説明

表面性状に優れるマグネシウム合金鋳造板およびその製造方法ならびに表面性状に優れるマグネシウム合金板

【課題】表面性状に優れるマグネシウム合金鋳造板およびその製造方法ならびにマグネシウム合金板を提供する。
【解決手段】質量%で、Mn:0.1〜0.4%、Al:0.5〜2.7%を含有し、さらにSr、Ca、REの1種以上を含有し、かつ、Al、Mn、Ca、Sr、REの合計質量%が1.0〜3.2%の範囲内にあり、残部がMgおよび不可避不純物からなる組成を有し、EPMA面分析におけるセル境界上のAl検出量の値が40以下であるマグネシウム合金鋳造板とし、このマグネシウム合金鋳造板を製造する際、上記成分のマグネシウム合金溶湯から溶湯直接圧延により厚み2.5〜10mmの帯状板に圧延し、このマグネシウム合金鋳造板を熱間圧延または熱間および温間圧延してマグネシウム合金板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーソナルコンピュータや各種モバイル製品を含む電気製品、自動車部品、製造装置部品関連などに利用可能なマグネシウム合金鋳造板およびその製造方法ならびにマグネシウム合金板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金板材は軽く、リサイクル性や比強度および耐デント性等に優れることなどから、自動車部品をはじめ、パーソナルコンピュータ、携帯電話などの筐体として広く使われている。該板材の材料としては、従来からAZ31、AZ61、AZ91、AM60合金などが主に使用されている。
しかしながら、マグネシウム合金板材ではその結晶構造と圧延時に形成される強い集合組織の影響で低温域での成形性が悪いため、所定の肉厚を有する板材の製造には、熱間または熱間および温間圧延が必要である。その場合、肉厚が100mmを超えるスラブを素板に使用する板材では、圧延と材料の加熱に非常に多くの工数・工程を要し、その結果、製造コストが高くなるといった問題が挙げられる。そこで、製造コストを低くする手法として溶湯直接圧延による素板の薄肉化が実用性の高い製法として注目されている。溶湯直接圧延では、広い範囲の合金種に対応が可能であるだけでなく、溶湯から直接肉厚3〜10mm程度の板材の製造が可能である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−144043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、溶湯直接圧延は他の製造方法にくらべ非常に速い凝固速度が得られることから、溶質元素が固溶しやすく、高強度化や組織の微細化に効果的であることが知られている。しかし、それでも凝固速度が数百K/sec程度では、凝固中に生じるミクロ偏析が顕著であるため、最終凝固部への溶質元素の濃化が顕著となり、マクロ偏析を生じやすい。その中でも、板材の表面に発生するスジ状の表面偏析は、その程度がひどい場合には、圧延時にその部分に割れを生じる。また、程度が軽く、割れに至らなかった場合にも、化成処理等の表面処理で、スジ状の模様が明瞭化され、塗装後の色むら不良になったり、最終製品形状に加工する段階で成形不良になったりする。そのため、偏析の程度を低減する必要があるが、一旦生じた表面偏析のようなマクロな欠陥は、長時間の均質化処理を施しても解消できず、研磨などの機械的な操作で、除去しようにも、歩留まりの低下や工数の増加などを招き、実用的でない。
【0005】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、板材表面のマクロ偏析が少なくて表面性状に優れたマグネシウム合金鋳造板およびマグネシウム合金板材ならびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のマグネシウム合金鋳造板のうち、第1の本発明は、質量%で、Mn:0.1〜0.4%、Al:0.5〜2.7%を含有し、さらにSr、Ca、REの1種以上を含有し、かつ、Al、Mn、Ca、Sr、REの合計質量%が1.0〜3.2%の範囲内にあり、残部がMgおよび不可避不純物からなる組成を有し、EPMA面分析におけるセル境界上のAl検出量の値が40以下であることを特徴とする。
【0007】
第2の本発明のマグネシウム合金鋳造板の製造方法は、前記第1の本発明の組成を有するマグネシウム合金を溶解し、その溶湯を溶湯直接圧延により厚み2.5〜10mmの帯状板に圧延することを特徴とする。
【0008】
第3の本発明の表面性状に優れるマグネシウム合金板は、前記第1の本発明のマグネシウム合金鋳造板を熱間圧延または熱間および温間圧延して製造したことを特徴とする。
【0009】
以下に本発明で規定する組成等の限定理由について説明する。なお、以下における各成分の含有量はいずれも質量%で示されている。
【0010】
Mn:0.1〜0.4%
Mnは、耐食性を低下させる元素の影響を緩和する効果を有する。すなわち、Mnを添加することによって、耐食性を低下させる不純物元素であるFeの影響を緩和することができる。ただし、0.1%未満では、その効果が少なく、0.4%超では、その効果が飽和する。同様の理由により、下限を0.25%、上限を0.35%とするのが望ましい。
【0011】
Al:0.5〜2.7%
Alはマグネシウムの素地に固溶しやすく、鋳造性、強度等の機械的性質および耐食性向上の効果を有する。ただし、0.5%未満では、十分な鋳造性、強度、耐食性が得られず、2.7%超えでは、溶質原子濃度が高くなり、鋳造板に表面偏析によるスジ状の欠陥を生じやすくなる。
【0012】
Sr、Ca、REの1種以上
Sr、Ca、REはいずれもAlと化合物を形成し、それらが粒界上に晶出することで、強度の向上に寄与するので、これら元素の1種以上を含む。RE(希土類)には、例えば、La:15%、Ce:60%、Nd:15%、Pr+Sm:10%などの組成のものを使用できるが、本発明としてはその種別が特に限定されるものではない。
【0013】
Al、Mn、Sr、CaおよびREの添加量合計:1.0〜3.2%
主要添加元素の合計質量%が多くなるほど溶湯中の溶質原子濃度が高くなるため、表面偏析などのマクロ偏析を生じやすくなる。一方、合計質量%が少なくなるほど、鋳造性、強度が低下するとともに、純Mgに近くなるため、溶湯が活性化され、鋳造時に酸化物などの介在物が発生しやすくなる。
以上のことから、Al、Mn、Sr、Ca、REの合計含有量が1.0〜3.2%の範囲内となるように規定する。更に好ましくは、下限値を1.5%、上限値を2.7%とするのが望ましい。
【0014】
EPMA面分析によるセル境界上のAl検出量が40以下
逆偏析などのマクロ偏析は、顕著なミクロ偏析に起因したものであるので、ミクロ偏析が低減されれば、逆偏析などのマクロ偏析も低減される。ミクロ偏析の程度は、鋳造板において、EPMA面分析を行った際のセル境界上のAl検出量によって知ることができる。ここでいうセル境界上のAl検出量は、SEMにおける200×200μmの観察視野範囲において、加速電圧20kV、照射電流50nA、収集時間20ms、画素数250×250のEPMA面分析の条件で分析したときの、Al元素に関するカウント数で評価することができる。Al検出量が40超(単位なし)であるとミクロ組織のセル境界において顕著なミクロ偏析が生じていることとなるので、それらが溶湯直接圧延時の圧下により流動し、表面偏析等のマクロ偏析を生じる。したがって、Al検出量を40以下に規定する。
【0015】
次に、本発明の表面性状に優れるマグネシウム合金鋳造板の製造方法は、マグネシウム合金溶湯を溶湯直接圧延により板厚2.5〜10mmの帯状板に圧延することに特徴を有するものである。
【0016】
溶湯直接圧延工程は、所定の組成を有するマグネシウム合金溶湯を鋳造圧延において連続的に薄い帯状板を鋳造圧延する工程である。合金溶湯は、通常は溶解保持炉などで溶解して溶湯とし、該溶湯を鋳造圧延機へ移湯する。
鋳造圧延機としては、例えば水冷された一対のロールの間に溶湯を供給して鋳造圧延する双ロールが挙げられる。本発明においては、溶湯直接圧延工程によって、効率的なマグネシウム合金鋳造板の製造を可能にしたものである。
【0017】
溶解保持炉から鋳造圧延機への溶湯の移湯方法は、特定の方法に限定されるものではなく、例えば、従来の傾動式の移湯方法を採用することができる。また、インペラ回転による溶湯ポンプで移湯を行なうこともできる。この方法は、常にインペラで溶湯の攪拌が実行できるため、従来の傾動式の移湯方法とは異なり、長時間の鋳造圧延においても溶解保持炉中および鋳造圧延間際の溶湯成分を均一に保持することが可能である。溶湯成分は、重力偏析による影響で溶湯中での拡散状態に偏りが生じることがある。この偏りは、圧延における偏析の一因となりうる。したがって、インペラで溶湯を攪拌し、溶湯成分を均一に保持することは、偏析の抑制に効果的である。
なお、溶湯成分を均一に保持する方法として、超音波や電磁攪拌で溶湯攪拌を行う方法も効果的である。ただし、これらの方法は、特別な設備が必要になるだけでなく、その制御が難しい。
【0018】
こうした本発明の溶湯直接圧延によるマグネシウム合金鋳造板またはそれを素板とする圧延板材は表面偏析などのマクロ偏析による欠陥が生じにくく、表面性状に優れたマグネシウム合金板材を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明のマグネシウム合金鋳造板によれば、質量%で、Mn:0.1〜0.4%、Al:0.5〜2.7%を含有し、さらにSr、Ca、REの1種以上を含有し、かつ、Al、Mn、Ca、Sr、REの合計質量%が1.0〜3.2%の範囲内にあり、残部がMgおよび不可避不純物からなる組成を有し、EPMA面分析におけるセル境界上のAl検出量の値が40以下であるので、表面に逆偏析などマクロ偏析による欠陥が少なく、かつ低コストで実用性が高く、表面性状に優れる。
【0020】
また、本発明のマグネシウム合金鋳造板の製造方法によれば、本発明の組成を有するマグネシウム合金をその溶湯を溶湯直接圧延により厚み2.5〜10mmの帯状板に圧延するので、表面に逆偏析などマクロ偏析による欠陥が少なく、かつ低コストで実用性の高い、表面性状に優れるマグネシウム合金鋳造板を得ることができる。
【0021】
また、本発明の表面性状に優れるマグネシウム合金板によれば、本発明の組成を有するマグネシウム合金鋳造板を熱間圧延または熱間および温間圧延して製造したものであるので、低コストで得られ、表面に逆偏析などマクロ偏析による欠陥が少なく、表面性状に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態の方法に用いる溶湯直接圧延装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
図1に示すように、本発明の方法を実施する溶湯直接圧延装置は、マグネシウム合金を収容して溶解する溶解保持炉1と、前記溶解保持炉1から溶湯が供給される桶2と、前記溶解保持炉1の溶湯を前記桶2へ移湯する溶湯ポンプ3が付設されている。溶湯ポンプ3は、インペラ3aを備え、該インペラ3aの回転によって溶湯を汲み上げるものであり、溶湯ポンプ3の汲み上げ側には、桶2に先端を臨ませた湯路3bが接続されている。
桶2の一端には、ノズル4が設けられており、該ノズル4の前方に、上下に配置された鋳造ロール5A、5Bからなる水冷式の双ロール5が配置されている。
【0024】
次に、上記装置を用いたマグネシウム合金板材の製造方法について説明する。
本発明では、質量%で、Mn:0.1〜0.4%、Al:0.5〜2.7%を含有し、さらにSr、Ca、REの1種以上を含有し、Al、Mn、Ca、Sr、REの合計質量%が1.0〜3.2%の範囲で、残部がMgおよび不可避不純物からなるマグネシウム合金を使用する。
上記マグネシウム合金を前記溶解保持炉1に収容して溶解し、その溶湯を溶湯ポンプ3を用いて湯路3bを介して桶2に供給する。このとき、溶解保持炉1内は、溶湯ポンプ3のインペラ3aの回転により攪拌されており、溶解保持炉1内および鋳造圧延間際の溶湯成分が均一化される。
桶2に収容された溶湯は、ノズル4を通して双ロール5の間に導入され、水冷されている双ロール5の間で凝固して、帯状板6となる。双ロール5を通過する際の冷却速度は特に限定されるものではないが、例えば300〜600K/secが挙げられる。帯状板6は、例えば2.5〜10mmの板厚とする。帯状板6は、本願発明のマグネシウム合金鋳造板に相当する。
【0025】
帯状板6は、さらに図示しない均質化熱処理および図示しない圧延工程を経て製品板厚にまで圧延され、マグネシウム合金板とされる。圧延工程は、熱間圧延または熱間および温間圧延により行われる。また、上記圧延工程では、中間焼鈍を介在させることができる。該中間焼鈍は、熱間圧延の途中で行ったり、熱間温間と圧延工程中の間に行うことができる。
【実施例1】
【0026】
以下に、本発明の実施例を比較例と比較しつつ説明する。
表1に示す合金組成からなるマグネシウム合金溶湯(785℃)を、表1に示す移湯方法により、炉から桶に供給し、双ロールを用いた溶湯直接圧延により板厚6mmのマグネシウム合金鋳造板を作製した。なお、移湯方法におけるポンプは、上記実施形態で説明したインペラを備える溶湯ポンプを用いたものである。
溶湯直接圧延におけるロールの回転速度は1.2m/minに設定した。
作製したマグネシウム合金鋳造板について以下の評価を行なった。
【0027】
(EPMA面分析によるAl検出量)
上記により作製した供試材から試験片を切り出し、圧延方向に平行な厚さ断面を出し、この断面をバフ研磨し、鏡面加工した。そして、鏡面加工した断面において、溶湯直接圧延時に上ロールと接していた面から2mmの位置でEPMA面分析を行った。装置には日本電子(株)製のJXA−8900RLを用いた。分析条件は、加速電圧20kV、照射電流50nA、収集時間20ms、画素数250×250とした。セル境界上の検出量の値は、Al元素のカウント数で求めた。その結果を表1に示す。
【0028】
(表面性状)
上記により作製した供試材について、表裏両面を0.25mmずつ研磨し、硝酸10%の水溶液中で20秒間酸洗処理を行ない、目視による表面の外観観察から表面性状を評価した。表面にスジ状の欠陥が観察されるものは×、何も観察されず、良好な表面性状を示すものは○として表1に示した。
【0029】
得られたマグネシウム合金鋳造板は、その後、熱間圧延、温間圧延を行い、板厚0.6mmの合金板の作製も行った。
【0030】
【表1】

【符号の説明】
【0031】
1 溶解保持炉
2 桶
3 溶湯ポンプ
4 ノズル
5 双ロール
6 帯状板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mn:0.1〜0.4%、Al:0.5〜2.7%を含有し、さらにSr、Ca、REの1種以上を含有し、かつ、Al、Mn、Ca、Sr、REの合計質量%が1.0〜3.2%の範囲内にあり、残部がMgおよび不可避不純物からなる組成を有し、EPMA面分析におけるセル境界上のAl検出量の値が40以下であることを特徴とする表面性状に優れるマグネシウム合金鋳造板。
【請求項2】
請求項1に記載の組成を有するマグネシウム合金を溶解し、その溶湯を溶湯直接圧延により厚み2.5〜10mmの帯状板に圧延することを特徴とする表面性状に優れるマグネシウム合金鋳造板の製造方法。
【請求項3】
請求項1のマグネシウム合金鋳造板を熱間圧延または熱間および温間圧延して製造した表面性状に優れるマグネシウム合金板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−122112(P2012−122112A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275406(P2010−275406)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】