説明

表面腐食性縫合糸

【課題】棘付き縫合糸に表面腐食性ポリマーを組み込み、縫合糸の特性が必要な強度および適切な質量損失を提供し、創傷治癒プロセスを可能にすること。
【解決手段】表面腐食性材料からなる棘付き外科手術用縫合糸を提供し、分解速度が増加した棘付き縫合糸を提供する。少なくとも1つの疎水性コアを少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルと接触させて、少なくとも1つのマクロマーを形成する工程;該少なくとも1つのマクロマーを少なくとも1つの二酸スペーサーと接触させて、表面腐食性材料を形成する工程;ならびに該表面腐食性材料から縫合糸を形成する工程であって、該縫合糸が、近位端および遠位端を有する細長本体を備える、工程を包含する、プロセスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2007年2月9日に出願された米国特許出願番号11/673,073の一部継続出願である。この米国特許出願の全内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、調節可能な表面腐食速度を有する表面腐食性縫合糸に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連分野の背景)
棘付き縫合糸(これらは一般に、従来の縫合糸と同じ材料から作製される)は、従来の縫合糸と比較して、創傷を閉鎖することについての数個の利点を与える。棘付き縫合糸は、1つ以上の間隔を空けた棘を有する細長本体を備え、これらの棘は、この縫合糸本体の表面から、この本体の長さ方向に沿って突出している。これらの棘は、組織を通る一方向への棘付き縫合糸の通過を可能にするが、逆方向への棘付き縫合糸の移動に抵抗するように、配置される。従って、棘付き縫合糸の1つの利点は、外科医により結び目が結ばれることが少ないので、創傷を閉鎖する時間が短縮されることであった。
【0004】
棘付き縫合糸は、美容手順、腹腔鏡手順および内視鏡手順における使用について公知である。棘付き縫合糸を使用することによって、創傷内で縫合糸が滑ることを減らしながら、組織に張力を加えることが可能になる。従来の縫合糸と同様に、棘付き縫合糸は、外科手術用針を使用して、組織に挿入され得る。
【0005】
組織型および創傷型、患者の健康状態および対応する治癒速度に依存して、縫合糸が患者に存在する必要がある最適時間が存在する。現行の縫合糸は、所定の期間にわたって強度を提供するが、縫合糸の塊は、身体がもはや縫合糸が存在することを必要としなくなった後に、依然として数週間にわたって存在する。例えば、縫合糸は、10日間にわたって強度を提供し得るが、56日目まで、身体によって完全には吸収されない。この異物は、縫合糸強度が必要とされた後もかなり分解し続けるので、治癒を妨害し得る。従って、棘付き縫合糸に表面腐食性ポリマーを組み込み、縫合糸の特性が必要な強度および適切な質量損失を提供し得、創傷治癒プロセスを可能にすることが有利であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
少なくとも1つの疎水性コアを少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルと接触させて、少なくとも1つのマクロマーを形成する工程;
該少なくとも1つのマクロマーを少なくとも1つの二酸スペーサーと接触させて、表面腐食性材料を形成する工程;ならびに
該表面腐食性材料から縫合糸を形成する工程であって、該縫合糸が、近位端および遠位端を有する細長本体を備える、工程、
を包含する、プロセス。
(項目2)
複数の表面特徴を作製することによって、前記縫合糸の表面腐食速度を調節する工程をさらに包含する、上記項目に記載のプロセス。
(項目3)
前記複数の表面特徴が、前記細長本体の表面積を改変する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目4)
前記複数の表面特徴が、棘、鉤、掛金、突出部、葉、歯、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目5)
前記複数の表面特徴が、前記細長本体から、前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に向かって突出する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目6)
前記表面特徴と前記細長本体との間に約90°未満の挟角を有する前記複数の表面特徴を形成する工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目7)
前記少なくとも1つの疎水性コアが、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、およびこれらの組み合わせ. からなる群より選択されるアルカンジオールである、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目8)
前記少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルが、乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、グリコール酸、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目9)
前記細長本体の前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に針を取り付ける工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目10)
生体吸収性ポリマーを含有するコーティングを前記縫合糸の少なくとも一部分に塗布する工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目11)
前記縫合糸が、生物活性剤または薬物をさらに含有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目12)
前記生物活性剤が、殺生物剤、抗生物質、抗菌剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせを含有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目13)
少なくとも1つの疎水性コアを少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルと接触させて、少なくとも1つのマクロマーを形成する工程;
該少なくとも1つのマクロマーを少なくとも1つの二酸スペーサーと接触させて、表面腐食性材料を形成する工程;
該表面腐食性材料から縫合糸を形成する工程であって、該縫合糸は、近位端および遠位端を有する細長本体を備える、工程;ならびに
複数の表面特徴を該細長本体上に形成する工程、
を包含する、プロセス。
(項目14)
前記複数の表面特徴が、棘、鉤、掛金、突出部、葉、歯、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目15)
前記複数の表面特徴が、前記細長本体から、前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に向かって突出しており、そして該表面特徴と該細長本体との間に、約90°未満の挟角を形成している、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目16)
前記少なくとも1つの疎水性コアが、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるアルカンジオールである、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目17)
前記少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルが、乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、グリコール酸、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目18)
前記細長本体の前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に針を取り付ける工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目19)
生体吸収性ポリマーを含有するコーティングを、前記縫合糸の少なくとも一部分に塗布する工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目20)
前記縫合糸が、生物活性剤または薬物をさらに含有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目21)
前記生物活性剤が、殺生物剤、抗生物質、抗菌剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせを含有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
【0007】
(摘要)
表面腐食性材料からなる棘付き外科手術用縫合糸が提供される。分解速度が増加した棘付き縫合糸が提供される。
【0008】
(要旨)
本開示のプロセスは、少なくとも1つの疎水性コアを少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルと接触させて、少なくとも1つのマクロマーを形成する工程、この少なくとも1つのマクロマーを少なくとも1つの二酸スペーサーと接触させて、表面腐食性材料を形成する工程、ならびにこの表面腐食性材料から縫合糸を形成する工程を包含し得、この縫合糸は、近位端および遠位端を有する細長本体を備える。
【0009】
ある実施形態において、本開示のプロセスは、少なくとも1つの疎水性コアを少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルと接触させて、少なくとも1つのマクロマーを形成する工程、この少なくとも1つのマクロマーを少なくとも1つの二酸スペーサーと接触させて、表面腐食性材料を形成する工程、この表面腐食性材料から縫合糸を形成する工程であって、この縫合糸は、近位端および遠位端を備える細長本体を有する、工程;ならびに複数の表面特徴をこの細長本体上に形成する工程を包含し得る。
【0010】
本開示の種々の実施形態が、図面を参照しながら本明細書中以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本開示に従う表面腐食性材料の概略図である。
【図2】図2は、本開示に従う表面腐食性ポリマーの合成の流れ図である。
【図3】図3は、本開示に従う一方向性表面腐食性縫合糸の斜視図である。
【図4】図4は、本開示に従う二方向性棘付き縫合糸の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(詳細な説明)
本明細書中に、本体およびこの本体から延びる複数の表面特徴(例えば、棘、鉤、掛金、突出部、葉、歯、および/またはこれらの組み合わせ)を備える表面腐食性外科手術用縫合糸が記載される。この縫合糸は、一方向性縫合糸(その近位/針端を介して組織に貫入するように構成される)であっても、二方向性縫合糸(細長本体のいずれかの端部を介して組織に貫入するように構成される)であってもよい。
【0013】
この縫合糸は、表面腐食性材料から形成される。本明細書中で使用される場合、用語「表面腐食性」とは、分解が縫合糸の全体のバルク腐食からではなく、縫合糸の表面から起こる、縫合糸および/または縫合糸が作製される材料の分解プロセスをいう。バルク腐食は、不均衡な質量損失をもたらし、その結果、強度損失後の長期間にわたって、塊が残される。
【0014】
縫合糸を形成するために利用される材料は、所望の表面腐食性プロフィール、質量損失プロフィール、強度保持、および張力特性をこの縫合糸に提供するように、選択される。本開示の縫合糸は、調節可能な表面腐食速度を有し、この表面腐食速度は、縫合糸本体の表面積を改変することによって、すなわち、縫合糸の表面に配置される表面特徴の数、構造、形状、および角度を調節することによって、制御される。
【0015】
これらの表面特徴は、この細長本体から、近位端または遠位端のうちの一方に向かって、表面特徴と縫合糸本体との間の約90°未満の挟角で突出して、組織を通る縫合糸の一方向への移動を可能にし得、一方で、逆方向への移動を防止および/または制限し得る。
【0016】
縫合糸の分解の特定の速度は、創傷治癒のために必要とされる時間に基づき得、この時間の中では、質量損失の速度は強度損失の速度に比例し、その結果、縫合糸強度は、この縫合糸が所望の時間枠内で吸収されるまで維持される。ある実施形態において、質量損失および強度損失は、互いの約30日以内で起こり得る。表面腐食性ポリマーおよび本開示の方法を利用して、縫合糸の質量損失プロフィールは、この縫合糸が最も適切な時点で完全に分解するように最適化され得、この完全な分解は、特定の主要な外科手術(例えば、美容手順、腹腔鏡手順、および内視鏡手順)において、重要であり得る。
【0017】
本開示の表面腐食性縫合糸は、任意の適切な表面腐食性ポリマーから作製され得、この表面腐食性ポリマーとしては、疎水性成分(例えば、1,6−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン(CPH))および親水性成分(例えば、1,8−ビス−(p−カルボキシフェノキシ)−3,6−ジオキサオクタン(CPTEG)または他のオリゴマーポリエチレングリコール(PEG)含有単位)を有するポリ酸無水物および酸無水物コポリマーが挙げられ得る。
【0018】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、ポリサリチル酸、ポリジフルニサル、ポリヒドロキシブチレートおよびポリヒドロキシアルカノエート、ポリオルトエステル、ポリ(α−ヒドロキシエステル)、バレロラクトン、N−トリメチルキトサンクロリド、およびジオキサノンから作製され得る。分解性ラクトンは、シリコーン油/オリゴマー(ヒドロキシル末端を有するもの)の化学開始剤としての使用、またはラクトンモノマーとの共重合のためのD5環状モノマーの使用を具体化し得る。さらに、別の実施形態は、環状ラクトンモノマーとオリゴマー/環状ビスフェノールAとの陰イオン性開環重合を使用して、分解性フェニル化カーボネート(すなわち、フェノールを有するTMC)を調製することを包含する。
【0019】
ある実施形態において、表面腐食性縫合糸は、α−ヒドロキシ酸(PHA)(例えば、乳酸およびグリコール酸)から誘導されたポリマーから形成され得る。具体的には、表面腐食は、PHAにおいて、様々な親油性の構築ブロックを連結することにより、ポリマー骨格の疎水性を変えることによって、達成され得る。ある実施形態において、様々な疎水性−親油性特性を有するマクロマージオールが、二酸スペーサーと化学的に結合して、適切なPHAを生成する。このPHAは、Xuら、「Towards Developing Surface Eroding Poly(α−hydroxy acids)」,Biomaterials 27 (2006),3021−3030(その全内容は、本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、純粋なポリ(L−乳酸)(PLLA)とは異なる熱特性および物理特性(表面腐食挙動が挙げられる)を示す。
【0020】
本開示の縫合糸を形成するのに適切な表面腐食性ポリマーは、疎水性スペーサーで相互接続された複数のマクロマーを含む。このマクロマーは図1に示されており、そしてコア領域、およびこのコア領域から延びる複数の鎖を備える。このコア領域は、疎水性開始剤コア、およびこの疎水性開始剤コアから分岐する複数の親水性単位を備える。この開始剤コアは、α−ヒドロキシル末端基とω−ヒドロキシル末端基とを有する任意のアルカンジオール(例えば、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、および1,12−ドデカンジオールなど)であり得る。
【0021】
親水性ユニットは、任意の適切な環状α−ヒドロキシ酸エステル(例えば、乳酸、L−ラクチドとD−ラクチドとメソラクチドとのラクチド混合物、グリコール酸、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン (1,4−ジオキサン−2−オン), トリメチレンカーボネート、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オン、およびこれらの組み合わせ)であり得る。
【0022】
ある実施形態において、開始剤コアは、環状α−ヒドロキシル酸モノマーと反応して、ヒドロキシル末端基を有するマクロマージオールを与える。図2を参照すると、アルカンジオールと環状α−ヒドロキシル酸エステルとの反応は、エステル交換触媒(例えば、2−エチルヘキサン酸スズ(II))の存在下での開環反応である。アルカンジオール開始剤の使用は、アルカンコアおよび末端ヒドロキシル基を有する対称マクロマージオールの形成をもたらし、その重合度は、環状α−ヒドロキシル酸エステルとアルカンジオールとのモル比に依存する。開始剤コアの炭素鎖長およびその環状α−ヒドロキシル酸エステルとの比を変化させることによって、様々な親油性特性を有するマクロマージオールが生成され得る。
【0023】
表面腐食性ポリエステルは、縮合重合反応を使用して、上記マクロマーのうちの少なくとも2つを、様々な疎水性二酸スペーサー(例えば、二酸二塩化物)と、トリエチルアミンの存在下で連結することによって、得られる。適切な二酸塩化物としては、塩化アジポイル、塩化スベロイル、および二塩化ドデカンジオールなどが挙げられる。スペーサー(時々、疎水性スペーサーと称される)は、この少なくとも2つの異なるマクロマーからの少なくとも2つの親水性分岐と自由に反応する。得られるポリエステルは、アルカンジオールから形成された疎水性コアを備え、この疎水性コアは、二酸二塩化物から形成された疎水性スペーサーを隔てて、環状α−ヒドロキシル酸エステルから形成された親水性単位により囲まれる。これらの表面腐食性ポリエステルの例としては、ポリラクチド、ポリグリコリド、トリメチレンカーボネート、ポリカプロラクトン、およびポリジオキサノンなどが挙げられる。
【0024】
図1に示される一般構造を有するポリエステルポリマーは、従来の生体適合性ポリエステル(例えば、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)およびポリ(L−乳酸)(PLLA))とは異なる表面腐食性特性を示し、この表面腐食性特性は、図1に示される一般構造を有するポリエステルポリマーを、表面腐食性縫合糸を形成するのに適切にする。いずれの特定の理論によっても制限されないが、本開示によるポリエステルポリマーの独特の表面腐食性特性は、このポリエステル内の疎水性単位と親水性単位との組み合わせに起因すると考えられる。具体的には、対応するマクロマージオールの低下した結晶性は、腐食の視点から有利であると考えられる。なぜなら、結晶性ドメインは、従来のポリ(乳酸−co−グリコール酸)およびポリ(L−乳酸)の非晶質樹脂と比較して、ゆっくりと分解するからである。PLGAおよびPLLAと比較した場合の、ポリエステルのかなり疎水性の性質に起因して、その分解プロセスは、優先的に表面に限られる。従って、特定の前駆体(すなわち、アルカンジオールおよび環状α−ヒドロキシル酸モノマー)の選択は、所望の表面腐食プロフィールを達成するための、得られるポリエステルの結晶性および分解を誂えるために使用され得る。
【0025】
本開示の縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメント編組であってもよい。本開示の縫合糸を形成するために使用される繊維は、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、押出し、成形および/または溶媒キャスティング)を使用して形成され得る。ある実施形態において、これらの繊維は、従来の型の押し出し機ユニット(例えば、米国特許第6,063,105号;同第6,203,564号;および同第6,235,869号に開示されるものであり、これらの各々の全内容は、本明細書中に参考として援用される)を通して押し出され得る。
【0026】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、1つより多くの繊維から作製された糸を備え得、この糸は、同じ材料または異なる材料の複数の繊維を含み得る。これらの縫合糸が複数の繊維から作製される場合、その縫合糸は、任意の公知の技術(例えば、編組、製織または編成)を使用して作製され得る。これらの繊維はまた、組み合わせられて、不織縫合糸を製造し得る。これらの繊維自体は、縫合糸形成プロセスの一部として、糸を形成するために、延伸され得るか、配向され得るか、捲縮され得るか、撚糸され得るか、混繊され得るか、空気で絡まされ得る。1つの実施形態において、本開示のマルチフィラメント縫合糸は、編組により製造され得る。
【0027】
本開示に従って使用するのに適切な棘付き縫合糸および配置方法としては、米国特許第5,931,855号および同第6,599,310号、ならびに米国特許出願公開第2003/0074023号、同第2003/0074023号、同第2004/0088003号、同第2004/0060409号、および同第2004/0060410号に記載されるものが挙げられ、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0028】
棘は、当業者の知識の範囲内である任意の方法を利用して、縫合糸の本体の表面に形成され得る。このような方法としては、切り込みおよび成形などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、棘は、鋭角の切込みを縫合糸本体に直接作製することにより形成され得、この切り込み部分は、外向きに押されてこの縫合糸の本体から離される。縫合糸本体にこのように形成された棘の深さは、縫合糸材料の直径および切り込みの深さに依存し得る。いくつかの実施形態において、軸方向に間隔を空けた複数の棘を、縫合糸フィラメントの外側表面に切り込むのに適したデバイスは、この切り込み操作を実施するために、切断床、切断床万力、切断テンプレート、および刃アセンブリを使用し得る。操作において、この切り込みデバイスは、軸方向に間隔を空けた複数の棘を、同じ構成または無作為な構成で、互いに対して異なる角度で作製する能力を有する。棘を切り込むのに適した他の方法は、レーザーまたは手動方法の使用を包含する。縫合糸はまた、射出成形、押出し、スタンピングなどによって形成され得る。縫合糸は、任意の数の望ましい予め切断された長さおよび予め形成された湾曲で包装され得る。
【0029】
ある実施形態において、組織内への貫入を容易にするために、針が縫合糸に取り付けられ得る。本開示の縫合糸への針の取り付けを容易にする目的で、従来の先端処理剤(tipping agent)が、編組に塗布され得る。縫合糸の2つの先端処理された端部は、この縫合糸の各端部に針を取り付けて、いわゆる両端針付き縫合糸(double armed suture)を提供するために、望ましくあり得る。針の取り付けは、任意の従来の方法(例えば、クリンプ、スエージ加工など)によってなされ得、その方法としては、米国特許第5,133,738号;同第5,226,912号;および同第5,569,302号(これらの開示は本明細書中に参考として援用される)に記載される方法が挙げられる。縫合糸は、種々のサイズ、長さ、直径を有し得、針などを組み込み得、湾曲していても、まっすぐであっても、その他であってもよい。さらに、縫合糸は、任意の数の望ましい予め切断された長さおよび予め形成された湾曲で、包装され得る。
【0030】
図3は、一方向性の表面腐食性縫合糸10を示す。縫合糸10は、細長本体14、およびこの本体の外周から延びる複数の表面特徴12、およびこの縫合糸の遠位端に配置された針16を備える。ある実施形態において、表面特徴は、棘、鉤、掛金、突出部、葉、歯、および/またはこれらの組み合わせであり得る。ある実施形態において、表面特徴12の全ては、縫合糸10が組織を通って一方向に移動することを可能にし、そして組織を通って逆方向に移動することに抵抗するように、配置され得る。表面特徴12は、縫合糸10の本体14に向かって撓み可能である。表面特徴12は、針16の移動方向への、組織を通る縫合糸10の移動を可能にするが、一般に、逆方向には硬く、この方向の逆への縫合糸10の移動を防止し、そして/または制限する。
【0031】
図4は、二方向性の表面腐食性縫合糸110を示す。縫合糸110は、第一の本体部分114aおよび第二の本体部分114bを有する細長本体114と、組織に貫入するための第一の針116aおよび第二の針116bと、本体114の外周から延びる複数の表面特徴112aおよび112bとを備える。図3に関連して上で議論されたように、これらの表面特徴は、棘、鉤、掛金、突出部、葉、歯、および/またはこれらの組み合わせであり得る。表面特徴112aおよび112bは、任意の適切なパターン(例えば、螺旋パターン、縫合糸110により規定される長手方向軸に対して平行な列、リングなど)で配置され得る。
【0032】
表面特徴112aは、縫合糸の第一の端部が組織を通って一方向に移動することを可能にするように、第一の本体部分114a上に配置され得、一方で、表面特徴112bは、縫合糸の第二の端部が逆方向に移動することを可能にするように、第二の本体部分114b上に配置され得る。具体的には、第一の本体部分114a上の表面特徴112aは、縫合糸110が組織を通って第一の針116aの方向に移動することを可能にし、そして縫合糸110が第二の針116bの方向に移動することを防止する。逆に、本体の第二の部分114b上の表面特徴112bは、縫合糸110が組織を通って第二の針116bの方向に移動することを可能にし、そして縫合糸110が第一の針116aの方向に移動することを防止する。
【0033】
表面腐食速度は、縫合糸(例えば、縫合糸10および縫合糸110)の表面積に比例する。従って、縫合糸の表面腐食速度は、この縫合糸の表面積を改変することによって調節され得る。具体的には、このことは、複数の表面突出物(例えば、棘および上に列挙された他の型)を形成することによって、達成され得る。表面積はまた、縫合糸の表面に、種々の溝および/または凹部を備えることによって調節され得る。縫合糸の表面に配置された表面特徴は、表面積を増加させ、これは次に、表面腐食速度を増加させる。従って、表面特徴の数の増加はまた、次に、腐食速度を増加させる。
【0034】
表面腐食速度は、表面特徴の数、構成、間隔を変化させることによって、さらに微調整され得る。これらの特性はまた、縫合糸が使用される組織、ならびに縫合糸を形成するために利用される材料の組成および幾何学的形状に基づいて、調節され得る。腐食速度はまた、特定のサイズ、構造、形状、表面積、および突出角度(例えば、表面特徴と縫合糸本体との間の挟角)を有する表面特徴を選択することによって、調節され得る。例えば、より大きいか、または丸へし型の先端の表面特徴は、類似の表面積を有する、より小さいかまたはより薄い表面特徴よりも遅く腐食し、丸へし型の先端の表面特徴が組織に付着したままになることを可能にする。ある実施形態において、同じ縫合糸上での大きい表面特徴と小さい表面特徴との組み合わせは、例えば、縫合糸が異なる層構造を有する組織を修復する際に使用される場合に、有利であり得る。同じ縫合糸での大きい表面特徴と小さい表面特徴との組み合わせ(ここで棘のサイズは各組織層に対して誂えられている)の使用は、最大の繋留特性を確実にし得る。ある実施形態において、図3に図示されるような一方向性縫合糸は、大きい表面特徴と小さい表面特徴との両方を有し得る。他の実施形態において、図4に図示されるような二方向性縫合糸は、大きい表面特徴と小さい表面特徴との両方を有し得る。
【0035】
ある実施形態において、本開示の縫合糸を形成するために利用される表面腐食性材料と表面との両方が、縫合糸の表面腐食速度に影響を与え得る。従って、本開示の縫合糸は、表面腐食性材料および/または表面特徴を欠く縫合糸と比較して、約1%〜約30%増加した表面腐食速度、ある実施形態において、表面腐食性材料および/または表面特徴を欠く縫合糸と比較して、約2%〜約15%増加した表面腐食速度、ある実施形態において、表面腐食性材料および/または表面特徴を欠く縫合糸と比較して、約1%〜約30%増加した表面積を有し得る。
【0036】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、その構造的一体性(すなわち、元の強度の80%)を、移植後、およそ約3日〜約28日、ある実施形態においては約5日〜約21日、他の実施形態においては約7日〜約14日にわたる期間にわたって維持し得る。いくつかの実施形態において、表面腐食性縫合糸の本体への表面特徴の形成は、縫合糸の分解時間を、表面特徴を有さない表面腐食性縫合糸と比較して、約1%〜約25%、ある実施形態においては約2%〜約20%、他の実施形態においては約3%〜約10%増加させるために利用され得る。
【0037】
本開示に従う表面腐食性材料から製造された縫合糸は、移植後、その構造的一体性(例えば、元の強度の約80%)を、使用された特定の材料の特徴に依存して、所定に期間にわたって維持する。このような特徴としては、例えば、材料の選択、モノフィラメント対マルチフィラメント、加工条件(例えば、共重合反応の速度、反応温度、圧力など)、ならびに得られた縫合糸の任意の後処理(すなわち、乾燥、コーティング、滅菌など)が挙げられる。
【0038】
本開示の縫合糸はまた、生物活性剤を含有し得る。生物活性剤は、ポリマー樹脂中に含浸されても、押出しプロセス中に合わせられても、表面に塗布されてもよい。ある実施形態において、この生物活性剤は、縫合糸の表面に配置され得、例えば、米国仮出願番号60/842,763(これは、本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、棘と縫合糸本体との間に局在し得る。他の実施形態において、生物活性剤は、ポリマー鎖またはモノマー単位に、他の様式で組み込まれ得る(すなわち、ポリマー薬物)。
【0039】
適切な生物活性剤としては、例えば、殺生物剤、抗生物質、抗菌剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、および創傷修復剤など、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0040】
生物活性剤としては、患者にとって有利であり、そして創傷治癒プロセスを促進する傾向がある物質が挙げられる。例えば、縫合糸は、縫合された部位で放出される生物活性剤を含み得る。例えば、生物活性剤は、それらの抗菌特性、創傷修復および/または組織成長を促進する能力、あるいは特定の適応症(例えば、血栓症)に対して、選択され得る。ある実施形態において、このような剤の組み合わせが、本開示の縫合糸に塗布され得るか、または本開示の縫合糸に組み込まれ得る。
【0041】
用語「抗菌剤」とは、本明細書中で使用される場合、身体が病原性(疾患を引き起こす)微生物を破壊するかまたはこれらの微生物に抵抗することを補助する剤を包含する。抗菌剤としては、抗生物質、防腐剤、消毒薬およびこれらの組み合わせが挙げられる。組織内にゆっくりと放出される抗菌剤(例えば、広域抗生物質(硫酸ゲンタマイシン、エリスロマイシンまたは誘導体化糖ペプチド))が、外科手術部位または外傷創傷部位の臨床的感染および無症状感染と闘うことを補助するために、この様式で塗布され得る。ある実施形態において、適切な抗菌剤は、1種以上の溶媒中に可溶性であり得る。
【0042】
ある実施形態において、本開示による縫合糸はまた、ポリマー薬物(例えば、ポリジフルニサル、ポリアスピリン、およびタンパク質治療剤)ならびに生物学的に改変された(例えば、タンパク質、ペプチド)分解性ポリマー;ならびにこれらのコポリマーおよび組み合わせから形成され得るか、またはこれらを組み込み得る。
【0043】
抗菌剤として使用され得る抗生物質のクラスは、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン類;リファンピンなどのリファマイシン類;エリスロマイシンなどのマクロライド類;ナフシリンなどのペニシリン類;セファゾリンなどのセファロスポリン類;イミペネムおよびアズトレオナムなどのβ−ラクタム抗生物質;ゲンタマイシンおよびTOBRAMYCIN(登録商標)などのアミノ配糖体;クロラムフェニコール;スルファメトキサゾールなどのスルホンアミド類;バンコマイシンなどの糖ペプチド類;シプロフロキサシンなどのキノロン類;フシジン酸;トリメトプリム;メトロニダゾール;クリンダマイシン;ムピロシン;アンホテリシンBなどのポリエン類;フルコナゾールなどのアゾール類;ならびにスルバクタムなどのβ−ラクタムインヒビターを含む。
【0044】
抗菌剤として利用され得る防腐剤および消毒薬の例としては、ヘキサクロロフェン;クロルヘキシジンおよびシクロヘキシジンなどの陽イオン性ビグアナイド類;ヨウ素、およびポビドン−ヨウ素などのヨードフォア;PCMX(すなわち、p−クロロ−m−キシレノール)およびトリクロサン(triclosan)(すなわち、2,4,4’−トリクロロ−2’ヒドロキシ−ジフェニルエーテル)などのハロ置換フェノール化合物;ニトロフラントインおよびニトロフラゾンなどのフラン医療調製物;メテナミン;グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドなどのアルデヒド類;ならびにアルコールが挙げられる。いくつかの有用な実施形態において、抗菌剤のうちの少なくとも1つは、トリクロサンなどの防腐剤であり得る。
【0045】
創傷治癒および/または組織成長を促進するために、これらの目的のうちのいずれかまたは両方を達成することが既知である1種以上の生物活性剤もまた、この縫合糸に、創傷修復剤または組織成長剤として組み込まれ得る。このような物質としては、数種のヒト増殖因子またはヒト成長因子(HGF)のうちのいずれか、マガイニン、血栓症を引き起こすための組織プラスミノーゲンアクチベーターまたは腎臓プラスミノーゲンアクチベーター、組織損傷性フリーラジカルを捕捉するためのスーパーオキシドジスムターゼ、がん治療のための腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子、インターフェロン、免疫系を増強するためのインターロイキン−2または他のリンホカイン、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。なおさらに、モノマー薬物またはマルチマー薬物の縮合重合から調製された表面腐食性ポリマー薬物としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、サリチル酸およびジフルニサル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本開示に従う縫合糸はまた、例えば、生物学的に受容可能な可塑剤、酸化防止剤および着色剤を含有し得、これらは、本開示の縫合糸を形成するために利用されるフィラメント中に含浸され得るか、またはこの縫合糸上のコーティングに含有され得る。
【0047】
上記のように、生物活性剤は、ポリマー樹脂に含浸され得るか、またはその表面のコーティングされ得る。生物活性剤は、当業者の知識の範囲内である任意の方法(例えば、浸漬、噴霧、蒸着、およびブラッシングなどが挙げられる)を利用して、本開示の縫合糸に塗布され得る。ある実施形態において、抗菌剤などの生物活性剤は、樹脂と合わせられて押し出され得る。
【0048】
他の実施形態において、縫合糸またはその一部分は、生体適合性材料でコーティングされ得、この生体適合性材料は、所望の取り扱い特性を与え得る。しかし、コーティングの追加は、縫合糸の強度および張力特性に有害な影響を与えるべきではない。利用され得る適切なコーティングは、当業者の知識の範囲内であり、例えば、米国特許出願公開第20040153125号(その全開示は、本明細書中に参考として援用される)に開示されるもののような生分解性コーティングが挙げられる。
【0049】
所定の成分の「有効な抗菌量」とは、その成分が細菌の成長を妨げて創傷部位の汚染を低減させるかまたは回避する量である。
【0050】
ある実施形態において、生体適合性外科手術用移植可能デバイスのための抗菌分解性コーティング組成物は、安価であり、生体適合性であり、そして過剰な拡散を受けない。「生体適合性」とは、材料が特定の用途において適切な宿主応答で機能する能力を意味する(DF Williams 1987)。適切な宿主応答としては、血液凝固に対する抵抗、細菌コロニー形成に対する抵抗、および合併症を伴わない正常な治癒が挙げられる。生体適合性の物品は、特定の個体において、ある程度の臨床的に認容可能な量の毒性(刺激が挙げられる)および他の有害な反応に関連し得ることが想定される。
【0051】
このようなコーティングは、縫合糸に、改善された取扱適性、抗菌活性および強度損失(これは、質量損失に比例する)という所望の特性の組み合わせを提供し得る。
【0052】
上記抗菌剤に加えて、いくつかの実施形態において、このコーティングは、脂肪酸金属塩を含有し得、この脂肪酸金属塩は、この縫合糸に抗菌特性を与え得る。
【0053】
生物活性剤がコーティングの一部として含有される場合、この生物活性剤およびコーティング成分は、別々の溶媒に添加され得、次いで、得られた溶媒混合物が合わせられて、コーティング溶液を形成し得る。他の実施形態において、この生物活性剤およびコーティング成分は、一緒に合わせられ得、次いで、溶媒と混合されて、コーティング溶液または任意の組み合わせを形成し得る。
【0054】
このコーティングは、任意の適切なプロセス(例えば、縫合糸をコーティング混合物の溶液に通すこと、ブラシもしくは他のコーティング溶液アプリケータに通すこと、または縫合糸コーティング溶液を分配する1つ以上のスプレーノズルに通すこと)によって、縫合糸に塗布され得る。ある実施形態において、塩化メチレンと、ヘキサンと、エタノールとの混合物が、溶媒として使用され得る。このコーティング溶液で濡らされた縫合糸は、必要に応じて、この溶媒を気化させて除去するために充分な時間および温度で、乾燥オーブンに通され得るか、または乾燥オーブン内に保持され得る。所望であれば、この縫合糸コーティング組成物は、必要に応じて、さらなる生物活性剤または上記成分(例えば、色素、抗生物質、防腐剤、増殖因子、成長因子、抗炎症剤など)を含有し得る。
【0055】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、外科手術の場で縫合糸の可視性を増加させる目的で、染色され得る。縫合糸への組み込みに適した任意の色素が使用され得る。このような色素としては、カーボンブラック、骨炭、D&C Green No.6、およびD&C Violet No.2が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
得られる縫合糸の分解速度は、数個の要因(コーティング組成物の特性および塗布される量が挙げられる)によって影響を受け得る。いくつかの実施形態において、所望の分解速度を得るために、本開示の縫合糸をさらに処理することが望ましくあり得る。例えば、いくつかの実施形態において、所望の分解速度を得るために、本開示の縫合糸を加熱することが望ましくあり得る。縫合糸の加熱はまた、これらの縫合糸を形成するために利用されたポリマー中に残っているモノマーを除去し得る。縫合糸を加熱するのに適した温度は、約100℃〜約160℃、ある実施形態においては約120℃〜約143℃であり得、約2時間〜約24時間、ある実施形態においては約8時間〜約16時間の時間にわたり得る。いくつかの実施形態において、加熱は、減圧中で実施され得る。
【0057】
他の実施形態において、本開示の縫合糸の分解速度は、これらの縫合糸をプラズマ処理(低温ガスプラズマが挙げられる)に、大気圧よりかなり低い圧力で、充分な時間にわたって曝露することによって制御され得る。このような方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、米国特許第5,236,563号(その全開示は、本明細書中に参考として援用される)に開示される処理が挙げられる。ある実施形態において、この表面処理は、約100Å〜約1500Åの深さまでの表面層を処理するのに足りる時間に限定され得る。
【0058】
いくつかの場合において、管状挿入デバイス(図示せず)が、本開示に従う縫合糸を組織に導入するために利用され得る。このような管状挿入デバイスは、管状本体(この管状本体内に、本開示の縫合糸が配置される)、ならびに遠位端および近位端を有し得る。使用において、本開示の縫合糸の尖った端部が、この管状挿入デバイスの遠位端で、挿入点において皮膚および組織などを通して押され得る。この縫合糸の尖った端部およびこの管状挿入デバイスの遠位端は、端点に達するまで組織に通して押される。次いで、この管状挿入デバイスの近位端が把持されて引かれ、この挿入デバイスが除去されて、縫合糸を適所に残す。
【0059】
本開示の縫合糸を用いて組織を修復するための方法もまた提供される。本開示の縫合糸は、任意の美容方法、内視鏡方法または腹腔鏡方法において、利用され得る。さらに、本開示の縫合糸は、1つの組織を別の組織に付着させるために利用され得る(創傷閉鎖が挙げられるが、これらに限定されない)。本明細書中で使用される場合、用語「創傷」とは、ヒトの皮膚または他の身体組織における、外科手術用切開部、切断部、裂傷、切断された組織または不慮の創傷、あるいは、縫合、ステープル留め、または別の組織接続デバイスの使用が必要とされ得る他の状況を意味する。本明細書中で使用される場合、用語「組織」は、皮膚、骨、筋肉、器官などの組織、ならびに他の軟組織(例えば、腱、靭帯、および筋肉)を包含する。
【0060】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、結び目の必要なしに適所に保持され得る。このような場合、インビボに配置された本開示の縫合糸の周囲に位置する組織は、組織を所望の位置に保持することを増強するために望ましい位置へ、物理的に取り扱われ得るかまたは操作され得る。ある実施形態において、本開示の縫合糸の周囲に位置する組織の物理的取扱は、縫合糸上に位置する任意の医療剤(本開示の縫合糸の棘と本体との間の角に見出される任意の医療剤が挙げられる)の放出を増強し得る。他の実施形態において、組織を通しての「S」縫合法または「J」縫合法が、表面特徴を働かせて、組織を捕捉し、機械的な力を発生させて、この縫合糸が後方に移動することを防止し、そして結び目なしで縫合糸を保持する。用語「働かせる」とは、表面特徴を縫合糸から外向きに突出させることを意味する。
【0061】
例えば、縫合糸が創傷を修復するために組織において使用される場合、この縫合糸は、この創傷の両側で組織に通される。この縫合糸の一端の尖端、またはいくつかの実施形態において、針が、創傷の第一の側に挿入され、その結果、この尖端または針がこの組織を穿刺し、そしてこの一端に対応するこの縫合糸の端部の表面特徴が、本体に向かって撓み、この縫合糸が挿入方向でこの組織を通って移動することを容易にする。この縫合糸の他端もまた、同じ様式で、この創傷の片側に挿入され得、そして組織を通して進められ得る。次いで、この創傷の両側または両面が、この組織内の縫合部分に沿って動かされて一緒にされ、この創傷を閉鎖する。この縫合糸の表面特徴は、治癒の間、この創傷の両側で周囲組織を把持し、そしてこの創傷の縁部を適所に維持する。次いで、この組織から突出する縫合糸の前端が切断されて処分される。1つの実施形態において、組織内のこの縫合糸の端部は、最初にこれらの端部にすぐ隣接する皮膚を押下し、そしてこの皮膚のすぐ近くで縫合糸本体を切断することによって、皮膚の表面下に置かれる。この皮膚は、持ち上がってこの縫合糸の端部を覆う。
【0062】
上記説明は多くの具体例を含むが、これらの具体例は、本開示の範囲に対する限定であると解釈されるべきではなく、単に、本開示の実施形態の例示であると解釈されるべきである。当業者は、添付の特許請求の範囲により規定されるような本開示の範囲および趣旨内で、他の多くの可能性を予測する。
【符号の説明】
【0063】
10 一方向性の表面腐食性縫合糸
12 表面特徴
14 縫合糸の本体
16 針
110 二方向性の表面腐食性縫合糸
112a、112b 表面特徴
114 細長本体
114a 第一の本体部分
114b 第二の本体部分
116a 第一の針
116b 第二の針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの疎水性コアを少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルと接触させて、少なくとも1つのマクロマーを形成する工程;
該少なくとも1つのマクロマーを少なくとも1つの二酸スペーサーと接触させて、表面腐食性材料を形成する工程;ならびに
該表面腐食性材料から縫合糸を形成する工程であって、該縫合糸が、近位端および遠位端を有する細長本体を備える、工程、
を包含する、プロセス。
【請求項2】
複数の表面特徴を作製することによって、前記縫合糸の表面腐食速度を調節する工程をさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記複数の表面特徴が、前記細長本体の表面積を改変する、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記複数の表面特徴が、棘、鉤、掛金、突出部、葉、歯、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記複数の表面特徴が、前記細長本体から、前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に向かって突出する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記表面特徴と前記細長本体との間に約90°未満の挟角を有する前記複数の表面特徴を形成する工程をさらに包含する、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記少なくとも1つの疎水性コアが、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、およびこれらの組み合わせ. からなる群より選択されるアルカンジオールである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルが、乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、グリコール酸、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記細長本体の前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に針を取り付ける工程をさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
生体吸収性ポリマーを含有するコーティングを前記縫合糸の少なくとも一部分に塗布する工程をさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記縫合糸が、生物活性剤または薬物をさらに含有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記生物活性剤が、殺生物剤、抗生物質、抗菌剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせを含有する、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
少なくとも1つの疎水性コアを少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルと接触させて、少なくとも1つのマクロマーを形成する工程;
該少なくとも1つのマクロマーを少なくとも1つの二酸スペーサーと接触させて、表面腐食性材料を形成する工程;
該表面腐食性材料から縫合糸を形成する工程であって、該縫合糸は、近位端および遠位端を有する細長本体を備える、工程;ならびに
複数の表面特徴を該細長本体上に形成する工程、
を包含する、プロセス。
【請求項14】
前記複数の表面特徴が、棘、鉤、掛金、突出部、葉、歯、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記複数の表面特徴が、前記細長本体から、前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に向かって突出しており、そして該表面特徴と該細長本体との間に、約90°未満の挟角を形成している、請求項13に記載のプロセス。
【請求項16】
前記少なくとも1つの疎水性コアが、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるアルカンジオールである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項17】
前記少なくとも1つのα−ヒドロキシ酸エステルが、乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、グリコール酸、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オン、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項13に記載のプロセス。
【請求項18】
前記細長本体の前記近位端および前記遠位端のうちの少なくとも一方に針を取り付ける工程をさらに包含する、請求項13に記載のプロセス。
【請求項19】
生体吸収性ポリマーを含有するコーティングを、前記縫合糸の少なくとも一部分に塗布する工程をさらに包含する、請求項13に記載のプロセス。
【請求項20】
前記縫合糸が、生物活性剤または薬物をさらに含有する、請求項13に記載のプロセス。
【請求項21】
前記生物活性剤が、殺生物剤、抗生物質、抗菌剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせを含有する、請求項20に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−40360(P2012−40360A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143583(P2011−143583)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】