説明

複合化高分子電解質膜およびその製造方法

【課題】本発明はメルトブロー法やレーザー溶融による電解紡糸方法を用いることなく、高分子電解質との複合に適した溶剤難溶性の芳香族炭化水素系ポリマー繊維を含む複合化高分子電解質膜の製造方法を提供する。また、イオン伝導性が優れ、かつ含水寸法変化および含水時の機械的強度の低下が抑制された複合化高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】すなわち、本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法は芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜を含む複合化高分子電解質膜の製造方法であって、可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーと溶媒からなる紡糸原液を用いた電解紡糸による不織布化工程、得られた不織布に電解質ポリマー溶液を含浸させる工程を有し、高分子電解質溶液を含浸させる工程より前に可溶性付与基を除去して、紡糸した芳香族炭化水素系ポリマー繊維を電解質ポリマー溶液に不溶化することを特徴とする。
また、本発明の複合化高分子電解質膜は、芳香族炭化水素系ポリマー不織布と高分子電解質を含む複合化高分子電解質膜であって、芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質が同じポリマー構造であり、相溶性を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合化高分子電解質膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも高分子電解質型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
高分子電解質型燃料電池は、たとえば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックしたものである。膜電極接合体は、触媒層を有するアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に配置される高分子電解質膜とから構成される。高分子電解質膜には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンポリマー等のフッ素系イオン伝導性ポリマーが適用されてきたが、将来の高分子電解質型燃料電池の普及期を見据え、低コスト、低環境負荷が期待できる点からスルホン酸基を有する芳香族ポリエーテルエーテルケトンや芳香族ポリエーテルケトンおよび芳香族ポリエーテルスルホンなどの炭化水素系イオン伝導性ポリマー、について特に活発に検討がなされてきた。そして、該高分子電解質膜には、プロトン伝導性が高いことが求められている。特に自動車用燃料電池や家庭用燃料電池などは水管理システムの簡素化のために、80℃を越える高温で相対湿度60%以下の低加湿条件下で作動することが望まれており、高いレベルのイオン伝導性と耐久性の両立を図る必要があった。
【0004】
この高分子電解質膜のイオン伝導性を高めるためには、高分子電解質膜を薄くするか、イオン性基密度を高めることが好ましい。しかし、高分子電解質膜を薄くすると、該膜の機械的強度が低下し、膜電極接合体を製造する際に、加工しにくくなったり、取り扱いにくくなったりする。また、イオン性基密度を高めた高分子電解質膜は、含水時に該膜の長さ方向に寸法が増大しやすく、さまざまな弊害を生じやすい。たとえば、反応により生成した水や、燃料ガスとともに供給される水蒸気等により高分子電解質膜が膨潤し、膜電極接合体は、セパレータ等で拘束されているため、高分子電解質膜の寸法増大分は局部的な応力集中の原因となる。また、燃料電池の作動条件によっては逆に高分子電解質膜が乾燥収縮する。この膨潤・収縮のサイクルで高分子電解質膜が破損し発電性能の低下や故障の原因となる場合がある。
【0005】
特許文献1にはフッ素系プロトン伝導性ポリマーや炭化水素系イオン伝導性ポリマーを含フッ素ポリマーと溶媒を含む紡糸原液を用いた電界紡糸法にて製造されたフッ素系不織布で補強した、高分子電解質膜が開示されている。
【0006】
また、特許文献2にはメルトブロー法で得られるポリエーテルエーテルケトン系不織布が提案され、特許文献3では、レーザー光で熱可塑性樹脂を溶融させて電解紡糸し不織布とする方法も提案されている。
【0007】
一方、特許文献4ではポリマー溶液の泡を利用して電解紡糸し、不織布を得る方法が提案され、特許文献5にはイオン性基含有ポリマーとイオン性基非含有ポリマーの非相溶性を利用してまずナノファイバーを作製し、シート状にした後に、加熱溶融でイオン性基非含有ポリマーを溶融してイオン伝導性複合高分子膜とする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−243419号公報
【特許文献2】特開2008−81893号公報
【特許文献3】特開2009−299212号公報
【特許文献4】特開2008−25057号公報
【特許文献5】特開2010−21126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは以下の課題があることを見出した。
【0010】
まず、特許文献1に記載の不織布で補強した高分子電解質膜の製造方法としては、不織布に、プロトン伝導性ポリマーを含む溶液を塗布または含浸させる方法(a−1−1)や、不織布に、プロトン伝導性ポリマーの分散液を塗布または含浸させる方法(a−1−2)や、不織布に、プロトン伝導性ポリマーの膜状物を積層する方法(a−2)が記載されている。ここで、(a−1−1)のように、一旦プロトン伝導性ポリマーが溶液化すればともかく、(a−1−2)や(a−2)のようにプロトン伝導性ポリマーが固体状のままでは、密着性が不十分であり、燃料ガスの透過性が大きくなる問題があった。
【0011】
そしてさらに、(a−1−1)のように、プロトン伝導性ポリマーを溶液化させる方法では、不織布がポリマー溶液から紡糸されている、すなわち紡糸時の溶媒をプロトン伝導性ポリマーの溶液化に用いると不織布が溶解してしまうという問題があり、使用する溶媒が制限される問題があった。
【0012】
ここで、特許文献2,3では不織布となるポリマーを溶液から紡糸しないが、特許文献2のようなメルトブロー法で得られる不織布は平均繊維径が太く、電解質膜と複合しても、逆に欠陥や膜破れの起点となり使用できなかった。そして、特許文献3のようなレーザー光で熱可塑性樹脂を溶融させる方法では、レーザーで加熱するため温度制御が難しくポリマーの熱分解が起こりやすい上、装置が高価で生産性が悪いといった問題があった。さらにいずれの方法も、結局は上記密着性が不十分になる問題は内在している。
【0013】
そして、特許文献4のポリマー溶液の泡を利用して電解紡糸する方法も、生産性が改善されているが、溶媒に可溶なポリマーにのみにしか適用できないため、上述のとおり、電解質ポリマー溶液を塗布・含浸させる工程で、使用する溶媒が制限される問題があり、高性能な複合化高分子電解質膜の設計に制約があった。また、溶媒に不溶なポリエーテルケトンなどの結晶性ポリマーは適用できなかった。
【0014】
最後に特許文献5においても、イオン性基含有ポリマーとイオン性基非含有ポリマーの「非相溶性」を利用していることから、上述のとおり、やはり高性能な複合化高分子電解質膜の実現は困難であった。
【0015】
本発明はメルトブロー法やレーザー溶融による電解紡糸方法を用いることなく、高分子電解質との複合に適した溶剤難溶性の芳香族炭化水素系ポリマー繊維を含む複合化高分子電解質膜の製造方法を提供する。また、イオン伝導性が優れ、かつ含水寸法変化および含水時の機械的強度の低下が抑制された複合化高分子電解質膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法は芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜を含む複合化高分子電解質膜の製造方法であって、可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーと溶媒からなる紡糸原液を用いた電解紡糸による不織布化工程、得られた不織布に電解質ポリマー溶液を含浸させる工程を有し、高分子電解質溶液を含浸させる工程より前に可溶性付与基を除去して、紡糸した芳香族炭化水素系ポリマー繊維を電解質ポリマー溶液に不溶化することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の複合化高分子電解質膜は、芳香族炭化水素系ポリマー不織布と高分子電解質を含む複合化高分子電解質膜であって、芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質が同じポリマー構造であり、相溶性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法は溶剤難溶性の芳香族炭化水素系ポリマー繊維を生産性高く製造できることから、電解質ポリマー溶液に使用する溶媒に制約がなくなり、該繊維からなる機械的強度、耐熱性、耐酸性、耐溶剤性に優れた不織布得られるとともに、該不織布への電解質ポリマー溶液の含浸性が向上できる。また本発明の複合化高分子電解質膜は、プロトン伝導性が優れ、乾湿サイクルでの寸法変化が小さく、湿潤時の機械的強度が向上できるため、高温・低加湿発電性能が優れ、かつ発電耐久性の優れた燃料電池が実現できる。特に自動車用や家庭用燃料電池など80℃を越える高温で相対湿度60%以下の低加湿条件下で作動する燃料電池用途に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電解紡糸による不織布製造装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態の詳細を説明する。
【0021】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法は芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜を含む複合化高分子電解質膜の製造方法であって、可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーと溶媒からなる紡糸原液を用いた電解紡糸工程、得られた芳香族炭化水素系ポリマー繊維を不織布化する工程、および得られた芳香族炭化水素系ポリマー不織布に高分子電解質溶液を含浸させる工程を有し、高分子電解質溶液を含浸させる工程より前に可溶性付与基を除去して、紡糸した芳香族炭化水素系ポリマー繊維を高分子電解質溶液に不溶化することが必須である。
【0022】
発明者らは、複合化高分子電解質膜の設計指針として、結晶化能を有する、分子鎖中に相互作用が強い部分があり疑似架橋的な構造を示す、分子量が極めて大きいなどの溶剤に難溶な芳香族炭化水素系ポリマー繊維を主体とすることにより、機械的強度、耐熱性、耐酸性、耐溶剤性の優れた複合化高分子電解質膜に適した不織布が得られることを着想した。
【0023】
また、芳香族炭化水素系ポリマー繊維と同じポリマー構造で相溶性のある高分子電解質膜との複合化は、複合化高分子電解質膜の機械的強度、耐熱性、耐酸性、耐溶剤性が優れるだけではなく、優れたプロトン伝導性と湿潤時の機械的強度が向上の両立が可能となる。
【0024】
さらには複合化高分子電解質膜中の芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜が同じポリマー構造で相溶性を有することにより、補強効果を有する芳香族炭化水素系ポリマー繊維とマトリックスになる高分子電解質膜の界面の親和性が良好になり、両者の含水性に起因する寸法変化による界面剥離が抑制でき、特に自動車用や家庭用燃料電池など80℃を越える高温で相対湿度60%以下の低加湿条件下で、停止・運転を繰り返すような運転を模擬した乾湿サイクル発電試験でも優れた耐久性を示すことも見出した。
【0025】
しかしながら、上記溶媒に難溶なポリマー系を使用した、複合化高分子電解質膜として使用できるような繊維および不織布の製造は、これまでの知られている技術ではなし得ることができなかった。つまり、芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜は同じポリマー構造と相溶性を有するため、芳香族炭化水素系ポリマー繊維の電解紡糸工程で使用する溶媒と高分子電解質溶液を含浸する工程で使用する溶媒は一般的に同じ溶媒系を使用することになり、該含浸工程で芳香族炭化水素系ポリマー繊維が高分子電解質溶液に溶解し、プロトン伝導パスを遮断し、複合化高分子電解質膜としての性能を著しく低下させる。
【0026】
そこで、発明者らは、上記溶媒に難溶なポリマー系に可溶性付与基を導入して溶媒に可溶化することによって、電解紡糸法により溶媒難溶化繊維の前駆体を含む不織布が製造可能となることを着想した。そして高分子電解質溶液を該不織布に含浸させる工程より前に、該可溶性付与基を除去する事により、該繊維前駆体を高分子電解質溶液に不溶化できること見出し、高分子電解質溶液の含浸工程でも、芳香族炭化水素系ポリマー繊維を主体とする不織布が高分子電解質溶液に溶解し、プロトン伝導性を阻害する現象を抑制に成功した。
【0027】
本発明の複合化高分子電解質において、同じポリマー構造とは、ポリマーの主成分の芳香族炭化水素構造を結合する基が同じであれば、同じポリマー構造とする。例えば芳香族炭化水素系ポリマー繊維がポリエーテルケトン構造を含む骨格であれば、高分子電解質膜もポリエーテルケトン構造を含む骨格のことであり、ケトン基とエーテル基の間の芳香族炭化水素の部分は特に制限はなく、同じであっても異なっていてもよい。芳香族炭化水素系ポリマー繊維についてはその部分はフェニルやビフェニル構造が可溶性付与基除去後の耐溶剤性の観点から好ましい。また、スルホン酸基などの置換基の有無は関係なく、含有量や置換基の種類が異なっていても芳香族炭化水素構造を結合する基が同じであれば同じポリマー構造を含むこととする。
【0028】
また、本発明の複合化高分子電解質膜において、相溶性とは、例えば、可溶性基付与基を導入した芳香族炭化水素系ポリマー繊維を構成するポリマー溶液と高分子電解質膜を構成するポリマー溶液を別々に準備し、混合して混合溶液とし、流延塗布してシート状に乾燥後、可溶性基付与基を除去してフィルムを得た場合、共連続構造となったり、目視で反対方向が透けて見える程度に互いに混じりあえる構造となったりすることを意味する。本発明の複合化高分子電解質膜においては、芳香族炭化水素系ポリマー繊維は高分子電解質溶液には不溶化するが、該繊維表面は高分子電解質溶液に一部膨潤し、芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質の界面が互いに混じり合った状態となり、吸湿乾燥の寸法変化で容易に剥離しない状態が形成できる。同じポリマー構造を有していても、選択する芳香族炭化水素の構造によっては芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質の相溶性が不十分なケースも考えられ、本発明の複合化高分子電解質膜は相溶性も考慮したポリマー構造設計が重要である。
【0029】
相溶性を向上する目的で、芳香族炭化水素系ポリマー繊維を構成するポリマーに複合する高分子電解質膜が有するイオン性基を導入することも好ましい。この場合のイオン性基密度は、湿潤時の寸法変化低減、機械的強度が向上の観点から、芳香族炭化水素系ポリマー繊維の方が小さい方が好ましく、複合する高分子電解質のイオン性基密度の50%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0030】
まず、可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーについて説明する。
【0031】
本発明における芳香族炭化水素系ポリマーとは芳香環を主鎖または側鎖に含有し、炭素と結合したフッ素より水素の方が多いポリマーからなる繊維であり、機械強度や化学的安定性などの点から、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーがさらに好ましい。すなわち、主鎖構造は、芳香環を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばエンジニアリングプラスチックとして使用されるような十分な機械強度を有するものが好ましい。
【0032】
本発明の芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有するポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造を限定するものではない。
【0033】
前記ポリマーのなかでも、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン(PEK)等のポリマーが機械強度と燃料電池用電解質膜としたときの耐水性、耐酸性など耐久性の面からより好ましい。PEK系ポリマーを例に挙げて説明すると、そのパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に溶解しない性質がある。
【0034】
これに対し、本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法は、芳香族炭化水素系ポリマー中に可溶性付与基を含有させることにより、特にこれまで溶液化が困難なものが多かったPEKポリマー等の結晶性の芳香族炭化水素系ポリマーの結晶性を低減させることで溶媒への溶解性を付与し、電解紡糸や溶液製膜に使用できるようにしたものである。
【0035】
また、本発明では電解紡糸で繊維状に成形され不織布化した後や溶剤を乾燥し膜状に成形した後には、該ポリマーの分子鎖のパッキングを良くし、分子間凝集力や再び結晶性を付与させるために可溶性付与基の一部を除去せしめ、再び溶剤不溶化する必要がある。
【0036】
本発明の芳香族炭化水素系ポリマーに使用する可溶性付与基としては、有機合成で一般的に用いられる加水分解性基などがあげられ、該加水分解性基とは、後の段階で、加水分解で除去することを前提に、一時的に導入される置換基である。この可溶性付与基は溶媒溶解性や除去時の反応性や収率、可溶性付与基含有状態の安定性、製造コスト等を考慮して適宜選択することが可能である。また、重合反応において可溶性付与基を導入する段階としては、モノマー段階からでも、オリゴマー段階からでも、ポリマー段階でもよく、適宜選択することが可能である。
【0037】
PEK系ポリマーを例に挙げて説明すると、ケトン部位をアセタールまたはケタール部位で置換し可溶性付与基とする方法、ケトン部位をアセタールまたはケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオアセタールやチオケタールで置換し可溶性付与基とする方法が挙げられる。また、スルホン酸を可溶性エステル誘導体として可溶性付与基とする方法、芳香環に可溶性付与基としてt−ブチル基を導入する方法等が挙げられ、可溶性付与効果と後工程で除去可能であれば、これらに限定されることなく好ましく使用できる。一般的な溶剤に対する溶解性を向上させ、結晶性を低減する点では、立体障害が大きいという点で脂肪族基、特に環状部分を含む脂肪族基が可溶性付与基として好ましく用いられる。
【0038】
可溶性付与基を導入する位置としては、ポリマーの主鎖に存在する官能基であることがより好ましい。ここで、ポリマーの主鎖に存在する官能基とは、その官能基を削除した場合にポリマー鎖が切れてしまう官能基と定義する。例えば、芳香族ポリエーテルケトンのケトン基を削除するとベンゼン環とベンゼン環が切れてしまうことを意味するものである。
ポリマーの主鎖に存在する官能基に可溶性付与基を導入すれば、可溶性付与基を除去した場合に芳香族炭化水素系ポリマーの分子鎖のパッキングを良くし、分子間凝集力や再び結晶性を付与しやすい。
【0039】
次ぎに可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーと溶媒からなる紡糸原液を用いた電解紡糸工程、得られた芳香族炭化水素系ポリマー繊維を不織布化する工程について説明する。
【0040】
前記可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーを紡糸原液とする際に使用する溶媒としては、可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーが溶解可能であれば特に制限はない。溶解性や取り扱い性、コストの面などからN−メチル−2−ピロリドン、N、N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミドなどの有機極性溶媒が望ましく、また、これらの混合物であってもよい。溶解温度には特に限定はなく、室温下であっても、加熱下であってもよい。可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーが析出しない範囲で、水やアルコール類、メチルセロソルブ類、テトラヒドロフラン、トルエンなど低沸点の溶媒を加えてもよい。また、紡糸原液の延伸性を付与する目的で、エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールの添加も好ましく、芳香族炭化水素系ポリマーにスルホン酸基やカルボン酸基などのイオン性基が導入されている場合は特に好ましい。
【0041】
上記紡糸原液を用いた電解紡糸工程も特に制限はなく通常公知の方法、設備が使用できる。電解紡糸とは、紡糸原液に高電圧を印加することによって電気的に繊維を紡糸する方
法である。通常の不織布設備を用いて直径5μm以下の繊維を主体とする不織布を製造することは、条件的にも厳しく、原料の粘度、延伸性等、多くの制約がある。一方、電解紡糸法は、紡糸原液を用いた紡糸法であるため、その乾燥過程において体積収縮が起こること、および紡糸原液が低粘度あるため、極細ノズルでの成形が可能であることにより、直径5μm以下の連続繊維を得やすい。
【0042】
得られた芳香族炭化水素系ポリマー繊維を不織布化する工程についても、電解紡糸工程においては、紡糸原液からの固化と延伸による紡糸とが同時に、または逐次的に起こるため、紡糸した繊維をターゲットに直接捕捉することで繊維同士が結合した不織布として得ることができる。また、得られた繊維を短繊維としフリースを形成し、通常の乾式方や水中に分散して抄紙工程など不織布化する湿式法で不織布化してもよい。その場合はフリースを結合する方法として、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、水流絡合法などが利用できる。
【0043】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法においては、繊維径が細い方が好ましいため、生産性の観点から電解紡糸で得られた繊維をターゲット上に直接捕捉、集積する不織布化方法が好ましい。
【0044】
電解紡糸による不織布化工程の一例を図1に示す。不織布製造装置は、紡糸原液が充填されるシリンジ10と、シリンジの針20に対向するように、コンベア式ドラム30と、シリンジの針20とコンベア式ドラム30との間に高電圧を印加する高電圧電源40と、シリンジのプランジャー部分を吐出方向に一定速度で動かすことで一定の流量で紡糸原液をシリンジから吐出させるシリンジポンプ50とを具備する。
【0045】
まず、シリンジ10内に紡糸原液を充填する。コンベア式ドラム30を回転させながら、高電圧電源によってシリンジの針20とコンベア式ドラム30との間に高電圧を印加する。シリンジポンプ50を作動させシリンジの針20の先から紡糸原液を一定の速度で吐出させる。針の先端に電圧を印加した際、静電的な引力が紡糸原液の表面張力を超えると、紡糸原液が針の先端においてTaylor coneと呼ばれる円錐状に変形し、さらに該coneの先端は引き伸ばされる。引き伸ばされた紡糸原液は、正に帯電した紡糸原液の静電反発により微細化する。微細化した紡糸原液から溶媒が瞬時に蒸発し、極細の繊維が形成される。正に帯電した繊維は、負に帯電したコンベア式ドラム30に付着する。該繊維が回転するコンベア式ドラム30上にしだいに堆積することにより、コンベア式ドラム30上に不織布が形成される。
【0046】
電解紡糸工程においては、紡糸原液の粘度は適宜実験的に決定することができるが、0.1〜100Pa・secが好ましく、1〜10Pa・secがより好ましい。また、紡糸原液の吐出量は、シリンジ一本あたり0.001cc/min〜1cc/minの範囲が好ましく、針の先端の内径は、0.1〜2mmが好ましく、0.1〜1mmがより好ましい。針の先端からドラムまでの距離は、5〜20cmが好ましい。針とドラムとの間に印加する電圧は、5〜100kVが好ましい。製造する芳香族炭化水素系ポリマー不織布の幅、長さ、厚みによりシリンジの数やドラムの周速度や繊維捕集用基材の送り速度は適宜実験的に決めることができる。また、ロールトゥロールで芳香族炭化水素系ポリマー繊維の捕集用基材を供給したり、コンベア式ドラムの一定個所から不織布を剥がしとり巻き取り機で巻きとったりすることで連続的に芳香族炭化水素系ポリマー不織布を製造することも好ましい例である。
【0047】
本発明の電解紡糸工程で得られる芳香族炭化水素系ポリマー不織布の繊維径としては5μm以下の繊維を主体とすることが好ましい。ここでの主体とは電子顕微鏡などで観察した場合、観察視野内の繊維の50%以上を占めるという意味である。5μm以下の繊維を主体とすることで複合化高分子電解質膜の薄膜化が可能でありプロトン伝導性の観点から好ましい。また、繊維径が5μm以上の繊維のみからなる不織布では、複合化高分子電解質膜を薄膜化するためには、繊維の重なりを減らす、すなわち単位面積あたりの繊維量(以下目付量)を低く設計することになるが、必然的に繊維間の距離が広がり、最大孔径が大きくなり、膜厚方向でみると局所的に複合化されていない部分が生じる場合がある。その部分は、複合化高分子電解質膜の厚みによっては、複合化高分子電解質膜の劣化のトリガーとなる可能性があるので、この現象を防止する目的として、平均径5μm以下の繊維を主体とすることが好ましい。特に1μm以下の繊維を主体とする不織布が、複合化高分子電解質膜の厚みの増大によるプロトン伝導性の低下を抑制でき、かつ膜厚方向に複合化されていない部分を低減することができる。0.5μm以下の繊維を含むことがさらに好ましい。また、ポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系ポリマーやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレートなどの溶媒に不溶な素材からなる不織布や抄紙体や織物を芳香族炭化水素系ポリマー繊維の捕集基材とし、電解紡糸で芳香族炭化水素系ポリマー繊維を積層し複合不織布として本発明に使用してもよい。その場合、捕集基材に直径5μm以上の繊維を含んでいても差し支えないが、繊維間の空隙は直径5μm以下の繊維の集合体で面方向から見て塞がれている状態が好ましい。
【0048】
また、複合化高分子電解質膜の全面に繊維が存在するような構造が、好ましく、繊維は複数層積層されている状態が好ましい。
【0049】
このような、繊維径0.5μm以下の芳香族炭化水素系ポリマーの繊維を効率よく製造するためには、前述したエチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールを紡糸原液に添加する技術を採用することが好ましい。多価アルコールの添加により紡糸原液中の可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーの濃度が低い設定でも糸が断裂することなく電解紡糸が可能となり、0.5μm以下の繊維を得るのに極めて有効であることを発見した。
【0050】
このような0.5μm以下の繊維径にする場合は、紡糸原液中の可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーの濃度は15重量%以下が好ましく、多価アルコールの添加量は紡糸原液中に0.1%以上10%以下の添加が好ましい。多価アルコールとポリマーとの作用により水素結合数が増加し、疑似的な架橋により見掛けの分子量が大きくなり、低い固形分でも曳糸性が向上し、0.5μm以下の長繊維からなる不織布化が可能となる。特にグリセリンの添加が最も効果的である。
【0051】
次ぎに得られた芳香族炭化水素系ポリマー不織布に高分子電解質溶液を含浸させる工程について説明する。
【0052】
本発明に使用できる高分子電解質については、特に制限されないが、例としてイオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレンなどの、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。
【0053】
ここでの、イオン性基については、負電荷を有する原子団であれば特に限定されるものではないが、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。かかるイオン性基は塩となっている場合を含むものとする。前記塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR4+(Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されるものではなく、使用することができる。
【0054】
好ましい金属イオンの具体例を挙げるとすれば、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、W、Pt、Rh、Ru、Ir、Pd等が挙げられる。これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、中でも、安価で、溶解性に悪影響を与えず、容易にプロトン置換可能なNa、Kがより好ましく使用される。また、イオン性基は金属塩以外にエステルなどに置換されていてもよい。
【0055】
これらのイオン性基は前記高分子電解質中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0056】
近年、自動車用燃料電池や家庭用燃料電池など本格普及のためには水管理システムの簡素化が重要と考えられ、発電条件が80℃を越える高温で相対湿度60%以下の低加湿条件下となる場合がある。従って、このような高温低加湿化で十分な発電性能を発揮するためには、高分子電解質のイオン性基密度は2.0mmol/g以上が好ましく、芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜を含む複合化高分子電解質膜のイオン性基密度は1.5mmol/g以上が好ましい。
【0057】
高分子電解質を溶解する溶媒も特に制限はなく、上記イオン性基含有ポリマーによって選択できる。例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられ、単独でも二種以上の混合物でもよい。
【0058】
また、電解質溶液の粘度調整にメタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などの各種低沸点溶剤も混合して使用できる。
【0059】
芳香族炭化水素系ポリマー不織布に高分子電解質溶液を含浸する方法についても通常公知の方法を採用できる。
【0060】
例えば、芳香族炭化水素系ポリマー不織布を高分子電解質溶液中に浸漬し、(1)引き上げながら余剰の高分子電解質溶液を除去して膜厚を制御する方法や、(2)芳香族炭化水素系ポリマー不織布上に高分子電解質溶液を流延塗布する方法、(3)高分子電解質溶液を流延塗布した別の基材上に芳香族炭化水素系ポリマー不織布を積層し高分子電解質溶液を含浸させる方法などが挙げられる。また、(1)および(2)の方法でも別の基材に貼り付けて高分子電解質溶液中の溶媒を乾燥する方法が、複合化高分子電解質膜の皺や厚みムラなどが低減でき、膜品位の点で好ましい。
【0061】
複合化高分子電解質膜に使用する別の基材としては通常公知の材料が使用できるが、ステンレスなどの金属からなるエンドレスベルトやドラム、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリスルホンなどのポリマーからなるフィルム、硝子、剥離紙などが挙げられる。金属などは表面に鏡面処理を施したり、ポリマーフィルムなどは塗工面にコロナ処理を施したり、剥離処理をしたり、ロール状に連続塗工する場合は塗工面の裏に剥離処理を施し、巻き取った後に電解質膜と塗工基材の裏側が接着したりするのを防止することもできる。フィルム基材の場合、厚みは特に限定がないが、30μm〜200μmがハンドリングの観点から好ましい。
【0062】
流延塗工方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、グラビアコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、リバースコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。含浸時に減圧や加圧、高分子電解質溶液の加温、基材や含浸雰囲気の加温などを実施し含浸性の向上を図ることも、プロトン伝導性の向上や生産性の向上に有効である。
【0063】
本発明で得られる複合化高分子電解質膜の膜厚としては特に制限がなく、使用する芳香族炭化水素系ポリマー不織布により決定することができるが、通常3〜500μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには3μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには500μmより薄い方が好ましい。膜厚のより好ましい範囲は5〜200μm、さらに好ましい範囲は10〜100μmである。この膜厚は、高分子電解質溶液の塗工方法により種々の方法で制御できる。例えば、コンマコーターやダイレクトコーターで塗工する場合は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができ、スリットダイコートでは吐出圧や口金のクリアランス、口金と基材のギャップなどで制御することができる。
【0064】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法において、高分子電解質溶液を香族炭化水素系ポリマー不織布に含浸した後は、該塗液の溶剤を乾燥するが、乾燥時間や温度は適宜実験的に決めることができる。少なくとも基材から剥離しても自立膜になる程度に乾燥することが好ましい。その際、香族炭化水素系ポリマー不織布の耐熱性を考慮し分解温度以下で乾燥することが好ましい。使用する香族炭化水素系ポリマー不織布と得られる複合化高分子電解質膜の性能とのバランスで加熱温度は実験的に決定することが好ましく、場合によっては香族炭化水素系ポリマー不織布のガラス転位点や融点以下の温度で乾燥することも、香族炭化水素系ポリマー不織布の強度を維持する目的から好ましい。乾燥の方法は基材の加熱、熱風、赤外線ヒーター等の公知の方法が選択できる。
【0065】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法は高分子電解質溶液を含浸させる工程より前に可溶性付与基を除去して、紡糸した芳香族炭化水素系ポリマー繊維を高分子電解質溶液に不溶化する必要がある。可溶性付与基の除去方法は導入した可溶性付与基により適宜選択でき、酸やアルカリ溶液などの化学的処理や加熱処理、紫外線処理、放射線処理などが挙げられ、これらを組み合わせて使用できる。中でも、可溶性付与基由来成分の残留を低減する目的においては、酸水溶液などの化学的処理や熱風による加熱処理が好まし。さらには、電圧、捕集基材温度、紡糸雰囲気温度などの条件を制御し、電解紡糸工程と同時に芳香族炭化水素系ポリマーの可溶性付与基を除去することが、生産性の観点から最も好ましい。
【0066】
また、本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法では、複合化電解質膜中のスルホン酸基などのイオン性基が金属塩の状態で使用される場合、酸性水溶液と接触させ、金属塩をプロトン交換する工程を有することが好ましい。また、複合化高分子電解質膜を水や酸性水溶液に接触させることにより、製造過程で残留した、膜中の水溶性の不純物、残存モノマー、溶媒、残存塩などが除去可能であり、さらに前述の可溶性付与基を高分子電解質溶液にも含む場合はこの工程で除去できる。水、酸性水溶液は反応促進のために加熱してもよい。酸性水溶液は硫酸、塩酸、硝酸、酢酸など特に限定されず、温度、濃度等は適宜実験的に選択可能である。生産性の観点から80℃以下の30重量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
【0067】
特に、複合化高分子電解質膜を連続的に製造する際には、基材などの支持体に貼り付けたまま、水および/または酸性溶水液との接触を行なうことが好ましい。基材から剥離せず水および/または酸性溶水液に接触させることで、膨潤による膜の破断や乾燥時の皺や表面欠陥を防止できる。特に、複合化高分子電解質膜としての厚みが薄い場合に有効である。複合化高分子電解質膜が薄い場合は液体膨潤時の機械的強度が低下し製造時の膜の破断が発生しやすくなり、さらに水および/または酸性溶水液との接触後の乾燥時に皺が入り、表面欠陥が発生しやすくなる。例えば、乾燥時で厚み50μm以下の複合化高分子電解質膜を製造する場合は、基材から膜状物を剥離することなく水および/または酸性溶水液との接触を行なうことが好ましく、厚み30μm以下ではより好ましい。
【0068】
また、本発明の複合化高分子電解質膜中には機械的強度の向上およびイオン性基の熱安定性向上、耐水性向上、耐溶剤性向上、耐ラジカル性向上、塗液の塗工性の向上、保存安定性向上などの目的のために、架橋剤や通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤、離型剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、無機微粒子、ポリエーテルケトンやポリフェニレンスルフィドのフィラーまたは微粒子などの添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0070】
A.イオン酸基密度
下記手順を5回行い、最大値と最小値を除いた3点の平均値をイオン酸基密度(mmol/g)とする。濃度の単位は重量%、重量の単位はgである。
(1)作製した電解質膜を5cm×5cmに切り取り真空乾燥機にて80℃12時間以上減圧乾燥後、重量(Wm)を正確(小数点下4桁)に測定した。
(2)蓋付きのサンプル瓶に約0.2wt%のKCl水溶液約30ml準備し、KCl水溶液の重量(Wk)とKイオン濃度(C)を測定した。Kイオン濃度は大塚電子製キャピラリー電気泳動装置”CAPI-3300”で測定した。測定条件は下記の通りである。
【0071】
測定方式:落差法(25mm)
泳動液:大塚電子製 陽イオン分析用泳動液5(α-CFI105)
測定電圧:20kV
(3)重量とKイオン濃度既知のKCl水溶液に上記電解質膜を2時間浸漬した。
(4)該KCl水溶液のKイオン濃度(C)を再度キャピラリー電気泳動装置で測定した。測定した値から、下記式に従いスルホン酸基密度を算出した。
スルホン酸基密度(mmol/g)=〔{Wk×(C−C)×1000}/39〕/Wm
B.繊維径の測定方法
光学顕微鏡または走査形電子顕微鏡(SEM)で芳香族炭化水素系ポリマー不織布を観察し、画面上の任意繊維の直径を20箇所計測した平均値で示した。また繊維径が計測困難な場合や複合化高分子電解質膜は下記方法で観察した。
【0072】
60℃で24時間減圧乾燥した複合化高分子電解質膜をカッターで切り出し、電顕用エポキシ樹脂(日新EM社製Quetol812)で包埋し、60℃のオーブン中で48時間かけて該エポキシ樹脂を硬化させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ社製Ultracut S)で厚さ約100nmの超薄切片を作製した。
【0073】
作製した超薄切片を応研商事社製100メッシュのCuグリッドに搭載して、日立製透過型電子顕微鏡H-7100FAを使用し加速電圧100kVでTEM観察を行い、繊維径を測定した。
【0074】
C.膜厚
ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。
【0075】
D.粘度測定
回転型粘度計(レオテック社製レオメータRC20型)を用いて剪断速度100(s−1)の条件で温度25℃の粘度を測定した。ジオメトリーは(試料を充填するアタッチメント)コーン&プレートを使用して、RHEO2000ソフトウェアで得られた値を採用した。コーンはC25−1(2.5cmφ)を使用し、測定困難な場合は(10poise未満)C50−1(5.0cmφ)に変更した。
【0076】
E.複合化高分子電解質寸法変化率
電解質膜を6cm×1cmの短冊状に切り出し、長尺側の両端から約5mmのところに標線を記入した(標線間距離5cm)。前記サンプルを温度23℃、湿度45%の恒温槽に2h放置後、素早く2枚のスライドガラスに挟み込み標線間距離(L)をノギスで測定した。さらに、同サンプルを80℃の熱水に2h浸漬後、素早く2枚のスライドガラスに挟み込み標線間距離(L)をノギスで測定し下記式に従い寸法変化率を算出した。
【0077】
寸法変化率(%)=(L−L)/L×100
F.複合化高分子電解質膜の湿潤時の引っ張り強度
JIS K7127に基づいてサンプル片はダンベル2号形の1/2サイズ(試料幅:3.0mm、試料長:16.5mm、つかみ具間40mm)を用い、装置としては恒温恒湿槽付き島津製作所製オートグラフAG-IS 100Nを使用し、200mm/minの速度で試験を行った。測定雰囲気としては80℃相対湿度94%で測定を行った。
【0078】
G.複合化高分子電解質膜を使用した膜電極複合体(MEA)の発電評価
(1)水素透過電流の測定
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/mPtを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、酸化極として複合化高分子電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、評価用MEAを得た。
【0079】
このMEAを英和(株)製 JARI標準セル“Ex−1”(電極面積25cm)にセットし、セル温度:80℃、一方の電極に燃料ガスとして水素、もう一方の電極に窒素ガスを供給し、加湿条件:水素ガス90%RH、窒素ガス:90%RHで試験を行った。OCVで0.2V以下になるまで保持し、0.2〜0.7Vまで1mV/secで電圧を掃引し電流値の変化を調べた。本実施例においては下記の起動停止試験の前後で測定し0.6V時の値を調べた。膜が破損した場合、水素透過量が多くなり透過電流が大きくなる。また、この評価はSolartron製電気化学測定システム(Solartron 1480 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency ResponseAnalyzer)を使用して実施した。
【0080】
(2)耐久性試験
上記セルを使用し、セル温度:80℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件:水素ガス60%RH、空気:50%RHの条件で試験を行った。条件としては、OCVで1分間保持し、1A/cmの電流密度で2分間発電し、最後に水素ガスおよび空気の供給を停止して2分間発電を停止し、これを1サイクルとして繰り返す耐久性試験を実施した。耐久性試験前と3000サイクル後に上記水素透過電流の測定を実施しその差を調べた。また、この試験の負荷変動は菊水電子工業社製の電子負荷装置“PLZ664WA”を使用して行った。
【0081】
(3)低加湿下での発電評価
上記燃料電池セルをセル温度80℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件;アノード側30%RH/カソード30%RH、背圧0.1MPa(両極)において電流−電圧(I−V)測定した。電流−電圧曲線の電流と電圧の積が最高になる点を電極面積で割った値を出力密度とした。
【0082】
〔合成例1;可溶性付与基を有するモノマー〕
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン(G1)の合成
モンモリロナイトクレイK10(150g)、ジヒドロキシベンゾフェノン99gをエチレングリコール242mL/オルトギ酸トリメチル99mL中、生成する副生成物を蒸留させながら110℃で反応させた。18h後、オルトギ酸トリメチルを66g追加し、合成48h反応させた。反応溶液に酢酸エチル300mLを追加し、濾過後、2%炭酸水素ナトリウム水溶液で4回抽出を行った。さらに、濃縮後、ジクロロエタンで再結晶する事により目的の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランを得た。
【0083】
〔合成例2;イオン性基を有するモノマー〕
ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(G2)の合成
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。
【0084】
〔参考例1;可溶性基付与基を有する芳香族炭化水素系ポリマーの紡糸原液Aの製造例〕
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、4,4’−ビフェノール37g(アルドリッチ試薬)、合成例1で合成した可溶性付与基を有するモノマー2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン207g、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン223g(アルドリッチ試薬)、を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1500g、トルエン500gを加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム152g(アルドリッチ試薬)を加え、環流しながら160℃で脱水後に昇温してトルエン除去し、190℃で1時間脱塩重縮合を行った。次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加して希釈した。
次ぎに、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、粘度が5Pa・sになるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して紡糸原液Aを得た。
【0085】
〔参考例2;可溶性基付与基を有する芳香族炭化水素系ポリマーの紡糸原液Bの製造例〕
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン43g(アルドリッチ試薬)、合成例1で合成した可溶性付与基を有するモノマー2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン207g、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン200g(アルドリッチ試薬)、(アルドリッチ試薬)、および合成例2で合成したイオン性基を含有するモノマーであるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン44gを入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1700g、トルエン500g、重合安定剤として18−クラウン−6 24g(和光純薬試薬)を加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム276g(アルドリッチ試薬、2.0mol)を加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、190℃で1時間脱塩重縮合を行った。得られたポリマーのイオン性基密度は0.45mmol/gで、重量平均分子量は36万であった。次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加し、次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加して希釈した。
【0086】
次ぎに、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、粘度が10Pa・sになるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して紡糸原液Bを得た。
【0087】
〔参考例3;可溶性基付与基を有する芳香族炭化水素系ポリマーの紡糸原液Cの製造例〕
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、4,4’−ビフェノール37g(アルドリッチ試薬)、合成例1で合成した可溶性付与基を有するモノマー2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン207g、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン223g(アルドリッチ試薬)、を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1500g、トルエン500gを加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム152g(アルドリッチ試薬)を加え、環流しながら160℃で脱水後に昇温してトルエン除去し、190℃で1時間脱塩重縮合を行った。次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加して希釈した。
【0088】
次ぎに、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、粘度が1Pa・sになるまでNMPを除去した。この液に対してグリセリンを3重量部添加し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して紡糸原液Cを得た。
【0089】
〔参考例4;高分子電解質溶液Aの製造例〕
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、合成例1で合成した可溶性付与基を有するモノマー2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン129g、4,4’−ビフェノール93g(アルドリッチ試薬)、および合成例2で合成したイオン性基を含有するモノマーであるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン422g(1.0mol)を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3000g、トルエン450g、重合安定剤として18−クラウン−6 232g(和光純薬試薬)を加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム304g(アルドリッチ試薬)を加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。得られたポリマーのイオン性基密度は3.52mmol/gで、重量平均分子量は32万であった。次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加して希釈し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、粘度が2Pa・sになるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して高分子電解質溶液Aを得た。
【0090】
実施例1
紡糸原液Aを使用し、カトーテック社製エレクトロスピニングユニットを使用し、電圧40kV、シリンジポンプ吐出速度0.05cc/min、トラバース速度50mm/min、ドラム式ターゲット(直径100mm)の周速度0.8m/min、シリンジとターゲット間の距離100mmの条件で電解紡糸を実施した。
【0091】
得られた芳香族炭化水素系ポリマー繊維の直径の平均は400nmであり、ターゲット上に繊維を捕集し厚み15μmの芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aを得た。
【0092】
この芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aの一部切り出しNMPに浸漬したところ、不溶物が見られ、可溶性付与基が電解紡糸工程で除去されていることがわかった。
【0093】
次ぎに参考例4の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aを貼り合わせて、芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aの空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aは同じ溶媒を含む高分子電解質溶液Aに溶解することなく原型を保ったままであった。次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間、150℃で20分間、溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で40℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で再乾燥後、PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Aを得た。製造した芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質は同じポリマー構造で相溶性を有していた。
【0094】
この複合化高分子電解質膜Aのイオン性基密度は2.6mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Aを使用し寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は50MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Aを使用した燃料電池の低加湿下での出力は550mW/cmであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.40mA/cmで評価後は0.51mA/cmであり耐久性が良好であった。
【0095】
実施例2
紡糸原液Bを使用し、電圧を20kVにした以外は、実施例1と同様に電解紡糸を実施し、平均繊維径450nmの芳香族炭化水素系ポリマー繊維からなる、厚み20μmの芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bを得た。この芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bの可溶性付与基除去工程として、60℃の10重量%の硫酸水溶液に60分間浸漬し、可溶性付与基を加水分解で除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で熱風乾燥した。この可溶性付与基除去後の芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bの一部を切り出しNMPに浸漬したところ、不溶物が見られた。
【0096】
次ぎに参考例4の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bを貼り合わせて、芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bの空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bは同じ溶媒を含む高分子電解質溶液Aに溶解することなく原型を保ったままであった。次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間、150℃で20分間、溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で40℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で熱風乾燥後PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Bを得た。製造した芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質は同じポリマー構造で相溶性を有していた。
【0097】
この複合化高分子電解質膜Bのイオン性基密度は2.8mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Bを使用し寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は60MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Bを使用した燃料電池の低加湿下での出力は590mW/cmであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.55mA/cmで評価後は0.60mA/cmであり耐久性が良好であった。
【0098】
比較例1
実施例2の芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bの可溶性付与基除去工程を採用しなかった以外は、実施例2と同様に高分子電解質溶液の含浸工程を実施し、複合化高分子電解質膜Cを得た。しかし、芳香族炭化水素系ポリマー繊維が高分子電解質溶液Aに溶解し原形をとどめておらず、TEMでも繊維が観察できなかった。この複合化高分子電解質膜Cのイオン性基密度は2.8mmol/gであり、寸法変化率を測定したところ1.0%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は60MPaであった。しかしながら、複合化高分子電解質膜Cを使用した燃料電池の低加湿下での出力は81mW/cmであり、複合化高分子電解質膜Cの膜中に芳香族炭化水素系ポリマー不織布Bが溶解したプロトン伝導性が低い層ができていた。
【0099】
比較例2
芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aの代わりに平均繊維径300nmポリビニルアルコール製(PVA)不織布を使用し、実施例1と同様に複合化高分子電解質膜Dを得た。この複合化高分子電解質膜Dのイオン性基密度は2.5mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Dを使用し寸法変化率を測定したところ1.8%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は45MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Dを使用した燃料電池の低加湿下での出力は350mW/cmであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.55mA/cmで評価後は40.5mA/cmであり耐久性が不良であった。このPVA製不織布は電解紡糸法で製造されておらず、また高分子電解質と異なるポリマー構造で相溶性を有していなかったため、耐久性が不十分であった。
【0100】
実施例3
実施例1の電解紡糸工程のターゲット上に、平均繊維径10μmからなる目付量10g/mのポリフェニレンスルフィド(PPS)抄紙体(東レ製“トルコンペーパー(登録商標)”)をセットした以外は紡糸原液Aを使用して同様に電解紡糸を行い、平均は400nmの繊維径の芳香族炭化水素系ポリマー繊維でPPS抄紙体の空隙を埋めた、複合化芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aを得た。
【0101】
参考例4の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、得られた複合化芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aを貼り合わせて、複合化芳複合化香族炭化水素系ポリマー不織布Aの空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。複合化芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aは同じ溶媒を含む高分子電解質溶液Aに溶解することなく原型を保ったままであった。次ぎに熱風乾燥機に投入し100℃で10分間、150℃で20分間、溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で40℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で再乾燥後、PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Eを得た。複合化芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aの主体成分である芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質は同じポリマー構造で相溶性を有していた。
【0102】
この複合化高分子電解質膜Eのイオン性基密度は2.5mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Eを使用し寸法変化率を測定したところ0.6%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は80MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Eを使用した燃料電池の低加湿下での出力は530mW/cmであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.30mA/cmで評価後は0.35mA/cmであり耐久性が良好であった。
実施例4
紡糸原液Cを使用し、実施例1と同様に電解紡糸を実施し、平均繊維径150nmの芳香族炭化水素系ポリマー繊維からなる、厚み20μmの芳香族炭化水素系ポリマー不織布Cを得た。この芳香族炭化水素系ポリマー不織布Cの可溶性付与基除去工程として、60℃の10重量%の硫酸水溶液に60分間浸漬し、可溶性付与基を加水分解で除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で熱風乾燥した。この可溶性付与基除去後の芳香族炭化水素系ポリマー不織布C一部を切り出しNMPに浸漬したところ、不溶物が見られた。
【0103】
次ぎに参考例4の高分子電解質溶液Aを基材である125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)上に流延塗布し、その上に、芳香族炭化水素系ポリマー不織布Cを貼り合わせて、芳香族炭化水素系ポリマー不織布Cの空隙に高分子電解質溶液Aを含浸させた。芳香族炭化水素系ポリマー不織布Cは同じ溶媒を含む高分子電解質溶液Aに溶解することなく原型を保ったままであった。次ぎに熱板上にPET基材が接触するようにし100℃で15分間、含浸の促進と溶媒を乾燥除去した。次ぎに、PET基材にはりついたままの状態で60℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し高分子電解質のプロトン交換と可溶性付与基を除去し、洗浄水が中性を示すまで水洗を繰り返し、60℃で熱風乾燥後PET基材から剥離し、複合化高分子電解質膜Fを得た。製造した芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質は同じポリマー構造で相溶性を有していた。
【0104】
この複合化高分子電解質膜Fのイオン性基密度は3.2mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Fを使用し寸法変化率を測定したところ1.1%であり、湿潤時の引っ張り破断強度は58MPaであった。また、複合化高分子電解質膜Fを使用した燃料電池の低加湿下での出力は605mW/cmであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.45mA/cmで評価後は0.53mA/cmであり耐久性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法は、イオン伝導性が優れ、かつ乾湿サイクルでの寸法変化が小さい複合化高分子電解質膜が製造でき、本発明で得られた複合化高分子電解質膜は、種々の電気化学装置(例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)に適用可能である。これら装置の中でも、燃料電池用に好適であり、特に水素やメタノール水溶液を燃料とする燃料電池に好適であり、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ(カムコーダー)、デジタルカメラ、ハンディターミナル、RFIDリーダー、デジタルオーディオプレーヤー、各種ディスプレー類などの携帯機器、電動シェーバー、掃除機等の家電、電動工具、家庭用電力供給機、乗用車、バスおよびトラックなどの自動車、二輪車、フォークリフト、電動アシスト付自転車、電動カート、電動車椅子や船舶および鉄道などの移動体、各種ロボット、サイボーグなどの電力供給源として好ましく用いられる。特に携帯用機器では、電力供給源だけではなく、携帯機器に搭載した二次電池の充電用にも使用され、さらには二次電池やキャパシタ、太陽電池と併用するハイブリッド型電力供給源としても好適に利用できる。
【符号の説明】
【0106】
10:シリンジ
20:シリンジの針
30:コンベア式ドラム
40:高電圧電源
50:シリンジポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜を含む複合化高分子電解質膜の製造方法であって、可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーと溶媒からなる紡糸原液を用いた電解紡糸工程、得られた芳香族炭化水素系ポリマー繊維を不織布化する工程、および得られた芳香族炭化水素系ポリマー不織布に高分子電解質溶液を含浸させる工程を有し、高分子電解質溶液を含浸させる工程より前に可溶性付与基を除去して、紡糸した芳香族炭化水素系ポリマー繊維を高分子電解質溶液に不溶化することを特徴とする複合化高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
紡糸原液に多価アルコールを添加する請求項1記載の複合化高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
芳香族炭化水素系ポリマー不織布と高分子電解質を含む複合化高分子電解質膜であって、芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質が同じポリマー構造であり、相溶性を有することを特徴とする複合化高分子電解質膜。

【図1】
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【公開番号】特開2011−246695(P2011−246695A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92638(P2011−92638)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー部 共同研究「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発 次世代技術開発 自動車用高温低加湿対応新規炭化水素系電解質膜」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】