説明

被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法

【課題】 光音響波の検出器に対して特定の位置に配されている吸収体であっても光音響画像の分解能を向上させることのできる被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法を提供する。
【解決手段】 光音響波を用いて被検体の光学特性値分布を取得する被検体情報取得装置である。この被検体情報取得装置を構成する信号処理装置は、超音波検出器からの信号に関する信号強度のばらつき量に基づいて、補正テーブルを生成する工程と、この補正テーブルの値を用いて、光音響波検出器からの信号を処理する工程とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響波を用いて被検体の光学特性値分布を取得する被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザなどの光源から生体に光を照射し、入射した光に基づいて得られる生体内の情報を画像化する光イメージング装置の研究が医療分野で進められている。この光イメージング技術の一つとして、Photo Acoustic Imaging(PAI:光音響イメージング)がある。光音響イメージングでは、光源から発生したパルス光を生体に照射し、生体内で伝播・拡散したパルス光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波(典型的には超音波)を検出し、その検出信号に基づき生体情報を画像化する。
【0003】
すなわち、光音響イメージングは、腫瘍などの被検部位とそれ以外の組織との光エネルギーの吸収率の差を利用し、被検部位が照射された光エネルギーを吸収して瞬間的に膨張する際に発生する弾性波(光音響波ともいう。)を光音響波検出器(振動子、探触子ともいう。)で検出する。この検出信号を解析処理することにより、光学特性値分布の画像を得ることができる。
【0004】
また、これらの情報は、様々な波長の光で計測することにより、被検体内の特定物質(例えば血液中に含まれるヘモグロビン濃度や血液の酸素飽和度など)の定量的計測にも利用できる。
【0005】
上記のように、光音響イメージングではパルス光を被検体に照射するが、被検体内では強い光学散乱特性により光が拡散し、光音響波は広範囲から同時に生成される。その結果、光音響画像の分解能が低下する。
【0006】
そこで、この課題を解決するために、各光音響波検出器で検出される光音響波の発生地点の信号を評価する手法がとられている。この手法では、同心円状に広がる信号に対して、各光音響波検出器が同じ信号強度を受信できれば、その信号は光吸収体からの信号と判断する。一方、各光音響波検出器で同じ信号強度が受信できないのであれば、その信号はノイズ信号と判断する。この手法の一例として、非特許文献1ではCoherence Factor(CF)という因子を利用している。CFは、各N個の光音響波検出器が観測したデータSi(1≦i≦N)を、Circular back projectionなどの逆投影法により各領域に割り振った後に、領域ごとに以下の式で算出される値である。
【0007】
【数1】

【0008】
上記式によれば、光音響波が発生する領域では、CFは1に近くなり、光音響波が発生していない領域や、ランダムなノイズが観測される領域では、各光音響波検出器で同じ信号強度が検出できないため、CFは0に近づく。そのため、CFは領域ごとの各振動子から観測された信号のばらつき度を示す指標となることから、CFを係数として各信号に重みづけすることで信号の信頼性を高めることができる。このように重みづけされた信号を使用すれば、画像を再構成する上で分解能の向上を図ることができ、またアーティファクトの影響を減少させることが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C.−K.Liao,et al.“Optoacoustic imaging with synthetic aperture focusing and coherence weighting”,OPTICS LETTERS/Vol。29,No。21/November 1,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術では、特定の位置に配されている吸収体に対して、正確なCFを算出できないという課題がある。
【0011】
すなわち、音響波検出器から等距離に配置された形状をしている組織がある場合は、正確に信号源の強度を推定できなくなり、CFが正しく算出されなくなる。その理由を図8を用いて説明する。
【0012】
図8には、被検体に光を照射して発生した音響波の音源をCircular back projectionによる逆投影で特定し、信号ばらつきを算出する例を示している。
【0013】
図8では音響波検出器として三個の振動子910、920、930を被検体上に配置し、2箇所の音源940、950から取得された信号を元に音源940、950の場所を特定している。すなわち、複数の振動子により、同じ強度の光音響波が検出されれば、それらは同一の音源から生じた音響波であると推定することができ、光照射からの検出時間などを用いて、音源の場所が特定される。
【0014】
ここで、振動子910から音源940までの距離と、振動子930から音源940までの距離は異なり、また、振動子910から音源950までの距離と、振動子930から音源950までの距離も異なる。このため、音源940と音源950から同じ強さの光音響波が発生したとしても、振動子910と振動子940は、音源940と音源950からの光音響波情報を分離することができる。
【0015】
一方、振動子920に関しては、振動子920から音源940までの距離と、振動子920から音源950までの距離が等しいため、振動子920は音源940と音源950からの光音響波を同時に受信することになる。このため、音源940と音源950から同じ強さの光音響波が発生した場合、音源940と音源950を含む円弧領域に対して、各音源から生じる信号強度の2倍の信号強度を割り当てることになってしまう。
【0016】
音源940と音源950が等しい信号強度を生じるのであれば、CFはともに1となり信号強度のばらつきはないはずである。しかし、上記のように、ある振動子から等距離に吸収体が配置されている場合、信号源を特定するために逆投影法を行うと、信号源の強度の正確な推定ができなくなる。その結果、CFが重みづけ因子として適さなくなり、光音響画像の分解能向上に寄与しないおそれがある。
【0017】
そこで、本発明では、光音響波の検出器に対して特定の位置に配されている吸収体であっても光音響画像の分解能を向上させることのできる被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る被検体情報取得装置は、被検体に光を照射する光源と、前記光により前記被検体で発生した光音響波を検出する光音響波検出器と、前記被検体に超音波を送信する超音波送信器と、前記超音波送信器から送信され、前記被検体内部で伝搬した超音波を検出する超音波検出器と、前記被検体の光学特性値分布を取得する信号処理装置と、を有し、前記信号処理装置は、前記超音波検出器からの信号に関する信号強度のばらつき量に基づいて、補正テーブルを生成する工程と、該補正テーブルの値を用いて、前記光音響波検出器からの信号を処理する工程と、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光音響波の検出器に対して特定の位置に配されている吸収体であっても光音響画像の分解能を向上させることのできる被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】被検体情報取得装置の構成を説明するための図面。
【図2】処理フローを説明するための図面。
【図3】超音波の送受信を説明するための図面。
【図4】補正テーブルの用い方について説明するための図面。
【図5】実施例で説明する計算結果を示すための図面。
【図6】実施例3で説明する計算結果を示すための図面。
【図7】実施例3で説明する区分を示すための図面。
【図8】本発明の課題を説明するための図面。
【図9】音速の設定が不適切な場合に取得される画像を説明するための図面。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記のように、光音響波信号の音源を逆投影で特定しようとすると、CFなどの信号強度のばらつき量が正しく評価されない。そこで、本発明においては、超音波信号に関する信号強度のばらつき量を利用して、光音響波信号を補正する。すなわち、ビームフォーミングを用いれば、超音波を特定の領域に送信することができ、特定の領域からの超音波信号を選択的に受信することができるため、光音響波信号で問題となる逆投影による信号源の推定プロセスの必要がない。このため、信号強度のばらつき量に対しても、光超音波による測定手法と比べて、各振動子と吸収体との位置関係などの制約を受けない。したがって、本発明によれば、分解能の高い光音響画像を取得することが可能となる。
【0022】
図1は、被検体情報取得装置を模式的に図示したものである。被検体情報取得装置は、レーザ発生装置110、光学装置120、探触子130、制御装置140、信号処理装置150、画像表示装置160を有する。
【0023】
探触子130は、被検体100に超音波を送信する超音波送信器の機能と、被検体100の内部で伝搬した超音波を検出する超音波検出器の機能を備える。
【0024】
光源としてのレーザ発生装置110から発生し、光学装置120を介して被検体100に照射されたパルスレーザ光121は、光吸収体101から光音響波103を発生させる。探触子130は、この光音響波103を検出する光音響波検出器の機能も備えている。なお、超音波送信器、超音波検出器、光音響波検出器は一体的に構成されていなくてもよく、個別に設けられていてもよい。
【0025】
探触子130で検出された光音響波103は、制御装置140でA/D変換などがなされ、信号処理装置150で被検体100の光学特性値分布が生成される。ここで、光学特性値分布とは、初期音圧分布、光吸収エネルギー密度分布、光吸収係数分布などである。信号処理装置150から出力された光学特性値分布に関する画像データは、画像表示装置160に入力され、画像がディスプレイ上に表示される。
【0026】
図2に、図1の装置構成で行う測定フローを示す。
【0027】
まず、探触子130を用いて、生体などの被検体に対して、超音波を送受信する(S1)。送信された超音波は、被検体内で音響インピーダンスの差が大きな部位において反射され、エコー信号となる。探触子130で検出されたエコー信号は、制御装置140によって増幅され、A/D変換されたデータとなる。
【0028】
次に、信号処理装置150は、制御装置140から得られたデータから、各領域について、各振動子からの信号強度のばらつき量を算出する(S2)。
【0029】
次に、信号処理装置150は、その信号強度のばらつき量から、補正テーブルを作成をする(S3)。
【0030】
なお、ここで、所定の領域について、信号強度のばらつき量が小さくなるような最適な音速値を算出し(S4)、音速テーブルを作成してもよい(S5)。
【0031】
次に、レーザ発生装置110から照射されたレーザ光によって、光吸収体101から光音響波103を発生させ、探触子130でこの光音響波103を検出する(S6)。
【0032】
次に、信号処理装置150では、前記超音波信号の取得により算出された補正テーブルをもとに光音響波信号に対して補正を行い、光音響波信号を画像化するための信号処理を行う(S7)。なお、ここで、S5で作成された音速テーブルを利用して補正を行っても良い。
【0033】
最後に、画像データを信号処理装置150から、画像表示装置160に出力する(S8)。
【0034】
以上の構成によれば、超音波信号を利用して作成した補正テーブルを用いて、光音響波の信号を補正することができるため、より適切な光学特性値分布の画像データを取得することができる。
【0035】
なお、超音波は被検体内の音響インピーダンスの差異に基づいて反射波を生成することから、被検体内の光吸収係数の大きさに基づいて生成される光音響波と超音波とは信号の性質が異なる。しかし、超音波と光音響波は同じ領域に対して信号を取得することができるため、超音波を利用して得た情報を光音響波の信号処理に用いることが可能である。
【0036】
以下、図2に示した各工程についてより詳細に説明する。
【0037】
(S1:超音波を送受信する工程)
各領域でのエコー信号を取得するために、ビームフォーミングされた超音波の送受信を超音波送信器と超音波検出器で行う。
【0038】
図3は、ビームフォーミングの一形態について示したものである。図3(a)に示すように、各振動子310の位相を制御することにより、フォーカス領域320の値を取得することができる。このようにフォーカス領域を作成することで一回の送信波で各領域の値を各振動子から取得することができる。また、図3(b)(c)に示すように、さらに他の領域の信号を取得する場合は、各振動子310の位相制御を変更させて、フォーカス領域を符号321、322の場所に移動することができる。
【0039】
また、図3(d)から(f)に示すように、各振動子310の位相を平面波として揃えることで、符号340で示すように、広域で情報を取得することができる。また、図3(d)から(f)の符号330、331、332で示すように、送信する超音波の向きを適宜変更することも可能である。
【0040】
以上のように、超音波によって各領域の信号を取得するためには、測定の領域規模に応じた超音波の送受信波を選択して、信号を取得することが望ましい。
【0041】
(S2:信号強度のばらつき量を算出する工程)
取得された超音波信号から、各領域における信号強度のばらつきを算出する。増幅およびA/D変換された各領域からのエコー信号は、被検体内の音速分布に基づいて整相加算を行い、領域ごとの信号強度Siを算出する。
【0042】
次に、第一の補正テーブルとして、信号強度Siのばらつき量を算出する。ばらつき量の指標としては、Coherence Factor(CF)、標準偏差(SD)などがあるが、分散、平均値からの差分などをばらつき量としても良い。また、標本数も適宜変更することができる。
【0043】
例えば、標準偏差(SD)に関しては、Siの平均値をS0、各領域からの信号を検出した探触子の数をNとして、下記の式で示すことができる。
【0044】
【数2】

【0045】
(S3:補正テーブルを作成する工程)
S2によって、領域ごとに算出された信号強度のばらつき値を補正テーブルとしてメモリなどに格納する(第1の補正テーブル)。
【0046】
また、この第1の補正テーブルの数値に関して、比率を変更させたテーブルを新たに作成してもよい(第2の補正テーブル)。また、光音響波の信号量との比をとり、一定以上の比率を示す領域について第1の補正テーブル上の数値を減算させたものなどを第2の補正テーブルとしてもよい。
【0047】
比率を変更させる場合において、補正の数値を0から1の間に規定するために、最大値、または、これに準ずる値で規格化した値を使用してもよい。0地点を最小値、または、これに準ずる値で規定してもよいが、後述の光音響波の信号を扱う場合は、平均のシステムノイズ強度またはそれに準ずる値を0と規定してもよい。
【0048】
なお、本出願においては、第2の補正テーブルは第1の補正テーブルに基づいて作成されているため、第2の補正テーブルのことも、信号強度のばらつき量に基づいて作成された補正テーブル、と表現することもある。
【0049】
(S4:最適な音速を決定する工程)
次に取得された超音波信号から、各領域における最適な音速を算出する。
【0050】
各振動子から得られたデータを各領域に対して逆投影する際には、被検体内の音速成分を一律に例えば1540m/sとして画像を再構成することがある。しかし、実際の被検体内における音速値はこの設定値と異なっていることや、被検体の領域ごとに適切な音速値が異なることがある。そのため、図9に示すように、被検体1020からの音波を各振動子1010で検出し、各信号を領域1040に逆投影する場合、音速の異なる領域が存在すると、各信号がずれてしまうことになる。この結果、領域1040からずれた領域1030にも画像が形成されることになるため、この領域がボケ領域となって解像度が悪化する。そこで、上記S2で算出された信号強度のばらつき量を利用して、この音速のずれを最適な値に設定すれば、解像度を向上させたボケのない画像を取得することが可能になる。
【0051】
各領域における初期音速値をテーブルとしてメモリなどに格納する。例えば、被検体が生体であれば、軟部組織の平均音速とされる1540m/sなどを代入する。この初期値は、脂肪の1450m/sから骨の1580m/sの範囲などから被検体の状況に応じて適宜選択することができる。次に、音速値を例えば1450m/sから1580m/s程度まで変化させて、補正テーブルの各領域におけるばらつきの算出を繰り返し、ばらつきが小さくなった音速値を最適な音速値とする。最小二乗法や他の収束判定方法を利用して最適な音速値を求めてもよい。
【0052】
(S5:音速テーブルを作成する工程)
前記S4の工程によって算出された最適な音速値を音速テーブルとしてメモリに格納する。また、上記音速テーブルに基づいて前記ばらつき値を再度算出し、補正テーブルを作成してもよい。なお、上記のように、S4とS5の工程は省略してもよい。
【0053】
(S6:光を照射して光音響波を検出する工程)
光源から光を照射して光音響波を光音響波検出器で検出する。
【0054】
光源としては、数ナノから数百ナノ秒オーダーのパルス光を発生可能なパルス光源が好ましい。具体的には効率的に光音響波を発生させるため、10ナノ秒程度のパルス幅が使われる。光源としてはレーザのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザとしては、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど様々なレーザを使用することができる。使用する光源の波長は、被検体内部まで光が伝搬する波長を使うことが望ましい。具体的には、被検体が生体の場合、500nm以上1200nm以下である。
【0055】
光音響波検出器は、音響波を検知し、アナログ信号である電気信号に変換するものである。圧電現象、光の共振、静電容量の変化等を用いたものなど、音響波信号を検知できるものであれば、どのような検出器を用いてもよい。
光音響波検出器は、超音波検出器と別個に設けられていてもよいが、同一領域での信号検知や省スペース化などを考慮すると、同一の検出器で検出することが望ましい。
【0056】
(S7:光音響波信号を補正する工程)
補正テーブルを利用して光音響信号を補正する方法について説明する。
【0057】
図4(a)(b)は、超音波信号により算出された信号強度のばらつき値を補正テーブルとして利用して、光音響波信号を補正することを図示したものである。
【0058】
図4(a)では、超音波信号410から補正テーブルを作成し、この補正テーブルに基づき光音響波信号420の補正を実行する。ここでは、符号430で示すように、光音響波信号の対応する各領域に対して、信号強度のばらつき値(例えばCFであれば、0から1の値)を光音響信号の値に乗じることで重みづけをする。
【0059】
図4(b)では、符号440で示すように、信号強度のばらつき値に対して任意の閾値を決め、補正テーブルの値のうち、閾値以上の信号を演算処理に用い、閾値未満の信号を演算処理に用いないという処理を行っている。
【0060】
上記した図4(a)の手法では、信号強度のばらつき値を光音響波の信号に乗じてしまっているため、定量性が失われてしまっている。しかし、図4(b)に示す手法によれば、光音響波信号の定量性が失われないため、吸収係数などを定量的に算出することができ、酸素飽和度などの機能イメージングにも用いることができる。
【0061】
なお、補正テーブルは、上記のように、画像再構成前に用いてもよいし、画像再構成後に用いてもよい。また、この工程で、S5で作成した音速テーブルを利用して、画像再構成等の処理を行ってもよい。また、上記では閾値以上の場合にはその信号を演算処理に用いないこととしているが、信号強度のばらつき量の種類によって適宜条件を変更することができる。
【0062】
図4(c)は、補正テーブルを変更する方法について示したものである。
【0063】
この方法では、超音波信号から求めた信号強度のばらつき値と、光音響波との相関性を数値化する。例えば、信号強度のばらつき値としてCFを用いた場合には、CFが0から1の範囲の値であるため、光音響信号も0から1の値の範囲として、CFの値と光音響信号の強度との比を各領域に対して算出する。このとき、CFの値が大きく、光音響波信号も大きい場合には、これらの比は1に近づく。
【0064】
一方、CFの値を考慮した結果、逆にノイズを増強させてしまう状況は、CFの値が大きく、光音響波信号がシステムノイズレベルに近い場合である。この場合、CFの値と光音響信号の強度の比は2〜3などの値を示す。
【0065】
したがって、この比が閾値を超える場合は、その領域は光音響信号のノイズ成分であるという判断をすることができる。
【0066】
具体的には、図4(c)の符号450で示すように、超音波信号強度のばらつき量を有する第1の補正テーブルの値と、光音響波信号強度との比を算出する。
【0067】
次に、符号460で示すように、第1の補正テーブルの値を修正して、第2の補正テーブルを作成する。例えば、算出した比が閾値を越えた領域に関しては、信号強度のばらつき量を減算する修正を行う。なお、上記ではCFの例を示していたが、閾値は信号強度のばらつき量の種類を考慮して適宜選択することができる。
【0068】
そして、符号470や480で示すように、修正された第2の補正テーブルの値を用いて、各領域の信号について重み付け補正を行って画像再構成を行うことや、閾値以上の信号を通過させた後に画像再構成を行うことができる。
【0069】
画像再構成の手法としては、Circular back projectionなどのタイムドメイン形式の画像再構成を用いることができる。
【0070】
なお、上記では、S1からS8の順序で説明したが、これらの順序は適宜変更することが可能である。例えば、光音響波を検出してから、補正テーブルを作成しても良い。また、これらのフローは適宜ループさせてもよい。例えば、補正テーブルを作成した後に、音速テーブルを作成し、さらにこの音速テーブルを利用して再度補正テーブルを作成してもよい。
【実施例1】
【0071】
実施例1では、CFを補正テーブルとして、図4(a)および(b)で説明した補正を行った計算結果を示す。
【0072】
図5(a)に、3点から発生した光音響波の信号をもとに画像再構成を行った光音響波画像を示す。ここでは、光音響波を検出する振動子を256箇所に設け、この振動子で検出された光音響波信号をもとに再構成を行っている。図5(a)では、音源が配置されている地点から放射状にアーティファクトが確認される。
【0073】
図5(b)に、超音波を用いて作成したCFを補正テーブルとして、図4(a)に示した重みづけの処理を行った結果を示す。この重みづけ処理を行うことで、音源が配置されている3点に対して等しい重み付け量が加わったため、図5(a)に示した画像と比較して、視認性が改善する効果が得られている。
【0074】
また、図5(c)に、超音波を用いて作成したCFを補正テーブルとして、図4(b)に示した処理を行った結果を示す。ここでは、CFの閾値は0.5に設定されている。この処理を行うことにより、視認性が改善されている。なお、上記のように、図4(b)に示した処理は、データの定量性を失うことがないという点で有益な処理方法である。
【実施例2】
【0075】
実施例2では標準偏差(SD)を用いた方法を示す。なお、実施例1と共通の部分については説明を省略する。
【0076】
図5(d)に、各領域に対してSDを算出し、このSD値を規格化したものを補正テーブルとして用いて、図5(a)に重みづけの処理を行った結果を示す。この処理を行うことで、領域ごとに光音響波に対して等しい重みづけ量がかかり、信号源からのデータが3信号ともに強調される。これにより、信号強度が強い中心成分のみが抽出されており、アーティファクトによる視認性の低下が改善されている。
【実施例3】
【0077】
実施例3ではCFが大きくなる音速値を求めて、光音響波の画像再構成を行う例について説明する。
【0078】
本実施例では点音源から1500m/sで進行する音響波を形成し、直線状に配置した256箇所の振動子からCFを算出した。前記CFに対して、音速を代入する補正テーブルを領域内で一様に設定して1300〜1700m/sまで変化させ、CFの値が最大になる音速を算出した。
【0079】
図6(a)に、音速に対するCFの値の変動を示す。CFの値が極大値を示している1500m/sは、事前に設定した音速値である1500m/sと一致している。
【0080】
図6(b)、(c)に、それぞれ音速値を1700m/sと1500m/sとして上記点源からの信号を画像再構成した結果を示す。CFの値が極大値を示した音速値を用いて画像再構成を行った図6(c)は、図6(b)に比べてより点音源を再現した計算結果となった。以上のように、本手法を用いることで、被検体などの測定において標準の音速が未定であっても、最適な音速値をCFの値より算出することが可能となる。
【0081】
なお、音速は各領域に対して一様の設定でなくてもよい。その設定は吸収体の分布に応じて任意の区分を設定すればよい。
【0082】
例えば、図7(a)に示すように、振動子710からフォーカス領域720までを、任意に区分して領域を設定してもよい(領域730、740、750)。また、図7(b)に示すように、フォーカス領域720から距離に応じて、任意に区分して領域を設定してもよい(領域760、770、780)。各領域、または、これに準ずる領域で音速を設定し、各領域に対してCFの値が大きくなるように反復計算を行い最適音速を算出できる。これらの領域の設定に関しては所望の画質と計算時間との関係から設定しても良い。
【符号の説明】
【0083】
100 被検体
101 光吸収体
102 超音波
103 光音響波
110 レーザ発生装置
120 光学装置
130 探触子
140 制御装置
150 信号処理装置
160 画像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に光を照射する光源と、
前記光により前記被検体で発生した光音響波を検出する光音響波検出器と、
前記被検体に超音波を送信する超音波送信器と、
前記超音波送信器から送信され、前記被検体内部で伝搬した超音波を検出する超音波検出器と、
前記被検体の光学特性値分布を取得する信号処理装置と、を有し、
前記信号処理装置は、前記超音波検出器からの信号に関する信号強度のばらつき量に基づいて、補正テーブルを生成する工程と、該補正テーブルの値を用いて、前記光音響波検出器からの信号を処理する工程と、を実行することを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記光学特性値分布は、初期音圧分布、光吸収エネルギー密度分布、光吸収係数分布のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記光音響波検出器からの信号を処理する工程は、前記補正テーブルの値を前記光音響波検出器からの信号の値に乗じることであることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記光音響波検出器からの信号を処理する工程は、前記補正テーブルの値が閾値以上の場合に、該補正テーブルに対応する領域の前記光音響波検出器からの信号を演算処理に用いないことであることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記補正テーブルは、前記信号強度のばらつき量と、前記光音響波検出器で取得された光音響信号の強度との比を算出し、該比に基づいて該補正テーブルの値が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記補正テーブルは、前記比が閾値以上の場合に、該比に対応する領域の該補正テーブルの値が減算されていることを特徴とする請求項5に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記光音響波検出器からの信号を処理する工程は、前記被検体の光学特性値分布を取得する画像再構成の工程の前あるいは後に実行されることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記信号強度のばらつき量は、Coherence Factorまたは標準偏差であることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
前記信号強度のばらつき量は、標準偏差であることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項10】
前記信号強度のばらつき量に基づいて前記被検体の音速値を決定し、該音速値に基づいて、前記被検体の光学特性値分布を取得することを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項11】
被検体に超音波を送信する工程と、
前記被検体内部で伝搬した超音波を検出する工程と、
前記検出する工程により検出された超音波の信号強度のばらつき量に基づいて、補正テーブルを生成する工程と、
前記補正テーブルの値を用いて、前記被検体で発生した光音響波の信号を処理する工程と、を有することを特徴とする被検体情報取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−239715(P2012−239715A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113908(P2011−113908)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】