説明

補綴物をセメント接着する方法およびセメント接着キット

【課題】一液形光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して補綴物を歯牙構造に接着するための簡素化された方法を提供する。
【解決手段】本方法は、最初に歯牙構造および補綴物の接着表面をプライマー/接着剤で処理することなく、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物を使用して補綴物の接着表面を直接歯牙構造に接着する工程と、セメント組成物を光硬化させる工程とを含む。この光硬化性一液形自己接着性セメント組成物は、(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、(iii)少なくとも1種の光開始剤、および(iv)少なくとも1種の充填剤を含む。成分(i)と成分(ii)の重量比は約0.5:99.5〜約70:30の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液形光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して歯科補綴物を歯にセメント接着する簡素化された方法、およびセメント接着キットに関する。
【背景技術】
【0002】
インレー、オンレー、ベニア、およびクラウンなどの補綴物は、う蝕したまたは変色した歯牙構造を置換して欠陥のある歯牙構造の正常な機能を回復させるために使用される。金合金、ステンレス鋼、および基礎金属の合金(例えば、ニッケル-クロム合金)などの金属材料で作られた補綴物は、十分に耐久性がありセメント接着するのが容易であるが、光学的に不透明であり審美的でない。過去20年間にわたって、セラミック材料、間接複合樹脂、および金属酸化物材料で作られた歯の色をした審美的な補綴物が、それらの比類のない審美性の故に歯科患者および歯科医の双方にとってますます選択したい修復材料となってきた。セラミック材料の例には、磁器、長石磁器、アルミナ磁器、リューサイト補強セラミック材料、リチウムジシリケート補強セラミック材料、ガラス浸透マグネシアアルミネートスピネル、ガラス浸透アルミナ、ガラス浸透ジルコニア、およびアルミナが含まれる。金属酸化物材料の例には、アルミナ、ジルコニア、およびイットリウム安定化ジルコニアが含まれる。不透明ではなくかつ歯の色をした修復物は、樹脂セメントを使用してそれを歯牙構造に接着することを必要とする。樹脂セメントは、優れた審美性(色合わせ能力および良好な半透明性)のを有するからである。しかし、現行の樹脂セメントは疎水性でありかつ自己接着性がなく、したがってエッチングする工程、プライマーを塗布する工程/接着する工程、およびセメント接着する工程を含む、より複雑なセメント接着手順を必要とする。
【0003】
セラミック補綴物を歯牙構造にセメント接着するための典型的なセメント接着手順は以下の通りである。患者が仮の補綴物を装着している場合は、最初にこの仮の補綴物を仮のセメントと一緒に取り除く。歯を、典型的には軽石クリーニングを用いて全面的に清浄化し、続いて水ですすぐ。セメント接着プロセスは以下の工程を含む:(1)最初に酸性エッチング剤を用いて歯をエッチングし、歯の表面のスミア層を除去し、さらに接着のためにより保持力のある表面を創る工程と;(2)歯科用プライマーを(一部の接着方式のために)歯の表面に塗布する工程と;(3)次いで歯科用接着剤を歯の表面に塗布する工程と;(4)歯科用接着剤を光硬化させる工程と;(5)セラミックの接着表面を酸化アルミニウム粒子を用いて空気式で磨耗させる(任意選択)工程と;(6)次いでセラミックの表面をフッ化水素酸でエッチングする工程と;(7)セラミックの表面をシランプライマーでコーティングする工程と;(8)次いでセラミックの表面を(大部分のセメント接着方式のために)プライマー/接着剤でコーティングする工程と;(9)セラミックの表面を光硬化性または二重硬化性(光硬化性および自己硬化性)樹脂セメントで歯に接着する工程と;最後に(10)樹脂セメントを光硬化または二重硬化(光硬化および自己硬化)によって硬化させる工程。歯牙構造に歯科用セラミックベニア修復物をセメント接着するための現行の手順は、面倒であり、多くの工程を含み、したがってかなり技能な影響を受けやすくかつ時間が掛かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4567030号
【特許文献2】米国特許第5609675号
【特許文献3】米国特許第4911899号
【特許文献4】米国特許第4775585号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のセメント接着手順を簡素化し、かつ、、歯科医の待ち時間を短縮することが大いに望ましい。これにより、より少ない工程および成分が関与することになるため、セメント接着手順に伴う誤りの危険性を顕著に縮小するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、補綴物を、一液形の光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して、歯牙構造に接着するための簡素化された方法を開示する。この方法は以下の工程を含む:(1)接着する際に、最初に歯牙構造および補綴物の接着表面をプライマー/接着剤で処理することなく、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物を使用して補綴物の接着表面を直接歯牙構造に接着する工程と、(2)セメント組成物を光硬化させることによってセメント組成物を硬化させる工程。光硬化性一液形自己接着性セメント組成物は以下のものを含む:(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、(iii)少なくとも1種の光開始剤、および(iv)少なくとも1種の充填剤。成分(i)と成分(ii)の重量比は約0.5:99.5〜約70:30の範囲である。
【0007】
プライマー/接着剤を歯牙構造および補綴物の表面に塗布する工程の省略は、修復手順を顕著に簡素化し、かつ、特にベニアのセメント接着についてはしばしばそうであるように複数単位の修復物をセメント接着する場合に、歯科医にとって顕著な時間の節約をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、補綴物を一液形の光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して歯牙構造に接着するための簡素化された方法を開示する。この方法は以下の工程を含む:(1)接着する際に(すなわちセメント接着する際に)、最初に歯牙構造および補綴物の接着表面をプライマー/接着剤で処理することなく、補綴物を直接歯牙構造に光硬化性一液形自己接着性セメント組成物を使用して接着する工程と、(2)セメント組成物を光硬化させることによってセメント組成物を硬化させる工程。この方法において、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物は以下のものを含む:(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、(iii)少なくとも1種の光開始剤、および(iv)少なくとも1種の充填剤。成分(i)と成分(ii)の重量比は約0.5:99.5〜約70:30の範囲である。
【0009】
歯科用セメント組成物の酸性の重合性モノマー(i)としては、少なくとも1つのエチレン性不飽和基および少なくとも1つの酸性部分を有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマーを使用することができる。エチレン性不飽和基の例には、これらだけには限定されないが、(メタ)アクリレート{(メタ)アクリレート=アクリレートまたはメタクリレート}、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびビニル基が含まれる。酸性部分は、任意の官能基であってよい。一実施形態では、酸性部分はリン含有酸性部分、炭素含有酸性部分、イオウ含有酸性部分、およびホウ素含有酸性部分からなる群から選択される。酸性部分の例には、これらだけには限定されないが、スルホン酸、スルフィン酸、カルボン酸、カルボン酸無水物、ホスホン酸またはその誘導体、およびリン酸またはその誘導体が含まれ、誘導体はそれぞれの酸の塩またはエステルである。
【0010】
一実施形態では、酸性の重合性モノマーは、少なくとも1つのリン含有酸性部分を有する。リン含有酸性部分の例には、ホスホン酸またはその誘導体、ならびにリン酸またはその誘導体、例えば
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは、アルキル基、アリール基、またはアルカリ金属イオンである)
からなる群から選択される酸性部分などが含まれる。
【0013】
少なくとも1つのリン含有酸性部分を有する酸性の重合性モノマーの例には、これらだけには限定されないが、フェニルメタクリルオキシエチルホスフェート、グリセリルジメタクリレートホスフェート(GDMA-P)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートホスフェート、ペンタエリスリトールトリアクリレートホスフェート、メタクリロイルオキシデシルホスフェート、ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェート、およびビス(ヒドロキシエチルメタクリレート)ホスフェート、ならびにこれらの組合せが含まれる。一実施形態では、酸性の重合性モノマーは、グリセリルジメタクリレートホスフェート(「グリセリルジメタクリレートリン酸二水素」とも呼ばれる)である。
【0014】
別の実施形態では、酸性モノマーは、少なくとも1つの炭素含有酸性部分を含有している。炭素含有酸性部分の例には、これらだけには限定されないが、カルボン酸および無水カルボン酸が含まれる。例には、これらだけには限定されないが、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、α,β-不飽和カルボン酸の重合性ホモポリマーまたはコポリマー、無水マレイン酸、4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸、およびモノ-またはジ-無水化合物のヒドロキシアルキルメタクリレート化合物との任意の付加生成物が含まれる。一実施形態では、酸性の重合性モノマーはα,β-不飽和カルボン酸の重合性ホモポリマーまたはコポリマーである。α,β-不飽和カルボン酸の重合性ホモポリマーまたはコポリマーの例には、これらだけには限定されないが、(メタ)アクリレート化されたポリ(アクリル酸)、(メタ)アクリレート化されたポリ(アクリル酸)コポリマー、例えば(メタ)アクリレート化されたポリ(アクリル酸-マレイン酸)コポリマーまたは(メタ)アクリレート化されたポリ(アクリル酸-マレイン酸-イタコン酸)コポリマーなどが含まれる。一実施形態では、酸性の重合性モノマーは、4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物および4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸からなる群から選択される。別の一実施形態では、酸性の重合性モノマーは、モノ-またはジ-無水化合物とヒドロキシアルキルメタクリレート化合物との付加生成物である。モノまたはジ無水化合物とヒドロキシアルキルメタクリレート化合物との付加生成物の例には、これらだけには限定されないが、ピロメリット酸無水物と2-ヒドロキシエチルメタクリレートとの付加生成物、ピロメリット酸無水物とグリセリルジメタクリレートとの付加生成物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物とヒドロキシエチルメタクリレートとの付加生成物、無水フタル酸とヒドロキシエチルメタクリレートとの付加生成物、および無水マレイン酸とグリセリルジメタクリレートとの付加生成物が含まれる。
【0015】
セメント組成物の成分(ii)に関しては、非酸性の重合性モノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含有しているが、酸性部分は含有していない。エチレン性不飽和基の例には、これらだけには限定されないが、(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびビニル基が含まれる。非酸性の重合性モノマーには、これらだけには限定されないが、以下のものが含まれる:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2'-エトキシ-2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(TEGDMA)、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロイルプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシル化トリメチロイルプロパントリ(メタ)アクリレート(ETMPTA)、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2,4,4-トリメチルヘキサンジイソシアネートとの反応生成物)、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート(「EBPADMA-n」、n=分子中のエチレンオキシドのモル数の合計、2〜20単位が好ましい)、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルプロポキシ)-フェニル]-プロパン(Bis-GMA)、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリルジ(メタ)アクリレート(GDMA)、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、N,N'-メチレンビス(アクリルアミド)、N,N'-エチレンビス(アクリルアミド)、およびN,N'-ブチレンビス(アクリルアミド)、ならびにこれらの組合せが含まれる。一実施形態では、成分(ii)は、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する重合性モノマーを少なくとも1種含む。ヒドロキシルを含有している重合性モノマーの例には、これらだけには限定されないが、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリルジ(メタ)アクリレート(GDMA)、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、および2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルプロポキシ)-フェニル]-プロパン(Bis-GMA)が含まれる。
【0016】
成分(i)と成分(ii)の重量比は約0.5:99.5〜約70:30の範囲である。一実施形態では、成分(i)と成分(ii)の重量比は、約5:95〜約60:40の範囲である。一実施形態では、成分(i)と成分(ii)の重量比は、約10:90〜約50:50の範囲である。一実施形態では、成分(i)と成分(ii)の重量比は、約15:85〜約50:50の範囲である。
【0017】
光開始剤(iii)は、光源に露出されるとフリーラジカルを発生し、かつ、組成物の重合または硬化を引き起こす任意の化合物であってよい。光源は、可視または紫外領域の光を放出する任意の歯科用硬化光でよい。光開始剤の例には、これらだけには限定されないが、ベンゾイン、ベンゾインエーテルおよびエステル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ジケトン化合物、例えばカンファーキノンおよび1-フェニル-1,2-プロパンジオン、モノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、ジアリールヨードニウム塩、およびトリアリールスルホニウム塩、ならびにこれらの組合せが含まれる。加えて、共開始剤を光開始剤と一緒に使用して硬化の効率を高めることができる。共開始剤には、第三級アミンおよびスルフィネート化合物を含む。共開始剤の例には、これらだけには限定されないが、エチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾニトリル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノフェネチルアルコール、ナトリウムベンゼンスルフィネート、およびナトリウムトルエンスルフィネートが含まれる。一実施形態では、光開始剤系にはカンファーキノンと第三級アミンとの組合せが含まれる。第三級アミンの例には、これらだけには限定されないが、エチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾニトリル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノフェネチルアルコールが含まれる。別の実施形態では、光開始剤系には、カンファーキノンと、ビスアシルホスフィンオキシドまたはモノアシルホスフィンオキシドとの組合せが含まれる。一実施形態では、光開始剤は、組成物の約0.01重量%〜約10重量%の濃度で存在し得る。別の実施形態では、光開始剤は、組成物の約0.05重量%〜約5重量%の濃度で存在し得る。
【0018】
成分(iv)に関しては、1種以上の充填剤をセメント組成物中に組み込むことができる。充填剤の例には、これらだけには限定されないが、無機金属、塩、酸化物、フッ化物、窒化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、石英、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ジルコニアシリカ、ポリマー充填剤、および/または無機粒子を含む重合した複合充填剤が含まれる。一実施形態では、増大したX線造影能力のための無機充填剤には、金属、塩、酸化物、フッ化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、および、高い原子番号の元素(例えばSr、Y、Zr、Ba、La、Hf、Zn、Bi、W、および希土類金属など)を含有しているフルオロアルミノシリケートガラス、ならびにこれらの組合せが含まれる。例には、これらだけには限定されないが、硫酸バリウム、銀、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、タングステン酸バリウム、酸化亜鉛、酸化ビスマス(III)、バリウムアルミノシリケート、バリウムアルミノボロシリケート、ストロンチウムアルミノシリケート、バリウムフルオロアルミノシリケート、ストロンチウムフルオロアルミノシリケート、ストロンチウム亜鉛フルオロアルミノシリケート、および亜鉛アルミノシリケートが含まれる。ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、または沈降シリカも、充填剤の分散、ならびに組成物のレオロジー的性質および取り扱いやすさを向上させるために組み込むことができる。ヒュームドシリカ、コロイダルシリカの例は、Degussa(Ridgefield Park、NJ)によって販売されているAerosil(登録商標)シリーズ(例えばOX-50、OX-130、およびOX-200シリカなど)、ならびにCabot Corp(Tuscola、IL)によって販売されているCab-O-Sil(登録商標)M5およびCab-O-Sil(登録商標)TS-530シリカである。充填剤は、ゾル-ゲル法によって得られるものなどのナノ粒子を含むこともできる。例には米国特許第4567030号および米国特許第5609675号で開示されているものが含まれる。異なる充填剤の混合物を使用することができる。無機充填剤については、充填剤の表面が、充填剤と樹脂マトリックスとの間の界面結合を高めて力学的性質を向上させるカップリング剤(例えばγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)など)で処理またはコーティングされていてもよい。一実施形態では、充填剤の平均粒径は約50ミクロン未満である。別の実施形態では、充填剤の平均粒径は約20ミクロン未満である。別の実施形態では、充填剤の平均粒径は約10ミクロン未満である。全充填剤の濃度は、セメント組成物の約15重量%〜約90重量%の範囲である。一実施形態では、全充填剤の濃度は、セメント組成物の約30重量%〜約85重量%の範囲である。一実施形態では、全充填剤の濃度は、セメント組成物の約50重量%〜約80重量%の範囲である。一実施形態では、セメント組成物中の成分(iv)の濃度は、0.5gの組成物のコンシステンシーが約10mm〜約50mmの範囲内であるような量である。一実施形態では、セメント組成物中の成分(iv)の濃度は、0.5gの組成物のコンシステンシーが約10mm〜約45mmの範囲内であるような量である。別の実施形態では、セメント組成物中の成分(iv)の濃度は、0.5gの組成物のコンシステンシーが約15mm〜約40mmの範囲内であるような量である。コンシステンシー試験は、室温(23.5±1℃)で以下の手順によって行われる:セメント組成物0.50±0.01グラムを75×50mm(厚さ1mm)のガラススライド(Corning Inc.、MA)上に置く;第2の75×50mm(厚さ1mm)のガラススライドおよび1.08±1グラムの錘(上のガラススライドを含めた全重量:117±1.0グラム)をセメント組成物に均等な重量分布になるようにそっと載せる;10分後、へしゃげたセメント塊の長径および短径をミリメートル(mm)で測定する。長径と短径の平均がセメント組成物のコンシステンシーとなる。
【0019】
セメント組成物は、溶媒、着色剤、安定剤、UV吸収剤、フッ化物放出化合物、および抗菌性添加剤からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含むことができる。溶媒としては、任意の溶媒を使用することができる。一実施形態では、溶媒は、エタノール、水、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロパノール、およびt-ブタノール、ならびにこれらの任意の組合せからなる群から選択される。別の実施形態では、溶媒は、エタノール、水、イソプロパノール、およびt-ブタノール、ならびにこれらの任意の組合せからなる群から選択される。一実施形態では、溶媒の濃度は約0重量%〜20重量%の範囲内である。別の実施形態では、溶媒の濃度は約0重量%〜10重量%の範囲内である。別の実施形態では、組成物は溶媒を含まない。着色剤は所望の色合いをもたらすために使用し、無機顔料または有機色素であり得る。安定剤は、接着剤組成物の貯蔵安定性を向上させるための重合禁止剤または遅延剤である。最も広く使用される安定剤には2,6-ジ-(tert-ブチル)-4-メチルフェノール(「BHT」)および4-メトキシフェノール(「MEHQ」)が含まれる。UV吸収剤は、UV光に露光したときの接着剤組成物の色安定性を向上させるために使用する。UV吸収剤の一例は、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(「UV-9」)である。フッ化物放出化合物は、唾液、水、または周囲の歯にフッ化物を放出することができる任意のフッ化物含有物質である。フッ化物放出化合物の例には、これらだけには限定されないが、フッ化ナトリウム、フッ化ストロンチウム、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸亜鉛、フッ化イッテルビウムなどの希土類金属フッ化物、アミンとフッ化水素酸とによって形成される塩、アミンとBF3とによって形成される錯体、およびこれらの混合物が含まれる。抗菌性添加剤の例には、これらだけには限定されないが、塩化ベンザルコニウム、ヨードホルム、オイゲノール、酸化亜鉛、トリクロサン、4-ヒドロキシ安息香酸アルキル、銀および/または亜鉛を含有しているシリケートガラス粉末、銀および/または亜鉛イオンを含有しているゼオライト粉末が含まれる。有用な抗菌性ゼオライトおよびそれらの調製物は、米国特許第4911899号および米国特許第4775585号に開示されてい
る。
【0020】
プライマー/接着剤を歯牙構造および補綴物の接着表面に塗布する工程の省略は、修復手順を簡素化し、かつ、特にベニアのセメント接着についてはしばしばそうであるように複数単位の修復物をセメント接着する場合には、歯科医にとって顕著な時間の節約をもたらす。
【0021】
本発明の方法の一実施形態では、歯の表面を酸性エッチング剤でエッチングし、セメント塗布前に洗浄する。エッチングされた歯の表面は、通常セメント塗布前に水ですすぐことによって清浄化する。酸性エッチング剤は、少なくとも1種の酸性化合物を含む。公的な酸性化合物の例には、これらだけには限定されないが、リン酸、ホスホン酸、マレイン酸、硝酸、またはクエン酸が含まれる。一実施形態では、歯をエッチングするために使用する酸性エッチング剤はリン酸を含む。酸性エッチング剤の一例は、リン酸を含有しているKerr Gel Etchant(Kerr、CA)である。
【0022】
本発明の方法の一実施形態では、さらにセメント塗布前に歯の表面をエッチングする工程も省略する。したがって、セメント塗布前に歯の表面をエッチングする工程とプライマー/接着剤を歯の表面に塗布する工程の両方が省略される。
【0023】
現行の光硬化性の一液形セメント組成物は、様々な補綴物または歯列矯正器具をセメント接着するために使用することができる。一実施形態では、補綴物は、インレー、オンレー、ベニア、およびクラウンからなる群から選択される。一実施形態では、補綴物は歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正バンドからなる群から選択される。一実施形態では、補綴物を作製するために使用する材料は、不透明ではなく、光が補綴物を貫通して光硬化性自己接着性セメント組成物の重合を開始させることができる。本明細書では、「不透明でない」は、補綴材料が光を完全には遮断しないことを意味する。一実施形態では、厚さ1mmの不透明でない補綴材料は、約99%未満の光学的不透明度を有する。不透明度は、分光光度計(SP62型またはSP64型またはSP66型、X-RITE Inc.、MI)を用いて測定することができる。一実施形態では、厚さ1mmの不透明でない補綴材料は、約95%未満の光学的不透明度を有する。一実施形態では、厚さ1mmの不透明でない補綴材料は、約90%未満の光学的不透明度を有する。補綴物を作製するために使用される不透明でない材料の例には、これらだけには限定されないが、硬化させた熱硬化性複合樹脂、熱可塑性材料、セラミック材料、および金属酸化物が含まれる。
【0024】
一実施形態では、補綴物はセラミック修復材料で作製される。セラミック修復材料の例には、磁器、長石磁器、アルミナ磁器、リチウムジシリケート補強セラミック材料〔例えばIPS Eris(Vivadent、NY)〕、リューサイト補強セラミック材料〔例えばIPS EmpressおよびProCAD(登録商標)(Vivadent、NY)〕、ガラス浸透マグネシアアルミネートスピネル、ガラス浸透アルミナ、ガラス浸透ジルコニアが含まれる。補綴物がセラミック修復材料で作製される場合は、補綴物の接着表面は、場合により、補綴物の表面をサンドブラストする工程および表面を洗浄する工程;補綴物の表面を酸性エッチング剤でエッチングし、かつ、表面を洗浄する工程;ならびにこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの工程によって加工される。上記の表面前処理はいずれも、歯科技工所で(歯科技工士によって)または歯科診療所で(歯科医師または歯科助手によって)実行され得る。一実施形態では、セラミックの接着表面をサンドブラストする工程が省略される。一実施形態では、補綴物の内側表面(または接着表面)は、セメント塗布前にサンドブラストされ洗浄される。別の実施形態では、本方法は、セメント塗布前に補綴物の接着表面をエッチングした後、表面を洗浄する工程を含む。エッチングは、歯科技工所および/または歯科診療所で行うことができる。エッチングが歯科技工所で行われる場合は、歯科診療所で新たな接着表面が創られない限りは、もはや歯科診療所で補綴物を再エッチングする必要はない。新たな接着表面は、接着表面を歯科用バーで削ることによってまたは接着表面を平均粒径が約10〜250ミクロンの酸化アルミニウム粒子などの無機微粒子でサンドブラストすることによって、創ることができる。セラミックの表面をエッチングするために使用する酸性エッチング剤は酸を含む。一実施形態では、セラミックの表面をエッチングするために使用する酸性エッチング剤は、フッ化水素酸およびリン酸からなる群から選択される酸を含む。一実施形態では、セラミックの表面をエッチングするために使用する酸性エッチング剤はフッ化水素酸を含む。本発明の方法では、セメント接着時にセラミックの表面をプライマー/接着剤で処理する工程がセメント接着手順から削除される。歯科医が歯科技工所からセラミックの補綴
物を受け取るときには、プライマー(例えばシランプライマー)が既に歯科技工所によってセラミックの補綴物の接着表面にコーティングされている可能性がある。しかし、セメント接着時には、試適用ゲルを使用して補綴物のかみ合いおよび色の両方を試すための試適工程中に接着表面が汚染されて、セメント接着の前に清浄化が必要になる。現行のセメント接着指示書は、接着表面をリン酸エッチング剤の塗布および/または水を用いるすすぎによって清浄化すること、およびセラミックプライマー(またはシランプライマー)またはセラミックプライマーと接着剤との組合せを再塗布することを歯科医に指示する。あるいは、現行のセメント接着指示書は、接着表面をサンドブラストして新たな表面を創り、新たな接着表面を酸性エッチング剤(例えばフッ化水素酸エッチング剤)でエッチングし、かつ、表面をセラミックプライマーまたはプライマーと接着剤との組合せを用いて処理することを歯科医に指示する。両方の手順書が、プライマー、またはプライマーと接着剤との組合せを塗布する工程を含む。一液形の光硬化性自己接着性セメント組成物を使用する本発明の方法においては、プライマー/接着剤(プライマーおよび/または接着剤)はもはやセメント接着時には必要とされず、セメント接着時にプライマー/接着剤を補綴物の接着表面に塗布する工程はセメント接着手順から削除される。一実施形態では、セメント接着手順は、補綴物の接着表面をエッチングする工程と、プライマー/接着剤を補綴物の接着表面に塗布する工程との両方がセメント接着時には省略されるという点でさらに簡素化される。
【0025】
一実施形態では、補綴物は金属酸化物で作製される。金属酸化物の修復材料の例には、これらだけには限定されないが、ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、およびアルミナが含まれる。ジルコニアに基づく修復材料の例には、Lava(商標)(3M ESPE、MN)、Cercon(登録商標)(Dentsply、DE)、およびPorcera(登録商標)Zirconia(Nobel Biocare USA、CA)が含まれる。アルミナに基づく修復材料の例には、これらだけには限定されないが、Vita(登録商標)inCeram(登録商標)alumina(Vident、CA)およびPorcera(登録商標)alumina(Nobel Biocare USA、CA)が含まれる。本発明の方法の一実施形態では、補綴物は金属酸化物修復材料で作られ、かつ接着表面はセメント塗布前に表面をサンドブラストし、続いて清浄化することによって加工され、エッチングおよびプライマー/接着剤の塗布の両方の工程は省略される。サンドブラストは、約10〜250ミクロン、より好ましくは約25〜100ミクロンの平均粒径を有する酸化アルミニウム粒子などの無機微粒子を用いて表面を磨耗させることによって表面積を増大させて接着性を高めるために使用する。サンドブラストした後の清浄化は、水ですすぐことによって達成することができる。
【0026】
一実施形態では、補綴物は硬化した熱硬化性複合樹脂で作製する。熱硬化性複合樹脂の例には、これらだけには限定されないが、belleGlass(登録商標)NG(Kerr、CA)およびSinfony(商標)(3M ESPE、MN)が含まれる。一実施形態では、複合樹脂は1種以上の充填剤または繊維を含む。複合樹脂の硬化は熱硬化および/または光硬化によって達成される。補綴物が硬化した熱硬化性複合樹脂の修復材料で作製される場合は、補綴物の接着表面は、場合により、補綴物の表面をサンドブラストし、表面を清浄化する工程;補綴物の表面を酸性エッチング剤でエッチングし、表面を清浄化する工程;およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの工程によって加工される。上記の表面前処理のいずれも、歯科技工所で(歯科技工士によって)または歯科診療所で(歯科医師または歯科助手によって)実行され得る。
【0027】
別の実施形態では、補綴物は熱可塑性材料で作製する。熱可塑性材料の例には、これらだけには限定されないが、ポリカーボネート、PEEK{ポリ(エーテル-エーテルケトン)}、およびABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー)が含まれる。熱可塑性材料は、1種のポリマー、または2種以上のポリマーのブレンドを含んでいてよい。熱可塑性材料は、1種以上の充填剤または繊維で充填された熱可塑性材料であってもよい。補綴物が熱可塑性修復材料で作製される場合は、補綴物の接着表面は、場合により、補綴物の表面をサンドブラストし、表面を清浄化する工程;補綴物の表面を酸性エッチング剤でエッチングし、表面を清浄化する工程;およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの工程によって加工される。上記の表面前処理のいずれも、歯科技工所で(歯科技工士によって)または歯科診療所で(歯科医師または歯科助手によって)実行され得る。
【0028】
一実施形態では、補綴物はCAD(コンピュータ支援設計)/CAM(コンピュータ支援機械加工)法によって製造され、かつ装具はCAM機械によって機械加工される。CAD/CAM加工のために使用される修復材料の例には、Vitablocs(登録商標)Mark II(Vident、CA)、ProCAD(登録商標)(Vivadent、NY)、およびParadigm(商標)MZ100(3M ESPE、MN)が含まれる。
【0029】
好ましい一実施形態では、補綴物はセラミックベニア修復物であり、本発明の方法は、歯牙構造に歯科用セラミックベニアを取り付けるために光硬化性自己接着性セメント組成物を使用し、セメント接着時にプライマー/接着剤を歯牙構造およびベニアの接着表面に塗布する工程を省略することによって簡素化されたセメント接着方法を記載する。別の実施形態では、ベニアのセメント接着手順は、セメント接着時に歯の表面をエッチングする工程およびプライマー/接着剤を歯の表面に塗布する工程の両方の工程を省略することによってさらに簡素化される。別の実施形態では、セメント接着時にベニアの接着表面をエッチングする工程およびプライマー/接着剤をベニアの接着表面に塗布する工程の両方の工程を省略することによって、ベニアのセメント接着の手順をさらに簡素化する。
【0030】
本発明は、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物と、このセメント組成物を使用するための指示書と、任意選択で象牙質/エナメル質をエッチングするための酸性エッチング剤および歯科用補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤からなる群から選択される1つまたは2つの組成物とを含む歯科用セメントキットも開示する。キットの中で、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物は、(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、(iii)少なくとも1種の光開始剤、および(iv)少なくとも1種の充填剤を含む。成分(i)と成分(ii)の重量比は、約0.5:99.5〜約60:40の範囲であり、補綴物を歯牙構造に取り付けるためにセメント組成物を使用するための指示書は、プライマー/接着剤(プライマー/接着剤=プライマーおよび/または接着剤)を歯の表面および補綴物の接着表面に塗布する工程を省略している。このセメント接着キットには、歯科用プライマーまたは接着剤は含まれていない。
【0031】
本発明の方法を開示する際に一液形自己接着性セメント組成物に関してこれまでの段落において論議したすべての記述および実施形態が、上記のセメントキット中の光硬化性一液形自己接着性セメント組成物に当てはまる。
【0032】
酸性エッチング剤は、少なくとも1種の酸性化合物を含む。一実施形態では、歯の表面をエッチングするために使用する酸性エッチング剤は、リン酸、クエン酸、マレイン酸、ホスホン酸、および硝酸からなる群から選択される酸を含む。一実施形態では、歯の表面をエッチングするために使用する酸性エッチング剤は、リン酸を含む。一実施形態では、補綴物の接着表面をエッチングするために使用する酸性エッチング剤は、フッ化水素酸、リン酸、クエン酸、マレイン酸、ホスホン酸、および硝酸からなる群から選択される酸を含む。別の実施形態では、補綴物の接着表面をエッチングするために使用する酸性エッチング剤は、フッ化水素酸を含む。
【0033】
一実施形態では、象牙質/エナメル質をエッチングするための酸性エッチング剤および/または補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤は、キットから除外される。一実施形態では、象牙質/エナメル質をエッチングするための酸性エッチング剤および補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤は両方ともキットから除外される。一実施形態では、セメント組成物を使用するための指示は、象牙質/エナメル質をエッチングする工程および補綴物の接着表面をエッチングする工程からなる群から選択される少なくとも1つの工程をさらに省略する。一実施形態では、セメント組成物を使用するための指示は、象牙質/エナメル質をエッチングする工程および補綴物の接着表面をエッチングする工程の両方を省略する。
【0034】
一実施形態では、セメントキットは補綴物を歯の表面に取り付けるために使用され、補綴物はインレー、オンレー、ベニア、およびクラウンからなる群から選択される。一実施形態では、補綴物は、硬化した熱硬化性複合樹脂、熱可塑性材料、セラミック材料、および金属酸化物からなる群から選択される材料で作製される。一実施形態では、セメントキットは、ベニアを歯の表面に取り付けるために使用される歯科用ベニアセメント接着キットである。一実施形態では、ベニアはセラミック修復材料で作製される。別の実施形態では、セメントキットは補綴物を歯の表面に取り付けるために使用され、補綴物は歯列矯正用ブラケットおよび歯列矯正用バンドからなる群から選択される。
【0035】
一実施形態によれば、一液形自己接着性セメント組成物の歯牙構造および補綴物の両者に対する接着強度は少なくとも約10MPaである。別の実施形態では、自己接着性組成物の歯牙構造および補綴物の両者に対する接着強度は少なくとも約15MPaである。
【0036】
以下の実施例は、本発明を適用する方法を例示するが本発明の範囲を限定してはならない。
【実施例】
【0037】
すべての実施例で以下の略号を使用する:
AHPMA: 3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシ-プロピルメタクリレート
Bis-GMA: 2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルプロポキシ)-フェニル]-プロパン
CQ: カンファーキノン
EDMAB: エチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸
ETMPTA: 3モルのエチレンオキシドを有するエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート
GDMA: グリセリルジメタクリレート
GDMA-P: グリセリルジメタクリレートリン酸またはグリセリルジメタクリレートリン酸二水素
HEMA: ヒドロキシエチルメタクリレート
MEHQ: 4-メトキシフェノール
ODMAB: 2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸
PMGDMA: ピロメリット酸無水物とグリセリルジメタクリレートの付加生成物
TEGDMA: トリエチレングリコールジメタクリレート
ST-OX-50: γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたヒュームドシリカOX-50
ST-BAS: 2ミクロンの平均粒径を有しγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたバリウムアルミノボロシリケート充填剤
TS-530: Cabot Corp.によって販売されている表面処理されたヒュームドシリカまたはコロイダルシリカ
UDMA: 2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、2,4,4-トリメチルヘキサンジイソシアネートとの反応生成物
UV-9: 2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン
【0038】
(実施例1)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(1A)を作製した:GDMA-P 19.73重量%、HEMA 24.66重量%、GDMA 16.77重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 32.56重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いでセメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(1A)32.00重量%、ST-OX-50 1.74重量%、TS-530 2.00重量%、およびST-BAS 64.26重量%。このセメント組成物は35mmのコンシステンシーを有していた。
【0039】
エナメル質接着強度試験を以下の通り実施した:ウシのエナメル質試料を低温硬化アクリル系樹脂にはめ込んだ。それぞれの群について6つの試料から成る1組を準備した。次いでエナメル質の表面を微粒ダイアモンドバーで前処理して新たな表面を創り、かつ表面を水ですすぐことによって清浄化し、歯科用エアーシリンジからの圧縮空気で約3秒間乾燥させた。エナメル質表面をエッチング剤でエッチングしたりプライマー/接着剤でエナメル質表面を調整したりすることなく、その後、ウシのエナメル質表面を円筒形の型(Φ=2.38mm)を有する接着治具(Ultradent Inc.、UT)によってしっかり保持した。セメント組成物を型の中で縮合させ、かつOptilux(商標)501(Kerr、CA)歯科用硬化光を使用して30秒間光硬化させた。37℃の水中で20〜24時間調整した後、Instron力学試験機(Model 4467、Instron、MA)によってノッチ(半円形)付きエッジを使用するせん断モードで、1.0mm/minのクロスヘッド速度で接着強度を試験した。16.7±2.8MPaのエナメル質接着強度を得た。
【0040】
象牙質接着強度試験も以下の方法によって実施した:抜歯されたヒトの歯を低温硬化アクリル系樹脂にはめ込んだ。それぞれの群について6つの試料から成る1組を準備した。低速ダイアモンドソーを使用してクラウンを取り外して咬合面の象牙質を露出させた。象牙質基材を240グリット、次いで600グリットのSiCペーパーで研磨し、水で十分にすすぎ、かつ短時間空気乾燥した。象牙質表面をエッチング剤でエッチングしたりプライマー/接着剤で象牙質表面を調整したりすることなく、内径2.38mmを有するプラスチックの型を象牙質表面の上にしっかり置いた。セメント組成物は型の中で縮合させ、かつOptilux(商標)501(Kerr、CA)歯科用硬化光を使用して30秒間光硬化させた。37℃の水中で20〜24時間調整した後、Instron力学試験機(Model 4467、Instron、MA)でせん断力を使用して接着強度を試験した。18.8±4.7MPaの象牙質接着強度が得られた。
【0041】
この実施例では、エナメル質表面または象牙質表面を、セメント組成物を用いる接着の前に、エッチング剤でエッチングしたり接着剤で前調整したりしなかった。セメント組成物の象牙質およびエナメル質の両方に対する自己接着性がはっきり実証された。
【0042】
(実施例2)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(2A)を作製した:GDMA-P 24.66重量%、HEMA 29.60重量%、GDMA 14.80重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 24.66重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(2A)32重量%、ST-OX-50 1.74重量%、TS-530 2.00重量%、およびST-BAS 64.26重量%。このセメント組成物は37mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質および象牙質の接着強度試験は、、このセメント組成物を使用し、実施例1における手順に従うことによって実施した。19.1±2.2MPaのエナメル質接着強度および23.4±6.4MPaの象牙質接着強度を得た。37℃で14週間加速老化させた後の老化セメント組成物は、20.9±2.1MPaのエナメル質接着強度および17.0±5.5MPaの象牙質接着強度を与えた。
【0043】
(実施例3)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(3A)を作製した:GDMA-P 29.60重量%、HEMA 29.60重量%、GDMA 9.87重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 24.66重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(3A)27重量%、ST-OX-50 1.87重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.13重量%。このセメント組成物は28mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質および象牙質の接着強度試験は、、このセメント組成物を使用し、エナメル質表面を600グリットのSiCペーパーの代わりに微細ダイアモンドバーで前処理した以外は実施例1における手順に従うことによって実施した。17.8±3.2MPaのエナメル質接着強度および23.8±5.9MPaの象牙質接着強度を得た。42℃で8週間加速老化させた後の老化セメント組成物は、21.5±6.2MPaのエナメル質接着強度および21.6±6.9MPaの象牙質接着強度を与えた。
【0044】
(実施例4)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(4A)を作製した:GDMA-P 29.60重量%、HEMA 24.66重量%、GDMA 12.83重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 13.81重量%、UDMA 12.83重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(4A)27重量%、ST-OX-50 1.87重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.13重量%。このセメント組成物は29mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質および象牙質の接着強度試験は、、このセメント組成物を使用し、実施例3における手順に従うことによって実施した。22.5±10.6MPaのエナメル質接着強度および24.0±6.7MPaの象牙質接着強度を得た。42℃で8週間加速老化させた後の老化セメント組成物は、20.9±3.2MPaのエナメル質接着強度および19.7±4.1MPaの象牙質接着強度を与えた。
【0045】
(実施例5)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(5A)を作製した:GDMA-P 34.539重量%、HEMA 29.609重量%、GDMA 7.89重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 21.70重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(5A)30.00重量%、ST-OX-50 1.81重量%、TS-530 2.00重量%、およびST-BAS 66.19重量%。このセメント組成物は35mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質接着強度試験を実施例3における手順に従って実施した。24.1±1.9MPaのエナメル質接着強度を得た。
【0046】
(実施例6)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(6A)を作製した:GDMA-P 34.73重量%、HEMA 24.73重量%、GDMA 14.84重量%、ETMPTA 4.95重量%、Bis-GMA 14.84重量%、UDMA 14.84重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(6A)27.00重量%、ST-OX-50 1.87重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.13重量%。エナメル質接着強度試験を実施例3における手順に従って実施した。20.6±3.2MPaのエナメル質接着強度を得た。42℃で8週間加速老化させた後の老化セメント組成物は、24.6±6.6MPaのエナメル質接着強度および12.5±5.1MPaの象牙質接着強度を与えた。
【0047】
(実施例7)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(7A)を作製した:GDMA-P 24.66重量%、HEMA 24.66重量%、GDMA 12.83重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 13.81重量%、UDMA 13.81重量%、エタノール3.95重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(7A)26.5重量%、ST-OX-50 1.90重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.60重量%。このセメント組成物は29mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質接着強度試験を実施例3における手順に従って実施した。22.3±6.0MPaのエナメル質接着強度を得た。
【0048】
(実施例8)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(8A)を作製した:GDMA-P 24.66重量%、HEMA 24.66重量%、GDMA 11.84重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 12.33重量%、UDMA 12.33重量%、脱イオン水7.89重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(8A)26.5重量%、ST-OX-50 1.90重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.60重量%。このセメント組成物は38mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質接着強度試験を実施例3における手順に従って実施した。23.8±5.2MPaのエナメル質接着強度を得た。42℃で8週間加速老化させた後の老化セメント組成物は、21.7±5.1MPaのエナメル質接着強度および15.1±4.2MPaの象牙質接着強度を与えた。
【0049】
(実施例9)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(9A)を作製した:GDMA-P 24.66重量%、HEMA 24.66重量%、GDMA 14.80重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 29.60重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、MEHQ 0.06重量%、およびUV-9 0.99重量%。次いで、以下の成分を一緒にブレンドすることによってセメントペースト組成物を作製した:上記の樹脂混合物(9A)27.0重量%、ST-OX-50 1.87重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.13重量%。このセメント組成物は32mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質接着強度試験を実施例3における手順に従って実施した。21.7±4.5MPaのエナメル質接着強度を得た。
【0050】
(実施例10)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(10A)を作製した:GDMA-P 24.66重量%、HEMA 24.66重量%、AHPMA 14.80重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 6.91重量%、UDMA 22.69重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(10A)27.0重量%、ST-OX-50 1.87重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.13重量%。このセメント組成物は32mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質接着強度試験を実施例3における手順に従って実施した。24.2±8.2MPaのエナメル質接着強度を得た。
【0051】
(実施例11)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(11A)を作製した:GDMA-P 24.42重量%、HEMA 24.42重量%、GDMA 14.65重量%、ETMPTA 4.88重量%、Bis-GMA 6.84重量%、UDMA 22.47重量%、ODMAB 0.98重量%、CQ 0.29重量%、MEHQ 0.06重量%、およびUV-9 0.98重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(11A)27.0重量%、ST-OX-50 1.87重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.13重量%。このセメント組成物は36mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質接着強度試験を実施例3における手順に従って実施した。26.0±3.4MPaのエナメル質接着強度を得た。このエナメル質表面をKerr Gel Etchant(37%リン酸、Kerr、CA)でさらに15秒間エッチングした場合には(その後、水ですすぎ、かつ歯科用エアーシリンジを使用して圧縮空気で空気乾燥した)、このセメント組成物で35.2±4.0MPaのエナメル質接着強度を得た。
【0052】
このセメント組成物を、CEREC(登録商標)CAD/CAM機のために特に設計されたVitablocs(登録商標)Mark II磁器またはセラミック基材(Vident、CA)に接着するためにも使用した。Vitablocs(登録商標)Mark IIセラミック基材を低温硬化アクリル系樹脂中にはめ込み、接着は実施例1の手順に従って実施した。セラミック基材を600グリットのSiCペーパーで研磨することだけによって前処理し、それ以上の前処理をしない場合に、このセメント組成物で19.1±4.4MPaの接着強度が得られ、本発明の組成物のこのセラミック基材に対する良好な自己接着性が実証された。このセラミック基材をさらにHFエッチング剤(Ceram-Etch、9.5%フッ化水素酸、Gresco Products、TX)で1分間エッチングした場合は(続いて水ですすぎ、かつ歯科用エアーシリンジを使用して圧縮空気で空気乾燥した)、このセメント組成物で28.2±5.7MPaの接着強度が得られた。このセラミック基材を最初にHFエッチング剤でエッチングした後で、さらにKerr Silane Primer(セラミック基材用プライマー、Kerr、CA)で調整した場合は、このセメント組成物で31.7±4.8MPaの接着強度を得て、HFエッチングだけで得られた強度をわずかに超える向上しか示さなかった。セラミック基材を最初に50ミクロンの酸化アルミニウム粒子を用いて空気式で磨耗させ、続いてHFエッチング剤でエッチングした場合は、このセメント組成物で28.2±9.5MPaの接着強度を得て、空気式磨耗を省略した場合の接着強度と大して違わなかった。セラミック基材を最初に50ミクロンの酸化アルミニウム粒子を用いて空気式で磨耗させ、続いてHFエッチング剤でエッチングし、次いでシランプライマーで調整した場合は、このセメント組成物で27.8±4.6MPaの接着強度を得た。したがって、ただHFエッチング剤でエッチングするだけで他の表面処理は何もしないことが、本セメント組成物を用いて磁器またはセラミック基材への優れた接着を確立するのには十分であった。
【0053】
(実施例12)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(12A)を作製した:PMGDMA 24.66重量%、HEMA 24.66重量%、TEGDMA 24.66重量%、Bis-GMA 9.87重量%、UDMA 14.80重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いで、セメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(12A)27.0重量%、ST-OX-50 1.87重量%、TS-530 3.00重量%、およびST-BAS 68.13重量%。このセメント組成物は26mmのコンシステンシーを有していた。エナメル質接着強度試験はエナメル質表面をKerr Gel Etchantで15秒間エッチングした(続いて水ですすぎ、かつ歯科用エアーシリンジを使用して圧縮空気で空気乾燥した)こと以外は実施例3における手順に従って実施した。このセメント組成物で40.3±11.7MPaのエナメル質接着強度を得た。この高いエナメル質接着強度は、エナメル質基材に何の接着剤前処理もすることなく達成された。
【0054】
このセメント組成物をVitablocs(登録商標)Mark II磁器またはセラミック基材(Vident、CA)に接着するために、実施例11の手順に従って使用した。セラミック基材をHFエッチング剤で1分間エッチングしただけの場合は(続いて水ですすぎ、かつ歯科用エアーシリンジを使用して圧縮空気で空気乾燥した)、このセメント組成物で30.5±5.5MPaの接着強度を得た。セラミック基材を、最初にHFエッチング剤でエッチングした後でKerr Silane Primerでさらに調整した場合は、このセメント組成物で29.6±3.7MPaの接着強度を得た。HFエッチングだけで得られる強度を超える向上は示さなかった。したがって、ただHFエッチング剤でエッチングするだけで他の表面処理は何もしないことが、本セメント組成物を用いて磁器またはセラミック基材への優れた接着を確立するのには十分であった。
【0055】
本発明の方法および組成物を使用してベニア、インレー、オンレー、またはクラウンなどの歯科補綴物を歯牙構造に接着する場合は、大幅に簡素なセメント接着手順および顕著な時間の節約となる。本セメント組成物は、歯牙構造および補綴物の接着表面に対して自己接着性である。結果として、セメント接着の際に、プライマー/接着剤を歯牙構造および補綴物の接着表面の両方に塗布する工程が省略される。このセメント接着手順は、歯の表面をエッチングする工程および/または補綴物の接着表面をエッチングする工程を省略することによって、さらに簡素化することができる。
【0056】
本発明を、その1つ以上の実施形態の記載によって例示し、かつ、これらの実施形態をかなり詳細に説明してきたが、これらは決して添付の特許請求の範囲の範囲を制限またはかかる詳細への限定を意図するものではない。当業者は、さらなる利点および変更形態に容易に想到するであろう。したがって、本発明は、そのより幅広い態様において、提示し、かつ、説明した具体的な詳細、代表的な装置および方法、ならびに例示的な実施例には限定されない。したがって、全般的な本発明の概念の範囲を逸脱することなく、かかる詳細からの逸脱がされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補綴物を歯牙構造に接着する方法であって
(I)接着する際に、最初に歯牙構造または補綴物の接着表面をプライマーまたは接着剤で処理することなく、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物を使用して補綴物の接着表面を直接歯牙構造に接着する工程と、
(II)セメント組成物を光硬化させることによってセメント組成物を硬化させる工程と
を含み、
前記光硬化性一液形自己接着性セメント組成物が、
(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、
(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、
(iii)少なくとも1種の光開始剤、および
(iv)少なくとも1種の充填剤
を含み、
成分(i)と成分(ii)の重量比が約0.5:99.5〜約70:30の範囲である、方法。
【請求項2】
前記セメント組成物中の成分(i)と成分(ii)の重量比が、約5:95〜約60:40の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セメント組成物中の成分(i)と成分(ii)の重量比が、約10:90〜約50:50の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記セメント組成物中の成分(iv)の濃度が、約15〜95重量%の範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記セメント組成物中の成分(iv)の濃度が、約50〜80重量%の範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記セメント組成物が、着色剤、安定剤、UV吸収剤、溶媒、フッ化物放出化合物、抗菌性添加剤、および界面活性剤、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される1種以上の成分をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和基が、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびビニル基からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性部分が、リン含有酸性部分、炭素含有酸性部分、イオウ含有酸性部分、およびホウ素含有酸性部分からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記酸性の重合性モノマーが、
【化1】

(式中、Rは、アルキル基、アリール基、またはアルカリ金属イオンである)
からなる群から選択される少なくとも1つの酸性部分を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸性の重合性モノマーが、フェニルメタクリルオキシエチルホスフェート、グリセリルジメタクリレートホスフェート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートホスフェート、ペンタエリスリトールトリアクリレートホスフェート、メタクリロイルオキシデシルホスフェート、ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェート、およびビス(ヒドロキシエチルメタクリレート)ホスフェート、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酸性の重合性モノマーが、4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記酸性の重合性モノマーが、モノまたはジ無水化合物と、ヒドロキシアルキルメタクリレート化合物との付加生成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種の充填剤が、無機金属、塩、酸化物、窒化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、石英、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ジルコニアシリカ、ポリマー充填剤、および無機粒子を含む重合した複合充填剤、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記金属、塩、酸化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、およびフルオロアルミノシリケートガラスが、Sr、Y、Zr、Ba、La、Hf、Zn、Bi、W、および希土類金属、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される元素を含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
セメント組成物で接着する前に、前記歯牙構造を酸性エッチング剤組成物を用いてエッチングする工程およびエッチングされた歯の表面を水ですすぐことによって洗浄する工程をさらに含み、前記酸性エッチング剤組成物が少なくとも1種の酸性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記セメント組成物を用いて接着する工程が、最初に酸性エッチング剤を用いて歯牙構造をエッチングする工程を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記補綴物が、インレー、オンレー、ベニア、およびクラウンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記補綴物が、歯列矯正用ブラケットおよび歯列矯正用バンドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記補綴物が、不透明でない修復材料で作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記不透明でない修復材料が、硬化した熱硬化性複合樹脂、熱可塑性材料、セラミック材料、および金属酸化物からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記補綴物が、CAD/CAM法によって製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記不透明でない修復材料が、セラミック材料であり、前記セラミック材料が、磁器、長石磁器、アルミナ磁器、リューサイト補強セラミック材料、リチウムジシリケート補強セラミック材料、ガラス浸透マグネシアアルミネートスピネル、ガラス浸透アルミナ、およびガラス浸透ジルコニアからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記セラミック補綴物の接着表面を、酸性エッチング剤でエッチングし、その後セメント組成物で接着する前に洗浄する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記酸性エッチング剤が、フッ化水素酸、およびリン酸からなる群から選択される酸を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記セラミック補綴物の接着表面を、セメント組成物で接着する前に酸性エッチング剤でエッチングしない、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記補綴物がベニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記ベニアが、セラミック修復材料で作製される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記不透明でない修復材料が金属酸化物であり、前記金属酸化物が、ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、およびアルミナからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記金属酸化物の補綴物の接着表面を、セメント組成物で接着する前に酸性エッチング剤でエッチングしない、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記補綴物の接着表面を、セメント組成物で接着する前に微粒子を用いてエアアブレーションし、その後洗浄する、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
歯科用セメント接着キットであって、
光硬化性一液形自己接着性セメント組成物と、
前記セメント組成物を使用するための指示書と、
任意選択で、歯牙構造をエッチングするための酸性エッチング剤、および歯科用補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤からなる群から選択される1つまたは2つの組成物と
を含み、
前記光硬化性一液形自己接着性セメント組成物が、
(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、
(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、
(iii)少なくとも1種の光開始剤、および
(iv)少なくとも1種の充填剤
を含み、
成分(i)と成分(ii)の重量比が、約0.5:99.5〜約70:30の範囲であり、
セメント組成物を使用して補綴物を歯牙構造に取り付けるための指示書が、プライマーおよび/または接着剤を歯牙構造および補綴物の接着表面に塗布する工程を省略している、キット。
【請求項32】
プライマーまたは接着剤を含まないという条件が付く、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項33】
前記セメント組成物中の成分(i)と成分(ii)の重量比が、約5:95〜約60:40の範囲である、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項34】
前記セメント組成物中の成分(i)と成分(ii)の重量比が、約10:90〜約50:50の範囲である、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項35】
前記セメント組成物中の成分(iv)の濃度が、約15〜95重量%の範囲内である、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項36】
前記セメント組成物中の成分(iv)の濃度が、約50〜80重量%の範囲内である、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項37】
前記セメント組成物が、着色剤、安定剤、UV吸収剤、溶媒、フッ化物放出化合物、抗菌性添加剤、および界面活性剤、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される1種以上の成分をさらに含む、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項38】
前記エチレン性不飽和基が、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびビニル基からなる群から選択される、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項39】
前記酸性部分が、リン含有酸性部分、炭素含有酸性部分、イオウ含有酸性部分、およびホウ素含有酸性部分からなる群から選択される、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項40】
前記酸性の重合性モノマーが、
【化2】

(式中、Rは、アルキル基、アリール基、またはアルカリ金属イオンである)
からなる群から選択される少なくとも1つの酸性部分を有する、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項41】
前記酸性の重合性モノマーが、フェニルメタクリルオキシエチルホスフェート、グリセリルジメタクリレートホスフェート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートホスフェート、メタクリロイルオキシデシルホスフェート、ペンタエリスリトールトリアクリレートホスフェート、ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェート、およびビス(ヒドロキシエチルメタクリレート)ホスフェート、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項42】
前記酸性の重合性モノマーが、4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物、および4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項43】
前記酸性の重合性モノマーが、モノ-またはジ-無水化合物とヒドロキシアルキルメタクリレート化合物との付加生成物である、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項44】
前記少なくとも1種の充填剤が、無機金属、塩、酸化物、窒化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、石英、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ジルコニアシリカ、ポリマー充填剤、および無機粒子を含む重合した複合充填剤、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項45】
前記金属、塩、酸化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、およびフルオロアルミノシリケートガラスが、Sr、Y、Zr、Ba、La、Hf、Zn、Bi、W、および希土類金属、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される元素を含有する、請求項44に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項46】
前記歯牙構造をエッチングするための酸性エッチング剤が、リン酸、クエン酸、マレイン酸、ホスホン酸、および硝酸からなる群から選択される酸を含む、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項47】
前記歯牙構造をエッチングするための酸性エッチング剤が、リン酸を含む、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項48】
前記補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤が、フッ化水素酸、リン酸、クエン酸、マレイン酸、ホスホン酸、および硝酸からなる群から選択される酸を含む、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項49】
前記補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤が、フッ化水素酸を含む、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項50】
前記歯牙構造をエッチングするための酸性エッチング剤および/または前記補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤が、キットから除外されている、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項51】
前記セメント組成物を使用するための指示書から、キットから除外された酸性エッチング剤のための対応するエッチング工程がさらに削除されている、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。
【請求項52】
前記歯牙構造をエッチングするための酸性エッチング剤および前記補綴物の接着表面をエッチングするための酸性エッチング剤が、両方ともキットから除外されており、かつ前記セメント組成物を使用するための指示書から、歯牙構造をエッチングする工程および補綴物の接着表面をエッチングする工程の両方がさらに削除されている、請求項31に記載の歯科用セメント接着キット。

【公開番号】特開2009−161533(P2009−161533A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−902(P2009−902)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(598036436)ケール コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】