説明

補修工法適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法、及び、補修工法簡易適性判定方法

【課題】 適切な補修効果を確保でき、かつ、施工コストや維持管理コストの低減が図られる補修工法を選定するのに適した、補修工法適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法および補修工法簡易適性判定方法を提供すること。
【解決手段】 第1防錆雰囲気判断工程によって、判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以上となる場合(S14:R(xF,tH)≧R0)は、修復部基本設定工程及び修復部詳細設定工程による設定内容に適合した防錆断面修復工法が、損傷発生コンクリート構造物に対する補修工法として採用される。また、第2防錆雰囲気判断工程によって、判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以上となる場合(S17:R(xF,tK)≧R0)は、修復部基本設定工程、修復部詳細設定工程及び犠牲陽極有効時間設定工程による設定内容に適合した複合防錆断面修復工法が、損傷発生コンクリート構造物に対する補修工法として採用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷発生コンクリート構造物に対して適切な補修効果を確保できて、なおかつ、施工コストや維持管理コストの低減も図ることができる補修工法を選定するにあたって用いられる、補修工法適性判定方法と、補修工法判定チャート作成方法と、補修工法簡易適性判定方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設の鉄筋コンクリート製の構造物(以下「コンクリート構造物」という。)は、その建設環境に応じて海水や、大気や、凍結防止剤などの様々な塩分を含む媒質に曝されている。このような塩分がコンクリート表面から深部(内部)へ浸透すると、コンクリート構造物の鉄筋を腐食させてしまい、表層部分にあるコンクリート(かぶりコンクリート)の浮きや剥離などの損傷がコンクリート構造物に発生してしまう。
【0003】
このような浮き又は剥離等の損傷が発生したコンクリート構造物(以下「損傷発生コンクリート構造物」という。)に対しては、かかる損傷部分を含めた欠陥部を修復するための補修工法が必要となる。ここで、「コンクリート標準示方書(維持管理編)」(土木学会編・社団法人土木学会発行)によれば、損傷発生コンクリート構造物は塩害による劣化進行過程が加速期・劣化期に区分され、かかる区分に属する場合における従来の補修工法としては、断面修復工法、又は、かかる断面修復工法と電気化学的脱塩工法若しくは電気防食工法とを併用した工法、が標準的なものとされている。
【特許文献1】特開2002−21338公報
【特許文献2】特開2002−340782公報
【特許文献3】特開2003−222622公報
【特許文献4】特開2004−52413公報
【特許文献5】特開2004−233243公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した標準的な補修工法(以下「従来工法」ともいう。)では、損傷発生コンクリート構造物に対して施工する場合に、次のような各種の問題点がある。
【0005】
まず、損傷発生コンクリート構造物においては、従来型の断面修復工法を施工する場合に、その腐食が進行して損傷発生源となった鉄筋(損傷部鉄筋)位置よりも以深に埋設される鉄筋(深部鉄筋)の背面位置まであるコンクリートをはつり取って除去することが一般的である。このため、従来型の断面修復工法による補修後に、深部鉄筋の腐食が進行して深部鉄筋位置で再損傷が発生する恐れがあるという問題点があった。
【0006】
また、深部鉄筋位置までコンクリートが除去されるてしまうと、その分、コンクリート構造物の強度低下を招いてしまい、断面修復工法の施工途中におけるコンクリート構造物の安全性に悪影響を及ぼすこともあるという問題点があった。しかも、深部鉄筋位置までコンクリートをはつり取って除去すれば、その分、施工コストも高くなるという問題点もあった。
【0007】
また、従来型の断面修復工法および電気化学的脱塩工法の併用工法については、コンクリート構造物の深部鉄筋位置以深に塩分が浸透しているときには脱塩効果が低下する恐れがあるとともに、防食効果を発揮するために電気設備が必要となるため施工コストが高くなるという問題点があった。さらに、従来型の断面修復工法および電気防食工法の併用工法については、経時的に防食効果が低下するため、定期的な防食設備の交換が必要であり、特に、維持管理コストが高くなるという問題点があった。
【0008】
当然のことながら、損傷発生コンクリート構造物からコンクリートをはつり取る厚さ(以下「はつり厚さ」ともいう。)が小さければ、その分、施工コストを一層削除でき、工期短縮もでき、その他の建設副産物の低減も図ることができるため、施工者としては極力はつり厚さを小さく抑えた断面修復工法を希求するところである。また、長期的にみて補修効果の維持に必要な材料や設備に対する各種コストを低減して、コンクリート構造物の使用期間に要する総費用を削減することを希求するものである。
【0009】
そこで、本願出願人は、特に、上記した3種類の従来工法に比べて、はつり厚さを小さくでき、なおかつ、損傷発生コンクリート構造物10の小規模面積範囲に対して補修を行う場合に施工コストが低廉化でき、補修効果の維持コストについても低減を図ることができる補修工法として、上記した従来工法のように深部鉄筋位置までのコンクリート除去を必須とするのではなく、コンクリート構造物の損傷状況によっては損傷部鉄筋位置までのコンクリート除去までも視野に入れた上で行われる断面修復工法を提案した。
【0010】
ここに、本願出願人が提案する断面修復工法は、損傷発生コンクリート構造物内に浸透拡散している塩化物イオン量(塩分量)に大小に応じて使い分けられる3種類のバリエーションがあり、塩化物イオン量が少ない場合から順に、防錆成分が未混合の補修材(以下「非防錆補修材」ともいう。)を用いて断面修復を行う非防錆断面修復工法と、防錆成分が混合されている補修材(以下「防錆補修材」ともいう。)を用いて断面修復を行う防錆断面修復工法と、かかる防錆断面修復工法に犠牲陽極部材を併用した鉄筋の腐食進行を抑制する複合防錆断面修復工法とに区分されている。
【0011】
ところが、これらの本願出願人が提案する非防錆断面修復工法、防錆断面修復工法および複合防錆断面修復工法については、損傷発生コンクリート構造物に対する適切な補修効果を発揮でき、かつ、経済的にも適切な基準条件を選定する手法が未だ存在しないという問題点があった。
【0012】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、損傷発生コンクリート構造物に対する適切な補修効果を確保でき、かつ、施工コストや維持管理コストの低減も図ることができる補修工法を選定するに際して用いられる、補修工法適性判定方法、補修工法判定チャート作成方法および補修工法簡易適性判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、請求項1の補修工法適性判定方法は、損傷発生コンクリート構造物の既設表面からコンクリートを所定のはつり厚さだけ除去して凹陥部を形成し、そのとき当該凹陥部の底面位置を少なくとも損傷部鉄筋位置と略等しい深さ位置又はそれより深い位置に形成し、その凹陥部に補修材を充填して硬化させて所定厚さの断面修復部を形成し、その断面修復部における表面から凹陥部の底面までの深さ範囲のうち少なくとも一部範囲について所定の初期混合量で防錆成分を補修材に混合した防錆成分混合部を設けることで、損傷発生コンクリート構造物の欠陥部を修復する防錆断面修復工法に関し、その適性を、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件下において判定するための方法であって、損傷発生コンクリート構造物に凹陥部を形成するために除去されるコンクリートのはつり厚さを設定するはつり条件設定工程と、そのはつり条件設定工程による設定条件に基づく凹陥部が形成される場合に、その凹陥部に形成される断面修復部の表面から凹陥部の底面までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量として補修材に予め含まれている塩化物イオン量を設定し、凹陥部の底面位置から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xD]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、上記式(1)において、F:塩化物イオン量、i:深さ位置の番号(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)、xi:i番目の深さ位置、t:0番目の時点での時間(初期時間)、F0:損傷発生コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、erf:誤差関数、xD:凹陥部の底面の深さ位置(但し、xD≧xとする)、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)によって計算する塩化物イオン量現状推定工程と、その塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における凹陥部の底面位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かを判断する発錆雰囲気判断工程とを備えており、その発錆雰囲気判断工程によって、初期時間における凹陥部の底面位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えると判断される場合において、前記塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における塩化物イオン量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての塩化物イオン量の変化を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、上記式(2)及び(3)において、F:塩化物イオン量、j:時点の番号(0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1)、xi+1:i+1番目の深さ位置、xi−1:i−1番目の深さ位置、tj:j番目の時点での時間、tj+1:j+1番目の時点での時間、Δx:各深さ位置の間隔(深さ間隔)、Δt:各時点の間隔(時間間隔)を示す)によって計算する塩化物イオン量将来予測工程と、断面修復部の厚さ、凹陥部の底面位置から防錆成分混合部までの距離、及び、その防錆成分混合部の厚さを所定値に設定し、その防錆成分混合部の初期時間における防錆成分量の値を防錆成分の初期混合量に設定し、その防錆成分混合部を除く部分についての初期時間における防錆成分量の値を補修材に既存する防錆成分量に設定し、凹陥部の底面から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量を損傷発生コンクリート構造物に既存する防錆成分量に設定する断面修復条件設定工程と、その断面修復条件設定工程により設定される初期時間における防錆成分量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての防錆成分量の変化を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、上記式(4)及び(5)において、G:防錆成分量、DG:防錆成分の見掛け拡散係数を示す)によって計算する防錆成分量将来予測工程と、防錆成分による防錆効果を無視した場合に損傷発生コンクリート構造物の深部埋設鉄筋位置で再損傷が発生するまでに要するであろう時間を推測し、その推測時間に基づいて再損傷発生時間を設定する再損傷発生時間設定工程と、その再損傷発生時間設定工程によって設定された再損傷発生時間における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程の結果から求めて、その防錆成分量をその塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断する防錆雰囲気判断工程とを備えている。
【0014】
なお、上記式(1)から(5)で用いた「・」は乗算演算子を、「/」は除算演算子を、上記式(1)で用いた「√()」は括弧内の値の平方根を、それぞれ示している(以下、他の数式ついても同様とする。)。
【0015】
この請求項1の補修工法適性判定方法によれば、損傷発生コンクリート構造物に対して、補修工法の一種である防錆断面修復工法を施工する場合に、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件下において、その防錆断面修復工法が補修工法として適しているか否かの判定が行われる。具体的には、まず、はつり条件設定工程によって、損傷発生コンクリート構造物に凹陥部を形成するために除去されるコンクリートのはつり厚さが設定される。
【0016】
そして、かかる設定されたはつり厚さの凹陥部内に断面修復部が形成されるときの損傷発生コンクリート構造物の内部に関し、式(1)を用いることで、塩化物イオン量現状推定工程によって、初期時間における塩化物イオン量の分布状況、つまり、現状における塩化物イオン量の分布状況が推定される。そして、この現状における塩化物イオン量の推定結果に基づき、発錆雰囲気判断工程によって、現状の損傷発生コンクリート構造物について、その凹陥部の底面位置における塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えているか否かが判断される。
【0017】
この発錆雰囲気判断工程の結果、凹陥部の底面位置における現状の塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えなければ、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件下で、将来的にみて深部埋設鉄筋位置(深部埋設鉄筋が埋設されている位置)が発錆雰囲気に変化しないこと、つまり、深部埋設鉄筋が将来的に発錆しないことを意味する。そこで、かかる場合は、防錆成分を混合した補修材を使用して防錆断面修復工法を敢えて施工せずとも、例えば、防錆成分未混合の補修材を使用した非防錆断面修復工法を施工するだけでも、損傷発生コンクリート構造物に対する補修効果が発揮されるものとの判定できる。
【0018】
これに対し、発錆雰囲気判断工程の結果、凹陥部の底面位置における現状の塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えれば、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件下で、将来的にみて深部埋設鉄筋位置が発錆雰囲気に変化すること、つまり、深部埋設鉄筋で将来的に腐食が進行することを意味する。そこで、かかる場合は、防錆成分を混合した補修材を使用した防錆断面修復工法を損傷発生コンクリート構造物に対して施工したときの、防錆成分による深部埋設鉄筋に対する防錆効果を確認するため、以下の工程を行う。
【0019】
具体的には、まず、塩化物イオン量現状推定工程によって計算された現状における塩化物イオン量の分布状況と式(2)及び式(3)とを用いることで、塩化物イオン量将来予測工程によって、防錆断面修復工法が施工されたときの損傷発生コンクリート構造物に関する、塩化物イオン量の分布状況の今後の長期的な変化、例えば、このさき数十年間の期間にわたる変化が予測される。
【0020】
さらに、断面修復条件設定工程によって、防錆断面修復工法が施工されたときの損傷発生コンクリート構造物について、少なくとも断面修復部の表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲に関する防錆成分量の初期分布状況が設定される。そして、この断面修復条件設定工程による初期設定と式(4)及び式(5)とを用いることで、防錆成分量将来予測工程によって、防錆断面修復工法が施されたときの損傷発生コンクリート構造物に関する、防錆成分量の分布状況の今後の長期的な変化、例えば、このさき数十年間の期間にわたる変化が予測される。
【0021】
ここで、断面修復部から防錆成分が浸透拡散して深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成されれさえすれば、深部埋設鉄筋の発錆が抑制されるようにも思われるが、実際には、深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成される前に、深部埋設鉄筋位置における塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えてしまうと、深部埋設鉄筋の腐食が進行して深部埋設鉄筋位置で再損傷が発生してしまう恐れがある。
【0022】
したがって、真の意味で、深部埋設鉄筋位置での防錆効果(補修効果)を判定するためには、再損傷発生時間設定工程によって、防錆成分による防錆効果を無視した場合に損傷発生コンクリート構造物の深部埋設鉄筋位置で再損傷が発生するまでに要する時間を推測し、その推測時間に基づいて再損傷発生時間を設定して、その再損傷発生時間の到来時点までに、深部埋設鉄筋位置が防錆雰囲気となっているか否かを防錆雰囲気判断工程によって判断する必要がある。
【0023】
そこで、まず、再損傷発生時間設定工程によって、深部埋設鉄筋位置に関する再損傷発生時間が適正な値に設定される。そして、防錆雰囲気判断工程において、再損傷発生時間における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量及び塩化物イオン量が、上記した防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果からそれぞれ求められる。
【0024】
それから、防錆雰囲気判断工程において、さらに、再損傷発生時間における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量を、再損傷発生時間における深部埋設鉄筋位置での塩化物イオン量で割った比率が求められ、その比率がモル換算されることで判定モル比が求められて、かかる判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かが判断される。
【0025】
そして、防錆雰囲気判断工程による判断の結果、再損傷発生時間における深部埋設鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を越えるならば、再損傷発生時間の到来時点までに深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成されることを意味する。このことは、即ち、再損傷発生時間が到来しても防錆成分によって深部埋設鉄筋の腐食進行が抑制されるため、深部埋設鉄筋位置に再損傷が発生しないことを意味しており、故に、断面修復条件設定工程による設定条件に従った防錆断面修復工法が、損傷発生コンクリート構造物に対する補修工法として有効であることを意味している。
【0026】
したがって、かかる場合は、断面修復条件設定工程による設定条件に従った防錆断面修復工法を損傷発生コンクリート構造物に施工することで、かかるコンクリート構造物の深部埋設鉄筋位置で将来的に再損傷が発生することを予防できるものと判定できる。
【0027】
一方、防錆雰囲気判断工程による判断の結果、再損傷発生時間における深部埋設鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えなければ、再損傷発生時間の到来時点までに深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成されていないことを意味する。このことは即ち、再損傷発生時間までに深部埋設鉄筋の腐食が進行して深部埋設鉄筋位置に再損傷が発生してしまうため、断面修復条件設定工程で設定した条件に基づいた防錆断面修復工法が、損傷発生コンクリート構造物に対する補修工法として有効ではないことを意味している。
【0028】
したがって、かかる場合は、例えば、断面修復条件設定工程による設定条件を変更して、再度、防錆成分量将来予測工程及び防錆雰囲気判断工程を行って、新たな設定条件に基づく防錆断面修復工法の適性についての判定が行われる。また、例えば、損傷発生コンクリート構造物の断面修復時の強度低下に支障がなければ、はつり条件設定工程によるはつり厚さの設定値を変更して、再度、この補修工法適性判定方法を行って、新たなはつり厚さに基づく防錆断面修復工法の適性について判定を行うこともできる。
【0029】
なお、断面修復条件設定工程の設定条件を変更しても適切な防錆断面修復工法が求められない場合は、請求項2の断面修復工法適性判定方法によって、損傷発生コンクリート構造物に対する複合断面修復工法の適性について判定を行うこともできる。
【0030】
請求項2の補修工法適性判定方法は、請求項1記載の補修工法適性判定方法において、凹陥部に表れる鉄筋に導通可能な状態で犠牲陽極部材を接続する工程が前記防錆断面修復工法に対して付加されている複合防錆断面修復工法に関し、その適性を、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件下において判定するための方法であって、前記再損傷発生時間設定工程に代えて、損傷発生コンクリート構造物に対して犠牲陽極部材が防食機能を発揮する有効期間を求めて、その有効期間に基づいて犠牲陽極有効時間を設定する犠牲陽極設定工程と、前記防錆雰囲気判断工程に代えて、その犠牲陽極設定工程によって設定された犠牲陽極有効時間の経過時点における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程の結果から求めて、その防錆成分量をその塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断する防錆雰囲気判断工程とを備えている。
【0031】
この請求項2の補修工法適性判定方法によれば、損傷発生コンクリート構造物に対して、補修工法の一種である複合防錆断面修復工法を施工する場合に、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件の下で、その複合防錆断面修復工法が補修工法として適しているか否かの判定が行われる。
【0032】
具体的には、請求項1の補修工法適性判定方法の場合と同様に、はつり条件設定工程、塩化物イオン量現状推定工程、発錆雰囲気判断工程、塩化物イオン量将来予測工程、断面修復条件設定工程、及び、防錆成分量将来予測工程が行われる。ここで、断面修復部から防錆成分が浸透拡散して深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成されさえすれば、深部埋設鉄筋の発錆が抑制されるようにも思われるが、実際には、深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成される前に、深部埋設鉄筋位置における塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えてしまうと、深部埋設鉄筋の腐食が進行して深部埋設鉄筋位置で再損傷が発生してしまう恐れがある。
【0033】
かかる場合に、犠牲陽極部材を凹陥部に表れる鉄筋に導通状態で接続させる工程を追加した複合防錆断面修復工法を施工すれば、深部埋設鉄筋位置が防錆雰囲気となるまでの期間は、かかる犠牲陽極部材によって深部埋設鉄筋の腐食進行を抑制することができる。ただし、犠牲陽極部材は、防食電流の通電によって消費されることから防食機能を有効に発揮する有効期間が有限となってしまう。
【0034】
そこで、犠牲陽極部材を使用する場合には、犠牲陽極部材の有効期間に基づいて犠牲陽極有効時間を設定して、その犠牲陽極有効時間の経過時点までに深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成されるか否かを判断する必要がある。
【0035】
具体的には、まず、犠牲陽極設定工程によって、鉄筋に接続される犠牲陽極部材が防食機能を発揮できる有効期間を求めて、その有効期間に基づいて犠牲陽極有効時間が設定される。そして、防錆雰囲気判断工程において、この設定された犠牲陽極有効時間の経過時点における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量及び塩化物イオン量が、防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程による結果からそれぞれ求められる。
【0036】
それから、防錆雰囲気判断工程において、さらに、犠牲陽極有効時間の経過時点における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量を、犠牲陽極有効時間の経過時点における深部埋設鉄筋位置での塩化物イオン量で割った比率が求められ、その比率がモル換算されることで判定モル比が求められて、かかる判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かが判断される。
【0037】
そして、防錆雰囲気判断工程による判断の結果、犠牲陽極有効時間の経過時点における深部埋設鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を越えるならば、犠牲陽極有効時間の経過時点において深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成されることを意味する。このことは、即ち、犠牲陽極有効時間が到来するまでは犠牲陽極部材によって深部埋設鉄筋の腐食進行が抑制され、かつ、犠牲陽極有効時間の経過後は防錆成分によって深部埋設鉄筋の腐食進行が抑制されるため、深部埋設鉄筋位置に再損傷が発生しないことを意味しており、故に、断面修復条件設定工程及び犠牲陽極設定工程による設定条件に従った複合防錆断面修復工法が、損傷発生コンクリート構造物に対する補修工法として有効であることを意味している。
【0038】
したがって、かかる場合は、断面修復条件設定工程による設定条件を用いるとともに、犠牲陽極設定工程による設定条件に従った犠牲陽極部材を使用した複合防錆断面修復工法を損傷発生コンクリート構造物に施工することで、かかるコンクリート構造物の深部埋設鉄筋位置の将来的な再損傷が発生することを予防できるものと判定できる。
【0039】
一方、防錆雰囲気判断工程による判断の結果、犠牲陽極有効時間の経過時点における深部埋設鉄筋位置での判定モル比が防錆雰囲気モル比の値を超えなければ、犠牲陽極有効時間の経過時点までに深部埋設鉄筋位置に防錆雰囲気が形成されないことを意味する。このことは、即ち、犠牲陽極有効時間の経過時点までに深部埋設鉄筋の腐食が進行して深部埋設鉄筋位置に再損傷が発生してしまうため、断面修復条件設定工程及び犠牲陽極設定工程による設定条件に従った複合防錆断面修復工法が、損傷発生コンクリート構造物に対する補修工法として有効ではないことを意味するものである。
【0040】
したがって、かかる場合は、例えば、断面修復条件設定工程や犠牲陽極設定工程による設定条件を変更して、再度、防錆成分量将来予測工程及び防錆雰囲気判断工程を行って、新たな設定条件に基づく複合防錆断面修復工法の適性についての判定が行われる。また、例えば、損傷発生コンクリート構造物の断面修復時の強度低下に支障がなければ、はつり条件設定工程によるはつり厚さの設定値を変更して、再度、この補修工法適性判定方法を行って、新たなはつり厚さに基づく複合防錆断面修復工法の適性について判定を行うこともできる。
【0041】
なお、それでも、断面修復条件設定工程の設定条件を変更しても適切な防錆断面修復工法が求められない場合は、例えば、断面修復工法および電気防食工法による併用工法などの従来型の補修工法を損傷発生コンクリート構造物に対して施工することを検討することとなる。
【0042】
請求項3の補修工法適性判定方法は、請求項1又は2の補修工法適性判定方法において、建設時点から時間が経過している損傷発生コンクリート構造物について、その既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:損傷発生コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:損傷発生コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程とを備えており、この係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを用いて、前記塩化物イオン量現状推定工程と前記塩化物イオン量将来予測工程とを行うものである。
【0043】
この請求項3の補修工法適性判定方法によれば、請求項1又は2の補修工法適性判定方法と同様に作用する上、塩化物イオン量測定工程によって、実際の損傷発生コンクリート構造物に関する複数の測定点について塩化物イオン量が実測され、この各測定点に関する塩化物イオン量の値と式(6)とを用いることで、係数推定工程の回帰分析によって、実際の損傷発生コンクリート構造物に関する、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とが推定される。そして、この係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを用いることで、上記した塩化物イオン量現状推定工程と塩化物イオン量将来予測工程とが実行される。
【0044】
よって、防錆断面修復工法又は複合防錆断面修復工法が実際に施工される損傷発生コンクリート構造物について塩化物イオン量を測定すれば、それを用いて実際の施工対象となる損傷発生コンクリート構造物に即した表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数を推定でき、その推定値を用いて塩化物イオン量現状推定工程と塩化物イオン量将来予測工程とを実行できるので、現状の損傷発生コンクリート構造物に即した、将来的な塩化物イオン量の分布状況の変化をより正確に予測できるのである。
【0045】
請求項4の補修工法判定チャート作成方法は、請求項1の補修工法適性判定方法を備えており、損傷発生コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、損傷発生コンクリート構造物の既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さを所定値に設定し、損傷発生コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項1の補修工法適性判定方法を繰り返し行って、その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記防錆雰囲気判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成するものである。
【0046】
この請求項4の補修工法判定チャート作成方法によれば、損傷発生コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さと、建設経過時間とを所定値に定めた上で、損傷発生コンクリート構造物の表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値を所定範囲で変化させながら、請求項1の補修工法適性判定方法を繰り返し実行することで、補修工法判定チャートが作成される。
【0047】
このようにして作成された補修工法判定チャートは、損傷発生コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さと、建設経過時間とを固定パラメータとした上で、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、補修有効領域と補修無効領域とを区画して形成したものである。
【0048】
この補修工法判定チャートによれば、例えば、この補修工法判定チャートの固定パラメータと値が一致する発錆限界塩化物イオン量と、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さと、建設経過時間とを有する損傷発生コンクリート構造物について、表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値が既知ならば、その表面塩化物イオン量の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数の値とが示す座標位置を、補修工法判定チャートの上に定める。
【0049】
そして、このとき、その座標位置が補修有効領域内にあれば、この補修工法判定チャートの作成時に適用した断面修復条件設定工程による設定条件に基づいて施工される防錆断面修復工法が、当該損傷発生コンクリート構造物に対して適切な補修工法であるものと判定することができる。一方、その座標位置が補修無効領域内にあれば、この補修工法判定チャートの作成時に適用した断面修復条件設定工程による設定条件に基づいて施工される防錆断面修復工法が、当該損傷発生コンクリート構造物に対して不適切な補修工法であるものと判定することができる。
【0050】
なお、補修工法判定チャートを作成する際して、請求項1の補修工法適性判定方法が実行されるが、このとき、再損傷発生時間設定工程によって設定される再損傷発生時間を一定値とし、かつ、断面修復条件設定工程によって設定される、断面修復部の厚さ、凹陥部の底面位置から防錆成分混合部までの距離、防錆成分混合部の厚さ、防錆成分混合部の初期時間における防錆成分量、防錆成分混合部を除く部分の初期時間における防錆成分量、及び、凹陥部の底面から深部埋設鉄筋位置までの部分の初期時間における防錆成分量を一定値とすることで、これらの再損傷発生時間設定工程による設定値、及び、断面修復条件設定工程による設定値についても、補修工法判定チャートの固定パラメータとすることができる。
【0051】
請求項5の補修工法判定チャート作成方法は、請求項4の補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法を前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合についてそれぞれ行って、それらの結果を用いて前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0052】
この請求項5の補修工法判定チャート作成方法によれば、断面修復条件設定工程による設定条件が異なる二種類以上の防錆断面修復工法について補修工法判定チャートが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、二種類以上の防錆断面修復工法についての適性を判定することができる。
【0053】
請求項6の補修工法判定チャート作成方法は、請求項4又は5の補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法を前記再損傷発生時間設定工程による再損傷発生時間の設定値が異なる場合についてそれぞれ行って、それらの結果を用いて前記再損傷発生時間設定工程による再損傷発生時間の設定値が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0054】
この請求項6の補修工法判定チャート作成方法によれば、再損傷発生時間設定工程による再損傷発生時間の設定値が異なる二種類以上の防錆断面修復工法について補修工法判定チャートが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、再損傷発生時間の設定値が異なる二種類以上の損傷発生コンクリート構造物に対する防錆断面修復工法の適性を判定することができる。
【0055】
請求項7の補修工法判定チャート作成方法は、請求項2の補修工法適性判定方法を備えており、損傷発生コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、損傷発生コンクリート構造物の既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さを所定値に設定し、損傷発生コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項2の補修工法適性判定方法を繰り返し行って、その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記防錆雰囲気判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成するものである。
【0056】
この請求項7の補修工法判定チャート作成方法によれば、損傷発生コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さと、建設経過時間とを所定値に定めた上で、損傷発生コンクリート構造物の表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値を所定範囲で変化させながら、請求項2の補修工法適性判定方法を繰り返し実行することで、補修工法判定チャートが作成される。
【0057】
このようにして作成された補修工法判定チャートは、損傷発生コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量と、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さと、建設経過時間とを固定パラメータとした上で、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、補修有効領域と補修無効領域とを区画して形成したものである。
【0058】
この補修工法判定チャートによれば、例えば、この補修工法判定チャートの固定パラメータと値が一致する発錆限界塩化物イオン量と、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さと、建設経過時間とを有する損傷発生コンクリート構造物について、表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値が既知ならば、その表面塩化物イオン量の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数の値とが示す座標位置を、補修工法判定チャート上に定める。
【0059】
そして、このとき、その座標位置が補修有効領域内にあれば、この補修工法判定チャートの作成時に適用した断面修復条件設定工程及び犠牲陽極設定工程による設定条件に基づいて施工される複合防錆断面修復工法が、当該損傷発生コンクリート構造物に対して適切な補修工法であるものと判定することができる。一方、その座標位置が補修無効領域内ならば、この補修工法判定チャートの作成時に適用した断面修復条件設定工程及び犠牲陽極設定工程による設定条件に基づいて施工される複合防錆断面修復工法が、当該損傷発生コンクリート構造物に対して不適切な補修工法であるものと判定することができる。
【0060】
なお、補修工法判定チャートを作成する際して、請求項2の補修工法適性判定方法が実行されるが、このとき、犠牲陽極設定工程によって設定される犠牲陽極有効時間を一定とし、かつ、断面修復条件設定工程によって設定される、断面修復部の厚さ、凹陥部の底面位置から防錆成分混合部までの距離、防錆成分混合部の厚さ、防錆成分混合部の初期時間における防錆成分量、防錆成分混合部を除く部分の初期時間における防錆成分量、及び、凹陥部の底面から深部埋設鉄筋位置までの部分の初期時間における防錆成分量を一定値とすることで、これらの犠牲陽極設定工程による設定値、及び、断面修復条件設定工程による設定値についても、補修工法判定チャートの固定パラメータとすることができる。
【0061】
請求項8の補修工法判定チャート作成方法は、請求項7の補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法を前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合についてそれぞれ行って、それらの結果を用いて前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0062】
この請求項8の補修工法判定チャート作成方法によれば、断面修復条件設定工程による設定条件が異なる二種類以上の複合防錆断面修復工法について補修工法判定チャートが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、二種類以上の複合防錆断面修復工法についての適性を判断することができる。
【0063】
請求項9の補修工法判定チャート作成方法は、請求項7又は8の補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法を前記犠牲陽極設定工程による犠牲陽極有効時間の設定値が異なる場合についてそれぞれ行って、それらの結果を用いて前記犠牲陽極設定工程による犠牲陽極有効時間の設定値が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0064】
この請求項9の補修工法判定チャート作成方法によれば、犠牲陽極設定工程による犠牲陽極有効時間の設定値が異なる二種類以上の複合防錆断面修復工法について補修工法判定チャートが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、犠牲陽極有効時間が異なる二種類以上の複合防錆断面修復工法についての適性を判定することができる。
【0065】
請求項10の補修工法判定チャート作成方法は、請求項4から6のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法と、請求項7から9のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法とを備えており、その請求項4から6のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートに対して、請求項7から9のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものである。
【0066】
この請求項10の補修工法判定チャート作成方法によれば、防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートと、複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートとが重畳されて、1つの補修工法判定チャートが作成されるので、かかる1つの補修工法判定チャートを用いるだけで、二種類以上の異なる断面修復工法についての適性を判断することができる。
【0067】
請求項11の補修工法簡易適性判定方法は、請求項4から10のいずれか1つの補修工法判定チャート作成方法を備えており、その補修工法判定チャート作成方法において所定値に設定した発錆限界塩化物イオン量、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ、及び、建設経過時間の値と比べて、発錆限界塩化物イオン量、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ、及び、建設経過時間の値が一致する損傷発生コンクリート構造物について、その損傷発生コンクリート構造物の既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:損傷発生コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:損傷発生コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程と、その係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とから決定される座標位置が、前記補修工法判定チャート作成方法により作成した補修工法判定チャートにおける補修有効領域又は補修無効領域のいずれに属するかを判断する補修効果判断工程とを備えている。
【0068】
この請求項11の補修工法簡易適性判定方法によれば、防錆断面修復工法又は複合防錆断面修復工法が実際に施工される損傷発生コンクリート構造物について塩化物イオン量を測定し、その測定値を用いて施工対象となる損傷発生コンクリート構造物に即した表面塩化物イオン量及び塩化物イオンの見掛け拡散係数を式(6)から推定でき、その推定値を用いて補修工法判定チャートを利用した断面修復工法の適性判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0069】
請求項1から11のいずれかの発明によれば、損傷発生コンクリート構造物に対する適切な補修効果を発揮することが可能な補修工法を、本願出願人が提案している非防錆断面修復工法、防錆断面修復工法、又は、複合防錆断面修復工法の中から選定することができ、なおかつ、経済的にも適切な補修工法を選定して施工コストの低減も図ることができるという効果がある。
【0070】
特に、請求項4から11のいずれかの発明によれば、損傷発生コンクリート構造物に関する発錆限界塩化物イオン量、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ、建設経過時間、表面塩化物イオン量、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数の値が分かっていれば、これらのデータのみから、補修工法判定チャートを用いて損傷発生コンクリート構造物に対して適切な補修効果を発揮する補修工法を、容易に判定することができるという効果がある。
【0071】
また、補修工法判定チャートを利用する場合は、その補修工法判定チャート上に表面塩化物イオン量の値及び塩化物イオンの見掛け拡散係数の値に基づく座標位置を指し示すだけで補修工法の適否を判定できるので、視覚的にも補修工法の適否の判断結果を明確に理解でき、補修工法の選定時の判断ミスを防止できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。本発明の一実施例である補修工法の適性判定方法(以下「補修工法適性判定方法」という。)は、塩害の環境下にある損傷発生コンクリート構造物に施される補修工法に関し、その補修工法により発揮される将来的な補修効果が、かかる損傷発生コンクリート構造物10の塩害劣化進行過程に適したものであるか否かを判定するための方法である。
【0073】
ここで、本実施例の補修工法適性判定方法によって判定される補修工法には、主として、損傷発生コンクリート構造物に対する補修工法として本願出願人が提案している、非防錆断面修復工法と、防錆断面修復工法と、複合防錆断面修復工法とがある。そこで、まずは、これらの3種類の補修工法について説明する。
【0074】
ただし、これらの各補修工法が施されるコンクリート構造物については、特に言及しない限り、その補修工法によって形成される修復部の表面から補修後のコンクリート構造物内へと浸透しようとする塩化物イオン(塩分)を遮断するための環境条件が整えられているものとする。
【0075】
なお、補修後のコンクリート構造物に対する塩化物イオンの浸入を遮断するための環境条件とは、例えば、海水や大気などを媒質とする塩害が問題視されるようなコンクリート構造物に関しては、各補修工法によって形成される修復部の表面に塗装等の表面処理が施工されている環境条件をいい、また、凍結防止剤を含んだ漏水に伴う塩害が問題視されるようなコンクリート構造物に関しては、凍結防止剤の漏水対策工が施されている環境条件をいう。
【0076】
図1は、防錆断面修復工法による補修が施されたコンクリート構造物10の断面図である。
【0077】
図1に示すように、防錆断面修復工法では、損傷発生コンクリート構造物10の既設表面10aから、はつり厚ΔWh(cm)分のコンクリート10bが除去されることで、凹陥部13が形成される。
【0078】
ここで、コンクリート構造物10の既設表面10aとは、補修工法が施される以前において、コンクリート構造物10に既存している外表面、又は、現時点では損傷によって剥離してしまっているが以前は存在していたコンクリート構造物10の外表面のことをいう。また、はつり厚ΔWhとは、損傷発生コンクリート構造物10の既設表面10aを基準位置とした場合に当該既設表面10aからはつり取られて除去されるコンクリート10bの厚さをいい、既設表面10aを基準とした場合における凹陥部13の深さに相当する。
【0079】
また、図1においては、コンクリート10bを除去する場合、凹陥部13の底面(以下「凹陥部底面」ともいう。)13aの位置は、損傷発生源である損傷部鉄筋14(鉄筋B1)の背面位置と略等しい位置であって、損傷部鉄筋14よりも深い位置に未だ埋設されている深部埋設鉄筋15の中でも最も浅い位置にある鉄筋B2の表側位置と略等しい位置又はそれより浅い位置に形成される。
【0080】
なお、深部埋設鉄筋15とは、損傷部鉄筋14以深に少なくとも一部分が埋設される鉄筋であって、凹陥部13の形成後も凹陥部底面13a以深に少なくとも一部分が未だ埋設されている鉄筋のことをいう。したがって、損傷部鉄筋14が鉄筋B1とされる場合、深部埋設鉄筋15は、鉄筋B1以深に埋設される鉄筋B2,B3,B4のいずれかから選択されることとなるのであり、必ずしも、損傷部鉄筋14(B1)に隣接する鉄筋B2のみに限定されるものではなく、状況に応じて、それ以深に埋設されるその他の鉄筋B3,B4,・・・が選択されることもある。
【0081】
そして、凹陥部13の形成後は、かかる凹陥部13内に補修材が充填されて硬化されて、所定厚さW0(cm)の修復部11が形成されることで、損傷発生コンクリート構造物10の欠陥部が修復される。
【0082】
なお、図1では、修復部11の厚さ(以下「修復部厚」ともいう。)W0は、はつり厚ΔWhと等しくされているが、必ずしもはつり厚ΔWhと等しくある必要はなく、各種の状況に応じて、修復部11の厚さW0を、はつり厚ΔWhより大きくしたり、或いは、その逆にしたりしても良い。また、凹陥部底面13aの深さ位置は、必ずしも損傷部鉄筋14の背面位置と必ずしも常に一致するものではなく、はつり厚ΔWhの値に応じて、損傷部鉄筋14の深さ位置よりも深い位置とされることもある。
【0083】
この防錆断面修復工法により施工される断面修復構造の特徴点は、修復部11を形成する場合に、かかる修復部11の表面(以下「修復部表面」ともいう。)11aから凹陥部底面13aまである修復部厚W0の範囲のうち、その少なくとも一部分について、所定の初期混合量G1(kg/m3)で防錆成分が混合されている補修材(以下「防錆補修材」ともいう。)を用いて所定厚さW1(cm)分の防錆部11bを形成し、この防錆部11bを除く残余部分について、防錆成分が未混合(0kg/m3)の補修材(以下「非防錆補修材」ともいう。)を用いて厚さW2(=W0−W1)(cm)分の非防錆部11cを形成するところにある。
【0084】
ところで、防錆部11bにおける防錆成分の初期混合量G1は、補修工法の施工当初に修復部11に混合される防錆成分量(防錆成分濃度)であって、以下「防錆成分初期混合量」ともいう。また、防錆成分初期混合量G1の値は、後述する修復部詳細設定工程(S11)によって適宜調整することができるものである(図3参照)。
【0085】
また、防錆部11b及び非防錆部11cについての施工例としては、図1に示すように、まず、凹陥部13を形成した後、損傷部鉄筋14を被包するような格好で、凹陥部底面13aに所定厚さ(以下「防錆部厚」ともいう。)W1で防錆補修材を施工して防錆部11bを形成してから、その上に所定厚さ(以下「非防錆部厚」ともいう。)W2で非防錆補修材を施工して非防錆部11cを形成した上で、これらの各補修材を硬化させて、所定厚さW0(=W1+W2)の修復部11を形成するものが好適である。
【0086】
この防錆断面修復工法により施工される修復部11に使用される補修材(防錆補修材及び非防錆補修材)は、例えば、セメント系モルタルを主成分としており、防錆部11bを成す防錆補修材にあっては添加物として損傷発生コンクリート構造物10の内部へ浸透拡散する性質のある防錆成分が混合されている。具体的に、この防錆成分は、鉄筋14,15に代表されるコンクリート構造物10内に埋設される鉄筋の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有する防錆剤であって、補修材に混合された状態でアルカリ性を示すものである。
【0087】
このため、防錆成分である防錆剤に含まれるイオン成分の作用によってコンクリート構造物10内にある鉄筋14,15等の各鉄筋表面に不動態被膜を形成して、これらの鉄筋の腐食を防止できる。また、防錆剤としては、補修材の主成分であるセメント系モルタルに混合されて溶解される水溶性防錆剤が適しており、その中でも、鉄筋表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有する点で亜硝酸塩系の水溶性防錆剤、特に、亜硝酸リチウムを使用することが好適である。なお、防錆剤は、凹陥部13内への施工される以前における未硬化状態の補修材中に予め混合される。
【0088】
以上説明した防錆断面修復工法によれば、防錆部11bに混合される防錆成分が修復部11からコンクリート構造物10内に浸透拡散されることで、鉄筋14,15等の鉄筋の周囲に防錆雰囲気が形成されるので、かかる工法による補修後における鉄筋14,15を含めたコンクリート構造物10内の各鉄筋の腐食進行を抑制して、かかる腐食進行に伴うひび割れ等による再損傷の発生を抑止できる。
【0089】
ところで、コンクリート構造物10の鉄筋腐食は、既設表面10aに近い鉄筋ほど進行が速く、既設表面10aから離れた深部にある鉄筋ほど進行が遅いため、既設表面10aに近い鉄筋に集中する傾向にある。このため、損傷発生コンクリート構造物10の損傷発生源は、既設表面10aに最も近い第1段目鉄筋がなる頻度が高く、この結果、損傷部鉄筋位置として第1段目鉄筋位置を設定することが好ましいケースが多くなるものと推測される。
【0090】
なお、ここまで説明した断面修復工法について、その修復部11全体を非防錆部11cのみで形成したものが、非防錆補修材を用いた非防錆断面修復工法に相当する。
【0091】
図2は、複合防錆断面修復工法による補修が施されたコンクリート構造物10の断面図である。
【0092】
なお、図2では、図1と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。また、図2(a)から図2(c)に示す各断面構造は、それぞれ複合防錆断面修復工法における犠牲陽極部材の施工形態のみを変更したものであって、それぞれ同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0093】
図2に示すように、複合防錆断面修復工法は、上記した防錆断面修復工法(図1参照)に対し、凹陥部に表れる鉄筋に犠牲陽極部材を導通可能な状態で接続する工程のみを追加したものであり、例えば、図2(a)から図2(c)に示した3種類のものがある。
【0094】
図2(a)に示されている複合防錆断面修復工法は、上記した防錆断面修復工法と同様に、損傷発生コンクリート構造物10に凹陥部13が形成されてから、その凹陥部底面13aに表れている損傷部鉄筋14に対して、犠牲陽極部材16が導通可能な状態で接続される。この後は、防錆断面修復工法の場合と同様にして、凹陥部13内に所定厚さW0(cm)の修復部11が形成されることで、損傷発生コンクリート構造物10の欠陥部が修復される。
【0095】
犠牲陽極部材16は、凹陥部底面13aから露出する損傷部鉄筋14の外周に、ガス溶接やアーク溶接による溶接ビード17を介して接合されることで、損傷部鉄筋14に直接的に取着されている。犠牲陽極部材16は、鉄製の鉄筋14,15よりイオン化傾向の大きな金属棒単体で形成されており、好ましくは、腐食膨張が少なく且つ安価に入手できる亜鉛又は亜鉛合金の金属棒が用いられる。
【0096】
また、犠牲陽極部材16は、損傷部鉄筋14の外周に直接接触されることで損傷部鉄筋14と電気的に導通されており、損傷部鉄筋14及び深部埋設鉄筋15は相互に外周が直接接触されて電気的に導通されている。また、この犠牲陽極部材16を損傷部鉄筋14に取着するための溶接ビード17は、ガス溶接やアーク溶接などによって、犠牲陽極部材16と損傷部鉄筋14との接合部を局部的に加熱溶解しこれに溶加材を融合させてできたものであって、犠牲陽極部材16と損傷部鉄筋14とを接合させて電気的に導通可能とするものでもある。
【0097】
なお、犠牲陽極部材16を損傷部鉄筋14に取着する手段は、必ずしも溶接ビード17によるものに限定されず、例えば、犠牲陽極部材16の外周面を鉄筋の外周面に当接させた状態で導電性を有する接着剤や接着するようにしたり、固定用ジグで固定したり、或いは、犠牲陽極部材16を損傷部鉄筋14に接触させた状態で、その犠牲陽極部材16を凹陥部底面13aに固定用アンカー等を用いて固定するようにしても良い。
【0098】
図2(b)に示されている複合防錆断面修復工法は、犠牲陽極部材18が修復部表面11aに添設されており、この犠牲陽極部材18は透孔を有するエキスパンドメタルなどで網状体に形成されている。この犠牲陽極部材18は、修復部表面11aに展着され且つ埋入されており、修復部表面11aに埋め込まれた状態で、その修復部11によって直接に固定保持されている。また、犠牲陽極部材18は、修復部表面11aに埋入された状態で、その片側面が修復部表面11aから露出されている。
【0099】
このように犠牲陽極部材18を修復部表面11aに添設するには、凹陥部13に充填された未硬化状態の補修材料の外表面に犠牲陽極部材18を埋入する。具体的には、凹陥部13を形成後、その外側にコンクリート型枠を設置して、そのコンクリート型枠と凹陥部13との対向面間に犠牲陽極部材18を予め設置しておき、その上で、凹陥部13とコンクリート型枠との間に補修材料を注入充填して修復部11を形成するのである。
【0100】
また、犠牲陽極部材18には、導線19の片方の端部が接続されており、この導線19のもう片方の端部は損傷部鉄筋14に接続されている。この導線19は、鉄線や銅線などのように導電性金属であって鉄よりイオン化傾向の小さな電線であって、速乾性の導電性接着剤を用いて損傷部鉄筋14に接着されており、それと同じ速乾性の導電性接着剤(図示せず)を用いて犠牲陽極部材18に巻き付けられた状態で接着されている。
【0101】
このように導線19を修復部表面11aまで導出させるには、凹陥部13を形成した後、凹陥部13へ補修材料を充填する前に、凹陥部13から露出される損傷部鉄筋14に導線19の一端部を接続し、更に、その導線19の他端部を凹陥部13の外部まで導出させておき、その状態で凹陥部13へ補修材料を充填して、修復部11を形成するのである。
【0102】
なお、犠牲陽極部材18に使用される網状体としてエキスパンドメタルを用いて説明したが、かかる網状体は必ずしもこれに限定されるものでなく、例えば、パンチングメタルや金網などであっても良い。また、導線19は、絶縁性材料で被覆されたものでも、又は、そのような被覆膜のないもののいずれであっても良い。
【0103】
図2(c)に示されている複合防錆断面修復工法の変形例では、犠牲陽極部材20が棒状体に形成されており、その断面形状が略円形に形成されている。この犠牲陽極部材20は、その軸方向(図2(c)の紙面に対する略垂直方向)が修復部表面11aに沿うように、修復部表面11aに埋入されており、その埋入状態において犠牲陽極部材20の外周面の一部が修復部表面11aから露出されている。
【0104】
以上説明した複合防錆断面修復工法によれば、それによって補修がなされた初期段階においては犠牲陽極部材16,18,20(以下「犠牲陽極部材16等」という。)によって鉄筋の防食を行いつつ、その間に、防錆部11bに含まれる防錆成分(例えば、亜硝酸イオンなど)をコンクリート構造物10の既設部分へ浸透拡散させる。そして、犠牲陽極部材16等による防食効果が低下して機能不能状態となれば、コンクリート構造物10の既設部分へ浸透拡散した防錆成分によって、鉄筋14,15の周囲に防錆雰囲気が形成されて、鉄筋に対する長期的な防食機能が発揮されるのである。
【0105】
なお、以上に説明した各断面修復工法に関しては、損傷部鉄筋14として第1段目鉄筋を、深部埋設鉄筋15として第1段目鉄筋B1より深い位置に埋設される第2段目鉄筋B2を、それぞれ想定して説明したが、損傷発生コンクリート構造物10の塩害劣化進行の状況に応じて、損傷部鉄筋14が第2段目鉄筋B2となることもあり、深部埋設鉄筋15が第2段目鉄筋B2より深い位置に埋設される鉄筋B3,B4,・・・のいずれかとなることもある。
【0106】
次に、図3から図9を参照して、損傷発生コンクリート構造物10に関する補修工法適性判定方法について説明する。この補修工法適性判定方法は、主として、図1又は図2を用いて説明した断面修復工法が施されることによって損傷発生コンクリート構造物10内で生じる将来的な変化を予測し、その予測結果から当該損傷発生コンクリート構造物10に適した補修工法を判定する方法である。
【0107】
なお、補修対象となる損傷発生コンクリート構造物10については、下記するかぶり厚ΔWkの値、既設表面10aから損傷部鉄筋14までの距離(以下「損傷部鉄筋距離」ともいう。)ΔWsの値、既設表面10aから深部埋設鉄筋15までの距離(以下「深部埋設鉄筋距離」ともいう。)ΔWdの値、損傷部鉄筋14及び深部埋設鉄筋15間の間隔幅(以下「鉄筋間隔」ともいう。)εの値、及び、損傷発生コンクリート構造物10のコンクリート内に予め既存している防錆成分の量である既設コンクリート防錆成分既存量G0の値が、それぞれ既知であることを前提とする。
【0108】
図3は、補修工法適性判定方法の処理手順を示すフローチャートである。なお、以下で説明する補修工法適性判定方法に備わる各工程は、塩化物イオン量測定工程(S3)などの実測が必要となる工程を除いて、主として、パーソナルコンピュータなどに代表される電子計算機を用いた数値演算処理によって短時間で実行可能なものである。
【0109】
図3に示すように、補修工法適性判定方法では、まず、補修対象となる損傷発生コンクリート構造物10の既設表面10aにおける塩化物イオンの濃度である表面塩化物イオン量F0(kg/m3)が既知(推定済みである場合を含む。)であるか否かが判断され(S1)、併せて、そのコンクリート構造物10内における塩化物イオンの見掛け拡散係数(見掛けの拡散係数)DF(cm2/sec)が既知(推定済みである場合を含む。)であるか否かが判断される(S2)。
【0110】
このとき、コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの双方が既知の場合は(S1,S2:Yes)、塩化物イオン量測定工程(S3)及び係数推定工程(S4)をスキップして、次工程のコンクリート構造物設定工程(S5)を実行してから、修復部基本設定工程(S6)へ移行する。
【0111】
一方、コンクリート構造物10の表面塩化物イオン量F0が未知であるか(S1:No)、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFが未知ならば(S2:No)、塩化物イオン量測定工程(S3)及び係数推定工程(S4)を実行して、コンクリート構造物10の表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを推定してから、次工程のコンクリート構造物設定工程(S5)を実行し、それから修復部基本設定工程(S6)へ移行する。
【0112】
修復部基本設定工程(S6)の実行後は、S16の処理によって、コンクリート構造物設定工程(S5)及び修復部基本設定工程(S6)の設定値が所定の条件(下記式(17)の条件)を満足するか否かが判断され(S7)、当該条件を満足しない場合は(S7:No)、処理をS5へ移行して、当該条件が満足されるまで(S7:Yes)、このコンクリート構造物設定工程(S5)及び修復部基本設定工程(S6)の処理を繰り返す。そして、当該条件が満足されれば(S7:Yes)、次工程の塩化物イオン量現状推定工程(S8)を実行する。
【0113】
塩化物イオン量現状推定工程(S8)の実行後は、発錆雰囲気判断工程(S9)によって、現状において凹陥部底面13aの位置が発錆雰囲気となっているか否かを判断して、その判断の結果、凹陥部底面13aの位置が発錆雰囲気となっている場合には(S9:F(xD,t)≧Fc)、塩化物イオン量将来予測工程(S10)、修復部詳細設定工程(S11)、防錆成分量将来予測工程(S12)及び再損傷発生時間設定工程(S13)を実行する。
【0114】
そして、再損傷発生時間設定工程(S13)を実行した後は、第1防錆雰囲気判断工程(S14)によって、防錆部11bによる防錆効果を無視した場合において深部埋設鉄筋15の周囲で再損傷が発生することが予測される将来時点(後述する初期時間tから再損傷発生時間tHが経過する時点)で、防錆部11bによって深部埋設鉄筋15の周囲に防錆雰囲気が形成されるか否かを判断する。
【0115】
この第1防錆雰囲気判断工程(S14)による判断の結果、深部埋設鉄筋15の周囲で再損傷発生が予測される将来時点で深部埋設鉄筋15の周囲に防錆雰囲気が形成されないものと予測されれば(S14:R(xF,tH)<R0)、修復部詳細設定工程(S11)による設定条件を見直すか否かを判断し(S15)、かかる設定条件を見直す場合には(S15:Yes)、処理をS11へ移行して、S11からS14までの処理を実行する。
【0116】
一方、修復部詳細設定工程(S11)による設定条件を見直さない場合には(S15:No)、犠牲陽極有効時間設定工程(S16)を実行してから、第2防錆雰囲気判断工程(S17)によって、犠牲陽極部材16等による防食機能の有効期間が経過する時点(後述する初期時間tから犠牲陽極有効時間tKが経過する時点)までに防錆部11bによって深部埋設鉄筋15の周囲に防錆雰囲気が形成されるか否かを判断する。
【0117】
この第2防錆雰囲気判断工程(S17)による判断の結果、犠牲陽極部材16等による防食機能の有効期間の経過時点で深部埋設鉄筋15の周囲に防錆雰囲気が形成されることが予測されれば(S17:R(xF,tK)≧R0)、上記した複合防錆断面修復工法を損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として採用して(S21)、この補修工法判定方法を終了する。
【0118】
一方、犠牲陽極部材16等による防食機能の有効期間の経過時点で深部埋設鉄筋15の周囲に防錆雰囲気が形成されなれないことが予測されれば(S17:R(xF,tK)<R0)、修復部基本設定工程(S6)による設定条件を見直すか否かを判断し(S18)、かかる設定条件を見直さない場合は(S18:No)、犠牲陽極部材16等の設定条件を見直すべく、処理をS16へ移行して、S16及びS17の処理を実行する。
【0119】
また、発錆雰囲気判断工程(S9)による判断の結果、凹陥部底面13aの位置が発錆雰囲気となっていなければ(S9:F(xD,t)<Fc)、上記した非防錆断面修復工法を損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として採用して(S19)、この補修工法判定方法を終了する。
【0120】
また、第1防錆雰囲気判断工程(S14)による判断の結果、深部埋設鉄筋15の周囲で再損傷発生が予測される将来時点で深部埋設鉄筋15の周囲に防錆雰囲気が形成されることが予測されれば(S14:R(xF,tH)≧R0)、上記した防錆断面修復工法を損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として採用して(S20)、この補修工法判定方法を終了する。
【0121】
また、修復部基本設定工程(S6)による設定条件を見直すか否かの判断(S18)の結果、かかる設定条件を見直す場合は(S18:Yes)、一旦、この補修工法適正判定方法を終了して、再度、補修工法適性判定方法を初めから実行して、修復部基本設定工程(S6)において、新たな「修復部11の基本設定条件」を設定する。
【0122】
次に、図4から図9を参照して、上記した補修工法適正判定方法における各工程の詳細について説明する。
【0123】
図4を参照して、まずは、塩化物イオン量測定工程(S3)について説明する。
【0124】
図4は、塩化物イオン量測定工程(S3)を説明するためのコンクリート構造物10の断面図であって、図4(a)は、損傷発生コンクリート構造物10のコンクリート10bが剥離欠損せずに既設表面10aが残存している場合における断面図であり、図4(b)は、損傷発生コンクリート構造物10の既設表面10aを含んだコンクリート10bの少なくとも一部が剥離欠損してしまって損傷しているような場合における断面図である。
【0125】
図4に示すコンクリート構造物10は、その建設時点から時間(以下「建設経過時間」という。)tE(sec)が経過した既存の鉄筋コンクリート構造物であって、かかる建設経過時間tEの値が判明しているものである。
【0126】
塩化物イオン量測定工程(S3)は、図4(a)に示すように、損傷発生コンクリート構造物10のコンクリート10bが剥離欠損せずに既設表面10aが残存している場合に、かかる既設表面10aを基準位置として、その既設表面10aから深さ方向(矢印x方向)に位置が異なる4箇所の測定点MP1〜MP4を設定し、これら測定点MP1〜MP4について塩化物イオン量F'をそれぞれ測定する工程である。
【0127】
ただし、塩化物イオン量測定工程(S3)の実施にあたって、図4(b)に示すように、損傷発生コンクリート構造物10の既設表面10aを含んだコンクリート10bが剥離欠損してしまって損傷しているような場合は、既設表面10aではなく損傷部の表面10cを基準位置として、かかる損傷部表面10cから深さ方向(矢印x方向)に位置が異なる4箇所の測定点MP1〜MP4を設定し、これらの測定点MP1からMP4について塩化物イオン量F'をそれぞれ測定するものとする。
【0128】
もっとも、図4(b)に示すように、損傷発生コンクリート構造物10の損傷部の表面(以下「損傷部表面」ともいう。)10cを基準位置として塩化物イオン量測定工程(S3)の実施する場合、塩化物イオン測定工程(S2)により測定される各測定点MP1〜MP4の塩化物イオン量の測定値F'が下記式(6)に適合せず、表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを、後述する係数推定工程(S4)の回帰分析によって推定することができないことがある。そこで、このような場合には、損傷部の表面10cの近傍に残存する既設表面10aを基準位置に変更した上で、図4(a)に示した場合のように測定点MP1〜MP4を設定して、これらの測定点MP1〜MP4について塩化物イオン量F'をそれぞれ測定するものとする。
【0129】
この塩化物イオン量測定工程(S3)によれば、補修対象となる損傷発生コンクリート構造物10に対して既設表面10a又は損傷部表面10cから深さ方向にドリル60によって削孔することで、その削孔屑であるドリル粉末が採取され、かかるドリル粉末がコンクリート試料として用いられる。しかも、各測定点MP1〜MP4についてコンクリート試料がそれぞれ採取されて、その各測定点MP1〜MP4から採取されるコンクリート試料に含まれる塩化物イオン量F'(kg/m3)が、塩化物イオン電極を用いた電位差滴定法、チオシアン酸水銀(II)吸光光度法、硝酸銀滴定法、又は、イオンクロマトグラブ法を用いて測定される。
【0130】
ここで、この塩化物イオン量測定工程(S3)では、ドリル粉末の採取区間L1〜L4が、損傷発生コンクリート構造物10の既設表面10a又は損傷部表面10cから深さ方向へ略一定の間隔ΔDおきに区画されており、この各採取区間L1〜L4における深さ方向の中間点を各測定点MP1〜MP4として設定している。
【0131】
ところで、損傷発生コンクリート構造物10には、その建設時点から既に塩化物イオンが混入している場合があり、このような建設時点から予め損傷発生コンクリート構造物10内に含有している塩化物イオン量のことを初期含有全塩化物イオン量Fintと称している(下記式(1)及び(6)参照)。このような建設時点から含有する塩化物イオンは損傷発生コンクリート構造物10の深さ方向に略一定分布になるものと仮定されており、このため、初期含有全塩化物イオン量Fintは既設表面10aからの深さと無関係に一定値として、下記式(1)及び(6)は導かれている。
【0132】
また、本実施例では、この初期含有全塩化物イオン量Fintの値として、上記した塩化物イオン量測定工程(S3)により測定された損傷発生コンクリート構造物10の最深部にある測定点MP4以深であって、なおかつ、損傷発生コンクリート構造物10の外部から浸透拡散してきた塩化物イオンが到達していない深さ位置における塩化物イオン量の測定値を、下記する係数推定工程(S4)及び塩化物イオン量現状推定工程(S8)において用いている。
【0133】
なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、初期含有全塩化物イオン量Fintの値が0kg/m3とされている。
【0134】
さらに、塩化物イオン量測定工程(S3)は、「コンクリート標準示方書[規準編]JIS規格集」(土木学会編・日本規格協会発行)における「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法(JIS−A1154)」と、「コンクリート標準示方書[規準編]土木学会規準および関連規準」(土木学会発行)における「実構造物におけるコンクリート中の塩化物イオン分布の測定方法(案)(JSCE−G_573−2003)」とに準拠したものである。
【0135】
次に、係数推定工程(S4)について説明する。
【0136】
係数推定工程(S4)は、補修対象となる損傷発生コンクリート構造物10に関する、表面塩化物イオン量F0の値、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を、Fickの拡散方程式の近似解である下記式(6)を用いた数値計算によって推定するものである。具体的には、各測定点MP1〜MP4の塩化物イオン量Fを目的変数とし、各測定点MP1〜MP4までの深さx(cm)を説明変数とした上で、初期含有全塩化物イオン量Fintと建設経過時間tEとを用いて、次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、erf:誤差関数である(以下同じ。))の未知パラメータである損傷発生コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFとを、回帰分析によって推定するものである。
【0137】
この係数推定工程(S4)で用いる回帰分析は、上記式(6)を回帰式(モデル関数)として、塩化物イオン量測定工程(S3)により測定した各測定点MP1〜MP4の塩化物イオン量の測定値F'(kg/m3)と、上記式(6)及び既設表面10aから各測定点MP1〜MP4までの深さx(cm)を用いて求められる塩化物イオン量の推定値F"(kg/m3)とから演算される残差二乗和Σ(F'−F")(但し、式中のΣは全測定点MP1〜MP4についての総和である。)が最小となるように、最小二乗法による回帰分析によって、損傷発生コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの各値を推定するものである。
【0138】
次に、図5は、本実施例の補修工法適性判定方法において数値計算を行う場合に用いられるコンクリート構造物10の断面モデル30を例示した図である。なお、この断面モデル30では、損傷部鉄筋14として第1段目の鉄筋B1を選択し、かつ、深部埋設鉄筋15として第2段目の鉄筋B2を選択した場合を想定している。
【0139】
図5に示すように、断面モデル30は、かぶり厚ΔWk、損傷部鉄筋距離ΔWs、深部埋設鉄筋距離ΔWd、及び、鉄筋間隔εによって特定される損傷発生コンクリート構造物10に対し、既設表面10aからはつり厚ΔWhのコンクリート10bを除去して凹陥部13を形成し、その凹陥部13内に修復部厚W0の修復部11を形成し、その修復部11内であって凹陥部底面13aから防錆部オフセット幅κだけ離間した位置に防錆部厚W1の防錆部11bを局所的に形成したものをモデル化したものである。
【0140】
なお、かかる断面モデル30において、防錆部厚W1の防錆部11bは、その深さ方向両側が非防錆部11c,11cによって挟まれており、その一方の非防錆部11cの厚さW2'が防錆部オフセット量κに等しく(W2'=κ)、もう一方の非防錆部11cの厚さW2"が修復部厚W0から防錆部厚W1及び防錆部オフセット量κを差し引いた差分に等しく(W2"=W0−W1−κ=W0−W1−W2')、これら双方の非防錆部11c,11cの厚さW2',W2"を合計したものが非防錆部厚W2と等しくなっている(W2=W2'+W2"=W0−W1)。
【0141】
また、この断面モデル30によれば、
(a) コンクリート構造物10の既設表面10a及び修復部表面11aの双方よりも外方(図5左方向)に設けられる基準点が、0番目の深さ位置である深さxとされ、
(b) その深さxからコンクリート構造物10の深部側(図5右側)へ向けて一定の深さ間隔Δxずつ変化する距離が、深さxi(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)とされ、
(c) 深さxから修復部表面11aの位置までの距離が、深さ(以下「修復部表面深さ」ともいう。)xAとされ、
(d) 深さxから防錆部11bの表側位置までの距離が、深さ(以下「防錆部深さ」ともいう。)xBとされ、
(e) 深さxから損傷部鉄筋14の表側位置(かぶり境界位置)までの距離が、深さ(以下「かぶり深さ」ともいう。)xCとされ、
(f) 深さxから凹陥部底面13aの位置までの距離が、深さ(以下「凹陥部底面深さ」ともいう。)xDとされ、
(g) 深さxから損傷部鉄筋14位置までの距離が、深さ(以下「損傷部鉄筋深さ」ともいう。)xEとされ、
(h) 深さxから深部埋設鉄筋15位置までの距離が、深さ(以下「深部埋設鉄筋深さ」ともいう。)xFとされ、
(i) 深さxからコンクリート構造物10の既設表面10aまでの距離が、深さ(以下「既設表面深さ」ともいう。)xSとされている。
【0142】
ただし、上記したP番目の深さxPと深部埋設鉄筋深さxFとの関係は、次式(7):
xP≧xF ……(7)
を満たすものとする。なぜなら、深部埋設鉄筋15の深さ位置における将来的な発錆雰囲気や防錆雰囲気に状況についての予測が求められるため、少なくとも深部埋設鉄筋15の深さ位置までは塩化物イオン量や防錆成分量の分布状況を予測する必要性が認められるからである。
【0143】
また、断面モデル30の場合、修復部厚W0と、防錆部厚W1と、非防錆部11c,11cの合計厚さに相当する非防錆部厚W2と、かぶり厚ΔWkと、はつり厚ΔWhと、損傷部鉄筋距離ΔWsと、深部埋設鉄筋距離ΔWdと、各深さxA,xB,xC,xD,xE,xF,xSとの関係は、次式(8)〜(17):
W0=xD−xA ……(8)
W1=xD−xB−κ ……(9)
W2'=κ ……(10)
W2"=xB−xA ……(11)
W2=W2'+W2" ……(12)
ΔWk=xC−xS ……(13)
ΔWh=xD−xS ……(14)
ΔWs=xE−xS ……(15)
ΔWd=xF−xS ……(16)
xE≦xD<xF ……(17)
で表されるものとなる。
【0144】
この関係式(8)〜(12)の内容を換言すれば、修復部厚W0は、凹陥部底面深さxDから修復部表面深さxAを差し引いた差分に等しく、防錆部厚W1は、凹陥部底面深さxDから防錆部深さxB及び防錆部オフセット量κを差し引いた差分に等しく、一方の非防錆部11cの厚さW2'は、防錆部オフセット量κに等しく、他方の非防錆部11cの厚さW2"は、防錆部深さxBから修復部表面深さxAを差し引いた差分に等しく、非防錆部厚W2は、非防錆部11c,11cの厚さW2',W2"の合計に等しいことを意味している。
【0145】
また、関係式(13)〜(17)の内容を換言すれば、かぶり厚ΔWkは、かぶり深さxCから既設表面深さxSを差し引いた差分に等しく、はつり厚ΔWhは、凹陥部底面深さxDから既設表面深さxSを差し引いた差分に等しく、損傷部鉄筋距離ΔWsは、損傷部鉄筋深さxEから既設表面深さxSを差し引いた差分に等しく、深部埋設鉄筋距離ΔWdは、深部埋設鉄筋深さxFから既設表面深さxSを差し引いた差分に等しく、はつり厚ΔWhによって決定付けられる凹陥部底面深さxDは、損傷部鉄筋深さxEの値以上であって深部埋設鉄筋深さxFの値未満に設定しなければならないことを意味している。
【0146】
さらに、このように構成される断面モデル30を用いた、コンクリート構造物10の将来的な変化を予測するためのシミュレーションでは、そのシミュレーション上の開始時間である初期時間tから、シミュレーション上の終了時間である目標時間tQまで一定の時間間隔Δtずつ変化する時間経過を時間tj(但し、0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1とする。)とすることで、各時間tjにおける各深さxiでの塩化物イオンの濃度を、塩化物イオン量F(xi,tj)という形式で表現される。
【0147】
次に、コンクリート構造物設定工程(S5)について説明する。
【0148】
このコンクリート構造物設定工程(S5)では、まず、補修対象となる損傷発生コンクリート構造物10に関する、かぶり厚さΔWkの値、損傷部鉄筋距離ΔWsの値、深部埋設鉄筋距離ΔWdの値、及び、鉄筋間隔εの値が設定され、これらの設定値に基づいて、上記した断面モデル30に関する、かぶり深さxCの値、損傷部鉄筋深さxEの値、深部埋設鉄筋深さxFの値、及び、既設表面深さxSの値が、それぞれ設定される。
【0149】
具体的には、既設表面深さxSを任意の値(例えば5cm)に設定した上で、この既設表面深さxSの値とかぶり厚ΔWkの値とを上記式(13)に代入することで、かぶり深さxCの値が設定される。また、既設表面深さxSの値と損傷部鉄筋距離ΔWsの値とを上記式(15)に代入することで、損傷部鉄筋深さxEの値が設定される。さらに、既設表面深さxSの値と深部埋設鉄筋距離ΔWdの値とを上記式(16)に代入することで、深部埋設鉄筋深さxFの値が設定される。
【0150】
なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、損傷部鉄筋距離ΔWsが既設表面10aから損傷部鉄筋14の背側位置までの距離値に設定され、深部埋設鉄筋距離ΔWdが既設表面10aから深部埋設鉄筋15の背側位置までの距離値に設定され、鉄筋間隔εが0cmに設定されている。
【0151】
また、このコンクリート構造物設定工程(S5)では、損傷発生コンクリート構造物10に関する既設コンクリート防錆成分既存量G0の値も設定される。なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、既設コンクリート防錆成分既存量G0の値が0kg/m3とされている。
【0152】
次に、修復部基本設定工程(S6)について説明する。
【0153】
修復部基本設定工程(S6)では、非防錆断面修復工法、防錆断面修復工法、又は、複合防錆断面修復工法のうち、いずれか1つが補修工法として選定される場合において、これらの補修工法における共通事項である「修復部11の基本設定条件」、即ち、はつり厚ΔWhの値および修復部厚W0の値が設定され、更に、これらの設定値に基づいて、上記した断面モデル30に関する、修復部表面深さxAの値および凹陥部底面深さxDの値が設定される。
【0154】
具体的には、コンクリート構造物設定工程(S5)で設定された既設表面深さxSの値とはつり厚さΔWhの値とを上記式(14)に代入することで、凹陥部底面深さxDの値が設定される。また、かかる凹陥部底面深さxDの値と修復部厚W0の値とを上記式(8)に代入することで、修復部表面深さxAの値が設定される。
【0155】
ここで、はつり厚ΔWhの値は、原則として、損傷部鉄筋距離ΔWsの値と等しくなるように設定される(ΔWh=ΔWs)。なぜなら、図1及び図2を用いて説明した3種類の断面修復工法は、はつり厚ΔWhを小さくすることを目的とし、なおかつ、凹陥部13を形成した場合に損傷部鉄筋14自体の腐食部分を除去できる観点からも、損傷部鉄筋14の位置(好ましくは、損傷部鉄筋14の背側位置)までコンクリート10bを除去することが都合が良いからである。
【0156】
ただし、「修復部11の基本設定条件」の変更を検討する工程(S18)において、はつり厚ΔWhの値を変更することを選択する場合は(S18:Yes)、この限りでなく、かかる選択(S18:Yes)をすることで補修工法判定方法を一旦終了して、再度、補修工法適性判定方法を行う場合に、この修復部基本設定工程(S6)において、凹陥部底面13aが少なくとも損傷部鉄筋14の位置と略等しい深さ位置か、又は、それよりも深い位置となるようにすることを条件として、はつり厚ΔWhの値を変更することもできる。
【0157】
なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、はつり厚ΔWhの値と損傷部鉄筋距離ΔWsの値とが等しく設定されており(ΔWh=ΔWs)、このため、上記式(14)及び(15)に基づいて、凹陥部底面深さxDは損傷部鉄筋深さxEと等しく設定されることとなる(xD=xE)。
【0158】
次に、設定条件チェック工程(S7)について説明する。
【0159】
この設定条件チェック工程(S7)は、上記したコンクリート構造物設定工程(S5)及び修復部基本設定工程(S6)で設定された、凹陥部底面深さxDの値、損傷部鉄筋深さxEの値、及び、深部埋設鉄筋深さxFの値が、上記式(17)を満足するか否かを判断する。そして、この判断の結果、上記式(17)を満足しない場合は(S7:No)、処理をS5へ移行して、上記式(17)が満足されるまで(S7:Yes)、コンクリート構造物設定工程(S5)及び修復部基本設定工程(S6)による設定値の変更を繰り返す。
【0160】
具体的には、損傷部鉄筋距離ΔWsは損傷発生コンクリート構造物10の状況から自ずと決定されることから、これを除くパラメータ、例えば、深部埋設鉄筋距離ΔWdの値、又は、はつり厚ΔWhの値の少なくとも一方を設定変更する処理を、上記式(17)が満足されるまで(S7:Yes)繰り返す。そして、上記式(17)が満足されれば(S7:Yes)、次工程の塩化物イオン量現状推定工程(S8)を実行するのである。
【0161】
次に、図6(a)を参照して、塩化物イオン量現状推定工程(S8)について、以下に説明する。
【0162】
塩化物イオン量現状推定工程(S8)では、まず、深さxから修復部表面深さxAまでの深さ範囲(x≦xi<xA)、及び、深さxPを超える深さ範囲(xi>xP)についての、初期時間tにおける塩化物イオン量F(xi,t)の値を、次式(18):
F(xi,t)=0 ……(18)
(但し、x≦xi<xAの範囲と、xi>xPの範囲とに限る。)
に示すように全て0kg/m3に設定する。なぜなら、補修後のコンクリート構造物10に関し、塩化物イオンの浸入が遮断される環境条件を計算条件として考慮するためである。
【0163】
また、修復部表面深さxAから凹陥部底面深さxDまでの深さ範囲(xA≦xi<xD)について、初期時間tにおける塩化物イオン量F(xi,t)の値を、次式(19):
F(xi,t)=F1 (但し、xA≦xi<xDの範囲に限る。) ……(19)
に示すように、補修材に予め含まれている塩化物イオンの量である補修材塩化物イオン初期量F1に設定する。なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、補修材塩化物イオン初期量F1の値が0kg/m3とされている。
【0164】
さらに、損傷発生コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFと、深さxiと、凹陥部底面深さxDと、初期時間tと、初期含有全塩化物イオン量Fintとを用いて、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)についての初期時間tにおける塩化物イオン量F(xi,t)の値を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xD]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、xD≦xi≦xPの範囲に限るものとし、xD≦xF≦xPの条件を満たすものとする。)
によって数値計算することで求める。
【0165】
なお、この塩化物イオン量現状推定工程(S8)によれば、初期時間tとして建設経過時間tEが用いられば(t=tE)、損傷発生コンクリート構造物10の建設時点から建設経過時間tEが経過した時点における、当該損傷発生コンクリート構造物10内の塩化物イオンの拡散分布状況を推定することができる。このとき、初期時間tとして代入される建設経過時間tEは、損傷発生コンクリート構造物10の建設時点から塩化物イオン量測定工程(S3)の実施時点までの経過時間や、損傷発生コンクリート構造物10の建設時点から補修工法の施工時点までの経過時間などとしても良い。
【0166】
図6は、塩化物イオン量F(xi,tj)と深さxiとの関係をグラフで表した図であって、特に、図6(a)は、塩化物イオン量現状推定工程(S8)による計算結果の一例を表したものである。
【0167】
図6(a)に示すグラフには、塩化物イオン量F(xi,tj)(kg/m3)を示す縦軸と、深さxI(cm)を示す横軸と、発錆限界塩化物イオン量Fcの値を示す破線状の横線と、修復部表面深さxAを示す1点鎖線状の縦線と、凹陥部底面深さxDを示す2点鎖線状の縦線と、深部埋設鉄筋深さxFを示す破線状の縦線とが図示されている。
【0168】
なお、発錆限界塩化物イオン量Fcは、一般的に「塩化物イオンの鋼材腐食発生限界濃度」と称されており損傷発生コンクリート構造物10のコンクリート成分の特性などに応じて変化する、損傷発生コンクリート構造物10(既設コンクリート)の特性値であるが、以下に説明する具体的な数値計算例においては、発錆限界塩化物イオン量Fcの値が1.2kg/m3とされている。
【0169】
また、図6(a)に示すグラフには、塩化物イオン量現状推定工程(S8)により求めた塩化物イオン量F(xi,t)の値を黒丸印(図中●)でプロットして作成した現状推定線31が図示されている。ここで、現状推定線31は、修復部11内の塩化物イオン量F(xi,t)と既設コンクリート(コンクリート構造物10)内の塩化物イオン量F(xi,t)との間に大きな格差があるため、凹陥部底面深さxDの前後で不連続となっている。
【0170】
なお、上記した図6(a)に示した現状推定線31、及び、下記する図6(b)に示した将来予測線32はいずれも、かぶり厚ΔWk=3.0cmとし、修復部厚W0=5.0cmとし、深さ間隔Δx=0.5cmとし、建設経過時間tE=6.62256×10sec(≒21年)を初期時間tとし、初期時間tから時間(Q・Δt)=3.1536×10sec(≒10年)が経過した時点を目標時間tQ=9.77616×10sec(≒31年)とし、時間間隔Δt=8.64×10sec(=10日)とし、表面塩化物イオン量F0=17.0kg/m3とし、修復部表面深さxAから凹陥部底面深さxDまでの深さ範囲(xA≦xi<xD)に関する塩化物イオンの見掛け拡散係数DF=3.0×10−9cm2/secとし、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)に関する塩化物イオンの見掛け拡散係数DF塩化物イオンの見掛け拡散係数DF=3.0×10−8cm2/secとして計算したものである。
【0171】
次に、図6(a)及び図7を参照して、発錆雰囲気判断工程(S9)について、以下に説明する。
【0172】
発錆雰囲気判断工程(S9)は、その前処理である塩化物イオン量現状推定工程(S8)により計算した初期時間tの時点における凹陥部底面深さxDについての塩化物イオン量F(xD,tQ)の値が、発錆限界塩化物イオン量Fcを超えるか否かを判断する工程である。具体的には、断面修復時点のコンクリート構造物10内の塩化物イオン量の分布状況が、図6(a)に示した現状推定線31の形態に対応するものか、図7(a)に示した現状推定線41の形態に対応するものか、又は、図7(b)に示した現状推定線42の形態に対応するものかを判断する工程である。
【0173】
なお、図7に示すグラフには、図6(a)の場合と同様の条件で、縦軸、横軸、破線状の横線、1点鎖線状の縦線、2点鎖線状の縦線、及び、破線状の縦線が図示されている。
【0174】
ここで、図7(a)は、図6(a)に示した現状推定線31に対し、それとは異なる条件の下に求められた現状推定線41の一例をグラフ化した図であって、初期時間tで凹陥部底面深さxDにおける塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcと等しいときを表したものである。また、図7(b)は、図6(a)及び図7(a)に示した現状推定線31,41に対し、それらとは異なる条件の下に求められた現状推定線42の一例をグラフ化した図であって、初期時間tで凹陥部底面深さxDにおける塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値以下であるときを表したものである。
【0175】
図7(a)及び図7(b)に示す各グラフには、塩化物イオン量現状推定工程(S8)により求めた塩化物イオン量F(xi,t)の値を黒丸印(図中●)でプロットして作成された現状推定線41,42が図示されている。ここで、現状推定線41,42の双方は、図6(a)に示す現状推定線31と同様に、修復部11内の塩化物イオン量F(xi,t)と既設コンクリート(コンクリート構造物10)内の塩化物イオン量F(xi,t)との間に大きな格差があるため、凹陥部底面深さxDの前後で不連続となっている。
【0176】
発錆雰囲気判断工程(S9)によれば、例えば、図3に示す発錆雰囲気判断工程(S9)において、初期時間tの時点における凹陥部底面深さxDでの塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値以上となれば(S9:F(xD,t)≧Fc)、図6(a)に示すように現状推定線31が凹陥部底面深さxDの位置で発錆限界塩化物イオン量Fcを示す横線よりも上側となるか、又は、図7(a)に示すように現状推定線41が凹陥部底面深さxDの位置で発錆限界塩化物イオン量Fcを示す横線上となる。
【0177】
このことは、現状の凹陥部底面13aの位置が既に発錆雰囲気となっていることを示唆しており、非防錆断面修復工法を施工して修復部表面11aからの塩化物イオンの浸入を遮断するという環境下でも、目標時間tQの時点においては尚更、初期時間tの時点であっても鉄筋14,15が腐食する危険性が高いものと判断することができる。よって、かかる場合は、防錆補修材を用いた防錆断面修復工法又は複合防錆断面修復工法の補修工法としての適性を確認すべく、後述する塩化物イオン量将来予測工程(S10)以降の各処理を順番に実行するのである。
【0178】
これに対し、図3に示される発錆雰囲気判断工程(S9)において、初期時間tQの時点における凹陥部底面深さxDでの塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値未満であれば(S9:F(xD,t)<Fc)、図7(b)に示すように現状推定線42が凹陥部底面深さxDの位置で発錆限界塩化物イオン量Fcを示す横線よりも下側となる。
【0179】
このことは、現状の凹陥部底面13aの位置が未だ発錆雰囲気となっていないことを示唆しており、修復部表面11aからの塩化物イオンの浸入を遮断するという環境条件の下で非防錆断面修復工法を施工するだけでも、初期時間tの時点においては尚更、目標時間toの時点であっても鉄筋14,15が腐食する危険性は低いものと判断することができる。
【0180】
そこで、図7(b)の現状推定線42に図示されるように、塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fc未満となる場合には(S9:F(xD,t)<Fc)、コンクリート構造物10の既設表面10aから、修復部基本設定工程(S6)で設定された「修復部11の基本設定条件」の各数値に適合した修復部11を損傷発生コンクリート構造物10に対して施工する非防錆断面修復工法を、当該損傷発生コンクリート構造物10に対して採用することに決定するのである(S19)。
【0181】
次に、図6(b)を参照して、塩化物イオン量将来予測工程(S10)について、以下に説明する。
【0182】
塩化物イオン量将来予測工程(S10)では、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFと、深さ間隔Δxと、時間間隔Δtとを用いて、上記の塩化物イオン量現状推定工程(S8)により求められる各深さxiの塩化物イオン量F(xi,t)を初期値として、修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)についての、初期時間tの次時点tから目標時間tQまでの各時間tjにおける塩化物イオン量F(xi,tj)を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、xA≦xi≦xPの範囲に限る。)
によって数値計算することで求める。
【0183】
ここで、修復部11と既設のコンクリート構造物10とでは、一般的に内部構造がそれぞれ異なるため、自ずと塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が異なってくるものと考えられる。したがって、原則的には、塩化物イオン量将来予測工程(S10)においても、修復部表面深さxAから凹陥部底面深さxDまでの深さ範囲(xA≦xi<xD)に関する塩化物イオンの見掛け拡散係数DFと、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)に関する塩化物イオンの見掛け拡散係数DFとに、それぞれ異なる数値が代入される。
【0184】
なお、この塩化物イオン量将来予測工程(S10)によれば、その前工程である塩化物イオン量現状推定工程(S8)で初期時間tに建設経過時間tEが用いられる場合(t=tE)、かかる建設経過時間tEの時点から時間Q・Δtが更に経過した目標時間tQ(=t+Q・Δt=tE+Q・Δt)の時点における、当該損傷発生コンクリート構造物10内の塩化物イオンの拡散分布状況を予測することができる。
【0185】
図6(b)は、塩化物イオン量将来予測工程(S10)による計算結果の一例をグラフ化した図であって、このグラフには、塩化物イオン量将来予測工程(S10)により求めた塩化物イオン量F(xi,tQ)の値を白丸印(図中○)でプロットして作成した将来予測線32が図示されている。なお、図6(b)に示すグラフには、図6(a)の場合と同様の条件で、縦軸、横軸、破線状の横線、1点鎖線状の縦線、2点鎖線状の縦線、及び、破線状の縦線が図示されている。
【0186】
次に、図8(a)を参照して、修復部詳細設定工程(S11)について説明する。
【0187】
修復部詳細設定工程(S11)では、まず、修復部基本設定工程(S6)により設定された「修復部11の基本設定条件」を除いた「修復部11の詳細設定条件」、即ち、防錆部厚W1の値および防錆部オフセット量κの値が設定され、これらの設定値に基づいて、上記した断面モデル30に関する、防錆部深さxBの値、非防錆部11c,11cの厚さW2',W2"の値、及び、非防錆部厚W2の値が、それぞれ設定される。
【0188】
なお、修復部基本設定工程(S6)により設定される「修復部11の基本設定条件」と、修復部詳細設定工程(S11)により設定される「修復部11の詳細設定条件」をまとめて、「修復部11の設定条件」ともいう。
【0189】
具体的には、損傷発生コンクリート構造物10に施工される防錆部11bに関する防錆部厚W1の値及び防錆部オフセット量κの値をそれぞれ任意の数値に設定した上で、その防錆部厚W1及び防錆部オフセット量κの値と修復部基本設定工程(S6)で設定された凹陥部底面深さxDの値とを上記式(9)に代入することで、防錆部深さxBの値が設定される。
【0190】
また、防錆部オフセット量κの値を上記式(10)に代入することで、非防錆部11cの厚さW2'の値が設定される。さらに、防錆部深さxBの値と修復部基本設定工程(S6)で設定された修復部表面深さxAの値とを上記式(11)に代入することで、非防錆部11cの厚さW2"の値が設定され、非防錆部11c,11cの厚さW2',W2"の値を上記式(12)に代入することで、非防錆部厚W2の値が設定される。
【0191】
なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、防錆部オフセット量κの値が0cmに設定される(κ=0)。このため、上記式(10)〜(12)に基づいて、一方の非防錆部11cの厚さW2'の値は0cmとなり(W2'=0)、他方の非防錆部11cの厚さW2"が非防錆部厚W2と等しくなり(W2=W2")、非防錆部厚W2は、防錆部深さxBから修復部表面深さxAを差し引いた差分に等しくなる(W2=xB−xA)。
【0192】
さらに、この修復部詳細設定工程(S11)では、施工前の防錆補修材に混合されている防錆成分の量である防錆成分初期混合量G1の値が設定されるとともに、非防錆部11cを形成する非防錆補修材、即ち、防錆剤無添加の状態における補修材自体に予め含有している防錆成分量である補修材防錆成分既存量G2の値が設定される。
【0193】
なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、防錆成分初期混合量G1の値が55.0kg/m3とされ、補修材防錆成分既存量G2の値が0kg/m3とされている。
【0194】
この後、修復部詳細設定工程(S11)では、原則として、深さxから修復部表面深さxAまでの深さ範囲(x≦xi<xA)、及び、深さxPを超える深さ範囲(xi>xP)についての、初期時間tにおける防錆成分量G(xi,t)の値を、次式(20):
G(xi,t)=0 ……(20)
(但し、x≦xi<xAの範囲と、xi>xPの範囲とに限る。)
に示すように全て0kg/m3に設定する。なぜなら、深さxから修復部表面深さxAまでの深さ範囲(x≦xi<xA)は、実際にはコンクリート構造物外であることから防錆成分の存在を考慮する必要性がなく、かつ、深さxPを超える深さ範囲(xi>xP)については数値計算の対象外の範囲だからである。
【0195】
また、修復部表面深さxAから防錆部深さxBまでの深さ範囲(xA≦xi<xB)、即ち、非防錆部11cについての初期時間tにおける防錆成分量G(xi,t)の値を、次式(21):
G(xi,t)=G2 ……(21)
(但し、xA≦xi<xBの範囲に限る。)
に示すように、補修材防錆成分既存量G2に設定する。なぜなら、非防錆補修材(防錆剤無添加の補修材)から成る非防錆部11cとはいえ、微量の防錆成分が予め含有している場合も想定され、かかる場合を計算条件として考慮するためである。
【0196】
また、防錆部深さxBから凹陥部底面深さxDまでの深さ範囲(xB≦xi<xD)、即ち、防錆部11bについての初期時間tにおける防錆成分量G(xi,t)の値を、次式式(22):
G(xi,t)=G1 ……(22)
(但し、xA≦xi<xDの範囲に限る。)
に示すように、防錆成分初期混合量G1に設定する。
【0197】
さらに、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)についての初期時間tにおける防錆成分量G(xi,t)の値を、次式(23):
G(xi,t)=G0 ……(23)
(但し、xD≦xi≦xPの範囲に限るものとし、xD≦xF≦xPの条件を満たすものとする。)
に示すように、損傷発生コンクリート構造物10のコンクリート内に予め既存している防錆成分の量である既設コンクリート防錆成分既存量G0に設定する。
【0198】
なお、この修復部詳細設定工程(S11)において建設経過時間tEが初期時間tに代入されると(t=tE)、当該建設経過時間tEの時点が補修工法の施工時点として、次処理の防錆成分量将来予測工程(S12)による数値計算が実行されることとなる。このとき、初期時間tとして代入される建設経過時間tEは、コンクリート構造物10の建設時点から塩化物イオン量測定工程(S3)の実施時点までの経過時間とすれば良いが、塩化物イオン量測定工程(S3)の実施時点から補修工法の施工時点まで一定期間がある場合など事情がある場合は、建設経過時間tEとして損傷発生コンクリート構造物10の建設時点から補修工法の施工時点までの経過時間も用いても良い。
【0199】
図8(a)は、防錆成分量G(xi,tj)と深さxiとの関係をグラフ化した図であって、修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)による「修復部11の設定条件」の一例を表したものである。この図8(a)に示すグラフには、防錆成分量G(xi,tj)(kg/m3)を示す縦軸と、深さxI(cm)を示す横軸と、修復部表面深さxAを示す1点鎖線状の縦線と、凹陥部底面深さxDを示す2点鎖線状の縦線と、深部埋設鉄筋深さxFを示す破線状の縦線と、防錆部深さxBを示す3点鎖線状の縦線とが図示されている。
【0200】
また、図8(a)に示すグラフには、修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)により設定した防錆成分量G(xi,t)の値を黒丸印(図中●)でプロットして作成した初期設定線51が図示されている。ここで、初期設定線51は、非防錆部11c内の防錆成分量G(xi,t)と、防錆部11b内の防錆成分量G(xi,t)と、既設コンクリート(コンクリート構造物10)内の防錆成分量G(xi,t)との間に大きな格差があるため、防錆部深さxB及び凹陥部底面深さxDの2箇所で不連続となっている。
【0201】
なお、この初期設定線51は、損傷発生コンクリート構造物10のかぶり厚ΔWk、修復部厚W0、深さ間隔Δx、建設経過時間tE、及び、初期時間tについて、図6に示した計算例で用いたものと同じ数値を使用している。
【0202】
次に、図8(b)を参照して、防錆成分量将来予測工程(S12)について説明する。
【0203】
防錆成分量将来予測工程(S12)では、防錆成分の見掛け拡散係数DGと、深さ間隔Δxと、時間間隔Δtとを用いて、上記した修復部詳細設定工程(S11)により設定される各深さxiの防錆成分量G(xi,t)を初期値として、修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)についての、初期時間tの次時点tから目標時間tQまでの各時間tjにおける各深さxiの防錆成分量G(xi,tj)を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、xA≦xi≦xPの範囲に限る。)
によって数値計算することで求める。
【0204】
ここで、修復部11と既設のコンクリート構造物10とでは、一般的に内部構造がそれぞれ異なるため、自ずと防錆成分の見掛け拡散係数DGの値が異なってくるものと考えられる。したがって、原則的には、防錆成分量将来予測工程(S12)においても、修復部表面深さxAから凹陥部底面深さxDまでの深さ範囲(xA≦xi<xD)に関する防錆成分の見掛け拡散係数DGと、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)に関する防錆成分の見掛け拡散係数DGとに、それぞれ異なる数値が代入されることとなる。
【0205】
図8(b)は、防錆成分量G(xi,tj)と深さxiとの関係をグラフ化した図であって、防錆成分量将来予測工程(S12)による計算結果の一例を表したものである。この図8(b)に示すグラフには、防錆成分量将来予測工程(S12)により求めた防錆成分量G(xi,tQ)の値を白丸印(図中○)でプロットして作成した将来予測線52が図示されている。
【0206】
なお、この将来予測線52は、損傷発生コンクリート構造物10のかぶり厚ΔWk、修復部厚W0、深さ間隔Δx、建設経過時間tE、初期時間t、目標時間tQ、及び、時間間隔Δtについては、図6に示した計算例で用いたものと同じ数値を使用しており、修復部表面深さxAから凹陥部底面深さxDまでの深さ範囲(xA≦xi≦xD)の防錆成分の見掛け拡散係数DG=0.3×10−9cm2/secとし、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)の防錆成分の見掛け拡散係数DG=3.0×10−8cm2/secとして計算したものである。
【0207】
次に、再損傷発生時間推定工程(S13)について説明する。
【0208】
再損傷発生時間推定工程(S13)は、断面修復工法によって修復部11が形成される場合において、防錆部11bから浸透拡散する防錆成分の防錆効果を無視した場合に、初期時間tの時点から、時間経過に伴って損傷発生コンクリート構造物10の深部埋設鉄筋15の位置でひび割れ(再損傷)が発生するまでに要するであろう時間(以下「ひび割れ発生時間」という。)に基づいて、再損傷発生時間tHを設定するための工程である。
【0209】
この再損傷発生時間推定工程(S13)によれば、まずは、実際の損傷発生コンクリート構造物10の深部埋設鉄筋15について測定される腐食電流密度と、その腐食電流密度から求められる腐食速度から導出される年間腐食進行量と、既往の研究成果から求められる鉄筋のひび割れ発生腐食量とに基づいて、ひび割れ発生時間の値が推定計算される。
【0210】
ここで、一般に、損傷発生コンクリート構造物の鉄筋腐食は、既設表面により近い浅い部分に埋設される鉄筋がアノードとなるために進行が大きく、それよりも深い部分に埋設される鉄筋がカソードとなるために進行が小さいのであるが、断面修復工法による補修後にあっては深い位置に埋設される鉄筋の腐食が進行し易くなる。
【0211】
このため、損傷発生コンクリート構造物10に防錆断面修復工法又は複合防錆断面修復工法を施工した後は、深部埋設鉄筋15の位置で短期間でひび割れ(再損傷)が発生することが予測されるので、再損傷発生時間推定工程(S13)においては、その分の安全率を勘案して、再損傷発生時間tHの値が、ひび割れ発生時間の推定計算値よりも小さめの値に設定される。なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、再損傷発生時間tHの値が9.4608×10(≒3年)に設定されている。
【0212】
次に、図9を参照して、第1防錆雰囲気判断工程(S14)について説明する。
【0213】
第1防錆雰囲気判断工程(S14)では、上記した再損傷発生時間設定工程(S13)により設定される再損傷発生時間tHにおける深部埋設鉄筋深さxFでの防錆成分量G(xF,tH)及び塩化物イオン量F(xF,tH)を、上記した防錆成分量将来予測工程(S12)及び塩化物イオン量将来予測工程(S10)による結果から求めて、その防錆成分量G(xF,tH)を塩化物イオン量F(xF,tH)で割った比率をモル換算した判定モル比R(xF,tH)が防錆雰囲気モル比R0の値を超えているか否かを判断する。
【0214】
図9は、第1防錆雰囲気判断工程(S14)及び第2防錆雰囲気判断工程(S17)を説明するための図であって、初期時間tから目標時間tQまで時間tjが変化するときの、深部埋設鉄筋深さxFにおける塩化物イオン量F(xF,tj)、防錆成分量G(xF,tj)及び判定モル比R(xF,tj)の変化に関する計算結果の一例をグラフ化したものである。ここで、防錆雰囲気モル比R0の値は、工学的な判断に基づいて略0.6〜1.0の範囲で適宜設定される特性値である。なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、防錆雰囲気モル比R0の値が0.8とされている。
【0215】
図9に示すグラフには、塩化物イオン量F(xF,tj)、防錆成分量G(xF,tj)及び判定モル比R(xF,tj)を示す縦軸と、初期時間tから目標時間tQまで変化する時間tjを示す横軸と、発錆限界塩化物イオン量Fcの値を示す破線状の横線と、防錆雰囲気モル比R0の値を示す1点鎖線状の横線とが図示されている。
【0216】
また、図9に示すグラフには、深部埋設鉄筋深さxFにおける塩化物イオン量F(xF,tj)の値を白抜き四角印(図中□)を用いて各時間tj毎にプロットした塩化物イオン量変化線61と、深部埋設鉄筋深さxFにおける防錆成分量G(xF,tj)の値を黒塗り四角印(図中■)を用いて各時間tj毎にプロットした防錆成分量変化線62とが図示されている。
【0217】
さらに、図9に示すグラフには、深部埋設鉄筋深さxFにおける防錆成分量G(xF,tj)及び塩化物イオン量F(xF,tj)を、上記した防錆成分量将来予測工程(S12)及び塩化物イオン量将来予測工程(S10)による結果から求めて、その防錆成分量G(xF,tj)を塩化物イオン量F(xF,tj)で割った比率(G(xF,tj)/F(xF,tj))をモル換算した判定モル比R(xF,tj)の値を、白抜き丸印(図中○)を用いて各時間tj毎にプロットした判定モル比変化線63も図示されている。
【0218】
このモル比変化線63は、時間tjが時間tM(後述する判定モル比R(xF,tj)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなる時間をいう。以下「防錆化時間tM」ともいう。)の時点において防錆雰囲気モル比R0の値を示す横線と交差し(R(xF,tM)=R0)、時間tjが防錆化時間tM前の時点において防錆雰囲気モル比R0の値を示す横線より下側にあり(R(xF,tM)<R0)、時間tjが防錆化時間tM後の時点において防錆雰囲気モル比R0の値を示す横線より上側にある(R(xF,tM)>R0)。
【0219】
このことは、つまり、コンクリート構造物10に対して防錆断面修復工法又は複合防錆断面修復工法を施工する場合、初期時間tからの経過時間tjが防錆化時間tMよりも前ならば(tj<tM)、深部埋設鉄筋15の背面位置に防錆成分による防錆雰囲気が形成されず、初期時間tからの経過時間tjが防錆化時間tM以後ならば(tj≧tM)、深部埋設鉄筋15の背面位置に防錆成分による防錆雰囲気が形成されることを示唆している。
【0220】
ここで、第1防錆雰囲気判断工程(S14)における「R(xF,tH)<R0」の分岐処理について、図9を参照して説明する。
【0221】
例えば、図9に示したモル比変化線63のように、再損傷発生時間tHにおける深部埋設鉄筋深さxFでの判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値未満となるならば(S14:R(xF,tH)<R0)、上記した修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)による設定条件に基づく防錆断面修復工法では、コンクリート構造物10の深部埋設鉄筋15の背面位置が防錆雰囲気となる前に、その深部埋設鉄筋15に再損傷が発生することが予測され、故に、損傷発生コンクリート構造物10に適合した補修効果を発揮し得ないものと判定(判断)することができる。
【0222】
そこで、かかる場合(S14:R(xF,tH)<R0)には、処理をS15へ移行して、「修復部11の詳細設定条件」の変更をするか否かを検討して(S15)、これを変更する場合には(S15:Yes)、処理をS11へ移行して、修復部詳細設定工程(S11)によって「修復部11の詳細設定条件」の数値を変更してから、S12からS14までの処理を実行して、第1防錆雰囲気判断工程(S14)にて、再損傷発生時間tHにおける深部埋設鉄筋深さxFでの判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以上となるまで(S14:R(xF,tH)≧R0)、S11からS15までの処理を繰り返して、適正な「修復部11の詳細設定条件」の数値を求めるのである。一方、「修復部11の詳細設定条件」の変更するか否かを検討した結果、「修復部11の詳細設定条件」の変更しない場合には(S15:No)、次処理である犠牲陽極有効時間設定工程(S16)を実行するのである。
【0223】
また、第1防錆雰囲気判断工程(S14)における「R(xF,tH)≧R0」の分岐処理について説明する。
【0224】
図9に示す場合とは違って、第1防錆雰囲気判断工程(S14)によって、再損傷発生時間tHにおける深部埋設鉄筋深さxFでの判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以上となる場合(S14:R(xF,tH)≧R0)、上記した修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)による設定条件を満足する防錆断面修復工法ならば、コンクリート構造物10の深部埋設鉄筋15に再損傷が発生する前に、その深部埋設鉄筋15の背面位置が防錆雰囲気となることが予測され、故に、損傷発生コンクリート構造物10に適合した補修効果を発揮するものと判定することができる。
【0225】
そこで、かかる場合(S14:R(xF,tH)≧R0)は、上記した修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)によって設定される「修復部11の設定条件」の各数値に適合した修復部11を施工する防錆断面修復工法を、当該損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として採用することを決定して(S20)、この補修工法適性判定方法を終了するのである。
【0226】
次に、犠牲陽極有効時間設定工程(S16)について説明する。
【0227】
犠牲陽極有効時間設定工程(S16)は、複合防錆断面修復工法において犠牲陽極部材16等が使用される場合に、当該使用される犠牲陽極部材16等が防食機能を発揮する有効期間(以下「防食有効期間」という。)を求めて、その防食有効期間に基づいて、複合防錆断面修復工法で使用される犠牲陽極部材16等の設定条件である犠牲陽極有効時間tKを、設定するための工程である。
【0228】
この犠牲陽極有効時間設定工程(S16)によれば、まず、犠牲陽極部材16等の防食有効期間が、犠牲陽極部材16等の重量と防食電流に応じた単位時間当たりの犠牲陽極部材16等の消費量との関係に基づいて推定計算される。そして、この犠牲陽極部材16等の防食有効期間に対する安全率を勘案して、犠牲陽極有効時間tKの値が、防食有効期間の推定計算値よりも小さめの値に設定される。なお、以下に説明する具体的な数値計算例においては、犠牲陽極有効時間tKの値が3.1536×10(≒10年)に設定されている。
【0229】
次に、図9を参照して、第2防錆雰囲気判断工程(S17)について説明する。
【0230】
第2防錆雰囲気判断工程(S17)では、上記した犠牲陽極有効時間設定工程(S16)により設定される犠牲陽極有効時間tKにおける深部埋設鉄筋深さxFでの防錆成分量G(xF,tK)及び塩化物イオン量F(xF,tK)を、上記した防錆成分量将来予測工程(S12)及び塩化物イオン量将来予測工程(S10)による結果から求めて、その防錆成分量G(xF,tK)を塩化物イオン量F(xF,tK)で割った比率をモル換算した判定モル比R(xF,tK)が防錆雰囲気モル比R0の値を超えているか否かを判断する。
【0231】
ここで、第2防錆雰囲気判断工程(S17)における「R(xF,tH)≧R0」の分岐処理について、図9を参照して説明する。
【0232】
例えば、図9に示したモル比変化線63のように、犠牲陽極有効時間tKにおける深部埋設鉄筋深さxFでの判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以上となる場合(S17:R(xF,tK)≧R0)、上記した修復部基本設定工程(S6)、修復部詳細設定工程(S11)及び犠牲陽極有効時間設定工程(S16)による設定条件を満足する複合防錆断面修復工法ならば、コンクリート構造物10の深部埋設鉄筋15の背面位置に防錆雰囲気が形成されるまで犠牲陽極部材16等によって深部埋設鉄筋15が防食されることが予測され、故に、損傷発生コンクリート構造物10に適合した補修効果を発揮するものと判定することができる。
【0233】
そこで、かかる場合(S17:R(xF,tK)≧R0)は、上記した修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)によって設定される「修復部11の設定条件」の各数値に適合した修復部11を施工し、かつ、犠牲陽極有効時間設定工程(S16)によって設定される犠牲陽極有効時間tKを満足する犠牲陽極部材16等を用いた複合防錆断面修復工法を、当該損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として採用することを決定して(S21)、この補修工法適正判定方法を終了するのである。
【0234】
また、第2防錆雰囲気判断工程(S17)における「R(xF,tH)<R0」の分岐処理について説明する。
【0235】
図9に示す場合とは違って、第2防錆雰囲気判断工程(S17)によって、犠牲陽極有効時間tKにおける深部埋設鉄筋深さxFでの判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値未満となるならば(S14:R(xF,tK)<R0)、上記した修復部基本設定工程(S6)、修復部詳細設定工程(S11)及び犠牲陽極有効時間設定工程(S16)による設定条件に基づく複合防錆断面修復工法では、コンクリート構造物10の深部埋設鉄筋15の背面位置に防錆雰囲気が形成される前に、犠牲陽極部材16等の防食機能が低下して深部埋設鉄筋15に再損傷が発錆することが予測され、故に、損傷発錆コンクリート構造物10に適合した補修効果を発揮し得ないものと判定することができる。
【0236】
そこで、かかる場合(S14:R(xF,tK)<R0)には、処理をS18へ移行して、「修復部11の基本設定条件」の変更をするか否かを検討して(S18)、これを変更しない場合には(S18:No)、処理をS16へ移行して、犠牲陽極有効時間設定工程(S16)によって犠牲陽極部材16等の設定条件である犠牲陽極有効時間tKの値を変更してから、第2防錆雰囲気判断工程(S17)を実行して、犠牲陽極有効時間tKにおける深部埋設鉄筋深さxFでの判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値以上となるまで(S17:R(xF,tK)≧R0)、S16及びS17の処理を繰り返して、適正な犠牲陽極有効時間tKの値を求めるのである。一方、「修復部11の基本設定条件」を変更する場合には(S18:Yes)、一旦、この補修工法適正判定方法を終了して、再度、補修工法適性判定方法を行うときに、修復部基本設定工程(S6)において、新たな「修復部11の基本設定条件」を設定するのである。
【0237】
なお、以上説明した補修工法適正判定方法において、「修復部11の基本設定条件」、「修復部11の詳細設定条件」及び「犠牲陽極有効時間tK」の各数値の変更をいくら繰り返してみても、第2防錆雰囲気判断工程(S17)において判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値未満となる場合は(S14:R(xF,tK)<R0)、この補修工法適正判定方法の実行を強制的に終了して、損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として、例えば、断面修復工法に電気化学的脱塩工法や電気防食工法を併用した工法など(以下「電気防食工法等」という。)を採用することを検討することもできる。
【0238】
図10から図15を参照して、上記した損傷発生コンクリート構造物10に関する補修工法適性判定方法の変形例について説明する。
【0239】
そこで、まずは、図10から図14を参照して、損傷発生コンクリート構造物10に適した補修工法を判定するために利用される補修工法判定チャート70,80,90,100,110について説明する。
【0240】
なお、以下に説明する具体的な数値計算例においても、上記した数値計算例と同様に、初期含有全塩化物イオン量Fintが0kg/m3、鉄筋間隔εが0cm、既設コンクリート防錆成分既存量G0が0kg/m3、はつり厚ΔWhが損傷部鉄筋距離ΔWsと等しく(ΔWh=ΔWs)、補修材塩化物イオン初期量F1が0kg/m3、防錆部オフセット量κが0cm、防錆成分初期混合量G1が55.0kg/m3、補修材防錆成分既存量G2が0kg/m3、防錆雰囲気モル比R0が0.8に設定されるものとする。
【0241】
図10(a)は、非防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート70の一例であり、図10(b)は、防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート80の一例であり、図10(c)は、複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート90の一例であり、図10(d)は、図10(c)に示す補修工法判定チャート90に対し、防錆部厚W1の値を変更した複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート100の一例である。
【0242】
図10に示すように、各補修工法判定チャート70,80,90,100はそれぞれ、表面塩化物イオン量F0(kg/m3)を示す縦軸と、塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(cm2/sec)を示す横軸とを備えており、そのグラフ(チャート)枠内が、補修効果境界線73,83,93,103によって、損傷発生コンクリート構造物10に対して各補修工法を施工した場合に補修効果が有効に発揮されることを示す補修有効領域71,81,91,101と、その補修効果が発揮されずに無効となることを示す補修無効領域72,82,92,102と区画されることで、形成されている。
【0243】
すなわち、これらの補修工法判定チャート70,80,90,100は、各種の補修工法による補修効果の有無について、表面塩化物イオン量F0と見掛け拡散係数DFとの相関関係を表した相関図である。また、各補修工法判定チャート70,80,90,100によれば、損傷発生コンクリート構造物10についての発錆限界塩化物イオン量Fcと、深部埋設鉄筋距離ΔWdと、建設経過時間tEとが所定の値に固定されており、かかる発錆限界塩化物イオン量Fc、深部埋設鉄筋距離ΔWd及び建設経過時間tEを有する損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法の効果の有無を判定するために利用される。
【0244】
図10(a)に示す補修工法判定チャート70は、発錆限界塩化物イオン量Fcが1.2kg/m3で、深部埋設鉄筋距離ΔWdが7.0cmで、建設経過時間tEが6.62256×10sec(≒21年)である損傷発生コンクリート構造物10に対し、非防錆補修材を用いて非防錆断面修復工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。
【0245】
なお、この補修工法判定チャート70の作成に際する初期設定条件は、深さxが既設表面深さxSに等しく、かぶり厚ΔWkが3.0cm、はつり厚ΔWhが5.0cm、損傷部鉄筋距離ΔWsが5.0cm、修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が0cm、深さ間隔Δxが0.5cm、初期時間tが建設経過時間tEに等しく、目標時間tQが9.77616×10sec(≒31年)、時間間隔Δtが8.64×10sec(=10日)、修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)についての防錆成分の見掛け拡散係数DGが3・0×10−9cm2/sec、表面塩化物イオン量F0に関する最小値F0minが0kg/m3、最大値F0maxが35kg/m3、変化量ΔF0が1.0kg/m3、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFに関する最小値DFminが1.0×10−8cm2/sec、最大値DFmaxが7.0×10−8cm2/sec、変化量ΔDFが1.0×10−8cm2/sec、とされている。
【0246】
図10(b)に示す補修工法判定チャート80は、発錆限界塩化物イオン量Fcと深部埋設鉄筋距離ΔWdと建設経過時間tEとが図10(a)と等しい損傷発生コンクリート構造物10に対して、防錆断面修復工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。なお、この補修工法判定チャート80の作成に際する初期設定条件は、防錆部厚W1が1.0cm、再損傷発生時間tHが9.4608×10(≒3年)とされる点を除いて、上記した図10(a)に関する初期設定条件と同様である。
【0247】
図10(c)に示す補修工法判定チャート90は、発錆限界塩化物イオン量Fcと深部埋設鉄筋距離ΔWdと建設経過時間tEとが図10(a)及び図10(b)の場合と等しい損傷発生コンクリート構造物10に対して、複合防錆断面修復工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。なお、この補修工法判定チャート90の作成に際する初期設定条件は、犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)される点を除いて、上記した図10(b)に関する初期設定条件と同様である。
【0248】
図10(d)に示す補修工法判定チャート100は、発錆限界塩化物イオン量Fcと深部埋設鉄筋距離ΔWdと建設経過時間tEとが図10(a)から図10(c)の場合と等しい損傷発生コンクリート構造物10に対して、防錆部厚W1の値を変更した複合防錆断面修復工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。なお、この補修工法判定チャート100の作成に際する初期設定条件は、防錆部厚W1が2.5cmとされる点を除いて、上記した図10(c)に関する初期設定条件と同様である。
【0249】
次に、図11を参照して、上記した補修工法判定チャート70,80,90,100についての変形例である、補修工法判定チャート110について説明する。
【0250】
図11は、複数の補修工法に関する補修工法判定チャートを重畳した作成された補修工法判定チャート110の一例である。この図11に示す補修工法判定チャート110は、上記した図10に示す各チャート70,80,90,100と同様に、発錆限界塩化物イオン量Fcが1.2kg/m3で、深部埋設鉄筋距離ΔWdが7.0cmで、建設経過時間tEが6.62256×10sec(≒21年)である損傷発生コンクリート構造物10に対し、補修工法を施工したときの補修効果の有無を判定するために利用されるものである。
【0251】
図11に示す補修工法判定チャート110は、上記した合計4種類の補修工法判定チャート70,80,90,100の座標軸のスケールを一致させて重畳することで作成されたものであって、
(a) 修復部厚W0が5.0cm及び防錆部厚W1が0cmである非防錆断面修復工法による場合と、
(b) 修復部厚W0が5.0cm及び防錆部厚W1が1.0cmである防錆断面修復工法による場合と、
(c) 修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が1.0cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法による場合と、
(d) 修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が2.5cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法による場合と、
(e) 電気防食工法等による場合と、
について同時に比較検討することができるものである。
【0252】
この補修工法判定チャート110は、4本の補修効果境界線116〜119によって合計5つの領域に区画されており、これら5つの領域は、グラフ枠内の基準点側(図11の左下側)から対角線方向(図11の右上方向)に向かって順番に、第1種領域111と、第2種領域112と、第3種領域113と、第4種領域114と、第5種領域115とに区画されている。
【0253】
ここで、第1種領域111は、非防錆断面修復工法のみを施すことで深部埋設鉄筋15の再損傷を防止することが可能なことを示す領域である。また残る、第2種領域112は、修復部厚W0が5.0cm及び防錆部厚W1が1.0cmである防錆断面修復工法を施すことで、第3種領域113は、修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が1.0cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施すことで、第4種領域114は、修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が2.5cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施すことで、第5種領域115は電気防食工法等を施すことで、深部埋設鉄筋15の再損傷を防止することが可能なことを示す領域である。
【0254】
なお、例えば、図10(b)に示す補修工法判定チャート80について防錆部厚W1の値を変更した補修工法判定チャートを、補修工法判定チャート110に更に重畳するようにしても良い。
【0255】
つまり、損傷発生コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が属する領域が、
(a) 第1種領域111ならば当該損傷発生コンクリート構造物10に対して非防錆断面修復工法を施工することが適切であり、
(b) 第2種領域112ならば当該損傷発生コンクリート構造物10に対して修復部厚W0が5.0cm及び防錆部厚W1が1.0cmである防錆断面修復工法を施工することが適切であり、
(c) 第3種領域113ならば当該損傷発生コンクリート構造物10に対して修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が1.0cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工することが適切であり、
(d) 第4種領域114ならば当該損傷発生コンクリート構造物10に対して修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が2.5cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工することが適切であり、
(e) 第5種領域115ならば当該損傷発生コンクリート構造物10に対して電気防食工法等を施工することが適切であると判定することができる。
【0256】
なお、図11に示す補修工法判定チャート110のように、複数種類の補修工法に関する補修工法判定チャートを重畳する場合は、上記した発錆限界塩化物イオン量Fcや深部埋設鉄筋距離ΔWdや建設経過時間tEなどの損傷発生コンクリート構造物10を特定するための数値条件や、上記した修復部厚W0や防錆部厚W1や犠牲陽極有効時間tkなどの各補修工法を特定するための数値条件を固定パラメータとする場合にのみ限定されるものではなく、これらを除く他の数値条件を固定パラメータとして、複数の補修工法に関する補修工法判定チャートを重畳して作成しても良い。
【0257】
図12を参照して、補修工法判定チャート作成方法について説明する。
【0258】
図12は、非防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート70の作成方法の処理手順を示すフローチャートである。なお、図12に関する説明では、図3中にあるのと同じ工程については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0259】
図12に示すように、補修工法判定チャート作成方法は、上記した補修工法適性判定方法(図3参照)におけるコンクリート構造物設定工程(S5)から塩化物イオン量現状推定工程(S8)までの一連の処理と、その塩化物イオン量現状推定工程(S8)の次に実行される発錆雰囲気判断工程(S9)を一部変更した発錆雰囲気判断工程(S9’)とを備えている。
【0260】
なお、発錆雰囲気判断工程(S9’)は、図3で説明した発錆雰囲気判断工程(S9)に対し、その判断内容が塩化物イオン量F(xD,t)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcの値とが等しいか否かを判断するものに変更されており、その「F(xD,t)=Fc」の分岐をS34の処理に、その「F(xD,t)≠Fc」の分岐をS35の処理に、それぞれ接続したものである。
【0261】
この補修工法判定チャート作成方法では、まず、損傷発生コンクリート構造物10の発錆限界塩化物イオン量Fc、及び、損傷発生コンクリート構造物10の建設時点からの建設経過時間tEを所定値に設定する(S31)。それから、塩化物イオン量現状推定工程(S9’)で必要とされる初期時間tに建設経過時間tEの値を代入する(S32)。
【0262】
このS32の処理の後は、表面塩化物イオン量F0に最小値F0minの値が代入されて、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFに最小値DFminの値が代入される(S33)。そして、この後は、塩化物イオン量FOの値を最小値F0minから最大値F0maxまで一定の変化量ΔF0ずつ変化させ、なおかつ、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値も最小値DFminから最大値DFmaxまで一定の変化量ΔDFずつ変化させて、処理S5〜S9’及びS34〜S39が繰返し実行される。
【0263】
そして、この繰り返しの結果、初期時間tにおける凹陥部底面深さxDでの塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値と等しくなるときの、塩化物イオン量FOの値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値との組み合わせが求められ、その組み合わせが示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットしていくのである(S34)。
【0264】
ここで、処理S5〜S9’及びS34〜S39までの具体的な処理の流れを説明すると、まず、コンクリート構造物設定工程(S5)、修復部基本設定工程(S6)及び設定条件チェック工程(S7)が実行され、その後、塩化物イオン量現状推定工程(S8)及び、発錆雰囲気判断工程(S9’)の処理が実行され、発錆雰囲気判断工程(S9’)によって、初期時間tにおける凹陥部底面深さxDでの塩化物イオン量F(xD,t)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcとが比較される。
【0265】
なお、発錆雰囲気判断工程(S9’)の判断処理では、塩化物イオン量F(xD,t)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcの値とが完全に等しいか否かを判断することが必ずしも要求されるものではなく、その判断処理には種々のアルゴリズムが適用可能である。例えば、塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの前後数%の範囲内となる場合、具体的には、塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの前後5%の範囲内にある場合(0.95・Fc≦F(xD,t)≦1.05・Fc)をもって、塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値に等しいものとして処理するものであっても良い。
【0266】
発錆雰囲気判断工程(S9’)による今回の判断結果が、塩化物イオン量F(xD,t)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcの値とが等しいとするものならば(S9’:F(xD,t)=Fc)、今回のS8の計算処理で用いられた表面塩化物イオン量F0の値及び見掛け拡散係数DFの値が示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットする(S34)。
【0267】
一方、発錆雰囲気判断工程(S9’)による今回の判断結果として塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値と不等となるならば(S9’:F(xD,t)≠Fc)、今回のS8の計算処理で用いられた塩化物イオンの見掛け拡散DFの値に変化量ΔDFを加算して、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を更新する(S35)。
【0268】
このS35により更新された塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大値DFmaxの値を超過していなければ(S36:No)、処理をS8へ移行する。そして、塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値と等しくなるまで(S9’:F(xD,t)=Fc)、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過するまで(S36:Yes)、表面塩化物イオン量F0の値を一定に保持したまま、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを変化量ΔDFずつ更新して、処理S8,S9’及びS35,S36の処理で構成されるループ処理を繰返し実行する。
【0269】
また、S34の処理によるプロット後、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過する場合は(S36:Yes)、S8,S9’及びS35,S36の処理で構成されるループ処理において一定保持されてきた表面塩化物イオン量F0の値に変化量ΔF0を加算して、表面塩化物イオン量F0の値を更新する(S37)。
【0270】
そして、このS37により更新された表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過していなければ(S38:No)、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を最小値DFminにリセットして(S39)、処理をS8へ移行する。この結果、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過するまで(S38:Yes)、表面塩化物イオン量F0が変化量ΔF0ずつ更新されて、処理S8、S9’及びS35〜S39で構成されるループ処理が繰返し実行されるのである。
【0271】
そして、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過すると(S38:Yes)、塩化物イオン量FOの値が最小値F0minから最大値F0maxまで変化されたので、この補修工法判定チャート作成方法に関する一連の処理を終了するのである。
【0272】
この後は、上記したS34の処理によって表面塩化物イオン量F0と見掛け拡散係数DFとの相関を表す相関図上にプロットされた各座標位置(F0,DF)を繋げば、補修効果境界線(F(xD,t)=Fc)が相関図上に描画される。
【0273】
すると、この補修効果境界線によって、塩化物イオン量F(xD,t)の値が発錆限界塩化物イオン量Fcの値より大きくなる補修有効領域(F(xD,t)<Fc)と、その塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値より小さくなる補修無効領域(F(xD,t)>Fc)とが区画形成されて、非防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート(図10(a)参照)が作成されるのである。
【0274】
次に、図13を参照して、上記した補修工法判定チャート作成方法の第1変形例について説明する。
【0275】
図13は、防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート80の作成方法の処理手順を示すフローチャートである。なお、図13に関する説明では、図3及び図12中にあるのと同じ工程については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0276】
図13に示されている補修工法判定チャート作成方法は、図12で説明した補修工法判定チャート作成方法に対し、発錆雰囲気判断工程(S9’)を発錆雰囲気判断工程(S9)に変更した上で、この発錆雰囲気判断固定(S9)の後に、図3で説明した塩化物イオン量将来予測工程(S10)から再損傷発生時間設定工程(S13)までの一連の処理を追加し、この再損傷発生時間設定工程(S13)の後に、更に、図3で説明した第1防錆雰囲気判断工程(S14)を一部変更した第1防錆雰囲気判断工程(S14’)を追加したものである。
【0277】
なお、第1防錆雰囲気判断工程(S14’)は、図3で説明した第1防錆雰囲気判断工程(S14)に対し、その判断内容が判定モル比R(xF,tH)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが等しいか否かを判断するものに変更されており、その「R(xF,tH)=R0」の分岐をS34の処理に、その「R(xF,tH)≠R0」の分岐をS35の処理に、それぞれ接続したものである。
【0278】
この補修工法判定チャート作成方法では、まず、損傷発生コンクリート構造物10の発錆限界塩化物イオン量Fc、損傷発生コンクリート構造物10の建設時点からの建設経過時間tE、及び、損傷発生コンクリート構造物10に関する防錆成分の見掛け拡散係数DGを所定値に設定する(S31’)。それから、補修工法判定チャートを作成するための数値計算上の開始時間である初期時間tに建設経過時間tEの値を代入し、当該数値計算上の終了時間である目標時間tQが所定値に設定され、更に、数値計算上の必要とされる防錆雰囲気モル比R0、時間間隔Δt及び深さ間隔Δxが所定値に設定される(S32’)。
【0279】
このS32’の処理の後は、表面塩化物イオン量F0に最小値F0minの値が代入されて、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFに最小値DFminの値が代入される(S33)。そして、この後は、塩化物イオン量FOの値を最小値F0minから最大値F0maxまで一定の変化量ΔF0ずつ変化させ、なおかつ、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値も最小値DFminから最大値DFmaxまで一定の変化量ΔDFずつ変化させて、処理S5〜14’及びS34〜S39が繰返し実行される。
【0280】
そして、この繰り返しの結果、深部埋設鉄筋深さxFにおける再損傷発生時間tHでの判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなるときの、塩化物イオン量FOの値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値との組み合わせが求められ、その組み合わせが示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットしていくのである(S34)。
【0281】
ここで、処理S5〜S14’及びS34〜S39までの具体的な処理の流れを説明すると、まず、上記した図12に示した補修工法判定チャート作成方法の場合と同様に、S5〜S8までの処理を実行した後、発錆雰囲気判断工程(S9)を実行して、凹陥部底面深さxDにおける初期時間tでの塩化物イオン量F(xD,t)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcの値とが比較される。
【0282】
そして、この比較(S9)の結果、塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値以上であれば(S9:F(xD,t)≧Fc)、次に続く塩化物イオン量将来予測工程(S10)から第1防錆雰囲気判断工程(S14’)までの処理を実行し、この第1防錆雰囲気判断工程(S14’)によって、深部埋設鉄筋深さxFにおける再損傷発生時間tHでの判定モル比R(xF,tH)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが比較される。
【0283】
なお、第1防錆雰囲気判断工程(S14’)の判断処理では、判定モル比R(xF,tH)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが完全に等しいか否かを判断することが必ずしも要求されるものではなく、その判断処理には種々のアルゴリズムが適用可能である。例えば、判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の前後数%の範囲内となる場合、具体的に例示すれば、判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の前後5%の範囲内にある場合(0.95・R0≦R(xF,tH)≦1.05・R0)をもって、判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値に等しいものとして処理するものであっても良い。
【0284】
第1防錆雰囲気判断工程(S14’)による今回の判断結果が、判定モル比R(xF,tH)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが等しいとするものならば(S14’:R(xF,tH)=R0)、今回のS8及びS10の計算処理で用いられた表面塩化物イオン量F0の値及び見掛け拡散係数DFの値が示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットする(S34)。
【0285】
一方、第1防錆雰囲気判断工程(S14’)による今回の判断結果として判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と不等となるか(S14’:R(xF,tK)≠R0)、又は、上記した発錆雰囲気判断工程(S9)による今回の判断結果として塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値未満となるならば(S9:F(xD,t)<Fc)、今回のS8及びS10における計算処理で用いられた塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値に変化量ΔDFを加算し、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を更新する(S35)。
【0286】
このS35により更新された塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大値DFmaxの値を超過していなければ(S36:No)、処理をS8へ移行する。そして、塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値以上、且つ、判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなるまで(S9:F(xD,t)≧Fc,S14’:R(xF,tH)=R0)、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過するまで(S19:Yes)、表面塩化物イオン量F0の値を一定に保持したまま、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを変化量ΔDFずつ更新して、処理S8〜S14’及びS35,S36の処理で構成されるループ処理を繰返し実行する。
【0287】
また、S34の処理によるプロット後、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過する場合は(S36:Yes)、S8〜S14’及びS35,S36の処理で構成されるループ処理において一定保持されてきた表面塩化物イオン量F0の値に変化量ΔF0を加算して、表面塩化物イオン量F0の値を更新する(S37)。
【0288】
そして、このS37により更新された表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過していなければ(S38:No)、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を最小値DFminにリセットして(S39)、処理をS8へ移行する。この結果、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過するまで(S38:Yes)、表面塩化物イオン量F0が変化量ΔF0ずつ更新されて、処理S8〜S14’及びS35〜S39で構成されるループ処理が繰返し実行されるのである。
【0289】
そして、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過すると(S38:Yes)、塩化物イオン量FOの値が最小値F0minから最大値F0maxまで変化されたので、この補修工法判定チャート作成方法に関する一連の処理を終了するのである。
【0290】
この後は、上記したS34の処理によって、表面塩化物イオン量F0と見掛け拡散係数DFとの相関を表す相関図上にプロットされた各座標位置(F0,DF)を繋げば、補修効果境界線(R(xF,tH)=R0)が相関図上に描画される。
【0291】
すると、この補修効果境界線によって、判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値より大きくなる補修有効領域(R(xF,tH)>R0)と、その判定モル比R(xF,tH)が防錆雰囲気モル比R0の値より小さくなる補修無効領域(R(xF,tH)<R0)とが区画形成されて、防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート(図10(b)参照)が作成されるのである。
【0292】
次に、図14を参照して、上記した補修工法判定チャート作成方法の第2変形例について説明する。
【0293】
図14は、複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート90,100の作成方法の処理手順を示すフローチャートである。なお、図14に関する説明では、図3、図12及び図13中にあるのと同じ工程については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0294】
図14に示されている補修工法判定チャート作成方法は、上記した図13に示した補修工法判定チャート作成方法に対し、第1防錆雰囲気判断工程(S14’)を第1防錆雰囲気判断工程(S14)に変更した上で、この第1防錆雰囲気工程(S14)の後に、図3で説明した犠牲陽極有効時間設定工程(S16)の処理を追加し、この犠牲陽極有効時間設定工程(S16)の後に、更に、図3で説明した第2防錆雰囲気判断工程(S17)を一部変更した第2防錆雰囲気判断工程(S17’)を追加したものである。
【0295】
なお、第2防錆雰囲気判断工程(S17’)は、図3で説明した第2防錆雰囲気判断工程(S17)に対し、その判断内容が判定モル比R(xF,tK)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが等しいか否かを判断するものに変更されており、その「R(xF,tK)=R0」の分岐をS34の処理に、その「R(xF,tK)≠R0」の分岐をS35の処理に、それぞれ接続したものである。
【0296】
この補修工法判定チャート作成方法では、まず、図13に示す場合と同様に、S31’〜S33までの処理を実行した後、塩化物イオン量FOの値を最小値F0minから最大値F0maxまで一定の変化量ΔF0ずつ変化させ、なおかつ、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値も最小値DFminから最大値DFmaxまで一定の変化量ΔDFずつ変化させて、処理S5〜S14、S16、S17’及びS34〜S39が繰返し実行される。
【0297】
そして、この繰り返しの結果、深部埋設鉄筋深さxFにおける犠牲陽極有効時間tKの経過時点での判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなるときの、塩化物イオン量FOの値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値との組み合わせが求められ、その組み合わせが示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットしていくのである(S34)。
【0298】
ここで、処理S5〜S14、S16、S17’及びS34〜S39までの具体的な処理の流れを説明すると、まず、上記した図13に示した補修工法判定チャート作成方法の場合と同様に、S5〜S9までの処理を実行した後、発錆雰囲気判断工程(S9)を実行して、凹陥部底面深さxDにおける初期時間tでの塩化物イオン量F(xD,t)の値と発錆限界塩化物イオン量Fcの値とが比較される。
【0299】
そして、この比較(S9)の結果、塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値以上であれば(S9:F(xD,t)≧Fc)、次に続く塩化物イオン量将来予測工程(S10)から第1防錆雰囲気判断工程(S14)までの処理を実行し、この第1防錆雰囲気判断工程(S14)によって、深部埋設鉄筋深さxFにおける再損傷発生時間tHでの判定モル比R(xF,tH)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが比較される。
【0300】
そして、この比較(S14)の結果、判定モル比R(xF,tH)が防錆雰囲気モル比R0の値未満であれば(S14:R(xF,tH)<R0)、次に続く犠牲陽極有効時間設定工程(16)及び第2防錆雰囲気判断工程(S17’)を実行し、この第2防錆雰囲気判断工程(S17’)によって、深部埋設鉄筋深さxFにおける犠牲陽極有効時間tKの経過時点での判定モル比R(xF,tK)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが比較される。
【0301】
なお、第2防錆雰囲気判断工程(S17’)の判断処理では、判定モル比R(xF,tK)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが完全に等しいか否かを判断することが必ずしも要求されるものではなく、その判断処理には種々のアルゴリズムが適用可能である。例えば、判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の前後数%の範囲内となる場合、具体的に例示すれば、判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の前後5%の範囲内にある場合(0.95・R0≦R(xF,tK)≦1.05・R0)をもって、判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値に等しいものとして処理するものであっても良い。
【0302】
第2防錆雰囲気判断工程(S17’)による今回の判断結果が、判定モル比R(xF,tK)の値と防錆雰囲気モル比R0の値とが等しいとするものならば(S17’:R(xF,tK)=R0)、今回のS8及びS10の計算処理で用いられた表面塩化物イオン量F0の値及び見掛け拡散係数DFの値が示す座標位置(F0,DF)を、表面塩化物イオン量F0(縦軸)と塩化物イオンの見掛け拡散係数DF(横軸)との相関図上にプロットする(S34)。
【0303】
一方、第2防錆雰囲気判断工程(S17’)による今回の判断結果として判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と不等となる場合(S17’:R(xF,tK)≠R0)、発錆雰囲気判断工程(S9)による今回の判断結果として塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値未満となる場合(S9:F(xD,t)<Fc)、又は、第1防錆雰囲気判断工程(S14)による今回の判断結果として判定モル比R(xF,tH)が防錆雰囲気モル比R0の値以上となる場合(S14:R(xF,tH)≧R0)は、今回のS8及びS10における計算処理で用いられた塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値に変化量ΔDFを加算し、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を更新する(S35)。
【0304】
このS35により更新された塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大値DFmaxの値を超過していなければ(S36:No)、処理をS8へ移行する。そして、塩化物イオン量F(xD,t)が発錆限界塩化物イオン量Fcの値以上で、判定モル比R(xF,tH)の値が防錆雰囲気モル比R0の値未満で、なおかつ、判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなるまで(S9:F(xD,t)≧Fc,S14:R(xF,tH)<R0,S17’:R(xF,tK)=R0)、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過するまで(S19:Yes)、表面塩化物イオン量F0の値を一定に保持したまま、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFを変化量ΔDFずつ更新して、処理S8〜S14、S16、S17’及びS35,S36の処理で構成されるループ処理を繰返し実行する。
【0305】
また、S34の処理によるプロット後、又は、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が最大DFmaxの値を超過する場合は(S36:Yes)、S8〜S14、S16、S17’及びS35,S36の処理で構成されるループ処理において一定保持されてきた表面塩化物イオン量F0の値に変化量ΔF0を加算して、表面塩化物イオン量F0の値を更新する(S37)。
【0306】
そして、このS37により更新された表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過していなければ(S38:No)、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値を最小値DFminにリセットして(S39)、処理をS8へ移行する。この結果、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過するまで(S38:Yes)、表面塩化物イオン量F0が変化量ΔF0ずつ更新されて、処理S8〜S14、S16、S17’及びS35〜S39で構成されるループ処理が繰返し実行されるのである。
【0307】
そして、表面塩化物イオン量F0の値が最大値F0maxの値を超過すると(S38:Yes)、塩化物イオン量FOの値が最小値F0minから最大値F0maxまで変化されたので、この補修工法判定チャート作成方法に関する一連の処理を終了するのである。
【0308】
この後は、上記したS34の処理によって、表面塩化物イオン量F0と見掛け拡散係数DFとの相関を表す相関図上にプロットされた各座標位置(F0,DF)を繋げば、補修効果境界線(R(xF,tK)=R0)が相関図上に描画される。
【0309】
すると、この補修効果境界線によって、判定モル比R(xF,tK)の値が防錆雰囲気モル比R0の値より大きくなる補修有効領域(R(xF,tK)>R0)と、その判定モル比R(xF,tK)が防錆雰囲気モル比R0の値より小さくなる補修無効領域(R(xF,tK)<R0)とが区画形成されて、複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャート(図10(c)又は図10(d)参照)が作成されるのである。
【0310】
次に、上記した補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いた補修工法の簡易適性判定方法について説明する。
【0311】
この補修法判定チャート70、80,90,100,110を用いた補修工法の簡易適性判定方法では、まず、これらの各補修工法判定チャートを用いた補修工法の簡易適性判定方法を行う前に、補修工法が施される対象である損傷発生コンクリート構造物(以下「被判定コンクリート構造物」ともいう。)10’について、発錆限界塩化物イオン量Fc、深部埋設鉄筋距離ΔWd、建設経過時間tE、表面塩化物イオン量F0、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が既知であるか否かを確認する。
【0312】
この確認の結果、例えば、深部埋設鉄筋距離ΔWdが未知である場合は、RCレーダなどの探査機器を用いて被判定コンクリート構造物10’の補修箇所の深部埋設鉄筋距離ΔWdの測定値を確認する。また、発錆限界塩化物イオン量Fcに関するデータが不明ならば、発錆限界塩化物イオン量Fcの値として、1.2kg/m3を設定する。更に、表面塩化物イオン量F0、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が未知である場合は、上記した塩化物イオン量測定工程(S3)及び係数推定工程(S4)と同様の手段によって、初期含有全塩化物イオン量Fintを測定及び決定し、表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とを推定する。
【0313】
そして、被判定コンクリート構造物10’に関する、発錆限界塩化物イオン量Fc、深部埋設鉄筋距離ΔWd、建設経過時間tE、表面塩化物イオン量F0、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が既知となれば、補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いて補修工法の簡易適性判定方法を実施する。
【0314】
この補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いた補修工法の簡易適性判定方法では、まず、これらの補修工法判定チャート70,80,90,100,110の作成に用いた発錆限界塩化物イオン量Fc、深部埋設鉄筋距離ΔWd、及び、建設経過時間tEの値と、被判定コンクリート構造物10’に関する発錆限界塩化物イオン量Fc、深部埋設鉄筋距離ΔWd、及び、建設経過時間tEの値とが一致するか否かを判断する。そして、かかる両者が一致するなら、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)を補修工法判定チャート70,80,90,100,110上に求めるか、又は、その座標位置(F0,DF)を補修工法判定チャート70,80,90,100,110上に直接プロットする。
【0315】
そして、被判定コンクリート構造物10’についてプロットした座標(F0,DF)が、補修工法判定チャート70,80,90,100の補修有効領域71,81,91,101又は補修無効領域72,82,92,102のいずれかに属するか、或いは、補修工法判定チャート110の第1種領域111乃至第5種領域115のいずれかに属するか、を判断するするのである(補修効果判断工程)。
【0316】
具体的には、図10(a)に示す補修工法判定チャート70上の補修有効領域71内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に非防錆断面修復工法を施工することで、深部埋設鉄筋15の再損傷を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0317】
これに対して、図10(a)に示す補修工法判定チャート70上の補修無効領域72内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に非防錆断面修復工法を施工しても、深部埋設鉄筋15に再損傷が発生する旨の判定をすることができる。
【0318】
かかる場合は、図10(b)に示す補修工法判定チャート80を用いて更なる判定を行い、その補修工法判定チャート80上の補修有効領域81内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に対して修復部厚W0が5.0cm及び防錆部厚W1が1.0cmである防錆断面修復工法を施工することで、深部埋設鉄筋15の再損傷を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0319】
これに対して、図10(b)に示す補修工法判定チャート80上の補修無効領域82内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に対して修復部厚W0が5.0cm及び防錆部厚W1が1.0cmである防錆断面修復工法を施工しても、深部埋設鉄筋15に再損傷が発生する旨の判定をすることができる。
【0320】
かかる場合は、図10(c)に示す補修工法判定チャート90を用いて更なる判定を行い、その補修工法判定チャート90上の補修有効領域91内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に対して修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が1.0cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工することで、深部埋設鉄筋15の再損傷を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0321】
これに対して、図10(c)に示す補修工法判定チャート90上の補修無効領域92内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に対して被判定コンクリート構造物10’に対して修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が1.0cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工しても、深部埋設鉄筋15に再損傷が発生する旨の判定をすることができる。
【0322】
かかる場合は、図10(d)に示す補修工法判定チャート100を用いて更なる判定を行い、その補修工法判定チャート100上の補修有効領域101内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に対して修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が2.5cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工することで、深部埋設鉄筋15の再損傷を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0323】
これに対して、図10(d)に示す補修工法判定チャート100上の補修無効領域102内に、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)があれば、被判定コンクリート構造物10’に対して修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が2.5cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工しても、深部埋設鉄筋15に再損傷が発生する旨の判定をすることができる。
【0324】
かかる場合は、修復部厚W0、防錆部厚W1、防錆部オフセット量κ、はつり厚ΔWh、又は、深部埋設鉄筋距離ΔWdの値を少なくとも1つ以上変更した補修工法に関する補修工法判定チャートを作成して、その補修効果の有効性を上記の如く判定するか、或いは、電気防食工法等を採用することを検討することができる。
【0325】
また、補修工法判定チャート110を、補修工法判定チャート70,80,90,100に代えて用いる場合は、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量F0の値と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)が、
(a) 第1種領域111内にあれば、当該被判定コンクリート構造物10’に対して、非防錆断面修復工法を施工することで、
(b) 第2種領域112内にあれば、当該被判定コンクリート構造物10’に対して、修復部厚W0が5.0cm及び防錆部厚W1が1.0cmである防錆断面修復工法を施工することで、
(c) 第3種領域113内にあれば、当該被判定コンクリート構造物10’に対して、修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が1.0cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工することで、
(d) 第4種領域114内にあれば、当該被判定コンクリート構造物10’に対して、修復部厚W0が5.0cm、防錆部厚W1が2.5cm及び犠牲陽極有効時間tKが3.1536×10(≒10年)である複合防錆断面修復工法を施工することで、
(e) 第5種領域115内にあれば、当該被判定コンクリート構造物10’に対して、電気防食工法等を施工することで、
深部埋設鉄筋15の再損傷を防止可能である旨の判定をすることができる。
【0326】
なお、被判定コンクリート構造物10’に関する表面塩化物イオン量の値F0と塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値とが示す座標位置(F0,DF)が、各補修工法判定チャート70,80,90,100,110上の補修効果境界線73,83,93,103,116,117,118,119上にある場合には、その状況に応じた判断をすることも可能であるが、補修工法判定チャート70,80,90,100,110の精度を考慮して安全率を大きくする観点から、被判定コンクリート構造物10’に対して有効な防錆効果又は防食機能を発揮不能である旨の判定をするようにしても良い。
【0327】
さらに、念のため説明を補足すれば、損傷発生コンクリート構造物10に関する表面塩化物イオン量F0の値及び塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が属する領域が、
(a) 第1種領域111ならば、第1乃至第5種領域111〜115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
(b) 第2種領域112ならば、第2乃至第5種領域112〜115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
(c) 第3種領域113ならば、第3乃至第5種領域113〜115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
(d) 第4種領域114ならば、第4又は第5種領域114,115のいずれかの領域に対応する補修工法を、
当該損傷発生コンクリート構造物10に対して施工することもできる。
【0328】
このように、図10及び図11に例示する補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いた補修工法簡易適性判定方法によれば、被判定コンクリート構造物10’に関する、発錆限界塩化物イオン量Fc、深部埋設鉄筋距離ΔWd、建設経過時間tE、表面塩化物イオン量F0、及び、塩化物イオンの見掛け拡散係数DFの値が分かっていれば、これらのデータのみから、補修工法判定チャート70,80,90,100,110を用いて当該被判定コンクリート構造物10’に対して適切な補修効果を発揮する補修工法を容易に判定することができる。
【0329】
次に、図15を参照して、補修工法判定方法の変形例について説明する。
【0330】
図15は、補修工法適性判定方法の変形例を示すフローチャートであって、図3における第1防錆雰囲気判断工程及び第2防錆雰囲気判断工程を変更したものである。以下、図3に示す補修工法判定方法と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0331】
図15に示す、第1防錆雰囲気判断工程(S14”)は、塩化物イオン量将来予測工程(S10)及び防錆成分量将来予測工程(S12)の双方の結果を用いて、各時間tjにおける深部埋設鉄筋深さxFでの判定モル比R(xF,tj)の値を求めた上で、それらの判定モル比R(xF,tj)の値が防錆雰囲気モル比R0の値と等しくなる時間tjを防錆化時間tMとして求めて、この防錆化時間tMと再損傷発生時間tHとの前後関係を判断する工程である。
【0332】
この第1防錆雰囲気判断工程(S14”)の判断によって、再損傷発生時間tHが防錆化時間tMの値以上ならば(S14”:tH≧tM)、深部埋設鉄筋深さxFでは再損傷が発生する以前に防錆雰囲気に変化しているので、上記した修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)によって設定される「修復部11の設定条件」の各数値に適合した修復部11を施工する防錆断面修復工法を、当該損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として採用することを決定して(S20)、この補修工法適性判定方法を終了するのである。
【0333】
一方、第1防錆雰囲気判断工程(S14”)の判断によって、再損傷発生時間tHが防錆化時間tMの値未満ならば(S14”:tH<tM)、深部埋設鉄筋深さxFでは再損傷が発生した後に防錆雰囲気に変化しているので、上記した修復部基本設定工程(S6)及び修復部詳細設定工程(S11)によって設定される「修復部11の設定条件」の各数値に適合した修復部11を施工する防錆断面修復工法では、当該損傷発生コンクリート構造物10の塩害劣化進行過程に適合した補修効果を発揮できないものと判定できる。
【0334】
そこで、かかる場合は、S15及びS16の処理を実行してから、第2防錆雰囲気判断工程(S17”)を実行する。ここで、図15に示す、第2防錆雰囲気判断工程(S17”)は、上記した第1防錆雰囲気判断工程(S14”)で求めた防錆化時間tMと犠牲陽極有効時間tKとの前後関係を判断する工程である。
【0335】
この第2防錆雰囲気判断工程(S17”)の判断によって、犠牲陽極有効時間tKが防錆化時間tMの値以上ならば(S17”:tK≧tM)、深部埋設鉄筋深さxFが防錆雰囲気に変化するまで犠牲陽極部材16等による防食機能が維持されるので、上記した修復部基本設定工程(S6)、修復部詳細設定工程(S11)及び犠牲陽極有効時間設定工程(S16)による設定条件を満足する複合防錆断面修復工法を、当該損傷発生コンクリート構造物10に対する補修工法として採用することを決定して(S21)、この補修工法適性判定方法を終了するのである。
【0336】
一方、第2防錆雰囲気判断工程(S17”)の判断によって、犠牲陽極有効時間tKが防錆化時間tMの値未満ならば(S17”:tK<tM)、深部埋設鉄筋深さxFが防錆雰囲気に変化する前に犠牲陽極部材16等による防食機能が低下するので、上記した修復部基本設定工程(S6)、修復部詳細設定工程(S11)及び犠牲陽極有効時間設定工程(S16)による設定条件を満足する複合防錆断面修復工法では、当該損傷発生コンクリート構造物10の塩害劣化進行過程に適合した補修効果を発揮できないものと判定できる。そこで、かかる場合(S17”:tK<tM)には、図3に示した補修工法適正判定方法と同様に、処理をS18へ移行するのである。
【0337】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、例えば、各種の数値条件、数値計算に必要となる境界条件の変更などの、種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、本実施例では、数値計算に用いた具体的数値を示してあるが、これはあくまでも例示であって、「コンクリート構造物10の設定条件」や「修復部11の設定条件」に応じて具体的な数値は適宜変更されるものである。
【0338】
また、本実施例では、修復部11を含めた損傷発生コンクリート構造物10内の塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計量を、初期時間tから目標時間tQまで一定に維持するというシミュレーション上の条件を充足するものであった。かかる場合、コンクリート部材の寸法や数値計算の都合によっては、以下のようにすることで、上記した修復部11を含めた損傷発生コンクリート構造物10内の塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計量を一定に維持するという条件を充足するようにしても良い。
【0339】
具体的には、上記式(2)及び(3)を用いて修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する時間tjについての塩化物イオン量F(xi,tj)の値を求めるときに、深さ範囲(xA≦xi≦xP)中の1点である深さxμの塩化物イオン量F(xμ,tj)の値を求める場合についてのみ、時間tjの1時点前の時間tj-1における修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する塩化物イオン量F(xi,tj-1)の総合計値から、時間tjにおける修復部表面深さxAから深さxμ-1までの深さ範囲(xA≦xi≦xμ-1)に関する塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計値を差し引き、更に、時間tjにおける深さxμ+1から深さxPまでの深さ範囲(xμ+1≦xi≦xP)に関する塩化物イオン量F(xi,tj)の総合計値を差し引くという、計算処理を行うのである。
【0340】
なお、かかる場合には、深さxμとして、上記した深さ範囲(xA≦xi≦xP)内に属する第1番目の深さ位置を用いると良い。
【0341】
また、上記式(4)及び(5)を用いて修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する時間tjについての防錆成分量G(xi,tj)の値を求めるときに、深さ範囲(xA≦xi≦xP)中の1点である深さxμの防錆成分量G(xμ,tj)の値を求める場合についてのみ、時間tjの1時点前の時間tj-1における修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する防錆成分量G(xi,tj-1)の総合計値から、時間tjにおける修復部表面深さxAから深さxμ-1までの深さ範囲(xA≦xi≦xμ-1)に関する防錆成分量G(xi,tj)の総合計値を差し引き、更に、時間tjにおける深さxμ+1から深さxPまでの深さ範囲(xμ+1≦xi≦xP)に関する防錆成分量G(xi,tj)の総合計値を差し引くという、計算処理を行うのである。
【0342】
なお、かかる場合において、深さxμとしては、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)内に属する第1番目の深さ位置、又は、深さxPなどを用いると良い。
【0343】
さすれば、数値計算の処理能力の都合上、修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)を充分に長く設定することが困難なとき、例えば、修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)を数十cm程度の短い範囲に設定せざるを得ないときでも、修復部を含めた損傷発生コンクリート構造物10内の防錆成分量G(xi,tj)の総合計量を一定に維持するという条件も充足できる。
【0344】
また、本実施例の塩化物イオン量将来予測工程(S10)では、修復部表面深さxAから深さxPまでの深さ範囲(xA≦xi≦xP)に関する各時間tjの塩化物イオン量F(xi,tj)を、上記式(2)及び(3)によって数値計算することで求めた。なぜなら、補修工法を施工した後に塩化物イオンが修復部11へ再拡散することを考慮するためである。
【0345】
しかしながら、塩化物イオン量将来予測工程によって数値計算を行う深さ範囲は、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、修復部11への塩化物イオンの再拡散を考慮せずに、凹陥部底面深さxDから深さxPまでの深さ範囲(xD≦xi≦xP)について各時間tjの塩化物イオン量F(xi,tj)を、次式(2’)及び(3’)によって数値計算するようにしても良い。
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2’)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3’)
(但し、xD≦xi≦xPの範囲に限る。)
【0346】
なぜなら、このようにすることで、数値計算上、塩化物イオンの修復部11への再拡散が無視されるため、凹陥部底面深さxDよりも深い箇所での塩化物イオンの総量が増えて、より一層厳しい条件で、補修工法の適性判定を行えるからである。
【0347】
なお、かかる場合における塩化物イオン量将来予測工程では、修復部表面深さxAから凹陥部底面深さxDまでの深さ範囲(xA≦xi<xD)についての各時間tjにおける塩化物イオン量F(xi,tj)を、次式(16’)に示すように、補修材に予め含まれている塩化物イオンの量である補修材塩化物イオン初期量F1の固定値とする。
F(xi,tj)=F1 (但し、xA≦xi<xDの範囲に限る。) ……(16’)
【0348】
また、本実施例では、塩化物イオン量測定工程(S3)におけるコンクリート試料としてドリル粉末を用いたが、かかるコンクリート試料は必ずしもこれに限定されるものではなく、上記した「コンクリート標準示方書[規準編]土木学会規準および関連規準」(土木学会発行)における「実構造物におけるコンクリート中の塩化物イオン分布の測定方法(案)(JSCE−G_573−2003)」に準拠して採取されるコンクリートコアをスライスカットしてコンクリート試験片を製作し、その各コンクリート試験片を粉末にしたものをコンクリート試料としても良い。
【0349】
また、本実施例では、塩化物イオン量測定工程(S3)において合計4箇所の測定点MP1〜MP4を設定するものとしたが、かかる測定点の個数は4箇所に限定されるものではなく、例えば、4箇所以上であっても良い。
【0350】
また、本実施例では、非防錆部11cを成す材料として非防錆補修材を用いることとして説明したが、かかる非防錆部11cを成す材料は必ずしもこれに限定されるものではなく、コンクリート構造物10のかぶり厚ΔWkが大きいような場合や修復部厚W0を大きくとる場合には、非防錆部11cを成す材料として、防錆成分未混合のコンクリートや、防錆成分未混合の鉄筋コンクリートなどを用いるようにしても良い。
【0351】
また、本実施例では、各種の断面修復工法によって形成される修復部11として、防錆部11bと非防錆部11cとを積層形成したものを用いて説明したが、かかる修復部11の構造は必ずしもこれに限定されるものではなく、非防錆部11cを設けずに修復部11全体を防錆部11bとするようにしても良い。
【0352】
また、本実施例では、損傷部鉄筋位置として損傷部鉄筋14の背側位置を選択したが、かかる損傷部鉄筋位置は必ずしも該当する鉄筋の背側位置に限定されるものではなく、損傷部鉄筋が存在する範囲内であれば、損傷部鉄筋の表側位置であったり、或いは、損傷部鉄筋の表側及び背側間の中間位置であっても良い。
【0353】
また、本実施例では、深部埋設鉄筋位置として深部埋設鉄筋15の背側位置を選択したが、かかる深部埋設鉄筋位置は必ずしも該当する鉄筋の背側位置に限定されるものではなく、深部埋設鉄筋が存在する範囲内であれば、深部埋設鉄筋の表側位置であったり、或いは、深部埋設鉄筋の表側及び背側間の中間位置であっても良い。
【0354】
また、本実施例では、図2に示す形態の犠牲陽極部材16等を例示して説明したが、犠牲陽極部材の形態は必ずしもこれらに限定されるものではなく、亜鉛又は亜鉛合金の金属線や、犠牲陽極材の既製品(亜鉛塊を保護モルタルで被覆したものを本体として、その本体内の亜鉛塊から導出される軟硬線を鉄筋に巻き付けて結束する犠牲陽極材)を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0355】
【図1】防錆断面修復工法による補修が施されたコンクリート構造物の断面図である。
【図2】複合防錆断面修復工法による補修が施されたコンクリート構造物の断面図である。
【図3】補修工法適性判定方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】塩化物イオン量測定工程を説明するためのコンクリート構造物の断面図であって、(a)は、損傷発生コンクリート構造物のコンクリートが剥離欠損せずに既設表面が残存している場合における断面図であり、(b)は、損傷発生コンクリート構造物の既設表面を含んだコンクリートの少なくとも一部が剥離欠損してしまって損傷しているような場合における断面図である。
【図5】補修工法適性判定方法における数値計算を行う場合に用いられるコンクリート構造物の断面モデルを例示した図である。
【図6】塩化物イオン量と深さとの関係をグラフで表した図であって、(a)は、塩化物イオン量現状推定工程による計算結果の一例を表したものであり、(b)は、塩化物イオン量将来予測工程による計算結果の一例をグラフ化した図である。
【図7】塩化物イオン量と深さとの関係をグラフで表した図であって、(a)は、初期時間での凹陥部底面深さにおける塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量と等しいときの現状推定線の一例を表した図であり、(b)は、初期時間での凹陥部底面深さにおける塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量の値以下であるときの現状推定線の一例を表した図である。
【図8】防錆成分量と深さとの関係をグラフ化した図であって、(a)は、修復部基本設定工程及び修復部詳細設定工程による「修復部の設定条件」の一例を表したものであり、(b)は、防錆成分量将来予測工程による計算結果の一例を表したものである。
【図9】第1防錆雰囲気判断工程及び第2防錆雰囲気判断工程を説明するための図であって、初期時間から目標時間まで時間が変化するときの、深部埋設鉄筋深さにおける塩化物イオン量、防錆成分量及び判定モル比の変化に関する計算結果の一例をグラフ化したものである。
【図10】(a)は、非防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートの一例であり、(b)は、防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートの一例であり、(c)は、複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートの一例であり、(d)は、(c)に示す補修工法判定チャートに対し、防錆部厚の値を変更した複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートの一例である。
【図11】複数の補修工法に関する補修工法判定チャートを重畳した作成された補修工法判定チャートの一例である。
【図12】非防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図13】防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図14】複合防錆断面修復工法に関する補修工法判定チャートの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】補修工法適性判定方法の変形例を示すフローチャートであって、図3における第1防錆雰囲気判断工程及び第2防錆雰囲気判断工程を変更したものである。
【符号の説明】
【0356】
10 コンクリート構造物、損傷発生コンクリート構造物
10a 既設表面
10b コンクリート
11 修復部(断面修復部)
11a 修復部の表面(断面修復部の表面)
11b 防錆部(防錆成分混合部)
11c 非防錆部(防錆成分混合部を除く部分)
13 凹陥部
13a 凹陥部の底面
14 損傷部鉄筋(損傷部鉄筋、凹陥部に表れる鉄筋)
15 深部埋設鉄筋
16,18,20 犠牲陽極部材
70,80,90,100 補修工法判定チャート
71,81,91,101 補修有効領域
72,82,92,102 補修無効領域
110 補修工法判定チャート
S3 塩化物イオン量測定工程
S4 係数推定工程
S5 コンクリート構造物設定工程(断面修復条件設定工程の一部)
S6 修復部基本設定工程(はつり条件設定工程、断面修復条件設定工程の一部)
S8 塩化物イオン量現状推定工程
S9 発錆雰囲気判断工程
S10 塩化物イオン量将来予測工程
S11 修復部詳細設定工程(断面修復条件設定工程)
S12 防錆成分量将来予測工程
S13 再損傷発生時間設定工程
S14 第1防錆雰囲気判断工程(請求項1に係る防錆雰囲気判断工程)
S16 犠牲陽極有効時間設定工程(犠牲陽極設定工程)
S17 第2防錆雰囲気判断工程(請求項2に係る防錆雰囲気判断工程)
MP1〜MP4 測定点
κ 防錆部オフセット量(凹陥部の底面位置から防錆成分混合部までの距離)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷発生コンクリート構造物の既設表面からコンクリートを所定のはつり厚さだけ除去して凹陥部を形成し、そのとき当該凹陥部の底面位置を少なくとも損傷部鉄筋位置と略等しい深さ位置又はそれより深い位置に形成し、その凹陥部に補修材を充填して硬化させて所定厚さの断面修復部を形成し、その断面修復部における表面から凹陥部の底面までの深さ範囲のうち少なくとも一部範囲について所定の初期混合量で防錆成分を補修材に混合した防錆成分混合部を設けることで、損傷発生コンクリート構造物の欠陥部を修復する防錆断面修復工法に関し、その適性を、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件下において判定するための方法であって、
損傷発生コンクリート構造物に凹陥部を形成するために除去されるコンクリートのはつり厚さを設定するはつり条件設定工程と、
そのはつり条件設定工程による設定条件に基づく凹陥部が形成される場合に、その凹陥部に形成される断面修復部の表面から凹陥部の底面までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量として補修材に予め含まれている塩化物イオン量を設定し、凹陥部の底面位置から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての初期時間における塩化物イオン量を、次式(1):
F(xi,t)=F0・[1−erf{[xi−xD]/[2・√(DF・t)]}]+Fint ……(1)
(但し、上記式(1)において、F:塩化物イオン量、i:深さ位置の番号(0≦i≦P,Pは整数,P≧1)、xi:i番目の深さ位置、t:0番目の時点での時間(初期時間)、F0:損傷発生コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、erf:誤差関数、xD:凹陥部の底面の深さ位置(但し、xD≧xとする)、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)によって計算する塩化物イオン量現状推定工程と、
その塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における凹陥部の底面位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えるか否かを判断する発錆雰囲気判断工程とを備えており、
その発錆雰囲気判断工程によって、初期時間における凹陥部の底面位置での塩化物イオン量が発錆限界塩化物イオン量を超えると判断される場合において、前記塩化物イオン量現状推定工程により定まる初期時間における塩化物イオン量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての塩化物イオン量の変化を、次式(2)及び(3):
F(xi,tj+1)=DF・{α/(Δx)}・Δt+F(xi,tj) ……(2)
α=F(xi−1,tj)−2・F(xi,tj)+F(xi+1,tj) ……(3)
(但し、上記式(2)及び(3)において、F:塩化物イオン量、j:時点の番号(0≦j≦Q,Qは整数,Q≧1)、xi+1:i+1番目の深さ位置、xi−1:i−1番目の深さ位置、tj:j番目の時点での時間、tj+1:j+1番目の時点での時間、Δx:各深さ位置の間隔(深さ間隔)、Δt:各時点の間隔(時間間隔)を示す)によって計算する塩化物イオン量将来予測工程と、
断面修復部の厚さ、凹陥部の底面位置から防錆成分混合部までの距離、及び、その防錆成分混合部の厚さを所定値に設定し、その防錆成分混合部の初期時間における防錆成分量の値を防錆成分の初期混合量に設定し、その防錆成分混合部を除く部分についての初期時間における防錆成分量の値を補修材に既存する防錆成分量に設定し、凹陥部の底面から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての初期時間における防錆成分量を損傷発生コンクリート構造物に既存する防錆成分量に設定する断面修復条件設定工程と、
その断面修復条件設定工程により設定される初期時間における防錆成分量を初期値として、初期時間から目標時間までの時間変化に伴う、断面修復部の表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ範囲についての防錆成分量の変化を、次式(4)及び(5):
G(xi,tj+1)=DG・{β/(Δx)}・Δt+G(xi,tj) ……(4)
β=G(xi−1,tj)−2・G(xi,tj)+G(xi+1,tj) ……(5)
(但し、上記式(4)及び(5)において、G:防錆成分量、DG:防錆成分の見掛け拡散係数を示す)によって計算する防錆成分量将来予測工程と、
防錆成分による防錆効果を無視した場合に損傷発生コンクリート構造物の深部埋設鉄筋位置で再損傷が発生するまでに要するであろう時間を推測し、その推測時間に基づいて再損傷発生時間を設定する再損傷発生時間設定工程と、
その再損傷発生時間設定工程によって設定された再損傷発生時間における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程の結果から求めて、その防錆成分量をその塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断する防錆雰囲気判断工程とを備えていることを特徴とする補修工法適性判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の補修工法適性判定方法において、
凹陥部に表れる鉄筋に導通可能な状態で犠牲陽極部材を接続する工程が前記防錆断面修復工法に対して付加されている複合防錆断面修復工法に関し、その適性を、断面修復部の表面からの塩化物イオンの浸入が遮断されるという条件下において判定するための方法であって、
前記再損傷発生時間設定工程に代えて、損傷発生コンクリート構造物に対して犠牲陽極部材が防食機能を発揮する有効期間を求めて、その有効期間に基づいて犠牲陽極有効時間を設定する犠牲陽極設定工程と、
前記防錆雰囲気判断工程に代えて、その犠牲陽極設定工程によって設定された犠牲陽極有効時間の経過時点における深部埋設鉄筋位置での防錆成分量及び塩化物イオン量を、前記防錆成分量将来予測工程及び塩化物イオン量将来予測工程の結果から求めて、その防錆成分量をその塩化物イオン量で割った比率をモル換算した判定モル比が、防錆雰囲気モル比の値を超えているか否かを判断する防錆雰囲気判断工程とを備えていることを特徴とする補修工法適性判定方法。
【請求項3】
建設時点から時間が経過している損傷発生コンクリート構造物について、その既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、
その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:損傷発生コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:損傷発生コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程とを備えており、
この係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを用いて、前記塩化物イオン量現状推定工程と前記塩化物イオン量将来予測工程とを行うものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の補修工法適性判定方法。
【請求項4】
請求項1記載の補修工法適性判定方法を備えており、
損傷発生コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、
損傷発生コンクリート構造物の既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さを所定値に設定し、
損傷発生コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、
その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、
表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項1記載の補修工法適性判定方法を繰り返し行って、
その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記防錆雰囲気判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成するものであることを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項5】
請求項4記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法を前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合についてそれぞれ行って、
それらの結果を用いて前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、
その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものであることを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法を前記再損傷発生時間設定工程による再損傷発生時間の設定値が異なる場合についてそれぞれ行って、
それらの結果を用いて前記再損傷発生時間設定工程による再損傷発生時間の設定値が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、
その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものであることを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項7】
請求項2記載の補修工法適性判定方法を備えており、
損傷発生コンクリート構造物の発錆限界塩化物イオン量を所定値に設定し、
損傷発生コンクリート構造物の既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さを所定値に設定し、
損傷発生コンクリート構造物の建設時点からの建設経過時間を所定値に設定し、
その建設経過時間の値を前記初期時間として設定し、
表面塩化物イオン量を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させ、且つ、塩化物イオンの見掛け拡散係数を所定の最小値から所定の最大値まで所定幅ずつ変化させて、前記請求項2記載の補修工法適性判定方法を繰り返し行って、
その結果を用いて、表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数との相関を表す相関図上に、前記防錆雰囲気判断工程によって求められる判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より大きくなる補修有効領域と、その判定モル比が防錆雰囲気モル比の値より小さくなる補修無効領域とを区画形成することで補修工法判定チャートを作成するものであることを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項8】
請求項7記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法を前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合についてそれぞれ行って、
それらの結果を用いて前記断面修復条件設定工程による設定条件が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、
その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものであることを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法を前記犠牲陽極設定工程による犠牲陽極有効時間の設定値が異なる場合についてそれぞれ行って、
それらの結果を用いて前記犠牲陽極設定工程による犠牲陽極有効時間の設定値が異なる場合について補修工法判定チャートをそれぞれ作成し、
その作成された各補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものであることを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項10】
請求項4から6に記載のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法と、
請求項7から9に記載のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法とを備えており、
その請求項4から6に記載のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートに対して、請求項7から9に記載のいずれか1つの補修工法判定チャート作成法を用いて作成される補修工法判定チャートを、それらの座標軸のスケールを一致させて重畳するものであることを特徴とする補修工法判定チャート作成方法。
【請求項11】
請求項4から10に記載のいずれか1つの補修工法判定チャート作成方法を備えており、
その補修工法判定チャート作成方法において所定値に設定した発錆限界塩化物イオン量、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ、及び、建設経過時間の値と比べて、発錆限界塩化物イオン量、既設表面から深部埋設鉄筋位置までの深さ、及び、建設経過時間の値が一致する損傷発生コンクリート構造物について、その損傷発生コンクリート構造物の既設表面からの深さが異なる複数の測定点を設定し、これら測定点のそれぞれについて塩化物イオン量を測定する塩化物イオン量測定工程と、
その塩化物イオン量測定工程による各測定点の塩化物イオン量の測定値を説明するモデル関数として次式(6):
F=F0・[1−erf{x/[2・√(DF・tE)]}]+Fint ……(6)
(但し、上記式(6)において、F:塩化物イオン量、F0:損傷発生コンクリート構造物の既設表面における塩化物イオン量(表面塩化物イオン量)、x:損傷発生コンクリート構造物の既設表面からの深さ位置、erf:誤差関数、DF:塩化物イオンの見掛け拡散係数、tE:建設時点からの経過時間である建設経過時間、Fint:初期含有全塩化物イオン量を示す)を用いるとともに、各測定点までの深さを説明変数とし、各測定点の塩化物イオン量を目的変数として、上記式(6)中の未知パラメータである表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とを、回帰分析によって推定する係数推定工程と、
その係数推定工程により推定した表面塩化物イオン量と塩化物イオンの見掛け拡散係数とから決定される座標位置が、前記補修工法判定チャート作成方法により作成した補修工法判定チャートにおける補修有効領域又は補修無効領域のいずれに属するかを判断する補修効果判断工程とを備えていることを特徴とする補修工法簡易適性判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−292297(P2008−292297A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137980(P2007−137980)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(592082893)株式会社クエストエンジニア (6)
【Fターム(参考)】