被覆共役分子およびその製造方法
【課題】従来の構成では、環状分子であるシクロデキストリン同士の結合を弱めるために、シクロデキストリンの水酸基をメチル化することで、シクロデキストリンの包接能が弱まるという課題があった。また、溶解度を落とさないために、共役分子にイオン性の官能基を導入することで、共役分子の電子状態が変化してしまうという課題があった。
【解決手段】本発明の被覆共役分子では、環状分子と共役分子とを結合させることで、包接能が弱い環状分子でも自己包接によって共役分子を被覆できる。また、共役分子が被覆されることで、溶解度が落ちないため、主鎖にイオン性の官能基を導入する必要が無い。
【解決手段】本発明の被覆共役分子では、環状分子と共役分子とを結合させることで、包接能が弱い環状分子でも自己包接によって共役分子を被覆できる。また、共役分子が被覆されることで、溶解度が落ちないため、主鎖にイオン性の官能基を導入する必要が無い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆共役分子に関わり、特に有機電子デバイスまたは有機発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
環状構造を有する環状分子とその環状分子を貫通する共役分子とによって構成される被覆共役分子は、被覆分子と共役分子にそれぞれ独立した機能を付与させることが可能である。そのような被覆共役分子として、一つの分子内に複数のロタキサン構造を有するポリロタキサンが知られている。ポリロタキサンは、医療、薬品、エレクトロニクスなどの幅広い分野で応用が期待されている。
【0003】
ポリロタキサンの合成方法として、シクロデキストリンの環状構造の内側の疎水性と外側の親水性とを利用する方法が知られている。その一例では、シクロデキストリンと、水溶性の低い共役分子である2量体のチオフェンを水溶媒中に混合することで、疎水相互作用により、シクロデキストリンの環状構造の内側に、共役分子を挿入した後、重合化することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
上記のような合成方法では、ロタキサン構造を形成するシクロデキストリンの量の制御が困難であった。シクロデキストリンの量が多くなると、隣接するシクロデキストリン同士の水酸基による水素結合によって、ポリマーが凝集する。また、シクロデキストリンがポリマーの主鎖上に沿って自由に動けるので、シクロデキストリン自体が凝集する。このような凝集によって、ポリマーの溶解度が低下し、溶媒中におけるポリマー重合反応の進行が妨げられるという問題がある。このような問題を解決するため、シクロデキストリンの水酸基をメチル化することで、シクロデキストリン同士の結合を弱めることがなされている。
【0005】
また、シクロデキストリンに挿入される水溶性の低い共役分子の鎖長が長くなることで、ポリマーの溶解度が低下し、溶媒中におけるポリマー重合反応の進行が妨げられるという問題がある。このような問題を解決するため、共役分子にイオン性の官能基を導入することがなされている。その一例では、ポリパラフェニレンにカルボン酸を導入した水溶性のモノマーとシクロデキストリンに包接された疎水性のモノマーを交互に重合することが提案されている(非特許文献2)。また、この例では、シクロデキストリンが抜け落ちるのを防ぐため、シクロデキストリンのモノマーの両端をストッパで終端させている。
【非特許文献1】Macromolecules 2004, 37, p.3962−p.3964
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, p.3456−p.3460
【非特許文献3】津田進ら、「ロタキサンをモノマーユニットとする高被覆共役ポリマーの合成」、第25回シクロデキストリンシンポジウムプログラム、P58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術の一例として挙げた非特許文献1では、隣接するシクロデキストリン同士の結合を弱めるために、シクロデキストリンの水酸基をメチル化していることで、シクロデキストリンの包接能が弱まるという課題を有していた。また、非特許文献2では、共役分子にイオン性の官能基を導入していることで、共役分子の電子状態が変化し、導電特性や光学特性が変化してしまうという課題を有していた。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、包接能が弱い環状分子でも共役分子を被覆し、共役分子にイオン性の官能基を含有しない被覆共役分子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の実施形態の被覆共役分子は、環状分子と共役分子と接続部によって構成され、前記環状分子と前記共役分子とが前記接続部によって結合され、前記共役分子が前記環状分子を貫通した状態で包接され、前記環状分子がシクロデキストリンあるいはその誘導体であり、前記共役分子がチオフェンあるいはその誘導体で、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基などのイオン性の官能基を含有しないことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第一の実施形態の被覆共役ポリマーは、前記被覆共役分子が重合されたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の第一の実施形態の被覆共役ポリマーの製造方法は、前記環状分子が前記共役分子に結合する第一のステップと、前記第一のステップの後、前記環状分子が前記共役分子を包接することで、前記被覆共役分子を作製する第二ステップと、前記第二のステップの後、前記被覆共役分子を重合する第三のステップによって構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の被覆共役分子によれば、環状分子を共役分子と結合させ、自己包接を利用することで、包接能が弱い環状分子でも共役分子を被覆できる。また、共役分子が被覆されることで、溶解度が落ちないため、主鎖にイオン性の官能基を含有することなく、被覆共役分子を重合化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態1)
本実施の形態を図1に示す。図1(A)は、自己包接する前の本実施の形態の被覆共役分子を示したものである。共役分子1と2個の環状分子2とが接続部3によって結合されている。図1(B)は、自己包接した後の本実施の形態の被覆共役分子を示したものである。共役分子1と2個の環状分子2とが接続部3によって結合された状態で、共役分子1が2個の環状分子2によって被覆されている。
【0014】
共役分子1は、π電子共役鎖(以下、π共役鎖とする)を有する。π共役鎖とは、芳香族化合物や、縮合多環芳香族化合物や、共役二重結合などが、1種類または複数種連結された構造を指す。このようなπ共役鎖を用いることによって、導電性や発光特性の機能を有し、電子デバイスや発光デバイスなどの用途に適用できる。また、共役分子1は、イオン性官能基を含有しない。ここで、イオン性官能基とは、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基などを指す。環状分子2は、共役分子1を貫通させることが可能な環状構造を有する。このような構造を有することで、共役分子1を被覆させることが可能となる。このような環状構造として、シクロデキストリンやマクロサイクルなどが挙げられる。接続部3によって、共役分子1と環状分子2とが結合している。この結合によって、包接能が弱い環状分子でも、自己包接によって、共役分子1を被覆させることが可能となる。このようにして、被覆共役分子を生成する。なお、本実施の形態では、環状分子を2個用いたが、共役分子を被覆することができれば、1個でも構わない。
【0015】
被覆共役分子を重合反応することで、被覆共役ポリマーを生成することができる。ポリマーは溶媒に可溶なため、溶液プロセスを用いて、有機薄膜を形成することが可能である。ただし、従来例の場合、共役分子1が重合反応によって、共役鎖が長くなると、溶解度が落ちてしまうため、イオン性官能基を導入しなければいけない。共役分子にイオン性の官能基を導入することで、共役分子の電子状態が変化し、導電特性や光学特性が変化してしまう。また、イオン部位が水和するので、導電性に影響を与えてしまう。しかし、本実施の形態の被覆共役分子は、溶媒に可溶な環状分子2によって被覆されており、共役鎖が長くなっても、溶解度が落ちないため、イオン性官能基を含有する必要がない。また、環状分子2を疎水性にすることで、溶媒は水だけに限定されず、有機溶媒にも可溶になる。
【0016】
環状分子2にシクロデキストリンを用いた場合、シクロデキストリン同士の水酸基による水素結合によって凝集する。共役分子1が環状分子2と結合していない従来例の場合、シクロデキストリンが主鎖上に沿って自由に動けるため、シクロデキストリン自体が凝集する。このような凝集によって、ポリマーの溶解度が落ちてしまう。そのため、シクロデキストリンの水酸基をメチル化したものであるメチル化シクロデキストリンを用いるが、メチル化シクロデキストリンでは包接能が弱くなってしまう。しかし、本実施の形態の被覆共役分子は、前述したように、自己包接を利用することで、包接能が弱い環状分子2でも共役分子1を被覆させることができる。また、環状分子2は、共役分子1と結合しているため、環状分子2が自由に動けないため、それ自体が凝集することはない。このように、ポリマーの溶解度を落とさず、被覆共役分子を重合反応することが可能となる。
【0017】
共役分子1が環状分子2と結合していない従来例の場合、シクロデキストリンが主鎖上に沿って自由に動けるため、シクロデキストリンが抜け落ちないように、共役分子1をストッパで終端させる必要があった。ストッパで終端された部分には、シクロデキストリンで被覆できないため、被覆率が低下してしまう。しかし、本実施の形態の被覆共役分子は、環状分子2が共役分子1と結合しているため、ストッパが必要ないため、被覆率が低下しない。また、共役分子の両端に化学反応点を残した状態で合成することができ、生成したポリマーをさらに化学的に修飾することが可能となる。
【0018】
以上説明したように、本発明の第一の実施形態の共役分子とそれを被覆する環状分子とが結合することによって、包接能が弱い環状分子でも自己包接によって、被覆共役分子を生成することが可能となる。また、その被覆共役分子を重合反応する際、被覆されているので、ポリマーの溶解度が落ちない。このため、共役分子にイオン性官能基を含有する必要がなく、被覆共役ポリマーを生成することが可能となる。
【0019】
以下、本実施の形態の被覆共役分子および被覆共役ポリマーに関する実施例1,2および比較例について説明する。それらの合成のスキームを図2に示す。なお、本実施例および比較例では、共役分子としてチオフェンを、環状分子としてメチル化βシクロデキストリンを用いた。また、共役分子と環状分子とは、接続部であるエーテルによって結合されている。
【0020】
比較例は、環状分子が共役分子を自己包接した後、その両端をジチオフェンで終端することで、化合物5である被覆共役分子を生成し、それを重合反応することで、被覆共役ポリマーを生成しようとした。
【0021】
実施例1は、環状分子が共役分子を自己包接した後、化合物6である被覆共役分子を生成し、それを重合反応した。その後、ジアセチレンを環化させてポリチオフェンにして、被覆共役ポリマーを生成した。
【0022】
実施例2は、環状分子が共役分子を自己包接した後、化合物6の両端をジチオフェンで終端することで化合物5である被覆共役分子を生成し、それを重合反応することで、被覆共役分子を生成した。
【0023】
前駆体の合成方法について、図3を用いて説明する。
【0024】
テトラブロモ体である化合物8とメチル化βシクロデキストリンモノアルコールをDMF溶媒中で水素化ナトリウムと反応させ、化合物9を生成した。
【0025】
まず、比較例の前駆体の合成方法について説明する。化合物9をエチニルビチオフェンボラン酸と鈴木カップリングさせることで化合物3を生成した。その化合物3をNISと反応させ、両端のチオフェンのα位をヨウ素に置換することで、比較例1の前駆体である化合物11を生成した。次に、実施例1,2の前駆体の合成方法について説明する。化合物9をTIPSで保護されたエチニルビチオフェンボラン酸と鈴木カップリングさせると化合物12を得た。その化合物12の保護基を外すことで、実施例1,2の前駆体として用いる化合物13を生成した。
【0026】
(比較例)
図4,5を用いて、比較例を説明する。
【0027】
図4に比較例で用いた合成方法を示す。前駆体である化合物11を、水/メタノール1:1の混合溶媒中で、自己包接させることで、化合物14を生成する。その後、ビチオフェンボラン酸と鈴木カップリングをすることで、化合物14の両端をジチオフェンで終端させ、被覆共役分子である化合物5を生成しようとした。
【0028】
図5に化合物14のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。この図に示すように、前駆体である化合物14において、モノ、ジ、トリヨウ素化物が混在して生成してしまった。これら3種類の単離は困難であり、所望の化合物を得られなかった。したがって、比較例による被覆共役分子および被覆共役ポリマーの合成は困難であると判断した。
【0029】
(実施例1)
図6−8を用いて、実施例1を説明する。
【0030】
図6に実施例1で用いた合成方法を示す。前駆体である化合物13を、水/メタノール1:1の混合溶媒中で、自己包接させることで、被覆共役分子である化合物6を生成した。水/メタノール1:1の混合溶媒中に酢酸銅とピリジンを添加し、化合物6をエグリントンカップリングによって重合させ、化合物16を生成した。この後、Na2Sを用いてジアセチレン部位に環化反応させ、被覆共役ポリマーである化合物17を得た。
【0031】
図7に化合物6の芳香環部分のH−NMRスペクトルを示す。ジクロロメタン溶媒中に比べ、水/メタノール1:1の混合溶媒中では、aのHが高磁場シフトし、b,c,dのHが低磁場シフトしており、化合物6における自己包接を確認した。
【0032】
図8に化合物14のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。このスペクトルから、被覆共役分子6の4量体までの重合を確認した。
【0033】
(実施例2)
図9−11を用いて、実施例2を説明する。
【0034】
図9に実施例1で用いた合成方法を示す。前駆体である化合物13を、水/メタノール1:1の混合溶媒中で、自己包接させることで、化合物6を生成した。この化合物6の両端にブロモエチニルチオフェンとヘテロなジアセチレン結合を形成させ、化合物18を生成した。ここでジアセチレン部位をNa2Sで環化させ、被覆共役分子である化合物5を単離した。この化合物5をFeCl3で重合反応させ、被覆共役ポリマーである化合物15を合成した。
【0035】
図10に化合物18のROESY−NMR スペクトルを示す。環状分子のH3と共役分子のb, cのHとの相関が大きく、環状分子のH5と共役分子のd,aのHとの相関が大きく、化合物18における自己包接を確認した。
【0036】
図11に化合物6,18,5のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。化合物6から化合物18への反応において、スペクトルでの分子量の変化は、217であり、これは二つのブロモエチニルチオフェンの結合による増加212とほぼ一致した。また、化合物18から5への反応において、スペクトルから分子量の変化は、60であり、これはジアセチレンの環化反応による増加68とほぼ一致した。これらのことから、所望の分子が得られていることを確認した。
【0037】
以上、比較例のようにハロゲンの一種であるヨウ素置換反応を用いる方法では、所望の化合物を得ることが困難であったが、実施例1,2のように、アセチレンを用いる方法で、所望の化合物を得ることができた。また、本実施の形態の実施例について説明したが、上記合成方法に限るものではなく、同じ生成物が得られる反応であれば、いずれでも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかる被覆共役分子は、エレクトロニクスの分野において有機電子デバイスや有機発光デバイス等の機能性材料として有用である。例えば、RFIDやディスプレイの用途にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第一の実施形態を表した図
【図2】実施例1,2および比較例の化合物の合成スキームを表した図
【図3】実施例1,2および比較例で用いた前駆体の合成方法を表した図
【図4】比較例で用いた合成方法を表した図
【図5】比較例における化合物について、MALDI−TOFMSの解析結果を示す図
【図6】実施例1で用いた合成方法を表した図
【図7】実施例1における化合物について、1H−NMRの解析結果を示すグラフ
【図8】実施例1における化合物について、MALDI−TOFMSの解析結果を示すグラフ
【図9】実施例2で用いた合成方法を表した図
【図10】実施例2における化合物について、ROESY−NMRの解析結果を示すグラフ
【図11】実施例2における化合物について、MALDI−TOFMSの解析結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0040】
1 共役分子
2 環状分子
3 接続部
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆共役分子に関わり、特に有機電子デバイスまたは有機発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
環状構造を有する環状分子とその環状分子を貫通する共役分子とによって構成される被覆共役分子は、被覆分子と共役分子にそれぞれ独立した機能を付与させることが可能である。そのような被覆共役分子として、一つの分子内に複数のロタキサン構造を有するポリロタキサンが知られている。ポリロタキサンは、医療、薬品、エレクトロニクスなどの幅広い分野で応用が期待されている。
【0003】
ポリロタキサンの合成方法として、シクロデキストリンの環状構造の内側の疎水性と外側の親水性とを利用する方法が知られている。その一例では、シクロデキストリンと、水溶性の低い共役分子である2量体のチオフェンを水溶媒中に混合することで、疎水相互作用により、シクロデキストリンの環状構造の内側に、共役分子を挿入した後、重合化することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
上記のような合成方法では、ロタキサン構造を形成するシクロデキストリンの量の制御が困難であった。シクロデキストリンの量が多くなると、隣接するシクロデキストリン同士の水酸基による水素結合によって、ポリマーが凝集する。また、シクロデキストリンがポリマーの主鎖上に沿って自由に動けるので、シクロデキストリン自体が凝集する。このような凝集によって、ポリマーの溶解度が低下し、溶媒中におけるポリマー重合反応の進行が妨げられるという問題がある。このような問題を解決するため、シクロデキストリンの水酸基をメチル化することで、シクロデキストリン同士の結合を弱めることがなされている。
【0005】
また、シクロデキストリンに挿入される水溶性の低い共役分子の鎖長が長くなることで、ポリマーの溶解度が低下し、溶媒中におけるポリマー重合反応の進行が妨げられるという問題がある。このような問題を解決するため、共役分子にイオン性の官能基を導入することがなされている。その一例では、ポリパラフェニレンにカルボン酸を導入した水溶性のモノマーとシクロデキストリンに包接された疎水性のモノマーを交互に重合することが提案されている(非特許文献2)。また、この例では、シクロデキストリンが抜け落ちるのを防ぐため、シクロデキストリンのモノマーの両端をストッパで終端させている。
【非特許文献1】Macromolecules 2004, 37, p.3962−p.3964
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, p.3456−p.3460
【非特許文献3】津田進ら、「ロタキサンをモノマーユニットとする高被覆共役ポリマーの合成」、第25回シクロデキストリンシンポジウムプログラム、P58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術の一例として挙げた非特許文献1では、隣接するシクロデキストリン同士の結合を弱めるために、シクロデキストリンの水酸基をメチル化していることで、シクロデキストリンの包接能が弱まるという課題を有していた。また、非特許文献2では、共役分子にイオン性の官能基を導入していることで、共役分子の電子状態が変化し、導電特性や光学特性が変化してしまうという課題を有していた。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、包接能が弱い環状分子でも共役分子を被覆し、共役分子にイオン性の官能基を含有しない被覆共役分子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の実施形態の被覆共役分子は、環状分子と共役分子と接続部によって構成され、前記環状分子と前記共役分子とが前記接続部によって結合され、前記共役分子が前記環状分子を貫通した状態で包接され、前記環状分子がシクロデキストリンあるいはその誘導体であり、前記共役分子がチオフェンあるいはその誘導体で、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基などのイオン性の官能基を含有しないことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第一の実施形態の被覆共役ポリマーは、前記被覆共役分子が重合されたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の第一の実施形態の被覆共役ポリマーの製造方法は、前記環状分子が前記共役分子に結合する第一のステップと、前記第一のステップの後、前記環状分子が前記共役分子を包接することで、前記被覆共役分子を作製する第二ステップと、前記第二のステップの後、前記被覆共役分子を重合する第三のステップによって構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の被覆共役分子によれば、環状分子を共役分子と結合させ、自己包接を利用することで、包接能が弱い環状分子でも共役分子を被覆できる。また、共役分子が被覆されることで、溶解度が落ちないため、主鎖にイオン性の官能基を含有することなく、被覆共役分子を重合化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態1)
本実施の形態を図1に示す。図1(A)は、自己包接する前の本実施の形態の被覆共役分子を示したものである。共役分子1と2個の環状分子2とが接続部3によって結合されている。図1(B)は、自己包接した後の本実施の形態の被覆共役分子を示したものである。共役分子1と2個の環状分子2とが接続部3によって結合された状態で、共役分子1が2個の環状分子2によって被覆されている。
【0014】
共役分子1は、π電子共役鎖(以下、π共役鎖とする)を有する。π共役鎖とは、芳香族化合物や、縮合多環芳香族化合物や、共役二重結合などが、1種類または複数種連結された構造を指す。このようなπ共役鎖を用いることによって、導電性や発光特性の機能を有し、電子デバイスや発光デバイスなどの用途に適用できる。また、共役分子1は、イオン性官能基を含有しない。ここで、イオン性官能基とは、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基などを指す。環状分子2は、共役分子1を貫通させることが可能な環状構造を有する。このような構造を有することで、共役分子1を被覆させることが可能となる。このような環状構造として、シクロデキストリンやマクロサイクルなどが挙げられる。接続部3によって、共役分子1と環状分子2とが結合している。この結合によって、包接能が弱い環状分子でも、自己包接によって、共役分子1を被覆させることが可能となる。このようにして、被覆共役分子を生成する。なお、本実施の形態では、環状分子を2個用いたが、共役分子を被覆することができれば、1個でも構わない。
【0015】
被覆共役分子を重合反応することで、被覆共役ポリマーを生成することができる。ポリマーは溶媒に可溶なため、溶液プロセスを用いて、有機薄膜を形成することが可能である。ただし、従来例の場合、共役分子1が重合反応によって、共役鎖が長くなると、溶解度が落ちてしまうため、イオン性官能基を導入しなければいけない。共役分子にイオン性の官能基を導入することで、共役分子の電子状態が変化し、導電特性や光学特性が変化してしまう。また、イオン部位が水和するので、導電性に影響を与えてしまう。しかし、本実施の形態の被覆共役分子は、溶媒に可溶な環状分子2によって被覆されており、共役鎖が長くなっても、溶解度が落ちないため、イオン性官能基を含有する必要がない。また、環状分子2を疎水性にすることで、溶媒は水だけに限定されず、有機溶媒にも可溶になる。
【0016】
環状分子2にシクロデキストリンを用いた場合、シクロデキストリン同士の水酸基による水素結合によって凝集する。共役分子1が環状分子2と結合していない従来例の場合、シクロデキストリンが主鎖上に沿って自由に動けるため、シクロデキストリン自体が凝集する。このような凝集によって、ポリマーの溶解度が落ちてしまう。そのため、シクロデキストリンの水酸基をメチル化したものであるメチル化シクロデキストリンを用いるが、メチル化シクロデキストリンでは包接能が弱くなってしまう。しかし、本実施の形態の被覆共役分子は、前述したように、自己包接を利用することで、包接能が弱い環状分子2でも共役分子1を被覆させることができる。また、環状分子2は、共役分子1と結合しているため、環状分子2が自由に動けないため、それ自体が凝集することはない。このように、ポリマーの溶解度を落とさず、被覆共役分子を重合反応することが可能となる。
【0017】
共役分子1が環状分子2と結合していない従来例の場合、シクロデキストリンが主鎖上に沿って自由に動けるため、シクロデキストリンが抜け落ちないように、共役分子1をストッパで終端させる必要があった。ストッパで終端された部分には、シクロデキストリンで被覆できないため、被覆率が低下してしまう。しかし、本実施の形態の被覆共役分子は、環状分子2が共役分子1と結合しているため、ストッパが必要ないため、被覆率が低下しない。また、共役分子の両端に化学反応点を残した状態で合成することができ、生成したポリマーをさらに化学的に修飾することが可能となる。
【0018】
以上説明したように、本発明の第一の実施形態の共役分子とそれを被覆する環状分子とが結合することによって、包接能が弱い環状分子でも自己包接によって、被覆共役分子を生成することが可能となる。また、その被覆共役分子を重合反応する際、被覆されているので、ポリマーの溶解度が落ちない。このため、共役分子にイオン性官能基を含有する必要がなく、被覆共役ポリマーを生成することが可能となる。
【0019】
以下、本実施の形態の被覆共役分子および被覆共役ポリマーに関する実施例1,2および比較例について説明する。それらの合成のスキームを図2に示す。なお、本実施例および比較例では、共役分子としてチオフェンを、環状分子としてメチル化βシクロデキストリンを用いた。また、共役分子と環状分子とは、接続部であるエーテルによって結合されている。
【0020】
比較例は、環状分子が共役分子を自己包接した後、その両端をジチオフェンで終端することで、化合物5である被覆共役分子を生成し、それを重合反応することで、被覆共役ポリマーを生成しようとした。
【0021】
実施例1は、環状分子が共役分子を自己包接した後、化合物6である被覆共役分子を生成し、それを重合反応した。その後、ジアセチレンを環化させてポリチオフェンにして、被覆共役ポリマーを生成した。
【0022】
実施例2は、環状分子が共役分子を自己包接した後、化合物6の両端をジチオフェンで終端することで化合物5である被覆共役分子を生成し、それを重合反応することで、被覆共役分子を生成した。
【0023】
前駆体の合成方法について、図3を用いて説明する。
【0024】
テトラブロモ体である化合物8とメチル化βシクロデキストリンモノアルコールをDMF溶媒中で水素化ナトリウムと反応させ、化合物9を生成した。
【0025】
まず、比較例の前駆体の合成方法について説明する。化合物9をエチニルビチオフェンボラン酸と鈴木カップリングさせることで化合物3を生成した。その化合物3をNISと反応させ、両端のチオフェンのα位をヨウ素に置換することで、比較例1の前駆体である化合物11を生成した。次に、実施例1,2の前駆体の合成方法について説明する。化合物9をTIPSで保護されたエチニルビチオフェンボラン酸と鈴木カップリングさせると化合物12を得た。その化合物12の保護基を外すことで、実施例1,2の前駆体として用いる化合物13を生成した。
【0026】
(比較例)
図4,5を用いて、比較例を説明する。
【0027】
図4に比較例で用いた合成方法を示す。前駆体である化合物11を、水/メタノール1:1の混合溶媒中で、自己包接させることで、化合物14を生成する。その後、ビチオフェンボラン酸と鈴木カップリングをすることで、化合物14の両端をジチオフェンで終端させ、被覆共役分子である化合物5を生成しようとした。
【0028】
図5に化合物14のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。この図に示すように、前駆体である化合物14において、モノ、ジ、トリヨウ素化物が混在して生成してしまった。これら3種類の単離は困難であり、所望の化合物を得られなかった。したがって、比較例による被覆共役分子および被覆共役ポリマーの合成は困難であると判断した。
【0029】
(実施例1)
図6−8を用いて、実施例1を説明する。
【0030】
図6に実施例1で用いた合成方法を示す。前駆体である化合物13を、水/メタノール1:1の混合溶媒中で、自己包接させることで、被覆共役分子である化合物6を生成した。水/メタノール1:1の混合溶媒中に酢酸銅とピリジンを添加し、化合物6をエグリントンカップリングによって重合させ、化合物16を生成した。この後、Na2Sを用いてジアセチレン部位に環化反応させ、被覆共役ポリマーである化合物17を得た。
【0031】
図7に化合物6の芳香環部分のH−NMRスペクトルを示す。ジクロロメタン溶媒中に比べ、水/メタノール1:1の混合溶媒中では、aのHが高磁場シフトし、b,c,dのHが低磁場シフトしており、化合物6における自己包接を確認した。
【0032】
図8に化合物14のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。このスペクトルから、被覆共役分子6の4量体までの重合を確認した。
【0033】
(実施例2)
図9−11を用いて、実施例2を説明する。
【0034】
図9に実施例1で用いた合成方法を示す。前駆体である化合物13を、水/メタノール1:1の混合溶媒中で、自己包接させることで、化合物6を生成した。この化合物6の両端にブロモエチニルチオフェンとヘテロなジアセチレン結合を形成させ、化合物18を生成した。ここでジアセチレン部位をNa2Sで環化させ、被覆共役分子である化合物5を単離した。この化合物5をFeCl3で重合反応させ、被覆共役ポリマーである化合物15を合成した。
【0035】
図10に化合物18のROESY−NMR スペクトルを示す。環状分子のH3と共役分子のb, cのHとの相関が大きく、環状分子のH5と共役分子のd,aのHとの相関が大きく、化合物18における自己包接を確認した。
【0036】
図11に化合物6,18,5のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。化合物6から化合物18への反応において、スペクトルでの分子量の変化は、217であり、これは二つのブロモエチニルチオフェンの結合による増加212とほぼ一致した。また、化合物18から5への反応において、スペクトルから分子量の変化は、60であり、これはジアセチレンの環化反応による増加68とほぼ一致した。これらのことから、所望の分子が得られていることを確認した。
【0037】
以上、比較例のようにハロゲンの一種であるヨウ素置換反応を用いる方法では、所望の化合物を得ることが困難であったが、実施例1,2のように、アセチレンを用いる方法で、所望の化合物を得ることができた。また、本実施の形態の実施例について説明したが、上記合成方法に限るものではなく、同じ生成物が得られる反応であれば、いずれでも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかる被覆共役分子は、エレクトロニクスの分野において有機電子デバイスや有機発光デバイス等の機能性材料として有用である。例えば、RFIDやディスプレイの用途にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第一の実施形態を表した図
【図2】実施例1,2および比較例の化合物の合成スキームを表した図
【図3】実施例1,2および比較例で用いた前駆体の合成方法を表した図
【図4】比較例で用いた合成方法を表した図
【図5】比較例における化合物について、MALDI−TOFMSの解析結果を示す図
【図6】実施例1で用いた合成方法を表した図
【図7】実施例1における化合物について、1H−NMRの解析結果を示すグラフ
【図8】実施例1における化合物について、MALDI−TOFMSの解析結果を示すグラフ
【図9】実施例2で用いた合成方法を表した図
【図10】実施例2における化合物について、ROESY−NMRの解析結果を示すグラフ
【図11】実施例2における化合物について、MALDI−TOFMSの解析結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0040】
1 共役分子
2 環状分子
3 接続部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子と共役分子と接続部とによって構成され、
前記環状分子と前記共役分子とが前記接続部によって結合され、
前記共役分子が前記環状分子を貫通した状態で包接されている
ことを特徴とする被覆共役分子。
【請求項2】
請求項1に記載の前記被覆共役分子が重合されたことを特徴とする被覆共役ポリマー。
【請求項3】
請求項1に記載の前記被覆共役分子において、
前記環状分子がシクロデキストリンあるいはその誘導体であり、
前記共役分子がチオフェンあるいはその誘導体であり、かつ、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基を含有しないことを特徴とする被覆共役分子。
【請求項4】
請求項2に記載の前記被覆共役ポリマーにおいて、請求項3に記載の被覆分子を用いることを特徴とする被覆共役ポリマー。
【請求項5】
前記環状分子が前記共役分子に結合する第一のステップと、
前記第一のステップの後、前記環状分子が前記共役分子を包接することで、請求項1に記載の前記被覆共役分子を作製する第二ステップと、
前記第二のステップの後、請求項3に記載の前記被覆共役分子を重合する第三のステップによって構成されることを特徴とする請求項4に記載の被覆共役ポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の前記第二ステップにおいて、前記共役分子の両端をアセチレンにし、
前記第三ステップにおいて、アセチレン結合によって前記被覆共役分子を重合した後、ジアセチレンを環化しチオフェンにすることを特徴とする請求項4に記載の被覆共役ポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の前記第二ステップにおいて、両端がアセチレンである前記共役分子をブロモエチニルチオフェンで終端した後、ジアセチレンを環化しチオフェンにすることを特徴とする請求項4に記載の被覆共役ポリマーの製造方法。
【請求項1】
環状分子と共役分子と接続部とによって構成され、
前記環状分子と前記共役分子とが前記接続部によって結合され、
前記共役分子が前記環状分子を貫通した状態で包接されている
ことを特徴とする被覆共役分子。
【請求項2】
請求項1に記載の前記被覆共役分子が重合されたことを特徴とする被覆共役ポリマー。
【請求項3】
請求項1に記載の前記被覆共役分子において、
前記環状分子がシクロデキストリンあるいはその誘導体であり、
前記共役分子がチオフェンあるいはその誘導体であり、かつ、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基を含有しないことを特徴とする被覆共役分子。
【請求項4】
請求項2に記載の前記被覆共役ポリマーにおいて、請求項3に記載の被覆分子を用いることを特徴とする被覆共役ポリマー。
【請求項5】
前記環状分子が前記共役分子に結合する第一のステップと、
前記第一のステップの後、前記環状分子が前記共役分子を包接することで、請求項1に記載の前記被覆共役分子を作製する第二ステップと、
前記第二のステップの後、請求項3に記載の前記被覆共役分子を重合する第三のステップによって構成されることを特徴とする請求項4に記載の被覆共役ポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の前記第二ステップにおいて、前記共役分子の両端をアセチレンにし、
前記第三ステップにおいて、アセチレン結合によって前記被覆共役分子を重合した後、ジアセチレンを環化しチオフェンにすることを特徴とする請求項4に記載の被覆共役ポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の前記第二ステップにおいて、両端がアセチレンである前記共役分子をブロモエチニルチオフェンで終端した後、ジアセチレンを環化しチオフェンにすることを特徴とする請求項4に記載の被覆共役ポリマーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−270072(P2009−270072A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124300(P2008−124300)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]