説明

複合シートおよびその製造方法

【課題】本発明は、低応力緩和率を示すものでありながら高い圧縮率を有し、優れたシール性を示す上に、高強度であり耐圧性にも優れる複合シートとその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、これら特性を有するシートガスケットを提供することも目的とする。
【解決手段】本発明の複合シートは、延伸多孔質PTFEシートの空孔内にシリカゲルが充填されたものであり;空隙率が5%以上、50%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合シートとその製造方法、並びに当該複合シートからなるシートガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
配管や機器のフランジにおけるガスケットとしては、シートガスケットが広く用いられている。シートガスケットは、膨張黒鉛シートやゴムシート、ジョイントシートなどを打ち抜いてガスケットにしたものであり、フランジの形状に合わせた形状とするのが極めて容易である。また、メタルガスケットやセミメタルガスケットに比べ、低い締付圧でシールできるという利点も有する。
【0003】
さらに、シートガスケットは用途に応じて適切な素材のものを用いることが可能である。例えば、腐食性流体を扱う場合にはPTFEなどのフッ素樹脂からなるシートガスケットが用いられる。
【0004】
ところが、PTFEのみからなるシートガスケットは耐薬品性には優れるものの、高温環境下では応力緩和(クリープ)が大きいために、100℃以上での使用が困難であるという欠点がある。即ち、PTFEシートガスケットを比較的高温で長時間にわたり使用し続けると、締付応力が減少してシール性が十分でなくなる。
【0005】
そこで、ガスケットとして使用すべきPTFEシートの問題を改善すべく、様々な充填材とPTFEからなる複合シートが開発されている(特許文献1〜9)。
【0006】
しかしこれら複合シートは、主にPTFE粉末と充填材粉末とを混合し、適量の成形助剤を加えてから押出成形した後に圧延することにより製造されている。即ち、当該シートでは充填材の添加によりPTFEの弱点である応力緩和を小さくしている。ところが、充填材の量を増やすとシートが硬くなるためにガスケットに必要な圧縮率が得られず馴染性が失われ、界面漏れが生じる。また、充填材量を増やすと相対的にPTFE量が減る。当該シートでは、PTFEは充填材間の隙間を埋めるフィラーとしての役割と充填材同士を繋ぐバインダーとしての役割のものであるため、PTFE量が減るとシートの気密性と引張強度が低下する。その結果、浸透漏れが増加し、また、耐圧性が低下することになる。
【0007】
そこで、特許文献10に記載の技術では、石油系炭化水素溶剤などの成形助剤によりPTFEを膨潤させ、圧延工程時に成形助剤を徐々に揮発させている。かかる圧延工程によりシートの緻密化が起こり、充填材の量が多い場合でもシートの気密性が高いとされている。しかし、当該技術によるシートの馴染性と引張強度の改善効果は決して十分なものではない。
【0008】
また、上記充填材入りPTFEシートの欠点である低馴染性を改善するために、充填材として中空のマイクログラスバルーンを混合した複合シートが市販されている。当該複合シートは、圧縮されるとマイクログラスバルーンが容易に潰れるため圧縮性に富み、馴染性に優れている。しかし、マイクログラスバルーンは多量に配合することができないため、シートの応力緩和特性を十分に改善することはできない。たとえ多量に配合できたとしても、相対的なPTFE量の減少による耐圧性低下の問題は依然として解決できない。
【0009】
上記技術の他、特許文献11には、PTFEと充填材に加えて発泡剤を含む組成物をシート状に一次成形した後に圧延し、さらに発泡させて得られる複合シートが開示されている。しかしかかるシートには微小な連続空隙が多く存在するため、ガスケット材料として用いると浸透漏れが生じる。また、引張強度が低く耐圧性に劣るという点については、上記の充填材入りPTFEシートの場合と同じである。
【0010】
また、特許文献12には、延伸多孔質PTFEシートの空孔にシリカゲルを充填した複合シートが開示されている。しかし、当該シートはシリカゲルに由来する透明性を損なうことなくハンドリング性を高めたものであり、透明性を維持するために延伸多孔質PTFEシートの空孔にはシリカゲルが完全に充填されており、圧縮率が極めて小さい。その上、非常に薄いものであるために、当該シートをガスケットとして用いることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1−225652号公報
【特許文献2】特開平4−214787号公報
【特許文献3】特開平5−78645号公報
【特許文献4】特開2004−323717号公報
【特許文献5】特開2007−253519号公報
【特許文献6】特開2007−296756号公報
【特許文献7】特開2008−7607号公報
【特許文献8】特開2008−13654号公報
【特許文献9】特開2008−13715号公報
【特許文献10】特開2008−238828号公報
【特許文献11】特開2003−261705号公報
【特許文献12】特開2001−329105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来、PTFE粉末と充填材粉末からなる押出成形物を圧延することにより得られた複合シートは知られていた。
【0013】
しかし、当該シートにおいて応力緩和率を小さくするために充填材の割合を高くすると、脆弱性が高くなり加工し難くなるという問題がある。たとえ充填材割合の高いシートが得られたとしても、ガスケット材料として重要な性質である圧縮性が十分ではなかった。その結果、馴染性が失われ、ガスケットとフランジ面との界面に沿って流体が漏れる現象である界面漏れが生じ易くなる。また、充填材の配合割合を高くすると、PTFEの配合割合が相対的に低くなるために気密性と引張強度が低下する。その結果、浸透漏れが発生し易くなる上に、ガスケットが高い内圧に耐えられなくなる。
【0014】
そこで本発明は、低応力緩和率を示すものでありながら高い圧縮率を有し、優れたシール性を示す上に、高強度であり耐圧性にも優れる複合シートとその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、これら特性を享有するシートガスケットを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた。その結果、空孔率が高く且つ比較的厚い延伸多孔質PTFEシートの空孔にシリカゲルを充填し、シートの空隙率をコントロールすれば、シート強度を維持しつつ応力緩和を改善できることを見出して本発明を完成した。
【0016】
本発明の複合シートは、延伸多孔質PTFEシートの空孔内にシリカゲルが充填されたものであり;空隙率が5%以上、50%以下であることを特徴とする。
【0017】
上記複合シートにおいては、シリカゲルの割合を20質量%以上とすることが好ましい。十分量のシリカゲルを充填することにより、シートの応力緩和率をより確実に低く抑えることができる。また、延伸多孔質PTFEシートは未延伸・非多孔質のPTFEシートに比べて柔軟性や強度が高いので、シリカゲルの割合を増やしてもシートの柔軟性や引張強度は過度に低下することはなく、馴染性や耐圧性は十分に確保される。さらに、圧縮によりシリカゲルが粉砕されても空孔内に担持されるので、圧縮されても強度は十分に確保される。
【0018】
上記複合シートにおいては、空隙が独立孔で構成されていることが好ましい。隣り合う孔が連通していると、連通の度合いによっては複合シートの面方向に通じてしまい、ガスケットとして利用した場合に浸透漏れが生じ得るおそれがある。一方、全ての空隙が独立孔で構成されていれば、複合シートに適度な圧縮率が付与され、ガスケットとして非常に優れたものとなる。
【0019】
本発明にかかる複合シートの製造方法は、空孔率が60%以上の延伸多孔質PTFEシートにシリカゾルを含浸させた後、焼成することを特徴とする。
【0020】
上記方法においては、シリカゾルを含浸させた延伸多孔質PTFEシートを積層した後、焼成してもよい。かかる態様によれば、比較的厚いシートを容易に製造することができる。
【0021】
本発明にかかるシートガスケットは、複合シートからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合シートは、適度な空隙を有することから高い圧縮率を示すと共に、延伸多孔質PTFEシートとシリカゲルを基礎材料とすることから高い引張強度と優れた応力緩和特性を有する。よって、ガスケットの材料として利用した場合に高い内圧にも耐えられ、界面漏れも起こし難い。また、ガスケットの使用条件に応じて、圧縮率等を容易にコントロールすることができる。本発明方法によれば、かかる優れた複合シートを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、シリカゾルを含浸した原料延伸多孔質PTFEシートの模式図である。図1中、1はノードを示し、2はフィブリルを示し、3はシリカゾルを示す。
【図2】図2は、シリカゾルを原料延伸多孔質PTFEシートの一部に含浸させた場合の模式図である。
【図3】図3は、本発明にかかる複合シートの模式図である。図3中、4はシリカゲルを示し、5は空隙を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明にかかる複合シートは、延伸多孔質PTFEシートの空孔内にシリカゲルが充填されたものであり;空隙率が5%以上、50%以下であることを特徴とする。
【0025】
本発明シートは、延伸多孔質PTFEシートを主骨格とする。原料である延伸多孔質PTFEシートは、ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダーを成形助剤と混合することにより得られるペーストの成形体から、成形助剤を除去した後または除去せずに延伸し、必要に応じて焼成することにより得られる。一軸延伸の場合、フィブリルが延伸方向に配向すると共に、フィブリル間が空孔となった梯子状の繊維構造となる。また、二軸延伸の場合、フィブリルが放射状に広がり、ノードとフィブリルで画された空孔が多数存在するクモの巣状の繊維構造となる。
【0026】
延伸多孔質PTFEシートは、延伸された方向にポリテトラフルオロエチレンの分子が配向するため未延伸のPTFEシートに比べて強度が高い。延伸PTFEと未延伸PTFEは示差走査熱量分析測定(DSC)の示差熱分析曲線のピークによって区別することができる。即ち、未延伸PTFEの焼成体の示差熱分析曲線ピークは325〜340℃の間にあるのに対し、延伸PTFEの同ピークは325〜340℃の間に存在し、当該ピーク以外に360〜380℃の間にもピークがある。
【0027】
原料延伸多孔質PTFEシートの空孔率は、シリカゲルの含有率を高めるために、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上とする。また、空孔率が大き過ぎる、即ちシート構造におけるPTFEの割合が小さ過ぎると、シート強度が十分でなくなるおそれがあるので、当該空孔率は90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。なお、延伸多孔質PTFEの空孔率は、見掛け密度ρを用いて下記式から算出することができる。
空孔率(%)=[(2.2−ρ)/2.2]×100
上記式中、2.2は延伸多孔質PTFEの真密度(g/cm3)である。
【0028】
原料延伸多孔質PTFEシートの厚さは特に制限されないが、好ましくは0.1mm以上、10mm以下とする。0.1mm未満ではシリカゲルが均一に硬化してしまうために複合シートの空隙率が確保できず、ガスケット材料として利用した場合に圧縮量が不足することがあり得る一方で、10mmを超えるとシリカゲルをシート内部まで十分に充填することが難しくなる場合があり得る。当該シートの厚さとしては、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上、3mm以下がさらに好ましい。なお、本発明ではシートとフィルムは特に区別せず、主にシートの語を用いる。
【0029】
原料延伸多孔質PTFEシートの空孔の大きさは、0.01μm以上、100μm以下とすることが好ましい。孔径が100μmを超える空孔が存在すると、シリカゲルを充填した本発明シートを曲げた際にクラックが生じたり、圧縮により粉砕されたシリカゲルを担持できないおそれがあり得る。一方、孔径が0.01μm未満の空孔には、シリカゲルの充填が難しい場合があり得る。よって、空孔の大きさとしては、0.1μm以上、10μm以下がより好ましい。
【0030】
なお、本発明における空孔の大きさは平均孔径のことであり、ポロメータを用いてミーンフローポイント法により測定することができる。
【0031】
原料延伸多孔質PTFEシートは、単層のものであってもよいし、複数を積層して一体化したものであってもよい。なお、原料延伸多孔質PTFEシートとしては、市販のものを用いてもよい。
【0032】
本発明の複合シートでは、延伸多孔質PTFEシートの空孔にシリカゲルが充填されている。シリカゲルは、シロキサン結合(≡Si−O−)による三次元構造からなるゲルをいう。また、表面に存在する水酸基がアルコキシ基で置換されているものなど、表面改質されているものであってもよい。
【0033】
本発明シートにおいては、延伸多孔質PTFEのフィブリルとノードに粒子状のシリカゲルが付着しているのではなく、空孔をシリカゲルが埋めているものとする。フィブリルとノードに粒子状のシリカゲルが付着しているのみでは、本発明シートをガスケット材料として利用した場合に応力緩和を高度に抑えることができない。
【0034】
本発明シート全体に対するシリカゲルの含有率は、20質量%以上が好ましい。当該含有率が20質量%以上であれば、応力緩和が大きいというPTFEシートの欠点を十分に改善することができる。より好ましくは30質量%以上である。一方、当該含有率が大き過ぎると、シート全体が脆くなったり柔軟性が損なわれるなどガスケットとしての性能が低下する可能性があり得るので、当該含有率は80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましい。
【0035】
本発明シートは、後述するように延伸多孔質PTFEシートへシリカゾルを含浸させた後に焼成することで製造されるが、空隙を有する。かかる製法において、延伸多孔質PTFEシートの空孔にシリカゾルを含浸させた直後は空隙は存在しない。次いでシリカゾルがシリカゲルに硬化する過程で体積が減少するが、シートが比較的厚い場合はシートの表面部分が先に硬化するため、シート内部におけるシリカゲルの体積の減少度合いに比してシート全体の体積の減少度合いは小さい。その結果、シリカゲル内に空隙が発生すると推測される。かかる空隙はそれぞれが独立しているため、多孔質構造であり馴染性の高いシートであっても浸透漏れが生じることがない。
【0036】
本発明シートの空隙率と圧縮率との間には相関があることがわかっており、空隙率を適切な範囲にコントロールすることによってガスケット材料として必要な圧縮率を確保することが可能となる。本発明シートの空隙率は、5%以上、50%以下とすることが好ましい。空隙率が5%より小さいと圧縮率が小さくなり、シール面への馴染性を十分に確保することができない。その結果、界面漏れが発生する。空隙率が50%を超えると圧縮率が過剰に高くなってガスケットとして利用する場合に締め付け難くなり得る。当該空隙率は、10%以上、40%以下がさらに好ましい。なお、この空隙率は、延伸多孔質PTFEシートの厚さ、シリカゾルや触媒の種類、硬化条件等によってコントロールすることができる。
【0037】
本発明シートの空隙率は、以下の式によって計算される。
空隙率(%) = [1−Mp/(2.2*Vps)−(Mps−Mp)/(Vps*ρs)]×100
[上記式中、Mp(g)は延伸多孔質PTFEの質量を示し、Vps(cm3)は複合シートの体積を示し、Mps(g)は複合シートの質量を示し、2.2(g/cm3)は延伸多孔質PTFEの真密度を示し、ρs(g/cm3)は硬化後のシリカゲルの真密度を示す]
【0038】
なお、硬化後におけるシリカゲルの真密度ρsは、シリカゾルのみを硬化させたシリカゲルの密度を比重瓶法で測定することにより求めることができる。
【0039】
本発明の複合シートは、原料延伸多孔質PTFEシートにシリカゾルを含浸した後、加熱して溶媒を除去しつつシリカゾルを硬化させることにより調製することができる。或いは、シリカゾルを含浸した複数の原料延伸多孔質PTFEシートを積層した後、加熱硬化してもよい。その場合には、シリカゲルは原料延伸多孔質PTFEシート同士を一体化する接着剤としても作用する。
【0040】
シリカゾルの原料としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、フェニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどの珪素アルコキシドや、エチルポリシリケートなどそれらの可溶性オリゴマーを用いることができる。また、これら珪素アルコキシドや可溶性オリゴマーは、化学修飾または物理修飾によりその機能性が高めたられたものを用いてもよい。修飾する有機基としては、炭素数1〜20のアルキル基およびその置換体;炭素数6〜20のアリール基およびその置換体;炭素数7〜20のアラルキル基およびその置換体;−C−O−、−C=O、−COO−、−COOH、−CON=、−CN、−NH2、−NH−、エポキシ基などの極性を有する有機基;>C=CH−などの不飽和炭素結合を有する有機基などが挙げられる。
【0041】
本発明で用いるシリカゾルは、単一のシリカゾル原料からなるものであってもよいし、或いは複数のシリカゾル原料からなるものであってもよい。
【0042】
また、シリカゾル原料には、シリカアルコキシド以外の金属アルコキシドが添加されていてもよい。金属アルコキシドは、M(OR)nまたはMO(OR)n-2[式中、Mは金属原子を示し、Rはアルキル基を示し、nは金属元素の酸化数を示す]の一般式で表される。Mは特に制限されないが、例えば、Li、Na、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Y、Ge、Pb、P、Sb、V、Ta、W、Ti、Zr、Fe、Mg、Sn、Ni、La、Gd、Eu、Tb、Dyを挙げることができる。
【0043】
本発明のシリカゾルを構成する溶媒は特に制限されないが、一般的には、シリカゾルを構成するアルコキシ基に対応するアルコールを用いる。例えば、シリカゾル原料としてテトラエトキシシランを用いる場合には、溶媒としてエタノールを用いる。また、アルコールと水との混合溶媒を用いてもよい。
【0044】
本発明で用いるシリカゾルには、シリカゾルの重合反応の触媒として、酸や塩基を加えてもよい。かかる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、弗化水素酸などを挙げることができ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0045】
原料延伸多孔質PTFEシートに上記シリカゾルを含浸させた場合には、図1に示すように、原料延伸多孔質PTFEシートの空孔は、シリカゾルで完全に充填される。また、図2に示すように、必ずしも原料延伸多孔質PTFEシートの全部分をシリカゾルに含浸する必要はなく、その一部のみを含浸してもよい。
【0046】
上記シリカゾルを原料延伸多孔質PTFEシートに含浸させる方法は特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、真空加圧含浸、真空含浸、噴霧、蒸発乾固、メタリングバー方式、ダイコート方式、グラビア方式、リバースロール方式、ドクターブレード方式などいずれの方式であってもよい。なお、原料延伸多孔質PTFEシートへシリカゾルを塗布するのみであっても、シリカゾルは空孔を満たす。即ち、本発明における「含浸」は、原料延伸多孔質PTFEシートの空孔がシリカゾルで満たされればよく、塗布等も含む概念である。
【0047】
原料延伸多孔質PTFEシートの厚さが薄い場合、一回の含浸のみで、原料延伸多孔質PTFEシートの空孔はシリカゾルで満たされる。一方、原料延伸多孔質PTFEシートの厚さが厚い場合、一回の含浸のみでは空孔をシリカゾルで完全に満たすことができないことがある。その場合には、シリカゾルを複数回含浸させ、空孔が完全に満たされるようにする。
【0048】
次に、上記シリカゾルを含浸させた延伸多孔質PTFEシートを加熱し、溶媒を除去しつつシリカゾルを硬化させる。具体的には、上記溶液中の珪素アルコキシド化合物を加水分解しつつ重合させる。即ち、ゾルゲル反応を行う。
【0049】
好ましくは、先ず比較的低温度で加熱することにより溶媒を除去する。最初から高温で加熱するとシリカゾル自体が蒸発するおそれがある。さらに、表面が急速に硬化してしまい、硬化後に残留歪みによる割れが発生することがあり得る。加熱開始時の温度は、溶媒の沸点にも依存するが、50℃以上、120℃以下程度とすることが好ましい。加熱時間は適宜調整すればよいが、通常は10分間以上、5時間以下程度とすることが好ましい。
【0050】
次に、比較的高温で加熱することにより、溶媒を完全に留去しつつ重合反応を促進する。このときの温度としては、150℃以上、300℃以下程度とすることが好ましい。加熱時間は適宜調整すればよいが、通常は10分間以上、5時間以下程度とすることが好ましい。
【0051】
上記加熱処理の結果、延伸多孔質PTFEシートの空孔に存在するシリカゾルから溶媒が留去し、且つシリカゾルはシリカゲルへ硬化する。この際にシリカゾルの体積は減少するが、先にシートの表面部分が硬化することから、シートの内部部分におけるシリカゲルに空隙が生じると推測される。
【0052】
本発明にかかる複合シートは、ガスケットの材料として利用することができる。かかるガスケットは、PTFEとシリカゲルからなることから耐薬品性や耐熱性に優れる上に、シリカゲルが充填されることにより応力緩和も低減されている。また、シリカゲル部分にも空隙が存在することから、シリカゲルの含有率が高いにもかかわらず圧縮率が高いので、フランジとの界面における流体の漏れも抑制されている。このように、本発明のガスケットは、非常に優れるものである。
【0053】
本発明にかかるシートガスケットは、本発明の複合シートを所望の形状に切り出すことにより作製できる。即ち、例えば配管や機器のフランジ部分の形状に合わせ、リング状などの形状に切り出せばよい。或いは、原料である延伸多孔質PTFEシートを所望の形状に切り出しておき、当該シートの空孔に上記方法によりシリカゲルを充填させることによりガスケットを製造してもよい。かかる製法によれば、シリカゾルの使用量を低減することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
実施例1
オルト珪酸テトラエチル(以下、「TEOS」という)、エチルポリシリケート(コルコート社製,製品名「エチルシリケート48」)およびシリカ系コート剤(日興社製,製品名「ヒートレスグラスGS−600−1」)を、固形分の質量換算で2:2:1の割合で混合し、含浸溶液Aを得た。当該含浸溶液A(100mL)を、10cm×10cmの延伸多孔質PTFEシート(ジャパンゴアテックス社製,空孔率:70%,厚さ:3mm,製品名「ハイパーシート」)に真空含浸させた。当該延伸多孔質PTFEシート含浸体を70℃で2時間加熱乾燥した後、さらに徐々に温度を250℃まで高めて2時間保持することにより硬化させ、複合シートを得た。
【0056】
実施例2
TEOSとシリカ系コート剤(日興社製,製品名「ヒートレスグラスGS−600−1」)を、固形分の質量換算で2:1の割合で混合し、含浸溶液Bを得た。当該含浸溶液Bを用いた以外は上記実施例1と同様にして、複合シートを得た。
【0057】
実施例3
TEOSとシリカ系コート剤(日興社製,製品名「テリオスコートNP−360TSK」)を、固形分の質量換算で2:1の割合で混合し、含浸溶液Cを得た。当該含浸溶液Cを用いた以外は上記実施例1と同様にして、複合シートを得た。
【0058】
実施例4
TEOS(62.5g)、エチルポリシリケート(コルコート社製,製品名「エチルシリケート48」,27g)、リン酸トリエチル(5.6g)、水(16.3g)およびエタノール(23.5g)を混合し、さらに少量の塩酸を加えて含浸溶液Dを得た。当該含浸溶液Dを用いた以外は上記実施例1と同様にして、複合シートを得た。
【0059】
実施例5
幅10cm×長さ7mの延伸多孔質PTFEシート(空孔率:80%,厚さ:20μm)に含浸溶液Dを塗布して含浸させた。さらに、10cm×10cmの大きさに70回折り返して積層シートとした。当該積層シートをピンフレームで固定し、70℃で2時間加熱乾燥した。さらに、温度を250℃まで徐々に高め、250℃で2時間保持することにより硬化させ、複合シートを得た。
【0060】
比較例1
PTFE粉末と無機充填材からなる混合物を圧延成形した充填材入りPTFEシート(日本バルカー工業社製,製品名「#7020」,公称厚さ:3mm)を用いた。
【0061】
比較例2
PTFE粉末にマイクログラスバルーンを混合した充填材入りPTFEシート(ガーロック社製,製品名「#3504」,公称厚さ:3mm)を用いた。
【0062】
比較例3
上記含浸溶液Dを、10cm×10cmの延伸多孔質PTFEシート(ジャパンゴアテックス社製,空孔率:70%,厚さ:3mm,製品名「ハイパーシート」)に真空含浸させた。当該延伸多孔質PTFEシート含浸体を50℃で30分間加熱乾燥した後、含浸溶液Dを再度真空含浸するという作業を3回繰り返した。70℃で2時間加熱乾燥した後、さらに徐々に温度を120℃まで高めて5時間保持した。次いで、温度を徐々に200℃まで高めて15時間保持した後、さらに温度を250℃まで高めて2時間保持することにより硬化させ、複合シートを得た。
【0063】
試験例
上記各シートの物性を、以下の条件で測定した。実施例1〜5の結果を表1に、比較例1〜3の結果を表2に示す。
【0064】
(1) 圧縮率の測定
試料の厚さ以外はJIS R 3453で規定されている条件に従って、各シートの圧縮率を測定した。具体的には、各シートをアンビル上に載せてその中心部に直径6.4mmのペネトレータをあて、先ず0.686MPaの圧力で15秒間圧縮した後、ダイヤルゲージを用いて厚さt1(mm)を測定した。次いで、34.3MPaの圧力で60秒間圧縮し、同様に厚さt2(mm)を測定した。さらに、0.686MPaの圧力で60秒間圧縮した後、同様に厚さt3(mm)を測定した。得られた測定値から、下記式に従って圧縮率を算出した。
圧縮率(%)=[(t1−t2)/t1]×100
測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0065】
(2) 復元率の測定
試料の厚さ以外はJIS R 3453で規定されている条件に従って、各シートの復元率を測定した。即ち、上記(1)で得られた測定値から、下記式に従って復元率を算出した。
復元率(%)=[(t3−t2)/(t1−t2)]×100
測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0066】
(3) シール性の測定
各シートから外径:74mm、内径:35mmのリングを打ち抜き、油圧プレス機にて面圧20N/mm2相当の荷重を与えつつ、内側から圧力:0.5MPaの窒素ガスを付与した。外側における窒素ガスの漏れ量を石鹸膜流量計により測定した。なお、漏れ量0.0001Pa・m3/sec未満は測定限界以下とした。
【0067】
(4) 応力緩和率の測定
試料の厚さ以外はJIS R 3453で規定されている条件に従って、各シートの応力緩和率を測定した。具体的には、各シートから幅10.0mm×長さ32.0mmの試験片を得、応力緩和試験装置の平円板に挟んだ。試験片を26.7kNの荷重で圧縮した後、試験装置のボルトの伸びD0を測定した。次いで、当該測定装置を熱風循環炉により100℃で22時間加熱した後、室温まで放冷し、試験装置のボルトの伸びの数値Dを読み取った。得られた測定値から、下記式に従って応力緩和率を算出した。
応力緩和率(%)=[(D0−D)/D0]×100
測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
上記結果のとおり、PTFE粉末と無機充填材からなる混合物を圧延成形した比較例1の複合シートは比較的良好な応力緩和率を示し、マイクログラスバルーンを含む比較例2の複合シートは圧縮率が大きい。その一方で、前者は圧縮率が小さく馴染性に劣るためシール性が悪く、後者は応力緩和率が大きいので、例えば高温下での使用は難しい。さらに、これら複合シートはいずれも引張強度が低いので、ガスケット材料として用いると高い内圧がかかったときに引きちぎられるおそれがある。
【0071】
また、比較例3の複合シートの窒素ガス漏れ量は0.0067Pa・m3/secと非常に多く、当該複合シートのシール性は非常に悪い。その原因は、空隙率が3%と低いために圧縮率も低く、馴染性に劣ることにあると考えられる。
【0072】
一方、本発明にかかる複合シートは、圧縮率と応力緩和率のバランスが取れている上に、引張強度が非常に高いことが分かる。これは、適度な空隙を有することから圧縮率が大きく、シリカゲルを含むことから応力緩和特性にも優れると共に、延伸多孔質PTFEを基材とすることからシリカゲルを配合しても強度が維持されていることによると考えられる。
【0073】
以上の結果のとおり、本発明にかかる複合シートは、界面漏れを起こし難く且つ耐圧性にも優れることから、ガスケット材料として非常に優れることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸多孔質PTFEシートの空孔内にシリカゲルが充填されたものであり;
空隙率が5%以上、50%以下であることを特徴とする複合シート。
【請求項2】
上記複合シートにおけるシリカゲルの割合が20質量%以上である請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
上記空隙が独立孔により構成されている請求項1または2に記載の複合シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合シートを製造するための方法であって、
空孔率が60%以上の延伸多孔質PTFEシートにシリカゾルを含浸させた後、焼成することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
シリカゾルを含浸させた延伸多孔質PTFEシートを積層した後、焼成する請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合シートからなることを特徴とするシートガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−168567(P2010−168567A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291161(P2009−291161)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】