説明

補正器

【課題】走査型電子顕微鏡または走査透過型電子顕微鏡における色収差および開口収差を除去する。
【解決手段】光路(9)に連続的に配置された4つの多極子要素を備え、第1の多極子要素(1)および第4の多極子要素(4)は4極子フィールド(5,6)を作るために使用され、第2の(2)および第3の多極子要素(3)は8極子磁場フィールド(7,8)および4極子フィールドを作るために使用され、前記全4つの多極子要素の4極子フィールドは連続的に互いに90°回転しており、
第2(2)および第3の多極子要素(3)は、12極子フィールド(25,26)を使用して、12極子要素として設計され、追加の12極子要素(13)が、第2の(2)と第3の多極子要素(3)との間に挿入され、かつ、追加の12極子要素(13)には、8極子フィールド(14)が12極子フィールド(15)によって重畳される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡または走査透過型電子顕微鏡における色収差および開口収差のための補正器に関するものであって、それは、光路上に連続して配置された、4つの多極子要素(エレメント)から成り、第1と第4の多極子要素は4極子フィールドを形成し、第2と第3の多極子要素は8極子フィールドと4極子フィールドとを形成し、ここで後者は磁場フィールドと電場フィールドを重畳し、また、全4つの多極子要素の各4極子フィールドは連続して互いに90°回転しており、その結果、色収差補正は、磁場フィールドと電場フィールドの間の相互作用を通した非点収差中間像を使用して、第2および第3多極子要素において実行され、および、開口収差補正は、4極子フィールドと8極子フィールドを使用して実行される。
【背景技術】
【0002】
この種の補正器は、顕微鏡の円形レンズの色収差および開口収差が補償されるように、コンデンサ・レンズを通過後、走査デバイスに到達する前に、ビーム源から発せられたビームを変更させる。これが走査ポイントを最小限化し、正確に定義する。これが、高解像度および高コントラストの走査像を形成するための前提条件である。
【0003】
オー.シェルツァーの発見が、粒子光学における全ての補正の基本機能を形成する(O.Scherzer: "Spharische und chromatische Korrektur von Elektronen-Linsen"(電子レンズの球面および色補正),OPTIK,DE,JENA,1947,page 114-132, XP002090897,ISSN: 0863-0259)。すなわち、色収差および開口収差もまた、まず非点収差中間像を形成し、次ぎにこの非点収差を除去する、非回転対称フィールドを使用することによって、粒子ビームのために、補正することができる。オー.シェルツァーは、これを実現するに必要な条件を確立した(上記論文参照)。シェルツァー理論と呼ばれる、これらの条件は、粒子光学における、如何なる色収差と開口収差の補正の基礎を形成する。
【0004】
そこから離れて、ビィー.ベックとエー.ビィー.クルーは、中央に配置された1つの八極子およびその上流に1つと下流に1つの八極子を伴った、4つの四極子から成る開口収差を除去するための補正器を提案した(V. Beck and A. V. Crewe, "A quadrupole-Octupole corrector for a 100 keV STEM", Proceedings 32nd Annual EMSA Meeting, 1974, pages 426,427)。しかし、この補正器は色収差を除去することができない。
【0005】
開口収差および色収差の両方を補正するために、上記のタイプの補正器が、H.Roseによる提案("Abbildungseigenschaften spharisch korrigierter elektronenmikroskopischer Achromate", Optik 33(1971),page 1-24)およびJ.ZachとM.Haiderによる提案("Aberration correction in a low voltage SEM by a multipole corrector", Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 363(1995),316-325)を基礎にして作られている。このような補正器の一つの問題は、これら自身の収差、すなわち、異なる次数で発生する、非点収差、星形収差(stellar aberration)、ロゼッタ収差(Rosette aberration)およびコマ収差、を引き起こすことである。これらの収差はできる限り除去されるべきである。更に、上記のタイプの補正器は、3次までの開口収差のみを補正する。4次の残余の開口収差がまだ問題を起こす。
【0006】
WO2007/065382は、中間平面に関し、非対称である2つの補正要素を備えた補正器を提案している。各補正要素は、5つの四極子フィールドと少なくとも1つの八極子フィールド(3つのフィールドもまた可能である)を備えた5つの多極子から構成されている。そこでの実施例では、補正要素の対称面に配置された3次の多極子要素は、12極子フィールドが重畳した8極子フィールドを作成する12極子要素である。トランスファー・レンズ・システムは、補正要素間に配置され、同じように、第1の補正要素と第2の補正要素とに入るための基本パス(通路)を引き起こす。
【0007】
最初に言及した補正器と対照的に、この補正器は、非点収差中間像の領域における、球面収差補正および色収差補正の原理に従って作用しない。なぜなら、そのような像は作成されないからである。反対に、2つの補正要素の接合した(conjugated)、歪んだ(anamorphic)面において、そのようなエラーを補正する。上記言及した提案に従って、12極子フィールドが重畳された8極子フィールドが形成された、2つの補正要素の対称面において、イメージ・ポイントから発した軸方向ビームは、上記言及した場合のような円形ビーム・交差セクションを有しないで、むしろ、楕円ビーム・交差セクションを有する。3次の4回(four fold)非点収差の補正に加えて、この補正器は、実質的には無害である、追加の歪みビームの影響もまた引き起こす。というのは、第2の補正器の非対称構成は、反対のビーム影響を誘引し、それによって、この歪みを補償する。非対称構造の第2の補正器は、それ故、このトランスファー・レンズ・システムにとって絶対必要不可欠である。更に、非点収差中間像を形成することのない、上記言及した種類の補正器のためとは、異なる機能原理は、また、図1,2,3から見ることができるように、完全に異なるビーム路を必要とする。
【0008】
US7015481b2は、上記言及したフィールドの形成のために12極子の利用を取り扱う、J.Zach とM.Haiderによる原理に基づいている。しかし、この刊行物は、追加の多極子の導入を示唆していない、むしろ、相応のフィールドの利用を介して、エラー、特に5次の開口エラー、の更なる補正に影響を与えるために、既に存在する多極子の調整を示唆している。しかし、この補正のためここで提案されている、Shew構成(多極子要素の一つの極の角度入替)は、むしろ、間接的役割を果たしている。それは、明らかに、調整の点での使用に最もふさわしい。5次のエラーが12極子フィールドによって影響を受けることは良く知られている。しかし、12極子フィールドは、その12極子フィールドが多極子の位置に置いて形成されることにおいて、満足する解決には至らない。というのは、これらの場所での5次の開口エラーの除去が、追加のエラーの発生という結果になっているからである。
【特許文献1】WO2007/065382
【特許文献2】US7015481b2
【非特許文献1】O.Scherzer, "Spharische und chromatische Korrektur von Elektronen-Linsen" , OPTIK,DE,JENA,1947,page 114-132, XP002090897,ISSN: 0863-0259)
【非特許文献2】V. Beck and A. V. Crewe, "A quadrupole-Octupole corrector for a 100 keV STEM", Proceedings 32nd Annual EMSA Meeting, 1974, pages 426,427
【非特許文献3】H.Rose ,"Abbildungseigenschaften spharisch korrigierter elektronenmikroskopischer Achromate", Optik 33(1971),page 1-24
【非特許文献4】J.Zach and M.Haider, "Aberration correction in a low voltage SEM by a multipole corrector", Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 363(1995),316-325
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それ故、本発明の重要な目的は、5次までの収差が好ましくは相当に除去されるように、上記言及した補正器を更に発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、第2および第3の多極子要素が12極子フィールドを用いて、より高次の収差を補正するため12極子要素として設計されること、および、追加の12極子要素が前記第2の多極子要素と第3の多極子要素との間に挿入され、そして、8極子フィールドに12極子フィールドが重畳されるように電流を通電および/または電圧が印加されること、ここで、追加の12極子要素の構成は、8極子フィールドと12極子フィールドが、ビーム交差セクションが丸い(round)、非点収差中間像の間である位置に配置されるように、成り立っている、という発明によって実現される。
第1と第4の多極子要素の全てのフィールド、そして、第2と第3の多極子要素および追加の12極子要素の8極子フィールドと12極子フィールドは、磁気フィールド(磁場)または電気フィールド(電場)、またはそれらの組み合わせである。追加の12極子要素に電流を通電および/又は電圧が印加されるという表現は、このように解釈されるべきである。第2および第3の多極子要素の4極子フィールドのみが、電気フィールドかつ磁気フィールドを相互に作用しなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明の補正器は、O.Scherzer(上記文献)の教えに従って、第1の多極子要素の4極子フィールドは、互いに垂直である2つのメインの交差セクション、XとY交差セクションにおいてビームが異なって発散するように、回転対称から離れるビームの偏差を引き起こすという、良く知られた機能に初めは基づいている。第2の多極子要素の、90°回転した、続きの4極子フィールドは、ゼロ通路(zero passage)を有しない、一つの交差セクション、例えば、X交差セクション、のビームにのみ影響を与えることができるが、その場所(yセクション)においては、ゼロ通路を有する、ビームのその部分には影響を与えることはできない。それ故、この交差セクション(X交差セクション)は、他の交差セクション、すなわち、yセクションのビームに平行に延びるように、偏向される。他のビーム部分は、90°回転された、第3の多極子要素の4極子フィールドにおいて一義的に偏向される。その結果、互いに垂直であるメイン交差セクションのビームは、丸い(round)ビーム束に再び結合される前に、第4の多極子要素によって、再び互いに近づく。上述したように、4極子フィールドは、磁気的フィールドでも電気的フィールドでも、あるいはその組み合わせであってもよい。回転対称からの上記偏差は、Scherzer理論に従って、色収差および開口収差の補正に用いられる(上記文献)。
【0012】
事実、一つの交差セクション、例えば、X交差セクションに関する色収差は、第2の多極子要素によって補正され、そして、他の交差セクション、例えば、y交差セクションに関する色収差は、第3の多極子要素によって補正される。色収差の補正の機能は、良く知られたウィーン(Wien)・フィルターに相応し、4極子フィールドが、重畳した電場と磁場の4極子フィールドから成るという事実に基づいている。それ故、そのフィールドの強さは、或る早さ、すなわち、或るエネルギー、そして、光学的には、或る"色"の電子が前もって決まった通路のフィールドを通過するように設計される。偏差したエネルギーの電子は、その前もって決まった通路から離れ、それ故、円形顕微鏡レンズ、特に、対物レンズの色収差を、対抗的に補償することができる。それ故、電場および磁場フィールドの組み合わせは、この色収差の補正のために唯要求される。
【0013】
開口収差は、8極子フィールドによって、第2および第3の多極子要素において、補正される。開口収差は、電子顕微鏡の回転対称レンズに起因する。なぜなら、それらは、光路から大きく離れて延びるビームに強く影響を有するからである。それ故、結局、中間像領域のビームは、光軸との交差の共通点を形成しない。ゼロ通路(zero passage)の無い、それぞれの交差セクションのビームは、非点収差中間像の領域において8極子フィールドによって影響を受ける、その結果、そのビームは、その像の面において再び交差する。開口収差の補正は、各交差セクションのビームが連続的に補正され、それに続き、それらのビームが円形ビームに再び結合される時に、完成する。それ故、上流の円形レンズの開口収差を補正することも、下流の円形レンズの開口収差を前もって補償することも可能である。開口収差は光路に曝され、それは、下流の円形レンズ、例えば、対物レンズの開口収差によって再びキャンセルされる。
【0014】
これらの良く知られた補正は、補正器自体が収差を引き起こすという問題を引き起こす。これらは主に非回転対称収差、特に、3次の4回非点収差および5次の星形収差である。この非回転対称収差は、軸像収差形状(figure)を形成し、上述したように、これらの形状に相応してカテゴリ化される。残りの円形収差は5次の開口収差である。
【0015】
本発明の手段は、上記の収差を打ち消すために使用される。12極子としての、第2および第3多極子要素を形成することによって、これらの収差を打ち消すという試みは、適切なフィールド調整により、5次の星形収差を打ち消し、5次の開口収差を大いに減ずる、しかし、3次の4回非点収差を補正しない。
【0016】
12極子フィールドによって重畳される8極子フィールドを形成するように電流が通電され又は/および電圧が印加されている、第2および第3の多極子要素の間の追加の12極子要素のみが、フィールドの相応の調整を介し、残余の僅かの収差を除き、5次までの全ての収差の補正でき、そして、これらの手段が新しい収差を発生させることを防ぐ。
【0017】
前記追加の12極子要素は、ビーム交差セクションが回転する(round)所の非点収差中間像間の場所に光学的に配置されることが分かる。それは、X交差セクションのビームとY交差セクションのビームとが、光軸から同じ距離を有する場所である。
【0018】
本発明の更なる発展型では、前記残余の収差が主に打ち消される。これらの小さな残余の収差は、この補正器の外に配置された円形レンズによって引き起こされるものであって、それは、特に、減らすべき5次の開口収差であって、それは、未だ邪魔をする、
この目的に向かって、本発明は、円形レンズとして設計される2つのトランスファー・レンズを、対物レンズの側の補正器と関連づけ、そのフィールドが高次の円形収差が打ち消されるように調整されることを提供する。しかし、この方法は逆に収差を作る。特に、3次の開口収差の補正および色収差補正もまた、部分的に再びキャンセルされてしまう。この理由のために、第2および第3多極子要素は適切に再調整される。ここで、両方の4極子フィールドおよび8極子フィールドも再調整されなければならない。4極子フィールドの再調整のために、磁場フィールドと電場フィールドは、上述したように、色収差補正を維持したままのように、同時に調整されなければならない。しかし、この同時調整からの偏差は、トランスファー・レンズの設置に起因して再発する色収差に関する限り、再び補正しなければならないことが要求される。
【0019】
トランスファー・レンズの挿入と、上記の再調整のような如何なる調整は、光路を再び変化させる。そして、この理由のために、第2および第3の多極子要素及び追加の12極子要素の12極子フィールドの再調整によって、高次の収差が再発することを打ち消すことが適切である。
【0020】
第2および第3の多極子要素および追加の12極子要素の再調整も、高次の円形収差を再び引き起こすので、トランスファー・レンズは更にもう一度再調整されなければならなし、そして、続いて、前記多極子および12極子要素は、上述したように、再調整されなければならない。上述した要素の如何なる調整も上述したように収差を引き起こすので、上記各ステップは、全ての収差が望ましい像として耐えられる程度に減ぜられるまで、反復して繰り返えさなければならない。
【0021】
本発明に従う補正器は、走査原理に従って機能する如何なる電子顕微鏡にも基本的には挿入可能である。それ故、発明の補正器は、望ましいセッテイング、調整、再調整を実行できることを目的に、各磁場および/又は電場フィールドのフィールド強さを発生させ、調整するために、空間的構成、巻き線、材料特性、同様に、電流および/又は電圧の必要な調整のような、構成的前提条件から成っている。
【0022】
セッテイングおよび、調整又は再調整が可能である、補正器のフィールドの特性は次のようなことを意味する。電極および/又は電磁石の構成的設計およびそれらに電流を通電または電圧を印加する可能性は、上述した手段が補正器を電子顕微鏡に設置した後で実行できることである。これらのセッテイングや調整および再調整は、設置および各電子顕微鏡を運用したあとで実行される。なぜなら、正確なセッテイングは、建設および各レンズの収差の両方に依存し、それ故、同じシリーズの電子顕微鏡においても、寸法誤差や材料の不均一性のために、それぞれ独自に発生するからである。電子顕微鏡の運用ではときどき再調整を必要とする。なぜなら、僅かの汚れも光学的特性を変化させ、再調整を必要とするからである。本発明は、電子ビーム補正のようなことを許す補正器によって実現される。セッテイングや補正で必要とされる、補正器の建設の正確な詳細および利用できる正確な電流および/又は電圧範囲は、各電子顕微鏡の設計に、特に、動作可能な領域の各ビーム電圧およびレンズ・システムおよび走査手段の正確な設計に依存している。
【0023】
本発明の補正器の上述した特性は、電子顕微鏡の設置の後の効果を示しているので、本発明は、また、上述したタイプの補正器を有する、走査電子顕微鏡あるいは走査透過型電子顕微鏡にも関係する。なお、電子ビームは上述したような方法で補正される。
【実施例】
【0024】
本発明を、図面を参照して以下説明する。
図1は、本発明補正器の概略図を示している。
図2は、XおよびY平面における図1に従うビームの軌跡、およびフィールドの配置を示している。
図3は、補正器を有する電子顕微鏡の概略部分図を示している。
図4は、8極子フィールドを発生させる12極子要素の概略図である。
【0025】
図1は、本発明の補正器10の概略図を示している。第1の多極子要素1および第2の多極子要素2が、光路9の方向に配置され、そして、12極子要素13が、そして第3多極子要素3および第4多極子要素4が続いている。
【0026】
図2は、互いに垂直に配置された2つの平面、例えば、X交差セクションとY交差セクションに於ける補正器10のビームの軌跡を、曲線XおよびYの光路を用いて、示している。図2は、また、多極子要素1,2,3,4および12極子要素13によって形成されたフィールドを示している。光路は矢印9の方向に延びて、光軸27は、垂直スケールの"0"を通って延びている。
【0027】
図1と図2の組み合わせから分かるように、第1の多極子要素1と第4の多極子要素4は、4極子フィールド5と6を形成するように設計されている。これらは、電場4極子フィールドまたは磁場4極子フィールド5,6またはその組み合わせであって良い。この目的に向かって、多極子要素1と多極子要素4は、少なくとも4つの電磁石および/又は4つの電極を、軸対象に配置されて、有している。
【0028】
第2および第3の多極子要素2,3は、電場4極子フィールド7’、8’および磁場4極子フィールド7,8を発生させる、例えば、電磁石の軟鉄(soft iron)コアが同時に電極としても作用する、12極子要素として設計される。それ故、第2の多極子要素2および第3の多極子要素3には、電磁石のための電流が通電され、または、電極のために電位が印加される。その結果、これらは、上述した色収差補正が実現できるように、磁場4極子フィールド7,8および電場4極子フィールド7’、8’を発生する。
【0029】
更に、第2の多極要素2および第3の多極子要素3は、電場フィールドまたは磁場フィールドまたはそれらの組み合わせである、12極子フィールド25と26および8極子フィールド11と12を発生させる(図4は、どのようにして12極子要素で8極子フィールドを発生させるかを示している)。図2は、12極子要素13の12極子フィールド15および発生された8極子フィールド14を示している。
【0030】
非回転対称光路の形成は、色収差および開口収差の補正のために、初めに必須のものであり、それは、二重矢印22と23に相応する非点収差中間像を有している。なぜなら、Scherzerの教えに従う補正が適用されるからである(上述した)。非点収差中間像22でもって、ライン焦点がX方向に形成される。なぜなら、Y交差セクションのビームは、X交差セクションのビームと対照的に、ゼロ通路(zero passage)を有しているからである。相応するように、ライン焦点が、非点収差中間像23においてY方向に形成される。それらの光路は、引き続き、円形ビーム束X,Yに再び結合される。
【0031】
多極子要素1,2,3,4の4極子フィールド5,7,8,6は、円柱(slinder)レンズと円形レンズの組み合わせ光路のように作用する、この8極子フィールドを形成するために使用される。第1の多極子要素1の4極子フィールド5がXおよびY交差セクションのビームを発散させ、第2の多極子要素2の4極子フィールド7がYのゼロ通路におけるXビームを偏向する。鏡反転像において、第3の多極子要素3の4極子フィールド8は、Xのゼロ通路において、Yビームを偏向し、第4の多極子要素4の4極子フィールド6が、XおよびY交差セクションのビームを、円形ビームX,Yに再結合する。この目的に向かって、4極子フィールド5,7,8,6は、光路9の方向に向かって互いに90°回転している。XおよびY交差セクションは、空間表現として目視化されなければならない、ビーム変形を表現するためにのみ当然使用されなければならない。非回転対称フィールドを伴った状態は、光路の円柱レンズを伴った状態と同じである。ここで、光路の誘引された歪みは、対抗的な円柱レンズの配置を介して、再び打ち消すことは可能である。これら全てが、電子ビームの色収差補正および開口収差補正に役に立つ。そして、それは、Scherzer理論に従って、非点収差中間像の領域でのみ可能である。
【0032】
開口収差補正は、8極子フィールド11によって影響を受け、5次の開口収差の広範な減少を含む高次の開口収差は、第2および第3の多極子要素2,3の12極子フィールドによって補正される。3次の残余の4回非点収差および5次の残余の開口収差は、本発明に従った追加の12極子要素13の、12極子フィールド15および8極子フィールド14によって補正される。これらは、XおよびYの同一の量のため(due to identical amount)、円形ビーム交差セクション(矢印24によって示されている)を有する鏡対称に配置される。
【0033】
図3は、走査型電子顕微鏡、又は、透過型電子顕微鏡である電子顕微鏡の部分概略図である。本発明の補正器10が、光路9のビーム源18およびコンデンサ・レンズ19の下流に挿入されている。トランスファー・レンズ16と17は、補正器10の下流に配置され、それは、円形レンズ・フィールドおよび補正器10の補正の質を更に向上させる上記の繰り返しセッテイングとを構成している。
【0034】
対物レンズ21を使用して対物(目標物)(示されていない)に向かう、偏向されたビーム9’、すなわち、走査ビームを作成するために、偏向システム20が、トランスファー・レンズ16と17の下流に配置されている。対物(目標物)の像は、走査ビームを用いた走査によって作成される。像は、マイクロ・セクション・サンプルを走査ビームが通過する、走査透過型電子顕微鏡(通常"STEM"と呼ばれる)を用いて作成される。走査型電子顕微鏡(通常"SEM"と呼ばれる)を用いて、第2の電極が走査ビームを介して対物から反射される。これらは、検出器によって検出され、像作成のために用いられる。走査原理に従って機能する現在の電子顕微鏡は、反射原理(reflection principle)に従う走査透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡として作用するようにしばしば構成される。本発明の補正器10は、両方の機能モードに適している。
【0035】
図4は、第2の多極子要素2または第3の多極子要素3または追加の12極子要素13である、12極子要素の概略図である。12極子28,28’は、光軸27の周りに、光軸方向に対称的に配置されている。これらの極子は、磁気フィールドを作るためにN極およびS極として、または、電場フィールドを作るために負および正の荷電電極として、連続的、交互にいつも形成される。
【0036】
電場と磁場の組み合わせを作るために、電磁石の軟鉄コアは、電圧を印加された電極として同時に作用する。
【0037】
4極子フィールドを作るために、3つの電磁石または電極28、28’は、同じ極性又は同じ符号の電荷を有し、そして、各ケースにて組み合わせられ、そして、3つの電磁石または電極のグループは、N極又はS極として、または、負荷電電極または正荷電電極として、交互に使用される。電場フィールドと磁場フィールドは、また、重畳されても良い。そのような重畳は、上述した、磁場フィールド7,8および電場フィールド7’、8’を介してウィーン・フィルターに従い色収差補正を得るために、補強または相互作用として作用する。
【0038】
それとは対照的に、8極子フィールド11,12,または14を作るためには、電極達は"+"および"−"によって表現されるように交互でなければならない。すなわち、2つの正の荷電電極28と、1つの負の荷電電極28’は交互に配置され、ここで、負の荷電(2つの"−"印によって示されている)は、歪みのない8極子フィールド11,12又は14を好ましくは得るために、強化して荷電されなければならない。磁場8極子フィールドを得る場合も、状況は相応に同じである。
【0039】
1つの単一の12極子要素によって形成される、4極子フィールド、8極子フィールドかつ12極子フィールドのような重畳されたフィールドは、各極、すなわち、電磁石または電極に、電流を通電または電圧を印加することによって得られる。このように、上記の全ての重畳したフィールドは作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明補正器の概略図を示している。
【図2】図2は、XおよびY平面における図1に従うビームの軌跡、およびフィールドの配置を示している。
【図3】図3は、補正器を有する電子顕微鏡の概略部分図を示している。
【図4】図4は、8極子フィールドを発生させる12極子要素の概略図である。
【符号の説明】
【0041】
1,2,3,4 第1、第2、第3,第4多極子要素
5,6 第1および第4多極子要素の4極子フィールド
7,8 第2および第3多極子要素の4極子磁場フィールド
7’、8’ 第2および第3多極子要素の4極子電場フィールド
9 矢印:光路
9’ 矢印:偏向された光路(走査ビーム)
10 補正器
11,12 第2および第3多極子要素の8極子フィールド
13 追加の12極子要素
14 12極子要素の8極子フィールド
15 12極子要素の12極子フィールド
16,17 トランスファー・レンズ
18 ビーム源
19 コンデンサー・レンズ
20 偏向システム
21 対物レンズ
22 2重矢印:第1の非点収差中間像
23 2重矢印:第2の非点収差中間像
24 矢印:円形ビーム交差セクション
25 第2の多極子要素の12極子フィールド
26 第3の多極子要素の12極子フィールド
27 光軸
28 電磁石および/または電極(S極または正の荷電電極)
28’ 電磁石および/または電極(N極または負の荷電電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡または走査透視型電子顕微鏡の色収差および開口収差のための補正器(10)であって、
その光路(9)に連続的に配置された4つの多極子要素(1,2,3,4)を備え、
第1の多極子要素(1)および第4の多極子要素(4)は4極子フィールド(5,6)を作るために使用され、第2の多極子要素(2)および第3の多極子要素(3)は8極子磁場フィールド(7,8)および4極子フィールド(7,7’、8,8’)を作るために使用され、なお、後者は、重畳された磁場フィールド(7、8)および電場フィールド(7’、8’)であり、
ただし、前記全4つの多極子要素(1,2,3,4)の4極子フィールド(5,6,7,8)は、
第2の多極子要素(2)と第3の多極子要素(3)における非点収差中間像を用いて、前記磁場フィールド(7,8)および電場フィールド(7’、8’)の間の相互作用を介して色収差補正が実現できるように、および、
前記4極子フィールド(5,6,7,8)および前記8極子フィールド(11,12)を介して開口収差補正が実現できるように、
連続的に互いに90°回転している、
補正器において、
前記第2の多極子要素(2)および第3の多極子要素(3)は、12極子フィールド(25,26)を使用して、高次の収差を補正するために、12極子要素として設計され、
追加の12極子要素(13)が、前記第2の多極子要素(2)と第3の多極子要素(3)との間に挿入され、かつ、
前記追加の12極子要素(13)には、8極子フィールド(14)が12極子フィールド(15)によって重畳されるように電流が通電され、および/または電圧が印加され、
ただし、前記追加の12極子要素(13)は、前記8極子フィールドと前記12極子フィールド(15)が、そのビーム交差セクションが円形である所(24)の非点収差中間像達(22,23)の間に配置されるように、配置される、
ことを特徴とする補正器。
【請求項2】
2つのトランスファー・レンズが、前記対物レンズ側における前記補正器(10)と協働し、前記トランスファー・レンズ(16,17)が円形レンズとして形成され、そのフィールドが、高次の円形収差を打ち消すように調整される、請求項1記載の補正器。
【請求項3】
前記第2の多極子要素(2)と第3の多極子要素(3)の前記4極子フィールド(7,7’、8,8’)と8極子フィールド(11,12,14)および前記追加の12極子要素(13)の8極子フィールド(14)が、前記トランスファー・レンズ(16,17)の前述した調整によって再び発生した、1次の色収差および3次の開口収差が打ち消されるように、作用する、請求項2記載の補正器。
【請求項4】
前記第2の多極子要素(2)と第3の多極子要素(3)および前記追加の12極子要素813)の前記12極子フィールド(13,25,26)が、前述した再調整によって再び発生した高次の収差を再び打ち消すために、再調整される、請求項3記載の補正器。
【請求項5】
1次の色誤差と3次の開口誤差と高次の収差が、
トランスファー・レンズ(16,17)と4極子フィールド(7,7’、8,8’)と8極子フィールド(11,12,14)の再調整および、それに続く12極子フィールド(15,25,26)の再調整を介し、同様に、
各前述した再調整によって、次々に発生した収差を減ずるための前述したステップに関し、それらの収差が、望ましい画像のために耐えられることができる程度まで減ぜられるまで、反復して繰り返しの再調整をすることによって、
打ち消される、請求項3または4記載の補正器。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の補正器を用いて、電子ビームの補正が成された、走査型電子顕微鏡または走査透過型電子顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−105048(P2009−105048A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−269925(P2008−269925)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(500155198)ツェーエーオーエス コレクテッド エレクトロン オプチカル システムズ ゲーエムベーハー (14)
【氏名又は名称原語表記】CEOS Corrected Electron Optical Systems GmbH
【住所又は居所原語表記】Englerstr. 28, D−69126 Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】