説明

複合シート

【課題】本発明の課題は、耐熱性、電気特性、耐薬品性を兼ね備えた熱成形性特に深絞り成形性に優れた電気絶縁シートを提供すること
【解決手段】ガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上である合成繊維からなる繊維シートとシリコーンゴムとを有する複合シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、モーター、オルタネータ、トランスといった電気機器の電気絶縁シートとして、割れにくく、かつ熱成形性に優れたシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の動向として、電気機器の小型軽量化、高性能化に伴い、新規絶縁システムの開発が進められており、その中で、耐熱性、電気特性、耐薬品性を兼ね備えながら、割れにくく、熱成形性に優れた電気絶縁シートが求められている。
従来、耐熱クラスF種以上の耐熱性が要求される電気絶縁シートとしては、1)PPSやPI等からなるフィルム、2)前記フィルムと繊維シートの積層体、3)ポリメタフェニレンイソフタルアミドのフィブリッドおよび繊維から構成される紙、4)前記の紙とシリコーンゴムの積層体、が使用できることが知られている(特許文献1〜4)。
しかしながら、1)前記に代表されるフィルムは、耐衝撃性に欠けるため、成形加工時に、割れやすい、裂けやすいといった問題があり、2)フィルムの耐衝撃性を改善する目的で提案されているフィルムと繊維シートの積層体は、成形時にフィルム層と繊維シート層の界面が剥がれるといった問題がある。3)また、前記ポリメタフェニレンイソフタルアミドのフィブリッドおよび繊維から構成される紙は、200℃以上の高温下でも軟化、溶融しないため、熱成形により変形後の形状を保持することができない。4)たとえ、前記の紙にシリコーンゴムを積層していても紙単体時と同様の理由により熱成形できない。
【0003】
また、シリコーンゴムは、それ単体では柔軟すぎて自己保持性に欠けるため、繊維シートに塗工又は含浸する等により、機械的強度を向上させなければ、本用途の実用に耐えないものである。
【0004】
なお、シリコーンゴムの引裂きやすさを向上させるための方法として、シリコーンゴムと基材シートを複合した特許文献5があるが、該文献には熱成形性に関する記載は一切なされていない上、バインダーに熱硬化性樹脂を使用していることから、熱成形には不適である。
【0005】
以上に述べた通り、これまで耐熱性、電気特性、耐薬品性を兼ね備えながら、割れにくく、熱成型性に優れた電気絶縁シートは開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−35459号公報
【特許文献2】特開昭63−237949号公報
【特許文献3】特開平4−228696号公報
【特許文献4】特開平9−183187号公報
【特許文献5】特開平6−262694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、耐熱性、電気特性、耐薬品性を兼ね備えた熱成形性特に深絞り成形性に優れた電気絶縁シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決すべく鋭意検討の結果、ガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上である合成繊維からなる繊維シートに、シリコーンゴムを例えば含浸、または塗付して、繊維シートとシリコーンゴムとを有する複合シートとすることで、前記の課題が解決できることを見出した。
本発明の好ましい実施態様においては、前記ガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上である合成繊維の内、20質量%〜100質量%が未延伸繊維である。
【0009】
さらに、本発明の好ましい実施態様においては、前記未延伸繊維がポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維と呼ぶ)である。さらに、本発明の好ましい実施態様においては、前記複合シートは深絞り成形用のものである。また、本発明の好ましい実施態様においては、前記複合シートは電気絶縁用として使用されるものである。また、前記複合シートを深絞り成形することで電気絶縁シートとすることができる。また、複合シートの製造方法は、ガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上である合成繊維を湿式抄紙法でシート化し、しかる後にシリコーンゴムを含浸、または塗工することを特徴とするものである。さらに、本発明の電気絶縁材の製造方法は、前記複合シートを深絞り成形することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い耐熱性と絶縁破壊強さを有し、深絞り成形性に優れる複合シートを提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】深絞り成形により得られた不良品の斜視図
【図2】実施例で深絞り成形性を評価するために使用した円柱状プレス金型の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、耐熱性と絶縁性能を兼備し、かつ深絞り成形が可能な複合シートについて鋭意検討し、繊維シート単独では電気絶縁性能に劣り、また、シリコーンゴム単独では熱成形できないばかりか、柔軟すぎて自己保持性に欠けることから、繊維シートとシリコーンゴムを包括する複合であって、かつ繊維シートを構成する合成繊維としてガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上であるものを採用して、初めて所望の性能を具備する複合シートに想到したものである。
【0013】
ここで、本発明における深絞り成形とは、側壁が周囲からの流入によって形成される一般的な深絞り成形を含み、また、平らなシートを3次元的に成形する際に、成形体の一部が延伸または、圧縮される成形をも含む。
【0014】
一般的に繊維シートは繊維間に空隙を有しているため、絶縁破壊強さに乏しく、繊維シート単独では電気絶縁シートとしての実用性が低い。本発明によると、シリコーンゴムが繊維シートを構成する繊維間の空隙を埋め、あるいは、繊維シート表面にシリコーン層を形成し、繊維シート単独よりも絶縁破壊強さを飛躍的に向上することができる。
本発明における繊維シートは、ガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上である合成繊維を含む。かようなガラス転移点、融点を有する合成繊維は繊維シートにおいて、70質量%以上、さらには80質量%以上、さらに90質量%以上含むことが好ましい。
【0015】
ガラス転移点が上記範囲である合成繊維を含むことにより、本発明の繊維シートは200℃以上の温度下では荷重をかけた際に変形し易くなる。一般的に、熱成形時の温度に対し、ガラス転移点が低い程、繊維シートの軟化が進むため、前記特定範囲のガラス転移点を有する合成繊維のガラス転移温度は、より低温の150℃以下であることがより好ましく、さらに好ましくは100℃以下である。
【0016】
本発明におけるシリコーンゴムは、シリコーンが架橋して硬化した弾性体であり、可撓性を有しており、容易に変形するため、熱成形可能なシートと積層した場合、シートの変形に追従する。また、シリコーンゴムは弾性体であるため圧縮応力に対しては反発力が生じる。そのため、従来は円筒型の深絞り成形においては、図1の不良品として示したようなフランジや側壁部の重なり皺が発生しやすいが、材料が容易に変形できれば、円周方向に生じた歪みを分散させ、皺の発生が抑制される。つまり、本発明品は、繊維シート単体対比で重なり皺を少なくして深絞り成形が可能となる。
【0017】
本発明における繊維シートは繊維は、ガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上である合成繊維を含む。ここでいう合成繊維とは、合成樹脂を繊維状にしたものを示す。その中でかようなガラス転移点および融点を与えることができる繊維としては、PPS繊維、PTFE繊維、全芳香族PET繊維、PEN繊維、が例示できるが、中でもPPS繊維が好ましい。理由として、PPS繊維は、耐薬品性、耐加水分解性、吸湿寸法安定性に優れ、かつ熱軟化時の流動性に優れるため深絞り成形性に優れることが挙げられる。
【0018】
ガラス転移点が200℃を超える繊維では、軟化温度が高すぎるため、汎用設備での深絞り成形が困難となる。また、前記の通り、一般的に、熱成形時の温度に対し、ガラス転移点が低い程、繊維シートの軟化が進むため、前記合成繊維のガラス転移温度は、150℃以下であることがより好ましく、さらに好ましくは100℃以下である。
【0019】
また、前記ガラス転移点および融点を有する合成繊維のうち、20質量%〜100質量%が未延伸繊維であることが好ましく、さらに好ましくは25質量%〜100質量%である。前記合成繊維の20質量%以上を未延伸繊維とすることで、繊維シートを構成する繊維の内、非晶成分が占める割合が多くなる。その結果、軟化開始温度が低くなり、かつ、軟化時の流動性が高くなり、より嵩高い深絞り加工が可能となる。
さらに、前記耐熱繊維の中では、耐薬品性、耐加水分解性、吸湿寸法安定性に優れ、かつ熱成形時の流動性に優れるPPS繊維が特に好ましく使用できる。例えば、東レ(株)から‘トルコン’の商品名で市販されているものを使用できる。
PPS繊維とは、PPS樹脂を溶融紡糸して繊維化したものであり、ここでPPS樹脂とは、繰り返し単位としてp−フェニレンサルファイド単位やm−フェニレンサルファイド単位などのフェニレンサルファイド単位を含有するポリマーであり、これらのいずれかの単位のホモポリマーでもよいし、両方の単位を有する共重合体でもよい。また、他の芳香族サルファイドとの共重合体であってもよいが、好ましくは繰り返し単位の70モル%以上がp−フェニレンサルファイドからなるものである。
【0020】
また、PPS繊維に用いるPPS樹脂の重量平均分子量としては、40000〜60000が好ましい。40000以上とすることで、PPS繊維として良好な力学的特性を得ることができる。また、60000以下とすることで、溶融紡糸の溶液の粘度を抑え、特殊な高耐圧仕様の紡糸設備を必要とせずに済むので好ましい。
【0021】
なおエクストルダー型紡糸機等で口金を通して溶融紡糸した後、概ね延伸することなく回収することで、未延伸のPPS繊維を得ることができる。
【0022】
また一方で延伸されたPPS繊維は、未延伸PPS繊維と同様にPPS樹脂を、エクストルダー型紡糸機等で溶融紡糸した後、3.0倍以上、好ましくは5.5倍以下、さらに好ましくは3.5〜5.0倍の範囲で延伸することにより得ることができる。この延伸は1段で延伸してもよいが、2段以上の多段延伸を行ってもよい。2段延伸を用いる場合の1段目の延伸は総合倍率の70%以上、好ましくは75〜85%とし、残りを2段目の延伸で行なうのが好ましい。得られた未延伸PPS繊維および延伸されたPPS繊維は捲縮を付与せずにカットしてもよいし、捲縮を付与してカットしてもよい。
【0023】
また、捲縮の有無については、有するものと有しないものとのそれぞれに利点がある。捲縮を有する繊維は、例えば湿式不織布の製造において、繊維同士の絡合性が向上して強度の優れた湿式不織布を得るのに適している。一方、捲縮を有しない繊維は、水への分散性が良好であるので、ムラが小さい均一な湿式不織布を得るのに適している。
【0024】
本発明における繊維シートを構成する繊維の形態として、短繊維、長繊維、が挙げられるが、製造する繊維シートの形態によって使い分けることができる。
【0025】
本発明の繊維シートとは、前記合成繊維から製造されるシート状の成形体であり、耐熱性、絶縁性を向上させる目的から、マイカ、酸化チタン、タルク、カオリン、水酸化アルミなどの鉱物系粒子を添加することができる。シートの形態としては、乾式不織布、湿式不織布、織布等が挙げられ、これらに限定されるわけではないが、均一構造かつ薄いシートが容易に得られる湿式不織布がとりわけ好ましく用いられる。
【0026】
次に、前記したような繊維からなる繊維シートを製造する方法の中で、とりわけ好ましく用いられる湿式不織布を得る方法の一例を示す。ただし、本発明における繊維シートの製造方法はこれに限定されるわけではない。
【0027】
繊維の単繊維繊度としては、いずれも0.05dtex以上10dtex以下が好ましい。細いと繊維同士が絡み易くなり均一に分散するのが難しくなる傾向がある。太くなると繊維が太く、硬くなり、繊維同士の絡合力が弱くなるので、十分な紙力が得られず、破れ易い不織布になってしまう傾向がある。
【0028】
また、繊維シートに使用する繊維の繊維長としては、いずれも1〜20mmの範囲内が好ましい。1mm以上とすることで、繊維同士の絡合により複合シートの強度を高くすることができる。また20mm以下とすることで、繊維同士がダマになるなどして複合シートにムラ等が生じるのを防ぐことができる。
【0029】
本発明に用いる繊維シートは紙状物であることが好ましく、好ましくは目付としては、5g/m以上、さらには10g/m以上、一方200g/m以下、さらには120g/mであることが好ましい。厚みとしては、5μm以上、さらには10μm以上、一方500μm以下、さらに300μmの範囲であることが好ましい。
【0030】
次に湿式での不織布の製造方法を説明する。
【0031】
まず、繊維を、水中に分散させ、抄紙スラリーをつくる。抄紙スラリー全体に対する繊維の合計量としては、0.005〜5質量%が好ましい。合計量を0.005質量%以上にすることで、抄紙工程で水を効率よく活用できる。また、5質量%以下にすることで繊維の分散状態が良くなり、均一な湿式不織布を得ることができる。
【0032】
抄紙スラリーは、予め延伸された繊維のスラリーと未延伸繊維のスラリーとを別々に作ってから両者を抄紙機で混合してもよいし、直接両者を含むスラリーを作ってもよい。それぞれの繊維のスラリーを別々に作ってから両者を混合するのは、それぞれの繊維の形状・特性等に合わせて攪拌時間を別個に制御できる点で好ましく、直接両者を含むスラリーを作るのは工程簡略の点で好ましい。
【0033】
抄紙スラリーには、分散状態を良好にするためにカチオン系、アニオン系、ノニオン系などの界面活性剤などからなる分散剤や油剤、また泡の発生を抑制する消泡剤等を添加してもよい。
前記のように準備した抄紙スラリーを、丸網式、長網式、傾斜網式などの抄紙機または手漉き抄紙機を用いて抄紙し、これをヤンキードライヤーやロータリードライヤー等で乾燥し、湿式不織布とすることができる。この後、得られた湿式不織布の表面平滑化、表面毛羽抑制、高密度化などのために、カレンダー加工を行ってもよい。
【0034】
本発明では、本発明の繊維シートに対してシリコーンゴムを施すことにより、深絞り成形性が向上する。本発明におけるシリコーンゴムとは、三次元構造に硬化反応したオルガノポリシロキサンであり、側鎖にある官能基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、などのアルキル基の他、ハロゲン化アルキル基、アリール基を有していてもよい。通常はメチル基が多いが、メチル基の一部をフェニル基へ置換することでシリコーンの耐熱性を向上させることができる。
【0035】
三次元構造にさせるための化学反応としては、末端が水酸基であるポリシロキサンと、カルボニルオキシ基、アルコキシなど加水分解性の官能基を複数有するケイ素化合物とを反応させる方法が例示される。この場合官能基を複数有するケイ素化合物を多量に添加して、加水分解および縮合を起こさせることにより架橋させることもできる。また水素がケイ素原子に直結したポリシロキサンとビニル基など不飽和二重結合を有するポリシロキサンとを白金触媒などのもとで付加反応させる方法もなる。また重合性官能基を側鎖に有するポリシロキサンとラジカル発生剤をと混合し、熱により架橋させる方法も例示される。
【0036】
シリコーンゴムは、単独で使用できる他、2種以上の混合物であってもよく、さらに、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂によって変性させたシリコーンゴムであってもよい。硬化反応としては過酸化物硬化、付加硬化、縮合硬化、脱水素硬化、UV硬化等が例示でき、一液型でも二液型でもよいが、本発明においては、深部硬化性に優れる付加硬化が好ましく、使用する触媒として白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などが挙げられる。
【0037】
また、これらのシリコーンゴムの熱伝導性・機械的強度を改善する目的で、シリカ、アルミナ、石英、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムのような充填材を混合していても何ら差し支えは無い。
【0038】
このようなシリコーンゴムは、ミラブルタイプ、液状タイプなどに分類できる。ミラブルタイプは、ミキサーなどのゴム練り機を用いて均一に混合し、加熱することにより、シリコーンゴム組成物を得ることができる。得られたシリコーンゴム組成物を、押し出し成形などに代表される成形方法でフィルム状に加工し、繊維シートに担持させることで複合シートを得ることができる。一方、液状タイプは、液状シリコーンを直接繊維シート上にコーティングした後加熱するか、あるいは、繊維シートを液状シリコーン中に一旦浸漬し引き揚げた後加熱することにより、シリコーンゴムが硬化し、複合シートを得ることができる。ただし、本発明においては、作業性に優れる液状タイプの使用が好ましい。
このとき、繊維シートとシリコーンゴムの層間密着力を向上させる目的で、繊維シート表面あるいはシリコーンゴム表面にコロナ処理、プラズマ処理をなどの表面改質を行ってもよいし、シリコーンゴムの接着性を向上させる材料を前もって繊維シートに付与していてもよい。一方、シリコーンゴムの組成物に接着付与剤を添加させていてもよい。
【0039】
複合シートのシリコーンゴム側表面のタック性に関しては、シートを貼り付ける用途では好ましいが、シートを挿入する用途等、表面の滑り性能が要求される場合は、好ましくない。この場合は、触媒量や硬化雰囲気を調節するなどで、タック性を無くすことができる。あるいは、繊維シートの片面にシリコーンを塗工した後、シリコーン層のもう片面上に別の繊維シートを積層し、2枚の繊維シート間にシリコーン層を存在させた3層構成とすることで両面とも滑り性に優れたシートが得られる。
【0040】
本発明の複合シートは繊維シートとシリコーンゴムを包括するものであり、その構成は、繊維シートを構成している繊維間にシリコーンゴムが充填されたもの、あるいは、シリコーンゴム内部に繊維シートが侵入して一体化しているもの、あるいは繊維シートとシリコーンゴムが別々の層として積層密着しているもの、などである。中でも、シリコーンゴム層の少なくとも一部が繊維シートの内部に浸透していることが、熱成形加工時に剥離が生じないようにアンカー効果による層間密着力を高められる点から好ましい。
【0041】
このような本発明の複合シートを得る方法は、前記の通り、使用するシリコーンの種類により異なる。たとえば、ミラブルタイプのシリコーンを使用する場合は、ミキサーなどのゴム練り機を用いて均一に混合し、加熱することにより得たシリコーンゴム組成物を、押し出し成形などに代表される成形方法でフィルム状に加工した後、繊維シートに担持させることで複合シートを得ることができる。ここで、フィルム状にしたシリコーンゴム組成物を繊維シートに担持させる方法としては、接着剤を介してシリコーンゴム組成物と繊維シートを貼り合わせる方法の他、シリコーンゴムに繊維シートを重ね合わせた状態で、熱プレス、熱カレンダーなどを使用し、熱圧着する方法が例示できる。また、液状タイプのシリコーンを使用する場合は、液状のシリコーンを直接繊維シート上にコーティングした後、加熱してシリコーンゴムを硬化させ、複合シートを得る方法。あるいは、繊維シートを液状シリコーン中に一旦浸漬し引き揚げた後加熱してシリコーンゴムを硬化させ、複合シートを得る方法などが例示できる。これらの方法の中でも、液状のシリコーンを直接繊維シート上にコーティングした後、加熱してシリコーンゴムを硬化させ、複合シートを得る方法が、作業性、工程の簡略化、の観点から好適に採用できる。
【0042】
また、繊維シート層とシリコーンゴム層の多層積層体については、繊維シート1層とシリコーンゴム1層からなる2層構成、シリコーンゴムを繊維シートで挟んだ3層構成、繊維シートをシリコーンゴムで挟んだ3層構成、さらに積層数を増やした多層構成なども例示できる。本発明の複合シートの厚みは、使用状況により、10μm〜1000μmから好ましく選択できるが、これに限定されるものではない。また、使用するシリコーンゴムの目付は20g/m〜200g/mが好ましい。
【0043】
また、本発明の複合シートは深絞り成形により、所望の形状へ成形し、電気絶縁シートとすることができる。
【0044】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[測定・評価方法]
(1)目付
JIS L 1906:2000に準じて、25cm×25cmの試験片を、1枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0046】
(2)厚さ
JIS L 1906:2000で準用するJIS L 1096:1999に準じて、試料の異なる10か所について、厚さ測定機を用いて、直径22mmの加圧子による2kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0047】
(3)絶縁破壊強さ
JIS K 6911:1995に準じて測定した。試料の異なる5か所から約10cm×10cmの試験片を採取し、直径25mm、質量250gの円盤状の電極で試験片を挟み、試験媒体には空気を用い、0.25kV/秒で電圧を上昇させながら周波数60Hzの交流電圧をかけ、絶縁破壊したときの電圧を測定した。測定には、絶縁破壊耐電圧試験機(安田精機製作所社製)を使用した。得られた絶縁破壊電圧をあらかじめ測定しておいた中央部の厚さで割り、絶縁破壊強さを算出した。
(4)深絞り成形試験
図2の様な、絞り深さa=9.3mm、絞り径b=32mmの円柱状プレス金型を用いて、金型温度:220℃、金型圧力:5kg/cm2、の条件で、サンプル端部をクランプで固定しながら深絞り成形加工を行った。深絞り成形性について、下記のとおり判定を行った。
【0048】
◎ :側壁部の重なり皺無し。使用可能。
【0049】
○ :側壁部にわずかな重なり皺が発生(皺長4mm未満、皺数3箇所以下)。使用可能。
【0050】
△ :側壁部に重なり皺が発生(皺長4mm以上、皺数4箇所以上)。使用不可能。
× :破断し、成形できなかった。
【0051】
(5)使用するPPS繊維のガラス転移点の測定
下記装置および条件で比熱測定を行い、JIS K7121に従って決定した。
測定装置 :TA Instrument社製温度変調DSC
測定温度範囲 :約0〜350℃
温度較正 :高純度インジウムおよびスズの融点
昇温速度 :2℃/分
温度変調振幅 :±1℃
温度変調周期 :60秒
試料重量 :約5mg 。
【0052】
(6)使用するPPS繊維の融点の測定
示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−60)を用いて、サンプルを約2mg精秤し、窒素下、昇温速度10℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークの頂点温度を融点(Tm)として測定した。
【0053】
[実施例1]
(1)繊維シート
(延伸された繊維)
延伸された繊維として、単繊維繊度1.0dtex、カット長6mmのPPS繊維、東レ社製‘トルコン’、品番S301を用いた。前記評価方法によりガラス点移転と融点を測定した結果は表1の通り。ガラス転移点は88.6℃、融点は283.2℃であった。
【0054】
(延伸された繊維の分散液)
前記延伸されたPPS繊維を、表1の構成を基に、仕上がりが100g/mとなるように準備し、延伸されたPPS繊維1gに対し、水1Lをともに家庭用ジューサーミキサーに投入して攪拌することを繰り返し、分散液とした。攪拌時間としては、繊維同士が絡むのを防ぐために10秒とした。
(未延伸繊維)
未延伸繊維として、単繊維繊度3.0dtex、カット長6mmの東レ社製PPS繊維‘トルコン’、品番S111を用いた。記評価方法によりガラス点移転と融点を測定した結果は表1の通り、ガラス転移点は89.5℃、融点は282.9℃であった。
【0055】
(未延伸繊維の分散液)
前記未延伸PPS繊維を、それぞれ表1記載の質量分の小数第1位を切り上げた数に概ね等分し、1等分ずつをとり、おのおの水1Lとともに家庭用ジューサーミキサーに投入して攪拌することを繰り返し、分散液とした。攪拌時間としては、繊維同士が絡むのを防ぐために10秒とした。
【0056】
(繊維シートの製造)
各実施例・比較例において使用した繊維の分散液を、底に140メッシュの手漉き抄紙網を設置した大きさ25cm×25cm、高さ40cmの手すき抄紙機(熊谷理機工業社製)に仕上がりが80g/mとなるように投入し、さらに水を追加して抄紙分散液の総量を20Lとし、攪拌器で十分に攪拌した。
手すき抄紙機の水を抜き、抄紙網に残った湿紙を濾紙に転写した。
【0057】
(乾燥)
前記湿紙を濾紙ごとロータリー式乾燥機に投入し、温度110℃、工程通過速度0.5m/min、工程長1.25m(処理時間2.5min)にて乾燥する処理を2回繰り返して、乾燥処理した繊維シートを得た。
【0058】
(加熱・加圧処理)
前記乾燥処理した繊維シートを濾紙から剥離して、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通した。カレンダー条件は、温度160℃、圧力130kgf/cm、ロール回転速度15m/minとし、表裏の2回繰り返して、繊維シートを得た。
【0059】
(2)シリコーンゴム
シリコーンゴムとして、信越化学(株)製の付加型液状シリコーンゴムを使用した。
【0060】
(3)繊維シートとシリコーンゴムの複合
コーターバーを使用し、繊維シートの片面に未硬化シリコーンゴムを平均厚み100μmとなるように均一に塗布した後、該繊維シートを150℃に調整した乾燥機中で5分間静置し、シリコーンゴムを硬化させ、複合シートを得た。このとき、硬化後のシリコーン層の厚みは平均100μm、塗布目付量は131g/mであった。
【0061】
[実施例2]
(1)繊維シート
表1の構成に基づき、実施例1と同様の方法で繊維シートを得た。
(2)シリコーンゴム
実施例1と同様のシリコーンゴムを使用した。
(3)繊維シートとシリコーンゴムの複合化
実施例1と同様の方法で、複合シートを得た。
【0062】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で繊維シートを得た後、シリコーンゴムを積層しなかった。
【0063】
[比較例2]
実施例2と同様の方法で繊維シートを得た後、シリコーンゴムを積層しなかった。
[比較例3]
(1)繊維シートの作成
ポリメタフェニレンイソフタルアミドからなる紙(商標名:ノーメックス#410-4mil、デュポン(株)製)を使用した。
(2)シリコーンゴム
実施例1と同様のシリコーンゴムを使用した。
(3)繊維シートとシリコーンゴムの複合
実施例1と同様の方法で、複合シートを得た。
(4)ガラス転移点について
比較例2の材料のガラス転移点については、下記文献に記載された値を採用した。
【0064】
参考文献 第3版 繊維便覧 H16.12.15発行
P182 表1.70 アラミド繊維の物理的特性
メタアラミド ガラス転移温度 280〜290℃
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
このように実施例1において電気絶縁シートとして使用し得る絶縁破壊強さを有し、かつ、深絞り成形性に優れた複合シートを得ることができた。一方で、繊維シートのみからなる比較例1と比較例2は、絶縁破壊強さに乏しい上、深絞り成形試験において側壁部に重なり皺が生じた。特に比較例2については、電気絶縁シートとして使用できない程の重なり皺が生じた。また、アラミドで構成される比較例3は、絶縁破壊強さには優れているが、ガラス転移点が280℃〜290℃と非常に高いため、深絞り成形試験において材料が変形に追従しきれず破断し、成形品を得ることができなかった。すなわち、熱成形性に欠ける複合シートであった。
【0068】
また、実施例1に対し、未延伸繊維量が少ない実施例2においては、電気絶縁シートとして使用し得る絶縁破壊強さを有しているが、実施例1対比では、軟化時の流動性に劣るため、熱成形性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の積層体は、モーター、コンデンサー、変圧器、ケーブル、高電圧伝送トランス等に用いることができる、成形性良好な電気絶縁紙として利用可能であり、その結果所望の形状の電気絶縁体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が200℃以下であり、かつ融点が250℃以上である合成繊維からなる繊維シートとシリコーンゴムとを有する複合シート。
【請求項2】
前記繊維シートを構成する全繊維のうち、20質量%〜100質量%が前記ガラス転移点と融点を有する合成繊維であることを特徴とする請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
前記ガラス転移点と融点とを有する合成繊維が未延伸繊維であることを特徴とする請求項2に記載の複合シート。
【請求項4】
前記未延伸繊維がPPS繊維の未延伸繊維であることを特徴とする請求項2に記載の複合シート。
【請求項5】
深絞り成形用である請求項1〜3いずれかの複合シート。
【請求項6】
電気絶縁用である請求項1〜4いずれかの複合シート
【請求項7】
請求項1〜5いずれかの複合シートを深絞り成形することを特徴とする電気絶縁材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−245728(P2012−245728A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120291(P2011−120291)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】