説明

装着型防音装置

【課題】 構成が簡易で消費電力が少なくて済む装着型防音装置を提供する。
【解決手段】 鼓膜を含む閉じた空間と外界を仕切る遮音部11を備えた装着型防音装置であって、遮音部11の一部は、外界側に配置される第1高分子フィルム21と鼓膜側に配置される第2高分子フィルム22で形成され、これらの高分子フィルム21,22は曲率を有すると共に、第1高分子フィルム21は負性容量回路30に電気的に接続され、第2高分子フィルム22は増幅回路31に電気的に接続されている。また、各高分子フィルム21,22に一定の張力を掛けるスポンジ54,55を設けた。負性容量回路30は、遮音量を調整する遮音量調整手段32と、遮音周波数を調整する遮音周波数調整手段33を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳介を覆うように装着して所望の周波数帯域の音を遮音することができる装着型防音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の装着して使用する防音装置としては、周囲の雑音を収音する収音マイクロフォンと、収音マイクロフォンにより収音された雑音に基づいて、装着者に聴取される雑音を打消すようにイヤースピーカから発せられる音声を制御するアクティブノイズコントローラを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平07−124195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の防音装置においては、アクティブノイズコントローラを用いるため、それを実現するには構成が複雑で、且つ消費電力も大きいという問題があった。
【0005】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、構成が簡易で消費電力が少なくて済む装着型防音装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、鼓膜を含む閉じた空間を形成し、この空間と外界を仕切る遮音部を備えた装着型防音装置であって、前記遮音部の一部は、高分子フィルムで形成され、この高分子フィルムは曲率を有すると共に、負性容量回路に電気的に接続されるものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の装着型防音装置において、前記高分子フィルムに一定の張力を掛ける張力手段を設けた。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の装着型防音装置において、前記負性容量回路は、遮音周波数を調整する遮音周波数調整手段と、遮音量を調整する遮音量調整手段を備えるものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1、2又は3記載の装着型防音装置において、前記高分子フィルムは、外界側に配置される第1高分子フィルムと、鼓膜側に配置される第2高分子フィルムで構成され、前記第1高分子フィルムは前記負性容量回路に電気的に接続され、前記第2高分子フィルムは増幅回路に電気的に接続される。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の装着型防音装置において、前記第1高分子フィルム及び/又は前記第2高分子フィルムの曲率半径は、面内伸縮の共振周波数が遮音対象の周波数よりも高い周波数になる曲率半径とした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、簡易な構成で所望の周波数の音を遮音することができる。また、高分子フィルムはハイインピーダンスなので、アクティブノイズコントローラにおけるイヤースピーカの駆動に比べて、電気回路の消費電力が小さくなる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、高分子フィルムに所定の張力を掛けることで、高分子フィルムの音圧による変形を抑制し、効率よく面内伸縮させることにより、遮音効果を向上させることができる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、遮音したい周波数と遮音量を調整できるので、用途に応じた遮音特性に調整することができる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、第2高分子フィルムが第1高分子フィルムからもれた音を抑制するので、鼓膜側空間にもれる音が減少する。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、高分子フィルムの曲率半径を、面内伸縮の共振周波数が遮音対象周波数より高くなるようにすることで、遮音させたい周波数の調整範囲を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係る装着型防音装置の第1実施の形態を示す概観図、図2は第1実施の形態における遮音部の説明図、図3は電気回路部の回路構成図、図4は本発明に係る装着型防音装置の第2実施の形態における遮音部の説明図、図5は本発明に係る装着型防音装置の第3実施の形態の構成図である。
【0017】
本発明に係る装着型防音装置の第1実施の形態は、図1に示すように、ヘッドホンタイプで、ヘッドバンド1の両端に取り付けられた左右の耳介2,3を覆うドーム形状のカップ部4,5と、これらのカップ部4,5に収納された部材と電気的に接続された電気回路部6からなる。7はカップ部4,5に収納された部材と電気回路部6を電気的に接続するケーブルである。左右のカップ部4,5は、同様の構成である。
【0018】
カップ部4,5は、不要な周波数の音を遮音する遮音部11と、遮音部11を支持する樹脂製のケース体12と、音漏れがし難いようにケース体12と装用者の頭部に挟まれる円環形状のパッド13を備えている。遮音部11は、ケース体12の中央に設けた貫通孔12aに嵌挿されている。また、貫通孔12aを除くケース体12の内側の空間には防音部材15が充填されている。パッド13は、ケース体12の縁と防音部材15の端部に接着されている。
【0019】
遮音部11は、図2(a)に示すように、円筒をアーチ形状に切断した一対の保持枠17,18と、これら保持枠17,18のアーチ形状と同じ形状の2つのスペーサ19,20と、保持枠17とスペーサ19に挟持される第1高分子フィルム21と、2つのスペーサ19,20に挟持される第2高分子フィルム22と、保持枠18とスペーサ20に挟持されるアーチ形状の金網23と、第1高分子フィルム21と第2高分子フィルム22の間に充填されるスポンジ24と、第2高分子フィルム22と金網23の間に充填されるスポンジ25からなる。保持枠17,18の内径D1は、例えば4cmである。内径D1は4cmに限らないが、波長にくらべて小さい方が良い。
【0020】
第1高分子フィルム21と第2高分子フィルム22の両面には、夫々金属が蒸着されている。更に、各高分子フィルム21,22の両面に電線(不図示)が電気的に接続され、これらの電線はケーブル5を介して上述した電気回路部6に接続されている。各高分子フィルム21,22の静電容量の値は、例えば3.2nFで、1kHzでの損失係数は0.017である。また、各高分子フィルム21,22のアーチ形状の凸側を外界側とし、外界側を第1高分子フィルム21、頭部側を第2高分子フィルム22とする。第1高分子フィルム21と第2高分子フィルム22の間隔(スペーサ19の厚み)は、約5mmである。また、スポンジ24,25は、高分子フィルム21,22に一定の張力を掛ける張力手段として働く。
【0021】
ある周波数帯域の音を遮音するためには、面内伸縮の共振周波数が遮音対象の周波数より高くなるようにアーチ形状の曲率半径を設定すればよいので、保持枠17,18、スペーサ19,20、各高分子フィルム21,22、金網23などのアーチ形状の曲率半径は、次式(1)を満たすRより小さい値とする。ここで、R:曲率半径、f:面内伸縮の共振周波数、Y:ヤング率、ρ:密度である。
【0022】
【数1】

【0023】
遮音部11を構成するには、先ず一方のスペーサ19の貫通孔19aにスポンジ24を挿入し、これを挟んで第1高分子フィルム21と第2高分子フィルム22を接着する。次いで、第1高分子フィルム21の凸側に一方の保持枠17を接着し、第2高分子フィルム22の凹側に他方のスペーサ20を接着する。スペーサ20の貫通孔20aには、スポンジ24を挿入する。次いで、スペーサ20とスポンジ24に金網23の凸側を押し当て、更に金網23の凹側に他方の保持枠18の凸側を接着する。
【0024】
すると、図2(b)に示すような全体として円筒形状の遮音部11が形成される。各高分子フィルム21,22は、図2(c)に示すように、金網23とスポンジ24,25に押圧されて、張力が掛かった状態になる。また、第2高分子フィルム22の頭部側の空間18aに吸音材を充填してもよい。
【0025】
電気回路部6は、図3に示すように、負性容量回路部30と増幅回路部31で構成される。負性容量回路部30は、遮音量を調整する抵抗R1と抵抗R2からなる可変抵抗で構成される遮音量調整手段32と、遮音周波数を調整する可変抵抗R0からなる遮音周波数調整手段33と、コンデンサC0と、オペアンプ(演算増幅器)34を備えている。
【0026】
遮音量調整手段32を構成する可変抵抗のR1側端子は接地され、R2側端子はオペアンプ34の出力端子に接続され、可変端子はオペアンプ34反転入力端子に接続され、負帰還ループを構成する。遮音周波数調整手段33を構成する可変抵抗R0の一方の端子はオペアンプ34の出力端子に接続され、他方の端子はコンデンサC0の一方の端子に接続され、コンデンサC0の他方の端子はオペアンプ34の非反転入力端子に接続され、正帰還ループを構成する。
【0027】
第1高分子フィルム21の一方の金属蒸着面に接続された電線はオペアンプ34の非反転入力端子に接続される。第1高分子フィルム21の他方の金属蒸着面に接続された電線は接地される。抵抗Rpは、第1高分子フィルム21のオフセット電圧を除去するために第1高分子フィルム21に並列に接続される。
【0028】
遮音周波数調整手段33により可変抵抗R0を変化させることで、負性容量回路部30の損失係数ωC0R0(ω:角周波数)を調整することができる。即ち、可変抵抗R0を変化させることで、遮音する周波数が変化することになる。コンデンサC0の容量値は、例えば3nFである。
【0029】
負性容量回路部30は、第1高分子フィルム21に発生した電圧を増幅し、第1高分子フィルム21にフィードバックさせる。遮音量調整手段32により抵抗R1と抵抗R2の比を変化させることで、フィードバック電圧を調整することができる。第1高分子フィルム21に生じた音圧による面内伸縮は、フィードバックされた電圧による面内伸縮でキャンセルされる。
【0030】
増幅回路部31は、オペアンプ(演算増幅器)35と抵抗R3,R4からなる反転増幅器である。オペアンプ35の出力端子には、第2高分子フィルム22の一方の金属蒸着面に接続された電線が接続されている。第2高分子フィルム22の他方の金属蒸着面に接続された電線は接地される。オペアンプ35の反転入力端子には、抵抗R3を介してオペアンプ34の非反転入力端子が接続されている。抵抗R4はオペアンプ35の出力端子と反転増幅端子の間に接続される。オペアンプ35の非反転入力端子は接地される。例えば、抵抗R3の抵抗値は1kΩ、抵抗R4の抵抗値は3.6kΩである。
【0031】
増幅回路部31は、負性容量回路部30のフィードバック電圧を反転増幅し、反転増幅された負性容量回路部30のフィードバック電圧を第2高分子フィルム22に供給する。第2高分子フィルム22は、第1高分子フィルム21を透過した音圧を打ち消すアクチュエータとして働く。
【0032】
以上のように構成された本発明に係る装着型防音装置の第1実施の形態の動作について説明する。遮音周波数調整手段33により可変抵抗R0を変化させることで、負性容量回路部30の遮音周波数を減衰させたい周波数帯域の中心周波数に調整する。次に、遮音量調整手段32により抵抗R1と抵抗R2の比を変化させることで、負性容量回路部30の遮音量を調整する。
【0033】
このように調整された装着型防音装置の遮音部11を音が通過すると、その音のうち遮音したい周波数の音は小さくなり、聴取したい周波数の音は小さくならずに鼓膜に達することになる。また、高分子フィルムはハイインピーダンスなので、アクティブノイズコントロールでイヤースピーカを駆動させた場合と比較して、消費電力が小さい。更に、電気回路部6にCPU(中央演算処理装置)を搭載し、最大音を監視できるような構成とすれば、用途に応じて自動的に可変抵抗R0及び抵抗R1と抵抗R2の比を調整する構成とすることができる。
【0034】
本発明に係る装着型防音装置の第2実施の形態における遮音部41は、図4(a)に示すように、一対の円筒形状の保持枠47,48と、これら保持枠47,48と同じ内径の2つのスペーサ49,50と、保持枠47とスペーサ49に挟持される第1高分子フィルム51と、2つのスペーサ49,50に挟持される第2高分子フィルム52と、保持枠48とスペーサ50に挟持されるドーム形状の金網53と、第1高分子フィルム51と第2高分子フィルム52の間に充填されるスポンジ54と、第2高分子フィルム52と金網53の間に充填されるスポンジ55からなる。保持枠47,48の内径D2は、例えば4cmである。内径D1は4cmに限らないが、波長にくらべて小さい方が良い。ドーム形状の金網53の曲率半径は、式(1)を満たすRより小さい値とする。
【0035】
遮音部41を構成するには、先ず一方のスペーサ49の貫通孔49aにスポンジ54を挿入し、これを挟んで第1高分子フィルム51と第2高分子フィルム52を接着する。次いで、第1高分子フィルム51側に一方の保持枠47を接着し、第2高分子フィルム22側に他方のスペーサ50を接着する。スペーサ50の貫通孔50aには、スポンジ54を挿入する。次いで、スペーサ50とスポンジ54に金網53の凸側を押し当て、更に金網53の凹側に他方の保持枠48を接着する。
【0036】
すると、図4(b)に示すような全体として円筒形状の遮音部41が形成される。各高分子フィルム51,52は、図4(c)に示すように、金網53とスポンジ54,55に押圧されて、ドーム形状になり、張力が掛かった状態になる。また、第2高分子フィルム52の頭部側の空間48aに吸音材を充填してもよい。その他の構成、作用は第1実施の形態と同様である。
【0037】
本発明に係る装着型防音装置の第3実施の形態は、図5に示すように、耳穴形補聴器タイプで、外耳道の形状に合わせたシェル60と、シェル60の貫通孔60aに装着した遮音部61と、シェル60の壁部60bに収納した電気回路部62及び電池63からなる。シェル60は光造形法で装着者の外耳道の形状に合わせ作製される。遮音部61は第1実施の形態の遮音部11または第2実施の形態の遮音部41を内径5mm程度で作製する。
【0038】
電気回路部62及び電池63は、別の筐体に収納して、例えば耳かけ形補聴器のようなケースに収めてもよい。また、外耳道の形状に合わせたシェル60を使用せずに、耳穴形補聴器の既製のケース及び耳せんを用いてもよい。その他の構成、作用は第1実施の形態と同様である。
【0039】
本発明の第1実施の形態〜第3実施の形態では、遮音部11,41,61に第1高分子フィルム21,51と第2高分子フィルム22,52、電気回路部6,62に負性容量回路部30と増幅回路部31を使用しているが、第2高分子フィルム22,52と増幅回路部31を省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、構成が簡易で、遮音したい周波数を容易に選択でき、それ以外の周波数帯域の音は聴取できるので、作業やコミュニケーションの妨げにならない快適な装着型防音装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る装着型防音装置の第1実施の形態を示す概観図
【図2】第1実施の形態における遮音部の説明図で、(a)は分解図、(b)は平面図、(c)は断面図
【図3】電気回路部の回路構成図
【図4】本発明に係る装着型防音装置の第2実施の形態における遮音部の説明図で、(a)は分解図、(b)は平面図、(c)は断面図
【図5】本発明に係る装着型防音装置の第3実施の形態の構成図
【符号の説明】
【0042】
2,3…耳介、4,5…カップ部、6,62…電気回路部、11,41,61…遮音部、12…ケース体、13…パッド、15…防音部材、17,18,47,48…保持枠、19,20,49,50…スペーサ、21,51…第1高分子フィルム、22,52…第2高分子フィルム、23,53…金網、24,25,54,55…スポンジ、30…負性容量回路部、31…増幅回路部、32…遮音量調整手段、33…遮音周波数調整手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼓膜を含む閉じた空間を形成し、この空間と外界を仕切る遮音部を備えた装着型防音装置であって、前記遮音部の一部は、高分子フィルムで形成され、この高分子フィルムは曲率を有すると共に、負性容量回路に電気的に接続されることを特徴とする装着型防音装置。
【請求項2】
前記高分子フィルムに一定の張力を掛ける張力手段を設けた請求項1記載の装着型防音装置。
【請求項3】
前記負性容量回路は、遮音周波数を調整する遮音周波数調整手段と、遮音量を調整する遮音量調整手段を備える請求項1又は2記載の装着型防音装置。
【請求項4】
前記高分子フィルムは、外界側に配置される第1高分子フィルムと、鼓膜側に配置される第2高分子フィルムで構成され、前記第1高分子フィルムは前記負性容量回路に電気的に接続され、前記第2高分子フィルムは増幅回路に電気的に接続される請求項1、2又は3記載の装着型防音装置。
【請求項5】
前記第1高分子フィルム及び/又は前記第2高分子フィルムの曲率半径は、面内伸縮の共振周波数が遮音対象の周波数よりも高い周波数になる曲率半径である請求項4記載の装着型防音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−50506(P2009−50506A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220749(P2007−220749)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000115636)リオン株式会社 (128)
【出願人】(000173728)財団法人小林理学研究所 (15)
【Fターム(参考)】