説明

被膜形成性フッ素樹脂組成物

【課題】 複写機やプリンターなどの定着ロール・ベルトや加圧ロール・ベルトなどの基材の被膜形成に好適な、耐熱性と非粘着性を保ちつつ柔軟性を有するフッ素樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 パーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニル成分を3〜15mol%含有するテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルとの共重合体樹脂に、リン酸基を含有するフッ素樹脂を該共重合体樹脂に対して80〜30重量%混合したフッ素樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と非粘着性を保ちつつ、柔軟性を有するフッ素樹脂被膜形成性フッ素樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、複写機やプリンターなどのロール用に好適な被膜形成性フッ素樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機などの定着装置に用いられるローラとして、従来から主としてゴムローラが採用されている。こうしたゴムローラは、その表面にシリコンコーティング、或いはフッ素樹脂塗料によるコーティングが施されていたが、これらは耐久性の面で問題があった。
【0003】
基材にPFA樹脂などのフッ素樹脂の被膜を形成しようとすると、従来のPFA樹脂では十分な接着強度が得られず、また塗装する為の焼成温度にエラストマーが耐えられず劣化してしまうという問題があった。そこでPFA樹脂チューブを、シリコン系接着剤を用いてゴムロールに被覆する試みがなされているが、接着剤の耐熱性が乏しく高い温度での使用が困難であった。
【0004】
フッ素樹脂に接着性を与えて被膜を形成させる方法として、特表2002−514181号公報には、リンを含有するフッ素化されたビニルエーテル類から誘導されたユニットを含むフルオロポリマー、及びそれと非官能性フルオロポリマーとの組成物が提案されている。
【0005】
また、特許第2882579号公報には、フルオロポリマーのコアに官能基モノマーの共重合単位を含有するフッ素置換共重合体のシェルを持たせた、接着性を有するコア/シェル構造のフルオロポリマーが提案されている。
【0006】
しかしながら、従来提案のフッ素樹脂を、ゴムロールの被覆に用いても、なお十分な接着強度が得られず、また塗装するための焼成温度にエラストマーが耐えられず劣化してしまうという問題があった。
【0007】
本発明者は、基材と十分な接着強度を得ることができ、基材が耐えうる温度まで焼成温度を下げ、同時に使用時には十分な耐熱性を示すようなフッ素樹脂被膜を鋭意研究した結果本発明に至達した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−514181号公報
【特許文献2】特許第2882579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、複写機やプリンターなどの定着ロール・ベルトや加圧ロール・ベルトなどの基材の被膜形成に好適な、耐熱性と非粘着性を保ちつつ柔軟性を有するフッ素樹脂組成物を提供する
本発明は、基材と十分な接着強度を示し、基材が耐えうる温度で被覆ができ、使用時には十分な耐熱性を保つ被膜形成性フッ素樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明はまた、パーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニル成分を3〜15mol%含有するテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルとの共重合体樹脂に、リン酸基を含有するフッ素樹脂を該共重合体樹脂に対して80〜30重量%混合した被膜形成性フッ素樹脂組成物を提供する。
【0011】
前記リン酸基を含有するフッ素樹脂が、パーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニル成分を3〜15mol%含有する、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルと、後記式(1)で表されるリン酸二水素エステル化合物との共重合体樹脂である前記したフッ素樹脂組成物は本発明の被膜形成性フッ素樹脂組成物の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材と十分な接着強度を示し、基材が耐えうる温度で被覆ができ、使用時には十分な耐熱性を保つ被膜形成性フッ素樹脂組成物が提供される。
本発明によれば、基材が耐えうる温度で被覆ができ、基材と十分な接着強度を示し、使用時には十分な耐熱性を保つフッ素樹脂の被膜形成性組成物が提供される。
本発明によれば、エラストマーなどの柔軟性を有する基材表面に、フッ素樹脂の被膜形成することを可能とし、柔軟性とフッ素樹脂の耐薬品性、低摩擦性を兼ね備えた素材を提供することができる。
本発明は、複写機やプリンターなどの定着ロール・ベルトや加圧ロール・ベルトなどに好適に適用することができる、基材に被膜が形成された積層体および被膜形成性フッ素樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ず、本発明の官能基を含有するフッ素樹脂について説明する。
【0014】
官能基の例としては、エステル、アルコール、酸、それらの塩およびハロゲン化物、並びにシアネート、カルバメート、ニトリルなどを挙げることができる。酸としては、炭素を基とする酸、イオウを基とする酸、およびリンを基とする酸を挙げることができる。
【0015】
官能基を含有するフッ素樹脂は、たとえば重合によってフッ素樹脂を製造する際に、官能基単位を含有するペンダント型側基を有するフッ素化モノマーを共重合させることによって得ることができる。官能基を有するフッ素化モノマーの例として、特表2002−514181号公報および特許第2882579号公報に記載された官能基を有するフッ素化モノマーを挙げることができる。また、フッ素樹脂にこのような官能基を有するフッ素化モノマーを反応させて官能基を含有するフッ素樹脂を得ることもできる。
【0016】
このような官能基の好ましい例としてリンを基とする酸を、とくに好ましくはリン酸基を挙げることができる。
官能基としてリン酸基を有するフッ素化モノマーの好ましい例として、下記式(1)で表されるトリフルオロビニルエーテル基を含有するリン酸二水素エステル化合物を挙げることができる。
CF=CF(OR)CHOP(O)(OH) (1)
(式中、Rは炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基、mは1〜10の整数を表す。mが2以上であるとき、Rはそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。)
式(1)中、Rは炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基であるが、中でもフッ素化アルキレン基であることが好ましい。
【0017】
上記式(1)において、(OR)が下記の基である化合物は、本発明のトリフルオロビニルエーテル基含有リン酸二水素エステル化合物の好ましい例である。
(OCFCF(CF))(O(CFCF(CH
ただし、xは1〜3の整数、yは0〜3の整数、nは0〜3の整数、rは0〜3の整数を表す。yが2以上の数であるとき、nおよびrはそれぞれ同じでも、異なっていてもよい。
【0018】
式(1)で表される化合物の具体例として、リン酸二水素2,2,3,3,5,6,6,8,9,9-デカフルオロ−5−トリフルオロメチル−4,7−ジオキサノナ−8−エン−1−イル(EVE−P)、リン酸二水素2,2,3,3,4,4,6,7,7−ノナフルオロ−5−オキサヘプタ−6−エン−1−イルなどを挙げることができる。
【0019】
本発明において、フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン(TFE)と少なくとも1種のフッ素置換コモノマーとを、従来公知の方法で共重合させて得ることができる共重合体類であることが好ましい。フッ素置換コモノマー類としては、炭素原子数が3−8のパーフルオロアルキルビニル類、およびアルキル基の炭素原子数が1−5のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)類を挙げることができる。TFEとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合体樹脂(PFA樹脂)またはTFEとパーフルオロアルキルビニル類との共重合体樹脂が好ましいフッ素樹脂である。
【0020】
フッ素置換コモノマーとしては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好適である。中でもパーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が特に好ましい。
【0021】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂は、重合によってフッ素樹脂を製造する際に、前記した官能基単位を含有するフッ素化モノマーを共重合させることによって得ることが好ましい。前記官能基を有するフッ素化モノマーと、TFEと少なくとも1種のフッ素置換コモノマーとを、従来公知の方法で共重合させて得られる共重合体類であることが好ましい。
フッ素置換コモノマーとしては、前記したものを挙げることができ、パーフルオロアルキルビニルエーテルおよびパーフルオロアルキルビニルが特に好ましい。
【0022】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂の融点は200〜300℃、好ましくは220〜280℃であることが好ましい。
【0023】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂が、TFE、フッ素置換コモノマーと官能基を有するフッ素化モノマーとの共重合体である場合、フッ素置換コモノマーとしてのパーフルオロアルキルビニルエーテルおよびパーフルオロアルキルビニルの量は、共重合体に対して3〜15mol%、好ましくは5〜12mol%であることが望ましい。パーフルオロアルキルビニルエーテルおよびパーフルオロアルキルビニルの量が、上記範囲にあるとき官能基を含有するフッ素樹脂の融点を200〜300℃とすることができるので本発明の好ましい態様である。
また、官能基を有するフッ素化モノマー単位の量は、共重合体に対して0.02〜5モル%、好ましくは0.1〜2.5モル%であることが望ましい。
【0024】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂は、前記した官能基を含有するフッ素樹脂と官能基を持たないフッ素樹脂の組成物であってもよい。
官能基を含有するフッ素樹脂と官能基を持たないフッ素樹脂との組成物は、官能基の含有量を容易にかつ任意に調整することができるので、本発明の官能基を含有するフッ素樹脂の好ましい態様である。
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂は、官能基を含有するフッ素樹脂と官能基を持たないフッ素樹脂との組成物をも含む意味で用いられることがある。
【0025】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂が、このような前記した官能基を含有するフッ素樹脂と官能基を持たないフッ素樹脂の混合物である場合も、その融点は、基材にフッ素樹脂の被膜を形成させるときに、基材を熱によって損傷させない焼成温度ということを考慮して200〜300℃、好ましくは220から280℃であることが好ましい。
【0026】
官能基を持たないフッ素樹脂としては、前記したフッ素樹脂から適宜選択して使用することができる。中でもTFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂またはTFE/パーフルオロアルキルビニル共重合体樹脂が好ましい。
【0027】
フッ素樹脂をTFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂またはTFE/パーフルオロアルキルビニル共重合体樹脂であって、そのアルキルビニルエーテルまたはアルキルビニル成分の割合を共重合体樹脂に対して3〜15mol%、好ましくは5〜12mol%である共重合体は、望ましい融点を有するという観点から好ましい。したがって、アルキルビニルエーテルまたはアルキルビニル成分を3〜15mol%含有する、TFEとパーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルとの共重合体樹脂は、本発明のフッ素樹脂の好ましい態様である。
【0028】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂が、前記した官能基を含有するフッ素樹脂と官能基を持たないフッ素樹脂の組成物である場合、官能基を含有するフッ素樹脂は、組成物に対して100〜10重量%、好ましくは80〜30重量%の割合で混合されていることが望ましい。フッ素樹脂と官能基を含有するフッ素樹脂の混合は、従来公知の方法によって行うことができる。
【0029】
また、フッ素樹脂と官能基を含有するフッ素樹脂の混合を、特許第2882579号公報に記載されているようなコア/シェル構造を有する粒子とすることによって混合することもできる。このようなコア/シェル構造を有する粒子にすると、フッ素樹脂のコアに官能基を含有するフッ素樹脂のシェルを持たせたコア/シェル構造粒子となる。
【0030】
このようなコア/シェル構造を有する粒子は、フッ素樹脂を製造する重合過程を通して製造することができる。より具体的に説明すれば、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルキルビニルエーテルおよびパーフルオロアルキルビニルなどのフッ素置換コモノマーを共重合させてフッ素樹脂をコアとして製造し、その共重合の終了に近い段階で前記官能基を有するフッ素化モノマーを添加してさらに共重合させることによって、この官能基を有するフッ素化モノマーを含むシェルを有するポリマー粒子を生じさせることができる。このような共重合は分散重合、乳化重合および懸濁重合によって行うことができる。
【0031】
このようにして得られるコア/シェル構造を有する粒子も、本発明の官能基を含有するフッ素樹脂の好ましい態様である。重合によってコア/シェル構造を有する粒子を製造するとき、製造したフッ素樹脂と官能基を含有するフッ素樹脂の量は、重合したモノマーの量から算出することができる。
また、コア/シェル構造を有する粒子全体の組成と含有量は19F−NMRで、融点はDSCによってそれぞれ測定することができる。
【0032】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂は、好適な被膜形成性フッ素樹脂である。
特にパーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニル成分を3〜15mol%含有するTFEとパーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルとの共重合体樹脂に、リン酸基を含有するフッ素樹脂を、該共重合体樹脂を混合物に対して80〜30重量%混合した、官能基を有するフッ素樹脂組成物は、本発明の好ましい被膜形成性フッ素樹脂である。
【0033】
また、上記被膜形成性フッ素樹脂において、リン酸基を含有するフッ素樹脂が、パーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニル成分を3〜15mol%含有する、TFEと、パーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルと、上記式(1)で表されるリン酸二水素エステル化合物との共重合体樹脂であるフッ素樹脂組成物は、本発明の被膜形成性フッ素樹脂のより好ましい態様である。
【0034】
本発明の被膜形成性フッ素樹脂を用いることによって、エラストマーなどの基材を過熱による損傷なしにフッ素樹脂を被覆することが可能となり、さらに使用時において十分な耐熱性を持った被膜を形成させることが可能となった。
【0035】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂によって、表面に被膜を形成させる基材の材質は特に制限されるものではないが、通常ポリマーであることが好ましく、特にはエラストマーであることが好ましい。本発明の被膜形成性フッ素樹脂によれは、基材が柔軟性を有する場合、その上に薄い被膜を形成できるので、基材の柔軟性を損なうことなくフッ素樹脂の被覆が可能となる。
【0036】
本発明によれば、基材に耐熱性と非粘着性を保ちつつ、柔軟性を付与されたフッ素樹脂の被膜を形成させることができるので、柔軟性を有する基材、好ましくは柔軟性を有するエラストマー基材に好適に適用することができる。このようなエラストマーの例として、シリコンゴムを挙げることができる。
【0037】
また、基材の形状にも特に制限はない。基材がロールを構成する物質であるときは、円筒状であっても、ローラの一部の形状である筒状であってもよい。また基材がシート状であっても、一定形状に成形された成形品であってもよい。
【0038】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂は、金属酸化物を含有させたゴムローラ形状の基材に特に好適に適用される。
【0039】
本発明の官能基を含有するフッ素樹脂の被膜を基材上に形成させる方法としては、従来公知の種々の様式を採用することができる。例えば、フッ素樹脂を粒子または粒子凝集物として適当な場所に散布するか分散液またはスラリー状として表面に塗布してもよい。この際結合剤または他の目的で他の粉末または液体と一緒に混合することもできる。また、静電噴霧または流動床コーティングなどの粉末コーティング技術を用いることも可能である。そして通常はフッ素樹脂粒子の溶融温度より高い温度に加熱(通常は圧力をかけて)して基材とに密に接触したフッ素樹脂被膜を形成させる。
【0040】
基材には金属酸化物を含有させる。含有させられる金属酸化物としては周期率表第III〜VIII族金属の酸化物が好ましい。金属酸化物の例として、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化ビスマス、酸化モリブデン、酸化鉄、酸化ニッケルなどを挙げることができるが、中でも好ましいのは、酸化チタン、酸化鉄である。特に好ましい金属酸化物として酸化鉄を挙げることができ、その中でもベンガラ(Fe)が好ましい。
【0041】
本発明において、官能基を含有するフッ素樹脂は、金属酸化物と相互作用する結果、フッ素樹脂と基材の間に十分な接着強度が生じると考えられる。
【0042】
本発明は、耐熱性と非粘着性を保ちつつ柔軟性を有するフッ素樹脂を被覆できるので、複写機やプリンターなどの定着ロール・ベルトや加圧ロール・ベルトなどに好適に適用することができる。
【0043】
本発明において、金属酸化物を含有させた基材上に官能基を含有するフッ素樹脂被膜を形成させた積層体の外面に、さらにフッ素樹脂の層を形成させることができる。こうしてできた積層体は、官能基を含有するフッ素樹脂層が、基材との間に十分な接着強度を有するので、層間接着性が良好な積層体となる。基材上に官能基を含有するフッ素樹脂被膜層を介してフッ素樹脂層が形成された積層体は、本発明の好ましい実施態様例の一つである。
【0044】
基材がローラである場合、ローラ上に官能基を含有するフッ素樹脂被膜層を介してフッ素樹脂層が形成された積層体は、高温で使用することができるローラであるので、複写機などのローラとして好適に使用することができる。
【0045】
ローラ上に官能基を含有するフッ素樹脂被膜層を介してフッ素樹脂層を形成させる方法としては、ローラ上に官能基を含有するフッ素樹脂被膜を形成させたのち、フッ素樹脂チューブを被覆する方法、フッ素樹脂チューブの内面に官能基を含有するフッ素樹脂塗膜を形成させ、それをローラ上に被覆する方法、フッ素樹脂チューブを押出成形法で製造する際に、共押出法によってチューブの内面に官能基を含有するフッ素樹脂層を形成させ、それをローラ上に被覆する方法などが挙げられる。
【0046】
上記のように。官能基を含有するフッ素樹脂は、金属酸化物と相互作用する結果、フッ素樹脂と基材の間に十分な接着強度を有すると同時に、フッ素樹脂と親和性を有するので、フッ素樹脂被覆の際のプライマーとしての役割を果たす。
【実施例】
【0047】
次に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0048】
(実施例1〜4、比較例1)
官能基を含有するフッ素樹脂の水性ディスパージョンの製造:
容積4L,横型攪拌羽根付きの清浄なステンレス製重合器を用いた。パーフルオロオクタン酸アンモニウム(C−8)4.9gを加えた純水2.2Lを仕込み、系内から酸素を取り除いた後、合成器内温度を85℃に安定化させた。系内にエタンを0.03MPa差圧で加え、次にプレチャージ分としてパーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)を104g加え、テトラフルオロエチレン(TFE)で2.06MPaに加圧した。ここにAPS69mgを水に溶かして加えた。圧力が0.03MPa低下したところから、TEEで2.06MPaに保ちつつAPSとPEVEを重合器に連続的に注入しながら重合を行わせた。 重合は温度85℃一定、2.06MPa圧力一定のもとで行わせ、110分経過後、リン酸二水素2,2,3,3,5,6,6,8,9,9-デカフルオロ−5−トリフルオロメチル−4,7−ジオキサノナ−8−エン−1−イル(EVE−P)5重量%水溶液を26ml/min.の速度で10分間加えた。EVE−P水溶液を加え終わると同時に攪拌を止め、反応終了とした。反応中に追加したAPSは100mg、PEVEは84gであった。重合器を真空引きして重合残ガスを除いた後、重合器を開け、約30重量%の固形分を含む白濁分散液を得た。
この白濁分散液に含まれる固体を凍結凝集させた後に水およびアセトンで洗浄し、乾燥して白色固体を得た。この固体を19F−NMRで分析した結果、PEVEを12重量%、EVE−Pを0.6重量%含んでいた。また、DSCによる第一融点は269℃、第二融点は257℃であった。
【0049】
エラストマー(ゴム)基材片の作成
原材料:
A: SE1700クリヤ 東レーダウコーニングシリコン(株)製
B: SE1700 東レーダウコーニングシリコン(株)製
C: ベンガラ 100ED大日精化(株)製
まず原材料AにCを表1に示した割合で均一に混合し、ついで表1の割合となるようBを添加して混合した。できあがったものを2枚のFEPフィルムで両面をはさみ、これを2枚の金属板ではさみ、約0.5kg/cmの圧力をかけた後、120℃で30分加熱してゴム基材片を得た。
【0050】
プライマーの作成
前記本発明のフッ素樹脂水性ディスパージョン、界面活性剤及び増粘剤、次に示す割合で均一混合した後、300メッシュのSUS網で濾過して、ゴム用フッ素樹脂水性プライマーを得た。
重量比:
本発明のフッ素樹脂水性ディスパージョン………………………………90.4部
界面活性剤……………………………………………………………………1.6部
メチルセルロース水溶液(メチルセルロース 重量4.8%)………8.0部
【0051】
試験板の作成
上記調製されたプライマーを、通常の塗装方法(例えば噴霧塗装、浸漬など)により、上記作成されたゴム基材片の表面に3〜5μmの膜厚で、塗布し、乾燥した。次に、乾燥した表面上に、フッ素塗料を通常の方法により塗布、乾燥し、引き続き300℃で30分間加熱して塗膜を得た。
【0052】
接着性試験
上記で得られたそれぞれの塗膜を、「最新フッ素ポリマーコーティング加工技術(エポテック株式会社、平成元年刊)」239ページに記載されている剥離試験法に基づき、試験巾10mm、引張り速度約50mm/minで、90度剥離試験を行った。剥離場所はゴム層とプライマーの間であったものを「不合格」とし、ゴム層破壊より強い接着力が出たものを「合格」とし、剥離強度及び剥離場所と共に表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例5)
上記と同様に調整したプライマーを通常の塗装方法(例えば噴霧塗装、浸漬など)により、実施例1と同様に作成されたゴム基材片の表面に3〜5μmの膜厚で、塗布し、乾燥した後、300℃で30分間加熱して塗膜を得た。この塗膜を「最新フッ素ポリマーコーティング加工技術(エポテック株式会社、平成元年刊)」236ページに記載されている碁盤目試験法に基づいて評価した。その結果剥離は認められなかった。
【0055】
(実施例6)
上記と同様に調整したプライマーを、ベンガラを含有したシリコンゴムロールに塗装して乾燥した後、PFA樹脂製の熱収縮チューブをかぶせ、加熱溶着した被覆を形成した。その被覆に10mmの傷をつけ、手でゆっくり引っ張って簡易剥離試験を行ったところ、ゴム層の破壊が起こり、良好な接着性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、基材と十分な接着強度を示し、基材が耐えうる温度で被覆ができ、使用時には十分な耐熱性を保つ被膜形成性フッ素樹脂組成物が提供される。
本発明により、基材が耐えうる温度で被覆ができ、基材と十分な接着強度を示し、使用時には十分な耐熱性を保つフッ素樹脂の被膜を形成する被膜形成が可能となる。
本発明により、エラストマーなどの柔軟性を有する基材表面に、柔軟性とフッ素樹脂の耐薬品性、低摩擦性を兼ね備えたフッ素樹脂の被膜を形成させた素材を提供することが可能となる。
本発明により、基材上に、柔軟性とフッ素樹脂の耐薬品性、低摩擦性を兼ね備えたフッ素樹脂の被膜を形成させた積層体を提供することが可能となる。
本発明により、エラストマーなどの柔軟性を有する基材表面に、柔軟性とフッ素樹脂の耐薬品性、低摩擦性を兼ね備えたフッ素樹脂の被膜を形成させた素材を提供することが可能となる。
本発明により、耐熱性と非粘着性を保ちつつ柔軟性を有するフッ素樹脂が被覆された、複写機やプリンターなどのすぐれたゴムロールが提供される。
本発明により、金属酸化物を含有された基材と、その上に形成させた官能基を含有するフッ素樹脂被覆層と、さらに外面にフッ素樹脂が設けられている積層体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニル成分を3〜15mol%含有するテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルとの共重合体樹脂に、リン酸基を含有するフッ素樹脂を該共重合体樹脂に対して80〜30重量%混合したフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記リン酸基を含有するフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/トリフルオロビニルエーテル基含有リン酸二水素エステル化合物/フッ素含有コモノマー共重合体である請求項1に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記トリフルオロビニル基含有リン酸二水素エステル化合物が、下記式(1)で表されるリン酸二水素エステル化合物である請求項2に記載のフッ素樹脂組成物。
CF=CF(OR)(CH)OP(O)(OH) (1)
(式中、Rは炭素数1〜20のフッ素化炭化水素基、mは1〜10の整数を表す。mが2以上であるとき、Rはそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記フッ素含有コモノマーがパーフルオロアルキルビニルエーテルまたはパーフルオロアルキルビニルである請求項2または3に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記パーフルオロアルキルビニルエーテル成分またはパーフルオロアルキルビニル成分を3〜15mol%含有することを特徴とする請求項4に記載のフッ素樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−185301(P2009−185301A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120824(P2009−120824)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【分割の表示】特願2004−22915(P2004−22915)の分割
【原出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】