説明

製剤用核剤

【課題】遠心流動造粒装置または流動層造粒装置を用いて安価に生産でき、薬剤との反応性が極めて少なく、徐放剤や腸溶剤を均質にコートした薬用製剤又は農薬等の副資材として有用であり第十五改正日本薬局法に適合する無水リン酸水素カルシウム粒子からなる核剤、及び該核剤を核とした製剤の提供。
【解決手段】15〜150μmの平均粒子径を有し、38°以下の安息角を示す球状の無水リン酸水素カルシウム粒子を核剤としてもちいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状の無水リン酸水素カルシウム粒子を有効とする核剤に関する。更に詳しくは、徐放剤や腸溶剤を製剤表面にコートした医療用薬剤または農薬等の農業用副資材等のための核剤及び該核剤を核とした製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬用に使用される球状の核剤は、主に徐放性製剤や腸溶性製剤の核として利用されている。この種の核剤としては、精製白糖、乳糖、トウモロコシデンプン、結晶性セルロース、糖アルコール、ビタミンC等を主な原料とした有機物系の球状核剤が主流である(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、これらを核剤として利用するには、原料を各種造粒機を用いて造粒・乾燥後、目的とする粒度に篩い分けする必要があり収率の問題および有機物であるために高価なものとなっている。
【特許文献1】特開昭61−213201号公報
【特許文献2】特開平5−229961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、遠心流動造粒装置または流動層造粒装置を用いた球状製剤であって、徐放剤や腸溶剤を均質にコートしたい薬用製剤または農薬等の副資材を安価に生産できる核剤および該核剤を核とした製剤を提供するものである。
無水リン酸水素カルシウムは、化学的性質として液性が中性であるので薬剤との反応性が極めて少なく、多くの医薬品に賦形薬として利用されている。
【0004】
しかしながら、従来の無水リン酸水素カルシウム粒子は粒子サイズが小さく粉末であるために、徐放剤や腸溶剤の核剤として利用されていない。粉末無水リン酸水素カルシウム粒子を核剤として利用するために、遠心流動造粒装置または流動層造粒装置を用いて造粒を試みても、造粒性が非常に悪く各種バインダーを用いても容易に造粒できない特性を有している。
従来の無水リン酸水素カルシウム粒子としては、粉末品として協和化学工業株式会社製(商品名:カリカ)、および粒子形状が塊状である協和化学工業株式会社製(商品名:GSカリカ)等が市販されている。
【0005】
しかしながら、前記商品名カリカは第十五改正日本薬局法規格に適合品であるが、粒子形状が粉末であり、平均粒子径が15〜25μm、安息角が40°以上であり核剤として利用することができない。
また、前記商品名GSカリカは第十五改正日本薬局法規格に適合品であるが、粒子形状が塊状であり、平均粒子径が15〜25μm、安息角は36〜39°であるので核剤として利用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、微小粒子径で且つ徐放剤や腸溶剤等の均質皮膜剤を得るための造粒用核剤として、球状の無水リン酸水素カルシウム粒子を用いることができることを見出した。
本発明の球状無水リン酸水素カルシウム粒子は、例えば特開昭59−223204、特開昭59−223205、特開昭59−223206示された方法により得ることができる。すなわち、カルシウム化合物とリン酸化合物を、リン酸縮合物の存在下、50℃以上の温度で反応させることによって得られる。
【0007】
(平均粒子径)
本発明の無水リン酸水素カルシウム粒子の平均粒子径は、15〜100μm、好ましくは60〜90μmである。粒子径が15μm以下になると形状の粒子が得られなく、球状で粒子径100μm以上の無水リン酸水素カルシウム粒子を得ることはできない。
【0008】
(安息角)
本発明の無水リン酸水素カルシウム粒子の安息角は、40°以下、好ましくは30〜37°である。安息角が40°を超えると、遠心流動造粒装置または流動総造粒装置内での流動性が悪くなり製剤用の核剤として利用できなくなる。下限の方は特に限定するものでないが、安息角30°以下の無水リン酸水素カルシウム粒子を得ることができない。
【0009】
(粒子形状)
形状としては真球状が好ましいが、短直径/長直径の比が1/2程度の球状のものでも良い。更に、図1の電子顕微鏡写真から明らかなように、本発明の球状無水リン酸水素カルシウム粒子の表面は滑らかであるので、遠心流動造粒装置または流動総造粒装置を用いて製剤に利用するときに粒子のかけ等が生じない。
【0010】
(日本薬局方)
本発明の無水リン酸水素カルシウム粒子は、日本薬局法の規格に適合する。第十五改正日本薬局法の無水リン酸水素カルシウムの規格を下記する。
(1)性状
・色→白色、形状→結晶性の粉末または粒、臭い→なし、味→なし
・溶解性→水にほとんど溶けない。エタノール(95)にほとんど溶けない。ジエチルエーテルにほとんど溶けない。希塩酸に溶ける。希硝酸に溶ける。
(2)確認試験(定性反応)
・カルシウム塩、リン酸塩→共に適合
(2)純度試験
・酸不溶物→0.05%以下、塩化物→0.248%以下、硫酸塩→0.200%以下、炭酸塩→泡立たない、重金属→31ppm以下、バリウム→混濁しない、ヒ素→2ppm以下、
(3)乾燥減量→1.0%以下
(4)含量CaHPO(乾燥物)→98.0%以上
【0011】
本発明の、球状無水リン酸水素カルシウム粒子を核剤とする製剤の主薬剤は、医薬品のうち内服用薬剤であれば何れを用いてもよく、特に限定されるものではないが、以下のものが例示できる。解熱鎮痛剤、鼻炎剤、循環器系薬、消化器系薬、抗生物質、化学療法剤、ビタミン剤、麻薬性鎮痛剤、ホルモン剤、抗うつ薬、抗炎症薬、抗精神薬等が例示される。
また、農薬等の農業用資材であっても、その薬剤は特に限定されるものではない。
【0012】
かくして本発明によれば、下記無水第二リン酸カルシウム粒子を有効成分とする核剤および該核剤を含有する製剤が提供される。
(1)球状の無水リン酸水素カルシウム粒子を有効成分とする核剤。
(2)球状の無水リン酸水素カルシウム粒子は、15〜150μmの平均粒子径を有する上記(1)の核剤。
(3)球状の無水リン酸水素カルシウムは、30〜100μmの平均粒子径を有する上記(1)の核剤。
(4)球状の無水リン酸水素カルシウムは、38°以下の安息角を有する上記(1)の核剤。
(5)球状の無水リン酸水素カルシウムは、40°以下の安息角を有する上記(1)の核剤。
(6)球状の無水リン酸水素カルシウムは、第十五改正日本薬局法における無水リン酸カルシウム規格に適合する上記(1)の核剤。
(7)上記(1)の核剤を含有する製剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無水リン酸水素カルシウム粒子は、形状が球状であり、日本薬局法の無水リン酸水素カルシウム規格に適合品であり、粒径が30〜150μmであり、安息角が38°以下であり、更に安価であるので医薬製剤用の核剤としての利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施例)
以下に実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、リン酸水素カルシウムの特性は以下の方法により測定した。
(1)粒度分布:HORIBA社製 レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910で測定した。
(2)粒子形状:走査型電子顕微鏡
(3)第十五改正日本薬局法規格:日本薬局法無水リン酸水素カルシウム試験法に準じて測定した。
(4)液性(pH):本品1gを乳鉢にとり、強く粉化(すりつぶす)させ、水50mLを加えて均一になるように軽くかき混ぜpHを測定する。
【実施例1】
【0015】
(実験例1)
500L容ステンレス製反応容器に、4.1モル/L濃度のリン酸水溶液166Lを投入し、攪拌下に80℃に調製し、80℃に調整したCaO濃度2.2モル/Lの石灰乳300Lを5L/分の流速で添加した。石灰乳を約150L時点で、石灰乳の添加と平行して100g/L濃度のピロリン酸ナトリウム40.4Lを1.35L/分の流速で添加した。なお、反応温度は、自生熱により94〜96℃で推移した。
冷却後、プレス機により固液分離し、ケーキを上水で十分に洗浄した。得られたケーキ(脱水物)を、奈良機械販売株式会社製NDP−3WW−LG型パドルドライヤーで乾燥することによって球状の無水リン酸水素カルシウム粒子を得た。得られた球状の無水リン酸水素カルシウムの物性値を表1に、また走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【実施例2】
【0016】
(実験例2〜5)
実施例1において、ピロリン酸ナトリウムのかわりに表1のリン酸縮合物を使用した以外は、実施例1と同操作を行い球状の無水リン酸水素カルシウム粒子を得た。得られた球状の無水リン酸水素カルシウム粒子の物性値を表1に示す。
【実施例3】
【0017】
(参考例1)
本発明の球状の無水リン酸水素カルシウム粒子との比較のために、従来の無水リン酸水素カルシウム粒子(協和化学工業株式会社製:商品名カリカ)の物性値を表1に示す。
【実施例4】
【0018】
(参考例2)
本発明の球状の無水リン酸水素カルシウム粒子との比較のために、従来の無水リン酸水素カルシウム粒子(協和化学工業株式会社製:商品名GSカリカ)の物性値を表1に、走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。







【0019】
【表1】















【0020】
本発明の球状無水リン酸水素カルシウム粒子は目的とする粒度の収率が比較的高く、また図1の走査型電子顕微鏡写真から明らかなように粒子形状が球状であるのに対して、従来の無水リン酸水素カルシウムは目的とする粒度の収率が非常に悪く、また、図2の走査型電子顕微鏡写真から明らかなように粒子形状が塊状であることより、製剤用核剤としての利用は不可能である。又、第十五改正日本薬局法規格の性状、確認試験結果は各実施例および各参考共に適合である。
【実施例5】
【0021】
(実験例6〜10および比較例1)
実験例1〜5で得られたそれぞれの球状無水リン酸水素カルシウム粒子および比較例として従来の無水リン酸水素カルシウム粒子(協和化学工業株式会社製:商品名GSカリカ)を62〜125μmで篩い分けし、転動流動コーティング装置(マルチプレックス MP−25((株)パウレック製))のロータ上に該核剤を25kg仕込み、回転させながら該粒子を核として、日本薬局方適合のアスピリン500g、乳糖1.5Kg、コーンスターチ500gおよび精製水2.5Kgの混合物液を薬剤性分として散布して、製剤化を行った。続いて、表面コート剤として徐放性を付与させるためにヒドロキシエチルセルロースの10%精製水溶液10Kgを同一条件で噴霧して被覆処理を行った。
表2に操作条件および結果を示す。ただし、表中の粒子サイズはJIS篩過網にて評価した。



















【0022】
【表2】
















【0023】
本発明の球状無水リン酸カルシウムは製剤品の粒子形状が球状であり、また、目的とする粒度の収率が非常に高い。これに対して、比較例1で得られた製剤品は粒子形状が塊状であり、目的とする粒度の収率が低い。以上より、本発明の球状無水リン酸カルシウム粒子は、球状製剤用の核として最良のものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1(実験例1)に係る球状無水リン酸水素カルシウムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例4(参考例2)に係る無水リン酸水素カルシウム粒子の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の無水リン酸水素カルシウム粒子を有効成分とする核剤。
【請求項2】
球状の無水リン酸水素カルシウム粒子は、15〜150μmの平均粒子径を有する請求項1記載の核剤。
【請求項3】
球状の無水リン酸水素カルシウムは、30〜100μmの平均粒子径を有する請求項1記載の核剤。
【請求項4】
球状の無水リン酸水素カルシウムは、38°以下の安息角を有する請求項1記載核剤。
【請求項5】
球状の無水リン酸水素カルシウムは、40°以下の安息角を有する請求項1記載核剤。
【請求項6】
球状の無水リン酸水素カルシウムは、第十五改正日本薬局法における無水リン酸カルシウム規格に適合する請求項1記載の核剤。
【請求項7】
請求項1記載の核剤を含有する製剤。























【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−73756(P2009−73756A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244021(P2007−244021)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】