説明

複列ころ軸受および複列ころ軸受の保持器

【課題】複列ころ軸受の保持器の摩耗を抑制する。
【解決手段】保持器10を構成する、一対相似形のくし型保持器単体11の外周面に、軸方向および周方向に対して同一方向に傾斜する複数のフィン11dを設ける。保持器単体11は、その円環部11aが背中合わせの状態で軸受1に組み込まれるため、軸受の軸方向に対して保持器単体11間で、フィン11dは逆向きに傾斜し、その傾斜の向きは、軸受回転方向に対して、フィン11dの柱部11b上の端部が円環部11a上の端部より先行する向きとする。軸受運転時には、このフィン11dはその回転軌跡上の流体を保持器単体11の背面側に押し出し、この反作用により、保持器単体11に互いに離間する方向の推進力が働く。そのため、保持器単体11の背面の擦れあいが減じられ、保持器10の磨耗が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複列ころ軸受と、この軸受に組み込まれる保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
複列ころ軸受の保持器は、円環部と、円環部から軸方向に延びる複数の柱部とを有し、柱部間にころを収容するポケットを設けた一対のくし型の保持器単体から構成され、これら保持器単体の円環部同士を互いに背中合わせにした状態で軸受に組み込まれている。
【0003】
このように、保持器を複列ころ軸受に組み込んだ際には、保持器を構成する保持器単体の円環部は背中合わせになっているため、軸受運転中には、保持器単体の背面同士は擦れあい、摩耗する問題があった。
ここで、保持器単体の背面に、潤滑剤溜まりを設けて滑りを良くすることも考えられるが(特許文献1、図2参照)、摩耗の抑制には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−301232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、複列ころ軸受の保持器の摩耗を抑えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、2つのくし型の保持器単体から構成される、複列ころ軸受の保持器について、少なくとも一方のくし型保持器単体の外周面又は内周面に、複列ころ軸受の回転により、保持器単体のポケット側に推進力を生じさせるフィンを設けたのである。
【0007】
このようにして、保持器単体の少なくとも一方に、ポケット側に推進力を生じさせると、保持器単体同士が離間するため、背面のこすれあいが減じられ、保持器の磨耗が抑えられる。
また、フィンは補強リブとしても機能するため、保持器単体の強度が向上する。
【0008】
2つの保持器単体を相似形とし、フィンは、保持器単体の軸方向および周方向に対して傾斜して直線状に延びるものとすると、フィンの構造が簡単であるため、保持器単体周面上へのフィンの形成が容易である。
また、両保持器単体を同一の型により作製できるため、保持器の製造が容易である。
さらに、相似形の保持器単体を円環部を背中合わせにすると、軸方向に対して保持器単体間でフィンの傾斜が自動的に逆向きになるため、簡単に反対方向への推進力を生じさせることができる。
このような保持器を組み込んだ軸受を、軸受回転方向に対して、保持器単体の背面に近い側のフィン一端よりも、背面から遠い側のフィン他端が先行する向きに回転させると、その回転軌跡上の空気等の流体を保持器背面側に押し出し、その反作用として、保持器にそのポケット側へと向かう推進力が生じ、保持器単体同士が離間する。
【0009】
ここで、保持器の円環部と柱部とフィンを合成樹脂により一体に射出成形し、そのウェルドライン上にフィンを配置すると、脆弱なウェルドラインが補強される。
【0010】
さらに、フィンが保持器の周方向または軸方向に複数並列している場合には、フィンとフィンの間には、潤滑剤が溜まりやすくなるため、この間が潤滑剤溜まりとしても機能し、軸受の潤滑性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
少なくとも一方の保持器単体に、軸受の回転によりポケット側への推進力を生じるフィンを設けたことにより、軸受の運転時に保持器単体同士が離間するため、保持器単体の背面同士のこすれあいが減じられ、保持器の摩耗が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】外輪を外した軸受の全体斜視図
【図2】軸受の要部を示す断面図
【図3】ころを収納した保持器の要部を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1から図3に示す、複列円筒ころ軸受1は、内輪2と、外輪3と、これら内外輪2,3の間に配置された二列の円筒ころ4と、円筒ころ4を収納保持する保持器10とからなる。
【0015】
詳しくは、内輪2の外周面は、その軸方向中央および両側に鍔部2aが設けられており、この鍔部2aの間に形成される二列の軌道面2bと、これに対向する外輪3内周面の二列の軌道面3aに各円筒ころ4は挟まれている。
【0016】
この内輪2は、工作機械等の主軸外周に嵌め合わされ、外輪3は、ハウジングの開口外周に嵌め合わされ、主軸が回転すると、これに従って内輪2が回転し、軌道面2b、3aに沿って円筒ころ4が回転することにより、軸受1は主軸を回転可能な状態で支持している。
【0017】
また、図示のように、保持器10は、一対の相似形の保持器単体11からなり、この保持器単体11は、円環部11aと、円環部11aから保持器10の軸方向一方に延びる複数の柱部11bとを有するいわゆるくし型の保持器単体である。
保持器10は、一対の保持器単体11の円環部11a同士が背中合わせになった状態で軸受1に組み込まれている。
保持器単体11の柱部11bの間には、ポケット11cが形成されており、円筒ころ4をそれぞれ収納している。
【0018】
さらに、各保持器単体11の外周面には、周方向に等間隔を置いて並列する、相似形の複数のフィン11dが設けられている。
図示のように、各フィン11dは円環部11a周面上の一端から柱部11b周面上の他端まで、直線状に延びており、保持器10の軸方向および周方向に対して同一方向に傾斜している。
ここで、各フィン11dの軸方向に対する傾斜角はほぼ等しくなっており、フィン11dはその幅および厚みが、円環部11a上の端部から柱部11b上の端部に向かって漸減することで、ほぼ楔形の外観を呈している。
【0019】
上記したように、保持器単体11同士は、円環部11aが背中合わせの状態で軸受1に組み込まれているため、そのフィン11dの傾斜の向きは、保持器単体11間で軸方向に対して逆向きとなっている。
【0020】
なお、この保持器単体11は、合成樹脂を射出成形することにより、円環部11aと柱部11bとフィン11dとが一体に成形されている。
ここで、保持器単体11は相似形であるから、射出成形の際に同一の型を用いることができる。
【0021】
この軸受1を、図3の白抜き矢印で示すように、各保持器単体11のフィン11dの柱部11b周面上の端部が、円環部11a周面上の端部に対して先行する向きに回転させる。
すると、各フィン11dは、その回転軌跡上の流体を保持器10背面側に押し出し、その反作用として、各保持器単体11にそのポケット11c側、すなわち、図中矢印で示す側への推進力が生じる。
こうして、推進力は離間する方向に働くため、各保持器単体11は、図中鎖線で示すように、微小に動いて離間する。
そのため、保持器単体11の背面同士のこすれあいが減じられ、保持器10の摩耗が抑制される。
【0022】
このとき、フィン11dの軸方向に対する傾斜角は、ほぼ45度となっている。
また、フィン11dは、保持器単体11の周方向に相似形のものが等配されているため、保持器10には、その周方向に均等に推進力が生じ、軸方向への推進がスムーズになされる。
【0023】
また、上記のように保持器単体11が推進すると、そのポケット11cに収納された円筒ころ4も保持器単体11に押されて移動し、その端面が内輪2の外側の鍔部2aに押し付けられるため、円筒ころ4のスキューが防止される。
【0024】
なお、図1のように、保持器単体11が離間する推進力が生じる、軸受1の回転方向は、内輪2の鍔部2a外面にプリント等された、矢印状の表示部2cに表示されている。
そのため、軸受1を工作機械等の主軸に嵌め合わせる際には、この表示部2cを見れば、推進力が生じる回転方向を間違える心配がない。
【0025】
また、上述した保持器単体11の射出成形により、その一つ置きの柱部11b上には、脆弱なウェルドラインWが形成されているが、図3のように、フィン11dは、この上に配置されており、ウェルドラインWの補強がなされている。
なお、ウェルドラインWに限られず、フィン11dが補強リブとして機能し、保持器単体11が補強されていることは無論である。
【0026】
また、フィン11dは、保持器単体11の外周面から突出しているため、隣り合うフィン11dの間には、入り込んだ潤滑剤が溜まりやすくなり、潤滑剤溜まりとして機能する。
ここで、各フィン11dは、各柱部11b上に延び、円筒ころ4は、この柱部11b間に保持されているので、フィン11dの間に溜まった潤滑剤は、円筒ころ4の転動面にスムーズに送り込まれることとなり、特に潤滑性が良好になっている。
【0027】
ここで、フィン11dの位置、大きさ、形状、数等は実施形態に限定されない。
例えば、フィン11dを保持器単体11の内外周面の両面や、内周面のみに形成してもよく、さらには、円環部11aの周面のみ、あるいは柱部11bの周面のみに形成してもよい。
また、各フィン11dで長さや厚みを違えてもよく、例えば、一部フィン11dの厚みや長さを大きくすることで、当該フィン11dが配置された部分を補強することができる。
同様に、フィン11dを軸方向に複列をなすように配置して、当該部分を補強することもできる。
また、フィン11dの形状は、推進力が発生しうる限りにおいて、湾曲させたり、流線型にしたりなどすることもできる。
なお、フィン11dは、無論、単数でもよい。
【0028】
さらに、実施形態では、双方の保持器単体11にフィン11dを設けているが、一方の保持器単体11のみにフィン11dを設けてもよい。
この場合、フィン11dを設けた一方の保持器単体11のみに、離間する方向の推進力を発生させることで、保持器単体11の円環部11a同士のこすれあいを減じることができる。
【0029】
また、保持器10の材質、製法は実施形態に限定されず、金属製としたり、円環部11aと柱部11bのみを一体成形して、フィン11dを後付けしたりしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 軸受
2 内輪
2a 鍔部
2b 軌道面
2c 表示部
3 外輪
3a 軌道面
4 円筒ころ
10 保持器
11 保持器単体
11a 円環部
11b 柱部
11c ポケット
11d フィン
W ウェルドライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環部と、円環部から軸方向に延びる複数の柱部とを有し、柱部間のポケットにころを収納する2つのくし型の保持器単体から構成され、この保持器単体の円環部同士を互いに背中合わせにした状態で複列ころ軸受に組み込まれる保持器において、
少なくとも一方の保持器単体の外周面又は内周面に、複列ころ軸受の回転により、この保持器単体のポケット側に推進力を生じさせるフィンを設けたことを特徴とする複列ころ軸受の保持器。
【請求項2】
上記2つの保持器単体は相似形であり、上記フィンは軸方向および周方向に対して傾斜して直線状に延び、この直線状フィンの傾斜の向きを、軸受回転方向に対して、保持器単体の背面に近い側のフィン一端よりも、背面から遠い側のフィン他端が先行する向きとした請求項1に記載の複列ころ軸受の保持器。
【請求項3】
上記各保持器単体の円環部と柱部とフィンとは合成樹脂により一体に射出成形され、そのウェルドライン上に上記フィンを配置した請求項1または2に記載の複列ころ軸受の保持器。
【請求項4】
上記フィンは、保持器単体の周方向または軸方向に複数並列する請求項1から3のいずれかに記載の複列ころ軸受の保持器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の保持器を組み込んだ複列ころ軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate