説明

装飾金属物品の製造方法および装飾金属物品

【課題】銀または銀合金の銀合金焼結用組成物と銅または銅合金の焼結用組成物とを組み合わせた装飾金属品の製造方法および装飾金属物品を提供する。
【解決手段】銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末で、平均粒径0.1〜4.0μmの第1銅粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径10μm以下の第2銅粉末からなる混合粉末と有機バインダとを含有する銅含有可塑性組成物と、銀と銀合金とから選択される1種以上の粉末で、平均粒径0.1〜4.0μmの第1銀粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径40μm以下の第2銀粉末からなる混合粉末と有機バインダとを含有する銀含有可塑性組成物とを組み合わせて造形して装飾物を形成する銅−銀造形体形成工程と、得られた装飾物を660〜770℃にて3〜40分大気焼成して装飾物焼成体を得る銅−銀造形焼成体製作工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宝飾品、装飾品、装身具等に用いる銀または銀合金の焼結用組成物と銅または銅合金の焼結用組成物とを組み合わせた装飾金属品の製造方法および装飾金属物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、美術工芸用の銅材料として、銅粉末または銅合金粉末と有機バインダとを混合した銅含有可塑性組成物が知られている。また、銀材料として、銀粉末または銀合金粉末と有機バインダとを混合した銀含有可塑性組成物も知られている。これらの銅含有可塑性組成物、銀含有可塑性組成物を造形し、銅造形体、銀造形体を焼成して銅造形焼成体、銀造形焼成体を得るのである。例えば特許文献1〜5をその例として挙げることが出来る。
【0003】
前記特許文献1,2は、25重量以上かつ100重量%未満の平均粒径3〜8μmの第1金属粒子と、0重量%を越えかつ75重量%以下の平均粒径15〜25の第2金属粒子との混合粉末と、有機バインダとを混合した可塑性組成物を用いるものである。
銅含有可塑性組成物に係わる記載としては、前記特許文献1の段落[0026]および前記特許文献2の段落[0028]中に記載の〈実施例19〉に、平均粒径5μmの第1銅粒子を75重量%と平均粒径20μmの第2銅粒子を25重量%と組み合わせて用いる例が示されている。
そして、前記特許文献1の段落[0031]および前記特許文献2の段落[0033]中に記載されるように、前記2種の銅粒子を混合した〈実施例19〉の焼成条件は、電気炉内に窒素またはアルゴンガスを導入して不活性雰囲気中にて焼成したことが示されている。
また、銀含有可塑性組成物に係わる記載としては、前記特許文献1の段落[0022]および前記特許文献2の段落[0024]中に記載の〈実施例1〉に、平均粒径5μmの第1銀粒子を75重量%と平均粒径20μmの第2銀粒子を25重量%と組み合わせて用いる例が示されている。
そして、前記特許文献1の段落[0031]および前記特許文献2の段落[0033]中に記載されるように、前記2種の銀粒子を混合した〈実施例1〉の焼成条件は、電気炉にて焼成した、すなわち大気焼成したことが示されている。
しかしながら、前記特許文献1および前記特許文献2には、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを組み合わせて造形し、その造形体を焼成して焼成体を得る例は、記載も示唆もされていない。当然、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを組み合わせた造形体をいかなる条件で焼成すべきかの開示も無い。
【0004】
一方、特許文献3〜5には、銅粉末または銅合金粉末と有機バインダとを混合した銅含有可塑性組成物と異なる貴金属の貴金属含有可塑性組成物とを組み合わせて造形し、その造形体を焼成して焼成体を得る例が、開示されている。
なお、特許文献3〜5では、銅を貴金属類に含めて記載しているが、銅は、金、銀、白金属元素である一般的な貴金属類に比較して著しく耐腐食性(耐酸化性)が劣るという特性を有していることはよく知られている。
前記特許文献3および前記特許文献4には、純金粉末を含有する可塑性組成物は空気中、すなわち酸化雰囲気で焼結を行い、金75.0重量%、銀12.5重量%、銅12.5重量%の割合で混合した、いわゆるK18の合金金属を含有する可塑性組成物の場合は、アルゴンガス雰囲気中で焼結を行うことが記載されている。すなわち、銅をわずかに12.5重量%しか含まないK18の如き合金金属を含有する可塑性組成物でさえ、不活性雰囲気中で焼結を行わなければならないことが開示されている。
しかし、これらの特許文献3,4は何れも、異なる色を呈する金属粉末の可塑性組成物を物理的に組み合わせた状態で焼成する発明を提案しているにもかかわらず、例えば純金を含有する酸化雰囲気で焼成を行う可塑性組成物Aと、K18のごとき銅を含む不活性雰囲気中で焼成を行う可塑性組成物Bとを組み合わせた状態では、いかなる条件で焼成すべきかの開示は無い。特に特許文献5には、焼成雰囲気について、一切の記載が認められない。
【0005】
前述のように、銅粉末または銅合金粉末と有機バインダとを混合した銅含有可塑性組成物は、不活性雰囲気中や還元雰囲気中で焼成されている。これは、酸化雰囲気中で焼成すると、すなわち大気焼成すると、焼成された銅造形焼成体は、極めて強度が弱いものになることに起因している。強度を上げるためには、十分に焼結させなければならないので、おのずと長時間焼成しなければならない。すると表面から内部に酸化される度合いが、ますます増大し、結果的に焼成された銅造形焼成体は、ぼろぼろになり使用に耐えないものとなるためである。
一方、銀粉末または銀合金粉末と有機バインダとを混合した銀含有可塑性組成物は、大気焼成(酸化性雰囲気中で焼成)されている。これは、銀が大気焼成で酸化されない耐酸性の性質を有するためである。
銅または銅合金を含有する銅含有可塑性組成物と銀または銀合金を含有する銀含有可塑性組成物と組み合わせた複合造形体を、その造形を“そこなわずに”焼成して装飾金属物品を得るためには、如何なる組成の銅含有可塑性組成物と如何なる組成の銀含有可塑性組成物とを組み合わせて、如何なる条件や手順で焼成すべきかは、具体的には知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−1131107号公報
【特許文献2】特開2007−1131106号公報
【特許文献3】特許第2924139号公報
【特許文献4】特許第2932648号公報
【特許文献5】特許第3389613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記銀含有可塑性粘土組成物は、近年宝飾品の分野で多用され、特にカルチャー教室などで、その成形の容易性により、ペンダントトップ、指輪、ブローチ、ピアス等で種々の形状に造形し、電気炉等で大気焼成して装飾品を製作するなど、趣味の分野で利用され普及している。
一方、前記銅含有可塑性組成物の焼成は、炉内を非酸化性の雰囲気に保持する必要がある。例えば加熱炉内の空気を吸引して真空にするとか、炉内にアルゴンガス、窒素ガス、水素ガスを流し込んで置換する必要があり、銀含有可塑性粘土組成物の焼成法と比較して著しく煩雑になる。この様な焼成方法は、専門的な知識と多額な費用(高性能加熱炉の購入)とを伴うものであってなかなか容易に受け入れられない要因であった。
銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物と組み合わせた複合造形体を、例えば汎用の加熱炉などにて、その造形を“そこなわずに”大気焼成できれば、カルチャー教室などで気軽に適用できるようになる。しかも、その作品は、赤銅(しゃくどう)色、青銅(ブロンズ)、白銅(はくどう)、黄銅等の多くの色合いのものが知られている銅または銅合金と、白銀色、銀色等を呈する銀または銀合金とを組み合わせた、コントラストが映え、極めて興趣に富んだ工芸用または装飾用の焼成物品とすることができるようになる。
【0008】
そこで、本発明者らは、上記に鑑みて研究した結果、銅含有可塑性組成物中の銅または銅合金の粉末を、平均粒径10μm以下の粉末に限定すると、大気焼成しても工芸や装飾用の焼成物品に必要な強度が出て、かつ短時間に焼成することが出来、見栄えも十分工芸や装飾用の焼成物品として通用する点を見出し、さらに、銅含有可塑性組成物中の銅または銅合金の粉末と、銀含有可塑性組成物中の銀または銀合金の粉末とを、それぞれ平均粒径が異なる特定の混合粉末に限定すると、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物と組み合わせた複合造形体を大気焼成しても、その造形を“そこなわずに”焼成できて、極めて興趣に富んだ工芸用または装飾用の焼成物品を得ることが出来る点を見出し、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の請求項1に係る装飾金属物品の製造方法は、銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.1〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径10μm以下の第2粉末からなる銅混合粉末と有機バインダとを含有する銅含有可塑性組成物と、銀と銀合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.1〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径40μm以下の第2粉末からなる銀混合粉末と有機バインダとを含有する銀含有可塑性組成物とを組み合わせて造形して装飾物を形成する銅−銀造形体形成工程と、得られた装飾物を660〜770℃にて3〜40分大気焼成して装飾物焼成体を得る銅−銀造形焼成体製作工程とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
かような装飾用の焼成物品の製造方法によれば、銅含有可塑性組成物における銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末を平均粒径10μm以下の粉末に限定すると共に、銅含有可塑性組成物および銀含有可塑性組成物における粉末を、それぞれ平均粒径が異なる特定の混合粉末とし、当該銅含有可塑性組成物と当該銀含有可塑性組成物とを組み合わせて造形した装飾物を、所定の焼成温度と焼成時間で大気焼成しても、その造形を“そこなわずに”焼成できて、銅造形焼成部分も銀造形焼成部分も工芸や装飾用の焼成物品に必要な一定の強度を得ることができる。
これらの銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物は、それぞれに平均粒径が異なる特定の混合粉末を用いたものであり、焼成後の線収縮率も同程度に低く抑えることができ、造形焼成体において一方の収縮が大きすぎて焼成後に剥がれたり形状を損なうことがない。
大気焼成によって銅造形焼成部分の表面が極薄く酸化しても、内部まで酸化の影響を受けることがない。そのため、簡単に銅造形焼成部分の表面の酸化膜が剥離でき、見栄えも十分工芸や装飾用の焼成物品として十分に通用するものが得られる。なお、銀造形焼成部分については、大気焼成しても、酸化の影響を受けることがない。
したがって、従来のように還元雰囲気による焼成を行わないので、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスを焼成中に流し続けなければならない煩雑な手間や炭素等の還元剤を銅造形体と一緒に密封容器に入れて外部から加熱するなどの煩雑な手間などが、回避でき、カルチャー教室などで気軽に適用できるようになる。
また、本発明では、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを組み合わせて装飾物を形成して同時に(一度に)大気焼成するため、焼成設備を何度も使用することがないので、極めて効率的である。
【0011】
なお、上記した本発明の“銀合金”とは、銅を含まない銀合金であって、さらに、大気焼成しても焼成体の形状に影響のない耐酸化性の銀合金を意味する。このような“銀合金”としては、例えば、耐硫化性能を向上させた銀−Pd合金などが挙げられる。
一方、上記した本発明の“銅合金”とは、たとえ銅の含有量が50重量%を下まわった合金でも銅合金とする。かような例としては、例えば前記特許文献3〜5に記載されている18Kの合金や銅含有量が4〜5重量%の合金が挙げられる。なお、酸化銅を含まない銅合金が好ましい。酸化銅を含まないことにより、ポーラスなものになることを回避することができる。
また、本発明においては、還元雰囲気は、アルゴンガス雰囲気や不活性雰囲気と同義に扱い、これらを含むものとする。
さらに、本発明に係わる銅、銅合金、銀、銀合金の“平均粒径”とは、中位径、中径、メディアン径、メジアン径または50%粒径とも言い、通常D50で表示されるもので、累積曲線の50%に対応する粒径を意味する。具体的には3本のレーザー散乱光検出機構を持つレーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製)を用い、測定条件を[粒子透過性:反射]と[真球/非球形:非球形]としたときに(粒子透過性の設定を反射に、真球/非球形の選定を非球形に設定したときに)測定される粒度分布のD50の値とする。
また、本発明においては、大気焼成は、大気中で焼成することを意味し、酸化雰囲気での焼成と同義である。また、還元雰囲気は、アルゴンガス雰囲気や不活性雰囲気と同義に扱い、これらを含むものとする。
【0012】
本発明の請求項1に係る装飾金属物品の製造方法より、より好ましい様態が、請求項2に係る装飾金属物品の製造方法である。さらに好ましい様態が、請求項3に係る装飾金属物品の製造方法である。
その本発明の請求項2に係る装飾金属物品の製造方法は、前記銅含有可塑性組成物には、平均粒径0.5〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4μmを越え、平均粒径10μm以下の第2粉末からなる銅混合粉末が含まれ、銀含有可塑性組成物には、平均粒径0.5〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4μmを越え、平均粒径30μm以下の第2粉末からなる銀混合粉末が含まれることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項3に係る装飾金属物品の製造方法は、前記銅含有可塑性組成物には、平均粒径2.0〜3.0μmの第1粉末を30〜70重量%含有し、残部が平均粒径5〜10μmの第2粉末からなる銅混合粉末が含まれ、銀含有可塑性組成物には、平均粒径2.0〜3.0μmの第1粉末を30〜70重量%含有し、残部が平均粒径5〜20μmの第2粉末からなる銀混合粉末が含まれることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項4に係る装飾金属物品の製造方法は、700〜750℃にて10〜15分大気焼成することを特徴とするものである。
【0015】
かような請求項4の装飾金属物品の製造方法によれば、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物との混合造形体において、確実にその造形を“そこなわずに”焼成できて、銅造形焼成部分も銀造形焼成部分も工芸や装飾用の焼成物品に必要な一定の強度を得ることができる。
【0016】
本発明の請求項5に係る装飾金属物品の製造方法は、前記請求項1〜4のいずれか一項において、前記装飾物焼成体を急冷または酸洗いまたは磨きを行う表面酸化膜除去工程を行うことを特徴とするものである。
【0017】
かような請求項5の装飾金属物品の製造方法によれば、大気焼成によって銅または銅合金の銅焼結体(銅造形焼成部分)の表面が極薄く酸化しても、内部まで酸化の影響を受けることがないので、急冷、酸洗いまたは磨きによって、極めて簡単に銅焼結体(銅造形焼成部分)表面の酸化膜が剥離でき、見栄えも十分工芸や装飾用の焼成物品として十分に通用するものが得られる。
【0018】
本発明の請求項6に係る装飾金属物品は、前記請求項1〜5の何れか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とするものである。
【0019】
かような請求項6の装飾金属物品によれば、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを種々の技法にて組み合わせて多彩な形状または模様を備える銅−銀造形焼成体とすることができ、赤銅(しゃくどう)色の銅、青銅(ブロンズ)、白銅(はくどう)、黄銅等の多くの色合いを備える銅含有可塑性組成物の焼成品と白銀色、銀色等の色合いを備える銀含有可塑性組成物の焼成品との色合いのコントラストが明確で、形状限定もないため、宝飾品、装飾品、装身具等として見栄えも十分で工芸や装飾用の焼成物品として十分に通用するものとなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の装飾金属物品の製造方法によれば、銅含有可塑性組成物における銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末を平均粒径10μm以下の粉末に限定すると共に、銅含有可塑性組成物および銀含有可塑性組成物における粉末を、それぞれ平均粒径が異なる特定の混合粉末とし、当該銅含有可塑性組成物と当該銀含有可塑性組成物とを組み合わせて造形した装飾物を、所定の焼成温度と焼成時間で大気焼成するので、従来のように還元雰囲気による焼成を行わないので、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスを焼成中に流し続けなければならない煩雑な手間や炭素等の還元剤を銅造形体と一緒に密封容器に入れて外部から加熱するなどの煩雑な手間などが、回避でき、カルチャー教室などで気軽に適用できる。
銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを組み合わせて造形した装飾物をその造形を“そこなわずに”焼成でき、銅造形焼成部分も銀造形焼成部分も工芸や装飾用の焼成物品に必要な一定の強度を得ることができ、形成した装飾物を一度に(同時に)大気焼成するため、焼成設備を何度も使用することがないので、極めて効率的である。
【0021】
また、本発明の装飾金属物品は、従来より大気焼成可能な貴金属可塑性組成物として知られていた銀含有可塑性組成物と銅含有可塑性組成物とを組み合わせて複合造形体とし、大気焼成したものであり、銅または銅合金として、既に赤銅(しゃくどう)色、青銅(ブロンズ)、白銅(はくどう)、黄銅等の多くの色合いのものが知られているので、白銀色を有する銀色に組み合わせることによりコントラストが映え、極めて興趣に富んだ工芸用または装飾用の焼成物品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】マーブル模様技法における棒状体形成工程で得られた銅棒状体と銀棒状体とを示す正面図である。
【図2】マーブル模様技法における混合棒状体形成工程にて銅棒状体と銀棒状体をシリンジに収容する状態を示す正面図である。
【図3】マーブル模様技法における混合棒状体形成工程にてシリンジから棒状体を射出形成した状態を示す斜視図である。
【図4】マーブル模様技法における混合棒状体形成工程にて棒状体を縒り合わせて柱状に形成した状態を示す正面図である。
【図5】マーブル模様技法における混合棒状体形成工程にて混合棒状体を得る状態を示す斜視図である。
【図6】マーブル模様技法における装飾物形成工程にて混合棒状体を平面渦巻き状に巻き付けて一体化した状態を示す正面図である。
【図7】マーブル模様技法における装飾物形成工程にて平坦化した状態を示す正面図である。
【図8】マーブル模様技法における装飾物形成工程にてプレート状にした状態を示す正面図である。
【図9】マーブル模様技法における装飾物形成工程にてリング状に造形する状態を示す斜視図である。
【図10】マーブル模様技法において装飾物形成工程にて造形体をヤスリで形を整える状態を示す斜視図である。
【図11】マーブル模様技法における表面酸化膜除去工程にて急冷した状態を示す斜視図である。
【図12】マーブル模様技法における表面酸化膜除去工程にて酸洗いの状態を示す斜視図である。
【図13】マーブル模様技法において得られた装飾金属品(指輪)を示す斜視図である。
【図14】マーブル模様別技法における銅棒状体、銀棒状体を示す正面図である。
【図15】マーブル模様別技法における混合棒状体形成工程にて縒り合わせて柱状に形成する状態を示す正面図である。
【図16】マーブル模様別技法における混合棒状体形成工程にて長さ方向に伸ばした状態を示す正面図である。
【図17】マーブル模様別技法における混合棒状体形成工程にて混合棒状体を分断した状態を示す正面図である。
【図18】マーブル模様別技法における混合棒状体形成工程にて分断した棒状体を縒り合わせて柱状に形成する状態を示す正面図である。
【図19】マーブル模様別技法における装飾物形成工程にて混合棒状体を平面渦巻き状に巻いた状態を示す正面図である。
【図20】マーブル模様別技法の別技法における装飾物形成工程にて混合棒状体を平面渦巻き状に巻いて平坦化した状態を示す正面図である。
【図21】マーブル模様別技法の別技法における装飾物形成工程にて得られたプレート状の装飾物を示す正面図である。
【図22】マーブル模様別技法において得られた装飾金属物品(ブローチ)を示す正面図である。
【図23】象嵌技法Aにおける本体形成工程にて銀含有可塑性組成物を平らにのばした状態を示す正面図である。
【図24】象嵌技法Aにおける本体形成工程にて得られたプレート状の本体造形体を示す正面図である。
【図25】象嵌技法Aにおける乾燥面溝形成工程を中目ヤスリで行っている状態を示す斜視図である。
【図26】象嵌技法Aにおける銅−銀造形体形成工程にて乾燥した溝内に銅含有可塑性組成物を埋め込む状態を示す斜視図である。
【図27】象嵌技法Aにおける削除研磨工程を示す斜視図である。
【図28】象嵌技法Aにおいてドリル刃で穴を開ける状態を示す斜視図である。
【図29】象嵌技法Aにおける表面酸化膜除去工程にて急冷した状態を示す斜視図である。
【図30】象嵌技法Aにおける表面酸化膜除去工程にて酸洗いの状態を示す斜視図である。
【図31】象嵌技法Aにおいて得られた装飾金属品(ペンダント)を示す斜視図である。
【図32】象嵌技法Bにおける押し込み造形体に用いる銅含有可塑性組成物、本体造形体に用いる銀含有可塑性組成物をそれぞれ平らにのばした状態を示す正面図である。
【図33】象嵌技法Bにおける押し込み造形体を形成する状態を示す斜視図である。
【図34】象嵌技法Bにおける本体造形体を形成する状態を示す斜視図である。
【図35】象嵌技法Bにおける銅−銀造形体形成工程にて粘土状態の本体造形体に乾燥させた押し込み造形体を押し込んで一体化させる状態を示す斜視図である。
【図36】象嵌技法Bにおける銅−銀造形体研磨工程を示す斜視図である。
【図37】象嵌技法Bにおける表面酸化膜除去工程にて急冷した状態を示す斜視図である。
【図38】象嵌技法Bにおける表面酸化膜除去工程にて酸洗いの状態を示す斜視図である。
【図39】象嵌技法Bにおける装飾金属品(ブローチ)を示す斜視図である。
【図40】木目金技法におけるプレート形成工程にて得られた銅プレートを示す斜視図である。
【図41】木目金技法におけるプレート形成工程にて得られた銀プレートを示す斜視図である。
【図42】木目金技法における多層化密着工程にて接合面に水を少量付着させる状態を示す斜視図である。
【図43】木目金技法における多層化密着工程にて得られる複合プレートを示す斜視図である。
【図44】木目金技法における多層化密着工程にて得られる複合プレートを2等分した状態を示す斜視図である。
【図45】木目金技法における装飾物形成工程にて得られる多層プレートを示す斜視図である。
【図46】木目金技法における装飾物形成工程にて多層プレートを木芯棒に巻き付けた状態を示す斜視図である。
【図47】木目金技法における木目金模様形成工程にて中目ヤスリで切欠部を形成した状態を示す斜視図である。
【図48】木目金技法における表面酸化膜除去工程にて急冷した状態を示す斜視図である。
【図49】木目金技法における表面酸化膜除去工程にて酸洗いの状態を示す斜視図である。
【図50】木目金技法において装飾金属品(指輪)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の請求項1において使用される銅含有可塑性組成物は、銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.1〜4.0μmの第1銅粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径10μm以下の第2銅粉末からなる銅混合粉末と有機バインダとを含有するものである。
また、本発明の請求項1において使用される銀含有可塑性組成物は、銀と銀合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.1〜4.0μmの第1銀粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径40μm以下の第2銀粉末からなる銀混合粉末と有機バインダとを含有するものである。
【0024】
前述のように銅は、赤銅(しゃくどう)色を有し、銅合金としては、錫(スズ)との銅合金である青銅(ブロンズ)、ニッケルとの銅合金である白銅(はくどう)、亜鉛との銅合金である黄銅など多くの色合いのものが知られている。
また、銀は、白銀(しろがね)色を有し、銀合金としては、前述のように銅を含まない銀合金を指し、大気焼成しても焼成体の形状に影響のない耐酸化性の銀合金を意味する。具体的にはPdを1%添加した銀−Pd合金などを用いることができる。
これらの銅粉末、銅合金粉末、銀粉末、銀合金粉末としては、アトマイズ粉、還元粉など製造方法は特に指定はないが、粒子が球状に近い形状であることが好適に使用される。
前記のそれぞれ平均粒径が異なる特定の混合粉末を含有する銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを組み合わせて造形した装飾物は、大気焼成でき、銅造形焼成部分も銀造形焼成部分も工芸や装飾用の焼結物品に必要な一定の強度を得ることができ、さらに焼成後のそれぞれの焼成体(造形焼成部分)の収縮を近似させることができ、造形焼成体において一方の収縮が大きすぎて焼成後に剥がれたり形状を損なうことがない。
また、大気焼成によって銅造形焼成部分の表面が極薄く酸化しても、内部まで酸化の影響を受けることがない。そのため、急冷や酸洗い、磨きなどにより簡単に銅造形焼成部分の表面の酸化膜が剥離でき、見栄えも十分工芸や装飾用の焼結物品として十分に通用するものが得られる。
【0025】
また、銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末についても、銀と銀合金とから選択される1種以上の粉末についても、好ましくは、本発明の請求項2において使用される銅混合粉末、銀混合粉末がよい。さらに好ましくは、本発明の請求項3において使用される銅混合粉末、銀混合粉末がよい。
本発明の請求項2では、平均粒径0.5〜4.0μmの第1銅粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径10μm以下の第2銅粉末からなる銅混合粉末を用いた。
また、本発明の請求項2では、平均粒径0.5〜4.0μmの第1銀粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径30μm以下の第2銀粉末からなる銀混合粉末を用いた。
本発明の請求項3では、平均粒径2.0〜3.0μmの第1銅粉末を30〜70重量%含有し、残部が平均粒径5〜10μmの第2銅粉末からなる銅混合粉末を用いた。
また、本発明の請求項3では、平均粒径2.0〜3.0μmの第1銀粉末を30〜70重量%含有し、残部が平均粒径5〜20μmの第2銀粉末からなる銀混合粉末を用いた。
【0026】
前記有機バインダとしては、特に限定するものではないが、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース系バインダ、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系バインダ、澱粉、小麦粉、ブリティシュガム、キサンタンガム、デキストリン、デキストラン、プルラン等の多糖類系バインダ、ゼラチン等の動物系バインダ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系バインダ、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル等のアクリル系バインダ、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレングリコール等のその他樹脂系バインダなどから一種以上のバインダを選択して使用するのが好ましい。セルロース系バインダにおいては、特に水溶性のセルロース系バインダを用いることが最も好ましい。
【0027】
これらの銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを適宜に組み合わせて複合造形体として装飾物を形成する場合には、660〜770℃にて3〜40分、好ましくは700〜750℃にて10〜15分大気焼成する必要があり、銅含有可塑性組成物の造形体を大気焼成する場合に比べて低い温度、短い時間にて大気焼成する。
ちなみに、銅含有可塑性組成物のみの造形物の大気焼成の条件としては、粉末が純銅である銅含有可塑性組成物の焼成温度は、990℃×3分〜6分、980℃×4分〜15分、970℃×5分〜30分、950℃×5分〜40分、850℃×10分〜50分、800℃×30分〜60分、が目安であり、好ましくは850℃〜980℃、さらに好ましくは950℃〜970℃である。
【0028】
なお、さらに必要により、前記銅含有可塑性組成物や前記銀含有可塑性組成物には、添加物として前記有機バインダに下記の物質を加えてもよい。すなわち添加物としては、有機酸(オレイン酸、ステアリン酸、フタル酸、パルミチン酸、セパシン酸、アセチルクエン酸、ヒドロキシ安息香酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、カプロン酸、エナント酸、酪酸、カプリン酸、クエン酸)、フタル酸−n−ジオクチル、フタル酸−n−ジプチル等の有機酸エステル(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ヘキシル基、ジメチル基、ジエチル基、イソプロピル基、イソブチル基を有する有機酸エステル)、高級アルコール(オクタノール、ノナノール、デカノール)、多価アルコール(グリセリン、アラビット、ソルビタン、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,3ブチレングリコール)、エーテル(ジオクチルエーテル、ジデシルエーテル)、フェニルプロパンを骨格とする構成単位体が縮合してなる網状高分子であるリグニン、流動パラフィンおよび油脂からなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合物(例えば、オレイン酸を多く含むオリーブ油)などが挙げられる。これら添加物は、可塑性を改善する目的で添加されたり、造形時に銅含有可塑性組成物や銀含有可塑性組成物が手に付着しないようにする目的で添加されたりする。さらに、上記添加物であるリグニンやグリセリンは、適度な保水性を与える。
さらに添加物として、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の界面活性剤が挙げられる。上記界面活性剤は、銀粉末や銅粉末と有機バインダとの混合性が良くなるという作用や保水性を向上させる作用を果たす。
【0029】
前記有機バインダのうち、水溶性のセルロース系バインダは、可塑性を付与する作用を果たす。また、前記有機バインダのうち、ポリエチレンオキサイドは、低濃度で高い粘性を与え、液状での接着性を向上する作用を果たす。また、アルギン酸ナトリウムは、前記グリセリンと同様に適度な保水性を与えるが、密着向上作用にも寄与する。さらに、ポリアクリル酸エステル及びポリアクリル酸は、粘着性をより強固にする作用を果たす。
水溶性のセルロース系バインダについては、前述のように可塑性を付与する作用を果たすが、水溶性のセルロース系バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等が用いられ、水に溶解して用いる。
【0030】
上述した水溶性のセルロース系バインダを有機バインダとして用いる銅含有可塑性組成物、銀含有可塑性組成物における有機バインダの量として、より好ましい様態としては、有機バインダの合計量が、水を除いた固形分表示で0.1〜4wt%の範囲内であることが望ましい。この場合、有機バインダの量が0.1wt%より少ないと、均質な銅含有可塑性組成物、銀含有可塑性組成物とすることが難しい。また、塗着、乾燥後の強度が弱くなるといった不都合がある。有機バインダの量が4wt%を越えると、収縮率が大きくなり、ひび割れが生じやすくなる。したがって、有機バインダの量は0.1〜4wt%が望ましい。
ポリエチレンオキサイドを用いる場合には、分子量10万〜数百万のポリエチレンオキサイドを0.1〜3wt%の範囲内のものを用いることが望ましい。
また、界面活性剤を用いる場合には、0.03〜3wt%の範囲内であることが望ましく、油脂を用いる場合には、0.1〜3重量%の範囲内であることが望ましい。
【0031】
さらに、水は必要量加えるものとし、少なすぎると硬くなって造形し難く、多すぎると形状が保てなくなる。本発明にて用いる銅含有可塑性組成物や銀含有可塑性組成物は、水の含有量により、粘土状でもペースト状でもスラリー状にも調製できる。
前記好適な組成では、何れの可塑性組成物においても金属粉末は75〜99wt%であるが、少なすぎると、収縮が大きくなり、焼結にも支障を生じ、多すぎると、その分、有機バインダ及び水の割合が少なくなって、造形に支障を生ずる。
【0032】
また、焼結促進剤としてBi、Se、Sb、In、Sn、Zn粉末又はそれらの合金粉末を加えても良い。
さらに、密着性向上剤として炭酸鉛、炭酸リチウム、酸化亜鉛、リン酸、炭酸ナトリウム、酸化バナジウム、珪酸ナトリウム、リン酸塩等から選ばれる金属化合物粉末又はガラス粉末を加えても良い。
また、可塑性を改善する目的で、リグニンの如きフェニルプロパンを骨格とする構成単位体が縮合してなる網状高分子、グリセリン、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,3ブチレングリコール、流動パラフィン、アルコール類、油脂、フタル酸、フタル酸−n−ジオクチル、フタル酸−n−ジブチル、ポリビニルアルコールを加え、必要に応じて界面活性剤、表面活性剤を加えても良い。
【0033】
以上の構成を有する前記銅含有可塑性組成物と前記銀含有可塑性組成物とを組み合わせて大気焼成して銅−銀造形焼成体を得ることができるが、従来にない美観に優れた装飾金属物品を得るための4つの技法を以下に紹介する。
【0034】
第1番目の技法として、マーブル模様を備える装飾物の製造方法(マーブル模様技法)を例示する。
この方法は、前記銅含有可塑性組成物と、前記銀含有可塑性組成物を、それぞれ柱状に形成して銅棒状体と銀棒状体を形成する[棒状体形成工程]と、
前記棒状体形成工程を経た銅棒状体と銀棒状体とを絡め混ぜ合わせて混合棒状体を形成する[混合棒状体形成工程]と、
前記混合棒状体形成工程を経た混合棒状体の少なくとも一部を平坦化して装飾物を形成する[装飾物形成工程]と、
得られた装飾物を大気焼成して装飾物焼成体を得る[焼成体製作工程]と、
を含むものである。
【0035】
[棒状体形成工程]
この工程では、形成する銅棒状体と銀棒状体は、必ずしも同じ太さ(径)に形成する必要はなく、また長さについても必ずしも同じ長さに形成する必要はなく、意図的に異なる太さや長さに形成してもよい。
[混合棒状体形成工程]
この工程では、前記[棒状体形成工程]を経た銅棒状体と銀棒状体とを絡め混ぜ合わせて混合棒状体を形成する。銅棒状体と銀棒状体とを絡め混ぜ合わせて混合棒状体を形成する具体的な手法は、特に限定するものではなく、どのように形成してもよいが、結果的に、混合棒状体を構成している銅棒状体と銀棒状体とがそれぞれ長さ方向に細く引き伸ばされ、絡み合って混在している状態に当該混合棒状体がなっていればよい。
[装飾物形成工程]
この工程では、前記混合棒状体の少なくとも一部を平坦化して装飾物を形成する。前記混合棒状体から装飾物を形成する具体的な手法は特に限定するものではなく、どのように形成してもよい。
[焼成体製作工程]
この工程では、得られた装飾物を大気焼成して装飾物焼成体を得るが、銅造形体単独の焼成や銀造形体単独の焼成に比べて低い温度にてかつ短い時間にて焼成を実施する。
【0036】
そして、このマーブル模様技法によれば、銅含有可塑性組成物からなる銅棒状体と銀含有可塑性組成物からなる銀棒状体とがそれぞれ長さ方向に細く引き伸ばされ、絡み合い混在している状態になった混合棒状体を形成し、それを平坦化した装飾物を大気焼成したので、銅または銅合金の色と銀または銀合金の色が複雑に絡み合う複合造形体となり、あたかも2種類の多数本の銅極細線と銀極細線を絡め縒り合わせて一体的に束ねた状態で溶融して形成したかのような模様を形成することができ、これ以外の方法では到底得られないような複雑なマーブル模様を備える装飾金属物品を形成することができる。
【0037】
第2番目の技法として、象嵌調の模様を備える装飾物の製造方法(象嵌技法A)を例示する。
この方法は、銅含有可塑性組成物と、銀含有可塑性組成物のうち、何れか一方の可塑性組成物にて、本体造形体を形成する[本体形成工程]と、
その本体造形体を乾燥させる[本体乾燥工程]と、
得られた乾燥本体造形体の表面に溝を設ける[乾燥面溝形成工程]と、
乾燥した前記本体造形体の前記溝に、前記他方の可塑性組成物を埋め込んで一体化する[銅−銀造形体形成工程]と、
得られた銅−銀造形体を乾燥させる[銅−銀造形体乾燥工程]と、
乾燥した前記銅−銀造形体の一方の可塑性組成物の表面より盛り上がった前記他方の可塑性組成物の部分を削除または研磨する[削除研磨工程]と、
削除または研磨した銅−銀造形体を大気焼成して装飾物焼成体を得る[焼成体製作工程]と、を含むものである。
【0038】
[本体形成工程]
この工程では、銅含有可塑性組成物と、銀含有可塑性組成物の何れか一方の可塑性組成物にて、本体造形体を形成する。
[本体乾燥工程]
この工程では、得られた本体造形体を自然乾燥(1日以上)または乾燥機、電気炉、ドライヤー等を用いた乾燥温度80〜180℃、乾燥時間10〜60分の加熱乾燥にて乾燥させる。
[乾燥面溝形成工程]
この工程では、乾燥された本体造形体の表面に、ヤスリ等を用いて容易にかつ精微な溝を自在に形成することができ、最終的に美麗で精微な象嵌調の模様を得ることができる。
[銅−銀造形体形成工程]
この工程では、得られた乾燥した前記本体造形体の前記溝に、前記他方の可塑性組成物を埋め込んで一体化する。他方の可塑性組成物を埋め込む際には、粘土状態でも、水で希釈してスラリー状として刷毛等にて塗布してもよい。
[銅−銀造形体乾燥工程]
この工程では、得られた銅−銀造形体を、前述の加熱乾燥または自然乾燥にて乾燥させる。
[削除研磨工程]
この工程では、得られた乾燥した前記銅−銀造形体の一方の可塑性組成物の表面より盛り上がった前記他方の可塑性組成物の部分を削除または研磨する。
[焼成体製作工程]
この工程では、得られた削除または研磨した銅−銀造形体を大気焼成して装飾物焼成体を得るが、銅造形体単独の焼成や銀造形体単独の焼成に比べて低い温度にてかつ短い時間にて焼成を実施する。
【0039】
そして、この象嵌技法Aによれば、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物のうち、何れか一方の可塑性組成物にて、本体造形体を形成して乾燥した後、乾燥させた本体造形体の表面に溝を設け、この溝に他方の可塑性組成物を埋め込んで一体化して銅−銀造形体を形成して大気焼成するので、美麗で精微な象嵌調の模様を備える装飾金属物品を極めて容易に得られるものである。
【0040】
第3番目の技法として、象嵌調の装飾物の製造方法(象嵌技法B)を例示する。
この方法は、銅含有可塑性組成物と、銀含有可塑性組成物のうち、何れか一方の可塑性組成物にて、押し込み造形体を形成する[押し込み造形体形成工程]と、
前記押し込み造形体を乾燥する押し込み[造形体乾燥工程]と、
前記他方の可塑性組成物にて本体造形体を造形し、その本体造形体に乾燥した前記押し込み造形体を押し込んで一体化する[銅−銀造形体形成工程]と、
得られた銅−銀造形体を乾燥させる[銅−銀造形体乾燥工程]と、
乾燥した前記銅−銀造形体の一方の可塑性組成物の表面と他方の可塑性組成物の表面とが一体化した面となるように研磨する[銅−銀造形体研磨工程]と、
研磨された前記銅−銀造形体を大気焼成して装飾物焼成体を得る[焼成体製作工程]と、を含むものである。
【0041】
[押し込み造形体形成工程]
この工程では、銅含有可塑性組成物と、銀含有可塑性組成物のうち、何れか一方の可塑性組成物にて、押し込み造形体を形成するが、特に形状に制限がないので、どのように形成してもよい。
[造形体乾燥工程]
この工程では、得られた押し込み造形体を、前述の加熱乾燥または自然乾燥にて乾燥させる。
[銅−銀造形体形成工程]
この工程では、他方の可塑性組成物にて本体造形体を造形し、その本体造形体に乾燥した前記押し込み造形体を押し込んで一体化する。なお、本体造形体には特に形状に制限がないので、そのように形成してもよい。
[銅−銀造形体乾燥工程]
この工程では、得られた銅−銀造形体を、前述の加熱乾燥または自然乾燥にて乾燥させる。
[銅−銀造形体研磨工程]
この工程では、乾燥した前記銅−銀造形体の一方の可塑性組成物の表面と他方の可塑性組成物の表面とが一体化した面となるようにヤスリ等を用いて研磨する。
[焼成体製作工程]
この工程では、乾燥した銅−銀造形体を大気焼成して装飾物焼成体を得るが、銅造形体単独の焼成や銀造形体単独の焼成に比べて低い温度にてかつ短い時間にて焼成を実施する。
【0042】
そして、この象嵌技法Bによれば、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物のうち、何れか一方の可塑性組成物にて、押し込み造形体を形成して乾燥した後、他方の可塑性組成物にて本体造形体を形成して乾燥した押し込む造形体を押し込んで一体化して銅−銀造形体を形成して大気焼成するので、象嵌調の装飾金属物品が極めて容易に得られるものである。
【0043】
第4番目の技法として、木目金模様を備える装飾物の製造方法(木目金技法)を例示する。
この方法は、銅含有可塑性組成物と、銀含有可塑性組成物を、それぞれ板状に形成して銅プレートおよび銀プレートを製作する[プレート形成工程]と、
この銅プレートと銀プレートとを、その接合面に水を付けて相互に重ね合わせ、次いで荷重をかけて、当該プレーとの重ね合わせた厚さが10%以上減ずるように伸ばし密着貼合わせる[多層化密着工程]と、
前記多層化工程を経た多層プレートを用いて銅−銀多層装飾物を形成する[装飾物形成工程]と、
前記銅−銀多層装飾物を乾燥させる[銅−銀多層装飾物乾燥工程]と、
乾燥した銅−銀多層装飾物の表面を木目金模様が表れるように切削または研磨して切欠部を形成する[木目金模様形成工程]と、
この切欠部を形成した装飾物を大気焼成して装飾物焼成体を得る[焼成体製作工程]と、を含むものである。
【0044】
[プレート形成工程]
この工程では、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物をそれぞれ板状に形成して銅プレートおよび銀プレートを製作する。
[多層化密着工程]
この工程では、前記銅プレートと前記銀プレートとを、その接合面に水を付けて相互に重ね合わせ、次いで荷重をかけて、当該プレートの重ね合わせた厚さが10%以上減ずるように伸ばし密着貼合わせる。
[装飾物形成工程]
この工程では、前記多層プレートを用いて銅−銀多層装飾物を形成する。
[銅−銀多層装飾物乾燥工程]
この工程では、前記銅−銀多層装飾物を、前述の加熱乾燥または自然乾燥にて乾燥させる。
[木目金模様形成工程]
この工程では、乾燥した銅−銀多層装飾物の表面を木目金模様が表れるように切削または研磨して切欠部を形成する。
[焼成体製作工程]
この工程では、切欠部を形成した装飾物を大気焼成して装飾物焼成体を得るが、銅造形体単独の焼成や銀造形体単独の焼成に比べて低い温度にてかつ短い時間にて焼成を実施する。
【0045】
そして、この木目金技法によれば、銅含有可塑性組成物からなる銅プレートと銀含有可塑性組成物からなる銀プレートを多層に重ね合わせて伸ばして密着させた銅−銀多層装飾物の表面を切削または研磨して切欠部を形成した装飾物を大気焼成することにより、木目金模様を備える装飾物が極めて容易に得られるものである。
【実施例】
【0046】
〔銅焼成体中の銅粉末の粒径の影響〕
〈使用した原材料〉
銅含有可塑性組成物を構成する銅粉末は、純銅であり、平均粒径2.5μmの第1銅粉末50重量%と、平均粒径10μmの第2銅粉末50重量%とを混合した銅混合粉末を用意した。この銅混合粉末90重量%と、有機バインダーとしてのメチルセルロース1.20重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.30重量%及び水8.50重量%とを十分に混合して粘土状にし、長さ50mm幅10mm厚さ1.5mmの試験片を作り、80℃×30minにて乾燥し、長さを測定し、収縮率を求めた。そして、電気炉を用いて970℃30分で大気(酸化雰囲気)中で焼成し、得られた銅造形焼成体の表面を磨いてテストピースとした。
折り曲げ強度は、試験片の中央部を、圧子でスピード(50mm/min)10mmの深さまで押し曲げ、その際の荷重値を測定し、以下の式より求めた。
折り曲げ強度=3Pl/2bd2
P:荷重値,
l:支点間距離
b:試験片幅
d:試験片厚さ
また、参考例として、前記銅混合粉末に代えて、表1に示す粉末組成を有するものについても同様に形成し、試験片を作り、同条件で乾燥して焼成し、得られた銅造形焼成体の表面を磨きや酸洗いしてテストピースとした。なお、表中の2種混合粉末については等分配合(それぞれ50重量%)とし、3種混合粉末についても等分配合(それぞれ100/3重量%)とした。
【0047】
〈結果〉
【表1】

【0048】
〈考察〉
平均粒径10μm以下の銅混合粉末を含有する実施例A〜Cの銅含有可塑性組成物では、大気焼成を行っても、その後の磨きや酸洗いにより、美麗な表面状態となることが確認された。
これに対し、平均粒径40μmの銅粉末を添加した比較例A,Bの銅含有可塑性組成物では、折り曲げ強度が弱く、銅造形焼成体として適していない。
また、平均粒径2.5μmの第1粉末を50重量%と平均粒径10.0μmの第2粉末を50重量%からなる銅混合粉末を含有する実施例Aの銅含有可塑性組成物が最も望ましい結果となった。
なお、比較例A,Bの銅含有可塑性組成物は、大気焼成では上記の如き結果であったが、この銅含有可塑性組成物をアルゴンガス雰囲気中で焼成した場合は、十分装飾品として使用できる銅造形焼成体を得た。
【0049】
〔銅−銀焼成体における焼成条件の評価〕
〈使用した原材料〉
銅含有可塑性組成物を構成する銅粉末は、純銅であり、平均粒径2.5μmの第1銅粉末50重量%(45wt%)と、平均粒径10μmの第2銅粉末50重量%(45wt%)とを混合した銅混合粉末を用意した。この銅混合粉末90wt%と、有機バインダーとしてのメチルセルロース1.20wt%、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.30wt%及び水8.50wt%とを十分に混合して粘土状にして銅含有可塑性組成物とした。
銀含有可塑性組成物を構成する銀粉末は、純銀であり、平均粒径2.5μmの第1銀粉末50重量%(46wt%)と、平均粒径20μmの第2銀粉末50重量%(46wt%)とを混合した銀混合粉末を用意した。この銀混合粉末92wt%と、有機バインダーとしてのデンプン0.7wt%、セルロース0.8wt%、残部を水とした水溶性バインダを十分に混合して粘土状の銀含有可塑性組成物とした。
【0050】
〈テストピースの作成〉
前記銀含有可塑性組成物と、前記銅含有可塑性組成物を、それぞれ所定の割合となるように秤量し、それらを指で約3mm幅の柱状に形成してそれぞれ銀棒状体、銅棒状体を作製した。
のばした銀棒状体、銅棒状体をそのままねじることなく空のシリンジに入れた。何れか一方が長い場合には、端部を折り返して収容し、シリンジから柱状の混合棒状体を射出した。
前記シリンジとしては、シリンダー内長さ8cm、内径6mm、押出口内径1.4mmの2.0mlのシリンジ((株)トップ社製、医療機器届出番号13B1×00085000023)を使用した。
得られた混合棒状体を2つ折りにし、その2本を4回縒り合わせて柱状に形成して再びシリンジに収容し、シリンジから混合棒状体を射出した。
この操作を3回繰り返して行い、銅含有可塑性組成物の線状のものと銀含有可塑性組成物の線状のもとが複雑に絡み合って一体的に縒り合わされた混合棒状体が得られた。
得られた混合棒状体を作業台上に射出して平面渦巻き状に巻き、その上面を平坦化してプレート状とし、そのプレートを外側から押圧して平板状に形成した。
次に、ローラーで平ら(1.5mm厚)にのばし、周りをカッターで縦約15mm×横15mmのテストピース(造形体)を作成した。
得られたテストピースを乾燥した後、650℃×30分〜850℃×5分の条件で大気焼成し、高温になればなるほど焼成時間を短くした。
なお、大気焼成は、電気炉を上記温度に予熱しておき、その設定温度に保持された電気炉に投入し、所定の温度と時間を保持させておこなった。
焼成後、水に入れて急冷させた。酸化膜がよく取れた。
次に、酸洗い用固形酸材(商品名:Pickling Compound、GROBET FULE CO.OF AMERICA,INC社製、主成分:硫酸水素ナトリウム)に浸し、焼結体表面の酸化膜を除去した。
表面を必要に応じ、ステンレスブラシ等で研磨することで光沢が出た。
その結果、銀と銅という2種類(2色)の金属によるマーブル調の表層模様を有するテストピースが得られた。
【0051】
焼成条件を変え、また前記銅含有可塑性組成物と前記銀含有可塑性組成物との割合を、銅83重量%:銀17重量%〜銅17重量%:銀83重量%の範囲で変更し、表2〜表7の結果を得た。
なお、テスト1は、650℃×30分の焼成条件であり、表2にその結果を示した。
また、テスト2は、700℃×15分の焼成条件であり、表3にその結果を示した。
また、テスト3は、750℃×10分の焼成条件であり、表4にその結果を示した。
また、テスト4は、780℃×5分の焼成条件であり、表5にその結果を示した。
また、テスト5は、800℃×5分の焼成条件であり、表6にその結果を示した。
また、テスト6は、850℃×5分の焼成条件であり、表7にその結果を示した。
表2〜表7における評価欄の「○」および「△」は使用可能の評価であり、「×」は使用できない評価である。「△」評価は、美的にマーブル模様がわかりづらいという見かけの問題であり、デザインの異なる装飾物では問題にならないものであって、使用上の強度は十分備えていた。
【0052】
〈結果〉
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0053】
〈考察〉
テスト1(表2)、テスト4(表5)、テスト5(表6)、テスト6(表7)では、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物の割合に関わらず、全く良くない結果しか得られなかった。
これに対し、テスト2(表3)およびテスト3(表4)においては、逆に銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物の割合に関わらず、良好な結果が得られ、700℃×15分〜750℃×10分がこの銅−銀混合造形体の焼成において、良好な大気焼成が実施できる条件であることが確認された。
この結果より、銅含有可塑性組成物と銀含有可塑性組成物とを適宜に組み合わせて複合造形体として装飾物を形成する場合には、700〜750℃にて10〜15分大気焼成することができ、特に銅色と銀色とがバランスよく配されたデザインの装飾物とすることができた。
【0054】
〔複雑なマーブル模様を有する銅−銀装飾金属品の製造1(マーブル模様技法)〕
〈使用した原材料〉
前記〔銅−銀焼成体における焼成条件の評価〕における〈使用した原材料〉と全く同じ銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用した。
〈棒状体形成工程〉
前記銀含有可塑性組成物6gと、前記銅含有可塑性組成物3gを、それぞれ指で約3mm幅の柱状にのばして形成し、図1に示すようにそれぞれ70mmの銀棒状体2と、35mmの銅棒状体1とを形成した。
〈混合棒状体形成工程〉
得られた銀棒状体2、銅棒状体1をそのまま縒り合わすことなく図2に示すように空のシリンジ21に入れた。この場合、銀棒状体2が長かったので、端部を折り返して収容し、図3に示すようにシリンジ21から柱状の混合棒状体3を射出形成した。
前記シリンジ21としては、シリンダー内長さ8cm、内径6mm、押出口内径1.4mmの2.0mlのシリンジ((株)トップ社製、医療機器届出番号13B1×00085000023)を使用した。
得られた混合棒状体3を2つ折りにし、図4に示すようにその2本を4回縒り合わして再びシリンジに収容し、シリンジから棒状体を射出形成し、この操作を3回繰り返して行い、図5に示すように、細く長さ方向に伸ばされた多数の銅棒状体と多数の銀棒状体とが複雑に絡み混ぜ合わされた状態になった一本の混合棒状体4が得られた。
〈装飾物形成工程〉
得られた混合棒状体を作業台上に射出し、射出された混合棒状体を平面渦巻き状に巻き、やや細長く巻いてまとめ、外側から押圧して一体化し、図6に示す造形体5とした。
次に、ローラーでその上面を平坦化(1.5mm厚)して図7に示す造形体6とし、さらに周りをカッターで約1cm幅にカットして図8に示すプレート状の造形体7とした。
このプレート状の造形体7を図9に示すように16号の木芯棒22に巻き付けてリング状の造形体8を得た。
この造形体8を乾燥温度100℃に設定した乾燥機に入れて、乾燥時間30分とし乾燥を行った。
乾燥後、図10に示すようにリング状の造形体8の形をヤスリ23で整えた。
〈焼成体製作工程〉
得られた造形体(装飾物)を750℃×10分で大気焼成した。
なお、大気焼成は、電気炉を上記温度に予熱しておき、その温度に保持された電気炉に投入し、所定の温度と時間を保持させておこなった。
〈表面酸化膜除去工程〉
焼成後、図11に示すように焼成体9を水24に入れて急冷させた。水中で酸化膜がよく取れた。
次に、図12に示すように焼成体9を酸洗い用固形酸材(商品名:Pickling Compound、GROBET FULE CO.OF AMERICA,INC社製)の水溶液25に浸し、焼結体9の表面の酸化膜を除去した。
表面を必要に応じ、ステンレスブラシ等で研磨することで光沢が出た。
その結果、図13に示す銀と銅という2種類(2色)の金属による複雑なマーブル模様を備える装飾金属物品(指輪)10ができあがった。得られた指輪10は参考写真(A)として添付した。このマーブル模様は、あたかも2種類の多数本の極細金属線を絡め縒り合わせて一体的に束ねた状態で溶融して形成したかのような模様であった。
【0055】
〔複雑なマーブル模様を有する装飾金属品の製造2(マーブル模様別技法)〕
〈使用した原材料〉
前記〔銅−銀焼成体における焼成条件の評価〕における〈使用した原材料〉と全く同じ銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用した。
〈棒状体形成工程〉
前記の銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用し、それぞれ指で約3mm幅の柱状にのばして形成し、図14に示す長さ70mmの銀棒状体32、銅棒状体31を形成した。
〈混合棒状体形成工程〉
得られた銀棒状体32、銅棒状体31を図15に示すように縒り合わせて柱状に形成し、図16に示すように長さ方向に伸ばし、ついで図17に示すように混合棒状体33を分断して、分断した混合棒状体33,33同士を図18に示すように縒り合わせて再び柱状に形成する操作を繰り返して行って混合棒状体を形成した。
〈装飾物形成工程〉
得られた混合棒状体を図19に示すように平面渦巻き状に巻いて造形体34とし、さらにローラーでその上面を平坦化して図20に示す造形体35とし、さらに周りをカッターでカットして図21に示すプレート状の装飾物36を得た。
この装飾物36を乾燥温度100℃に設定した乾燥機に入れて、乾燥時間30分とし乾燥を行った。
乾燥後、750℃×10分で大気焼成した。
〈表面酸化膜除去工程〉
焼成後、希硫酸水溶液などに浸し、銅焼成部分方面の酸化膜を除去した。
表面を必要に応じ、ステンレスブラシ等で研磨することで光沢が出た。
図22に示すように銀と銅という2種類(2色)の金属による複雑なマーブル模様を備える装飾金属物品(ブローチ)37ができあがった。なお、形状は異なるが、ほぼ同様に得られた指輪を参考写真(B)として添付した。
【0056】
〔美麗で精微な象嵌調の模様を有する銅−銀装飾金属品の製造(象嵌技法A)〕
〈使用した原材料〉
前記〔銅−銀焼成体における焼成条件の評価〕における〈使用した原材料〉と全く同じ銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用した。
〈本体形成工程〉
前記の銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用した。
前記銀含有可塑性組成物10gをローラーで厚さ1.5mm程度に平らにのばして図23に示す均等厚みの造形体41を得た。さらに、周りをカッターでカットし、図24に示す縦35mm、横15mmの長方形のプレート状の造形体42を作成した。
〈本体乾燥工程〉
得られた本体造形体42を乾燥温度100℃に設定した乾燥機に入れて、乾燥時間30分とし乾燥した本体造形体43を得た。
〈乾燥面溝形成工程〉
乾燥した本体造形体43の表面に、図25に示すように中目ヤスリ26を用いて溝44を形成した。なお、粘土状態の時にへらでへこませてもよいが、シャープな溝を形成する場合には、このように乾燥した本体造形体43に溝を形成することが望ましい。
削る溝44は、内部に行くほど広くなるように逆くさび状に形成した。
〈銅−銀造形体形成工程〉
図26に示すように乾燥した本体造形体43の表面に形成した溝44の中に、前記銅含有可塑性組成物46を竹串等の形成具27を用いて埋め込んで銅−銀造形体45を形成した。
〈銅−銀造形体乾燥工程〉
得られた銅−銀造形体45を乾燥温度100℃に設定した乾燥機に入れて、乾燥時間30分とし乾燥を行った。
〈削除研磨工程〉
得られた銅−銀造形体45の表面を図27に示すようにスポンジ研磨材(商品名:3Mスポンジ研磨材、住友スリーエム(株)社製、型式:スーパーファイン#320〜#600)28で模様が見えるまで削り、側面は中目ヤスリで整えた。47は、模様が見えるまで削った装飾体を示す。
〈焼成体製作工程〉
得られた造形体(装飾物)47をペンダントにするため、図28に示すようにドリル刃29で穴を開け、装飾物を750℃×10分で大気焼成した。
なお、大気焼成は、電気炉を上記温度に予熱しておき、その温度に保持された電気炉に投入し、所定の温度と時間を保持させておこなった。
〈表面酸化膜除去工程〉
焼成後、図29に示すように焼成体48を水24に入れて急冷させた。酸化膜がよく取れた。
次に、図30に示すように焼成体48を酸洗い用固形酸材(商品名:Pickling Compound、GROBET FULE CO.OF AMERICA,INC社製)の水溶液25に浸し、焼結体48表面の酸化膜を除去した。
表面を必要に応じ、ステンレスブラシ等で研磨することで光沢が出た。
その結果、図31に示すように銀と銅という2種類(2色)の金属による美麗で精微な象嵌調の模様を備える装飾金属物品(ペンダント)49を容易に得ることができた。
なお、この実施例では、銀を土台に銅を象嵌したが、銅を土台に銀を象嵌することもできた。
【0057】
〔象嵌調の銅−銀装飾金属品の製造(象嵌技法B)〕
〈使用した原材料〉
前記〔銅−銀焼成体における焼成条件の評価〕における〈使用した原材料〉と全く同じ銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用した。
〈押し込み造形体形成工程〉
前記銅含有可塑性組成物51を図32左側に示すようにローラーで1mm厚に平らにのばし、図33に示すように家庭調理用のクッキー型等で好きな形に切り抜いて押し込み造形体53とした。
〈造形体乾燥工程〉
得られた押し込み造形体53を乾燥温度100℃に設定した乾燥機に入れて、乾燥時間30分とし乾燥を行った。
〈銅−銀造形体形成工程〉
前記銀含有可塑性組成物52を図32右に示すようにローラーで3mm圧に平らにのばし、図34に示すように前記押し込み造形体53を切り抜いた型より一回り大きい型で切り抜いて本体造形体54とした。
この本体造形体54が柔らかいうちに、図35に示すように前記乾燥させた押し込み造形体53を押し込んで銅−銀造形体55とした。
〈銅−銀造形体乾燥工程〉
得られた銅−銀造形体を、乾燥温度100℃に設定した乾燥機に入れて、乾燥時間30分とし乾燥を行った。
〈銅−銀造形体研磨工程〉
乾燥した前記銅−銀造形体の押し込み造形体53の表面と本体造形体54の表面とが一体化した面となるように、図36に示すように表面をスポンジ研磨材(商品名:3Mスポンジ研磨材、住友スリーエム(株)社製、型式:スーパーファイン#320〜#600)23で研磨した。
さらに、ペンダント等にするため、ドリル刃で2mmの穴を開けた。
〈焼成体製作工程〉
乾燥した銅−銀造形体55を750℃×10分で大気焼成した。
なお、大気焼成は、電気炉を上記温度に予熱しておき、その温度に保持された電気炉に投入し、所定の温度と時間を保持させておこなった。
〈表面酸化膜除去工程〉
焼成後、得られた焼成体56を、図37に示すように水24に入れて急冷させて酸化膜を除去した。
次に、焼成体56を図38に示すように酸洗い用固形酸材(商品名:Pickling Compound、GROBET FULE CO.OF AMERICA,INC社製)の水溶液25に浸し、焼結体56表面の酸化膜を除去した。
表面を必要に応じ、ステンレスブラシ等で研磨することで光沢が出た。
その結果、図39に示すように銀と銅という2種類(2色)の金属が一体化した象嵌調の装飾金属物品(ブローチ)57を極めて容易に得ることができた。
【0058】
〔木目金模様を備える銅−銀装飾金属品の製造(木目金技法)〕
〈使用した原材料〉
前記〔銅−銀焼成体における焼成条件の評価〕における〈使用した原材料〉と全く同じ銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用した。
〈プレート形成工程〉
前記の銀含有可塑性組成物、銅含有可塑性組成物を使用した。
前記銅含有可塑性組成物をローラーで厚さ1.5mm程度に平らにのばして図40に示す銅プレート61を作成した。
前記銀含有可塑性組成物をローラーで厚さ1.5mm程度に平らにのばして図41に示す銀プレート62を作成した。
〈多層化密着工程〉
前記銅プレート61と前記銀プレート62とを重ねて接合するに際し、図42に示すように接合面に水を少量付けて重ねた状態でローラーで平らにのばし、厚さ3mm程度になるまでのばして図43に示す複合プレート63を得た。
のばした複合プレート63を図44に示すように2等分した。
2等分した複合プレート64,64同士を重ねて接合するに際し、前記と同様に接合面に水を少量付け、前記銅プレート61の層と前記銀プレート62の層が交互になるように重ねた。その状態でローラーを用いて平らにのばし、厚さ3mm程度になるまでのばした。
このような操作を3回繰り返し行って、図45に示す前記銅プレート61の層と前記銀プレート62の層が交互になった多層プレート65を得た。
〈装飾物形成工程〉
前記工程にて最終的に厚さ3mmにのばした多層プレート65の余分な部分をカッターでカットし、図46に示すように木芯棒22に巻き付けてリング状の銅−銀多層装飾物66を造形した。
〈銅−銀多層装飾物乾燥工程〉
得られたリング状の銅−銀多層装飾物66を、乾燥温度100℃に設定した乾燥機に入れて、乾燥時間30分とし乾燥を行った。
〈木目金模様形成工程〉
乾燥させた銅−銀多層装飾物66の一部を、図47に示すように木目金模様が表れるように中目ヤスリ19で表面を斜めに削って切欠部を形成し、全体をスポンジ研磨材(商品名:3Mスポンジ研磨材、住友スリーエム(株)社製、型式:スーパーファイン#320〜#600)で整え、切欠部を形成した装飾物67を得た。
〈焼成体製作工程〉
得られた切欠部を形成した装飾物67を、750℃×10分で大気焼成した。
なお、大気焼成は、電気炉を上記温度に予熱しておき、その温度に保持された電気炉に投入し、所定の温度と時間を保持させておこなった。
〈表面酸化膜除去工程〉
焼成後、図48に示すように焼成体68を水24に入れて急冷させた。酸化膜がよく取れた。
次に、図49に示すように焼成体68を酸洗い用固形酸材(商品名:Pickling Compound、GROBET FULE CO.OF AMERICA,INC社製)の水溶液25に浸し、焼結体68表面の酸化膜を除去した。
表面を必要に応じ、ステンレスブラシ等で研磨することで光沢が出た。
その結果、図50に示すように銀と銅という2種類(2色)の金属が一体化した彫金技法の中でも難易度の高い木目金模様を備える装飾金属物品(指輪)69を極めて容易に得ることができた。
【符号の説明】
【0059】
10 マーブル模様を備える装飾金属物品(指輪)
37 マーブル模様を備える装飾金属物品(ブローチ)
49 象嵌調の模様を備える装飾金属物品(ペンダント)
57 象嵌調の装飾金属物品(ブローチ)
69 木目金模様を備える装飾金属物品(指輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.1〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径10μm以下の第2粉末からなる銅混合粉末と有機バインダとを含有する銅含有可塑性組成物と、
銀と銀合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.1〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径40μm以下の第2粉末からなる銀混合粉末と有機バインダとを含有する銀含有可塑性組成物と
を組み合わせて造形して装飾物を形成する銅−銀造形体形成工程と、
得られた装飾物を660〜770℃にて3〜40分大気焼成して装飾物焼成体を得る銅−銀造形焼成体製作工程と
を含むことを特徴とする装飾金属物品の製造方法。
【請求項2】
銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.5〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径10μm以下の第2粉末からなる銅混合粉末と有機バインダとを含有する銅含有可塑性組成物と、
銀と銀合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径0.5〜4.0μmの第1粉末を25〜75重量%含有し、残部が平均粒径4.0μmを越えて平均粒径30μm以下の第2粉末からなる銀混合粉末と有機バインダとを含有する銀含有可塑性組成物と
を組み合わせて造形して装飾物を形成する銅−銀造形体形成工程と、
得られた装飾物を660〜770℃にて3〜40分大気焼成して装飾物焼成体を得る銅−銀造形焼成体製作工程と
を含むことを特徴とする装飾金属物品の製造方法。
【請求項3】
銅と銅合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径2.0〜3.0μmの第1粉末を30〜70重量%含有し、残部が平均粒径5〜10μmの第2粉末からなる銅混合粉末と有機バインダとを含有する銅含有可塑性組成物と、
銀と銀合金とから選択される1種以上の粉末であって、平均粒径2.0〜3.0μmの第1粉末を30〜70重量%含有し、残部が平均粒径5〜20μmの第2粉末からなる銀混合粉末と有機バインダとを含有する銀含有可塑性組成物と
を組み合わせて造形して装飾物を形成する銅−銀造形体形成工程と、
得られた装飾物を660〜770℃にて3〜40分大気焼成して装飾物焼成体を得る銅−銀造形焼成体製作工程と
を含むことを特徴とする装飾金属物品の製造方法。
【請求項4】
700〜750℃にて10〜15分大気焼成することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の装飾金属物品の製造方法。
【請求項5】
前記装飾物焼成体を酸洗い又は磨きを行う表面酸化膜除去工程を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の装飾金属物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする装飾金属物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【公開番号】特開2011−68958(P2011−68958A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221734(P2009−221734)
【出願日】平成21年9月27日(2009.9.27)
【出願人】(592258133)相田化学工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】