説明

複合材料の製造方法、複合材料およびそれを含む成形体

【課題】表面への金属メッキ層の形成が容易で、金属メッキ層との密着性に優れた複合材料およびその製造方法、ならびに該複合材料を含む成形体を提供する。
【解決手段】(1)特定の繰り返し単位を有するケイ素系重合体(A)と、炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)とを含有する樹脂組成物からなる成形物を得る工程、(2)架橋構造を形成させる工程、および、(3)成形物表面および/または成形物内部に金属微粒子を形成する工程を有することからなる複合材料の製造方法、および該複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の製造方法、複合材料およびそれを含む成形体に関する。詳しくは、本発明は、金属粒子を含み、表面への金属メッキ層の形成が容易で、金属メッキ層との密着性に優れた複合材料の製造方法、複合材料およびそれを含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシランに代表されるケイ素系重合体は、高い還元性を有するものとして知られており、近年これを導電性材料として用いることが研究されている(非特許文献1参照)。そして、この特異な性質を用いたケイ素系重合体の表面処理の技術がこれまで報告されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、ケイ素系重合体を金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させて、金属を還元することにより、該ケイ素系重合体の表面あるいは内部に金属微粒子を形成させるケイ素系重合体の表面処理方法が報告されている。こうして形成される金属微粒子は触媒活性が高く直接金属メッキ層を形成できることから、回路基板の製造方法として実用化が期待されてきた。しかしながら実際にはこうして得られた基材と金属メッキ層の密着性は充分でなく、改善が必要であった。
【0004】
密着性を向上させる試みとして、ケイ素系重合体表面に貴金属コロイドを析出させた後、無電解メッキの前に紫外光照射を行う方法(特許文献2)、基板上のポリシラン膜を酸素の存在下で露光した後に貴金属塩でドーピングして無電解鍍金することにより、パターン化された金属層を形成する方法(特許文献3)、ケイ素系重合体にカーボンファンクショナルシランを添加する方法(特許文献4)等が報告されていた。また、基板上のポリシラン薄膜にパラジウム塩を接触させてパラジウムコロイド層を形成した後、そのパラジウムコロイド層上に感光性樹脂層を形成して、これに露光、現像処理を施してパターン化された溝を形成し、この溝に無電解鍍金による導電性金属層を充填形成することで高精細な金属パターンを得る方法が開示されていた(特許文献5)。しかしながら、いずれもテープ剥離試験で剥離が認められない程度まで密着性は改善したものの密着強度は依然低く、実用に耐えられるまでの密着性向上が強く求められていた。
【特許文献1】特開平10−120907号公報
【特許文献2】特開2002−105656号公報
【特許文献3】特開平10−268521号公報
【特許文献4】特開2000−129211号公報
【特許文献5】特開2000−138442号公報
【非特許文献1】「有機ケイ素材料科学の新展開」 桜井英樹監修、(株)シーエムシー出版刊、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題を解決するものであって、表面への金属メッキ層の形成が容易で、金属メッキ層との密着性に優れた複合材料の製造方法、複合材料およびそれを含む成形体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定のケイ素系重合体、および炭素−炭素不飽和結合を有する重合体を含有する樹脂組成物中に金属微粒子が形成された複合材料およびその製造方法を新たに開発した。該複合材料を用いると、驚くべ
きことに、後に形成する金属メッキと樹脂の密着性が大きく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明の複合材料の製造方法は、
(1)下記式(I)で表される繰り返し単位を有するケイ素系重合体(A)と、
【0008】
【化1】

【0009】
(式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、aは0<
a≦100を満たす数であり、aと(100−a)とは重合体中の共重合比を示す。)
炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)と
を含有する樹脂組成物からなる成形物を得る工程、
(2)ケイ素系重合体(A)と、重合体(B)との間に架橋構造を形成させる工程、および、
(3)前記工程(2)で得た成形物を、金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させ、該金属塩中の金属を還元させて、成形物表面および/または成形物内部に金属微粒子を形成する工程
を有することを特徴としている。
【0010】
このような本発明の複合材料の製造方法では、前記重合体(B)が、ビニル基含有ポリシロキサン、ビニル基含有ポリオレフィン、ビニル基含有ポリアクリレート、およびポリブタジエンよりなる群から選ばれる重合体であることが好ましい。
【0011】
本発明の複合材料の製造方法では、前記工程(1)に次いで、工程(1)で得た成形物を部分的に露光する工程を有し、成形物表面および/または成形物内部の非露光部に金属微粒子が成形された複合材料を得ることが好ましい。
【0012】
本発明の複合材料の製造方法では、前記工程(1)が、樹脂組成物と溶媒とを含む塗布液を、基材上に塗布し、溶媒を除去して、基材上に成形物を形成する工程であることが好ましい。このような本発明の複合材料の製造方法では、塗布液を基材上に塗布する際に、インクジェット装置を用いることが好ましく、また、塗布液を基材上に塗布する際に、スクリーン印刷装置を用いることも好ましい。
【0013】
本発明の複合材料の製造方法では、前記工程(3)に次いで、さらに金属メッキを行って、金属層を設けることが好ましい。
本発明の複合材料は、
下記式(I)で表される繰り返し単位を有するケイ素系重合体(A)と、
【0014】
【化2】

【0015】
(式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、aは0<
a≦100を満たす数であり、aと(100−a)とは重合体中の共重合比を示す。)
炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)と、
金属微粒子(C)と
を含有することを特徴としている。
【0016】
このような本発明の複合材料では、前記重合体(B)が、ビニル基含有ポリシロキサン、ビニル基含有ポリオレフィン、ビニル基含有ポリアクリレート、およびポリブタジエンよりなる群から選ばれる重合体であることが好ましい。
【0017】
本発明の成形体は、前記本発明の複合材料を含有する。本発明の成形体は、表面に金属メッキ層が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面への金属メッキ層の形成が容易で、金属メッキ層との密着性に優れた複合材料の製造方法、複合材料およびそれを含む成形体を提供することができる。本発明に係る複合材料は、表面への金属メッキ層形成が容易で、かつ金属メッキ層との密着性に優れることから、配線基板、電子素子、受発光素子、電子素子や光素子を収めるパッケージ、電磁シールド材料などの電子部品、光学部品や電子材料、アンテナ、モーター、インダクタンス素子などの磁性部品あるいは磁性材料、金属光沢を有する装飾品など広い分野に応用して用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
<複合材料の製造方法>
本発明の複合材料の製造方法は、ケイ素系重合体(A)と炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)とを含有する樹脂組成物からなる成形物を得る工程(1)と、ケイ素系重合体(A)と重合体(B)との間に架橋構造を形成させる工程(2)と、金属微粒子を形成する工程(3)とを有している。
【0020】
ケイ素系重合体(A)
本発明で用いるケイ素系重合体(A)は、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する。
【0021】
【化3】

【0022】
(式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、aは0<
a≦100を満たす数であり、aと(100−a)とは重合体中の共重合比を示す。)
本発明に係るケイ素系重合体(A)のR1、R2およびR3の好ましい例として、メチル
基、エチル基、ビニル基、エチニル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、アセテート基、フェニル基等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
上述のように、本発明に係るケイ素系重合体(A)は、分子中にSi−H基を含有している。Si−H基は、還元性が高く金属微粒子の形成が容易になるばかりではなく、炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)との間において、付加反応(ヒドロシリル化反応)により架橋構造を形成することができる。
【0024】
本発明に係るケイ素系重合体(A)中の共重合比を示すaは、Si−H基の分子中の含有量に関係する。aは、0<a≦100を満たすいかなる数でも構わないが、特に10≦a≦100の範囲が好ましく、30≦a≦100の範囲にあることがより好ましく、さらに50≦a≦100の範囲にあることが好ましい。aがこれらの範囲にあれば、樹脂組成物の還元性および金属メッキ層との密着性が特に高い。
【0025】
本発明に係るケイ素系重合体(A)は、どのような方法で製造されたものであってもよく、公知の方法で合成したものをいずれも用いることができる。ケイ素系重合体(A)の製造は、高純度の窒素雰囲気下で行うのが好ましい。
【0026】
本発明に係るケイ素系重合体(A)は、溶媒に可溶であって、基材上に薄膜を形成できることが望ましく、重量平均分子量はこの特性を満たす範囲であれば特に限定されないが、合成の容易さ、溶媒への溶解性、製膜性などの観点から、500〜100,000の範囲であるのが好ましい。
【0027】
本発明に係るケイ素系重合体(A)は、Wurz法やメタロセン法などの既知の合成法で合成することができる。
重合体(B)
本発明に係る重合体(B)は、炭素−炭素不飽和結合を有する。重合体(B)の好ましい例としては、ビニル基含有ポリシロキサン、ビニル基含有ポリオレフィン、ビニル基含有ポリアクリレート、およびポリブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、ポリブタジエンを用いることが、形成される金属層との密着性が向上するので、さらに好ましい。
【0028】
重合体(B)の分子量は、該重合体が溶媒に可溶であって、基材上に薄膜を形成できれば特に限定されないが、分子量が低すぎると密着性向上の効果が低く好ましくなく、また分子量が高すぎると、溶媒への溶解性が低くなり、均一な樹脂組成物を調製するのが困難となり好ましくない。このため、本発明に係る重合体(B)の重量平均分子量は、500〜1,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは1,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜1,000,000の範囲であることが望ましい
【0029】
成形
本発明に係る樹脂組成物は、樹脂成分として上述のケイ素系重合体(A)と、重合体(B)とを含有する。ケイ素系重合体(A)および重合体(B)の組成比は、特に限定されるものではないが、ケイ素系重合体(A)100質量部に対する重合体(B)の割合が、好ましくは1〜10000質量部、より好ましくは10〜1000質量部、さらに好ましくは25〜400質量部であることが望ましい。ケイ素系重合体(A)に対し重合体(B)が少なすぎると、後に形成する樹脂組成物の金属メッキ層との密着性向上の効果が低く好ましくない。また、重合体(B)が多すぎると樹脂組成物の還元性が低下し、後に金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させても金属微粒子が形成されにくくなり好ましくない。
【0030】
本発明の工程(1)では、上述したケイ素系重合体(A)と、重合体(B)とを含有する樹脂組成物からなる成形物を得る。
本発明において、成形物の成形方法は、特に限定されるものではなく、樹脂を成形する公知の方法をいずれも採用できるが、ケイ素系重合体(A)と、重合体(B)と、溶媒とを含む塗布液を、基材上に塗布し、溶媒を除去して基材上の成形物を形成することが好ましい。
【0031】
樹脂組成物からなる成形物の形状は、所望の形状であればよく、フィルム状(またはシート状)、板状、立体形状など、どのような形状であってもよいが、フィルム状であるのが好ましい。塗布液を基材上に塗布し、溶媒を除去することにより成形物を形成する場合、成形物は基材上に形成された状態であるのが好ましいが、基材から剥離してフィルム状などの形状としたものであってもよい。樹脂組成物からなる成形物が基材上に形成されている場合、成形物の厚さは、通常0.01μm以上であるのが望ましく、たとえば0.01〜1000μm、好ましくは0.1〜100μm程度の厚さとすることができる。基材上に形成された樹脂組成物からなる成形物の厚さが0.01μm未満であると、複合材料上に金属メッキを形成する場合に、金属メッキ層が不均一となる場合があり、また、厚さが厚すぎる場合には、溶媒の除去などの効率が低下するほか、密着性が低下する場合がある。
【0032】
塗布液を基材上に塗布し、溶媒を除去することにより樹脂組成物からなる成形物を形成する場合、用いる基材は、所望の形状であればよく、フィルム状、板状、立体形状のいずれであってもよい。また、基材の材質も、本発明に係る樹脂組成物が密着性に優れることから、特に限定されず、所望のものを用いることができる。好ましい基材の材質の例としては、金・銀・銅・鉄・コバルト・ニッケル・ステンレス等の各種金属、ガラス、石英、シリコン、木材、紙、ポリエチレン樹脂・ポリプロピレン樹脂・ウレタン樹脂・エポキシ樹脂・フェノール樹脂・アクリル樹脂・ポリカーボネート樹脂・ポリシロキサン樹脂・ポリシラン樹脂・ポリイミド系樹脂・ポリエーテル系樹脂・ポリエーテルケトン系樹脂等の各種樹脂、樹脂−炭素繊維複合材、ガラスエポキシ複合材等の有機無機複合材、等が挙げられるがこれに限るものではない。
【0033】
基材上に成形物を形成する際に用いられる塗布液は、ケイ素系重合体(A)と、重合体(B)と、溶媒とを含む。塗布液の調製に用いる溶媒の種類は特に限定されず、ケイ素系重合体(A)と、重合体(B)とを溶解できる溶媒をいずれも好ましく用いることができる。好適に用いられる溶媒の例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。塗布液の濃度は、塗布に好適な濃度であれ
ばよく特に限定されず、成形物の形成方法に応じて任意の濃度に調製してよい。
【0034】
塗布液の基材上への塗布は、どのような方法で行ってもよく、特に限定されるものではないが、例えば、ディップコート法、スプレー法、キャスト法、インクジェット法、スクリーン印刷法などが挙げられる。塗布液を用いて基材上に樹脂組成物からなる成形物を形成する場合、塗布液を基材上に塗布した後、常圧あるいは減圧で常温下、または加温して溶媒を揮散させ膜状の樹脂組成物を形成するのが一般的な方法である。塗布液は、各種基材の表面処理したい面の全面に塗布してもよいし、一部分にのみ塗布してもよい。また基材に形成された樹脂組成物を基材から剥離させて、フィルムあるいは板状の成形物としてもよい。本発明では、塗布液の基材上への塗布を、インクジェット装置を用いたインクジェット法により、または、スクリーン印刷装置を用いたスクリーン印刷法により行うことが、基材上へ塗布液を所望の厚さで均一に塗布できるため好ましい。
【0035】
また、本発明では、樹脂組成物からなる成形物は、前記塗布液をガラス繊維や炭素繊維等の基材に含浸させ乾燥することで得られたものであってもよく、たとえば複合シートなどの形態とすることができる。このような複合シートである成形物は、さらに複数枚を重ね合わせ加熱・加圧することで積層板を形成して用いることも可能である。
【0036】
架橋構造の形成
本発明の複合材料の製造方法は、上述のようにして得た樹脂組成物からなる成形物中の、ケイ素系重合体(A)と重合体(B)との間に、架橋構造を形成する工程(2)を有する。
【0037】
架橋構造の形成は、どのような方法で行ってもよく、通常、好ましく用いられる方法としては熱処理が挙げられる。熱処理を空気中で行う場合、ケイ素系重合体(A)が酸化され還元性が低下する可能性がある。このため金属微粒子を形成する工程(3)の前に架橋構造を形成する工程(2)を実施する場合には、窒素またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気で熱処理を行うのが好ましい。熱処理温度は高すぎると架橋が進行しすぎ樹脂組成物の還元性が低下する可能性がある。また熱処理温度は低すぎると、架橋反応が進行せず密着性向上の効果が充分得られない可能性がある。熱処理温度の好ましい範囲は30〜250℃、より好ましくは80〜200℃である。
【0038】
一般にケイ素系重合体は単体では分子量が低く、膜が脆いため剥離応力に対し樹脂内部で凝集破壊が生じ易く密着性が低い。本発明では、ケイ素系重合体(A)と重合体(B)との間に、架橋構造を形成することにより、ケイ素系重合体(A)のみを用いる場合に比べて樹脂の機械強度の向上が達成され、金属メッキ層を形成した場合には、金属メッキ層−樹脂間の密着性が著しく向上する。
【0039】
金属微粒子の形成
本発明の複合材料の製造方法は、架橋構造を形成する工程(2)で得られた成形物の表面および/または内部に金属微粒子を形成する工程(3)を有する。
【0040】
金属微粒子を形成する工程(3)において、金属の種類は、ケイ素系重合体(A)の還元性の高さによっても異なるが、金、銀、白金、パラジウム、銅、コバルト、ニッケルが挙げられ、工程(3)においては、形成する金属に応じて公知の金属塩を選択して用いることができる。
【0041】
工程(3)で用いられる好ましい金属塩としては、
金塩の例として、塩化金、臭化金、塩化金酸、塩化金ナトリウム、塩化金カリウム、塩化金リチウム、
銀塩の例として、テトラフルオロほう酸銀、過塩素酸銀、ヘキサフルオロ燐酸銀、硫酸銀、亜硫酸銀(I)、p−トルエンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、硝
酸銀、
パラジウム塩の例として、塩化パラジウム(II)、塩化パラジウム(IV)、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酸化パラジウム、
白金塩の例として、塩化白金酸、塩化白金酸ナトリウム、塩化白金酸カリウム、ヘキサフルオロアセチルアセトナト白金(II)、
銅塩の例として、酢酸銅(II)、酢酸銅(I)、アセチルアセトナト銅(II)、ヘキサ
フルオロアセチルアセトナト銅(II)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)、
コバルトの塩の例として、酢酸コバルト、アセチルアセトナトコバルト、ヘキサフルオロアセチルアセトナトコバルト、トリフルオロメタンスルホン酸コバルト、
ニッケルの塩として、酢酸ニッケル、アセチルアセトナトニッケル、ヘキサフルオロアセチルアセトナトニッケル、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル
などが挙げられる。
【0042】
本発明の複合材料の製造方法に係る工程(3)では、架橋構造を形成する工程(2)で得られた成形物を、上述した金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させ、成形物の表面および/または内部に金属微粒子を形成する。成形物と、金属塩の溶液あるいは懸濁液との接触は、どのような方法で行ってもよく、たとえば、金属塩の溶液あるいは懸濁液に成形物を浸漬する方法、金属塩の溶液あるいは懸濁液を成形物表面に塗布または噴霧する方法などが挙げられる。金属微粒子を成形体内部まで形成させる際には、成形物と、金属塩の溶液あるいは懸濁液との接触を、浸漬により行うのが好ましい。
【0043】
本発明の工程(3)においては、金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させた成形物を、必要に応じて適宜洗浄、乾燥することによって、ケイ素系重合体(A)の還元作用により、成形物表面および/または成形物内部に金属微粒子が形成される。
【0044】
形成される金属微粒子の大きさは、特に限定されるものではないが、平均粒子径で0.001〜10μmの範囲にあることが好ましい。
露光工程
前記金属微粒子の形成は、成形物の全面に行うことも好ましいが、本発明では、成形物の所望の部分のみに金属微粒子を形成させることもできる。
【0045】
成形物の所望の部分のみに金属微粒子の形成を行うことは、成形物を金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させる前に、成形物上の、金属微粒子を形成させない部分のみを露光することにより達成することができる。すなわち、成形物を部分的に露光する工程を、成形物を金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させる工程(3)の前に有することにより、成形物表面および/または成形物内部の非露光部に金属微粒子が成形された複合材料を製造することができる。成形物を部分的に露光する工程は、前記工程(1)に次いで、あるいは前記工程(2)に次いで行うことができるが、前記工程(1)に次いで行うことが好ましい。
【0046】
本発明に係るケイ素系重合体(A)は、紫外光の照射により、重合体中のSi−Si結合が、Si−O−Si結合もしくはSi−OH結合に変換され、還元性が著しく低下する。この光反応性を利用して、金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させる前の本発明に係る成形物に、所望のパターンが形成されたフォトマスクを通して紫外光を照射し、還元性を有する部分(未露光部)と還元性を有さない部分(露光部)を形成し、その後金属塩溶液あるいは懸濁液に浸漬して、金属微粒子を未露光部に選択的に形成しすることができる。これにより、続く金属メッキにより所望の金属パターンを形成することができる。
【0047】
このため本発明に係る複合材料の製造方法では、レジストを使用せず、密着性に優れた金属パターンを所望の形状に形成することができる。
紫外光の光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプなどの光源が望ましいがこの限りではない。
【0048】
金属メッキ
本発明の複合材料の製造方法では、成形物表面および/または成形物内部に金属微粒子を形成した複合材料の表面に、さらに金属メッキを行い、成形物の表面に金属層を設けることも好ましい。金属微粒子が形成された複合材料表面上への金属メッキは、無電解メッキにより好適に行うことができる。上記方法にて作製された複合材料中の金属微粒子は触媒活性が高く、無電解メッキ液に浸漬すると好適に金属層を形成することができる。形成された金属層は、導体層として作用する。
【0049】
本発明においては、上述の露光工程を有する複合材料の製造方法により得た、露光工程における非露光部のみに金属微粒子が形成された複合材料に金属メッキを行うことによって、金属微粒子が形成された部分のみに金属メッキ層を設けることができる。
【0050】
無電解メッキ液は、公知の金属メッキ液を広く用いることができるが、好ましい例として、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルトの無電解メッキ液を挙げることができる。無電解メッキ液へ浸漬する際、メッキ液の温度は用いるメッキ液の種類にもよるが、通常10〜150℃、より好ましくは25〜80℃である。またメッキ液への浸漬時間もメッキ液の種類にもよるが、通常1分〜12時間、より好ましくは5分〜1時間である。
【0051】
無電解メッキにより表面に金属層を形成した本発明の複合材料は、金属層を有する複合材料としてそのまま好適に用いることができるが、必要に応じて、さらに電解メッキ処理を行うこともできる。電解メッキ処理を行うことによって、複合材料の、無電解メッキによる金属層上のみに電解メッキによる金属層が積層される。電解メッキには、公知の電解メッキ液を広く用いることができ、特に限定されるものではないが、好ましくは、金、銅、ニッケル等の電解メッキ液を挙げることができる。電解メッキの処理条件は、用いるメッキ液の種類によるが、通常電圧0.01〜10V、電流0.1〜10A、メッキ時間1
分〜12時間、より好ましくは5分〜1時間である。
【0052】
金属メッキ層の厚みは、使用される目的に応じて選択できるが、通常0.01〜100μm、好ましくは0.1〜50μmの厚みが好ましい。
複合材料
本発明の複合材料は、下記式(I)で表される繰り返し単位を有するケイ素系重合体(A)と、
【0053】
【化4】

【0054】
(式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、aは0<
a≦100を満たす数であり、aと(100−a)とは重合体中の共重合比を示す。)
炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)と、
金属微粒子(C)と
を含有する。
【0055】
このような本発明の複合材料においては、ケイ素系重合体(A)と、重合体(B)とが、架橋構造を形成していることも好ましい。ここで、ケイ素系重合体(A)ならびに重合体(B)としては、上述した本発明の複合材料の製造方法で用いられるものが挙げられる。
【0056】
金属微粒子(C)の大きさは、特に限定されるものではないが、平均粒子径で0.001〜10μmの範囲にあることが好ましい。金属微粒子(C)がこのような範囲の大きさであれば、表面に金属メッキによる金属層を設ける場合に、均一な金属層が得られ、金属層との密着性に優れるため好ましい。
【0057】
本発明の複合材料は、金属微粒子を複合材料の一部に有していてもよく、全体に有していてもよい。
本発明の複合材料は、表面への金属メッキによる金属層の形成が容易で、かつ金属層との密着性に優れる。本発明の複合材料は、表面に金属層を有するものであってもよい。
【0058】
このような本発明の複合材料は、配線基板、電子素子、受発光素子、電子素子や光素子を収めるパッケージ、電磁シールド材料などの電子部品、光学部品や電子材料、アンテナ、モーター、インダクタンス素子などの磁性部品あるいは磁性材料、金属光沢を有する装飾品など広い分野に応用できる。
【0059】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各実施例および比較例において、試薬は特に記載の無い限り、和光純薬工業社製の特級試薬を用いた。また、無電解銅メッキのメッキ浴は奥野製薬工業社製のアドカッパーCT液を用いた。密着性評価は、JIS C5016に準拠した方法でピール強度を測定することにより実施した。
[ケイ素系重合体(ポリシラン)の合成例]
予め乾燥させた1Lの2つ口フラスコに、フェニルシランPhSiH3 (信越化学工
業社製)108g、およびトルエン(和光純薬工業社製;脱水グレード)60mLを装入
し、窒素雰囲気・室温下で撹拌して均一な溶液とした。これに(Cp)2ZrMe2(アルドリッチ社製)0.63gを装入し24時間撹拌を続けた。得られた樹脂溶液にトルエン
320mL、1N-塩酸 160mLを装入し撹拌後分液を行い、有機相を4回水洗し
た。有機相は硫酸マグネシウムで脱水した後、ろ過で硫酸マグネシウムを除、トルエンを減圧留去した。得られた粘度の高い黄色溶液にTHF80mLを加え均一に溶解させた。この黄色溶液を、強撹拌したアセトニトリル1L中に排出し、透明な上澄みをデカンテーションで除いた。この洗浄操作を計2回実施し室温下真空乾燥を8時間行うことで、淡黄色粉のポリフェニルシラン(PhSiH)n 70gを得た(重量平均分子量8,000
)。
【0060】
[実施例1](銅微粒子含有複合材料の製造)
(工程1−1:樹脂組成物からなる成形物の作製)
ポリブタジエン(アクロス社製;重量平均分子量2−300,000、98% cis
)4gを、100gトルエンに溶解させた後、上記ポリフェニルシラン(PhSiH)n
6gを加え室温下で撹拌し、均一な溶液とした。この溶液をガラス基板上にスピンコート(500rpm、 20秒)で塗布し、室温下10分減圧乾燥して、フィルム状の樹脂
組成物成形体を作製した。
(工程1−2:架橋構造の形成)
このフィルムをさらに減圧下150℃で1時間熱処理し、架橋反応を進行させた。
(工程1−3:銅微粒子の形成)
上記工程1−2で作製した樹脂組成物を、遮光・室温・窒素雰囲気下、1wt%酢酸銅(I)アセトニトリル懸濁溶液に攪拌しながら5分間浸漬し、アセトニトリルで10秒間
洗浄し、5分間窒素気流で乾燥した。
【0061】
断面をTEMで観察したところ、フィルム表面に平均粒経約10nmの銅微粒子が凝集している様子が認められ、複合材料であることが確認された。
[実施例2](金属層の形成)
(工程2−1:無電解銅メッキ)
実施例1で得られた複合材料を30℃下30分間無電解銅メッキし、導電性の銅メッキ層が形成された樹脂組成物を作製した。形成された銅層の厚さは約0.1μmであった。(工程2−2:電解銅メッキ)
無電解銅メッキ層が形成された樹脂組成物上に、さらに電解銅メッキを施した。0.3V−0.15Aの通電で20分間メッキを実施し、約10μmの銅メッキ形成を達成した。
(工程2−3:架橋構造の生起)
上記工程2−2で得られた複合材料をさらに空気中190℃で1時間熱処理し、架橋反応をさらに進行させ表面上に銅メッキ層を形成した複合材料を得た。
(密着性評価)
得られた銅メッキ層のピール強度を評価したところ、0.8kN/cm2であった。
【0062】
[実施例3](紫外光露光による銅パターン形成)
実施例1の工程1−1で得られたフィルム状の樹脂組成物成形体を、線幅100μmのストライプパターンのフォトマスクを用いて254nmの紫外光を1.2J/cm2照射
し、基板上のポリシランに潜像を形成した。以下、実施例1の工程1−2乃至1−3、および実施例2と同様の操作を実施することにより、非露光部にのみ金属層をもつ基板を作成した。形成された非露光部の銅層の厚さは約10μmであった。
【0063】
[実施例4](銅微粒子含有複合材料の製造)
実施例1において、ポリブタジエン4gの代わりに下記式(II)で表される公知のポリビニルシロキサン(平均重合度(m+n):47、ビニル基当量400)4gを用いる以外は実施例1と同様の方法により、樹脂組成物中に銅微粒子が分散した複合材料を製造した。
【0064】
【化5】

【0065】
[実施例5](金属層の形成)
実施例1で得られた複合材料の代わりに、実施例4で得られた複合材料を用いる以外は
実施例2と同様の方法により、表面上に銅メッキ層を形成した複合材料を得た。
(密着性評価)
得られた銅メッキ層のピール強度を評価したところ、0.7kN/cm2であった。
【0066】
[実施例6](金微粒子含有複合材料の製造)
実施例1の工程1−3において、1wt%酢酸銅(I)アセトニトリル懸濁溶液の代わ
りに1wt%テトラクロロ金酸(III)ナトリウム水溶液を用いる以外は実施例1と同様の
方法により、金微粒子含有複合材料を製造した。断面をTEMで観察したところ、フィルム表面に平均粒経約5nmの金微粒子が形成されている様子が認められ、複合材料であることが確認された。
【0067】
[実施例7](パラジウム微粒子含有複合材料の製造)
実施例1の工程1−3において、1wt%酢酸銅(I)アセトニトリル懸濁溶液の代わ
りに1wt塩化パラジウム水溶液を用いる以外は実施例1と同様の方法により、パラジウム微粒子含有複合材料を製造した。断面をTEMで観察したところ、フィルム表面に平均粒経約5nmのパラジウム微粒子が形成されている様子が認められ、複合材料であることが確認された。
【0068】
[比較例1]
ポリブタジエン(アクロス社製;重量平均分子量2−300,000、98% cis
)を用いず、100gトルエンにポリフェニルシラン(PhSiH)n 6gのみを加え
、室温下で撹拌して得られる、均一な溶液を塗布液として用いた点を除いて、実施例1および実施例2と同様の操作を行い、ポリシラン層上に約10μmの銅メッキ形成を達成した。
得られた銅メッキ層のピール強度を評価したところ、0.1kN/cm2であった。
【0069】
[比較例2]
ポリフェニルハイドロジェンシラン(PhSiH)の代わりにポリフェニルメチルシラン(PhSiMe)6gを用いる点を除いて、実施例1と同様の操作を行った。工程1−3の表面処理を実施してもフィルム表面に銅微粒子は形成されず、複合材料を製造するに至らなかった。また、得られた樹脂膜を実施例2中工程2−1の処方で処理したが、無電解銅メッキ層は形成されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る複合材料は、太陽電池や各種ディスプレーなどの大型機器の配線に使用する導電性材料、回路基板、半導体基板等の電子材料作成、電磁シールド材、ロボット、情報家電、携帯電話、携帯機器に応用可能な素材であり、配線基板、電子素子、受発光素子、電子素子や光素子を収めるパッケージ、電磁シールド材料などの電子部品、光学部品や電子材料等、電気、電子、通信分野に広く用いることができる他、自動車、モーターなどの部品や内臓検査・治療などの医療器具の微細配線、いわゆるMEMSと称するマイクロマシンの構造体を接続する配線やメタライズ等にも応用可能である。また、磁性をもつ遷移金属を使用すれば、アンテナ、モーター、インダクタンス素子などの磁性部品あるいは磁性材料としても応用できる。その他、金属光沢を有する装飾品など広い分野に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記式(I)で表される繰り返し単位を有するケイ素系重合体(A)と、
【化1】

(式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、aは0<
a≦100を満たす数であり、aと(100−a)とは重合体中の共重合比を示す。)
炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)と
を含有する樹脂組成物からなる成形物を得る工程、
(2)ケイ素系重合体(A)と、重合体(B)との間に架橋構造を形成させる工程、および、
(3)前記工程(2)で得た成形物を、金属塩の溶液あるいは懸濁液と接触させ、該金属塩中の金属を還元させて、成形物表面および/または成形物内部に金属微粒子を形成する工程
を有することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記重合体(B)が、ビニル基含有ポリシロキサン、ビニル基含有ポリオレフィン、ビニル基含有ポリアクリレート、およびポリブタジエンよりなる群から選ばれる重合体であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)に次いで、工程(1)で得た成形物を部分的に露光する工程を有し、成形物表面および/または成形物内部の非露光部に金属微粒子が成形された複合材料を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)が、樹脂組成物と溶媒とを含む塗布液を、基材上に塗布し、溶媒を除去して、基材上に成形物を形成する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
塗布液を基材上に塗布する際に、インクジェット装置を用いることを特徴とする請求項4に記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
塗布液を基材上に塗布する際に、スクリーン印刷装置を用いることを特徴とする請求項4に記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記工程(3)に次いで、さらに金属メッキを行って、金属層を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項8】
下記式(I)で表される繰り返し単位を有するケイ素系重合体(A)と、
【化2】

(式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、aは0<
a≦100を満たす数であり、aと(100−a)とは重合体中の共重合比を示す。)
炭素−炭素不飽和結合を有する重合体(B)と、
金属微粒子(C)と
を含有することを特徴とする複合材料。
【請求項9】
前記重合体(B)が、ビニル基含有ポリシロキサン、ビニル基含有ポリオレフィン、ビニル基含有ポリアクリレート、およびポリブタジエンよりなる群から選ばれる重合体であることを特徴とする請求項8に記載の複合材料。
【請求項10】
請求項8または9に記載の複合材料を含有することを特徴とする成形体。
【請求項11】
表面に金属メッキ層が設けられていることを特徴とする請求項10に記載の成形体。

【公開番号】特開2009−173988(P2009−173988A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12717(P2008−12717)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】