説明

複合粒子、タバコフィルター及びその製造方法並びにタバコ

【課題】ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類を選択的に効率よく除去できる酢酸セルロース粒子を提供する。
【解決手段】酢酸セルロースとアミノ酸類及びアミノスルホン酸類からなる群から選択された少なくとも一種のアミノ化合物(特に塩基性アミノ酸類)とを含む複合粒子を調製する。前記アミノ化合物は酢酸セルロース粒子に担持されていてもよい。本発明の複合粒子は、JIS Z8801−1 2006に準拠した篩を用いて、90重量%以上の粒子が目開き1.7mmを通過し、目開き0.10mmを通過しない粒度を有する粒子であってもよい。前記アミノ化合物の割合は、酢酸セルロース100重量部に対して1〜30重量部程度である。前記複合粒子と、セルロースエステルトウとを組み合わせてタバコフィルターを調製してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択的に効率よく除去できる複合粒子、この複合粒子を含むタバコフィルター及びその製造方法、並びに前記タバコフィルターを備えたタバコに関する。
【背景技術】
【0002】
タバコ業界では、近年のタバコに対する健康問題から、タバコ煙中の有害成分を除去する技術が求められている。タバコ煙中には種々の有害成分が含まれている。なかでもホルムアルデヒドなどのアルデヒド類は、刺激臭を有するだけでなく、アレルゲンとしても問題視されているが、汎用されているタバコフィルターでは吸着除去が困難であった。有害物質の吸着には従来から活性炭が汎用されており、例えば、特表2009−519034号公報(特許文献1)には、唇側端部と、活性炭と、この活性炭と前記唇側端部の間に位置する重炭酸ナトリウム処理繊維とを含むシガレットフィルターが開示されている。
【0003】
しかし、活性炭に代表される物理吸着ではタバコ成分中の喫味成分まで除去される。すなわち、ニコチンやタール及びその他の香味成分まで除去されるため、タバコ煙の喫味が変わり、喫煙の満足感が阻害される。そのため、タバコ主流煙中からアルデヒド類を選択的に吸着できる方法が望まれている。
【0004】
これに対して、特許第3895327号公報(特許文献2)には、主煙中のホルムアルデヒドを選択的に除去できるタバコとして、タバコロッドと、このタバコロッドに接続されたハイドロタルサイト類化合物48.3〜146.7mgを含むシガレットが開示されている。この文献では、平均粒径10μm以下のハイドロタルサイト類化合物の粒子を加えて抄紙したペーパーシートを成形してシガレットを製造している。
【0005】
しかし、このシガレットでは、粒状のハイドロタルサイト類化合物が脱離し、飛散し易い。
【0006】
一方、有機成分を利用して有害成分を除去する方法として、WO2009/031248号公報(特許文献3)には、アミノ酸類及びアミノスルホン酸類から選択された少なくとも1種のアミノ化合物とシリカゲルとで構成されている組成物及びこの組成物で構成されたタバコフィルターが開示されている。この文献では、分割したフィルター間の空隙に、前記フィルター素材を充填するトリプレット構造によって、フィルターが製造されている。
【0007】
しかし、この組成物では、シリカゲルを用いるため、タバコの喫味が大きく変化する。また、酢酸セルローストウで構成されたフィルターにおいてトリアセチンなどの可塑剤を使用すると、ホルムアルデヒドの吸着能が低下する。さらに、フィルターがトリプレット構造で形成されているため、破損した場合には粒状多孔質体が飛散して目や肺に入る危険性を有するとともに、トリプレット構造では、フィルターの硬度を向上できない。
【0008】
特開2007−319041号公報(特許文献4)には、フィラメントの集合体からなる担体の少なくとも一部がアミノ酸又はその塩で被覆処理されているタバコフィルター用素材が開示されている。この文献では、担体をアミノ酸又はその塩と極性溶媒とを少なくとも含む溶液で処理して前記タバコフィルター用素材を製造している。
【0009】
しかし、このタバコフィルター用素材では、アミノ酸又はその塩を保持する担体がトウの形態であるため、タバコフィルターへの加工方法が限定される。
【0010】
特開平10−215844号公報(特許文献5)には、フィルター成分で構成されたトウと、このトウに含有され、かつ前記フィルター成分を接合する繊維状水溶性樹脂とで構成されているタバコフィルターが開示されている。この文献には、フィルター成分は、粉粒状又は繊維状の形態であり、粉粒状フィルター成分は、トウを形成するため、繊維状フィルター成分と組み合わせて使用されると記載されている。
【0011】
しかし、このタバコフィルターでは、ホルムアルデヒドを十分に低減できない。さらに、粉粒状フィルターと繊維状フィルターとの組み合わせの詳細は記載されておらず、実施例では酢酸セルローストウに対して水溶性ホットメルト樹脂が添加されている。
【0012】
特許第3905886号公報(特許文献6)には、リジン、ヒスチジン、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシジン及びこれらの塩からなる群より選択される塩基性アミノ酸又はその塩を1本当り1〜27.6mg含有するタバコが開示されている。この文献では、前記塩基性アミノ酸又はその塩が水溶液としてフィルターに添加されている。
【0013】
しかし、このタバコでは、液状物質をフィルターに添加し、水分を含んでいるため、タバコの保管中に飛散したり、タバコの葉に液状物質が移行して染みができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2009−519034号公報(請求項1)
【特許文献2】特許第3895327号公報(特許請求の範囲、背景技術)
【特許文献3】WO2009/031248号公報(請求の範囲、段落[0054]、実施例)
【特許文献4】特開2007−319041号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平10−215844号公報(請求項1、段落[0009][0014]、実施例)
【特許文献6】特許第3905886号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類を選択的に効率よく除去できる粒子、この粒子を含むタバコフィルター及びその製造方法、並びに前記タバコフィルターを備えたタバコを提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、ホルムアルデヒド吸着能を低下することなく、可塑剤とともにセルロースエステルトウに配合できる粒子、この粒子を含むタバコフィルター及びその製造方法、並びに前記タバコフィルターを備えたタバコを提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、適度な通気抵抗(圧力損失)を保持しつつ、高い硬度を有するタバコフィルター及びその製造方法、並びに前記タバコフィルターを備えたタバコを提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、多量の粒子を含むにも拘わらず、粒子の脱離を抑制できるタバコフィルター及びその製造方法、並びに前記タバコフィルターを備えたタバコを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、酢酸セルロース粒子に特定のアミノ化合物を担持させることにより、ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類を選択的に効率よく除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明の複合粒子は、酢酸セルロースとアミノ酸類及びアミノスルホン酸類からなる群から選択された少なくとも一種のアミノ化合物とを含む。前記アミノ化合物は酢酸セルロース粒子の少なくとも表面に担持されていてもよい。前記アミノ化合物が複数のアミノ基を有するアミノ酸類であってもよい。本発明の複合粒子は、JIS Z8801−1 2006に準拠した篩を用いて、90重量%以上の粒子が目開き1.7mmを通過し、目開き0.10mmを通過しない粒度であってもよい。本発明の複合粒子は、BET比表面積が0.1〜100m/gであり、かつ嵩比重が0.1〜0.6であってもよい。前記酢酸セルロースの酢化度が40〜62.5%であってもよい。前記アミノ化合物の割合は、酢酸セルロース100重量部に対して1〜30重量部程度である。本発明の複合粒子は、キトサン又はその塩を実質的に含有しなくてもよい。
【0021】
本発明には、前記複合粒子と、セルロースエステルトウとを含むタバコフィルターも含まれる。本発明の複合粒子は、セルロースエステルトウ中に前記複合粒子が分散していてもよい。本発明の複合粒子は、さらにセルロースエステルトウ100重量部に対して1〜10重量部の可塑剤を含み、複合粒子が前記可塑剤でセルロースエステルトウに固定化されていてもよい。前記可塑剤がアセチン類であってもよい。前記セルロースエステルトウは、平均繊度10000〜50000デニール及び単繊維の平均繊度1〜10デニールの酢酸セルローストウであってもよい。前記複合粒子の割合は、セルロースエステルトウ100重量部に対して100〜500重量部程度である。本発明のタバコフィルターは、セルロースエステルトウ中に複合粒子が分散した構造であるとともに、300gの荷重を作用させたときの厚み保持率(フィルター硬度)が90%以上であり、かつ長さ100mm及び直径8mmのフィルターロッドにおける空気流速17.5ml/秒での通気抵抗が1500mmWG以下であってもよい。
【0022】
本発明には、前記複合粒子と、セルロースエステルトウとを組み合わせてタバコフィルターを製造する方法も含まれる。本発明の方法では、開繊したセルロースエステルトウに複合粒子を添加してもよい。さらに、予備開繊したセルロースエステルトウに複合粒子を添加した後、前記セルロースエステルトウを空気流でさらに開繊してもよい。
【0023】
本発明には、前記タバコフィルターを備えたタバコも含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、複合粒子が酢酸セルロースと特定のアミノ化合物とを含むため、ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類を選択的に効率よく除去できる。また、ホルムアルデヒド吸着能を低下することなく、可塑剤とともにセルロースエステルトウに配合できる。さらに、前記複合粒子を含むタバコフィルターは、適度な通気抵抗(圧力損失)を保持しつつ、高い硬度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[複合粒子]
本発明の複合粒子は、酢酸セルロースと特定のアミノ化合物を含むことにより、セルロースエステルトウとの親和性に優れ、かつホルムアルデヒドなどのアルデヒド類を吸着できることを特徴とする。複合粒子の構造は、酢酸セルロースとアミノ化合物との混合物で構成された粒子であってもよく、アミノ化合物で構成された粒子に酢酸セルロースが担持した構造であってもよいが、ホルムアルデヒドの吸着性に優れる点から、粒子の少なくとも表面にアミノ化合物が存在する構造が好ましい。粒子の少なくとも表面にアミノ化合物が存在する構造としては、酢酸セルロース粒子の内部に存在するサブミクロン〜数十ミクロンの細孔の表面および酢酸セルロース粒子の表面の両方に担持されている構造が好ましい。
【0026】
(酢酸セルロース粒子)
酢酸セルロース粒子の粒度(原料基準)が、JIS Z8801−1 2006に準拠した篩を用いて1.7〜0.10mmである。すなわち、本発明の酢酸セルロース粒子は、全粒子のうち90重量%以上の粒子が目開き1.7mmの篩を通過するが、90重量%以上の粒子が0.10mmの篩を通過しない粒度を有する(ただし、ここで、全粒子のうち90重量%以上の粒子が目開き1.7mmの篩を通過するが、90重量%以上の粒子が0.10mmの篩を通過しない粒度を「1.7〜0.10mm」と表記した。以下、同様である)。さらに、本発明の酢酸セルロース粒子の前記粒度は1.0〜0.18mmが好ましく、1.0〜0.425mmが特に好ましい。粒度がこの範囲にあると、アルデヒド類の低減率が高い上に、大きな圧力損失の増大を伴わずに、フィルターの硬度を向上できる。
【0027】
酢酸セルロース粒子の平均粒径は、例えば、0.1〜1.5mm、好ましくは0.2〜1mm、さらに好ましくは0.4〜1mm程度である。
【0028】
酢酸セルロース粒子の形状は、例えば、球状、楕円体状、多角体形(多角錘状、正方体状、直方体状など)、板状又は鱗片状(フレーク状)、棒状、不定形などが挙げられるが、フレーク状が汎用される。さらに、酢酸セルロース粒子は、多孔質体(例えば、サブミクロン〜数十ミクロンオーダーの多数の細孔を有する多孔体)であってもよい。
【0029】
酢酸セルロース粒子のBET法で測定した比表面積(BET比表面積)は、0.1〜100m/g程度の範囲から選択でき、ホルムアルデヒドの吸着性が高く、かつアミノ化合物の担持量を向上できる点から、例えば、1〜50m/g、好ましくは3〜30m/g、さらに好ましくは5〜20m/g(特に8〜15m/g)程度であってもよい。
【0030】
酢酸セルロース粒子の嵩比重は、例えば、0.1〜0.6g/cm、好ましくは0.2〜0.55g/cm、さらに好ましくは0.3〜0.5g/cm程度であってもよい。嵩比重がこの範囲にあると、充填時の取り扱いに優れ、充填重量も増加できる。
【0031】
酢酸セルロースの酢化度は、アミノ化合物(特にアミノ酸類)の担持性やホルムアルデヒドの吸着性などの観点から、40〜62.5%程度の範囲から選択でき、例えば、45〜60%、好ましくは50〜58%、さらに好ましくは51〜56%(特に54〜56%)程度であってもよい。
【0032】
本発明では、アミノ化合物の担持量を向上させるために、酢酸セルロース粒子の比表面積を前記範囲に調整するのが好ましいが、比較的大きい比表面積の粒子を得る場合には、嵩比重が小さく、前記範囲の嵩比重に調整するのは困難である。比表面積及び嵩比重が前記範囲の酢酸セルロースエステル粒子を調製するためには、例えば、前記範囲の酢化度を有する原料を用いるとともに、製造条件において、沈殿溶媒である酢酸水溶液の酢酸濃度や温度を制御するとともに、無機塩類を介在させてもよい。
【0033】
酢酸セルロースの重合度(粘度平均重合度)は、通常10〜1000(例えば50〜1000)、好ましくは50〜900(例えば100〜800)、さらに好ましくは200〜800程度であってもよい。
【0034】
(アミノ化合物)
アミノ化合物としては、アミノ酸類及びアミノスルホン酸類からなる群から選択された少なくとも一種が用いられる。
【0035】
アミノ酸類は、中性アミノ酸(モノアミノカルボン酸など)、酸性アミノ酸(モノアミノジカルボン酸など)、塩基性アミノ酸(ジアミノカルボン酸など)のいずれであってもよく、含硫アミノ酸であってもよい。
【0036】
アミノ酸類は、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸(特にα−アミノ酸)のいずれであってもよい。また、アミノ酸類は、光学活性体(D体、L体など)、ラセミ体のいずれであってもよい。
【0037】
アミノ酸類は、重合していてもよく、例えば、低重合度(例えば、重合度2〜9、好ましくは2〜5、さらに好ましくは2〜3程度)のポリ又はオリゴアミノ酸であってもよい。
【0038】
アミノ酸類は、置換基を有していてもよく、カルボキシル又はアミノ基の少なくとも一部が、誘導体化されたアミノ酸(例えば、カルボキシル基が誘導体化されたアミド基を有するアミノ酸など)であってもよい。
【0039】
アミノ酸類の具体例としては、例えば、脂肪族アミノ酸[例えば、グリシン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、トレオニン、セリン、アスパラギン、アミノスクシン酸、システイン、メチオニン、グルタミン、グルタミン酸などの脂肪族モノアミノカルボン酸(例えば、アミノC2−20アルカンカルボン酸、好ましくはアミノC2−12アルカンカルボン酸、さらに好ましくはアミノC2−8アルカンカルボン酸)、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、シスチン、ヒスチジンなどの脂肪族ポリアミノカルボン酸(例えば、ポリアミノC2−20アルカンカルボン酸、好ましくはジ乃至テトラアミノC2−12アルカンカルボン酸、さらに好ましくはジ又はトリアミノC2−8アルカンカルボン酸)など]、芳香族アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、チロシンなどのアリールアルカンカルボン酸など)、複素環式アミノ酸(例えば、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、4−ヒドロキシプロリンなど)、これらのアミノ酸が重合したポリ又はオリゴペプチドなどが挙げられる。また、アミノ酸類は、塩の形態であってもよく、例えば、アルカリ塩[金属塩(例えば、アルカリ金属塩(例えば、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸水素ナトリウムなどのナトリウム塩)、アンモニウム塩、アミン塩など]、酸塩[塩酸塩(例えば、アルギニン塩酸塩など)、アミノ酸同士の塩(例えば、リシンとグルタミン酸との塩など)など]などが挙げられる。さらに、アミノ酸類は、水和物であってもよい。これらのアミノ酸類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
アミノスルホン酸としては、例えば、前記アミノカルボン酸に対応する脂肪族アミノスルホン酸(例えば、タウリンなどのアミノC2−12アルカンスルホン酸など)、芳香族アミノスルホン酸(例えば、アミノベンゼンスルホン酸など)などが挙げられる。アミノスルホン酸も、アミノ酸類と同様に、光学活性体、ラセミ体のいずれでもよい。また、重合物であってもよく、置換基を有していてもよい。さらに、アミノスルホン酸類も、アミノ酸類と同様の塩の形態であってもよい。
【0041】
これらのアミノ化合物のうち、ホルムアルデヒドの吸着性などの点から、複数のアミノ基を有するアミノ酸類(例えば、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、シスチン、ヒスチジンなどのジ乃至テトラアミノC2−12アルカンカルボン酸)が好ましく、リシン、アルギニンなどの塩基性ジ乃至トリアミノC2−6アルカンカルボン酸が特に好ましい。
【0042】
アミノ化合物の割合は、酢酸セルロース(酢酸セルロース粒子)100重量部に対して、複合粒子の構造に応じて0.1〜100重量部程度の範囲から選択できるが、酢酸セルロース粒子にアミノ化合物を担持させる場合、例えば、1〜30重量部、好ましくは2〜25重量部、さらに好ましくは3〜20重量部(特に5〜15重量部)程度である。酢酸セルロース粒子にアミノ化合物が担持している場合、担持形態は特に限定されないが、ホルムアルデヒド吸着性の点から、酢酸セルロース粒子の少なくとも表面に担持しているのが好ましく、酢酸セルロース粒子の内部に存在するサブミクロン〜数十ミクロンの細孔の表面および酢酸セルロース粒子の表面の両方に担持されている構造がより好ましい。酢酸セルロース粒子の表面と細孔表面にアミノ化合物が略均一に分散して担持されているのが特に好ましい。さらに、酢酸セルロース粒子とアミノ化合物とは化学的な結合(例えば、酢酸セルロースのヒドロキシル基と、アミノ化合物のカルボキシル基又はスルホン酸基との反応による結合)を介して担持されていてもよい。
【0043】
[複合粒子の製造方法]
複合粒子の製造方法は、複合粒子の構造に応じて選択できるが、酢酸セルロース粒子の少なくとも表面にアミノ化合物を担持させる場合、アミノ化合物を溶媒に溶解又は分散した液状組成物に酢酸セルロース粒子を添加してアミノ化合物を担持する方法であってもよい。
【0044】
溶媒としては、アミノ化合物を溶解又は分散可能であれば特に限定されないが、アミノ酸類の場合、例えば、水や低級アルコールなどの水性溶媒が好ましく、水が汎用される。溶媒の使用量は、特に限定されないが、アミノ化合物100重量部に対して10重量部以上、例えば、50〜1000重量部、好ましくは80〜500重量部、さらに好ましくは100〜300重量部(特に120〜200重量部)程度である。溶解又は分散に際しては、50℃以上(例えば、60〜100℃程度)に加熱して攪拌してもよい。
【0045】
液状組成物に酢酸セルロース粒子を添加する方法では、液状組成物に酢酸セルロース粒子を浸漬して酢酸セルロース粒子に液状組成物を含浸させる方法であってもよいが、アミノ化合物を均一に担持させる観点から、液状組成物に酢酸セルロース粒子を添加後に振とうする方法や攪拌する方法が好ましい。さらに、溶媒を揮発させるとともに、アミノ化合物の担持を強固にするため、加熱して乾燥してもよい。加熱温度は、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃程度である。
【0046】
[タバコフィルター]
本発明の複合粒子は、タバコフィルターを構成するのに有用であり、前記複合粒子とセルロースエステルトウとを含んでいればよい。
【0047】
(セルロースエステルトウ)
セルロースエステルトウは、セルロースエステル繊維で形成され、かつトウ構造又はフィルターロッド構造を有する繊維束であり、詳しくは、セルロースエステルで構成されたモノフィラメントが集束した構造(実質的に無限長の連続長さを持ったマルチフィラメント構造)を有する繊維束である。具体的には、セルロースエステルトウは、例えば、3,000〜1,000,000本、好ましくは3,000〜100,000本、さらに好ましくは5,000〜100,000本程度の単繊維(モノフィラメント)を束ねる(集束する)ことにより形成されている。
【0048】
セルロースエステルトウの平均繊度(トータルデニール)は、例えば、10000〜50000デニール、好ましくは20000〜48000デニール、さらに好ましくは25000〜45000デニール(特に30000〜43000デニール)程度である。
【0049】
セルロースエステルトウを構成する単繊維(モノフィラメント)の平均繊度は、例えば、1〜10デニール、好ましくは1.2〜8デニール、さらに好ましくは1.5〜5デニール(特に1.8〜3デニール)程度である。単繊維の平均繊維長は、0.1mm〜5cm程度の範囲から選択でき、例えば、0.5〜30mm、好ましくは1〜20mm、さらに好ましくは3〜15mm(特に5〜10mm)程度である。
【0050】
単繊維の断面形状は、特に制限されず、例えば、異形(例えば、Y字状、X字状、I字状、R字状、H字状など)や中空状などのいずれであってもよいが、Y字状、X字状、I字状、R字状、H字状などの多角形の異形繊維断面が好ましい。なお、単繊維は、捲縮繊維が好ましい。
【0051】
セルロースエステル繊維を構成するセルロースエステルは、通常、セルロースアセテートである。但し、本発明の目的を損なわない範囲でセルロースエステルとして炭素数2〜4程度の他の有機酸との混合エステルを少量含有してもよい。このようなセルロースエステルには、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが含まれる。
【0052】
また、セルロースエステル(特にセルロースアセテート)の置換度(平均置換度)は、例えば、1〜3(例えば、1〜2.9)程度の範囲から選択でき、好ましくは1.5〜2.7、さらに好ましくは2.2〜2.6程度であってもよい。
【0053】
複合粒子の割合は、セルロースエステルトウ100重量部に対して10〜1000重量部程度の範囲から選択でき、例えば、20〜500重量部(特に30〜400重量部)程度であってもよい。
【0054】
(可塑剤)
本発明では、可塑剤は、セルロースエステルトウの成形性を向上させるだけでなく、前記酢酸セルロース粒子を均一に分散させるとともに、可塑化されたトウに酢酸セルロース粒子が付着するためか、酢酸セルロース粒子をセルロースエステルトウに固定化する役割も有している。
【0055】
可塑剤としては、例えば、セルロースエステルのエステル基(例えば、アセチル基)と親和性の高い化合物が好ましく、例えば、ポリオールの脂肪酸エステルやエステルオリゴマーなどを利用できる。可塑剤の具体例としては、例えば、ポリオールの低級脂肪酸(例えば、酢酸などのC1−4アルカンカルボン酸)エステル(例えば、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチンなどのC3−6アルカントリオール−モノ乃至トリC1−4アシレート、好ましくはグリセリンモノ乃至トリC2−3アシレートなど)、ポリオールオリゴマーの低級脂肪酸エステル(例えば、ジグリセリンテトラアセテートなどのジC3−6アルカントリオール−モノ乃至テトラC1−4アシレートなど)などが挙げられる。これらの可塑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0056】
これらの可塑剤のうち、セルロースエステルトウの成形性を向上できる上に、酢酸セルロース粒子との親和性にも優れる点から、アセチン類(例えば、ジアセチン、トリアセチンなどのグリセリンジ又はトリアセテート)、特にトリアセチンが好ましい。アセチン類などの可塑剤を用いると、従来の可塑剤の役割(トウの成形性)だけでなく、酢酸セルロース粒子をトウ中に均一に分散できるとともに、可塑剤を介して酢酸セルロース粒子をセルロースエステルトウに固定化できる。
【0057】
可塑剤の割合は、セルロースエステルトウ100重量部に対して、例えば、0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは2〜8重量部(特に5〜7重量部)程度である。
【0058】
(タバコフィルターの構造及び特性)
タバコフィルターの構造は、慣用のフィルター構造、例えば、セルロースエステルトウで構成されたフィルターを複数に分割[例えば、2分割(デュアル)や3分割(トリプル)などに分割]した隙間に複合粒子を充填する構造(トリプレット構造)や、セルロースエステルトウ中に複合粒子が分散した構造(ダルメシアン構造)などであってもよい。これらの構造のうち、破損しても粒子の飛散を抑制できるとともに、フィルター硬度も向上できる点などから、ダルメシアン構造が好ましい。
【0059】
ダルメシアン構造において、複合粒子の分散形態は、特に限定されず、例えば、芯部(コア部)に複合粒子が高濃度で存在する形態であってもよいが、フィルター特性などの点から、トウ中に略均一に複合粒子が分散する形態が好ましい。
【0060】
ダルメシアン構造のタバコフィルターのBET比表面積は、例えば、0.5〜10m/g、好ましくは1〜9.8m/g、さらに好ましくは2〜9.5m/g(特に5〜9.5m/g)程度であってもよい。本発明では、複合粒子を高濃度で含有できるため、フィルターの比表面積も向上でき、フィルター特性に優れている。
【0061】
ダルメシアン構造のタバコフィルターは、トウ内に複合粒子を含むため、フィルター硬度も高く、300gの荷重を作用させたときの厚み保持率が88%以上であり、例えば、90%以上(例えば、90〜99.5%)、好ましくは91〜99%、さらに好ましくは92〜98%(特に93〜97%)程度である。本発明では、セルロースエステルトウ100重量部に対して100重量部以上(特に200重量部以上)の複合粒子を含有させることにより、フィルター硬度は93〜97%(特に94〜96%)程度にも調整できる。
【0062】
ダルメシアン構造のタバコフィルターは、前述のような高いフィルター硬度を有するとともに、圧力損失も適度であり、長さ100mm及び直径8mmのフィルターロッドにおける空気流速17.5ml/秒での通気抵抗(圧力損失)が1500mmWG(ウォーターゲージ)以下である。前記通気抵抗は1000mmWGであってもよく、例えば、250〜1000mmWG、好ましくは300〜900mmWG、さらに好ましくは350〜800mmWG(特に380〜600mmWG)程度である。本発明では、酢酸セルロース粒子を多量に配合して硬度を向上させた場合でも、通気抵抗の極端な増大が抑えられ、適度な圧力損失のフィルターを調製できる。
【0063】
本発明のタバコフィルターは、ホルムアルデヒドの選択的な除去効率にも優れており、例えば、ホルムアルデヒド低減率は、90%以下の範囲から選択でき、例えば3〜80%、好ましくは5〜70%、さらに好ましくは10〜65%(特に20〜60%)程度である。
【0064】
一方、本発明のタバコフィルターのニコチン及びタールの低減率は、それぞれ、40%以下、好ましくは0〜35%、さらに好ましくは1〜25%(特に2〜15%)程度である。
【0065】
なお、これらの低減率は、複合粒子を含まないタバコフィルターに対する相対値であり、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0066】
タバコフィルターには、慣用の添加剤、例えば、他の吸着剤(ポリフェノール類、高級脂肪酸エステル、キトサン又はその塩、香料などの有機系吸着剤、活性炭などの無機系吸着剤など)、無機粒子(カオリン、タルク、ゼオライト、ケイソウ土、シリカゲル、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、ジルコニアなど)、保湿剤(エチレングリコールやプロピレングリコールなどのアルカンジオール、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、グリセリンやトリメチロールプロパンなどのアルカントリオールなど)、短繊維(セルロースエステル繊維、セルロース繊維など)、有機粒子(合成樹脂粒子、木屑など)、蛋白質(ゼラチン、カゼインなど)、熱安定化剤(アルカリ又はアルカリ土類金属の塩など)、着色剤、白色度改善剤、油剤、歩留まり向上剤、サイズ剤、天然高分子又はその誘導体(セルロース粉末など)などを含んでいてもよい。慣用の添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、セルロースエステルトウ100重量部に対して、例えば、10重量部以下、好ましくは5重量部以下(例えば、0.01〜5重量部)程度の割合で含まれていてもよい。
【0067】
本発明のタバコフィルターは、有害成分の除去率をさらに向上させるため、慣用の吸着剤、キトサン又はその塩や香料などを含有してもよいが、アミノ化合物が担持された複合粒子を含み、アルデヒド類などの有害成分を効率的に除去できるため、キトサン又はその塩などの吸着物質を実質的に含んでいなくてもよい。
【0068】
本発明のタバコは、このような特性を有するタバコフィルターを備えている。タバコフィルターの配設部位は特に制限されないが、巻紙により、棒状に成形されたタバコにおいては、口元の部位、又は口元と紙巻きタバコとの間に配設する場合が多い。なお、タバコの断面外周は、前記フィルターの断面外周に対応している場合が多く、通常、15〜30mm、好ましくは17〜27mm程度であってもよい。
【0069】
[タバコフィルターの製造方法]
本発明のタバコフィルターは、慣用の紡糸方法(乾式、溶融又は湿式紡糸方法)により得られたセルロースエステルトウと、複合粒子(及び必要に応じてアセチン類などの可塑剤)とを用いて、フィルターの構造に応じて慣用の方法により成形できる。
【0070】
具体的には、トリプレット構造のタバコフィルターでは、タバコフィルターの既存の製造装置を用いて、セルロースエステルトウベール(集積梱包材)を開繊し、可塑剤の添加装置で可塑剤を添加し、所定の直径に集束し、巻紙で固定させるプラグ巻上げ機を用いてフィルタープラグ(集束体)を成形した後、フィルタープラグの空間に複合粒子を充填してもよい。
【0071】
一方、ダルメシアン構造のタバコフィルターでは、タバコフィルターの既存の製造装置を用いて、セルロースエステルトウベールを開繊し、可塑剤の添加装置で可塑剤を添加し、さらに活性炭の添加装置(チャコール添加機構)を利用して複合粒子を添加した後、所定の直径に集束し、巻紙で固定させるプラグ巻上げ機を用いてフィルタープラグを成形してもよい。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、シガレットサンプルは以下の方法で作製し、各特性(粒度、通気抵抗、ホルムアルデヒド低減量、フィルター硬度)は以下の方法で測定した。
【0073】
[粒度]
JIS Z 8801−1 2006に準拠した篩を用いて、90重量%以上の粒子が通過する目開きを粒度の上限とし、90重量%以上の粒子が通過しない目開きを粒度の下限として表示した。
【0074】
[通気抵抗]
実施例及び比較例で得られた長さ100mmのフィルターロッドと、長さ20mmのフィルターを装着したシガレットサンプルとについて、通気抵抗として、自動通気抵抗測定器(イギリス・セルリーン(CERULEAN)社製「QTM−6」)を用いて、空気流速17.5ml/秒の条件で圧力損失(mmWG)を測定した。なお、シガレットサンプルについては、この装置の自動システムにかからないので、1個づつ手動で測定した。
【0075】
[ホルムアルデヒドの低減率]
タバコサンプルを用い、ピストンタイプの定容量型自動喫煙器(ボルグワルド社製「RM20/CS」)により、流量17.5ml/秒で喫煙時間2秒/回、喫煙頻度1回/分の条件で喫煙を行った。タバコサンプルを通過した煙中のホルムアルデヒドは、DNPH(ジニトロフェニルヒドラジン)溶液で捕集し、DNPHで誘導体化した上でガスクロマトグラフ((株)日立製作所製「G−3000」)を用いてUV(紫外線)の吸光度を用い測定した。
【0076】
レファレンスタバコで捕集されたホルムアルデヒド量をTとし、実施例又は比較例で捕集したホルムアルデヒド量をCとして次式によりホルムアルデヒド低減率を算出した。ホルムアルデヒドの低減率は、大きい方がホルムアルデヒドの吸着性能が優れていることを示している。
【0077】
ホルムアルデヒド低減率(%)=100×(1−C/T)
【0078】
[フィルター硬度(厚み保持率)]
実施例及び比較例で作製した長さ100mmのフィルターロッドについて、硬度計(フィルトローナ社製「QTM7」)を用いて、フィルター硬度を測定した。詳しくは、フィルター硬度(%)は、水平な面にフィルターロッドを寝かせて置き、水平面と平行な板でフィルターロッドを上から押さえつけることにより、フィルターロッド側面に垂直に300gの荷重を作用させたときに、荷重によって変形後の荷重方向の直径をd、変形前の直径をdとして、次式で算出した。すなわち、全く変形しなければ硬度は100%となり、硬度が100%に近いほど硬いことを意味する。
【0079】
フィルター硬度(%)=d/d×100
【0080】
実施例1
(複合粒子の作製)
酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製「L−40」、酢化度55.6%)を篩分けで分級し、粒度「1.0mm〜0.425mm」の酢酸セルロース粒子Aを得た。酢酸セルロース粒子Aの嵩比重は0.40、BET比表面積は10.8m/gであった。一方、密閉できる容器に、L(+)−アルギニン(和光純薬試薬特級)16重量部及び水25重量部を入れ、80℃に加温して攪拌、溶解して、アルギニン水溶液を作製した。この水溶液に、酢酸セルロース粒子A100重量部を投入し、密閉して、アルギニン水溶液が酢酸セルロース粒子Aに吸収され均一になるまで容器ごと振り混ぜた。その後、容器の蓋を開放して、熱風乾燥機を用いて105℃で乾燥し、アルギニンと酢酸セルロースの複合粒子Arg-Aを得た。なお、複合粒子Arg-Aには約16重量部のアルギニンが含まれている。
【0081】
(トリプレット構造(空隙充填法)のタバコサンプルの作製)
市販のタバコ[日本たばこ産業(株)製「ピース・ライト・ボックス」(登録商標第2122839号)]のセルロースジアセテート捲縮繊維トウのフィルター本体(25mm)の末端から14mmの部分をカミソリで切断した。長片(すなわち、タバコ葉充填片)側のフィルター部にガラス管(長さ20mm、内径8mm)を、長片の残存フィルター長に相当する長さ(11mm)だけ(タバコ葉充填の端部まで)挿入し、これらをシーリングテープにて結束した。このガラス管の挿入によって突出した長さ9mmのガラス管の空間に、得られた複合粒子100mgを充填した。次に、先に切断した短片(すなわち、長さ14mmのフィルター部)を用いてガラス管の開放端に栓をした。そして、このガラス管とフィルターの接続部分にもシーリングテープを巻いて密閉し、喫煙試験用のタバコサンプルを得た。従って、セルロースジアセテート捲縮繊維トウのフィルターの長さは25mmとなる。また、フィルター間の延長された部分には煙草一本当たり100mgの複合体が充填されている。また、複合粒子を充填しない以外は同様にしてレファレンスタバコを得た。これらのタバコサンプルの通気抵抗を測定し、ホルムアルデヒドの低減率を評価した。
【0082】
(ダルメシアン構造のタバコサンプルの作製)
タバコ煙用チャコールフィルター製造用巻上げ機(ドイツ・ハウニ社製「KDF2/AC1/AF1」)を用いて、断面Y字状のフィラメント(3.0デニール)で構成されたセルロースアセテート繊維のトウ(トータルデニール37000)を幅約25cmに開繊し、チャコール添加機構を利用して、開繊したトウ100重量部に対して、得られた複合粒子100重量部をフィルター巻上げ時に均一に散布し、紙巻装置に供給し、巻取紙を用いてトウを巻上げ速度400m/分で巻上げ、フィルターロッドを得た。得られたフィルターロッドをカッターで長さ100mmに切断した。得られたフィルターをさらに長さ20mmに切断し、フィルターサンプルを作製した。
【0083】
市販のタバコ(ピース・ライト・ボックス)のセルロースジアセテート捲縮繊維トウのフィルター本体(25mm)の末端から20mmの部分をカミソリで切断した。長片(すなわち、タバコ葉充填片)側のフィルター部に、ガラス管(長さ20mm、内径8mm)を長片の残存フィルター長に相当する長さ(5mm)だけ(タバコ葉充填の端部まで)挿入し、これらをシールテープで結束した。さらに、このガラス管の挿入によって突出した長さ15mmのガラス管の空間に上記フィルターサンプル(長さ20mm)をガラス管内の空間に相当する長さ(15mm)だけ挿入し、これらをシーリングテープにて結束し、タバコサンプルを作製した。また、フィルターサンプルの代わりに切り取った20mmのフィルター部分を再び装着する以外は同様にしてレファレンスタバコを得た。これらのタバコサンプルの通気抵抗を測定し、ホルムアルデヒドの低減率を評価した。
【0084】
実施例2
アミノ酸として、グリシン(和光純薬試薬特級)を用いる以外は実施例1と同様にして、グリシンと酢酸セルロースの複合粒子Gly-Aを得た。得られた複合粒子を用いて実施例1と同様にしてトリプレット構造及びダルメシアン構造のタバコサンプルを作製し、各種特性を評価した。
【0085】
実施例3
アミノ酸として、L(+)−グルタミン酸水素ナトリウム一水和物(和光純薬試薬特級)を用いる以外は実施例1と同様にして、グリシンと酢酸セルロースの複合粒子NaGlu-Aを得た。得られた複合粒子を用いて実施例1と同様にしてトリプレット構造及びダルメシアン構造のタバコサンプルを作製し、各種特性を評価した。
【0086】
実施例4
酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製「LM−80」、酢化度52.0%)を篩分けで分級し、粒度「1.0mm〜0.425mm」の酢酸セルロース粒子Bを得た。酢酸セルロース粒子Bの嵩比重は0.29、BET比表面積は2.5m/gであった。酢酸セルロース粒子Aの代わりに酢酸セルロース粒子Bを用いる以外は実施例1と同様にしてアルギニンと酢酸セルロースの複合粒子Arg-Bを得た。得られた複合粒子を用いて実施例1と同様にしてトリプレット構造及びダルメシアン構造のタバコサンプルを作製し、各種特性を評価した。
【0087】
実施例5
アミノ酸として、グリシン(和光純薬試薬特級)を用いる以外は実施例4と同様にして、グリシンと酢酸セルロースの複合粒子Gly-Bを得た。得られた複合粒子を用いて実施例1と同様にしてトリプレット構造及びダルメシアン構造のタバコサンプルを作製し、各種特性を評価した。
【0088】
実施例6
アミノ酸として、L(+)−グルタミン酸水素ナトリウム一水和物(和光純薬試薬特級)を用いる以外は実施例4と同様にして、L(+)−グルタミン酸水素ナトリウムと酢酸セルロースの粒状複合体NaGlu-Bを得た。得られた複合粒子を用いて実施例1と同様にしてトリプレット構造及びダルメシアン構造のタバコサンプルを作製し、各種特性を評価した。
【0089】
実施例7
(ダルメシアン構造のタバコサンプルの作製)
タバコ煙用チャコールフィルター製造用巻上げ機(ドイツ・ハウニ社製「KDF2/AC1/AF1」)を用いて、断面Y字状のフィラメント(2.2デニール)で構成されたセルロースアセテート繊維のトウ(トータルデニール40000)を幅約20cmに開繊し、開繊したトウ100重量部に対して6重量部のトリアセチンを均一に散布した後、チャコール添加機構を利用して、開繊したトウ100重量部に対して、実施例1で得られた複合粒子Arg-A100重量部をフィルター巻上げ時に均一に散布し、紙巻装置に供給し、巻取紙を用いてトウを巻上げ速度400m/分で巻上げ、フィルターロッドを得た。得られたフィルターロッドをカッターで長さ100mmに切断した。得られたフィルターをさらに長さ20mmに切断し、フィルターサンプルを作製した。このフィルターサンプルを用いて実施例1と同様にしてタバコサンプルを作製し、通気抵抗を測定し、ホルムアルデヒドの低減率を評価した。
【0090】
比較例1
複合粒子を添加しないこと以外は、実施例7と同様にしてダルメシアン構造のタバコサンプルを作製し、通気抵抗を測定し、ホルムアルデヒドの低減率を評価した。
【0091】
比較例2
WO2009/031248(特許文献3)の実施例17に記載の方法で、アルギニンとシリカゲルの複合粒子30ARG1000を調製した。すなわち、シリカゲル(富士シリシア(株)製、「MB1000相当破砕状品」、粒度14〜32メッシュ)5gをガラス容器に取り、このガラス容器にL一アルギニン(和光純薬(株)から市販されているL一アルギニン特級試薬)の3重量%水溶液5.3gを添加し、水溶液がシリカゲルに吸収され見かけ上均一な状態になるまで、ガラス棒で約5分間撹拌し、見かけ上均一な粒子状の含水混合組成物を得た。得られた含水混合組成物を真空乾燥機を用いて、室温で、重量変化がなくなるまで乾燥し、次いで、22℃、湿度60%の空調室に、重量変化がなくなるまで静置し、複合粒子30ARG1000を得た。得られた複合粒子30ARG1000を用いる以外は実施例7と同様にしてダルメシアン構造のタバコサンプルを作製し、通気抵抗を測定し、ホルムアルデヒドの低減率を評価した。
【0092】
実施例及び比較例で得られたタバコフィルターの評価結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1の結果から明らかなように、実施例のフィルターは、適度な通気抵抗を保持しつつ、高い硬度を有しており、ホルムアルデヒド低減率も高い。一方、複合粒子を配合しない比較例1では、ホルムアルデヒド低減率が低い。さらに、アルギニンとシリカゲルの複合粒子を用いた比較例2では、シリカゲルがトリアセチンの影響を受け、十分なホルムアルデヒドの低減効果が得られない。さらに、シリカゲルに対してトリアセチンは可塑効果がないため、フィルターから複合体粒子の脱落が多く認められた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のタバコフィルターは、紙巻きタバコなどのタバコフィルターとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸セルロースとアミノ酸類及びアミノスルホン酸類からなる群から選択された少なくとも一種のアミノ化合物とを含む複合粒子。
【請求項2】
アミノ化合物が酢酸セルロース粒子の少なくとも表面に担持された請求項1記載の複合粒子
【請求項3】
アミノ化合物が複数のアミノ基を有するアミノ酸類である請求項1又は2記載の複合粒子。
【請求項4】
JIS Z8801−1 2006に準拠した篩を用いて、90重量%以上の粒子が目開き1.7mmを通過し、目開き0.10mmを通過しない粒度を有する請求項1〜3のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項5】
BET比表面積が0.1〜100m/gであり、かつ嵩比重が0.1〜0.6である請求項1〜4のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項6】
酢酸セルロースの酢化度が40〜62.5%である請求項1〜5のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項7】
アミノ化合物の割合が、酢酸セルロース100重量部に対して1〜30重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項8】
キトサン又はその塩を実質的に含有しない請求項1〜7のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の複合粒子と、セルロースエステルトウとを含むタバコフィルター。
【請求項10】
セルロースエステルトウ中に前記複合粒子が分散している請求項9記載のタバコフィルター。
【請求項11】
さらにセルロースエステルトウ100重量部に対して1〜10重量部の可塑剤を含み、複合粒子が前記可塑剤でセルロースエステルトウに固定化されている請求項9又は10記載のタバコフィルター。
【請求項12】
可塑剤がアセチン類である請求項11記載のタバコフィルター。
【請求項13】
セルロースエステルトウが、平均繊度10000〜50000デニール及び単繊維の平均繊度1〜10デニールの酢酸セルローストウである請求項9〜12のいずれかに記載のタバコフィルター。
【請求項14】
複合粒子の割合が、セルロースエステルトウ100重量部に対して100〜500重量部である請求項9〜13のいずれかに記載のタバコフィルター。
【請求項15】
セルロースエステルトウ中に複合粒子が分散した構造であるとともに、300gの荷重を作用させたときの厚み保持率が90%以上であり、かつ長さ100mm及び直径8mmのフィルターロッドにおける空気流速17.5ml/秒での通気抵抗(圧力損失)が1500mmWG以下である請求項9〜14のいずれかに記載のタバコフィルター。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載の複合粒子と、セルロースエステルトウとを組み合わせてタバコフィルターを製造する方法。
【請求項17】
開繊したセルロースエステルトウに複合粒子を添加する請求項16記載の方法。
【請求項18】
予備開繊したセルロースエステルトウに複合粒子を添加した後、前記セルロースエステルトウを空気流でさらに開繊する請求項17又は18記載の方法。
【請求項19】
請求項9〜15のいずれかに記載のタバコフィルターを備えたタバコ。

【公開番号】特開2012−102250(P2012−102250A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252457(P2010−252457)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】