説明

被処理液の有機物と窒素の除去方法、グラニュール、馴養用溶液及び装置

【課題】嫌気性処理と独立栄養性脱窒微生物を用いた脱窒処理とを、一の嫌気性処理槽内において行う被処理液の有機物と窒素の除去方法、該方法に用いられ得る微生物を収容したグラニュール、馴養用溶液及びグラニュールや担体を用いた有機物と窒素の除去装置の提供。
【解決手段】嫌気性処理槽を用いて、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去する方法において、前記嫌気性処理槽が、嫌気性処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層を有し、(a)前記被処理液を、嫌気性処理用微生物を収容した第1層に接触させ、嫌気性処理により有機物を分解する工程と、(b)前記第1層に接触させた後の被処理液を、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層に接触させ、脱窒を行う工程とを有し、前記工程(a)〜(b)を1回以上行うことを特徴とする被処理液の有機物と窒素の除去方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一の嫌気性処理槽内において行われる被処理液の有機物と窒素の除去方法、該方法に用いられ得る微生物を収容したグラニュール、馴養用溶液及びグラニュールや担体を用いた有機物と窒素の除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール工場排水等の有機性排水には、BOD(生物化学的酸素消費量)成分である糖類、有機酸等の有機物とともに、アンモニア態窒素も豊富に含まれている。排水中のアンモニア態窒素は、河川等の富栄養化の原因となるため、環境保護の点から、排水中の有機物とアンモニア態窒素は効率よく除去されることが好ましい。特に近年の総量規制の強化に伴い、排水中の窒素含有量を低減する必要が高まっている。このため、コストを抑えながらも効率的に有機物と窒素の両方を除去する方法の開発が待たれている。
【0003】
有機性排水を浄化する場合、一般的には、メタン発酵等の嫌気性処理により有機物の大部分を除去した後に、アンモニア態窒素を硝化・脱窒工程によって窒素ガスまで分解して窒素を除去する。具体的には、好気条件下における硝化工程において、独立栄養性細菌であるアンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌によって、アンモニア態窒素が酸化され、亜硝酸態窒素や硝酸態窒素が生成される。その後、嫌気性条件下における脱窒工程において、従属栄養性脱窒菌によって、亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素から窒素ガスが生成される。
【0004】
近年、独立栄養性脱窒微生物群を利用した新しい排水の窒素処理方法(嫌気アンモニア酸化、アナモックス(ANAMMOX)法等と呼ばれる)が実用化されつつある。該独立栄養性脱窒微生物群を利用した排水の窒素処理方法として、例えば、(1)アンモニアおよび亜硝酸性窒素を含有する排液を脱窒槽の下部から脱窒槽内へ供給する排液の供給工程と、脱窒槽内においてアンモニアを電子供与体とし、かつ亜硝酸を電子受容体として脱窒反応を行う独立栄養性脱窒微生物のグラニュールと前記排液を接触させて生物学的に脱窒処理する生物学的処理工程と、処理液を脱窒槽の上部から排出する排出工程とを有する排液の脱窒方法が開示されている(例えば、引用文献1参照。)。つまり、独立栄養性脱窒微生物は、嫌気条件下で、アンモニア態窒素を電子供与体とし、亜硝酸態窒素を電子受容体として脱窒反応を行うことができるため、大量の曝気が必要な硝化工程と、電子供与体として有機物の添加が必要な脱窒工程により構成される従来法と比較して、コストを大幅に削減し得ることが期待される。
【特許文献1】特開2002−346593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、該独立栄養性脱窒微生物を用いて排水処理を行うには、さまざまな問題点がある。例えば、該脱窒微生物は、独立栄養性微生物であり、多量の有機物の存在下では他の微生物に対して優位に増殖できない。具体的には、該脱窒微生物による脱窒反応を達成するためには、排水中のBODが50mg/L以下となる程度に有機物を除去して、脱窒微生物が優先的に増殖できるようにすることが必要である。その他、該脱窒微生物は、酸素に対する感受性が高く、排水中の微量の酸素によって阻害されるため、脱窒活性が低下するという問題もある。
したがって、従来は、該脱窒微生物による脱窒反応は、高度に嫌気的な環境下で、メタン発酵等の嫌気性処理により有機物を除去した後に活性汚泥を絞って得られる脱離液や、無機排水等に対して行われており、メタン発酵槽内で、メタン発酵と同時に該脱窒反応を行うことは非常に困難であった。このため、ある排水に対して、メタン発酵による有機物除去処理と、該脱窒微生物による脱窒処理を行う場合には、まず、メタン発酵槽においてメタン発酵を行った後、メタン発酵槽等から濾過等により脱離液を調製し、該脱離液を、脱窒処理用槽へ移送して脱窒処理を行わなくてはならず、除去工程が多く煩雑であり、大掛かりな除去装置が必要であった。
【0006】
本発明は、メタン発酵等の嫌気性処理と、独立栄養性脱窒微生物を用いた脱窒処理とを、一の嫌気性処理槽内において行うことができる、被処理液の有機物と窒素の除去方法、該方法に用いられ得る微生物を収容したグラニュール、馴養用溶液及びグラニュールや担体を用いた有機物と窒素の除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、一の嫌気性処理槽内に、嫌気性処理用微生物を収容する第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層を設け、被処理液を、最初に第1層に接触させて、該被処理液中の有機物を除去した後に、該第2層に接触させることにより、該第2層において、独立栄養性脱窒微生物による脱窒反応を良好に進行させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、嫌気性処理槽を用いて、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去する方法において、前記嫌気性処理槽が、嫌気性処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層を有し、(a) 前記被処理液を、嫌気性処理用微生物を収容した第1層に接触させ、嫌気性処理により有機物を分解する工程と、(b) 前記第1層に接触させた後の被処理液を、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層に接触させ、脱窒を行う工程とを有し、前記工程(a)〜(b)を1回以上行うことを特徴とする、被処理液の有機物と窒素の除去方法である。
また、本発明の第2の態様は、嫌気性処理槽を用いて、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去する方法において、前記嫌気性処理槽には、微生物を収容したグラニュール又は担体が充填されており、前記グラニュール又は担体の表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在しており、前記被処理液を、前記グラニュール又は担体に接触させて、有機物の分解及び脱窒を行うことを特徴とする、被処理液の有機物と窒素の除去方法である。
また、本発明の第3の態様は、表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在することを特徴とする微生物を収容したグラニュールである。
また、本発明の第4の態様は、乳酸又はプロピオン酸、アンモニア態窒素、及び亜硝酸態窒素を含むことを特徴とする馴養用溶液である。
また、本発明の第5の態様は、一の嫌気性処理槽内に、嫌気性処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層とを少なくとも備えることを特徴とする、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去するための装置である。
また、本発明の第6の態様は、一の嫌気性処理槽内に、微生物を収容したグラニュール又は担体が充填されており、前記グラニュール又は担体の表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在していることを特徴とする、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去するための装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の態様及び第2の態様である被処理液の有機物と窒素の除去方法により、メタン発酵等の嫌気性処理と独立栄養性脱窒微生物を用いた脱窒処理とを、一の嫌気性処理槽内において行うことができる。このため、嫌気性処理と脱窒処理とを別個の反応槽にて行う従来法に比べて、除去装置のコンパクト化及び処理工程の簡略化が図られ、有機物及び窒素の除去に要するコストの低減も期待することができる。また、独立栄養性脱窒微生物を用いた脱窒処理を行うことができる排水種が拡大し、屎尿排水等の一般的な有機性排水の脱窒が可能となる。
また、本発明の第3の態様であるグラニュール、並びに本発明の第5の態様及び本発明の第6の態様である有機物と窒素の除去装置を用いることにより、排水等被処理液の有機物及び窒素の除去を、より簡便かつ低コストで行うことが可能となる。
さらに、本発明の第4の態様である馴養用溶液を用いることにより、本発明の第2の態様で用いられるグラニュールや担体を、簡便かつ効率よく作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明の第1の態様について説明する。
本発明における被処理液は、有機物と窒素を含有する液であれば、特に限定されるものではない。また、該被処理液に含まれる窒素の形態は特に限定されるものではないが、有機態窒素、アンモニア態窒素、硝酸態窒素や亜硝酸態窒素であることが好ましい。有機態窒素は嫌気性処理により、独立栄養性脱窒微生物による脱窒処理に供されるアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素に分解され得る。該被処理液として、例えば、ビール工場等の食品工場の産業排水や生活排水等の排水や、河川、湖沼、海水等の自然水等がある。
【0011】
本発明において、嫌気性処理とは、嫌気性微生物により有機物を分解する処理であって、通常排水等に含有されている有機物を除去するために用いられる処理であれば、特に限定されるものではないが、メタン発酵であることが好ましい。メタン発酵は、有機物の分解処理と同時に、エネルギーとして利用可能なメタンを生成することができ、かつ、余剰汚泥が少ないためである。
本発明において、嫌気性処理槽とは、嫌気性処理を行うための反応槽であり、通常、排水等の嫌気性処理に用いられる反応槽であれば、特に限定されるものではないが、メタン発酵槽であることが好ましい。
【0012】
本発明における嫌気性処理用微生物は、有機物を分解し得る嫌気性微生物であれば、特に限定されるものではなく、任意のものを用いることができる。例えば、メタン発酵処理に用いられている微生物(メタン発酵微生物)や、従属栄養性脱窒菌であることが好ましい。該メタン発酵微生物は、メタン発酵処理において用いられる微生物であれば特に限定されるものではなく、通常用いられているメタン発酵汚泥中に存在する微生物であってもよい。該微生物として、例えば、有機物の加水分解・酸生成反応を担う酸生成菌、酸生成反応の結果生じる中間代謝脂肪酸を酢酸と水素に分解する水素生成酢酸化菌、酢酸をメタンガスに転換する酢酸資化性メタン菌や水素をメタンガスに転換する水素資化性メタン菌、メタンを酸化するメタン酸化菌等がある。
本発明の嫌気性処理用微生物として、予め単離・精製された微生物を用いてもよく、有機物を含む排水等を嫌気的に分解させたものから採取した微生物を用いてもよい。その他、既存のメタン発酵槽や脱窒槽等より採取した汚泥や、嫌気性処理用微生物群が存在する環境より採取した汚泥等を用いてもよい。通常、これらの汚泥中には、嫌気性処理に関与する様々な微生物が存在しているためである。
【0013】
本発明における独立栄養性脱窒微生物は、嫌気条件下で、アンモニア態窒素を電子供与体とし、亜硝酸態窒素を電子受容体とした脱窒反応(アナモックス反応)を行うことができる微生物であれば、特に限定されるものではなく、任意のものを用いることができる。該独立栄養性脱窒微生物として、例えば、アナモックス菌群がある。
本発明の独立栄養性脱窒微生物として、予め単離・精製された微生物を用いてもよく、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素を含む排水等を嫌気的に分解させたものから採取した微生物を用いてもよい。その他、既存のアナモックス反応槽等より採取した汚泥や、独立栄養性脱窒微生物群が存在する環境より採取した汚泥等を用いてもよい。
【0014】
嫌気性処理用微生物を収容した第1層や、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層等の、微生物を収容した微生物層は、1種類の微生物からなる層であってもよく、複数種類の微生物からなる層であってもよい。また、これらの微生物層は、微生物を密集して存在させ得るものであれば、特に限定されるものではなく、層状、平板状、球状、筒状等のどのような形態であってもよい。このような微生物層として、例えば、微生物が自己造粒したグラニュールや、微生物を固定した担体等がある。該グラニュールとして、例えば、メタン菌や酸生成菌等の嫌気性処理用微生物が棲息する嫌気性排水処理装置より採取した顆粒状の自己造粒汚泥であるメタン発酵グラニュール等がある。また、該微生物を固定した担体としては、例えば、ポリエステル等の不織布に微生物を付着固定させたものや、非生物担体の周りに微生物膜を形成させることにより作製されたグラニュール等がある。該非生物担体は、通常グラニュール作製のための核として用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、粒径10〜500μmの活性炭やケイ砂等がある。その他、該微生物を固定した担体は、ゲル材料を用いて微生物を包括した包括担体であってもよい。該ゲル材料は、包括する微生物の種類等を考慮して適宜決定することができるが、アクリルアミド/メチレンビスアクリルアミドゲルやポリエチレングリコール(PEG)プレポリマー等であることが好ましい。該微生物を固定した担体が包括担体である場合には、簡便に多種多様な形態の微生物層を形成することができる。
【0015】
本発明の第1の態様である被処理液の有機物と窒素の除去方法は、嫌気性処理槽を用いて、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去する方法であり、前記嫌気性処理槽が、嫌気性処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層を有し、(a) 前記被処理液を、嫌気性処理用微生物を収容した第1層に接触させ、嫌気性処理により有機物を分解する工程と、(b) 前記第1層に接触させた後の被処理液を、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層に接触させ、脱窒を行う工程とを有し、前記工程(a)〜(b)を1回以上行うことを特徴とする。独立栄養性脱窒微生物を、嫌気性処理用微生物等の他の微生物から予め分離しておくことにより、有機物を多く含む被処理液中においても、独立栄養性脱窒微生物をより効果的に維持し増殖させることができる。
【0016】
本発明の有機物と窒素の除去方法においては、該嫌気性処理槽内において、有機物と窒素を含有する被処理液を、各微生物層に接触させる順番が重要であり、最初に第1層に接触させた後、第2層に接触させる。被処理液を第1層に接触させると、第1層に収容されている嫌気性処理用微生物によって、被処理液に溶存している有機物が分解除去される。その後、第2層に接触させることにより、第2層に収容されている独立栄養性脱窒微生物によって、元々該被処理液中に含まれていたアンモニア態窒素や、第1層での嫌気性処理により生成されたアンモニア態窒素、硝酸態窒素や亜硝酸態窒素等から、窒素が除去される。
【0017】
例えば、該嫌気性処理用微生物として既存のメタン発酵槽から採取した汚泥等を用いた場合には、該第1層には、通常、酢酸資化性メタン菌や従属栄養性脱窒菌が収容されており、メタン発酵や従属栄養性脱窒反応により溶存している有機物が除去される。この時、酢酸資化性メタン菌によるメタン発酵により、独立栄養微生物の炭素源となり得る炭酸イオンも生成される。また、メタン酸化菌、メタン発酵菌やアナモックス菌群の共役反応により、アンモニウムイオンの一部は亜硝酸イオンや硝酸イオンに酸化されるものと考えられる。特にメタン酸化菌が結合酸素を利用してアンモニアイオンの一部を酸化しているものと考えられる。酸化により生じた硝酸イオンは、従属栄養性脱窒菌により還元され亜硝酸イオンが生成される。なお、該エネルギー獲得反応におけるエネルギー源であるアンモニウムイオンは、元々被処理液中に豊富に含まれている場合が多い。
【0018】
つまり、被処理液を最初に第1層に接触させることにより、第2層に接触する被処理液の状態を、溶存している有機物がより少なく、かつ、炭酸イオン、亜硝酸イオン及びアンモニウムイオンがより適当に共存する状態、すなわち、独立栄養性微生物の増殖やアナモックス反応にとってより好適な状態にすることができる。このように、有機物除去を行う第1層と、窒素除去を行う第2層を保持し、被処理液を、第1層に接触させた後に第2層に接触させることにより、嫌気性処理とアナモックス反応の両方を好適に行うことができるため、一の嫌気性処理槽内で有機物と窒素を除去することが可能となる。
【0019】
嫌気性処理槽の被処理液導入口付近に第1層を、被処理液導入口からより離れた場所に第2層を設置することにより、被処理液を第1層に接触させた後に第2層に接触させることができる。ここで、第1層中に収容されている嫌気性処理用微生物の量が、被処理液中の有機物量に対して過剰量である場合には、被処理液が第1層を通過する間に、ほぼ全ての有機物が分解除去され得るため、第2層でのアナモックス反応も効率よく行われる。この結果、前記工程(a)〜(b)を1回行うことにより、被処理液から有機物と窒素を効果的に除去することができるため、短い処理時間で大量の被処理液を処理することができる。一方で、第1層中の嫌気性処理用微生物の量が、過剰量ではない場合であっても、被処理液を嫌気性処理槽に循環させる等により、前記工程(a)〜(b)を繰り返すことによって、充分量の有機物と窒素を除去し、被処理液中のこれらの含有量を所望の濃度まで低下させることができる。なお、このように被処理液を循環させることにより、アナモックス反応の副生成物である硝酸を第1層に接触させることができ、第1層に収容されている従属栄養性脱窒菌による脱窒反応により、硝酸が還元され亜硝酸を生成し、亜硝酸は第2層のアナモックス反応で除去されるため、該硝酸も効果的に除去することができる。
【0020】
本発明の有機物と窒素の除去方法においては、嫌気性処理とアナモックス反応の双方を好適に行うために、被処理液の酸化還元電位を調整することが好ましい。例えば、メタン発酵の前提となる酸生成が過剰に進行すると、被処理液の酸化還元電位が著しく低下し、メタン発酵には好適であるが、アナモックス反応には不適な条件となる。一方、酸生成がほとんど進行しない状態では、被処理液の酸化還元電位が低下せず、メタン発酵も進行しない。図1は、各酸化還元電位におけるメタン発酵活性とアナモックス活性を表した図である。ここで、メタン発酵活性とは、被処理液中の有機物の除去率(%)であり、アナモックス活性とは、被処理液中の窒素の除去率(%)である。図中、曲線aがメタン発酵活性を、曲線bがアナモックス活性を、それぞれ示している。図1に示されるように、嫌気性処理とアナモックス反応の双方を好適に行うためには、被処理液の酸化還元電位、特に第1層と第2層の界面における酸化還元電位が、−380〜−280mVであることが好ましく、−350〜−310mV付近であることがより好ましい。
【0021】
嫌気性処理槽に、酸素を供給することや、有機酸、糖類、アミノ酸等を添加することにより、被処理液の酸化還元電位を調整することができる。酸素の供給は、空気等の酸素含有気体を用いた曝気処理等により行うことができる。該有機酸は、メタン菌に資化される酢酸以外の有機酸であれば、特に限定されるものではなく、任意の有機酸を用いることができるが、乳酸、プロピオン酸、酪酸等が好ましく、乳酸又はプロピオン酸であることがより好ましい。また、有機酸の添加は、有機酸液を直接添加してもよく、有機酸発酵により得られた有機酸を添加してもよい。例えば、有機酸生成菌が充填された酸生成槽において生成させた有機酸を、配管等を通して嫌気性処理槽に添加することができる。
【0022】
第2層におけるアナモックス活性をさらに高めるために、嫌気性処理槽において、酸素含有気体による曝気処理、酸化剤の添加、及び硫酸還元処理等を行うことが好ましい。これらの処理により、第1層において低く維持されている酸化還元電位が上昇し、アナモックス反応にとってより好適な状態にすることができる。これらの処理は、第2層や、第1層と第2層の界面において行われることがより好ましい。また、該曝気処理は、通常メタン発酵槽等で用いられる散気装置等を用いて行うことができる。但し、該曝気処理は、被処理液中の酸素濃度が、独立栄養性脱窒微生物の増殖等を阻害しない濃度に維持するよう、留意すべきである。
【0023】
図2は、本発明の第5の態様である有機物と窒素の除去装置、すなわち、一の嫌気性処理槽内に、嫌気性処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層とを少なくとも備えることを特徴とする、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去するための装置の一態様の概略図である。被処理液導入口4と処理液出口5を有する嫌気性処理槽1の内部に、被処理液導入口4付近に第1層であるメタン発酵グラニュール2を、嫌気性処理槽1上部にある処理液出口5付近に第2層である不織布に付着固定した固定化アナモックス菌群3を、それぞれ設置する。これにより、被処理液導入口4から導入された被処理液は、最初にメタン発酵グラニュール2と接触し、メタン発酵により有機物が分解除去された後、固定化アナモックス菌群3と接触し、窒素が除去され、その後処理液出口5から流出する。該除去装置に循環ポンプ6を備えることにより、被処理液を循環させることができる。
【0024】
本発明の第5の態様である有機物と窒素の除去装置は、さらに、酸化還元電位を計測するためのORPセンサー7と、散気装置8を備えてもよい。嫌気性処理槽1内の被処理液の酸化還元電位をORPセンサー7でモニターし、有機酸発酵により酸化還元電位が−380mV以下、好ましくは−350mV以下になった時点で、嫌気性処理槽1内の被処理液に、散気装置8を介して空気等の酸素含有気体を混入させることにより、酸化還元電位を上昇させることができる。このように、被処理液の酸化還元電位を調整することにより、メタン発酵とアナモックス反応の双方を、安定して行うことができる。なお、ORPセンサー7や散気装置8は、固定化アナモックス菌群3付近、又はメタン発酵グラニュール2と固定化アナモックス菌群3の界面に設置することが好ましい。図1に示すように、酸化還元電位の低下により、メタン発酵活性はほとんど影響を受けないが、アナモックス活性は急激に低下するため、アナモックス菌群3が存在する領域の酸化還元電位を速やかに上昇させる必要があるためである。
【0025】
次に、本発明の第2の態様について説明する。なお、被処理液、嫌気性処理槽、嫌気性処理用微生物、独立栄養性脱窒微生物は、前述した第1の態様と同じである。
本発明の第2の態様の被処理液の有機物と窒素の除去方法は、前記嫌気性処理槽には、微生物を収容したグラニュール又は担体が充填されており、前記グラニュール又は担体の表層部に、嫌気性処理用微生物が局在し、内層部に、独立栄養性脱窒微生物が局在しており、前記被処理液を、前記グラニュール又は担体に接触させて、有機物の分解及び脱窒を行うことを特徴とする。このようなグラニュールや担体であれば、被処理液を、表層部に局在する嫌気性処理用微生物に接触させた後に、内層部に局在する独立栄養性脱窒微生物に接触させることができるため、嫌気性処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層を有する本発明の第1の態様の場合と同様に、一の嫌気性処理槽において嫌気性処理とアナモックス反応の両方を好適に行うことができるためである。なお、該グラニュール又は担体に収容されている嫌気性処理用微生物と独立栄養性脱窒微生物は、それぞれ、1種類の微生物であってもよく、複数種類の微生物であってもよい。また、嫌気性処理とアナモックス反応の双方を好適に行うために、本発明の第1の態様の除去方法と同様に、被処理液の酸化還元電位を調整することが好ましい。
【0026】
本発明の第2の態様において用いられる微生物を収容した担体は、例えば、以下のようにして得ることができる。まず、嫌気性処理用微生物と、独立栄養性脱窒微生物を、適当なゲル材料に混合し、ゲル材料を重合させることにより、微生物を包括したゲル状の包括担体(微生物包括担体)を作製する。次に、作製した微生物包括担体を、適当な形状に成形した後、後述する馴養用溶液に接触させ、常法により馴養する。馴養するにつれて、該微生物包括担体の表層部に嫌気性処理用微生物が、内層に独立栄養性脱窒微生物が、それぞれ局在するようになる。馴養期間は、担体中において微生物の局在化が生じる期間であれば特に限定されるものではなく、用いる微生物の増殖活性等を考慮して、適宜決定することができる。
例えば、メタン発酵グラニュールをすり潰した汚泥と、アナモックス菌群とを、アクリルアミド等のゲル材料に混合し、重合させて得られた微生物包括担体を、乳酸100mgC/L、アンモニア態窒素25mgN/L、亜硝酸態窒素25mgN/Lの組成を有する馴養用溶液中で、1週間〜6ヶ月程度馴養することにより、表層部にメタン発酵菌が局在し、内層にアナモックス菌群が局在する担体を得ることができる。なお、図3は、このようにして得られた微生物を収容した担体9の断面の概略図であり、メタン発酵菌91とアナモックス菌群92の局在を示した図である。
【0027】
本発明の第2の態様において用いられる微生物を収容したグラニュール、すなわち、本発明の第3の態様であるグラニュールは、メタン発酵槽等の嫌気性処理槽から採取したグラニュール汚泥を、後述する馴養用溶液に接触させ、常法により馴養することにより得ることができる。既存の嫌気性処理槽中の活性汚泥には、微量のアナモックス菌群が含まれている場合があり、アナモックス菌群の増殖及びアナモックス反応に好適な馴養用溶液に接触させて馴養することにより、アナモックス菌群を増殖させ、内層に充分量のアナモックス菌群92が局在するグラニュール10を形成することができる。馴養期間は、グラニュール汚泥採取時に内部に存在するアナモックス菌群量に依存するが、1週間〜6ヶ月程度の馴養により、目的のグラニュール10を得ることができる。なお、図4は、このようにして得られた本発明の第3の態様の一態様である微生物を収容したグラニュール10の断面の概略図であり、メタン発酵菌91とアナモックス菌群92の局在を示した図である。
【0028】
本発明の第4の態様である馴養用溶液は、本発明の第3の態様であるグラニュールや第2の態様で用いられる担体を作製するために好適に用いられる馴養用溶液である。表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在するグラニュールや担体を作製するために用いられる馴養用溶液は、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素を有する溶液であれば、特に限定されるものではないが、乳酸等の有機酸を有することが好ましい。特に、乳酸又はプロピオン酸、アンモニア態窒素、及び亜硝酸態窒素を含む、本発明の第4の態様である馴養用溶液であることがより好ましい。該馴養用溶液の、乳酸、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒の、それぞれの組成比は、馴養する微生物の種類や量等を考慮して、適宜決定することができるが、乳酸20〜500mgC/L、アンモニア態窒素5〜125mgN/L、亜硝酸態窒素5〜125mgN/Lの組成を有する馴養用溶液であることが好ましい。さらに、該馴養用溶液の溶存酸素は、0.5mg/L以下であることが好ましい。なお、「mgC/L」は、炭素濃度を意味する。このような組成を有する馴養用溶液を用いることにより、調整操作を要することなく、馴養用溶液中の酸化還元電位を、メタン菌等の嫌気性処理用微生物及びアナモックス菌群の両者に好適な数値範囲に維持することができるためである。
【0029】
本発明の第3の態様であるグラニュールや第2の態様で用いられる担体の形状や大きさは、各微生物による嫌気性処理やアナモックス反応が阻害されない形状や大きさであれば、特に限定されるものではない。例えば、平均粒径は0.5〜40mmであることが好ましく、1〜2mmであることがより好ましい。充分な比表面積を有するため、嫌気性処理を効率的に行うことができる上に、内層に充分量のアナモックス菌群を収容することができるためである。
【0030】
図5は、本発明の第6の態様である有機物と窒素の除去装置、すなわち、一の嫌気性処理槽内に、微生物を収容したグラニュール又は担体が充填されており、前記グラニュール又は担体の表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在していることを特徴とする、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去するための装置の一態様の概略を示した図である。被処理液導入口4と処理液出口5を有する嫌気性処理槽1の内部に、図3に示した微生物を収容した担体9を充填する。これにより、被処理液導入口4から導入された被処理液は、最初に担体9の表層部のメタン発酵菌91と接触し、メタン発酵により有機物が分解除去される。その後、有機物が除去された被処理液が、担体9のより内層に染み込み、アナモックス菌群92と接触することにより、窒素が除去される。該除去装置は、本発明の第5の態様の除去装置と同様に、循環ポンプ6、酸化還元電位を計測するためのORPセンサー7、散気装置8を備えていてもよい。
このような担体又はグラニュールを、メタン発酵グラニュールに代えて、又はメタン発酵グラニュールとともに、既設のメタン発酵槽に充填して排液処理を行うことにより、大掛かりな装置等を導入することなく、簡便に、被処理液中の有機物と窒素を効果的に除去することが可能となる。
【0031】
また、本発明の第5の態様及び第6の態様においては、嫌気性処理槽1内の被処理液の酸化還元電位を調整するために、嫌気性処理槽1の他に、酸生成菌を充填した酸生成槽11を備えてもよい。図6は、本発明の第5の態様である有機物と窒素の除去装置のうち、酸生成槽11を備えた一態様の概略図を示したものであり、図7は、本発明の第6の態様である有機物と窒素の除去装置のうち、酸生成槽11を備えた一態様の概略図を示したものである。ORFセンサー7により、嫌気性処理槽1内の酸化還元電位が−280mV以上、好ましくは−310mV以上になったことを検出した場合に、有機酸添加バルブ13を調整して、酸発生槽11から供給される有機酸量を増大させることにより、嫌気性処理槽1内の酸化還元電位を下降させることができる。なお、酸生成槽11に充填される酸生成菌は、活性汚泥等の流動性を有するものであってもよく、不織布に付着固定した固定化酸生成菌12であってもよい。
【0032】
本発明の第5の態様及び第6の態様において、嫌気性処理槽内に充填される嫌気性処理用微生物や独立栄養性脱窒微生物の量は、特に限定されるものではなく、用いる微生物の活性や増殖能、各微生物層の形態、被処理液中の有機物や窒素の含有量等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、第5の態様において、第1層としてメタン発酵グラニュールを、第2層として担体に固定したアナモックス菌群をそれぞれ用いる場合には、嫌気性処理槽の5〜40%の容量のメタン発酵グラニュールを充填することが好ましく、10〜30%を充填することがより好ましい。一方で、嫌気性処理槽の容量換算で100〜5000mg/Lのアナモックス菌群量を充填することが好ましく、1000〜3000mg/Lを充填することがより好ましい。また、表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在するグラニュール又は担体を用いる第6の態様の場合には、嫌気性処理槽の5〜50%の容量の担体等を充填することが好ましく、10〜40%を充填することがより好ましい。
【0033】
また、本発明の第5の態様及び第6の態様は、バッチ式の除去装置であってもよく、連続式の除去装置であってもよい。嫌気性処理槽内に充填される嫌気性処理用微生物や独立栄養性脱窒微生物の量が、被処理液中の有機物や窒素含量に対して充分量であれば、連続式除去装置により、短期間で大量の被処理液から有機物と窒素を除去することができる。一方、各微生物の充填量が過剰量ではない場合や、被処理液中の有機物等の含量が不明確である場合には、一定量の被処理液を嫌気性処理槽に導入し、循環させるバッチ式除去装置により、被処理液中の有機物や窒素を、所望の濃度まで充分に除去することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
硝酸や亜硝酸を含有しない被処理液から、有機物と窒素を除去した。供試廃水として、総窒素量が420〜680mg/L(アンモニア態窒素量が400〜620mg/L)、BOD成分(有機物)量が1540〜1700mg/Lである食品廃水を用いた。
10Lのメタン発酵槽に、該メタン発酵槽の20%の容量のメタン発酵グラニュールを充填し、さらに、該メタン発酵槽の40%の容量のアナモックス菌群を付着固定した不織布(固定アナモックス菌群)を、図2に示すように設置した。該不織布には、メタン発酵槽の容量換算で1400mg/Lのアナモックス菌群が付着固定されていた。また、該不織布を設置せず、メタン発酵グラニュールのみを充填したメタン発酵槽を対照とした。
このメタン発酵槽に、該供試廃水を、滞留時間が12時間として流し処理した。酸化還元電位は、散気装置で空気を供給することにより、−380〜−280mVになるように制御した。2ヶ月運転後の安定期での処理結果を表1に示す。表中、「実施例1」が、メタン発酵グラニュールと固定アナモックス菌群を充填したメタン発酵槽における処理を、「比較例1」が、メタン発酵グラニュールのみを充填したメタン発酵槽における処理を、それぞれ意味している。また、「T−N除去率」は供試廃水中の総窒素量の除去率を、「BOD除去率」はBOD成分量の除去率を、それぞれ意味する。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1では、比較例1と比べて、供試廃水中の総窒素量の除去率が飛躍的に向上していた。したがって、実施例1の結果から、本発明の有機物と窒素の除去方法、すなわち、メタン発酵菌からなる第1層と、アナモックス菌群からなる第2層とを有するメタン発酵槽を用いて排水処理を行うことにより、メタン発酵槽においてアナモックス反応を良好に行うことが可能であり、従来になく効率よく排水中の窒素を除去し得ることが明らかである。
また、実施例1において、供試廃水中のBOD成分の除去率も改善されていたことから、アナモックス菌群が活性化されることによりメタン発酵菌群が活性化される可能性が示唆された。
【0038】
(実施例2)
表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在する微生物包括担体を作製した。
表2に記載の組成により、微生物を含有する微生物包括担体を得た。なお、表中記載のグラニュール汚泥は、ビール工場嫌気性処理設備より採取したグラニュール汚泥を、乳鉢にて破砕したものである。
【0039】
【表2】

【0040】
得られた微生物包括担体を3mm角に成形し、図5に示すように、メタン発酵槽に充填率38%となるように充填した。その後、馴養用溶液(乳酸100mgC/L、アンモニア態窒素25mgN/L、亜硝酸態窒素25mgN/L)を被処理液導入口4から導入し、該微生物包括担体と接触させ、2ヶ月間馴養することにより、目的の微生物包括担体を得た。
【0041】
(実施例3)
表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在するグラニュールを作製した。
実施例2において、微生物包括担体に代えて、ビール工場嫌気性処理設備より採取したグラニュール汚泥を、メタン発酵槽に充填率38%となるように充填した後、同様に、2ヶ月間馴養することにより、目的のグラニュールを得た。
【0042】
(実施例4)
硝酸や亜硝酸を含有しない被処理液から、有機物と窒素を除去した。供試廃水として、総窒素量が420〜680mg/L(アンモニア態窒素量が400〜620mg/L)、BOD成分(有機物)量が1540〜1700mg/Lである食品廃水を用いた。
まず、表3に記載の組成により、微生物包括担体を得た。なお、表中記載のグラニュール汚泥は、実施例2と同じものである。
【0043】
【表3】

【0044】
得られた微生物包括担体を3mm角に成形し、メタン発酵槽に、充填率38%となるように充填した。その後、馴養用溶液(乳酸100mgC/L、アンモニア態窒素25mgN/L、亜硝酸態窒素25mgN/L)を被処理液導入口4から導入し、該包括担体と接触させ、2ヶ月間馴養することにより、目的の微生物包括担体を得た。
得られた微生物包括担体を、10Lのメタン発酵槽に、充填率30%となるように充填した。このメタン発酵槽を用いて、該供試廃水を、実施例1と同様に処理した。2ヶ月運転後の安定期での処理結果を表4に示す。表中、「実施例4」が、グラニュール汚泥とアナモックス菌群を有する微生物包括担体を充填したメタン発酵槽における処理を意味しており、「比較例1」は、実施例1記載の比較例1を意味している。また、「T−N除去率」は供試廃水中の総窒素量の除去率を、「BOD除去率」はBOD成分量の除去率を、それぞれ意味する。
【0045】
【表4】

【0046】
実施例1と同様に、実施例4においても、比較例1と比べて、供試廃水中の総窒素量の除去率が飛躍的に向上していた。また、実施例1よりも若干、総窒素量の除去率とBOD成分の除去率が改善されていた。なお、実施例2で得られた微生物包括担体や、実施例3で得られたグラニュールを用いた場合であっても、同様に、供試廃水中の総窒素量の除去率が飛躍的に向上していた。
これらの結果から、表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在する微生物包括担体やグラニュールを用いた場合であっても、一の嫌気性処理槽を用いて排水処理を行うことにより、嫌気性処理とアナモックス反応を良好に行うことが可能であり、従来になく効率よく排水中の窒素を除去し得ることが明らかである。
【0047】
(実施例5)
500mL容の上向流型カラムの下部に、ビール工場嫌気性処理設備より採取したグラニュール汚泥を50mL充填し、上部にアナモックス菌群を付着固定したポリエステル不織布を充填し、ジャケット水を循環させることにより35℃に保温した排水処理装置を作製した。該排水処理装置に、15N標識した硝酸10mgN、アンモニア10mg/Lと、酸化還元電位を下げるための乳酸を50、100、200mgC/Lの各濃度で添加した馴養用溶液を、4.0mL/minでカラム下部より送液し、各乳酸濃度でそれぞれ約1週間ずつ運転を行った。馴養用溶液の酸化還元電位は、当初150mVであったが、カラムに流入した乳酸が酢酸へと酸発酵することにより、いずれの濃度でも汚泥床の中央部付近で−280〜−330mVとなった。また、流出水中から乳酸は検出されず、TOC(Total Organic Carbon;全有機態炭素)除去率は70%以上、全窒素除去率は50%以上に維持できた。さらに、発生ガス中に著量のメタンガスが検出された。各濃度の最終の2日間に発生したガスを採取し、GC−MSを用いて同位体分析(29:30)を行ったところ、アナモックス反応に由来する分子量29の窒素(29)と従属脱窒に由来する分子量30の窒素(30)の割合は馴養用溶液中の乳酸濃度にかかわらず1:4であった。
すなわち、これらの結果から、嫌気性処理設備より採取したグラニュール汚泥を、適当な馴養用溶液を用いて馴養することにより、メタン発酵とアナモックス反応を一の反応槽において行うことができるグラニュール、すなわち本発明のグラニュールが得られることが明らかである。また、適当な馴養用溶液中においては、メタン発酵中にアナモックス反応も行われており、有機物だけではなく窒素除去も行われていることが明らかになった。
【0048】
(実施例6)
ビール排水を処理する嫌気性処理装置よりメタン発酵グラニュールを採取し、「Microbial analyses by fluorescence in situ hybridization of well-settled granular sludge in brewery wastewater treatment plants.」(Saiki, Y. et al.、2002年、Journal of bioscience and bioengineering、第93巻、p601〜606)に記載の方法に従い、約5μmの薄切片を作成した。その後、古細菌を検出するCy3標識ARC915プロ-ブ、アナモックス菌群が属するPlactomycetalesを検出するCy3標識PL46プローブ、アナモックス菌群を検出するFITC標識AMX820プローブを用いて、FISHを行い、メタン菌、アナモックス菌群を染色した。図8はメタン発酵グラニュールの薄切片に対して行ったFISHの結果得られた染色像であり、(b)は、(a)の白色点線の四角で囲われた部分の拡大図である。図8(a)は、Cy3標識ARC915プロ-ブを用いて行ったFISHの結果であり、白色部分がメタン菌の局在を示している。図8(b)は、FITC標識AMX820プローブを用いて行ったFISHの結果であり、白色点線の四角で囲われた内部の白色部分がアナモックス菌群の局在を示している。該染色像から明らかであるように、用いたグラニュール汚泥には表面から100μmの深さの領域にメタン菌が、メタン発酵グラニュールの中心付近にごくわずかのアナモックス菌群が生息していていた。この汚泥を実施例1のカラムに充填し、亜硝酸態窒素とアンモニア態窒素を各20mgN/Lとグルコース200mgC/Lを含有する馴養用溶液を、一旦100mL容の酸生成槽で3時間滞留させ、有機酸を生成させた後に、4.0mL/minでカラム下部より送液した。酸生成槽で滞留させることにより、グラニュール汚泥を充填したカラムに流入する直前の馴養用溶液には、約60mgCの酢酸、55mgCのプロピオン酸が含有していた。運転当初は、BOD成分除去率は70%、窒素除去率は10%であったが、10ヶ月の運転ののち測定するとBOD成分除去率は70%に維持されたまま、窒素除去率が50%に向上していた。
これらの結果から、嫌気性処理装置由来のグラニュールを、アナモックス菌群等の独立栄養性脱窒微生物の増殖やアナモックス活性に適した馴養用溶液に接触させて馴養することにより、グラニュール中の微生物の局在化と独立栄養性脱窒微生物の増殖が進行する結果、本発明のグラニュール、すなわち、表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在したグラニュールが得られること、及び、本発明のグラニュールは、馴養前のグラニュールに比べて窒素除去能が飛躍的に改善されていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の被処理液の有機物と窒素の除去方法、該方法に用いられ得る微生物を収容したグラニュール及び担体、並びに有機物と窒素の除去装置は、メタン発酵等の嫌気性処理と独立栄養性脱窒微生物を用いた脱窒処理を用いることにより、一の嫌気性処理槽内において行うことができるため、有機物と窒素を含む排水処理の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】各酸化還元電位におけるメタン発酵活性とアナモックス活性を表した図である。図中、曲線aがメタン発酵活性を、曲線bがアナモックス活性を、それぞれ示している。
【図2】本発明の第5の態様である有機物と窒素の除去装置の一態様の概略図である。
【図3】本発明の第2の態様に用いられる担体の一態様の断面の概略図である。
【図4】本発明の第3の態様であるグラニュールの一態様の断面の概略図である。
【図5】本発明の第6の態様である有機物と窒素の除去装置の一態様の概略を示した図である。
【図6】本発明の第5の態様である有機物と窒素の除去装置のうち、酸生成槽11を備えた一態様の概略図を示したものである。
【図7】本発明の第6の態様である有機物と窒素の除去装置のうち、酸生成槽11を備えた一態様の概略図を示したものである。
【図8】メタン発酵グラニュールの薄切片に対して行ったFISHの結果得られた染色像であり、(b)は、(a)の白色点線の四角で囲われた部分の拡大図である。図8(a)は、Cy3標識ARC915プロ-ブを用いて行ったFISHの結果であり、白色部分がメタン菌の局在を示している。図8(b)は、FITC標識AMX820プローブを用いて行ったFISHの結果であり、白色点線の四角で囲われた内部の白色部分がアナモックス菌群の局在を示している。
【符号の説明】
【0051】
1…嫌気性処理槽、2…メタン発酵グラニュール、3…固定化アナモックス菌群、4…被処理液導入口、5…処理液出口、6…循環ポンプ、7…ORPセンサー、8…散気装置、9…微生物を収容した担体、91…メタン発酵菌、92…アナモックス菌群、10…微生物を収容したグラニュール、11…酸生成槽、12…固定化酸生成菌、13…有機酸添加バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性消化処理槽を用いて、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去する方法において、
前記嫌気性消化処理槽が、嫌気性消化処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層を有し、
(a) 前記被処理液を、嫌気性消化処理用微生物を収容した第1層に接触させ、嫌気性消化処理により有機物を分解する工程と、
(b) 前記第1層に接触させた後の被処理液を、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層に接触させ、脱窒を行う工程とを有し、
前記工程(a)〜(b)を1回以上行うことを特徴とする、被処理液の有機物と窒素の除去方法。
【請求項2】
嫌気性処理槽を用いて、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去する方法において、
前記嫌気性処理槽には、微生物を収容したグラニュール又は担体が充填されており、
前記グラニュール又は担体の表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在しており、
前記被処理液を、前記グラニュール又は担体に接触させて、有機物の分解及び脱窒を行うことを特徴とする、被処理液の有機物と窒素の除去方法。
【請求項3】
前記嫌気性処理槽内の酸化還元電位を、−380〜−280mVに制御することを特徴とする、請求項1又は2記載の被処理液の有機物と窒素の除去方法。
【請求項4】
前記嫌気性処理槽内の酸化還元電位を、有機酸を用いて制御することを特徴とする、請求項3記載の被処理液の有機物と窒素の除去方法。
【請求項5】
前記第1層が、メタン発酵グラニュールであり、前記第2層が、独立栄養性脱窒微生物を固定した担体であることを特徴とする、請求項1、3、4のいずれか記載の有機物と窒素の除去方法。
【請求項6】
表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在することを特徴とする微生物を収容したグラニュール。
【請求項7】
乳酸又はプロピオン酸、アンモニア態窒素、及び亜硝酸態窒素を含むことを特徴とする馴養用溶液。
【請求項8】
一の嫌気性処理槽内に、嫌気性処理用微生物を収容した第1層と、独立栄養性脱窒微生物を収容した第2層とを少なくとも備えることを特徴とする、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去するための装置。
【請求項9】
一の嫌気性処理槽内に、微生物を収容したグラニュール又は担体が充填されており、
前記グラニュール又は担体の表層部に嫌気性処理用微生物が局在し、内層に独立栄養性脱窒微生物が局在していることを特徴とする、有機物と窒素を含有する被処理液から有機物と窒素を除去するための装置。
【請求項10】
さらに、酸生成槽を備えることを特徴とする、請求項8又は9記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−39643(P2009−39643A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206671(P2007−206671)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】