説明

複合型電波吸収体

【課題】 小型、軽量で、電波吸収性能に優れた電波吸収体を提供する。
【解決手段】 特定周波数を遮断するFSS素子配列板5の対を互いに角度をなして中空のクサビ状(或いはピラミッド状)の先が尖った立体構造体に組立てて整合型電波吸収体3を構成し、その整合型電波吸収体3をタイル型電波吸収体6と組合せ、整合型電波吸収体3の立体構造体のタイル型電波吸収体6のフェライト焼結体の平板の板面に立体構造体の底面を重ねて上下に積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波暗室に用いる電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の放射電磁波測定、外来電磁波に対する耐力測定などを行う電波暗室内には、室の天井面、側壁面、場合によっては床面に電波吸収体が設置される。電子機器の放射電磁波測定、外来電磁波に対する耐力測定などを行う場合の測定周波数は30MHz〜18GHzの広帯域に及ぶため、電波暗室内に用いる電波吸収体には、フェライト燒結タイル電波吸収体だけでは不十分のため、フェライト燒結タイルの前面に整合型電波吸収体を組み合わせる必要がある。
【0003】
整合型電波吸収体としては、従来より合成樹脂にカーボン等を分散混合させた誘電損失体をピラミッド状やクサビ状に成型したものや、軽量化や輸送コストの低減を図るために板状の誘電損失材又は表面に抵抗皮膜を形成した板状材料を中空のピラミッド状やクサビ状に組み立てたもの、さらには、高さを低くする目的で樹脂に磁性損失材を分散混合してピラミッド状やクサビ状に成型したものが用いられてきた。
【0004】
しかしながら、誘電損失材を分散混合した整合型電波吸収体を用いて充分な電波吸収性能を得るには電波吸収体に1m程度の高さが必要である。このため、電波暗室内の測定作業の有効面積を減少させてしまうという問題がある。また、板状誘電損失材を用いた中空の整合型電波吸収体によるときには、1GHz以上の周波数帯域で高い電波吸収性能を得ることが出来ない。さらに、樹脂に磁性損失材を分散混合しピラミッド状やクサビ状に成型した整合型電波吸収体によるときには、重量が大きく、高価であり、しかも、10GHz以上の周波数帯域では高い電波吸収性能を得ることが出来ないという欠点がある。
【特許文献1】特許公開2000−59067
【特許文献2】特許公開2004−103789
【特許文献3】特許公開平7−86783
【特許文献4】特許公開平7−22769
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、従来の電波吸収体によるときには、高い電波吸収性能が得られる帯域に制約を受けるものや、高い電波吸収特性を発現するには大型化が避けられなかったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電波吸収体の高さが低く、小型、軽量で、電波吸収性能に優れた電波吸収体を提供するため、特定周波数の電波を遮断するFSS素子の膜(選択性電磁遮蔽素子の膜)を有する整合型電波吸収体とタイル型電波吸収体を組み合わせたことを主要な特徴とする。タイル型電波吸収体は、フェライト燒結体の平板である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電波吸収体によれば、小型化が可能であり、30MHz〜18GHzの広い周波数帯域において優れた電波吸収性能を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
高さが低く、軽量で、低価格の整合型電波吸収体を提供するという目的を、FSS素子を整合型電波吸収体の立体構造体に設け、この立体構造体をタイル型電波吸収体に組み合わせることによって実現した。
【0009】
特定周波数の電波を遮断する選択性電波遮断膜はFSS(frequency selective surface)素子と呼ばれ、様々な用途に利用されている。FSS素子配列の1つは、図1(a)に示すように規則的なパターンを構成する1素子が導電性を有するパッチ型で、もう1つは図1(b)に示すように1素子が絶縁性又は空洞であるアパーチャ型である。図中、黒塗りの部分は、導電性部分、白抜きの部分が絶縁性又は空間の部分である。パッチ型の素子配列1は特定周波数の電波を遮断する性質を有し、アパーチャ型の素子配列2の場合は特定周波数の電波のみが透過する性質を有する。
【0010】
周波数特性や電波透過量・反射量は素子の形状、大きさ、素子配列の間隔を変えることによって調整する事が出来る。いずれの型の素子であっても、その形状は種々変化させることが可能である。
【0011】
本発明では、角型形状をかたどった線状導電材部のパターンを有するパッチ型のFSS素子配列を用いて400MHz帯以下の電波を透過させ、400MHz帯以上の電波を反射させることによって遮断する選択性電磁遮蔽膜を設計した。整合型電波吸収体として図3に示すように、特定周波数の電波を遮断するFSS素子4をパネル5の面に配列し、そのパネル5,5の対を図2に示すように互いに角度をなして先が尖った立体構造体に組立てて整合型電波吸収体3を構成し、その整合型電波吸収体3をタイル型電波吸収体6と組合せた。本発明において、先が尖った立体構造体とは、対の板を互いに角度を成してクサビ状に組み合わせた立体、角錐のピラミッド状、円錐型の立体形状の構造体を意味する。
【0012】
この整合型電波吸収体の立体構造体とタイル型電波吸収体の平板との組合せによれば、400MHz帯以下の電波は整合型電波吸収体3を透過し、タイル型電波吸収体6のフェライト燒結体に到達して吸収され、400MHz帯以上の電波は、FSS素子の反射・散乱と、パターンの線状導電材部に誘起される高周波電流損失によって吸収される。
【0013】
したがって、この例によれば、後の実施例に示すように30MHz〜18GHzの広い周波数で良好な吸収特性を得ることが出来る。なお整合型電波吸収体の立体構造体の形状によっては選択性電磁遮蔽膜に対して電波が斜めに入射するので、入射角に合わせて選択性電磁遮蔽膜の設計を行う必要がある。次に本発明の実施例について、具体的な例を挙げ、図を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図3に、整合型電波吸収体3に用いるFSS素子配列板5の1例を示す。この例において、FSS素子配列板5の形成には、電気回路基板に用いられるガラスエポキシ基板を用いた。その大きさは15cm×21cm、板厚は、1.0mmである。板面には、特定周波数の電波を遮断する選択性電磁遮蔽膜として3重正方形ループ素子4を縦横に規則的に配列したパターンを形成した。
【0015】
選択性電磁遮蔽膜の正方形ループは、フォトエッチングの手法を用い、基板に電気回路パターンを形成する要領で、膜厚35μmの銅箔で形成し、ループの線の幅は1mmとした。正方形ループの大きさは、外寸で15mm角、10mm角、5mm角の3種類で、中心を同じとする3重正方形ループとした。この3重正方形ループを1素子として、隣り合う3重ループ中心の間隔を20mmとして縦横に規則的に並べた。
【0016】
このFSS素子配列板5を図2に示す高さ20cm、底面15×15cmのクサビ状の整合型電波吸収体3に組み立て、この整合型電波吸収体3をタイル型電波吸収体6のフェライト焼結板の前面に設置した。上記方法によって組立てられた本発明による複合型電波吸収体の30MHz〜500MHzの電波吸収性能を図4に示すネットワークアナライザ7を用いて測定した。
【0017】
測定に際しては、縦600mm、横1200mm、高さ7200mmの角形ストリップライン導波管を用いた。8は角形ストリップライン導波管の外導体、9は、外導体8内に差し込まれた内導体を示す。この導波管の測定面積は60cm×120cmであるので、タイル型電波吸収体6上に整合型電波吸収体3を32個配置し、隣り合う整合型電波吸収体の稜線方向を90度変えて並べて測定した。
【0018】
次いで500MHzから2.5GHzの電波吸収性能を図5に示すネットワークアナライザ10を用いて測定した。測定に際しては、送信ホーンアンテナ11及び受信ホーンアンテナ12の下方3000mmの位置に測定試料Mを設置した。この自由空間法測定の測定面積は、60cm×60cmであるので測定試料としては、反射板13を敷いてその上にタイル型電波吸収体6を乗せ、タイル型電波吸収体6上に整合型電波吸収体3を16個配置し、隣り合う整合型電波吸収体3の稜線方向を90度変えて並べて測定した。測定試料の周囲には、不要反射波除去用の電波吸収体14を置いた。
【0019】
さらに、2.5GHzから20GHzの電波吸収性能を図6に示すネットワークアナライザ15を用いて測定した。測定に際しては、送信ホーンアンテナ16及び受信ホーンアンテナ17の下方1000mmの位置に測定試料Mを設置した。測定に際しては、この自由空間法測定の測定面積は30cm×30cmであるので、タイル型電波吸収体6上に整合型電波吸収体3を4個配置し、隣り合う整合型電波吸収体の稜線方向を90度変えて並べて測定した本発明の整合型電波吸収体(実施例1)の30MHz〜20GHzの電波吸収性能を図7に示す。
【0020】
なお比較のため、図7中には、6mmtのフェライト焼結タイル電波吸収体の電波吸収特性(比較例1)、フェライト電波吸収体の上に高さ30mのカーボン含有発泡ウレタン平板整合型電波吸収体を設置したものの電波吸収性能(比較例2)、フェライト電波吸収体の上に高さ8cmのフェライト混合樹脂ピラミッド整合型電波吸収体を設置した場合の電波吸収性能(比較例3)を示す。
【0021】
図7に明らかなように、実施例1によれば、比較例1〜3に比べて30MHz〜20GHzの周波数域において、電波吸収性能が大きく改善され、特に70MHz〜18GHz全周波数帯域で−20dB以上の電波吸収性能が得られた。
【実施例2】
【0022】
実施例1と同じ選択性電磁遮蔽膜のパタ−ンの3重正方形ループ配列パターンをスクリーン印刷で厚さ0.1mm、大きさ15cm×21cmのPETフィルム上に印刷した。印刷に用いた導電性インクは銀粉末とポリエステル樹脂と高沸点溶剤とその他分散剤の混合物で、銀粉末の含有量は30wt%である。
【0023】
導電性インク膜の厚さは乾燥後で約50μmである。このパタ−ン印刷PETフィルムを厚さ2mm、大きさ15cm×21cmの硬質塩化ビニール板に貼り付け、高さ20cm、底面15×15cmの中空構造体の整合型電波吸収体を組立て、これをタイル型電波吸収体のフェライト焼結板上に設置し、実施例1と同じ方法で電波吸収特性を評価した。
【0024】
実施例2の30MHz〜20GHzの電波吸収性能を図8に示す。なお比較のため、図8には、6mmtのフェライト焼結タイル電波吸収体の電波吸収特性(比較例4)、フェライト電波吸収体の上に高さ30mのカーボン含有発泡ウレタン平板整合型電波吸収体を設置したものの電波吸収性能(比較例5)、フェライト電波吸収体の上に高さ8cmのフェライト混合樹脂ピラミッド整合型電波吸収体を設置した場合の電波吸収性能(比較例6)を示す。
【0025】
図8に明らかなように、実施例2によれば、比較例4〜6に比べて30MHz〜20GHzの周波数域において、電波吸収性能が大きく改善され、特に70MHz〜18GHz全週波数帯域で−20dB以上の電波吸収性能が得られた。
【0026】
本発明の複合型電波吸収体によれば、唯一70MHz〜18GHz全周波数帯域で−20dB以上の電波吸収性能が得られるだけでなく、重量が軽く、電波吸収体施工面積60cm×60cm当たりの重量は実施例1の場合0.7Kg、実施例2の場合は0.8Kgであった。これに対して比較例2,5の高さ30mのカーボン含有発泡ウレタン平板整合型電波吸収体は2.2Kgであり、比較例3,6の高さ8cmのフェライト混合樹脂ピラミッド整合型電波吸収体は23Kgである。なお、FSS素子は、立体構造体を構成するパネルの表面にパターンとして形成する場合に限らず、FSS素子の配列が立体構造体の側面を形成するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の複合型電波吸収体は、実質的に20cm、底面15×15cmのクサビ状に組み立てられていればよいため、暗室内に設置しても、電波暗室内の測定作業の有効面積を減少させることがなく、平板を組み合わせる構造であるので、暗室施工現場で組み立てるタイプの製品にすることも可能であり、輸送コストの削減効果がある。また、整合型電波吸収体の板に用いるガラスエポキシ基板は難燃性がUL94V−0であり、硬質塩化ビニール板は自己消化性であるために、暗室の防火性を確保でききる、さらには導電性パターンの製造には、通常のプリント基板製造技術をそのまま転用が可能のため、安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)はパッチ型のFSS素子配列の例、(b)はアパーチャ型の素子配列の例を示す図である。
【図2】本発明による複合型電波吸収体の斜視図である。
【図3】FSS素子と配列のパターンを示す図である。
【図4】本発明において30MHz〜500MHzの電波吸収性能に用いた測定系の概略図である。
【図5】本発明において500MHz〜2.5GHzの電波吸収性能に用いた測定系の概略図である。
【図6】本発明において2.5GHz〜20GHzの電波吸収性能に用いた測定系の概略図である。
【図7】本発明の実施例1の電波吸収性能の周波数特性グラフである。
【図8】本発明の実施例2の電波吸収性能の周波数特性グラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 パッチ型の素子配列
2 アパーチャ型の素子配列
3 整合型電波吸収体
4 3重正方形ループ素子
5 FSS素子配列板
6 タイル型電波吸収体
7、10、15 ネットワークアナライザ
8 外導体
9 内導体
11、16 送信ホーンアンテナ
12、17 受信ホーンアンテナ
13 反射板
14 不要反射波除去用の電波吸収体
M 測定試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整合型電波吸収体と、タイル型電波吸収体との組合せを有する複合型電波吸収体であって、
前記整合型電波吸収体は、先が尖った立体構造体の側面に、特定周波数の電波を遮断するFSS素子の配列を有するものであり、
前記タイル型電波吸収体は、フェライト燒結体の平板であり、
前記整合型電波吸収体と、前記タイル型電波吸収体とは、前記タイル型電波吸収体の板面に立体構造体の底を重ねて上下に積層されたものであることを特徴とする複合型電波吸収体。
【請求項2】
前記FSS素子は、立体構造体の外側面を形成するものであることを特徴とする請求項1に記載の複合型電波吸収体。
【請求項3】
前記FSS素子は、前記立体構造体を構成するパネルの表面にパターンとして形成された導電性材料の膜であることを特徴とする請求項1に記載の複合型電波吸収体。
【請求項4】
前記立体構造体は、FSS素子の膜をパターンとして表面に有するパネルを組み合わせて中空のクサビ状又は角錐状に組立てられたものであり、クサビ状又は角錐状の立体構造体の底が前記タイル型電波吸収体の板面上に重ねられていることを特徴とする請求項3に記載の複合型電波吸収体。
【請求項5】
前記FSS素子は、ガラスエポキシ基板にフォトエッチングの手法によって導電材料が規則的なパターンの膜として形成されたものであることを特徴とする請求項3又は4のいづれか1つに記載された複合型電波吸収体。
【請求項6】
前記FSS素子は、400MHz帯以下の電波を透過させ、400MHz帯以上の電波を反射する選択性電磁遮蔽膜であることを特徴とする請求項1に記載の複合型電波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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