説明

複合材料組成物及び光反射部材

【課題】経時劣化による光反射率の低下が小さい光反射部材用の複合材料組成物、及びその複合材料組成物を成形してなる光反射部材を提供する。
【解決手段】本発明の光反射部材10、20は、粉状の酸化チタンと芳香族ポリアミド樹脂とを混合してなり、発光素子が発する光を反射するための反射壁を有する光反射部材に用いられる複合材料組成物において、酸化チタンの含有率が67質量%以上であり、酸化チタンと芳香族ポリアミド樹脂との質量比が95/5〜70/30であり、耐熱安定剤として少なくともフェノール系安定剤を含有することを特徴とする複合材料組成物を成形してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子が発する光を反射するための反射壁を有する光反射部材に用いられる複合材料組成物及びその複合材料組成物を成形してなる光反射部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード等の発光素子が発する光を反射するための反射壁を有する光反射部材には、光反射性、エポキシ等の封止剤との密着性及び耐熱性(特に加工時)等が求められている。光反射部材に用いられる樹脂組成物としては、約30〜99質量%(実施例等は、60〜70質量%)の芳香族ポリアミド樹脂と無機充填剤(ガラス繊維、酸化チタン等)とを混合したもの(特許文献1、2)や、公知技術ではないが、50〜70質量%(実施例等は、60〜77質量%)の部分芳香族ポリアミド樹脂とチタン酸カリウムと酸化チタンとを混合したもの(特許文献3)が提案されている。
【0003】
しかし、樹脂成分(ポリアミド樹脂)は、経時劣化により黄変することから、上記の樹脂組成物のように樹脂成分の配合が多いものは、永年使用により光反射率を大きく低下させてしまうおそれがあった。
【特許文献1】特表2003−085029号公報
【特許文献2】特開2005−194513号公報
【特許文献3】特願2007−086266号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、経時劣化による光反射率の低下が小さい光反射部材用の複合材料組成物、及びその複合材料組成物を成形してなる光反射部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の複合材料組成物は、粉状の白色無機顔料と芳香族ポリアミド樹脂とを混合してなり、発光素子が発する光を反射するための反射壁を有する光反射部材に用いられる複合材料組成物において、前記白色無機顔料の含有率が67質量%以上であり、前記白色無機顔料と前記芳香族ポリアミド樹脂との質量比が95/5〜70/30であり、耐熱安定剤を含有することを特徴としている。
【0006】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0007】
1.白色無機顔料
白色無機顔料としては、特に限定はされないが、酸化チタン、焼成クレイ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミナ、硫化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸バリウム、鉛白、炭酸カルシウム等が例示でき、これらを単独又は二種以上を併用してもよい。
また、屈折率が高いことから、酸化チタン、酸化マグネシウムが好ましい。
また、粉状の白色無機顔料の粒径としては、特に限定はされないが、平均粒径で0.01〜10μmであることが好ましい。
複合材料組成物中における白色無機顔料の質量割合である含有率が67質量%以上となることで、経時劣化による反射率の低下が小さくなる。好ましくは、69質量%以上である。
【0008】
2.芳香族ポリアミド樹脂
発光素子を実装する時の半田付け等の熱による影響(変形)が小さく、且つ封止剤との密着性が良好であることから、高融点のポリアミド樹脂である芳香族ポリアミド樹脂が用いられる。芳香族ポリアミド樹脂としては、特に限定はされないが、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド6I樹脂、ポリアミド9T樹脂等が例示でき、これらの一種であってもよいし、二種以上を混合したものであってもよい。
また、芳香族ポリアミド樹脂の300℃20Nにおけるメルトフローレート(MFR)としては、特に限定はされないが、成形時の流動性がよくなることから、1〜20g/10分であることが好ましい。
【0009】
白色無機顔料と芳香族ポリアミド樹脂との質量比(白色無機顔料/芳香族ポリアミド樹脂)が、95/5より白色無機顔料の割合が大きくなると成形性が悪くなり、70/30より芳香族ポリアミド樹脂の割合が大きくなると経時劣化等による反射率の低下が大きくなる。
【0010】
3.発光素子
発光素子としては、特に限定はされないが、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー等が例示できる。
発光ダイオードとしては、特に限定はされないが、青色等に発光する窒化ガリウム(GaN)系、赤色等に発光するヒ化ガリウム(GaAs)系、黄色等に発光するリン化ガリウム(GaP)系等が例示できる。発光素子の発光としては、特に限定はされないが、赤色、黄色、緑色、青色、紫色等の可視光であってもよいし、紫外線であってもよい。また、発光素子は、一種類の発光体からなるもの(単色光が得られる)であってもよいし、二種以上の発光体を組合わせたもの(白色等の間色光が得られる)であってもよい。
【0011】
4.耐熱安定剤
加工時の熱や永年使用等から生じる樹脂成分の酸化劣化を防止するために添加される耐熱安定剤としては、特に限定はされないが、フェノール系安定剤、リン系安定剤、アミン系安定剤、硫黄系安定剤等が例示でき、これらの一種であってもよいし、二種以上の混合であってもよい。
また、フェノール系安定剤、リン系安定剤が好ましく、少なくともフェノール系安定剤を含んでいることがより好ましい。
また、含有量としては、特に限定はされないが、芳香族ポリアミド樹脂と白色無機顔料との合計量100質量部に対し、0.1〜2.0質量部であることが好ましい。含有量が0.1質量部未満では、十分な耐熱安定性が得られず、2.0質量部を超えるとブリードし外観不良となるからである。
【0012】
4−1.フェノール系安定剤
フェノール系安定剤としては、特に限定はされないが、樹脂等に添加されるフェノール系安定剤(フェノール系酸化防止剤)を用いることができ、具体的には、2,6−t−ブチル−P−クレゾール、4,4’−ブチリデンビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト、N,N’−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゼンプロパンアミド)等が例示できる。
【0013】
4−2.リン系安定剤
リン系安定剤としては、特に限定はされないが、樹脂等に添加されるリン系安定剤(リン系酸化防止剤)を用いることができ、具体的には、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、(オクチル)ジフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のホスファイト(亜リン酸エステル)系安定剤が例示できる。
【0014】
5.光反射率
JIS K0115に準拠し、波長460nmで測定した、厚さ(肉厚)0.2mmのときの光反射率は、85%以上が好ましく、より好ましくは、90%以上である。
【0015】
6.保持率
150℃において6時間静置する条件での熱劣化の熱劣化前(静置前)の光反射率(R1)に対する熱劣化後(静置後)の光反射率(R2)の割合である保持率(R2/R1)は、90%以上が好ましく、より好ましくは、94%以上である。
【0016】
7.混練方法
各原料成分を混合するための混練方法としては、特に限定はされないが、バンバリーミキサー等を用いて混練するバッチ式であってもよいし、二軸押出機等を用いて混練する連続式であってもよい。
また、混練時の過熱による熱劣化を小さくできることから、芳香族ポリアミド樹脂の融点より50℃高い温度未満で加工(混練)することが好ましく、芳香族ポリアミド樹脂の融点より20℃高い温度以下がより好ましい。
【0017】
8.成形方法
上記複合材料組成物からなる光反射部材の成形方法としては、特に限定はされないが、射出成形、プレス成形、ブロー成形、押出し成形等の樹脂等の成形に用いる方法が例示できる。
【0018】
9.光反射部材
光反射部材としては、特に限定はされないが、少なくとも一部に発光素子が発する光を反射するための反射壁を有するものであり、具体的には、発光ダイオード用ケース等が例示できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、経時劣化による光反射率の低下が小さい光反射部材用の複合材料組成物、及びその複合材料組成物を成形してなる光反射部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
粉状の酸化チタンと芳香族ポリアミド樹脂とを混合してなり、発光素子が発する光を反射するための反射壁を有する光反射部材に用いられる複合材料組成物において、
酸化チタンの含有率が67質量%以上であり、
酸化チタンと芳香族ポリアミド樹脂との質量比が95/5〜70/30であり、
耐熱安定剤として少なくともフェノール系安定剤を含有することを特徴とする複合材料組成物。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例の光反射部材は、図1に示すように、発光ダイオードランプ(図1(a)はサイドビュータイプ、図1(b)はトップビュータイプ)に用いられ、側壁等が発光ダイオードが発する光を反射するための反射壁となっている有底筒状のカップ10、20である。カップ10、20は、次の表1に示す複合材料組成物を射出成形機を用いて成形したものである。
【0022】
次の表1、2は、本発明の実施例の複合材料組成物(7種類、表1)と比較例の複合材料組成物(5種類、表2)の配合と評価等を示す。
配合欄における単位は質量部である。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
各原料成分のうち、白色無機顔料として、平均粒径が0.2μmの酸化チタンを用いた。芳香族ポリアミド樹脂として、300℃20Nにおけるメルトフローレート(MFR)が7g/10分のポリアミド6T樹脂(融点:290℃)と、同メルトフローレート(MFR)が6g/10分のポリアミド9T樹脂(融点:295℃)とを用いた。耐熱安定剤として、分子量が約1200、融点が約120℃のフェノール系安定剤であるフェノール系安定剤aと、分子量が約640、融点が約160℃のフェノール系安定剤であるフェノール系安定剤bと、分子量が約630、融点が約237℃のリン系安定剤とを用いた。
【0026】
各試料は、樹脂温度が300℃となる条件で原料成分を二軸押出機を用いて、混練した。
【0027】
各試料の測定及び評価を次のようにして行った。
【0028】
(1)プレス成形性の評価
厚さ0.2mmのシートを、設定温度300℃、圧力20MPaの条件においてプレス成形したときの良否を評価した。
○は良好であり、×は不良である。
【0029】
(2)射出成形性の評価
80t射出成形機を用いて、シリンダー設定温度300℃、金型温度140℃の条件において射出成形したときの良否を評価した。
○は、滞留安定性、流動性等の問題がなく成形できた場合であり、×は、流動不足、計量不良等の問題が成形時にあった場合である。
【0030】
(3)透過率・反射率の測定
上記プレス成形により作成した厚さ0.2mmのシート(試験体)を用い、JIS K0115に準拠して、波長460nmの透過率と反射率とを測定した。
また、150℃の雰囲気中に6時間静置の条件で熱劣化させたものについても同条件で透過率と反射率とを測定した。
そして、熱劣化後の反射率(R2)を熱劣化前の反射率(R1)で割って、保持率を求めた。
【0031】
屈折率が高く、耐熱性が高い白色無機顔料である酸化チタンの含有率が低い(65質量%未満)比較例3、4、5と違い、酸化チタンの含有率が69質量%以上である実施例1〜7は、厚さ0.2mmの薄肉でも熱劣化前も熱劣化後も透過率が0%であった。また、熱劣化前の反射率が88%以上と高く、熱劣化後の反射率も87%以上と高かった。さらに、保持率は98%以上であった。
【0032】
白色無機顔料である酸化チタンと芳香族ポリアミド樹脂との質量比が98/2と酸化チタンの割合が大きい比較例1と違い、同比が95/5以下である(芳香族ポリアミド樹脂の割合が大きい)実施例1〜7は、芳香族ポリアミド樹脂で酸化チタンがコーティングされるため、プレス成形性及び射出成形性共に良好であった。
耐熱安定剤を含まない比較例2は、熱劣化前の反射率が80%であり、保持率が81%と共に低かった。
【0033】
次の表3は、実施例2と同じ配合で樹脂温度が340℃となる条件で原料成分を二軸押出機を用いて、混練したもの(実施例8)の評価等である。なお、測定及び評価は、上記と同じようにして行った。
【0034】
【表3】

【0035】
ポリアミド6T樹脂の融点(290℃)より50℃高い340℃で混練を行うことにより、混練時にポリアミド6T樹脂の黄変があり、熱劣化前の反射率が低くなってしまった。
【0036】
本実施例によれば、次の(a)〜(d)の効果が得られる。
(a)耐熱性が高い白色無機顔料を多く含有していることにより、経時劣化による光反射率の低下が小さい複合材料組成物及び光反射部材が得られる。
(b)屈折率が高い白色無機顔料を多く含有していることにより、薄肉にしても透過率が低い複合材料組成物及び光反射部材が得られる。
(c)芳香族ポリアミド樹脂により白色無機顔料がコーティングされることにより、射出成形等の樹脂の成形に用いられる方法で、光反射部材を成形することができる。
(d)屈折率の高い白色無機顔料を多く含有し、芳香族ポリアミド樹脂の融点より10℃高い温度以下で混練されることにより、光反射率の高い複合材料組成物及び光反射部材が得られる(実施例8は除く)。
【0037】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例の発光ダイオード用カップの斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
10 発光ダイオード用カップ
20 発光ダイオード用カップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の白色無機顔料と芳香族ポリアミド樹脂とを混合してなり、発光素子が発する光を反射するための反射壁を有する光反射部材に用いられる複合材料組成物において、
前記白色無機顔料の含有率が67質量%以上であり、
前記白色無機顔料と前記芳香族ポリアミド樹脂との質量比が95/5〜70/30であり、
耐熱安定剤を含有することを特徴とする複合材料組成物。
【請求項2】
前記白色無機顔料は、酸化チタンである請求項1記載の複合材料組成物。
【請求項3】
前記耐熱安定剤として少なくともフェノール系安定剤を含有する請求項1又は2記載の複合材料組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリアミド樹脂の融点より20℃高い温度以下で加工された請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合材料組成物。
【請求項5】
150℃の雰囲気中に6時間静置した後の光反射率(R2)の該静置前の光反射率(R1)に対する割合である保持率(R2/R1)が90%以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合材料組成物。
【請求項6】
光反射率が85%以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合材料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材料組成物を成形してなる光反射部材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155551(P2009−155551A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337508(P2007−337508)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】