説明

複合材料

複合材料(10)は、基体(1)と化学的、機械的、物理的、触媒的、光学的に機能する酸化チタン層(2)を有し、酸化チタン層(2)は基体(1)の少なくとも一方の面に形成されている。酸化チタン層(2)は、酸素含量xが0.7≦x<2のTiOxの基底層(3)、酸素含量xが0.5≦x<2でありかつ水酸化物含量yが0≦y<0.7であるTiOx(OH)yの基底層(3)及び/又は非晶質或いは結晶質TiOの上層(4)として、基体(1)に付着されている。第1の方法の一形態では、先ず、酸素含量xが0.7≦x<2のTiOxの基底層(3)が再活性化され又は再活性化されずに付着され、次に、酸素含量、処理圧力、容量及び/又は基体温度を増加させることにより、非晶質或いは結晶質のTiOの上層(4)が付着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的、物理的、機械的、触媒的及び/又は光学的な機能を備えた酸化チタン層を少なくとも一方の面に形成された基体を有する、複合材料に関するものである。本発明は、更に、この複合材料の製造方法及び使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基体という主要な用語は、第一義として、ポリマー材料、ポリマーのような材料、又は、天然材料からなる、容易に燃えやすく及び/又は感熱性の材料を含むのみではなく、金属材料、ガラス材料、セラミック材料及びこれらの材料の組合せからなる材料(複合材料)をも含み、これらの材料に対しては、処理技術上の理由から、低温での被覆処理が好ましい。これらの基体は、一又はそれ以上の保護効果を果たすセラミック酸化チタン層で被覆され、これにより、例えば燃焼可能性が高く及び/又は汚染され易い材料を日常的に取り扱う場合の安全性を増加させる。
【0003】
材料(特に、織編物(テキスタイル)、フィルム、及び、プラスチック製の容器)の燃焼挙動と、それらの火災の危険についての評価は、これらの材料が常に人間を取巻く環境に存在するため、極めて重要である。例えば、織編物は、主として、衣服や家庭内の織編物や工業技術上の織編物のように多種多様に応用されて、使用されている。この燃焼工程は、可燃性材料の加熱、分解、及び、発火を経て開始される。その組成により、熱効果の下で、その材料は、先ず、溶融し、流動し、又は、そのまま変化しない状態にあり、そして、更にエネルギーを供給すると、ついに分解し、これによって熱を発生させる。可燃性材料の発火後に、その炎はその材料の分解された表面を経て伝播され、この炎の伝播速度はその材料から発せられる熱を伴う。それ故、可燃性と同様に、炎の伝播と熱放射の度合は火災を決定する要因(パラメーター)である。
【0004】
必須の火炎保護は種々の方法で従来から達成されている。第一に、例えば、塩化ポリビニール(PVC)やフルオロポリマーのような本質的に火炎保護されたポリマーを使用することができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)等の可燃性ポリマーには、火炎を抑制する種々の添加物(例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、有機臭素化合物)を加えることができる。しかしながら、十分な火炎保護を達成するためには、通常は、これらの添加物がポリマー・マトリックス内に高い比率で存在しなければならない。このような材料は、密度が高く、可撓性が低く、そして、機械特性が低い。
【0005】
二酸化チタン(TiO)は、高屈折率、可視及び近赤外波長領域における高い透過性、高い比誘電率という、光半導体としての既知の特性を備え、極めて良好な摩耗保護性を付与し、化学的に不活性であり、そして優れた温度特性を有する。TiOは、正方晶系のルチル、アナターゼ、斜方晶系の板(ブルッカイト)という3つの変態で晶析する。板(ブルッカイト)を生成可能にするためには、特別な実験条件が必要である。ルチルは光学上の応用に関心が持たれており、また、アナターゼの光触媒特性については、3.2eV(電子ボルト)におけるオプティカル・バンド・ギャップのために、より多くの意見が述べられている。
【0006】
0.7≦x<2の酸素含量を有するチタニウム(TiOx)の亜酸化物が多数存在する。室温で0.7≦x<1.5の酸素含量のTiOxは、約400μΩの電気抵抗値を有し、この電気抵抗値は酸素含量が増えると急激に増加することから、TiOは絶縁材である。
【0007】
複数のTiO層の結晶化度とその変化とは、製造方法、プロセスパラメーター及び被覆形態に依存することが知られている。通常、結晶体からなる複数のTiO層は、300℃よりも高い温度で、有機金属気相蒸着法(MOCVD)に、ゾル−ゲル法、噴霧熱分解法、電子ビーム蒸着法を用いて生成される。300℃よりも低い温度で、活性化蒸着法又はプラズマ−活性化化学気相成長法(PACVD)を用いて生成された複数のTiO層は、非結晶質(アモルファス)で、密度がより低いのが通常である。もしもこれらの非結晶質の層が300℃と500℃の間に焼き戻されると、TiOのアナターゼ構造が支配的になり、600℃よりも高温の熱処理を受けると、TiO変態のルチル形態が支配的になる。
【0008】
第二に、非結晶質の又は結晶体からなるTiOx又はTiOの複数の層は、例えば、反応性又は非反応性マグネトロン・スパッタリング(陰極スパッタリング)や、フィルター処理されない、又は、フィルター処理された火花放電や、イオンビーム補助付着(IAD)や、パルスレーザー付着等の、より高い粒子エネルギーによって特徴付けられる方法を用いて、300℃よりも低い温度で生成可能である。RFスパッタリングを用いると、コーティングパラメーターの選択により、加熱されていない材料にTiOを非結晶質又は結晶質で付着させることができる。SURFACE AND COATING TECHNOLOGY 102(1998)の67頁乃至72頁には、アルゴン−酸素雰囲気中でRFスパッタリングによって付着される、二酸化チタンの複数の薄い膜が記載されている。この滞積したTiOの微細組織は、緻密な状態から多孔性で円柱形の状態までの広い範囲で変化している。このO/Ti比は、他の反応パラメーターが変化せずに残っているときには、圧力が上昇するにつれて増加する。この出版物は、第一義的に、科学的な実験を取り扱う。
【非特許文献1】SURFACE AND COATING TECHNOLOGY 102(1998),67−72。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、冒頭に引用したタイプの機能性酸化チタン層を備えた複合材料及びその製造方法を創造するという目的に基づき、改良された、特に広い範囲の物質に対する共同機能性が改良された、機能性酸化チタン層を有する複合材料及びその製造方法を創造するという目的を基礎にする。ここで、酸素及び他の気体と基体との相互作用は防止されるべきであり、かつ、前記基体は断熱されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この複合材料に関して、本発明の目的は、基体上に、酸素含量Xが0.7≦x<2を有するTiOxの酸化チタン層の基底層か、酸素含量Xが0.5≦x<2を有し、かつ、水酸化物yの含量が0≦y<0.5を有する、TiOx(OH)yの酸化チタン層の基底層が付着され、この基底層の上に、非晶質及び/又は結晶質のTiOからなる上層が形成される。この複合材料の特別な細かく区別された実施態様が従属項の主題である。
【0011】
基層と上層とを有するこの基体には、また、更に層を形成することができるが、ここでは、複合材料としての単純化のために、全体として基層と上層とを有する基体について言及される。更に、反復を避けるために、TiOxという用語には、常にTiOx(OH)yという変異体も含まれる。TiOx、TiOx(OH)y及びTiOという用語は、純粋な酸化チタン層を含むのみでなく、他の酸化金属を有する酸化チタン層をも含むが、ここにいう他の酸化金属を有する酸化チタンは、基層が全体として50重量%よりも少なく、以下に詳細に列挙された他の酸化金属からなる上層が全体として7重量%よりも少ない酸化チタンである。
【0012】
本発明の酸化チタン層は、例えば、燃焼や汚染やデグラデーション(添加剤のミグレーション、光酸化)等から基体を保護する多機能層である。これは、如何なる材料にも、火災保護、衛生上の保護(自浄作用、殺菌効果)、静電気保護及び/又はくもり防止効果を付与することを可能にする。このような複合材料は、例えば、家事道具類、家庭内の物品、カーペット、ケーブル及び光電装置用に医療分野で使用され、水、水溶液及び空気の清浄化プラントに使用されることに適する。
【0013】
保護されるべき材料は、可撓性フィルムや織編物や膜やファイバーやチューブや板や容器や粉体に固着された形態のポリマーや低融点金属や合成物質や自然物質のような、特に、極めて燃焼し易く及び/又は熱に反応し易い物質である。
【0014】
この酸化チタン層は、好ましくは3乃至1000nmの全厚を有し、その上層は酸化チタン層の全厚の少なくとも約10%を構成する。この上層は酸化チタンTiOで構成されるが、しかしながら、実際には遷移流れが生じ、前記上層に、例えばTiO1.99の値を分配可能である。更に、実際には、複数の正に3nmの極薄層がかなり稀に発生し、層の全厚が10乃至300nmの範囲にあること、特に20乃至150nmの範囲にあることが適当であり、ここで層の全厚の10乃至50%が前記上層を構成することが適当である。
【0015】
プラスチックと自然物(特に、羊毛及び綿)の基体を使用すると、酸化チタン層は不確定である可能性があり、酸化チタン層は、又、基体の表面の分解を誘発する触媒として問題を含む。プラスチックと自然物を用いるときには、TiOxの基層を形成する前に、好ましくは、MaO、ZnO、ZrO、In、Sb、Al及びSiOを含む群の少なくとも一つの酸化金属からなる保護層、及び/又は、接着促進層としての極性接着層(ポーラー・アドヒージョン・レイヤー)を形成することが適当であろう。最適の金属酸化物又は複数の金属酸化物の最適な混合物の選択は、実験の専門家によって容易に決定可能である。酸素含量Xがx<1.9で、及び/又は、重要な水酸化物含量Yが0.2≦y<0.7である、TiOxの基層のために、通常は、基体に対する危険は存在しない。
【0016】
酸化チタン層の更なる異形においては、基層と上層の間に、好ましくは酸素含量xが0.5≦x<1.5のTiOxからなる電気導電性中間層を付着させることができる。その電気導電性は、酸素含量xがx≧1.5で減少する。この層は、もはや電気的に導電性を有するとは考えられず、酸素含量xがx=2であるTiOの上層は、絶縁体である。特に、基層の酸素含量がx=1.5であり、もしも静電気防止効果が達成されるべきであるならば、電気導電性中間層を付着させることができるのは明らかである。
【0017】
後により詳細に説明するように、上層の表面から少なくとも9つの原子層は、主として、結晶性TiOxの変体であるアナターゼを含み、これらの原子層は約3nmの層厚に対応する。
【0018】
プラスチック基体の燃焼防止層として多機能酸化チタン層が使用されるときには、例えばTiOx及び/又はSb等の酸化金属や、例えばAl(OH)3及び/又はSb(OH)等の加熱されると脱水状態になる水酸化物金属の、ミクロン以下の粒子からなる充填剤粒子を付加することができる。この場合、TiOx基層は、1.5≦x≦1.9の酸素含量を有するのが適当である。
【0019】
化学的、物理的、機械的、触媒的及び/又は光学的な機能を備えた酸化チタン層を基体に付着させる方法に関して、本発明の目的は、先ず、0.7≦x<2の酸素含量を備えたTiOxの反応性基層を付着させ、次に、酸素含量、処理圧力、電力及び/又は基体温度を増加させることによって、非晶質又は結晶質TiO2の上層が付着される、第1のバリアントにおいて達成される。
【0020】
化学的、物理的、機械的、触媒的及び/又は光学的な機能を備えた酸化チタン層を基体に付着させる方法に関して、本発明の目的は、先ず、反応的又は非反応的に、基層に0.7≦x<2の酸素含量を有するTiOxを付着させ、次いで、前記基層が少なくとも部分的に非晶質又は結晶質のTiOに再構成されるまで、電気化学的に、熱的に及び/又はプラズマ処理によって、その表面を後酸化する、第2のバリアントにおいて達成される。
【0021】
両方の工程を経て、TiOの上層が形成される。これらの工程パラメータは、通常、上層が層の全厚の少なくとも10%を構成するように設定される。第2のバリアントによって極めて薄い複数層を形成するには、全ての基層をTiO層に再構成することができるが、これは通常の事例ではない。
【0022】
この形成は既に述べた既知の方法で実施され、処理技術上の理由によって低温でコーティング処理が行なわれる。基層とカバー層の間の何れの中間層も、基体と基層の間の保護層も、前述の方法の一つを使用して付着される。
【0023】
好ましくは、特にプラスチック基体又は無極性材料を使用する場合には、基層又は保護層は基体表面のプラズマ活性化後に付着される。これによって、付着される層の接着力が増加する。予備的な処理は、又、数ナノメーターの厚さを有する極薄の極性プラズマ層という手段によって実施され得る。この極プラズマ層は、第一に、基層の接着力を増加させ、第二に、基体の劣化を防止する。長期間にわたって安定した極性層を生成するために、WO 99/39842が参照され、これによると、極性コーティングのために無水プロセスガスが使用され、このガスには、又、8 C/atomsまでの炭化水素化合物で置換される少なくとも一つの物質と不活性ガスが含まれている。
【特許文献1】WO 99/39842
【0024】
セラミックコーティングは、基体の表面処理後、又はそれ以降に実施することができる。
【0025】
微細処理において、少なくとも一つの酸化金属が混合されたTiOxの基層を付着させることができる。適当な酸化金属は、例えばMgO、ZnO、ZrO、In、Sb、Al及び/又はSiOであり、ここで、混合後のTiOxの比率は50重量%よりも大きな比率として残存する。更に、TiOの上層は、又、Fe、WO、MnO、NiO、BaO及び/又はCaOを用いてドープすることが可能であり、ここで、ドープ後のTiOの比率は93重量%よりも大きな比率として残存する。もしも、両方の群の酸化金属がTiOxの基層に加えられると、全ての酸化金属の全比率は50重量%よりも低い比率として残存しなければならず、第2の群の付加されたドーピング酸化金属の比率は7重量%よりも低い比率で残らなければならない。
【発明の効果】
【0026】
TiOx(0.7≦x<2)の基層とTiOの上層を有する本発明によって行なわれる付着(デポジション)は、すべてを尽くしてはいないが下記の一覧に記載した多くの利点をもたらす。
・ この方法は基体温度≦200℃で実行可能であり、これはポリマー製の基体にとって特に重要である。また、低温処理は金属、セラミックス及び複合材料及びこれらの結合体にとって必要であることが示唆されている。
・ 電気的不導体の基体に電気的導体のTiOxを付着させることは、正電荷を減じ、これによって同時に衛生学上の保護機能を有する。
・ TiOx(x<1.9)及び/又は重要な水酸化物比率のTiOx(OH)yで構成された基層を用いて、有機化学基体(ポリマー、自然物質)のコーティングを行なうと、通常は、問題を生じない(分解を生じない。)。
・ 薄膜のコーティングは、基体の機械的及び処理上の特性が保持されるという利点を有する。これは、後に更なる処理工程に耐えなければならないファイバー及びフィルムの処理にとって、特に重要である。
・ プラズマ活性化処理では、有孔性、結晶性、密度、電気的導通性、屈折率及び極性のような前述の層特性は、目標値に向けて製造することができる。特に、異なる電気的導通性と屈折率を有することができる多孔性の微細構造化された複合層と、密度との組合わせは、酸化チタン層の共同機能を達成させることができる。例えば、基体のトポグラフィは、適当な層トポグラフィを用いて変更可能であり又は追加可能であり、これによって、相乗的に清浄化機能及び衛生学上の機能を強化することができる。
・ 酸化チタン層の相乗的な複合機能性は、関係のある実用面に適応させることができる。例えば、マグネトロンスパッタリング、火花放電及びプラズマMOCVDによる層システムの製造に望ましい、プラズマで活性化された低温プロセスは、簡単な工程管理によって、特に、ストイキオメトリーと層構造を変えるのに適し、かつ、例えばFeのような、少なくとも一つの酸化金属を用いて酸化チタンのドーピングを行なうことによって、技術的に容易に処理を行ない、アナターゼ変異体を安定させることに適する。それ故、低温処理は、ガラスのように熱に対して敏感でない材料にとっても興味深い。
【0027】
TiOxの基層と、厚さ>3nm、特に厚さ>10nmのTiOの上層とを有する、本発明の酸化チタンのおかげで、衛生学上の保護、生体適合性、くもり防止効果及びこれ故に有効な防炎作用が、事実上全ての物質に関して達成可能である。また、下にあるTiOxの基層のおかげで、生体適合性、物質の分解に対する保護、受動的な火炎保護、帯電防止効果、ミグレーション及びディフュージョンを遮断する保護効果が保証される。
【0028】
TiOの光触媒作用による有効な衛生学上の保護層は、湿気のある環境で、及び日中のUV放射物の下で、表面の種々の有機化合物(化合物は、油やバクテリアのように、炭素及び/又は窒素を含む。)を分解する能力を有する。また、水と上層のTiO面の間の接触角が減少するおかげで、くもり防止効果と塵埃粒子の除去支援効果が得られる。自浄効果としても知られているこの衛生学上の保護は、可燃性基体の受動的な火炎保護を相乗的に強化する。この場合には、積極的な火炎保護と反作用的な火炎保護がある。
【0029】
受動的な火炎保護の場合には、熱的に安定な酸化チタンを有し、燃焼によって加熱された酸化チタンの硬皮を形成する、本発明のコーティングによって、極めて燃焼し易い物質のある環境との直接的な接触が減少させられる。この硬皮によって、火炎の伝播速度が減じられ、その物質から漏出する気体の発生が減ぜられる(ディフュージョンバリア)、受動的な保護によって、最後には消火に導くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、図面に示された実施例を参照して、より詳細に説明され、従属項の主題も説明される。図面には、主として部分的な断面図が模式的に記載されている。
【0031】
図1は、気体1を有する複合材料10を示し、その一面に酸化チタン層2が形成されているが、その余の詳細は省略されている。図1は、一般的な従来技術を示し、チタン層2が基体1に形成され、チタン層2は保護及びその他の機能を果たす。しかしながら、図1は、また、本発明の特別な実施形態を示す。薄いTiOx層が形成され、この層は後酸化されてTiOになっている。その極めて薄い層のために、このTiOx層は層の全厚にわたってTiOに酸化されている。ほんの一部分のみが示された基体1は、例えばフィルム、織編物、膜、板、ファイバー、チューブ、ケーブル又は容器の一部に使用可能であり、従来の材料を包含している。
【0032】
図2では、酸化チタン層2が、酸素含量xが0.7≦x<0.2であるTiOxの基層3と、TiOの上層4とに分割されている。基体1の内部に微細に分散配置されているのは、金属酸化物/金属水酸化物のミクロン以下の大きさの粒子である。TiOの上層4は、主として正方晶系の結晶構造のアナターゼの形態で存在する。
【0033】
基層3から上層4までのトランジションが明確に示されている。基層3の一部が後酸化(ポストオキシダイゼイション)によって上層4に転化されると、このトランジションは流動化する。
【0034】
図3は、酸化チタン層2が両面に形成された複合材料10を示す。この酸化チタン層2の構造は、図2の構造に対応する。
【0035】
図4では、基体1は織編物のファイバーであり、基層3の上に直接付着された電気的に導通性の中間層5は、シリンダーケーシングのように基層3を囲繞し、基層3はこのファイバーの上に直接付着されている。この電気的に導通性の中間層5はTiOxを包含し、酸素含量は0.7≦x<1.5である。この中間層の上に配置された上層4は、また、シリンダーケーシングのように形成されている。
【0036】
一定のプラスチック基体が、複数の酸化チタン層によって、少なくとも皮相的に分解されている。したがって、図5の実施例では、保護層7が基体1の上に直接付着され、この保護層7は、また、ナノメーターの値域で横たわっている。この保護層7は、また、好ましくは、ZnO、MgO、ZrO、In、Sb、Al、及び/又はSiOの群に含まれる少なくとも一つの金属酸化物で構成された両面に形成され、又は、例えば基体1に対する良好な接着を確実にする極性プラズマ層のような、極性接着層に形成される。
【0037】
【表1】

【0038】
このコーティング技術とプロセスパラメーターは、製造される製品やコーティングされる基体の要求に適合するように決定される。表1は、選択された機能性酸化チタン層の製造と、それらの保護及び/又は機能効果を示す。基層3においては、比較的高濃度の水酸化物の含有量がERDA(反跳粒子検出法)によって分析され、これは水酸化物イオンの形態で基層に接着され、プロセスパラメーターと基体温度によって変化する。
【0039】
両面にコーティングされた複合材料は、それぞれ、同じコーティングが施された。コーティングプロセスの間、基体温度は<200℃である。くもり防止効果は表面張力が<50 mN/mであるときに観察された。この表面張力は、また、層を製造するときのプロセスパラメーターに依存する。
【0040】
被覆された織編物状の基体の熱容量は、層厚が増加するに伴って事実上直線的に増加する。被覆面により、この効果はPETファブリックよりもPETフィルムに対して視覚的により大きい。36%のポリエステルと64%のビスコースCからなるより厚いファブリック混合物は、純度の高いPETファブリックよりも遙かに少ない効果を明白に示す。所望の効果を達成するためには、層厚を関係する基体(材質、構造、厚さ)に適合させなければならないことは、データから明らかである。
【0041】
一般的な織編物についての平均的な火炎伝播速度は90 mm/sであり、織編物製カーテンの場合には60 mm/sよりも遅い。12 nmの薄いセラミックコーティングを施すだけで、純度の高いPETファブリックの場合には、火炎伝播速度が60 mm/sの限界値よりも遙かに低い値にある。ビスコース/ポリエステル混合物の場合には、95 nmの厚さのTiOx/TiO層を施すと、142 mm/sから115 mm/sに大幅な減少が起こる。
【0042】
凡例
a.層及び層構造のストイキオメトリーは、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)、ERDA(反跳粒子検出法)、及びXPS(X線光電子分光分析装置)を用いて決定された。層の結晶構造は、TEM(透過電子分光法)及びXRD(X線回析法)を用いて、定性的な分析がなされた。非晶質及び種々の結晶質相(アナターゼ、ルチル及びTiOx(0.5≦x<2)亜酸化物)の混合物においては、対応する相が各場合に同定可能であった。
b.LOI(制限酸素指数)ISO 4589−2/ASTM D2863−77は、被覆された材料を燃焼させる火炎に対する気体混合物中の制限酸素含有量の増加を容積%で記載する。
c.燃焼速度は、試験 4589−2/ASTM D2863−77(左方欄)と、燃焼試験 BS EN ISO 6941(右方欄)に従って行なわれた平均火炎伝播速度とによった。
d.BIF(バリアー・インプルーブメント・ファクター)は、相対湿度0%、気温23℃でASTM D3985−95に従って計測された酸素透過率([ccm/m.d.bar])が、被覆されていないPETフィルム(124cm/m.d.bar)に比較して、12μmの厚さのPETフィルムのコーティングのために減少することになる要因を示す。
e.被覆され、予め放射されたガラス材料は、0.05nmolの薄いメチレンブルー溶液中に浸され、UVランプ(2 mW/cm)で照らされる。溶液中のトランスミッション・チェンジは、96時間後に、真空理工PCC−1により、波長650nmで、分光光度計で計測された。
関係する中間層5の導電率と電気抵抗は実施例3に記載されている。100 nmの厚さのTiO層の電気抵抗は、2.10 Ωcmよりも大きい。
【0043】
多機能の酸化チタン層を製造するための幾つかの実施例が以下に記載されている。各場合において、層の特性と層の構造は、関係する製品の要求に適合するように構成されている。
【実施例1】
【0044】
二次的に後酸化を伴う反応性マグネトロンスパッタリング
【0045】
アルゴンガスと酸素ガスの混合プロセスを有するチタンの反応性スパッタリング処理(DC=(パルスの)直流電流;RF=無線周波数)を用いて、いずれかの基体1に酸化チタン層2を付着(デポジション)させた。次に、プラズマ条件(変更態様1a)を変更することにより、及び/又は、複合材料の後酸化(変更態様1b)を用いて、アナターゼを含有するTiOの上層4が形成される。
【0046】
コーティングプロセス
ターゲット: 金属チタン(99.98%)
パワー: 1−7W/cmDC/RF
プロセスプレッシャー: 10μbar
パーシャルプレッシャー: 10%DC/RF
【0047】
変更態様1a:プロセス終了時のTiO
反応性スパッタリングプロセスの最終段階において、処理圧力(プロセスプレッシャー)は20μbarまで増加され、DCスパッタリングプロセスの場合には、酸素分圧は30%まで高められ、RFスパッタリングプロセスにおいては、酸素分圧は60%まで上昇させた。プロセスプレッシャーと酸素分圧の上昇は、より低い密度とより高い有孔度とこの結果としてのより大きな表面とによって特徴付けられる上層の層特性に好ましい作用をする。
【0048】
変更態様1b:TiOxからTiO2への後酸化(ポスト−オキシダイゼイション)
このケースでは、酸化チタン層は、大気圧までの低圧で、PE−CVDを用いて酸化雰囲気中で酸化される。後酸化の浸透深さは、TiOx層の密度と処理条件に依存する。
【0049】
パワー(パルス/連続): 50−3000W無線周波数(MHz),
ハイパー周波数(GHz)又は低周波数(kHz)
プロセスプレッシャー: 0.1mbar−1bar
分圧p(O)/p(tot): 50−100%
【実施例2】
【0050】
接着力促進のための前処理及びプラズマ活性化MOCVDプロセス
【0051】
基体のプラズマ活性化がコーティングの接着力を増加させるために行なわれる(1)。
【0052】
前処理:
パワー(パルス/連続): 200−1500Wハイパー周波数(2.45GHz)
プロセスプレッシャー: 20μbar−1bar
分圧p(O/NO)/p(tot):20−80%
【0053】
SiOxを混合されたTiOx又はTiOを含有する基層5:
次に、チタンを含有するモノマー気体、例えば、チタニウム テトラキス−イソプロポキサイド(TTIP)(Ti(O−CH(CH)が、酸素及び一つ又はそれ以上の不活性ガス(Ar、He)と共に反応室に導入され、TiOx層が付着される。更に、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)が、基体内の前述の2つの金属酸化物の比率を2:1にするために、プラズマプロセスに導入され得る。
【0054】
パワー(パルス/連続): 600−3500Wハイパー周波数(2.45GHz)
プロセスプレッシャー: 10μbar−0.1bar
プロセスガス: 50℃で(Ti(O−CH(CH)を通る
キャリアーガスとして、Ar/He
【0055】
FeをドープされたTiOx又はTiOを含有する上層4:
その後、基層3の上に、チタン含有プロセスガスの後に、キャリアーガスとして少量のイオン含有モノマーガス(例えば、イオン−アセチルアセトナート錯体 Fe(C)が、酸素及び一又はそれ以上の不活性ガス(Ar、He等)と共に反応室に導入され、0.1−9%のFeでドープされたアナターゼを含有するTiOの上層4を付着させる。同時に、プロセスパラメーターを変更することによって、層構造を変化させることができる。
【0056】
低周波数領域からハイパー周波数領域に至る非常に多くの高エネルギーのプラズマ活性化放電及びそれらの組合せを使用して、前述の複合材料を製造することができる。例えば、(リモート)AP−PECVD(大気圧プラズマ活性化化学蒸着)、APNEP(大気圧非平衡プラズマ)、プラズマジェット、プラズマ・ブロード・ビーム・バーナー、マイクロ波放電、パルス表面放電、DBD(誘電体バリアー放電)、APGD(大気圧グロー放電)等である。
【実施例3】
【0057】
電気的導通性を有するTiOx中間層5
【0058】
基層3及び/又は付加的な基層7よりも電気的導通性が良好な導電性中間層5が製造される。TiOx層(0.7≦x<1.5)が、基層3が形成されたいずれの基体1に付着され、ここで、反応性スパッタリングプロセスにおいては、基層3におけるよりも少ない酸素ガスがこのプロセス中に供給され、そしてプロセスプレッシャーはこれに適合するように印加される。スパッタリングプロセスで対応するターゲット(TiO、Ti、Ti等)を使用することにより、TiOx層を非反応性で付着させることも可能である。
【0059】
電気抵抗値が1.2.10−2Ωcm又は50ΩcmのTiO1.0層を得るための反応性DCスパッタリングプロセス
ターゲット: 金属チタン(99.98%)
パワー: 3W/cmDC
プロセスプレッシャー: 20μbar又は7μbar
分圧p(O)/p(tot): 5%又は7.5%
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】一方の面に酸化チタン層を有するフィルム状複合材料の断面図である。
【図2】図1の変更態様を示し、二層の酸化チタン層を有する実施例の断面図である。
【図3】図2の変更態様を示し、両面に酸化チタン層が付着された実施例の断面図である。
【図4】三層の酸化チタン層を有するファイバーの断面図である。
【図5】図2の変更態様を示し、付加的な保護層を有する実施例の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 基体
2 酸化チタン層
3 基層
4 上層
5 中間層
10 複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的、物理的、機械的、触媒的及び/又は光学的に機能しうる酸化チタン層(2)が、少なくとも一方の面に形成された基体(1)を有する複合材料(10)において、
前記基体(1)に、酸化含量xが0.7≦x<2の範囲のTiOxからなる基底層(3)であり、又は、酸素含量xが0.5≦x<2の範囲で、かつ水酸化物含量yが0≦y<0.7の範囲にあるTiOx(OH)yからなる基底層(3)である、酸化チタン層(2)が付着され、前記基底層(3)に、非結晶質及び/又は結晶質のTiOからなる上層(4)が形成されたことを特徴とする、複合材料(10)。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料(10)において、前記酸化チタン層(2)は全体の層厚が3乃至1000nmであり、前記上層(4)は、少なくとも前記全体の層(2)のほぼ10%を有することを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項3】
請求項2に記載の複合材料(10)において、前記酸化チタン層(2)は全体の層厚が10乃至200nmであり、好ましくは20乃至150nmであることを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の複合材料(10)において、前記酸化チタン層(2)の基体(1)と基底層(3)の間に、ZnO、MgO、ZrO、In、Sb、Al及びSiOを含む群の金属酸化物の少なくとも一つからなる保護層(7)と、好ましくは最大で前記酸化チタン層(2)と同じ層厚の極性接着層との、いずれか一方又は双方が付着されていることを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載の複合材料(10)において、TiOxからなる前記基底層(3)は、MgO、ZnO、ZrO、In、Sb、Al及び/又はSiOを含む群から選択された少なくとも一つの金属と混合され、及び/又は、Fe、WO、MnO、NiO、BaO及び/又はCaOを含む群の少なくとも一つの金属酸化物にドープされ、ここで、全ての金属酸化物の全体比率が50重量%よりも低い比率で残存し、かつ、第2の群の金属酸化物の全体比率が7重量%よりも低い比率で残存することを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の複合材料(10)において、前記基底層(3)と酸化チタン層(2)の前記上層(4)との間に電気導電性の中間層(5)が付着され、前記中間層(5)は、好ましくは、酸素含量xが0.7≦x<1.5の範囲のTiOxを含むことを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の複合材料(10)において、前記酸化チタン層(2)の前記上層(4)の少なくとも9つの表面原子層が、主として変性二酸化チタンアナタースを含むことを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちのいずれか一項に記載のプラスチック基体(1)を有する複合材料(10)において、金属酸化物又は加熱下で脱水する金属水酸化物の充填剤極微粒子(6)が、好ましくは前記プラスチック基体(1)に混合され、微細に分散されていることを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の可燃性基体を有する複合材料(10)において、前記酸化チタン層(2)のTiOx基底層(3)は、酸素含量xが1.5≦x≦1.9を有し、又は、前記TiOx(OH)y基底層は、重要な水酸化物含量yが0.2<y<0.7を有することを特徴とする、前記複合材料(10)。
【請求項10】
酸化チタン層(2)の基体(1)に化学的、物理的、機械的、触媒的、及び/又は光学的な機能を付着させる方法において、
先ず、基底層(3)は、再活性化されて又は再活性化されずに、酸素含量xが0.7≦x<2であるTiOxで付着され、次いで、上層(4)は、酸素含量、処理圧力、動力、及び/又は、基体温度を増加させることにより、非結晶質又は結晶質のTiOで付着されることを特徴とする、前記方法。
【請求項11】
酸化チタン層(2)の基体(1)に化学的、物理的、機械的、触媒的、及び/又は光学的な機能を付着させる方法において、
先ず、基底層(3)は、再活性化されて又は再活性化されずに、酸素含量Xが0.7≦X<2の範囲にあるTiOxを付着され、次に、電気化学的に、熱的に、及び/又は、プラズマ処理によって、前記基底層(3)は、少なくとも部分的に改造されて、非結晶質又は結晶質のTiOからなる上層(4)になることを特徴とする、前記方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記上層(4)は、好ましくは、Fe、WO、MnO、NiO、BaO及びCaOを含む群の少なくとも一つの金属酸化物によってドープされたTiOを付着され、全体として7重量%未満のドーピングが加えられたことを特徴とする、前記方法。
【請求項13】
フィルム、膜、ファイバー、粉体、織編み物、ファブリック、管及び容器の形態におけるポリマー物質の熱的安定性及び難燃性を増加させるために、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のプラスチック基体(1)を有する複合材料(10)を使用すること。
【請求項14】
飲料水、水溶液及び空気を準備するために、織編物、カーテン、絨毯、フィルム、膜、ケーブル、パッキング、ガラス製品、窓ガラス、複合材料、医療技術の要素、光電装置及び光学システム、ガス・センサー及び電子回路に対し、有効な衛生上の保護として、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の複合材料(10)を使用すること。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2006−501052(P2006−501052A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538639(P2004−538639)
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【国際出願番号】PCT/CH2003/000653
【国際公開番号】WO2004/029323
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505113388)インコート・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (1)
【Fターム(参考)】