被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法及びこのシミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム
【課題】被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向を考慮して精度の高い被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を提供する。
【解決手段】塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、要素について空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、空気と判断された要素につき、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で被塗装物に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、空気と判断された要素が属する領域内において、空気と判断された要素が空気か液体塗料かを判断する第2判断ステップとを備える。
【解決手段】塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、要素について空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、空気と判断された要素につき、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で被塗装物に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、空気と判断された要素が属する領域内において、空気と判断された要素が空気か液体塗料かを判断する第2判断ステップとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の角度及び塗料槽内における液体塗料の流速等を考慮して空気溜まりの発生をシミュレーションする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法及びこのシミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や自動車車両の車体等の被塗装物を溶解した金属が満たされた塗料槽に浸漬させて行うメッキや電着液等に満たされた塗料槽に浸漬させて塗装を行う電着塗装のような塗装方法は、塗膜を略均一にすることができ、被塗装物の溶接部分にも塗装を行うことができる等の利点がある。この反面、複雑な形状の部品であればその隙間にできる凹部、車体であれば、フード内面、ルーフ内面、フロア下面等の凹部にはエアポケットと呼ばれる空気溜まりが生じると、この部分に塗膜を形成することができないという欠点がある。
【0003】
そこで、空気溜まりが発生しないよう、対象物の形状を適切に設計した上で、浸漬処理をすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10-45037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被塗装物に生じる空気溜まりは、自由表面を用いた周知の解析手法により、その有無を事前に判定することが行われている。ここで、被塗装物の傾斜部の下面には表面張力及び分子間力により気泡が付着し空気溜まりが発生する場合があるが、一旦被塗装物についた気泡が脱離するか否かは、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向が関係し、従来の解析方法はこの点を考慮していなかったため、必ずしも精度の高い予測をすることができなかった。
【0005】
本発明の課題は、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向を考慮して精度の高い被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法及びこのシミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法に係る第1の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、前記第1判断ステップにおいて、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法において、前記データベースは、前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものであることを特徴とする。
【0008】
また、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法に係る第3の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、下記の式(1)により気泡離脱係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップにおいて属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法に係る第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記第1判断ステップは、前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
また、被塗装物における空気溜り発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第5の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、前記被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、前記第1判断ステップによって、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、被塗装物における空気溜り発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第5の発明において、前記データベースは、前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものであることを特徴とする。
【0012】
また、被塗装物における空気溜り発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第7の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、下記の式(1)により気泡脱離係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップの実行によって属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
第8の発明は、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第5から第7の発明のいずれかにおいて、前記第1判断ステップは、前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
第1の発明或いは第5の発明によれば、被塗装物に付着した気泡の有無が被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向から判断することができる。
【0015】
第2の発明或いは第6の発明によれば、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記電着槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したデータベースを用いることで被塗装物に付着した気泡が脱離するか否かを容易に判断することが可能となる。
【0016】
第3の発明或いは第7の発明によれば、被塗装物に付着した気泡が塗料槽内を被塗装物が搬送される最中に脱離するか否かを、空気と判断された要素の高さZ1と空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に気泡離脱係数Fを加えた値との関係より判断することができる。
【0017】
第4の発明或いは第8の発明によれば、被塗装物に気泡が付着する位置の解析を容易に行うことが出来る。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明或いは第5の発明によれば、被塗装物に付着した気泡が脱離するか否かを被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向を考慮して判断することで、被塗装物に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーションの精度を向上させることができる。
【0019】
第2の発明或いは第6の発明によれば、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したデータベースを用いることで、被塗装物に空気溜まりが発生するか否かについての判断の精度を向上させることができる。
【0020】
第3の発明或いは第7の発明によれば、被塗装物に付着した気泡が塗料槽内を被塗装物が搬送される最中に脱離するか否かを、空気と判断された要素の高さZ1と空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に気泡離脱係数Fを加えた値との関係より判断することで、被塗装物に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーション精度を向上させることができる。
【0021】
第4の発明或いは第8の発明によれば、被塗装物に気泡が付着する位置を用意に検出することができるので、空気溜まりが発生するか否かのシミュレーションを迅速かつ正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
次に本実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。なお、以下においては、車体ボディについて電着塗装を行う場合を例に説明を行うが、本発明を適用可能な塗装方法は、電着塗装に限定されることはなく、液体塗料に被塗装物を浸漬させて塗装を行う塗装方法であればいかなるものでもよい。
【0023】
図1は、この被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行する流体解析装置1を構成可能なハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の流体解析装置1は、CPU2、ROM3及びRAM4からなる制御部5と、キーボード6のキーボードコントローラ9と、表示部としてのディスプレイ10のディスプレイコントローラ11と、ハードディスクドライブ12及びフレキシブルディスクドライブ13のディスクコントローラ14と、ネットワーク15との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ16とが、システムバス19を介して互いに通信可能に接続されて構成されている。
【0025】
CPU2は、ROM3或いはハードディスクドライブ12に記憶されたソフトウェア、或いはフレキシブルディスクドライブ13より供給されるソフトウェアを実行することで、システムバス19に接続された各構成部を総括的に制御する。すなわち、CPU2は、所定の処理シーケンスに従って処理プログラムを、ROM3、或いはハードディスクドライブ12、或いはフレキシブルディスクドライブ13から読み出して実行することで、本実施形態の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法の動作を実現するための制御を行う。また、プログラムは流体解析装置1以外の外部記憶媒体に記憶されているものを通信手段を通じて読み出すものであってもよい。
【0026】
CPU2は、解析対象の部材の形状のデータをハードディスクドライブ12から読み出して、その部材及びその周辺を立方体状の複数の領域に分割し、分割した各領域に固有の連続する番号を付与するようになっている。また、CPU2は、解析対象である車体ボディを複数の二次元又は三次元の要素に分割するようになっている。またCPU2は、解析対象となる領域内の部材の傾斜角度を測定するようになっている。
【0027】
ROM3には、車体パネルの傾斜角度、車体パネルと電着液の間に生ずる表面張力、電着液の流速及び電着槽内における電着液の流れ方向との関係で前記車体パネルの表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースが格納されている。このデータベースには、実際の車体ボディを電着槽で電着塗装を行うことにより集積したデータや車体の一部を模したパネルを電着液で満たしたタンクに沈め、そこに気泡や電着液の流れを人工的に発生させる簡易モデルを用いて集積したデータを集積したものである。
【0028】
RAM4は、CPU2の主メモリ或いはワークエリア等として機能する。キーボードコントローラ9は、キーボード6や図示しないポインティングデバイス等からの指示入力を制御する。ディスプレイコントローラ11は、ディスプレイ10の表示を制御する。ディスクコントローラ14は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム及び本実施形態における所定の処理プログラム等を記憶するハードディスクドライブ12及びフレキシブルディスクドライブ13とのアクセスを制御する。ネットワークインターフェースコントローラ16は、ネットワーク15上の装置或いはシステムと双方向にデータを送受信するようになっている。
【0029】
この被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法は、車体ボディの電着塗装時における電着液及び空気の流れを数値解析するものである。まず、車体ボディの塗装ラインについて簡単に説明する。
【0030】
溶接等により複数の車体パネルを互いに接合して自動車の車体ボディ20は構成され、図2に示すように、搬送装置21のハンガに搭載された状態で塗装ラインにて略水平方向へ搬送される。塗装ラインでは、電着塗装の前処理として、車体パネルに脱脂、水洗、表面調整、皮膜化成、水洗等の処理が施される。これらの処理の後、車体ボディ20は電着槽22に向かって降下し、電着液23に浸漬された状態で略水平に移動する。この状態で、車体ボディ20と電着槽22内の電極(図示せず)に電圧を加えることにより、車体パネルに塗料が析出するようになっている。この後、搬送装置21により車体ボディ20は電着槽22から引き上げられ、水洗により車体パネルに電着せずに付着している電着液23が除去される。
【0031】
次に、本発明に係る空気溜まり発生シミュレーション方法を実行可能なコンピュータのプログラムについて、図3及び図4を基に詳述する。図3に記載のプログラムは、図1の流体解析装置1のROM3またはHDD12に格納、或いは、ネットワーク15を介して外部から供給される各制御プログラムであり、CPU2によって実行される。
【0032】
これらのプログラムは、図3に示すように、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップを実行する領域分割プログラムP1と、被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップを実行する要素分割プログラムP2と、複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップを実行する第1判断プログラムP3と、第1判断プログラムP3によって属性が空気と判断された要素につき、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、空気と判断された要素が属する領域内において、空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップを実行する第2判断プログラムP4とを有している。
【0033】
また、図4に示すように、第1判断プログラムP3は、本発明の第1のステップを実行する第1のプログラムP5、第2のステップを実行する第2のプログラムP6、第3のステップを実行する第3のプログラムP7、第4のステップを実行する第4のプログラムP8を含んでいる。
【0034】
以下、図5のフローチャートを参照して、本第1の実施形態に係る被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法について説明する。
【0035】
本実施形態においては、有限要素法を用いて解析を行う。まず、図6に示すように車体ボディ20及びその周辺を立方体状の複数の領域に分割し、分割した各領域に固有の連続する番号を付与する(ステップS1−1)。なお、図6には3次元の数値モデルを図示しているが、数値計算モデルは2次元であってもよい。以上のステップS1−1が領域分割プログラムP1に相当する。
【0036】
次に、電着槽22に浸漬した車体ボディ20に気泡が付着するか否かを判断する。この判断する方法について、特に制限はないが、以下において、その判断手法を車体ボディ20を構成する図7に示すようなフロアパネル26を例に挙げて説明する。
【0037】
ここでは、まず図7に示すフロアパネル26を図8に示すように、フロアパネル26の表面を複数の要素29に分割して数値計算のための二次元の数値計算モデルを構築する(ステップS1−2)。なお、図8には2次元の数値モデルを図示しているが、数値計算モデルは3次元であってもよい。以上のステップS1−2が要素分割プログラムP2に相当する。
【0038】
次いで、これらの全ての要素29を初期状態として空気に設定し(ステップS2)、次いで、制御部5は、数値計算モデルにおける重力方向を指定する(ステップS3)。
【0039】
この状態は、車体ボディ20が電着槽22に投入される前のフロアパネル26の周辺が空気で満たされた状態を模擬的に表している。
【0040】
そして、フロアパネル26の端部または穴部に存在する要素29を初期境界要素とし(ステップS4)、更に、境界要素との比較対象である隣接要素を設定する(ステップ5)。ここで、初期境界要素とは、フロアパネル26の端部及び穴部の要素であって電着液とされた要素をいい、隣接要素とは、初期境界要素又は後述する二次境界要素と節点を共有する要素であって、未だに初期境界要素又は二次境界要素との比較が行われていない要素をいう。ここで、節点とは、各要素の頂点が接して形成される点のことをいう。
【0041】
次いで、初期境界要素と隣接要素のそれぞれの重心点のZ方向における高さを比較し(ステップS6)、初期境界要素より、重心点の位置が低い隣接要素には電着液23が空気24を押しのけて進入し、電着液23により満たされたものと判断する。これに対して、初期境界要素より、重心点の位置が高い隣接要素には空気24が残留しているものと判断する(ステップS7)。このように判断を行うのは、電着液の比重が空気の比重よりも大きいことによる。
【0042】
これを具体的に説明する。図9(a)(b)に示す要素29Cを初期境界要素として節点αを共有する要素Aを隣接要素とした場合、初期境界要素29Cの重心点のZ方向の高さと隣接要素Aの重心点のZ方向の高さを比較し、隣接要素29Aの重心点の高さが初期境界要素29Cの重心点の高さよりも高い場合には、隣接要素29Aは電着液とされる。この比較方法は、後述する二次境界要素と隣接要素を比較する場合も同様である。
【0043】
次いで、初期境界要素との比較が終了した隣接要素を二次境界要素と設定し(ステップS8)、新たに設定した二次境界要素に隣接する隣接要素があるか否かの判断を行う(ステップS9)。ここで、二次境界要素とは、初期境界要素又は他の二次境界要素との比較が終了した要素をいう。
【0044】
隣接要素が無いと判断した場合は(NO)解析を終了する。これに対して、隣接要素があると判断した場合には(YES)、二次境界要素及び隣接要素のそれぞれの重心点の高さを比較して隣接要素の解析を行い(ステップS10)、隣接要素の重心点の高さ方が比較対象の二次境界要素の重心点の高さより低い場合は電着液23と判断され、隣接要素の重心点の高さが比較対象の二次境界要素の重心点の高さより高い場合は空気24と判断され(ステップS11)、解析の終了した隣接要素は二次境界要素として設定する(ステップS12)。
【0045】
次いで、新たに設定した二次境界要素に隣接する隣接要素があるか否かの判断を行う(ステップS13)。隣接要素があると判断した場合には(YES)、二次境界要素及び隣接要素のそれぞれの重心点の高さを比較して隣接要素の解析を行い(ステップS10)、隣接要素が無いと判断した場合には(NO)、各要素についての解析を終了する。
【0046】
以上のステップS2からステップS13が第1判断プログラムP3に相当する。この第1判断プログラムP3によるステップS2からステップS13の処理においては、ステップS4,S5が第1のプログラムP5(本発明における第1のステップ)に相当し、ステップS6,S7が第2のプログラムP6(本発明における第1のステップ)に相当する。また、ステップS8が第3のプログラムP7(本発明における第3のステップ)に相当し、ステップS10,S11が第4のプログラムP8(本発明における第4のステップ)に相当する。
【0047】
なお、初期境界要素及び二次境界要素が隣接要素からみて複数ある場合は、全ての初期境界要素又は二次境界要素と比較し、それらの初期境界要素又は電着液である二次境界要素の何れか一つよりも低いと判断された場合は、その隣接要素は電着液であると判断される。このようにして、車体ボディ20全体について気泡が付着しているか否かの判断を行う。
【0048】
上述のように、電着槽22に浸漬した車体ボディ20を複数の要素に分割して空気か電着液かの判断を行った後に、空気であると判断された要素が含まれる領域を選択し、選択した領域のうち先に付した固有の番号のうち最も小さい番号の付された領域における電着液の流速及び電着液の流れる方向を測定する。併せて、選択した領域内に存在する車体ボディ20を構成するパネルの傾斜している部分の傾斜角度を測定すると共に周知の方法により車体ボディ20を構成するパネルと電着液の間に生ずる表面張力を測定する。
【0049】
傾斜角度を測定するにあたっては、例えば図10に示すように、空気と判断された二次元の要素を気泡要素Yとし、気泡要素Yと車体ボディ20を構成するパネルPの傾斜方向において隣接する電着液と判断された要素を電着液要素Wとし、それぞれを直方体状の要素とする。
【0050】
次いで、図11に示すように気泡要素Yと電着液要素Wの重心点を結んだ線L1及び電着液要素Wの重心点から鉛直下方向に引いた線である垂線L2があった場合に、気泡要素Yの重心点及び垂線L2を通過する水平線L3を引き、線L1と水平線L3のなす角度を周知の方法によって計測し車体パネルPの傾斜角度βを導きだす。次いで、ROM3の記憶領域に格納されている、車体パネルPの傾斜角度、車体パネルPと電着液の間に生ずる表面張力、電着槽22内における電着液の流速及び電着液の流れ方向との関係で車体パネルに付着した気泡が脱離するか否かのデータを集積したデータベースを用いて、選択された領域に存する車体パネルPに付着した気泡が脱離するか否かの判断を行う(ステップS14)。以上のステップS14が第2判断プログラムP4に相当する。
【0051】
この解析作業を空気と判断された要素が含まれている全ての領域について付されている番号の小さい領域の順に行い、全ての領域について解析が終わると解析作業を終了する。
【0052】
以上のように、第1の実施形態に係る発明によれば、車体ボディ20に付着した気泡が脱離するか否かを車体ボディ20に気泡が付着している部位の傾斜角度、前記車体パネルと電着液の間に生ずる表面張力、前記電着槽内における電着液の流速及び電着液の流れ方向を考慮して判断することで、車体ボディ20に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーション精度を向上させることができる。
【0053】
また、車体ボディ20に気泡が付着している部位の傾斜角度、車体ボディ20と電着液の間に生ずる表面張力、電着槽内における電着液の流速及び電着液の流れ方向との関係で車体ボディ20に付着した気泡がいかなる場合に脱離するか否かを集積したデータベースを用いることで、車体ボディ20に空気溜まりが発生するか否かについての判断の精度を向上させることができる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について説明する。ただし、第1の実施形態と同様の内容についての説明は省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明を行う。
【0055】
ROM3には、空気と判断された要素の高さZ1と電着液と判断された要素の高さZ2に前述した方法により集積したデータより導き出した下記の式(1)より導き出した計算値(気泡離脱係数)Fを加えたものとを比較して車体パネルを比較して車体パネルに付着した気泡が脱離するか否かを判断するようになっている。即ち、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは車体ボディ20に付着した気泡は脱離すると判断され、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、車体ボディ20に付着した気泡は脱離しないと判断されるようになっている。
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
【0056】
ここでC1、C2、C3及びC4は実際の車体ボディを用いて電着槽で電着塗装を行うことにより、または簡易モデルを用いて適切な気泡離脱係数Fを求めるために導き出された係数である。また、σは車体パネル表面に生じる表面張力、μは電着液の粘度、Vは電着槽内における車体ボディ20の移動速度を表す。
【0057】
第2の実施形態における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行可能なコンピュータのプログラムは、図12に示される。図12に記載のプログラムは、図1の解析装置1のROM3またはHDD12に格納、或いは、ネットワーク15を介して外部から供給される各制御プログラムであり、CPU2によって実行される。
【0058】
第2の実施形態におけるプログラムは、第1の実施形態の各制御プログラム、すなわち、領域分割プログラムP1、要素分割プログラムP2、第1判断プログラムP3、第2判断プログラムP4に、気泡離脱係数Fの計算ステップを実行する計算プログラムP9を更に追加したものである。計算プログラムP9は、第1判断プログラムP3の判断結果を受けて気泡離脱係数Fを計算し、第2判断プログラムP4に計算結果を渡す。
【0059】
以下、本第2の実施形態に係る被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法について説明する。
【0060】
本実施形態においても有限要素法を用いて解析を行う。そして、第1の実施形態と同様にまず、図6に示すように車体ボディ20及びその周辺を立方体状の複数の領域に分割し、分割した各領域に固有の連続する番号を付与する。
【0061】
次いで、第1の実施形態と同様の手法により、電着槽22に浸漬した車体ボディ20に気泡が付着するか否かを判断する。第2の実施形態においても係る判断の手法についての制限はない。
【0062】
そして、電着槽22に浸漬した車体ボディ20を複数の要素に分割して空気か電着液かの判断を行った後に、空気であると判断された要素が含まれる領域を選択し、選択した領域のうち先に付した固有の番号のうち最も小さい番号の付された領域に属する空気と判断された二次元の要素を気泡要素Yとし、気泡要素Yと車体ボディ20を構成する車体パネルPの傾斜方向において隣接する電着液と判断された要素を電着液要素Wとし、第1の実施形態と同様に直法体状の要素とする。次いで、気泡要素Yの高さZ1及び電着液要素Wの高さZ2を測定する。
【0063】
次に、気泡要素Yの高さZ1と電着液要素Wの高さZ2に式(1)により導き出した気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは車体パネルPに付着した気泡は脱離すると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、車体パネルPに付着した気泡は脱離しないと判断する。
【0064】
この解析作業を空気と判断された要素が含まれている全ての領域について付されている番号の小さい領域の順に行い、全ての領域について解析が終わると解析作業を終了する。
【0065】
以上のように、第2の実施形態に係る発明によれば、車体ボディ20に付着した気泡が脱離するか否かを気泡要素Yの高さZ1と電着液要素Wの高さZ2に式(1)より導き出した気泡離脱係数Fを加えたものとを比較して判断を行うことで、車体ボディ20に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーション精度を向上させることができる。
【0066】
なお、特許請求の範囲に記載の技術は、以上のような車体ボディの電着塗装に限らず、例えば、めっき処理における処理槽、洗浄処理にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】流体解析装置の概略構成ブロック図である。
【図2】車体の塗装ラインの概略説明図である。
【図3】第1の実施形態における各制御プログラムの説明図である。
【図4】第1判断プログラムの説明図である。
【図5】第1の実施形態に係る被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法のフローチャートである。
【図6】車体ボディを複数の三次元の領域に分割した状態を示す斜視図である。
【図7】フロアパネルの概略斜視図である。
【図8】フロアパネルを二次元の要素に分割した図である。
【図9】(a)はフロアパネルの二次元の要素の一部を抜き出した図であり、(b)は、(a)の要素の上面図である。
【図10】車体パネルに気泡が付着した状態につき三次元の要素化を行った図である。
【図11】車体パネルの傾斜角度を導き出すために用いる図である。
【図12】第2の実施形態における各制御プログラムの説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 流体解析装置
3 CPU
5 制御部
20 車体ボディ
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の角度及び塗料槽内における液体塗料の流速等を考慮して空気溜まりの発生をシミュレーションする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法及びこのシミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や自動車車両の車体等の被塗装物を溶解した金属が満たされた塗料槽に浸漬させて行うメッキや電着液等に満たされた塗料槽に浸漬させて塗装を行う電着塗装のような塗装方法は、塗膜を略均一にすることができ、被塗装物の溶接部分にも塗装を行うことができる等の利点がある。この反面、複雑な形状の部品であればその隙間にできる凹部、車体であれば、フード内面、ルーフ内面、フロア下面等の凹部にはエアポケットと呼ばれる空気溜まりが生じると、この部分に塗膜を形成することができないという欠点がある。
【0003】
そこで、空気溜まりが発生しないよう、対象物の形状を適切に設計した上で、浸漬処理をすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10-45037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被塗装物に生じる空気溜まりは、自由表面を用いた周知の解析手法により、その有無を事前に判定することが行われている。ここで、被塗装物の傾斜部の下面には表面張力及び分子間力により気泡が付着し空気溜まりが発生する場合があるが、一旦被塗装物についた気泡が脱離するか否かは、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向が関係し、従来の解析方法はこの点を考慮していなかったため、必ずしも精度の高い予測をすることができなかった。
【0005】
本発明の課題は、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向を考慮して精度の高い被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法及びこのシミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法に係る第1の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、前記第1判断ステップにおいて、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法において、前記データベースは、前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものであることを特徴とする。
【0008】
また、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法に係る第3の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、下記の式(1)により気泡離脱係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップにおいて属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法に係る第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記第1判断ステップは、前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
また、被塗装物における空気溜り発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第5の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、前記被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、前記第1判断ステップによって、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、被塗装物における空気溜り発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第5の発明において、前記データベースは、前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものであることを特徴とする。
【0012】
また、被塗装物における空気溜り発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第7の発明は、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、下記の式(1)により気泡脱離係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップの実行によって属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
第8の発明は、被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラムに係る第5から第7の発明のいずれかにおいて、前記第1判断ステップは、前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
第1の発明或いは第5の発明によれば、被塗装物に付着した気泡の有無が被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向から判断することができる。
【0015】
第2の発明或いは第6の発明によれば、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記電着槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したデータベースを用いることで被塗装物に付着した気泡が脱離するか否かを容易に判断することが可能となる。
【0016】
第3の発明或いは第7の発明によれば、被塗装物に付着した気泡が塗料槽内を被塗装物が搬送される最中に脱離するか否かを、空気と判断された要素の高さZ1と空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に気泡離脱係数Fを加えた値との関係より判断することができる。
【0017】
第4の発明或いは第8の発明によれば、被塗装物に気泡が付着する位置の解析を容易に行うことが出来る。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明或いは第5の発明によれば、被塗装物に付着した気泡が脱離するか否かを被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向を考慮して判断することで、被塗装物に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーションの精度を向上させることができる。
【0019】
第2の発明或いは第6の発明によれば、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したデータベースを用いることで、被塗装物に空気溜まりが発生するか否かについての判断の精度を向上させることができる。
【0020】
第3の発明或いは第7の発明によれば、被塗装物に付着した気泡が塗料槽内を被塗装物が搬送される最中に脱離するか否かを、空気と判断された要素の高さZ1と空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に気泡離脱係数Fを加えた値との関係より判断することで、被塗装物に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーション精度を向上させることができる。
【0021】
第4の発明或いは第8の発明によれば、被塗装物に気泡が付着する位置を用意に検出することができるので、空気溜まりが発生するか否かのシミュレーションを迅速かつ正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
次に本実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。なお、以下においては、車体ボディについて電着塗装を行う場合を例に説明を行うが、本発明を適用可能な塗装方法は、電着塗装に限定されることはなく、液体塗料に被塗装物を浸漬させて塗装を行う塗装方法であればいかなるものでもよい。
【0023】
図1は、この被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行する流体解析装置1を構成可能なハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の流体解析装置1は、CPU2、ROM3及びRAM4からなる制御部5と、キーボード6のキーボードコントローラ9と、表示部としてのディスプレイ10のディスプレイコントローラ11と、ハードディスクドライブ12及びフレキシブルディスクドライブ13のディスクコントローラ14と、ネットワーク15との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ16とが、システムバス19を介して互いに通信可能に接続されて構成されている。
【0025】
CPU2は、ROM3或いはハードディスクドライブ12に記憶されたソフトウェア、或いはフレキシブルディスクドライブ13より供給されるソフトウェアを実行することで、システムバス19に接続された各構成部を総括的に制御する。すなわち、CPU2は、所定の処理シーケンスに従って処理プログラムを、ROM3、或いはハードディスクドライブ12、或いはフレキシブルディスクドライブ13から読み出して実行することで、本実施形態の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法の動作を実現するための制御を行う。また、プログラムは流体解析装置1以外の外部記憶媒体に記憶されているものを通信手段を通じて読み出すものであってもよい。
【0026】
CPU2は、解析対象の部材の形状のデータをハードディスクドライブ12から読み出して、その部材及びその周辺を立方体状の複数の領域に分割し、分割した各領域に固有の連続する番号を付与するようになっている。また、CPU2は、解析対象である車体ボディを複数の二次元又は三次元の要素に分割するようになっている。またCPU2は、解析対象となる領域内の部材の傾斜角度を測定するようになっている。
【0027】
ROM3には、車体パネルの傾斜角度、車体パネルと電着液の間に生ずる表面張力、電着液の流速及び電着槽内における電着液の流れ方向との関係で前記車体パネルの表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースが格納されている。このデータベースには、実際の車体ボディを電着槽で電着塗装を行うことにより集積したデータや車体の一部を模したパネルを電着液で満たしたタンクに沈め、そこに気泡や電着液の流れを人工的に発生させる簡易モデルを用いて集積したデータを集積したものである。
【0028】
RAM4は、CPU2の主メモリ或いはワークエリア等として機能する。キーボードコントローラ9は、キーボード6や図示しないポインティングデバイス等からの指示入力を制御する。ディスプレイコントローラ11は、ディスプレイ10の表示を制御する。ディスクコントローラ14は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム及び本実施形態における所定の処理プログラム等を記憶するハードディスクドライブ12及びフレキシブルディスクドライブ13とのアクセスを制御する。ネットワークインターフェースコントローラ16は、ネットワーク15上の装置或いはシステムと双方向にデータを送受信するようになっている。
【0029】
この被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法は、車体ボディの電着塗装時における電着液及び空気の流れを数値解析するものである。まず、車体ボディの塗装ラインについて簡単に説明する。
【0030】
溶接等により複数の車体パネルを互いに接合して自動車の車体ボディ20は構成され、図2に示すように、搬送装置21のハンガに搭載された状態で塗装ラインにて略水平方向へ搬送される。塗装ラインでは、電着塗装の前処理として、車体パネルに脱脂、水洗、表面調整、皮膜化成、水洗等の処理が施される。これらの処理の後、車体ボディ20は電着槽22に向かって降下し、電着液23に浸漬された状態で略水平に移動する。この状態で、車体ボディ20と電着槽22内の電極(図示せず)に電圧を加えることにより、車体パネルに塗料が析出するようになっている。この後、搬送装置21により車体ボディ20は電着槽22から引き上げられ、水洗により車体パネルに電着せずに付着している電着液23が除去される。
【0031】
次に、本発明に係る空気溜まり発生シミュレーション方法を実行可能なコンピュータのプログラムについて、図3及び図4を基に詳述する。図3に記載のプログラムは、図1の流体解析装置1のROM3またはHDD12に格納、或いは、ネットワーク15を介して外部から供給される各制御プログラムであり、CPU2によって実行される。
【0032】
これらのプログラムは、図3に示すように、塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップを実行する領域分割プログラムP1と、被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップを実行する要素分割プログラムP2と、複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップを実行する第1判断プログラムP3と、第1判断プログラムP3によって属性が空気と判断された要素につき、被塗装物の傾斜角度、被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、空気と判断された要素が属する領域内において、空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップを実行する第2判断プログラムP4とを有している。
【0033】
また、図4に示すように、第1判断プログラムP3は、本発明の第1のステップを実行する第1のプログラムP5、第2のステップを実行する第2のプログラムP6、第3のステップを実行する第3のプログラムP7、第4のステップを実行する第4のプログラムP8を含んでいる。
【0034】
以下、図5のフローチャートを参照して、本第1の実施形態に係る被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法について説明する。
【0035】
本実施形態においては、有限要素法を用いて解析を行う。まず、図6に示すように車体ボディ20及びその周辺を立方体状の複数の領域に分割し、分割した各領域に固有の連続する番号を付与する(ステップS1−1)。なお、図6には3次元の数値モデルを図示しているが、数値計算モデルは2次元であってもよい。以上のステップS1−1が領域分割プログラムP1に相当する。
【0036】
次に、電着槽22に浸漬した車体ボディ20に気泡が付着するか否かを判断する。この判断する方法について、特に制限はないが、以下において、その判断手法を車体ボディ20を構成する図7に示すようなフロアパネル26を例に挙げて説明する。
【0037】
ここでは、まず図7に示すフロアパネル26を図8に示すように、フロアパネル26の表面を複数の要素29に分割して数値計算のための二次元の数値計算モデルを構築する(ステップS1−2)。なお、図8には2次元の数値モデルを図示しているが、数値計算モデルは3次元であってもよい。以上のステップS1−2が要素分割プログラムP2に相当する。
【0038】
次いで、これらの全ての要素29を初期状態として空気に設定し(ステップS2)、次いで、制御部5は、数値計算モデルにおける重力方向を指定する(ステップS3)。
【0039】
この状態は、車体ボディ20が電着槽22に投入される前のフロアパネル26の周辺が空気で満たされた状態を模擬的に表している。
【0040】
そして、フロアパネル26の端部または穴部に存在する要素29を初期境界要素とし(ステップS4)、更に、境界要素との比較対象である隣接要素を設定する(ステップ5)。ここで、初期境界要素とは、フロアパネル26の端部及び穴部の要素であって電着液とされた要素をいい、隣接要素とは、初期境界要素又は後述する二次境界要素と節点を共有する要素であって、未だに初期境界要素又は二次境界要素との比較が行われていない要素をいう。ここで、節点とは、各要素の頂点が接して形成される点のことをいう。
【0041】
次いで、初期境界要素と隣接要素のそれぞれの重心点のZ方向における高さを比較し(ステップS6)、初期境界要素より、重心点の位置が低い隣接要素には電着液23が空気24を押しのけて進入し、電着液23により満たされたものと判断する。これに対して、初期境界要素より、重心点の位置が高い隣接要素には空気24が残留しているものと判断する(ステップS7)。このように判断を行うのは、電着液の比重が空気の比重よりも大きいことによる。
【0042】
これを具体的に説明する。図9(a)(b)に示す要素29Cを初期境界要素として節点αを共有する要素Aを隣接要素とした場合、初期境界要素29Cの重心点のZ方向の高さと隣接要素Aの重心点のZ方向の高さを比較し、隣接要素29Aの重心点の高さが初期境界要素29Cの重心点の高さよりも高い場合には、隣接要素29Aは電着液とされる。この比較方法は、後述する二次境界要素と隣接要素を比較する場合も同様である。
【0043】
次いで、初期境界要素との比較が終了した隣接要素を二次境界要素と設定し(ステップS8)、新たに設定した二次境界要素に隣接する隣接要素があるか否かの判断を行う(ステップS9)。ここで、二次境界要素とは、初期境界要素又は他の二次境界要素との比較が終了した要素をいう。
【0044】
隣接要素が無いと判断した場合は(NO)解析を終了する。これに対して、隣接要素があると判断した場合には(YES)、二次境界要素及び隣接要素のそれぞれの重心点の高さを比較して隣接要素の解析を行い(ステップS10)、隣接要素の重心点の高さ方が比較対象の二次境界要素の重心点の高さより低い場合は電着液23と判断され、隣接要素の重心点の高さが比較対象の二次境界要素の重心点の高さより高い場合は空気24と判断され(ステップS11)、解析の終了した隣接要素は二次境界要素として設定する(ステップS12)。
【0045】
次いで、新たに設定した二次境界要素に隣接する隣接要素があるか否かの判断を行う(ステップS13)。隣接要素があると判断した場合には(YES)、二次境界要素及び隣接要素のそれぞれの重心点の高さを比較して隣接要素の解析を行い(ステップS10)、隣接要素が無いと判断した場合には(NO)、各要素についての解析を終了する。
【0046】
以上のステップS2からステップS13が第1判断プログラムP3に相当する。この第1判断プログラムP3によるステップS2からステップS13の処理においては、ステップS4,S5が第1のプログラムP5(本発明における第1のステップ)に相当し、ステップS6,S7が第2のプログラムP6(本発明における第1のステップ)に相当する。また、ステップS8が第3のプログラムP7(本発明における第3のステップ)に相当し、ステップS10,S11が第4のプログラムP8(本発明における第4のステップ)に相当する。
【0047】
なお、初期境界要素及び二次境界要素が隣接要素からみて複数ある場合は、全ての初期境界要素又は二次境界要素と比較し、それらの初期境界要素又は電着液である二次境界要素の何れか一つよりも低いと判断された場合は、その隣接要素は電着液であると判断される。このようにして、車体ボディ20全体について気泡が付着しているか否かの判断を行う。
【0048】
上述のように、電着槽22に浸漬した車体ボディ20を複数の要素に分割して空気か電着液かの判断を行った後に、空気であると判断された要素が含まれる領域を選択し、選択した領域のうち先に付した固有の番号のうち最も小さい番号の付された領域における電着液の流速及び電着液の流れる方向を測定する。併せて、選択した領域内に存在する車体ボディ20を構成するパネルの傾斜している部分の傾斜角度を測定すると共に周知の方法により車体ボディ20を構成するパネルと電着液の間に生ずる表面張力を測定する。
【0049】
傾斜角度を測定するにあたっては、例えば図10に示すように、空気と判断された二次元の要素を気泡要素Yとし、気泡要素Yと車体ボディ20を構成するパネルPの傾斜方向において隣接する電着液と判断された要素を電着液要素Wとし、それぞれを直方体状の要素とする。
【0050】
次いで、図11に示すように気泡要素Yと電着液要素Wの重心点を結んだ線L1及び電着液要素Wの重心点から鉛直下方向に引いた線である垂線L2があった場合に、気泡要素Yの重心点及び垂線L2を通過する水平線L3を引き、線L1と水平線L3のなす角度を周知の方法によって計測し車体パネルPの傾斜角度βを導きだす。次いで、ROM3の記憶領域に格納されている、車体パネルPの傾斜角度、車体パネルPと電着液の間に生ずる表面張力、電着槽22内における電着液の流速及び電着液の流れ方向との関係で車体パネルに付着した気泡が脱離するか否かのデータを集積したデータベースを用いて、選択された領域に存する車体パネルPに付着した気泡が脱離するか否かの判断を行う(ステップS14)。以上のステップS14が第2判断プログラムP4に相当する。
【0051】
この解析作業を空気と判断された要素が含まれている全ての領域について付されている番号の小さい領域の順に行い、全ての領域について解析が終わると解析作業を終了する。
【0052】
以上のように、第1の実施形態に係る発明によれば、車体ボディ20に付着した気泡が脱離するか否かを車体ボディ20に気泡が付着している部位の傾斜角度、前記車体パネルと電着液の間に生ずる表面張力、前記電着槽内における電着液の流速及び電着液の流れ方向を考慮して判断することで、車体ボディ20に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーション精度を向上させることができる。
【0053】
また、車体ボディ20に気泡が付着している部位の傾斜角度、車体ボディ20と電着液の間に生ずる表面張力、電着槽内における電着液の流速及び電着液の流れ方向との関係で車体ボディ20に付着した気泡がいかなる場合に脱離するか否かを集積したデータベースを用いることで、車体ボディ20に空気溜まりが発生するか否かについての判断の精度を向上させることができる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について説明する。ただし、第1の実施形態と同様の内容についての説明は省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明を行う。
【0055】
ROM3には、空気と判断された要素の高さZ1と電着液と判断された要素の高さZ2に前述した方法により集積したデータより導き出した下記の式(1)より導き出した計算値(気泡離脱係数)Fを加えたものとを比較して車体パネルを比較して車体パネルに付着した気泡が脱離するか否かを判断するようになっている。即ち、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは車体ボディ20に付着した気泡は脱離すると判断され、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、車体ボディ20に付着した気泡は脱離しないと判断されるようになっている。
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
【0056】
ここでC1、C2、C3及びC4は実際の車体ボディを用いて電着槽で電着塗装を行うことにより、または簡易モデルを用いて適切な気泡離脱係数Fを求めるために導き出された係数である。また、σは車体パネル表面に生じる表面張力、μは電着液の粘度、Vは電着槽内における車体ボディ20の移動速度を表す。
【0057】
第2の実施形態における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行可能なコンピュータのプログラムは、図12に示される。図12に記載のプログラムは、図1の解析装置1のROM3またはHDD12に格納、或いは、ネットワーク15を介して外部から供給される各制御プログラムであり、CPU2によって実行される。
【0058】
第2の実施形態におけるプログラムは、第1の実施形態の各制御プログラム、すなわち、領域分割プログラムP1、要素分割プログラムP2、第1判断プログラムP3、第2判断プログラムP4に、気泡離脱係数Fの計算ステップを実行する計算プログラムP9を更に追加したものである。計算プログラムP9は、第1判断プログラムP3の判断結果を受けて気泡離脱係数Fを計算し、第2判断プログラムP4に計算結果を渡す。
【0059】
以下、本第2の実施形態に係る被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法について説明する。
【0060】
本実施形態においても有限要素法を用いて解析を行う。そして、第1の実施形態と同様にまず、図6に示すように車体ボディ20及びその周辺を立方体状の複数の領域に分割し、分割した各領域に固有の連続する番号を付与する。
【0061】
次いで、第1の実施形態と同様の手法により、電着槽22に浸漬した車体ボディ20に気泡が付着するか否かを判断する。第2の実施形態においても係る判断の手法についての制限はない。
【0062】
そして、電着槽22に浸漬した車体ボディ20を複数の要素に分割して空気か電着液かの判断を行った後に、空気であると判断された要素が含まれる領域を選択し、選択した領域のうち先に付した固有の番号のうち最も小さい番号の付された領域に属する空気と判断された二次元の要素を気泡要素Yとし、気泡要素Yと車体ボディ20を構成する車体パネルPの傾斜方向において隣接する電着液と判断された要素を電着液要素Wとし、第1の実施形態と同様に直法体状の要素とする。次いで、気泡要素Yの高さZ1及び電着液要素Wの高さZ2を測定する。
【0063】
次に、気泡要素Yの高さZ1と電着液要素Wの高さZ2に式(1)により導き出した気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは車体パネルPに付着した気泡は脱離すると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、車体パネルPに付着した気泡は脱離しないと判断する。
【0064】
この解析作業を空気と判断された要素が含まれている全ての領域について付されている番号の小さい領域の順に行い、全ての領域について解析が終わると解析作業を終了する。
【0065】
以上のように、第2の実施形態に係る発明によれば、車体ボディ20に付着した気泡が脱離するか否かを気泡要素Yの高さZ1と電着液要素Wの高さZ2に式(1)より導き出した気泡離脱係数Fを加えたものとを比較して判断を行うことで、車体ボディ20に空気溜まりが発生するか否かのシミュレーション精度を向上させることができる。
【0066】
なお、特許請求の範囲に記載の技術は、以上のような車体ボディの電着塗装に限らず、例えば、めっき処理における処理槽、洗浄処理にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】流体解析装置の概略構成ブロック図である。
【図2】車体の塗装ラインの概略説明図である。
【図3】第1の実施形態における各制御プログラムの説明図である。
【図4】第1判断プログラムの説明図である。
【図5】第1の実施形態に係る被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法のフローチャートである。
【図6】車体ボディを複数の三次元の領域に分割した状態を示す斜視図である。
【図7】フロアパネルの概略斜視図である。
【図8】フロアパネルを二次元の要素に分割した図である。
【図9】(a)はフロアパネルの二次元の要素の一部を抜き出した図であり、(b)は、(a)の要素の上面図である。
【図10】車体パネルに気泡が付着した状態につき三次元の要素化を行った図である。
【図11】車体パネルの傾斜角度を導き出すために用いる図である。
【図12】第2の実施形態における各制御プログラムの説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 流体解析装置
3 CPU
5 制御部
20 車体ボディ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、
前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
前記第1判断ステップにおいて、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項2】
前記データベースは、
前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものである
ことを特徴とする請求項1に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項3】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
下記の式(1)により気泡離脱係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップにおいて属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項4】
前記第1判断ステップは、
前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、
前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、
前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、
前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップと
を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項5】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、
前記被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、
前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
前記第1判断ステップによって、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項6】
前記データベースは、
前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものである
ことを特徴とする請求項5に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項7】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、
前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
下記の式(1)により気泡脱離係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップの実行によって属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項8】
前記第1判断ステップは、
前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、
前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、
前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、
前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップと
を備えることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項1】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、
前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
前記第1判断ステップにおいて、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項2】
前記データベースは、
前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものである
ことを特徴とする請求項1に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項3】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
下記の式(1)により気泡離脱係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップにおいて属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項4】
前記第1判断ステップは、
前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、
前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、
前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、
前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップと
を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法。
【請求項5】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、
前記被塗装物の形状のデータ及びその周辺のデータを複数の領域に分割する領域分割ステップと、
前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
前記第1判断ステップによって、属性が空気と判断された要素につき、前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れる方向との関係で前記被塗装物の表面に付着した気泡が脱離するか否かを関係付けたデータベースを参照して、前記空気と判断された要素が属する領域内において、前記空気と判断された要素の属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項6】
前記データベースは、
前記被塗装物に付着した気泡が前記被塗装物の傾斜角度、前記被塗装物と液体塗料の間に生ずる表面張力、前記塗料槽内における液体塗料の流速及び液体塗料の流れ方向との関係でいかなる場合に脱離するか否かを集積したものである
ことを特徴とする請求項5に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項7】
塗料槽に浸漬される被塗装物の形状のデータを用いて空気溜まりの発生をシミュレーションするコンピュータが実行可能なプログラムにおいて、
前記被塗装物の形状のデータを複数の要素に分割する要素分割ステップと、
前記複数に分割された要素についての属性が空気であるか液体塗料であるかを判断する第1判断ステップと、
下記の式(1)により気泡脱離係数Fを求める計算ステップと、
F=C1×C2σ×C3μ×C4V …(1)
前記第1判断ステップの実行によって属性を空気と判断された要素の高さZ1と前記空気と判断された要素に隣接する液体塗料と判断された要素の高さZ2に前記気泡離脱係数Fを加えたものとを比較し、Z1≦Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は液体塗料であると判断し、Z1>Z2+Fの関係にあるときは、前記空気と判断された要素は空気のままであると判断する第2判断ステップと
を備えることを特徴とする被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項8】
前記第1判断ステップは、
前記分割した要素のうち所定の要素を初期境界要素と隣接要素に設定する第1のステップと、
前記第1のステップにおいて設定された隣接要素を前記初期境界要素を用いて解析する第2のステップと、
前記第2のステップにおいて解析が終了した隣接要素を二次境界要素に設定する共に解析対象の隣接要素を設定する第3のステップと、
前記第3のステップで設定された隣接要素を前記二次境界要素を用いて解析する第4のステップと
を備えることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の被塗装物における空気溜まり発生シミュレーション方法を実行するコンピュータが実行可能なプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−39802(P2007−39802A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180454(P2006−180454)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]