説明

裏当装置及び片面溶接装置

【課題】裏当部の底板と裏当ローラとの裏当フラックスの付着による摩擦抵抗をなくし、裏当部の位置合わせを好適に精度よく行うことができる裏当装置及びこの裏当装置を備えた片面溶接装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、被溶接部材E,Eを突き合わせた開先線Mの裏側に配置された裏当装置1であって、開先線Mの長手方向に亘って配設された架台フレーム3と、架台フレーム3の上面に軸支された一群の裏当ローラ4を有する裏当ローラ部5と、裏当ローラ4に支持される底板11を有する裏当部10と、裏当ローラ4上で支持される裏当部10を幅方向に微調整移動させる駆動機構20と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の被溶接部材の端部を突き合わせて形成された開先線と、この開先線の裏側に配置された裏当装置との幅方向の位置合わせを精度よく行うことができる裏当装置及びこの裏当装置を備えた片面溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、片面溶接装置の裏当装置としては、例えば、特許文献1に係る発明が知られている。特許文献1に係る裏当装置は、例えば一辺の長さが20m〜30mの一対の被溶接部材の端部を突き合わせて形成された開先線を溶接する際に用いられる。
図6は、特許文献1に係る裏当装置を示した図であって、(a)は、模式平面図、(b)は、(a)のX−X矢視断面図である。特許文献1に係る裏当装置Zは、図6の(a)及び(b)に示すように、長手方向に亘って延設された裏当部100と、裏当部100が載置された架台フレーム101と、裏当部100の両端に形成された駆動機構112,112と、を有する。
【0003】
裏当部100は、図6の(b)に示すように、架台フレーム101に備えられた平坦な上面部材101a上に配置されるとともに、一対の被溶接部材102,102を突き合わせて形成された開先線103の下方に配置されている。裏当部100は、上面部材101a上を転動する一対の裏当ローラ104と、裏当ローラ104を軸支する基台部105と、基台部105の上方に形成された基礎フレーム106と、基礎フレーム106に内装されたエアホース107と、エアホース107の上部に配置された銅板110とを有する。銅板110の上部には、裏当フラックスWが配置されている。移動方向に沿って同一線上に並設された一対の裏当ローラ104は、図6の(a)に示すように、裏当部100の長手方向に亘って所定の間隔をあけて一対の単位で複数並設されている。また、裏当部100の両端には、駆動機構112が接続されている。
【0004】
駆動機構112は、図6の(b)に示すように、ネジ軸113を備えたモータ等の駆動源114と、ネジ軸113に係合される係合部115とを有する。係合部115は、裏当部100の基台部105に接続されている。これにより、駆動源114を作動させることで、裏当部100が幅方向(図6の(b)の矢印参照)に移動可能に形成されている。
【0005】
このような構成からなる裏当装置Zは、裏当部100を幅方向に移動させることで、幅方向の位置合わせの微調整を行い、開先線103の直下に裏当部100を配置させることができる。そして、図示しないホッパー等を長手方向に移動させて、銅板110上に粉末状の裏当フラックスを供給した後、エアホース107に空気を導入して膨張させることにより、開先線103の下面に裏当フラックスWを押し当て、開先線103の表側から溶接作業を行うことができる。
【特許文献1】特公昭51−31108号公報(第一図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の裏当装置Zの構成によると、銅板110の上部にホッパー等で裏当フラックスWを供給する際、又は、使用済み裏当フラックスWを銅板110から掻き落とす際に、銅板110から裏当フラックスWがこぼれ落ち、架台フレーム101の上面部材101a上に堆積する。これにより、裏当部100の位置合わせを行う際に、裏当ローラ104に裏当フラックスWが付着したり、裏当ローラ104が堆積した裏当フラックスWに乗り上げたりして、裏当部100の円滑な移動を妨げるという問題があった。即ち、図6の(a)に示すように、両端に配置された駆動機構112により、例えば紙面下方向(矢印121方向)に裏当装置Zを移動させたとすると、各裏当ローラ104には、紙面上方向(矢印122方向)にそれぞれ摩擦抵抗が生じて裏当装置Zを図6の(a)に示す二点鎖線のように弓なりに変形させるため、裏当部100を開先線103の直下に精度よく配置させることが困難であった。
【0007】
開先線103が長ければ長い程(裏当部100が長い程)、裏当ローラ104の摩擦抵抗により、裏当部100に係る中央部分の弓なりの撓みが大きくなるため、精度のよい位置合わせがさらに困難になるという問題があった。この撓み量は、裏当部100の長さの4乗に比例するから、20〜30mの長さを溶接するための裏当装置Zにとっては重大な問題であった。
また、架台フレーム101の上面部材101a上に図示しないスクレーパを設けて裏当フラックスWを除去する構造も考えられる。しかし、スクレーパを設置したとしても、完全に裏当フラックスWを除去することは困難であった。
【0008】
本発明はかかる問題を解決するためになされたものであり、裏当ローラと裏当部の接触面との裏当フラックスの付着による摩擦抵抗をなくし、裏当部の位置合わせを好適に精度よく行うことができる裏当装置及びこの裏当装置を備えた片面溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような思想に基づき創案された本発明は、一対の被溶接部材を突き合わせた開先線の裏側に配置される裏当装置であって、架台フレームの上面に軸支された一群の裏当ローラを有する裏当ローラ部と、前記裏当ローラに支持される底板を有する裏当部と、前記裏当ローラ上で支持される前記裏当部を幅方向に微調整移動させる駆動機構と、を有することを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、裏当部の底板の下面側から裏当ローラが当接されるため、当該底板の下面と裏当ローラとの接触面に裏当フラックスが堆積することがない。即ち、裏当部の幅方向への移動の際に、裏当フラックスの付着によって裏当ローラが摩擦抵抗を受けないため、溶接長が長い場合であっても、裏当ローラに作用する摩擦抵抗を最小限にすることができるため、裏当部の中央部分に発生する弓なり状の撓みを小さくすることができる。
【0011】
また、本発明に係る裏当ローラ部は、前記幅方向に亘って前記裏当ローラを直線状に配置した一群からなり、前記架台フレームの長手方向に所定の間隔をあけて複数群に設置されるとともに、前記裏当ローラ部の下方に、鉛直方向に昇降可能な昇降手段が配設されていることが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、エアホースにより裏当部を押し上げることによって作用する裏当ローラへの荷重が昇降手段に直接伝達される。これにより、架台フレームに作用する荷重を効果的に昇降手段に伝達することができるため、架台フレームの強度を小さく設定することができ、部材の薄肉化、軽量化を図ることができる。
【0013】
また、本発明に係る底板の幅は、前記裏当ローラ部の幅よりも小さく形成されており、
前記架台フレームは、前記裏当ローラを軸支する一対の挟持板を有し、前記幅方向に隣り合う前記裏当ローラ同士は互いに離間して設けられていることが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、上方から落下してくる裏当フラックスは、裏当ローラの間や、挟持板間を通り抜けて落下する。そのため、裏当フラックスが裏当ローラ部に堆積したり、裏当ローラの回転を妨げたりすることがないため、裏当ローラを円滑に回転させて位置合わせを行うことができる。
【0015】
また、本発明にかかる片面溶接装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の裏当装置を備え、前記昇降手段を支持し、長手方向に延設された土台フレームと、この土台フレームを支持し、長手方向に所定の間隔をあけて配設された複数の回転体又は支持台と、を有し、前記回転体又は前記支持台は、前記昇降手段の下方に配設されていることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、長手方向に延設された土台フレームは、昇降手段の下方において、回転体又は支持台によって支持されているため、昇降手段に伝達される荷重を効果的に回転体又は支持台に伝達することができる。これにより、土台フレームの強度を小さく設定することができ、部材の薄肉化、軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る裏当装置及び片面溶接装置によれば、開先線が長い場合であっても裏当部の中央部分の撓みを抑制し、裏当部を好適な位置に配置することができるため、溶接精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第一実施形態]
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、第一実施形態に係る裏当装置を備えた片面溶接装置を示した全体斜視図である。図2は、第一実施形態に係る裏当装置を示した拡大斜視図である。図3は、第一実施形態に係る裏当装置を示した図であって(a)は、平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図ある。図4は、第一実施形態に係る裏当装置を示した図であって、図3の(a)のB−B線断面図である。なお、実施の形態の説明において、長手方向及び幅方向は図1に示す矢印の方向に従う。
【0019】
第一実施形態に係る裏当装置1は、図1に示すように、例えば、一辺が20m〜30mの長さからなる被溶接部材の端部同士を突き合わせて、片面サブマージアーク溶接を行う片面溶接装置Fに設置される。
片面溶接装置Fは、片面溶接装置Fの長手方向に所定の間隔をあけて並設された複数のレールGと、レールGの上方に配置された土台フレームHと、レールGと土台フレームHの間に介設され、レールG上を幅方向に移動可能に形成された回転台車部Iと、土台フレームHの内部に設置された裏当装置1とを有する。また、片面溶接装置Fは、裏当装置1の長手方向に走行可能に形成された裏当フラックスホッパF1を有する。さらに、片面溶接装置Fは、裏当装置1の上方において、裏当装置1の長手方向に沿って移動可能な溶接機Jを有する。溶接機Jは、裏当装置1の長手方向に沿って延設されたガイドに移動可能に形成されており、溶接ワイヤ、表フラックスホッパ、ワイヤ送給機、電流・電圧・速度制御装置などが備えられている。
【0020】
片面溶接装置Fは、図1及び図4に示すように、例えば、片面溶接装置Fの幅方向に沿ってパネル移動ローラK及び補助ローラL等によって誘導された被溶接部材Eを裏当装置1の上方に移動した後、裏当装置1によって被溶接部材Eの開先線Mの裏側に裏当フラックスWを押し当て、被溶接部材Eの表側から溶接機Jによって片面サブマージアーク溶接を行うものである。
【0021】
回転台車部Iは、図1及び図4に示すように、所定の間隔をあけて配置された2個の回転体iと、長手方向に離間して配置された2枚の板材とを有する。回転体iは、板材に軸支されており、型鋼からなるレールG上を転動して幅方向に移動可能に形成されている。回転台車部Iの上部には、土台フレームHが当接支持されている。
【0022】
土台フレームHは、図1及び図4に示すように、鋼製の角材を枠組みして断面視凹状を呈するように形成されており、上方が開放されている。土台フレームHは、長手方向に沿って並設された二本の主梁Hと、主梁H,Hの間に直角に連結された連結梁Hと、連結梁Hに垂直に立設されたHと、主梁H,Hの上方において、それぞれ平行に設置された補助梁H,Hと、補助梁H,Hから裏当装置1の反対側に向かって張出した片持梁Hとを有する。補助梁Hには、パネル移動ローラK及びマグネット装置N、片持梁Hには、補助ローラLが設置されている。
土台フレームHの内部には、以下に詳述する裏当装置1が配置されている。
【0023】
裏当装置1は、図1及び図2に示すように、被溶接部材E,Eが突き合わされて形成された開先線Mの裏側に裏当フラックスを精度よく押し当てる装置である。裏当装置1は、連結梁Hの上部に所定の間隔をあけて並設された複数の昇降手段2と、片面溶接装置Fの長手方向に亘って延設されており、土台フレームHに対して相対的に昇降する架台フレーム3と、架台フレーム3の上部に所定の間隔をあけて並設された裏当ローラ部4と、裏当ローラ部4の上方で支持される底板11を備えた裏当部10と、裏当部10を幅方向に微調整移動させる駆動機構20とを有する。
【0024】
昇降手段2は、図2及び図3(b)に示すように、土台フレームHに対して架台フレーム3を相対的に昇降させる手段である。昇降手段2は、第一実施形態においては、例えば公知のシリンダーを用いている。昇降手段2は、図3(b)に示すように、2つを一組として裏当装置1の長手方向に所定の間隔をあけて配置されている。昇降手段2は、下端を連結梁Hに、上端を挟持板3c,3cに当接されている。
【0025】
架台フレーム3は、図2及び図4に示すように、鉛直方向に昇降するフレームであって、昇降手段2に支持されるとともに、上部に裏当ローラ部4が設置されている。架台フレーム3は、角材及び板材を接合して略箱状に枠組みされており、幅方向に延設された下辺フレーム3aと、下辺フレーム3aの両端に梯子状に形成された側部フレーム3b,3bと、側部フレーム3b,3bの間に、介設された一対の挟持板3c,3cとを有する。一対の挟持板3c,3cは、長手方向に所定の間隔で離間しており、下端には昇降手段2の上端が当接支持されている。また、一対の挟持板3c,3cは、裏当装置1の長手方向に亘って、所定の間隔をあけて複数個並設されている。
【0026】
下辺フレーム3aには、貫通孔Q,Qが形成されており、昇降手段2が挿通されている。挟持板3c,3cは、所定の間隔をあけて並設されており、両端が側部フレーム3b,3bに当接されている。
【0027】
裏当ローラ部4は、図2及び図4に示すように、底板11を備えた裏当部10を幅方向に移動可能に支持する部材である。裏当ローラ部4は、複数の裏当ローラ5,5・・・と、裏当ローラ5の中心を軸支する回転軸6,6・・・とで形成されている。裏当ローラ5は、同一形状からなる円柱体であって、円心に貫通された回転軸6を軸として回転可能に形成されている。裏当ローラ5は、挟持板3cの上端から裏当ローラ5の一部が突出するように挟持板3cに軸支されている。また、裏当ローラ5は、所定の間隔をあけて幅方向に亘って直線状に列設されており、裏当ローラ5に係るそれぞれの円筒面の上面は面一に形成されている。また、裏当ローラ5の幅(円柱の母線の長さ)は、挟持板3c,3c間の幅よりも小さく形成されている。即ち、裏当ローラ5は、裏当ローラ5と挟持板3cの間に隙間をあけて軸支されている。
【0028】
また、裏当ローラ部4は、図3の(b)に示すように、裏当装置1の長手方向に亘って所定の間隔をあけて複数群形成されている。また、第一実施形態においては、各裏当ローラ部4の直下に昇降手段2が配設されている。
なお、裏当ローラ5の形状は、円柱体に限定されるものではなく、例えば、球体でもいい。また、裏当ローラ5の数、大きさ、隣り合う裏当ローラ5同士の間隔等は、裏当装置1の大きさ等にしたがって適宜設定すればよい。
【0029】
裏当部10は、図2及び図4に示すように、裏当ローラ部4に支持されるとともに、裏当フラックスWを開先線Mの裏側に押し当てる部分である。裏当部10は、裏当ローラ部4に当接支持される底板11と、底板11の上部に形成された基礎フレーム12と、基礎フレーム12に内設されたエアホース13と、エアホース13の上部に形成された銅板14と、を主に有する。
【0030】
底板11は、板状長尺の部材であって、片面溶接装置Fの長手方向に亘って延設されており、下面が裏当ローラ部4に当接されている。底板11の幅は、裏当ローラ部4の幅よりも小さく形成されている。基礎フレーム12は、底板11の上部に形成され底板11の長手方向に亘って形成されており、長手方向に亘ってエアホース13が内設されている。銅板14は、裏当部10の上部において長手方向に亘って形成された板状部材であって、上面に裏当フラックスWが供給される。
【0031】
駆動機構20は、図3に示すように、裏当部10を幅方向に移動させる機構である。駆動機構20は、側部フレーム3bに取り付けられ、図示しないモータを備えた駆動部20aと、駆動部20aに直結されたネジ軸20bと、ネジ軸20bに係合されるとともに裏当部10の底板11に接合される係合部20cとを有する。これにより、モータを駆動させることで、裏当部10が裏当ローラ部4上を幅方向に移動する。駆動機構20は、図3の(a)に示すように、第一実施形態においては、裏当装置1の両端に一箇所ずつ設置されている。
【0032】
また、裏当装置1には、図4に示すように、フラックス回収部Pが形成されている。フラックス回収部Pは、架台フレーム3の内部に上方が拡開したテーパー状に形成されており、落下した裏当フラックスWを外部へ排出するコンベア部Paと、コンベア部Paを
駆動させる駆動源Pbとからなる。このように、フラックス回収部Pが形成されているため、裏当フラックスWを銅板14に供給する際や、銅板14から裏当フラックスWを掻き落とす際に落下した裏当フラックスWを回収することができる。
【0033】
次に、第一実施形態に係る裏当装置1の動作について説明する。
まず、裏当フラックスホッパF1(図1参照)を銅板14に沿って移動させて裏当フラックスWを供給する。そして、パネル移動ローラK及び補助ローラLにより、仮止めされた被溶接部材E,Eを移動させ、裏当装置1の上方に被溶接部材E,Eによって形成された開先線Mを配置させる。そして、駆動機構20を作動させて開先線Mの直下に銅板14が位置するように裏当部10の幅方向の微調整を行う。
【0034】
即ち、裏当部10は、駆動機構20の駆動部20aを作動させると、裏当ローラ部4上で幅方向に移動する。つまり、裏当ローラ5が回転軸6を軸として幅方向に回転可能に形成されるとともに、裏当部10の底板11の下面は、裏当ローラ5の上端に接触されているため、裏当部10が幅方向に移動する。
この際、裏当装置1によれば、裏当部10の底板11の下面側から裏当ローラ部4が当接しているため、底板11の下面と裏当ローラ5との接触面に裏当フラックスWが堆積することがない。即ち、裏当部10の幅方向への移動の際に、裏当フラックスWの付着によって裏当ローラ5が摩擦抵抗を受けないため、裏当部10の位置合わせを好適に、かつ、精度よく行うことができる。
【0035】
微調整が終了したら、エアホース13に空気を導入して銅板14に供給された裏当フラックスWを開先線Mの裏側に押し当てる。この際、マグネット装置Nを起動させて、上方に押し上げられるように付勢された被溶接部材Eを磁気によって下方に引き付けて固定する。そして、開先線Mの表側から溶接機Jによって片面サブマージアーク溶接を施して、被溶接部材Eを溶接する。
【0036】
裏当部10は、幅方向の長さ(第一実施形態においては約40cm程度)に比べると長手方向の長さ(第一実施形態においては約30m)がかなり長尺になるため、裏当部10の断面二次モーメントを大きくするには限界があり、裏当部10自体の強度を高めることは困難となり、裏当部10の長さが長くなるほど中央付近で弓なりに撓んでしまうという長尺な溶接装置における特有の問題があった。
しかし、第一実施形態による裏当装置1によれば、溶接長(裏当部10)が長い場合であっても、裏当ローラ5に作用する摩擦抵抗を最小限にすることができるため、裏当部10の中央部分に発生する弓なり状の撓みを小さくすることができる。
【0037】
またここで、裏当部10を被溶接部材Eに押し当てる際に、架台フレーム3には、約9.8KN/mの力が作用する。したがって、昇降部材2の配設位置によっては、架台フレーム3に大きな曲げ応力が作用するため、架台フレーム3自体の強度を高める必要がある。
この点、第一実施形態による裏当装置1によれば、図3の(b)に示すように、昇降手段2がそれぞれの裏当ローラ部4,4・・・の直下に設置されているため、裏当部10を押し上げることによって作用する裏当ローラ5への荷重が昇降手段2に直接伝達される。これにより、架台フレーム3に作用する荷重を効果的に昇降手段2に伝達することができるため、架台フレーム3の強度を小さく設定することができ、架台フレーム3の薄肉化、軽量化を図ることができる。
【0038】
また、図2及び図3(b)に示すように、昇降手段2は、架台フレーム3を支持し、連結梁H上に設置されているが、裏当装置1の重量を支持するだけでなく、裏当部10による被溶接部材Eへの押し当ての際に作用する負荷に耐える必要がある。したがって、昇降手段2の配設位置によっては、土台フレームHに大きな曲げ応力が作用するため、土台フレームH自体の強度を高める必要がある。
この点、片面溶接装置Fによれば、昇降手段2の直下に回転台車部Iが配設されているため、荷重が直接回転台車部Iに伝達される。これにより、昇降手段2に伝達される荷重を効果的に回転台車部Iに伝達することができるため、土台フレームHの強度を小さく設定することができ、土台フレームHの薄肉化、軽量化を図ることができる。
【0039】
また、底板11の幅は、裏当ローラ部4の幅よりも小さく形成されているとともに、裏当ローラ5は、一対の挟持板3cで軸支され、幅方向で隣り合う裏当ローラ5同士が所定の間隔をあけて配設されている。これにより、上方から落下してくる裏当フラックスWは、裏当ローラ5,5の間や、長手方向に離間した一対の挟持板3c,3c間を通り抜けて落下する。そのため、裏当フラックスWが裏当ローラ部4に堆積したり、裏当ローラ5の回転を妨げたりすることがないため、裏当ローラ5を好適に回転させて位置合わせを行うことができる。また、落下した裏当フラックスWは、フラックス回収部P(図4参照)で効率よく回収することができる。
【0040】
[第二実施形態]
次に、本発明に係る第二実施形態について説明する。図5は、第二実施形態に係る裏当装置を示した正面図である。第二実施形態に係る裏当装置1’は、裏当部50が桶状の裏当治具を備える点について第一実施形態と相違する。
即ち、第二実施形態に係る裏当部50は、底板11と、底板11の上部に形成された基礎フレーム12と、基礎フレーム12の上部に形成された桶状の裏当治具51と、裏当治具51の内部に設置されたフラックス容器52及びエアホース13とを有する。このように、裏当装置1’において、銅板10に換えて裏当治具51を備えた裏当部50を採用してもよい。この構成によれば、被溶接部材Eが比較的薄く、目違いがある場合においても好適に溶接を施すことができる。
【0041】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、前記した形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。
【0042】
第一実施形態においては、土台フレームHの下に、レールG上を転動する回転体iを備えた回転台車部Iを設置したが、回転体iを必ずしも設けなくてもよい。回転台車部Iに換えて、例えば、角材又は型鋼などからなる支持台(図示省略)を用いてもよい。即ち、支持台は、昇降手段2の下方に所定の間隔をあけて複数個配設されることで、土台フレームHを支持することができる。
【0043】
また、図2に示すように、第一実施形態においては、昇降手段2の上端は、挟持板3cの下部に当接支持させたが、これに限定されるものではなく、例えば、裏当ローラ部4の下方に係る架台フレーム3の下辺フレーム3aに当接支持させてもよい。また、昇降手段2の下端は、第一実施形態においては、連結梁Hに支持されているが、回転台車部Iに支持されてもよい。また、昇降手段2は、必ずしも裏当ローラ4の直下に設けるものではなくて、ブラケット等を介して裏当ローラ4の近傍に設けてもよい。その際、昇降手段2の下端は、連結梁Hの側面に公知の取り付け具を介して固定してもよい。
【0044】
また、図示はしないが、底板の下面において、長手方向に沿って補強部材を設けてもよい。即ち、底板の下面に長手方向に沿って例えば型鋼や鋼管などを取り付けて、裏当部の断面二次モーメントを大きくすることができる。これにより、エアホースで裏当フラックスを押し上げた時に、裏当部が下方に向かって撓むのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第一実施形態に係る裏当装置を備えた片面溶接装置を示した全体斜視図である。
【図2】第一実施形態に係る裏当装置を示した拡大斜視図である。
【図3】第一実施形態に係る裏当装置を示した図であって(a)は、平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図ある。
【図4】第一実施形態に係る裏当装置を示した図であって、図3の(a)のB−B線断面図である。
【図5】第二実施形態に係る裏当装置を示した正面図である。
【図6】特許文献1に係る裏当装置を示した図であって、(a)は、模式平面図、(b)は、(a)のX−X矢視断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 裏当装置
2 昇降手段
3 架台フレーム
3c 挟持板
4 裏当ローラ部
5 裏当ローラ
10 裏当部
11 底板
20 駆動機構
E 被溶接部材
F 片面溶接装置
M 開先線
W 裏当フラックス(フラックス)
H 土台フレーム
I 回転台車部
i 回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の被溶接部材を突き合わせた開先線の裏側に配置される裏当装置であって、
架台フレームの上面に軸支された一群の裏当ローラを有する裏当ローラ部と、
前記裏当ローラに支持される底板を有する裏当部と、
前記裏当ローラ上で支持される前記裏当部を幅方向に微調整移動させる駆動機構と、を有することを特徴とする裏当装置。
【請求項2】
前記裏当ローラ部は、
前記幅方向に亘って前記裏当ローラを直線状に配置した一群からなり、前記架台フレームの長手方向に所定の間隔をあけて複数群に設置されるとともに、
前記裏当ローラ部の下方に、鉛直方向に昇降可能な昇降手段が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の裏当装置。
【請求項3】
前記底板の幅は、前記裏当ローラ部の幅よりも小さく形成されており、
前記架台フレームは、前記裏当ローラを軸支する一対の挟持板を有し、
前記幅方向に隣り合う前記裏当ローラ同士は互いに離間して設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の裏当装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の裏当装置を備え、
前記昇降手段を支持し、長手方向に延設された土台フレームと、
この土台フレームを支持し、長手方向に所定の間隔をあけて配設された複数の回転体又は支持台と、を有し、
前記回転体又は前記支持台は、前記昇降手段の下方に配設されていることを特徴とする片面溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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