説明

製版方法、製版装置、及び印刷装置

【課題】本発明は、刷版上の刷版像を短時間に書換可能な製版プロセスを搭載し、多品種小ロットの市場ニーズに対応可能な印刷装置を提供することを目的にする。
【解決手段】本発明は、導電性の基体上に形成された電荷発生層と電荷発生層上に疎水性の材料で多孔状に形成された表面層とを含む刷版と、刷版の表面に電解液を供給する供給手段と、画像信号に応じて刷版に対し刺激を付与して電荷発生層に電荷を発生させで刷版上に選択的に電解質を析出させて刷版上に刷版像を形成する刷版像形成手段とを備え、刷版を用いて用紙上にインク像を形成可能な印刷装置を提供して上記課題の解決を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製版方法、製版装置、及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、画像情報に対応して親水性部分と疎水性(親油性)部分が形成された刷版を用いて、親水性部分に湿し水を付着させ、疎水性部分のみに選択的にインキを付着させ、そのインクを記録媒体に転写することで記録媒体上に画像を形成する、平版印刷版を用いた代表的な印刷方式である。
【0003】
オフセット印刷は安定して大量の画像形成を連続して行うことが可能であるが、画像形成に使われる刷版はアルミニーウム等の親水性支持体上に疎水性(親油性)の感光層が設けられており、画像情報に応じて露光、エッチングを行い非画像部に対応する感光層を除去する等の複雑な製版工程を必要とする。このために、オフセット印刷は多額の製版コストが掛かり、少ない部数のものを印刷すると非常に高コストになってしまい、小ロット印刷には出来るだけ製版コストをかけない方式が求められている。
【0004】
これらの要望に対し、ハイデンベルグ社からQuickmasterDI46−4という製品名で市販されているオフセット印刷機、又は特許文献1で開示されているダイレクトイメージング方式と称されるオフセット印刷機が提案されている。
【0005】
これらの印刷機は機内で古い刷版を新しい刷版に自動的に切替、あるいは書換可能にしており、機内に製版部及びオフセット印刷部を一体的に有している。
【0006】
QuickmasterDI46−4は、光熱変換層(表層)が基体に形成された刷版上にレーザー光を走査させた後に表層を摩耗除去して、刷版上に親油性の刷版像を形成し、その後に湿し水なしで刷版像にインクを付与して、所謂、水なし方式のオフセット印刷を行っている。
【0007】
但し、刷版は再利用出来ず、使用済み刷版を巻き取り未使用刷版上に新たな刷版像を作成する工程を必要とし、又レーザー照射後に刷版の洗浄工程が入る。このために製版、及び刷版の切り替えに数十分の時間を要し、既存のオフセット印刷における刷版の切り替え時間(30分)と大差なく、小ロット対応として注目されたが、普及が進んでいない。
【0008】
特許文献1に記載のオフセット印刷機では、親水性を呈す電荷発生層としてのNiOがNi基体上に形成された刷版が使用され、刷版の表面をピロリン酸銅電解液で塗布させた状態で、刷版上にUVレーザー光照射を走査して刷版上に銅を析出させて、刷版上に銅の親油性部分とNiOの親水性部分でなる刷版像を形成して製版を行っている。そして、刷版上の古い刷版像は新しい刷版像に書換可能であり、刷版は繰り返し使用可能である。但し、有機溶媒のピロリン酸銅電解液を使用しており、洗浄及び乾燥プロセスが必要であり製版に数十分の時間が掛かるという、QuickmasterDI46−4と同様の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5206102号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、刷版上の刷版像を短時間に書換可能な製版プロセスを搭載し、多品種小ロットの市場ニーズに対応可能な印刷装置を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、以下の発明を実現することにより達成される。
【0012】
1.導電性の基体と、前記基体上に形成され電荷を発生させる電荷発生層と、前記電荷発生層上に疎水性の材料で多孔状に形成された表面層と、を含んだ刷版上に親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像を形成する製版方法であって、
水系の溶媒に親水性の電解質が溶解された電解液を前記刷版の表面に供給し、前記電解液が接触する前記刷版上に画像信号に対応して刺激を付与して前記電荷発生層に電荷を発生させ前記刷版の表面に前記電解質を析出させて前記刷版像を前記刷版上に形成することを特徴とする製版方法。
【0013】
2.所定方向に移動可能に支持された刷版上に親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像を形成する製版装置であって、
前記刷版は導電性の基体と前記基体上に形成され電荷を発生させる電荷発生層と前記電荷発生層上に疎水性の材料で多孔状に形成された表面層とを含み、
水系の溶媒に親水性の電解質が溶解された電解液を前記刷版の表面に供給する供給手段と、
前記供給手段により供給された前記電解液が接触する前記刷版に対し画像信号に応じて刺激を付与して前記電荷発生層に電荷を発生させ前記刷版上に前記電解質を析出させて、前記刷版上に刷版像を形成する刷版像形成手段と、を有することを特徴とする製版装置。
【0014】
3.前記刷版に接触する前記電解液に第1電界を形成して前記刷版像形成手段により前記刷版上に析出された電解質を核にして電解質の析出を促進する析出促進手段を有することを特徴とする前記2に記載の製版装置。
【0015】
4.所定方向に移動可能に支持され、親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像が形成された刷版を用いて用紙上にインク像を形成可能な印刷装置であって、
前記刷版は導電性の基体と前記基体上に形成され電荷を発生させる電荷発生層と前記電荷発生層上に疎水性の材料で多孔状に形成された表面層とを含み、
前記刷版に対向して配設され、水系の溶媒に親水性の電解質が溶解された電解液を前記刷版の表面に供給する供給手段と、
前記供給手段により供給された前記電解液が接触する前記刷版に対し画像信号に応じて刺激を付与して前記電荷発生層に電荷を発生させ前記刷版上に前記電解質を析出させて、前記刷版上に刷版像を形成する刷版像形成手段と、
前記刷版像形成手段に対し前記刷版の移動方向の下流側に配設し、前記刷版上の親水性領域に適量の湿し水を付与する湿し水付与手段と、
前記湿し水付与手段に対し前記刷版の移動方向の下流側に配設し前記刷版像の疎水性領域にインクを付与して前記刷版上にインク像を形成するインク供給手段と、
前記インク供給手段に対し前記刷版の移動方向の下流側に配設し前記インク像を用紙上に転写する転写手段と、を備えることを特徴とする印刷装置。
【0016】
5.前記刷版に接触する前記電解液に第1電界を形成して前記刷版像形成手段により前記刷版の表面に析出された電解質を核にして電解質の析出を促進する析出促進手段を有することを特徴とする前記4に記載の印刷装置。
【0017】
6.前記刷版に接触する前記電解液に前記第1電界と逆向きの第2電界を形成して前記刷版上の電解質を電解液中に溶解する電解質溶解手段を有することを特徴とする前記4、又は5に記載の印刷装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、刷版上の刷版像を短時間に書換可能な製版プロセスを搭載して多品種小ロットの市場ニーズに対応可能な印刷装置の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る刷版の構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る製版方法の各工程を示す模式図である。
【図3】本発明に係る製版方法における第3工程を示す模式図である。
【図4】本発明に係る製版方法における第4工程を示す模式図である。
【図5】本発明に係る印刷装置Aの構成を示す模式図(断面図)である。
【図6】本発明に係る製版装置Bの実施形態を示す模式図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本欄の記載は本発明の技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。
【0021】
図1は本発明に係る刷版の構成を示す模式図であり、図1(a)は断面図を、図2(b)は平面図を示す。
【0022】
刷版1は基体1aと、基体1a上に形成された電荷発生層1bと、電荷発生層1b上に形成された表面層1cで少なくとも構成される。基体1aは導電性(例えば、ニッケル)で円筒形状、板状体である。電荷発生層1bは、外部からのエネルギー刺激により電荷を発生可能な電荷発生物質を含むp型の半導体層であり、ここでは膜厚1μmのNi0を用いている。これに限定されるものでなく、例えば、p型半導体の電子写真感光体などを用いても良い。膜厚も適宜設定可能である。
【0023】
表面層1cは電荷発生層1bの表面を疎水性の物質で多孔状に被覆された薄い層(10nm以下)であり、刷版1の表面を疎水性に改質させるものである。表面層1cは、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂などを希釈液などで薄めた溶液をNiO上に塗布して、隙間が多く極めて薄い構造体として製作される。又、表面層1cの物質自体は高い絶縁性を有するが、隙間の多い表面構造のため水系の電解液が含浸された状態ではイオン伝導性を呈する。
【0024】
また、特開2002−334721号公報、特開2004−71518号公報に開示された製法を用いて、表面層1cとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)の多孔層を採用してもよい。
【0025】
次に、刷版1上に親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像を形成する、本発明に係る製版方法を説明する。
【0026】
図2は、本発明に係る製版方法の各工程を示す模式図である。
【0027】
図2(a)は、刷版1の表面に電解液2を供給する第1工程を示す。電解液2が収容された容器(槽)に刷版1を浸す、あるいは刷版1の表面に電解液2を塗布する(流す)。
【0028】
電解液2は水系の溶媒2bと、水系の溶媒2bに溶解した電解質イオン2aとしての金属イオンと、を含み、水系の溶媒2bに溶解させる電解質dとしてビスマス(Bi)を用いる。Biは3価のプラスイオンとして水系の溶媒2bに溶解する。
【0029】
図2(b)、(c)は次の工程であり、電解液2が基体1aに対してブラス電位に維持された状態で、画像信号に対応して刺激としてのUVレーザー光Lsを刷版1上に照射して刷版1の表面に電解質dを析出させる第2工程を示す。
【0030】
図2(b)ではUVレーザー光Lsが矢印で模式的に示すように左側のみに照射されている。
【0031】
レーザー光Lsが電荷発生層1bとしてのNiOに入射・吸収されると、図示のように電子eと正孔hを発生する。
【0032】
NiOはp型半導体で、正孔hのみ移動可能であり、発生した正孔hは基体1aに移動し、残った電子eは次の(1)式に従い、電解液2中のBiイオン2aと化学反応し、電解質dとしてのBiがNiOの表面に析出する。
【0033】
Bi3++3e=Bi・・・・(1)
UVレーザー光Lsの照射によって電荷発生層1bの表面に析出された電解質dを1次電解質d1と仮称し、1次電解質d1の量はUVレーザー光Lsの量に対応する。
【0034】
ここでは、電荷発生層1bとしてNiOを用いており、2400DPIの走査線密度でUVレーザー光Lsを照射させているが、電荷発生層1bの種類に応じて可視、赤外のレーザー光に置換可能である。
【0035】
また、レーザー光Lsの照射に限定されるものでなく、電極ヘッドで電荷発生層1bに電子eを発生させ、電解液2中の電解質イオン2aと化学反応させて電荷発生層1bの表面に1次電解質d1を析出させるようにしてもよい。
【0036】
次に、レーザー光Lsの照射により電荷発生層1bの表面に析出した1次電解質d1を核にして2次電解質d2の析出を促進させる第3工程について説明する。
【0037】
図3は、本発明に係る2次電解質d2の析出を促進させる第3工程を示す模式図で、図2より拡大表示されている。
【0038】
第2工程後、つまり、レーザー光Lsの照射位置の下流側において、刷版1は基体1aに対してプラス電位に維持させた電解液2に浸されており、電解液2中の電解質イオン2aと析出電解質d中の電子eとが上記(1)式に従って化学反応して1次電解質d1を核として2次電解質d2が析出される。2次電解質d2は第2工程の後に析出された電解質の仮称である。
【0039】
2次電解質d2は先に析出した電解質の端部に順次析出されるために、2次電解質d2は絶縁体である表面層1cの表面に沿って図示のように成長させることが出来る。
【0040】
なお、電解質析出の化学反応により電荷発生層1bに生じた正孔hは、図示のように基体1aに向けて移動する。
【0041】
図示のd3は2次電解質の端部であり、2次電解質d2が矢印で示す方向に順次成長している。2次電解質の端部d3の周辺では電界が強く、電解質の析出が他の領域に比較してより促進されるものと推察される。
【0042】
以上のように、プラス電位等々の適正な設定によりレーザー光Lsが照射された領域における電解質dの被覆率を適宜制御可能である。特に、表面層1cの未被覆率を超える電解質dの被覆率を得ようとする場合には、第3工程における適正な設定は有効である。
【0043】
水系の溶媒2bで溶解することの出来る電解質dは親水性であることから、所定量以上のビスマスが析出した領域は親水性を呈し、更に、表面層1cを覆うように析出したビスマスの表面は微細な凹凸構造を有するために、一層高い親水性を呈する。一方、レーザー光Lsの未照射領域は疎水性を呈する。
【0044】
以上のように第1〜3工程によって、刷版1上に親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像が形成され、製版処理が達成される。
【0045】
次に、既に古い刷版像が形成された刷版1に新しい刷版像を作成する場合、第1工程以前に行う第4工程について図4に基づき以下説明する。
【0046】
第4工程は、刷版1上の電解質dを溶解して古い刷版像を消去して刷版1を再利用可能な状態に復活させる工程である。
【0047】
図4は刷版1上の電解質dを溶解して刷版1を再利用可能にする第4工程を示す。
【0048】
基体1aに対して電解液2をマイナス電位に印加させると、次の(2)式に基づき刷版1上の電解質dを電解液2中に溶解するが、電解質の端部d3では周囲の電界が強いために、電解質dは端部d3から矢印のように溶解する。
【0049】
Bi=Bi3++3e・・・・(2)
図示の矢印に対応する破線は、電解質イオン2aとして電解液2に溶解して消失した電解質であり、実線は残存する未溶解の電解質dである。d3は未溶解の電解質dの端部を示し、電荷発生層1b内では基体1aで生じた正孔hが表面側に移動している。
【0050】
従って、電解質dは端部d3から先に溶解されるために、絶縁体の表面層1c上に島状に孤立して残余するようなことは起きず、刷版1上から電解質dがきれいに除去され、古い刷版1は新たな刷版1として再利用可能になる。
【0051】
本発明に係る上記の方法は、画像信号に対応して刷版1上に親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像を形成し、且つ刷版1を繰り返し利用可能な製版方法の提供を可能にする。繰り返し使用することで製版コスト削減が見込める。
【0052】
次に、本発明に係る上記の製版方法を搭載したオフセット印刷方式の印刷装置Aについて説明する。
【0053】
図5は、本発明に係る印刷装置Aの構成を示す模式図(断面図)である。
【0054】
印刷装置Aは装置内部で製版と印刷とが行われるダイレクト方式のオフセット印刷装置であり、製版と印刷に用いられる兼用部分が含まれる。また、兼用のために、回動する刷版1に対し特定部分を接離させている。特定部分は実線と破線で表示され、実線が製版処理における位置で、破線が印刷処理における位置である。
【0055】
製版処理に関連する各部の構成について説明する。
【0056】
刷版1はドラム状の基体1aにNiOの電荷発生層1bと表面層1cが順次形成されている。供給手段としての電解液槽4は水系の電解液2を収容し、水系電解液2を刷版1の表面に供給している。
【0057】
刷版1は回動可能に支持され、電解液槽4内の水系の電解液2に浸され、図5で反時計方向に回動している。
【0058】
電極3は電解液槽4内に配設され、基体1aに対し電解液2をプラス電位に保持しており、電極3と基体1aとの間にはバイアス電源Esが接続し電極3にバイアス電圧を印加する。
【0059】
刷版1の回動方向における電解液槽4内の上流には、電解液槽4の窓4aから画像信号に応じてUVレーザー光Lsを刷版1に照射する刷版像形成手段5が配設されている。
【0060】
刷版像形成手段5は、UVレーザー光Lsの光源5aと、UVレーザー光Lsを刷版1の回動方向に直交する主走査方向に走査する光学系5bと、光源5aを点灯させる駆動回路5cと、を含む。刷版像形成手段5は、画像信号に応じて駆動回路5cを駆動させて刷版1上にUVレーザー光Lsを走査し、刷版1上に1次電解質dとしてのBiを析出させて、親水性領域(電解質析出領域)と疎水性領域(電解質未析出領域)で構成される刷版像を刷版1上に形成する。
【0061】
析出促進手段30は、刷版像形成手段5の位置、つまり、UVレーザー光Lsの照射位置の下流側において刷版1に接触する電解液2に第1電界E1を形成して刷版像形成手段5によって形成された刷版像の1次電解質d1を核にして2次電解質d2の析出を促進されるものである。そして、析出促進手段30は、電極3と、電極3に第1電位V1を印加して電解液2を基体1aに対しブラス電位に保持するバイアス電源Esとで構成され、UVレーザー光Lsの光源で照射された領域における電解質dの被覆率を増大させるものである。
【0062】
以上のように、本発明に係る印刷装置Aは、電解質dで成る親水性領域(非画像領域)と非電解質の疎水性領域(画像領域)とで構成される刷版像を刷版1上に形成する、つまり、製版処理を行っている。
【0063】
次に、製版処理に引き続き行われる印刷処理の構成について以下説明する。
【0064】
印刷処理で作動する部分は、刷版1、電解液槽4、電解液槽内の電解液2、エアーナイフ61、インク供給手段7、ブランケットローラ81、圧接ローラ82である。刷版像形成手段5、電極3及びクリーニング手段10は不作動状態に切り替えられている。
【0065】
ここでは電解液2をオフセット印刷方式の湿し水Wとして転用している。
【0066】
湿し水付与手段6は、電解液槽4とエアーナイフ61とで構成され、印刷処理時に刷版1上の親水性領域(非画像部)のみに適量の電解液2を付与している。
【0067】
印刷処理時に湿し水付与手段6の一部として機能する電解液槽4は、湿し水Wとして電解液2を刷版1に供給している。
【0068】
印刷処理時に湿し水付与手段6の一部として機能するエアーナイフ61は圧縮空気を内部のチャンバーに瞬時に充満可能で、先端の細長いノズル61aより圧縮空気を吹き出す機構を備え、図示のように電解液槽4の下流部に配設され、刷版1に空気流Jaを吹き付けて刷版1上の余分な電解液2を除去して、刷版1上の親水性領域(非画像部)のみに適量の電解液2を付与する。
【0069】
つまり、エアーナイフ61の空気流Jaによって疎水性領域(画像部)では電解液2が完全に除去されるが、親水性領域では、高い親水性のために電解液2が完全に除去されず、後工程のインク供給手段7からインクKが転写されない程度以上の適量の電解液2が残る。
【0070】
なお、ここでは湿し水付与手段6は電解液槽4とエアーナイフ61で構成されるが、これに限定されるものでなく、印刷時に電解液2が刷版1に接触しない程度に電解液槽4を刷版1に対して離間させ、湿し水Wが含浸された湿し水供給ローラ62等を刷版1に当接させて刷版1上の親水性領域のみに湿し水Wを付与するような構成にしてもよい。
【0071】
インク供給手段7はエアーナイフ61に対し刷版1の回動方向の下流側に配設し、インクKが周面に塗布された3つのインク塗布ローラ71、72、73で構成されている。インク塗布ローラ71、72、73はそれぞれ刷版1に当接して刷版1上にインクKを供給している。各インク塗布ローラからのインク供給により、刷版1の疎水性領域にはインクKが均質、且つ緻密に付与され、インク抜けのないインク像Ikが刷版1上に形成される。
【0072】
転写手段8はブランケットローラ81と圧接ローラ82とを含み、インク供給手段7に対し刷版1の回動方向の下流側に配設され、刷版1上のインク像Ikを用紙S上に転写する。
【0073】
ブランケットローラ81は刷版1と同等の外径を有し、刷版1と同一周期で回動し、2次転写位置P2で圧接ローラ82に圧接され1次転写位置P1で刷版1に圧接している。1次転写位置P1で刷版1上に形成されたインク像Ikをブランケットローラ81に写し取り、更に2次転写位置P2でインク像Ikを用紙S上に転写させて、インク像Ikを用紙S上に形成する。
【0074】
印刷装置Aは、各部を作動させて所定枚数の用紙に対する印刷処理が終了すると、次の製版・印刷の準備のために、残余インクK、及び古い刷版像を刷版1上から除去する刷版再生処理を行う。刷版再生処理はクリーニング手段10と電解質溶解手段20とそれらの作動を制御する非図示の制御手段40により為される。
【0075】
クリーニング手段10はフェルト、不織布等で被覆されたローラであるが、これに限定されるものでなく、例えば、ブレード等で残余インクを除去する、あるいは巻き取り可能なウエブで拭う構成でもよい。制御手段40はクリーニング手段10の作動を制御して、刷版1の1周回分以上に渡りクリーニング手段10を刷版1の表面を摺擦させ、残余インクKを刷版1上から完全に除去する。
【0076】
また、インクKを除去するためにクリーニング手段10を作動させる際に、エアーナイフ61を同時に作動させて刷版1上の電解液3を吹き飛ばすようにしてもよい。更に、エアーナイフ61の下流側にスポンジローラ等を配設させて残余電解液2を刷版1上から拭い取るようにしてもよい。
【0077】
電解質溶解手段20は、電解液槽4内に電解液2を上記の(2)式の化学反応が生じるように刷版1に接触する電解液2に第1電界E1と逆向きの第2電界E2を形成して、刷版1上の電解質dを電解液2に溶解させる手段であり、電解液槽4内の電極3と電極3に第1電位V1と逆極性の第2電位V2を印加して電解液2を基体1aに対しマイナス電位に保持するバイアス電源Esとで構成される。
【0078】
なお、ここでは電極3及びバイアス電源Esを析出促進手段30と兼用しているが、これに限定されるものでなく、独立に設けてもよい。
【0079】
刷版1が電極3との間隙を通過する通過時間Tcを1秒とし、且つ刷版1と電極3の間隙を500μmとした場合に、例えば、刷版1上の電解質dを完全に除去するために第2電位V2は−1.5V相当を必要とする。電極3の材質は、導電性でればよく、特に指定されない。間隙及び電極の寸法も限定されるものでなく、刷版1上の想定される電解質dが完全に電解液2に再溶解されるよう、第2電位V2が適宜設定される。
【0080】
非図示の制御手段40は、クリーニング手段10が作動している間に、第2電位V2を出力させるようバイアス電源Esを制御して、刷版1上の電解質dを電解液2に溶解させて刷版1上の刷版像を消去しているが、クリーニング手段10の作動後に作動させるようにしもよい。
【0081】
刷版再生処理が終了すると、次画像のための製版処理を実行し、しかる後に次画像のための所定枚数の印刷処理を実行する。
【0082】
本発明に係る印刷装置Aは、製版処理、印刷処理、刷版再生処理を自動的に繰り返して、操作者によって設定された各製版印刷ジョブを順次自動的に遂行可能である。
【0083】
なお、印刷処理部のインク供給手段7、転写手段8及びインクKは、汎用のオフセット印刷機に使用されているものを転用でき、刷版1は刷版像の形成及び消去を10万回繰り返しても異常なく再使用可能である。
【0084】
以上のように、本発明に係る印刷装置Aでは、製版処理において水系電解液2に浸した刷版1にレーザー光を走査して非画像領域に親水性の電解質dを析出して刷版像を形成しているために、電解液2を湿し水として利用し、刷版1を洗浄、乾燥させることなく印刷処理に自動的に移行させており、従来のダイレクト方式の印刷装置と比較して刷版切替に要する時間を大幅に短縮することが出来る。
【0085】
つまり、本発明に係る印刷装置Aは、刷版上の刷版像を短時間に書換可能な製版プロセスを搭載し多品種小ロットの市場ニーズに対応可能な印刷装置の提供を実現できる。また、本発明に係る印刷装置Aは古い刷版上の電解質を電解液に再溶解して刷版像を消去することによって、刷版を繰り返し使用可能にすることで、製版コストの削減が見込める。
【0086】
つぎに、本発明に係る製版装置Bの実施形態について説明する。
【0087】
図6は本発明に係る製版装置Bの実施形態を示す模式図(断面図)である。製版装置Bは、印刷装置Aにおいて印刷処理のみに用いるインク供給手段7及び転写手段8が廃止され、刷版1を電解液槽4に対し図示の矢印zで示す方向に変位可能に支持されている。刷版1は電解液槽4から離間した状態において破線で示すように電解液槽4内の電解液の上面より上方に変位する。また、刷版1を回転する非図示の駆動機構と一体に変位し、矢印方向に回動可能である。
【0088】
エアーナイフ6は固設されており、電解液2から離間した状態の刷版1に対し空気流Jaを吹き付けて、刷版1上の多くの電解液2を吹き飛ばし、電解液槽4に戻す。
【0089】
スポンローラ12は、電解液2から離間した状態の刷版1に対し刷版1が損傷しない程度に当接して、刷版上に残った電解液2を拭き取って刷版1を仕上げる。スポンジローラ12に限定されず、刷版1に対し非接触で熱風を吹き付けて刷版1を乾燥して仕上げるドライヤに置換可能である。
【0090】
製版に関わる作動等は印刷装置Aの実施形態において詳しく説明しており省略する。
【0091】
以上のように本発明に係る製版装置Bは、古い刷版1上の電解質dを電解液2に再溶解して刷版像を消去することによって、刷版1を繰り返し使用可能にすることで、製版コストの削減が見込める。更に電解質1aが水系の溶媒1bに溶解した水系の電解液2を用いており、有機系溶媒を用いた従来の装置に比較して乾燥等の仕上げに要する時間を短く出来る。
【符号の説明】
【0092】
1 刷版
1a 基体
1b 電荷発生層
1c 表面層
2 電解液
4 電解液槽(供給手段)
5 刷版像形成手段
6 湿し水付与手段
7 インク供給手段
8 転写手段
20 電解質溶解手段
30 析出促進手段
A 印刷装置
B 製版装置
d 電解質
S 用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基体と、前記基体上に形成され電荷を発生させる電荷発生層と、前記電荷発生層上に疎水性の材料で多孔状に形成された表面層と、を含んだ刷版上に親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像を形成する製版方法であって、
水系の溶媒に親水性の電解質が溶解された電解液を前記刷版の表面に供給し、前記電解液が接触する前記刷版上に画像信号に対応して刺激を付与して前記電荷発生層に電荷を発生させ前記刷版の表面に前記電解質を析出させて前記刷版像を前記刷版上に形成することを特徴とする製版方法。
【請求項2】
所定方向に移動可能に支持された刷版上に親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像を形成する製版装置であって、
前記刷版は導電性の基体と前記基体上に形成され電荷を発生させる電荷発生層と前記電荷発生層上に疎水性の材料で多孔状に形成された表面層とを含み、
水系の溶媒に親水性の電解質が溶解された電解液を前記刷版の表面に供給する供給手段と、
前記供給手段により供給された前記電解液が接触する前記刷版に対し画像信号に応じて刺激を付与して前記電荷発生層に電荷を発生させ前記刷版上に前記電解質を析出させて、前記刷版上に刷版像を形成する刷版像形成手段と、を有することを特徴とする製版装置。
【請求項3】
前記刷版に接触する前記電解液に第1電界を形成して前記刷版像形成手段により前記刷版上に析出された電解質を核にして電解質の析出を促進する析出促進手段を有することを特徴とする請求項2に記載の製版装置。
【請求項4】
所定方向に移動可能に支持され、親水性領域と疎水性領域で構成される刷版像が形成された刷版を用いて用紙上にインク像を形成可能な印刷装置であって、
前記刷版は導電性の基体と前記基体上に形成され電荷を発生させる電荷発生層と前記電荷発生層上に疎水性の材料で多孔状に形成された表面層とを含み、
前記刷版に対向して配設され、水系の溶媒に親水性の電解質が溶解された電解液を前記刷版の表面に供給する供給手段と、
前記供給手段により供給された前記電解液が接触する前記刷版に対し画像信号に応じて刺激を付与して前記電荷発生層に電荷を発生させ前記刷版上に前記電解質を析出させて、前記刷版上に刷版像を形成する刷版像形成手段と、
前記刷版像形成手段に対し前記刷版の移動方向の下流側に配設し、前記刷版上の親水性領域に適量の湿し水を付与する湿し水付与手段と、
前記湿し水付与手段に対し前記刷版の移動方向の下流側に配設し前記刷版像の疎水性領域にインクを付与して前記刷版上にインク像を形成するインク供給手段と、
前記インク供給手段に対し前記刷版の移動方向の下流側に配設し前記インク像を用紙上に転写する転写手段と、を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
前記刷版に接触する前記電解液に第1電界を形成して前記刷版像形成手段により前記刷版の表面に析出された電解質を核にして電解質の析出を促進する析出促進手段を有することを特徴とする請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記刷版に接触する前記電解液に前記第1電界と逆向きの第2電界を形成して前記刷版上の電解質を電解液中に溶解する電解質溶解手段を有することを特徴とする請求項4、又は5に記載の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−56196(P2012−56196A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201670(P2010−201670)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】