説明

製品の品質改善条件解析装置、解析方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】全ての操業因子の組合せに対して、操業の変化に対する品質の変化が相対的に大きく、品質改善に有効な操業因子の組合せを自動的に抽出し、かつ所定の品質レベルを満たす操業条件の組合せを表示することで製品の品質を簡単に解析する。
【解決手段】操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成して、各操業条件メッシュにおける品質データの確率密度に基づいて品質指標を算出する。全ての操業因子の組合せに対して、各操業条件メッシュの品質指標から最大値と最小値を選択し、その差分で算出される影響度が大きな操業因子の組合せを選択して提示する。更に、所定の目標品質指標と品質改善に相対的に効果の大きい操業因子の組合せにおける操業条件メッシュの品質指標を比較し、目標品質を達成する操業条件メッシュと、そのメッシュに対応する操業条件を選択してガイダンスする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の品質改善条件解析装置、解析方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。特に、操業結果として品質が決まる製造プロセス全般において、品質不合の発生と関連の高い操業因子の組合せ、及び操業条件を特定し、更には現在の操業条件から品質を予測し、望ましい品質を得るための操業条件をオペレータや品質管理を行うエンジニアにガイダンスする為に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操業結果として品質が決まるプロセスにおいて、操業条件が品質に与える影響を解析する操業分析手法としては、単一の操業因子と品質との相関係数を用いて評価する相関解析法や、複数の操業因子を入力とし品質を出力とする重回帰モデルを作成して評価する方法が知られている。
【0003】
また、特許文献1に開示された手法では、鉄鋼プロセスにおける、鋳片のカーボン量等の物性値、鋳造巾等の操業値、及び冷却ゾーンの温度値等を操業因子とし、鋼板の表面欠陥を品質データとして多層神経回路網(multi layer neural network)を用いた品質予測装置で上記品質データと操業データの関連を学習させ品質制御診断を行っている。
【0004】
また、特許文献2に開示された手法では、製造プロセスの複数の操業因子の各パラメータが取り得る範囲を分割し、各操業パラメータの分割の組合せからなる分割領域における品質データの発生頻度の確率分布を導出した上で、所定の累積確率となる品質データ値を算出することで、相関解析や重回帰モデルでは捉えられない操業データと品質データの関連を解析できるようにしている。更に、上記の解析によって得られた操業パラメータと品質の関係から、製品の操業条件が決まった場合に、得られる品質を予測可能としている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−304723号公報
【特許文献2】特許第3733057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の相関係数や重回帰モデルを用いた方法では、分析対象である操業及び品質データは全ての操業範囲において単一の線形モデルで表現できるとの前提条件に基づいて、相関係数や回帰モデルを導出して分析を行う。そのために、各々異なる特性を有する複数の品質不合要因が存在するプロセスから得られる、操業及び品質データを解析する場合には、両者の関係を正しく捉えることができないという問題があった。
【0007】
また、特許文献1に開示された手法では,多層神経回路網を用いて操業因子と品質の関係性を学習したモデルを作成し、品質制御診断に応用している。しかし、多層神経回路網は、その制御診断がどのような論理に基づいて成されたかを人間が読み取ることが極めて難しく、制御診断結果の合理性をオペレータが判断できないという問題があった。
【0008】
更に、現実の製造プロセスにおいて、品質に影響を及ぼす操業因子のデータが全て採取できるケースは稀であり、要因解析や品質制御に用いるデータは、互いに殆ど同一の操業条件であるにも係わらず、品質が大きく異なるデータを数多く含むようなバラツキの大きいデータである場合が大半である。上記の相関係数や重回帰モデルを用いた方法は、この
ようなバラツキの大きなデータに適用した場合、殆ど品質に関連のある操業条件を見出すことができない問題があった。また、特許文献1に開示された手法では、バラツキの大きなデータの操業因子と品質の関係性を多層神経回路網で学習する際に、バラツキの影響で学習が収束せず、十分な精度を有する制御モデルが得られないという問題があった。
【0009】
特許文献2に開示された手法は、上記のバラツキが大きなデータに対しても、相関解析や重回帰分析では見出すことが出来ない操業と品質の関連を見出すことを可能とするもので、複数の操業条件の組合せに対して、操業条件を複数の領域に分割し、各分割領域における品質データの発生頻度の確率密度を導出して、所定の累積確率となる品質指標を求めることで、操業条件と品質の関連を解析する手法である。すなわち、同一の操業条件下での品質バラツキを確率密度として捉え、操業条件の変化によって品質の確率密度が変化するとした考え方に基づいている為、バラツキの大きいデータからも、操業と品質の関連を見出すことが可能となっている。
【0010】
しかしながら、現実の製造プロセスにおいては、品質不合の原因となっている可能性がある操業因子は200〜300個以上に至る場合もあり、操業因子の組合せの数が膨大になることから、特許文献2に開示された手法で、各操業条件の組合せと品質の関連を個々に解析し、その中から品質改善に有効な操業条件を見出すには多大な時間を要するといった実用上の問題があった。
【0011】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、全ての操業因子の組合せに対して、操業の変化に対する品質の確率密度の変化が相対的に大きく、品質改善に有効な操業因子の組合せを自動的に抽出し、かつ所定の品質レベルを満たす操業条件の組合せも自動的にガイダンス可能とするものである。これにより、品質不合の発生に対し、操業条件の変更といった対策アクションを迅速に実行可能とする製品の品質改善条件解析装置及び解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の製品の品質改善条件解析装置は、製品の品質データとその製造プロセスにおける複数の操業因子の操業データとの関連を解析し、該製品の品質不合と関連の高い、操業因子を特定し、かつ品質を改善する操業条件をガイダンスする製品の品質改善条件解析装置であり、製品の品質データと、製造プロセスにおける複数個の操業因子の操業データとからなる解析データを入力するデータ入力手段と、前記データ入力手段で入力した複数個の操業因子の操業データより、予め指定された個数分の互いに異なる操業因子の全ての組合せを作成する操業因子組合せ作成手段と、前記操業因子組合せ作成手段で作成した全ての組合せの中から1つの組合せを選択する操業因子選択手段と、前記操業因子選択手段で選択した1つの組合せについて、該組合せを構成する複数の操業因子それぞれに対し、操業データの値の大小に基づいて操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成する操業条件メッシュ作成手段と、前記操業条件メッシュ作成手段で作成した各操業条件メッシュに属する品質データを抽出し、前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を算出する品質データ確率分布算出手段と、前記品質データ確率分布算出手段で算出した確率分布に基づき、前記各操業条件メッシュにおける製品品質の良否を示す品質指標を算出する品質指標算出手段と、前記品質指標算出手段で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標に基づき、操業条件の違いによる品質指標の差異を数値化した品質影響度を計算する品質影響度算出手段と、前記操業因子選択手段、前記操業条件メッシュ作成手段、前記品質データ確率分布算出手段、前記品質指標算出手段及び前記品質影響度算出手段の処理を前記操業因子組合せ作成手段で作成した操業因子の組合せの全てについて順次行わせる操業組合せ評価手段と、前記操業因子組合せ作成手段で作成した全ての操業因子の組合せにおける品質影響度に基づき、前記品質影響度が大きな操業因子の組合せを品質改善に有効な操業条件の組合せとして選択する有効操業因子選択手段と、前記有効操業因子選択手段で選択した操業因子の組合せに対し、前記品質指標算出手段で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標と、予め設定された目標品質指標とを比較して、目標品質指標を達成する操業条件メッシュ、並びに該操業条件メッシュに対応する操業条件の範囲を抽出する品質改善操業条件抽出手段と、前記品質改善操業条件抽出手段で算出した操業因子の組合せと操業条件の範囲を出力する品質改善ガイダンス出力手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の製品の品質改善条件解析方法は、製品の品質データと、製造プロセスにおける複数個の操業因子の操業データとからなる解析データを入力するデータ入力工程と、前記データ入力工程で入力した複数個の操業因子の操業データより、予め指定された個数分の互いに異なる操業因子の全ての組合せを作成する操業因子組合せ作成工程と、前記操業因子組合せ作成工程で作成した全ての組合せの中から1つの組合せを選択する操業因子選択工程と、前記操業因子選択工程で選択した1つの組合せについて、該組合せを構成する複数の操業因子それぞれに対し、操業データの値の大小に基づいて操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成する操業条件メッシュ作成工程と、前記操業条件メッシュ作成工程で作成した各操業条件メッシュに属する品質データを抽出し、前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を算出する品質データ確率分布算出工程と、前記品質データ確率分布算出工程で算出した確率分布に基づき、前記各操業条件メッシュにおける製品品質の良否を示す品質指標を算出する品質指標算出工程と、前記品質指標算出工程で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標に基づき、操業条件の違いによる品質指標の差異を数値化した品質影響度を計算する品質影響度算出工程と、前記操業因子選択工程、前記操業条件メッシュ作成工程、前記品質データ確率分布算出工程、前記品質指標算出工程及び前記品質影響度算出工程を前記操業因子組合せ作成工程で作成した操業因子の組合せの全てについて順次行わせる操業組合せ評価工程と、前記操業因子組合せ作成工程で作成した全ての操業因子の組合せにおける品質影響度に基づき、前記品質影響度が大きな操業因子の組合せを品質改善に有効な操業条件の組合せとして選択する有効操業因子選択工程と、前記有効操業因子選択工程で選択した操業因子の組合せに対し、前記品質指標算出工程で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標と、予め設定された目標品質指標とを比較して、目標品質指標を達成する操業条件メッシュ、並びに該操業条件メッシュに対応する操業条件の範囲を抽出する品質改善操業条件抽出工程と、前記品質改善操業条件抽出工程で算出した操業因子の組合せと操業条件の範囲を出力する品質改善ガイダンス出力工程とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のコンピュータプログラムは、製品の品質データと、製造プロセスにおける複数個の操業因子の操業データとからなる解析データを入力するデータ入力手順と、前記データ入力手順で入力した複数個の操業因子の操業データより、予め指定された個数分の互いに異なる操業因子の全ての組合せを作成する操業因子組合せ作成手順と、前記操業因子組合せ作成手順で作成した全ての組合せの中から1つの組合せを選択する操業因子選択手順と、前記操業因子選択手順で選択した1つの組合せについて、該組合せを構成する複数の操業因子それぞれに対し、操業データの値の大小に基づいて操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成する操業条件メッシュ作成手順と、前記操業条件メッシュ作成手順で作成した各操業条件メッシュに属する品質データを抽出し、前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を算出する品質データ確率分布算出手順と、前記品質データ確率分布算出手順で算出した確率分布に基づき、前記各操業条件メッシュにおける製品品質の良否を示す品質指標を算出する品質指標算出手順と、前記品質指標算出手順で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標に基づき、操業条件の違いによる品質指標の差異を数値化した品質影響度を計算する品質影響度算出手順と、前記操業因子選択手順、前記操業条件メッシュ作成手順、前記品質データ確率分布算出手順、前記品質指標算出手順及び前記品質影響度算出手順を前記操業因子組
合せ作成手順で作成した操業因子の組合せの全てについて順次行わせる操業組合せ評価手順と、前記操業因子組合せ作成手順で作成した全ての操業因子の組合せにおける品質影響度に基づき、前記品質影響度が大きな操業因子の組合せを品質改善に有効な操業条件の組合せとして選択する有効操業因子選択手順と、前記有効操業因子選択手順で選択した操業因子の組合せに対し、前記品質指標算出手順で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標と、予め設定された目標品質指標とを比較して、目標品質指標を達成する操業条件メッシュ、並びに該操業条件メッシュに対応する操業条件の範囲を抽出する品質改善操業条件抽出手順と、前記品質改善操業条件抽出手順で算出した操業因子の組合せと操業条件の範囲を出力する品質改善ガイダンス出力手順とをコンピュータに実行させる。
【0015】
本発明のコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記本発明のコンピュータプログラムを記録したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製品の品質不合が発生した際に、数百項目に及ぶ操業因子の組合せの中から品質不合と関連の高い操業因子を迅速に特定し、かつ所定の品質レベルを達成するための操業条件を得ることができる。従って解析結果を利用して、操業範囲を変更する等の対策アクションを早急に実行することで、品質の改善、歩留の向上、更には顧客への製品のデリバリ遅れ回避といった効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下に、図面を参照して、本発明としての製品の品質改善条件解析装置、解析方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体について説明する。図1は、本実施形態に係る製品の品質改善条件解析装置1の構成を示すブロック図である。
【0018】
同図の100はデータ入力手段としてのデータ入力部であり、このデータ入力部100は、キーボード、データシートを読み込むOCR、又は工場内のLAN等から製造プロセスの操業データと当該操業に対応した品質データを入力する。このデータ入力部100は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等で構成され、例えば、RAM等のメモリに操業データと品質データを入力する。
【0019】
上記操業データは、例えば鉄鋼プロセスでは連続鋳造工程の湯面変動量や熱延工程の加熱炉温度等であり、連続値として与えられる。複数p個の操業因子x1,x2,…,xpがN個の製品について与えられた場合、入力する操業データはN行p列の行列となる。
【0020】
また、上記品質データは、例えば鉄鋼プロセスにて製造される鋼板コイル1本当りの表面欠陥個数等であり、連続値として与えられる。操業データに対応してNケースの品質データが与えられた場合、入力する品質データはN次元のベクトルとなる。
【0021】
データ入力部100は、入力したNケースの品質データと操業データを紐付けして解析データを作成し、操業因子の名称等、必要な情報と共にコンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0022】
101は、操業因子組合せ作成手段としての操業因子組合せ作成部であり、予め設定された組み合せたい操業因子の個数rに対応する全ての操業因子の組合せリストを作成する。この操業因子組合せ作成部101は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等で構成されるもので、RAMやROMに記録されたプログラムが動作することで実施される。例えば、操業因子の個数をp=100項目とし、操業因子の組合せ個数をr=2とした場合を考えると、評価すべき組合せは、相異なる100個から互いに異なる2個を取り出す4950通りの組合せとなる。
【0023】
操業因子組合せ作成部101は、前記データ入力部100で作成された操業因子の名称情報を読み出し、これら4950通りの操業因子の組合せリストを作成して、この組合せリストを以降の処理で利用可能となるようにコンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0024】
102は、操業組合せ評価手段としての操業組合せ評価部である。この操業組合せ評価部102は、操業因子選択部103、操業条件メッシュ作成部104、品質データ確率分布算出部105、品質指標算出部106、品質影響度算出部107からなっている。この操業組合せ評価部102は操業因子組合せリストの全ての行に対してそれぞれ所定の処理を実行させることで、操業因子組合せリストの各行に後述する品質影響度を追加したリストを作成し、以降の処理で利用可能となるようコンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0025】
103は、操業因子選択手段としての操業因子選択部である。この操業因子選択部103は、前記操業因子組合せ作成部101で作成された操業因子組合せリストの先頭から順次1つの組合せを選択して読み出し、リストの各行に記載された操業因子の操業データと品質データを前記データ入力部100で作成された解析データから取り出す。
【0026】
104は、操業条件メッシュ作成手段としての操業条件メッシュ作成部である。この操業条件メッシュ作成部104は、前記操業因子選択部103でリストに基づいて選択された組合せを構成する複数個の操業データを用い、各操業因子を基底とする操業因子空間において操業条件を複数個の範囲に領域分割する処理を行う。
【0027】
具体的な分割の手段としては、例えば各操業因子のデータから最大値及び最小値を算出し、この間を予め設定された操業条件分割個数mで等分割するよう分割点を決定する方法がある。しかしながら、実際の操業データは、生産量の多い製品の製造条件等、特定の範囲に偏っている場合が大半であり、単純に操業範囲を等分割した場合には、メッシュあたりのデータが著しく偏り、品質の確率分布が評価できないメッシュが多数発生する場合がある。
【0028】
この問題を解決するためには、操業条件を分割した各分割に存在するデータの個数がほぼ等しくなるように分割点を決定することが有効である。具体的には、例えば全データ個数Nを操業条件分割個数mで除した値を求めて、各操業条件を分割した1分割に入るべきデータ個数を算出し、ついで各操業データをソートした配列データを作成して、前記1分割に入るべきデータ個数の整数倍に対応する配列のインデックスの操業データを求めて分割点とする方法がある。図2に、二次元の操業因子空間を例として各操業因子の操業条件を複数の範囲(領域)に等分割した場合(a)とデータの個数が等しくなるよう不等分割した場合(b)について作成した操業条件メッシュを示す。
【0029】
このように、操業条件メッシュ作成部104は、操業データの値の大小に基づいて操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成する。また、操業条件メッシュ作成部104は、決定された各操業因子の分割点情報に基づいて、操業条件メッシュを作成し、複数個の操業条件メッシュに通し番号を付与して分割点の情報と共にコンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0030】
105は、品質データ確率分布算出手段としての品質データ確率分布算出部である。この品質データ確率分布算出部105は、前記操業条件メッシュ作成部104で作成された操業条件メッシュの情報を読み出し、通し番号を付与された操業条件メッシュのそれぞれについて、対応する品質データを抽出し選択する。次に選択された品質データを用いて、度数分布に基づく品質データの確率分布を算出する処理を行う。
【0031】
具体的には、例えば、予め品質の発生頻度を度数分布で分析し、これを近似するに適した所定の確率密度関数を設定して、前記の選択された品質データを用いて確率密度関数のパラメータを決定する方法がある。品質の発生頻度を近似するに適した確率密度関数としては、式(1)で表される指数分布関数がある。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、yは品質データ、eは自然対数の底、λが指数分布関数のパラメータである。例えば、鉄鋼製品である薄鋼板コイルの表面疵個数を品質データとした場合、疵個数が0であるコイルの発生頻度が最も高いのが一般的であり、このような発生頻度に対しては指数分布関数が適している。また、品質の発生頻度を近似するに適した他の確率密度関数としては、式(2)で表される正規分布関数がある。
【0034】
【数2】

【0035】
ここでμは平均、σは標準偏差であり、この2つが品質データで決定されるパラメータとなる。更に、品質の発生頻度を近似するに適した他の確率密度関数としては、式(3)で表される対数正規分布関数がある。
【0036】
【数3】

【0037】
ここで、lnは自然対数であり、μ´は対数平均、σ´は対数標準偏差である。この場合は、μ´及びσ´が品質データで決定すべきパラメータである。実際の解析に際して、どの確率密度関数を用いるべきかは、予め全ての品質データを用いて品質の発生頻度の度数分布を作成して、その度数分布に最も近い分布形態の確率密度関数を選択すれば良い。また、本発明の解析に用いられる確率密度関数は、上記の関数に限定されるものではなく、ポアソン分布や二項分布等、確率統計理論の分野で提案された確率密度関数を使用する場合であってもよい。
【0038】
図3に、二次元の操業因子空間を例として、操業条件メッシュの各メッシュにおける品質の度数分布を近似する確率密度分布が指数分布の場合を説明する図を示す。図3では、操業条件メッシュのうち、1部分のメッシュを抜き出し、横軸に表面欠陥数等の品質データ値、縦軸にその度数を表示した度数分布が示されている。この度数分布に近似する確率密度分布として指数分布を選択し、この指数分布関数を破線で表示している。
【0039】
また、品質データ確率分布算出部105は、設定した確率密度関数と、各操業条件メッシュの品質データを用いて、各操業条件メッシュの確率密度関数のパラメータを算出し、操業条件メッシュの通し番号と対応させてコンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0040】
106は、品質指標算出手段としての品質指標算出部である。この品質指標算出部106は、前記品質データ確率分布算出部105までの処理で作成された各操業条件メッシュの通し番号と確率密度関数のパラメータを読み出し、予め設定された品質評価確率値と等しい累積確率となる品質データ値(品質指標)を算出する。
【0041】
図4は、確率密度分布に指数分布を用いた場合を例に、品質指標算出部106で行う品質指標を導出する演算の原理を模式的に説明する図である。評価したい操業条件メッシュに対応する確率密度関数のパラメータλを読み出し、品質yに対する確率密度f(y)の分布を求める。
【0042】
このとき品質yを0からY0の範囲で積分したものを確率統計論の分野では累積確率と定義している。この累積確率は、品質が0からY0の範囲を取り得る確率に相当するもので、Y0が無限大の場合、すなわち品質が取り得る全ての値を含む場合の累積確率は100%となる。この累積確率が、予め設定された品質評価確率値α(例えば80%)に等しくなるようにして求めた品質指標Y0は、この操業条件メッシュにおいて確率αで発生し得る最も悪い品質指標を意味する。なお、確率統計理論より、式(1)の指数分布関数を仮定した場合、累積確率がαとなる品質指標Y0は、式(4)を用いて算出されることが証明されている。
【0043】
【数4】

【0044】
従って、品質指標算出部106は、各操業条件メッシュに対して、式(4)に基づいて確率αに相当し、製品品質の良否を表示する品質指標Y0を算出し、操業条件メッシュの通し番号と対応させた形式で、コンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0045】
なお、正規分布関数や対数正規分布関数、並びに他の確率密度関数を使用した場合も、式(4)の代わりに使用された確率密度関数に対応する品質指標Y0の計算式を用いて同様に処理を行う。図5には、二次元の操業因子空間を例として操業条件メッシュにおける品質指標の分布を説明する図を示す。図5は、操業条件メッシュの各メッシュごとに品質指標Y0を算出し、品質指標Y0の高低を色の濃淡に対応させて図に表示させたものである。
【0046】
107は、品質影響度算出手段としての品質影響度算出部である。この品質影響度算出部107は、品質指標算出部106までの処理で得られたある操業因子の組合せにおける操業条件メッシュと品質指標の算出結果を読み出し、品質指標の最大値と最小値を求めて、その差分をこの操業因子の組合せにおける影響度として、操業因子組合せリストの該当する行に情報を追加する処理を行う。
【0047】
ここで、操業条件メッシュにおける品質指標の差分量は、この操業因子の組合せにおいて操業条件を種々変更した場合に、品質の発生頻度が、どの程度変化するかを反映した指標である。すなわち、影響度が大きい操業因子の組合せは、操業条件を変化させることで、品質の発生頻度が良い方向にも悪い方向にも変化しており、品質改善に有効な操業因子の組合せである。一方、影響度が小さい操業因子の組合せは、操業条件を変化させても、品質の発生頻度は相対的に変化しない。このように、品質影響度算出部107は、各操業条件メッシュにおける品質指標に基づき、操業条件の違いによる品質指標の差異を数値化した品質影響度を計算する。
【0048】
108は、有効操業因子選択手段としての有効操業因子選択部である。この有効操業因子選択部108は、前記品質影響度算出部107で算出した品質影響度が追加されたリストを読み出し、品質影響度が大きい操業因子の組合せが上位となるようソートする処理を行う。次に予め設定された操業因子の選択基準指標に基づいて、影響が大きい順に操業因子の組合せをリストから選択する。
【0049】
具体的な操業因子の選択基準として、例えば影響度、すなわち品質評価確率がαの下での品質指標の目標品質指標からの差が予め設定された基準以上の操業因子の組合せを、全て選択する方法がある。或いは、例えば選択する操業因子の組合せの個数qを予め設定しておき、影響度の大きい順に操業因子の組合せをqセット選択する方法がある。
【0050】
このように、有効操業因子選択部108は、品質影響度が大きな操業因子の組合せを品質改善に有効な操業条件の組合せとして選択する。操業因子選択基準をクリアした操業因子の組合せと、各組合せにおける操業条件メッシュの分割位置と品質指標の情報を、以降の処理で利用可能となるようコンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0051】
109は、品質改善条件抽出手段としての品質改善条件抽出部である。この品質改善条件抽出部109は、前記有効操業因子選択部108で作成された操業因子選択基準をクリアした操業因子の組合せと、操業条件メッシュ、及び品質指標を順次読み出し、予め設定された目標品質指標と各操業条件メッシュにおける品質指標を比較して、目標品質指標を達成している操業条件メッシュを特定する。予め設定された目標品質指標と各操業条件メッシュにおける品質指標を比較する方法として両者の差分を算出して比較する。
【0052】
また、品質改善条件抽出部109は、この操業条件メッシュの分割位置情報を抽出して、目標品質指標を実現する為の操業条件の範囲としてコンピュータのRAMやROM、或いは磁気記憶装置等の記憶装置にファイルの形態で保存する。
【0053】
110は、品質ガイダンス出力手段としての品質ガイダンス出力部である。この品質ガイダンス出力部110は、前記品質改善条件抽出部109で作成された目標品質指標を実現する為の操業因子の組合せと操業条件の範囲をオペレータや品質管理業務の担当者に提示する処理を行う。具体的には、情報を表示するための表示装置(CRTディスプレイ等)に表示したり、電子メールにて情報を発信したりするなどの出力処理を行う。この提示された情報に基づいて、オペレータ及び担当者は、提示された品質改善の為の操業条件から有効と判断されるものを選択し、対策アクションを迅速にとることができる。また、品質ガイダンス出力部110は、図5に示したような二次元の操業因子空間における品質指標の分布を表示装置に表示するようにしてもよい。
【0054】
次に図6に示す処理フローチャートを用いて、本実施形態の製品の品質改善条件の解析方法を説明する。
【0055】
まず、S201のデータ入力工程に進む。このデータ入力工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1のデータ入力部100で行われる。ここでは、製造プロセスの操業データと当該操業に対応した品質データを入力し、両者を紐付けして解析データを作成する処理を行う。
【0056】
次に、S202の操業因子組合せ作成工程に進む。この操業因子組合せ作成工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の操業因子組合せ作成部101で行われる。データ入力工程で入力された解析データを用い、予め設定された組み合せたい操業因子の個数rに対応する全ての操業因子の組合せリストを作成する処理を行う。
【0057】
次に、S203の操業因子選択工程に進む。この操業因子選択工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の操業因子選択部103で行われる。操業因子の組合せリストから1つの組合せを選択する。
【0058】
次に、S204の操業条件メッシュ作成工程に進む。この操業条件メッシュ作成工程は本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の操業条件メッシュ作成部104で行われる。ここでは、前記操業因子選択工程S203でリストに基づいて選択された複数個の操業データを用い、各操業因子を基底とする操業因子空間において操業条件を複数個の範囲に領域分割する処理を行う。
【0059】
次に、S205の品質データ確率分布算出工程に進む。この品質データ確率分布算出工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の品質データ確率分布算出部105で行われる。前記操業条件メッシュ作成工程S204で作成された操業条件メッシュの情報を読み出し、操業条件メッシュのそれぞれについて、対応する品質データを選択する。
【0060】
さらに、選択された品質データを用いて、確率分布を算出する処理を行う。具体的には、例えば、予め品質の発生頻度を近似するに適した所定の確率密度関数を設定し、前記の選択された品質データを用いて確率密度関数のパラメータを決定する。
【0061】
次に、S206の品質指標算出工程に進む。この品質指標算出工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の品質指標算出部106で行われる。前記品質データ確率分布算出工程S205までの処理で作成された各操業条件メッシュの通し番号と確率密度関数のパラメータを読み出し、予め設定された品質評価確率値と等しい累積確率となる品質データ値(品質指標)を算出する処理を行う。
【0062】
次に、S207の品質影響度算出工程に進む。この品質影響度算出工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の品質影響度算出部107で行われる。品質指標算出工程S206までの処理で得られた、ある操業因子の組合せにおける操業条件メッシュと品質指標の算出結果を用い、品質指標の最大値と最小値を求めて、その差分をこの操業因子の組合せにおける影響度として算出する処理を行う。
【0063】
次に、全ての操業因子の組合せについてS203からS207までの処理を完了したかを判定する処理を行い、未だ完了していなければ操業因子選択工程S203以降の処理を再度実行する。ここで、S203以降の処理を再度実行する工程を操業組合せ評価工程と称する。全ての操業因子の組合せについて処理を完了している場合は、有効操業因子選択工程S208の処理に進む。
【0064】
次に、S208の有効操業因子選択工程に進む。この有効操業因子選択工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の有効操業因子選択部108で行われる。全ての操業因子組合せに対し、品質影響度が大きい操業因子の組合せが上位となるようソートする。次に予め設定された操業因子の選択基準指標に基づいて、影響が大きい順に操業因子の組合せをリストから選択する処理を行う。
【0065】
次に、S209の品質改善条件抽出工程に進む。この品質改善条件抽出工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の品質改善条件抽出部109で行われる。操業因子選択基準をクリアした操業因子の組合せと、操業条件メッシュ、及び品質指標の情報を用い、予め設定された目標品質指標と各操業条件メッシュにおける品質指標を比較して、目標品質指標を達成している操業条件メッシュを特定する。次に、この操業条件メッシュに対応する操業因子の操業条件の分割位置情報を抽出して、目標品質指標を実現する為の操業条件の範囲として算出する処理を行う。
【0066】
次に、S210の品質改善ガイダンス出力工程に進む。この品質改善ガイダンス出力工程は、本実施形態の製品の品質改善条件解析装置においては、図1の品質改善ガイダンス出力部110で行われる。
【0067】
以上に述べた本発明の実施形態においては、操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せて作成した各操業条件メッシュにおける品質データの確率密度に基づいて品質指標を算出することで、バラツキの大きなデータからも品質と操業の関連を評価することを可能としている。
【0068】
また、全ての操業因子の組合せに対して、各操業条件メッシュの品質指標から最大値と最小値を選択し、その差分で算出される影響度が大きな操業因子の組合せを選択して提示することで、品質改善に相対的に効果の大きい操業因子の組合せを得ることが出来る。
【0069】
更に、所定の目標品質指標と品質改善に相対的に効果の大きい操業因子の組合せにおける操業条件メッシュの品質指標を比較することで、目標品質を達成する操業条件メッシュと、そのメッシュに対応する操業条件を自動的に探索して、ガイダンスすることを可能としている。
【0070】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、上述した第1の実施形態の具体例、応用例として、品質データ確率分布算出部105における確率分布相関解析の結果を品質の予測モデルとして使用するようにした例を説明する。図7に示すように、第2の実施形態に係る製品の品質改善条件解析装置1は、予測対象の操業データ(オンラインデータ)を入力するオンラインデータ入力部120と、品質データ確率分布算出部105で算出した各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を予測モデルとし、オンラインデータ入力部120で入力した予測対象の操業データに対して、所定の確率で発生すると予測される品質指標を算出する予測部121とを更に備える。なお、上述した第1の実施形態で既に説明した構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0071】
品質データ確率分布算出部105では、操業条件メッシュそれぞれにおける品質データの確率分布が算出される。従って、下記の表1に示すように、操業条件メッシュの通し番号(メッシュNo.)ごとに、各操業条件の範囲及びそれに対応する確率密度関数のパラメータの形式で解析結果をテキストファイル等として保存して、予測モデルとして使用することができる。
【0072】
【表1】

【0073】
予測部121における予測モデルを用いた計算手順として、まずオンラインデータ入力部120から入力された操業条件(例えば現在の操業条件)と表1の解析結果とを比較し、該当するメッシュNo.を検索する。次に、該当するメッシュNo.に対応する確率密度関数のパラメータを取り出す。ここでは、指数分布関数を用いているとし、パラメータはλである。この操業条件メッシュでは、品質指標は式(1)で表される指数分布関数に従うので、ある品質評価確率値(例えば80%)で発生する品質指標の最大値を計算する。そして、この計算結果を、入力された操業条件に対する確率αでの品質指標(予測評点値)として出力する。
【0074】
計算例を示す。図8は、予測モデルにおける3つの入力変数(操業因子)を変化させた場合の予測結果である。ここでは、操業因子u1を65→80→125と変化させ(図8(a)を参照)、操業因子u2を2000→2500→3000と変化させ(図8(b)を参照)、操業因子u3を50一定(図8(c)を参照)としている(各操業因子はノイズ成分を含んでいる)。なお、ここでは鉄鋼プロセスを想定しており、予測評点値は所定の不具合の数である。各図の横軸は鋼板コイル番号である。図8(d)に示すように、操業条件の変化に伴って対応する操業条件メッシュが変化し、確率密度関数から推定される確率95%での予測評点値が変化していることがわかる。
【0075】
次に、品質データ確率分布算出部105における確率分布相関解析の結果(表1)を応用して、目標としたい品質指標を実現する操業条件を探索する例を説明する。その計算手順として、まず目標としたい品質指標Y0と確率αを決定する(例えば、確率95%で予測評点値が「1」以下となる操業条件を探索する)。次に、表1のメッシュNo.に対し、確率密度関数を用いて確率αとなる品質指標Yiを計算する。そして、目標としたい品質指標Y0と各操業条件メッシュの確率αでの品質指標Yiとを比較し、目標値以下となっている操業条件メッシュを検索する。その結果得られた操業条件メッシュに対応する操業条件を、改善操業案として提示する。このとき、隣接してまとめることができる操業条件メッシュはまとめて提示してもよい。表2に、確率95%で予測評点値1以下となる操業条件を探索した結果を示す。
【0076】
【表2】

【0077】
次に、品質ガイダンス出力部110における処理の例を説明する。ある2つの操業因子と品質との関係が、ガイダンスとしてオペレータに提示する価値があると判断される場合、予測モデルとして設定するボタン(不図示)を押下すると、図9に示すようにガイダンス表示が行われる。
【0078】
図9に示すように、ガイダンス表示においては、二次元の操業因子空間における品質指標の分布が表示され、品質指標の高低がカラーグラデーション化されている。
【0079】
また、予測部121で現在の操業条件に対する品質指標が予測され、ガイダンス表示上にマークが表示される。
【0080】
ここで、図9(a)に示すガイダンス表示は、自工程操業(自工程操業1、2)の組合せによる品質予測とリカバリ操業ガイダンスである。自工程での現在の操業条件の組合せから品質を予測するものである。オペレータは、現在の操業条件が品質の視点から良いのか、品質を良くするにはどの方向(図中矢印で示す改善操業方向)に操業条件を変更すればよいのかを知ることができる。
【0081】
図9(b)に示すガイダンス表示は、上工程操業と自工程操業の組合せによる品質予測とリカバリ操業ガイダンスである。実績として確定した上工程での操業条件と、自工程での現在の操業条件との組合せから品質を予測するものである。上工程での実績は変更できないが、オペレータは、品質をリカバリする自工程の操業変更方向(図中矢印で示すリカバリ操業方向)を見出すことができる。
【0082】
図9(c)に示すガイダンス表示は、上工程操業(上工程操業1、2)の組合せによる品質予測ガイダンスである。実績として確定した上工程での操業条件の組合せから品質を予測するものである。すなわち、上工程での操業実績に基づいて予測される品質をフィードフォワード情報としてガイダンス表示する。リカバリアクションは難しいため、重点検査対象等の流出防止のアラートを出力するようにしてもよい。また、上工程に対してこの情報を提示し、操業標準変更等の対策を促す等、フィードバックで品質改善を図る。
【0083】
なお、いずれのガイダンス表示においても、操業の変更が間に合わなかった等の事情で、品質が悪いと予測されるコイルに対しては、重点検査対象とする等の流出防止アクションをとるようアラートを出す等してもよい。
【実施例】
【0084】
次に、鉄鋼製品である薄板の自動車用鋼板の表面疵の発生個数を品質とし、製造工程である連続鋳造工程、熱延工程、冷延工程、溶融亜鉛メッキ工程における操業因子200項目に関する操業データを用いて、製品の品質改善条件解析装置に適用した例について説明する。なお、本実施例による品質改善条件解析方法は、コンピュータ上のプログラムにより実現する。
【0085】
解析に用いるデータは、データベースサーバのデータベース112に保存されている操業データと、溶融亜鉛メッキ工程にて自動疵検査装置で測定された表面疵の個数データを利用する。このデータベース112は、各製造工程にて測定された操業及び品質データを、コイル単位、若しくは長さ単位に加工した上で、更に検索に使用するためのコイル番号、各工程での製造日時、製造仕様を区別するための鋼種コードを付与された形式で保存している。
【0086】
溶融亜鉛メッキ工程で品質上問題となるレベルの表面疵が発生した時点で、オペレータ若しくは品質管理業務の担当者が、解析の対象としたい鋼種コードと製造日時の範囲を、本製品の品質改善条件解析装置に入力することで、前記データ入力部100が、指定条件に合致する操業及び品質データをデータベースサーバからLANを介して入手したり、プロセスコンピュータ111がデータ入力部100の指示を受けて指定条件に合致する操業及び品質データを送信したりする。
【0087】
解析に当っては、操業因子の組合せの個数は、1〜10個の範囲で選択でき、操業条件の分割数は、3〜20の範囲で設定可能とする。更に、事前に自動車用溶融亜鉛メッキ鋼板の種々の表面疵について、発生個数の頻度を分析し、確率密度関数は、式(1)の指数分布、式(2)の正規分布、式(3)の対数正規分布のいずれかを選択して解析できる。品質評価確率値αは、種々の解析結果を踏まえて確率80%を標準値と設定し、但し解析者が10%〜99%の範囲で任意に変更できる。
【0088】
操業因子の選択については、影響度がある一定の閾値を超えた操業因子の組合せすべてを提示する場合と、選択する操業因子の組合せの個数を指定する場合のいずれかを選択できる。更に、目標品質指標については、コイル一本あたりの表面疵の総個数、若しくは単位面積当たりの疵個数密度のいずれかを選択し、具体的な目標品質指標は0又は正の数値を任意で設定できるものとした。
【0089】
上記の製品の品質改善条件解析装置によって、連続鋳造工程、熱延工程、冷延工程、溶融亜鉛メッキ工程の操業オペレータ、及び品質管理業務の担当者に、表面疵の発生に関連の高い操業因子と、品質を改善する操業条件を提示するシステムを実現し、運用を行った結果、表面疵の発生率低減、製品歩留まりの向上、製品手入れの省力化、品質トラブルによる納期遅れの回避等の効果を得ることができる。
【0090】
なお、今回の実施例では、コンピュータ上のプログラムとして本発明を実現したが、演算装置、メモリ等を組み合せたハードウェアによって構成されるものであってもよい。また、本発明の解析装置は、複数の機器から構成されるものであっても、一つの機器から構成されるものであってもよい。
【0091】
さらに、上述した実施例は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等で構成されるものであり、RAMやROMに記録されたプログラムが動作することで実施される。従って、前記実施形態の機能を実現するためのソフトウェアのプログラムコードをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムコードを格納した記憶媒体は本発明の範疇に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る製品の品質改善条件解析装置の構成を示す図である。
【図2】二次元の操業因子空間を例として各操業因子の操業条件を複数の範囲(領域)で等分割した場合(a)と、データの個数が等しくなるよう不等分割した場合(b)について作成した操業条件メッシュを示す図である。
【図3】二次元の操業因子空間を例として操業条件メッシュの各メッシュにおける品質の確率密度分布を説明するための図である。
【図4】指数分布関数において所定の品質評価確率値となる品質データ値を算出する模式図である。
【図5】二次元の操業因子空間を例として操業条件メッシュにおける品質指標について説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る製品の品質改善条件解析方法の処理フローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る製品の品質改善条件解析装置の構成を示す図である。
【図8】予測モデルを用いた予測結果の例を説明するための図である。
【図9】ガイダンス表示の例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0093】
100 データ入力部
101 操業因子組合せ作成部
102 操業組合せ評価部
103 操業因子選択部
104 操業条件メッシュ作成部
105 品質データ確率分布算出部
106 品質指標算出部
107 品質影響度算出部
108 有効操業因子選択部
109 品質改善条件抽出部
110 品質改善ガイダンス出力部
111 プロセスコンピュータ
112 データベース
120 オンラインデータ入力部
121 予測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の品質データと、製造プロセスにおける複数個の操業因子の操業データとからなる解析データを入力するデータ入力手段と、
前記データ入力手段で入力した複数個の操業因子の操業データより、予め指定された個数分の互いに異なる操業因子の全ての組合せを作成する操業因子組合せ作成手段と、
前記操業因子組合せ作成手段で作成した全ての組合せの中から1つの組合せを選択する操業因子選択手段と、
前記操業因子選択手段で選択した1つの組合せについて、該組合せを構成する複数の操業因子それぞれに対し、操業データの値の大小に基づいて操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成する操業条件メッシュ作成手段と、
前記操業条件メッシュ作成手段で作成した各操業条件メッシュに属する品質データを抽出し、前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を算出する品質データ確率分布算出手段と、
前記品質データ確率分布算出手段で算出した確率分布に基づき、前記各操業条件メッシュにおける製品品質の良否を示す品質指標を算出する品質指標算出手段と、
前記品質指標算出手段で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標に基づき、操業条件の違いによる品質指標の差異を数値化した品質影響度を計算する品質影響度算出手段と、
前記操業因子選択手段、前記操業条件メッシュ作成手段、前記品質データ確率分布算出手段、前記品質指標算出手段及び前記品質影響度算出手段の処理を前記操業因子組合せ作成手段で作成した操業因子の組合せの全てについて順次行わせる操業組合せ評価手段と、
前記操業因子組合せ作成手段で作成した全ての操業因子の組合せにおける品質影響度に基づき、前記品質影響度が大きな操業因子の組合せを品質改善に有効な操業条件の組合せとして選択する有効操業因子選択手段と、
前記有効操業因子選択手段で選択した操業因子の組合せに対し、前記品質指標算出手段で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標と、予め設定された目標品質指標とを比較して、目標品質指標を達成する操業条件メッシュ、並びに該操業条件メッシュに対応する操業条件の範囲を抽出する品質改善操業条件抽出手段と、
前記品質改善操業条件抽出手段で算出した操業因子の組合せと操業条件の範囲を出力する品質改善ガイダンス出力手段とを備えることを特徴とする製品の品質改善条件解析装置。
【請求項2】
前記品質データ確率分布算出手段は、前記操業条件メッシュにおける品質データの度数分布を、所定の確率密度関数を用いて近似処理し、
前記品質指標算出手段は、前記近似処理で得た確率密度関数に基づいて、所定の累積確率となる品質データ値を算出し、前記操業条件メッシュにおける品質指標とすることを特徴とする請求項1に記載の製品の品質改善条件解析装置。
【請求項3】
前記品質影響度算出手段は、前記品質指標算出手段で算出した全ての操業条件メッシュにおける品質指標から最大値と最小値を選択し、その差分を算出して前記操業因子の組合せにおける品質影響度とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の製品の品質改善条件解析装置。
【請求項4】
前記操業条件メッシュ作成手段は、複数の範囲に分割された操業条件の各分割に存在するデータの個数が等しくなるように分割範囲を決定し、複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製品の品質改善条件解析装置。
【請求項5】
予測対象の操業データを入力するデータ入力手段と、
前記品質データ確率分布算出手段で算出した前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を予測モデルとし、前記データ入力手段で入力した予測対象の操業データに対して、所定の確率で発生すると予測される品質指標を算出する予測手段とを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製品の品質改善条件解析装置。
【請求項6】
前記品質改善ガイダンス出力手段は、二次元の操業因子空間における品質指標の分布を表示装置に表示することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製品の品質改善条件解析装置。
【請求項7】
製品の品質データと、製造プロセスにおける複数個の操業因子の操業データとからなる解析データを入力するデータ入力工程と、
前記データ入力工程で入力した複数個の操業因子の操業データより、予め指定された個数分の互いに異なる操業因子の全ての組合せを作成する操業因子組合せ作成工程と、
前記操業因子組合せ作成工程で作成した全ての組合せの中から1つの組合せを選択する操業因子選択工程と、
前記操業因子選択工程で選択した1つの組合せについて、該組合せを構成する複数の操業因子それぞれに対し、操業データの値の大小に基づいて操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成する操業条件メッシュ作成工程と、
前記操業条件メッシュ作成工程で作成した各操業条件メッシュに属する品質データを抽出し、前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を算出する品質データ確率分布算出工程と、
前記品質データ確率分布算出工程で算出した確率分布に基づき、前記各操業条件メッシュにおける製品品質の良否を示す品質指標を算出する品質指標算出工程と、
前記品質指標算出工程で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標に基づき、操業条件の違いによる品質指標の差異を数値化した品質影響度を計算する品質影響度算出工程と、
前記操業因子選択工程、前記操業条件メッシュ作成工程、前記品質データ確率分布算出工程、前記品質指標算出工程及び前記品質影響度算出工程を前記操業因子組合せ作成工程で作成した操業因子の組合せの全てについて順次行わせる操業組合せ評価工程と、
前記操業因子組合せ作成工程で作成した全ての操業因子の組合せにおける品質影響度に基づき、前記品質影響度が大きな操業因子の組合せを品質改善に有効な操業条件の組合せとして選択する有効操業因子選択工程と、
前記有効操業因子選択工程で選択した操業因子の組合せに対し、前記品質指標算出工程で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標と、予め設定された目標品質指標とを比較して、目標品質指標を達成する操業条件メッシュ、並びに該操業条件メッシュに対応する操業条件の範囲を抽出する品質改善操業条件抽出工程と、
前記品質改善操業条件抽出工程で算出した操業因子の組合せと操業条件の範囲を出力する品質改善ガイダンス出力工程とを有することを特徴とする製品の品質改善条件解析方法。
【請求項8】
前記品質データ確率分布算出工程は、前記操業条件メッシュにおける品質データの度数分布を、所定の確率密度関数を用いて近似処理し、
前記品質指標算出工程は、前記近似処理で得た確率密度関数に基づいて、所定の累積確率となる品質データ値を算出し、前記操業条件メッシュにおける品質指標とすることを特徴とする請求項7に記載の製品の品質改善条件解析方法。
【請求項9】
前記品質影響度算出工程は、前記品質指標算出工程で算出した全ての操業条件メッシュにおける品質指標から最大値と最小値を選択し、その差分を算出して前記操業因子の組合せにおける品質影響度とすることを特徴とする請求項7又は8に記載の製品の品質改善条件解析方法。
【請求項10】
前記操業条件メッシュ作成工程は、複数の範囲に分割された操業条件の各分割に存在するデータの個数が等しくなるように分割範囲を決定し、複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の製品の品質改善条件解析方法。
【請求項11】
予測対象の操業データを入力するデータ入力工程と、
前記品質データ確率分布算出工程で算出した前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を予測モデルとし、前記データ入力工程で入力した予測対象の操業データに対して、所定の確率で発生すると予測される品質指標を算出する予測工程とを有することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の製品の品質改善条件解析方法。
【請求項12】
前記品質改善ガイダンス出力工程で、二次元の操業因子空間における品質指標の分布を表示装置に表示することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の製品の品質改善条件解析方法。
【請求項13】
製品の品質データと、製造プロセスにおける複数個の操業因子の操業データとからなる解析データを入力するデータ入力手順と、
前記データ入力手順で入力した複数個の操業因子の操業データより、予め指定された個数分の互いに異なる操業因子の全ての組合せを作成する操業因子組合せ作成手順と、
前記操業因子組合せ作成手順で作成した全ての組合せの中から1つの組合せを選択する操業因子選択手順と、
前記操業因子選択手順で選択した1つの組合せについて、該組合せを構成する複数の操業因子それぞれに対し、操業データの値の大小に基づいて操業条件を複数の範囲に分割し、これを複数の操業因子間で組み合せた操業条件メッシュを作成する操業条件メッシュ作成手順と、
前記操業条件メッシュ作成手順で作成した各操業条件メッシュに属する品質データを抽出し、前記各操業条件メッシュにおける品質データの確率分布を算出する品質データ確率分布算出手順と、
前記品質データ確率分布算出手順で算出した確率分布に基づき、前記各操業条件メッシュにおける製品品質の良否を示す品質指標を算出する品質指標算出手順と、
前記品質指標算出手順で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標に基づき、操業条件の違いによる品質指標の差異を数値化した品質影響度を計算する品質影響度算出手順と、
前記操業因子選択手順、前記操業条件メッシュ作成手順、前記品質データ確率分布算出手順、前記品質指標算出手順及び前記品質影響度算出手順を前記操業因子組合せ作成手順で作成した操業因子の組合せの全てについて順次行わせる操業組合せ評価手順と、
前記操業因子組合せ作成手順で作成した全ての操業因子の組合せにおける品質影響度に基づき、前記品質影響度が大きな操業因子の組合せを品質改善に有効な操業条件の組合せとして選択する有効操業因子選択手順と、
前記有効操業因子選択手順で選択した操業因子の組合せに対し、前記品質指標算出手順で算出した各操業条件メッシュにおける品質指標と、予め設定された目標品質指標とを比較して、目標品質指標を達成する操業条件メッシュ、並びに該操業条件メッシュに対応する操業条件の範囲を抽出する品質改善操業条件抽出手順と、
前記品質改善操業条件抽出手順で算出した操業因子の組合せと操業条件の範囲を出力する品質改善ガイダンス出力手順とをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−146621(P2008−146621A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176558(P2007−176558)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】