説明

裁断茎による吹付け緑化工法

【課題】裁断茎を吹付けて緑化する工法に係り、運搬、混合、吹付け時に裁断茎が受けるダメージを低減して、裁断茎の発芽率、発根率を向上させた緑化工法に関する。
【解決手段】硬質あるいは木質の茎部から発芽又は発根する植物の茎部を裁断して裁断茎を作製し、この裁断茎の表面をポリプロピレンを添加したパラフィンで覆い、被覆裁断チップを作製する。吹付け機により被覆裁断チップと植生基盤材等とを混合し、吹付け対象地盤に吹付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は裁断茎吹付け緑化工法に係り、運搬、混合、吹付け時に裁断茎が受けるダメージを低減するとともに裁断茎の乾燥及び腐敗を防止して、裁断茎の発芽率、発根率を向上させた緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、法面等を緑化する工法は、種子と植生基盤材等をタンク内で混合し、その混合物を圧縮空気により法面等に吹付ける吹付け工法や、カット苗、プラグ苗を人力により植え付ける方法等が行われてきた。
【0003】
吹付け工法は種子繁殖性植物のみに対応可能な技術であるとされており、例えば吹付け工法を植物苗に適用した場合、植物苗は種子とは異なり柔らかいため、細かく裁断されてしまい、後の植物の生育を望むことができない。同様に、茎から発芽、発根する植物において、茎部を用いて吹付け工法を行った場合も、混合時や吹付け時に茎部は致命的なダメージを受けていた。また、茎部からの蒸散により生育遅延が助長され、さらには枯死する場合もあった。
【0004】
特許文献1では、植物苗と肥料等をタンク内で圧縮空気により混合し、混合物を法面等に吹付けることにより、植物苗をタンク内で損傷させることなく吹付けることができるとする発明が開示されている。また、特許文献2では、吹付けた裁断茎葉の上に植生基盤材をさらに吹付けることにより、裁断茎葉の埋没深さを自由にコントロールでき、地表に露出する裁断茎葉を減少させて乾燥を防ぐことができるとする発明が開示されている。
【特許文献1】特許第3088984号明細書
【特許文献2】特開2004−16040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された発明では、裁断した植物の茎(以下、裁断茎とする)の吹付けを行った場合、裁断茎と植生基盤材との混合に圧縮空気を用いるため、従来問題とされていた裁断茎が受けるダメージを大きく低減させることができる。しかし、裁断茎を植生基盤材内で、所定の埋設深さを確保しながら吹付けることは難しく、植生基盤上あるいはその表面近傍に配された裁断茎は、裁断茎からの蒸散により生育遅延が発生したり、枯死したりするおそれがあった。また、特許文献2に記載された発明では、裁断茎を植生基盤材内の所定の埋設深さに吹付けることができ、裁断茎の乾燥をある程度防止することができる。しかし、裁断茎の吹付け後に、さらに植生基盤材を吹付ける必要があり、高コスト化につながっていた。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、従来の吹付け機を用いて裁断茎の運搬、混合、吹付けを行っても、裁断茎が受けるダメージを低減することができ、さらに、植生基盤材表面、あるいはその表面近傍に裁断茎が位置しても、裁断茎の乾燥を防止することができる裁断茎吹付け緑化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る裁断茎による吹付け緑化工法は、茎部から発芽又は発根可能な植物の茎部を所定長に裁断して裁断茎とし、該裁断茎の表面を被覆層で覆い、該裁断茎を植生基盤材に混合し、吹付け対象地盤に吹付けることを特徴とする。
【0008】
前記被覆層はパラフィンを被覆してなるように構成してもよい。
【0009】
また、前記被覆層は、さらにポリプロピレンを添加してなるように構成してもよい。
【0010】
また、前記被覆層は、被覆厚が0.1mm以上であるように構成してもよい。
【0011】
また、前記裁断茎に被覆する際の前記パラフィンの温度は40℃乃至80℃であるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、裁断茎をパラフィンで被覆することにより、吹付け機による混合や吹付けの際に、外力と衝撃とによって裁断茎が受けるダメージを低減させることができる。その結果、従来は種子繁殖性植物のみに適用可能な技術とされてきた吹付け工法を、裁断茎に対しても適用させることができる、という効果を奏する。
また、裁断茎をパラフィンで被覆することにより、裁断茎からの蒸散を防ぐことができる。その結果、裁断茎からの蒸散による生育遅延を防ぐことができ、生育率を高められ、さらに、裁断茎の長時間の輸送や保管が可能になる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る裁断茎吹付け緑化工法を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明の実施形態に係る裁断茎の作製過程を示した斜視図である。図1(a)はキリンソウの茎部15を示している。多年生草本であるキリンソウの茎部15は比較的柔らかいため、必要に応じて茎部15からの芽を切断して成長点をカットし、あるいはホルモン剤を茎部15に注入して、茎部15の硬質化を行う。そして、茎部15を長さ2cm程度に裁断する(図1(b))。この裁断茎11に、溶融したパラフィンを付着して、薄い被覆層12に覆われた裁断茎11(以下、被覆裁断チップ10とする)を作製する(図1(c))。裁断茎11は表面に凹凸を有しているため、パラフィンの被覆厚を均一にすることは難しいが、被覆厚0.1mm以上を目安に被覆するのがよい。
【0015】
被膜層12を形成するパラフィンは、融点が40℃〜80℃程度のパラフィンワックスが好適である。融点が80℃程度以上のパラフィンを使用した場合、高温(80℃以上)のパラフィンが付着することにより裁断茎11を痛め、その後の生育に悪影響を与える。また、融点が40℃以下のパラフィンを使用した場合、地盤に吹付けた被覆裁断チップ10のパラフィンが、日光の照射で溶け出す恐れがある。また、パラフィンに微粉砕したポリプロピレンを0.001質量%以上添加することにより、裁断茎11に付着したパラフィンの割れや剥離の発生を抑制することができる。なお、ここで挙げたポリプロピレンは、パラフィンの補強に適した材料の一例であり、他の材料を添加してもよい。
【0016】
このように形成された被覆層12は、外部からの力に対しては比較的高強度を発揮して内部の裁断茎11を保護する。しかし、被覆層12は内部からの力に対しては脆いため、裁断茎11の発芽、発根に対して、被覆層12が障害となることはない。
【0017】
次に、被覆裁断チップ10の吹付け方法について説明する。図2は、植生基盤材13と被覆裁断チップ10とが吹きつけられた吹付け対象地盤の断面図を示しており、(a)は平坦な吹付け対象地盤、(b)は傾斜のある吹付け対象地盤を示している。本実施形態では、植生基盤材13の吹付け高さhを、3cm〜5cm程度に設定した場合について説明する。
【0018】
植生基盤材13に図示しない保水剤と接合剤とが添加し、被覆裁断チップ10と共に吹付け機(不図示)に備えられた撹拌翼により混合する。吹付け機は従来機種と同様のものが使用でき、本発明の実施にあたって特別な吹付け機を製作する必要はない。吹付け機内で十分に混合した被覆裁断チップ10と植生基盤材13とを、空気圧縮機により吐出口(不図示)から吹付け対象地盤20に吹付ける。被覆裁断チップ10を含有した植生基盤材13を所定の高さhまで吹付けると、被覆裁断チップ10は、植生基盤材13内に散在することとなる。被覆裁断チップ10の混入量は、1m当たり100個程度散在させることを目安とするが、植生基盤材13に対する被覆裁断チップ10の割合は、植物の種類や、望まれる緑化後の状態をもとに、自由に設定することができる。
【0019】
被覆裁断チップ10を含有した植生基盤材13が吹付けられる吹付け対象地盤20が、図2(a)に示すように、平坦である場合には、直接吹付け対象地盤20へ吹付けることができる。ただし、図2(b)に示すように、傾斜角が大きい傾斜部における吹付けの際は、植生基盤材13が吹付け対象地盤20に定着するように、吹付け対象地盤20表面にラス金網14、あるいは溶接金網やネット類等を吹付け前に敷設する。
【0020】
次に、パラフィンにより形成された被覆層12の作用と効果について説明する。被覆層12は、吹付け機による混合、吹付け時に、裁断茎11を保護し、外力や衝撃からのダメージを低減させる効果を持つ。そのため、従来の工法では成し得なかった裁断茎11を用いた吹付け工法を施工することができ、大規模な緑化を容易に実施することが可能となる。
【0021】
また、裁断茎11にパラフィンによる被覆層12を形成することにより、裁断茎11からの蒸散を防ぐことができる。そのため、吹付け対象地盤20に被覆裁断チップ10を吹付け後も、裁断茎の乾燥が防止され、裁断茎11の発芽、発根率を高めることができる。また、裁断茎11の長時間の輸送や保管が可能となる。
【0022】
さらに、裁断茎11に形成された被覆層12は、裁断茎11の裁断面からの菌の進入を防ぐため、裁断茎11の腐敗を防止することができる。
【0023】
上記実施形態では、長さ2cm程度に裁断した裁断茎を用いた吹付け工法について説明したが、植物にとっては裁断長を長くしたほうが良好な生育にとって好ましい。しかし、現存する吹付け機の吐出口の口径が約2cm程度であるため、裁断茎の長さも吐出口の口径に合わせて2cm程度とした。今後、吐出口の口径がより大きい吹付け機が開発された場合、2cm以上の長さの裁断茎を吹付けてもよい。反対に、裁断茎を短く裁断しても発芽、発根に支障のない植物であれば、2cm以下の裁断茎を吹付けてもよい。
【0024】
また、上記実施形態では、多年生草本であるキリンソウの裁断茎を例にとって説明した。しかし、裁断した茎部から発芽、発根し、硬質な茎部を有する植物であれば吹付ける植物の種類は問わない。例えば、柳、マサキ等が挙げられる。また、その他、草本である植物の茎部を硬質化することができれば、同様に本発明を実施することができる。例えば、セダム類であるタイトゴメ、ツルマンネングサ、エルナ等が挙げられる。
【0025】
また、上記実施形態では、パラフィンにより裁断茎を被覆する方法について説明したが、被覆材料は外部からの力や衝撃から裁断茎を保護し、乾燥を防ぐことができる材料であればよい。例えば、吸水性ポリマやポリビニルアルコールを被覆材として用いると、裁断茎を外力や衝撃から保護し、また、裁断茎からの蒸散を防止し、さらに、外部から水分を吸収することができる被覆裁断チップを作製することが可能となる。
【0026】
また、上記実施形態では、植生基盤材の吹付け高さが3cm〜5cm程度の吹付け工法について説明したが、吹付ける植物の種類により植生基盤材の高さは自由に設定することが可能である。また、本発明を実施することが可能な吹付け対象地盤は、上記実施形態に限定するものではない。例えば、ビルの屋上を緑化する場合には、屋上面のコンクリートを保護するために防根シートを敷設するなど、従来の補助工法を併用することで、本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る裁断茎の作製過程を示した斜視図で、(a)は裁断される前の茎部、(b)は茎部が裁断された裁断茎、(c)は被覆層で覆われた裁断茎。
【図2】被覆裁断チップと植生基盤材とが吹付けられた吹付け対象地盤の断面図で、(a)は平坦な吹付け対象地盤、(b)は傾斜のある吹付け対象地盤。
【符号の説明】
【0028】
10 被覆裁断チップ
11 裁断茎
12 被覆層
13 植生基盤材
14 ラス金網
15 茎部
20 吹付け対象地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茎部から発芽又は発根可能な植物の茎部を所定長に裁断して裁断茎とし、該裁断茎の表面を被覆層で覆い、該裁断茎を植生基盤材に混合し、吹付け対象地盤に吹付けることを特徴とする裁断茎による吹付け緑化工法。
【請求項2】
前記被覆層はパラフィンを被覆してなることを特徴とする請求項1に記載の裁断茎による吹付け緑化工法。
【請求項3】
前記被覆層は、さらにポリプロピレンを添加してなることを特徴とする請求項2に記載の裁断茎による吹付け緑化工法。
【請求項4】
前記被覆層は、被覆厚が0.1mm以上であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の裁断茎による吹付け緑化工法。
【請求項5】
前記裁断茎に被覆する際の前記パラフィンの温度は40℃乃至80℃であることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の裁断茎による吹付け緑化工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−124986(P2009−124986A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302852(P2007−302852)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(306043932)
【出願人】(507386184)
【Fターム(参考)】