説明

被験者における状態を維持するための方法及びシステム

被験者12における状態を維持する方法は、第一の周波数でペーシング信号20を生成するステップと、生成されたペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するステップと、被験者の1つ以上の生理的パラメータを測定するステップと、測定されたパラメータが被験者における所望状態に一致することを検出するステップと、生成されたペーシング信号に基づく出力の被験者への提示を除去するか、又は、第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、生成された新たなペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するかのいずれかのステップと、を有する。該方法は、測定されたパラメータが被験者における所望状態に一致することを検出するステップの前に、測定されたパラメータからのフィードバックに従ってペーシング信号を調節するステップをさらに有することができる。好適な実施形態において、該方法はまた、測定されたパラメータがもはや被験者における所望状態に一致しないことを検出し、元の生成されたペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するステップもさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被験者における状態を維持するための方法及びシステムに関する。一実施形態において、本発明は柔軟かつ最適な換気(breathing)ガイダンスアルゴリズムを用いるシステムを提供するために使用されることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、心拍変動は生理学と心理学の両方において大きな関心の的となっている。この関心の理由の1つは、心拍変動が副交感神経系と交感神経系のバランスに起因することであり、これらはそれぞれ心拍数を減少及び増加させる。臨床的関心以外に、被験者と使用するための既知の用途があり、入眠時間の減少、ヨガの行、血圧の低下、コンピュータ使用中又はテレビ視聴中のリラクゼーション、車両運転、薬、及びスポーツ状況を含む。
【0003】
瞑想によってリラックスすることと換気との関連性は、呼吸性洞性不整脈(RSA)として知られる、呼吸(respiration)によって引き起こされる心拍数の調節及び換気振動に関する心肺同期に対する瞑想の影響についての研究に示される。禅の瞑想は、呼吸によって引き起こされる換気振動と心拍変動に関して心肺相互作用を同期させる。さらに、こうした瞑想はまた、心拍の低周波数変動を大幅に増加させる。自発換気パターンは心肺同期をほとんど示さず、精神活動中、心肺同期は両タイプの禅の瞑想と比べて減少した。この種の心肺同期は気道におけるガス交換に有利であることもまた示され得る。さらに、この種の宗教的慣習は、特殊な長期間の訓練の必要なく、心肺相互作用に対する即効の生理的効果を持つことが知られている。ヨガでも同様の結果が得られる。
【0004】
1964年より前、呼吸により誘導された変動を制御する唯一の方法は、被験者又は患者にとってその息を止めることであった。1964年、心電図/ベクトル心電図(ECG/VCG)における呼吸変動への初めての解決法が、信号加算平均の技術について発表されたOtto Schmittの論文に出された。この論文において、被験者は光又は音を用いて換気の合図をされ、その心拍数の約数で同期された。信号は、例えば吸気信号に対して2拍、呼気信号に対して次の3拍を数えることによって、ECGから作られた。ノイズ、及び心拍と非同期に起こる他の変動を除くために、呼吸サイクルにおいて同じ位置で拍動又は時間間隔の各々(すなわち第一、第二、第三など)がコンピュータで平均化された。これは、瞬時心拍数又はRR間隔における呼吸性洞性不整脈(RSA)変化をあらわす非常にノイズの少ない信号をもたらした。非呼吸変動は換気サイクルの数の平方根として換算される。
【0005】
現行製品はRESPeRATE(登録商標)(www.resperate.com参照)であり、これは装置ガイド下換気によって自然に血圧を下げるのを助ける携帯電子機器である。該装置は外部リズムに従おうとする体の自然な傾向を使用し、被験者の換気速度を毎分10換気未満の"治療ゾーン"まで下げるように被験者をインタラクティブにガイドする。これは調整された換気療法を通して血圧を下げることが臨床的に証明された唯一の医療機器であり、処方箋なしで販売可能である。
【0006】
より複雑なシステムは米国特許出願公開US2005/0187426に開示され、これは心拍変動サイクルを換気サイクルと同期させるためのシステムと方法を開示する。この公開公報は、心拍変動サイクルを換気サイクルに同期させることによって、及び、自然心拍変動サイクルの周波数と密接に同調した外部基準を用いて換気サイクルを意識的に同期させることによって、心拍変動のコヒーレンスを実現するための方法とシステムを記載する。外部基準のサイクルをあらわす様々な手段が提供され、視覚的、聴覚的、及び感覚的表示を含む。被験者に、その吸気を外部基準サイクルの正の局面に、呼気を外部基準サイクルの負の局面に意識的に同期させるように教える、指示方法が提供される。
【0007】
現在知られているシステムの全ては、被験者に提示されるガイダンスシステムにおいて十分な柔軟性を欠いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って従来技術を改良することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様によれば、被験者における状態を維持する方法が提供され、該方法は、第一の周波数でペーシング信号を生成するステップと、生成されたペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するステップと、被験者の1つ以上の生理的パラメータを測定するステップと、測定されたパラメータが被験者における所望状態に一致することを検出するステップと、生成されたペーシング信号に基づく出力の被験者への提示を除去するか、又は、第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、生成された新たなペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するかのいずれかのステップとを有する。
【0010】
本発明の第二の態様によれば、被験者における状態を維持するためのシステムが提供され、該システムは、第一の周波数でペーシング信号を生成するように構成されるプロセッサと、生成されたペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するように構成される1つ以上の出力装置と、被験者の1つ以上の生理的パラメータを測定するように構成される1つ以上のセンサとを有し、プロセッサはさらに、測定されたパラメータが被験者における所望状態に一致することを検出するように構成され、生成されたペーシング信号に基づく出力の被験者への提示を除去するか、又は、第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、出力装置が、生成された新たなペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するように構成されるかのいずれかである。
【0011】
本発明により、現在知られているシステムよりも柔軟な、フィードバックを被験者へ提供する、被験者における状態を維持するための方法とシステムを提供することが可能である。ユーザが、その生理的パラメータの測定によって決定されるように、一旦所望状態を得ると、ユーザへの実際のフィードバックは除去されるか、又はユーザの現在の状態を反映するように変更される。これは、被験者が一旦所望状態に入ると、変化しやすい被験者の実際の必要により同調したシステムを提供する。
【0012】
有利なことに、該方法はさらに、測定されたパラメータが被験者における所望状態に一致することを検出するステップの前に、測定されたパラメータからのフィードバックに従ってペーシング信号を調節するステップを含む。被験者が初期状態である間、所望状態に達する前に、被験者の呼吸性洞性不整脈を決定するために生理的パラメータが測定されることができ、ユーザが所望状態に達するのを助けるためにペーシング信号に小さな変化が作られることができる。
【0013】
好適には、該方法はさらに、測定されたパラメータがもはや被験者における所望状態に一致しないことを検出し、元の生成されたペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するステップを有する。被験者が所望状態に達した後、出力は除去されるか又は変更される。しかしながら、被験者はまだ観察されることができ、所望状態から動いたことが検出される場合、該システムは、もう一度被験者を所望状態に戻すために、元のペーシング信号に基づく出力を戻すように構成される。付加的に、又は代替的に、該方法はさらに、測定されたパラメータがもはや被験者における所望状態に一致しないことを検出するこの状況において、被験者へ警告表示を提示するステップを有することができる。警告は被験者にもはや所望状態ではないことを教え、被験者はプロセスを再開するか、又は何か他の行動をとるかどうかを決定することができる。
【0014】
理想的に、該方法はさらに、測定されたパラメータが被験者における所望状態に一致することを検出するステップに続いて、かつ、測定されたペーシング信号に基づく出力の被験者への提示を除去するか、又は、第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、生成された新たなペーシング信号に基づく出力を被験者へ提示するかのいずれかのステップの前に、被験者における所望状態を所定時間維持するステップを有する。出力を除去するか又は変更することによる、被験者への出力の変化は、被験者が所望状態に入ったことが検出された直後に起こる必要はない。この変化が引き起こされる前に、該システムに時間差が含まれ得る。
【0015】
本発明の実施形態は、ほんの一例として、添付の図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】被験者とシステムの略図である。
【図2】自発的心肺同期システムの略図である。
【図3】タイミング図である。
【図4】タイミング図である。
【図5】図1のシステムを操作する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は被験者12における状態を維持するためのシステム10を示す。システム10は被験者12の1つ以上の生理的パラメータを測定するように構成されるセンサ14と、測定されたパラメータを用いて様々な計算を実行するように構成されるプロセッサ16と、被験者12への出力を生成するように構成される出力装置18とを有する。システム10は事実上フィードバックシステムであり、皮膚温及び心拍数などの被験者12のパラメータを観察し、出力装置18を介して被験者12へフィードバックを与える。プロセッサ16はペーシング信号20を生成し、被験者12は生成されたペーシング信号20に基づく出力を提示される。
【0018】
図は、被験者12が3つの個別センサ14によって観察されていることを示す。センサ14aは皮膚伝導度測定装置であり、センサ14bは被験者12の顔の表情と頭部位置を観察しているカメラであり、センサ14cは被験者の胸部のまわりにストラップで適所に保たれる無線心拍数モニタである。センサ14a及び14cは被験者12の生理的パラメータを直接測定している直接センサとみなされることができ、センサ14bは被験者12の顔の表情などの生理的パラメータを測定している間接センサである。他の間接的な生理的センサは、例えばユーザがハンドルを握る圧力など、ユーザがユーザインタフェースと相互作用する方法を有し得る。
【0019】
出力装置18は、プロセッサ16の制御下で被験者12へ出力を与えるように構成されるスピーカである。単一の出力装置18が図に示されているが、同じ又は異なるカテゴリの複数の出力装置18が使用されることができない理由はない。例えば、表示装置を構成する出力装置18が備えられ得る。被験者12はオーディオ装置18を介して、また協調して、関連する表示装置によって、フィードバックを与えられる。複数の出力装置18、又は単一の出力装置18は、プロセッサ16の制御下で被験者12へのフィードバック全体を与えるステップへ進み、プロセッサ16は装置18によって被験者12へ与えられるフィードバックの程度とペースを決定する。
【0020】
一実施形態において、図1のシステム10は被験者12をその換気に関して補助するために使用されることができる。換気ガイダンスは被験者の換気法を改善するための方法である。換気は心拍数に、従って心拍変動に影響する。これは、心拍変動が、それぞれ被験者の心拍数を減少及び増加させる副交感神経系と交感神経系のバランスに起因するため、特に興味深い。この好適な実施形態において、システム10は自発的心肺同期(VCRS)から非VCRS換気への移行、及びその逆に特に注目し、被験者12の呼吸性洞性不整脈(RSA)を最適化することに注目する。システム10はVCRSを用いて、様々な用途において、特に入眠及びスポーツにおいて、便利で、柔軟で、かつ一般的な方法で被験者12へフィードバックを与えるが、一般的なリラクゼーション、及び特に被験者12の血圧を下げることなど、他の分野にも拡張され得る。
【0021】
図2は自発的心肺同期(VCRS)スキームの一実施例を示し、これは被験者12の心拍数を制御するために、被験者12における換気レベルをサポートするため使用されることができる。図2のシステムは被験者12の心拍数(又は解釈されたリラクゼーションレベル)を所望状態内に維持するために使用されることができる。被験者12は観察され、その心臓に関連する生理的パラメータがセンサ(図示せず)によって測定され、その出力はECG増幅器28で受け取られる。
【0022】
増幅されたECG信号はR波弁別器30へ渡され、これはR波計数パルスを拍動計数論理回路32へ出力する。この論理は、出力装置18を制御する光ドライバ34を制御し、この光ドライバは被験者12が息を吸うべき時と吐くべき時を被験者12へ説明する光から構成される。図2に示されるシステムは、例えば被験者12がその心拍数を観察する小さな手首装着型装置を装着している場合、被験者12にとって必ずしも煩わしいものではない。出力は、ペーシング信号20に基づいて、光18を介して被験者12へ与えられる。ペーシング信号20は、被験者12へ換気ガイダンスを提供するために、被験者12へフィードバックを与えるために使用される。被験者12が該システムによって観察される間、レコーダ36でデータが記録されることができる。
【0023】
図3はVCRSタイミング図を示し、図の下部にR波弁別器30の出力を、図の上部に呼吸信号の生成を示す。この呼吸信号は光18を制御するために使用され、これは被験者12がその換気を制御するために必要とする情報を被験者12へ信号で伝える。図2及び図3のスキームは、例えば被験者12のリラクゼーションレベルを制御するために出力が被験者12へ与えられることができる1つの方法である。システム10の出力によって提供される換気ガイダンスは、被験者12が自身の換気を制御することを可能にするために利用されることができ、これは被験者12がリラックスするのを助ける、減少した心拍変動につながる。
【0024】
システム10は、測定(検出)、制御、及びフィードバックという3つのブロックを含む。第一段階は、様々な方法で決定されることができる心拍数検出である。好適にはこの測定は邪魔にならないものであり、好適な検出方法は用途による。一旦ECG又は類似信号がわかると、Rピーク間の時間が決定されることができ、心拍間隔(IBI)をもたらす。図4は第二のタイミング図を示す。矢印38は図3のタイミング図と同様に被験者12の心拍を示すが、間隔pとqの間の過渡(transients)及びその逆は必ずしも被験者の心拍と一致しない。
【0025】
図4を見ると、システム10は、p間隔中に、又はqからpへの移行時に、被験者12への"息を吸う"出力信号があるように、及びpからqへの移行時に"息を吐く"出力信号があるように、実数pとqを間隔に割り当てることができる。間隔pとqの間にはそれぞれint(p)及びint(q)心拍があり、"int"は整数演算を示す。心拍とはここでは広義に考えられる。これはECGから直接導き出されることができるが、音響特性又はPPGからも導き出されることができる。pとqは、通常のVCRSにおけるような整数に制限されず、これは被験者12により多くの自由を与え、int(p)=int(q)であることを指示するシステムよりも多くの自由を与えることに留意されたい。pとqの値は個別に選ばれてよく、又は、これが被験者の一回換気量と心拍出量に依存するため、被験者12に適応されてもよい。システム10は、PPG又は他の手段を用いて呼吸を観察することによって指示される通り、換気が適切になされている場合、ユーザ12へフィードバックを与えることさえできる。
【0026】
pとqの間の過渡及びその逆は、必ずしも心拍と一致しない。これは重要な自由を与える。さらに、これは生理学的な視点からより理にかなっている。特に拍動矢印38が指PPGから得られる場合、ECGとPPGにおける関連パルスの間には著しい遅れがある。唯一の制限は、間隔pとqが対応する心拍活動時間軸に比例して変化することであり、従って残りの位相はロックされる。最も単純な実施形態において、pとqは整数であり、従って測定されたパルス(図4の矢印38)と一致する。
【0027】
より精密な実施形態では、矢印38の位置は自己回帰(AR)フィルタで予測され、測定信号が信頼できない場合に、前の値を埋めるか又は平均値を用いるよりもずっと精密な、その正確な位置(変動を含む)をAR関数が予測するようになっている。被験者に自分自身のペースで息を吸って吐くようにさせることによって、及び、例えばピエゾフォイルを用いて、又はPPGから、ECG出力を介して換気ペースを決定することによって、pとqに対する初期値を決定するための適応スキーマが使用され得る。従ってシステムは、pとqに対する初期値を容易に決定することができるように構成される。典型的な値はp=2、q=3であり得るが、初期値としてユーザ12が現在使用しているpとqに対する値を使用することができ、徐々にそれらの数を増加させることができる。
【0028】
別の実施形態において、システム10は、被験者の換気が呼吸と正確に同期することを要求しないが、ほとんど同期していれば十分であるように操作される。弱結合カオス系の理論から、|nΦ−mΦ|<εである場合、ここでnとmは整数であり、ΦとΦはそれぞれ心臓及び呼吸信号の位相であり、εは十分に小さい定数であるが、信号は位相ロックされているとみなされることができることが知られている。
【0029】
図1乃至図4を参照する上記のシステム10は、システム10をより柔軟にするための、及び被験者12のコヒーレンスを最適化するための手段を含む。現在のシステム10は、コヒーレンスの状態を誘導するために、単純な調整された換気(又は代替的にVCRS換気ガイダンス法)を使用することが非常に効率的である一方、喜び(又はリラクゼーション)の経験はそうした単純な(又はVCRSベースの)換気ガイダンスに厳密に忠実であることによって最大化されることができない、という前提に基づく。特にシステム10は、一旦(VCRS換気ガイダンスを用いて)コヒーレンスに達し、被験者12がリラックスし始めると、被験者12がシステム10によって元々指示されたものとは異なる(より遅い)速度で換気することを許可するような、(プロセッサ16によって制御される)システム10の動作への変化が生じるように設計される。
【0030】
被験者12のリラクゼーションが増加し続けるにつれ、被験者12は換気をガイドされる必要をもはや感じない状態に達するが、単に自分自身の好適な速度で換気することによってさらにより心地よくリラックスしようとし、これはガイダンスが一時的に除去されることで達成され得る。この自由換気の状態から、システム10は、被験者12がそのコヒーレント状態を中断したことが特定される状況において、例えば被験者12が妨害によって邪魔される場合に、換気ガイダンスへの復帰が実行されることができるように、制御される。
【0031】
以下では、この好適なリラクゼーション誘導換気ガイダンスシステムを実現する、単純な換気ガイダンスに基づくシステムと方法が記載される。最初に、システム10は、多くのユーザ12がリラクゼーションにつながるものとして経験するような換気速度を選ぶことによって開始し得る。好適な実施形態において、システム10は0.085ヘルツの最適換気速度を生じるように操作されるので、システム10はこの0.085ヘルツの速度に達するように初期位相におけるp(q=pである間)を選択する。
【0032】
初期位相中、被験者12はほとんど直ちにコヒーレンスになるが、最適な程度の快適さ、喜び、又はリラクゼーションを伴うとは限らない(上記の通り)。初期位相中、被験者12の呼吸性洞性不整脈(RSA)が測定され、RSAが最適となるように、0.085ヘルツの換気速度のわずかな摂動が、周知の最適化法(例えば速度の漸増又は漸減)を用いて導入される。被験者12はこの操作のフィードバックを得るか、又は手動で速度の増加又は減少を指示することさえ推奨され得る。しばらくして被験者12は最適RSAに達することになる。
【0033】
RSAはしばらく後に最適になるが、上記の理由のために、被験者12は調整された最適速度から外れたいと考えるかもしれず、自分自身の好適な速度で換気し始める。自分自身の速度で換気したいと望むさらな理由は、例えば運動中、階段を上る最中などに身体活動が変化する場合であり得る。システム10は逸脱を検出することができ、例えばより遅い若しくはより速いコマンドによって、又はコマンドを完全に停止することによって、ユーザ12が逸脱についてのフィードバックを得るように、ペーシングコマンドを停止するか又はペーシングコマンドを調節し得る。ユーザがコヒーレンス(該システムによって測定される)を維持し続ける場合には、該システムは調整された換気を再導入する必要がない。
【0034】
随意的に、システム10は、被験者12がその自由換気中に再度一定速度で換気していることを検出するとすぐに、システム10は、例えばペーシング速度をユーザ12がその自発換気期間中に採用したものへ減少させることによって、調整された換気を続けることがユーザ12にとって楽しいものであろうことを(信号又は他の表示を与えることによって)提案し得る。そして自動ペーシングシステムは上記初期位相に導入されると再開し得る。
【0035】
被験者12が何らかの理由でコヒーレンスを失っているとシステム10が検出する場合、システム10はユーザ12にとって調整された換気を再開することが有利であり得ることを(信号又は他の表示を与えることによって)提案するか、又は代替的に、調整された換気を強制するかのいずれかにプログラムされ得る。そして自動ペーシングシステムは、例えばユーザ12がまだコヒーレント状態であったときに自発換気期間中に採用したペーシング速度で、上記初期位相に導入されると再開し得る。
【0036】
上記のシステム10のさらなる実施形態では、単純な換気ガイダンスシステムを、位相のうち少なくとも1つにおいてVCRSベースの換気ガイダンスを用いるシステムと置き換えることが提案される。好適には、VCRSは初期位相において(上記の単純なシステムの提案された0.085Hzの代わりに)使用される。随意的に、VCRSはまた、該システムが再度自由換気期間から引き継ぐときのためにも使用され得る。
【0037】
上記方法は図5に要約される。この図は図1乃至図4のシステムの好適な実施形態におけるステップを示す。この方法は被験者12における状態を維持するためのものである。該プロセスは、第一の周波数でペーシング信号20を生成する、第一のステップ、ステップS1を有する。このペーシング信号20は被験者12の換気を制御するために使用される。ステップS2において、生成されたペーシング信号20に基づく出力が被験者12に提示される。この出力は多種多様な異なる形をとることができるが、単純な実施形態においては、図2に示されるような、被験者12の換気速度の吸気と呼気を示す被験者12へのある種の視覚表示である。
【0038】
次のステップは、被験者12の1つ以上の生理的パラメータを測定するステップS3である。被験者12は、例えばその現在の心拍数を検出するために、邪魔にならない方法で観察されている。複数のパラメータが測定され得る。これらの測定結果はセンサ14によってとられ、生の物理データ(1分あたりの拍数又は皮膚温など)としてそのまま使用されてよく、又は抽象的"リラクゼーション"尺度などの尺度での値に変換されてもよい。被験者12がこの初期状態にある間、随意的に、ステップS4に示されるように、測定されたパラメータからのフィードバックに従ってペーシング信号の調節が行われてもよい。
【0039】
プロセッサ16はセンサ14の出力を常に観察しており、これは、測定されたパラメータが被験者12における所望状態に一致することを検出する、次のステップ、ステップS5に反映される。被験者の所望状態は多くの異なる方法で規定されることができる。例えば、これはセンサ14によって読みとられる生データに関して規定されることができ、例えば1分あたりの拍数で特定の心拍数が得られたことと規定されることができる。同様に所望状態は上述の抽象的尺度に関して達成されてもよい。被験者12が所望状態にあるかどうかを決定するために複数のパラメータが使用され得、被験者12から直接測定されていないデータ、例えば被験者の年齢、又は局所的室温若しくは時刻などを含む。
【0040】
一旦被験者12が所望状態に入ったことが検出されると、ステップS6において、生成されたペーシング信号20に基づく出力の被験者12への提示の除去か、あるいは、ステップS7において、第二の周波数での新たなペーシング信号の生成と、生成された新たなペーシング信号に基づく出力の被験者への提示、のいずれかがなされる。新たなペーシング信号は古いペーシング信号20よりも遅いかもしれず、これは、一旦被験者12が所望状態に入ると、もはやその所望状態へつながるように行動するよう指示される必要がないという考えを反映している。
【0041】
最後の随意的なステップはステップS8に設けられ、該方法は、測定されたパラメータがもはや被験者12における所望状態に一致しないことを検出し、その結果、被験者12を該プロセスの開始時に戻すステップをさらに有する。被験者12が所望状態であることがもはや検出されない場合、システム10は、被験者12が該状態に戻るのを助けるために、被験者12への出力を導き出すために元のペーシング信号20が再度使用されるように構成されることができる。例えば、ユーザは妨害によって驚くかもしれず、これは例えばユーザの心拍変動を増加させ、これはユーザを所望状態から除去するものとして認識され得る。該プロセスはステップS1で再開する。
【0042】
被験者12へのフィードバックの適用は、例えば音、香り、又は、色若しくは明るさが変化し得る光によって人間感覚のいずれかを引き起こし得る。いくつかの実施形態と応用は以下に記載される。
【0043】
フィードバックがヘッドフォンを用いて与えられる場合、システム10は例えば片方のヘッドフォンのボリュームを、例えば左側を吸気の表示として、もう片方を呼気の表示として、修正することができる。これはリラックスさせるような抑揚で"息を吸って、吐いて"と言う声を用いてなされ得る。
【0044】
別のフィードバック様式は、フィードバックコントローラによって調節され得る経皮電気的神経刺激(TENS)である。
【0045】
被験者がベッドに寝ている場合、システム10は入眠補助として使用されることができ、上記方法のうちの1つによって心臓信号が測定されるが、好適には被験者12が自由に動けるように心弾動図が用いられる。フィードバックは適度なレベルで光を調節することによって与えられることができるが、フィードバックコントローラによって調節され得る適度な音レベルのリラックスさせるハミング音、又は(合成)楽音もまた使用されることができる。
【0046】
例えばジムでのスポーツ活動中、又はランニング若しくは漕艇中、スポーツ選手はフィードバックを得ることができ、特にランナーは既に心拍測定装置を身につけていることが多い。いくつかの活動において装置は接触され、例えば自転車のハンドルなどは容易にECGが測定されることができるが、多くの他のジム器具がこうした接触を持つ。
【0047】
病院では患者はすでにSPO2クリップ又はEEG電極につながれていることが多く、フィードバックコントローラがこれらの信号を容易に'タップする'ことができ、それらをフィードバック装置へ送ることができるようになっている。同様に、病院において患者は部分麻酔中に手術されながら自発的に換気することができる。患者はSPO2クリップ又はEEG電極につながれ、フィードバックコントローラがこれらの信号を容易に'タップする'ことができ、それらをフィードバックコントローラへ送ることができるようになっており、VCRSを適用することによって手術はよりストレスが少なくなる。
【0048】
車両を運転するとき、運転手はVCRS法で換気している場合、よりリラックスすることができ、例えばEMFi(登録商標)‐フィルムセンサベースの心弾動計椅子によって、車両の椅子に容易に心拍検出器が作られることができる。運転手がリラックスし過ぎて眠ってしまうかもしれないように見える場合、システム10は、換気速度を上げることによって運転手がより目覚めるように動作することができる。同様に、職場でコンピュータを使って仕事をしながら、ユーザ12はよりリラックスすることができる(上記参照)。
【0049】
ユーザ12が例えば術後に人工呼吸器を使う場合、システム10は換気装置の換気ペースを心拍数と同期するように指示することができ、この場合これは自発呼吸ではないが、同期される。
【0050】
吸気と呼気のフィードバックを伴う二相補助の代わりに、システム10は多相を利用するように拡張されることができる。上述のような同様のフィードバック技術が使用されることができるが、最も単純な実施形態は、どの位相が進行中であるかの、テキストを示す4(色)LED、又は単に可変テキストを使用することである。これは、Nadi Shodhana Pranayamaとして知られるヨガの特定の形式、すなわち、4つの換気相:吸気、内側保持(internal retention:肺をいっぱいにしておく)、呼気、及び外側保持(external retention:肺を空にしておく)を含む交互鼻換気を使用することができる。換気相の期間は1:2:2:1の比率で頭の中で数えることによって制御され、一般的に、上記の、及び図4に示されるp及びqと同様に、p、q、r及びtが使用されることができる。吸気と呼気は、アクティブな鼻孔を変え、他方の鼻孔を閉じたままにすることで行われる。伝統的に、右の鼻孔が親指によって閉じられ、左の鼻孔は薬指で閉じられる。例えば、第一サイクル中、被験者12は、右の鼻孔を閉じたまま左の鼻孔を通して息を吸い、そして両方の鼻孔を閉じて息を吸い続け("内側保持")、右の鼻孔のみを通して息を吐き、最後に外側保持中に両方の鼻孔を閉じる。次のサイクルは右の鼻孔を通して息を吸うことによって始まる。この慣行は上記のようなゆっくりの換気10サイクルから構成される。
【0051】
運動周波数、例えばウォーキング若しくはランニング中の歩調、又は漕艇中の動きを用いて、心拍と呼吸を同期させるためにシステム10を使用することもまた可能である。システム10は一般的に被験者をリラックスさせることを目的とするが、入眠時間の減少、ヨガの行、血圧の低下、PC使用又はテレビ視聴中のリラクゼーション、車両運転、薬、及びスポーツなどの特定の用途を含む。さらに、システム10は被験者12の呼吸性洞性不整脈(RSA)を最適化するために使用されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における状態を維持する方法であって、
第一の周波数でペーシング信号を生成するステップと、
前記生成されたペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示するステップと、
前記被験者の1つ以上の生理的パラメータを測定するステップと、
前記測定されたパラメータが前記被験者における所望状態に一致することを検出するステップ、並びに、
前記生成されたペーシング信号に基づく前記出力の前記被験者への提示を除去するステップ、又は、
第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、前記生成された新たなペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示するステップのいずれか、
とを有する、方法。
【請求項2】
前記測定されたパラメータが前記被験者における所望状態に一致することを検出するステップの前に、前記測定されたパラメータからのフィードバックに従って前記ペーシング信号を調節するステップをさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定されたパラメータがもはや前記被験者における所望状態に一致しないことを検出し、前記元の生成されたペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示するステップをさらに有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定されたパラメータがもはや前記被験者における所望状態に一致しないことを検出し、前記被験者へ警告表示を提示するステップをさらに有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定されたパラメータが前記被験者における所望状態に一致することを検出するステップに続いて、かつ、前記生成されたペーシング信号に基づく前記出力の前記被験者への提示を除去するステップか、又は、第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、前記生成された新たなペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示するステップのいずれかの前に、前記被験者における前記所望状態を所定時間維持するステップをさらに有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
被験者における状態を維持するためのシステムであって、
第一の周波数でペーシング信号を生成するプロセッサと、
前記生成されたペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示する1つ以上の出力装置と、
前記被験者の1つ以上の生理的パラメータを測定する1つ以上のセンサとを有し、
前記プロセッサがさらに、前記測定されたパラメータが前記被験者における所望状態に一致することを検出し、かつ、
前記生成されたペーシング信号に基づく前記出力の前記被験者への提示を除去するか、又は、
第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、前記出力装置が前記生成された新たなペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示するかのいずれかである、システム。
【請求項7】
前記プロセッサがさらに、前記測定されたパラメータが前記被験者における所望状態に一致することを検出する前に、前記測定されたパラメータからのフィードバックに従って前記ペーシング信号を調節する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサがさらに、前記測定されたパラメータがもはや前記被験者における所望状態に一致しないことを検出し、前記出力装置が前記元の生成されたペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示する、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサがさらに、前記測定されたパラメータがもはや前記被験者における所望状態に一致しないことを検出し、前記出力装置が前記被験者へ警告表示を提示する、請求項6乃至8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記プロセッサがさらに、前記測定されたパラメータが前記被験者における所望状態に一致することを検出した後、かつ、前記生成されたペーシング信号に基づく前記出力の前記被験者への提示を除去するか、又は、第二の周波数で新たなペーシング信号を生成し、前記生成された新たなペーシング信号に基づく出力を前記被験者へ提示するかのいずれかの前に、前記被験者における前記所望状態を所定時間維持する、請求項6乃至9のいずれか一項に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−523871(P2011−523871A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512254(P2011−512254)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/IB2009/052271
【国際公開番号】WO2009/147599
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】