説明

複合無線通信システム

【課題】異なる二つの通信方式を用いて無線通信可能な無線タグ及びタグリーダを有する複合無線通信システムにおいて、無線タグがバッテリ切れになっても応答可能とする。
【解決手段】複合無線通信システム1のタグリーダ2は、無線タグ5に送信する通常質問信号または特別質問信号の何れか一方を指定する指定手段23と、その指定に従って第1の通信方式にて何れかの質問信号を送信し、第1の通信方式による第1の応答信号を受信する第1のリーダ通信部21と、第2の通信方式による第2の応答信号を受信する第2のリーダ通信部22を有する。一方、無線タグ5は、バッテリ52と、特別質問信号を受信した場合にその特別質問信号から生成した電圧を使用して、第1の応答信号を送信する第1のタグ通信部53と、第1のタグ通信部53が通常質問信号を受信した場合にバッテリ52の供給電圧を使用して、第2の応答信号を送信する第2のタグ通信部54を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合無線通信システムに関し、特に、異なる二つの通信方式にて無線通信可能な無線タグ及びタグリーダを用いた複合無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線自動識別(以下、RFIDという)システムを利用した各種サービスが提供されている。RFIDシステムを構成する無線タグには、通信方式及び使用される無線周波数帯が異なる様々な種類のものがあり、提供するサービスに適した特性のものが利用される。例えば、無線タグにおいて採用される通信方式には、無線タグ内にバッテリを持たずにタグリーダからの質問信号に応答するパッシブ型、無線タグに内蔵されたバッテリを使用して自発的に信号を出力するアクティブ型、タグリーダからの質問信号を受信して駆動され、内蔵されたバッテリを使用して応答するセミアクティブ型がある。また、無線周波数帯としては、長波帯、短波帯、超極短波帯、マイクロ波帯などが使用される。
【0003】
昨今、RFIDシステムの適用範囲はさらに多様化しており、複数種類の通信方式による無線通信機能を併用したシステムも提案されている(特許文献1を参照)。特許文献1に開示されたシステムにおいて使用される無線タグは、電磁誘導方式でリーダから質問信号を受信し、内蔵バッテリを使用して特定小電力無線により応答信号を送出している。
【0004】
電磁誘導方式を用いる場合は、リーダから送出される質問信号の到達範囲を比較的高精度で規定することができ、また、無線タグが低消費電力で質問信号を受信できる利点を持つ。しかし、無線タグから、質問信号の到達範囲と同程度の範囲まで到達可能な応答信号を出力するためには、大きな電力を必要とするため、バッテリの電力消費が大きくなってしまう。また、リーダ側に設置されるアンテナも大型化しなければならない。一方、特定小電力無線による無線通信を用いる場合は、無線タグの駆動電源としてバッテリを必要とするが、低消費電力で、かつ小さなアンテナを用いて通信範囲を長距離化することができる。
そのため、上記のシステムは、電磁誘導方式と特定小電力無線それぞれの長所を併せて活用することで、無線タグの内蔵バッテリの電力消費を抑制しつつ、高精度で無線タグを検出可能となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−350861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、無線タグが特定小電力無線でリーダの問い掛けに応答するためには、上記のようにバッテリを必要とする。そのため、従来のRFIDシステムでは、バッテリの残容量がなくなった場合、無線タグはリーダに対して応答不可能となる。よって、例えばドアの開閉などの通行制御にこのRFIDシステムを採用して、無線タグの応答によって通行規制を解除する(例えば、ドアを解錠する)場合、内蔵バッテリの残容量がなくなった無線タグの所持者は、通行規制を解除する術がなくなってしまうことになる。
【0007】
そこで、本発明は、タグリーダからの指示にしたがって、複数の通信方式の中から適切な通信方式を選択して無線タグに応答動作をさせることで、無線タグがバッテリ切れになっても応答可能な複合無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するための本発明は、異なる二つの通信方式を用いて無線通信可能な無線タグ及びタグリーダにて構成され、所定領域内に存在する無線タグをタグリーダにて検出する複合無線通信システムを提供する。係る複合無線通信システムにおいて、タグリーダは、無線タグに送信する通常質問信号または特別質問信号の何れか一方を指定する指定手段と、指定手段の指定にしたがって第1の通信方式にて通常質問信号または特別質問信号を送信し、無線タグから送信された第1の通信方式による第1の応答信号を受信する第1のリーダ通信部と、無線タグから送信された第2の通信方式による第2の応答信号を受信する第2のリーダ通信部とを有する。また無線タグは、バッテリと、タグリーダから送信された通常質問信号または特別質問信号を受信し、特別質問信号を受信した場合にその特別質問信号から生成した電圧を使用して、第1の通信方式による第1の応答信号を送信する第1のタグ通信部と、第1のタグ通信部が通常質問信号を受信した場合にバッテリの供給電圧を使用して、第2の通信方式による第2の応答信号を送信する第2のタグ通信部とを有する。
【0009】
また、本発明に係る複合無線通信システムにおいて、タグリーダの指定手段は、常時は通常質問信号を指定し、タグリーダに設けられた操作部を介して所定の操作が行われたことを検知したとき特別質問信号を指定することが好ましい。なお、操作部は、タグリーダの表面に設けられ、通常動作と救済動作を切り換えるスイッチを有し、所定の操作は、そのスイッチを救済動作に設定する操作とすることができる。あるいは、操作部は近接センサを有し、近接センサが無線タグまたは無線タグの所持者の接近を検知すると、操作部は所定の操作を検知するものとしてもよい。
【0010】
さらに、本発明に係る複合無線通信システムにおいて、第1のリーダ通信部は、特別質問信号に含まれるプリアンブル部を、通常質問信号に含まれるプリアンブル部よりも長くすることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明に係る複合無線通信システムにおいて、第2の通信方式は、第1の通信方式よりも低消費電力で広い通信可能範囲を得られる通信方式であることが好ましい。なお、第1の通信方式として、電磁誘導方式または電波方式による無線通信を、第2の通信方式として、特定小電力無線または微弱無線を利用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る複合無線通信システムは、タグリーダからの指示にしたがって、複数の通信方式の中から適切な通信方式を選択して無線タグに応答動作させ、無線タグがバッテリ切れの際にはバッテリを使用しないパッシブ応答動作をさせることで、バッテリ切れ時でも無線タグによる応答を可能とすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る複合無線通信システムを、出入管理システムに適用した場合の実施形態について図を参照しつつ説明する。
図1は、出入管理システム1の概略構成を示す。図1に示すように、出入管理システム1は、通行規制を行う出入口の扉(図示せず)近傍に設置された一つ以上のタグリーダ2と、各タグリーダ2によって管理され、それぞれ出入口の扉に設けられた電気錠3と、管理用制御装置4と、無線タグ5とを有する。出入管理システム1では、電気錠3は通常時において施錠されている。そして、無線タグ5を所持した利用者がタグリーダ2の読み取り範囲内(例えば、タグリーダ2の周囲約2m以内)に入ると、タグリーダ2からの質問信号に無線タグ5が反応して応答信号を送信する。応答信号には、他の無線タグと識別するための識別コード(以下、IDコードという)が含まれる。タグリーダ2がその応答信号を受信して、無線タグ5の情報から利用者が正当な権限を有することを確認すると、タグリーダ2は管理下の電気錠3を一時的に解錠制御して、利用者の通行を可能にする。またタグリーダ2は、LANなどの通信網6を介して接続された管理用制御装置4へ、応答した無線タグ5のIDコード、解錠及び施錠時刻、タグリーダ2自身のIDコードなどを送信する。管理用制御装置4は、それらの情報を、利用者の通行履歴情報として、内蔵された記録装置(図示せず)に保存する。
【0014】
ここで、無線タグ5は、短い距離であれば内蔵バッテリの電力を使用せず受動的に応答(パッシブ応答)が可能な近距離無線通信方式と、応答に内蔵バッテリを必要とするが、近距離無線通信方式と比べて低消費電力で長い距離の応答が可能な長距離無線通信方式の二通りの通信方式によりタグリーダ2と通信可能であり、タグリーダ2から受信した質問信号の種類に応じて何れか一方の通信方式を選択して応答信号を送信する。これにより、無線タグ5の内蔵バッテリの残容量がない場合でも、至近距離であればタグリーダ2と無線タグ5間の通信を可能として、電気錠3を解錠できなくなる事態が防止される。
以下、出入管理システム1の各部について詳細に説明する。
【0015】
図2に、タグリーダ2の機能ブロック図を示す。タグリーダ2は、LF送受信部21、RF受信部22、操作部23、電源部24、外部インターフェース部25、及び制御部26を有する。
【0016】
LF送受信部21は、近距離無線通信方式による通信手段であり、電磁誘導方式にて無線タグ5と無線通信する。そのために、LF送受信部21は、変調部、復調部及びアンテナコイルを有する。本実施形態では、LF送受信部21は、変調部で変調した電波(即ち、質問信号)を、135kHz帯の長波(すなわち、LF波)を利用して、タグリーダ2の周囲2mの範囲に対してアンテナコイルから送信する。
LF送受信部21は、制御部26からの指示に応じて、通常質問信号と特別質問信号の何れか一方を送信する。通常動作時において、LF送受信部21は、通常質問信号を所定の間隔で繰り返し送信する。例えば、LF送受信部21は、0.2sec長の通常質問信号を送信すると、複数の無線タグ5からの応答信号の衝突を防止する(アンチコリジョン)ために0.2secの間待機する。LF送受信部21は、その動作を繰り返し行って、連続的に通常質問信号を送信する。
【0017】
一方、救済動作時(操作部23の操作がなされたとき)において、LF送受信部21は、通常質問信号の送信を一時的に停止する。その代わりに、LF送受信部21は、特別質問信号(例えば、0.2sec長)を、単発的に、あるいは所定時間(例えば、1sec)の間、繰り返し送信する。そして無線タグ5からのLF波による応答信号(以下、LF応答信号という)の受信を待機するための待機期間経過(例えば、0.05sec)後、LF送受信部21は、通常動作に戻り、通常質問信号の連続送信を再開する。
また、LF送受信部21は、救済動作時に無線タグ5からLF応答信号を受信すると、そのLF応答信号を復調部にて復調し、制御部26へ渡す。
【0018】
以下、質問信号の構成について説明する。通常質問信号、特別質問信号の両方とも、先頭から順に、プリアンブル、変調データ、無変調搬送波で構成される。
プリアンブルは、クロック同期のための同期ビット列である。また無線タグ5は、このプリアンブル部分の電波を利用して、無線タグ5が内蔵する回路を駆動するのに必要な電力を蓄える。特別質問信号のプリアンブルは、通常質問信号のプリアンブルよりも長くし、無線タグ5が内蔵バッテリを使用せずにLF応答信号を送信するのに十分な電力を蓄えることができるようにする。これにより、救済動作時において、利用者は無線タグ5をタグリーダ2の至近距離に近づけるだけで、無線タグ5は内蔵バッテリを使用しなくても、タグリーダ2に対するパッシブ型の応答動作を容易に行える。
【0019】
変調データは、無線タグ5を制御するためのコマンドビット列を変調部により変調したものである。そのコマンドビット列は、タグリーダ2を他のタグリーダと識別するためのIDコードや、複数の無線タグによる応答タイミングをずらすためのアンチコリジョンデータを含む。さらに、通常質問信号の場合、コマンドビット列は、無線タグ5にRF波で応答させることを指示するコマンド(例えば、ビット列"11")を含む。一方、特別質問信号の場合、コマンドビット列は、無線タグ5にLF波で応答させることを指示するコマンド(例えば、ビット列"00")を含む。ここで、救済動作の対象となる無線タグは通常一つであるため、特別質問信号のコマンドビット列からタグリーダ2のIDコード及びアンチコリジョンデータ等のコマンドを省略することができる。これにより、変調データのデータ長を短縮して救済動作の時間を短くし、他の無線タグによる通常の応答(RF波での応答)の読み取りエラーの発生を抑制することができる。
【0020】
無変調搬送波は、無線タグ5がパッシブ動作する場合、すなわちLF波で応答する場合において、無線タグ5が応答信号に含めるデータを搬送するための領域である。そのため、RF波での応答を指示する通常質問信号においては、無変調搬送波は省略してもよい。
【0021】
RF受信部22は、長距離無線通信方式による通信手段であり、LF送受信部21よりも低消費電力で広い通信可能範囲を得られる通信方式にしたがって、無線タグ5からの応答信号を受信する。本実施形態では、RF受信部22は、使用周波数が400MHz帯の特定小電力無線を利用して、無線タグ5からのRF波による応答信号(以下、RF応答信号という)を受信する。この場合、RF受信部22は、小型のアンテナを用いて数m〜数十mの通信距離を確保できる。RF受信部22は、復調部とアンテナで構成される。そしてRF受信部22は、無線タグ5からのRF応答信号をアンテナを介して受信すると、復調部によりその応答信号を復調して、制御部26へ渡す。またRF受信部22は、LF送受信部21とは独立して動作することができる。
【0022】
操作部23は、タグリーダ2の表面に配置され、利用者による操作を受け付けるためのユーザインターフェースであり、例えば、1または複数の操作ボタンスイッチと、LEDやブザーなどの報知部で構成される。操作部23が操作される(例えば、操作部23の操作ボタンを押下する)ことにより、タグリーダ2は、無線タグ5の内蔵バッテリの残容量がない場合でも、無線タグ5とタグリーダ2間で通信できるよう、救済動作を実行する。具体的には、操作部23が操作されて救済動作が実行されると、タグリーダ2は、上記のLF送受信部21から送信される質問信号を、通常質問信号から特別質問信号に切り換える。そしてタグリーダ2は、報知部を介して、利用者に救済動作の指示を受け付けた旨を表示する。
【0023】
電源部24は、外部電源と接続され、その外部電源から供給された交流電圧を直流電圧に変換して、タグリーダ2の各部に電力を供給する回路である。また電源部24は、停電時にも、一定期間タグリーダ2が動作可能なように、バッテリを有していてもよい。
【0024】
外部インターフェース部25は、タグリーダ2により管理される電気錠3と接続するインターフェース回路と、他のタグリーダ及び管理用制御装置4と通信網6を介して通信するための通信インターフェース回路を有する。そして外部インターフェース部25は、制御部26から出力され、電気錠3を解錠または施錠するための制御信号を、そのタグリーダ2の管理下にある電気錠3へ送信する。また、外部インターフェース部25は、通信網6を介して管理用制御装置4へ、そのタグリーダ2に応答した無線タグ5のIDコード、タグリーダ2自身のIDコード、解錠または施錠した電気錠3の識別情報、解錠及び施錠時刻などを送信する。
【0025】
制御部26は、マイクロプロセッサ、メモリ、及びその周辺回路で構成される。制御部26は、タグリーダ2の各部を制御する。そして制御部26は、操作部23からの入力に基づいて、無線タグ5に送信する通常質問信号または特別質問信号の何れか一方を指定し、LF送受信部21に指示する。制御部26は、常時は通常質問信号を指定し、通常動作として、LF送受信部21から通常質問信号を一定の間隔で連続的に繰り返し送信させる。一方、操作部23を介して利用者による救済動作を要請する操作が行われたことを検知したときには、救済動作として、無線タグ5が内蔵バッテリを使用せずに応答信号を返信できるように、LF送受信部21から特別質問信号を送信させる。
【0026】
図3に、救済動作時のタグリーダ2の動作フローチャートを示す。
制御部26は、操作部23において救済動作を実行するための操作がなされたことを検知すると、救済動作を開始する。救済動作が開始されると、制御部26は、LF送受信部21に、通常質問信号の送信を停止させる(ステップS301)。そして制御部26は、LF送受信部21に、特別質問信号を送信させる(ステップS302)。その後、LF送受信部21が、LF応答信号を受信したか否か判定する(ステップS303)。LF応答信号を受信した場合、LF送受信部21は応答信号受信処理を行う(ステップS304)。具体的には、LF送受信部21はそのLF応答信号から無線タグ5のIDコードを抽出し、制御部26へ渡す。ステップS304の後、あるいはステップS303でLF送受信部21が所定の待機期間中にLF応答信号を受信しなかった場合、制御部26は、LF送受信部21に通常質問信号の送信を再開させる(ステップS305)。そして制御部26は、救済動作を終了する。
【0027】
また制御部26は、RF受信部22またはLF送受信部21にて無線タグ5からの応答信号が受信され、復調されると、無線タグ5のIDコードを受け取る。そして制御部26は、その受信したIDコードを、メモリに記憶されている、登録済み無線タグの登録IDコードと照合し、一致するものがあるか否かを判定する。そして無線タグ5から受信したIDコードが何れかの登録IDコードと一致する場合、制御部26は、その無線タグ5を正当権限を有するものとして認証し、管理下の電気錠3へ外部インターフェース部25を介して一時的に解錠するための解錠信号を出力する。また制御部26は、外部インターフェース部25及び通信網6を介して、管理用制御装置4へ、無線タグ5のIDコードなどの利用者の通行履歴情報を送信する。
【0028】
一方、無線タグ5から受信したIDコードが何れの登録IDコードとも一致しない場合、制御部26は、管理下の電気錠3を施錠した状態のまま維持し、管理用制御装置4へ、不正タグ情報として、無線タグ5のIDコードを送信する。またタグリーダ2が液晶ディスプレイ、LED、スピーカなどから構成される報知部を有している場合、制御部26は、その報知部を介して、利用者に対して無線タグ5が不正なものであることを報知するようにしてもよい。
【0029】
図4に、無線タグ5の機能ブロック図を示す。無線タグ5は、メモリ51、バッテリ52、LF送受信部53、RF送信部54及び制御部55を有する。
【0030】
メモリ51は、フラッシュメモリ、EEPROMまたはFRAM(登録商標)などの不揮発性メモリで構成される。そしてメモリ51は、無線タグ5を他の無線タグと識別するためのIDコードを保持する。
バッテリ52は、無線タグ5に内蔵される小型電池で構成され、制御部55を介して無線タグ5の各部を駆動するための電力を供給する。またバッテリ52に使用される小型電池は、交換可能または充電可能なタイプであることが好ましい。
【0031】
LF送受信部53は、近距離無線通信方式による通信手段であり、電磁誘導方式にてタグリーダ2と無線通信する。本実施形態では、LF送受信部53は、135kHz帯のLF波を利用して、タグリーダ2のLF送受信部21と無線通信する。そのために、LF送受信部53は、アンテナコイル531と、コンデンサと整流回路を有する電圧生成手段532と、組み込み型のプロセッサ回路を有する信号処理手段533とを有する。LF送受信部53は、タグリーダ2から通常質問信号及び特別質問信号を受信しない間は、バッテリ52より供給される電力を利用して、信号受信の待機に必要な電力のみを消費する低消費電力モードで動作する。
一方、LF送受信部53は、アンテナコイル531を介して、タグリーダ2のLF送受信部21のアンテナコイルとの電磁誘導により、タグリーダ2から何れかの質問信号を受信すると、電圧生成手段532は電磁誘導によって得た交流電圧を直流電圧に整流し、LF送受信部53を駆動するために利用される生成電圧として蓄積する。そして信号処理手段533は、生成電圧またはバッテリ52からの供給電圧によって動作し、受信した質問信号を復調する。
【0032】
ここで信号処理手段533は、バッテリ52の残容量がLF送受信部53及び制御部55を駆動するのに十分な量である場合、バッテリ52から制御部55を介して供給された供給電圧を利用して動作する。この場合において、信号処理手段533は、電圧生成手段532による生成電圧を併用してもよい。一方、信号処理手段533は、バッテリ52の残容量が、LF送受信部53及び制御部55を駆動するのに十分でない場合、電圧生成手段532による生成電圧を利用して動作する。
【0033】
信号処理手段533は、受信した質問信号から復調された復調信号に含まれるコマンドビット列を調べて、その質問信号が通常質問信号か特別質問信号か判定する。そして、受信した質問信号が通常質問信号である場合、信号処理手段533は、RF送信部54から所定の応答信号を送信できるように、復調信号を制御部55へ渡す。
一方、受信した質問信号が特別質問信号である場合、信号処理手段533は、バッテリ52からの供給電圧を利用せず、LF送受信部53自体から送信するためのLF応答信号を生成する。そのために、信号処理手段533は、メモリ51から無線タグ5のIDコードを読み出して、特別質問信号に含まれる無変調搬送波をそのIDコードで変調する。そして信号処理手段533は、特別質問信号のプリアンプル部分を利用して電圧生成手段532により生成された生成電圧を使用して、アンテナコイル531からLF応答信号を出力する。このように、LF送受信部53は、質問信号の受信に伴う誘導起電力を使用してパッシブ応答することが可能である。
【0034】
ここで、無線タグ5がバッテリ切れのときにタグリーダ2との距離が離れ過ぎていると、特別質問信号の受信により生成される電力は小さく、LF送受信部53を駆動するために必要な電力を得ることができない。またLF送受信部53がLF応答信号を送信できたとしても、タグリーダ2までの距離を飛ばすのに必要な生成電圧が得られていなければ、タグリーダ2がそのLF応答信号を受信することができない。そこで、LF応答信号を生成及び送信して、タグリーダ2にそのLF応答信号を受信させるためには、無線タグ5は通常質問信号を受信可能な距離(例えば、2m)よりもタグリーダ2に接近している必要がある。すなわち、無線タグ5は、タグリーダ2の至近距離(例えば、数cm〜数十cm以内)にある場合に、バッテリ52を利用せずに、特別質問信号の受信による誘導起電力を使用して、LF応答信号をタグリーダ2へ伝達(パッシブ応答)できる。
【0035】
RF送信部54は、長距離無線通信方式による通信手段であり、LF送受信部53よりも低消費電力で広い通信可能範囲を得られる通信方式にしたがって、タグリーダ2へ応答信号を送信する。本実施形態では、RF送信部54は、使用周波数が400MHz帯の特定小電力無線を利用する。このため、RF送信部54は、小型のアンテナを用いて、数m〜数十mの範囲に、RF応答信号を到達させることができる。また、特定小電力無線を利用することにより、LF応答信号を同じ距離だけ飛ばす場合と比較して、無線タグ5がRF応答信号を送信するための消費電力は非常に小さくて済む。RF送信部54は、変調手段541とアンテナ542を有する。そして変調手段541は、制御部55からの応答信号送信指示にしたがって、RF応答信号を生成する。そのRF応答信号には、無線タグ5が受信した通常質問信号に含まれたタグリーダ2のIDコードと、メモリ5から読み出された無線タグ5のIDコードを含む。生成されたRF応答信号は、アンテナ542から送信される。
【0036】
制御部55は、組み込み型のCPU及びその周辺回路で構成される。そして制御部55は、バッテリ52からの供給電圧を利用して動作し、無線タグ5の各部を制御する。制御部55は、何れの種類の質問信号も受信していない間、バッテリ52の電力消費を抑制するために、LF送受信部53を上記の低消費電力モードで動作させるとともに、制御部55自体も、CPUの動作クロックを停止させ、周辺回路のみ動作するスリープモードで動作する。さらに、質問信号の受信に必要のないRF送信部54への電源供給を停止し、動作オフ状態としておく。
そして制御部55は、LF送受信部53が受信した通常質問信号の復調信号が入力されると、RF送信部54を駆動し、RF応答信号を出力するよう制御する。このとき、制御部55は、復調信号に含まれたタグリーダ2のIDコードと、メモリ5から読み出された無線タグ5のIDコードをRF送信部54に転送する。
【0037】
図5に、質問信号受信時における、無線タグ5の応答動作のフローチャートを示す。最初に、無線タグ5のLF送受信部53が何れかの質問信号を受信すると、無線タグ5は待機状態から移行し、応答動作を開始する。そして、LF送受信部53は、質問信号の受信処理を行う(ステップS501)。具体的には、LF送受信部53の電圧生成手段532は、質問信号に含まれるプリアンブル部を利用して、電磁誘導によって誘導起電力を生成し、蓄積する。またLF送受信部53の信号処理手段533は、質問信号を復調する。その後、信号処理手段533は、上記のように、受信した質問信号が特別質問信号か否かを判定する(ステップS502)。受信した質問信号が特別質問信号であると判定された場合、信号処理手段533は、バッテリ52からの供給電圧を使用せず、電圧生成手段532により生成された生成電圧のみを利用して、LF応答信号を生成し、LF送受信部53のアンテナコイル531からLF応答信号を送信する(ステップS503)。
【0038】
一方、ステップS502において、受信した質問信号が特別質問信号でないと判定された場合、すなわち、受信した質問信号が通常質問信号である場合、信号処理手段533は復調信号を無線タグ5の制御部55へ出力する。そして制御部55は、バッテリ52からの供給電圧を使用して、RF送信部54を駆動し、RF応答信号を生成させる(ステップS504)。そして、RF送信部54のアンテナ542から、RF応答信号を送信する(ステップS505)。ステップS503またはS505の後、無線タグ5は応答動作を終了し、再び待機状態となる。
【0039】
以上説明してきたように、本発明を適用した複合無線通信システムでは、無線タグに内蔵されたバッテリの残容量が十分な場合には、監視範囲を高精度に設定でき、且つ、無線タグの待機電力が低いLF波を使用した電磁誘導方式にて質問し、LF波を利用するよりも小型のアンテナ、且つ低消費電力で通信可能範囲の広い特定小電力無線を利用して応答する。そのため、係るシステムは、利用者が無線タグをタグリーダにかざすなどの動作を必要とせずにタグリーダと無線タグ間で確実かつ低消費電力な通信が可能となる。さらに、無線タグに内蔵されたバッテリの残容量が不十分な場合、タグリーダに救済動作を指示する操作を行うことで質問信号を切替えることによって、無線タグはタグリーダから受信した質問信号に基づいて生成した電力を使用して応答信号を送信する。そのため、係るシステムは、無線タグの内蔵バッテリが切れたときでも、タグリーダと無線タグ間の通信が可能となる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、タグリーダ2及び無線タグ5のそれぞれは、LF送受信部の代わりに、短波帯の電波を利用した電磁誘導方式の無線通信を行う短距離送受信部を有してもよい。同様に、タグリーダ2及び無線タグ5のそれぞれは、LF送受信部の代わりに、UHF/超極短波帯またはマイクロ波帯の電波を利用した電波方式の無線通信を行う短距離送受信部を有してもよい。電波方式の無線通信を利用する場合、無線タグ5の短距離送受信部は、LF応答信号を送信する際、電波反射を利用してパッシブ応答する。
【0041】
また、タグリーダ2のRF受信部及び無線タグ5のRF送信部は、微弱無線を利用するものであってもよい。あるいは、RF受信部及びRF送信部は、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)、IEEE802.11a,b,g,nなどの無線LAN規格に従って動作するものであってもよい。ただし、RF送信部から送信される応答信号の通信可能範囲は、各LF送受信部の通信可能範囲と同等か、それよりも広いことが好ましい。このようにRF送信部で使用する通信方式を選択することにより、電磁誘導方式と比較して低消費電力で広い通信可能範囲を確保できるため、無線タグの内蔵バッテリの残容量が十分な通常時の応答を、確実かつ低消費電力で行うことができる。
【0042】
さらに、上記の実施形態のように、RF送信部から送信される応答信号の到達範囲が数m〜数十mに及ぶ場合、タグリーダから、RF受信部を独立させて、RF受信機能を司る応答受信器として構成してもよい。この場合、特に複数のタグリーダが応答受信器と通信網を介して接続されている場合、一つの応答受信器で、複数のタグリーダのそれぞれに対する無線タグからのRF応答信号を受信して、RF応答信号に含まれるタグリーダのIDコードに対応するタグリーダに応答信号を伝送することができるので、システム全体のコストを抑制することができる。
【0043】
さらに、無線タグ5のバッテリ52の残容量が少なくなると、そのことを利用者に警告するようにしてもよい。例えば、無線タグ5は、バッテリ52の容量監視手段とLEDとをさらに有し、容量監視手段により、バッテリ52の残容量が十分である場合にはLEDを点灯させ、RF波での応答ができないレベルまで残容量が低下している場合にはLEDを消灯するようにしてもよい。また、バッテリ52の残容量が数回RF応答信号を送信すると残容量がなくなる程度であると推定された場合、LEDを発光させてバッテリ切れを利用者に警告するようにしてもよい。あるいは、容量監視手段により、バッテリ52の残容量が数回RF応答信号を送信すると残容量がなくなる程度であると推定された場合において、無線タグ5のRF送信部54は、RF応答信号にバッテリ52の残容量が少ないことを示す警告信号を含ませてもよい。この場合、タグリーダ2は、受信したRF応答信号にその警告信号が含まれていると、タグリーダ2に設けられた報知部を介して、利用者に対して、所持している無線タグ5のバッテリ切れを警告するようにしてもよい。
【0044】
なお、操作部23は、利用者自身あるいは無線タグ5のタグリーダ2への接近を検出する近接感知センサを有していてもよい。この場合、例えば、近接感知センサが、無線タグ5が特別質問信号を受信して、無線タグ5の内蔵バッテリを使用せずに応答信号を発信できる範囲(例えば、数cm〜数十cm以下の範囲)内に無線タグ5の接近を検知すると、タグリーダ2は自動的に救済動作を実行し、上記のLF送受信部21から送信される質問信号を、通常質問信号から特別質問信号に切り換える。操作部23をこのように構成することで、無線タグ5をタグリーダ2の至近距離にかざすだけで、タグリーダ2に自動的に救済動作を実行させることができる。なお、操作部23は、利用者が操作ボタンを操作して救済動作の実行を指示した後に、近接感知センサが無線タグ5の接近を検知すると、タグリーダ2は上記のLF送受信部21から送信される質問信号を、通常質問信号から特別質問信号に切り換えるようにしてもよい。
【0045】
さらにまた、本発明に係る複合無線システムの用途は、上記の出入管理システムに限られない。例えば、特開2006−350861号公報に開示されたような、利用者の移動方向に応じた制御を行うセキュリティシステムにも、本発明を適用することができる。
以上のように、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る複合無線通信システムを適用した出入管理システムの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態により使用されるタグリーダの機能ブロック図である。
【図3】救済動作時のタグリーダの動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態により使用される無線タグの機能ブロック図である。
【図5】質問信号受信時の無線タグの応答動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1 出入管理システム(複合無線通信システム)
2 タグリーダ
3 電気錠
4 管理用制御装置
5 無線タグ
6 通信網
21 LF送受信部
22 RF受信部
23 操作部
24 電源部
25 外部インターフェース部
26 制御部
51 メモリ
52 バッテリ
53 LF送受信部
54 RF送信部
55 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる二つの通信方式を用いて無線通信可能な無線タグ及びタグリーダにて構成され、所定領域内に存在する前記無線タグを前記タグリーダにて検出する複合無線通信システムにおいて、
前記タグリーダは、
前記無線タグに送信する通常質問信号または特別質問信号の何れか一方を指定する指定手段と、
前記指定手段の指定にしたがって第1の通信方式にて通常質問信号または特別質問信号を送信し、前記無線タグから送信された該第1の通信方式による第1の応答信号を受信する第1のリーダ通信部と、
前記無線タグから送信された第2の通信方式による第2の応答信号を受信する第2のリーダ通信部とを有し、
前記無線タグは、
バッテリと、
前記タグリーダから送信された前記通常質問信号または前記特別質問信号を受信し、前記特別質問信号を受信した場合に当該特別質問信号から生成した電圧を使用して、前記第1の通信方式による前記第1の応答信号を送信する第1のタグ通信部と、
前記第1のタグ通信部が前記通常質問信号を受信した場合に前記バッテリの供給電圧を使用して、前記第2の通信方式による前記第2の応答信号を送信する第2のタグ通信部とを有する、
ことを特徴とする複合無線通信システム。
【請求項2】
前記タグリーダの指定手段は、常時は前記通常質問信号を指定し、前記タグリーダに設けられた操作部を介して所定の操作が行われたことを検知したとき前記特別質問信号を指定する、請求項1に記載の複合無線通信システム。
【請求項3】
前記第1のリーダ通信部は、前記特別質問信号に含まれるプリアンブル部を、前記通常質問信号に含まれるプリアンブル部よりも長くする、請求項1または2に記載の複合無線通信システム。
【請求項4】
前記第2の通信方式は、前記第1の通信方式よりも低消費電力で広い通信可能範囲を得られる通信方式である、請求項1〜3の何れか一項に記載の複合無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−217380(P2009−217380A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58430(P2008−58430)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】