説明

被験物質の評価又はスクリーニング方法

【課題】様々な肌質と脂質成分の変動との関係、並びに肌質に影響する物質と脂質成分の変動との関係を明らかにすることで、肌質に影響する物質の評価方法又はスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】被験物質を作用させた被験体から得た脂質組成情報と、被験物質を作用させない被験体から得た脂質組成情報とを、肌質に影響する物質を作用させたときに組成比が変化する脂質成分について比較し、上記被験物質が上記肌質に影響する物質と類似した機能を有するか判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌質改善剤に適用される被験物質について、脂質組成の変化を指標する評価又はスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥肌、脂性肌、保湿力に劣った肌といった肌の状態、或いは、乾癬やアトピー性皮膚炎に起因する肌の状態を改善するためには、肌の状態に応じて適切な肌質改善剤が処方される必要がある。肌質改善剤としては、例えば、各種ステロイド製剤、ビタミンD3製剤及びビタミンA誘導体製剤等の乾癬治療薬やアトピー性皮膚炎治療剤等の皮膚疾患治療剤が知られている。また、肌質改善剤としては、保湿用組成物、バリアー機能改善用組成物、及び美白用組成物等の化粧品に分類される組成物も知られている。
【0003】
従来、機器計測により肌質を評価する方法としては、皮膚角質層中のインターロイキン及びインターロイキン1レセプターアンタゴニストの存在量を指標とする方法(特許文献1)や、皮膚角質層中の神経成長因子(NGF)や神経栄養因子(NT−4)の存在量を指標とする方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
皮膚角質層の脂質は肌のバリアー機能や保水機能に関与することが知られており、肌質に大きな影響を与える成分であることがわかっている。なお、ここで脂質とは、長鎖脂肪酸あるいは炭化水素鎖を有する生物由来の分子をいい、脂肪酸、グリセリド、ワックスエステル、スフィンゴ脂質、リン脂質、コレステロール等が含まれる。中でも、スフィンゴ脂質の一種であるセラミドは、これらの機能に大きく関与する脂質であり、ある種のセラミドの低減は、アトピー性皮膚炎等の肌トラブルと関連のあることがわかっている。従って、皮膚角質層の脂質、特にセラミドを詳細に解析し、種類や量の組成情報を得ることができれば、肌質を正確に評価することが可能になるものと期待される。これまでに皮膚角質層に含まれる脂質成分の如何なる変動が肌質や皮膚関連疾患と関連しているのかといった知見は殆ど知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−216106号公報
【特許文献2】特開2004−28698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、皮膚角質層に含まれる脂質成分が肌質と関連していること、換言すれば、皮膚角質層に含まれる脂質成分組成を調節することで肌質が変化することを見出した。そこで、本発明は、脂質成分組成の変動に着目し、その変動を指標にした肌質に影響する物質の評価方法又はスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、被験物質の肌質に対する影響の有無を被験体に含まれる脂質成分組成の変動に基づいて評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る評価又はスクリーニング方法は、被験体の脂質成分を変化させる被験物質を見出すことを目的とする。さらには、被験物質を作用させた被験体から得た脂質組成情報と、被験物質を作用させない被験体から得た脂質組成情報とを、肌質に影響する物質を作用させたときに組成比が変化する脂質成分について比較し、上記被験物質が上記肌質に影響する物質と類似した機能を有するか判断することを目的とする。
【0009】
ここで、比較する対象の脂質成分としては例えばスフィンゴ脂質、特にセラミドを挙げることができる。また、本発明に係る被験物質の評価又はスクリーニング方法では、被験体として生体を適用し、当該生体における皮膚角質層の採取物から抽出した脂質試料から上記脂質組成情報を得ることができる。皮膚角質層は頭皮などを含め様々な部位から採取することが出来る。さらに、本発明に係る被験物質の評価又はスクリーニング方法では、被験体として培養細胞を適用することができる。特に、被験体としては、重層培養したケラチノサイトを適用することが好ましい。重層培養したケラチノサイトから上記脂質組成情報を得ることができる。
【0010】
また、本発明に係る被験物質の評価又はスクリーニング方法において上記脂質組成情報は、上記被験体から採取された脂質試料を液体クロマトグラフ−質量分析法で分離検出し、その検出データを多段マスクロマトグラムで解析することで生成されたデータであることが好ましい。
【0011】
さらに、被験物質を作用させた被験体から得た脂質組成情報と、被験物質を作用させない被験体から得た脂質組成情報とを、肌質に影響する物質を作用させたときに組成比が変化する脂質成分について比較し、上記被験物質が上記肌質に影響する物質と類似した機能を有するか判断することが出来る。例えば、肌質に影響する物質が乾癬治療剤である場合、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド成分及びN−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分についてセラミド総量に対する組成比を比較することで、被験物質が公知の乾癬治療剤と類似した機能を有するか否か判定することができる。また、肌質に影響する物質が乾癬治療剤である場合、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、当該成分に含まれる分子種の平均炭素数を、各分子種の存在比を重みとした加重平均値として算出し、当該炭素数の加重平均値を比較することで、被験物質が公知の乾癬治療剤と類似した機能を有するか否か判定することができる。さらに、肌質に影響する物質が乾癬治療剤である場合、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド成分及びN−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、不飽和結合が1以上多い分子種の割合を比較することで、被験物質が公知の乾癬治療剤と類似した機能を有するか否か判定することができる。さらにまた、肌質に影響する物質が乾癬治療剤である場合、全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分における、炭素数34の分子種の量及び/又は全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分の総量に対する組成比を比較することで、被験物質が公知の乾癬治療剤と類似した機能を有するか否か判定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、あらゆる物質の肌質に対する影響を評価することができる新規な手法を提供することができる。また、本発明によれば、公知の肌質に影響する物質と類似した機能を有する物質をスクリーニングできる新規な手法を提供することができる。また、本発明により、肌質に影響する物質を作用させたときに脂質成分の組成比変化といった有用な情報を蓄積することができ、これら蓄積された情報を各種分野に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
本発明は、被験物質が有している肌質に対する影響を評価する方法、或いは被験物質のなかから肌質に対する影響を有する物質をスクリーニングする方法を提供することができる。ここで、被験物質としては、特に限定されず如何なる物質であってもよい。被験物質としては、単独の物質であってもよいし、複数の構成成分からなる混合物であってもよい。被験物質としては、例えば植物からの抽出物のように未同定の物質を含むような構成であってもよいし、既知の組成物を所定の組成比で含むような構成であってもよい。また、被験物質としては、タンパク質、核酸、脂質、多糖類、有機化合物及び無機化合物のいずれでもよい。
【0014】
本発明においては、上述したような被験物質を被験体に作用させた後に当該被験体から脂質組成情報を取得し、得られた脂質組成情報を用いて評価又はスクリーニングを行う。ここで被験体としては、ヒト、サル、チンパンジー、ラット及びマウス等の動物を挙げることができる。被験体として上述のような動物を適用する場合、当該動物の皮膚角質層の抽出物から脂質組成情報を取得することができる。また、被験体としては、上述のような動物から採取した皮膚や死体皮膚、細胞、再構成した細胞や皮膚組織、角層、血液、体液、毛髪、及び臓器等を使用することもできる。
【0015】
また、被験体としては、上述したような動物から採取した表皮角化細胞の培養物(再構成皮膚)を挙げることができる。表皮角化細胞としては、従来公知の細胞系を使用することができる。特に、被験体としては、当該表皮角化細胞を重層培養して得られる培養物であることが好ましい。表皮角化細胞を重層培養する手法については、特に限定されないが、例えば、Hamanaka S, et al., Br J Dermatol. 2005 Mar;152(3):426-34. Glucosylceramide accumulates preferentially in lamellar bodies in differentiated keratinocytes.、Uchida Y, et al., J Invest Dermatol. 2001 Nov;117(5):1307-13. Vitamin C stimulates sphingolipid production and markers of barrier formation in submerged human keratinocyte cultures. 及びPonec M, et al., Int J Pharm. 2000 Aug 10;203(1-2):211-25. Lipid and ultrastructural characterization of reconstructed skin models.を参照することができる。また、被験体として培養物を適用する場合、当該培養物から脂質を抽出し、抽出物から脂質組成情報を取得することができる。
【0016】
本発明において脂質組成情報とは、皮膚角質層から抽出される各種脂質成分の存在量又は存在比を示す情報を意味する。脂質成分としては、例えば、長鎖脂肪酸或いは炭化水素鎖を有する生物由来の成分を意味し、脂肪酸、グリセリド、ワックスエステル、スフィンゴ脂質、リン脂質及びコレステロール等を挙げることができる。特に、本発明においては、スフィンゴ脂質の一種であるセラミドの種類(セラミド・クラス)及び各セラミド・クラスを構成する分子種の組成比を示す脂質組成情報を取得することが好ましい。ここで、セラミドとは、スフィンゴシン塩基のアミノ基に脂肪酸が酸アミド結合した構造をもつ化合物を意味する。したがって、セラミドには、スフィンゴシン塩基と、脂肪酸との組合せにより種々のセラミド・クラスが含まれることとなる。
【0017】
スフィンゴシン塩基としては、例えば、N−(ω−OH−acyl)acyl−dihydrosphingosine(EODS)、N−(ω−OH−acyl)acyl−sphingosine(EOS)、N−(ω−OH−acyl)acyl−phytosphingosine(EOP)、N−(ω−OH−acyl)acyl−6−OH−sphingosine(EOH)、N−acyl−dihydrosphingosine(NDS)、N−acyl−sphingosine(NS)、N−acyl−phytosphingosine(NP)、N−acyl−6−OH−sphingosine(NH)、N−(α−OH−acyl)−dihydrosphingosine(ADS)、N−(α−OH−acyl)−sphingosine(AS)、N−(α−OH−acyl)−phytosphingosine(AP)及びN−(α−OH−acyl)−6−OH−sphingosine(AH)を挙げることができる。
【0018】
これらセラミド・クラスは、N−(ω−OH−アシル)アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド(Cer[EODS]と称する場合もある)、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド(Cer[EOS]と称する場合もある)、N−(ω−OH−アシル)アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド(Cer[EOP]と称する場合もある)、N−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド(Cer[EOH]と称する場合もある)、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド(Cer[NDS]と称する場合もある)、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド(Cer[NS]と称する場合もある)、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド(Cer[NP]と称する場合もある)、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド(Cer[NH]と称する場合もある)、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド(Cer[ADS]と称する場合もある)、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド(Cer[AS]と称する場合もある)、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド(Cer[AP]と称する場合もある)及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド(Cer[AH]と称する場合もある)と称される。これら12種類のセラミドの化学式を以下に記載する。
【0019】
【化1】

【0020】
また、これらセラミド・クラスには、脂肪酸やスフィンゴイドの炭素数、脂肪酸やスフィンゴイドの不飽和度及び/又は脂肪酸やスフィンゴイドに含まれる不飽和結合の位置等によって、様々な分子種が含まれることとなる。すなわち、本発明において脂質組成情報とは、これらセラミド・クラス毎に各クラスに含まれる分子種の存在量又は存在比を示す情報であることが好ましい。
【0021】
脂質組成情報を取得する手法としては、例えば従来公知の、シリカゲルプレートを利用した薄層クロマトグラフ法を適用することができる。薄層クロマトグラフ(TLC)を用いた脂質の解析法によれば、脂質をクラス別あるいはタイプ別に解析することが可能であるが、脂質分子別の情報を得ることは困難である。そこで、この薄層クロマトグラフ法の欠点を克服した方法として、脂質を順相液体クロマトグラフで分離し、それをエレクトロスプレーイオン化法(ESI)でイオン化し、さらに質量分析装置で検出して、脂質分子の化学構造を同定する手法を適用して脂質組成情報を取得してもよい(特開2003−28849号公報参照)。
【0022】
また、脂質組成情報を取得する手法としては、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)、上記TLC、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)、液体クロマトグラフ飛行時間型質量分析計(LC-TOF-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)、核磁気共鳴(NMR)装置等を単独あるいは組み合わせて用いることができる。なお、これらの手法については以下の文献:Raith K, Darius J, Neubert RH. Ceramide analysis utilizing gas chromatography-mass spectrometry. J Chromatogr A. 2000 Apr 21;876(1-2):229-33;Nakamura K, Suzuki Y, Goto-Inoue N, Yoshida-Noro C, Suzuki A. Structural characterization of neutral glycosphingolipids by thin-layer chromatography coupled to matrix-assisted laser desorption/ionization quadrupoleion trap time-of-flight MS/MS. Anal Chem. 2006 Aug 15;78(16):5736-43;Farwanah H, Wohlrab J, Neubert RH, Raith K. Profiling of human stratum corneum ceramides by means of normal phase LC/APCI-MS. Anal Bioanal Chem. 2005 Oct;383(4):632-7. Epub 2005 Oct 19;及びPonec M, Weerheim A, Lankhorst P, Wertz P. New acylceramide in native and reconstructed epidermis. J Invest Dermatol. 2003 Apr;120(4):581-8を参照することができる。
【0023】
さらに、脂質組成情報を取得する手法としては、特に、特願2005−300251号に開示される手法を適用することが好ましい。本手法は、要約すると、皮膚角質層の採取試料から調製した脂質試料を液体クロマトグラフで分離し、質量分析装置でイオン化して検出し、質量分析装置から出力されるデータを、保持時間と質量数/電荷(m/z)とイオン強度の3軸に展開した多段マスクロマトグラムにより解析する手法である。
【0024】
詳細には、例えば図1に示すような解析システム1を用いて脂質組成情報を取得することができる。以下、図1に示す解析システム1を用いてセラミド分子種を解析する手法を説明する。解析システム1は、液体クロマトグラフ10、イオン化促進液送液装置20、質量分析装置30及び演算装置40から構成されている。
【0025】
液体クロマトグラフ10は、2種の溶離液a、bを送液する高圧グラジエントポンプ11a、11b、脂質試料溶液dを導入するオートインジェクター12、ガードカラム13及び分離カラム14を備えている。ここで、脂質試料溶液dとしては、皮膚角質層の採取物から抽出等により調製したセラミドを含む試料溶液、或いは表皮角化細胞を重層培養した培養物から抽出等により調製したセラミドを含む試料溶液を使用する。
【0026】
皮膚角質層の採取方法としては、被験者に対する危険性が低く、負担が少ない方法が好ましい。このような採取方法としては、例えば、テープによる剥離方法(テープストリッピング法)を挙げることができる。テープで剥離した皮膚角質層の採取物から、セラミドを含む脂質試料溶液dを調製する方法としては、セラミドの溶解性が高く、かつテープが溶解し難い溶媒を用いて、採取物からセラミドを抽出することが好ましい。このような溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等をあげることができる。
【0027】
また、表皮角化細胞を重層培養した培養物から脂質試料溶液dを調製する方法としては、生体試料から脂質成分を分離精製する方法として公知の手法を適用することができる。一例としてはBligh and Dyer法を用いて上記培養物から脂質試料溶液dを調製することができる。その他にも、Folch法等を適用して上記培養物から脂質試料溶液dを調製することができる。
【0028】
一方、溶離液a、bとしては、これらが良好に混合し、セラミドを適度に保持してセラミド・クラス別に分離することが可能であり、不揮発性の酸や塩を高濃度に含まないものが好ましい。溶離液a、bの組み合わせ例としては、例えば、溶離液aをヘキサン/イソプロパノールの混合液とし、溶離液bをヘキサン/イソプロパノール/水の混合液とすることができる。
【0029】
ガードカラム13は、分離カラム14の保護のために必要に応じて設けられるもので、分離カラム14と同一の充填剤が充填される。ガードカラム13及び分離カラム14の充填剤としては、例えば、シリカゲル、又はジオール基、CN基、NH基を結合したシリカゲル等の高極性カラムを用いることができる。
【0030】
液体クロマトグラフ10を以上のように構成することにより、セラミドを含む脂質を、極性の違いに基づいて分離することができる。液体クロマトグラフ10で分離されたセラミドを含む脂質は、後段のイオン化促進液送液装置20に導入されることとなる。
【0031】
イオン化促進液送液装置20は、イオン化促進液cを送液するためのポンプ21と、分離カラム14からの溶離液とイオン化促進液cと混合するためのティーコネクター22とを備えている。イオン化促進液cは、ティーコネクター22を介して、分離カラム14からの溶離液と混合される。混合された溶液は、質量分析装置30のイオン化装置31に導入される。
【0032】
なお、イオン化促進液cは、ヘキサンのような低極性溶媒を溶離液として用いた場合に、ESIで十分なイオン化効率が得られ難いのを改善するために用いられる。イオン化促進液cとしては、溶離液と良好に混合し、溶離液をイオン化させるのに適した表面張力、粘性、イオン生成能、溶媒和力等の性質を有するものを適宜選択する。例えば、ヘキサンを溶離液とした場合に、イオン化促進液cとしては、イソプロパノール、エタノール、メタノール等の極性溶媒が使用される。
【0033】
イオン化促進液cには、正イオンモードで[M+H]や[M+H−H2O]が高感度に検出され、負イオンモードで[M−H]や[M+HCOO]が高感度に検出されるように、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の塩を添加することができる。この他、イオン化促進液cには、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の揮発性の酸を添加してもよい。
【0034】
質量分析装置30は、イオン化装置31と質量分離検出装置32とから構成されており、ティーコネクター22を介してイオン化促進液及び溶離液との混合溶液が導入され、セラミドを含む脂質成分をイオン化する。
【0035】
イオン化装置31でのイオン化の方法としては、感度の点からエレクトロスプレーイオン化法(ESI)が好ましいが、この他、大気圧化学イオン化法(APCI)や大気圧光イオン化法(APPI)等も用いることもできる。
【0036】
質量分離検出装置32は、イオン化装置31で生成したイオンを、m/zごとに分離し、検出する。質量分離検出装置32としては、四重極(Q)型質量分析計、イオントラップ(IT)型質量分析計等の質量分析計、Q−TOF型、IT−TOF型等のハイブリッド型質量分析計、あるいはトリプル四重極型等のタンデム質量分析計(MS/MS)を用いることができる。
【0037】
演算装置40は、液体クロマトグラフ10における保持時間と、質量分析装置30で検出されたm/z及びイオン強度を、3軸に展開して多段マスクロマトグラムを形成する演算手段を有する。また、演算装置40は、図示しないが、各セラミド・クラスに属する分子種毎に保持時間とm/zとを対応させたデータベースにアクセス可能であることが好ましい。さらに、演算装置40は、上記演算手段により形成された多段マスクロマトグラムを入力データとして、入力された多段マスクロマトグラムに含まれるピークの保持時間とm/zに基づいて上記データベースを検索し、各ピークに対応するセラミド分子種を特定する比較演算手段を有していることが好ましい。さらにまた、演算装置40は、上記演算手段で形成した多段マスクロマトグラム及び/又は上記比較演算手段で特定した各ピークに対応するセラミド分子種を所望の形式で出力し表示する表示手段を有することが好ましい。
【0038】
なお、以上のように構成された解析システムにおいて、液体クロマトグラフ10及び質量分析装置30としては、これらが一体になった市販の液体クロマトグラフ−質量分析装置を使用することができる。
【0039】
図1に示した解析システムでは、質量分析装置30で検出した全てのデータを、保持時間とm/zとイオン強度の3軸に展開した、一例として図2に示すような多段マスクロマトグラムを出力することができる。多段マスクロマトグラムによれば、脂質試料溶液に含まれる全てのセラミド分子を網羅的に捉えることが可能となり、同属体や微量成分の認知が容易になるので、保持時間とm/zの情報から、個々のセラミド分子を容易に同定することが可能となる。例えば、上述したようなセラミドEODS、EOS、EOP、EOH、NDS、NS、NP、NH、ADS、AS、AP及びAHといったスフィンゴシン塩基骨格を有するセラミド・クラスを分離して分析できるとともに、各セラミド・クラスにおいて全体の炭素数、脂肪酸の不飽和度、脂肪酸に含まれる不飽和結合の位置の異なる分子種を分離して分析することができる。
【0040】
また、本解析システム1においては、演算装置40が、各セラミド・クラスに属するセラミド分子種毎に保持時間とm/zとを対応させたデータベースにアクセスし、出力された多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークの保持時間とm/zとに基づいて各ピークを同定することができる。すなわち、演算装置40は、多段マスクロマトグラムを出力する際に各ピークの分子種の情報(例えば、全体の炭素数、脂肪酸の不飽和度、脂肪酸に含まれる不飽和結合の位置)をリンクさせて出力することができる。
【0041】
また、本解析システム1では、質量分析装置30にて選択イオンモニタリング法を行うことにより、複数の特定セラミド分子を高感度に検出することもできる。選択イオンモニタリング法による検出データについても、図2と同様な多段マスクロマトグラムを形成することができ、複数の特定セラミド分子を網羅的に捉えることが可能となる。
【0042】
図2は、実際に皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料を解析システム1で解析した多段マスクロマトグラムの一例である。同図に示すように、この多段マスクロマトグラムによれば、脂質試料溶液dに11タイプのセラミドが含まれており、さらに、これらのセラミドの炭素数が異なる同属体も判別でき、脂質試料溶液dに含まれる種々のセラミド分子を網羅的に同定できることがわかる。なお、同図は正イオンモードにおける測定結果のみを示しているが、セラミドのタイプによって観測されるイオン種が異なり、[M+H]が観測されやすいものと、[M+H−H2O]が観測されやすいものとが存在するため、負イオンモードにおける測定結果も合わせて解析することが好ましい。
【0043】
セラミドの解析においては、各セラミド分子のピーク面積を比較するだけでも定量的な取り扱いが可能であるが、より正確に定量的な取り扱いをするために、脂質試料溶液dに内部標準物質を添加し、内部標準物質のピーク面積に対する各セラミド分子のピーク面積比を求めることが好ましい。より好ましくは、全セラミド分子の標準品を準備して、その絶対検量線から絶対量を算出することである。内部標準物質を用いる場合、皮膚角質層中にほとんど存在しないセラミド分子を用いることが好ましく、例えば、N−heptadecanoyl−D−erythro−sphingosineセラミドを使用する。
【0044】
なお、各セラミド分子の相対量を求める際には、剥離された角質層の面積、角質層の重量、タンパク量、細胞数等を測定し、これらのいずれかの値で除することにより、規格化することが好ましい。
【0045】
本発明においては、上述したように本解析システム1により出力される多段マスクロマトグラムを脂質組成情報として使用することができる。すなわち、本解析システム1によれば、上述した被験物質を被験体に作用させた後に当該被験体から脂質組成情報を多段マスクロマトグラムという出力形式で取得することができる。また、本解析システム1によれば、上述した被験物質を作用させる前の被験体における脂質組成情報を多段マスクロマトグラムという出力形式で取得することができる。
【0046】
被験物質を被験体に作用させる前後で取得した脂質組成情報を互いに比較することで、当該被験物質に起因する脂質組成情報の変化を読み取ることができる。ここで、脂質組成情報の変化は、差を検出する従来公知のアルゴリズムを適用することによって演算装置40において演算することもできる。なお、脂質組成情報の変化としては、特定の分子種について組成比の変化を求めてもよいし、脂質組成情報に含まれる全ての分子種について組成比の変化を求めてもよい。
【0047】
次に、本発明においては、当該被験物質に起因する脂質組成情報の変化と、肌質に影響する物質に起因する脂質組成情報の変化との類似性を判断する。換言すると、公知の肌質に影響する物質を作用させたときに生ずる脂質組成比の変化の傾向と、被験物質に起因する脂質組成情報の変化の傾向との間の一致性を判断する。その結果、公知の肌質に影響する物質を作用させたときに生ずる脂質組成比の変化の傾向と被験物質に起因する脂質組成情報の変化の傾向との間に一致性があると判断できる場合には、当該被験物質が公知の肌質に影響する物質と機能的に類似していると結論づけることができる。
【0048】
例えば、公知の肌質に影響する物質を被験体に作用させたとき、所定の脂質成分の組成比が増大していたとする。この場合、被験物質を被験体に作用させた後の当該脂質成分の組成比が、被験物質を被験体に作用させる前の組成比と比較して有意に増加していれば、上述した一致性があると判断する。そして、一致性があると判断できれば、被験物質が公知の肌質に影響する物質と機能的に類似していると結論づけることができる。
【0049】
なお、肌質に影響する物質に起因する脂質組成情報の変化は、上述した解析システム1により当該物質を被験体に作用させる前後でそれぞれ取得した多段マスクロマトグラム(脂質組成情報)を比較することで同定することができる。すなわち、上述した解析システム1を用いることによって、公知の肌質に影響する物質を作用させたときに組成比が変化する脂質成分を特定することができる。
【0050】
ここで、肌質に影響する物質とは、皮膚に投与したときに皮膚の性状が変化するように作用する物質を含む意味であり、皮膚性状を改善するように作用する物質及び皮膚性状を劣化させるように作用する物質の両方を含む意味である。なお、物質の皮膚への投与は、経口投与であってもよいし、経皮投与であってもよい。肌質に影響する物質としては、乾癬治療薬、アトピー性皮膚炎治療薬等の皮膚関連疾患治療剤を挙げることができる。これら以外にも、肌質に影響する物質としては、保湿用化粧品に含有されている有効成分、バリアー機能改善用化粧品に含有されている有効成分、美白用化粧品に含有されている有効成分、しわ用化粧品に含有されている有効成分、ニキビ用化粧品に含有されている有効成分、荒れ肌改善用化粧品に含有されている有効成分、頭皮状態改善品に含有されている有効成分、頭皮、顔、体等の洗浄品に含有されている有効成分等の各種皮膚用化粧品及び洗浄品に含まれる成分を挙げることができる。
【0051】
例えば、公知の肌質に影響する物質として乾癬治療剤を解析対象とした場合、上述した解析システム1により乾癬治療剤を作用させたときに変化する脂質組成比を特定することができる。
【0052】
具体的には、乾癬患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NS]、Cer[NH]、Cer[NP] 及びCer[AS]のセラミド総量に対する組成比が、健常者群と有意に異なっている。詳細には、乾癬患者群のCer[NS]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に上昇している。また、乾癬患者群のCer[NH]及びCer[NP]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。さらに乾癬患者群のCer[AS]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に上昇している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[NH]またはCer[NP]の組成比が上昇するか、或いは被験体におけるCer[AS]の組成比が減少していれば、当該被験物質を乾癬治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0053】
特に、乾癬治療剤の一種であるビタミンD3を投与した場合、乾癬患者の皮膚角質層におけるセラミド・クラスのうち、Cer[NP]の組成比が有意に増加する。したがって、被験物質に起因して被験体におけるCer[NP]の重量%(セラミド総量に対する割合)が有意に増加している場合には、当該被験物質が乾癬治療剤と同等の機能を有すると評価することができ、また、当該被験物質を乾癬治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0054】
また、乾癬患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]及びCer[AH]に含まれる分子種の平均炭素数が健常者群と有意に異なっている。ここで平均炭素数とは、炭素数の異なる複数種類の分子種について、各分子種の存在比を重みとして算出する加重平均値の意味である。詳細には、乾癬患者群のCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]及びCer[AH]の平均炭素数は、全て、健常者群と比較して有意に減少している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]及びCer[AH]の平均炭素数のうち少なくとも1つが上昇していれば、当該被験物質を乾癬治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0055】
さらに、乾癬患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が有意に増加している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が減少していれば、当該被験物質を乾癬治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0056】
さらにまた、乾癬患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]、Cer[AS]、Cer[AH]、Cer[AP]及びCer[EOS]について、不飽和結合が1以上多い分子種が有意に増加する。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]、Cer[AS]、Cer[AH]、Cer[AP]及びCer[EOS]のうち少なくとも1種について、不飽和結合が1以上多い分子種が有意に減少していれば、当該被験物質を乾癬治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0057】
一方、アトピー性皮膚炎患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NS]、Cer[NH]、Cer[NP]、Cer[AS]、Cer[EOH]及びCer[EOP]のセラミド総量に対する組成比が、健常者群と有意に異なっている。詳細には、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NS]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に上昇している。また、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NH]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。さらに、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NP]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。さらにまた、アトピー性皮膚炎患者群のCer[AS]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に上昇している。さらにまた、アトピー性皮膚炎患者群のCer[EOH]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。さらにまた、アトピー性皮膚炎患者群のCer[EOP]は、健常者群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[NH]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[NP]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[AS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[EOH]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[EOP]の組成比が上昇していれば、当該被験物質をアトピー性皮膚炎治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0058】
また、アトピー性皮膚炎患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]及びCer[AH]に含まれる分子種の平均炭素数が健常者群と有意に異なっている。ここで平均炭素数とは、上述したように、炭素数の異なる複数種類の分子種について、各分子種の存在比を重みとして算出する加重平均値の意味である。詳細には、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]及びCer[AH]の平均炭素数は、全て、健常者群と比較して有意に減少している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]及びCer[AH]の平均炭素数のうち少なくとも1つが上昇していれば、当該被験物質をアトピー性皮膚炎治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0059】
さらに、アトピー性皮膚炎患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が有意に増加している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が減少していれば、当該被験物質をアトピー性皮膚炎治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0060】
さらにまた、アトピー性皮膚炎患者群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NH]又はCer[EOS]について、不飽和結合が1以上多い分子種が有意に増加する。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NH]及びCer[EOS]について、不飽和結合が1以上多い分子種が有意に減少していれば、当該被験物質をアトピー性皮膚炎治療剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0061】
また、乾燥肌群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]、Cer[NP]、Cer[AS] 、Cer[AH]、Cer[AP]、Cer[EOS]及びCer[EOH]のセラミド総量に対する組成比が、普通肌群と異なっている。詳細には、乾燥肌群のCer[NDS]は普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が減少している。Cer[NS]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が上昇している。また、乾燥肌群のCer[NH]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が減少している。さらに、乾燥肌群のCer[NP]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が減少している。さらにまた、乾燥肌群のCer[AS]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が上昇している。さらにまた、乾燥肌群のCer[AH]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が減少している。さらにまた、乾燥肌群のCer[AP]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が減少している。さらにまた、乾燥肌群のCer[EOH]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が減少している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NDS] 組成比が上昇するか、被験体におけるCer[NS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[NH]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[NP]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[AS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[AH]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[AP]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[EOS]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[EOH]の組成比が上昇していれば、当該被験物質を乾燥肌改善剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0062】
また、乾燥肌群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NS]に含まれる分子種の平均炭素数が普通肌群と異なっている。ここで平均炭素数とは、上述したように、炭素数の異なる複数種類の分子種について、各分子種の存在比を重みとして算出する加重平均値の意味である。詳細には、乾燥肌群のCer[NS]の平均炭素数は、普通肌群と比較して減少している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NS]の平均炭素数が上昇していれば、当該被験物質を乾燥肌改善剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0063】
さらに、乾燥肌群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が増加している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が減少していれば、当該被験物質を乾燥肌改善剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0064】
また、恒常的にバリアー機能が低い、低バリアー肌群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NDS] 、Cer[NS]、Cer[NH]、Cer[NP]、Cer[AS]、Cer[EOS]及びCer[EOH]のセラミド総量に対する組成比が、普通肌群と有意に異なっている。詳細には、低バリアー肌群のCer[NDS] は普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に上昇している。また、低バリアー肌群のCer[NS]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に上昇している。さらに、低バリアー肌群のCer[NH]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。さらにまた、低バリアー肌群のCer[NP]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。さらにまた、低バリアー肌群のCer[AS]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に上昇している。さらにまた、低バリアー肌群のCer[EOS]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。さらにまた、低バリアー肌群のCer[EOH]は、普通肌群と比較してセラミド総量に対する組成比が有意に減少している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NDS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[NS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[NH]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[NP]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[AS]の組成比が減少するか、被験体におけるCer[EOS]の組成比が上昇するか、被験体におけるCer[EOH]の組成比が上昇していれば、当該被験物質をバリアー機能改善剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0065】
また、低バリアー肌群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NDS]及びCer[NH]に含まれる分子種の平均炭素数が普通肌群と有意に異なっている。ここで平均炭素数とは、上述したように、炭素数の異なる複数種類の分子種について、各分子種の存在比を重みとして算出する加重平均値の意味である。詳細には、低バリアー肌群のCer[NDS]及びCer[NH]の平均炭素数は、全て、普通肌群と比較して有意に減少している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NDS]及びCer[NH]の平均炭素数のうち少なくとも1つが上昇していれば、当該被験物質をバリアー機能改善剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0066】
さらに、低バリアー肌群においては、セラミド・クラスのなかで、特にCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が有意に増加している。したがって、被験物質に起因して、被験体におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の組成比が減少していれば、当該被験物質をバリアー機能改善剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。
【0067】
このシステムを使用することにより、いかなる部位やいかなる症状に対しても候補物質をスクリーニングすることが可能である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本実施例では、正常ヒト表皮角化細胞を重層培養し、脂質成分の一種であるセラミド成分を解析した。
【0069】
材料
正常ヒト表皮角化細胞(NHEK) (KURABO社)を使用した。
【0070】
培養条件
NHEKを6well Plate (Falcon社)に1wellあたり1×105Cellを播種し、コンフルエントの状態になるまで培養した。なお、NHEKの単層培養も比較例として準備したが、この比較例の培養物この時点で培養を止め回収した。
その後、重層培養用の培地 (DMEM (GIBCO社)、HamF12 (GIBCO社) 、FBS (GIBCO社) 、insulin(SIGMA社)、hydrocortisone(SIGMA社)、VitaminC(SIGMA社))に交換し、10日間培養した。尚、培地は2日に1回交換した。10日間培養した後、培養を止め細胞を回収した。これにより、各wellにNHEK細胞を重層培養することができた。
【0071】
脂質成分の抽出
回収した細胞からBligh and Dyer法によって脂質成分を抽出した。具体的には、先ず、well中にPBS (GIBCO社)を入れ、細胞を回収した。回収した細胞にメタノール/クロロホルム=2/1(v/v)を加えてホモジェナイズした後、振とうした。その後、遠心し、上清を回収した(沈殿はタンパク質定量(BCA Protein Assay)に使用した)。PBS/クロロホルム=1/1(v/v)を加え、振とうした。その後、遠心し、有機相を回収し窒素気流下で乾固した。それに、N-heptadecanoyl-D-erythro-sphingosineを含むメタノールを加え、窒素気流下で乾固した。これにクロロホルム/メタノール=99.5/0.5(v/v)を加えて溶解し、固相抽出用シリカゲルカートリッジに適用した。クロロホルム/メタノール=99.5/0.5(v/v)を十分に適用した後、クロロホルム/メタノール=95/5(v/v)を適用し、その溶出液を得た。この溶出液を窒素気流下で乾固した後、ヘキサン/イソプロパノール/ギ酸=95/5/0.1(v/v/v)を加えて溶解することで、脂質成分を含む試料溶液とした。
【0072】
セラミド成分の分析条件
本例では液体クロマトグラフ−質量分析装置を使用した。具体的には、液体クロマトグラフと質量分析装置が一体になった分析システムとして、横河アナリティカルシステムズ社、アジレント1100シリーズ LC/MSDを使用した。
分離カラムとしては、ジーエルサイエンス社、Inertsil SIL 100A-3、1.5mmφ×150mm(3μm)を使用した。ガードカラムとしては、ジーエルサイエンス社、Inertsil SIL 100A-3、1.5mmφ×10mm(3μm)を使用した。溶離液a(図1参照)としてはヘキサン/イソプロパノール/ギ酸=95/5/0.1(v/v/v)を使用し、溶離液b(図1参照)としてはヘキサン/イソプロパノール/50mmol/Lのギ酸アンモニウム水溶液=25/65/10(v/v/v)を使用した。また、グラジエント条件は表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
イオン化促進液としては、イソプロパノール/5mmol/Lのギ酸アンモニウムメタノール溶液=50/50(v/v)を使用した。イオン化促進液の流速は0.1mL/分とした。
また、質量分析装置における分析条件は以下の通りである。イオン化法:ESI、極性:正イオン、測定質量範囲:250〜1500、フラグメンター電圧:150V、Vcap電圧:3500V、ネブライザー圧力:20psig、乾燥ガス温度:300℃、乾燥ガス流量:8L/分
【0075】
結果
質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。その後、既知のセラミド分子種についてそれぞれ保持時間及びm/zの情報を格納したデータベースを利用して、多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークを同定した。そして、各セラミド分子のピーク面積を求め、内部標準物質に対するピーク面積比を算出し、さらにタンパク質量で除することにより、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子の相対量を算出した。これらに予め求めてあるセラミド分子種ごとの検出感度補正係数を乗じることにより、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子種の絶対量を算出した。
【0076】
図3に単層培養と重層培養のセラミド組成示す。同図の結果から、重層培養を用いることにより、重層培養によって得られた培養物からは、セラミド分子種をセラミド・クラスに分離するのみならず、所定のクラスに属する分子種を分子量の違い、不飽和度の違い、不飽和結合の位置の違いに依存して分離できることが明らかとなった。このような多段マスクロマトグラムは、単層培養物からは得られなかった情報を含むため、より詳細なセラミド分子種のプロファイルとして利用することができる。
【0077】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で調製した正常ヒト表皮角化細胞の重層培養物に対して乾癬治療薬であるビタミンD3を添加したときの脂質組成の変動を検討した。
ビタミンD3は、重層培養用の培地に交換して後、添加した。さらに、培地を2日に1回交換した後、添加した。10日間培養した後、培養を止め細胞を回収した。なお、対照としてはビタミンD3に代えてエタノールを使用した。
【0078】
その後、実施例1と同様にして質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。得られた多段マスクロマトグラムから、エタノールを使用したとき群のCer[NP]の量を1とし、ビタミンD3を使用した群のCer[NP]の量を相対値として算出した。その結果を図4に示す。また、ビタミンD3を使用した群及びエタノールを使用した群における、セラミド総量に対するCer[NP]の割合の相対値を算出した。その結果を図5に示す。
【0079】
図4及び5に示すように、ビタミンD3を添加した場合には、Cer[NP]の全体量に対する割合が増加していることが判った。すなわち、乾癬治療剤であるビタミンD3は、皮膚角質層におけるCer[NP]の割合を増加させることが判明した。
【0080】
また、エタノールを使用した場合に得られた多段マスクロマトグラム及びビタミンD3を使用した場合に得られた多段マスクロマトグラムからCer[NS]に含まれる分子種の平均炭素数を算出した。その結果を図6に示す。
【0081】
図6に示すように、ビタミンD3を添加した場合には、Cer[NS]に含まれる分子種の平均炭素数が増加していることがわかった。すなわち乾癬治療剤であるビタミンD3は、皮膚角質層におけるCer[NS]に含まれる分子種の平均炭素数を増加させることが判明した。本実施例に示したように、正常ヒト表皮角化細胞の重層培養物を用いることによって、皮膚角質層における脂質成分の変動を高感度にモニターできることが実証された。
【0082】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1で調製した正常ヒト表皮角化細胞の重層培養物に対して肌質に影響する公知の物質を添加したときの脂質組成の変動を検討した。具体的に、本例では、保湿剤として知られるビタミンCを添加したとこの脂質組成の変動を検討した。
【0083】
正常ヒト表皮角化細胞をコンフルエントの状態になるまで培養した。その後重層培養用の培地に交換した。重層培養用の培地として(DMEM (GIBCO社)、HamF12 (GIBCO社) 、FBS (GIBCO社) 、insulin(SIGMA社)、hydrocortisone(SIGMA社)を使用した。ビタミンC添加群として重層培地にビタミンCを添加した培地を使用した。尚、培地は2日に1回交換した。10日間培養した後、培養を止め細胞を回収した。ビタミンCを添加しない培地を使用したものをコントロール群とした。
【0084】
その後、実施例1と同様にして質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。得られた多段マスクロマトグラムから、コントロール群でのCer[NH]の量を1とし、ビタミンC添加群でのCer[NH]の量を相対値として算出した。その結果を図7に示す。また、コントロール群でのセラミド総量に対するCer[NH]の割合を1とし、ビタミンC添加群でのセラミド総量に対するCer[NH]の割合を相対値として算出した。その結果を図8に示す。
【0085】
図7及び8に示すように、ビタミンD3を添加した場合には、Cer[NH]の全体量に対する割合が増加していることが判った。すなわち、保湿剤であるビタミンCは、皮膚角質層におけるCer[NH]の割合を増加させることが判明した。被験物質を正常ヒト表皮角化細胞の重層培養物に作用させたときに同様な変化があれば当該被験物質がビタミンCと同様に保湿剤としての機能を有すると評価することができる。
【0086】
〔実施例4〕
本実施例では、被験者から採取した皮膚角質層を用いて脂質成分の一種であるセラミド成分を解析した。
【0087】
被験者
皮膚科医院に通院するアトピー性皮膚炎患者8名(16〜36歳)及びそれに対応する健常ボランティア7名(25〜37歳)、皮膚科医院に通院する乾癬患者10名(36〜74歳)及びそれに対応する健常ボランティア9名(39〜76歳)
【0088】
皮膚角質層の採取
いずれの患者においても腕の皮疹部及び隣接する無疹部、健常者においては腕における患者と同部位にテープを押し付け、皮膚角質層を剥離した。それぞれのテープを半分に切り分け、一方をセラミド成分の解析に供し、もう一方をタンパク質の定量に供した。タンパク質定量は、テープの残り半分に0.1N NaOH、1%SDS水溶液を加え、60℃で2時間加熱することにより、タンパク質を可溶化し、室温まで冷却した後2N HClを加えて中和し、BCA Protein Assayを用いて、BSAによる検量線からタンパク質の定量値を得た。
【0089】
脂質分子の抽出
上記皮膚角質層を採取したテープに、N−heptadecanoyl−D−erythro−sphingosineを含むメタノールを加え、超音波を照射することにより脂質分子を抽出した。
【0090】
セラミドの粗分画と試料溶液の調製
上記メタノール抽出液を窒素気流下で乾固し、これにクロロホルム/メタノール=99.5/0.5(v/v)を加えて溶解し、固相抽出用シリカゲルカートリッジに適用した。クロロホルム/メタノール=99.5/0.5(v/v)を十分に適用した後、クロロホルム/メタノール=95/5(v/v)を適用し、その溶出液を得た。この溶出液を窒素気流下で乾固した後、ヘキサン/イソプロパノール/ギ酸=95/5/0.1(v/v/v)を加えて溶解し、試料溶液とした。
【0091】
セラミド成分の分析条件
本例では液体クロマトグラフ−質量分析装置を使用した。具体的には、液体クロマトグラフと質量分析装置が一体になった分析システムとして、横河アナリティカルシステムズ社、アジレント1100シリーズ LC/MSDを使用した。
分離カラムとしては、ジーエルサイエンス社、Inertsil SIL 100A-3、1.5mmφ×150mm(3μm)を使用した。ガードカラムとしては、ジーエルサイエンス社、Inertsil SIL 100A-3、1.5mmφ×10mm(3μm)を使用した。溶離液a(図1参照)としてはヘキサン/イソプロパノール/ギ酸=95/5/0.1(v/v/v)を使用し、溶離液b(図1参照)としてはヘキサン/イソプロパノール/50mmol/Lのギ酸アンモニウム水溶液=25/65/10(v/v/v)を使用した。また、グラジエント条件は表2に示した。
【0092】
【表2】

【0093】
イオン化促進液としては、イソプロパノール/5mmol/Lのギ酸アンモニウムメタノール溶液=50/50(v/v)を使用した。イオン化促進液の流速は0.1mL/分とした。
【0094】
また、質量分析装置における分析条件は以下の通りである。イオン化法:ESI、極性:正イオン、測定質量範囲:250〜1500、フラグメンター電圧:150V、Vcap電圧:3500V、ネブライザー圧力:20psig、乾燥ガス温度:300℃、乾燥ガス流量:8L/分
【0095】
結果
質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。その後、既知のセラミド分子種についてそれぞれ保持時間及びm/zの情報を格納したデータベースを利用して、多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークを同定した。そして、各セラミド分子のピーク面積を求め、内部標準物質に対するピーク面積比を算出し、さらにタンパク質量で除することにより、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子の相対量を算出した。これらに予め求めてあるセラミド分子種ごとの検出感度補正係数を乗じることにより、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子種の絶対量を算出した。
【0096】
アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を図9に示し、乾癬患者群と健常者群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を図10に示す。図9及び10の結果から、健常者と比較して、アトピー性皮膚炎患者と乾癬患者においてはセラミドのクラス組成は大きく異なることが明確となった。
【0097】
特に、図9に示すように、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NS]のセラミド総量に対する組成比は健常者群と比較して有意に上昇しており、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NH]のセラミド総量に対する組成比は健常者群と比較して有意に減少しており、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NP]のセラミド総量に対する組成比は健常者群と比較して有意に減少しており、アトピー性皮膚炎患者群のCer[AS]のセラミド総量に対する組成比は健常者群と比較して有意に上昇しており、アトピー性皮膚炎患者群のCer[EOH]のセラミド総量に対する組成比は、健常者群と比較して有意に減少しており、アトピー性皮膚炎患者群のCer[EOP]のセラミド総量に対する組成比は健常者群と比較して有意に減少している。
【0098】
特に図10に示すように、乾癬患者群のCer[NS] ]のセラミド総量に対する組成比は、健常者群と比較して有意に上昇しており、乾癬患者群のCer[NH]及びCer[NP] セラミド総量に対する組成比は健常者群と比較して有意に減少しており、乾癬患者群のCer[AS]のセラミド総量に対する組成比は健常者群と比較して有意に上昇している。
【0099】
図9及び10に示した特性のうち、Cer[NP]のセラミド総量に対する組成比は、健常者群と比較してアトピー性皮膚炎患者や乾癬患者において、非常に低い値を示すことが明確になった。
【0100】
一方、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるセラミド・クラスを構成する分子種の炭素数について存在比を重みとした加重平均値を比較した結果を図11に示し、乾癬患者群と健常者群におけるセラミド・クラスを構成する分子種の炭素数について存在比を重みとした加重平均値を比較した結果を図12に示す。図11及び12の結果から、アトピー性皮膚炎や乾癬では、健常者群と比較して総炭素数の加重平均値が小さくなる傾向にあることが明確となった。特に、図11に示すように、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]及びCer[AH]に含まれる分子種の平均炭素数が健常者群と比較して有意に減少している。また、図12に示すように、アトピー性皮膚炎患者群のCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]、Cer[ADS]、Cer[AS]及びCer[AH]に含まれる分子種の平均炭素数が健常者群と比較して有意に減少している。
【0101】
さらに、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の量を比較した結果を図13に示し、乾癬患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の量を比較した結果を図14に示す。また、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種のCer[NS]総量に対する組成比を比較した結果を図15に示し、乾癬患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種のCer[NS]総量に対する組成比を比較した結果を図16に示す。
【0102】
図13〜16に示すように、アトピー性皮膚炎患者及び乾癬患者においては、Cer[NS]のうち総炭素数が34の分子種の絶対量とCer[NS]総量に対する組成比とが健常者群と比較して多いことが明確となった。
【0103】
さらにまた、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるセラミド・クラスについて不飽和結合が1以上多い分子種の組成比を比較した結果を図17に示し、乾癬患者群と健常者群におけるセラミド・クラスについて不飽和結合が1以上多い分子種の組成比を比較した結果を図18に示す。図17に示すように、アトピー性皮膚炎患者群においては特にCer[NH]及びCer[EOS]について、不飽和結合が1以上多い分子種が有意に増加している。また、図18に示すように、乾癬患者群においては、特にCer[NDS]、Cer[NS]、Cer[NH]、Cer[AS]、Cer[AH]、Cer[AP]及びCer[EOS]について、不飽和結合が1以上多い分子種が有意に増加している。
【0104】
〔実施例5〕
本実施例では、疾患ではない被験者から採取した皮膚角質層を用いて、実施例4で示した方法により、脂質成分の一種であるセラミド成分を解析した。
【0105】
被験者
乾燥肌7名及びそれに対応する普通肌6名、頬部において恒常的にバリアー機能が低い低バリアー肌12名及びそれに対応する普通肌10名。
【0106】
皮膚角質層の採取
乾燥肌7名及びそれに対応する普通肌6名においては前腕屈側部に、低バリアー肌12名及びそれに対応する普通肌10名においては頬部にテープを押し付け、皮膚角質層を剥離した。それぞれのテープを半分に切り分け、一方をセラミド成分の解析に供し、もう一方をタンパク質の定量に供した。タンパク質定量は、テープの残り半分に0.1N NaOH、1%SDS水溶液を加え、60℃で2時間加熱することにより、タンパク質を可溶化し、室温まで冷却した後2N HClを加えて中和し、BCA Protein Assayを用いて、BSAによる検量線からの定量値を得た。
【0107】
結果
質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。その後、既知のセラミド分子種についてそれぞれ保持時間及びm/zの情報を格納したデータベースを利用して、多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークを同定した。そして、各セラミド分子のピーク面積を求め、内部標準物質に対するピーク面積比を算出し、さらにタンパク質量で除することにより、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子の相対量を算出した。
【0108】
乾燥肌群と普通肌群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を図19に示し、低バリアー肌群と普通肌群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を図20に示す。図19及び20の結果から、普通肌と比較して、乾燥肌と低バリアー肌においてはセラミドのクラス組成は大きく異なることが明確となった。
【0109】
特に、図19に示すように、乾燥肌群のCer[NDS] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して上昇しており、乾燥肌群のCer[NS] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して上昇しており、乾燥肌群のCer[NH] のセラミド総量に対する組成比は、普通肌群と比較して減少しており、乾燥肌群のCer[NP] のセラミド総量に対する組成比は、普通肌群と比較して減少しており、乾燥肌群のCer[AS] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して上昇しており、乾燥肌群のCer[AH]のセラミド総量に対する組成比は、普通肌群と比較して減少しており、乾燥肌群のCer[AP] のセラミド総量に対する組成比は、普通肌群と比較して減少しており、乾燥肌群のCer[EOH] のセラミド総量に対する組成比は、普通肌群と比較して減少している。
【0110】
特に、図20で示すように、低バリアー肌群のCer[NDS] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して有意に上昇しており、また、低バリアー肌群のCer[NS] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して有意に上昇しており、低バリアー肌群のCer[NH] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して有意に減少しており、低バリアー肌群のCer[NP] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して有意に減少しており、低バリアー肌群のCer[AS] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して有意に上昇しており、低バリアー肌群のCer[EOS] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して有意に減少しており、低バリアー肌群のCer[EOH] のセラミド総量に対する組成比は普通肌群と比較して有意に減少している。
【0111】
一方、低バリアー肌群と普通肌群におけるセラミド・クラスを構成する分子種の炭素数について存在比を重みとした加重平均値を比較した結果を図21に示す。図21の結果から、低バリアー肌群では、普通肌群と比較して総炭素数の加重平均値が小さくなる傾向にあることが明確となった。特に、図21に示すように、低バリアー肌群のCer[NDS]及びCer[NH]に含まれる分子種の平均炭素数が普通肌群と比較して有意に減少している。
【0112】
さらに、低バリアー肌群と普通肌群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の量を比較した結果を図22に示す。また、低バリアー肌群と普通肌群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種のCer[NS]総量に対する組成比を比較した結果を図23に示す。
【0113】
また、乾燥肌群と普通肌群のおけるCer[NS]の総炭素別の相対量を比較した結果を図24に示す。
【0114】
図22〜23に示すように、低バリアー肌においては、Cer[NS]のうち総炭素数が34の分子種の絶対量とCer[NS]総量に対する組成比とが普通肌と比較して多いことが明確となった。図24で示すように、乾燥肌においては普通肌と比較して、総炭素数の少ないCer[NS]が上昇し、総炭素数が大きいCer[NS]が減少することが明確となった。特に、総炭素数が34の分子種の相対量が普通肌と比較して多いことが明確となった。
【0115】
この結果から、疾患ではない皮膚角質層において普通肌と比較して変動した。さらに頬部においても普通肌と比較し変動した。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】脂質組成情報を取得するための解析システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1に示した解析システムから出力される多段マスクロマトグラムの一例を示す特性図である。
【図3】正常ヒト表皮角化細胞の単層培養物と重層培養物とから取得したデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した結果を示す特性図である。
【図4】実施例2に示した実験系において、コントロール群におけるCer[NP]の量を1とし、ビタミンD3を使用した群におけるCer[NP]の量を相対値として算出した結果を示す特性図である。
【図5】実施例2に示した実験系において、コントロール群におけるセラミド総量に対するCer[NP]の割合を1とし、ビタミンD3を使用した群におけるセラミド総量に対するCer[NP]の割合を相対値として算出した結果を示す特性図である。
【図6】実施例2に示した実験系において、コントロール群とビタミンD3を使用した群におけるCer[NS]を構成する分子種の炭素数について存在比を重みとした加重平均値を比較した結果を示す特性図である。
【図7】実施例3に示した実験系において、コントロール群におけるCer[NH]の量を1とし、ビタミンCを使用した群におけるCer[NH]の量を相対値として算出した結果を示す特性図である。
【図8】実施例3に示した実験系において、コントロール群におけるセラミド総量に対するCer[NH]の割合を1とし、ビタミンCを使用した群におけるセラミド総量に対するCer[NH]の割合を相対値として算出した結果を示す特性図である。
【図9】実施例4に示した実験系において、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図10】実施例4に示した実験系において、乾癬患者群と健常者群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図11】実施例4に示した実験系において、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるセラミド・クラスを構成する分子種の炭素数について存在比を重みとした加重平均値を比較した結果を示す特性図である。
【図12】実施例4に示した実験系において、乾癬患者群と健常者群におけるセラミド・クラスを構成する分子種の炭素数について存在比を重みとした加重平均値を比較した結果を示す特性図である。
【図13】実施例4に示した実験系において、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の量を比較した結果を示す特性図である。
【図14】実施例4に示した実験系において、乾癬患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の量を比較した結果を示す特性図である。
【図15】実施例4に示した実験系において、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種のCer[NS]総量に対する組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図16】実施例4に示した実験系において、乾癬患者群と健常者群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種のCer[NS]総量に対する組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図17】実施例4に示した実験系において、アトピー性皮膚炎患者群と健常者群におけるセラミド・クラスについて不飽和結合が1以上多い分子種の組成比を比較した結果を示す特性図である
【図18】実施例4に示した実験系において、乾癬患者群と健常者群におけるセラミド・クラスについて不飽和結合が1以上多い分子種の組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図19】実施例5に示した実験系において、乾燥肌群と普通肌群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図20】実施例5に示した実験系において、低バリアー肌群と普通肌群におけるセラミド成分の組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図21】実施例5に示した実験系において、低バリアー肌群と普通肌群におけるセラミド・クラスを構成する分子種の炭素数について存在比を重みとした加重平均値を比較した結果を示す特性図である。
【図22】実施例5に示した実験系において、低バリアー肌群と普通肌群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種の量を比較した結果を示す特性図である。
【図23】実施例5に示した実験系において、低バリアー肌群と普通肌群におけるCer[NS]のうち炭素数34の分子種のCer[NS]総量に対する組成比を比較した結果を示す特性図である。
【図24】実施例5に示した実験系において、乾燥肌群と普通肌群におけるCer[NS]の総炭素数の相対量の分布を比較した結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0117】
1…皮膚角質層中の脂質の解析を実施するシステム
10…液体クロマトグラフ
11a、11b…高圧グラジエントポンプ
12…オートインジェクター
13…ガードカラム
14…分離カラム
20…イオン化促進液送液装置
21…ポンプ
22…ティーコネクター
30…質量分析装置
31…イオン化装置
32…質量分離検出装置
40…演算装置
a、b…溶離液
c…イオン化促進液
d…脂質試料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の脂質組成の変化を指標とした被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項2】
前記脂質成分がスフィンゴ脂質である、請求項1記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項3】
前記スフィンゴ脂質がセラミドである、請求項2記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項4】
上記脂質組成のうち、N−(ω−OH−アシル)アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分についてセラミド総量に対する組成比を比較することを特徴とする、請求項1乃至3いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項5】
上記脂質組成のうち、N−(ω−OH−アシル)アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、当該成分に含まれる分子種の平均炭素数を、各分子種の存在比を重みとした加重平均値として算出し、当該炭素数の加重平均値を比較することを特徴とする、請求項1乃至3いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項6】
上記脂質組成のうち、N−(ω−OH−アシル)アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、不飽和結合が1以上多い分子種の割合を比較することを特徴とする、請求項1乃至3いずれか一項記載の被検物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項7】
全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分における、炭素数34の分子種の量及び/又は全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分の総量に対する組成比を比較することを特徴とする、請求項1乃至3いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項8】
上記脂質組成のうち、N−(ω−OH−アシル)アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の分子種について、その分子種の量を比較することを特徴とする、請求項1乃至3いずれか一項記載の被験物質の評価またはスクリーニング方法。
【請求項9】
炭素数34の分子種の量を比較することを特徴とする請求項8記載の被験物質の評価またはスクリーニング方法。
【請求項10】
上記脂質組成のうち、N−(ω−OH−アシル)アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の分子種について、セラミド総量に対する組成比、各セラミド群に対する組成比を比較することを特徴とする、請求項1乃至3いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項11】
N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分における炭素数34の分子種について、セラミド総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項10記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項12】
被験物質を作用させた被験体から得た脂質組成情報と、被験物質を作用させない被験体から得た脂質組成情報とを、肌質に影響する物質を作用させたときに組成比が変化する脂質成分について比較し、
上記被験物質が上記肌質に影響する物質と類似した機能を有するか判断する、請求項1乃至11いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項13】
被験体が、動物から採取した皮膚、死体皮膚、細胞、再構成した細胞並びに皮膚組織、角層、血液、体液、毛髪、及び臓器からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至12いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項14】
上記被験体が培養細胞である請求項1乃至12いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項15】
上記培養細胞がケラチノサイトである請求項14記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項16】
上記ケラチノサイトは重層培養されたものである請求項15記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項17】
被験物質が肌質に影響する物質であること特徴とする請求項1乃至16いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項18】
上記肌質に影響する物質が乾癬治療薬であることを特徴とする請求項17記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項19】
N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド成分及びN−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分についてセラミド総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項18記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項20】
N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、当該成分に含まれる分子種の平均炭素数を、各分子種の存在比を重みとした加重平均値として算出し、当該炭素数の加重平均値を比較することを特徴とする請求項18記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項21】
N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド成分及びN−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、不飽和結合が1以上多い分子種の割合を比較することを特徴とする請求項18記載の被検物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項22】
全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分における、炭素数34の分子種の量及び/又は全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分の総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項18記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項23】
上記肌質に影響する物質がアトピー性皮膚炎治療薬であることを特徴とする請求項17記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項24】
N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)スフィンゴシン・セラミド成分、N−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分及びN−(ω−OH−アシル)アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分についてセラミド総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項23記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項25】
N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分及びN−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、当該成分に含まれる分子種の平均炭素数を、各分子種の存在比を重みとした加重平均値として算出し、当該炭素数の加重平均値を比較することを特徴とする請求項23記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項26】
N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分及び/又はN−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド成分について、不飽和結合が1以上多い分子種の割合を比較することを特徴とする請求項23記載の被検物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項27】
全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分における、炭素数34の分子種の量及び/又は全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分の総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項23記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項28】
上記肌質に影響する物質が乾燥肌改善剤であることを特徴とする請求項17記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項29】
N−アシル−シヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−フィトスフィンゴシン・セラミド成分、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド成分及びN−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分についてセラミド総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項28記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項30】
N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分に含まれる分子種の平均炭素数を、各分子種の存在比を重みとした加重平均値として算出し、当該炭素数の加重平均値を比較することを特徴とする請求項28記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項31】
全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分における、炭素数34の分子種の量及び/又は全N−アシル−スフィンゴシ・セラミド成分の総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項28記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項32】
上記肌質に影響する物質がバリアー機能改善剤であることを特徴とする請求項17記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項33】
N−アシル−シヒドロスフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分、N−アシル−フィトスフィンゴシン・セラミド成分、N−(α−OH−アシル)−スフィンゴシン・セラミド成分、N−(ω−OH−アシル)アシル−スフィンゴシン・セラミド成分及びN−(ω−OH−アシル)アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分についてセラミド総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項32記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項34】
N−アシル−ジヒドロスフィンゴシン・セラミド成分及びN−アシル−6−OH−スフィンゴシン・セラミド成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分について、当該成分に含まれる分子種の平均炭素数を、各分子種の存在比を重みとした加重平均値として算出し、当該炭素数の加重平均値を比較することを特徴とする請求項32記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項35】
全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分における、炭素数34の分子種の量及び/又は全N−アシル−スフィンゴシン・セラミド成分の総量に対する組成比を比較することを特徴とする請求項32記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。
【請求項36】
被験体から採取された脂質試料を液体クロマトグラフ−質量分析法で分離検出し、その検出データを多段マスクロマトグラムで解析することで生成されたデータであることを特徴とする請求項1乃至35いずれか一項記載の被験物質の評価又はスクリーニング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2008−261754(P2008−261754A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105209(P2007−105209)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第24回 IFSCC大阪大会(24▲th▼ IFSCC Congress Osaka Japan) 主催者名:日本化粧品技術者会 刊行物名:Integration of Cosmetic Sciences 開催期間:2006年10月16日〜19日 開催場所:Osaka International Convention Center 刊行物頒布年月日:2006年10月16日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】