説明

表面電荷分布の測定方法および表面電荷分布の測定装置

【課題】試料の表面に生じている電荷分布をミクロンオーダーの高分解能で測定することを可能とする。
【解決手段】試料23の表面電荷分布の測定方法。試料23をスポット状に帯電する帯電工程と、電位鞍点の電位の実測値を求める工程と、構造体モデルとそれに対応する仮の空間電荷分布とを選択する工程と、構造体モデルと仮の空間電荷分布から電位鞍点の空間電位ポテンシャルを算出する工程と、空間電位ポテンシャルと実測値とを比較し、誤差が所定の範囲内であるとき仮の空間電荷分布を試料23の空間電荷分布であると判定する工程と、判定された空間電位分布に基づき電磁場解析により試料23の表面電荷分布を算出する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来技術ではきわめて困難であった、感光体の表面に生じている電荷分布をミクロンオーダーの高分解能で測定する方法および測定装置に関するもので、特に、電子写真用感光体上に電子写真プロセスで起こるのと同等の条件で静電潜像を形成させ、その静電潜像を測定するのに有用なものである。
【0002】
電荷は、厳密には試料内に空間的に散らばっていることは周知の通りである。このため、ここで述べる「表面電荷」とは、電荷分布状態が、厚さ方向に比べて、面内方向に大きく分布している状態を指すものとする。なお、電荷には、電子だけでなく、イオンも含める。また、表面に導電部分があり、導電部分に電圧が印加されることにより、試料表面あるいはその近傍に電位分布が生じている状態であってもよい。
【背景技術】
【0003】
電子ビームによる静電潜像の観察方法としては、特許文献1に記載されている方法などがあるが、試料としては、LSIチップや静電潜像を記憶・保持できる試料に限定されている。すなわち、暗減衰を生じる通常の電子写真用感光体は測定することができない。通常の誘電体は電荷を半永久的に保持することができるので、電荷分布を形成後、時間をかけて測定を行っても、測定結果に影響を与えることはない。
【0004】
しかしながら、画像形成装置などに用いられている電子写真用感光体の場合は、抵抗値が無限大ではないので、電荷を長時間保持することができず、暗減衰が生じて時間とともに表面電位が低下してしまう。感光体が電荷を保持できる時間は、暗室であってもせいぜい数十秒である。
【0005】
従って、帯電・露光後に電子顕微鏡(SEM)内で観察しようとしても、その準備段階で静電潜像は消失してしまう。また、特許文献2に記載されている装置においては、使用波長が電子写真用感光体の使用波長に対して4桁以上異なる上に、任意のラインパターンや、所望のビーム径およびビームプロファイルの潜像を形成することは不可能であり、本発明の目的を達成することができない。
【0006】
暗減衰を生じる感光体試料であっても静電潜像を測定することができる方法および測定装置がある(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。その原理は以下のとおりである。試料表面に電荷分布があると、空間に表面電荷分布に応じた電界分布が形成される。このため、入射電子によって発生した2次電子はこの電界によって押し戻され、検出器に到達する量が減少する。従って、電界強度が強い部分は暗く、弱い部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じたコントラスト像を検出することができる。従って、露光した場合には、露光部が黒、非露光部が白となるので、こうして形成された静電潜像を測定することができる。
【0007】
さらに、入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが反転するような領域が存在する条件下で潜像プロファイルを測定する方法がある(例えば、特許文献5参照)。この方法を用いることにより、従来困難であった潜像プロファイルをミクロンオーダーで可視化することが可能となる。しかし、一方で、通常のSEMと異なり、表面電荷による空間電界の変化で入射電子の軌道が変わるため、高い精度で計測するためには、入射電子の起動変化を補正することが望ましい。
【0008】
その他の従来技術としては、特許文献6、特許文献7、特許文献8に記載されている発明などのように、試料への印加電圧による影響を予め予測し、偏向条件を変える方法がある。しかし、測定対象物である試料が帯電あるいは電位分布を有している場合には、入射電子軌道の曲がりは未知数であるため、予め印加電圧による影響を予測することができない。
【0009】
電子軌道を計算して、高精度計測を可能とする方法および装置が提案されている(例えば、特許文献9、特許文献10参照)。これまでの電子軌道計算では、構造体モデルおよび3次元空間を有限の大きさの小さなセルサイズに区切り、電位境界条件においてラプラス変換をして、表面電荷を電位に変換し、次に空間電位ポテンシャルを算出する。その空間電位ポテンシャルから、空間電界を算出して電子軌道を計算していた。
【0010】
この場合、空間電位ポテンシャルの算出過程、そして空間電界計算過程での精度が悪い。空間の任意の点の電界は、電子軌道を計算する際に使用されるため、その電子軌道の計算精度は電界の計算精度に大きく依存している。
【0011】
有限の大きさを小さなセルサイズに区切る方法では、空間の電界は、(2)式のように、空間の2点間の電位の差分をその2点間の距離で割ることにより求められる。すなわち、空間電界をE、座標rでの電位ポテンシャルをφ(r)とすると、
E={φ(r+Δr)−φ(r)}/Δr (2)
となる。計算精度を向上させるために2点間の距離Δrを小さくすればするほど分母が小さくなるので、発散しやすくなり、その差から求められる電界は、数値計算法で最も厄介な計算誤差とされている「桁落ち誤差」を含み、その結果、電界の計算精度は大きく低下する。よって、このような手法で空間の電界を求めると、原理的に「桁落ち誤差」の影響から逃れることができなかった。
【0012】
計算精度を上げてこの問題を解決するには、セルサイズやメッシュを細かく分割する必要があるため、計算ステップが多くなり、例えば1回の計算で数日かかるなど、計算時間が膨大になるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、感光体等の試料上方に生じる電位鞍点での電位と入射荷電粒子の加速電圧とに基づき試料表面の電荷分布をミクロンオーダーの高分解能で、かつ、短時間で測定することができる表面電荷分布の測定方法および表面電荷分布の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、試料の表面電荷分布の測定方法であって、前記試料に荷電粒子ビームを照射し、前記試料表面をスポット状に帯電する帯電工程と、前記帯電工程後の前記試料に対して荷電粒子ビームを照射し、前記試料の上方に形成される電位鞍点の電位の実測値を求める第1実測工程と、予め設定されている複数の構造体モデルの中から1つの構造体モデルと前記構造体モデルに対応する仮の空間電荷分布とを選択する選択工程と、選択された前記構造体モデルと前記仮の空間電荷分布を用いて電磁場解析を行い、電位鞍点の空間電位ポテンシャルを算出する第1算出工程と、算出された前記空間電位ポテンシャルと前記実測値とを比較し、前記空間電位ポテンシャルと前記実測値との誤差が所定の範囲内であるとき前記仮の空間電荷分布を前記試料の空間電荷分布であると判定する判定工程と、前記試料の空間電荷分布であると判定された前記試料の前記空間電位分布に基づき電磁場解析することにより前記試料の表面電荷分布を算出する第2算出工程と、を備えることを最も主要な特徴とする。
【0015】
本発明においては特に限定されないが、前記表面電荷分布の評価関数を呼び出す呼出工程と、前記評価関数に代入される所定のパラメータの実測値を、前記試料に荷電粒子ビームを照射して求める第2実測工程と、前記第2算出工程において算出された試料の表面電荷分布について、上記パラメータの実測値に対応する算出値を算出する第3算出工程と、前記実測評価値と前記算出評価値を前記評価関数に代入し、前記表面電荷分布の評価を行う評価工程と、前記評価工程の評価結果をもとに前記表面電荷分布を修正する第1修正工程と、をさらに備えることが好ましい。
【0016】
また、本発明においては特に限定されないが、前記パラメータは前記表面電荷分布の形状を示す複数のパラメータよりなることが好ましい。
【0017】
また、本発明においては特に限定されないが、前記第1実測工程を、荷電粒子ビームの加速電圧を一定にして、試料背面への印加電圧を変更して行うことが好ましい。
【0018】
また、本発明においては特に限定されないが、前記第2実測工程を、荷電粒子ビームの加速電圧を一定にして、試料背面への印加電圧を変更して行うことが好ましい。
【0019】
また、本発明においては特に限定されないが、前記評価関数に代入する前記パラメータとして前記試料に形成される前記静電潜像径が用いられ、前記第3算出工程において、前記表面電荷分布から前記算出値としての前記潜像径を、前記試料面の垂直方向の電界強度が0になる座標に基づいて算出することが好ましい。
【0020】
また、本発明においては特に限定されないが、前記第2算出工程において、前記空間電位分布を用いて係数マトリクスを決定し、前記係数マトリクスを用いて電磁場解析することにより前記試料の表面電荷分布を算出することが好ましい。
【0021】
また、本発明においては特に限定されないが、前記試料の裏面へ印加される電圧をVsub、試料に照射される荷電粒子ビームの加速電圧をVacc(<0)とし、前記試料の表面に到達する荷電粒子ビームのランディングエネルギが0になるときのVaccとVsubの値を、前記試料の表面に荷電粒子ビームを照射して求める第3実測工程と、前記Vaccと前記Vsubの値から、Vacc−Vsubの値Vthを求める第4算出工程と、算出されたVthをもとに前記表面電荷分布を修正する第2修正工程と、をさらに備えることが好ましい。
【0022】
また、本発明においては特に限定されないが、前記試料の裏面へ印加される電圧をVsub、試料に照射される荷電粒子ビームの加速電圧をVacc(<0)とし、前記試料の表面に到達する荷電粒子ビームのランディングエネルギが0になるときのVaccとVsubの値を、シミュレーションにより求める第5算出工程と、前記Vaccと前記Vsubの値から、Vacc−Vsubの値Vthを求める第6算出工程と、算出されたVthをもとに前記表面電荷分布を修正する第3修正工程と、をさらに備えることが好ましい。
【0023】
また、本発明においては特に限定されないが、導体に与えた電極電位と同等の電磁場環境を形成する、前記試料の境界面における電荷密度の仮定値を算出する第6算出工程と、前記仮定値を用いて空間電界を算出する第7算出工程と、算出された前記空間電界に基づいて荷電粒子ビームの軌道計算を行う第8算出工程と、荷電粒子ビームを前記試料に照射し、反射される荷電粒子ビームの量の実測値を得る第4実測工程と、前記第8算出工程において算出された荷電粒子ビームの軌道の算出結果に基づいて、荷電粒子ビームを前記試料に照射したときに反射される荷電粒子ビームの量の算出値を得る第8算出工程と、荷電粒子ビームの実測値と算出値を比較することで前記表面電荷分布の評価を行う第2評価工程と、前記第2評価工程の評価結果をもとに前記表面電荷分布を修正する第4修正工程と、をさらに備えることが好ましい。
【0024】
本発明はまた、試料の表面電荷分布の測定装置であって、前記試料に荷電粒子ビームを照射する帯電手段と、荷電粒子ビームが前記試料に到達することなく反転する領域と試料に到達する領域との境界を検出する検出手段と、前記試料に形成される電位鞍点の実測値を求める測定手段と、予め設定されている複数の構造体モデルの中から1つの構造体モデルと前記構造体モデルに対応する仮の空間電荷分布とを選択する選択手段と、選択された前記構造体モデルと前記仮の空間電荷分布を用いて電磁場解析を行い、電位鞍点の空間電位ポテンシャルを算出する第1算出手段と、算出された前記空間電位ポテンシャルと前記実測値とを比較し、前記空間電位ポテンシャルと前記実測値との誤差が所定の範囲内であるとき前記仮の空間電荷分布を前記試料の空間電荷分布であると判定する判定手段と、前記試料の空間電荷分布であると判定された前記試料の前記空間電位分布に基づき電磁場解析することにより前記試料の表面電荷分布を算出する第2算出手段と、を備えることを主要な特徴とする。
【0025】
本発明においては特に限定されないが、導電性を有し前記試料が載置される導体と、前記導体に電圧を印加する電圧印加手段と、前記電圧印加手段により印加される電圧を変化させる電圧可変手段と、前記試料に印加される電圧により形成される空間電位と同等の電磁場環境を形成する前記試料の電荷密度の仮定値を算出する第3算出手段と、前記仮定値を用いて空間電界を算出する第4算出手段と、算出された前記空間電界に基づいて荷電粒子ビームの軌道計算を行う第5算出手段と、荷電粒子ビームを前記試料に照射し、反射される荷電粒子ビームの量の実測値を得る第2測定手段と、前記第2測定手段において算出された荷電粒子ビームの軌道の算出結果に基づいて、荷電粒子ビームを前記試料に照射したときに反射される荷電粒子ビームの量の算出値を得る第6算出手段と、前記第2測定手段による荷電粒子ビームの実測値と、前記第6算出手段による前記算出値とを比較することで、前記表面電荷分布の評価を行う評価手段と、前記評価手段の評価結果に基づいて、前記表面電荷分布を修正する修正手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0026】
また、本発明においては特に限定されないが、荷電粒子ビームが通過する領域外に光路が設けられている光源と、前記光源から照射される光束の波長を400nm〜800nmに制御するとともに、前記光源の光量および光束の照射時間を生業する光源制御手段と、
をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、感光体等の試料上方に生じる電位鞍点での電位と入射荷電粒子の加速電圧とに基づき構造体モデルを決定し、そのモデルに対応する仮の空間電位分布をもとに計算により試料の表面電荷分布を求めるため、実測や実測値に基づく解析を最小限に抑えることができ、試料表面の電荷分布をミクロンオーダーの高分解能で、かつ、短時間で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る表面電荷分布の測定装置の例を示すモデル図である。
【図2】図1の表面電荷分布の測定装置の情報処理部を詳細に示すブロック図である。
【図3】本発明が利用している入射電子と試料との関係を示すモデル図である。
【図4】入射電子の軌道を示すモデル図である。
【図5】電位鞍点が形成されている状態における空間電位等高線、試料の表面電位および空間電位分布を示すグラフである。
【図6】電位鞍点と加速電圧の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例に係る表面電荷分布の測定方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明において使用される構造体モデルの例を示すモデル図である。
【図9】図8の構造体モデルを側面から見たモデル図である。
【図10】試料の表面電荷分布を示すグラフである。
【図11】算出された試料の表面電荷分布の修正に用いる特徴量について最適となる条件の探索方法を示すモデル図である。
【図12】算出された試料の表面電荷分布の修正に用いる特徴量について最適となる条件の探索方法を示す別のモデル図である。
【図13】算出された試料の表面電荷分布の修正に用いる特徴量について最適となる条件の探索方法を示すフローチャートである。
【図14】電位鞍点と導体への印加電圧の関係を示すグラフである。
【図15】本発明の別の実施例に係る表面電荷分布の測定方法を示すフローチャートである。
【図16】試料面上の各位置とそれぞれの位置における垂直方向の電界強度との関係を示すグラフである。
【図17】2次電子による電荷分布検出の原理を示すモデル図である。
【図18】本発明に係る表面電荷分布の測定方法および装置に使用することができる信号検出装置部の例を示すモデル図である。
【図19】本発明に係る表面電荷分布の測定方法における電極電位のみかけの電荷密度を説明するためのモデル図である。
【図20】本発明に係る表面電荷分布の測定方法に適用される係数マトリックスを示す図である。
【図21】本発明に係る表面電荷分布の測定方法における導体のみかけの電荷密度変換を説明するためのモデル図である。
【図22】本発明において使用される構造体モデルの基本モデル面を示すモデル図である。
【図23】試料を2次元的に走査したときの検出信号強度とスレッショルド電位Vthとの関係を示すグラフおよびモデル図である。
【図24】潜像の中心からの距離に対する電位の例を示すグラフである。
【図25】試料の電荷分布状態を示すスレッショルド電位Vthの算出手順を示すフローチャートである。
【図26】試料の表面電位VsとVthの計測値との関係を示すグラフである。
【図27】本発明の実施例7に係る表面電荷分布の測定方法を示すフローチャートである。
【図28】本発明に係る表面電荷分布の測定装置の別の例を示すモデル図である。
【図29】加速電圧と帯電および加速電圧と帯電電位の関係を示すグラフである。
【図30】本発明に適用可能な露光部の例を示す斜視図である。
【図31】ショットキーエミッション型電子銃の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る帯電特性の評価装置および帯電特性の評価方法の実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
[実施例1]
まず、表面電荷分布を有する試料に対して荷電粒子ビームを走査し、1次反転電子や2次電子を検出し、帯電特性の評価を行う帯電特性評価装置について説明する。図1に帯電特性評価装置の構成を、図2に帯電特性評価装置の検出信号処理手段の詳細なブロック図を示す。
【0031】
帯電特性評価装置1は、荷電粒子光学系50、試料載置台としての導体60、2次電子検出器24および情報処理部80を有する。これら各構成は、図示しない電源に接続されるとともに、ホストコンピュータの制御手段により動作が制御される。
【0032】
荷電粒子照射部50は、荷電粒子ビームとしての電子ビームを発生させるための電子銃11と、電子ビームを制御する引き出し電極(エキストラクタ)12と、電子ビームのエネルギーを制御する加速電極13と、電子銃から発生された電子ビームを集束させるための静電レンズ(コンデンサレンズ)14と、電子ビームのON/OFF制御を行うビームブランキング電極(ビームブランカ)15と、仕切り板16と、電子ビームの照射密度を制御するための可動絞り17と、ビームブランキング電極15を通過した電子ビームの非点補正を行うスティグメータ18と、スティグメータ18を通過した電子ビームにより走査を行わせる偏向コイルである走査レンズ(偏向電極)19と、走査レンズ10を通過した電子ビームを再び集光する静電対物レンズ20と、ビーム射出開口部21と、を備えている。それぞれのレンズ等には、図示しない駆動用電源が接続されている。なお、ここでいう荷電粒子とは、電子ビームあるいはイオンビームなど電界や磁界の影響を受ける粒子のことを指す。イオンビームを用いて帯電を行う場合には、電子銃11の代わりに液体金属イオン銃等を用いる。
【0033】
電子銃11の陰極には、タングステンやLab6が用いられており、電子銃11により被検査試料としての感光体23を帯電させる。
【0034】
試料載置台60は、感光体等の試料23を載置するための平面が形成された台である。試料載置台60に試料23が載置された後、表面電荷分布測定装置1の筐体内部が図示せぬ真空ポンプを用いて真空状態にされ、表面電荷分布の評価が行われる。また、試料載置台60は導体からなり、外部電源へと接続されていて、試料載置台60に印加される電圧を変更することができる。
【0035】
2次電子検出器24は、シンチレータや光電子増倍管等の検出器である。
【0036】
情報処理部80は、図2に示すように、構造体モデル設定手段801、電荷・電位設定手段802、電磁場解析手段803、特徴量計算手段804、比較照合手段805、電荷密度変更手段806、電荷密度決定手段807、電位分布算出手段808、荷電粒子ビーム設定手段809および特徴量実測手段810を備えている。情報処理部80に含まれるこれらの手段の機能については、本発明に係る表面電荷分布の測定方法を示す図7のフローチャートを説明するときに合わせて説明を行うため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0037】
なお、上述した情報処理部80では、本発明に係る表面電荷分布測定プログラムが動作していて、情報処理部80内の各手段を制御することで、後述する表面電荷分布測定方法を実現している。
【0038】
次に、上述した表面電荷分布測定装置1を用いた表面電荷分布の測定方法について説明する。
【0039】
図3は、試料を均一に帯電させた場合の、電子ビームの加速電圧Vaccと、試料表面の電位ポテンシャルVpとの関係を示している。加速電圧Vaccと電位ポテンシャルVpとの大小関係により、入射電子が試料に到達して電子が戻らない場合と、入射電子が試料によって反発されて戻る場合がある。このように、入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが試料到達前に反転する状態が存在する領域があるため、その領域における1次入射荷電粒子の検出を行う。なお、加速電圧は正の値で表現することが一般的であるが、加速電圧として印加される電圧Vaccは負であり、電位ポテンシャルとして物理的意味を持たせ、説明をしやすくするため、ここでは加速電圧は負(Vacc<0)、試料の電位ポテンシャルVpも負(Vp<0)とする。
【0040】
電位とは、単位電荷が持つ電気的な位置エネルギーである。従って、入射電子は、電位0(V)では加速電圧Vaccに相当する速度で移動するが、試料面に接近するに従い電位が高くなり、試料の電荷のクーロン反発の影響を受けて速度が変化する。従って、一般的に以下のような現象が起こる。
【0041】
|Vacc|>|Vp|の場合、電子は、その速度は減速されるものの、試料に到達する(図3(a)参照)。
【0042】
|Vacc|<|Vp|の場合には、入射電子の速度は試料の電位ポテンシャルの影響を受けて徐々に減速し、試料に到達する前に速度が0となり、移動方向が反転して反対方向に進む(図3(b)参照)。
【0043】
空気抵抗の無い真空中では、エネルギー保存則がほぼ完全に成立する。従って、入射電子のエネルギーを変えたときの試料面上でのエネルギー、すなわちランディングエネルギがほぼ0となる条件を計測することで、感光体試料の表面の電位を計測することができる。ここでは、1次反転荷電粒子、特に電子の場合を1次反転電子と呼ぶことにする。試料に到達したとき発生する2次電子と1次反転荷電粒子では、検出器に到達する量が大きく異なるので、明暗のコントラストの境界より識別することができる。
【0044】
なお、走査電子顕微鏡などには、反射電子検出器があるが、この場合の反射電子とは、一般的に試料の物質との相互作用により、入射電子が後方背面に反射(散乱)され、試料の表面から飛び出す電子のことを指す。反射電子のエネルギーは入射電子のエネルギーに匹敵する。反射電子の強度は試料の原子番号が大きいほど大きいといわれる。これに対して、1次反転電子は、試料表面の電位分布の影響を受けて、試料表面に到達する前に反転する電子のことであり、走査電子顕微鏡などの反射電子検出器で利用されている現象とは全く異なる現象である。
【0045】
従って、加速電圧Vaccあるいは、試料背面の電極電位Vsubを変えながら試料表面を電子で走査させ、入射電子を検出器で検出する構成とすることにより、試料の表面電位Vpを計測することが可能となる。
【0046】
また、試料の電位ポテンシャルVpが正(Vp>0)の場合には、ガリウムなどプラスのイオンや陽子を荷電粒子として入射すればよい。
【0047】
このように、試料を均一に帯電させた場合は、試料の電位分布をVp(x)としたとき、加速電圧Vaccが
Min|Vp|≦|Vacc|≦Max|Vp|
となる範囲で荷電粒子を試料に走査させることにより、入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが反転する状態が存在することになる。その反転した1次反転荷電粒子を検出することにより、試料の表面電荷分布の情報を取得することができる。
【0048】
図4は、試料表面が−1000Vの電位で一様に帯電しているときの入射電子軌道である。入射電子が1000eV以上で試料に到達し、入射電子が1000eV未満では、試料到達前に反転している。そして、入射電子が1000eVのとき、試料面で入射電子のエネルギーが0となる。
【0049】
このように、試料表面が均一の電位で帯電している場合、あるいは、電位差が数十V以下程度と小さい電位分布である場合には、加速電圧を変化させ、試料表面に到達する電子ビームの速度が0となる条件を計測することで、表面電位を計測することが可能である。
【0050】
一方、試料をスポット状に帯電させた場合は、試料の表面電荷分布の情報の取得方法が、試料を均一に帯電させた場合と異なる。
【0051】
試料をスポット状に帯電させた場合は、試料の上方に電位鞍点が形成される。電位鞍点とは、試料に形成される電荷分布により生じる空間電位分布の極値のことであり、さらには、鞍型形状をしている空間電位分布における極値のことである。
【0052】
試料の電位分布が図5(b)に示す形状である場合、試料上に形成された空間電位は、図5(a)のように形成される。図5(b)は、図4(a)の左右方向について、試料の表面電位を示している。試料水平方向(断面X)での空間電位分布は、図5(c)に示すように、点Sdlで極小値をとる。試料垂直方向(断面Z)での空間電位分布では、図5(d)に示すように、点Sdlで極大値をとる。このような点Sdlを電位鞍点と定義する。
【0053】
このように、電位鞍点が存在する場合、試料表面に照射される電子ビームの加速電圧を変化させても、試料表面に到達する際の速度が0となる条件が存在しない。とくに、電位分布が数十V以上になると、電位鞍点の存在が無視できず、入射荷電粒子の試料到達の有無の判定だけでは電位を計測することができない。
【0054】
そこで、本発明に係る表面電荷分布の測定方法では、試料をスポット状に帯電させ、電位鞍点を発生させ、この電位鞍点における電位の実測値と、構造体モデルから算出した電位鞍点における電位の算出値とを比較することで、試料の表面電位を推定して算出する。以下、本発明に係る表面電荷分布の推定方法について詳述する。
【0055】
まず、試料の電位鞍点における電位Vsdlの実測を行う。図6に電位鞍点と加速電圧の関係図を示す。電位鞍点の電位をVsdlとしたとき、 |Vacc1|<|Vsdl|の条件では、加速電圧が低いため電位鞍点を超えることができず、入射荷電粒子が反転して、検出器に到達する。
【0056】
また、 |Vacc3|>|Vsdl|の条件では、加速電圧が高いため、入射荷電粒子は電位鞍点を超えることが出来て試料に到達する。試料に到達すると2次電子が発生するが、そのエネルギーは小さいため、電位鞍点から抜け出すことが出来ない。この結果、2次電子は検出器に到達することができない。
【0057】
そして、 |Vacc2|=|Vsdl|の条件は、検出信号が到達・非到達間で変化する境界点である。
【0058】
従って、VaccをVacc1からVacc3まで変化させて計測したときに試料への到達・非到達の境界となるVacc2を決定することで、電位鞍点の電位Vsdlを実測することができる。
【0059】
次に、予め設定されて記憶されていた構造体モデルと仮の電荷分布Q(x,y)を用いて電磁場解析を行い、電位鞍点での空間電位ポテンシャルVsdl_sを算出する。電磁場解析とは、導体である試料載置台60および誘電体である試料23の構造体モデルにより、対象物と電場・磁場の相互作用がどのようになるかを、マクスウェルの方程式に基づき解析することである。
【0060】
図2は、本実施例に係る帯電特性評価装置1に設けられている情報処理部80の構成を示すブロック図である。また、図7は、構造体モデルを用いた表面電位の算出方法を示すフローチャートである。これらの図を用いて、以下に本実施例に係る帯電特性評価装置を用いた帯電特性の評価方法を説明する。
【0061】
まず、ステップS1において、構造体モデルの設定が行われる(図8、図9参照)。この構造体モデルの設定は、構造体モデル設定手段801を用いて行われる。帯電特性評価装置1には図示せぬ記憶手段が設けられている。この記憶手段に記憶されている複数の構造体モデルの中から、被測定物である試料と同一または似た構造を有する構造体モデルが構造体モデル選択手段801により選択され、帯電特性評価に用いる構造体モデルとして設定される。なお、構造体モデル設定手段801の操作は、自動的または作業者による手動で行われる。
【0062】
次に、ステップS2において、ステップS1において設定された構造体モデルについて、表面電荷モデルの設定が行われる。この表面電荷モデルの設定は、電荷・電位設定手段802を用いて行われる。上記記憶手段には、構造体モデルの他に各構造体モデルに対応する表面電荷モデルが複数記憶されていて、この複数の表面電荷モデルの中から1つのモデルが仮の表面電荷モデルとして選択される。この電荷・電位設定手段802の操作も、自動的または作業者による手動で行われる。
【0063】
次に、ステップS3において、選択された構造体モデルおよび仮の表面電荷モデルを用いた電磁場解析が行われる。この電磁場解析は、電磁場解析手段803により行われる。
【0064】
次に、ステップS4において、ステップS3の電磁場解析の一環として、試料23の上方に形成される空間電位の計算が行われる。この空間電位の計算も、電磁場解析手段803により行われる。
【0065】
次に、ステップS5において、ステップS4における空間電位の計算結果に基づき、試料23の電位鞍点の空間座標が特定される。電位鞍点の空間座標の特定も、電磁場解析手段803により行われる。
【0066】
次に、ステップS6において、電位鞍点における電位Vsdl_sが算出される。この計算は、特徴量計算手段804により行われる。
【0067】
次に、ステップS7において、実測で得られたVsdlと、算出されたVsdl_sとが比較される。この比較は、比較照合手段805により行われる。比較の結果、VsdlとVsdl_sの誤差が所定の範囲内であれば、次のステップS8において仮の電荷分布Q(x,y)が試料23の空間電荷分布であると推測され、ステップS9へと進む。誤差が所定の範囲内であるか否かの推測は、電荷密度決定手段807により行われる。
【0068】
次に、ステップS9において、試料23の空間電荷分布であると推測されたQ(x,y)に基づいて試料23の表面電荷分布Vs(x,y)が算出される。Vs(x,y)の算出は、電位分布算出手段808により行われる。そして、次のステップS10において、算出結果が表面電荷分布測定装置の図示せぬディスプレイ等に表示され、全工程が終了する。
【0069】
一方、ステップS7において誤差が所定の範囲外であれば、ステップS11に進み、仮の電荷分布Q(x,y)が修正される。この修正は、予め記憶されている他の電荷分布を呼び出すことで行われる。Q(x,y)が修正されたら、再びステップS3へと進む。
【0070】
上述した実施例に係る帯電特性の評価装置および帯電特性の評価方法によると、試料表面の電荷分布をミクロンオーダーの高分解能で測定することができる。また、試料の電荷や電位の実測は、電位鞍点を求めるのに必要な回数のみ行えばよく、試料の表面電荷分布は予め設定されている構造体モデルを用いて算出されることから、実測の回数および必要な電磁場解析の演算量を大幅に削減することができ、試料の表面電荷分布を短時間で求めることができる。
【0071】
[実施例2]
実施例2に係る帯電特性の評価装置および帯電特性の評価方法では、実施例1に係る帯電特性の評価装置および帯電特性の評価方法に、電位鞍点の電位以外の複数の実測値に基づいて修正を行う一連の工程が追加されているため、より高い精度で表面電荷分布を求めることができる。
【0072】
具体的には、算出された試料の表面電荷分布を最適な値と形状へ近づけるために、その電荷密度分布の形状を示す複数のパラメータで表現した評価関数を用いて評価計算を行い、その計算結果と実測値との比較に基づいて表面電荷分布の修正を行う。
【0073】
試料表面における電荷幅をσx、σy、電荷の深さをQD、周辺電荷をQmax、αを表面電荷分布の形状を表す係数とすると、電荷密度分布は、以下に示す数1式を用いて表すことができる。α=1のときはガウス関数となり、αが無限に近付くほど矩形関数に近づく。
【0074】
【数1】

【0075】
なお、表面電荷分布を表す関数式は、これに限られるものではない。
【0076】
図10に、誘電体表面の電荷密度分布モデルの一例を示す。図10は、数1式に示す関数式において、 Qmax=7.355×10−4(C/m) QD=3.0×10−4(C/m) σx=4.0×10−5(m) σy=5.66×10−5(m) α=1.4としたときのグラフである。このように、試料の表面電荷分布を数式化することにより、後述するように実際の表面電荷分布と算出された表面電荷分布の間の誤差が最小となる評価関数の設定が可能となり、また誤差を最小とする探索が容易となる。
【0077】
上述した試料の電荷分布を示す関数式をもとに、算出された表面電荷分布の評価を行うための評価関数δevalを設定する。評価関数δevalは、表面電荷分布を複数のパラメータで数式化したものである。評価関数δevalは、電磁解析から得られる複数の物理量から適切な評価項目となる特徴量を抽出し、その特徴量と、特徴量の実測値との差を求めるとともに、その差に重みを乗じ、2乗和をとる方法を用いている。その評価関数が最小あるいは許容値となるように収束判定を行い、表面電荷分布のパラメータ値を決定してもよい。
【0078】
評価関数δevalは、所定の特徴量の実測値および算出値に基づいて得られた評価尺度であり望小特性をとる特徴量をSMkとすると、以下の数2式で表すことができる。
【0079】
【数2】

【0080】
特徴量の実測値と算出値とを比較する場合には、算出した特徴量をSk、実測して得た特徴量をMk、ωkを重みとした評価関数である数3式を用いてもよい。
【0081】
【数3】

【0082】
なお、nは最低2以上であることが望ましい。評価関数において用いられる特徴量としては、周辺電荷Qmaxに相当する帯電電位、電荷の深さと関連のある電位鞍点での電位、電荷幅に関連する潜像径、または潜像の大きさ等があるが、これらに限るものではない。
【0083】
上述した評価関数の一例として、電荷深さQDと、電荷幅σの2つの特徴量を用いた評価関数の演算結果により、推測された表面電荷分布の修正を行う場合について、図13のフローを用いて説明を行う。なお、図13のフローチャートにおいて、外ループと内ループは、後述するσ=σi、QD=QDjについて、iとjの値をそれぞれ−2、−1、0、1、2と変更して、合計5×5=25点の評価計算を行うことを示している。
【0084】
まず、ステップS21において、図11に示すように、電荷深さQDと電荷幅σを直交する2軸に配置し、これら2つの特徴量について、最初の初期値を中心にした5点(図では5×5)を選択し、その選択された組み合わせについてδevalを求め、評価計算を行う。
【0085】
次に、ステップS22において、評価計算が行われた5×5=25点の中から、評価計算による値が最も良い点(δevalが低い点)δeval_bestを求める。
【0086】
次に、ステップS23において、δeval_bestが所定の目標値に達したか否かの判断が行われる。δeval_bestが目標値に達していない場合には、次のステップS24へと進む。一方、目標値に達している場合には、評価計算が終了する。
【0087】
ステップS24では、δeval_bestが、評価計算が行われた25点の探索範囲の中心付近、すなわち、図11(a)のように、5×5の探索範囲の中で、中心の3×3以外に含まれるか否かが判断される。中心付近に含まれていない場合は、ステップS26へと移動する。
【0088】
ステップS26では、ΔQDおよびΔσはそのままにしておき、図9(b)のように、その最も良い点を中心にして、5×5の探索範囲を移動させる。そして、再びステップS21に戻り、新たな5×5の探索範囲について評価計算を実行する。これを繰り返すことで、粗いレベルで探索範囲を特定する。
【0089】
このステップS26の例を図11に示す。図11に示す例では、σ=σi、QD=QDjであり、ステップ幅をΔQDおよびΔσの整数倍(図ではm、n=−2、−1、0、1、2)だけ動かしたときの近傍点について電磁場解析を行い、評価関数を用いた演算を実行する。そして、計算結果が最も良い点を中心として、再び演算を行う。この例では、
m=2
n=2
σi+2=σ+2×Δσ
QDj+2=QD+2×ΔQD
にパラメータを変更して、新たに評価計算を行っている。
【0090】
一方、ステップS24において、図12(a)に示すように、δeval_bestが、評価計算が行われた25点の探索範囲の中心付近にある場合には、その点を中心にして、図12(b)に示すように、ΔQD、Δσを半分の値、すなわち
ΔQD→ΔQD/2
Δσ→Δσ/2
と設定する。
【0091】
このように、最初の評価計算よりもさらに探索範囲を狭めて、再びステップS21に戻り、図12(b)のように5×5の領域を探索し、評価計算による値がもっとも良い点を探索する。これをステップS23においてδeval_bestが目標値に達するまで繰り返して、電荷深さQDと分散σの最適な組み合わせへ近づけていく。このような方法を用いることにより、自動的に最適なパラメータを探索することができる。
【0092】
なお、ΔσやΔQDの値は適宜設定してかまわないが、初期値は、より広範囲を探索するためにターゲット値に比べて8〜32倍程度に設定すると良い。最終ターゲットの大きさが1μm、電位が2Vである場合に、Δσは8〜32μm、ΔQDは16〜64V程度が適切である。また、評価関数に用いた設定パラメータが3以上であっても同様に探索することができる。
【0093】
このようにして算出されたδeval_bestが目標値に達する場合、すなわち、電荷深さQDと電荷幅σの2つの特徴量について、実測値と算出値の差が所定の範囲内になる場合には、この電荷深さQDと電荷幅σの2つの特徴量に基づいてさらに電磁場解析を行うことにより、算出された試料の表面電荷分布の修正を行う。
【0094】
このように、上述した帯電特性の評価方法では、算出された試料の表面電荷分布について、電位鞍点の電位以外の複数の実測値に基づいて修正を行うため、より高い精度で表面電荷分布を求めることができる。
【0095】
[実施例3]
本発明に係る帯電特性の評価方法では、電位鞍点を計測するときに、加速電圧Vaccを固定して、背面電極である導体60の印加電圧Vsubを変える方法を用いても良い。加速電圧を変更すると焦点距離など入射光学系が変化してしまうが、加速電圧を固定して、導体60の印加電圧を変える場合には、入射光学系を固定したままで済むメリットがある。
【0096】
導体60に電圧Vsubを印加すると、空間電位がオフセットされる。図14に電位鞍点と背面印加電圧の関係図を示す。図14は、 Vsub1=−1227V Vsub2=−1247V Vsub3=−1267Vのときの空間電位分布である。
【0097】
加速電圧Vacc=−1800Vで固定としたとき、Vsub3の条件では、加速電圧が低いため電位鞍点を超えることができず、入射荷電粒子が反転して、検出器に到達する。
【0098】
Vsub1の条件では、加速電圧が電位鞍点より高いため、入射荷電粒子は電位鞍点を超えることができ、試料に到達する。試料に到達すると2次電子が発生するが、そのエネルギーは小さいため、電位鞍点から抜け出すことができない。この結果、2次電子は検出器に到達することができない。
【0099】
Vsub2の条件では、検出信号の有無が分かれる境界点であり、加速電圧と電位鞍点の電位が一致しているとみなすことができる。
【0100】
従って、加速電圧が固定でも、VsubをVsub1〜Vsub3まで変化させたときに、試料への到達/非到達の境界となるVsub2を決定することで、計測で求められる電位鞍点の電位Vsdl_sを計測することができる。
【0101】
図15は、構造体モデルを用いた表面電位の算出方法を示すフローチャートである。これらの図を用いて、以下に本実施例に係る帯電特性評価装置を用いた帯電特性の評価方法を説明する。
【0102】
まず、ステップS31において、構造体モデルの設定が行われる(図8、図9参照)。この構造体モデルの設定は、構造体モデル設定手段801を用いて行われる。帯電特性評価装置1には図示せぬ記憶手段が設けられている。この記憶手段に記憶されている複数の構造体モデルの中から、被測定物である試料と同一または似た構造を有する構造体モデルが構造体モデル選択手段801により選択され、帯電特性評価に用いる構造体モデルとして設定される。なお、構造体モデル設定手段801の操作は、自動的または作業者による手動で行われる。
【0103】
次に、ステップS32において、ステップS1において設定された構造体モデルについて、表面電荷モデルの設定が行われる。この表面電荷モデルの設定は、電荷・電位設定手段802を用いて行われる。上記記憶手段には、構造体モデルの他に各構造体モデルに対応する表面電荷モデルが複数記憶されていて、この複数の表面電荷モデルの中から1つのモデルが仮の表面電荷モデルとして選択される。この電荷・電位設定手段802の操作も、自動的または作業者による手動で行われる。
【0104】
次に、ステップS33において、導体60に印加される電圧が設定される。ステップS33では、上述したように、VsubをVsub1〜Vsub3まで変化させたときに、試料への到達/非到達の境界となるVsub2を決定し、このVsub2が導体60に印加される電圧として設定される。
【0105】
次に、ステップS34において、選択された構造体モデルおよび仮の表面電荷モデルを用いた電磁場解析が行われる。この電磁場解析は、電磁場解析手段803により行われる。
【0106】
次に、ステップS35において、ステップS34の電磁場解析の一環として、試料23の上方に形成される空間電位の計算が行われる。この空間電位の計算も、電磁場解析手段803により行われる。
【0107】
次に、ステップS36において、ステップS35における空間電位の計算結果に基づき、試料23の電位鞍点の空間座標が特定される。電位鞍点の空間座標の特定も、電磁場解析手段803により行われる。
【0108】
次に、ステップS37において、電位鞍点における電位Vsdl_sが算出される。この計算は、特徴量計算手段804により行われる。
【0109】
次に、ステップS38において、実測で得られたVsdlと、算出されたVsdl_sとが比較される。この比較は、比較照合手段805により行われる。比較の結果、VsdlとVsdl_sの誤差が所定の範囲内であれば、次のステップS39において仮の電荷分布Q(x,y)が試料23の空間電荷分布であると推測され、ステップS40へと進む。誤差が所定の範囲内であるか否かの推測は、電荷密度決定手段807により行われる。
【0110】
次に、ステップS40において、試料23の空間電荷分布であると推測されたQ(x,y)に基づいて試料23の表面電荷分布Vs(x,y)が算出される。Vs(x,y)の算出は、電位分布算出手段808により行われる。そして、次のステップS41において算出結果が表面電荷分布測定装置の図示せぬディスプレイ等に表示され、全工程が終了する。
【0111】
一方、ステップS38において誤差が所定の範囲外であれば、ステップS42に進み、仮の電荷分布Q(x,y)が修正される。この修正は、予め記憶されている他の電荷分布を呼び出すことで行われる。Q(x,y)が修正されたら、再びステップS34へと進む。
【0112】
上述した実施例に係る帯電特性の評価装置および帯電特性の評価方法によると、試料表面の電荷分布をミクロンオーダーの高分解能で測定することができる。また、試料の電荷や電位の実測は、電位鞍点を求めるのに必要な回数のみ行えばよく、試料の表面電荷分布は予め設定されている構造体モデルを用いて算出されることから、実測の回数および必要な電磁場解析の演算量を大幅に削減することができ、試料の表面電荷分布を短時間で求めることができる。
【0113】
[実施例4]
上述した実施例において、電位鞍点の電位以外の特徴値として電荷幅を用いた表面電荷分布の算出について説明した。この電荷幅の大きさについては、例えば試料として感光体を用いる場合には、感光体に照射される電子ビーム径や露光量、点灯時間から予測あるいは目標値を設定することができる。
【0114】
しかし、電荷幅の値を直接計測することが難しい試料であって、電子ビーム径や露光量、点灯時間から予測や目標値の設定も難しいものがある。このような試料について評価を行う場合には、試料表面の電界ベクトルを計算し、試料に対して垂直方向の電界強度が0になる座標(以下「Ez=0スレッショルド」という。)を導き、そこから電荷幅を求める方法が有効である。本実施例においては、このEz=0スレッショルドに基づいて電荷幅に関連する潜像径を求め、この潜像径から電荷幅を求め、表面電荷分布を算出する方法について説明する。
【0115】
まず、実施例1や2と同様に、設定された表面電荷モデル(図7のステップS2参照)に基づいて電磁場解析を行い(図7のステップS3参照)、試料表面上の電界強度分布を算出する。この電界強度分布から、Ez=0スレッショルドの座標を導く。また、Ez=0の計算データが離散的な場合には、試料の垂直方向の電界強度がプラスからマイナスに反転する直前、直後の2点(図16における点Aと点B)を直線近似して、内分法を用いてEz=0を近似的に算出してもよい。図16に示すグラフの算出方法について、以下に説明する。
【0116】
感光体試料20を電子ビームで走査し、放出される2次電子を検出器(シンチレータ)24で検出し、電気信号に変換してコントラスト像を観察する。このようにすると、露光されることなく残っている帯電部は2次電子検出量が多く、露光部は2次電子検出量が少ない明暗のコントラスト像が生じる。暗の部分を露光による潜像部とみなすことができる。
【0117】
感光体試料20の表面に潜像が形成されて電荷分布があると、空間に表面電荷分布に応じた電界分布が形成される。このため、試料23の表面に電子が入射することによって発生した2次電子は上記電界によって押し戻され、検出器24に到達する量が減少する。従って、露光部では電荷がリークして黒、非露光部では電荷がリークすることなく白となり、表面電荷分布に応じたコントラスト像を得ることができ、これを測定することができる。
【0118】
図17(a)は、検出器24と試料23との間の空間における電位分布を、等高線表示で説明的に示したものである。試料23の表面は、光減衰により電位が減衰した部分を除いては負極性に一様に帯電した状態にある。検出器24には正極性の電位が与えられているから、実線の電位等高線群で示すように、試料23の表面から検出器24に近づくに従い電位が高くなる。
【0119】
従って、試料の負極性に均一帯電している部分である図のQ1点やQ2点で発生した2次電子el1、el2は、荷電粒子捕獲器24の正電位に引かれ、矢印G1や矢印G2で示すように変位し、荷電粒子捕獲器24に捕獲される。
【0120】
一方、図17(a)において、光照射されて負電位が減衰した部分の中央部にあるQ3点近傍では、電位等高線の配列は破線で示すように、Q3点を中心とした半楕円形になり、この部分の電位分布は、Q3点に近いほど電位が高くなっている。したがって、Q3点の近傍で発生した2次電子el3には、矢印G3で示すように、試料23側に拘束する電気力が作用する。このため2次電子el3は、破線の電位等高線で示す「ポテンシャルの穴」に捕獲され、検出器24に向って移動することはない。図17(b)は、上記「ポテンシャルの穴」を模式的に示している。
【0121】
換言すれば、検出器24により検出される2次電子は、その強度(2次電子数)の大きい部分が、「静電潜像の地の部分」すなわち均一に負帯電している部分(図17(a)の点Q1やQ2に代表される部分)に対応し、強度の小さい部分が、「静電潜像の画像部」すなわち光照射された部分(図17(a)の点Q3に代表される部分)に対応することになる。
【0122】
従って、図1に示す検出器24で得られる電気信号を、適当なサンプリング時間でサンプリングすれば、サンプリング時刻:Tをパラメータとして、表面電位分布:V(X,Y)を「サンプリングに対応した微小領域」ごとに特定でき、上記表面電位分布(電位コントラスト像):V(X,Y)を2次元的な画像データとして構成することができる。これをアウトプット装置で出力すれば、静電潜像のパターンを可視的な画像として得ることができる。
【0123】
例えば、捕獲される2次電子の強度を「明るさの強弱で表現」すれば、静電潜像の画像部分は暗く、地の部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じた明暗像として表現(出力)することができる。もちろん、表面電位分布を知ることができれば、表面電荷分布も知ることができる。
【0124】
このようにして得た図17(b)のグラフから、図16の電界強度分布のグラフが算出され、Ez=0が算出される。
【0125】
[実施例5]
本実施例では、導体および誘電体界面上の見かけの電荷密度を直接の解として求める計算を用いている。具体的には、既知である電極電位を、解析対象となる空間に導体および誘電体の構造体モデルの代数式上の幾何学的配置と、試料上の未知なる電荷密度を境界条件として、見かけの電荷密度に変換させる処理を行い、変換された見かけの電荷密度を用いて直接空間電界を決定している。そして、算出された電子軌道シミュレーション計算データを、計測された検出信号データと照合しながら、試料上の電荷密度を決定している。なお、ここでいうみかけの電荷密度とは、導体に与えた電極電位と同等の電磁場環境を形成する、試料境界面の電荷密度の仮定値を指す。
【0126】
具体的には、解析対象となる空間に配置されている導体および誘電体の代数式上の幾何学的配置から決定される係数マトリクスを求め、電界電位係数マトリクスと導体の電位および誘電体界面上の電荷密度を境界条件として、n元連立1次方程式を解く。以下、その詳細を説明する。
【0127】
まず、構造体モデルを設定する(図8、図9参照)。図18は信号を検出する計測装置の構成を示す。図18において、接地された板状の接地基板(GND)62の上面に板状の絶縁体61が、その上に導体60が積層されて、試料の載置台が形成されている。導体60には電圧Vsubが印加されるとともに試料である感光体23が載せられる。この感光体23に向かって上方から電子ビーム104が照射される。電子ビーム104の経路には対物レンズ20が配置され、感光体23に適切な横断面形状の電子ビーム104が照射されるように調整される。感光体23の上方近傍にはグリッドメッシュ106が配置されている。グリッドメッシュ106の斜め上方には、感光体23に向かって照射される電子ビーム104が感光体23で反発されて戻る電子を検知する検出器24が配置されている。
【0128】
試料(感光体)の形状、膜厚、試料裏面の電極形状、また、試料近傍の導体および誘電体は、電子軌道への影響が特に大きい要因となる。そこで、これらを幾何学的に配置する。また、必要に応じて、検出器の位置、電子ビーム光学系の構成や電子ビーム光学系を構成する各光学部品の特性などを考慮してもよい。誘電体の誘電率を設定し、導体への印加電圧を設定する。試料から離れた位置での構造物は電子軌道への影響が小さくなるので、簡略化あるいは省略してもよい。次に、実測で用いた試料背面の電極電位を設定する。
【0129】
次に、試料表面に電荷密度分布を設定する。この初期に設定した表面電荷分布は、計測データと照合して変更するため、どのような値でもよい。なるべく予想される値に近い方が望ましい。実測値に近い方が、収束時間が短くなる。
【0130】
次に、導体に与えた電極電位を試料境界面でのみかけの電荷密度に変換する。図19(a)のように、xyz空間での座標Rに電位が与えられた導体が存在するとき、空間の点R0での静電ポテンシャルφ(R0)は、以下の数4式で表すことができる

【0131】
【数4】

【0132】
ここで、σ(R)は、導体面S上に分布する電荷密度である。
【0133】
計算では、境界の領域を微小面積ΔSiに分割する(図19(b)参照)。微小面積内での電荷密度を近似的にσiとしてこれを一定とする。空間の点Rjでの静電ポテンシャルφ(Rj)は、以下の数5式で表すことができる。

【0134】
【数5】

【0135】
そして、既知の電極電位とみかけの電荷密度の関係を、図20(a)で示す行列式で表すことができる。ここで、上記行列式の左辺のうちφ1〜φmが導体面上の既知電位であり、σrは最終的に計測すべき表面電荷密度である。σrは、照合前の電荷密度が入力されているため、左辺は既知である。右辺のσは、見かけの電荷密度であり、そのうちσ1〜σmが導体面上の見かけ電荷になる。
【0136】
係数行列の要素である係数マトリックスFjiは、解析対象となる空間に配置されている導体および誘電体の幾何学的配置から決定され、図20(b)、(c)に示す式を演算することで実現できる。
ここで、
Rj:座標(xj,yj,zj)にある導体面または誘電体面上のサンプル点
δji:クロネッカーのデルタ
nj:要素jの法線ベクトル
ε0:真空誘電率
ε1:誘電体界面外側の誘電率
ε2:誘電体界面内側の誘電率
である。
【0137】
従って、解析対象となる空間に配置されている導体および誘電体の幾何学的配置からなる係数マトリクスFjiを決定し、係数マトリクスと導体の電位および誘電体界面上の電荷密度を境界条件として、行列式を連立1次方程式や逆行列演算を用いて解くことで、見かけの電荷密度を求めることが可能となる。このようにして、既知の電極電位φ1−φmおよび誘電体面上の表面電荷(σr)m+1〜(σr)nを,みかけの電荷σ1〜σmおよびσm+1〜σnに、それぞれ変換することができる(図21参照)。
【0138】
構造体モデルは、図22に示すように、平面(a)、円筒面(b)、円板面(c)、円錐面(d)、球面(e)、トーラス面(f)の6つの基本モデル面で表現してもよい。また、これら基本モデルの一部あるいは全部の組み合わせからなるモデル面で表現してもよい。円筒面、円錐面、円板面、球面、トーラス面は、回転対称形であり、それに2次元空間で表現できる平面を加えた6つの基本モデルを表現する関数は、その基本モデルに付随したローカル座標系を用いて表すことで、その被積分関数は比較的簡単な式として表すことができる。
【0139】
構造体モデルを上記6つの基本モデル面で表現することにより、2重積分のうち少なくとも1回の積分は解析的に実行することが可能となる。具体的には、図20(b)に示す行列式で表わされる。この行列式は、2重積分であるため、このままで計算すると膨大な計算時間を要する。
【0140】
従来は、2重積分Fjiを直接数値積分することで得ていたが、上記6つの基本モデル面で表現することで、1回目の積分は、解析的に計算することが可能となる。具体的には、平面の係数マトリックスAjiは、以下の数6〜数9式のように、logを含む形式で表すことができる。
【0141】
【数6】

【0142】
【数7】

【0143】
【数8】

【0144】
【数9】

【0145】
同様に、円筒面,円錐面,円板面は、logを含む形式で表され、球面,トーラス面は、第1種不完全楕円積分を含む形式で表すことができる。
Bjiも1回目の積分は以下の数10式によって解析的に計算できる。
【0146】
【数10】

【0147】
このように、2重積分のうち、1回目の積分A(y)は解析的に計算可能となり、残りの1回の積分だけを数値積分を用いてFjiを解くことができる。
係数マトリックスは、従来は2次元積分で表していたため、膨大な計算時間を要していたが、構造体モデルを上記6つの基本モデル面で表現することにより、2重積分のうち少なくとも1回の積分は解析的に実行し、残りの1回の積分だけを数値積分を用いて解くことができるため、計算時間を大幅に短縮できる。
【0148】
[実施例6]
本実施例に係る表面電荷分布の測定方法では、上述した各実施例に係る表面電荷分布の測定方法により算出された試料の表面電荷分布を、試料の電荷分布状態を示すスレッショルド電位Vth(x,y)を用いて修正するため、より高い精度で表面電荷分布を求めることができる。以下、スレッショルド電位Vth(x,y)を用いた表面電荷分布の修正についてのみ説明を行い、この修正に先立つ表面電荷分布の算出については前述の各実施例と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0149】
スレッショルド電位Vthは、電子ビームの加速電圧をVacc、導体に印加される電圧をVsubとしたとき、
Vth=Vacc−Vsub
という式で表される値である。Vth(x,y)は、試料表面の座標(x,y)におけるVthの値を示している。
【0150】
まず、計測にてVth(x,y)を得る方法について説明する。図23は、信号検出によってVth(x,y)を計測した結果を示す。2次元的に走査する電子銃の加速電圧は−1800Vとしている。図23(a)の曲線は試料表面の電荷分布によって生じるVth分布の検出結果を示している。中心(x=y=0)のVth値が約−600Vである。これは、Vsub=−1200Vのときにちょうど中心のランディングエネルギがほぼ0となっていることを示す。
【0151】
また、中心から外側に向かうに従って、Vth値がマイナス方向に大きくなり、中心から半径75μmを超える周辺領域のVth値は約−850V程度になっている。図23(b)に示す楕円形は、試料の裏面をVsub=−1150Vに設定したときの検出器出力を画像化したものである。このとき、Vth=Vacc−Vsub=−650Vとなっている。図23(c)に示す楕円形は、Vsub=−1100Vとしたほかは上記条件と同じ条件で得られた検出器出力を画像化したものである。このときのVthは−700Vになっている。
【0152】
図23(b)、(c)の明部と暗部は、検出信号強度の違いを表しており、明部の方が、検出信号量が大きいことを示す。すなわち、明部は入射電子が試料に到達せずに反転している領域であり、暗部は、入射電子が試料に到達している領域である。明部と暗部の境界は、ランディングエネルギがほぼ0となっていることを示す。
【0153】
この明部と暗部の境界値をVth値と定義し、加速電圧Vaccまたは印加電圧Vsubを変えながら、繰り返し試料表面を電子で走査させる方法を用いて計測することにより、Vth(x,y)をミクロンスケールでデータ取得することが可能となる。
【0154】
信号検出によるVth(x,y)計測のフローを図25に示す。すなわち、スレッショルド電位Vthの設定(S51)、コントラスト像取り込み(S52)、2値化処理(S53)、潜像径算出(S54)と進み、ここまでの処理を所定回数になるまで行い(S55、S57)、Vth(x,y)を算出する(S56)。
【0155】
次に、シミュレーションによりVth(x,y)を得る方法について説明する。1次荷電粒子を、加速電圧Vacc(<0)で、試料面からz0離れた初期座標から試料に向かって入射させる。そのときのシミュレーション条件を、試料裏面の印加電圧をVsubとしたとき、1次荷電粒子の軌道が試料に到達せずに反転するか、試料に到達するかを判定し、その境界となる1次荷電粒子の初期座標(x0,y0,z0)を確定し、
Vth(x0,y0)=Vacc−Vsub
としている。
【0156】
図8、図9に示すシミュレーションモデルと、未知なる表面電荷をセットして1次荷電粒子の軌道を計算する。試料裏面の印加電圧をVsubする。
【0157】
ここでは、1次荷電粒子として、電子を用いている。試料面からz0離れた距離から、試料に垂直に入射する条件であってよい。z0は、上部グリッドから試料までの距離よりも遠くなるように配置することが望ましい。入射電子に初期座標と加速電圧をVacc(<0)あるいは、Vaccと等価な初速を与えて、試料に入射させる。
【0158】
なお、入射電子の軌道が最終的に検出器に到達するか否かを解析してもよいが、この場合、計算に要する時間が増加する。一方、入射電子が試料に到達せずに反転するか、試料に到達かを判定する方法でも十分な精度が得られる。
【0159】
従って、1次荷電粒子の軌道が試料に到達せずに反転するか、試料に到達するかを判定し、その境界となる1次荷電粒子の初期座標(x0,y0,z0)を確定し、
Vth(x0,y0)=Vacc−Vsub
として、境界領域を決定することができる。このようにして、検出信号によって得られるVth(x,y)と同等のVth(x,y)を計算にて算出することができる。
【0160】
以下は、便宜上、計算によるVth(x,y)をVth_s(x,y)、計測によるVth(x,y)をVth_m(x,y)と区別する。一例として、図24(a)には、X軸方向において算出された表面電位と走査位置との関係が示されている。Vth_s(x,y)がVth_m(x,y)と等しいかどうかを照合する。照合する方法としては、Vth_s(x,y)とVth_m(x,y)の差分(Δ(x,y)とする)を求める方法を用いてもよい。一例として図24(b)には、X軸方向における、計測された表面電位と算出された表面電位とが重ねて示されている。
【0161】
次のステップでは、Δ(x,y)が、予め設定されている評価値M以下であるか否かを判断する。例えば、全てのVth_m(x,y)群について差分を実行し、値が最小となるVth_m(x,y)を選び出してもよい。また、以下の式に示すような、差の自乗和を評価値として用いても良い。
M=Σ(Vth_s(x,y)−Vth_m(x,y))^2
Δ(x,y)がMを超えている場合は、ここでの判断は否定される。この場合は、判定結果Δ(x,y)に応じて電荷分布モデルを修正する。例えば、Δ(x,y)がバイアス成分をもつような場合には、平均電位が異なっていると判断し、電荷分布モデルにおける各電位に上記バイアス成分を付加する。また、Δ(x,y)が凹凸形状である場合には、表面電荷の分布形状、例えば深さ及び幅などが異なっていると判断し、電荷分布モデルにおける形状を上記凹凸形状に近づける。これにより、より適切な電荷分布モデルとなる。
【0162】
照合の結果の判断が肯定されるまで、上記ステップの処理を繰り返し行う。これにより、未知電荷を決定することができる。
【0163】
このように、電子軌道を計算して、実測結果と照合することにより、表面電荷を決定することが可能となる。表面電位を測定する場合には、電荷分布がわかれば、静電場が確定するので、ポアソン方程式など静電場を解くことにより、電位分布V(x,y)や電界強度分布などの物理量分布を測定することができる。
【0164】
図26は、Vthの分布データと、誘電体表面の最終的な電荷密度分布より計算される表面電荷分布Vsの結果である。精度評価の結果、電位深さ誤差2V、電位幅の誤差1um以下で算出されていることが分かる。また、Vth分布Vth(x,y)は、図26のグラフにおいて、表面電荷分布Vs(x,y)の内側に位置することが分かる。すなわち、 Vs(x,y)−Vth(x,y)≧0の関係が成立している。そのため、実測または計算により得られたVth(x,y)の値をもとに修正した表面電荷分布は、信頼性の高いものとなる。
【0165】
[実施例7]
本実施例に係る表面電荷分布の測定方法は、上述した各実施例に係る表面電荷分布の測定方法により算出された試料の表面電荷分布を、電子軌道解析により修正することで、さらに高精度に表面電荷分布を求めるものである。
【0166】
電子軌道は空間の任意の点の電界をもとに計算することができる。そして、任意の点の電界は、上述した実施例5において説明したみかけの電荷密度を用いて、導体および試料界面を面積分することで求めることができる。すなわち、みかけの電荷密度に基づいて電子軌道解析を行うことにより、表面電荷分布を修正することができる。
【0167】
電界強度は、次の一般式である数11式で表すことができる。

【0168】
【数11】

【0169】
この空間電界Eは、試料の微小面積毎にみかけの電荷密度を面積分することで計算することができる。そして、空間電界Eの値をもとに、荷電粒子の運動方程式
F=qE
を解くことにより、精度の高い電子軌道計算をすることができる。
【0170】
そして、実際に電子ビームを照射したときに検出器24で得られる検出信号の実測値と、電子軌道計算により得られる検出信号の算出値とを比較し、実測値と算出値が一致あるいは許容範囲内であれば、算出された表面電荷分布を実際の電荷分布であると推測する。また、実測値と算出値が許容範囲外であれば、表面電荷分布の修正を行うため、再度みかけの電荷密度の算出を行う。この一連の工程を、実測値と算出値が許容範囲内に収まるまで繰り返し実行する。この一連の工程のフローチャートを図27に示す。この図27を用いて、以下本実施例に係る表面電荷分布の測定方法についての詳細な説明を行う。なお、図27に示す一連の工程に先立ち、図7のステップS1〜S6およびS11が行われるが、図27では図7のステップS7に対応するステップS61だけを示している。
【0171】
まず、ステップS61において、実測で得られた電位鞍点の電位Vsdlと、算出された電位鞍点の電位Vsdl_sとが比較される(図7のステップS7参照)。
【0172】
次に、ステップS62において、図20に示す係数マトリックスの各値として代入する、電荷分布形状パラメータである試料(感光体)の形状、膜厚、試料裏面の電極形状等を仮決定する(実施例5参照)。
【0173】
次に、ステップS63において、試料23が載置される導体60への印加電圧Vsubが設定され、導体60に電圧が印加される(実施例5参照)。
【0174】
次に、ステップS64において、既知である電極電位を、解析対象となる空間に導体および誘電体の構造体モデルの代数式上の幾何学的配置と、試料上の未知なる電荷密度を境界条件として、見かけの電荷密度に変換させる処理を行う(実施例5参照)。
【0175】
次に、ステップS65において、変換された見かけの電荷密度を用いて空間電界が計算される(実施例5参照)。
【0176】
次に、ステップS66において、みかけの電荷密度に基づいて試料に入射する電子の軌道解析を行う(実施例5参照)。
【0177】
次に、ステップS67において、電子の軌道解析結果を用いて、入射電子が試料に到達するか否かに分かれる境界値を求める(実施例6参照)。具体的には、1次荷電粒子を、加速電圧Vacc(<0)で、試料面からz0離れた初期座標から試料に向かって入射させるときのシミュレーション条件を、試料裏面の印加電圧をVsubとしたとき、1次荷電粒子の軌道が試料に到達せずに反転するか、試料に到達するかを判定し、その境界となる1次荷電粒子の初期座標(x0,y0,z0)を確定する。
【0178】
次に、ステップS68において、ステップS63〜S69の繰り返し回数iが所定の回数Nに到達したか否かの判断がされる。VsubやVaccは、後述する実測条件と同等の値が使用して、VsubやVaccを逐次変更して必要な回数シミュレーションが実行される。iがNに到達していない場合には、ステップS74に進み、導体60への印加電圧Vsubが変更され、再度ステップS63からの工程が行われる。一方、iがNに到達している場合には、次のステップS69に進む。
【0179】
ステップS69においては、実施例6と同様に、
Vth(x0,y0)=Vacc−Vsub
の式に基づいて、Vth(x,y)が算出される。
【0180】
ところで、図27のフローチャートに示していないが、実施例6と同様に、Vth(x,y)は、上記ステップS69で算出された値Vth_s(x,y)とは別に、実測によっても求められている。実測によるVth(x,y)をVth_m(x,y)とする。ステップS70では、この算出値Vth_s(x,y)が実測値Vth_m(x,y)と一致するかどうかの照合が行われる。照合する方法は、実施例6と同様である。照合の結果、算出値Vth_s(x,y)と実測値Vth_m(x,y)とが不一致である場合には、ステップS75において表面電荷分布モデルが修正され、再びステップS63からの一連の工程が行われる。一方、算出値Vth_s(x,y)と実測値Vth_m(x,y)とが一致する場合には、ステップS71に進む。
【0181】
ステップS71では、ステップS62で仮決定された電荷分布形状パラメータが正しいと判断され、このパラメータをもとに表面電荷の形状が決定される。
【0182】
次に、ステップS72において、決定された表面電荷の形状をもとに表面電荷分布が算出される。また、電荷分布が分かれば静電場が確定するので、ポアソン方程式などを用いて静電場を解析することで、電位分布や電界強度分布などの物理量分布も測定することができる。
【0183】
次に、ステップS73において、算出結果が表面電荷分布測定装置の図示せぬディスプレイ等に表示され、全工程が終了する。
【0184】
図28には、潜像を形成する機能を有する表面電位分布測定装置の例を示す。図28において、試料は、電子写真用感光体を用いる。有機感光体(OPC)は、導電性支持体の上に電荷発生層(CGL)、電荷輸送層(CTL)を有してなり、表面電荷が帯電している状態で露光されると、CGLの電荷発生材料(CGM)によって、光が吸収され、正負両極性のチャージキャリアが発生する。このキャリアは、電界によって、一方はCTLに、他方は導電性支持体に注入される。CTLに注入されたキャリアはCTL中を電界によってCTL表面にまで移動し、感光体表面の電荷と結合して消去する。これにより、感光体表面に電荷分布すなわち静電潜像を形成する。
【0185】
この表面電位分布測定装置1は、試料表面を光で走査し、潜像のパターンを形成するパターン形成装置220が、上記実施形態における表面電位分布測定装置1に付加されたものである。なお、図28では、制御系が省略されている。図28におけるパターン形成装置220は、感光体が感度を有する波長400nm〜1000nmの半導体レーザ201、コリメートレンズ203、アパーチャ205、及び3つのレンズ(207、209、211)からなる結像レンズなどを備えている。また、試料23の近傍には、試料表面を除電するためのLED213が配置されている。このパターン形成装置220及びLED213は、不図示の制御系によって制御される。
【0186】
表面電位分布測定装置1における潜像の形成方法について簡単に説明する。感光体試料表面を均一に帯電させる。ここでは、加速電圧を、2次電子放出比が1となる電圧より高い電圧に設定することにより、入射電子量が、放出電子量より上回るため電子が試料に蓄積され、チャージアップを起こす。この結果、試料はマイナスに帯電することとなる。なお、加速電圧と照射時間とを制御することにより、所望の電位に帯電させることができる。
【0187】
電子銃11から放出される電子ビームを、感光体試料23に照射させる。加速電圧|Vacc|は、2次電子放出比が1となる加速電圧より高い加速電圧に設定することにより、入射電子量が、放出電子量より上回るため電子が試料に蓄積され、チャージアップを起こす(図29(a))。この結果、試料はマイナスの一様帯電を生じることができる。加速電圧と飽和帯電電位には、図29(b)に示すような関係があり、加速電圧と照射時間を適切に設定ないしは制御することにより、電子写真における実機と同じ帯電電位を形成することができる。照射電流は大きい方が、短時間で、目的の帯電電位に到達することができるため、1nA以上で照射するとよい。
【0188】
この後、静電潜像を観察することができるように、入射電子量を1/100〜1/1000に下げる。この状態で、パターン形成装置220の半導体レーザ201を発光させる。半導体レーザ201からのレーザ光は、コリメートレンズ203で略平行光となり、アパーチャ205で規定のビーム径とされた後、結像レンズ207、209,211で試料71の表面に集光される。これにより、試料表面に潜像のパターンが形成される。
【0189】
有機感光体(OPC)は、暗減衰により、電荷が時間と共に減衰してしまうため、遅くても潜像形成後10秒以内で、信号検出によるデータの取得を完了させる必要がある。図28に示す例のように、真空チャンバー30内で感光体試料に帯電・露光させる機能をもたせることにより、潜像形成直後からデータ取得を開始することが可能で、潜像プロファイル取得に必要な印加電圧を複数変えた計測であっても、10秒以内でのデータ取得を完了させることができる。そして上述の如く印加電圧を変えることで、潜像プロファイル情報を取得できる。
【0190】
なお、必要に応じて感光体試料の上方に上部電極を追加してもよい。上部電極を配置することにより、試料が電荷分布を持つことによる空間電界の影響を、上部電極までの範囲に局在化させることができるので、構造体モデルをより簡素化できる。
【0191】
また、上記実施形態では、試料が板状の場合について説明したが、本発明が対象とする試料はこれに限定されるものではなく、例えば試料が円筒形状であってもよい。試料が円筒形状である場合、この試料を、レーザプリンタやデジタル複写機などの電子写真方式の画像形成装置に用いられる感光ドラムにそのまま適用できる。したがって、上記円筒形状の感光体試料に対する表面電位分布の測定結果を画像形成装置の設計にフィードバックすることにより、画像形成に関する各工程のプロセスクォリティを向上させることができ、高画質化、高耐久性、高安定性、及び省エネルギー化を実現することができる。
【0192】
また、感光体試料が上記のように円筒形状である場合、露光部の一例として、図30に示されているように、半導体レーザ110、コリメートレンズ111、アパーチャ112、シリンダレンズ113、光路折り曲げミラー114、ポリゴンミラー115、2つの走査レンズ116、117および光路折り曲げミラー118などを備えた、光走査装置からなる露光部76を用いてもよい。
【0193】
上記半導体レーザ110は、露光用のレーザ光を出射する。コリメートレンズ111は、半導体レーザ110から出射されたレーザ光を略平行光とする。アパーチャ112は、コリメートレンズ111を透過した光のビーム径を規定する。ここでは、アパーチャ112の大きさを替えることで、20μm〜200μmの範囲で任意のビーム径を生成することが可能である。シリンダレンズ113は、アパーチャ112を透過した光を一方向にのみ整形する。ミラー114は、シリンダレンズ113からの光の光路をポリゴンミラー115の方向に折り曲げる。ポリゴンミラー115は、複数の偏向面を有し、ミラー114からの光を所定角度範囲で等角速度的に偏向する。2つの走査レンズ116、117は、ポリゴンミラー115で偏向された光を等速度的な光に変換する。ミラー118は、走査レンズ117からの光の光路を試料71の方向に折り曲げる。
【0194】
この露光部76の動作について簡単に説明する。半導体レーザ110から出射された光は、コリメートレンズ111、アパーチャ112、シリンダレンズ113およびミラー114を介して、ポリゴンミラー115の偏向面近傍に一旦結像される。ポリゴンミラー115は、不図示のポリゴンモータによって一定の速度で図21中の矢印方向に回転しており、その回転に伴って偏向面近傍に結像された光は等角速度的に偏向される。この偏向された光は、さらに2つの走査レンズ116、117を透過し、ミラー118の長手方向を所定角度範囲で等速度的に走査する光に変換される。そして、この光は、ミラー118で試料71に向かって反射され、試料71の表面を走査する。すなわち、光スポットが試料71の母線方向に移動する。これにより、試料71の母線方向に対して、ラインパターンを含めた任意の潜像パターンを形成することができる。光源は、VCSEL等のマルチビーム走査光学系であってもよい。
【0195】
また、上記実施形態では、荷電粒子ビームとして電子ビームを用いる場合について説明したが、これに限らず、イオンビームを用いてもよい。この場合には、前記電子銃に代えてイオン銃が用いられる。そして、例えばイオン銃としてガリウム(Ga)液体金属イオン銃が用いられる場合には、加速電圧は正の電圧となり、試料71には、表面電位が正となるようにバイアス電圧が付加される。
【0196】
上記実施形態では、試料の表面電位ポテンシャルが負の場合について説明したが、試料の表面電位ポテンシャルが正であってもよい。すなわち、表面の電荷が正電荷であってもよい。この場合には、ガリウムなど正のイオンビームを試料に照射すればよい。
【0197】
また、図28に示す実施形態では、仕切り板16がビームブランキング電極15の−Z側に配置されているが、これに限定されるものではない。要するに、仕切り板16が、電子銃11と試料台60との間に配置されていればよい。
【0198】
上記実施形態では、電子銃として電界放出型電子銃を用いる場合について説明しているが、これに限らず、熱電子放出型電子銃を用いてもよいし、図31に示されるように、いわゆるショットキーエミッション(SE)型電子銃を用いてもよい。このショットキーエミッション型電子銃は、エミッタ11、サプレッサ電極73、引き出し電極71、及び加速電極72などを有している。なお、Ifはフィラメント電流、Ieはエミッション電流、Vsはサプレッサ電圧である。SE型電子銃は、熱陰極電界放出型電子銃とも呼ばれている。
【0199】
また、上記実施形態では、1次反発電子を検出して表面電位分布を求めるものとして説明したが、これに限らず、例えば、試料の材質や表面形状の影響を受けるおそれがない場合には、2次電子を検出して表面電位分布を求めても良い。
【符号の説明】
【0200】
1 表面電荷分布測定装置
11 電子銃
12 エキストラクタ
13 加速電極
14 コンデンサレンズ
15 ビームブランキング電極
16 仕切り弁
17 可動絞り
18 スティグメータ
19 偏向電極
20 静電対物レンズ
21 ビーム射出開口部
23 試料
24 検出器
50 荷電粒子光学系
80 検出信号処理手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0201】
【特許文献1】特開平03−49143号公報
【特許文献2】特開平3−200100号公報
【特許文献3】特開2003−295696号公報
【特許文献4】特開2004−251800号公報
【特許文献5】特開2005−166542号公報
【特許文献6】特開平10‐334844号公報
【特許文献7】特開平03−261057号公報
【特許文献8】特開昭59−842号公報
【特許文献9】特開2006−344436号公報
【特許文献10】特開2008−76100号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面電荷分布の測定方法であって、
前記試料に荷電粒子ビームを照射し、前記試料表面をスポット状に帯電する帯電工程と、
前記帯電工程後の前記試料に対して荷電粒子ビームを照射し、前記試料の上方に形成される電位鞍点の電位の実測値を求める第1実測工程と、
予め設定されている複数の構造体モデルの中から1つの構造体モデルと前記構造体モデルに対応する仮の空間電荷分布とを選択する選択工程と、
選択された前記構造体モデルと前記仮の空間電荷分布を用いて電磁場解析を行い、電位鞍点の空間電位ポテンシャルを算出する第1算出工程と、
算出された前記空間電位ポテンシャルと前記実測値とを比較し、前記空間電位ポテンシャルと前記実測値との誤差が所定の範囲内であるとき前記仮の空間電荷分布を前記試料の空間電荷分布であると判定する判定工程と、
前記試料の空間電荷分布であると判定された前記試料の前記空間電位分布に基づき電磁場解析することにより前記試料の表面電荷分布を算出する第2算出工程と、
を備える表面電荷分布の測定方法。
【請求項2】
前記表面電荷分布の評価関数を呼び出す呼出工程と、
前記評価関数に代入される所定のパラメータの実測値を、前記試料に荷電粒子ビームを照射して求める第2実測工程と、
前記第2算出工程において算出された試料の表面電荷分布について、上記パラメータの実測値に対応する算出値を算出する第3算出工程と、
前記実測評価値と前記算出評価値を前記評価関数に代入し、前記表面電荷分布の評価を行う評価工程と、
前記評価工程の評価結果をもとに前記表面電荷分布を修正する第1修正工程と、
をさらに備える請求項1記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項3】
前記パラメータは前記表面電荷分布の形状を示す複数のパラメータよりなる請求項2記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項4】
前記第1実測工程を、荷電粒子ビームの加速電圧を一定にして、試料背面への印加電圧を変更して行う請求項1乃至3のいずれかに記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項5】
前記第2実測工程を、荷電粒子ビームの加速電圧を一定にして、試料背面への印加電圧を変更して行う請求項2または3に記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項6】
前記評価関数に代入する前記パラメータとして前記試料に形成される前記静電潜像径が用いられ、前記第3算出工程において、前記表面電荷分布から前記算出値としての前記潜像径を、前記試料面の垂直方向の電界強度が0になる座標に基づいて算出する請求項2乃至5のいずれかに記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項7】
前記第2算出工程において、前記空間電位分布を用いて係数マトリクスを決定し、前記係数マトリクスを用いて電磁場解析することにより前記試料の表面電荷分布を算出する請求項1乃至6のいずれかに記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項8】
前記試料の裏面へ印加される電圧をVsub、試料に照射される荷電粒子ビームの加速電圧をVacc(<0)とし、前記試料の表面に到達する荷電粒子ビームのランディングエネルギが0になるときのVaccとVsubの値を、前記試料の表面に荷電粒子ビームを照射して求める第3実測工程と、
前記Vaccと前記Vsubの値から、Vacc−Vsubの値Vthを求める第4算出工程と、
算出されたVthをもとに前記表面電荷分布を修正する第2修正工程と、
をさらに備える請求項1乃至7のいずれかに記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項9】
前記試料の裏面へ印加される電圧をVsub、試料に照射される荷電粒子ビームの加速電圧をVacc(<0)とし、前記試料の表面に到達する荷電粒子ビームのランディングエネルギが0になるときのVaccとVsubの値を、シミュレーションにより求める第5算出工程と、
前記Vaccと前記Vsubの値から、Vacc−Vsubの値Vthを求める第6算出工程と、
算出されたVthをもとに前記表面電荷分布を修正する第3修正工程と、
をさらに備える請求項1乃至7のいずれかに記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項10】
導体に与えた電極電位と同等の電磁場環境を形成する、前記試料の境界面における電荷密度の仮定値を算出する第6算出工程と、
前記仮定値を用いて空間電界を算出する第7算出工程と、
算出された前記空間電界に基づいて荷電粒子ビームの軌道計算を行う第8算出工程と、
荷電粒子ビームを前記試料に照射し、反射される荷電粒子ビームの量の実測値を得る第4実測工程と、
前記第8算出工程において算出された荷電粒子ビームの軌道の算出結果に基づいて、荷電粒子ビームを前記試料に照射したときに反射される荷電粒子ビームの量の算出値を得る第8算出工程と、
荷電粒子ビームの実測値と算出値を比較することで前記表面電荷分布の評価を行う第2評価工程と、
前記第2評価工程の評価結果をもとに前記表面電荷分布を修正する第4修正工程と、
をさらに備える請求項1乃至9のいずれかに記載の表面電荷分布の測定方法。
【請求項11】
試料の表面電荷分布の測定装置であって、
前記試料に荷電粒子ビームを照射する帯電手段と、
荷電粒子ビームが前記試料に到達することなく反転する領域と試料に到達する領域との境界を検出する検出手段と、
前記試料に形成される電位鞍点の実測値を求める測定手段と、
予め設定されている複数の構造体モデルの中から1つの構造体モデルと前記構造体モデルに対応する仮の空間電荷分布とを選択する選択手段と、
選択された前記構造体モデルと前記仮の空間電荷分布を用いて電磁場解析を行い、電位鞍点の空間電位ポテンシャルを算出する第1算出手段と、
算出された前記空間電位ポテンシャルと前記実測値とを比較し、前記空間電位ポテンシャルと前記実測値との誤差が所定の範囲内であるとき前記仮の空間電荷分布を前記試料の空間電荷分布であると判定する判定手段と、
前記試料の空間電荷分布であると判定された前記試料の前記空間電位分布に基づき電磁場解析することにより前記試料の表面電荷分布を算出する第2算出手段と、
を備える表面電荷分布の測定装置。
【請求項12】
導電性を有し前記試料が載置される導体と、
前記導体に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記電圧印加手段により印加される電圧を変化させる電圧可変手段と、
前記試料に印加される電圧により形成される空間電位と同等の電磁場環境を形成する前記試料の電荷密度の仮定値を算出する第3算出手段と、
前記仮定値を用いて空間電界を算出する第4算出手段と、
算出された前記空間電界に基づいて荷電粒子ビームの軌道計算を行う第5算出手段と、
荷電粒子ビームを前記試料に照射し、反射される荷電粒子ビームの量の実測値を得る第2測定手段と、
前記第2測定手段において算出された荷電粒子ビームの軌道の算出結果に基づいて、荷電粒子ビームを前記試料に照射したときに反射される荷電粒子ビームの量の算出値を得る第6算出手段と、
前記第2測定手段による荷電粒子ビームの実測値と、前記第6算出手段による前記算出値とを比較することで、前記表面電荷分布の評価を行う評価手段と、
前記評価手段の評価結果に基づいて、前記表面電荷分布を修正する修正手段と、
をさらに備える請求項11記載の表面電荷分布の測定装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームが通過する領域外に光路が設けられている光源と、
前記光源から照射される光束の波長を400nm〜800nmに制御するとともに、前記光源の光量および光束の照射時間を生業する光源制御手段と、
をさらに備える請求項11または12記載の表面電荷分布の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−58350(P2012−58350A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199367(P2010−199367)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】