説明

被覆用組成物

【課題】粉体塗料を上塗り塗料とした場合でも均一な塗装を実現し、上塗り塗膜のピンホールを抑制できる被覆用組成物を提供する。
【解決手段】含フッ素重合体、耐熱樹脂及び水溶性無機塩を含み、含フッ素重合体は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、かつ、平均粒子径が0.01〜5μmであり、耐熱樹脂は、平均粒子径が0.1〜10.0μmであり、耐熱樹脂と含フッ素重合体との固形分質量比が15:85〜50:50であり、水溶性無機塩は、含フッ素重合体及び耐熱樹脂の合計固形分に対して0.0001〜10質量%であることを特徴とする被覆用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕等の含フッ素重合体は、耐熱性、電気絶縁性等の特性に優れ、その成形体が低摩擦係数を有し、非粘着性にも優れている。この表面特性は、耐薬品性、撥水撥油性、離型性、摺動性等を発揮する。
【0003】
含フッ素重合体は、このような性質を有するので、例えば、被覆用の組成物に調製し、被塗装物上に塗装して含フッ素重合体からなる塗膜を設けることにより、成形金型離型材、オフィスオートメーション〔OA〕機器用ロール、アイロン等の家庭用品、フライパンやホットプレート等の厨房器具、食品工業、電気工業、機械工業等の分野で幅広い用途がある。
【0004】
含フッ素重合体は、一方、その非粘着性により被塗装物との密着性に乏しい問題があった。この密着性の向上を目的として、耐熱樹脂等のバインダー樹脂と含フッ素重合体とを配合したプライマーを下塗りとして予め被塗装物上に塗装することが行われている。
【0005】
含フッ素重合体と耐熱樹脂とを含む水性プライマーとしては、含フッ素重合体、コロイド状シリカ及び特定のポリアミド酸及び液状担体を含有する被覆組成物(例えば、特許文献1参照。)、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド、並びに、PTFE等のフッ素樹脂を特定の含有量比で有するもの(例えば、特許文献2参照。)、耐熱樹脂、含フッ素重合体及び特定量の非アルキルフェノール型ノニオン界面活性剤を含有する水性分散体からなる被覆用組成物(例えば、特許文献3参照。)等が挙げられる。
【0006】
しかしながら、これら水性プライマーから形成された下塗り塗膜上に粉体塗料を塗布すると、粉体同士の静電反発により均一な塗布が難しく、塗膜にピンホールが発生する問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開昭52−14630号公報
【特許文献2】国際公開第99/64523号パンフレット
【特許文献3】特開2004−204073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、粉体塗料を上塗り塗料とした場合でも上塗り塗膜のピンホールを抑制できる被覆用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、含フッ素重合体、耐熱樹脂、及び、水溶性無機塩を含み、上記含フッ素重合体は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、かつ、平均粒子径が0.01〜5μmであり、上記耐熱樹脂は、平均粒子径が0.1〜10.0μmであり、上記耐熱樹脂と上記含フッ素重合体との固形分質量比が15:85〜50:50であり、上記水溶性無機塩は、上記耐熱樹脂及び上記含フッ素重合体の合計固形分に対して0.0001〜10質量%であることを特徴とする被覆用組成物である。
【0010】
本発明は、上記被覆用組成物を塗装することにより得られることを特徴とする被覆物品である。
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の被覆用組成物は、含フッ素重合体、耐熱樹脂、及び、水溶性無機塩を含む。
【0013】
(水溶性無機塩)
本発明の被覆用組成物は、水溶性無機塩を含むことから、上塗りの粉体塗料の静電反発を防止することが可能でピンホールのない塗膜を得ることができる。
【0014】
粉体塗料は、一般にプライマー塗膜上に静電塗装により塗布される。静電塗装では粉体粒子が基材及びプライマー塗膜と反対の静電気を帯びプライマー塗膜に付着するので、印加電圧が高いほどプライマー塗膜によく付着する傾向がある。プライマー塗膜の導電性が低いと粒子が付着しにくくなり、粒子同士の静電反発の影響が相対的に大きくなってピンホールが発生しやすくなるという問題があった。
【0015】
上記水溶性無機塩は本発明の被覆用組成物から形成される塗膜に導電性を付与する役割を果たすものと考えられる。従って、本発明の被覆用組成物をプライマーとして使用すると、形成されるプライマー塗膜は優れた導電性を有するため、粉体塗料から形成される上塗り塗膜にピンホールが発生しにくい。
【0016】
上記水溶性無機塩は、無機金属塩又は無機アンモニウム塩であることが好ましい。
【0017】
上記無機金属塩としては、例えば、金属塩化物、金属臭化物、金属硫酸塩、金属クロム酸塩等が挙げられ、より具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。上記無機アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0018】
上記水溶性無機塩は、含フッ素重合体及び耐熱樹脂の合計固形分に対して0.0001〜10質量%である。0.0001質量%未満であると、水溶性無機塩添加による効果が得られず、10質量%を超えると、塗膜の耐食性が低下したり、含有量に応じた効果が得られなかったりする。
【0019】
上記「含フッ素重合体及び耐熱樹脂の合計固形分」は、被覆用組成物を80〜100℃の温度で乾燥し、380〜400℃で45分間焼成した後の残渣の質量として求めたものである。
【0020】
(含フッ素重合体)
本発明の被覆用組成物は、含フッ素重合体を含有するものであるので、耐熱性や強度に優れることに加え、フッ素樹脂を含有する塗料を塗装して上塗り塗膜を形成させた場合、該上塗り塗膜との密着性に優れた塗膜を得ることができる。
【0021】
上記含フッ素重合体は、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕及びTFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0022】
上記PTFEは、非溶融加工性であれば、TFE単独重合体であってもよいし、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕であってもよい。
【0023】
本明細書において、上記非溶融加工性とは、ASTM D−1238及びD−2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローを測定できない性質を意味する。
【0024】
上記変性PTFEは、TFEと、TFEと共重合可能な微量の単量体との共重合体であって溶融成形できないものである。上記微量の単量体としては、例えば、フルオロオレフィン、フッ素化(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体、パーフルオロアルキルエチレン等が挙げられる。
【0025】
上記フルオロオレフィンとしては、例えば、HFP等のパーフルオロオレフィンが挙げられる。
【0026】
上記フッ素化(アルキルビニルエーテル)としては、例えば、PAVEが挙げられ、上記PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕等が挙げられる。
【0027】
上記微量の単量体に由来する微量単量体単位は、変性PTFEを構成する全単量体単位の0.001〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましい。
【0028】
本明細書において、上記微量単量体単位等の「単量体単位」は、含フッ素重合体の分子構造上の一部分であって、対応する単量体に由来する部分を意味する。上記微量の単量体に由来する微量単量体単位は、PTFE水性分散液を凝析、洗浄、乾燥して得られたファインパウダーについて赤外吸収スペクトル測定を行って得られる値である。
【0029】
上記FEPは、HFP単位が2質量%を超え、20質量%以下であることが好ましく、10〜15質量%であることがより好ましい。
【0030】
上記PFAにおけるPAVEとしては、炭素数1〜6のアルキル基を有するものが好ましく、PMVE、PEVE又はPPVEがより好ましい。上記PFAは、PAVE単位が2質量%を超え、5質量%以下であることが好ましく、2.5〜4.0質量%であることがより好ましい。
【0031】
上記HFP、PFAは、それぞれ上述の組成を有するものであれば、更に、その他の単量体を重合させたものであってよい。上記その他の単量体として、例えば、上記FEPである場合、更にPAVEが挙げられ、上記PFAである場合、更にHFPが挙げられる。上記その他の単量体は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
上記その他の単量体は、その種類によって異なるが、通常、含フッ素重合体の質量の1質量%以下であることが好ましい。より好ましい上限は0.5質量%であり、更に好ましい上限は0.3質量%である。
【0033】
本発明の被覆用組成物は、2種以上の含フッ素重合体を含有するものであってもよい。すなわち、上記含フッ素重合体として、PTFEとPFAとを含有させてもよいし、PTFEとFEPとを含有させてもよいし、PTFEとPFAとFEPとを含有させてもよい。
【0034】
上記含フッ素重合体は、PTFE、FEP、又は、PTFEとFEPとの混合物であることが好ましい。なかでも、耐熱性及び経済的理由からPTFEがより好ましい。
【0035】
上記含フッ素重合体は、平均粒子径が0.01〜5μmである。0.01μm未満であると、含フッ素重合体からなる粒子の機械的安定性が悪く、得られる被覆用組成物が機械的安定性及び貯蔵安定性に劣るおそれがある。5μmを超えると、含フッ素重合体からなる粒子の均一分散性に欠け、得られる被覆用組成物を用いて塗装する際、表面が平滑な塗膜が得られず、塗膜物性が劣る場合がある。より好ましい上限は0.5μmであり、より好ましい下限は0.05μmである。
【0036】
上記機械的安定性は、送液・再分散の際、ホモジナイザー等による強い攪拌や剪断力を与えても、再分散不可能な凝集体を生成しにくい性質のことである。
【0037】
本明細書において、上記含フッ素重合体の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡観察により測定したものである。
【0038】
(耐熱樹脂)
本発明の被覆用組成物は、耐熱樹脂を含有することにより、被塗装物との密着性に優れ、更に耐食性や耐水蒸気性が良い塗膜を得ることができる。
【0039】
上記耐熱樹脂は、150℃以上の温度で耐熱性を示すものである。上記耐熱樹脂は、一般に、アミド結合やイミド結合等、被塗装物との接着性を示す分子構造や官能基を有するので、被塗装物との接着性を示す。
【0040】
本発明の被覆用組成物は、含フッ素重合体と耐熱樹脂とが表面張力に差を有するゆえ、焼成すると含フッ素重合体が浮上するので、塗膜表面側に主として含フッ素重合体が配置し、被塗装物側に主として耐熱樹脂が配置した塗膜を形成する。
【0041】
上記耐熱樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂〔PAI〕、ポリイミド樹脂〔PI〕、ポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド〔PPS〕で代表されるポリアリレンサルファイド樹脂が挙げられる。本発明の被覆用組成物は、耐熱樹脂を1種含むものであってもよいし、2種以上含むものであってもよい。
【0042】
上記PAIは、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4−ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PAIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0043】
上記PIは、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PIとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0044】
上記PESは、下記式:
【0045】
【化1】

【0046】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。
【0047】
上記PESとしては特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールとの重縮合により得られる重合体からなる樹脂等が挙げられる。
【0048】
上記耐熱樹脂は、被塗装物との密着性を向上させることができ、この密着性を高温下においても維持することができる点で、PAI及びPIからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0049】
上記耐熱樹脂は、被塗装物との密着性に優れ、充分な耐熱性を有し、耐食性及び耐水蒸気性に優れた塗膜を得る点で、PESと、PAI及びPIからなる群より選択される少なくとも1種とであることがより好ましい。上記耐熱樹脂は、PES及びPAIの混合物であることが更に好ましい。
【0050】
本発明の被覆用組成物において、耐熱樹脂として、PESと、PAI及びPIからなる群より選択される少なくとも1種とを含有させる場合、上記PESとPAI及びPAIとの固形分質量比が85:15〜65:35であることが好ましい。上記PESが65質量%未満であると、被覆用組成物から得られる塗膜の耐水蒸気性が低下するおそれがあり、85質量%を超えると、塗膜の耐食性が低下するおそれがある。
【0051】
上記耐熱樹脂は、平均粒子径が0.1〜10μmである。上記耐熱樹脂の平均粒子径が上記範囲内であると、得られる塗膜の耐食性が良好である。
【0052】
本明細書において、上記耐熱樹脂の平均粒子径は、株式会社堀場製作所製超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700型を用いて測定したものである。
【0053】
本発明の被覆用組成物において、含フッ素重合体と耐熱樹脂との固形分質量比は、耐熱樹脂:含フッ素重合体=15:85〜50:50である。上記耐熱樹脂が上記含フッ素重合体と上記耐熱樹脂との合計固形分質量の15質量%未満であると、上記耐熱樹脂が少ないので、得られる塗膜と被塗装物との密着性が不充分となる。50質量%を超えると、上記含フッ素重合体が少ないので、上記塗膜と上塗り塗膜との密着性が不充分となる。
【0054】
上記固形分質量比は、耐熱樹脂:含フッ素重合体=15:85〜40:60であることが好ましく、耐熱樹脂:含フッ素重合体=20:80〜30:70であることがより好ましい。
【0055】
上記固形分質量比は、調製時に配合した含フッ素重合体と耐熱樹脂の量から算出したものである。
【0056】
(ノニオン界面活性剤)
本発明の被覆用組成物は、ノニオン界面活性剤を含有してもよい。本明細書において、ノニオン界面活性剤はフッ素を含有しない。
【0057】
上記ノニオン界面活性剤は、HLB値が11以下であることが好ましい。ノニオン界面活性剤のHLB値が11以下であると、機械的安定性、被塗装物への濡れ性や上塗りの含フッ素樹脂塗料の濡れ性に優れる。また、HLBが上記範囲内にあると、後述する含フッ素界面活性剤の含有量の低減化が可能となる。
【0058】
本明細書において、上記「HLB値」は、Griffinの算出方法に基づいて算出したものである。上記HLB値は、界面活性剤の分子構造に基づく固有の値であり、界面活性剤の親水性及び疎水性のバランスの指標であり、一般に、親水性が高いほど値が大きく、疎水性が高いほど値が小さい。
【0059】
上記ノニオン界面活性剤は、上記HLB値が11を超えると、含フッ素重合体からなる粒子が凝集しやすく、得られる被覆用組成物の機械的安定性が不充分となり、得られる被覆用組成物を被塗装物に塗装して乾燥した後、含フッ素重合体からなる上塗り塗料を塗装する場合、ハジキが発生し易い。
【0060】
上記HLB値は、上記範囲内であれば、得られる被覆用組成物の分散性を悪化させない点で、5以上であることがより好ましい。上記HLB値の更に好ましい下限は7であり、特に好ましい下限は9である。
【0061】
上記ノニオン界面活性剤は、分子構造中にアルキルフェノールに由来する分子構造部分を有していないノニオン界面活性剤であることが好ましい。
【0062】
上記ノニオン界面活性剤としては、例えば、下記一般式(I):
R−O−A−H (I)
(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8〜19の飽和若しくは不飽和の非環式脂肪族炭化水素基、又は、炭素数8〜19の飽和環式脂肪族炭化水素基を表す。Aは、オキシエチレン基を3〜25個及びオキシプロピレン基を0〜5個有するポリオキシアルキレン鎖を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0063】
本明細書において、上記一般式(I)における上記Rの炭素数、オキシエチレン基の個数及びオキシプロピレン基の個数は、上記ノニオン界面活性剤の各分子における値の平均である。
【0064】
上記非環式脂肪族炭化水素基は、環状構造を有していない脂肪族炭化水素基である。上記飽和環式脂肪族炭化水素基は、飽和環状構造を有している脂肪族炭化水素基である。上記飽和環式脂肪族炭化水素基は、炭素数の合計が8〜19であれば、飽和環状構造を1個又は2個以上有していてもよい。上記飽和環式脂肪族炭化水素基は、置換基を含めた炭素数の合計が8〜19であれば、飽和環状構造の炭素原子に結合している水素原子が直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基に置換されていてもよく、上記水素原子は、1個又は2個以上置換されていてもよい。
【0065】
上記一般式(I)における上記Rは、含フッ素重合体からなる粒子の分散性に優れ、得られる被覆用組成物が機械的安定性及び貯蔵安定性に優れる点から、炭素数の好ましい上限が16であり、より好ましい上限が14であり、好ましい下限が10である。上記Rは、炭素数が13であることが更に好ましい。上記Rは、炭素数が13の飽和の非環式脂肪族炭化水素基であることが特に好ましく、このようなものとしては、例えば、トリデシル基、イソトリデシル基等が挙げられる。
【0066】
上記一般式(I)におけるAに関し、上記オキシプロピレン基が5個を超えると、上記非アルキルフェノール型ノニオン界面活性剤の溶解力を低下させるので、含フッ素重合体からなる粒子の分散性を下げ、被覆用組成物の機械的安定性及び貯蔵安定性が劣るおそれがある。上記オキシプロピレン基は、少ないほど好ましく、好ましい上限は、3個である。上記オキシプロピレン基は、上記ポリオキシアルキレン鎖中に存在していないことがより好ましい。
【0067】
上記ポリオキシアルキレン鎖におけるオキシエチレン基数は、上記Rの炭素数にもよるが、好ましい上限が7個であり、より好ましい上限が6個である。
【0068】
上記ポリオキシアルキレン鎖は、上記オキシエチレン基が3〜7個であり、上記オキシプロピレン基が0〜3個であるものが好ましく、上記オキシエチレン基が3〜6個であり、上記オキシプロピレン基が存在していないものがより好ましい。
【0069】
上記一般式(I)における−O−と上記一般式(I)におけるAのポリオキシアルキレン鎖との結合は、ポリオキシアルキレン鎖における炭素原子が上記一般式(I)における−O−に隣接して結合する配向によるものであり、例えば、上記ポリオキシアルキレン鎖中のオキシエチレン基と−O−とが結合している場合、上記−O−と隣接するオキシエチレン基とは−O−(CHCHO)−で表される配向で結合している。
【0070】
本発明の被覆用組成物において、上記ノニオン界面活性剤として、1種又は2種以上のノニオン界面活性剤を用いることができる。この場合、そのHLB値は、各ノニオン界面活性剤のHLB値と混合割合とから算出することができる。
【0071】
本発明の被覆用組成物において、上記ノニオン界面活性剤は、含フッ素重合体及び耐熱樹脂の合計固形分に対し0.1〜10質量%であることが好ましい。上記ノニオン界面活性剤は、上記合計固形分に対して0.1質量%未満であると、得られる組成物中で含フッ素重合体からなる粒子が沈降しやすく、貯蔵安定性に劣る。10質量%を超えると、得られる組成物が粘度を増し、塗装作業性が悪くなる。好ましい上限は7質量%であり、より好ましい上限は5質量%である。
【0072】
上記「含フッ素重合体及び耐熱樹脂の合計固形分」は、被覆用組成物を80〜100℃の温度で乾燥し、380〜400℃で45分間焼成した後の残渣の質量として求めたものである。
【0073】
(含フッ素界面活性剤)
本発明の被覆用組成物は、含フッ素界面活性剤が含フッ素重合体に対して500ppm未満であってもよい。
【0074】
上記被覆用組成物は、含フッ素界面活性剤が含フッ素重合体の固形分質量に対し500ppm未満であっても、機械的安定性や被塗装物への濡れ性に優れている。
【0075】
上記含フッ素界面活性剤は、フッ素原子を有し、界面活性を示す化合物である。上記含フッ素界面活性剤としては、パーフルオロカルボン酸又はその塩、パーフルオロスルホン酸又はその塩等が挙げられ、なかでも、パーフルオロカルボン酸又はその塩であることが好ましい。上記パーフルオロカルボン酸としては、例えばパーフルオロオクタン酸等のパーフルオロアルキルカルボン酸が挙げられる。
【0076】
上記含フッ素界面活性剤は、回収等を目的とするうえで、上記含フッ素重合体の固形分質量に対し、200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。
【0077】
本明細書において、上記含フッ素界面活性剤の含有量は、得られた被覆組成物に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を以下の条件にて行うことにより求めた。なお、含フッ素界面活性剤濃度について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
【0078】
(測定条件)
カラム;ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
【0079】
本発明の被覆用組成物は、必要に応じ、その他の樹脂を含有するものであってもよい。上記その他の樹脂を配合することにより、被覆用組成物から得られる塗膜の造膜性、耐食性等を向上させることができる。
【0080】
上記その他の樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0081】
本発明の被覆用組成物は、塗装性、被覆用組成物から得られる塗膜の性質向上等を目的として、本発明の特徴を損なわない範囲で、更に一般的なコーティング用組成物に用いられる添加剤を配合してなるものであってもよい。
【0082】
上記添加剤としては特に限定されず、得られる被覆物品の用途に応じて選択することができ、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、木粉、石英砂、カーボンブラック、ダイヤモンド、トルマリン、ゲルマニウム、アルミナ、窒化珪素、蛍石、クレー、タルク、体質顔料、各種増量材、導電性フィラー、光輝材、顔料、充填材、顔料分散剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0083】
上記光輝材としては、例えば、マイカ、金属粉末、ガラスビーズ、ガラスバブル、ガラスフレーク、ガラス繊維等が挙げられる。
【0084】
上記金属粉末としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、鉄、すず、亜鉛、金、銀、銅等の金属単体の粉末;アルミニウム合金、ステンレス等の合金の粉末等が挙げられる。上記金属粉末の形状としては特に限定されず、例えば、粒子状、フレーク状等が挙げられる。本発明の被覆用組成物は、このような光輝材を含有する場合、優れた外観を有する塗膜を形成することができる。上記光輝材の含有量は、上記被覆用組成物の固形分に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
【0085】
上記粘度調節剤としては、例えば、メチルセルロース、アルミナゾルが挙げられる。
【0086】
本発明の被覆用組成物は、25℃における粘度が0.1〜50000mPa・sであることが好ましい。粘度が0.1mPa・s未満であると、被塗装物上への塗布時にタレ等を生じやすく、目的とする膜厚を得ることが困難となる場合があり、50000mPa・sを超えると、塗装作業性が悪くなる場合があり、得られる塗膜の膜厚が均一とならず、表面平滑性等に劣る場合がある。より好ましい下限は、1mPa・sであり、より好ましい上限は、30000mPa・sである。上記粘度は、BM型単一円筒型回転粘度計(東京計器社製)を用いて測定することにより得られる値である。
【0087】
本発明の被覆用組成物は、例えば、(1)含フッ素重合体水性分散液を調製した後、(2)得られた水性分散液に耐熱樹脂及び水溶性無機塩、必要に応じ、ノニオン界面活性剤、水性媒体、添加剤等を添加することにより得ることができる。
【0088】
上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水と有機溶剤との混合物、水等が挙げられる。上記有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン〔NMP〕、N、N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。上記水性媒体は水と有機溶剤との混合物であることが好ましい。
【0089】
上記(1)の工程では、乳化重合、懸濁重合等の従来公知の方法で含フッ素重合体を含有する水性分散体を得た後、該水性分散体について含フッ素界面活性剤を除去する操作を行うことにより含フッ素重合体水性分散液を調製してもよい。
【0090】
上記含フッ素界面活性剤を除去する操作としては、特に限定されず、陰イオン交換樹脂を接触させる操作、ノニオン界面活性剤を添加することよる相分離濃縮等の従来公知の操作が挙げられる。これらの操作において、得られる含フッ素重合体水性分散液を安定させる目的で、上述のノニオン界面活性剤を必要に応じ添加してもよい。
【0091】
上記含フッ素重合体水性分散液は、上記含フッ素重合体の含有量が35〜70質量%であることが好ましい。より好ましい下限は40質量%であり、より好ましい上限は65質量%である。
【0092】
上記含フッ素重合体水性分散液における含フッ素重合体の含有量は、水性分散液1gを送風乾燥機中で100℃、1時間、さらに300℃、1時間の条件で乾燥した際における、該水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表したものである。
【0093】
上記含フッ素重合体水性分散液において、上記含フッ素界面活性剤は、上記含フッ素重合体の固形分質量に対し500ppm以下であってもよい。上記含フッ素界面活性剤は、上記含フッ素重合体の固形分質量に対し、200ppm以下としてもよく、100ppm以下としてもよい。
【0094】
上記含フッ素重合体水性分散液における含フッ素界面活性剤の含有量は、得られた含フッ素重合体水性分散液に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を以下の条件にて行うことにより求めることができる。なお、含フッ素界面活性剤濃度について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
【0095】
(測定条件)
カラム;ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
【0096】
上記含フッ素重合体水性分散液において、上記ノニオン界面活性剤は、上記含フッ素重合体の固形分に対し1〜9質量%であることが好ましい。より好ましい下限は3質量%であり、より好ましい上限が7質量%である。
【0097】
上記含フッ素重合体水性分散液におけるノニオン界面活性剤の含有量(N)は、試料約1g(Xg)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、得られた加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:N=[(Y−Z)/Z]×100(%)から算出したものである。
【0098】
上記(2)の工程において、工程(1)で得られた水性分散液に耐熱樹脂及び水溶性無機塩、必要に応じ、ノニオン界面活性剤、水性媒体、添加剤等を添加する。上記耐熱樹脂は、予め耐熱樹脂を含有する水性分散液として、上述の含フッ素重合体水性分散液に配合するものであってもよい。
【0099】
上記(2)の工程において、更に、その他の樹脂や添加剤を必要に応じ加えてよい。
【0100】
本発明の被覆用組成物は、含フッ素重合体の固形分が35〜70質量%であり、ノニオン界面活性剤が上記含フッ素重合体の固形分に対し1〜9質量%である含フッ素重合体水性分散液に、耐熱樹脂を添加することにより得られるものであることが好ましい。
【0101】
本発明の被覆用組成物は、被塗装物に塗装することにより、上記被塗装物上に塗膜を形成することができるものである。本明細書において、上記被覆用組成物についての「塗装」とは、上記被覆用組成物を塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することよりなる工程を意味する。
【0102】
本発明の被覆用組成物は、例えば、プライマー組成物とすることができる。上記被覆用組成物は、プライマー組成物とする場合、被塗装物との密着性に加え、上塗り塗膜との密着性が良い塗膜を形成することができる。
【0103】
本発明の被覆用組成物をプライマー組成物とする場合、得られる塗膜上に塗装する上塗り塗料としては、フッ素樹脂を含有する塗料が好ましい。この場合、上記塗膜は、上述のように塗膜表面側に配向している含フッ素重合体が上塗り塗膜中の含フッ素重合体と親和性を示すゆえ、上塗り塗膜との間に優れた密着性を示す。
【0104】
本発明の被覆用組成物から得られる塗膜は、上記被覆用組成物を被塗装物上に塗布し、乾燥することにより塗布膜を得た後、更に必要に応じ焼成することにより形成することができる。
【0105】
上記被塗装物としては特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属単体及びこれらの合金類等の金属;ホーロー、ガラス、セラミックス等の非金属無機材料が挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。
【0106】
上記被塗装物は、上記被覆用組成物を均一に塗布することができる点、及び、被塗装物との密着性が向上する点で、予め脱脂処理、粗面化処理等の表面処理を行うことが好ましい。上記粗面化処理の方法としては特に限定されず、酸又はアルカリによるケミカルエッチング、陽極酸化(アルマイト処理)、サンドブラスト等が挙げられる。
【0107】
上記塗布の方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられる。
【0108】
上記乾燥は、従来公知の方法により行うことができるが、60〜200℃の温度で5〜60分間行うことが好ましい。
【0109】
上記塗布膜は、通常、上記上塗り塗料を塗布する前に焼成を行わないが、必要に応じて焼成を行ってもよい。上記上塗り塗料を塗布する前の焼成は、工程の簡略化や、エネルギー、労力、時間等の低減を図ることができる点で、行わないことが好ましい。
【0110】
上記上塗り塗膜は、例えば、上記塗布膜上又は上記塗膜上に上塗り塗料を塗布し、次いで焼成することにより形成させることができる。
【0111】
上記上塗り塗料における含フッ素重合体としては特に限定されず、例えば、PTFE、PFA、FEP等が挙げられるが、上記塗膜と上塗り塗膜との層間密着性を向上させる点から、本発明の被覆用組成物における上記含フッ素重合体と同じもの、又は、溶融加工性の有無等の性質が類似するものが好ましい。
【0112】
上記上塗り塗料としては、主成分がPTFEであるPTFE系塗料、主成分がPFAであるPFA系塗料、主成分がFEPであるFEP系塗料等が挙げられる。
【0113】
上記上塗り塗料は、塗装性、得られる塗膜の性質向上等を目的として、更に、上述の被覆用組成物に用い得る各種添加剤と同様の添加剤を配合してなるものであってもよい。
【0114】
上記上塗り塗料は、主成分がPFA又はFEPである場合、粉体塗料とすることができる。
【0115】
上記上塗り塗料の塗布の方法としては、粉体塗料である場合、静電スプレー塗装、流動浸漬塗装、ロトライニング法等が挙げられる。
【0116】
上記上塗り塗料を塗布した後の焼成は、それぞれ上述の被覆用組成物を塗布、乾燥した後に行う焼成と同様の条件で行うことができる。
【0117】
本発明の被覆用組成物から得られる塗膜及び上記上塗り塗膜の各膜厚は、特に限定されないが、上記塗膜の膜厚が1〜100μmであり、上記上塗り塗膜の膜厚が10〜200μmであることが好ましい。
【0118】
本発明の被覆用組成物の用途としては、特に限定されず、例えば、基材表面に耐熱性、非粘着性、滑り性等を要する製品の被覆材として適用することができる。
【0119】
このような用途として、例えば、フライパン、グリル鍋、圧力鍋、その他の各種鍋、炊飯器、餅つき器、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル等の調理器具;電気ポット、製氷トレー等の飲食用容器;練りロール、圧延ロール、コンベアホッパー等の食品工業用部品;オフィスオートメーション機器〔OA〕用ロール、OA用ベルト、OA用分離爪、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;発泡スチロール成形用等の金型、合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型;レンジフード等の厨房用品;コンベアーベルト等の冷凍食品製造装置;のこぎり、やすり等の工具;アイロン、鋏等の家庭用品;金属箔;食品加工機、包装機、紡繊機械等のすべり軸受;カメラ・時計の摺動部品;自動車部品が挙げられる。
【0120】
以上に例示した、上記被覆用組成物を塗装することにより得られる被覆物品もまた、本発明の一つである。
【発明の効果】
【0121】
本発明の被覆用組成物は、上述の構成を有するので、上塗りの粉体塗料の静電反発を防止することが可能でピンホールのない塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0122】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。以下、「%」「部」は、それぞれ質量%、質量部を表す。
【0123】
各実施例及び比較例において、各物性の測定は以下の方法により行った。
【0124】
(1)耐熱樹脂の粒子径
株式会社堀場製作所製超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700型により測定した。
【0125】
(2)含フッ素重合体水性分散液中の含フッ素重合体濃度
含フッ素重合体水性分散液を80〜100℃の温度で乾燥し、380〜400℃で45分間焼成した後の残渣として測定した。
【0126】
(3)含フッ素重合体の平均粒子径
透過型電子顕微鏡観察により測定した。
【0127】
(4)フッ素非含有ノニオン界面活性剤の濃度
フッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量(N)は、試料約1g(Xg)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、得られた加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:N=[(Y−Z)/Z]×100(%)から算出した。
【0128】
(5)含フッ素界面活性剤濃度
得られた被覆組成物に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を以下の条件にて行うことにより求めた。なお、含フッ素界面活性剤濃度について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
【0129】
(測定条件)
カラム;ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
【0130】
製造例1 ポリエーテルスルホン樹脂水性分散体の調製
数平均分子量約24000のポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕60部及び脱イオン水60部をセラミックボールミルに入れ、PESからなる粒子が完全に粉砕されるまで約10分間攪拌した。次いで、N−メチル−2−ピロリドン〔NMP〕180部を添加し、更に、48時間粉砕し、分散体を得た。得られた分散体を更にサンドミルで1時間攪拌し、PES濃度が約20%のPES水性分散体を得た。PES水性分散体中のPESからなる粒子の粒子径は、2〜3μmであった。
【0131】
製造例2 ポリアミドイミド樹脂水性分散体の調製
固形分29%のポリアミドイミド樹脂〔PAI〕ワニス(NMPを71%含む)を水中に投入してPAIを析出させた。これをボールミル中で48時間粉砕してPAI水性分散体を得た。得られたPAI水性分散体において、固形分は、約20%であり、PAIからなる粒子の平均粒子径は、約2μmであった。
【0132】
製造例3 ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕水性分散液の調製
(1)容量 5Lの反応器に、PTFE分散液(PTFE含有量25%、平均粒子径0.24μm、パーフルオロオクタン酸アンモニウム〔PFOA〕含有量:PTFEの2000ppmに相当する量)2000gを入れ、10%アンモニア水溶液でpHを9に調整した後、120rpmの攪拌下にポリエーテル系ノニオン界面活性剤(HLB値=13)125gを添加し、温水槽中で40℃にて均一に混合した。引き続き、攪拌を行いながら温水槽温度を上げ、内温を70℃に到達させたのち、攪拌を停止し、内温70℃で6時間保持した後に、分離した上澄み相を除去し、PTFE水性分散相を分離した。
【0133】
得られたPTFE水性分散液(濃縮水性分散液)は、PTFE濃度が70.5%、フッ素非含有界面活性剤含有量がPTFEの3.0%に相当する量、PFOA含有量がPTFEの932ppmに相当する量であった。
【0134】
この水性分散液に、イオン交換水を添加して、PTFE含有量60%、フッ素非含有界面活性剤含有量がPTFEの3.0%に相当する量になるように調整した。
【0135】
(2)得られたPTFE水性分散体 2000gを陰イオン交換樹脂(製品名:アンバーライトIRA402J、ローム・アンド・ハース社製)50mlを充填したカラム(直径2cm)に温度50℃、空間速度[SV]2の条件で通液させることにより、含フッ素重合体水性分散液を得た。
【0136】
得られたPTFE水性分散液は、PTFEの平均粒子径が0.24μm、固形分60%、分散剤としてポリエーテル系ノニオン界面活性剤(HLB値=13)をPTFEの固形分100部に対して3部含有し、PFOA含有量がPTFEの90ppmに相当する量であった。
【0137】
実施例
製造例1で得られたPES水性分散体324gと、製造例2で得られたPAI水性分散体108gとを混合し、これに製造例3(2)で得られたPTFE水性分散体を431g加え、メチルセルロースをPTFEの固形分質量に対して0.67%添加し、ポリオキシエチレントリデシルエーテル(HLB値=9)をPTFEの固形分100部に対して5.0部となるよう添加し、硫酸アンモニウムの10%水溶液3.45部を添加してPTFEの固形分24.0%、PESの固形分6%、PAIの固形分2%、硫酸アンモニウムが固形分に対して0.1%、PFOAがPTFEの固形分に対し90ppmの被覆用組成物を得た。
【0138】
得られた被覆用組成物について、下記手順で塗膜外観を観察した。
【0139】
(評価用塗装板の作製)
厚さ2.0mmのアルミニウム板(A−1050F、大きさ10cm×20cm)の表面をアセトンで脱脂した後、JIS B 1982に準拠して測定した表面粗度Ra値が2.5〜3.5μmとなるようにサンドブラストを行い、粗面化した。エアーブローにより表面のダストを除去した後、得られた被覆用組成物を、重力式スプレーガンRG−2型(商品名、アネスト岩田社製、ノズル径1.0mm)を用い、乾燥膜厚が10〜15μmとなるように、吹き付け圧力0.2MPaでスプレー塗装により塗布した。得られた塗布膜を80〜100℃で15分間乾燥し、室温まで冷却した。得られた塗布膜の上に、上塗り塗料としてPFAの粉体塗料ネオフロンPFA ACX−31(商品名、ダイキン工業社製)をワグナー社製静電粉体塗装機EPG2007型を用いて吐出圧力0.1MPa、印加電圧70kVで塗布し、380℃で20分間焼成し、膜厚約70μmの上塗り塗膜を作製し、評価用塗装板を得た。
【0140】
(塗膜外観)
上記の焼成後の評価用塗装板の外観を目視で観察し、静電反発によるピンホールの発生数を調べた。上塗りの粉体塗料の静電反発によるピンホールが10個発生した。
【0141】
比較例
硫酸アンモニウムを添加しなかったこと以外は、実施例と同様に被覆用組成物を作製し、PTFEの固形分24.0%、PESの固形分6%、PAIの固形分2%、PFOAがPTFEの固形分に対し90ppmの被覆用組成物を得た。
【0142】
得られた被覆用組成物を用いて、実施例と同様に評価用塗装板を作製し、評価を行った。上塗りの粉体塗料の静電反発によるピンホールが30個発生した。
【0143】
実施例及び比較例の結果から、硫酸アンモニウムを添加すると発生するピンホール数が劇的に減少することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の被覆用組成物は、上塗りの粉体塗料の静電反発を防止することが可能でピンホールのない塗膜を得ることができるので、様々な製品への被覆材の塗装におけるプライマーとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素重合体、耐熱樹脂、及び、水溶性無機塩を含み、
前記含フッ素重合体は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、かつ、平均粒子径が0.01〜5μmであり、
前記耐熱樹脂は、平均粒子径が0.1〜10.0μmであり、
前記耐熱樹脂と前記含フッ素重合体との固形分質量比が15:85〜50:50であり、
前記水溶性無機塩は、前記含フッ素重合体及び前記耐熱樹脂の合計固形分に対して0.0001〜10質量%である
ことを特徴とする被覆用組成物。
【請求項2】
耐熱樹脂は、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の被覆用組成物。
【請求項3】
耐熱樹脂は、ポリエーテルスルホン樹脂と、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種とであり、
前記ポリエーテルスルホン樹脂と前記ポリアミドイミド樹脂及び前記ポリイミド樹脂との固形分質量比が85:15〜65:35である請求項1に記載の被覆用組成物。
【請求項4】
水溶性無機塩は、無機金属塩又は無機アンモニウム塩である請求項1〜3の何れか1項に記載の被覆用組成物。
【請求項5】
プライマー組成物である請求項1〜4の何れか1項に記載の被覆用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の被覆用組成物を塗装することにより得られることを特徴とする被覆物品。

【公開番号】特開2009−242711(P2009−242711A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93501(P2008−93501)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】