説明

複合成形体の製造方法

【課題】生分解性、生体親和性に優れ、化学構造が明確な構成単糖よりなる多糖類材料から形成されたポリイオンコンプレックスに、各種作用物質を担持させた複合成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとを含有する複合成形体の製造方法であって、アニオン性ポリマーがセルロース、デンプン、キチンのいずれかの多糖類の酸化により得られたアニオン性ポリマーであり、アニオン性ポリマーの水溶液に、カチオン性ポリマーの水溶液を加えることにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合成形体および各種作用物質を内包した複合成形体およびカプセルおよび各種作用物質の固定化の方法に関するもので、生分解性、生体親和性に優れる天然物由来の多糖類からなる複合成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来様々な分野において、各種薬剤や微生物、細菌、核酸、酵素、或いは磁性体、触媒、顔料、染料などを内包し、徐放させる目的あるいは固定化担体として各種マイクロカプセルの開発が行われている。
【0003】
これらの担体物質の中には生分解性や生体親和性等が要求されるものがある。
【0004】
これらのマイクロカプセルの多くには、ゼラチン、アガロース、アルギン酸などの天然高分子が用いられている。更に、ポリカチオン性物質とポリアニオン性物質からなるポリイオンコンプレックス材料は、水系で容易に調製できて、得られる担体は水に不溶であることから、これらの担体物質として、従来から様々な提案がなされている(特開平6−100468号公報、特開平7−33682号公報、特開平11−130697号公報、特開2002−638号公報等)。
【0005】
例えば、天然物であるヒアルロン酸やコンドロイチン、キチン、キトサン、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、デキストラン等の多糖類、及びカルボキシメチルセルロース等の多等類誘導体、またゼラチンやポリアミノ酸及びポリペプチド及びタンパク質、さらにはポリアクリル酸等の合成高分子を利用したポリイオンコンプレックスがある。
【0006】
しかし、合成高分子は、分子内でのカチオン性基或いはアニオン性基のコントロールが可能で、様々な物性のポリイオンコンプレックスを調製し易い反面、生分解性や生体親和性に乏しく、適用範囲が限定される。
【0007】
また、生分解性や、生体親和性に優れる天然材料も、タンパク質材料にはヒトや動物由来のウイルス感染の危険性があり、天然多糖類では、天然物故にカチオン性、或いはアニオン性の官能基のコントロールができず、多様な要求物性に対応するポリイオンコンプレックスを形成することが難しいという欠点を有する。
【0008】
さらに、カルボキシメチルセルロース等の従来の多糖類誘導体では、置換度のコントロールはできるが、分子内、或いは分子間での置換基分布はバラバラであり、生体内での分解や代謝の機序が明確ではないという問題点を有していた。
【0009】
同時に、従来の天然資源をアニオン性ポリマーに用いて形成させるポリイオンコンプレックスは、アニオン性ポリマーの不均一な構造や高分子量、および、水溶液の高粘性に由来するゲル化のために、緻密なポリイオンコンプレックスを形成させ、各種作用物質を内包することは出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−100468号公報
【特許文献2】特開平7−33682号公報
【特許文献3】特開平11−130697号公報
【特許文献4】特開2002−638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、生分解性、生体親和性に優れ、化学構造が明確な構成単糖よりなる多糖類材料から形成されたポリイオンコンプレックスに、各種作用物質を担持させた複合成形体および複合成形体による各種作用物質の固定化方法を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の課題は、均一な構造を有する直鎖状の多糖類由来のアニオン性ポリマーを用いることにより、緻密な構造のポリイオンコンプレックス複合膜を形成させて内包物を固定するとともに、水や塩などの低分子物の出入りが自由である半透膜的なカプセルおよびこれを利用した固定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとを含有する複合成形体の製造方法であって、該アニオン性ポリマーがセルロース、デンプン、キチンのいずれかの多糖類の酸化により得られたアニオン性ポリマーであり、該アニオン性ポリマーの水溶液に、該カチオン性ポリマーの水溶液を加えることにより形成することを特徴とする複合成形体の製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記アニオン性ポリマーが、水に溶解又は分散させた多糖類を水系で、N―オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する方法により得られ、かつ、天然多糖類のピラノース環中6位の1級水酸基を選択的に酸化されてなるポリウロン酸またはその塩類であることを特徴とする請求項1に記載の複合成形体の製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記アニオン性ポリマーが、セルロースを酸化したポリウロン酸からなることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の複合成形体の製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記カチオン性ポリマーが、キトサン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンおよびこれらの誘導体、ポリマーのカチオン化誘導体、多糖類のカチオン化誘導体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の複合成形体の製造方法である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、記カチオン性ポリマーが、キトサンであり、該キトサンのN−アセチルグルコサミンに対するグルコサミンの比が、90%以上100%以下の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の複合成形体の製造方法である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記アニオン性ポリマーの水溶液に、前記カチオン性ポリマーの水溶液を加えたあとにpH調整をしないことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合成形体の製造方法である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記の複合成形体がカプセル形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の複合成形体の製造方法である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、前記複合成形体内に作用物質を内包し、該作用物質が微生物、細胞、酵素、核酸、蛋白質、磁性体、触媒、顔料、および、染料であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の複合成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法により得られた複合成形体は、化学構造が制御されたウロン酸構造を有する天然多糖類由来のアニオン性ポリマーと、各種カチオン性ポリマーからなるため、容易に生分解でき、また、生体親和性および生体に対する安全性を高めることが可能となった。
【0022】
また、複合体をカプセル化し各種作用物質を内包することを特徴としており、水や塩などの低分子物の出入りが自由な半透膜的性質を持つことから、本発明の製造方法により得られた複合成形体は、医療用材料、農薬、食品、化粧品様々な用途に利用できる。
【0023】
また、本発明の製造方法により得られた複合成形体は、微生物、酵素、核酸、蛋白質、磁性体、触媒、顔料、染料等を複合体に内包し固定化、徐放、安定化することが可能となった。
【0024】
また、本発明の製造方法により、酸性多糖として、構造が明確な直鎖状のポリウロン酸を用いることで、緻密な複合体を形成することが可能となった。
【0025】
また、本発明の製造方法により得られた複合成形体は、複合体の半透膜的性質、分子量をコントロールして、徐放性を変化させることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の複合成形体は、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとのポリイオンコンプレックスである。
【0027】
本発明の複合成形体において、アニオン性ポリマーとしては、(ア)β−1,4−グルコピラノースのホモポリマーであるセルロースを酸化し、そのピラノース環の6位に選択的にカルボキシル基を導入したβ−1,4−ポリグルクロン酸を基本骨格とするポリウロン酸、(イ)途中分岐はあるもののα−1,4−グルコピラノースが連なった澱粉を酸化して得られるα−1,4−ポリグルクロン酸を基本骨格とするポリウロン酸、(ウ)β−1,4−N−アセチルグルコサミン及び一部β−1,4−グルコサミンが連なるキチンを酸化して得られるβ−1,4−ポリN−アセチルグルコサミヌロン酸を基本骨格とするポリウロン酸等を用いることができる。
【0028】
前記の選択的酸化手法としては、酸化度の制御が可能で、かつピラノース環の2位や3位を酸化することなく殆ど全てのピラノース環6位をカルボキシル基まで酸化することも可能な、水系で、N−オキシル化合物触媒の存在下、酸化剤を使って酸化する方法を用いることができる。
【0029】
前記のN−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下TEMPOと称する)等を用いることができる。
【0030】
また、前記の酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。
【0031】
また、臭化物やヨウ化物の共存下で酸化を行うと、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行させ、カルボキシル基の導入効率を大きく改善することができる。
【0032】
また、N−オキシル化合物としては、TEMPOを用い、臭化ナトリウムの存在下、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いて行うのが特に好ましい。
【0033】
ここで、N−オキシル化合物は触媒としての量で済み、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し、10ppm〜5%あれば充分であるが、0.05%〜3%が好ましく、また臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択でき、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し0〜100%、より好ましくは1〜50%である。
【0034】
また、構成単糖の1級水酸基への酸化の選択性を上げ、副反応を抑える目的で、反応温度は室温以下、より好ましくは系内を5℃以下で反応させることが望ましい。さらに、反応中は系内をアルカリ性に保つことが好ましい。この時のpHは9〜12、より好ましくはpH10〜11に保つとよい。
【0035】
また、この酸化方法は、酸化剤の量およびpHを一定に保つ際に添加されるアルカリの量により酸化度を制御することができる。例えば、アルカリが糖残基と等モル量添加されれば、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基がカルボキシル基にまで酸化され、水溶性のポリウロン酸が得られる。
【0036】
この酸化反応の原料多糖類としては、でんぷんやプルラン、ヒアルロン酸なのどの水溶性多糖類、さらに水不溶のセルロースやキチン等を用いることができる。
【0037】
セルロースやキチンなど結晶性の高い多糖類を原料とする場合は、前処理として結晶性を低下させる再生処理を行うことが好ましい。
【0038】
セルロースの再生処理としては、キュプラアンモニウム法、ビスコース法等の公知の再生処理法を利用できる。
【0039】
また、キチンの再生処理としては、例えばアルカリ再生処理が挙げられる。キチンを高濃度のアルカリに浸漬後、氷を加えながら低温下で希釈していくことにより、粘調な液体となる。ここに塩酸を加えて中和すると、フレーク状のキチンが析出するが、ほぼ非晶質化したキチンが得られ、これを充分に水洗して乾燥させずに上記酸化反応に供することにより、分子量低下を極力抑え、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基のみカルボキシル基にまで酸化することができる。
【0040】
また、或いは、キチンの脱アセチル化物であるキトサンを原料に、均一反応下でN−アセチル化した材料を前記酸化反応に供してもよい。
【0041】
例えば、キトサンを酢酸に溶解し、メタノールで希釈後、キトサン中のアミノ基量に対して1.5〜3倍モル量の無水酢酸を添加することで、容易にN−アセチル化して、再びキチンの化学構造に戻すことができる。
【0042】
この操作を経て、充分に水洗した生成物を乾燥させずに、或いは凍結乾燥して、前記酸化反応に供することにより、アルカリ再生キチン同様に6位の1級水酸基のみ選択性高く酸化される。
【0043】
さらにこの場合、無水酢酸の添加量により酸化原料のN−アセチル化度をコントロールすることも可能である。
【0044】
ここで、再生セルロースを前記酸化手法により酸化してD−グルコースの6位にカルボキシル基を導入した、β−1,4−グルコピラノース及びβ−1,4−グルクロン酸を構成単糖とするポリウロン酸をセロウロン酸と呼ぶことにする。
【0045】
また、でんぷんを酸化してD−グルコースの6位にカルボキシル基を導入した、α−1,4−グルコピラノース及びα−1,4−グルクロン酸を構成単糖とするポリウロン酸をアミロウロン酸と呼ぶことにする。
【0046】
また、キチンを酸化したβ−1,4−N−アセチルグルコサミヌロン酸を構成単糖とするポリウロン酸をキトウロン酸と呼ぶことにする。
【0047】
これらのポリウロン酸の6位カルボキシル基は、ナトリウムやカルシウム塩など塩で存在する方が安定であり、特にナトリウム塩など1価の塩は水溶性が高い。
【0048】
また、これらの合成ポリウロン酸の水溶液に塩酸などの酸を添加するか、イオン交換樹脂で処理することにより、脱塩したCOOH型の合成ポリウロン酸を得ることができる。
【0049】
特に、前記したキトウロン酸やアミロウロン酸は、COOH型でも水溶性を示し、pH1〜14の広いpH域で高い水溶性を示す。
【0050】
さらに、本発明の複合成形体において、前記のポリウロン酸を単一でアニオン性ポリマーとして用いることも可能であるが、数種のポリウロン酸を混合して用いても構わない。
【0051】
例えば、キトウロン酸単体を酸性多糖として、キトサンをカチオン性塩ポリマーとしてポリイオンコンプレックスを形成させた複合成形体は、リゾチームの作用により容易に分解するが、キトウロン酸とアミロウロン酸やセロウロン酸を混合して、ポリイオンコンプレックスを形成すると、リゾチームに対する耐性が上がることで生体内での分解速度が遅くなり、生体内外での残存期間をコントロールすることも可能である。
【0052】
以上のように、本発明の複合成形体に用いられるアニオン性ポリマーは、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸などの天然のポリウロン酸類とは異なり、構造が明確、均一なポリウロン酸であり、分岐もなく、リニアなホモポリマーに近いことから、より均一なポリイオンコンプレックスを形成し易いという特徴を有する。
【0053】
さらに、これらのポリウロン酸は水溶性が高く、特にpH1〜14の広いpH領域で水溶性であること、その水溶液の粘度は他のポリマーと比較しても低いことから、複合成形化する際、ゲル化などを起こし難く、カプセルの外殻複合膜の緻密化が行える。
【0054】
次に、本発明の複合成形体のカチオン性ポリマーについて説明する。
【0055】
本発明の複合成形体のカチオン性ポリマーは、本発明のアニオン性ポリマーとポリイオンコンプレックスを成形するものであれば、特に限定されないが、キトサン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンおよびこれらの誘導体、各種ポリマーのカチオン化誘導体、カチオン化澱粉などの各種多糖類のカチオン化誘導体の1種類または2種類以上を選択することができる。
【0056】
特に、キトサンや、各種多糖類のカチオン化誘導体を用いた場合、生成する複合成形体は全て多糖類由来の物となり、生分解性、生体適合性などに極めて優れ、また、糖構造に由来する高機能化を付与させる可能性も持ち、より好ましい。
【0057】
特にキトサンは、本発明のアニオン性ポリマーと構造が類似しており、アニオン性基の間隔に対するカチオン性基の間隔や大きさがほぼ等しく、ポリイオンコンプレックスや複合成形体を形成したときに複合膜の緻密化が行え、より好ましい。
【0058】
本発明の複合成形体のカチオン性ポリマーとしてキトサンを用いる場合は、一般的なキトサンが適用可能であり、原料や精製方法、重合度等については特に限定されるものではない。
【0059】
しかし、ゲル化を防ぐ、複合膜形成の作業性を考えると、重量平均分子量が1×10から2×10の範囲にあるキトサンが好ましく用いられる。
【0060】
また、構成単糖中のグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率も特に限定されるも
のではないが、水或いは酸に対する溶解性の点から、40:60〜100:0の範囲であ
ることが好ましい。
【0061】
しかし、複合膜の緻密化を行うという目的には、本発明のポリウロン酸の構造と最も近い、グルコサミンの比率の高い、いわゆる高脱アセチル化キトサンが好ましく用いられる。
【0062】
このキトサンのグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率は、一般に脱アセチル化度、或いは、N−アセチル化度(N−アセチル化度(%))=100%−(脱アセチル化度(%))として示されるが、元素分析や、コロイド滴定、KBr錠剤法による赤外分光法(IR)、或いは、酸性溶液に溶解して核磁気共鳴分光法(NMR)などにより求めることができる。
【0063】
本発明の複合成形体のアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの配合比としては、特に限定されるものではないが、一般的にアニオン性とカチオン性の価数がおよそ1対1でイオン結合し、ポリイオンコンプレックスが形成する。
【0064】
しかし、各々のポリマーの構造、特にイオン性基の間隔、固形分濃度や対イオンの種類、pHなどにより、複合成形体中の配合比が若干異なり、複合成形体の物性は大きく変わってくる。
【0065】
そのため、要求される物性を満たす範囲内において、任意に設定することができる。
【0066】
さらに本発明の複合成形体の形状は、ゲル状、シート状、パウダー状、或いはカプセル状をとることができる。
【0067】
様々な作用物質を内包し、固定化あるいは徐放などを、行う用途に合わせて任意に選択できる。
【0068】
特にカプセル化により各種作用物質の固定化などを行う場合、その大きさは数nmから数cmのオーダーでも、複合被膜を形成でき、内包物を安定化することが可能である。
【0069】
これにより、内包物を外的影響から保護したり、その影響を低減することができる。
【0070】
また、これらのカプセルはこのまま作用物質として使用可能であるが、各種溶媒に分散させたり、繊維や不織布、紙、シート、フィルム、ガラスや金属などに混入或いはコーティングして使用することもできる。
【0071】
複合成形体中に内包させる各種作用物質としては、微生物、細胞、酵素、核酸、蛋白質、磁性体、触媒、顔料、染料、種子、卵、樹脂、油脂、溶媒などが挙げられ、固定化、安定化、保護、徐放などを行うことができる。
【0072】
また、本発明の複合成形体は、少なくとも1種類以上の架橋剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0073】
特に、前述のアニオン性ポリマーに存在するアルデヒドやカルボキシル基、カチオン性ポリマーのアミノ基、イミド基など、比較的反応性の高い官能基を数多く持っている為、効率よく改質することが可能である。
【0074】
引き続き本発明の複合成形体の製造方法について説明する。
【0075】
本発明の複合成形体は、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの複合系からなる。
【0076】
最も機能的、かつ強固な緻密膜を形成させるにはポリイオンコンプレックスを形成させるのが効率的である。
【0077】
両ポリマーが溶解している水溶液に対しpH調整を行い、最もポリイオンコンプレックスの形成し易いpH領域にすることで、ポリイオンコンプレックスを形成させる手法も挙げられる。
【0078】
この手法では、混合水溶液からpHを調整し、水中に析出したポリイオンコンプレクッスを成形して、カプセル状、フレーク状、塊状、糸状、或いはシート状のポリイオンコンプレックスとする手法も可能である。
【0079】
また、或いは、ポリイオンコンプレックスはイオン化したアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを接触させることにより、形成させることができる。
【0080】
例えば、各ポリマーの水溶液を混合し、接触させると同時にポリイオンコンプレックス形成と成形を同時に行うことも可能である。
【0081】
最も単純な方法としては、例えば、アニオン性のポリマー水溶液にカチオン性のポリマー水溶液を滴下することにより、ポリイオンコンプレックスのカプセルが形成される。滴下の順は逆でもよい。
【0082】
特に、カプセル形成の方法と作用物質を内包させる手法については、その用途や構造に応じて各種の手法を選択できる。
【0083】
ここで、内包とは、表層を含む複合膜内、カプセル内に取り込まれていることを意味し、内包物が複合成形体の外に飛び出た構造を持っていても構わない。
【0084】
内包物は、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーのいずれか、或いは両方に分散或いは溶解させておき、単純なコアセルベーション法、二次エマルション法などの手法を用いてカプセル化される。
【0085】
このカプセル化に関しては、各装置や溶液の構成、撹拌、温度など様々の条件により、形状や、大きさ、外壁の膜厚、粒度分布、カプセルの物性などがコントロールできる。
【実施例】
【0086】
まず実施例、比較例に用いる原料となる酸性多糖、塩基性多糖の製造例について説明する。
【0087】
<製造例1>
(N−アセチル化キトサンの調製(1))
脱アセチル化度100%のキトサンとして、大日精化工業(株)製ダイキトサン100D(VL)を用い、このキトサン10gを10%酢酸190gに溶解し、メタノール1Lで希釈し、攪拌しながら無水酢酸12.68g(2eq.)を加えると、数分でゲル化した。
【0088】
これを15時間放置後、さらにメタノール1Lを加えてホモジナイザーで攪拌し、2N−NaOH水溶液を加えてpH7に中和し、これを濾過して、メタノール及び脱イオン水で十分に洗浄し、凍結乾燥させてN−アセチル化キトサン11.6gを得た。元素分析によるN−アセチル化度は95%であった。
【0089】
<製造例2>
(N−アセチル化キトサンの調製(2))
脱アセチル化度100%のキトサンとして、大日精化工業(株)製ダイキトサン100D(VL)を用い、このキトサン10gを10%酢酸190gに溶解し、メタノール1Lで希釈し、攪拌しながら無水酢酸3.17g(0.5eq.)を加え、室温で15時間攪拌した。
【0090】
ここに2N−NaOH水溶液を加えてpH7に中和すると、フレーク状のキトサンが析出し、これを濾過して、メタノール及び水:アセトン=1:7よりなる溶液で十分に洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃で減圧乾燥させてN−アセチル化キトサン10.3gを得た。
【0091】
このキトサンは水溶性を示し、1wt%の水溶液でpH8.2であった。
【0092】
さらに酸やアルカリを加えてpHを変動させても溶解していた。
【0093】
塩化重水素酸重水溶液に溶解して測定した1H−NMR分析の結果から、N−アセチル化度は45%であった。
【0094】
<製造例3>
(キトウロン酸ナトリウム塩の調製)
前記製造例1にて調製したN−アセチル化キトサン10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPO0.15g、臭化ナトリウム2.0gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
【0095】
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液84gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
【0096】
反応温度は常に5℃以下に維持した。
【0097】
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
【0098】
そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させ、2Lのエタノール中に反応液を投入して生成物を析出させ、水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、白い粉末状のキトウロン酸ナトリウム塩10.8gを得た。
【0099】
<製造例4>
(キトウロン酸カルシウム塩の調製)
和光純薬工業(株)製キチン10gを、45%水酸化ナトリウム水溶液150gに浸漬し、室温以下で2時間攪拌した。
【0100】
前記の水溶液を氷水などで冷やし、攪拌しながら砕いた氷850gを添加した。
【0101】
このアルカリ処理によりキチンはほぼ溶解した。
【0102】
前記の水溶液を塩酸で中和し、十分に水洗した後、乾燥しないものを酸化原料とした。
【0103】
この再生キチン5%濃度の懸濁液200gに、蒸留水50gにTEMPO0.08gと臭化ナトリウム1.0gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
【0104】
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液35gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
【0105】
反応温度は常に5℃以下に維持した。
【0106】
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
【0107】
そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
【0108】
この溶液に10%塩化カルシウム水溶液150gを添加し、キトウロン酸のカルシウム塩として沈殿させた。
【0109】
この沈殿物を水により数回洗浄し、試薬や生成した塩を除去した。
【0110】
<製造例5>
(アミロウロン酸カルシウム塩の調製)
コンスターチ10gを蒸留水400gに加熱溶解させ、冷却した。
【0111】
この溶液に、蒸留水100gにTEMPO0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
【0112】
反応温度は常に5℃以下に維持した。
【0113】
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
【0114】
そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させ、10%の塩化カルシウム水溶液200mLを加え、沈殿したアミロウロン酸カルシウム塩を数回水洗し、乾燥させ、アミロウロン酸カルシウム塩を単離した。
【0115】
<製造例6>
(セロウロン酸ナトリウム塩の調製)
再生セルロースとして旭化成工業(株)製ベンリーゼを用い、再生セルロース10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPO0.18gと臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
【0116】
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
【0117】
反応温度は常に5℃以下に維持した。
【0118】
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
【0119】
そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させ、2Lのエタノール中に反応液を投入して生成物を析出させ、水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、白い粉末状の酸化度100%のセロウロン酸ナトリウム塩11.6gを得た。
【0120】
<実施例1>
次に実施例1の複合成形体について説明する。
【0121】
製造例2で作成したN−アセチル化キトサン2gを希塩酸溶液に溶解し、固形分濃度3%、pH1のカチオン性ポリマー水溶液とした。
【0122】
このキトサン水溶液中にリパーゼ0.5gとベンゼン70mL、界面活性剤としてtween80を2g加え撹拌した。
【0123】
製造例4で作成したキトウロン酸ナトリウム塩1gを蒸留水に溶解し、固形分濃度5%のアニオン性ポリマー水溶液とした。
【0124】
この水溶液にカチオン性ポリマーのエマルジョンを撹拌しながら加え、更に攪拌を数分間続けた。
【0125】
生成したカプセルを軽く水洗し1%CaCl水溶液およびアセトンで処理し、実施例1のカプセルを得た。
【0126】
<実施例2>
市販の高脱アセチル化キトサンを0.2M酢酸水溶液に溶解させ、2%キトサン水溶液100gを調製した。ここに酸化鉄(Fe)の微粉末2gを懸濁分散させた。
【0127】
製造例6のセロウロン酸ナトリウムを2%濃度で溶解させた水溶液中に前記キトサン/酸化鉄懸濁液を滴下し、磁性粉を内包させたカプセルを調製した。
【0128】
水中で1ヶ月保存してもカプセル中には磁性粉が含まれており、磁界に反応している様子が確認できた。
【0129】
<参考例1>
市販の高脱アセチル化キトサンを0.2M酢酸水溶液に溶解させ、2%キトサン水溶液100gを調製した。
【0130】
ここにハイドロキシアパタイトの微粉末2gをホモジナイザーにより分散させた。
【0131】
製造例6のセロウロン酸ナトリウムの2%水溶液をキトサン/ハイドロキシアパタイト混合液に加え、更に撹拌を行った。
【0132】
この含ハイドロキシアパタイトペーストをガラス基材上にコーティングすると、均一なコーティング膜が得られた。
【0133】
乾燥させた膜は水中で安定であり、酸性、アルカリ性雰囲気下でも3日間は崩壊することが無かった。
【0134】
参考例1で作製したコーディング済みのガラス基材を生理食塩水中に入れた。
【0135】
14日後観察したところ、コーティング膜が崩壊した様子は無かった。
【0136】
このことより、参考例1のコーティング剤は生体材料のコーティング材料としても可能性があることが示唆された。
【0137】
<実施例3>
カーボンブラック顔料10g、エチレングリコール20g、グリセリン5g、界面活性剤15gを混合しポリアリルアミン(分子量100000)の10%水溶液50gに分散させた。
【0138】
更に製造例5で作成したアミロウロン酸カルシウム塩5gを水50gに分散させた懸濁液にカーボンブラック顔料を分散させたカチオン性ポリマー水溶液を撹拌しながら滴下し、実施例の顔料を内包したカプセルを得た。
【0139】
<実施例4>
市販の高脱アセチル化キトサンを0.2N−塩酸に溶解させ、2%キトサン水溶液20gを調製した。
【0140】
ここにヘモグロビン0.2gを加えよく撹拌し、分散させた。
【0141】
この水溶液を製造例6のセロウロン酸ナトリウムの2%水溶液に滴下撹拌し、ヘモグロビン内包カプセルを得た。
【0142】
生成したカプセルは濾取し、バッファーにより洗浄した。
【0143】
このカプセル中にはヘモグロビンが内包されており、塩濃度の異なる水に投入したときカプセルの大きさが異なることから、水などの低分子量の物質の出入りがあることが確認できた。
【0144】
<比較例1>
実施例のアニオン性ポリマーを製造例6のセロウロン酸ナトリウムからアルギン酸ナトリウム(1%粘度100から150mPaS)の2%水溶液に変え、キトサン水溶液を滴下した。
【0145】
しかし、キトサンとアルギン酸の複合成形体は緻密な膜を成形せず、ゲル化がおこり、カプセル化には至らなかった。
【0146】
<比較例2>
更にアルギン酸ナトリウム水溶液を0.5%濃度とし、比較例1と同様にキトサンとのカプセルを形成したが、洗浄時にカプセルが崩れてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明により、化学構造が制御されたウロン酸構造を有する天然多糖類由来のアニオン性ポリマーと、各種カチオン性ポリマーからなる複合成形体を製造することが可能となり、これらの複合成形体は容易に生分解し、生体親和性が高い。
【0148】
また、カプセル化し各種作用物質を内包することを特徴としており、水や塩などの低分子物の出入りが自由な半透膜的性質を持つことから、工業用汎用用途としての利用の他、医療用材料、農薬、食品、衛生用品、化粧品等様々な用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとを含有する複合成形体の製造方法であって、該アニオン性ポリマーがセルロース、デンプン、キチンのいずれかの多糖類の酸化により得られたアニオン性ポリマーであり、
該アニオン性ポリマーの水溶液に、該カチオン性ポリマーの水溶液を加えることにより形成することを特徴とする複合成形体の製造方法。
【請求項2】
前記アニオン性ポリマーが、水に溶解又は分散させた多糖類を水系で、N―オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する方法により得られ、かつ、天然多糖類のピラノース環中6位の1級水酸基を選択的に酸化されてなるポリウロン酸またはその塩類であることを特徴とする請求項1に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン性ポリマーが、セルロースを酸化したポリウロン酸からなることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーが、キトサン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンおよびこれらの誘導体、ポリマーのカチオン化誘導体、多糖類のカチオン化誘導体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記カチオン性ポリマーが、キトサンであり、該キトサンのN−アセチルグルコサミンに対するグルコサミンの比が、90%以上100%以下の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項6】
前記アニオン性ポリマーの水溶液に、前記カチオン性ポリマーの水溶液を加えたあとにpH調整をしないことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項7】
前記の複合成形体がカプセル形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項8】
前記複合成形体内に作用物質を内包し、該作用物質が微生物、細胞、酵素、核酸、蛋白質、磁性体、触媒、顔料、および、染料であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−99107(P2011−99107A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284563(P2010−284563)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【分割の表示】特願2005−120704(P2005−120704)の分割
【原出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】