説明

被覆された電線の製造方法

本発明は被覆された電線の製造方法に関する。本発明の方法は、被覆するために、UV硬化性焼き付けエナメルを使用し、前記エナメルは、a)1種以上のオキシランベース結合剤、b)1種以上のUV架橋触媒、c)任意の反応性希釈剤、d)連鎖移動剤、およびe)他の通常の添加剤を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆された電線の製造方法に関する。
【0002】
エンジン、電磁コイル、つり上げ磁石および発電機の製造に使用されるコイル支持体はしばしば強い機械的負荷にさらされる。特に高速運転ローターの場合に移動した部品のコイルに作用する、生じる遠心力および求心力がかなり大きい。
【0003】
負荷された装置部品の損傷および変形を回避するかまたは少なくとも減少するために、早い時期にコイルを固定する。これは含浸塗料または含浸樹脂で含浸することにより行う。含浸塗料または含浸樹脂を硬化しなければならない。これは一般には高い温度で長時間にわたり部品を炉で硬化することにより達成される。
【0004】
線材を固定する際の新しい方法は焼き付けエナメルの導入であり、TV技術に偏向コイル製造の分野に特に導入された。
【0005】
焼き付けエナメルの原理は、コイルを巻き付けた後に塗装された線材の接合を可能にする熱可塑性にもとづく。エナメル線材の存在する絶縁プライマーの上に適当に被覆される焼き付けエナメル層をまず溶融し、コイルの間隙を溶融した熱可塑性樹脂で部分的に充填し、熱可塑性樹脂により個々のコイルを結合する。引き続くポリマーの硬化の結果として、すべてのコイルが互いに結合し、従って特に自立性コイルの場合に誘電率の変化を生じるコイルの変形を回避できる。焼き付けエナメルの溶融は、一方で熱により加熱炉で製造した部品の熱処理により、他方で電気的に電流インパルスの結果として行われる。
【0006】
すべての種類のコイルの製造での焼き付けエナメルの利点は製造者にコイル技術のための新しい装置を開発させた。現在焼き付けエナメルは、熱の要求が必要とされる所でも、コイルを固定するためのエナメル線材処理のほとんどすべての分野に使用される。
【0007】
多くの種類の物質が使用分野に依存して焼き付けエナメルの下地として使用される。
【0008】
欧州特許第1096510号はポリビニルアセタール(PVA)の使用を記載する。これらの焼き付けエナメルの熱特性および機械特性の程度はあまりよくない。
【0009】
欧州特許第0331823号はポリビニルブチラールおよびポリビニルホルマールを記載する。これらの材料は、ポリビニルブチラールのかなり高い平均吸水率およびかなり低い軟化温度により、すぐに使用できない。
【0010】
米国特許第4129678号は湿分に弱く、熱に強い用途にしばしば使用されるフェノキシ樹脂を記載する。付加的にフェノール樹脂および/またはメラミン樹脂を使用してかなり高い粘度の焼き付けエナメルを製造し、このエナメルは焼き付けの進行中に少量のホルムアルデヒドおよびフェノールを排出することがある。これはこれらのエナメル組成物の大きな欠点の1つである。
【0011】
欧州特許第0399396号は焼き付けエナメルとして使用するためのポリアミドを記載する。特に焼き付けエナメル結合剤として使用するポリアミドの製造において、他の種類の化合物よりはるかに多くの変形の可能性が存在する。芳香族および/または脂肪族ジカルボン酸、芳香族および/または脂肪族ジアミン、および圧倒的に芳香族ジイソシアネートから形成される広い範囲のコポリアミドが知られ、場合によりブロックドポリイソシアネートで変性されて使用される。
【0012】
米国特許第4131714号は結合剤として、場合により溶剤に溶解して、ワイヤーコーティングの焼き付けエナメルとして使用される直鎖状ポリエステルを記載する。
【0013】
記載されたすべての焼き付けエナメル系は通常の湿式塗料被覆により、フェルトストリッピング法またはノズル塗装法によりすでに絶縁した被覆線材に塗装し、熱により乾燥し、その際排出された溶剤を従来の塗装装置の触媒中で更に燃焼する。残留焼き付けエナメル層の軟化範囲はポリマー中の残留溶剤の含量によりほとんど調節されず、焼き付け中に溶剤が遊離する決定的な欠点を提供する。
【0014】
ドイツ特許第2843895号はUV線を使用した連続する線材エナメル層の硬化に関する。記載された目的は特に溶剤の回避である。線材に良好に付着する層、絶縁塗料として他の層を被覆し、熱、摩耗および引っ掻きに強い層を続けて被覆し、すべての層がUV硬化性である。
【0015】
ドイツ特許第2915011号には放射線硬化性ポリエステルイミドの製造および使用が記載され、前記イミドは同様に絶縁材料として銅線に被覆される。焼き付けエナメルとして使用するためのUV硬化性結合剤の製造は記載されていない。
【0016】
本発明の課題は、溶剤を含まず、UV線により硬化できる焼き付けエナメルを提供することである。
【0017】
前記課題は、被覆するためにUV硬化性焼き付けエナメルを使用することにより解決され、前記エナメルは
a)オキシランベースの1種以上の結合剤
b)1種以上のUV架橋触媒
c)場合により反応性希釈剤
d)場合により連鎖移動剤および
e)他の一般的な添加剤
を含有する。
【0018】
本発明の焼き付けエナメルは如何なる種類の溶剤も含まず、その際溶剤として水も含まれる。有利には前記UV硬化性焼き付けエナメルは
a)オキシランベース結合剤50〜95%
b)UV架橋触媒1〜10%
c)反応性希釈剤0〜80%
d)連鎖移動剤0〜40%および
e)添加剤、安定剤等1〜8%
を含有する。
【0019】
本発明による有利なUV硬化性焼き付けエナメルは、
a)オキシランベース結合剤60〜93%
b)UV架橋触媒2〜6%
c)反応性希釈剤0〜70%
d)連鎖移動剤0〜35%および
e)添加剤、安定剤等1〜3%
を含有する。
【0020】
結合剤a)は有利に一般式:
【0021】
【化1】

の脂環式オキシラン化合物を含有し、
式中、Rは水素、以下に示される式:
【0022】
【化2】

のカルボキシレート基、ポリエーテル基:
【0023】
【化3】

(nは1〜50である)または以下の式:
【0024】
【化4】

のポリエステル基であってもよく、
はメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基または他のオキシラン環または以下のタイプ:
【0025】
【化5】

の他のオキシラン化合物であってもよく、
はヒドロキシエチル基または以下の式:
【0026】
【化6】

のオキシラン化合物に相当し、
およびRは2〜6個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素鎖を表し、Rは更にフェニレン基であってもよく、Rは2〜6個の炭素原子を有するヒドロキシアルキル基または以下の式:
【0027】
【化7】

のオキシラン化合物に相当する。
【0028】
ここで詳細に記載されない他のモノ−、ジ−およびポリオキシランは同様に結合剤として使用できる。
【0029】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが焼き付けエナメルの製造に適しており、商標名Cyracure UVR6110、Union Carbide社、として入手できる。
【0030】
使用される高分子モノオキシランおよびジオキシランは、メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを、n=1〜50、有利にn=5〜25、特にn=8〜12個のエトキシ単位もしくはプロポキシ単位を有するOH官能性ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールと反応させて一方でポリエーテルモノオキシランおよびジオキシランを得ることにより、または脂肪族および/または芳香族ジカルボン酸およびポリオールと反応させてポリエステルモノオキシランおよびジオキシランを得ることにより製造できる。
【0031】
適当な芳香族ジカルボン酸および/またはジカルボン酸ジメチルエステルは例えばイソフタル酸、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチルエステル、ナフタリンジカルボン酸ジメチルエステルである。イソフタル酸およびテレフタル酸ジメチルエステルが特に有利である。適当な脂肪族ジカルボン酸は例えばアジピン酸、アゼライン酸およびデカンジカルボン酸であり、その際アジピン酸が特に有利である。
【0032】
ポリオールとして特にエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、およびブタンジオール−1,4を使用する。エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールの混合物が前記使用に特に有利であることが示された。
【0033】
UV架橋触媒b)として有利にカチオン光重合に適した光開始剤または開始剤混合物が該当する。以下の式:
【0034】
【化8】

の混合したアリールスルホニウムヘキサフルオロリン酸塩が本発明の焼き付けエナメルに有利に使用される。その代わりにまたは付加的に成分b)は他の一般的なUV架橋触媒を含有することができる。
【0035】
反応希釈剤c)として有利に低分子オキシラン、オキセタン、特に本発明のオキシランと共重合可能な化合物が該当する。
【0036】
連鎖移動剤d)としておよび架橋密度を高めるために、分子量500〜2000g/モルを有する場合により分枝状ポリエステルポリオールの併用が有利であり、分子量500〜1000g/モルを有するポリエステルポリオールが有利である。
【0037】
流延用添加剤e)として有利に変性された表面活性ポリジシロキサン、例えばByk306、Byk Chemie社を使用できる。
【0038】
本発明を以下の実施例により詳細に説明する。
【0039】
例1;ポリエチレングリコール400およびメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートからなるジオキシラン(ジオキシランI)の製造
メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート62.4gをポリエチレングリコール400、80gと混合し、保護ガスとして窒素て被覆し、テトラブチルチタネート0.2gと混合し、180〜200℃でメタノール12.8gを分離してエステル化した。高い粘性ポリエチレングリコールジオキシラン155.4gが得られた。
【0040】
例2:ジメチルテレフタレート、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよびメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートからなるジオキシラン(ジオキシランII)の製造
メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート31.2gをジメチルテレフタレート97g、エチレングリコール15.5gおよびネオペンチルグリコール26.0gと混合し、保護ガスとして窒素で被覆し、テトラブチルチタネート0.2gと混合し、180〜200℃でメタノール38.4gを分離してエステル化した。ワックス状ポリエステルジオキシラン131.5gが得られた。
【0041】
例3:アジピン酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよびメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートからなるジオキシラン(ジオキシランIII)の製造
メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート31.2gをアジピン酸73g、エチレングリコール15.5gおよびネオペンチルグリコール26.0gと混合し、保護ガスとして窒素で被覆し、テトラブチルチタネート0.2gと混合し、180〜200℃でメタノール6.4gおよび水18gを分離してエステル化した。ワックス状ポリエステルジオキシラン121.5gが得られた。
【0042】
製造されたオキシランからUV硬化性焼き付けエナメルを製造した。
【0043】
例4;焼き付けエナメル1
Cyracure UVR6110、32.5g、ジオキシランIII30g、光開始剤5g、メチル−3,4−エポキシ−シクロヘキサンカルボキシレート30gおよび流延用添加剤2.5gからUV硬化性エナメルを製造した。成分を均一に混合し、790mPasを有する無色透明なエナメルを得た。
【0044】
例5:焼き付けエナメル2
Cyracure UVR6110、52.5g、ジオキシランI40g、光開始剤5gおよび流延用添加剤2.5gからUV硬化性エナメルを製造した。成分を均一に混合し、670mPasを有する無色透明なエナメルを得た。
【0045】
例6:焼き付けエナメル3
Cyracure UVR6110、67.5g、ポリエステルポリオールDesmophen25g、光開始剤670.5gおよび流延用添加剤2.5gからUV硬化性エナメルを製造した。成分を均一に混合し、2340mPasを有する無色透明なエナメルを得た。
【0046】
本発明により製造された焼き付けエナメルを、ノズルストリッピング法を使用して、フェルト線材直径0.30mmを有する銅線に、一般的な方法で、市販されたポリエステルイミド線材エナメルを使用して全直径の増加50μmを有して被覆し、10〜80℃でUV線を使用して硬化した。UV源としてマイクロ波により励起された水銀蒸気高圧ランプを使用した。ランプの出力は1cm当たり25〜100ワットであった。その際リフレクターとランプは共振器を形成した。
【0047】
国際規格、DINEN60851−3(IEC851−3)により規格に合わせて製造したコイルで焼き付け強度の試験を行った。本発明の線材直径に必要な最低焼き付け力は0.7Nだけ明らかに上まわった。
【0048】
以下の試験結果が得られた。
【0049】
焼き付けエナメル1:10μmのエナメル層で滑らかな表面および200℃および焼き付け力0.7Nで良好な焼き付け特性を有するエナメル被覆線材が得られた。
【0050】
焼き付けエナメル2:10μmのエナメル層で滑らかな表面および200℃で良好な焼き付け特性を有するエナメル被覆線材が得られた。
焼き付けエナメル3:11μmのエナメル層で滑らかな表面および200℃および焼き付け力0.8Nで良好な焼き付け特性を有するエナメル被覆線材が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆された電線の製造方法において、被覆するためにUV硬化性焼き付けエナメルを使用し、前記エナメルは
a)オキシランベースの1種以上の結合剤
b)1種以上のUV架橋触媒
c)場合により反応性希釈剤
d)場合により連鎖移動剤および
e)他の一般的な添加剤
を含有することを特徴とする、被覆された電線の製造方法。
【請求項2】
a)オキシランベース結合剤50〜95質量%
b)UV架橋触媒1〜10質量%
c)反応性希釈剤0〜80質量%
d)連鎖移動剤0〜40質量%および
e)他の添加剤1〜8質量%
を含有する焼き付けエナメルを使用する請求項1記載の方法。
【請求項3】
a)オキシランベース結合剤60〜93質量%
b)架橋触媒2〜6質量%
c)反応性希釈剤0〜70質量%
d)連鎖移動剤0〜35質量%および
e)他の添加剤1〜3質量%
を含有する焼き付けエナメルを使用する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
焼き付けエナメルとして一般式:
【化1】

の脂環式オキシラン化合物を使用し、
式中、Rは水素、以下に示される式:
【化2】

のカルボキシレート基、ポリエーテル基
【化3】

(nは1〜50である)または以下の式:
【化4】

のポリエステル基であってもよく、
式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基または以下の式:
【化5】

の他のオキシラン化合物であってもよく、
はヒドロキシエチル基または以下の式:
【化6】

のオキシラン化合物に相当し、
およびRは2〜6個の炭素原子単位を有する脂肪族炭化水素鎖を表し、Rは更にフェニレン基であってもよく、Rは2〜6個の炭素原子を有するヒドロキシアルキル基または以下の式:
【化7】

のオキシラン化合物に相当する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種のカチオン光重合に適した光開始剤を添加する請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
光開始剤として、以下の式:
【化8】

の混合したアリールスルホニウムヘキサフルオロリン酸塩を添加する請求項5記載の方法。
【請求項7】
成分a)がメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを使用して製造される焼き付けエナメルを使用する請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
成分a)がポリエチレングリコールを使用して製造される焼き付けエナメルを使用する請求項7記載の方法。
【請求項9】
反応性希釈剤として低分子オキシラン、オキセタンを添加する焼き付けエナメルを使用する請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
反応性希釈剤として低分子オキシラン、オキセタンを添加する請求項9記載の方法。
【請求項11】
成分d)が分子量500〜2000g/モルを有するポリエステルポリオールを含有する請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
成分d)が分子量500〜1000g/モルを有するポリエステルポリオールを含有する請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
成分e)が添加剤または安定剤またはこれらの混合物を含有する請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
焼き付けエナメルでの電線の被覆に続いて電線を紫外線により硬化する請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2007−523455(P2007−523455A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553577(P2006−553577)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050384
【国際公開番号】WO2005/081266
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(503402633)アルタナ エレクトリカル インシュレイション ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (7)
【Fターム(参考)】