説明

複合アニオン交換膜及びその製造方法

【課題】荷電性有機高分子による膜汚染が有効に抑制され、荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理に有効に適用されるポリアニオン層を表面に備えた複合アニオン交換膜を提供する。
【解決手段】アニオン交換膜と、該アニオン交換膜の表面に固定されたポリアニオン層とからなり、該ポリアニオン層は、ポリスチレン換算での数平均分子量が4000以上の範囲にあるアニオン性重合体からなり、且つ所定の条件で逆電界を印加したときのポリアニオン層の減少率が20%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にアニオン性重合体からなるポリアニオン層を有する複合アニオン交換膜及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、荷電性有機高分子による汚染が有効に防止され、しかも耐久性に優れた複合アニオン交換膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、古くは海水からの食塩の製造などに使用されてきたが、近年では、アニオン交換膜とカチオン交換膜とを電極間に交互に配置し、電極間に所定の直流電圧を印加しながら処理液を流し、脱塩を行う電気透析に広く使用されている。即ち、かかる電気透析においては、アニオン交換膜とカチオン交換膜とで区画された濃縮室と、アニオン交換膜或いはカチオン交換膜を挟んで濃縮室に対峙した脱塩室が形成されており、電圧印加によって形成された電場にしたがって、アニオンが脱塩室からアニオン交換膜を通って濃縮室に導入され、一方、カチオンはカチオン交換膜を通って濃縮室に導入され、この結果、脱塩室に供給された処理液からの脱塩が行われ、濃縮室に、脱塩された塩が回収されるという原理に基づくものである。このような電気透析による脱塩は、例えば各種の液の精製処理などに広く利用されている。
【0003】
ところで、上記のようなイオン交換膜を用いての電気透析による脱塩処理を行う場合、処理液中に、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤、アミノ酸、ポリフェノール、各種糖類などの荷電性有機高分子が含まれている場合、これらの荷電性有機高分子がアニオン交換膜表面に直ちに付着してしまい、膜電圧が急激に上昇するという問題があり、このような荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理を有効に行うことが困難となっていた。また、減塩醤油やワインなどの未蒸留酒の脱塩処理を行った場合には、アミノ酸やポリフェノールなどの有効成分がアニオン交換膜表面に付着して捕捉されてしまうという問題もある。
【0004】
このような荷電性有機高分子によるアニオン交換膜の汚染を防止するための手段としては、例えば、特許文献1記載の膜構造をルーズにする方法が知られているが、このような手段では、必然的に膜のイオン選択性が低下し、その結果、効率的な脱塩を実施できなくなってしまうため、実用性に乏しい。
【0005】
また、特許文献2には、荷電性有機高分子による表面汚染が防止されたアニオン交換膜として、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリエーテル化合物が表面或いは内部に固定されたアニオン交換膜が提案されている。
【0006】
さらに、一価イオン選択性に優れたアニオン交換膜として、特許文献3には、アニオン交換膜の表面にポリアニオン層を設けた複合アニオン交換膜が提案されており、このような複合アニオン交換膜では、表面にポリアニオン層が設けられているため、荷電性有機高分子によるアニオン交換膜表面の汚染を有効に防止できることが期待される。
【特許文献1】Desalination,13,105(1973)
【特許文献2】特開2003−82130
【特許文献3】特公昭45−19980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2で提案されたアニオン交換膜は、確かに従来のものに比して荷電性有機高分子による膜の耐汚染性は向上しているものの、その程度は少なく、さらなる耐有機汚染性の向上が求められている。
【0008】
また、特許文献3に記載された複合アニオン交換膜は、アニオン交換膜を膨潤させた状態でポリアニオン(アニオン性重合体)を接触させることにより、ポリアニオンをアニオン交換膜の表面に吸着させてポリアニオン層を形成するというものであり、アニオン交換膜の膨潤は、該膜の表面積を増大せしめて吸着効果を高めるために行われるものである。
【0009】
しかしながら、特許文献3の複合アニオン交換膜を用いて荷電性有機高分子を含む液の処理を行った場合には、短時間で表面のポリカチオン層が脱落してしまい、長期間にわたっての使用が困難であるというのが実情である。また、荷電有機高分子を含む液の処理を行う場合、有機汚染を軽減する有効な手段として、ある程度の時間、透析により脱塩を行った後には、陽極と陰極を反転して電圧を印加する、所謂、逆通電の処理が行われる。即ち、逆通電による処理を行うと、荷電性有機高分子が付着するアニオン交換膜の表面が反対側となり、この結果、荷電性有機高分子による膜汚染の影響を回避し、膜寿命を延長させることができるからである。しかるに、特許文献3の複合アニオン交換膜では、逆通電を印加したときに、ポリアニオン層の脱落が生じてしまい、逆通電による処理も困難であった。結局、特許文献3の複合アニオン交換膜では、荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理に適用することができず、かかる複合アニオン交換膜は、海水の濃縮に使用されるに過ぎない。
【0010】
従って、本発明の目的は、荷電性有機高分子による膜汚染が有効に抑制され、荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理に有効に適用されるポリアニオン層を表面に備えた複合アニオン交換膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、ポリアニオン層がアニオン交換膜表面に強固に固定されており、耐久性に優れ、長期間にわたって安定に荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理を行うことができ、しかも、逆電圧を印加した場合にもポリアニオン層の脱落が有効に防止された複合アニオン交換膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、アニオン交換膜と、該アニオン交換膜の表面に固定されたポリアニオン層とからなり、該ポリアニオン層は、ポリスチレン換算での数平均分子量が4000以上の範囲にあるアニオン性重合体からなり、且つ25℃の温度に保持された0.1規定塩化ナトリウム水溶液中に浸漬した状態で、アニオンが脱離する方向に10mA/cmの電流密度で1時間通電を行ったとき、下記式(1):
R=(A−B)/A×100 …(1)
式中、Aは、上記通電開始時の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜
単位重量当りの量(meq/g)を示し、
Bは、上記通電終了後の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜
単位重量当りの量(meq/g)を示す、
で表されるポリアニオン層の脱離能Rが20%以下であることを特徴とする複合アニオン交換膜が提供される。
【0012】
本発明の複合アニオン交換膜においては、
(1)前記アニオン性重合体がポリスチレンスルホン酸であること、
(2)前記ポリアニオン層の厚みは10μm以下の範囲にあり、且つ0.5meq/g(乾燥膜)以下のイオン交換容量を有していること、
が好適である。
【0013】
本発明によれば、また、ポリスチレン換算での数平均分子量が4000以上の範囲にあるアニオン性重合体と膜膨潤剤とを含む水溶液からなる処理液を用意し、
前記処理液中に、アニオン交換膜を加熱下で浸漬して、該アニオン交換膜を膨潤させた状態で該アニオン交換膜の表面にアニオン性重合体を吸着せしめ、
次いで、アニオン性重合体が吸着されたアニオン交換膜を、40℃以下の水中に投入し、アニオン交換膜からの膨潤剤の除去とアニオン交換膜の収縮とを行うことにより、アニオン性重合体をアニオン交換膜表面に固定することを特徴とする複合アニオン交換膜の製造方法が提供される。
【0014】
本発明における複合アニオン交換膜は、有機荷電性物質を含む液の脱塩処理に有効に適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合アニオン交換膜は、表面にポリアニオン層が形成されているため、表面がマイナスに荷電している荷電性有機高分子に対する耐汚染性が著しく優れている。例えば、図1は、後述する実施例及び比較例の各種の交換膜を用い、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む液について、一定の条件で電気透析を行ったときの処理時間と膜電位との関係を示したものである。この図1から理解されるように、本発明の複合アニオン交換膜では(実施例1)、180分経過後においても膜電位はほとんど変化していないが、従来公知の膜では、著しく短時間で膜電位が一気に上昇してしまっており、例えばポリエーテル化合物が表面に固定されたアニオン交換膜でも(比較例1)、時間経過と共に膜電位が上昇し、荷電性有機高分子であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムにより膜表面が汚染されていることが判る。
【0016】
また、本発明においては、ポリアニオン層を形成しているアニオン性重合体として、数平均分子量が4000以上の高分子量が使用され、このような高分子量のアニオン性重合体が、アニオン交換膜を膨潤・収縮させて該膜の表面に固定されている。このため、本発明の複合アニオン交換膜は、ポリアニオン層ががっちりとアニオン交換膜の表面に固定され、前記の所定の条件で測定されるポリアニオン層の脱離能が20%以下である。例えば、前述した特許文献3に開示されている複合アニオン交換膜では、同じような膨潤工程を経てポリアニオン層が形成されているが、ポリアニオン層の形成に低分子量のアニオン性重合体が使用されているため、後述する比較例2、3に示されているように、ポリアニオン層の脱離能は40%以上と極めて高い。
【0017】
即ち、ポリアニオン層ががっちりと表面に固定され、その脱離能が低い本発明の複合アニオン交換膜は、膜の耐久性も良好であり、ポリアニオン層の脱落が有効に防止されているため、長期間にわたって、安定に荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理を行うことができる。特に、膜表面に汚染が生じたとしても、逆通電により脱塩処理を続行することができるが、比較例2、3に示されている特許文献3の膜では、ポリアニオン層の脱落が容易に生じてしまうため、耐久性に乏しく、短時間で脱塩処理が困難となってしまうばかりか、逆通電したときには、容易にポリアニオン層が脱落してしまうため、逆通電による脱塩処理の続行も困難である。
【0018】
本発明において、高分子量のアニオン性重合体を用いてポリアニオン層を形成することにより、ポリアニオン層が強固にアニオン交換膜表面に固定される理由は明確に解明されたわけではないが、本発明者等は次のように推定している。
即ち、高分子量のアニオン性重合体を、アニオン交換膜が膨潤された状態で接触させ且つ一気に収縮させることにより固定しているため、アニオン交換膜との電気的引力に加え、長い分子鎖がアニオン交換膜の表面に食い込んだ状態で物理的に固定されるため、がっちりと固定されたポリアニオン層が形成され、逆電圧を印加したときにも、その脱離が有効に抑制されるものと信じられる。低分子量のアニオン性重合体を用いた場合には、単に電気的引力によってのみアニオン交換膜表面に固定されているに過ぎず、従って、ポリアニオン層は容易に脱離してしまい、特に逆通電したときには、直ちにポリアニオン層の脱離を生じてしまうのである。
【0019】
さらに、本発明の複合アニオン交換膜は、ポリアニオン層が、電気的引力に加え、分子鎖が膜表面に食い込むというアンカー効果によって強固に固定されているため、アニオン交換膜に対しての反対荷電による膜抵抗(複合アニオン交換膜の電気抵抗)の増大を有効に回避し得るという利点もある。
【0020】
また、高分子量のアニオン性重合体を用いた場合に優れた耐有機汚染性が発現する理由は、次のように考えている。アニオン性重合体のアニオン性基の一部は、アニオン交換膜の固定電荷(正電荷)とポリイオンコンプレックスを形成するが、有機荷電性物質の排除に対して有効に作用するのは、ポリイオンコンプレックスを形成せずに処理液中で解離したアニオン性基であり、高分子量のアニオン性重合体の場合、立体障害により高分子が膜内に入りにくいため、ポリイオンコンプレックスを形成しているアニオン性基は一部であって、膜表面で有効に作用するアニオン性基が多くなるためである。
【0021】
このように本発明の製造方法によって得られる複合アニオン交換膜は、荷電性有機高分子に対する耐汚染性に優れており、しかも、ポリアニオン層がアニオン交換膜の表面に強固に固定されており、この脱離が有効に抑制され、電気的にポリアニオン層をアニオン交換膜から引き離すような逆電圧を印加した場合においても、ポリアニオン層の脱離を有効に回避することができる。従って、かかる複合アニオン交換膜は、荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理に有効に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<複合アニオン交換膜の製造>
本発明の複合アニオン交換膜は、アニオン交換膜の表面にアニオン性重合体を固定し、該アニオン性重合体からなるポリアニオン層を形成することにより製造される。
【0023】
ここで用いるアニオン交換膜は、それ自体公知のものであってよく、例えば、不織布、網、多孔性シートなどの形態を有している基材に、アニオン交換樹脂を設けたものが好適に使用される。かかるアニオン交換樹脂のアニオン交換基は、特に制限されず、1級〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基等の公知のアニオン交換基であってよい。特に強塩基性基であり、塩基性下においても交換基が解離している4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基が好適である。また、基材は、これに限定されるものではないが、通常、ポリ塩化ビニルや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン或いはこれらの共重合体もしくはブレンド物などのポリオレフィンからなる。
【0024】
上記のようなアニオン交換膜は、一般に、0.1乃至5.0meq/g(乾燥膜)、特に0.5乃至3.0meq/g(乾燥膜)のアニオン交換容量を有しているのがよく、膜厚は、アニオン交換容量によっても異なるが、一般に、Cl等の低分子量のアニオン透過性の観点から0.001乃至1mm程度であるのがよい。
【0025】
本発明において、ポリアニオン層の形成に用いるアニオン性重合体としては、ポリスチレン換算での数平均分子量が4000以上、特に10000以上の範囲にあるものが使用される。即ち、このような高分子量のものを使用することにより、以下に述べる工程で、高いアンカー効果を確保することができ、アニオン交換膜の表面にがっちりと固定されたポリアニオン層を形成し、所定の条件で測定されるポリアニオン層の脱離能を低く抑えることが可能となるのである。即ち、アニオン性重合体の分子量が上記範囲よりも小さいと、分子鎖が短くなるために十分なアンカー効果が得られず、ポリアニオン層をアニオン交換膜の表面にしっかりと固定することができず、ポリアニオン層の脱離能が大きくなってしまう。また、アニオン性重合体の分子量が過度に大きいと、膜抵抗の増大などの不都合を生じることがあるため、一般に、上記の数平均分子量は100万以下であることが好適である。
【0026】
このようなアニオン性重合体は、ポリマー鎖にアニオン性基を有するものであり、このようなアニオン性基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、水酸基、メルカプト基などがあるが、一般には、強酸基であり且つポリマー鎖への導入が容易なスルホン酸基が最も好適である。
【0027】
かかるアニオン性重合体は、以下のような方法によって製造することができる。
【0028】
(1)スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等のアニオン性基を導入し得るモノマーの共重合体や、それらモノマーとポリビニル化合物モノマーとの共重合体にアニオン性基を導入する方法。
上記のポリビニル化合物としては、例えばジビニルベンゼン、トリビニルシクロヘキサン、エチレングリコールまたはポリエチレングリコールのジアクリル酸エステルもしくはジメタクリル酸エステル、ジビニルトルエン、ジビニルスルホン、ジビニルナフタレン等が挙げられる。
例えば、スチレンとジビニルベンゼンとの架橋共重合体をスルホン化することにより、本発明で用いるアニオン性共重合体を製造することができる。
【0029】
(2)メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸メチル、p−スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸メチル等のアニオン性基を有するビニル化合物を共重合させる方法、もしくは、それらビニル化合物と前記したポリビニル化合物モノマーとを共重合させる方法。
この方法においては、必要により、イオン性基を有していないモノマー、例えばスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルケトン、ブタジエン、クロロプレン等を共重合せしめたり、或いは得られた共重合体中のカルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基を加水分解してイオン交換容量(カチオン交換容量)を調整することもできる。
【0030】
(3)アニオン性基を有するフェノール類とアルデヒド類とを重縮合する方法。
この方法において、アニオン性基を有するフェノール類としては、フェノールスルホン酸、ナフトールスルホン酸、p−オキシベンゼンスルホン酸、サリチル酸ソーダ等を例示することができる。また、アルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、グリオキサザール、フルフラール類などが使用される。この場合、カチオン交換容量を調整するために、フェノール、クレゾール、ナフト−ル、レゾール等を共重合成分として使用することもできる。
【0031】
上記のようにして製造されるアニオン性重合体において、本発明で最も好適に使用されるのは、ポリスチレンスルホン酸である。即ち、ポリスチレンスルホン酸は強酸性であり、例えば本発明の複合アニオン交換膜を、荷電性有機高分子を含む液の脱塩処理に付したとき、適宜、酸やアルカリで洗浄して表面汚染物質を洗浄除去したときに、その分解を有効に抑制することができ、酸洗浄やアルカリ洗浄による耐汚染性の低下を有効に抑制し、長期間にわたって脱塩処理を有効に行うことができるからである。
【0032】
本発明においては、上述した高分子量のアニオン性重合体をアニオン交換膜表面に固定するが、このような固定は、当該アニオン性重合体の水溶液に膜膨潤剤を添加した処理液を調製し、この処理液中にアニオン交換膜を浸漬して、アニオン交換膜を膨潤させた状態でアニオン性重合体を吸着せしめ、次いで、膨潤したアニオン交換膜を収縮せしめることにより行われる。
【0033】
膜膨潤剤としては、アニオン交換膜を膨潤させる機能を有するものである限り、特に限定されないが、一般には、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性有機溶媒、エタノール、ジベンジルアルコール等のアルコール類、ジオキサンなどのエーテル類、フタル酸エステルなどのエステル類、ブチルアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が好適に使用される。
【0034】
また、処理液中のアニオン性重合体の濃度は、形成すべきポリアニオン層の厚みに応じて適宜の範囲とされるが、一般には、0.001乃至80重量%程度であり、この濃度が高いほど、ポリアニオン層の厚みを厚くし、濃度が低いほど、厚みを薄くすることができる。また、処理液中の膜膨潤剤の濃度は、その種類によっても異なるが、一般には、0.001乃至50重量%程度である。
【0035】
また、上記のような処理液中にアニオン交換膜を浸漬しての該膜の膨潤は、加熱下で行うべきであり、非加熱下で行う場合には膨潤が不十分となり、アニオン性重合体の固定を有効に行うことができない。このような膨潤に際しての加熱温度は、基材など膜構成材料の熱的性質により適宜選択すればよく、通常、50℃以上、特に60℃以上とするのがよい。例えば、ポリ塩化ビニル基材の場合、50乃至80℃、ポリオレフィン基材の場合、70乃至120℃である。また、必要以上に加熱温度を高くすると、アニオン交換膜の変形や溶媒である水の揮散などが生じ、作業性が低下するなどの不都合を生じるため、かかる加熱温度は、130℃以下とするのがよい。
【0036】
上記のような膨潤によって、アニオン交換膜の表面積が増大し、且つ表面に凹凸が形成され、このようなアニオン交換膜の表面に、処理液中のアニオン性重合体が電気的吸引力によって吸着することとなる。
【0037】
また、このような膨潤処理は、最終的に形成されるポリアニオン層の膜厚が適宜の範囲となる程度の時間行われる。この膨潤処理時間は、用いる処理液中のアニオン性重合体の濃度や加熱温度によっても異なるが、一般には、0.1時間以上、特に1乃至48時間程度である。
【0038】
尚、本発明において、アニオン交換膜の両面にポリアニオン層を形成する場合には、アニオン交換膜の両面が処理液と接触するように浸漬を行って上述した処理を行えばよく、アニオン交換膜の片面にポリアニオン層を形成する場合には、アニオン交換膜の片面が処理液と接触するようにして処理を行えばよい。
上記のような膨潤処理後には、アニオン交換膜の収縮処理が行われる。かかる収縮処理は、膨潤処理後のアニオン交換膜を処理液から取り出し、40℃以下(一般には、常温でよい)の水中に投入することにより行われる。即ち、上記のような低温の水に膨潤処理されたアニオン交換膜を投入することにより、アニオン交換膜の温度が一気に低下し、該膜が収縮すると同時に膜膨潤剤が膜外へ除去され、これにより、該膜の表面に電気的に吸着しているアニオン性重合体の分子鎖が、アニオン交換膜表面に噛み込み、物理的に強固に固定されてポリアニオン層が形成される。先に説明したように、このようなアニオン性重合体の噛み込みによる固定は、該アニオン性重合体が高分子量であるために効果的に行われるのであり、前述した範囲よりも低分子量のアニオン性重合体を用いた場合には、分子鎖が短いために、このような噛み込みが不十分となり、アニオン交換膜に強固に固定されたポリアニオン層を形成することができない。
【0039】
尚、上記のようなアニオン交換膜の収縮処理は、所定の低温に保持された水中にアニオン交換膜を投入することにより一気に行うべきである。例えば、処理液から取り出されたアニオン交換膜を徐冷した徐々に収縮させた場合には、アニオン性重合体の噛み込みによる固定が不十分となり、やはり強固に固定されたポリアニオン層をアニオン交換膜表面に形成することができない。即ち、アニオン性重合体の分子鎖自体も除去に収縮するために、噛み込みによる固定が不十分となるものと考えられる。従って、シャワー、スプレー噴霧などによる処理は、洗浄の点でよいが、本発明で行うような収縮処理には不適当である。また、必要に応じて、収縮処理前に余分なアニオン性重合体および膨潤剤を除去することもできる。
【0040】
上記のように収縮処理が行われ、ポリアニオン層が強固に固定されたアニオン交換膜は、必要により、さらに水洗し、乾燥することにより、複合アニオン交換膜としての使用に供される。
【0041】
<複合アニオン交換膜>
かくして得られる本発明の複合アニオン交換膜は、アニオン交換膜の表面に、前述した高分子量のアニオン性重合体が強固に結合してポリアニオン層が形成されており、該膜を、25℃の温度に保持された0.1規定塩化ナトリウム水溶液中に浸漬した状態で、アニオンが脱離する方向に10mA/cmの電流密度で1時間通電を行ったとき、下記式(1):
R=(A−B)/A×100 …(1)
式中、Aは、上記通電開始時の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜
単位重量当りの量(meq/g)を示し、
Bは、上記通電終了後の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜
単位重量当りの量(meq/g)を示す、
で表されるポリアニオン層の脱離能Rが20%以下、特に好ましくは10%以下である。即ち、高分子量のアニオン性重合体を使用しているため、電気的引力と同時に、分子鎖の噛み込みという機械的作用によってポリアニオン層がアニオン交換膜表面に固定されているため、上記のような所謂逆通電したときにも、ポリアニオン層の脱離が有効に抑制されているのである。即ち、前述した範囲よりも低分子量のアニオン性重合体を用いてポリアニオン層が形成されているときには、単に電気的引力によってポリアニオン層(アニオン性重合体)がアニオン交換膜表面に吸着しているに過ぎず、噛み込みが行われていないため、例えば、上記のような逆通電をしたときには、その脱離能は、極めて大きくなってしまう。
上記のように、本発明において、ポリアニオン層の脱離能は、本発明によって達成された、電気的引力と、アニオン交換膜表面への分子鎖の噛む込みという機械的作用とによる特性を示すものであり、技術的な意義を十分有する。
【0042】
本発明の複合アニオン交換膜において、上記のようなアニオン性重合体から形成されるポリアニオン層は、高分子量のアニオン性重合体から形成されているため、アニオン交換膜の内部まで浸透せず、その表層部に形成され、アニオン交換膜のアニオン透過性を損なわない。また、このようなポリアニオン層の厚みは10μm以下、特に0.001乃至1μmの範囲にあることが好ましい。即ち、この厚みが上記範囲よりも厚いと、膜抵抗が増大してしまい、透析による脱塩処理を行うときの効率が低下してしまうという不都合を生じてしまう。また、あまり薄いと、僅かなポリアニオン層の脱離により、荷電性有機高分子に対する耐汚染性が低下してしまい、耐久性が低下するおそれがある。また、かかるポリアニオン層のイオン交換容量(カチオン交換容量)は、0.5meq/g(乾燥膜)以下、特に0.0001乃至0.1meq/g(乾燥膜)の範囲にあるのがよい。このイオン交換容量が上記範囲よりも大きいと、膜抵抗が増大し、透析の効率低下を招いてしまう。また、イオン交換容量が小さ過ぎると、荷電性有機高分子による耐汚染性の低下を招き、膜の耐久性が低下してしまうこととなる。従って、本発明においては、上記のようなイオン交換容量及び厚みが確保されるように、アニオン性重合体や製造条件を選択することが必要となる。
【0043】
また、本発明において、ポリアニオン層は、アニオン交換膜の片面に形成してもよいし、両面に形成することもできるが、一般には両面に形成することが好ましい。両面にアニオン交換膜を形成した場合には、所謂逆通電による脱塩処理を行うことができ、これにより、膜の寿命をさらに高めることができるからである。尚、アニオン交換膜の両面に、ポリアニオン層を形成する場合には、それぞれのポリアニオン層が、逆電界での脱離能が前述した範囲となるように設定されるべきであり、また厚みやイオン交換容量は、トータルで前述した範囲にあるのがよい。
【0044】
<複合アニオン交換膜の用途>
本発明の複合アニオン交換膜は、ポリアニオン層の形成により、荷電性有機高分子(特にマイナス荷電性有機高分子)に対する耐汚染性が優れており、また、特に低分子量の電解質(例えば塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの無機塩類)に由来するアニオンを選択的に透過するが、比較的分子量の高い荷電性有機高分子に由来するアニオンについては、その透過及び膜表面への付着を抑制しているため、このような荷電性有機高分子を含む液の透析による脱塩処理に好適に使用される。
【0045】
上記のような荷電性有機高分子には、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、αオレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、リン酸エステル塩などの界面活性剤に由来するもの、グルタミン酸、グリシンなどのアミノ酸或いはその塩類、ビタミン類、ポリフェノール、各種タンパク質、核酸、酵素などの天然高分子、グルコン酸、フミン酸などの有機酸またはその塩、グルコース、フラクトース、マルトース、キシロース、サッカロース、ラフィノース、その他のオリゴ糖などの糖類などがある。従って、このような有機成分を含む液についての電気透析による脱塩処理、例えば各種の廃水処理、減塩醤油の調製、ワインなどの未蒸留酒や果汁、キシリトールなどの機能性糖類の精製などに、本発明の複合アニオン交換膜を適用することができる。
【0046】
本発明の複合アニオン交換膜を用いての電気透析による脱塩処理は、それ自体公知の手段により行うことができ、例えば公知の電気透析槽を用いて行うことができる。
【0047】
即ち、電気透析槽は、陽極と陰極との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とを配置した基本構造を有している限り、種々の構造の電気透析槽を用い、アニオン交換膜として本発明の複合アニオン交換膜を用いて電気透析による脱塩処理を行うことができる。例えば、アニオン交換膜とカチオン交換膜とが交互に配列され、これらのイオン交換膜と室枠とによって脱塩室と濃縮室とが形成されたフィルタープレス型やユニットセル型の電気透析槽を使用し、脱塩室に処理すべき荷電性有機高分子を含む液を供給し、さらに濃縮室、陽極室、陰極室のそれぞれに塩化ナトリウム水溶液などの電解液を供給し、陽極と陰極との間に電圧を印加して直流電流を通電することにより、脱塩室内の処理液中の低分子量の電解質がアニオンとカチオンとに解離し、カチオンはカチオン交換膜を通って、アニオンはアニオン交換膜を通って、脱塩室から濃縮室に移動し、従って処理液中の塩化ナトリウムなどの塩濃度は低下し、濃縮室中の塩濃度が次第に増大していくこととなり、このようにして脱塩処理が行われる。
【0048】
本発明の複合アニオン交換膜を用いて、上記のような脱塩処理を行うときには、この膜表面への荷電性有機高分子の付着が有効に防止されているため、このような高分子による膜抵抗の増大が有効に回避され、長期間にわたって、効率よく脱塩処理を行うことが可能となる。また、上記の荷電性有機高分子は、処理液中の有効成分である場合が多く(例えば醤油におけるアミノ酸)、このため、膜表面への付着による有効成分の低減をも有効に回避することができる。また、先にも述べたように、本発明の複合アニオン交換膜として、アニオン交換膜の両面にポリカチオン層が形成されている場合、適宜、電流の向きを変えての逆電界により透析による脱塩を行うことにより、膜寿命を一層向上させることができる。即ち、逆通電で処理を行うときには、荷電性有機高分子が付着する表面も反対側となるため、膜表面への荷電性有機高分子の蓄積も有効に回避でき、しかも、逆通電した場合にも、本発明における複合アニオン交換膜のポリアニオン層は脱落せず、有効に保持されているからである。
【実施例】
【0049】
本発明を次の例で説明する。尚、以下の例で採用した各種物性の測定方法及び用いた膜材料等は、以下の通りである。
【0050】
(脱離能)
銀−塩化銀電極を有する二室セルに該イオン交換膜を陽極側にポリアニオン層が向くように挟み、その陽極室と陰極室に0.1(mol/l)NaCl水溶液を入れた。電流密度10mA/cm、温度25℃で1時間通電後、セルから膜を取り出した。純水に24時間浸漬した後、ポリアニオン層のイオン交換容量を測定し、下記式からポリアニオン層の脱離能を算出した。
R=(A−B)/A×100
A:上記通電開始時の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜単位重量当たりの量(meq/g)
B:上記通電終了後の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜単位重量当たりの量(meq/g)
【0051】
(ポリアニオン層のイオン交換容量)
イオン交換膜をNaCl水溶液(0.5mol/l)で平衡にさせ、十分水洗浄した後、減圧乾燥させた。次いで、蛍光X線分析を行い、ClとSの元素の重量比からClとSのmol比を求めた。Clは、アニオン交換基の対イオンとして存在する塩化物イオンに由来し、アニオン交換基の交換容量と同じである。Sはアニオン性重合体のスルホン酸基に由来する。得られたClとSの当量比と従来公知の方法により得られたアニオン交換膜のアニオン交換容量(meq/g乾燥膜)からスルホン酸基量を算出した。該スルホン酸基量が、ポリアニオン層のイオン交換容量に相当する。
【0052】
(抵抗)
白金黒電極版を有する2室セル中にイオン交換膜を挟み、イオン交換膜の両側に0.5(mol/l)NaCl水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗とイオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により求めた。上記測定に使用する膜は、あらかじめ0.5(mol/l)NaCl水溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0053】
(耐有機汚染性)
得られたアニオン交換膜をNaCl水溶液(0.1mol/l)に1時間浸漬した後、水洗浄した。次いで、銀−塩化銀電極を有する二室セルに該イオン交換膜を陰極側にポリアニオン層が向くように挟み、その陽極室には0.1(mol/l)NaCl水溶液100ccを入れ、陰極室には高分子量有機化合物としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム500ppmと、低分子量電解質であるNaCl0.1(mol/l)を含む混合溶液を入れた。両室とも1000rpmの回転速度で攪拌し、10mA/cmの電流密度で電気透析を行った。その時、両膜表面の近傍に白金線を固定し、膜間電圧の経時変化を測定した。通電中に有機汚染性が起こると膜間電圧が上昇してくる。通電を開始して、膜間電圧と有機汚染物質を添加しない場合の電圧差が6Vに到達するまでの時間Tを膜の汚染性の尺度とした。Tが大きいほど耐有機汚染性が高いといえる。
【0054】
(膜材料)
アニオン交換膜;
クロロメチルスチレン60重量部、工業用ジビニルベンゼン15重量部、過酸化ベンゾイル5重量部、ニトリルブタジエンゴム5重量部、ジオクチルフタレート15重量部が溶解したペースト状の単量体組成物を得た。得られたペースト状の単量体組成物をポリプロピレンの織布に付着させ、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として両側を被覆した後、0.4MPaの窒素加圧下、80℃で8時間加熱重合し、膜状物を得た。得られた膜状物を30重量%トリメチルアミン水溶液10重量部、水50重量部、アセトン5重量部よりなるアミノ化浴中、室温で1日反応せしめ、更にHCl0.5(mol/l)に浸漬した後、イオン交換水で5回洗浄して4級アンモニウム型アニオン交換膜を得た。
アニオン性重合体;
下記、数平均分子量を有するポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用いた。
A:(数平均分子量 700000 )
B:(数平均分子量 20000 )
C:(数平均分子量 4600 )
D:(数平均分子量 1800 )
E:(数平均分子量 206;スチレンスルホン酸ナトリウム )
【0055】
<実施例1,2,3>(アニオン性重合体A,B、Cを用いた複合アニオン交換膜)
アニオン交換膜の片面をポリエステルフィルムで被覆し、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム5重量%、2重量%のベンジルアルコールを含有する水溶液に90℃で1日間浸漬した。その後、25℃の純水に1日間浸漬して複合アニオン交換膜を得た。得られた複合アニオン交換膜についてアニオン性重合体の脱離能、膜抵抗、耐有機汚染性を測定し、その結果を表1に示した。アニオン性重合体の脱離能は5%以下で脱離しにくく、耐有機汚染性は、180分電気透析した時点での膜電圧の上昇が1V以下であり、優れた耐有機汚染性を示した。
【0056】
<比較例1>(ポリエーテル化合物処理膜)
アニオン交換膜;クロロメチルスチレン60重量部、工業用ジビニルベンゼン15重量部、過酸化ベンゾイル5重量部、ニトリルブタジエンゴム5重量部、ジオクチルフタレート15重量部が溶解したペースト状の単量体組成物を得た。得られたペースト状の単量体組成物をポリプロピレンの織布に付着させ、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として両側を被覆した後、0.4MPaの窒素加圧下、80℃で8時間加熱重合し、膜状物を得た。得られた膜状物を、分子量約2000のポリプロピレングリコールビス2−アミノプロピルエーテルの15重量%メタノール溶液に室温で、1日間浸漬した。その後、メタノールで膜に付着した未反応ポリプロピレングリコールビス2−アミノプロピルエーテルを除去し、次いで水洗浄を行なった。次いで30重量%トリメチルアミン水溶液10重量部、水50重量部、アセトン5重量部よりなるアミノ化浴中、室温で1日反応せしめ、更にHCl0.5(mol/l)に浸漬した後、イオン交換水で5回洗浄して4級アンモニウム型複合アニオン交換膜(ポリプロピレングリコールビス2−アミノプロピルエーテル含有量1重量%)を得た。得られた複合アニオン交換膜について、膜抵抗、耐有機汚染性を測定し、その結果を表1に示した。耐有機汚染性は、18分電気透析した時点で膜電圧の上昇が6Vに達した。
【0057】
<比較例2,3>(アニオン性重合体D,Eを用いた複合アニオン交換膜)
アニオン交換膜の片面をポリエステルフィルムで被覆し、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム5重量%、2重量%のベンジルアルコールを含有する水溶液に90℃で1日間浸漬した。その後、25℃の純水に1日間浸漬して複合アニオン交換膜を得た。得られた複合アニオン交換膜についてアニオン性重合体の脱離能、膜抵抗、耐有機汚染性を測定し、その結果を表1に示した。アニオン性重合体の脱離能は40%以上で脱離し易かった。アニオン性重合体の分子量が小さい為、膜内に浸透しやすい結果、ポリアニオン層のイオン交換容量は増したが、膜内における目詰まりの要因となったためか、膜抵抗は上昇した。耐有機汚染性は、180分以内に膜電圧が6Vに達した。
【0058】
【表1】

【0059】
尚、実施例1で調製された本発明の複合アニオン交換膜、比較例1の複合アニオン交換膜(ポリエーテル化合物処理)、及び市販のアニオン交換膜(株式会社アストム製;ネオセプタAMX)について、前述した耐有機汚染試験を行ったときの、透析時間と膜電位との関係をプロットした曲線を図1に示した。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1の本発明の複合アニオン交換膜、比較例1の複合アニオン交換膜(ポリエーテル化合物処理)、及び市販のアニオン交換膜(株式会社アストム製;ネオセプタAMX)について、耐有機汚染試験を行ったときの、透析時間と膜電位との関係をプロットした曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換膜と、該アニオン交換膜の表面に固定されたポリアニオン層とからなり、該ポリアニオン層は、ポリスチレン換算での数平均分子量が4000以上の範囲にあるアニオン性重合体からなり、且つ25℃の温度に保持された0.1規定塩化ナトリウム水溶液中に浸漬した状態で、アニオンが脱離する方向に
10mA/cmの電流密度で1時間通電を行ったとき、下記式(1):
R=(A−B)/A×100 …(1)
式中、Aは、上記通電開始時の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜
単位重量当りの量(meq/g)を示し、
Bは、上記通電終了後の膜表面に存在するアニオン性重合体のアニオン交換膜
単位重量当りの量(meq/g)を示す、
で表されるポリアニオン層の脱離能Rが20%以下であることを特徴とする複合アニオン交換膜。
【請求項2】
前記アニオン性重合体がポリスチレンスルホン酸である請求項1に記載の複合アニオン交換膜。
【請求項3】
前記ポリアニオン層の厚みは10μm以下の範囲にあり、且つ0.5meq/g(乾燥膜)以下のイオン交換容量を有している請求項1または2に記載の複合アニオン交換膜。
【請求項4】
ポリスチレン換算での数平均分子量が4000以上の範囲にあるアニオン性重合体と膜膨潤剤とを含む水溶液からなる処理液を用意し、
前記処理液中に、アニオン交換膜を加熱下で浸漬して、該アニオン交換膜を膨潤させた状態で該アニオン交換膜の表面にアニオン性重合体を吸着せしめ、
次いで、アニオン性重合体が吸着されたアニオン交換膜を、40℃以下の水中に投入し、アニオン交換膜からの膨潤剤の除去とアニオン交換膜の収縮とを行うことにより、アニオン性重合体をアニオン交換膜表面に固定することを特徴とする複合アニオン交換膜の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン性重合体としてポリスチレンスルホン酸を使用する請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の複合アニオン交換膜を用いて、有機荷電性物質を含む液の脱塩処理を行う脱塩方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7545(P2008−7545A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176441(P2006−176441)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(503361709)株式会社アストム (46)
【Fターム(参考)】