説明

複合シリカ粒子

【課題】外殻部がメソ細孔構造を有し、その内部に金属化合物を包含してなる複合シリカ粒子、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】外殻部が平均細孔径1〜10nmのメソ細孔構造を有するシリカからなり、その内部に金属又は金属化合物を包含してなるコアシェル型複合シリカ粒子、及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外殻部がメソ細孔構造を有し、その内部に金属化合物等を包含してなる複合シリカ粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質構造をもつ物質は高い表面積を有するため、触媒担体、酵素や機能性有機化合物等の固定化担体として広く使用されている。特に、多孔質構造を形成する細孔の細孔径分布がシャープである場合、分子篩としての作用が発現し、構造選択性を有する触媒担体の利用や物質分離剤への応用が可能となる。かかる応用のために、均一で微細な細孔を有する多孔体が求められている。
均一で微細な細孔を有する多孔体として、メソ領域の細孔を有するメソポーラスシリカが開発され、前記用途の他に、ナノワイヤー、半導体材料、光エレクトロニクスへの応用等の分野での利用が注目されている。
【0003】
メソ細孔構造を有するシリカ粒子中に金属酸化物を含む例として、非特許文献1には、メソポーラスシリカ中に複数の酸化チタン粒子を有する複合シリカ粒子が開示されており、メソポーラスシリカのメソ細孔による分子選択的な反応について記載されている。しかしながら、この複合シリカ粒子は、複数の酸化チタンが粒子中にランダムに分散しているため、複合シリカ粒子の外殻部とその内部に存在する複数の酸化チタン粒子の距離が不均一となり、粒子毎に均一な触媒性能を発現できないという問題がある。このように、従来技術は実用上満足できるものではない。
【0004】
【非特許文献1】犬丸 啓他、Chem.Commun. 第2131頁(2005年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外殻部が均一な厚みを有しさらにメソ細孔構造を有し、その内部に金属又は金属化合物を包含してなるコアシェル型複合シリカ粒子、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕平均細孔径1〜10nmのメソ細孔構造を有するシリカからなり、その内部に金属又は金属化合物を包含してなるコアシェル型複合シリカ粒子。
〔2〕下記工程(I)〜(IV)を含む、外殻部が均一な厚みを有し、さらにメソ細孔構造を有するシリカからなり、その内部に金属化合物を包含してなるコアシェル型複合シリカ粒子の製造方法。
工程(I):1種以上の金属錯体(a)を0.1〜50グラム/L、及び下記一般式(1)及び(2)で表される第四級アンモニウム塩から選ばれる1種以上(b)を0.1〜100ミリモル/Lを水溶性有機溶媒に溶解した溶液を調製する工程
[R1(CH33N]+- (1)
[R12(CH32N]+- (2)
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数4〜22の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Xは1価陰イオンを示す。)
工程(II):工程(I)で得られた溶液に水を加え、金属化合物粒子を含有する分散液を調製する工程
工程(III):工程(II)で得られた分散液に、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度となるように加え、水溶液を調製する工程
工程(IV):工程(III)で得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、複合シリカ粒子の水分散液を調製する工程
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外殻部が均一な厚みを有し、さらにメソ細孔構造を有し、その内部に金属又は金属化合物を包含してなる複合シリカ粒子、及びその効率的な製造方法であって、この粒子を用いれば、外殻メソ細孔による基質の選択的反応や均一な外殻厚みによる粒子ごとに均一な反応活性を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<複合シリカ粒子>
本発明の複合シリカ粒子は、いわゆるコア・シェル構造を有しており、詳しくは外殻部が均一な厚みを有し、さらに平均細孔径1〜10nmのメソ細孔構造を有するシリカからなり、その内部に金属又は金属化合物を包含してなることを特徴とする。なお本明細書において、「均一な厚み」とは、複合シリカ粒子のうち好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が、外殻部の平均厚みに対して±50%以内の厚みを有していることを意味する。
[外殻部(メソポーラスシリカ部)]
本発明の複合シリカ粒子の外殻部は、平均1〜100nmの均一な厚みを有し、さらに平均細孔径1〜10nmのメソ細孔構造を有するシリカから構成されている。外殻の厚みは、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜50nmである。メソ細孔構造の平均細孔径は、好ましくは1〜8nm、より好ましくは1〜5nmである。メソ細孔構造を有する外殻部と粒子内部の構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することができ、その細孔径、細孔規則性、外殻部から内部に向けての細孔の状態を確認することができる。
本発明の複合シリカ粒子のメソ細孔構造は、メソ細孔径が揃っていることが特徴の1つである。該メソ細孔径は、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上が平均細孔径の±30%以内に入る。
また、複合シリカ粒子のBET比表面積は、好ましくは100〜1500m2/g、より好ましくは120〜1500m2/g、更に好ましくは140〜1500m2/gである。
【0009】
複合シリカ粒子の外殻部の構造は、用いるシリカ源により異なる。シリカ源として有機基を有するものを用いた場合、有機基を有するシリカ構造の外殻部が得られ、またシリカ源以外に、他の元素、例えばAl、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、B、Mn、Fe等の金属を含有するアルコキシ塩やハロゲン化塩等の金属原料を製造時又は製造後に添加することで、該金属をシリカ粒子の外殻部に存在させることができる。外殻部の構造としては、安定性の観点から、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランをシリカ源として製造され、シリカ壁が実質上酸化シリカから構成されていることが好ましい。
本発明の複合シリカ粒子は、粉末X線回折(XRD)のパターンにおいて、d=2〜12nmの範囲に相当する回折角度に1本以上のピークを有するメソ領域に周期性のある物質である。なお、規則性が高くなるとピークは明瞭化され、高次ピークが見られる場合がある。
【0010】
[内部(金属又は金属化合物部)]
複合シリカ粒子の内部には金属又は金属化合物が包含されている。金属又は金属化合物を形成する金属としては、特に制限はなく、水素を除く周期律表第3族〜第14族の金属元素から選ばれる1種以上が含まれる。
金属の具体的としては、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド(ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム)、アクチノイドの第3族金属、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の第4族金属、バナジウム、ニオブ、タンタル等の第5族金属、クロム、モリブデン、タングステン等の第6族金属、マンガン、レニウム等の第7族金属、鉄、ルテニウム、オスミニウム等の第8族金属、コバルト、ロジウム、イリジウム等の第9族金属、ニッケル、パラジウム、白金等の第10族金属、銅、銀、金等の第11族金属、亜鉛、カドミウム、水銀等の第12族金属、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の第13族金属、錫、鉛等の第14族金属等が挙げられる。
これらの中では、触媒作用、製造上等の観点から、周期律表第3〜12族、特に第4〜11族の遷移金属が好ましく、具体的にはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等が好ましく、チタン、鉄、ニッケル、銅がより好ましい。
金属化合物としては、上記金属の酸化物、水酸化物、塩化物の他、アンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の塩が挙げられる。これらの中では、汎用性、製造上等の観点から、金属酸化物が好ましく、特に酸化チタン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅が好ましい。
上記の金属化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
コア部を形成する金属又は金属化合物部の大きさは、複合シリカ粒子の使用目的に応じて適宜決定することができ、金属化合物種、混合時の撹拌力、溶液の温度等によって適宜調整することができる。
【0011】
[コア・シェル構造]
本発明の複合シリカ粒子における外殻部(メソポーラスシリカ部)の平均厚みは、通常0.5〜500nm、好ましくは2〜400nm、より好ましくは3〜300nmである。また、内部(金属又は金属化合物部)の平均径は、通常10〜400nm、好ましくは20〜200nm、より好ましくは30〜150nmである。
また、〔外殻部の平均厚み/内部の平均径〕の比は、触媒や物質分離剤等の用途を考慮して適宜決定することができ、例えば0.001〜50、好ましくは0.01〜10である。この比は、シリカの量と金属又は金属化合物の量比等を調整することにより、調節することができる。
また、〔外殻部の平均厚み/複合シリカ粒子の平均粒子径〕の比は、通常0.01〜0.6、好ましくは0.05〜0.5、より好ましくは0.1〜0.4である。
【0012】
本発明の複合シリカ粒子は、好ましくは粒子全体の80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上が平均粒子径±30%以内の粒子径を有しており、非常に揃った粒子径の粒子群から構成されていることが望ましい。
なお、複合シリカ粒子の平均粒子径は、内包される金属又は金属化合物種やその大きさ、製造時に使用しうる界面活性剤の選択、混合時の撹拌力、試薬の濃度、溶液の温度等によって調整することができる。複合シリカ粒子の製造工程において、陽イオン界面活性剤等の界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤が複合シリカ粒子内部、メソ細孔内、又はシリカ粒子表面に残留する可能性がある。界面活性剤が残留しても問題ない場合は除去する必要はないが、残留する界面活性剤の除去を望む場合は、水や酸性水溶液で洗浄処理して置換することにより除去することができる。
なお、複合シリカ粒子の平均粒子径、平均外殻厚み、BET比表面積、平均細孔径、及び粉末X線回折(XRD)パターンの測定は、実施例記載の方法により行う。
【0013】
<複合シリカ粒子の製造方法>
本発明の複合シリカ粒子の製造方法は、下記工程(I)〜(IV)、及び必要に応じて、更に工程(V)を含むことを特徴とする。
工程(I):1種以上の金属錯体(a)を0.1〜50グラム/L、及び下記一般式(1)及び(2)で表される第四級アンモニウム塩から選ばれる1種以上(b)を0.1〜100ミリモル/Lを水溶性有機溶媒に溶解した溶液を調製する工程。
[R1(CH33N]+- (1)
[R12(CH32N]+- (2)
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数4〜22の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Xは1価陰イオンを示す。)
工程(II):工程(I)で得られた溶液に水を加え、金属化合物粒子を含有する分散液を調製する工程
工程(III):工程(II)で得られた分散液に、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度となるように加え、水溶液を調製する工程
工程(IV):工程(III)で得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、複合シリカ粒子の水分散液を調製する工程
工程(V):工程(IV)で得られた水分散液から複合シリカ粒子を分離し、400〜800℃で焼成する工程
以下、工程(I)〜(V)、及び各工程で用いる各成分について説明する。
【0014】
[金属錯体(a)]
金属錯体(a)は、水溶性有機溶媒に溶解可能であり、かつ溶解後の溶液に水を加えることによって、金属、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属錯体等の金属化合物として析出するか、加水分解して前記金属化合物を析出する性質を有する化合物であることが好ましい。析出した物質は核(コア部)となり、その周りにシリカのメソ細孔構造(シェル部)が成長し、複合シリカ粒子が形成される。
ここで、水溶性有機溶媒としては、25℃の水100gに対する溶解量が1g以上、好ましくは5g以上である有機溶媒が好ましく、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1〜4の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量200〜1540)等のグリコール類、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、グリセリン、ジグリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。これらの中では、炭素数1〜4、特に炭素数1〜3の低級アルコールが特に好ましい。
【0015】
金属錯体(a)を形成する金属としては、周期律表第3族〜第14族の金属元素から選ばれる1種以上が好ましい。これらの金属の具体例は前記のとおりであり、特にチタン等の第4族金属、鉄等の第8族金属、ニッケル等の第10族金属、銅等の第11族金属が好ましい。かかる金属は、配位子と配位結合して金属錯体を形成することができる。
金属錯体(a)において金属イオンに配位する配位子としては、炭素原子を配位原子とするものとして、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シアノ基等を有する配位子が挙げられ、水素原子を配位原子とするものとして、ヒドリド基等を有する配位子が挙げられ、酸素原子を配位原子とするものとして、水酸基、酸化物基、過酸化物基、ニトロ基、スルホシド基、スルフィド基、スルホキシド基、アルコキシ基、エーテル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基等を有するものが挙げられる。
また、窒素原子を配位原子とするものとしては、ジアゾ基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、含窒素芳香族脂肪酸基、アミド基、イミド基等を有するものが挙げられ、硫黄原子を配位原子とするものとしては、チオラト基、スルホシド基、スルフィド基等を有するものが挙げられ、リン原子を配位原子とするものとしては、フォスフィノ基等を有するものが挙げられ、ハロゲン元素を配位原子とするものとしては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等を有するものが挙げられる。
【0016】
配位子する基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、シクロヘキシル、フェニル、エチニル、ビニル、シクロペンタジエニル、シクロオクタジエニル、エチレンジイル、エチニレン、シアノ、イソシアノ、ヒドリド、ヒドロキシル、オキソ、アクア、ニトロ、メルカプトプロピル、ジメチルスルフィド、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、カルボキシ、アセチル、アセチルアセトナト、アミノ、エチレンジアミン、ニトリル、ニトロ、ピリジル、ピラゾリル、ピロリル、イミダゾリル、トリフェニルフォスフィノ、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等が挙げられる。
特に好適な金属錯体(a)の具体例としては、Ti〔(CH3CO)CH(CH3CO)〕2〔(CH32CHO〕2、Fe〔(CH3CO)CH(CH3CO)〕3、Ni〔(CH3CO)CH(CH3CO)〕2、Cu〔(CH3CO)CH(CH3CO)〕2等のチタン、鉄、ニッケル、銅等の金属のアセチルアセトナート、イソプロポキシ銅[((CH32CHO)2Cu]、 等のイソプロポキシ金属等が挙げられる。
金属錯体(a)は、上記の金属と配位子を1種以上組み合わせて用いることができる。
なお、金属錯体(a)には、目的に応じて他の機能性物質を含ませてもよく、それにより複合シリカ粒子を広範囲の分野で使用することができる。
【0017】
[第四級アンモニウム塩(b)]
第四級アンモニウム塩(b)は、メソ細孔の形成と金属錯体(a)の分散のために用いられる。
前記一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2は、炭素数4〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数8〜16の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。炭素数4〜22のアルキル基としては、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種エイコシル基等が挙げられる。
一般式(1)及び(2)におけるXは、高い結晶性を得るという観点から、好ましくはハロゲンイオン、水酸化物イオン、硝酸化物イオン、硫酸化物イオン等の1価陰イオンから選ばれる1種以上である。Xとしては、より好ましくはハロゲンイオンであり、更に好ましくは塩素イオン又は臭素イオンであり、特に好ましくは臭素イオンである。
【0018】
一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩としては、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
一般式(2)で表されるジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、ジブチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
これらの第四級アンモニウム塩(b)の中では、規則的なメソ細孔を形成させる観点から、特に一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましく、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドがより好ましく、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド又はドデシルトリメチルアンモニウムクロリドが特に好ましい。
【0019】
[シリカ源(c)]
シリカ源(c)は、アルコキシシラン等の加水分解によりシラノール化合物を生成するものであり、下記一般式(3)〜(7)で示される化合物を挙げることができる。
SiY4 (3)
3SiY3 (4)
32SiY2 (5)
33SiY (6)
3Si−R4−SiY3 (7)
(式中、R3はそれぞれ独立して、ケイ素原子に直接炭素原子が結合している有機基を示し、R4は炭素原子を1〜4個有する炭化水素基又はフェニレン基を示し、Yは加水分解によりヒドロキシ基になる1価の加水分解性基を示す。)
より好ましくは、一般式(3)〜(7)において、R3がそれぞれ独立して、水素原子の一部がフッ素原子に置換していてもよい炭素数1〜22の炭化水素基であり、具体的には炭素数1〜22、好ましくは炭素数4〜18、より好ましくは炭素数6〜18、特に好ましくは炭素数8〜16のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基であり、R4が炭素数1〜4のアルカンジイル基(メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基等)又はフェニレン基であり、Yが炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜8、特に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基、またはフッ素を除くハロゲン基である。
【0020】
シリカ源(c)の好適例としては、次の化合物が挙げられる。
・一般式(3)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であるシラン化合物。
・一般式(4)又は(5)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であり、R3がフェニル基、ベンジル基、又は水素原子の一部がフッ素原子に置換されている炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基であるトリアルコキシシラン又はジアルコキシシラン。
・一般式(6)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であり、R3がフェニル基、ベンジル基、又は水素原子の一部がフッ素原子に置換されている炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基であるモノアルコキシシラン。
・一般式(7)において、Yがメトキシ基またはエトキシ基であって、R4がメチレン基、エチレン基又はフェニレン基である化合物。
これらの中では、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、1,1,1−トリフルオロプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0021】
[工程(I)]
工程(I)は、1種以上の金属錯体(a)を0.1〜50グラム/L、及び第四級アンモニウム塩(b)を0.1〜100ミリモル/Lを水溶性有機溶媒に溶解した溶液を調製する工程である。
工程(I)における溶液中の金属錯体(a)の含有量は、好ましくは0.1〜50グラム/L、より好ましくは0.3〜40グラム/L、特に好ましくは0.5〜30グラム/Lである。また、第四級アンモニウム塩(b)の含有量は、好ましくは0.1〜100ミリモル/L、より好ましくは1〜100ミリモル/L、特に好ましくは5〜80ミリモル/Lである。
(a)及び(b)成分を含有させる順序は特に制限はない。例えば、(i)溶液を撹拌しながら(b)成分、(a)成分の懸濁液の順に投入する、(ii)溶液を撹拌しながら(a)成分の懸濁液と(b)成分を同時に投入する、(iii)(a)成分の懸濁液、(b)成分の投入後に撹拌する、等の方法を採用することができるが、これらの中では(i)の方法が好ましい。
(a)及び(b)成分を含有する溶液には、本発明の複合シリカ粒子の形成を阻害しない限り、その他の成分として、陽イオン界面活性剤等の界面活性剤、有機化合物、無機化合物等の他の成分を添加してもよく、前記のように、シリカや有機基以外の他の元素を担持したい場合は、それらの金属を含有するアルコキシ塩やハロゲン化塩等の金属原料を製造時又は製造後に添加することもできる。
【0022】
[工程(II)]
工程(II)は、工程(I)で得られた溶液に水を加え、金属化合物粒子を含有する分散液を調製する工程である。
工程(I)で添加された金属錯体(a)は、水溶性有機溶媒に溶解するが、溶解後の溶液にアルカリ性の水を加えることによって、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属錯体等の金属化合物として析出するか、加水分解して前記金属化合物を析出する性質を有する化合物であるので、容易に分散液を調製することができる。
この析出した金属化合物が核(コア部)となり、工程(III)以降の工程により、析出した金属化合物の表面からシリカのメソ細孔構造(シェル部)が成長し、複合シリカ粒子が形成される。
【0023】
[工程(III)]
工程(III)は、工程(II)で得られた分散液に、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度となるように加え、水溶液を調製する工程である。
シリカ源(c)の含有量は、好ましくは0.1〜100ミリモル/L、より好ましくは1〜100ミリモル/L、特に好ましくは5〜80ミリモル/Lである。
【0024】
[工程(IV)]
工程(IV)は複合シリカ粒子を形成する工程である。工程(III)で得られた水溶液を10〜100℃、好ましくは10〜80℃の温度で所定時間撹拌した後、静置することで、析出した金属化合物の表面に、第四級アンモニウム塩(b)とシリカ源(c)によりメソ細孔構造が形成され、内部に金属化合物を包含した複合シリカ粒子を含む水分散液を調製することができる。撹拌処理時間は温度によって異なるが、通常10〜80℃で0.1〜24時間で複合シリカ粒子が形成される。
得られた複合シリカ粒子は、水中に懸濁した状態で得られる。用途によってはこれをそのまま使用することもできるが、好ましくは複合シリカ粒子を分離して使用する。分離方法としては、ろ過法、遠心分離法等を採用することができる。
工程(IV)で得られた複合シリカ粒子は、通常陽イオン界面活性剤等を含む状態で得られるが、工程(IV)で得られた複合シリカ粒子を酸性溶液と1回又は複数回接触させること、例えば複合シリカ粒子を酸性水溶液中で混合することにより陽イオン界面活性剤を除去することができる。用いる酸性溶液としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、クエン酸等の有機酸;陽イオン交換樹脂等を水やエタノール等に加えた液が挙げられるが、塩酸が特に好ましい。pHは通常1.5〜5.0に調整される。
【0025】
工程(V)では、工程(IV)で得られた複合シリカ粒子を分散媒から分離し、必要に応じて、酸性水溶液と接触、水洗、乾燥、また、高温で処理した後、電気炉等で好ましくは400〜800℃、より好ましくは450〜700℃で、1〜10時間焼成し、内部の金属化合物を加熱処理する。得られる複合シリカ粒子は、その外殻部の基本構成は複合シリカ粒子と変わらないが、内部の金属化合物は焼成により金属酸化物となる。
本発明においては、内部に包含される金属化合物を適宜選択することにより、金属触媒等として有用な複合シリカ粒子を製造することができる。
【実施例】
【0026】
実施例及び比較例で得られたシリカ粒子の各種測定は、以下の方法によって行った。
(1)平均粒子径及び平均外殻厚みの測定
日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡(TEM)JEM−2100を用いて加速電圧160kVで測定を行い、それぞれ20〜30個の粒子が含まれる5視野中の全粒子の直径および外殻厚みを写真上で実測する。この操作を、視野を5回変えて行う。得られたデータから平均粒子径及びその分布の程度、並びに外殻部の平均厚みを求めた。透過型電子顕微鏡の倍率の目安は1万〜10万倍であるが、シリカ粒子の大きさによって適宜調節される。しかしながら、画面中の粒子のうち、メソ細孔を有する複合シリカ粒子の割合が、30%以下の場合は、観察のための視野を広げて、すなわち倍率を下げて、少なくとも10個の粒子からデータを得るものとする。観察に用いた試料は高分解能用カーボン支持膜付きCuメッシュ(200−Aメッシュ、応研商事株式会社製)に付着させ、余分な試料をブローで除去して作成した。
(2)BET比表面積、平均細孔径の測定
株式会社島津製作所製、比表面積・細孔分布測定装置、商品名「ASAP2020」を使用し、液体窒素を用いて多点法でBET比表面積を測定し、パラメータCが正になる範囲で値を導出した。窒素吸着等温線からBJH法を採用し、ピークトップを平均細孔径とした。前処理は250℃で5時間行った。
(3)粉末X線回折(XRD)パターンの測定
理学電機工業株式会社製、粉末X線回折装置、商品名「RINT2500VPC」を用いて、X線源:Cu-kα、管電圧:40mA、管電流:40kV、サンプリング幅:0.02°、発散スリット:1/2°、発散スリット縦:1.2mm、散乱スリット:1/2°、受光スリット:0.15mmの条件で粉末X線回折測定を行った。走査範囲は回折角(2θ)1〜20°、走査速度は4.0°/分で連続スキャン法を用いた。なお、試料は、粉砕した後、アルミニウム板に詰めて測定した。
【0027】
実施例1(酸化チタン内包複合シリカ粒子の製造)
100mlフラスコにメタノール20g、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド0.35g、ビス−2,4−ペンタジオナト−ビス−2−プロパネイトチタニウム[Ti〔(CH3CO)CH(CH3CO)〕2〔(CH32CHO〕2]の75%イソプロパノール溶液(和光純薬工業株式会社製)0.4gを入れ撹拌した。その溶液に1M水酸化ナトリウム水溶液0.46gを水60gに溶解した水溶液を加えた。1分間撹拌後、テトラメトキシシラン0.34gをゆっくりと加え、5時間撹拌後、12時間熟成させた。得られた白色沈殿物をろ別し、水洗、乾燥の後、1℃/分の速度で600℃まで昇温したのち、2時間600℃で焼成し、酸化チタンをメソポーラスシリカで内包した複合シリカ粒子を得た。
この複合シリカ粒子は、粉末X線回折(XRD)のパターンにおいて、d=2〜12nmの範囲に相当する回折角度に1本以上のピークを有していた。得られた粒子のTEM画像を図1に示し、性状を表1に示す。
【0028】
実施例2(酸化鉄内包複合シリカ粒子の製造)
100mlフラスコにメタノール20g、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド0.35g、トリス−2,4−ペンタジオナト鉄[Fe〔(CH3CO)CH(CH3CO)〕3](和光純薬工業株式会社製)0.4gを入れ撹拌した。その溶液に1M水酸化ナトリウム水溶液0.46gを水60gに溶解した水溶液を加えた。1分間撹拌後、テトラメトキシシラン0.34gをゆっくりと加え、5時間撹拌後、12時間熟成させた。得られた橙色沈殿物をろ別し、水洗、乾燥の後、1℃/分の速度で600℃まで昇温したのち、2時間600℃で焼成し、酸化鉄をメソポーラスシリカで内包した複合シリカ粒子を得た。
この複合シリカ粒子は、粉末X線回折(XRD)のパターンにおいて、d=2〜12nmの範囲に相当する回折角度に1本以上のピークを有していた。得られた粒子のTEM画像を図2に示し、性状を表1に示す。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の複合シリカ粒子は、メソ細孔構造を有し比表面積が大きいため、例えば構造選択性を有する触媒担体、吸着剤、物質分離剤、酵素や機能性有機化合物の固定化担体等としての利用が可能であり、内包される金属化合物の制御がし易く利便性が高い。
本発明の製造方法によれば、メソ細孔構造を有し金属又は金属化合物を包含する複合シリカ粒子を効率よく得ることができ、また粒子形態、粒子径の制御も容易であり、メソ細孔規則性、比表面積の整った粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得られた酸化チタン内包複合シリカ粒子のTEM画像である。
【図2】実施例2で得られた酸化鉄内包複合シリカ粒子のTEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔径1〜10nmのメソ細孔構造を有するシリカからなり、その内部に金属又は金属化合物を包含してなるコアシェル型複合シリカ粒子。
【請求項2】
平均粒子径が0.05〜10μm、BET比表面積が100〜1500m2/gである、請求項1に記載のコアシェル型複合シリカ粒子。
【請求項3】
金属化合物が、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のコアシェル型複合シリカ粒子。
【請求項4】
下記工程(I)〜(IV)を含む、外殻部がメソ細孔構造を有するシリカからなり、その内部に金属化合物を包含してなるコアシェル型複合シリカ粒子の製造方法。
工程(I):1種以上の金属錯体(a)を0.1〜50グラム/L、及び下記一般式(1)及び(2)で表される第四級アンモニウム塩から選ばれる1種以上(b)を0.1〜100ミリモル/Lを水溶性有機溶媒に溶解した溶液を調製する工程
[R1(CH33N]+- (1)
[R12(CH32N]+- (2)
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数4〜22の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Xは1価陰イオンを示す。)
工程(II):工程(I)で得られた溶液に水を加え、金属化合物粒子を含有する分散液を調製する工程
工程(III):工程(II)で得られた分散液に、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度となるように加え、水溶液を調製する工程
工程(IV):工程(III)で得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、複合シリカ粒子の水分散液を調製する工程
【請求項5】
金属錯体(a)を形成する金属が、周期律表第3族〜第14族の金属元素から選ばれる1種以上である、請求項4に記載のコアシェル型複合シリカ粒子の製造方法。
【請求項6】
金属化合物が、金属酸化物、金属水酸化物、及び有機金属化合物から選ばれる1種以上である、請求項4又は5に記載のコアシェル型複合シリカ粒子の製造方法。
【請求項7】
更に工程(V)を含む、請求項4〜6のいずれかに記載のコアシェル型複合シリカ粒子の製造方法。
工程(V):工程(IV)で得られた水分散液から複合シリカ粒子を分離し、400〜800℃で焼成する工程

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−51680(P2009−51680A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218106(P2007−218106)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】