説明

被検体における切除線決定システムおよびその使用方法

【課題】 腫瘍外縁および切除線を客観的に決定する手法として利用可能な、被検体における切除線決定システムを提供すること。
【解決手段】 切除線決定システムS10は、被検体との間における超音波の送受信で得られたエコーデータにより該被検体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用い、超音波画像診断装置により得られた水平断面像において一の領域とその外部との間の境界線を決定する境界決定手段M1と、各水平断面像について決定された各境界に基づいて全体的な外縁を決定する外縁決定手段M2と、外縁から任意の距離に設定可能な切除縁を決定する切除縁決定手段M3と、外縁ならびに切除縁を印刷用シート上に印刷するシート作成手段M4とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体における切除線決定システムおよびその使用方法に係り、特に、生体へ超音波を送受波して得られたエコーデータと、生体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用い、乳房温存手術における切除線を決定して患者の乳房に切除線をマーキングする手法として利用可能な、被検体における切除線決定システムおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳ガンの発生率、死亡率は年々高くなってきている。その予防が困難である現状においては、早期発見・早期治療が乳ガン死亡率の減少に寄与するものと期待される。早期治療において最も重要な課題は、切除線(取り残しのない最小切除範囲の境界線)の決定である。最近の乳ガン手術の主要な術式である乳房温存術にとって、切除線の決定は手術の根治性に関わる重要な要件である。従来、腫瘍外縁は超音波検査、CT、MRI等を用い、医師の主観に基づき決定され、皮膚上にマジックインキなどによるマーキングがなされていた。切除線も同様に、外縁からある程度離れた皮膚上にマーキングがなされていた。
【0003】
超音波検査では、CT、MRIと比較して、容易に実時間で乳腺内部を観察することが可能である。したがって、検者が超音波断層画像を画面上で観察しながら乳腺内部をくまなく走査することによって、高い精度で腫瘍の位置を決定することが可能である。しかし、超音波画像は皮膚にほぼ垂直な2次元断層画像であり、切除線決定に必要な腫瘍外縁をマーキングする目的には必ずしも有用ではなかった。
【0004】
さて、腫瘍外縁を決定するためには、各断層面において腫瘍部位と非腫瘍部位を識別すること(境界抽出)が不可欠である。これまでに、MRIやX線CTなどの医用画像に対して微分オペレータや2値化処理など従来の画像処理法を用いた境界自動抽出に関する研究は、数多く行われてきた。しかしながら、超音波画像では、スペックルと呼ばれる班紋状のノイズや音響陰影などのアーチファクトのため、MRIやX線CTなどの医用画像に対して行うのと同じような境界抽出法を適用することは困難である。
【0005】
超音波画像における境界自動抽出の改良は以前、人が見て適切/もっともらしいと考えられる視覚的境界を目指してなされてきた。そのような中、本願発明者は、境界を"輝度勾配が極大を示す点の集合"と定義し、以下のアルゴリズムで境界抽出を行う方法を提案した(特許文献1)。
1)視覚的に境界と考えられる数点を決定し、境界を多角形で近似する(腫瘍境界近似手段)。
2)多角形の辺上の点を中心に、腫瘍の内側から外側に、辺と垂直な探査線を設定する(選定手段)。
3)探査線にそって輝度勾配を計算し、極大値を示す点を境界点とする(輝度勾配抽出手段、輝度勾配比較手段)。
4)この探査を多角形の各辺にそって行うことにより境界線を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−291750号公報「超音波画像における腫瘍境界表示装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者による上記特許文献1開示技術の新規性、有用性は、抽出した境界が視覚的に極めて適切/もっともらしいと判断できる点である。これにより、一の水平断面像において腫瘍境界を決定するという目的は、充分に達成することができた。一方、下記の各課題が未だ残されている。
第1小課題:全水平断面像において、腫瘍境界を自動決定すること。
第2小課題:各水平断面像で決定された境界をもとに全体的な腫瘤外縁を決定すること。
第3小課題:腫瘍外縁からの任意の距離に切除縁を描くこと。
第4小課題:皮膚表面に腫瘍外縁と切除縁をマークすること。
【0008】
これら第1〜4小課題を解決できれば、一断層面の境界を多角形近似するだけで、多断層の腫瘍境界を自動抽出し、腫瘍外縁と切除縁を自動的に描出することができる。そして、これにより決定された切除縁をもとに切除した標本を臨床病理学的に分析することで、より適切な「取り残しのない最小切除範囲の境界線」の決定が可能となる。
【0009】
他方、既に述べたように、従来切除線決定に必要な腫瘍外縁マーキング目的においては、超音波画像は必ずしも有用ではなかったところ、近年、連続した2次元垂直断層画像から3次元のボリュームデータを作成し、腫瘍外縁決定に適した水平断層画像を構築する装置が市販されるようになった。かかる水平断層画像を用いれば、腫瘍外縁および切除線を客観的に決定する手法を構成できる可能性がある。しかしながらこのような技術の開示は、今までのところされていない。
【0010】
すなわち本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の状況を踏まえ、腫瘍外縁および切除線を客観的に決定する手法として利用可能な、被検体における切除線決定システムおよびその使用方法を提供することである。特に、生体へ超音波を送受波して得られたエコーデータと、生体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用いて、乳房温存手術における切除線を決定して患者の乳房に切除線をマーキングする手法として利用可能な、被検体における切除線決定システムおよびその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1小課題については、"ある水平断面像の境界は、隣接した水平断面像の境界近傍に存在する"という仮定に基づいて解決可能である。これにより、各断層面において、視覚的に極めて適切な境界自動抽出をすることができる。第2小課題については、各腫瘍断面を水平面に射影し、OR領域を作成することにより解決可能である。また、第3小課題については、OR領域の重心から領域外へ探査線を引き、重心から領域外縁までの距離を測定し、外縁から探査線上の任意の距離に切除縁を決定することにより解決可能である。そして、第4小課題については、多孔性の透明シートへの印刷とトレースにより解決可能である。
【0012】
本願発明者は、これら第1〜4小課題の解決策を組み合わせることによって上記本願の課題を解決できることに想到し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕 被検体との間における超音波の送受信で得られたエコーデータにより該被検体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用いた、被検体における切除線決定システムであって、該超音波画像診断装置により得られた水平断面像において一の領域とその外部との間の境界線を決定する境界決定手段と、該境界決定手段による決定に基づき各水平断面像について決定された各境界に基づいて全体的な外縁を決定する外縁決定手段と、該外縁から任意の距離に設定可能な切除縁を決定する切除縁決定手段と、該外縁ならびに該切除縁を印刷用シート上に印刷するシート作成手段と、を備えてなることを特徴とする、被検体における切除線決定システム。
〔2〕 前記外縁決定手段は、前記境界決定手段による決定に基づいて各水平断面像について決定された各境界を平面上に射影することにより全体的な外縁の決定を可能とする手段であることを特徴とする、〔1〕に記載の被検体における切除線決定システム。
【0014】
〔3〕 前記境界決定手段では、前記超音波画像診断装置により得られた水平断面画像における一の領域とその外部との間の境界決定に、該一の領域の多角形近似処理、および補間アルゴリズムによる角間の補間処理がなされることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の被検体における切除線決定システム。
〔4〕 前記境界決定手段では、既に境界決定されている隣接する水平断面画像における境界線が参照されて、境界決定対象の水平断面画像におけるエコー強度およびその変化率に基づいて境界線を決定する探査決定処理がなされることを特徴とする、〔3〕に記載の被検体における切除線決定システム。
〔5〕 前記探査決定処理では、既に境界決定されている隣接する水平断面画像における境界の重心が求められ、該重心から境界線上の任意の点である境界点を通過する探査線が設定され、探査線上のエコー強度およびその変化率から変化率最大点が境界決定対象の水平断面画像における境界を構成する一の点とされ、かかる操作が複数回繰り返されることによって境界が決定されることを特徴とする、〔4〕に記載の被検体における切除線決定システム。
【0015】
〔6〕 前記シート作成手段において用いられる印刷用シートは、印刷された塗料が透過可能な多孔性のシートであることを特徴とする、〔1〕ないし〔5〕のいずれかに記載の被検体における切除線決定システム。
〔7〕 前記超音波画像診断装置に一体化もしくは付設されている電子計算機か、またはデータ送受信可能に接続されている電子計算機を用いて実現されることを特徴とする、〔1〕ないし〔6〕のいずれかに記載の被検体における切除線決定システム。
〔8〕 前記境界および前記外縁により特定される前記一の領域は、生体における腫瘤に係るものであることを特徴とする、〔1〕ないし〔7〕のいずれかに記載の被検体における切除線決定システム。
【0016】
〔9〕 前記腫瘤は乳ガンに係るものであり、乳房温存手術に用いることを特徴とする、〔8〕に記載の被検体における切除線決定システム。
〔10〕 〔1〕ないし〔9〕のいずれかに記載の被検体における切除線決定システムの使用方法であって、前記シート作成手段により作成されたシートを被検体上に貼付することにより、該被検体上に前記外縁ならびに前記切除縁がマークされることを特徴とする、被検体における切除線決定システムの使用方法。
〔11〕 前記被検体上には予め、前記超音波画像診断装置により得られたデータに基づいて位置合わせ用のマーキングがなされており、前記シートは該位置合わせ用マーキングに一致するように添付されることを特徴とする、〔10〕に記載の被検体における切除線決定システムの使用方法。
【0017】
つまり、たとえば下記の手法は、本発明の代表的な利用形態といえる。
生体へ超音波を送受信することにより得られたエコーデータを用い、かつ生体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置(特許文献1)を用いて、水平断面像(間隔1〜2mm程度)において境界を決定する手段と、各水平断面像で決定された境界をもとに全体的な腫瘤外縁を決定する手段と、腫瘍外縁から任意の距離に設定可能な切除縁を決定する手段と、腫瘍外縁と切除縁をシートに印刷する手段と、そのシートを患者の乳房に貼付することにより患者の皮膚表面に腫瘍外縁と切除縁がマークされる手段とを設けた、乳房温存手術における切除線決定手法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の被検体における切除線決定システムおよびその使用方法は上述のように構成されるため、腫瘍外縁および切除線を客観的に決定する手法として利用することができる。特に、生体へ超音波を送受波して得られたエコーデータと、生体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用いて、乳房温存手術における切除線を決定して患者の乳房に切除線をマーキングする手法として利用することができる。
【0019】
殊に本発明の新規性・利便性は、一断層面の境界を多角形近似するだけで多断層の腫瘍境界を自動抽出し、腫瘍外縁と切除縁を自動的に描出できることにある。腫瘍外縁および切除線を客観的に決定する技術は従来存在しなかった。本発明システム等を用いて決定された切除縁を基に切除した標本を、臨床病理学的に分析することにより、より一層適切な「取り残しのない最小切除範囲の境界線」の決定が可能になるものと期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の被検体における切除線決定システムの構成を示す概念図である。
【図2】実施例において、スキャン範囲の決定とスキャンの過程を示す説明図である。
【図3】実施例において、水平断面デジタル画像の取得の過程を示す説明図である。
【図4】実施例において、一水平断面における腫瘍境界の決定の過程を示す説明図である。
【図5】実施例において、隣接する水平断面像における腫瘍境界の決定の過程を示す説明図である。
【図6】実施例において、腫瘍外縁と切除線の客観的決定の過程を示す説明図である。
【図7】実施例において、腫瘍外縁と切除線の皮膚へのマーキングの過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明について、さらに詳細に説明する。
図1は、本発明の被検体における切除線決定システムの構成を示す概念図である。図示するように本切除線決定システムS10は、被検体との間における超音波の送受信で得られたエコーデータにより該被検体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用いたシステムであり、超音波画像診断装置により得られた水平断面像において一の領域とその外部との間の境界線を決定する境界決定手段M1と、境界決定手段M1による決定に基づいて各水平断面像について決定された各境界に基づいて全体的な外縁を決定する外縁決定手段M2と、外縁から任意の距離に設定可能な切除縁を決定する切除縁決定手段M3と、外縁ならびに切除縁を印刷用シート上に印刷するシート作成手段M4とを備えることを、主たる構成とする。
【0022】
かかる構成により本切除線決定システムS10によれば、超音波画像診断装置による前記エコーデータからの被検体内の3次元の画像構築可能な環境の下、まず境界決定手段M1によって、超音波画像診断装置により得られた水平断面像において一の領域とその外部との間の境界線が決定される。ついで外縁決定手段M2によって、境界決定手段M1による決定に基づいて決定された各水平断面像についての各境界により、全体的な外縁が決定される。ついで切除縁決定手段M3によって、外縁から任意の距離に設定可能な切除縁が決定される。ついでシート作成手段M4によって、外縁ならびに切除縁が印刷用シート上に印刷される。
【0023】
本切除線決定システムS10において外縁決定手段M2は、境界決定手段M1による決定に基づいて各水平断面像について決定された各境界を平面上に射影することにより、全体的な外縁の決定を可能とする手段として構成することができる。上述の通り本発明の大きな利便性は、境界決定手段M1によって一つの断層面の境界を多角形近似して決定した境界を得るだけで、それに基づいて他の断層面における境界を決定し、すなわち多断層の腫瘍境界を自動抽出し、その結果、腫瘍外縁と切除縁を自動的に描出できることである。
【0024】
本切除線決定システムS10において境界決定手段M1では、超音波画像診断装置により得られた水平断面画像における一の領域とその外部との間の境界決定のために、該一の領域の多角形近似処理、および補間アルゴリズムによる角間の補間処理がなされる構成とすることができる。もっともこの点において、本発明はこれに限定されず、これと異なる処理構成をとってもよい。
【0025】
また、本切除線決定システムS10において境界決定手段M1では、既に境界決定されている隣接する水平断面画像における境界線が参照されて、境界決定対象の水平断面画像におけるエコー強度およびその変化率に基づいて境界線を決定する、探査決定処理がなされる構成とすることができる。もっともこの点において、本発明はこれに限定されず、これと異なる処理構成をとってもよい。
【0026】
この探査決定処理においては、まず既に境界決定されている隣接する水平断面画像における境界の重心が求められ、ついで該重心から境界線上の任意の点である境界点を通過する探査線が設定され、ついで探査線上のエコー強度およびその変化率から、変化率最大点が境界決定対象の水平断面画像における境界を構成するための一の点と決定される、という一連の操作が、複数回繰り返されることによって、最終的に線としての境界を決定する、という構成とすることができる。もっともこの点において、本発明はこれに限定されず、これと異なる探査決定処理の構成をとってもよい。
【0027】
本切除線決定システムS10において、シート作成手段M4において用いられる印刷用シートは、印刷された塗料が透過可能な多孔性のシートとすることができる。これにより、印刷用シートを被検体に対して貼付して用いる際に、印刷部分をトレースするだけで必要なマーキングを行うことができる。もっともこの点において、本発明はこれに限定されず、これと異なる印刷用シートの構成としてもよい。
【0028】
本切除線決定システムS10は、前記超音波画像診断装置に一体化もしくは付設されている電子計算機か、またはデータ送受信可能に接続されている電子計算機を用いて、その機能および環境の下でシステムとして実現させ、システムとしての一連の処理を実行させるものとすることができる。もっともこの点においても、本発明はこれに限定されないが、基盤として情報・通信技術を用いることは本発明の目的上、大いに有利である。
【0029】
本切除線決定システムS10は、生体における腫瘤に係る境界決定や外縁決定、特に乳ガンにおける乳房温存手術での腫瘤の境界決定や外縁決定において、最大限に効果を発揮し、有効に用いることができる。もっともこの点においても、本発明用途はこれに限定されず、本発明の原理は他の目的にも使用可能である。
【0030】
本切除線決定システムS10は上述のように、超音波画像診断装置によるエコーデータからの被検体内の3次元の画像構築可能な環境の下、境界決定手段M1、外縁決定手段M2、切除縁決定手段M3、シート作成手段M4の各手段に対する実行命令操作に基づいて各手段における処理が実行されるが、最後のシート作成手段M4により作成されたシートが、被検体上に貼付されることによって、被検体上に、決定された外縁ならびに切除縁のマーキングを実現することができる。
【0031】
なお、被検体上には予め、超音波画像診断装置によって得られたデータに基づいて位置合わせ用のマーキングがなされた状態を準備しておき、シート作成手段M4により作成されたシートを、位置合わせ用マーキングに一致するように被検体に添付すればよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。なお実施例は、本願発明者による研究過程の概要を記すものである。
図2は、本実施例においてスキャン範囲の決定とスキャンの過程を示す説明図である。また、
図3は、水平断面デジタル画像の取得の過程を示す説明図、そして、
図4は、一水平断面における腫瘍境界の決定の過程を示す説明図である。これらに図示するように本発明実施例システムにおいては、まず乳ガン患者の乳房が3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用いて探査され(図2)、腫瘍を含む乳房組織の水平断面像(間隔1〜2mm程度)において腫瘍境界が決定され(図3)、その境界決定はポインティングデバイスにて腫瘍境界を多角形で近似して、その間を補間アルゴリズムにより補間する(下記参考文献)ことによりなされる(図4)。
<参考文献1 栗田 武彰:乳房におけるDifferential harmonic imagingの有用性. 映像情報Medical. 2006: 558-569.>
【0033】
図5は、隣接する水平断面像における腫瘍境界の決定の過程を示す説明図である。また、
図6は、腫瘍外縁と切除線の客観的決定の過程を示す説明図、そして、
図7は、腫瘍外縁と切除線の皮膚へのマーキングの過程を示す説明図である。これらに図示するように、本実施例システムにおいて、隣接する水平断面像における腫瘍境界は、既に決定された腫瘍境界の近傍に存在すると仮定できる。そこで、既に決定された腫瘍境界(座標点)が参照されて、隣接する水平断面像の腫瘍境界が探査決定される(図5)。
【0034】
この操作が繰り返されることにより、全水平断面像における腫瘍境界が決定される。決定後、全腫瘍断面は水平面に射影され、腫瘤全体の水平方向における外縁が決定される(図6)。腫瘍外縁から、たとえば2cm外側に切除縁が描画され、腫瘍外縁と切除縁がシートに印刷される。なお、この描画の位置は2cm外側に限定されず、任意に設定可能であることはいうまでもない。そのシートが患者の乳房に貼付されることにより、皮膚表面に腫瘍外縁と切除縁とがマーキングされる(図7)。
【0035】
以下、各図に基づいて、より詳細に実施例を説明する。
<1>スキャン範囲の決定とスキャン(図2)
乳房1を超音波断層装置2を用いて探査し、腫瘍のおよその位置3から、腫瘍がスキャン範囲の中心になるように、プローブ移動範囲枠4の横軸x(5)と縦軸y(6)を体表にマーキングする。被検者の横に位置センサトランスミッタ7を設置する。位置センサレシーバを装着した探査プローブ8にて、プローブ移動範囲枠4に沿って、プローブを1秒1cmの速度でフリーハンドスキャンする。
【0036】
<2>水平断面デジタル画像の取得(図3)
スキャンにより連続的に取り込まれた多断面の2次元断層画像から、位置センサレシーバによる位置情報を参照して、腫瘍9を包含する3次元ボリュームデータ10を構築する。ボリュームデータ10は、図2に示したプローブ移動範囲枠4の座標軸とx軸、y軸を共有し、背側−腹側を表現するz軸11を有する。ボリュームデータ10から、z座標値の異なる水平断面デジタル画像12を1〜2mm間隔で作成する。
【0037】
<3>一水平断面における腫瘍境界の決定(図4)
一水平断面における腫瘍境界の決定は、公知技術(上記参考文献参照)により行う。水平断面デジタル画像をパーソナルコンピューターに転送する。ポインティングデバイスにて、腫瘍境界13を多角形14で近似する。その間を補間アルゴリズムにより補間し、腫瘍境界13を決定する。
【0038】
<4>隣接する水平断面像における腫瘍境界の決定(図5)
隣接した(新たに腫瘍境界を決定する)断面に、決定した腫瘍境界15を射影する。隣接する水平断面像における腫瘍境界16は、射影15の近傍に存在すると仮定できる。決定された腫瘍境界15から腫瘍の重心17を求める。重心17より境界点18を通過する探査線19を設定する。探査線19に沿って、境界点18の内側から、外側に向かってエコー強度Intensity(i=−20 to 20)を取得する。なお、探査範囲は任意に設定可能である。
【0039】
さらに、探査線19に沿った単位距離あたりのエコー強度の変化率
ΔIntensity=Intensity(i+Δi)−Intensity(i)
を求める。乳ガン組織は周囲の正常組織に比較して低いエコー強度を呈するので、隣接した断面の境界点は、ΔIntensityが最大値を示す点20として決定される。探査線19を重心17の周りに一周、等角度に回転させて、境界線を決定する。なお、角度は任意に設定可能である。決定した境界線を隣接する水平断面像に射影し、腫瘍境界を同様に決定する。この操作の繰り返しにより、全水平断面像における腫瘍境界が決定される。
【0040】
<5>腫瘍外縁と切除線の客観的決定(図6)
全水平断面における腫瘍断面(腫瘍境界の内側)をx,y平面に射影し、腫瘤全体の外縁21とその重心22を決定する。重心22より腫瘍外縁のある一点23を通る直線24を設定する。切除縁を腫瘍外縁から2cm外側25に設定する。なお、切除縁を設定する距離は任意に設定可能である。直線24を重心22の周りに一周、等角度に回転させて、切除線26を決定する。なお、角度は任意に設定可能である。
【0041】
<6>腫瘍外縁と切除線の皮膚へのマーキング(図7)
図6で決定された切除線を多孔性の透明シートに印刷する。そのシートに印刷されたx軸、y軸が体表にマーキングしたx軸、y軸に一致するように、体表に貼付する。シートの上から、腫瘍外縁と切除線をトレースする。細かい穴から塗料が漏れ出て、皮膚表面27に腫瘍外縁28と切除縁29がマークされる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の被検体における切除線決定システムおよびその使用方法によれば、切除線を決定して切除線をマーキングする手法として利用できる。特に乳房温存手術において、切除線を決定して患者の乳房に切除線をマーキングする手法として利用できる。本発明システムを用いて決定された切除縁を基に切除した標本を臨床病理学的に分析することにより、より一層適切な「取り残しのない最小切除範囲の境界線」の決定も可能であり、関連産業上利用性も高い発明である。
【符号の説明】
【0043】
1、27…乳房
2…超音波断層装置
3、9…腫瘍
4…プローブ移動範囲枠
5…座標軸x
6…座標軸y
7…位置センサレシーバ
8…超音波プロープ
10…3次元ボリュームデータ
11…背側−腹側を表現するz軸
12…水平断面デジタル画像
13…視覚的な腫瘍境界
14…視覚的な腫瘍境界点を結んだ多角形
15…初めに決定した腫瘍境界の隣接した断面への射影線
16…隣接断面における腫瘍境界
17…初めに決定した腫瘍断面の重心
18…初めに決定した腫瘍境界点
19…重心より外側にのばした探査線
20…隣接断面における腫瘍境界点
21…腫瘍全体(全腫瘍断面の水平射影OR領域)の外縁
22…21で示した領域の重心
23…腫瘍全体の外縁と探査線の交差点
24…重心より外側にのばした探査線
25…腫瘍全体の外縁から2cmに設定した切除点
26、29…切除縁
28…腫瘍全体の外縁
M1…境界決定手段
M2…外縁決定手段
M3…切除縁決定手段
M4…シート作成手段
S10…被検体における切除線決定システム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体との間における超音波の送受信で得られたエコーデータにより該被検体内の3次元の画像構築が可能な超音波画像診断装置を用いた、被検体における切除線決定システムであって、
該超音波画像診断装置により得られた水平断面像において一の領域とその外部との間の境界線を決定する境界決定手段と、
該境界決定手段による決定に基づき各水平断面像について決定された各境界に基づいて全体的な外縁を決定する外縁決定手段と、
該外縁から任意の距離に設定可能な切除縁を決定する切除縁決定手段と、
該外縁ならびに該切除縁を印刷用シート上に印刷するシート作成手段と、
を備えてなることを特徴とする、被検体における切除線決定システム。
【請求項2】
前記外縁決定手段は、前記境界決定手段による決定に基づいて各水平断面像について決定された各境界を平面上に射影することにより全体的な外縁の決定を可能とする手段であることを特徴とする、請求項1に記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項3】
前記境界決定手段では、前記超音波画像診断装置により得られた水平断面画像における一の領域とその外部との間の境界決定に、該一の領域の多角形近似処理、および補間アルゴリズムによる角間の補間処理がなされることを特徴とする、請求項1または2に記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項4】
前記境界決定手段では、既に境界決定されている隣接する水平断面画像における境界線が参照されて、境界決定対象の水平断面画像におけるエコー強度およびその変化率に基づいて境界線を決定する探査決定処理がなされることを特徴とする、請求項3に記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項5】
前記探査決定処理では、既に境界決定されている隣接する水平断面画像における境界の重心が求められ、該重心から境界線上の任意の点である境界点を通過する探査線が設定され、探査線上のエコー強度およびその変化率から変化率最大点が境界決定対象の水平断面画像における境界を構成する一の点とされ、かかる操作が複数回繰り返されることによって境界が決定されることを特徴とする、請求項4に記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項6】
前記シート作成手段において用いられる印刷用シートは、印刷された塗料が透過可能な多孔性のシートであることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項7】
前記超音波画像診断装置に一体化もしくは付設されている電子計算機か、またはデータ送受信可能に接続されている電子計算機を用いて実現されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項8】
前記境界および前記外縁により特定される前記一の領域は、生体における腫瘤に係るものであることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項9】
前記腫瘤は乳ガンに係るものであり、乳房温存手術に用いることを特徴とする、請求項8に記載の被検体における切除線決定システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の被検体における切除線決定システムの使用方法であって、前記シート作成手段により作成されたシートを被検体上に貼付することにより、該被検体上に前記外縁ならびに前記切除縁がマークされることを特徴とする、被検体における切除線決定システムの使用方法。
【請求項11】
前記被検体上には予め、前記超音波画像診断装置により得られたデータに基づいて位置合わせ用のマーキングがなされており、前記シートは該位置合わせ用マーキングに一致するように添付されることを特徴とする、請求項10に記載の被検体における切除線決定システムの使用方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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