説明

被覆された超硬合金エンドミル

【課題】HRCが46を超える硬化鋼の半仕上げと仕上げを行なうために基板と耐摩耗性被膜を備える超硬合金エンドミル工具を提供する。
【解決手段】基板aは、90〜94重量%のWCを、CrをCr/Coの重量比が0.05〜0.18となる量で含む結合相の中に含有している。耐摩耗性被膜bは厚さが1.8〜9.5μmであり、AlMe(ただしMeはZr、V、Nb、CrまたはTi)の窒化物または炭窒化物の厚さ1.0〜4.5μmの第1の層cと、PVDによって堆積させた硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるAlMeの窒化物または炭窒化物の厚さ0.5〜4.5μmの第2の層dと、第1の層cと第2の層dの間にあって、AlMeの窒化物または炭窒化物からなり厚さ0.05〜1.0μmの低Al層eとを備えていて、この低Al層eの厚さは、第1の層cと第2の層dのうちの薄いほうの厚さの0.95倍未満になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の切削工具に関する。より詳細には、本発明は、硬化鋼を半仕上げ機械加工および仕上げ機械加工するためのPVDで被覆された超硬合金エンドミルに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼を機械加工して切屑を形成するとき、大きな生産性(すなわちより大きな切削速度と送り速度に加えて工具のより長い寿命)が必要とされるため、工具の性質に対する要求は厳しい。鋼からなる工作物は、硬化させると、通常は硬度がHRC46〜55になるが、硬度の値がHRC63またはそれ以上になることさえある。硬化鋼の半仕上げ作業または仕上げ作業では、いわゆる超硬工具が使用される。このような工具は、例えば円筒形の未完成超硬合金を研磨して望む形状の基板にすることによって、または望む形状の未完成品を押し出した後、例えば物理蒸着(PVD)を利用して被覆することによって製造される。超硬工具の非常に一般的な1つの用途は、部品、ダイス、鋳型のエンドミル削りだが、工具の等級が1つだけだと硬度の全範囲を覆うことは通常は不可能である。
【0003】
硬化鋼のエンドミル削りによって大量の熱が発生し、その結果として切削エッジが高温になる。機械加工された部品の形状は、柄の張り出しが大きいことが非常にしばしばある。この両方の因子があるため、実現される高温で著しく柔らかくならず、しかも工具のたわみが無視できる程度の剛性がある硬い等級の超硬合金を使用する必要がある。しかしより硬い等級が必要であることを、その結果として全体的な耐久性が低下することと釣り合わせねばならない。一般的な機械加工では、典型的な基板の硬度はHV3:1600よりも小さいのに対し、硬い部品の機械加工では、典型的なHV3値は1700から1800を超えるまでになる。ここでの深刻な問題は、基板が脆いために研磨して鋭らせた切削エッジの割れの問題が発生することである。これは、標準的なPVD被膜によって容易に解決することはできない。機械加工によって被膜に生じるあらゆるひびは、被膜の厚み全体に伝播する傾向がある。これらのひびは、基板との境界において基板のバルク破断につながるひび開始点となる可能性がある。
【0004】
エンドミル削りを用途とする等級の超硬合金は、一般に、γ相のWC微粒子は、一般にTiC、NbC、TaC及びWCである固体溶液、一般にCoまたはNiである結合相を含んでいる。粒径が1μm未満と細かい超硬合金は、粒子成長阻害物質例えばV、Cr、Ti、Ta及びこれらの組み合わせを最初の粉末混合物に組み込むことによって製造する。阻害物質の典型的な添加量は、結合相の0.5〜5重量%である。それに加え、粗い粒子をさらに制限するには、焼結温度が約1350〜1390℃と低くなければならない。粒径が0.6μmの焼結基板を作るには、WC粉末は実質的により細かくて、一般に0.2〜0.3μmである。
【0005】
エンドミルのためのPVD被膜は、例えば、硬度と耐摩耗性が大きな(Ti、Al)N単層である。被膜が成長している間に被膜にイオンを密に衝突させることにより、PVD層の残留圧縮応力の水準が高くなり、少なくとも2000MPa程度になる。この値は、通常は3000MPaよりも大きい。圧縮応力は、一般に利点であると考えられている。なぜなら、被膜にひびが入るには工具に対する大きな力学的負荷が必要とされるからである。しかしそれと同時に、応力が大きいことと、被膜の接着が制限されることが原因で、被膜の最大の厚さを約3μmにすることが要請される。
【0006】
工具の耐久性の向上は、例えばヨーロッパ特許第983393号に開示されている非周期的TiN+(Ti、Al)N多層を用いて実現することができる。この多層では、Alの平均含有量が単層被膜の場合よりも少ないために耐摩耗性が低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の1つの目的は、硬度がHRC・46〜63とそれ以上の鋼の半仕上げと仕上げにとって特に有用な耐久性とエッジの安全性を犠牲にすることなく耐摩耗性を向上させた、被覆された超硬合金エンドミルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、粒径が小さなWC+Co基板と、最適な耐摩耗性と向上した切削エッジの耐久性を層構造によって実現するPVD被膜とからなる超硬合金インサートを提供することによって解決される。
【0009】
驚くべきことに、残留圧縮応力が大きい2つの高Al含有(Ti、Al)N層の間に、実質的に応力がないという予想外の性質を持つ低Al含有(Ti、Al)N層を挟むことにより、エッジの切欠けが抑制されることが見いだされた。したがってより硬い等級の基板とより厚い被膜を使用することが可能になり、そのおかげで耐摩耗性がより優れた被膜が可能になる。
【0010】
本発明によれば、HRCが46〜63とそれ以上である硬化鋼の半仕上げ機械加工と仕上げ機械加工を行なうために超硬合金基板と耐摩耗性被膜を備える被覆された超硬エンドミルであって、
‐基板(a)は、Cr/Coの重量比が0.05〜0.18、好ましくは0.06〜0.16、より好ましくは0.07〜0.15、最も好ましくは0.075〜0.13となる量にCrを含んでいるCoの結合相の中に、90〜94重量%、好ましくは91〜93重量%のWCを、含有していて、飽和保磁力が22kA/m好ましくは25〜30kA/mよりも大きく、
耐摩耗性被膜(b)は、厚さが1.8〜9.5μm、好ましくは2.5〜6.0μmであり、
硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるAlMeの窒化物または炭窒化物の第1の層(c)であり、ただしMeが、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.20〜1.50、好ましくは1.30〜1.40であり、且つ厚さが1.0〜4.5μm、好ましくは2.0〜3.0μmの第1の層(c)と、
硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるAlMeの窒化物または炭窒化物の第2の層(d)であり、ただしMeは、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.30〜1.70、好ましくは1.50〜1.60であり、且つ厚さが0.5〜4.5μm、好ましくは1.0〜2.0μmの第2の層(d)と、
第1の層と第2の層の間にあって、AlMeの窒化物または炭窒化物であり、ただしMeが、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が0〜0.3、好ましくは0〜0.05であり、且つ厚さが0.05〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.7μmの低Al層(e)であり、MeNからなることが最も好ましく、且つ上記低Al層(e)の厚さが、第1の層(c)と第2の層(d)のうちの薄いほうの厚さの0.95倍未満、好ましくは0.8倍未満、最も好ましくは0.5倍未満である被覆された超硬エンドミル削り用工具が提供される。
【0011】
層に含まれるMeに対するAlの原子比は、透過電子顕微鏡写真(TEM)の断面における少なくとも4つの点で平均することによって求める。
【0012】
好ましい一実施態様では、第1の層(c)と第2の層(d)の両方とも、粒径が50nm未満好ましくは40nm未満である立方岩塩構造の微結晶を含む。低Al層(e)は、微結晶の粒径が、成長方向に対して垂直な方向では40nm、好ましくは50nmよりも大きく、且つ成長方向に対して平行な方向では100nmよりも大きい。すなわちこの層(e)は柱状に成長し、最も好ましいのは厚さ全体にわたってその成長方向に延びていることである。
【0013】
X線回折法、より詳細にはsinψ法(I.C.Noyan、J.B.Cohen、『回折による残留応力の測定と解釈』、シュプリンガー・フェアラーク社、ニューヨーク、1987年、117〜130頁)を利用して残留応力を調べた。
【0014】
好ましい別の一実施態様では、第1の層(c)の残留圧縮応力は1000MPaを超えており、1800〜3500MPaであることが好ましく、第2の層(d)の残留応力は1000MPaを超えており、1800〜3500MPaであることが好ましく、低Al層(e)の残留応力、すなわち圧縮応力または引張応力の絶対値は600MPa未満であり、300MPa未満であることが好ましく、80MPa未満であることがより好ましい。
【0015】
任意に、耐摩耗性をさらに向上させるため、または外見を美しくするため、または摩耗を検出するため、第2の層(d)の上にさらに複数の層を付着させる。
【0016】
本発明はさらに、上記の組成を持つ超硬合金エンドミルの製造方法にも関する。この方法は、以下の工程、すなわち
‐炭化タングステンのサブミクロン粉末と、コバルトのサブミクロン粉末と、Cr、Cr23、Crのうちの少なくとも1つのサブミクロン粉末とを湿式磨砕してスラリーを取得する工程と、
‐そのスラリーを乾燥させて粉末を取得する工程と、
‐その粉末を圧縮してロッドにする工程と、
‐そのロッドを真空中または窒素中でヨーロッパ特許出願公開第1500713号に記載されているようにして焼結させる工程と、
‐任意に、焼結温度にしている間、または焼結の最終段階で平衡ガス圧工程を実施する工程を含んでいる。
【0017】
このようにして得られた超硬合金ロッドを無心研磨によってh6許容度の円筒形にする。切削流体のエマルジョンを用い、ダイヤモンド砥石で溝を研磨した。
【0018】
このようにして研磨した超硬エンドミル基板を湿式クリーニングする。Al/Meの原子比を望む値にするのに適した組成の複数の金属蒸着用MeAl源が、全装填物が一様に被覆されるような配置にされた反応性アーク蒸着タイプのPVD装置を利用した被覆装置の中で、基板にPVD被膜を行なう。MeAl源は、例えば3つの単一のターゲットにして、各ターゲットが全装填物を一様に被覆するように配置する。あるいは別の方法として、6つのMeAl源を対にして配置し、各対が全装填物を一様に被覆するようにできる。しかしターゲットの数や配置が異なる場合も本発明の範囲に含まれる。被覆装置を排気した後、加熱工程とプラズマ・エッチング・工程を実施する。それは、工具をより清浄にするためと、WCの表面から過剰な結合相を除去することによって工具の表面の状態を整えるためである。被覆装置(すなわち堆積過程が起こる被覆用炉または真空容器)の中で、作動させる蒸着源と蒸着速度を適切に選択し、窒素の部分圧を維持しながら金属を蒸発させることにより、耐摩耗性被膜(b)を厚さが1.8〜9.5μm、好ましくは2.5〜6.0μmに堆積させる。この耐摩耗性被膜(b)は、
処理パラメータとして、使用する装置内のアーク電流を50〜200A、好ましくは120〜160A、Nの圧力を5〜50マイクロバール、好ましくは7〜20マイクロバール、堆積温度を400〜700℃、好ましくは550〜650℃、基板のバイアスを‐150〜‐300V、好ましくは‐170〜‐230VにしてPVDによって堆積させ、硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるAlMeの窒化物またはe炭窒化物の第1の層(c)であり、ただしMeは、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.20〜1.50好ましくは1.30〜1.40である厚さ1.0〜4.5μm好ましくは2.0〜3.0μmの第1の層(c)と、
処理パラメータとして、使用する装置内のアーク電流を50〜200A、好ましくは120〜160A、Nの圧力を5〜50マイクロバール、好ましくは7〜20マイクロバール、堆積温度を400〜700℃、好ましくは550〜650℃、基板のバイアスを‐50〜‐140V、好ましくは‐80〜‐120VにしてPVDによって堆積させた硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるAlMeの窒化物または炭窒化物の第2の層(d)からなり、ただしMeは、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.30〜1.70、好ましくは1.50〜1.60であり、且つ厚さが0.5〜4.5μm、好ましくは1.0〜2.0μmの第2の層(d)と、
第1の層(c)と第2の層(d)の間に、温度を400〜700℃、好ましくは550〜650℃、Nの圧力を5〜50マイクロバール、好ましくは7〜20マイクロバール、基板のバイアスを‐30〜‐150V、好ましくは‐70〜120V、アーク電流を80〜210A、好ましくは140〜190Aにして堆積させたAlMeの窒化物または炭窒化物からなり、ただしMeは、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が0〜0.3、好ましくは0〜0.05であり、且つ厚さが0.05〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.7μmの低Al層(e)であり、MeNからなることが最も好ましい。この低Al層(e)の厚さは、第1の層(c)と第2の層(d)のうちの薄いほうの厚さの0.95倍未満、好ましくは0.8倍未満、最も好ましくは0.5倍未満である。
【0019】
被膜は、マグネトロン・スパッタリング、二重マグネトロン・スパッタリング、アーク技術のような他のPVD技術で堆積させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施例1
FSSS粒径が0.9μmの炭化タングステン粉末と、粒径が非常に細かい7重量%のコバルト粉末と、H.C.StarckのようにしてCrを添加した粒径が細かい0.7重量%のCr粉末を、従来のプレス剤とともに湿式磨砕した。磨砕し、スプレー乾燥させた後、粉末をプレスして直径6mmのロッドにし、1410℃且つ40バールのArガス圧にて焼結させた。焼結した材料は飽和保磁力が28kA/mであった。
【0021】
このようにして得られた超硬合金ロッドを無心研磨によってh6許容度の円筒形にした。切削流体のエマルジョンを用い、ダイヤモンド砥石で溝を研磨した。
【0022】
このように研磨された超硬エンドミル基板を湿式クリーニングし、以下のPVD被覆過程を実施した。6つの金属蒸着源を対にして配置し、各対が全装填物を一様に被覆するようにした反応性アーク蒸着型式のPVD装置の容器の中に基板を入れた。1つの対の蒸着源には金属Tiターゲットを、他の2つの対には、Al/Tiの原子比が2であるAlTi合金ターゲットを収容した。容器を排気した後、加熱工程とプラズマ・エッチング・工程を実施した。それは、工具をより清浄にするためと、WCの表面から過剰な結合相を除去することによって工具の表面の状態を整えるためである。被覆装置の中で、作動させる蒸着源と蒸着速度を適切に選択し、窒素の部分圧を維持しながら金属を蒸発させることにより、TiN合金層と(Ti、Al)N合金層を600℃の温度で堆積させた。この過程における堆積工程中の条件は以下の通りであった。
【0023】
【表1】

【0024】
このようにして製造し、被覆した超硬エンドミルを金属顕微鏡で分析した。エンドミルを先端から10mmの位置で切断した後、ダイヤモンド・グリットを用いて機械研磨することにより、断面を用意した。被膜と基板の典型的な断面を図3に光学顕微鏡写真として示してある。表1に示した被膜の厚さは、円筒形ランド部において、すなわちクリアランス側で、切削エッジから0.2mm以上且つ1.0mm以内の位置で測定した。
【0025】
X線回折法、より詳細にはsinψ法(I.C.Noyan、J.B.Cohen、『回折による残留応力の測定と解釈』、シュプリンガー-フェアラーク社、ニューヨーク、1987年、117〜130ページ)を利用して3つの層における残留応力を調べた。結果を表2に示してある。
【0026】
EDS分光計を取り付けた薄膜透過電子顕微鏡を用い、4つの分析点の平均としてのAl/Ti原子比と、3つの層における粒径を調べた。表2を参照のこと。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例2
実施例1からのエンドミルをテストし、予定する用途に関して市場で入手できるグレードのエンドミルと比較した。超硬鋼における耐摩耗性試験;耐摩耗性と耐久性が要求される、工程オーバーが30%の半仕上げ試験。この試験は、工作物の硬さに関して上側の範囲を示す。
【0029】
試験の型式 凹部のフライス削り、サイズ48×48mm、直径1mmのBNEを使用
工具の寿命の基準 側面摩耗の最大値が0.20mm
工作物 ウッデホルム・ヴァナディス10、 HRC・62
切削速度V(m/分) 60
刃の送りf(mm/エッジ) 0.11
噛み合わせa/a(mm) 0.3/0.3
冷却 乾式
機械 モディッヒMD・7200
【0030】
結果: 工具の寿命(分)
本発明(実施例1から) 29
市販グレード 22
【0031】
この範囲の硬さの工作物に関して最適化されている市販グレードと比べて顕著に改善されている。これは、本発明による工具の耐摩耗性が優れていることを明確に示している。
【0032】
実施例3
実施例1からのエンドミルをテストし、予定する用途に関して市場で入手できるグレードのエンドミルと比較した。この試験は、硬化鋼製ダイスにおける耐久性が要求される側フライス削り試験である。これは、非常に典型的な用途における機械加工の状況である。この試験は、工作物の硬さに関し、硬化鋼のエンドミル削りという用途での下限を示す。
【0033】
試験の型式 6つの溝がある直径10mmのコーナー・エンドミルを用いた側フライス削り
工具に対する要求 vの最大値が0.20mm
工作物 ウッデホルム・オルヴァー・シュープリーム、HRC48
切削速度V(m/分) 375
刃の送りf(mm/エッジ) 0.10
噛み合わせa/a(mm) 10/0.5
冷却 圧縮空気
機械 モディッヒMD・7200
【0034】
結果:削った距離で表わした工具の寿命
本発明(実施例1から) 750m
市販グレード 500m
【0035】
硬い部品を機械加工するよう設計された市販グレードと比べて改善されていることから、本発明のエンドミルの用途の範囲が非常に広いことがわかる。
【0036】
実施例4
実施例1からのエンドミルをテストし、予定する用途に関して市場で入手できるグレードのエンドミルと比較した。この試験は、ダイスと鋳型を用途とする同じ2つの工具の機械加工である。この用途では、エッジの安全性と耐久性が極めて重要である。この試験では、工具を交換することなく1つの部品を完全に機械加工できるという顧客にとって大きな価値を提示する。
【0037】
試験の型式 直径6mmのボールエンドミル用いた鋳型の仕上げ
工具に対する要求 寿命が296分超
1つの工作物を完成させる
工作物 ウッデホルム・オルヴァー・シュープリーム、HRC51
切削速度(rpm) 12468rpm
刃の送りf(mm/エッジ) 0.08mm
噛み合わせa/a(mm) 0.07/0.1mm
冷却 乾式
【0038】
結果:
本発明(実施例1から) 図4参照
市販グレード 図5参照
【0039】
この試験の結果によると、市販グレードの工具は、切削エッジが脆いために工具に要求される寿命を満たすことができなかったのに対し、本発明の工具では、切削エッジの摩耗と損傷が非常に少ない状態で作業が終了した。この結果から、市販グレードの工具と比べて本発明の工具では、耐摩耗性が優れていることと、完全な切削エッジをより長く保持する能力があることがはっきりとわかる。
【0040】
実施例5
顧客側で現地試験を行ない、硬化工具用の鋼HRC・53で熱間鍛造ダイスを製造した。機械加工は、直径が10mm、6mm、2mmのボールエンドミル(BNE)を用いて異なる3つの工程で実施した。
【0041】
試験の型式 直径10mm、6mm、2mmのBNEを用いた工具の寿命試験
工具の寿命の基準 切削の停止
工作物 ウッデホルム・オルヴァー・シュープリーム、HRC53
切削速度V(m/分) それぞれ110、110、107
スピンドルの速度(rpm) それぞれ35000、125000、6300
刃の速度f(mm/エッジ) それぞれ0.05、0.11、0.70
噛み合わせa/a(mm) それぞれ0.07/0.05、0.35/1.20、0.8/2.20
冷却 オイル・ミスト
機械 モディッヒMD・7200
【0042】
【表3】

【0043】
結果から、本発明のエンドミルでは工具の寿命が著しく改善されていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明によるエンドミルの一例の破断面に関する走査電子顕微鏡(SEM)写真を示している。
【図2】本発明による基板の一例のSEM写真を示している。
【図3】本発明によるエンドミルの一例の断面に関する光学顕微鏡写真を示している。
【図4】本発明によるエンドミルの一例の摩耗したエッジに関するSEM写真を示している。
【図5】従来のエンドミルの摩耗したエッジに関するSEM写真を示している。
【符号の説明】
【0045】
a 基板
b 被膜
c 第1の層
d 第2の層
e 低Al層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HRCが46を超える硬化鋼の半仕上げと仕上げを行なうために基材と耐摩耗性被膜を備える超硬合金エンドミル工具であって、
‐上記基材(a)は、Cr/Coの重量比が0.05〜0.18、好ましくは0.06〜0.16、さらに好ましくは0.07〜0.15、最も好ましく、0.075〜0.13である量のCrを含有するCoの結合相の中に、90〜94重量%、好ましくは91〜93重量%のWCを、含有しており、
上記耐摩耗性被膜(b)は、厚さが1.8〜9.5μm好ましくは2.5〜6.0μmであり、
硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるPVDによるAlMeの窒化物または炭窒化物の第1の層(c)であって、ただしMeが、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.20〜1.50、好ましくは1.30〜1.40であり、且つ厚さが1.0〜4.5μm好ましくは2.0〜3.0μmである第1の層(c)と、
硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるPVDによるAlMeの窒化物または炭窒化物の第2の層(d)であり、ただしMeが、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.30〜1.70、好ましくは1.50〜1.60であり、且つ厚さが0.5〜4.5μm、好ましくは1.0〜2.0μmである第2の層(d)と、
第1の層と第2の層の間にあって、AlMeの窒化物または炭窒化物であり、ただしMeが、Zr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が0〜0.3、好ましくは0〜0.05であり、且つ厚さが0.05〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.7μmの低Al層(e)を備えていて且つMeNからなることが最も好ましく、且つ上記低Al層(e)の厚さが、第1の層(c)と第2の層(d)のうちの薄いほうの厚さの0.95倍未満、好ましくは0.8倍未満、最も好ましくは0.5倍未満である、
ことを特徴とする超硬合金エンドミル工具。
【請求項2】
上記結合相のCr/Co比が0.07〜0.14であることを特徴とする請求項1に記載の超硬合金エンドミル工具。
【請求項3】
第1の層と第2の層の両方が、粒径が50nm未満、好ましくは40nm未満の立方岩塩構造の微結晶を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の超硬合金エンドミル工具。
【請求項4】
上記低Al層(e)の微結晶の粒径が40nmよりも大きく、好ましくは成長方向に対して垂直な方向では50nmよりも大きく、且つ成長方向に対して平行な方向では100nmよりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超硬合金エンドミル工具。
【請求項5】
上記第1の層(c)の残留圧縮応力が1000MPaよりも大きく、好ましくは1800〜3500MPaであり、上記第2の層(d)の残留圧縮応力が1000MPaよりも大きく、好ましくは1800〜3500MPaであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超硬合金エンドミル工具。
【請求項6】
上記低Al層(e)の残留応力の絶対値が、600MPa未満、好ましくは300MPa未満、より好ましくは80MPa未満の圧縮応力または引張応力であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超硬合金エンドミル工具。
【請求項7】
HRCが46を超える硬化鋼の半仕上げと仕上げを行なうために基材と耐摩耗性被膜を備える超硬合金エンドミル工具を製造する方法であって、
‐CrをCr/Coの重量比が0.05〜0.18、好ましくは0.06〜0.16、より好ましくは0.07〜0.15、最も好ましくは0.075〜0.13である量にCrを含有するCo結合相の中に、90〜94重量%、好ましくは91〜93重量%のWCを、含有する組成の未完成の超硬合金エンドミル工具を用意する工程、
−炭化タングステンのサブミクロン粉末と、コバルトのサブミクロン粉末と、Cr、Cr23、Crのうちの少なくとも1つのサブミクロン粉末とを湿式磨砕してスラリーを取得する工程、
‐上記スラリーを乾燥させて粉末を取得する工程、
‐上記粉末を圧縮してロッドにする工程、
‐上記ロッドを真空中または窒素中で焼結させる工程、
‐任意に、焼結温度にしている間、または焼結の最終段階で平衡ガス圧の工程を実施する工程、
‐上記ロッドを研磨してh6許容度の円筒形にする工程、
‐切削流体のエマルジョンを用い、ダイヤモンド砥石で溝を研磨する工程、
‐被覆装置の中で、作動させる蒸着源と蒸着速度を適切に選択し、窒素の部分圧を維持しながら、
‐厚さが1.8〜9.5μm、好ましくは2.5〜6.0μmの耐摩耗性被膜(b)を堆積させる工程を含んでいて、この耐摩耗性被膜(b)が、
‐処理パラメータとして、使用する装置内のアーク電流を50〜200A、好ましくは120〜160A、Nの圧力を5〜50マイクロバール、好ましくは7〜20マイクロバール、堆積温度を400〜700℃、好ましくは550〜650℃、基材のバイアスを−150〜−300V、好ましくは−170〜−230VにしてPVDによって堆積させた硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるAlMe窒化物またはAlMe炭窒化物の第1の層(c)であって、ただしMeがZr、V、Nb、CrまたはTiであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.20〜1.50、好ましくは1.30〜1.40である厚さが1.0〜4.5μm、好ましくは2.0〜3.0μmであるの第1の層(c)と、
−処理パラメータとして、使用する装置内のアーク電流を50〜200A、好ましくは120〜160A、Nの圧力を5〜50マイクロバール、好ましくは7〜20マイクロバール、堆積温度を400〜700℃、好ましくは550〜650℃、基材のバイアスを−50〜−140V、好ましくは−80〜−120VにしてPVDによって堆積させた、硬質で耐摩耗性で耐熱性のあるAlMe窒化物またはAlMe炭窒化物の第2の層(d)であって、ただしMeは、Zr、V、Nb、Cr、Tiのいずれかであり且つTiであることが好ましく、Meに対するAlの原子比が1.30〜1.70、好ましくは1.50〜1.60であり、且つ厚さが0.5〜4.5μm、好ましくは1.0〜2.0μmであるの第2の層(d)と、
−温度を400〜700℃、好ましくは550〜650℃、基材のバイアスを−30〜−150V、好ましくは−70〜120V、アーク電流を80〜210A、好ましくは140〜190Aにして堆積させた、上記第1の層(c)と上記第2の層(d)の間にある厚さが0.05〜1.0μm好ましくは0.1〜0.7μmである低Al層(e)と、
を含んでいることを特徴とする超硬合金エンドミル工具を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−168421(P2008−168421A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−323284(P2007−323284)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】