アルミニウム合金材の表面特性が経時変化することを示している。
【0058】
上述した実施例5〜8のようにリン酸二水素アルミニウムの水溶液の濃度が0.1g/L〜0.4g/Lと低濃度であり、これに上記所定量のリン酸を添加し、pHを2.5以上4未満に調整したリン酸二水素塩水溶液は、その水溶液の溶液平衡がくずれた。また、この溶液平衡のくずれが、アルミニウム合金材表面に水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を形成させる反応において重要な遊離した状態(解離していないが溶解した状態)のリン酸二水素塩(ここでは、リン酸二水素アルミニウム)の濃度の増加につながった。この遊離した状態のリン酸二水素アルミニウムの濃度の増加が、リン酸を添加する前のリン酸二水素アルミニウムの水溶液の濃度が低いにもかかわらず、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を作り出す好結果をもたらしたものと考えている。また、実施例5〜8のようなリン酸二水素塩水溶液でアルミニウム合金材を処理することで、上記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りが発生しない詳細メカニズムは、現時点では不明であるものの、リン酸を添加する前の低い濃度のリン酸二水素アルミニウムの水溶液にリン酸が添加されたことで何らかの相互作用が生じたものと推定している。
【0059】
以上のように、表面に、リン濃度が2.0原子%以上である水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を有するMg含有アルミニウム合金材の表面に、エステル成分を含有するプレス油が塗布された構成とすることで、化成処理の脱脂時までエステル成分を含有するプレス油の効果とともに、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材が得られる。
【0060】
本実施例においては、上述した実施例1〜4のようにリン酸二水素塩水溶液として、リン酸二水素アルミニウムを薬剤に用いた例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、塩中にリン酸二水素を含有する塩であれば構わない。この塩中にリン酸二水素を含有する塩の水溶液のpHを4未満に調整し、この水溶液でアルミニウム合金材を処理することで、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができる。また、上述した実施例9のように、アルミニウム合金材を500℃という高温に保持した状態からリン酸二水素塩水溶液に浸漬する場合は、アルミニウム合金材の表面とリン酸二水素塩水溶液中の薬剤との反応性が向上するため、水溶液濃度が1g/L(実施例1、3と同じ)でもアルミニウム合金材の表面のリン濃度はさらに増加する。したがって、化成処理時のより良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができる。
【0061】
また、上述した実施例5〜8のように、所定量の濃度のリン酸二水素塩水溶液に所定量の濃度のリン酸を添加し、pHを2.5以上4未満に調整した水溶液で、アルミニウム合金材を処理することで、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができるばかりか、アルミニウム合金材をリン酸水素塩処理する際に上記リン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りが生ぜず(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。また、上述した実施例10のように、アルミニウム合金材を500℃という高温に保持した状態からリン酸二水素塩水溶液に浸漬する場合は、アルミニウム合金材の表面とリン酸二水素塩水溶液中の薬剤との反応性が向上するため、水溶液濃度が0.05g/L(実施例5〜8よりもさらに低濃度)と低濃度で、かつ、リン酸が添加されていなくても、アルミニウム合金材の表面のリン濃度が所定値(2.0原子%以上)を達成でき、化成処理時の良好な水濡れ性が維持できる表面安定性に優れたアルミニウム合金材を製造することができる。さらに、実施例10の場合は、アルミニウム合金材をリン酸水素塩処理する際にリン酸二水素塩水溶液中に非溶解成分に起因した濁りが生ぜず(=透明)、配管詰まりの発生が抑制され、メンテナンスの頻度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のリン酸水素塩処理およびプレス油塗布後のアルミニウム合金材の表面性状を考察するための模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、リン濃度が2.0原子%以上である水和したリン酸塩もしくはリン酸水素塩を有するMg含有アルミニウム合金材の表面に、エステル成分を含有するプレス油が塗布されていることを特徴とする表面安定性に優れたアルミニウム合金材。
【請求項2】
アルミニウム合金材をpHが4未満に調整されたリン酸二水素塩水溶液で処理する工程と、前記リン酸二水素塩水溶液で処理されたアルミニウム合金材にエステル成分を含有するプレス油を塗布する工程とを備えたことを特徴とする表面安定性に優れたアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項3】
リン酸を添加することにより、pHが2.5以上4未満に調整されたリン酸二水素塩水溶液で処理することを特徴とする請求項2に記載の表面安定性に優れたアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項4】
Mg:0.25質量%以上を含有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を製造する溶解鋳造工程と、
前記溶解鋳造工程で製造された鋳塊に均質化熱処理を施す均熱工程と、
前記均熱工程で熱処理された鋳塊に、熱間圧延および冷間圧延を施して、アルミニウム合金板を製造する圧延工程と、
前記圧延工程で熱間圧延および冷間圧延されたアルミニウム合金板に、溶体化処理および焼き入れ処理を施す溶体化工程と、
前記溶体化工程で溶体化処理および焼き入れ処理が施されたアルミニウム合金板に、予備時効処理を施す予備時効工程と、を含むことを特徴するアルミニウム合金板の製造方法であって、
Mg含有アルミニウム合金材の溶体化処理および焼き入れ処理を施す溶体化工程にリン酸二水素塩水溶液を冷却水として使用することを特徴とする表面安定性に優れたアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のリン酸二水素塩水溶液が非溶解成分のない水溶液であることを特徴とする表面安定性に優れたアルミニウム合金材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−31350(P2010−31350A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285622(P2008−285622)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】