被測定水中の被検成分濃度の測定方法
【課題】 呈色反応を利用して被測定水中の被検成分濃度を測定するにあたり、測定された被検成分濃度の信頼性を高める方法を提供すること。
【解決手段】 被検成分を含有する基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用い、前記等吸収点における呈色反応液の発色度合および測定波長(前記等吸収点における波長を除く)における呈色反応液の発色度合を測定し、被測定水に対する薬液の薬注量を求めとともに、前記基準水中の被検成分濃度と、前記測定波長における呈色反応液の発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求め、該直線回帰式に基づいて、前記被測定水中の被検成分濃度を求める。
【解決手段】 被検成分を含有する基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用い、前記等吸収点における呈色反応液の発色度合および測定波長(前記等吸収点における波長を除く)における呈色反応液の発色度合を測定し、被測定水に対する薬液の薬注量を求めとともに、前記基準水中の被検成分濃度と、前記測定波長における呈色反応液の発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求め、該直線回帰式に基づいて、前記被測定水中の被検成分濃度を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定水中の被検成分濃度の測定方法に関し、特に呈色反応を利用して被測定水中の被検成分濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボイラなどの冷熱機器類への給水ラインにおいては、水質管理の指標として酸消費量(pH4.8)や硬度などが用いられている。酸消費量(pH4.8)の測定用試薬としては、例えば、ブロモフェノールブルーを用いる方法が提案されており、硬度測定用試薬としては、例えば、エリオクロムブラックTまたはカルマガイトを用いる方法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−356118号公報
【特許文献2】特開2005−283392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した水質管理の測定用試薬(以下、「呈色試薬」とも云う。)は、被測定水との呈色反応を利用したものである。該呈色反応を利用して被測定水中の酸消費量(pH4.8)や硬度を自動化された測定装置を用いて測定する場合、装置そのものが有する誤差要因や前記呈色反応に起因する誤差要因など、様々な誤差要因を考慮して測定システムを設計する必要がある。このうち、被測定水に対する呈色試薬の薬注量は呈色反応の反応当量に直接影響を与える。このため、呈色試薬を適正量薬注することは、測定された被検成分濃度の信頼性を確保する上で重要であるが、装置の設計上の理由から、必ずしも容易ではない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、呈色反応を利用して被測定水中の被検成分濃度を測定するにあたり、測定された被検成分濃度の信頼性を高める方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、被検成分を含有する基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用いれば、前記課題が解決できることを見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 被測定水と、呈色試薬を含有する薬液とを反応させ、得られた呈色反応液の発色度合を検出することで被測定水中の被検成分濃度を測定するにあたり、被検成分を含有する基準水に対する前記薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用い、あらかじめ、前記基準水に対する前記薬液の薬注量と、前記等吸収点における前記呈色反応液の発色度合との関係を示す近似式1と、前記基準水中の被検成分濃度と、測定波長(前記等吸収点における波長を除く)における呈色反応液の発色度合との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、前記直線回帰式の傾きと前記薬液の薬注量との関係を示す近似式2と、前記直線回帰式の切片と前記薬液の薬注量との関係を示す近似式3と、を設定し、被測定水の測定プロセスにおいて、前記等吸収点における呈色反応液の発色度合aおよび前記測定波長における呈色反応液の発色度合bを測定し、前記発色度合aと前記近似式1から、被測定水に対する薬液の薬注量を求め、前記薬注量,前記近似式2および前記近似式3から、前記基準水中の被検成分濃度と、前記測定波長における呈色反応液の発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求め、該直線回帰式と前記発色度合bから、前記被測定水中の被検成分濃度を求めることを特徴とする、被測定水中の被検成分濃度の測定方法、
〔2〕 前記被検成分がアルカリ成分であり、前記呈色試薬がメチルオレンジである、前記〔1〕記載の方法、
〔3〕 前記被検成分が硬度成分であり、前記呈色試薬がエリオクロムブラックTまたはカルマガイトである、前記〔1〕記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、測定の都度、薬注された薬液の薬注量を求め、該薬注量に対応した直線回帰式を作成して使用するので、測定された被検成分濃度の信頼性を高めることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明に係る被検成分濃度の測定装置を酸消費量測定装置に適用した概略構成図を示している。この測定装置で測定される酸消費量とは、酸消費量(pH4.8)として定義されるものであり、水に溶解している炭酸水素塩,炭酸塩,りん酸塩,水酸化物などのアルカリ成分をpH4.8に中和するのに要する酸の量を、試料1リットルについてのmmol数で表すか、または酸に相当する炭酸カルシウムの量に換算して、試料1リットルについてのmg数で表したものである。図1において、酸消費量測定装置1は、測定セル2と、薬注部3と、投光部4と、受光部5と、制御器6とを主に備えている。
【0010】
前記測定セル2は、不透明樹脂材料で形成された円筒状の容器であり、その側壁に一対
の光透過窓部7,7が対向して形成されている。これらの各光透過窓部7には、ガラスや
アクリル樹脂などの透明材料を平板状に成形した窓板8,8がそれぞれ装着されている。
前記各窓板8は、とくに後述する薬液に酸,アルカリ,あるいは有機溶媒などが含まれる
場合、その材料に石英ガラスを使用すると、材質劣化による破損のおそれがなく、好適で
ある。
【0011】
前記薬注部3は、薬液貯蔵容器9とローラポンプ10とを主に備えている。前記薬液貯
蔵容器9は、その内部に被測定水中のアルカリ成分と反応して発色する呈色試薬(メチルオレンジ)が配合された薬液が貯蔵されており、前記測定セル2の上部と薬液供給経路11で接続されている。この薬液供給経路11には、前記ローラポンプ10が設けられており、このローラポンプ10の下流側には、逆止弁12が設けられている。前記薬液供給経路11は、たとえば弾性材料で形成されたチューブであって、このチューブを前記ローラポンプ10で扱くことにより、前記薬液貯蔵容器9から前記測定セル2内へ呈色試薬を含む薬液が吐出される。
【0012】
前記投光部4と受光部5(以下、まとめて「投受光部4,5」と云う。)は、発光波長の異なる第一発光素子13および第二発光素子14が装着された発光回路基板15と、それぞれ透過光を検出する第一受光素子16および第二受光素子17が装着された受光回路基板18とを備えている。ここで、前記各発光素子13,14は、たとえばLEDであり、また前記各受光素子16,17は、たとえばフォトダイオードである。前記発光回路基板15は、前記各発光素子13,14が一方の前記光透過窓部7へ臨むように、前記測定セル2の外側に配置されている。そして、前記受光回路基板18は、前記各受光素子16,17が他方の前記光透過窓部7へ臨むように、前記測定セル2の外側に配置されている。すなわち、この実施形態における前記投受光部4,5は、所定の発光波長に設定された光を前記各発光素子13,14から照射するとともに、前記測定セル2を透過した光を前記各受光素子16,17で検出するように構成されている。
【0013】
前記測定セル2の底部には、撹拌装置19が設けられており、この撹拌装置19は、撹拌子20およびステータ21を備えている。前記撹拌子20は、前記測定セル2の底部において、回転可能に配置されている。前記ステータ21は、前記撹拌子20を取り囲むように、前記測定セル2の外側に配置されており、電磁誘導コイル(図示省略)を備えている。そして、この電磁誘導コイルヘ電流を供給すると、前記撹拌子20が回転する。
【0014】
前記測定セル2において、前記各光透過窓部7よりも下方の側壁には、採水口22が設
けられており、この採水口22は、給水配管や貯水タンクなどの監視対象水系(図示省略
)と採水経路23で接続されている。この採水経路23には、前記採水口22側から順に
電磁弁24,定流量弁25およびフィルタ26が設けられている。一方、前記測定セル2において、前記各光透過窓部7よりも上方の側壁には、排水口27が設けられており、こ
の排水口27には、排水ピット(図示省略)へ延びる排水経路28が接続されている。
【0015】
前記制御器6は、前記測定装置1の動作を制御するものであり、図2に示すように、演算部29と入出力ポート30とを主に備えている。前記演算部29は、中央処理装置31(以下、「CPU31」と云う。),読取り専用記憶装置32(以下、「ROM32」と云う。)および読み書き可能な記憶装置33(以下、「RAM33」と云う。)を主に備えている。
【0016】
前記入出力ポート30の入力側には、操作者が動作条件などを入力するスイッチ34お
よび前記受光回路基板18などの入力機器が接続されている。一方、前記入出力ポート3
0の出力側には、測定結果などを表示する液晶ディスプレイ35(以下、「LCD35」
と云う。),前記ローラポンプ10,前記発光回路基板15,前記ステータ21および前
記電磁弁24などの出力機器が接続されている。
【0017】
前記制御器6は、前記ROM32に記憶させたプログラムにしたがって、前記演算部2
9が前記入出力ポート30を介して入力された各種の情報を前記RAM33に適宜保存し
ながら演算処理する。そして、前記演算部29は、得られた演算結果に基づいて、前記入
出力ポート30を介して各種の動作指令を前記出力機器に対して出力する。
【0018】
本実施形態では、酸消費量(pH4.8)の異なる基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記酸消費量(pH4.8)によらず、得られた呈色反応液の吸収スペクトルは470nm付近に等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量が増えると前記等吸収点における吸光度が増加する反応系が用いられる。また、同一の薬注量で基準水中の酸消費量(pH4.8)が異なる場合、470nmよりも長波長側のスペクトルの方が、各スペクトルの吸光度差が大きくなる。そこで、本実施形態では、前記第一発光素子13として、たとえば発光波長が525nmに設定された緑色LEDを使用するとともに、前記第二発光素子14として、たとえば発光波長が470nmに設定された青色LEDを使用している。ここで、基準水とは、アルカリ成分を純水に溶解させて所定の濃度範囲(例えば、酸消費量(pH4.8)で0〜120ppm)に調整したものをいう。また、本実施形態に係る薬液は、酸消費量(pH4.8)を測定するための一液型の組成物であり、公知のpH調整剤を用いてメチルオレンジを赤色に発色させたものが用いられる。
【0019】
前記プログラムには、測定プロセスにおいて、470nm(等吸収点)における呈色反応液の吸光度とあらかじめ前記ROM32に記憶された多項回帰式1(近似式1)に基づいて、被測定水に対して薬注された薬液の薬注量を求める薬注量判定処理が組み込まれている。多項回帰式1とは、前記基準水に対する前記薬液の薬注量と、前記470nmにおける呈色反応液の吸光度との関係を多項回帰分析により求めた回帰式をいう。
【0020】
また、前記プログラムには、測定プロセスにおいて、前記薬注量判定処理で求められた薬液の薬注量、あらかじめ前記ROM32に記憶された多項回帰式2(近似式2)および多項回帰式3(近似式3)に基づいて、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と、525nm(測定波長)における呈色反応液の吸光度との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求める直線回帰分析処理が組み込まれている。多項回帰式2は、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と525nmにおける呈色反応液の吸光度との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、前記直線回帰式の傾きと前記薬液の薬注量との関係を多項式回帰分析により求めた回帰式をいう。多項回帰式3は、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と525nmにおける呈色反応液の吸光度との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、前記直線回帰式の切片と前記薬液の薬注量との関係を多項式回帰分析により求めた回帰式をいう。
【0021】
また、前記プログラムには、測定プロセスにおいて、前記直線回帰分析処理により求められた直線回帰式と525nmにおける吸光度に基づいて、前記被測定水中の酸消費量(pH4.8)を求める酸消費量判定処理が組み込まれている。
【0022】
つぎに、図3〜図5に示す動作フローチャートにしたがって、前記測定装置1における一連の測定プロセスを詳細に説明する。
【0023】
前記測定装置1の電源が投入されると、前記演算部29に記憶されたプログラムは、まずステップS1において、前記ステータ21の電磁誘導コイル(図示省略)への通電を停止し、前記電磁弁24を閉状態にするなどの初期設定動作を実施する。
【0024】
プログラムは、ステップS2において、前記演算部29の内部タイマーの経過時間tを
ゼロに設定し、つぎのステップS3において、経過時間tが所定時間t1に到達したか否
かを判断する。経過時間tが所定時間t1になると、プログラムはステップS4へ移行し
、経過時間tを再びゼロにリセットする。ここにおいて、所定時間t1は、前記測定装置1の測定間隔時間に相当し、通常、0.1〜24時問の範囲である。
【0025】
洗浄動作
つぎに、プログラムは、ステップS5において、前記第二発光素子14を点灯したのち
、ステップS6へ移行し、前記測定セル2の洗浄を実施する。前記電磁弁24を開状態に
すると、被測定水が洗浄水として、前記採水経路23を経由して前記採水口22から前記
測定セル2内へ流入する。このとき、被測定水に含まれるゴミや濁質などの夾雑物は、前
記フィルタ26により除去される。また、前記測定セル2内へ流入する被測定水の流量は
、前記定流量弁25により制御される。前記測定セル2内へ連続的に流入する被測定水は
、前回の測定に係る着色,もしくは発色した被測定水を押し出しながら前記測定セル2内
を満たし、前記排水経路28から系外へ連続的に排出される。このとき、前記電磁誘導コ
イルが通電され、それによって生じる磁場を前記撹拌子20内の磁石(図示省略)が受け
る。これにより、前記撹拌子20が回転し、前記測定セル2内へ流入した被測定水が撹拌
される。この結果、前記測定セル2内は、連続的に流入する新たな被測定水により置換さ
れるとともに洗浄される。
【0026】
この過程において、洗浄を開始したときから前記測定セル2を透過する青色光を前記第
二受光素子17で検出し、その透過光強度が所定値(たとえば、前記測定セル2内に蒸留
水を貯留した場合の青色光の透過光強度に対して、その10〜90%に相当する範囲にお
いて任意に設定される値)になるまでの時間を測定する。つぎに、この時間に基づいて、
被測定水の流量をあらかじめ前記ROM32に記憶されたデータから推定し、この推定さ
れた流量に応じて、一定量の被測定水が供給される所定時問を決定する。そして、この所
定時間が経過するまで洗浄状態を保持する。
【0027】
前記測定セル2の洗浄を開始して所定時間が経過すると、プログラムは、ステップS7
へ移行し、洗浄確認準備を実施する。ここでは、前記電磁誘導コイルの通電を止め、被測
定水の撹拌を停止する。
【0028】
洗浄確認動作
前記洗浄動作が終了すると、プログラムは、ステップS8へ移行し、前記測定セル2を
透過する青色光を前記第二受光素子17で検出し、その透過光強度(A)を測定する。続
いて、ステップS9では、ステップS8で測定した透過光強度(A)が、基準値(B)を
超えるか否かを判断する。ここで、基準値(B)は、前記測定セル2内に蒸留水を貯留し
た場合の青色光の透過光強度に対して、たとえばその90%以上に相当する範囲において
任意に設定される値である。
【0029】
ここで、透過光強度(A)が基準値(B)以下のときは、前記測定セル2内に青色光の透過を妨げる汚れがあるか,もしくは被測定水に濁りがあると判断し、プログラムは、ステップS5へ戻り、前記洗浄動作から改めて実施する。一方、透過光強度が基準値(B)を超えるときは、前記測定セル2内が新たな被測定水で置換され,かつ前記測定セル2に汚れがないと判断し、プログラムは、ステップS10へ移行する。
【0030】
ステップS10では、前記第二発光素子14を消灯するとともに、前記第一発光素子1
3を点灯する。そして、つぎのステップS11おいて、前記測定セル2を透過する緑色光
を前記第一受光素子16で検出し、その透過光強度(C)を測定する。続いて、ステップ
S12において、ステップS11で測定した緑色光の透過光強度(C)が、基準値(D)
を超えるか否かを判断する。ここで、基準値(D)は、前記容器2内に蒸留水を貯留した
場合の緑色光の透過光強度に対して、たとえばその90%以上に相当する範囲において任
意に設定される値である。
【0031】
ここで、透過光強度(C)が基準値(D)以下のときは、前記測定セル2内に緑色光の透過を妨げる汚れがあるか,もしくは被測定水に濁りがあると判断し、プログラムは、ステップS5へ戻り、前記洗浄動作から改めて実施する。一方、透過光強度(C)が基準値(D)を超えるときは、前記測定セル2に汚れがなく,かつ被測定水に濁りがないと判断し、プログラムは、ステップS13へ移行する。
【0032】
貯留動作
つぎに、ステップS13において、プログラムは、被測定水の貯留動作を実施する。こ
の動作では、前記電磁弁24は、ステップS6〜S12に引き続いて開状態のまま維持さ
れており、被測定水が前記採水経路23を経由して前記採水口22から前記測定セル2内
へ流入する。このとき、被測定水に含まれるゴミや濁質などの來雑物は、前記フィルタ2
6により除去される。また、前記測定セル2内へ流入する被測定水の流量は、前記定流量
弁25により制御される。前記測定セル2内へ連続的に流入する被測定水は、前記測定セ
ル2内を満たしながら、前記排水経路28から系外へ連続的に排出される。そして、この
状態で前記電磁弁24を閉状態にすると、前記測定セル2内への被測定水の流入が遮断さ
れ、前記測定セル2内に所定量(通常、4.5ミリリットル)の被測定水が貯留される。所定量の被測定水が貯留されると、プログラムは、ステップS14へ移行する。
【0033】
ステップS14では、前記第一発光素子13を消灯するとともに、前記第二発光素子1
4を点灯する。そして、つぎのステップS15において、前記測定セル2を透過する青色
光を前記第二受光素子17で検出し、その透過光強度(E)を測定する。この透過光強度
(E)は、被測定水のブランク値として前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステ
ップS16へ移行する。
【0034】
ステップS16では、前記第二発光素子14を消灯するとともに、前記第一発光素子1
3を点灯する。そして、つぎのステップS17において、前記測定セル2を透過する緑色
光を前記第一受光素子16で検出し、その透過光強度(F)を測定する。この透過光強度
(F)は、被測定水のブランク値として前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステ
ップS18へ移行する。
【0035】
薬注動作
ステップS18において、プログラムは、前記第一発光素子13を消灯するとともに、薬液の注入を実施する。ここでは、前記電磁誘導コイルが通電され、前記測定セル2内に貯留された被測定水が撹拌される。そして、この状態を継続しながら、前記ローラポンプ10を駆動させ、前記薬液供給経路11を構成するチューブを所定回数扱くことにより、前記薬液貯蔵容器9から前記測定セル2内へ所定量の薬液を吐出させる。ここにおいて、薬液の全注入量は、後述する表1に示した薬液を利用する場合、例えば120ppm以下の酸消費量(pH4.8)を測定可能な2.0ミリリットルに設定されている。薬液の注入を終了すると、前記ローラポンプ10を停止させ、プログラムは、ステップS19へ移行する。
【0036】
測定動作1
ステップS19では、前記第二発光素子14を点灯する。そして、つぎのステップS20において、前記測定セル2を通過する青色光を前記第二受光素子17で検出し、その透過光強度(G),すなわち呈色反応液の着色度合を測定する。ここにおいて、透過光強度(G)を検出するタイミングは、呈色反応の速度が被測定水の水温により影響を受けることから、冬季などの低温条件(たとえば、5℃)においても、被測定水と薬液の反応が完結するタイミングに設定されている。具体的には、前記ローラポンプ10を停止させてからの経過時間をカウントし、この経過時間が所定時間(たとえぱ、1〜5分の範囲から選択される時間)に達したとき、透過光強度(G)を検出する。続いて、ステップ21において、透過光強度(G)と前記RAM33に記憶されている透過光強度(E)から、吸光度(log(E/G))を計算する。この吸光度(log(E/G))は、発色度合aとして前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS22へ移行する。
【0037】
測定動作2
ステップS22において、プログラムは、第二発光素子14を消灯するとともに、第一発光素子13を点灯する。そして、つぎのステップS23において、前記測定セル2を通過する緑色光を前記第一受光素子16で検出し、その透過光強度(H),すなわち呈色反応液の着色度合を測定する。続いて、ステップ24において、透過光強度(H)と前記RAM33に記憶されている透過光強度(F)から、吸光度(log(F/H))を計算する。この吸光度(log(F/H))は、発色度合bとして前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS25へ移行する。
【0038】
薬液の薬注量の計算
ステップS25において、プログラムは、第一発光素子13を消灯するとともに、ステップS21で求められた発色度合aと前記多項回帰式1に基づいて、前記演算部29で、被測定水に対して薬注された薬液の薬注量を判定する。この薬液の薬注量は前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS26へ移行する。
【0039】
直線回帰分析
ステップS26では、ステップS25で求められた薬液の薬注量、あらかじめ前記ROM32に記憶された前記多項回帰式2および前記多項回帰式3に基づいて、前記演算部29で、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と、525nmにおける呈色反応液の吸光度,すなわち発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を判定する。この直線回帰式は前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS27へ移行する。
【0040】
酸消費量(pH4.8)の判定
ステップS27では、ステップ24で求められた発色度合bとステップ26で求められた直線回帰式に基づいて、前記演算部29で被測定水中の酸消費量(pH4.8)を判定する。続いて、ステップS28では、その判定された測定値を前記LCD35に表示する。そして、プログラムは、ステップS3へ戻る。
【0041】
以上説明したように、この実施形態によれば、呈色反応液の470nm(等吸収点)と525nm(測定波長)における吸光度を測定することで、被測定水中の酸消費量(pH4.8)を精度良く求めることができる。この結果、とくに白動化された酸消費量測定装置において、測定値の信頼性を確保することができる。
【0042】
上述した実施形態では、測定精度を高めるため、近似式1,2および3として多項回帰式1,2および3を用いているが、たとえば直線回帰分析により求めた直線回帰式を用いてもよい。また、被測定水に対する薬液の薬注量を求めるために呈色反応液の等吸収点における発色度合に吸光度を用いたが、吸光度に代えて透過率を用いることもできる。この場合、基本データとして、後述する図6の吸収スペクトルに代えて透過率スペクトルを測定するようにすればよい。
【0043】
また、上述した実施形態では、被検成分濃度の測定装置として、酸消費量測定装置を例に挙げて説明したが、本発明は酸消費量測定装置以外にも、たとえば硬度測定装置にも同様に適用することができる。この場合、硬度成分を含有する基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記硬度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用いる必要があるが、例えば軟水装置を通過後の処理水中の硬度を測定する硬度測定装置に適用する場合、呈色試薬としてエリオクロムブラックTを含む公知の薬液を用いればよいし、軟水装置へ供給前の原水中の硬度を測定する硬度測定装置に適用する場合、呈色試薬としてカルマガイトを含む公知の薬液を用いればよい。
【実施例】
【0044】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0045】
1−1.酸消費量(pH4.8)が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の吸収スペクトル
9.2ppm,48.8ppmおよび119.7ppmの酸消費量(pH4.8)を有する3種類の基準水と表1に記載した薬液を調製した。そして、各基準水4.5ミリリットルに対して前記薬液を1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットル撹拌しながら添加し、室温で1分間静置して呈色反応を完結させたのち、発色した呈色反応液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。つぎに、前記分光光度計用セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、25℃における波長400〜650nmの吸収スペクトルを測定した。結果を図6に示す。図6より、同一の薬注量では、基準水中の酸消費量(pH4.8)によらず、470nm付近に等吸収点を有すること、等吸収点における吸光度は薬注量が増えると大きくなることが分かった。
【0046】
【表1】
【0047】
1−2.多項式回帰分析1
図6の吸収スペクトルのうち、470nmにおける吸光度の平均値を各薬注量について求めると、薬注量が1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットルのとき、吸光度はそれぞれ0.953,1.215および1.440を示した。そこで、吸光度を独立変数α,薬注量を従属変数βとして多項式回帰分析を行い、2次の多項回帰式を求めると、近似式1:β=0.408+0.541α+0.633α2が得られた。この近似式1を用いれば、実際の測定プロセスにおいて、470nmにおける呈色反応液の吸光度から、被測定水に薬注された薬液の薬注量を求めることができる。
【0048】
1−3.直線回帰分析1
図6の吸収スペクトルのうち、525nmにおける吸光度を横軸に、そのとき用いた基準水中の酸消費量(pH4.8)を縦軸にとり、各薬注量についてプロットするとともに、各データを直線回帰分析することで直線回帰式を求めた。得られた直線回帰式は、図7に示すように、良好な直線性を示した。
【0049】
1−4.多項式回帰分析2
図7に示した3つの直線回帰式の傾きを各薬注量について求めると、薬注量が1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットルのとき、傾きはそれぞれ、−262.305,−271.048および−314.748を示した。そこで、薬注量を独立変数β,傾きを従属変数γとして多項式回帰分析を行い、2次の多項回帰式を求めると、近似式2:γ=−445.808+227.202β−69.911β2 が得られた。
【0050】
1−5.多項式回帰分析3
図7に示した3つの直線回帰式の切片を各薬注量について求めると、薬注量が1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットルのとき、切片はそれぞれ、231.720,315.959および440.715を示した。そこで、薬注量を独立変数β,切片を従属変数δとして多項式回帰分析を行い、2次の多項回帰式を求めると、近似式3:δ=222.113−115.149β+81.036β2が得られた。
【0051】
被測定水の測定時には、前記近似式1と470nmにおける呈色反応液の吸光度から、被測定水に薬注された薬液の薬注量βを求め、該薬液の薬注量βを前記近似式2および前記近似式3に代入すれば、前記近似式2の傾きγおよび前記近似式3の切片δが求まる。すなわち、上記の計算を行なうことにより、基準水中の酸消費量(pH4.8)(縦軸)と525nmにおける吸光度(横軸)との関係を示す、薬液の薬注量βに対応した直線回帰式を求めることができる。そして、得られた直線回帰式と525nmにおける呈色反応液の吸光度から、被測定水中の酸消費量(pH4.8)を求めることができる。
【0052】
2.硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(1)
硬度が0ppm,2ppm,5ppmで、酸消費量(pH4.8)が0ppm,180ppm,450ppmの組み合わせからなる計9種類の基準水、および呈色試薬としてエリオクロムブラックTを含む薬液(表2参照)をそれぞれ調製した。そして、各基準水4.5ミリリットルに対して前記薬液を20マイクロリットル,30マイクロリットルおよび40マイクロリットル撹拌しながら添加し、室温で1分間静置して呈色反応を完結させたのち、発色した呈色反応液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。つぎに、前記分光光度計用セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、25℃における波長450〜750nmの透過率スペクトルを測定した。結果を図8〜図10に示す。図8〜図10より、同一の薬注量では、基準水中の硬度および酸消費量(pH4.8)によらず、580nm付近に等吸収点を有すること、等吸収点における透過率は薬注量が増えると小さくなることが分かった。
【0053】
【表2】
【0054】
3.硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(2)
0ppm,20ppm,40ppm,60ppm,80ppmおよび100ppmの硬度を有する6種類の基準水、および呈色試薬としてカルマガイトを含む薬液(表3参照)をそれぞれ調製した。そして、各基準水100重量部に対して前記薬液2.0重量部および4.0重量部を撹拌しながら添加し、室温で1分間静置して呈色反応を完結させたのち、発色した呈色反応液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。つぎに、前記分光光度計用セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、25℃における波長400〜800nmの透過率スペクトルを測定した。結果を図11と図12に示す。図11および図12より、同一の薬注量では、基準水中の硬度によらず、560nm付近に等吸収点を有すること、等吸収点における透過率は薬注量が増えると小さくなることが分かった。
【0055】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】酸消費量測定装置の概略構成を示す縦断面図。
【図2】酸消費量測定装置における制御器の概略構成を示すブロック図。
【図3】酸消費量測定装置の動作を示すフローチャート。
【図4】酸消費量測定装置の動作を示すフローチャート。
【図5】酸消費量測定装置の動作を示すフローチャート。
【図6】酸消費量が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の吸収スペクトル。
【図7】図6の吸収スペクトルのうち、525nmにおける吸光度(横軸)と基準水中の酸消費量(pH4.8)(縦軸)を各薬注量についてプロットして得られた直線回帰式。
【図8】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量20マイクロリットル)。
【図9】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量30マイクロリットル)。
【図10】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量40マイクロリットル)。
【図11】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量2.0%)。
【図12】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量4.0%)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定水中の被検成分濃度の測定方法に関し、特に呈色反応を利用して被測定水中の被検成分濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボイラなどの冷熱機器類への給水ラインにおいては、水質管理の指標として酸消費量(pH4.8)や硬度などが用いられている。酸消費量(pH4.8)の測定用試薬としては、例えば、ブロモフェノールブルーを用いる方法が提案されており、硬度測定用試薬としては、例えば、エリオクロムブラックTまたはカルマガイトを用いる方法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−356118号公報
【特許文献2】特開2005−283392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した水質管理の測定用試薬(以下、「呈色試薬」とも云う。)は、被測定水との呈色反応を利用したものである。該呈色反応を利用して被測定水中の酸消費量(pH4.8)や硬度を自動化された測定装置を用いて測定する場合、装置そのものが有する誤差要因や前記呈色反応に起因する誤差要因など、様々な誤差要因を考慮して測定システムを設計する必要がある。このうち、被測定水に対する呈色試薬の薬注量は呈色反応の反応当量に直接影響を与える。このため、呈色試薬を適正量薬注することは、測定された被検成分濃度の信頼性を確保する上で重要であるが、装置の設計上の理由から、必ずしも容易ではない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、呈色反応を利用して被測定水中の被検成分濃度を測定するにあたり、測定された被検成分濃度の信頼性を高める方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、被検成分を含有する基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用いれば、前記課題が解決できることを見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 被測定水と、呈色試薬を含有する薬液とを反応させ、得られた呈色反応液の発色度合を検出することで被測定水中の被検成分濃度を測定するにあたり、被検成分を含有する基準水に対する前記薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用い、あらかじめ、前記基準水に対する前記薬液の薬注量と、前記等吸収点における前記呈色反応液の発色度合との関係を示す近似式1と、前記基準水中の被検成分濃度と、測定波長(前記等吸収点における波長を除く)における呈色反応液の発色度合との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、前記直線回帰式の傾きと前記薬液の薬注量との関係を示す近似式2と、前記直線回帰式の切片と前記薬液の薬注量との関係を示す近似式3と、を設定し、被測定水の測定プロセスにおいて、前記等吸収点における呈色反応液の発色度合aおよび前記測定波長における呈色反応液の発色度合bを測定し、前記発色度合aと前記近似式1から、被測定水に対する薬液の薬注量を求め、前記薬注量,前記近似式2および前記近似式3から、前記基準水中の被検成分濃度と、前記測定波長における呈色反応液の発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求め、該直線回帰式と前記発色度合bから、前記被測定水中の被検成分濃度を求めることを特徴とする、被測定水中の被検成分濃度の測定方法、
〔2〕 前記被検成分がアルカリ成分であり、前記呈色試薬がメチルオレンジである、前記〔1〕記載の方法、
〔3〕 前記被検成分が硬度成分であり、前記呈色試薬がエリオクロムブラックTまたはカルマガイトである、前記〔1〕記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、測定の都度、薬注された薬液の薬注量を求め、該薬注量に対応した直線回帰式を作成して使用するので、測定された被検成分濃度の信頼性を高めることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明に係る被検成分濃度の測定装置を酸消費量測定装置に適用した概略構成図を示している。この測定装置で測定される酸消費量とは、酸消費量(pH4.8)として定義されるものであり、水に溶解している炭酸水素塩,炭酸塩,りん酸塩,水酸化物などのアルカリ成分をpH4.8に中和するのに要する酸の量を、試料1リットルについてのmmol数で表すか、または酸に相当する炭酸カルシウムの量に換算して、試料1リットルについてのmg数で表したものである。図1において、酸消費量測定装置1は、測定セル2と、薬注部3と、投光部4と、受光部5と、制御器6とを主に備えている。
【0010】
前記測定セル2は、不透明樹脂材料で形成された円筒状の容器であり、その側壁に一対
の光透過窓部7,7が対向して形成されている。これらの各光透過窓部7には、ガラスや
アクリル樹脂などの透明材料を平板状に成形した窓板8,8がそれぞれ装着されている。
前記各窓板8は、とくに後述する薬液に酸,アルカリ,あるいは有機溶媒などが含まれる
場合、その材料に石英ガラスを使用すると、材質劣化による破損のおそれがなく、好適で
ある。
【0011】
前記薬注部3は、薬液貯蔵容器9とローラポンプ10とを主に備えている。前記薬液貯
蔵容器9は、その内部に被測定水中のアルカリ成分と反応して発色する呈色試薬(メチルオレンジ)が配合された薬液が貯蔵されており、前記測定セル2の上部と薬液供給経路11で接続されている。この薬液供給経路11には、前記ローラポンプ10が設けられており、このローラポンプ10の下流側には、逆止弁12が設けられている。前記薬液供給経路11は、たとえば弾性材料で形成されたチューブであって、このチューブを前記ローラポンプ10で扱くことにより、前記薬液貯蔵容器9から前記測定セル2内へ呈色試薬を含む薬液が吐出される。
【0012】
前記投光部4と受光部5(以下、まとめて「投受光部4,5」と云う。)は、発光波長の異なる第一発光素子13および第二発光素子14が装着された発光回路基板15と、それぞれ透過光を検出する第一受光素子16および第二受光素子17が装着された受光回路基板18とを備えている。ここで、前記各発光素子13,14は、たとえばLEDであり、また前記各受光素子16,17は、たとえばフォトダイオードである。前記発光回路基板15は、前記各発光素子13,14が一方の前記光透過窓部7へ臨むように、前記測定セル2の外側に配置されている。そして、前記受光回路基板18は、前記各受光素子16,17が他方の前記光透過窓部7へ臨むように、前記測定セル2の外側に配置されている。すなわち、この実施形態における前記投受光部4,5は、所定の発光波長に設定された光を前記各発光素子13,14から照射するとともに、前記測定セル2を透過した光を前記各受光素子16,17で検出するように構成されている。
【0013】
前記測定セル2の底部には、撹拌装置19が設けられており、この撹拌装置19は、撹拌子20およびステータ21を備えている。前記撹拌子20は、前記測定セル2の底部において、回転可能に配置されている。前記ステータ21は、前記撹拌子20を取り囲むように、前記測定セル2の外側に配置されており、電磁誘導コイル(図示省略)を備えている。そして、この電磁誘導コイルヘ電流を供給すると、前記撹拌子20が回転する。
【0014】
前記測定セル2において、前記各光透過窓部7よりも下方の側壁には、採水口22が設
けられており、この採水口22は、給水配管や貯水タンクなどの監視対象水系(図示省略
)と採水経路23で接続されている。この採水経路23には、前記採水口22側から順に
電磁弁24,定流量弁25およびフィルタ26が設けられている。一方、前記測定セル2において、前記各光透過窓部7よりも上方の側壁には、排水口27が設けられており、こ
の排水口27には、排水ピット(図示省略)へ延びる排水経路28が接続されている。
【0015】
前記制御器6は、前記測定装置1の動作を制御するものであり、図2に示すように、演算部29と入出力ポート30とを主に備えている。前記演算部29は、中央処理装置31(以下、「CPU31」と云う。),読取り専用記憶装置32(以下、「ROM32」と云う。)および読み書き可能な記憶装置33(以下、「RAM33」と云う。)を主に備えている。
【0016】
前記入出力ポート30の入力側には、操作者が動作条件などを入力するスイッチ34お
よび前記受光回路基板18などの入力機器が接続されている。一方、前記入出力ポート3
0の出力側には、測定結果などを表示する液晶ディスプレイ35(以下、「LCD35」
と云う。),前記ローラポンプ10,前記発光回路基板15,前記ステータ21および前
記電磁弁24などの出力機器が接続されている。
【0017】
前記制御器6は、前記ROM32に記憶させたプログラムにしたがって、前記演算部2
9が前記入出力ポート30を介して入力された各種の情報を前記RAM33に適宜保存し
ながら演算処理する。そして、前記演算部29は、得られた演算結果に基づいて、前記入
出力ポート30を介して各種の動作指令を前記出力機器に対して出力する。
【0018】
本実施形態では、酸消費量(pH4.8)の異なる基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記酸消費量(pH4.8)によらず、得られた呈色反応液の吸収スペクトルは470nm付近に等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量が増えると前記等吸収点における吸光度が増加する反応系が用いられる。また、同一の薬注量で基準水中の酸消費量(pH4.8)が異なる場合、470nmよりも長波長側のスペクトルの方が、各スペクトルの吸光度差が大きくなる。そこで、本実施形態では、前記第一発光素子13として、たとえば発光波長が525nmに設定された緑色LEDを使用するとともに、前記第二発光素子14として、たとえば発光波長が470nmに設定された青色LEDを使用している。ここで、基準水とは、アルカリ成分を純水に溶解させて所定の濃度範囲(例えば、酸消費量(pH4.8)で0〜120ppm)に調整したものをいう。また、本実施形態に係る薬液は、酸消費量(pH4.8)を測定するための一液型の組成物であり、公知のpH調整剤を用いてメチルオレンジを赤色に発色させたものが用いられる。
【0019】
前記プログラムには、測定プロセスにおいて、470nm(等吸収点)における呈色反応液の吸光度とあらかじめ前記ROM32に記憶された多項回帰式1(近似式1)に基づいて、被測定水に対して薬注された薬液の薬注量を求める薬注量判定処理が組み込まれている。多項回帰式1とは、前記基準水に対する前記薬液の薬注量と、前記470nmにおける呈色反応液の吸光度との関係を多項回帰分析により求めた回帰式をいう。
【0020】
また、前記プログラムには、測定プロセスにおいて、前記薬注量判定処理で求められた薬液の薬注量、あらかじめ前記ROM32に記憶された多項回帰式2(近似式2)および多項回帰式3(近似式3)に基づいて、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と、525nm(測定波長)における呈色反応液の吸光度との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求める直線回帰分析処理が組み込まれている。多項回帰式2は、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と525nmにおける呈色反応液の吸光度との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、前記直線回帰式の傾きと前記薬液の薬注量との関係を多項式回帰分析により求めた回帰式をいう。多項回帰式3は、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と525nmにおける呈色反応液の吸光度との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、前記直線回帰式の切片と前記薬液の薬注量との関係を多項式回帰分析により求めた回帰式をいう。
【0021】
また、前記プログラムには、測定プロセスにおいて、前記直線回帰分析処理により求められた直線回帰式と525nmにおける吸光度に基づいて、前記被測定水中の酸消費量(pH4.8)を求める酸消費量判定処理が組み込まれている。
【0022】
つぎに、図3〜図5に示す動作フローチャートにしたがって、前記測定装置1における一連の測定プロセスを詳細に説明する。
【0023】
前記測定装置1の電源が投入されると、前記演算部29に記憶されたプログラムは、まずステップS1において、前記ステータ21の電磁誘導コイル(図示省略)への通電を停止し、前記電磁弁24を閉状態にするなどの初期設定動作を実施する。
【0024】
プログラムは、ステップS2において、前記演算部29の内部タイマーの経過時間tを
ゼロに設定し、つぎのステップS3において、経過時間tが所定時間t1に到達したか否
かを判断する。経過時間tが所定時間t1になると、プログラムはステップS4へ移行し
、経過時間tを再びゼロにリセットする。ここにおいて、所定時間t1は、前記測定装置1の測定間隔時間に相当し、通常、0.1〜24時問の範囲である。
【0025】
洗浄動作
つぎに、プログラムは、ステップS5において、前記第二発光素子14を点灯したのち
、ステップS6へ移行し、前記測定セル2の洗浄を実施する。前記電磁弁24を開状態に
すると、被測定水が洗浄水として、前記採水経路23を経由して前記採水口22から前記
測定セル2内へ流入する。このとき、被測定水に含まれるゴミや濁質などの夾雑物は、前
記フィルタ26により除去される。また、前記測定セル2内へ流入する被測定水の流量は
、前記定流量弁25により制御される。前記測定セル2内へ連続的に流入する被測定水は
、前回の測定に係る着色,もしくは発色した被測定水を押し出しながら前記測定セル2内
を満たし、前記排水経路28から系外へ連続的に排出される。このとき、前記電磁誘導コ
イルが通電され、それによって生じる磁場を前記撹拌子20内の磁石(図示省略)が受け
る。これにより、前記撹拌子20が回転し、前記測定セル2内へ流入した被測定水が撹拌
される。この結果、前記測定セル2内は、連続的に流入する新たな被測定水により置換さ
れるとともに洗浄される。
【0026】
この過程において、洗浄を開始したときから前記測定セル2を透過する青色光を前記第
二受光素子17で検出し、その透過光強度が所定値(たとえば、前記測定セル2内に蒸留
水を貯留した場合の青色光の透過光強度に対して、その10〜90%に相当する範囲にお
いて任意に設定される値)になるまでの時間を測定する。つぎに、この時間に基づいて、
被測定水の流量をあらかじめ前記ROM32に記憶されたデータから推定し、この推定さ
れた流量に応じて、一定量の被測定水が供給される所定時問を決定する。そして、この所
定時間が経過するまで洗浄状態を保持する。
【0027】
前記測定セル2の洗浄を開始して所定時間が経過すると、プログラムは、ステップS7
へ移行し、洗浄確認準備を実施する。ここでは、前記電磁誘導コイルの通電を止め、被測
定水の撹拌を停止する。
【0028】
洗浄確認動作
前記洗浄動作が終了すると、プログラムは、ステップS8へ移行し、前記測定セル2を
透過する青色光を前記第二受光素子17で検出し、その透過光強度(A)を測定する。続
いて、ステップS9では、ステップS8で測定した透過光強度(A)が、基準値(B)を
超えるか否かを判断する。ここで、基準値(B)は、前記測定セル2内に蒸留水を貯留し
た場合の青色光の透過光強度に対して、たとえばその90%以上に相当する範囲において
任意に設定される値である。
【0029】
ここで、透過光強度(A)が基準値(B)以下のときは、前記測定セル2内に青色光の透過を妨げる汚れがあるか,もしくは被測定水に濁りがあると判断し、プログラムは、ステップS5へ戻り、前記洗浄動作から改めて実施する。一方、透過光強度が基準値(B)を超えるときは、前記測定セル2内が新たな被測定水で置換され,かつ前記測定セル2に汚れがないと判断し、プログラムは、ステップS10へ移行する。
【0030】
ステップS10では、前記第二発光素子14を消灯するとともに、前記第一発光素子1
3を点灯する。そして、つぎのステップS11おいて、前記測定セル2を透過する緑色光
を前記第一受光素子16で検出し、その透過光強度(C)を測定する。続いて、ステップ
S12において、ステップS11で測定した緑色光の透過光強度(C)が、基準値(D)
を超えるか否かを判断する。ここで、基準値(D)は、前記容器2内に蒸留水を貯留した
場合の緑色光の透過光強度に対して、たとえばその90%以上に相当する範囲において任
意に設定される値である。
【0031】
ここで、透過光強度(C)が基準値(D)以下のときは、前記測定セル2内に緑色光の透過を妨げる汚れがあるか,もしくは被測定水に濁りがあると判断し、プログラムは、ステップS5へ戻り、前記洗浄動作から改めて実施する。一方、透過光強度(C)が基準値(D)を超えるときは、前記測定セル2に汚れがなく,かつ被測定水に濁りがないと判断し、プログラムは、ステップS13へ移行する。
【0032】
貯留動作
つぎに、ステップS13において、プログラムは、被測定水の貯留動作を実施する。こ
の動作では、前記電磁弁24は、ステップS6〜S12に引き続いて開状態のまま維持さ
れており、被測定水が前記採水経路23を経由して前記採水口22から前記測定セル2内
へ流入する。このとき、被測定水に含まれるゴミや濁質などの來雑物は、前記フィルタ2
6により除去される。また、前記測定セル2内へ流入する被測定水の流量は、前記定流量
弁25により制御される。前記測定セル2内へ連続的に流入する被測定水は、前記測定セ
ル2内を満たしながら、前記排水経路28から系外へ連続的に排出される。そして、この
状態で前記電磁弁24を閉状態にすると、前記測定セル2内への被測定水の流入が遮断さ
れ、前記測定セル2内に所定量(通常、4.5ミリリットル)の被測定水が貯留される。所定量の被測定水が貯留されると、プログラムは、ステップS14へ移行する。
【0033】
ステップS14では、前記第一発光素子13を消灯するとともに、前記第二発光素子1
4を点灯する。そして、つぎのステップS15において、前記測定セル2を透過する青色
光を前記第二受光素子17で検出し、その透過光強度(E)を測定する。この透過光強度
(E)は、被測定水のブランク値として前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステ
ップS16へ移行する。
【0034】
ステップS16では、前記第二発光素子14を消灯するとともに、前記第一発光素子1
3を点灯する。そして、つぎのステップS17において、前記測定セル2を透過する緑色
光を前記第一受光素子16で検出し、その透過光強度(F)を測定する。この透過光強度
(F)は、被測定水のブランク値として前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステ
ップS18へ移行する。
【0035】
薬注動作
ステップS18において、プログラムは、前記第一発光素子13を消灯するとともに、薬液の注入を実施する。ここでは、前記電磁誘導コイルが通電され、前記測定セル2内に貯留された被測定水が撹拌される。そして、この状態を継続しながら、前記ローラポンプ10を駆動させ、前記薬液供給経路11を構成するチューブを所定回数扱くことにより、前記薬液貯蔵容器9から前記測定セル2内へ所定量の薬液を吐出させる。ここにおいて、薬液の全注入量は、後述する表1に示した薬液を利用する場合、例えば120ppm以下の酸消費量(pH4.8)を測定可能な2.0ミリリットルに設定されている。薬液の注入を終了すると、前記ローラポンプ10を停止させ、プログラムは、ステップS19へ移行する。
【0036】
測定動作1
ステップS19では、前記第二発光素子14を点灯する。そして、つぎのステップS20において、前記測定セル2を通過する青色光を前記第二受光素子17で検出し、その透過光強度(G),すなわち呈色反応液の着色度合を測定する。ここにおいて、透過光強度(G)を検出するタイミングは、呈色反応の速度が被測定水の水温により影響を受けることから、冬季などの低温条件(たとえば、5℃)においても、被測定水と薬液の反応が完結するタイミングに設定されている。具体的には、前記ローラポンプ10を停止させてからの経過時間をカウントし、この経過時間が所定時間(たとえぱ、1〜5分の範囲から選択される時間)に達したとき、透過光強度(G)を検出する。続いて、ステップ21において、透過光強度(G)と前記RAM33に記憶されている透過光強度(E)から、吸光度(log(E/G))を計算する。この吸光度(log(E/G))は、発色度合aとして前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS22へ移行する。
【0037】
測定動作2
ステップS22において、プログラムは、第二発光素子14を消灯するとともに、第一発光素子13を点灯する。そして、つぎのステップS23において、前記測定セル2を通過する緑色光を前記第一受光素子16で検出し、その透過光強度(H),すなわち呈色反応液の着色度合を測定する。続いて、ステップ24において、透過光強度(H)と前記RAM33に記憶されている透過光強度(F)から、吸光度(log(F/H))を計算する。この吸光度(log(F/H))は、発色度合bとして前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS25へ移行する。
【0038】
薬液の薬注量の計算
ステップS25において、プログラムは、第一発光素子13を消灯するとともに、ステップS21で求められた発色度合aと前記多項回帰式1に基づいて、前記演算部29で、被測定水に対して薬注された薬液の薬注量を判定する。この薬液の薬注量は前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS26へ移行する。
【0039】
直線回帰分析
ステップS26では、ステップS25で求められた薬液の薬注量、あらかじめ前記ROM32に記憶された前記多項回帰式2および前記多項回帰式3に基づいて、前記演算部29で、前記基準水中の酸消費量(pH4.8)と、525nmにおける呈色反応液の吸光度,すなわち発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を判定する。この直線回帰式は前記RAM33に記憶され、プログラムは、ステップS27へ移行する。
【0040】
酸消費量(pH4.8)の判定
ステップS27では、ステップ24で求められた発色度合bとステップ26で求められた直線回帰式に基づいて、前記演算部29で被測定水中の酸消費量(pH4.8)を判定する。続いて、ステップS28では、その判定された測定値を前記LCD35に表示する。そして、プログラムは、ステップS3へ戻る。
【0041】
以上説明したように、この実施形態によれば、呈色反応液の470nm(等吸収点)と525nm(測定波長)における吸光度を測定することで、被測定水中の酸消費量(pH4.8)を精度良く求めることができる。この結果、とくに白動化された酸消費量測定装置において、測定値の信頼性を確保することができる。
【0042】
上述した実施形態では、測定精度を高めるため、近似式1,2および3として多項回帰式1,2および3を用いているが、たとえば直線回帰分析により求めた直線回帰式を用いてもよい。また、被測定水に対する薬液の薬注量を求めるために呈色反応液の等吸収点における発色度合に吸光度を用いたが、吸光度に代えて透過率を用いることもできる。この場合、基本データとして、後述する図6の吸収スペクトルに代えて透過率スペクトルを測定するようにすればよい。
【0043】
また、上述した実施形態では、被検成分濃度の測定装置として、酸消費量測定装置を例に挙げて説明したが、本発明は酸消費量測定装置以外にも、たとえば硬度測定装置にも同様に適用することができる。この場合、硬度成分を含有する基準水に対する薬液の薬注量が同じ場合、前記硬度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用いる必要があるが、例えば軟水装置を通過後の処理水中の硬度を測定する硬度測定装置に適用する場合、呈色試薬としてエリオクロムブラックTを含む公知の薬液を用いればよいし、軟水装置へ供給前の原水中の硬度を測定する硬度測定装置に適用する場合、呈色試薬としてカルマガイトを含む公知の薬液を用いればよい。
【実施例】
【0044】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0045】
1−1.酸消費量(pH4.8)が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の吸収スペクトル
9.2ppm,48.8ppmおよび119.7ppmの酸消費量(pH4.8)を有する3種類の基準水と表1に記載した薬液を調製した。そして、各基準水4.5ミリリットルに対して前記薬液を1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットル撹拌しながら添加し、室温で1分間静置して呈色反応を完結させたのち、発色した呈色反応液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。つぎに、前記分光光度計用セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、25℃における波長400〜650nmの吸収スペクトルを測定した。結果を図6に示す。図6より、同一の薬注量では、基準水中の酸消費量(pH4.8)によらず、470nm付近に等吸収点を有すること、等吸収点における吸光度は薬注量が増えると大きくなることが分かった。
【0046】
【表1】
【0047】
1−2.多項式回帰分析1
図6の吸収スペクトルのうち、470nmにおける吸光度の平均値を各薬注量について求めると、薬注量が1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットルのとき、吸光度はそれぞれ0.953,1.215および1.440を示した。そこで、吸光度を独立変数α,薬注量を従属変数βとして多項式回帰分析を行い、2次の多項回帰式を求めると、近似式1:β=0.408+0.541α+0.633α2が得られた。この近似式1を用いれば、実際の測定プロセスにおいて、470nmにおける呈色反応液の吸光度から、被測定水に薬注された薬液の薬注量を求めることができる。
【0048】
1−3.直線回帰分析1
図6の吸収スペクトルのうち、525nmにおける吸光度を横軸に、そのとき用いた基準水中の酸消費量(pH4.8)を縦軸にとり、各薬注量についてプロットするとともに、各データを直線回帰分析することで直線回帰式を求めた。得られた直線回帰式は、図7に示すように、良好な直線性を示した。
【0049】
1−4.多項式回帰分析2
図7に示した3つの直線回帰式の傾きを各薬注量について求めると、薬注量が1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットルのとき、傾きはそれぞれ、−262.305,−271.048および−314.748を示した。そこで、薬注量を独立変数β,傾きを従属変数γとして多項式回帰分析を行い、2次の多項回帰式を求めると、近似式2:γ=−445.808+227.202β−69.911β2 が得られた。
【0050】
1−5.多項式回帰分析3
図7に示した3つの直線回帰式の切片を各薬注量について求めると、薬注量が1.5ミリリットル,2.0ミリリットルおよび2.5ミリリットルのとき、切片はそれぞれ、231.720,315.959および440.715を示した。そこで、薬注量を独立変数β,切片を従属変数δとして多項式回帰分析を行い、2次の多項回帰式を求めると、近似式3:δ=222.113−115.149β+81.036β2が得られた。
【0051】
被測定水の測定時には、前記近似式1と470nmにおける呈色反応液の吸光度から、被測定水に薬注された薬液の薬注量βを求め、該薬液の薬注量βを前記近似式2および前記近似式3に代入すれば、前記近似式2の傾きγおよび前記近似式3の切片δが求まる。すなわち、上記の計算を行なうことにより、基準水中の酸消費量(pH4.8)(縦軸)と525nmにおける吸光度(横軸)との関係を示す、薬液の薬注量βに対応した直線回帰式を求めることができる。そして、得られた直線回帰式と525nmにおける呈色反応液の吸光度から、被測定水中の酸消費量(pH4.8)を求めることができる。
【0052】
2.硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(1)
硬度が0ppm,2ppm,5ppmで、酸消費量(pH4.8)が0ppm,180ppm,450ppmの組み合わせからなる計9種類の基準水、および呈色試薬としてエリオクロムブラックTを含む薬液(表2参照)をそれぞれ調製した。そして、各基準水4.5ミリリットルに対して前記薬液を20マイクロリットル,30マイクロリットルおよび40マイクロリットル撹拌しながら添加し、室温で1分間静置して呈色反応を完結させたのち、発色した呈色反応液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。つぎに、前記分光光度計用セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、25℃における波長450〜750nmの透過率スペクトルを測定した。結果を図8〜図10に示す。図8〜図10より、同一の薬注量では、基準水中の硬度および酸消費量(pH4.8)によらず、580nm付近に等吸収点を有すること、等吸収点における透過率は薬注量が増えると小さくなることが分かった。
【0053】
【表2】
【0054】
3.硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(2)
0ppm,20ppm,40ppm,60ppm,80ppmおよび100ppmの硬度を有する6種類の基準水、および呈色試薬としてカルマガイトを含む薬液(表3参照)をそれぞれ調製した。そして、各基準水100重量部に対して前記薬液2.0重量部および4.0重量部を撹拌しながら添加し、室温で1分間静置して呈色反応を完結させたのち、発色した呈色反応液のうち、4ミリリットルを分光光度計用セルに移した。つぎに、前記分光光度計用セルを分光光度計(株式会社日立製作所製U−2010,石英セル長:10mm)にセットし、25℃における波長400〜800nmの透過率スペクトルを測定した。結果を図11と図12に示す。図11および図12より、同一の薬注量では、基準水中の硬度によらず、560nm付近に等吸収点を有すること、等吸収点における透過率は薬注量が増えると小さくなることが分かった。
【0055】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】酸消費量測定装置の概略構成を示す縦断面図。
【図2】酸消費量測定装置における制御器の概略構成を示すブロック図。
【図3】酸消費量測定装置の動作を示すフローチャート。
【図4】酸消費量測定装置の動作を示すフローチャート。
【図5】酸消費量測定装置の動作を示すフローチャート。
【図6】酸消費量が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の吸収スペクトル。
【図7】図6の吸収スペクトルのうち、525nmにおける吸光度(横軸)と基準水中の酸消費量(pH4.8)(縦軸)を各薬注量についてプロットして得られた直線回帰式。
【図8】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量20マイクロリットル)。
【図9】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量30マイクロリットル)。
【図10】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量40マイクロリットル)。
【図11】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量2.0%)。
【図12】硬度が異なる基準水を用いたときの呈色反応液の透過率スペクトル(薬注量4.0%)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定水と、呈色試薬を含有する薬液とを反応させ、得られた呈色反応液の発色度合を検出することで被測定水中の被検成分濃度を測定するにあたり、
被検成分を含有する基準水に対する前記薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用い、
あらかじめ、前記基準水に対する前記薬液の薬注量と、前記等吸収点における前記呈色反応液の発色度合との関係を示す近似式1と、
前記基準水中の被検成分濃度と、測定波長(前記等吸収点における波長を除く)における呈色反応液の発色度合との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、
前記直線回帰式の傾きと前記薬液の薬注量との関係を示す近似式2と、
前記直線回帰式の切片と前記薬液の薬注量との関係を示す近似式3と、を設定し、
被測定水の測定プロセスにおいて、前記等吸収点における呈色反応液の発色度合aおよび前記測定波長における呈色反応液の発色度合bを測定し、
前記発色度合aと前記近似式1から、被測定水に対する薬液の薬注量を求め、
前記薬注量,前記近似式2および前記近似式3から、前記基準水中の被検成分濃度と、前記測定波長における呈色反応液の発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求め、
該直線回帰式と前記発色度合bから、前記被測定水中の被検成分濃度を求めることを特徴とする、被測定水中の被検成分濃度の測定方法。
【請求項2】
前記被検成分がアルカリ成分であり、前記呈色試薬がメチルオレンジである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記被検成分が硬度成分であり、前記呈色試薬がエリオクロムブラックTまたはカルマガイトである、請求項1記載の方法。
【請求項1】
被測定水と、呈色試薬を含有する薬液とを反応させ、得られた呈色反応液の発色度合を検出することで被測定水中の被検成分濃度を測定するにあたり、
被検成分を含有する基準水に対する前記薬液の薬注量が同じ場合、前記被検成分濃度によらず、得られた呈色反応液の発色度合が一定値を示す等吸収点を有し、かつ前記薬液の薬注量に対応して前記等吸収点における呈色反応液の発色度合が変化する反応系を用い、
あらかじめ、前記基準水に対する前記薬液の薬注量と、前記等吸収点における前記呈色反応液の発色度合との関係を示す近似式1と、
前記基準水中の被検成分濃度と、測定波長(前記等吸収点における波長を除く)における呈色反応液の発色度合との関係を示す直線回帰式を、前記基準水に対する前記薬液の薬注量を変えて複数求め、該複数の直線回帰式から、
前記直線回帰式の傾きと前記薬液の薬注量との関係を示す近似式2と、
前記直線回帰式の切片と前記薬液の薬注量との関係を示す近似式3と、を設定し、
被測定水の測定プロセスにおいて、前記等吸収点における呈色反応液の発色度合aおよび前記測定波長における呈色反応液の発色度合bを測定し、
前記発色度合aと前記近似式1から、被測定水に対する薬液の薬注量を求め、
前記薬注量,前記近似式2および前記近似式3から、前記基準水中の被検成分濃度と、前記測定波長における呈色反応液の発色度合との関係を示す、前記薬液の薬注量に対応した直線回帰式を求め、
該直線回帰式と前記発色度合bから、前記被測定水中の被検成分濃度を求めることを特徴とする、被測定水中の被検成分濃度の測定方法。
【請求項2】
前記被検成分がアルカリ成分であり、前記呈色試薬がメチルオレンジである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記被検成分が硬度成分であり、前記呈色試薬がエリオクロムブラックTまたはカルマガイトである、請求項1記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−82934(P2008−82934A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264580(P2006−264580)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】
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