説明

複合粒子およびその製造方法

【課題】 生体関連の有用物質を効率よく吸着し、有用物質の送達(例えばDDS)・輸送・分離・分析等の操作性に優れた担体となりうる複合粒子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 平均短径が100nm以下、平均長径が500nm以下のリン酸カルシウム系化合物粒子、平均粒子径が5nm以上500nm以下の磁性粒子およびイオン架橋ゲルを含む複合粒子であって、該リン酸カルシウム系化合物粒子が該複合粒子に固定され、かつ、少なくともその一部が表面に露出して存在することを特徴とする複合粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム系化合物粒子および磁性粒子を含む複合粒子並びにその製造方法に関するものであり、特に生化学分野における担体および分離吸着剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
生化学分野において、抗体、抗原等の免疫物質、遺伝子物質(DNA、RNA、mRNA、オリゴヌクレオチド等)、蛋白質、ホルモン物質等の生体高分子、細菌、ウィルス、細胞等の生体、その他の医療薬品等の有用物質等の送達(例えば、DDS;ドラッグデリバリーシステム)・輸送・分離・検出等を行う場合、これら有用物質の吸着性能が高くかつ操作性の良い担体材料が求められている。従来、吸着性能の高い材料としてリン酸カルシウム系化合物が知られており、とりわけヒドロキシアパタイトの分離カラム充填材としての利用に関する報告(特許文献1参照)がなされているが、担体としての利用に関する開示はない。また、酵素デリバリーマトリックスとしてのリン酸カルシウム系化合物−アルギン酸複合粒子が非特許文献1で開示されているが、酵素はリン酸チタンカルシウムに予め吸着あるいはアルギン酸溶液に混合する必要があり、利用上制限される。また、このような担体では吸着後の分離回収に沈降法や遠心分離法の採用が必須であり迅速な操作ができないという欠点があった。
【0003】
【特許文献1】特公平7−104332
【非特許文献1】Biomaterials、Vol.25、No.18、pp.4363−4373(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は生体関連の有用物質を効率よく吸着し、有用物質の送達(例えばDDS)・輸送・分離・分析等の操作性に優れた担体となりうる複合粒子およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、以下の手段(1)によって解決された。好ましい実施態様である(2)〜(7)と共に以下に記載する。
(1)平均短径が100nm以下、平均長径が500nm以下のリン酸カルシウム系化合物粒子、平均粒子径が5nm以上500nm以下の磁性粒子およびイオン架橋ゲルを含む複合粒子であって、該リン酸カルシウム系化合物粒子が該複合粒子に固定され、かつ、少なくともその一部が表面に露出して存在することを特徴とする複合粒子、
(2)リン酸カルシウム系化合物がヒドロキシアパタイトである(1)に記載の複合粒子、
(3)磁性粒子がマグネタイト、マグへマイトおよびマンガンジンクフェライトよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する(1)または(2)に記載の複合粒子、
(4)イオン架橋ゲルがアルギン酸ゲルである(1)乃至(3)いずれか1つに記載の複合粒子、
(5)複合粒子の平均粒子径が10nm以上1000μm以下である(1)乃至(4)いずれか1つに記載の複合粒子、
(6)局所投与を必要とする薬剤を含む(1)乃至(5)いずれか1つに記載の複合粒子、
(7)リン酸カルシウム系化合物粒子および磁性粒子を分散したアルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液中に加えて撹拌することを特徴とする(1)乃至(6)いずれか1つに記載の複合粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、生体関連の有用物質を効率よく吸着し、有用物質の輸送・分離・分析等の操作性に優れた担体となりうる、リン酸カルシウム系化合物および磁性物質を有する複合粒子並びにその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の複合粒子は、平均短径が100nm以下、平均長径が500nm以下のリン酸カルシウム系化合物粒子、平均粒子径が5nm以上500nm以下の磁性粒子およびイオン架橋ゲルを含む複合粒子であって、該リン酸カルシウム系化合物粒子が該複合粒子に固定され、かつ、少なくともその一部が表面に露出して存在することを特徴とする。
【0008】
本発明で使用するリン酸カルシウム系化合物粒子、磁性粒子、イオン架橋ゲルおよび添加剤について以下に詳述する。
さらに、本発明の複合粒子およびその製造方法について詳述する。
【0009】
<リン酸カルシウム系化合物粒子>
本発明に使用するリン酸カルシウム系化合物粒子の平均短径は100nm以下であり、平均長径は500nm以下である。リン酸カルシウム系化合物粒子は微細な程好ましく、短径および長径に下限を設けずに使用することができるが、平均短径は2nm以上が好ましく、平均長径は5nm以上が好ましい。
平均短径が100nmより大きいか、または平均長径が500nmより大きいと、リン酸カルシウム系化合物粒子の比表面積が小さくなり、吸着性能が劣化する。
【0010】
本発明において、平均短径とは、粒子の短径の数平均をいい、平均長径とは、粒子の長径の数平均をいう。また、粒子の短径および長径は電子顕微鏡、光学顕微鏡等により測定することができる。
具体的には、顕微鏡写真に基づき150個以上の粒子をサンプリングし、短径および長径を測定し、その数平均を算出することによって、平均短径および平均長径を得ることができる。
【0011】
リン酸カルシウム系化合物としては特に限定されず、Ca/P比が1.0〜2.0の各種化合物を用いることができ、例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、リン酸二カルシウム、フッ素アパタイト等が挙げられる。具体的には、Ca10(PO46(OH)2、Ca10(PO462、Ca10(PO46Cl2、Ca3(PO42、Ca227、Ca(PO32、CaHPO4等が挙げられる。これらは単独で使用することもできるが、2種以上を混合して使用することもできる。これらの中でも、合成が容易で比較的安定な材料であるヒドロキシアパタイトCa10(PO46(OH)2が特に好ましい。
【0012】
本発明において、リン酸カルシウム系化合物粒子は複合粒子に固定され、かつ、少なくともその一部が表面に露出して存在する。
【0013】
本発明では、リン酸カルシウム系化合物粒子が複合粒子に固定され、少なくともその一部が複合粒子の表面に露出して存在することを以下の方法で確認することができる。即ち、リン酸カルシウム系化合物は、一般的にタンパク質など生体物質の吸着性に優れていることが知られている。そこで、タンパク質などの吸着能を測定することにより、得られた複合粒子の性能を評価することで、リン酸カルシウム系化合物が複合粒子表面に存在することが確認できる。
【0014】
タンパク質の吸着能の測定は、複合粒子を既知の濃度のタンパク質溶液に含浸し、複合粒子を回収後、残存液中のタンパク濃度を測定することにより評価することができる。リン酸カルシウム系化合物を含有しない複合粒子を作製し、これと比較することによって、リン酸カルシウム系化合物が複合粒子表面に存在することが確認できる。
【0015】
また、リン酸カルシウム系化合物粒子が複合粒子に固定され、少なくともその一部が複合粒子の表面に露出して存在することを画像的に確認することもできる。即ち、TEM(透過型電子顕微鏡)やSEM(走査型電子顕微鏡)などで観察することにより、確認することができる。
【0016】
リン酸カルシウム系化合物の使用量は、複合粒子100重量部に対して5〜90重量部であることが好ましく、10〜50重量部であることがより好ましい。上記範囲内であると、十分な吸着性能が得られるので好ましい。更に、リン酸カルシウム系化合物含量が多く、適切な磁性を発揮できないという問題が生じないので好ましい。
【0017】
<磁性粒子>
本発明において、磁性粒子とは、磁場の印加により力を受ける材料であれば、特に限定なく使用することができ、例えば強磁性材料が挙げられる。
本発明において、磁性粒子の平均粒子径は5nm以上500nm以下であるが、10nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。
平均粒子径が5nmより小さいと複合粒子中への分散が困難であり、また、磁気特性が劣化する傾向がある。平均粒子径が500nmより大きいと、複合粒子の粒子径を所望の粒子径とすることが困難となる。
【0018】
本発明において、平均粒子径とは、粒子の直径の数平均をいう。また、粒子径は電子顕微鏡、光学顕微鏡等により測定することができる。
具体的には、顕微鏡写真に基づき150個以上の粒子をサンプリングし、それぞれの粒子の面積を測定し、面積的に等価の円形の直径を算出し、その数平均を算出することによって、平均粒子径を得ることができる。
【0019】
磁性粒子(磁性粉末)としては、金属酸化物および金属磁性粒子を用いることが好ましく、マグネタイト(Fe34)、マグヘマイト(γ−Fe23)、マンガン・ジンクフェライト、希土類鉄ガーネット、Fe、Co等の磁性材料、その他の磁性材料(特開2001−114901号公報参照)を用いることができる。磁性粒子は単独で用いることもできるが、複数の種類の磁性粒子を複合材料に含有させることもできる。
これらの中でも、磁性粒子としては残留磁化の少ない軟磁性材料を使用することが好ましい。特に、磁性粒子がマグネタイト、マグヘマイトおよびマンガンジンクフェライトよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0020】
磁性粉末の使用量は、複合粒子100重量部に対して1〜90重量部が好ましく、5〜50重量部が更に好ましい。
【0021】
<イオン架橋ゲル>
イオン架橋ゲルとは、2価以上の金属イオンによる架橋構造により形成されているゲルをいう。具体的には、多糖類および/または多糖類の塩を水溶媒に溶解し、これに2価以上の金属イオンを添加し、ゲル化したものである。
多糖類および/または多糖類の塩の水溶液にカルシウムイオンなどの金属イオンを加えると、イオン交換により架橋構造(エッグボックス構造)となり、ゲルが形成されることが知られている。
【0022】
多糖類としては、アルギン酸、カラギーナン、キトサンが挙げられ、これらの中でもアルギン酸が特に好ましい。また、多糖類の塩としてはナトリウム塩やマグネシウム塩が挙げられ、水溶媒への溶解性に優れることからナトリウム塩が好ましい。即ち、本発明において、アルギン酸ナトリウムを使用することが最も好ましい。
また、2価以上の金属イオンとしては、イオン化傾向の大きい金属のイオンが好ましく、特にカルシウムイオンが好ましい。
【0023】
多糖類、多糖類の塩および2価金属は、水溶媒に溶解することが好ましい。水溶媒としては、水が好ましいが、溶解を妨げない範囲で任意にアルコールなどの有機溶媒を添加することもできる。具体的には、メタノール、エタノールが挙げられる。
【0024】
本発明では、アルギン酸ナトリウムを水に溶解し、これに塩化カルシウム溶液を添加することでゲル化させることが最も好ましい。
【0025】
<その他の添加剤>
複合粒子は上記の各成分の他に種々の添加剤を含有することができる。
添加剤の好ましい例としては、局所投与を必要とする薬剤が挙げられる。薬剤としては、各種抗癌剤、消炎剤、麻酔剤等が挙げられる。
本発明の複合粒子は、リン酸カルシウム系化合物粒子の少なくとも一部が表面に露出して存在するため、薬剤の担持性能に優れている。本発明の複合粒子に薬剤を添加し、これを局所投与すれば、患部のみを薬剤を曝すことができ、治療方法として有効である。
また、本発明の複合粒子は磁性粒子を含有しており、体外および/または体内から磁石や磁場を作用させることにより、所望の場所に薬剤を添加した磁性粒子をとどめておいたり、電磁誘導により加温して薬剤をリリースすることができるので、本発明の複合粒子に薬剤を添加して使用することも好ましい実施態様である。
【0026】
薬剤を複合粒子に含有させる方法は、特に限定されない。薬剤は、複合粒子を作製後に含有させることもできるが、あらかじめ粒子の作製過程で含有させることもできる。
具体的には、薬剤を含む溶液に作製した複合粒子を含浸させて、薬剤を吸着させることができる。また、あらかじめリン酸カルシウム系化合物に薬剤を吸着させたのち、複合粒子を作製したり、あるいは、ゲル化前の多糖類および/または多糖類の塩の溶液に薬剤を添加しておき、これをゲル化させることで複合粒子に薬剤を含有させることもできる。
薬剤の添加量は特に限定されず、所望の薬効を示す濃度で含有させることが好ましい。
【0027】
上記の薬剤の他に、添加剤として、充填剤などを挙げることができる。
充填剤としては、酸化チタン(チタンホワイト)、酸化亜鉛、酸化鉛、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、酸化セレン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、アルミン酸ストロンチウム、シリカ粒子等の充填剤が挙げられる。
【0028】
必要に応じて、機能が異なるまたは機能が同一の、2以上の添加剤を併用することができる。また、添加剤に予め表面処理を行っておき、高分子ゲルへの内包や複合粒子内での局在を容易にしても良い。
【0029】
添加剤の配合量は、用いた添加剤が適度に分散され造粒される量であればよく、一般的には、複合粒子中0.1重量%以上90重量%以下、好ましくは0.1重量%以上50重量%以下である。
【0030】
<複合粒子>
本発明の複合粒子の平均粒子径は、特に限定されずに用いることができるが、使用の目的に応じて所望の粒子径とすることが好ましい。具体的には、薬剤を含有させて使用する場合、例えばDDS用途に使用する場合は、平均粒子径は10nm〜1μmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましく、10〜50nmであることが更に好ましい。また、複合粒子を各種生体分子の抽出に用いる場合には、平均粒子径は1〜1000μmであることが好ましく、5〜500μmであることがより好ましく、10〜200μmであることが更に好ましい。
平均粒子径が10nm以上であると、良好な磁場応答性が得られ、また1000μm以下であると良好な吸着能力が得られるので好ましい。
【0031】
<複合粒子の製造方法>
本発明の複合粒子は以下の方法で製造することができる。
リン酸カルシウム系化合物粒子および磁性粒子を、イオン架橋性多糖類および/または多糖類の塩の溶液中に分散し(以下、この溶液を「溶液X」ともいう。)、これを2価以上の金属塩溶液(以下、この溶液を「溶液Y」ともいう。)中に加えて撹拌することで所望の複合粒子を得ることができる。溶液Xは、溶液Yを撹拌した状態(溶液Yの撹拌下)で加え、さらに混合液の撹拌を継続することが好ましい。この場合、撹拌の強さを制御することにより複合粒子の粒子径を制御することができ、撹拌強度が強いほど粒子径を小さくすることができる。
【0032】
本発明において、リン酸カルシウム系化合物粒子および磁性粒子を分散したアルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液中に加えて攪拌することにより複合粒子を製造することが好ましく、アルギン酸ナトリウム水溶液を撹拌下の塩化カルシウム水溶液に加えて撹拌することがより好ましい。
【0033】
溶液Xは、溶液Yにいかなる方法でも添加することができるが、粒子径の小さな複合粒子を得るためには、滴下あるいは噴霧により添加することが好ましい。
また、溶液Xの粘度は80〜120cpであることが好ましい。上記範囲内であると、滴下あるいは噴霧する液滴を小さくすることができ、また、取り扱いが容易であるので好ましい。
【0034】
得られた複合粒子は、必要に応じて分離・乾燥を行うことが好ましい。分離方法としては、遠心分離により分離する方法や、磁石によって複合粒子を分離する方法が挙げられる。リン酸カルシウム系化合物粒子や磁性粒子と、得られた複合粒子を分離するために、更に必要に応じて篩い分けを行うことも好ましい。
また、乾燥方法としては、風乾などが挙げられる。加熱乾燥することも可能であるが、加熱温度は110℃以下が好ましく、50℃がより好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(アパタイトの作製)
純水500mLにリン酸カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O、Wako社製)を5g添加し、NH4OHでpHを10に調整した後、2時間超音波撹拌を行った。撹拌後の溶液に、塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O、Wako社製)を5g添加し、NH4OHでpH11に調整し、4時間超音波撹拌を行った。ろ過後、蒸留水で洗浄し、乾燥することで微細なアパタイト粒子を得た。アパタイトの生成はX線回折装置(XRD)測定によって確認した。
得られたアパタイト粒子の平均短径は5nmであり、平均長径は100nmであった。
【0037】
(実施例1)
(マンガン亜鉛フェライト粒子、アパタイトを担持したアルギン酸ゲルの作製)
得られたアパタイト(Ca5(PO43OH)1gと、0.4gのアルギン酸ナトリウム、0.2gのマンガン亜鉛フェライト(平均粒子径:200nm)を40mlの水に添加し、溶液中の粒子が完全に分散するまでホモジナイザーによって撹拌し、溶液Aを作製した。続いて1gの塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)を100mlの水に添加し、ホモジナイザー撹拌を行うことで、溶液Bを得た。
【0038】
ホモジナイザー撹拌下にある溶液Bに、溶液Aを添加することで瞬時にゲル化が起こり、アパタイト、マンガン亜鉛フェライトを包含した微粒ゲルが得られた。得られたアパタイト、マンガン亜鉛フェライトの複合体は直径1μm〜5μm程度であり、外部から磁気を加えると凝集してくることから、磁性を保持していることが確認された。得られた複合粒子のTEM写真を図1に示す。
【0039】
図1は得られた複合粒子のTEM写真である。(b)は、(a)の拡大写真である。
図1で100〜250nmの黒く観察されるものが磁性粒子(マンガン亜鉛フェライト)であり、針状に観察されるものがリン酸カルシウム系化合物である。また、その他の灰色の部分がアルギン酸ゲルである。この写真から、得られた複合粒子では磁性粒子とリン酸カルシウム系化合物粒子がアルギン酸ゲルで固定され、粒子表面にリン酸カルシウム系化合物の結晶が露出した状態となっていることが判る。
【0040】
得られた複合粒子の表面にアパタイトが存在することを以下の方法により評価した。
ヒドロキシアパタイトは一般的にタンパク質などの吸着性に優れていることが知られている。そこで、タンパク質の吸着能を測定することにより、得られた複合粒子の性能を評価した。
【0041】
(性能評価)
得られた微粒ゲルの性能評価は以下に示すようにBCA Assayによって行った。
得られた超微粒ゲル40mgを、バイアル瓶中の200ppmのプロテイン溶液(Cytochrome c、Wako社製)6mlに添加し、37℃の恒温槽中で四時間浸透させた。充分に浸透させた後、バイアル瓶底部に磁石を当て、超微粒ゲルを回収した。その後、上澄み液0.15mlを取り、以下の手順に従いBCA Assayを行った。
BCA Reagent AとB(Pierce社製)を50:1の割合で混合したWR溶液を作製した。作製したWR溶液3mlを試験管に入れ、前述の上澄み液0.15mlを添加した。試験管は37℃の恒温槽中で、30分間静置し、その後5分間室温中に置くことで温度を室温程度まで下げた。波長562nmでUV測定を行い、初期濃度との差から、微粒ゲルに吸着されたプロテインの測定を行った。初期濃度200ppmのプロテイン溶液に浸した場合、ヒドロキシアパタイト、マンガン亜鉛フェライトを担持した微粒ゲルはその約35%を吸着していた。
【0042】
(比較例)
一方で、マンガン亜鉛フェライトのみを担持したゲルは初期濃度200ppmのプロテイン溶液に対し、その約10%程度を吸着していた。
【0043】
以上の結果から、得られた複合粒子には、ヒドロキシアパタイトが固定されており、さらに、ヒドロキシアパタイトの少なくとも一部が表面に露出して存在していることが確認された。
【0044】
(実施例2)
溶液Aに抗癌剤を0.1g添加した以外は、実施例1と全く同様にして複合粒子を得ることができる。
この複合粒子が抗癌活性を有することを、以下の方法で確認することができる。
【0045】
(抗癌活性の評価)
進行癌症例の手術時摘出腫瘍組織、癌性胸水や癌性腹水を酵素処理した単離浮遊細胞、または樹立腫瘍細胞株を使用して抗癌活性を評価することができる。これらの腫瘍細胞を上記の複合粒子と共に2日間混合培養し、培養終了後の生細胞数を測定する。
培養終了後の生細胞数は、MTT(3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide)法にて試験することができる。MTT法は、ミトコンドリアのSuccinate Dehydrogenese(SD)活性を判定することにより生細胞数を測定するものである。MTT試薬を細胞に添加し4時間後に析出するフォルマザン結晶をDMSO(ジメチルスルフォキシド)で溶解し、吸光度を測定することにより測定できる。
また、コントロールとして、複合粒子を添加しないで2日間培養した細胞を用いる。参考例として、抗癌剤を含有しない複合粒子を添加して2日間培養した細胞についても、培養終了後の細胞数を測定する。
【0046】
この結果、何も添加せずに培養した細胞に対し、抗癌剤を含有した複合粒子を添加した細胞では、明らかな細胞数の減少が認められる。
これに対し、抗癌剤を含有しない複合粒子では、このような細胞数の減少は認められない。従って、抗癌剤を含有する複合粒子は、抗腫瘍活性を有することが判る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1(a)】本発明で得られる複合粒子の一例を示すTEM写真である。
【図1(b)】図1(a)の拡大写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均短径が100nm以下、平均長径が500nm以下のリン酸カルシウム系化合物粒子、
平均粒子径が5nm以上500nm以下の磁性粒子および
イオン架橋ゲルを含む複合粒子であって、
該リン酸カルシウム系化合物粒子が該複合粒子に固定され、かつ、少なくともその一部が表面に露出して存在することを特徴とする
複合粒子。
【請求項2】
リン酸カルシウム系化合物がヒドロキシアパタイトである請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
磁性粒子がマグネタイト、マグへマイトおよびマンガンジンクフェライトよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
イオン架橋ゲルがアルギン酸ゲルである請求項1乃至3いずれか1つに記載の複合粒子。
【請求項5】
複合粒子の平均粒子径が10nm以上1000μm以下である請求項1乃至4いずれか1つに記載の複合粒子。
【請求項6】
局所投与を必要とする薬剤を含む請求項1乃至5いずれか1つに記載の複合粒子。
【請求項7】
リン酸カルシウム系化合物粒子および磁性粒子を分散したアルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液中に加えて攪拌することを特徴とする請求項1乃至6いずれか1つに記載の複合粒子の製造方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【公開番号】特開2006−199810(P2006−199810A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12652(P2005−12652)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(302050123)トライアル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】