説明

複合多孔質膜及びその製造方法

本発明は、濾過性能だけでなく、多孔質膜と組紐との間の接着性に優れ、機械物性にも優れた複合多孔質膜およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明は、組紐と膜材とを具備し、膜材は組紐外表面に隣接する緻密層を有する第一多孔質層と、第一多孔質層に隣接する緻密層を有する第二多孔質層とを具備する複合多孔質膜およびその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、精密濾過膜または限外濾過膜として水処理に適した複合多孔質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化とにより、分離の完全性やコンパクト性などに優れた濾過膜を用いた膜法による水処理が注目を集めている。このような水処理の用途において、濾過膜には優れた分離特性や透過性能のみならず、これまで以上に高い機械物性が要求されている。
従来、透過性能の優れた濾過膜として、湿式または乾湿式紡糸法により製造される、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリフッ化ビニリデン製などの濾過膜が知られている。これらの濾過膜は、高分子溶液をミクロ相分離させた後、同高分子溶液を非溶媒中で凝固させて製造するものであり、緻密層と支持層とを具備し、高空孔率で且つ非対称な構造をもつ。
上記濾過膜素材の中でもポリフッ化ビニリデン樹脂は、耐薬品性、耐熱性に優れているので、分離膜の素材として好適に用いられている。しかしながらこれまでに提案されているポリフッ化ビニリデン中空糸膜からなる濾過膜は機械的強度に劣っているという問題がある。
強度が改善された濾過膜として、中空組紐が多孔質半透膜内に完全に埋設された多孔質膜が提案されている(特開昭52−081076号公報、特開昭52−082682号公報、および特開昭52−120288号公報参照)。しかしながらこの多孔質膜は、組紐が多孔質半透膜内に完全に埋設されているために、透水性能が低いという問題があった。
一方、透水性能を上げるために、中空組紐表面上に多孔質膜が設けられた分離膜が提案されている(米国特許第5472607号公報参照)。しかしながらこの分離膜は、組紐の表面のみに多孔質膜を配置しているため、多孔質膜が組紐から剥がれやすいという問題があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、濾過性能だけでなく、多孔質膜と組紐との間の接着性に優れ、機械物性にも優れた複合多孔質膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
即ち本発明は、組紐と膜材とを具備し、膜材は組紐外表面に隣接する緻密層を有する第一多孔質層と、第一多孔質層に隣接する緻密層を有する第二多孔質層とを具備することを特徴とする複合多孔質膜を提供する。
本発明の複合多孔質膜は、膜材が組紐に塗布された多孔質中空糸膜であることが好ましい。水処理用途では、膜透過の一次側の液を膜面に対して流動させる必要がある。この膜面流により膜が揺動し、引っ張られるため、十分な機械的強度が必要である。この機械的強度を組紐が担うため、本発明の複合多孔質膜は優れた機械的強度を有する。
本発明の複合多孔質膜は、2層以上の緻密層を有する膜材が配設されているため、膜の耐久性を向上させることができる。
また、本発明は、環状ノズルを用いて組紐に製膜液を塗布して凝固液中で凝固させて第一多孔質層を形成させた後、環状ノズルを用いて該第一多孔質層の表面に製膜液を塗布して凝固液中で凝固させて第二多孔質層を形成させる複合多孔質膜の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の複合多孔質膜の製造に使用する環状ノズルの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
本発明の複合多孔質膜は、組紐と膜材とを具備し、膜材は組紐外表面に隣接する緻密層を有する第一多孔質層と、第一多孔質層に隣接する緻密層を有する第二多孔質層とを具備する複合多孔質膜である。
まず、本発明の複合多孔質膜に使用する組紐について説明する。
本発明で使用する組紐は、構成する糸が、マルチフィラメント、モノフィラメント、紡績糸のいずれかであることが好ましい。また、糸の断面の形状は、丸断面、中空構造、異形断面のいずれかであることが好ましい。
組紐としてマルチフィラメントを用いる場合、フィラメント数が30〜200のマルチフィラメントを用いると、強度および透過性に優れるため好ましい。フィラメント数が30未満であると、つぶれ圧が低下するため好ましくない。フィラメント数が200を超えると内径縮小化による透水性能低下のおそれがあり好ましくない。
組紐の素材は、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維、または無機繊維を単独または組み合わせて用いることができる。
合成繊維の例としては、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系の各種繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリエステル系の各種繊維;ポリアクリロニトリル等のアクリル系の各種繊維;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の各種繊維;ポリビニルアルコール系の各種繊維;ポリ塩化ビニリデン系の各種繊維;ポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン系の各種繊維;フェノール系繊維;ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどからなるフッ素系繊維;およびポリアルキレンパラオキシベンゾエート系の各種繊維などが挙げられる。
半合成繊維の例としては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、キチン、キトサンなどを原料としたセルロース系誘導体系各種繊維;およびプロミックスと呼称される蛋白質系の各種繊維などが挙げられる。
再生繊維の例としては、ビスコース法や、銅−アンモニア法、あるいは有機溶剤法により得られるセルロース系の各種再生繊維、具体的にはレーヨン、キュプラ、ポリノジックなどが挙げられる。
天然繊維の例としては、亜麻、黄麻などが挙げられる。
無機繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などが挙げられる。
これらの中でも、耐薬品性に優れるという観点から、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド繊維、ポレオレフィン繊維の少なくとも一つからなることが好ましい。また、ポリエステル繊維、アクリル繊維が特に好ましい。
組紐は、膜の耐久性および接着性を向上させる観点から、その繊度が500〜1,200dtxの範囲であることが好ましい。組紐の繊度が500dtx未満であると膜のつぶれ圧が低下するため好ましくない。一方組紐の繊度が1,200dtxより大きいと、内径縮小化による透水性能低下のおそれがあるため好ましくない。
また、膜の耐久性を向上させ、かつ透水性能を向上させる観点から、組紐の打ち数は8〜50の範囲であることが好ましい。組紐の打ち数が8未満であるとつぶれ圧が低下するため好ましくない。一方組紐の打ち数が50より大きいと内径縮小化による透水性能低下のおそれがあり好ましくない。
組紐の毛羽の数は、1mあたり15個以下が好ましい。毛羽の数が1mあたり15個より多いと、塗布不良部が発生しやすく大腸菌などの細菌や、浮遊物質の透過を生じ実用的に好ましくない。毛羽の数は1mあたり10個以下がより好ましく、5個以下が更に好ましい。
なお、ここでいう毛羽とは、組紐を構成する繊維の編加工がほつれたり切れたりして組紐から飛び出した状態や、組紐を構成する繊維以外の繊維状あるいはその他形状の異物が付着していたり、組紐表面から突き出ている状態をいう。
組紐に対する、膜剤に含まれる樹脂の含浸率を向上させる観点から、組紐の熱水収縮率は5%以下であることが好ましい。熱水収縮率は4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。熱水収縮率が5%を超えると、製造工程の一工程である熱水洗浄工程において、熱水浴中で組紐が大きく収縮する。組紐が収縮すると、組紐に含浸している第一多孔質層も同様に収縮する。一方、以下に詳しく説明するが、第二多孔質層は第一多孔質層に完全に接着してはいないため、大きく収縮することは無い。これによって第一多孔質層と第二多孔質層との間の隙間が拡大し、この大きな隙間によって樹脂が含浸しにくくなるためである。
組紐供給張力は、製膜工程の安定性と、固定樹脂の含浸性に影響を与える。これらを良好とするために、組紐供給張力を1kPa〜30kPaの範囲とすることが好ましい。組紐供給張力が1kPa未満であると、製造工程中で組紐がガイドから外れるなどのトラブルが起こりやすくなる傾向にある。組紐供給張力が30kPaを超えると、組紐および第一多孔質層は細く変形する度合いが大きくなる傾向にあるが、第二多孔質層は大きく変形しない。このため第一多孔質層と第二多孔質層との間の隙間が拡大し易くなる傾向にある。組紐供給張力は3kPa〜25kPaの範囲であることがより好ましく、組紐供給張力は5kPa〜20kPaの範囲であることがさらに好ましい。なお、組紐供給張力は、組紐が環状ノズルに導入されるまでの部位で、張力計などを用いて組紐にかかる圧力を測定することによって求めることができる。
組紐としては、例えば、8.6デシテックスのポリエステル繊維96フィラメント、トータル830デシテックスのマルチフィラメント16本を組紐機で10回転/分の速さで中空組紐状に編み織りして製作したものを使用できる。
次に、膜材について説明する。
膜材は、組紐外表面に隣接する緻密層を有する第一多孔質層と、第一多孔質層に隣接する緻密層を有する第二多孔質層とを具備する。
十分な濾過性能を実現するなどの観点から、前記膜材は、一表面から他表面へと連通する多数の孔を有することが好ましい。膜材に設けられる孔はまっすぐ貫通した孔や内部で入り組んだ網目構造をした孔であっても良い。
耐薬品性および耐熱性を向上させる観点からは、膜材がフッ素系樹脂で形成されていることが好ましい。中でもポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましい。さらに、重量平均分子量100,000〜1,000,000のポリフッ化ビニリデン(A)と、重量平均分子量10,000〜500,000のポリフッ化ビニリデン(B)とを含み、(A)/(B)の質量比が0.5〜10であるポリフッ化ビニリデンがより好ましい。(A)/(B)の質量比は、1〜3であるポリフッ化ビニリデンはより好ましい。このような質量比とすることにより、膜の孔径の調整を容易にすることができる。
膜材の厚みは、厚すぎると透水性が低下し、一方薄すぎると破損する恐れがあることから、組紐の外表面、つまり膜材の最内表面から膜材の最外表面までの厚みが200μm〜500μmの範囲であることが好ましい。
第一多孔質層および第二多孔質層は、第一多孔質層の外表面および第二多孔質層の内表面とで接着されていると、複合多孔質膜としての強度が高くなる。しかしながら、完全に接着されていると透水性が低下するため、両者の界面の面積100%に対して、1〜50%が接着されていることが好ましい。
透水性能と分画孔径制御とを両立させる観点からは、第一多孔質層が、平均孔径が0.2〜1μmの範囲である緻密層を有することが好ましい。また、前記第二多孔質層が、平均孔径が0.1〜0.8μmの範囲である緻密層を有することが好ましい。
上記緻密層の厚みは50nm〜50μmの範囲であることが好ましく、200nm〜30μmの範囲であることがより好ましく、500nm〜10μmの範囲であることがさらに好ましい。
また、透水性能と分画孔径の制御とを両立させる観点から、第一多孔質層および第二多孔質層のいずれか一方または両方が、膜表面から0.1〜50μm内側に緻密層を有することが好ましい。膜表面から0.1μm未満に緻密層を有する膜は、外部からの衝撃や製膜工程中で膜同士の接着等のトラブルが起こった場合に膜に傷がつき易いため好ましくない。一方最も外側となる位置から50μm以上内側に緻密層を有していても膜性能低下はないが、実用的には50μm以上内側に緻密層があれば十分である。
透水性を向上させるためには、第一多孔質層および第二多孔質層のいずれか一方または両方が、緻密層側から組紐に向かって孔径が漸増する支持層を有することが好ましい。このような傾斜型構造を採用することにより、膜厚を厚くしても高い透水性を確保することができる。
上記支持層には50μm〜150μmの孔径を有するマクロボイドが含まれても良い。マクロボイドを除く支持層の孔径は0.1μm〜50μmの範囲であることが好ましく、0.3μm〜30μmの範囲であることがより好ましく、0.5μm〜20μmの範囲であることがさらに好ましい。
また、各層の最も外側となる位置における平均孔径は、第一多孔質層においては1〜5μmが好ましく、第二多孔質層においては0.8〜2μmの範囲が好ましい。
なお、ここでいう各多孔質層の最も外側となる位置とは、第一多孔質層においては、第一多孔質層と第二多孔質層の界面となる位置をいい、第二多孔質層においては、第二多孔質層が最外層である場合は最外表面となる位置をいい、第二多孔質層の周りにさらに別の多孔質層がある場合は、その層との界面の位置をいう。
以下、上記組紐および上記膜材を具備する複合多孔質膜について説明する。
複合多孔質膜全体の厚みは、透水性やつぶれに対する強度を考慮して、600〜1,200μmの範囲であることが好ましい。また、あまり太すぎると単位体積あたりの膜面積が減少し、一方細すぎると中空部の径が細くなりすぎて通水抵抗が増加するため、複合多孔質膜の外径は2,000〜5,000μmの範囲であること、内径は700〜3,000μmの範囲であることが好ましい。
十分な濾過性能を実現する観点から、複合多孔質膜の透水性能(WF)は、50(m/m/h/MPa)以上であることが好ましい。透過性能が50(m/m/h/MPa)未満であると濾過性能が低く、使用し難い。濾過性能に上限はないが実用的には400(m/m/h/MPa)あれば十分である。
複合多孔質膜のバブルポイント(BP)は、50(kPa)以上であることが好ましい。バブルポイントが50kPa未満であると、大腸菌などの細菌や、浮遊物質の透過を生じ実用的に好ましくない。
透水性能と分画孔径制御とを両立させる観点から、複合多孔質膜の通水破裂圧は200kPa以上であることが好ましい。多孔質膜の通水破裂圧が200kPa未満であると、大腸菌などの細菌や、浮遊物質の透過を生じ実用的に好ましくない。通水破裂圧に上限はないが、実用的には1,000kPaあれば十分である。
透水性能と分画孔径制御を両立させる観点から、複合多孔質膜に200kPaで連続通水を行った際、耐久時間が150時間以上であることが好ましい。耐久時間が150時間未満であると、大腸菌などの細菌や、浮遊物質の透過を生じ実用的に好ましくない。耐久時間に上限はないが、実用的には10,000時間あれば十分である。なお、ここでいう耐久時間とは、通水を行う前に複合多孔質膜が有する分画性能を維持している時間をいう。
また、400kPaの圧力を繰り返し印加した際の耐久回数が100回以上であることが好ましい。400kPaにおける耐久回数が100回未満であると、大腸菌などの細菌や、浮遊物質の透過を生じ実用的に好ましくない。耐久回数に上限はないが、実用的には10,000回あれば十分である。なお、ここでいう耐久回数とは、最初に圧力を印加する前に複合多孔質膜が有する分画性能を維持する回数をいう。
次に、上記特性を有する複合多孔質膜の製造方法について説明する。
いわゆる乾湿式紡糸法を採用することが好ましい。即ち、環状ノズルから製膜液を吐出させた後、所定時間膜を空走させた後、凝固液に浸漬させることによって多孔質状の膜材を形成させることが好ましい。製膜にあたっては、まず環状ノズルに組紐を通して、次いで組紐に製膜液を塗布する。
本発明の複合多孔質膜の製造方法は、環状ノズルを用いて組紐に製膜液を塗布して凝固液中で凝固させて第一多孔質層を形成させた後、環状ノズルを用いて該第一多孔質層の表面に製膜液を塗布して凝固液中で凝固させて第二多孔質層を形成させる方法である。
まず、組紐上に第一多孔質層を形成する際には、組紐中に含浸し易い薄い第一製膜液を組紐に塗布し、その後に多孔質層の形成に好適な、第一製膜液よりも濃度の濃い第二製膜液を前記組紐に塗布する。上記濃度が異なる第一製膜液および第二製膜液を使用することにより、組紐の主要部分に含浸させることができ、膜材の組紐からの剥がれを改善できる。
組紐中への含浸性を考慮すると、第一製膜液中の膜材を形成するポリマー濃度は、12%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下が更に好ましい。このような濃度とすることにより、第一製膜液が組紐中へ容易に含浸する。これに加えて、膜とした際に、組紐の空隙中に占める膜材のポリマー濃度が、第一製膜液中のポリマー濃度と同程度になるため、濾過時の膜の透水性を高く保つことができる。さらに、膜材を十分な強度で組紐に付着させることができる。
第二製膜液も第一製膜液と同様に、膜材となるポリマーを溶剤に溶解させたものを用いる。複合多孔質膜とした際、ボイド層が形成されにくく機械的強度を得るためには、上記第一製膜液以上のポリマー濃度を有するポリマー溶液を使用することが好ましい。具体的には、第二製膜液中の膜材を形成するポリマー濃度は、12%以上、より好ましくは15%以上の範囲とする。透過流量を上げるため、通常、ポリマー濃度は、25%を超えない範囲が好ましい。
第一および第二製膜液の溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としてはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが用いられる。その中でも得られる多孔質体の透水流量が高いという点で、ジメチルアセトアミドを溶剤がより好ましい。
また、製膜液には、相分離を制御するための添加剤として、ポリエチレングリコールによって代表されるモノオール系、ジオール系、トリオール系、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーを共に溶解させることが好ましい。親水性ポリマーの濃度下限は1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。また、上限は20質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。
ノズルから突出される際の上記製膜液の温度は、20℃未満であると、製膜液が低温ゲル化するおそれがあり好ましくない。一方、40℃以上であると孔径制御が困難であり、その結果大腸菌などの細菌や浮遊物質の透過を生じ実用的に好ましくない。従って製膜液の温度は20〜40℃の範囲が好ましい。
次いで組紐上に塗布された製膜液を空走させた後、凝固液に浸漬させることにより第一多孔質層を形成する。
空走時間は0.01秒以下であると濾過性能が低くなり好ましくない。走行時間に上限はないが実用的には4秒あれば十分である。従って空走時間は0.01〜4秒の範囲が好ましい。
凝固液としては、製膜液に用いられる溶剤を含む水溶液が好適に用いられる。使用する溶剤の種類にも依存するが、例えば製膜液の溶剤として、ジメチルアセトアミドを使用する場合、凝固液中のジメチルアセトアミドの濃度は1〜50%が好ましい。
凝固液の温度は、機械的強度を上げる観点からは低い方が好ましい。しかしながら、凝固液の温度を下げすぎるとできあがった膜の透水流量が低下するため、通常、90℃以下、より好ましくは50℃以上85℃以下の範囲に選択する。
凝固させた後、60℃〜100℃の熱水中で溶剤を洗浄することが好ましい。この洗浄浴温度は、第一多孔質層同士が融着しない範囲で、できるだけ高温にすることが効果的である。この観点から、洗浄浴の温度は60℃以上のが好ましい。
熱水洗洗浄の後に次亜塩素酸などで薬液洗浄を施すことが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用する場合、その濃度は10〜120,000mg/Lの範囲であることが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度が10mg/L未満であるときはできあがった膜の透水流量が低下するため好ましくない。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度に上限はないが、実用的には120,000mg/Lあれば十分である。
次いで、薬液洗浄後の膜を60℃〜100℃の熱水中で洗浄することが好ましい。その後、60℃以上100℃未満で1分間以上24時間未満乾燥させることが好ましい。60℃未満では、乾燥処理時間がかかりすぎ,生産コストが上昇するため工業生産上好ましくない。100℃以上では,乾燥工程で膜が収縮しすぎ、膜表面に微小な亀裂が発生する恐れが有るので好ましくない。
乾燥後の膜は、ボビンまたはカセに巻き取ることが好ましい。カセに巻き取るとエレメント加工が容易になるため好ましい。
先に説明したように、第一多孔質層と第二多孔質層とが完全に接着すると透水性が低下することから、これを防止するため、第二多孔質層を形成する前に、第一多孔質層の表面に膜材を溶解しない溶液を付着させることが好ましい。
膜材を溶解しない溶液としては、製膜液に用いられる溶剤を含む水溶液が好適に用いられる。例えば、製膜液の溶剤としてジメチルアセトアミドを使用する場合、溶剤を溶解しない溶液中のジメチルアセトアミドの濃度は1〜50%が好ましい。その他に好ましい膜材を溶解しない溶液として、有機溶媒、有機溶媒と水の混合物、またはそれらにグリセロールなどを主成分とする添加剤を添加した溶液が好ましく用いられる。
次いで、第一多孔質層の表面に第二製膜液を塗布して第二多孔質層を形成する。第二多孔質層の形成には、濃度の薄い第一製膜液は使用する必要はない。
上記製造方法を実施するには、例えば、図1に示す構造の環状ノズルが好ましく使用される。この環状ノズルは、分配プレート10と、分配プレート10に隣接して組み立てられる第一分配ノズル9と、さらに第一分配ノズル9に隣接して組み立てられて管状ノズルの先端部をなす、第二分配ノズル8との3つの部材から構成される。
分配プレート10は円盤状の部材であり、その中心には組紐が通過する管路1が形成されている。さらに、分配プレート10は、管路1の周囲に、第一製膜液を供給するための第一供給口6と、第二製膜液を供給するための第二供給口7とを有する。
第一分配ノズル9は、断面形状が概略T字状の部材であり、平面形状が円盤形状の部材である。その中心には、上記第二分配ノズル8内へと突出する突出管状部13が形成されている。この突出管状部13の内部は中空部であり、この中空部は上記管路1と連通して組紐通路100を形成している。第一分配ノズル9と分配プレート10とを同心状に重ねると、それらの中心に組紐通路100が形成される。
第一分配ノズル9は、組紐通路100の周囲に、第一供給口6に連通する中空部と、第二供給口7に連通する中空部とをそれぞれ有する。
分配プレート10及び第一分配ノズル9が同心状に重ねられた場合、上記第一供給口6に連通する第一液プール部11が形成されるように、それらには溝が形成されている。また、それらが同心状に重ねられた場合、組紐通路100の周壁の全周に渡って第一吐出口2が形成されるように、環状スリットも形成されている。この第一吐出口2は上記第一液プール部11と連通している。さらに、上記第一液プール部11と第一吐出口2とは連通している。
分配プレート10と第一分配ノズル9とを同心状に重ね、第一供給口6に液を供給すると、供給された液を第一プール部11に貯め、次いで第一吐出口2から組紐通路100に向かって液を吐出させることができる。
第二分配ノズル8も円盤状の部材であり、その中心には第二液プール部12が形成され、さらに第二液プール部12と連通する中空部が形成されている。この中空部は、第一分配ノズル9に形成された第二供給口7に連通する中空部を介して、上記第二供給口7に連通している。第二分配ノズル8と第一分配ノズル9とを同心円状に重ねることにより、第一分配ノズル9の突出管状部13の周囲に第二液プール部12が形成される。具体的には、第一分配ノズル9の突出環状部13が設けられている端面と、突出管状部13と、第二分配ノズル8とで形成された空間が第二液プール部12となる。上記第二液プール部12は、第一分配ノズル9の突出管状部13の先端方向に向かってその断面積が小さくなるように形成されている。つまり、第二分配ノズル8の内壁が突出環状部13に向かって徐々に張り出している。
さらに第二プール液部12の先端部には第二突出口3が形成されている。つまり、突出管状部13の先端部の外壁と、第二分配ノズル8の内壁とで第二吐出口3を形成している。
特に、突出環状部13の先端面、つまり組紐通路100の先端面110は、第二吐出口3の先端面5、つまり第二分配ノズル8の先端面5よりも環状ノズルの内方に位置することが好ましい。
言い換えると、突出環状部13の先端面、つまり組紐通路先端面110と、第二吐出口3の先端面5、つまり第二分配ノズル8の先端面5との距離4(以下、液シール長という。)が、0.5〜150mmとなるように構成されていることが好ましい。液シール長の下限は0.6mm以上であることがより好ましく、0.8mm以上であることが更に好ましい。液シール長が0.5mm未満である場合、第一多孔質層の表面にコーティングされる第二製膜液は、コーティング圧力がほとんどかかることなく吐出される。このため第二多孔質層は、第一多孔質層が形成された膜の外径が細い部分があっても、同じ径で吐出されることになる。その結果、第一多孔質層と第二多孔質層との間に大きな隙間が発生する恐れがある。液シール長の上限は、コーティング圧力の観点からは特にないが、あまり長くし過ぎると環状ノズルを製造し難くなる傾向にある。従って液シール長の上限は150mm以下であることが好ましい。液シール長の上限は100mm以下であることが好ましく、50mm以下であることが更に好ましい。
本発明の複合多孔質膜を水処理に実際に使用する場合、一次側と二次側とを仕切るために、通常合成樹脂等の固定部材を使用するが、複合多孔質膜にこのような隙間が形成されると、樹脂が隙間に入り込み、処理すべき水が複合多孔質膜全体に含浸し難くなる可能性が高くなる。液シール長を適切な長さにすると、吐出される製膜液のコーティング圧力が大きくなる傾向にある。従って第一多孔質層と第二多孔質層との間に大きな隙間が形成されることを防ぐことができる。
以上説明したように、分配プレート10、第一分配ノズル9、および第二分配ノズル8を同心状に重ね合わせた状態で、第二供給口7に液を供給すると、供給された液は第一分配ノズル9の中空部および第一分配ノズル9と第二分配ノズル8とで形成された中空部を介して、第二プール部12に貯められ、次いで第二吐出口3から組紐通路100に向かって吐出させることができる。
このような構造の環状ノズルを用いて複合多孔質膜を製造するには、まず組紐を管路1から組紐通路100に供給する。第一供給口6から第一液プール部11に第一製膜液を供給する。第二供給口7から第二液プール部12に第二製膜液を供給する。
管路1に組紐を供給しつつ、つまり組紐を組紐通路100中で移動させながら、第一吐出口2からは第一製膜液を吐出して組紐に含浸させ、第二吐出口3からは第二製膜液を吐出して組紐に含浸させる。
ついで、第一および第二製膜液が浸漬した組紐を、先に説明したように、凝固液に浸漬させ、熱水および薬剤洗浄し、乾燥させ、巻き取る。
次に、第一供給口6に上記膜材を溶解しない溶液を供給し、第一吐出口2から膜材を溶解しない溶液を吐出させて第一多孔質層の表面に該溶液を塗布する。
その後、第二供給口7から供給されて第二液プール部12に蓄えられていた第二製膜液を再度第二吐出口3から吐出させて、第一多孔質層の表面に塗布する。
上記説明では、膜材が第一多孔質層と第二多孔質層とからなる複合多孔質膜を説明したが、本発明においては第二多孔質層の上に、更に多層の多孔質層を設けても構わない。その場合、第一多孔質層上に第二多孔質層を形成させる手順と同様に、順次多層構造を形成させればよい。
実験例
以下、実験例を基に本発明について更に詳細に説明する。
なお、各物性値は以下に示す方法で測定した。
また、含有率、濃度の表記に用いる「%」は質量%を表す。
<最大孔径(μm)(バブルポイント法)>
JIS K 3832に従って、エチルアルコールを測定媒体として測定した。
<熱水収縮率>
約1mの長さに切断した組紐を90℃の熱水に30分浸漬し、処理前後の長さを測定し、次の式から求めた。
熱水収縮率(%)=(処理前の組紐長−熱水処理後の組紐長)÷処理前の組紐長×100
実験例1
ポリフッ化ビニリデンA(アトフィナジャパン製、商品名カイナー301F)、ポリフッ化ビニリデンB(アトフィナジャパン製、商品名カイナー9000LD)、ポリビニルピロリドン(ISP社製、商品名K−90)、N,N−ジメチルアセトアミドを用いて、表1に示す組成を有する製膜液1及び製膜液2を調製した。

外径2.5mm、内径2.4mmの、30℃に保温した図1に示す環状ノズルの管路1にポリエステルマルチフィラメント単織組紐(マルチフィラメント;トータルデシテックス830/96フィラメント、16打ち)を導入し、第一吐出口2から第一製膜液を吐出させ、第二吐出口3から第二製膜液を吐出させた。第一及び第二製膜液塗布された組紐は、N,N−ジメチルアセトアミド5質量部および水95質量部からなる80℃に保温した凝固浴中に導き、組紐に第一多孔質層を形成した。
この第一多孔質層を具備する組紐を98℃の熱水中で1分間脱溶剤させた後、50,000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬後、90℃の熱水中で10分間洗浄し、90℃で10分間乾燥させワインダーで巻き取った。組紐に付着または埋め込まれている毛羽の数は1mあたり1個であった。組紐の熱水収縮率は1%であった。組紐の供給張力は9.8kPaであった。
次に、外径2.7mm、内径2.6mmからなる30℃に保温した図1に示す環状ノズルの管路1に第一多孔質層を具備する組紐を導入し、第一吐出口2から内部凝固液としてグリセリン(和光純薬工業製 一級)を吐出させ、第二吐出口3からは第二製膜液を吐出させた。これにより第一多孔質層の上に第二製膜液が塗布された。得られた組紐をN,N−ジメチルアセトアミド5質量%、水95質量%からなる80℃に保温した凝固浴中に導き複合多孔質膜を得た。この複合多孔質膜を98℃の熱水中で1分間脱溶剤させた後、50,000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬後、90℃の熱水中で10分間洗浄し、90℃で10分間乾燥させワインダーで巻き取った。
得られた複合多孔質膜の外径/内径は約2.8/1.1mm、膜厚は900μm、組紐から表面までの樹脂層の厚みは400μm、バブルポイント150kPa、透過性能は100m/m/h/MPa、通水破裂圧は500kPa、400kPaにおける耐久回数は1000回、200kPaにおける連続通水耐久時間は2000時間であった。
実験例2
第一多孔質層を有する複合多孔質膜を得た後、洗浄・乾燥させず、かつ外径2.8mm、内径2.7mm、液シール長1.0mmの環状ノズルを用いた以外は、実験例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
得られた複合多孔質膜の外径/内径は約2.8/1.2mm、膜厚は800μm、組紐から表面までの樹脂層の厚みは400μm、バブルポイント180kPa、透過性能は110m/m/h/MPa、通水破裂圧は520kPa、400kPaにおける耐久回数は1300回、200kPaにおける連続通水耐久時間が3000時間であった。
【産業上の利用の可能性】
本発明の本発明の複合多孔質膜は、従来になく濾過材と組紐との接着強度などの機械物性に優れる。よって、これまでの膜法では濾過・分離が困難とされていた各種水処理などの過酷な使用条件でも使用可能となり、濾液の質を向上させることができる。また、透過性能が高いため、使用膜面積が少なくなり、設備をコンパクト化することも可能となる。
また、本発明の製造方法によれば、上記優れた特性を有する複合多孔質膜を容易に製造することができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組紐と膜材とを具備し、膜材は組紐外表面に隣接する緻密層を有する第一多孔質層と、第一多孔質層に隣接する緻密層を有する第二多孔質層とを具備する複合多孔質膜。
【請求項2】
前記第一多孔質層は平均孔径0.2〜1μmの範囲の緻密層を有し、前記第二多孔質層は平均孔径0.1〜0.8μmの範囲の緻密層を有する請求項1に記載の複合多孔質膜。
【請求項3】
前記第一多孔質層及び前記第二多孔質層の少なくとも一層が、複合多孔質膜の最外表から0.1〜50μm内側に緻密層を有する請求項2に記載の複合多孔質膜。
【請求項4】
前記第一多孔質層の最も外側に位置する空孔の平均孔径が1〜5μmの範囲であり、前記第二多孔質層の最も外側に位置する空孔の平均孔径が0.8〜2μmの範囲である請求項3に記載の複合多孔質膜。
【請求項5】
透水性能(WF)が50(m/m/h/MPa)以上であり、かつバブルポイント(BP)が50(kPa)以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合多孔質膜。
【請求項6】
通水破裂圧が200kPa以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合多孔質膜。
【請求項7】
200kPaで連続通水を行った際、耐久時間が150時間以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合多孔質膜。
【請求項8】
400kPaの圧力を繰り返し印加した際の耐久回数が100回以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合多孔質膜。
【請求項9】
環状ノズルを用いて組紐に製膜液を塗布し、凝固液中で凝固させて第一多孔質層を形成させた後、環状ノズルを用いて該第一多孔質層の表面に製膜液を塗布し、凝固液中で凝固させて第二多孔質層を形成させる複合多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
前記環状ノズルは、前記組紐が通過する組紐通路と、該組紐通路の全周壁に開口する第一吐出口と、該組紐通路の出口側であって該組紐通路と同心円状に、かつ該組紐通路の外周に配された第二吐出口とを有する請求項9に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
第一製膜液を前記第一吐出口から供給して前記組紐に塗布した後、該第一製膜液よりも濃度の濃い第二製膜液を前記第二吐出口から供給して前記組紐に塗布して前記第一多孔質層を形成する請求項10に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項12】
前記第一多孔質層を形成した後、膜材が溶解しない溶液を前記第一吐出口から供給して前記第一多孔質層の表面に塗布した後、前記第二製膜液を前記第二吐出口から吐出して塗布する請求項11に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項13】
前記組紐通路先端面とが前記第二吐出口先端面よりも環状ノズルの内方に位置し、前記組紐通路先端面と前記第二吐出口先端面との距離が、0.5〜150mmの範囲である請求項12に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項14】
前記第一多孔質層及び前記第二多孔質層の少なくとも一方を形成させた後、複合多孔質膜を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させ、さらに熱水で洗浄した後、乾燥する請求項9〜13のいずれか一項に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項15】
前記製膜液が、重量平均分子量100,000〜1,000,000のポリフッ化ビニリデン(A)と、重量平均分子量10、000〜500,000のポリフッ化ビニリデン(B)とを含み、(A)/(B)の質量比が0.5〜10である請求項9〜13のいずれか一項に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項16】
1mあたりの毛羽の数が15個以下である組紐を用いる請求項9〜13のいずれか一項に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項17】
組紐供給張力が1kPa〜30kPaの範囲である請求項9〜13のいずれか一項に記載の複合多孔質膜の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/043579
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505665(P2005−505665)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014262
【国際出願日】平成15年11月10日(2003.11.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】