説明

補強盛土における壁面工

【課題】 補強盛土一次壁面の構造を改良工夫することにより壁面の定着性を高め補強盛土の耐力を向上させることができる補強盛土における壁面工を提供する。
【解決手段】 補強盛土における壁面工において、補強盛土一次壁面11の溶接金網15の一部を水平に突出させて、この突出させた溶接金網15の一部に吹付けにより長繊維混合補強土二次壁面16を築造し、前記補強盛土一次壁面11と前記長繊維混合補強土二次壁面16を一体化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道、道路及び宅地造成地などで構築する補強盛土の壁面工に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道盛土や道路盛土構造物において補強盛土の施工が増えてきている。補強盛土における補強材には、ジオテキスタイル(面状補強材)を用いる場合が多いが、のり面勾配が急になると壁面工が必要となる。この壁面工には、土のうや溶接金網をジオテキスタイルで巻込む形式や、ジオテキスタイルと接続したL型エキスパンドメタルのような形式が多く見られる。これらの壁面工は分割壁面と呼ばれている。一方、前述の土のうや溶接金網をジオテキスタイルで巻込む形式の壁面工を一次壁面とし、補強盛土の変形が収束してから、二次壁面として構築する「ジオテキスタイルと一体化した剛性の高い場所打ちコンクリート壁面」を有する、本願発明者らによって提案されたRRR工法(下記特許文献1参照)がある。
【0003】
一般的に、壁面工の剛性が高いほど補強盛土の耐力が向上することが明らかになっている。その一方で、壁面剛性が小さい壁面工は工費が安い傾向にあり、景観に配慮した植生の施工の可能性も高くなる。このような現状に鑑み、補強盛土の一次壁面に長繊維混合補強土を吹き付けることで、壁面剛性はコンクリート壁面より劣るが、施工が比較的容易で工費も安価な補強盛土の壁面工の開発に至った。
【特許文献1】特開昭64−021122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら補強盛土の一次壁面(土のうまたは溶接金網をジオテキスタイルで巻込む形式の壁面など)に長繊維混合補強土を吹付けて構築した壁面(二次壁面)は、その定着性に問題があった。
【0005】
図10は従来の補強盛土一次壁面に長繊維混合補強土を吹付けて構築した壁面を示す図である。
【0006】
この図において、101は地盤、102は盛土、103は土のう、104はジオテキスタイル、105は補強盛土一次壁面、106は長繊維混合補強土二次壁面である。
【0007】
この図において、RRR工法による補強盛土の一次壁面、つまり、土のう103または溶接金網をジオテキスタイル104で巻込む形式の壁面に直接長繊維混合補強土を吹き付けて二次壁面を形成した場合は、図11に示すように、壁面の水平方向の変位が屈折状態になり、その定着性に問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するために、一次壁面構造を改良工夫することにより、壁面の定着性を高め補強盛土の耐力を向上させることができる補強盛土における壁面工を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕補強盛土における壁面工において、補強盛土一次壁面の補強材の一部を水平に突出させて、この突出させた補強材の一部に吹付けにより長繊維混合補強土二次壁面を築造し、前記補強盛土一次壁面と前記長繊維混合補強土二次壁面を一体化させることを特徴とする。
【0010】
〔2〕補強盛土における壁面工において、補強盛土一次壁面の補強材ののり面部分を籠状にして籠状部分を形成し、前記補強材の籠状部分の外周を折り返し、前記籠状部分内に長繊維混合補強土を充填して長繊維混合補強土二次壁面を築造し、前記補強盛土一次壁面と前記長繊維混合補強土二次壁面を一体化させることを特徴とする。
【0011】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の補強盛土における壁面工において、前記補強材は溶接金網、鉄筋金網、ジオテキスタイル、エキスパンドメタルや合成樹脂スリット材であることを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の補強盛土における壁面工において、前記長繊維混合補強土吹付けは、砂・セメント系、石灰系、セメント石灰系や石膏系の固化材・水の混合土と、耐アルカリ性に優れているビニロンを2系統の圧送管先端で2ショットで混合し吹付けることを特徴とする。
【0013】
〔5〕上記〔1〕又は〔2〕記載の補強盛土における壁面工において、前記補強盛土一次壁面と前記長繊維混合補強土二次壁面を一体化させた壁面内の縦方向に、剛性を有する部材を配置することを特徴とする。
【0014】
〔6〕上記〔5〕記載の補強盛土における壁面工において、前記剛性を有する部材として型鋼を用いることを特徴とする。
【0015】
〔7〕上記〔5〕記載の補強盛土における壁面工において、前記剛性を有する部材として溶接金網、鉄筋金網、ジオテキスタイル、エキスパンドメタルや合成樹脂製スリット材を用いることを特徴とする。
【0016】
〔8〕上記〔5〕記載の補強盛土における壁面工において、前記剛性を有する部材として鉄筋やFRPロッドを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0018】
(1)補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土の二次壁面の定着性を向上させることにより、補強盛土の耐力を向上させることができる。
【0019】
(2)長繊維混合補強土壁面中に剛性の高い型鋼などの補強材を配置して二次壁面の剛性を高めることにより、補強盛土の機能を向上させることができる。
【0020】
(3)本発明の補強盛土構造が実用化されることにより、長繊維混合補強土の二次壁面上に植生吹付け(厚層基盤吹付けなど)が可能となり、壁面緑化を有する補強盛土技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の補強盛土における壁面工は、補強盛土一次壁面の補強材の一部を水平に突出させて、この突出させた補強材の一部に吹付けにより長繊維混合補強土二次壁面を築造し、前記補強盛土一次壁面と前記長繊維混合補強土二次壁面を一体化させる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は補強盛土一次壁面にH型鋼を配置して長繊維混合補強土二次壁面を構築した壁面工の壁面の変形モードを示す図であり、図1(a)は変形モードの模式図、図1(b)は壁面の水平方向の変位を示す図である。
【0024】
図1(a)において、1は地盤、2は盛土、3は土のう、4は補強盛土一次壁面、5はH型鋼(図示なし)を配置した長繊維混合補強土二次壁面である。
【0025】
従来の補強盛土一次壁面(土のうまたは溶接金網をジオテキスタイルで巻込む形式の壁面など)に長繊維混合補強土のみを吹付けて構築した二次壁面を有する補強盛土を戴荷した場合、図10に示した変形モードを示した。さらに、試験後の解体調査の観察から、長繊維混合補強土二次壁面の定着が取れず剥離していることが確認された。一方、補強盛土一次壁面4にH型鋼(H−100)を縦に2列配置して長繊維混合補強土を吹付けた二次壁面5を有する補強盛土を戴荷した場合、図1(a)及び図1(b)に示す滑らかな変形を示し、さらに図10及び図11と比較して長繊維混合補強土二次壁面の定着性が向上していることが分かった。
【0026】
これらの知見から以下の解決手段を提案した。
【0027】
(1)補強盛土一次壁面の構造を改良することにより、長繊維混合補強土などの二次壁面の定着性を向上させることができる。よって、壁面工の剥離がなくなり、壁面の変形を抑制することができる。
【0028】
(2)長繊維混合補強土による二次壁面中にH型鋼などの剛性の高い補強材を配置することにより、壁面の変形がより安定な転倒モードに移行し、補強盛土全体の変形を抑制することができる。
【0029】
以下、補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土壁面(二次壁面)の定着性を高めるための実施例について詳細に説明する。
【0030】
図2は本発明の第1実施例を示す補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土二次壁面による壁面工を示す図である。
【0031】
この図において、補強盛土一次壁面11には土のう12が積重ねられて土のう壁13が形成されている。この土のう壁13には溶接金網15をジオテキスタイル14で巻込む形式の壁面が形成されており、さらに、その溶接金網15の一部を長繊維混合補強土吹付け箇所に水平に突出させて、補強盛土一次壁面11と長繊維混合補強土壁面(二次壁面)16を一体化させた壁面工とする。
【0032】
このように補強盛土一次壁面の溶接金網15を二次壁面内に張出すという簡単な方法で二次壁面の定着性を向上させることができる。
【0033】
図3は本発明の第2実施例を示す補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土二次壁面による壁面工を示す図である。
【0034】
この図に示すように、補強盛土一次壁面11には土のう12が積重ねられて土のう壁13が形成されている。この土のう壁13には溶接金網15をジオテキスタイル14で巻込む形式の壁面が形成されている。さらに、この補強盛土一次壁面11の溶接金網15ののり面部分を籠状にして籠状部分17を形成し、ジオテキスタイル14も同様に溶接金網15の籠状部分17の外周を折り返すように構成する。この籠状部分17内にも長繊維混合補強土18を充填して、補強盛土一次壁面11と長繊維混合補強土壁面(二次壁面)19を一体化させた壁面工とする。
【0035】
図4は本発明の第3実施例を示す補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土二次壁面による壁面工を示す図である。
【0036】
この実施例では、第2実施例で示した長繊維混合補強土壁面(二次壁面)19内の縦方向に、剛性を有する部材としてH型鋼20を配置した壁面工を施す。
【0037】
なお、ここに配置される剛性を有する部材はH型鋼に限定されるものではなく、各種型鋼を用いることができる。また、型鋼に代えて、溶接金網、鉄筋金網、ジオテキスタイル、エキスパンドメタルや合成樹脂製スリット材、さらに鉄筋やFRPロッドなどであってもよい。
【0038】
このように構成することにより、第2実施例で示した補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土壁面(二次壁面)の定着性の向上に加え、図1に示したように長繊維混合補強土壁面の剛性を高めることができる。
【0039】
ここで長繊維混合補強土吹き付け技術について説明する。
【0040】
この長繊維混合補強土壁面は、砂・セメント・水の混合土と、耐アルカリ性に優れているビニロン長繊維を2系統の圧送管先端で2ショットで吹付け混合して築造する。なお、砂・セメント・水の混合土にはセメント、つまりセメント系の固化材に代えて、石灰系、セメント石灰系や石膏系の固化材を用いるようにしてもよい。
【0041】
実際に屋外で実物大の補強盛土一次壁面(土のうや溶接金網をジオテキスタイルで巻き込む形式の一次壁面の状態)を構築し、上記の長繊維混合補強土を吹付けて施工実験を行った。この施工実験では2つの戴荷試験区間を設け、CASE−1の区間では、補強盛土一次壁面上に溶接金網(φ6mm、10cmメッシュ)を設置し(図5)、CASE−2の区間には、補強盛土一次壁面上に溶接金網およびその上にH型鋼(100−H)を2列配置して(図6)、長繊維混合補強土を吹付けた。5ヵ月後に補強盛土一次壁面および長繊維混合補強土壁面工の耐力を調べるために補強盛土天端において戴荷試験を実施した(図7)。図8および図9はCASE−1およびCASE−2の戴荷に伴う壁面の変形状況を示すものである。CASE−1の溶接金網のみで補強した壁面は、壁面上部にクラックが生じて「くの字型」に変形した。一方、H型鋼を配置したCASE−2は転倒モードの変形となり、壁面水平変位もCASE−1に比べて小さく、H型鋼を配置して壁面剛性を高めることにより補強盛土全体の変形抑制効果が顕著であった。
【0042】
また、壁面工上に植生を行うことにより、壁面緑化を有する景観に配慮した補強盛土を提供することができる。
【0043】
上記実施例では補強盛土一次壁面の補強材の一例として溶接金網を示したが、これに限定されるものではなく、鉄筋金網、ジオテキスタイル、エキスパンドメタルや合成樹脂スリット材であってもよい。
【0044】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の補強盛土における壁面工は、補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土の二次壁面の定着性を向上させ、また、二次壁面の剛性を高めることにより、補強盛土の耐力を向上させた壁面工として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】補強盛土一次壁面にH型鋼を配置して長繊維混合補強土二次壁面を構築した壁面工の壁面の変形モードを示す図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土二次壁面による壁面工を示す図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土二次壁面による壁面工を示す図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す補強盛土一次壁面と長繊維混合補強土二次壁面による壁面工を示す図である。
【図5】補強盛土一次壁面上に溶接金網を設置したCASE−1の状態を示す図面代用写真である。
【図6】補強盛土一次壁面上に溶接金網およびその上にH型鋼を配置したCASE−2の状態を示す図面代用写真である。
【図7】補強盛土天端において戴荷試験を実施する様子を示す図面代用写真である。
【図8】図5のCASE−1の戴荷に伴う壁面の変形状況を示す図面代用写真である。
【図9】図6のCASE−2の戴荷に伴う壁面の変形状況を示す図面代用写真である。
【図10】従来の補強盛土一次壁面に長繊維混合補強土二次壁面を構築した壁面工の壁面の変形モードを示す図である。
【図11】従来の壁面の水平方向の変位を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 地盤
2 盛土
3,12 土のう
4,11 補強盛土一次壁面
5 H型鋼を配置した長繊維混合補強土の二次壁面
13 土のう壁
14 ジオテキスタイル
15 溶接金網
16,19 長繊維混合補強土壁面(二次壁面)
17 籠状部分
18 長繊維混合補強土
20 剛性を有する部材(H型鋼)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強盛土一次壁面の補強材の一部を水平に突出させて、該突出させた補強材の一部に吹付けにより長繊維混合補強土二次壁面を築造し、前記補強盛土一次壁面と前記長繊維混合補強土二次壁面を一体化させることを特徴とする補強盛土における壁面工。
【請求項2】
補強盛土一次壁面の補強材ののり面部分を籠状にして籠状部分を形成し、前記補強材の籠状部分の外周を折り返し、前記籠状部分内に長繊維混合補強土を充填して長繊維混合補強土二次壁面を築造し、前記補強盛土一次壁面と前記長繊維混合補強土二次壁面を一体化させることを特徴とする補強盛土における壁面工。
【請求項3】
請求項1又は2記載の補強盛土における壁面工において、前記補強材は溶接金網、鉄筋金網、ジオテキスタイル、エキスパンドメタルや合成樹脂スリット材であることを特徴とする補強盛土における壁面工。
【請求項4】
請求項1又は2記載の補強盛土における壁面工において、前記長繊維混合補強土吹付けは、砂・セメント系、石灰系、セメント石灰系や石膏系の固化材・水の混合土と、耐アルカリ性に優れているビニロンを2系統の圧送管先端で2ショットで混合し吹付けることを特徴とする補強盛土における壁面工。
【請求項5】
請求項1又は2記載の補強盛土における壁面工において、前記補強盛土一次壁面と前記長繊維混合補強土二次壁面を一体化させた壁面内の縦方向に、剛性を有する部材を配置することを特徴とする補強盛土における壁面工。
【請求項6】
請求項5記載の補強盛土における壁面工において、前記剛性を有する部材として型鋼を用いることを特徴とする補強盛土における壁面工。
【請求項7】
請求項5記載の補強盛土における壁面工において、前記剛性を有する部材として溶接金網、鉄筋金網、ジオテキスタイル、エキスパンドメタルや合成樹脂製スリット材を用いることを特徴とする補強盛土における壁面工。
【請求項8】
請求項5記載の補強盛土における壁面工において、前記剛性を有する部材として鉄筋やFRPロッドを用いることを特徴とする補強盛土における壁面工。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−243226(P2009−243226A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93431(P2008−93431)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【出願人】(501232528)株式会社複合技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】