説明

複合樹脂成形体の製造方法及び複合樹脂成形体

【課題】炭素系材料からなるフィラーが均一に分散されており、機械的強度及び耐熱性が高められた複合樹脂成形体の製造方法及び複合樹脂成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを、80秒−1未満のせん断速度により総せん断ひずみ量を140000以上与えるように、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度により溶融混練することにより、溶融混練物を得る工程と、前記溶融混練物を成形する工程とを備える、複合樹脂成形体の製造方法、及び前記樹脂複合成形体の断面において、断面積が10μm以上の前記炭素材料の占める面積が、前記断面全体の面積に対して、式(1)により示されるAMAX%以下である複合樹脂成形体。
【数1】


Xは前記熱可塑性樹脂100重量部に対する前記炭素材料の重量部、ρは前記熱可塑性樹脂の密度[g/cm]、ρは前記炭素材料の密度[g/cm]である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に炭素系材料からなるフィラーを混練して得られた溶融混練物を用いて成形された成形体及び該成形体の製造方法に関し、特に、炭素系材料からなるフィラーが均一に分散されており、機械的強度及び耐熱性が高められた複合樹脂成形体の製造方法、及びそのような複合樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、nmオーダーのフィラーが熱可塑性樹脂中に分散されている、いわゆるナノコンポジットが注目されている。このようなナノコンポジットをシート状などの様々な形状の成形体へと成形することにより、上記成形体の機械的強度等の物性を高めたり、上記成形体に柔軟性を付与したりすることができるとされている。
【0003】
このようなナノコンポジットを得るために、層状珪酸塩やカーボンナノチューブ等の無機フィラーを熱可塑性樹脂に分散する方法が広く研究されている。上記方法としては、例えば、無機フィラーを熱可塑性樹脂中に配合し、溶融混練することにより熱可塑性樹脂中に無機フィラーを分散させる方法が知られている。下記の特許文献1では、熱可塑性樹脂と層状珪酸塩とを溶融混練することにより、層状硅酸塩が熱可塑性樹脂中に微細に分散されている熱可塑性樹脂複合成形体を得る方法が開示されている。また、下記の特許文献2には、熱可塑性樹脂とカーボンナノチューブなどの炭素系材料からなるフィラーとを溶融混練し、得られた溶融混練物を成形することにより樹脂成形物を得る方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記無機フィラーは、熱可塑性樹脂中において強い凝集力を示すため、溶融混練の際に上記無機フィラーが凝集するという問題があった。そのため、特許文献1及び2のように、上記無機フィラーを熱可塑性樹脂に単に溶融混練させるだけでは、無機フィラーを均一に分散することが困難であった。従って、得られた溶融混練物を成形したとしても、機械的強度等に優れた物性を有する成形体を得ることが困難であった。
【0005】
そこで、下記の特許文献3では、導電性炭素化合物とポリカーボネートとを混練する際に、酸変性オレフィンを加えて混練することにより、上記導電性炭素化合物からなる無機フィラーの分散性を向上させる方法が開示されている。また、下記の特許文献4では、溶融混練の際に内部帰還型スクリューを用いて高いせん断力をかけることにより、上記無機フィラーを樹脂中に分散させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−26724号公報
【特許文献2】特開2008−266577号公報
【特許文献3】特開2006−124613号公報
【特許文献4】特開2009−13323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3のように、樹脂とフィラー以外の第3成分を分散剤として添加する方法では、溶融混練の際の操作が煩雑であった。また、ナノコンポジットを得るためのコストが高くなるという問題もあった。
【0008】
一方、特許文献4では、物理的なせん断力を多く加えることにより、分散剤を添加することなく、上記無機フィラーを樹脂中に分散させている。しかしながら、高いせん断力を加えると、樹脂中に局所的な発熱が起こり、樹脂の分子鎖が切断され易くなる。そのため、上記ナノコンポジットの耐熱性が低下するという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、炭素系材料からなるフィラーが均一に分散されており、機械的強度及び耐熱性が高められた複合樹脂成形体の製造方法、及び機械的強度が高められた複合樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る複合樹脂成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを、80秒−1未満のせん断速度により総せん断ひずみ量を140000以上与えるように、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度により溶融混練することにより、溶融混練物を得る工程と、前記溶融混練物を成形する工程とを備える。
【0011】
本発明に係る複合樹脂成形体の製造方法のある特定の局面では、前記炭素材料が、黒鉛、薄片化黒鉛、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群から選択された少なくとも1種の炭素系材料である。その場合には、上記炭素材料はナノサイズを有し、かつ比表面積が大きい。そのため、樹脂複合成形体の機械的強度をさらに高めることができる。
【0012】
本発明に係る複合樹脂成形体の製造方法の他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である。この場合には、複合樹脂成形体の製造コストを低減でき、かつ複合樹脂成形体を容易に成形することができる。
【0013】
本発明に係る複合樹脂成形体の製造方法の別の特定の局面では、前記溶融混練物を得る工程において、前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、グラフェン構造を有する炭素材料が1〜50重量部用いられる。その場合には、複合樹脂成形体の機械的強度をより効果的に高めることができる。
【0014】
本発明に係る複合樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを溶融混練して得られた溶融混練物を成形することにより得られる複合樹脂成形体であって、前記樹脂複合成形体の断面において、断面積が10μm以上の前記炭素材料の占める面積が、前記断面全体の面積に対して、式(1)により示されるAMAX%以下である複合樹脂成形体。
【0015】
【数1】

【0016】
前記式(1)中において、Xは前記熱可塑性樹脂100重量部に対する前記炭素材料の重量部であり、ρは前記熱可塑性樹脂の密度[g/cm]であり、ρは前記炭素材料の密度[g/cm]である。
【0017】
本発明に係る複合樹脂成形体のある特定の局面では、23℃における引張弾性率が3.3GPa以上であり、かつ80℃における引張弾性率が0.8GPaである。その場合には、樹脂複合成形体の機械的強度及び耐熱性がより一層高められている。
【0018】
本発明に係る複合樹脂成形体の他の特定の局面では、前記炭素材料が、黒鉛、薄片化黒鉛、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群から選択された少なくとも1種の炭素材料である。その場合には、上記炭素材料はナノサイズを有し、かつ比表面積が大きい。そのため、樹脂複合成形体の機械的強度をさらに高めることができる。
【0019】
本発明に係る複合樹脂成形体の別の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である。その場合には、複合樹脂成形体のコストを低減でき、かつ複合樹脂成形体を容易に成形することができる。
【0020】
本発明に係る複合樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、前記グラフェン構造を有する炭素材料が1〜50重量部含有されている。その場合には、複合樹脂成形体の機械的強度をより効果的に高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る複合樹脂成形体の製造方法では、熱可塑性樹脂及び炭素材料を溶融混練することによって、上記熱可塑性樹脂及び上記炭素材料に対して総せん断ひずみ量を140000以上与えるため、上記炭素材料を上記熱可塑性樹脂中に均一に分散させることができる。さらに、溶融混練を行う際のせん断速度が80秒−1未満であるため、上記熱可塑性樹脂の局所的な発熱が生じ難く、上記熱可塑性樹脂の分子鎖が切断され難い。そのため、上記熱可塑性樹脂の耐熱性、特に高温における耐熱性が低下し難くなる。従って、本発明によれば、得られる複合樹脂成形体の機械的強度が高められると同時に、耐熱性、特に高温における耐熱性を高めることができる。
【0022】
また、本発明に係る複合樹脂成形体では、熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを溶融混練して得られた溶融混練物を成形することにより得られ、上記樹脂複合成形体の断面において、断面積が10μm以上の上記炭素材料の占める面積が、上記断面全体の面積のAMAX%以下であるため、上記炭素材料が複合樹脂成形体中に均一に分散されている。従って、引張弾性率等の機械的強度の高い複合樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(複合樹脂成形体)
本発明の複合樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを溶融混練して得られた溶融混練物を成形することにより得られる複合樹脂成形体であって、上記樹脂複合成形体の断面において、断面積が10μm以上の上記炭素材料の占める面積が、上記断面全体の面積に対して、式(1)により示されるAMAX%以下である。
【0024】
【数2】

【0025】
上記式(1)中において、Xは上記熱可塑性樹脂100重量部に対する上記炭素材料の重量部であり、ρは上記熱可塑性樹脂の密度[g/cm]であり、ρは上記炭素材料の密度[g/cm]である。
【0026】
上記樹脂複合成形体の断面における、断面積が10μm以上の上記炭素材料の占める面積の割合は、以下のようにして測定することができる。まず、上記樹脂複合成形体を任意の断面において、断面積が9mm以上になるように切断する。次に、上記断面中において確認できる最大の断面積を有する凝集体が観察画面に入るようにして、上記断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍で撮影する。このようにして撮影された上記断面のSEM画像において、上記SEM画像に観察される上記炭素材料の占める面積を測定する。このとき、1000倍で撮影した上記SEM画像では、断面積が10μm未満に分散した炭素材料は小さすぎて観察できないため、このようにして観察される上記炭素材料は、断面積が10μm以上の上記炭素材料となる。このようにして測定された上記炭素材料の占める面積を、上記画像の視野の面積全体により除することによって、断面積が10μm以上の上記炭素材料の占める面積の割合を算出することができる。
【0027】
上記複合樹脂成形体は、断面積が10μm以上の上記炭素材料の占める面積が上記断面全体の面積のAMAX%以下であるため、上記炭素材料の多くが、上記断面において上記断面積が10μm未満となる程度に細かく分散している。すなわち、上記複合樹脂成形体では、上記炭素材料が複合樹脂成形体中に均一に分散されている。従って、後述する上記炭素材料の効果により、上記複合樹脂成形体の引張弾性率等の機械的強度が高められている。好ましくは、上記複合樹脂成形体の23℃における引張弾性率が3.3GPa以上であり、80℃における引張弾性率が0.8GPaである。
【0028】
(熱可塑性樹脂)
本発明の複合樹脂成形体に含まれる熱可塑性樹脂は特に限定されず、様々な公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレンなどを挙げることができる。上記熱可塑性樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
好ましくは、上記熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィンを用いることができる。ポリオレフィンは安価であり、加熱下の成形が容易である。そのため、上記熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いることにより、複合樹脂成形体のコストを低減でき、かつ複合樹脂成形体を容易に成形することができる。より好ましくは、上記熱可塑性樹脂としては、より安価であるポリプロピレンが用いられる。
【0030】
(グラフェン構造を有する炭素材料)
本発明の複合樹脂成形体では、上記グラフェン構造を有する炭素材料が、上記熱可塑性樹脂中に分散されている。それによって、本発明の樹脂複合成形体の機械的強度を高めることができる。さらに、場合によっては、本発明の樹脂複合成形体に導電性を発現させることもできる。そのため、本発明の樹脂複合成形体は、導電性を発現する材料としても用いることができる可能性を有する。
【0031】
上記グラフェン構造を有する炭素材料としては特に限定されないが、好ましくは、黒鉛、薄片化黒鉛、グラフェンまたはカーボンナノチューブを用いることができる。上記グラフェン構造を有する炭素材料の形状は特に限定されないが、層状構造を有する炭素材料が望ましい。その場合には、複合樹脂成形体としてシート状物を得た場合、表面の平滑性を高めることができ、かつ引張弾性率等の機械的強度を容易に高めることができる。
【0032】
より好ましくは、上記炭素材料としては、複数のグラフェンシートの積層体、すなわち薄片化黒鉛が用いられる。本発明において、薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシート積層数は、元の黒鉛より少なければよいが、通常数層〜200層程度である。
【0033】
上記薄片化黒鉛は、薄いグラフェンシートが積層されているため、アスペクト比が比較的大きい形状を有する。そのため、本発明の樹脂複合成形体に上記薄片化黒鉛が均一に分散された場合、上記薄片化黒鉛の積層面に交差する方向に加わる外力に対する補強効果を効果的に高めることができる。なお、本発明においてアスペクト比とは、薄片化黒鉛の積層面方向における最大寸法の薄片化黒鉛の厚みに対する比をいう。
【0034】
上記薄片化黒鉛のアスペクト比が低すぎると、上記積層面に交差する方向に加わった外力に対する補強効果が充分でないことがある。上記薄片化黒鉛のアスペクト比が高すぎると、効果が飽和してそれ以上の補強効果を望めないことがある。従って、上記薄片化黒鉛のアスペクト比の好ましい下限は50であり、好ましい上限は5000である。
【0035】
上記薄片化黒鉛は、黒鉛に層間に硝酸イオンなどのイオンを挿入した後に加熱処理する化学的処理方法、超音波の印加などの物理的処理方法、あるいは黒鉛を作用極として電気分解を行う電気化学的方法などにより得ることができる。
【0036】
上記グラフェン構造を有する炭素材料の配合割合は特に限定されないが、好ましくは、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、1〜50重量部の範囲である。上記配合割合を上記範囲とすることにより、複合樹脂成形体の引張弾性率等の機械的強度を効果的に高めることができる。上記炭素材料の配合割合が1重量部未満だと、複合樹脂成形体の機械的強度を十分に高められないことがある。上記炭素材料の配合割合が50重量部を超えると、複合樹脂成形体が脆くなり、割れやすくなることがある。
【0037】
(複合樹脂成形体の製造方法)
本発明に係る複合樹脂成形体の製造方法では、まず、上記熱可塑性樹脂と、上記グラフェン構造を有する炭素材料とを、80秒−1未満のせん断速度により総せん断ひずみ量を140000以上与えるように、上記熱可塑性樹脂の融点以上の温度により溶融混練することにより、溶融混練物を得る工程を行う。本発明において、総せん断ひずみ量とは、混練に係る原料に与えられるせん断力の総量を表すものであり、せん断速度(秒−1)×混練時間(秒)により表される数値をいう。
【0038】
上記工程では、上記熱可塑性樹脂及び上記炭素材料を溶融混練することによって、上記熱可塑性樹脂及び上記炭素材料に対して総せん断ひずみ量140000以上を与える。本発明においては、総せん断ひずみ量を140000以上与えることによって、上記炭素材料を上記熱可塑性樹脂中に均一に分散させることができる。従って、得られる溶融混練物及び複合樹脂成形体の引張弾性率等の機械的強度も高められる。
【0039】
好ましくは、上記総せん断ひずみ量を300000〜600000の範囲とすることができる。その場合には、上記グラフェン構造を有する炭素材料を上記熱可塑性樹脂中により一層均一に分散させることができるため、得られる溶融混練物及び複合樹脂成形体の機械的強度をより一層高めることができる。
【0040】
さらに、上記工程では、80秒−1未満のせん断速度により溶融混練を行う。本発明においては、溶融混練を行う際のせん断速度が80秒−1未満と充分に遅く、単位時間あたりに上記熱可塑性樹脂に加わるせん断力が小さいため、上記熱可塑性樹脂の局所的な発熱が生じ難く、上記熱可塑性樹脂の分子鎖が切断され難い。そのため、上記熱可塑性樹脂の耐熱性、特に高温における耐熱性が低下し難くなる。従って、得られる溶融混練物及び複合樹脂成形体の耐熱性、特に高温における耐熱性を効果的に高めることができる。
【0041】
上記せん断速度が80秒−1以上の場合には、溶融混練により加わるせん断力によって、上記熱可塑性樹脂中に局所的な発熱が生じ易くなること及び上記熱可塑性樹脂の分子鎖が切断され易くなることがある。そのため、得られる溶融混練物及び複合樹脂成形体の耐熱性が低下することがある。
【0042】
上記工程においては、使用している熱可塑性樹脂を溶融させるため、熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加熱しつつ溶融混練する。なお、本発明において、熱可塑性樹脂の融点とは、DSCにより測定された上記熱可塑性樹脂の融解温度をいうものとする。
【0043】
上記工程における上記熱可塑性樹脂と上記炭素材料との配合割合は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、上記炭素材料の配合量を1〜50重量部の範囲とすることが好ましい。上記配合割合を上記範囲とすることにより、得られる溶融混練物の機械的強度を効果的に高めることができる。上記炭素材料の配合割合が1重量部未満だと、得られる溶融混練物及び複合樹脂成形体の機械的強度を十分に高められないことがある。上記炭素材料の配合割合が50重量部を超えると、得られる溶融混練物及び複合樹脂成形体が脆くなり、割れやすくなることがある。
【0044】
上記溶融混練を行う方法としては特に限定されず、従来知られた様々な溶融混練方法を用いることができる。このような溶融混練方法としては、例えば、プラストミル等の二軸スクリュー混練機、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールなどの混練装置を用いて、加熱下において混練することにより行う方法などが挙げられる。好ましくは、ニーディングディスクを備えたプラストミルにより溶融混練する方法を用いることができる。その場合には、上記熱可塑性樹脂と上記炭素材料とを充分に混練することができるため、上記グラフェン構造を有する炭素材料を均一に分散させることが容易となる。
【0045】
また、上記のように、せん断速度を調整する場合、溶融混練装置として例えばプラストミルを用いた場合には、上記装置の回転速度を調整することにより、上記せん断速度を調整することができる。
【0046】
次に、溶融混練により得られた溶融混練物を成形する工程を行うことにより、本発明の複合樹脂成形体を得る。上述のように、溶融混練により得られる溶融混練物は、機械的強度が高められており、耐熱性、特に高温における耐熱性も高められている。そのため、上記溶融混練物を成形することにより、引張弾性率等の機械的強度が高く、かつ耐熱性、特に高温における耐熱性が高い複合樹脂成形体を得ることができる。
【0047】
上記成形方法は特に限定されず、射出成形や押出成形などの様々な成形方法により、複合樹脂成形体を得ることができる。
【0048】
上記特定の条件下で溶融混練することにより、グラフェン構造を有する炭素材料が均一に分散された溶融混練物が得られる。従って、該溶融混練物を成形することにより、引張弾性率などの機械的強度に優れた樹脂複合成形体を得ることができる。成形方法は特に限定されず、射出成形や押出成形などの様々な成形方法を用いることができる。
【0049】
本発明の製造方法により得られる樹脂複合成形体では、上記のようにグラフェン構造を有する炭素材料が均一に分散されている。そのため、引張弾性率等の機械的強度を効果的に高めることができる。好ましくは、上記成形体の引張弾性率が3.3GPa以上となる。その場合には、得られる樹脂複合成形体の機械的強度をより一層高めることができる。
【0050】
好ましくは、本発明の製造方法により得られる樹脂複合成形体では、上記樹脂複合成形体の断面において、断面積が10μm以上の上記炭素材料の占める面積が、上記断面全体の面積に対して、上述の式(1)により示されるAMAX%以下である。その場合には、上記炭素材料がより均一に分散された樹脂複合成形体を得ることができる。従って、得られる樹脂複合成形体の機械的強度をさらに高めることができる。
【0051】
以下、本発明を具体的に実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロ社製、商品名:MA3H、23℃におけるJIS K7113により求められた引張弾性率:1.8GPa、密度0.9g/cm)100重量部と、グラフェン構造を有する炭素材料として薄片化黒鉛(xGSciences社製、商品名「xGnPM5」、面方向平均寸法5.0μm、グラフェン積層数=90層、アスペクト比:170、密度2.2g/cm)20重量部とを、同方向型プラストミルに供給し、チップクリアランスにおけるせん断速度を70秒−1として、180℃の温度で85分間溶融混練して、溶融混練物を得た。このとき、上記溶融混練物に加えられた総せん断ひずみ量は、355700であった。得られた上記溶融混練物を、180℃に温度調節された熱プレス装置により直ちにプレス成形することによって、複合樹脂成形体として肉厚が0.5mmの樹脂シートを得た。
【0053】
(実施例2)
プラストミルでの総せん断ひずみ量を150000となるように、チップクリアランスでのせん断速度を70秒−1にして36分間混錬したことを除いては、実施例1と同様にして溶融混練物を得、該溶融混練物を成形し、樹脂シートを得た。
【0054】
(実施例3)
プラストミルでの総せん断ひずみ量を150000となるように、チップクリアランスでのせん断速度を42秒−1にして60分間混錬したことを除いては、実施例1と同様にして溶融混練物を得、該溶融混練物を成形し、樹脂シートを得た。
【0055】
(実施例4)
実施例1での薄片化黒鉛の添加割合を30重量部に変更したことを除いては、実施例1と同様にして溶融混練物を得、該溶融混練を成形して樹脂シートを得た。
【0056】
(実施例5)
実施例1で用いた薄片化黒鉛に代えて、グラフェン構造を有する炭素材料としてカーボンナノチューブ(CNT社製、商品名「Ctube100」、外径:10〜40nm、長さ:1〜25μm、密度2.2g/cm)を20重量部添加したことを除いては、実施例1と同様にして溶融混練し、かつ溶融混練物を成形し、樹脂シートを得た。
【0057】
(比較例1)
プラストミルでの総せん断ひずみ量を510000となるように、チップクリアランスでのせん断速度を100秒−1にして85分間混錬したことを除いては、実施例1と同様にして溶融混練物を得、該溶融混練物を成形し、樹脂シートを得た。
【0058】
(比較例2)
プラストミルでの総せん断ひずみ量を355700となるように、チップクリアランスでのせん断速度を198秒−1にして30分間混錬したことを除いては、実施例1と同様にして溶融混練物を得、該溶融混練物を成形し、樹脂シートを得た。
【0059】
(比較例3)
プラストミルでの総せん断ひずみ量を84000となるように、チップクリアランスでのせん断速度を70秒−1にして20分間混錬したことを除いては、実施例1と同様にして溶融混練物を得、該溶融混練物を成形し、樹脂シートを得た。
【0060】
〔実施例及び比較例の評価〕
上記のようにして得た実施例1〜5及び比較例1〜3の樹脂シートについて、1)炭素材料の面積率/分散性並びに2)常温での引張弾性率及び80度での引張弾性率/耐熱性を以下の要領でそれぞれ評価した。
【0061】
1)炭素材料の面積率/分散性
炭素材料の占める面積率を、以下のようにして求めた。樹脂シートから観察断面が樹脂の流動方向と平行になるように断面積が9mmになるように切り出し、その断面中で確認される最大の凝集体が画像に入るように、走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍で撮影した。このようにして撮影された上記断面の部分の画像において、上記画像に観察される上記炭素材料の占める面積を測定した。このとき、1000倍で撮影した上記画像では、断面積が10μm未満に分散した炭素材料は小さすぎて観察できないため、このようにして観察される上記炭素材料は、断面積が10μm以上の上記炭素材料となる。このようにして測定された上記炭素材料の占める面積を、上記画像の視野の面積全体により除することによって、上記面積率を算出した。
【0062】
このようにして算出された実施例1〜5及び比較例1〜3の樹脂シートにおける上記炭素材料の占める面積率を、下記の表1に示す。さらに、上記面積率の数値に基づいて、上記炭素材料の分散性を、下記の要領で○、△、×の三段階により評価した。結果を下記の表1に示す。なお、上記ポリプロピレン樹脂100重量部に対して上記炭素材料が20重量部含有されている実施例1〜5及び比較例1〜3の樹脂シートでは、AMAXの値は16であった。
【0063】
○:面積率が16%(=AMAX%)以下
△:面積率が16%超かつ20%以下
×:面積率が20%超
【0064】
2)引張弾性率及び耐熱性
JIS K7113に従って、得られた樹脂シートの23℃における引張弾性率を測定した。結果を下記の表1に示す。
【0065】
さらに、温度を80℃にしたことを除いては上記と同様にして、得られた樹脂シートの80℃における引張弾性率を測定し、耐熱性を示す指標とした。結果を下記の表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、本発明に従う実施例1〜5の樹脂シートでは、薄片化黒鉛または炭素材料の分散性が高い。また、上記樹脂シートの23℃における引張弾性率が3.3GPa以上と高く、かつ80℃での弾性率も0.8GPa以上と高い。これは、80秒−未満のせん断速度において、総せん断ひずみ量を140000以上与えるように溶融混練した事による。それによって、高い機械的強度及び耐熱性を有していることがわかる。
【0068】
これに対し、比較例1、2の樹脂シートでは、80℃における耐熱性が0.6GPa、0.5GPaと低かった。これは、製造工程において100秒−1、198秒−1と高速なせん断速度により溶融混練を行ったため、上記熱可塑性樹脂に局所的な発熱が起こり、さらに大きなせん断力が生じたことによると考えられる。それによって、上記熱可塑性樹脂が熱により劣化したこと及び上記熱可塑性樹脂の分子鎖が短く切断されたことによると考えられる。
【0069】
また、比較例3の樹脂シートでは、溶融混練において与えられた総せん断ひずみ量が84000と少ないため、薄片化黒鉛の分散性が低くなっている。そのため、上記樹脂シートの耐熱性も低くなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを、80秒−1未満のせん断速度により総せん断ひずみ量を140000以上与えるように、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度により溶融混練することにより、溶融混練物を得る工程と、
前記溶融混練物を成形する工程とを備える、複合樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記グラフェン構造を有する炭素材料が、黒鉛、薄片化黒鉛、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群から選択された少なくとも1種の炭素系材料である、請求項1に記載の複合樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項1または2に記載の複合樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記溶融混練物を得る工程において、グラフェン構造を有する炭素材料が、前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、1〜50重量部用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを溶融混練して得られた溶融混練物を成形することにより得られる複合樹脂成形体であって、
前記樹脂複合成形体の断面において、断面積が10μm以上の前記炭素材料の占める面積が、前記断面全体の面積に対して、式(1)により示されるAMAX%以下である複合樹脂成形体。
【数1】

前記式(1)中において、Xは前記熱可塑性樹脂100重量部に対する前記炭素材料の重量部であり、ρは前記熱可塑性樹脂の密度[g/cm]であり、ρは前記炭素材料の密度[g/cm]である。
【請求項6】
23℃における引張弾性率が3.3GPa以上であり、かつ80℃における引張弾性率が0.8GPaである、請求項5に記載の複合樹脂成形体。
【請求項7】
前記グラフェン構造を有する炭素材料が、黒鉛、薄片化黒鉛、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群から選択された少なくとも1種の炭素材料である、請求項5または6に記載の複合樹脂成形体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の複合樹脂成形体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、前記グラフェン構造を有する炭素材料が1〜50重量部含有されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載の複合樹脂成形体。

【公開番号】特開2013−95784(P2013−95784A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237552(P2011−237552)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】