説明

被覆アーク溶接の出力制御方法

【課題】 本発明では、溶接機の出力ケーブルの長さに影響されない良好なアークスタートを行う被覆アーク溶接の出力制御方法を提供する。
【解決手段】 溶接電源の出力電流値を検出し、前記出力電流値と予め定めた出力電流設定値との誤差を算出し、前記算出した誤差を予め定めた基準増幅率で増幅して誤差増幅値を算出し、前記誤差増幅値に基づいて前記溶接電源の出力電流を制御する被覆アーク溶接の出力制御方法において、前記出力電流のリップル値を算出し、前記リップ値が予め定めたリップル基準値未満のとき前記基準増幅率を予め定めた値に増加させる、ことを特徴とする被覆アーク溶接の出力制御方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆アーク溶接の出力ケーブルの長さ変動に伴う出力制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年被覆アーク溶接において、インバータ回路の使用により直流リアクトルが小型化になり、溶接機の出力ケーブルを延長して被覆アーク溶接を行うとき、出力ケーブル延長に伴うインダクタンス値の増加が無視できず、標準設定されているフィード・バックのゲインでは応答性に遅れが生じ、被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるときに、フィード・バックの応答性の遅れによりアークのスタートが度々失敗する。このスタートの失敗を抑制するために、フィード・バックのゲインを所定値大きめに設定して応答性の遅れを改善していた。
【0003】
図7は従来技術のアーク溶接機の電気接続図であり、同図に示す電源主回路INVは、3相200V等の商用電源を入力として、後述する誤差増幅信号Goに基づいて電源主回路INVを出力制御する。直流リアクトルDCLは、所定のインダクタンス値Liを有し出力電流Iiを平滑する。
【0004】
図7に示すホルダ4に装着された被覆溶接棒1と被加工物2との間にアーク3が発生し、出力電流Iiを通電する。出力電流検出回路IDは、出力電流Iiを検出して出力電流検出信号Idとして出力する。
【0005】
出力電流設定回路IRは、所望の出力電流設定値を出力電流設定信号Irとして出力する。誤差検出回路EIRは、出力電流設定信号Irと出力電流検出信号Idとの誤差を検出して誤差検出信号Eirを出力する。増幅回路GOは、予め定めた基準増幅率を有し誤差検出信号Eirを増幅して誤差増幅信号Goとして出力する。電源主回路INVは、この誤差増幅信号Goを入力としてパルス幅変調を行い、出力電流Iiを定電流制御する。
【0006】
図8は、フィード・バックのゲインを標準値とし溶接電源の出力ケーブル5が長いとき(例えば、5mから10m)の動作を説明するタイミング図である。図8において、同図(A)は出力電圧Evを示し、同図(B)は出力電流信号Idを示す。以下、図7及び図8を参照して従来の被覆アーク溶接の動作について説明する。
【0007】
被覆アーク溶接において、図8に示す時刻t=t1のとき、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡すると図8(B)に示す出力電流信号Idに小さなリップルが発生する。時刻t=t2のとき、被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるとき、出力ケーブル5のインダクタンス値の増加により、フィード・バック制御の応答性に遅れが生じ、この遅れによって短絡からアークへ移行するときの出力電流信号Idが一瞬減少し、アーク切れが生じる。このスタート時のアーク切れを抑制するために、フィード・バックのゲインを大きく設定して応答性を改善し、短絡からアークへ移行するときの出力電流信号Idの減少を抑制していた。
【0008】
図9は、フィード・バックのゲインを標準値より所定値大きくし、溶接電源の出力ケーブル5が短いとき(例えば、5mから1m)の動作を説明するタイミング図である。
図9において、同図(A)は出力電圧Evを示し、同図(B)は出力電流信号Idを示す。以下、図7及び図9を参照して従来の被覆アーク溶接の動作について説明する。
【0009】
被覆アーク溶接において、図9に示す時刻t=t1のとき、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡すると出力ケーブル5のインダクタンス値の減少により、図9(B)に示す出力電流信号Idに大きなリップル電流が発生する。時刻t=t2のとき、被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるとき、出力ケーブル5のインダクタンス値の減少により、且つ、フィード・バックのゲインを大きく設定しているでフィード・バックの応答性が速くなり、この高速化により出力電流にハンチングが生じてアーク発生後のリップル電流の収束に時間を必要とし、アークが不安定に陥り時刻t=t3のとき、アーク切れという問題が発生する。
【0010】
上述より、溶接電源の出力ケーブルの長さが変化すると、フィード・バックのゲインの協調性が崩れて、アークのスタート性が悪くなるという不具合が生じる。
【0011】
特許文献1には、リップルの大きさとインダクタンス値との関係が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−21560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
被覆アーク溶接において、近年インバータ回路を使用して直流リアクトルの小型化を図り、溶接機を小さくしている。しかし、溶接機の出力ケーブルを、例えば、標準5mを中心に3m〜8mの範囲で被覆アーク溶接を行うとき、出力ケーブルが8m近傍になると外部のインダクタンス値の増加が無視できず、標準設定されているフィード・バックのゲインではフィード・バック制御の応答性に若干遅れが生じ、被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるとき、この応答性に遅れにより短絡電流からアーク電流に移行するとき、出力電流に一瞬落ち込みが生じてアークのスタートが失敗することがあった。
このスタート時のアーク切れを抑制するために、従来ではフィード・バックのゲインを標準値より若干大きく設定して応答性を速くし、アーク発生時の出力電流の落ち込みを抑制していた。
【0014】
しかし、溶接機の出力ケーブルを更に延長して10m以上で被覆アーク溶接を行うとき、出荷時に設定したゲインでは、出力ケーブルの延長にともなう外部のインダクタンス値の増加に対応できず、アークを発生させるとき、フィード・バック制御の応答性の遅れで短絡電流からアーク電流に移行するとき、出力電流に落ち込みが生じてアークのスタートが失敗する。この不具合を解消するために、現場で作業者がフィード・バックのゲインを再調整する必要があり、この作業は非常に手間のいる作業になる。
【0015】
そこで、本発明では、溶接機の出力ケーブルの長さに影響されない安定したアーク発生を行う被覆アーク溶接の出力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接電源の出力電流値を検出し、前記出力電流値と予め定めた出力電流設定値との誤差を算出し、前記算出した誤差を予め定めた基準増幅率で増幅して誤差増幅値を算出し、前記誤差増幅値に基づいて前記溶接電源の出力電流を制御する被覆アーク溶接の出力制御方法において、
前記出力電流のリップル値を算出し、前記リップ値が予め定めたリップル基準値未満のとき前記基準増幅率を予め定めた値に増加させる、ことを特徴とする被覆アーク溶接の出力制御方法である。
【0017】
請求項2の発明は、前記リップル基準値より大きい第2のリップル基準値を設け、前記リップル値が前記第2のリップル基準値以上のとき、前記基準増幅率を予め定めた値に減少させる、ことを特徴とする請求項1記載の被覆アーク溶接の出力制御方法である。
【0018】
請求項3の発明は、前記リップル値を、前記被覆溶接棒が被加工物に短絡しているときに算出する、ことを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の被覆アーク溶接の出力制御方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1によれば、被覆アーク溶接において、出力電流のリップル値を算出し、このリップル値が予め定めたリップル基準値未満になると、溶接機の出力側のインダクタンス値が増加したと判別し、フィード・バックのゲインを自動で所定値まで増加するので、出力ケーブルを、例えば、10m以上にして被覆アーク溶接を行っても、フィード・バックの応答性に遅れが無くなり、短絡電流からアーク電流に移行するときの出力電流の落ち込みが抑制されアークのスタート性が向上する。
【0020】
本発明の請求項2によれば、上述の効果に加えて、出力電流のリップル値が予め定めた第2のリップル基準値以上になると、溶接機の出力側のインダクタンス値が減少したと判別し、フィード・バックのゲインを所定値まで減少させる。このこのゲインの減少により被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるとき、アーク発生時の大きなリップル電流の収束時間が短くなり、アーク発生後にアークが不安定に陥ることが抑制でき、アーク切れという不具合がなくなる。
【0021】
本発明の請求項3によれば、被覆溶接棒が被加工物に短絡したときの出力電流のリップル値を算出し、このリップル値に基づいて溶接機の出力側のインダクタンス値が増加又は減少の判別を行うと、この判別精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態1に係る被覆アーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源の電気接続図である。
【図2】実施形態1のリップル算出回路の詳細図である。
【図3】実施形態1で溶接機の出力ケーブルの長さが標準のときの動作を説明する形図である。
【図4】実施形態1で溶接機の出力ケーブルが長いときの動作を説明する波形図である。
【図5】実施形態2に係る被覆アーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源の電気接続図である。
【図6】実施形態2で溶接機の出力ケーブルが短いときの動作を説明する波形図である。
【図7】従来技術の被覆アーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源の電気接続図である。
【図8】従来技術の動作を説明する第1の波形図である。
【図9】従来技術の動作を説明する第2の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜図3を参照して本発明の実施形態1について説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る被覆アーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源の電気接続図である。同図において、図7に示す従来技術の被覆アーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源の電気接続図と同一符号の構成物は、同一動作を行うので説明は省略し、符号の相違する構成物についてのみ説明する。
【0024】
図2に示すリップル算出回路IMは、クランプ回路KC、短絡判別回路ST、反転回路OP、第1のピーク・ホールド回路PH1、第2のピーク・ホールド回路PH2及び加算回路ADCによって形成され、クランプ回路KCは、リップル値の直流成分をクランプして交流成分のみをクランプ信号Kcとして出力する。短絡判別回路STは、被覆溶接棒と被加工物との短絡を判別して短絡判別信号Stを出力する。反転回路OPは、クランプ信号Kcを反転して反転信号Opとして出力する。第1のピーク・ホールド回路PH1は、短絡判別信号Stに応じてクランプ信号Kcの最大値をピーク・ホールドして第1のピーク・ホールド信号Ph1として出力する。第2のピーク・ホールド回路PH2は、短絡判別信号Stに応じて反転信号Opの最大値をピーク・ホールドしてピーク・ホールド信号Ph2として出力する。加算回路ADCは、第1のピーク・ホールド信号Ph1と第2のピーク・ホールド信号Ph2とを加算しリップル算出信号Imとして出力する。
【0025】
図1に示すリップル基準値設定回路LRは、例えば、溶接機の出力ケーブル5の長さが10mであって、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡して短絡電流に発生するときのリップルの値を予め定めたリップル基準値とし、リップル基準信号Lrとして出力する。ゲイン制御回路GCは、リップル算出信号Imの値とリップル基準信号Lrの値とを比較し、リップル算出信号Imの値がリップル基準信号Lrの値未満のときにゲイン制御信号GcをHighレベルにして出力する。第1の誤差増幅回路GA1は、予め定めた基準増幅率を有し、ゲイン制御信号GcがLowレベルのとき基準増幅率を維持し、ゲイン制御信号GcがHighレベルになると基準増幅率を(例えば、4/3)増加させる。
【0026】
図1に示す電源主回路INVは、第1の誤差増幅信号Ga1に応じて出力電流Iiを出力制御する。
【0027】
図3は、実施形態1で溶接機の出力ケーブル5の長さが標準(例えば、5m)のときの動作を説明する波形図である。
図3において、同図(A)は出力電圧信号Vdを示し、同図(B)は出力電流信号Idを示し、同図(C)はクランプ信号Kcを示し、同図(D)は反転信号Opを示し、同図(E)は第1のピーク・ホールド信号Ph1を示し、同図(F)は第2のピーク・ホールド信号Ph2を示し、同図(G)はリップル算出信号Imを示し、同図(H)は短絡判別信号Stを示し、同図(I)はゲイン制御信号Gcを示す。以下、同図を参照して動作について説明する。
【0028】
被覆アーク溶接において、図3に示す時刻t=t1のとき、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡すると負荷変動に応じて図3(A)に示す出力電圧検出信号Vdは略ゼロになると共に図3(B)に示す出力電流検出信号Idにリップルが発生する。
【0029】
図2にクランプ回路KCは、図3(B)に示す出力電流検出信号Idの直流成分をクランプして同図(C)に示す交流成分をクランプ信号Kcとして出力する。そして、反転回路OPはクランプ信号Kcを反転し反転信号Opとして出力する。短絡判別回路STは、被覆溶接棒と被加工物との短絡を判別し時刻t=t1のとき、短絡判別信号StをHighレベルにして出力する。
【0030】
第1のピーク・ホールド回路PH1は、図3(H)に示す短絡判別信号StのHighレベルに応じて動作を行い、図3(C)に示すクランプ信号Kcの最大値をピーク・ホールドし、時刻t=t2のとき同図(E)に示す第1のピーク・ホールド信号Ph1として出力する。
【0031】
第2のピーク・ホールド回路PH2は、図3(H)に示す短絡判別信号StのHighレベルに応じて動作を行い、図3(D)に示す反転信号Opの最大値をピーク・ホールドし、時刻t=t3のとき同図(F)に示す第2のピーク・ホールド信号Ph2として出力する。
【0032】
図2に示す加算回路ADCは、第1のピーク・ホールド信号Ph1と第2のピーク・ホールド信号Ph2とを加算し図3(G)に示すリップル算出信号Imとして出力する。
【0033】
図1に示すゲイン制御回路GCは、図3(B)に示す出力電流信号Idの入力に応じて図3(G)に示すリップル算出信号Imとリップル基準信号Lrとを比較し、時刻t=t1のとき、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lr未満のとき同図(I)に示すゲイン制御信号GcをHighレベルにして出力する。第1の誤差増幅回路GA1は、ゲイン制御信号GcがHighレベルのとき基準増幅率を予め定めた値に増加する。
【0034】
時刻t=t3のとき、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lrより大きくなると同図(I)に示すゲイン制御信号GcをLowレベルにする。第1の誤差増幅回路GA1は、ゲイン制御信号GcがLowレベルになると増加した増幅率を基準増幅率に戻し、誤差検出信号Eirを基準増幅率で増幅して第1の誤差増幅信号Ga1として出力する。そして、時刻t=t4のとき、短絡判別信号StがHighレベルからLowレベルに変化するとき、リップル算出信号Imとリップル基準信号Lrとを比較し、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lr以上のとき図4(I)に示すゲイン制御信号Gcを再度Lowレベルにする。
【0035】
時刻t=t4のとき、被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるとき、フィード・バックのゲインが最適な値になっているので、短絡電流からアーク電流に移行するときの出力電流の落ち込みが抑制されるのでアークのスタートが容易に行われる。
【0036】
図2に示す短絡判別回路STは、図3(A)に示す出力電圧検出信号Vdを図示省略の出力電圧基準値と比較し、時刻t=t4のとき出力電圧検出信号Vdの値が出力電圧基準値より大きいとき、被覆溶接棒1が被加工物2から短絡を解除したと判別し短絡判別信号StをLowレベルにする。そして、第1のピーク・ホールド回路PH1及び第2のピーク・ホールド回路PH2は、短絡判別信号StがLowレベルに応じてピーク・ホールド値を零にリセットする。ゲイン制御回路GCは、短絡判別信号StのLowレベルに応じてゲイン制御信号GcのLowレベルを記憶する。
【0037】
時刻t=t5において、被覆アーク溶接を終了すると、ゲイン制御回路GCは、図3(B)に示す出力電流信号Idの入力が終了すると、憶したゲイン制御信号GcのLowレベルに初期化し、第1の誤差増幅回路GA1の増幅率を基準増幅率にする。
上述より、出力ケーブル5の長さが標準(例えば、5m)のとき、被覆溶接棒1を被加工物2から引き上げてアークを発生させるとき、短絡電流からアーク電流に移行するときの出力電流に落ち込みがなくアーク発生がうまくいく。
【0038】
図4は、実施形態1で溶接機の出力ケーブル5の長さを、例えば、10m以上に延長したときの動作を説明する波形図である。以下、同図を参照して動作について説明する。
【0039】
被覆アーク溶接において、図4に示す時刻t=t1のとき、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡すると負荷変動に応じて図4(A)に示す出力電圧検出信号Vdは略ゼロになると共に同図(B)に示す出力電流検出信号Idにリップルが発生する。このとき、出力ケーブル5の延長に伴ってインダクタンス値が増加し、この増加に応じてリップルが小さくなる。
【0040】
図2にクランプ回路KCは、図4(B)に示す出力電流検出信号Idの直流成分をクランプして同図(C)に示す交流成分をクランプ信号Kcとして出力する。そして、反転回路OPはクランプ信号Kcを反転し反転信号Opとして出力する。短絡判別回路STは、被覆溶接棒と被加工物との短絡を判別し時刻t=t1のとき、短絡判別信号StをHighレベルにして出力する。
【0041】
第1のピーク・ホールド回路PH1は、図4(H)に示す短絡判別信号StのHighレベルに応じて動作を行い、同図(C)に示すクランプ信号Kcの最大値をピーク・ホールドし、時刻t=t2のとき同図(E)に示す第1のピーク・ホールド信号Ph1として出力する。
【0042】
第2のピーク・ホールド回路PH2は、図4(H)に示す短絡判別信号StのHighレベルに応じて動作を行い、同図(D)に示す反転信号Opの最大値をピーク・ホールドし、時刻t=t3のとき同図(F)に示す第2のピーク・ホールド信号Ph2として出力する。
【0043】
図2に示す加算回路ADCは、第1のピーク・ホールド信号Ph1と第2のピーク・ホールド信号Ph2とを加算し図4(G)に示すリップル算出信号Imとして出力する。
【0044】
図1に示すゲイン制御回路GCは、図4(B)に示す出力電流信号Idの入力に応じて同図(G)に示すリップル算出信号Imとリップル基準信号Lrとを比較し、時刻t=t1のとき、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lr未満のとき同図(I)に示すゲイン制御信号GcをHighレベルにして出力する。第1の誤差増幅回路GA1は、ゲイン制御信号GcがHighレベルのとき基準増幅率を予め定めた値(例えば、基準増幅率を4/3倍)に増加する。そして、時刻t=t3、t4のとき、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lr未満となり同図(I)に示すゲイン制御信号GcのHighレベルを維持する。
【0045】
ゲイン制御回路GCは、時刻t=t6の短絡判別信号StがHighレベルからLowレベルに変化すると、リップル算出信号Imとリップル基準信号Lrとを比較し、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lr以上のとき図4(I)に示すゲイン制御信号Gcを再度Highレベルにして出力する。そして、第1のピーク・ホールド回路PH1及び第2のピーク・ホールド回路PH2は、は、短絡判別信号StがLowレベルになるとピーク・ホールド値を零にリセットする。
【0046】
時刻t=t6のとき、被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるとき、第1の誤差増幅回路GA1は、基準増幅率を(例えば、4/3倍)に増加しているので、この基準増幅率の増加により被覆溶接棒を被加工物から引き上げてアークを発生させるとき、フィード・バックの応答性が速くなり、時刻t=t6の短絡電流からアーク電流に移行するときの出力電流に落ち込みが抑制され、アークのスタート性が向上する。
【0047】
時刻t=t7のとき、被覆アーク溶接を終了すると、ゲイン制御回路GCは、図4(B)に示す出力電流信号Idの入力が終了するとゲイン制御信号GcをHighレベルからLowレベルにし、第1の誤差増幅回路GA1は、例えば、基準増幅率の4/3倍にした増幅率をもとの基準増幅率に戻す。
【0048】
「実施の形態2」
通常、溶接機の出力ケーブルを極端に短くして、例えば、1mにして被覆アーク溶接を行うことも稀にある。このとき、出力ケーブルのインダクタンス値が減少し、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡すると出力電流に大きなリップルが発生する。この状態で被覆溶接棒1を被加工物2から引き上げてアークを発生させるとき、出荷時に設定したフィード・バックのゲインのでは、逆に、フィード・バックの応答性が速くなり、出力電流に大きなハンチングが生じ、アーク発生時のリップルの収束に時間が係り、アークが不安定に陥りアーク発生した後にアークが切れていう不具合が発生する。
上述の不具合を解決するための本発明の実施形態2について、図5及び図6を用いて実施形態1と相違する動作についてのみ説明する。
【0049】
図4に示す第2のリップル基準値設定回路LR2は、リップル基準信号Lrの値より予め大きく設定した第2のリップル基準値設定信号Lsを出力する。(例えば、溶接機の出力ケーブル5の長さが1mであって、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡して短絡電流に発生するときのリップルの値を予め定めた第2のリップル基準値とする。)
自動ゲイン制御回路GACは、リップル算出信号Imの値とリップル基準信号Lrの値、並びに、リップル算出信号Imの値と第2のリップル基準信号Lr2の値とを比較し、リップル算出信号Imの値がリップル基準信号Lrの値未満のとき、第1の自動ゲイン制御信号Gac1をHighレベルにし、第2の自動ゲイン制御信号Gac2もHighレベルにして出力する。
【0050】
次に、リップル算出信号Imの値がリップル基準信号Lrの値より大きく第2のリップル基準信号Lr2の値未満のとき、第1の自動ゲイン制御信号Gac1をLowレベルにし、第2の自動ゲイン制御信号Gac2をHighレベルにして出力する。
【0051】
続いて、リップル算出信号Imの値が第2のリップル基準信号Lr2の値より大きいとき、第1の自動ゲイン制御信号Gac1をLowレベルにし、第2の自動ゲイン制御信号Ga2もLowレベルにして出力する。
【0052】
第2の誤差増幅回路GA2は、第1の自動ゲイン制御信号Gac1がHighレベルで第2の自動ゲイン制御信号Gac2がHighレベルのとき、基準増幅率を(例えば、4/3)増加させる。そして、第1の自動ゲイン制御信号Gac1がLowレベルで第2の自動ゲイン制御信号Gac2もLowレベルのとき、基準増幅率を(例えば、2/3倍)減少させる。
【0053】
図6は、実施形態2で溶接機の出力ケーブル5の長さを標準、例えば、5mから1mに短くしたときの動作を説明する波形図である。
図6において、同図(A)は出力電圧信号Vdを示し、同図(B)は出力電流信号Idを示し、同図(C)はクランプ信号Kcを示し、同図(D)は反転信号OPを示し、同図(E)は第1のピーク・ホールド信号Ph1を示し、同図(F)は第2のピーク・ホールド信号Ph2を示し、同図(G)はリップル算出信号Imを示し、同図(H)は短絡判別信号Stを示し、同図(I)は第1の自動ゲイン制御信号Gac1示し、同図(J)は第2の自動ゲイン制御信号Gac2を示す。以下、同図を参照して動作について説明する。
【0054】
被覆アーク溶接において、図6に示す時刻t=t1のとき、被覆溶接棒1が被加工物2に短絡すると負荷変動に応じて図4(A)に示す出力電圧検出信号Vdは略ゼロになると共に同図(B)に示す出力電流検出信号Idにリップルが発生する。このとき、出力ケーブル5が短くなることでインダクタンス値が減少し、この減少に応じてリップルが大きくなる。
【0055】
図5に示す自動ゲイン制御回路GACは、リップル算出信号Imとリップル基準信号Lr、並びに、リップル算出信号Imと第2のリップル基準信号Lr2とを比較し、時刻t=t1のとき、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lr未満のとき、第1の自動ゲイン制御信号Gac1をHighレベルにし第2の自動ゲイン制御信号Gac2もHighレベルにして出力する。このとき、第2の誤差増幅回路GA2は、第1の自動ゲイン制御信号Gac1がHighレベルで第2の自動ゲイン制御信号Gac2がHighレベルのとき、基準増幅率を(例えば、4/3倍)増加させる。
【0056】
時刻t=t2のとき、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lrより大きくなり第2のリップル基準信号Lr2未満になると、第1の自動ゲイン制御信号Gac1をLowレベルにし、第2の自動ゲイン制御信号Gac2をHighレベルにして出力する。第2の誤差増幅回路GA2は、第1の自動ゲイン制御信号Gac1がLowレベルで第2の自動ゲイン制御信号Gac2がHighレベルのとき、増加させた増幅率を基準増幅率に戻す。
【0057】
時刻t=t3のとき、リップル算出信号Imがリップル基準信号Lrより大きく、第2のリップル基準信号Lr2より大きくになると、第1の自動ゲイン制御信号Gac1をLowレベルにし、第2の自動ゲイン制御信号Gac2もLowレベルにして出力する。第2の誤差増幅回路GA2は、第1の自動ゲイン制御信号Gac1がLowレベルで第2の自動ゲイン制御信号Gac2もLowレベルのとき、基準増幅率を(例えば、2/3倍)減少させる。このとき基準増幅率の減少に応じてリップルが小さくなる。
【0058】
自動ゲイン制御回路GACは、時刻t=t4のとき短絡判別信号StがHighレベルからLowレベルに変化するとき、リップル算出信号Imと第2のリップル基準信号Lr2とを比較し、リップル算出信号Imが第2のリップル基準信号Lr2より大きいと、第1の自動ゲイン制御信号Gac1をLowレベルにし、第2の自動ゲイン制御信号Gac2もLowレベルにして出力する。そして、第1のピーク・ホールド回路PH1及び第2のピーク・ホールド回路PH2は、は、短絡判別信号StがLowレベルになるとピーク・ホールド値を零にリセットする。
【0059】
時刻t=t4のとき、被覆溶接棒1を被加工物2から引き上げてアークを発生させるとき、第2の誤差増幅回路GA1は、基準増幅率を(例えば、2/3倍)に減少しているので、短絡電流からアーク電流に移行するとき、出力電流のリップルの減少及びハンチングが抑制され、アーク発生後のリップルの収束が速くなり、アーク発生後にアークが素早く安定しアーク切れという不具合がなくなる。
【符号の説明】
【0060】
1 被覆溶接棒1
2 被加工物
3 アーク
4 ホルダ
5 出力ケーブル
ADC 加算回路
DCL 直流リアクトル
EIR 誤差検出回路
Eir 誤差検出信号
Ev 出力電圧
GAC 自動ゲイン制御回路
Gac1 第1の自動ゲイン制御信号
Gac2 第2の自動ゲイン制御信号
GA1 第1の誤差増幅回路
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電源の出力電流値を検出し、前記出力電流値と予め定めた出力電流設定値との誤差を算出し、前記算出した誤差を予め定めた基準増幅率で増幅して誤差増幅値を算出し、前記誤差増幅値に基づいて前記溶接電源の出力電流を制御する被覆アーク溶接の出力制御方法において、
前記出力電流のリップル値を算出し、前記リップ値が予め定めたリップル基準値未満のとき前記基準増幅率を予め定めた値に増加させる、ことを特徴とする被覆アーク溶接の出力制御方法。
【請求項2】
前記リップル基準値より大きい第2のリップル基準値を設け、前記リップル値が前記第2のリップル基準値以上のとき、前記基準増幅率を予め定めた値に減少させる、ことを特徴とする請求項1記載の被覆アーク溶接の出力制御方法。
【請求項3】
前記リップル値を、前記被覆溶接棒が被加工物に短絡しているときに算出する、ことを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の被覆アーク溶接の出力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−179625(P2012−179625A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43463(P2011−43463)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】