説明

複合材料の流動性および耐熱性を改良する組成物、製造方法および使用

【課題】本発明の目的は、少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロール、少なくとも1つのバイオポリマーおよび植物性カーボン由来の粉末を含む組成物またはホスト混合物、および、複合材料、特に場合によっては植物粉末を充填されたバイオポリマーを主成分とする複合材料の溶融状態での流動性および耐熱性を改良するためのその使用である。本発明は、また、この組成物および該組成物を含む材料の製造方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、特に場合によっては(複数の)植物粉末で充填された生分解性ポリマーを主成分とする複合材料の耐熱性および溶融状態での流動性を改良するために有用な組成物、ホスト混合物に関するものである。
【0002】
本発明は、また、上記のホスト混合物の製造方法、その使用およびその混合物を含む複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0003】
制御された生分解性を備える材料、特に(複数の)生分解性ポリマーまたはバイポリマーと(複数の)植物粉末の混合物を主成分とする材料のように微生物を特別に供給する必要も無く、自然環境で分解されることのできる材料の研究がますます盛んになっていることが知られている。
【0004】
バイオポリマーまたはバイオポリマーと植物粉末との混合物を主成分とするこれらの材料は、一般的に、射出成形、ブロー押出成形、膨脹押出成形、カレンダがけなどの、溶融状態での大きな流動性と高い耐熱性を要求する型の技術を実施して、使用される。
【0005】
ところが、バイオポリマーおよびバイオポリマー/植物粉末の混合物は、溶融状態での低い流動性および/または低い耐熱性をしめす。
【0006】
これらの材料の流動性を改良するために使用される解決方法は、可塑剤、例えば、フタル酸塩、安息香酸塩、エポキシドのように耐久性があり、取り扱いがより簡単な可撓性生成物を生成することのできる可塑剤をそれらの材料に加えることである。
【0007】
可塑剤の役割は、様々である。可塑剤は、可塑化するバイオポリマーまたは複合材料との優れた相溶性を示し、可塑化作用を示し、揮発または蒸散のために性能が全く損なわれることがないものでなければならない。
【0008】
しかしながら、現在ポリマー工業で使用されている可塑剤は、再生不可能な石油化学によるものであり、生分解性ではない。
【0009】
したがって、最終的に、エコロジーに適さず、完全に分解されない物質が含まれている。
【0010】
このエコロジーの問題を解決するために、天然分子由来の可塑剤が、バイオプラスチックと共に使用されるように開発された。例として、トリアセチン(非特許文献1)、クエン酸誘導体(非特許文献2)、ポリエチレングリコールすなわちPEG(非特許文献3)およびポリエチレンオキサイド(非特許文献4)が挙げられる。
【0011】
しかしながら、これらの天然由来の可塑剤は、力学的性能及び特性に関して欠点を示し、したがって、満足できる解決方法ではない。
【0012】
さらに、複合材料の耐熱性の向上に関して、その結晶化度を高めることが適している。
【0013】
実際、ポリエチレンテレフタレートのような部分結晶性ポリマーの耐熱性は、その結晶化度とともに大きくなることが公知である。
【0014】
したがって、例えば、核生成剤の追加または特許文献1に記載されているような変態後の後結晶化のように、多数の解決方法が開発された。しかしながら、これらの処理は、特に有効性、単純性およびコストの点から満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第1463619号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】N. Ljungberg and B.Wesselen、 J Appl Polym Sci 86(2002)、p.1227
【非特許文献2】L.V. Labrecque、 R.A. Kumar、 V. Dave、 R.A. Gross and S.P. McCarty、J Appl Polym Sci 66(1997)、p.1507
【非特許文献3】S. Jacobsen and H.G. Fritz、 Polym Eng Sci 39(1999)、p.1303
【非特許文献4】A.J. Nijenhuis、 E. Colstee、D.W. Grijpma and A.J. Pennings、Polymer 37(1996)、p.5849
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、力学的特性と生分解性を保持したまま、同時に、生分解性ポリマーと生分解性ポリマーを主成分とする材料の溶融状態での流動性と耐熱性を改良することのできる有効な生成物への要望が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0018】
少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロール、少なくとも1つのバイオポリマーおよび植物性カーボンから由来する少なくとも1つの粉末、および場合によっては可塑剤を含む組成物またはホスト混合物を提案することによって、本発明が解決しようとするのは、この問題である。
【発明の効果】
【0019】
実際、驚くべきことに、官能基化されたポリグリセロール、バイオポリマーおよび植物性カーボン由来の粉末の共同混合物は、複合材料の可塑剤として、および、耐熱性増進剤として顕著な特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
官能基化されたポリグリセロールとは、複数のグリセロール単位をそれ自体に縮合させることによって得られるポリグリセロールを意味し、そのグリセロール単位のヒドロキシル基の一部または全部は他の基、好ましくは、エステル基によって置換されている。そのような分子は、下記化学式1および2に対応する。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

前記式において、R1、R2およびR3は、水素または脂肪酸鎖を示している。
【0023】
バイオポリマーとは、全ての生分解性ポリマーおよび/またはバイオ起源のポリマーを意味する。生分解性ポリマーは、CO、水及び新しいバイオマスの形態で微生物の作用によって分解されるポリマーである。バイオ起源のポリマーは、全体または一部分が再生可能な資源から由来するポリマーである。
【0024】
本発明の意味において、植物性カーボン由来の粉末とは、穀物由来の粉末およびリグノセルロース粉末を意味する。
【0025】
本発明の意味でのホスト混合物とは、少なくとも1つの添加物または少なくとも1つの添加剤を大量に充填されており、続いて、別の混合物に希釈され、その混合物に該添加物または該添加剤を導入するようにされた1つまたは複数のポリマーを主成分とする混合物である。
【0026】
本発明は、また、複合材料の溶融状態での流動性および耐熱性を向上させるためのこの組成物またはホスト混合物の使用に関するものである。
【0027】
特に、本発明は、(複数の)バイオポリマーおよび/または(複数の)植物粉末を充填された(複数の)バイオポリマーを主成分とする複合材の可塑剤および耐熱性増強剤としてのこの生分解性組成物の使用を目的とする。
【0028】
本発明は、また、官能基化されたポリグリセロール、バイオポリマーおよび植物性カーボン由来の粉末の組成物の製造方法に関する。
【0029】
さらに、本発明は、また、少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロール、少なくとも1つのバイオポリマーおよび植物性カーボン由来の粉末からなる組成物を含む、場合によっては植物粉末を充填されたバイオポリマーを主成分とする複合材料に関するものである。
【0030】
本発明によって、好ましくは、溶融状態での大きな流動性および良好な耐熱性を示す一方で、完全に天然資源から由来し、したがって、環境に全く害となることのない生分解性ポリマーおよび/または(複数の)植物粉末を充填された生分解性ポリマーを主成分とする配合を得ることができる。
【0031】
本発明のその他の特徴および利点は、下記の本発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0032】
したがって、本発明は、少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロール、少なくとも1つのバイオポリマーおよび植物性カーボン由来の粉末を含む組成物またはホスト混合物を目的とする。
【0033】
植物性カーボン由来の粉末は、好ましくは、小麦粉のように、穀物の天然粉末、または、木材粉末のようなリグノセルロース由来の粉末である。天然粉末とは、精製も補助薬の添加もせずに、原料を粉砕することによって得られる粉末を意味する。
【0034】
植物性カーボン由来の粉末は、澱粉化された粉末であることが極めて好ましい。
【0035】
澱粉化された粉末とは、下記の
−小麦粉、コーンスターチまたはライ麦粉などの澱粉質の穀物粉末、
−ソラマメ、ルピナス、菜種、ヒマワリ、大豆またはカゼインの粉末などのタンパク質粉末、および、
−木質、麻または亜麻繊維などのリグノセルロース粉末、
から選択することができる。
【0036】
本発明の好ましい一実施態様によると、官能基化されたポリグリセロールは、ポリグリセロールエステルである。好ましくは、下記の、
−ステアリン酸、アラキン酸、ミスチリン酸、カプリル酸、イソステアリン酸などのように、C1〜C32の飽和脂肪酸、
−パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸などのモノ不飽和脂肪酸、および
−リノール酸、α−リノール酸、γ−リノール酸、ジホモ−γ−リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などのポリ不飽和脂肪酸、
から選択された1つまたは複数の官能基酸を含む重合度が1〜20のポリグリセロールエステルである。
【0037】
別の実施態様によると、官能基化されたポリグリセロールは、アセチル化ポリグリセロールまたはアセチル化およびエステル化ポリグリセロールである。
【0038】
例として、ポリリシノール酸ポリグリセロールは、本発明に特に適した官能基化されたポリグリセロールである。
【0039】
本発明によると、官能基化されたポリグリセロールは、ポリマーを主成分とする、特に、少なくとも1つの植物粉末を充填された生分解性ポリマーを主成分とする複合材料用の可塑剤として使用される。
【0040】
例として、バイオポリマーは、下記の、
−澱粉および澱粉混合物、
−ポリペプチド、
−ポリビニルアルコール、
−ポリヒドロキシアルカノエート、
−ポリ乳酸およびポリ乳酸塩、
−セルロース、および、
−ポリエステル
の中から選択することができる。
【0041】
好ましくは、本発明によるホスト混合物は、下記の、
−官能基化されたポリグリセロール 1〜15重量%、
−(複数の)バイオポリマー 25〜94重量%、
−植物性カーボン由来の粉末、好ましくは、澱粉化された粉末
5〜60重量%
を含む。
【0042】
別の実施態様によると、本発明による組成物は、また、可塑剤を含むことがある。例として、グリセロール、クエン酸アセチルトリブチルなどのクエン酸誘導体、または、水を挙げることができる。好ましくは、組成物中に1〜20%、さらに好ましくは2〜8%存在することがある。
【0043】
好ましくは、本発明による混合物の様々な成分は相乗効果で作用して、複合材料、特に場合によっては植物粉末を充填された(複数の)バイオポリマーを主成分とする複合材料の溶融状態での流動性と耐熱性を同時に改良することができる。
【0044】
本発明による組成物は、1つまたは複数の生分解性ポリマー、植物性カーボン由来の粉末、および、少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロールを50〜300℃、より好ましくは、150〜250℃の範囲の温度で押出成形することからなる方法の実施によって得ることができる。
【0045】
次に、得られたホスト混合物を複合材料、特に、特に場合によっては植物粉末を充填されたバイオポリマーを主成分とする複合材料の製造に導入することができる。製造物へのホスト化合物の添加は、押出成形によって行われる。
【0046】
複合材料中のホスト化合物の質量含有率は、好ましくは、1〜80%の範囲である。
【0047】
例えば、澱粉および澱粉混合物、ポリペプチド、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシブチレートおよびポリヒドロキシ吉草酸塩、ポリ乳酸およびポリ乳酸塩、セルロースおよびポリエステルから選択される(複数の)バイオポリマーを主成分とする複合材料が重要である。これらのバイオポリマーは、例えば、小麦粉、コーンスターチまたはライ麦粉などの澱粉質の穀物粉末、ソラマメ、ルピナス、菜種、ヒマワリ、大豆またはカゼインの粉末などのタンパク質粉末、および、木質、麻または亜麻繊維などのリグノセルロース粉末のような植物粉末を充填することができる。
【0048】
本発明によるホスト混合物を含む、場合によっては植物粉末を充填された生分解性ポリマーを主成分とする複合材料は、好都合なことに、良好な力学的特性、優れた耐熱性と同様に改良された溶融状態での流動性を備える。本発明によるホスト混合物は、特性を改良する必要があるバイオポリマーまたは複合材料との良好な相溶性を示す。その混合物は、また、良好な可塑化作用を示し、揮発または蒸散による性能の損失は全く見られない。
【0049】
これらの特性は、以下に示す実施例によって明らかになるであろう。
【実施例】
【0050】
実施例は、ポリ乳酸(PLA)、澱粉化小麦粉、ポリグリセロールエステルおよび水を主成分とするホスト混合物について実行される。
【0051】
この実施例について、
−プラスチック材料のひっぱり特性は、ISO/R 527およびISO 178規格によって測定され、
−プラスチック材料の溶融状態での流動率は、ISO 1133規格に従い、
−材料の衝撃強さは、切り込みのない試験片からISO 179規格によって測定され、
−耐熱性は、ISO 75規格による荷重(荷重1.8MPa、温度上昇速度120±10K/時)で、屈曲温度によって測定された。
【0052】
操作手順を以下に示す。
【0053】
PLAx%、澱粉化小麦粉y%、ポリリシノール酸ポリグリセロール型ポリグリセロールエステル、クエン酸アセチルトリブチル型可塑剤および水を含む混合物を、170℃で共回転押出成形機Clextral BC21(L=600mm、L/d=24)を使用して粒状化した。
【0054】
造粒によって得られた製品をプレスArburg 100Tで射出成形して、その力学的特性の測定に必要な試験片を形成する。
【0055】
得られた結果を下記表1に記載し、各材料の力学的および流動学的特性を示した。
【0056】
【表1】

【0057】
これらの結果は、本発明による組成物がPLAの力学的特性と自然環境でのその生分解性の性質を保持したまま、良好な耐熱性および可塑性を備えることを示している。
【0058】
次に、これらのホスト混合物を複合材料に添加したとき、それらの効果を観察するためのテストを実施した。
【0059】
このため、PLA、ポリヒドロキシアルカノエート、植物粉末および可塑剤の混合物を、ホスト混合物PLA AMI7の存在下または非存在下で、170℃で共回転押出成形機Clextral BC21(L=600mm、L/d=24)を使用して粒状化した。
【0060】
本発明による組成物を20質量%添加すると、複合材料の耐熱性を向上させることができることが確認される。実際、荷重下の屈曲温度は、本発明による混合物のないときは39℃で、その混合物の添加後は51℃になる。
【0061】
同様に、本発明による組成物を20質量%添加することによって、溶融状態での流動性を向上させることができる。実際、加熱流動率は、本発明による混合物のないときは7g/10分であるが、その混合物の添加後は15g/10分になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロール、少なくとも1つのバイオポリマーおよび少なくとも1つの植物性カーボン由来の粉末を含む組成物。
【請求項2】
−(複数の)官能基化されたポリグリセロール 1〜15%
−(複数の)バイオポリマー 25〜94%および
−植物性カーボン由来の粉末 5〜60%
を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記植物性カーボン由来の粉末は、穀物またはリグノセルロース由来の天然粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記植物性カーボン由来の粉末は、澱粉化粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
さらに可塑剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記可塑剤は、組成物中に1〜20質量%含まれることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記可塑剤は、グリセロール、クエン酸誘導体および水から選択されることを特徴とする請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
官能基化されたポリグリセロールは、不飽和脂肪酸、モノ不飽和脂肪酸およびポリ不飽和脂肪酸から選択された少なくとも1つの酸性官能基で官能化されたポリグリセロールエステルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
1つまたは複数の生分解性ポリマー、植物性カーボン由来の粉末および少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロールの混合物を50〜300℃の範囲の温度で押出成形することからなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
1つまたは複数の生分解性ポリマー、植物性カーボン由来の粉末および少なくとも1つの官能基化されたポリグリセロールの混合物を150〜250℃の範囲の温度で押出成形することからなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項11】
複合材料の溶融状態での流動性および耐熱性を改良するための該複合材料中での請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
(複数の)生分解性ポリマーを主成分とする複合材料での請求項11に記載の使用。
【請求項13】
(複数の)植物粉末を充填された(複数の)生分解性ポリマーを主成分とする複合材料での請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物を1〜80質量%含むことを特徴とする(複数の)生分解性ポリマーおよび/または(複数の)植物粉末を充填された(複数の)生分解性ポリマーを主成分とする複合材料。

【公表番号】特表2012−532977(P2012−532977A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520070(P2012−520070)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051465
【国際公開番号】WO2011/007088
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(511304338)
【Fターム(参考)】