説明

製鋼用の装入原料

【課題】廃プラスチックの配合量を高くし得てその利用効率を高めることができるとともに、リフティングマグネットへの固化物の吸着力を過不足のない適正な吸着力となし得、リフティングマグネットによる1回の搬送量を十分量となし得て、製鋼操業の操業能率を高く保持することのできる製鋼用の装入原料を提供する。
【解決手段】鉄原料に廃プラスチックを加えた混合物を圧縮し、廃プラスチックをバインダーとしてそれら鉄原料と廃プラスチックとを一体の固化物10となして製鋼用の装入原料となすに際して、固化物10の比透磁率が1.3〜2.0となるように鉄原料と廃プラスチックの混合比率を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉄鋼用の装入原料に関し、詳しくは鉄原料に廃プラスチックを加えた混合物を圧縮一体化して固化物となした製鋼用の装入原料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製鋼工場や加工工場では製鋼の過程或いは加工の過程で各種の廃棄物鉄粉が発生する。
一方プラスチックの製造や加工,使用或いは流通過程では多量の廃プラスチックが発生し、その処理処分に困っているのが実状である。
そこで本出願人はそれらの有効利用を図るべく、上記の鉄粉を含む鉄原料に廃プラスチックを加えた混合物を圧縮一体化して固化物となし、これを製鋼用の装入原料とする発明について提案している。
下記特許文献1,特許文献2,特許文献3にこの種の固化物を製鋼用の装入原料として用いる点が開示されている。
【0003】
図2はその固化物の具体例(同図のものは特許文献3に開示のもの)を示している。
同図において200は廃棄物鉄粉を、202は廃プラスチックを表しており、また204はそれらの混合物を圧縮一体化して成る固化物を表している。
それら廃棄物鉄粉200と廃プラスチック202との混合物を15〜25MPa程度の高圧力を加えて圧縮すると、圧縮時の摩擦熱により廃プラスチック202が一部溶融してバインダーとしての働きをなし(場合によって廃プラスチック202を混合前若しくは混合後に加熱をした上で圧縮する)、これにより廃棄物鉄粉200と廃プラスチック202とが圧密一体化して固化物204となる。
この固化物204を製鋼用の電炉等溶解炉への装入原料として用いた場合、廃プラスチック202の燃焼による熱を製鋼用の熱源の一部として、更にはまた炭素源の一部として利用することができ、廃棄物鉄粉200及び廃プラスチック202の有効利用を図ることができる。
【0004】
しかしながらこの廃棄物鉄粉は金属鉄含有量が40%以下の低品位のものであり、廃プラスチックと混合及び圧縮一体化して固化物となしたとき、廃プラスチックの配合量が多いと固化物に占める金属鉄含有量が少なくなって、リフティングマグネット(電磁石)に対する吸着力が小さくなってしまう。
また圧延スケール等のスケールや研磨鉄粉等の廃棄物鉄粉は鉄の酸化度が高く、酸化度の低い廃棄物鉄粉を用いた場合に比べて鉄含有量が同等レベルであっても金属鉄含有量が低いため、リフティングマグネットへの吸着力はより小さいものとなる。
【0005】
リフティングマグネットへの固化物の吸着力の大小は、製鋼操業上において次のような重要な意味を有している。
製鋼操業においては、装入原料としての固化物を山積みしておいてこれをリフティングマグネットに吸着させ、そしてリフティングマグネットの移動により電炉等の溶解炉まで搬送して溶解炉に固化物を装入し、これを繰り返して溶解炉内に必要量の固化物即ち装入原料を装入して溶解を行う。
ところがリフティングマグネットに対する固化物の吸着力が小さいと、リフティングマグネットの1回の搬送にて搬送できる固化物の量即ち溶解炉への装入量が少なくなり、その分リフティングマグネットによる固化物の繰返し搬送回数が多くなって、溶解炉に必要量の原料装入を行うまでの所用時間が長くなってしまう。
この結果製鋼操業、詳しくは鋼の溶解操業の操業能率が悪化してしまう。
【0006】
この場合、金属鉄含有量が80%以上の高品位の有価な鉄粉を配合して固化物のリフティングマグネットに対する吸着力を高めることが考えられるが、その際固化物への配合量が少ないと十分な吸着力が得られず、逆に配合量が過剰になると吸着力は高まるものの、有価な鉄粉の配合量が不必要に増すことによって所要コストが高くなってしまう。
即ち有価な鉄粉を配合するにしてもその配合量には適正な量が存在する。
但しその配合の適正量は、使用する低品位の廃棄物鉄粉の種類や廃プラスチックとの混合比率等によって一定ではなく、如何なる量が適正量であるかは不明である。
【0007】
このことは、有価な鉄粉を配合することなく低品位の廃棄物鉄粉だけを用いて廃プラスチックとの混合及び一体化により固形物を形成する場合においても同様で、どのような比率でそれら廃棄物鉄粉と廃プラスチックとを混合した場合に適正比率となるかは不明である。
更にまた、低品位の廃棄物鉄粉を用いないで鉄源として有価な鉄粉のみを用い、これを廃プラスチックと混合一体化し固化物を形成するに際しても同様であって、有価な鉄粉をどのような比率で廃プラスチックと混合すれば適正比率となるか不明である。
【0008】
特にこの有価な鉄粉だけを用いて廃プラスチックと混合し固化物を得る場合、その有価な鉄粉の配合量が過剰になると、単にコストが高くなる問題だけでなく、廃プラスチックの量が相対的に少なくなることによって廃プラスチックによる結合力が低下し、固化物の形状保持の強度が低くなって取扱中に固化物が崩れてしまう問題も生ずる。
尤もリフティングマグネットの起磁力を強くすることで対応するといったことも考えられるが、その場合特殊なリフティングマグネットを必要とすることとなり、汎用的に使用されているリフティングマグネットが使用できなくなってしまい望ましくない。
【0009】
【特許文献1】特開2001−348626号公報
【特許文献2】特開2002−180138号公報
【特許文献3】特開2004−91880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情を背景とし、廃プラスチックの配合量を可及的に高くし得てその有効利用を図ることができるとともに、リフティングマグネットへの固化物の吸着力を過不足のない適正な吸着力となし得、リフティングマグネットによる1回の搬送量を十分な量となし得て製鋼操業の操業能率を高く保持することのできる製鋼用の装入原料を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
而して請求項1のものは、鉄原料に廃プラスチックを加えた混合物を圧縮し、該廃プラスチックをバインダーとしてそれら鉄原料と廃プラスチックとを一体の固化物となした製鋼用の装入原料であって、前記固化物の比透磁率が1.3〜2.0となるように前記鉄原料と廃プラスチックとの混合比率を調整してあることを特徴とする。
【0012】
請求項2のものは、請求項1において、前記鉄原料が廃棄物鉄粉及び有価物鉄粉を含んでいることを特徴とする。
【0013】
請求項3のものは、請求項2において、前記廃棄物鉄粉として、金属鉄含有量が質量%で40%以下のものを用いていることを特徴とする。
【0014】
請求項4のものは、請求項3において、金属鉄含有量が質量%で80%以上の前記有価物鉄粉を前記廃棄物鉄粉と併せて用いていることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0015】
以上のように本発明は、製鋼用の装入原料となる固化物を、その比透磁率が1.3〜2.0となるように鉄原料と廃プラスチックとの混合比率を調整して構成するようになしたものである。
上記のように廃棄物鉄粉の種類や形態等によってリフティングマグネットに対する吸着力は変化する。
従って単に固化物における金属鉄含有量だけではリフティングマグネットに対する固化物の適正な吸着力は定まらない。
そこで本発明者等は固化物における比透磁率に着目し、そしてその比透磁率を1.3〜2.0となした場合において良好な吸着力の得られることが判明した。
【0016】
尚、比透磁率を2.0よりも大とした場合であっても吸着力は十分となるが、この場合吸着力が必要以上となるのみならず、その分廃プラスチックの使用量が少なくなって廃プラスチックの利用効率が低下し、更にまた場合によって廃プラスチックによる結合力が不足して固化物がその形状を保持し難くなる。
かかる本発明によれば、リフティングマグネットの1回の搬送で多量の固化物を搬送でき、従って溶解炉に必要量の装入原料を装入するまでのリフティングマグネットの移動回数を少なく、また装入のための所要時間を短くし得て、製鋼操業の操業能率を高く保持することができる。
【0017】
本発明では、上記鉄原料として廃棄物鉄粉及び有価物鉄粉を含んだものを用いることができる(請求項2)。
これにより廃棄物鉄粉を製鋼用の鉄原料として有効に活用することができる。
【0018】
この場合において廃棄物鉄粉として、金属鉄含有量が40%以下のものを用いることができる(請求項3)。
また鉄原料の一部としてこのような廃棄物鉄粉を用いる場合において、金属鉄含有量が80%以上の高品位の有価物鉄粉を併せて用いることができる(請求項4)。
このように高品位の有価物鉄粉を配合することで、廃棄物鉄粉を鉄原料の一部として用いつつ、固化物の比透磁率を1.3〜2.0の範囲に容易に調整し得て、リフティングマグネットへの良好な吸着力を付与することができる。
【0019】
尚、本発明において鉄粉の形状は特に限定されず、粉状のものの他、粒状,切削屑のようなカール状その他の形状であっても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明の実施形態を以下に具体的に説明する。
鉄を所定比率で含有する下記の鉄原料A,B,C,Dを用いて廃プラスチックと混合し、これを加熱軟化させた上で圧力を加えて圧密一体化し、図1に示す立方体形状(200×200×200mm)の固化物10としてリフティングマグネット12への吸着力を評価した。
鉄原料A:有価物鉄粉(金属鉄分94%)
鉄原料B:有価物鉄粉(金属鉄分91%)
鉄原料C:廃棄物鉄粉(金属鉄分16%)
鉄原料D:廃棄物鉄粉(金属鉄分35%)
【0021】
尚、鉄原料(有価物鉄粉)Aは銑鉄加工屑であって金属鉄含有量が高く、貴重な鉄資源として有価で売られているものである。
鉄原料(有価物鉄粉)Bは鋳鉄加工屑であって、これもまた貴重な鉄資源として有価で売られているものである。
一方鉄原料(廃棄物鉄粉)Cはスチールショット加工屑であって金属鉄含有量が低く、廃棄物としてのものである。
更に鉄原料(廃棄物鉄粉)Dは製鋼工場スケール屑であって金属鉄含有量が低く、これもまた廃棄物としてのものである。
【0022】
尚リフティングマグネット12は円形且つ直径がφ2.1mのもので、起磁力が16000AT(アンペアターン)(123A),コイルの巻き数が1300T(ターン),重量が7.6t(トン)である。
図1中14はリフティングマグネット12のコイルを、16は強磁性体(鉄)から成るヨークを表している。
このリフティングマグネット12は特殊のものではなく、製鋼操業に際して汎用的に用いられているものである。
【0023】
図1に示しているようにこの実施形態では、リフティングマグネット12が固化物10に対し400mmまで接近してから吸着を開始し、吸着の良否を調べた。
その結果が表1に固化物10の比透磁率と併せて示してある。
【0024】
【表1】

【0025】
同表に示しているように比較例のものは比透磁率が1.25で本発明の下限値である1.3よりも低く、その結果この比較例のものは固化物10がリフティングマグネット12に対して良好に吸着しなかった。
これに対して比透磁率が本発明の下限値である1.3よりも高い各実施例のものは、何れもリフティングマグネット12に対する吸着率が良好なものであった。
【0026】
従って各実施例のものはリフティングマグネット12の1回の搬送で多量の固化物10を搬送でき、溶解炉に必要量を装入するまでのリフティングマグネット12の移動回数,装入のための所要時間を少なく、また短くし得て製鋼操業の操業能率を高く保持することができる。
【0027】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明は上例以外の他の様々な割合で廃プラスチックと鉄原料とを混合し且つ圧密一体化して固化物を形成することが可能であるし、また鉄原料,廃プラスチック以外に石灰等の助剤その他を含んで固化物を形成したり、或いは廃プラスチックに他の有機廃棄物を加えて固化物を形成することも可能であるなど、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態で使用するリフティングマグネット及び固化物を示す図である。
【図2】従来の固化物の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 固化物
200 廃棄物鉄粉
202 廃プラスチック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄原料に廃プラスチックを加えた混合物を圧縮し、該廃プラスチックをバインダーとしてそれら鉄原料と廃プラスチックとを一体の固化物となした製鋼用の装入原料であって、
前記固化物の比透磁率が1.3〜2.0となるように前記鉄原料と廃プラスチックとの混合比率を調整してあることを特徴とする製鋼用の装入原料。
【請求項2】
請求項1において、前記鉄原料が廃棄物鉄粉及び有価物鉄粉を含んでいることを特徴とする製鋼用の装入原料。
【請求項3】
請求項2において、前記廃棄物鉄粉として、金属鉄含有量が質量%で40%以下のものを用いていることを特徴とする製鋼用の装入原料。
【請求項4】
請求項3において、金属鉄含有量が質量%で80%以上の前記有価物鉄粉を前記廃棄物鉄粉と併せて用いていることを特徴とする製鋼用の装入原料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−63644(P2007−63644A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253575(P2005−253575)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】